(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】Vリング組込治具及びVリング組込方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/00 20060101AFI20230901BHJP
【FI】
F16J15/00 C
(21)【出願番号】P 2019220897
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】519436264
【氏名又は名称】住友重機械精機販売株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】竹内 堅悟
(72)【発明者】
【氏名】河田 和正
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-119003(JP,A)
【文献】特開2000-205416(JP,A)
【文献】特開2018-135986(JP,A)
【文献】実開昭60-159794(JP,U)
【文献】独国実用新案第9419816(DE,U1)
【文献】中国特許出願公開第107662095(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象装置にVリングを組み込むためのVリング組込治具であって、
筒状に構成され、
一端側に位置し、前記対象装置におけるVリング設置面のVリング当接位置にグリスを塗布するためのグリス塗布面と、
他端側に位置し、前記Vリングの組み込み時に前記Vリング設置面に当接する位置決め面と、
前記位置決め面よりも前記一端側に位置し、前記Vリングを押し込む押し込み面と、
を備える、
Vリング組込治具。
【請求項2】
前記一端側の内周面は、前記グリス塗布面に向けて拡径している、
請求項1記載のVリング組込治具。
【請求項3】
前記グリス塗布面側の外径が、前記位置決め面側の外径よりも小さい、
請求項1又は請求項2記載のVリング組込治具。
【請求項4】
筒状に構成され、一端側に位置するグリス塗布面と、他端側に位置する位置決め面と、前記位置決め面よりも前記一端側に位置する押し込み面と、を備えたVリング組込治具を用いて、対象装置へVリングを組み込むVリング組込方法であって、
前記グリス塗布面にグリスを塗布し、前記グリス塗布面を前記対象装置のVリング設置面側に向けた状態で前記Vリング組込治具を前記対象装置の軸に通し、前記グリス塗布面を前記Vリング設置面のVリング当接位置に当接させてグリスを塗布する工程と、
前記Vリングを前記軸に外嵌する工程と、
前記位置決め面を前記Vリング設置面側に向けた状態で前記Vリング組込治具を前記軸に通し、前記押し込み面を前記Vリングに当接させて前記位置決め面が前記Vリング設置面に当接するまで前記Vリング組込治具を押し込む工程と、
を含むVリング組込方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vリング組込治具及びVリング組込方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Vリングを有するモータが示されている。モータ軸はフランジの貫通孔に通され、Vリングがモータ軸とフランジの貫通孔との間の隙間をシールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、Vリングを組み込む工程は煩雑であり、Vリングを対象装置に規定通り組み込むには熟練を要していた。
【0005】
本発明は、Vリングを容易に対象装置に組み込むことが可能なVリング組込治具及びVリング組込方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るVリング組込治具は、
対象装置にVリングを組み込むためのVリング組込治具であって、
筒状に構成され、
一端側に位置し、前記対象装置におけるVリング設置面のVリング当接位置にグリスを塗布するためのグリス塗布面と、
他端側に位置し、前記Vリングの組み込み時に前記Vリング設置面に当接する位置決め面と、
前記位置決め面よりも前記一端側に位置し、前記Vリングを押し込む押し込み面と、
を備える。
【0007】
本発明に係るVリング組込方法は、
筒状に構成され、一端側に位置するグリス塗布面と、他端側に位置する位置決め面と、前記位置決め面よりも前記一端側に位置する押し込み面と、を備えたVリング組込治具を用いて、対象装置へVリングを組み込むVリング組込方法であって、
前記グリス塗布面にグリスを塗布し、前記グリス塗布面を前記対象装置のVリング設置面側に向けた状態で前記Vリング組込治具を前記対象装置の軸に通し、前記グリス塗布面を前記Vリング設置面のVリング当接位置に当接させてグリスを塗布する工程と、
前記Vリングを前記軸に外嵌する工程と、
前記位置決め面を前記Vリング設置面側に向けた状態で前記Vリング組込治具を前記軸に通し、前記押し込み面を前記Vリングに当接させて前記位置決め面が前記Vリング設置面に当接するまで前記Vリング組込治具を押し込む工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Vリングを容易に対象装置に組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】Vリングを組み込む対象装置の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るVリング組込治具を示す三面図であり、(A)は平面図、(B)は側面図、(C)は縦断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るVリング組込治具を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るVリング組込方法の説明図であり、(A)は第1工程を示す図、(B)は第2工程を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るVリング組込方法の説明図であり、(A)は第3工程における前段を示す図、(B)は第3工程の完了時を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、Vリングを組み込む対象装置の一例を示す図である。対象装置100は、例えばファン付きの電動モータであり、モータ軸110と、筐体112に固定されたステータ部113と、モータ軸110に外嵌されたロータ部114と、モータ軸110を回動自在に保持する軸受116、117と、モータ軸110に嵌合されて装置を冷却するファン119と、モータ軸110の一端部をファン119の配置空間へ通す貫通孔H1を有するフランジ121と、貫通孔H1とモータ軸110との間の隙間を封止するVリング30と、を備える。フランジ121におけるファン119側の面がVリング設置面S1である。
【0011】
Vリング30は、ゴムなどの弾性を有する材料から構成されたシールであり、モータ軸110に外嵌する環状基部31と、環状基部31の軸方向の一端から軸方向に離れるほど径方向に広がる環状のリップ32とを有する。環状基部31がモータ軸110に外嵌し、リップ32の一端部がVリング設置面S1に当接され(潤滑材であるグリスを介して当接)ることで、貫通孔H1とモータ軸110との間の隙間が封止される。Vリング30は、ファン119が取り外された状態で、モータ軸110の一端から組み込まれる。以下、
図1の対象装置100にVリングを組み込む場合について説明する。なお、Vリング設置面を有する部材並びにVリング設置面の貫通孔に通された軸は、フランジ121及びモータ軸110に限られず、様々な部材及び様々な軸であってよい。
【0012】
図2は、本発明の実施形態に係るVリング組込治具を示す三面図であり、(A)は平面図、(B)は側面図、(C)は縦断面図である。
図3は、本発明の実施形態に係るVリング組込治具を示す斜視図である。
図2(B)、(C)において、Vリング30を二点鎖線で示す。
【0013】
Vリング組込治具10は、Vリング設置面S1とモータ軸110とを有する機構部に対して、Vリング30を組み込むための治具である。Vリング組込治具10は、モータ軸110を挿通可能な中空部を有する筒状に構成され、中空部の貫通方向における一端側にグリス塗布面11を有し、他端側に位置決め面12を有し、内周部における位置決め面12よりも上記一旦側に押し込み面13を有する。
【0014】
グリス塗布面11は、グリスが添付されてVリング設置面S1に当接することで、Vリング設置面S1の所定位置(リップ32の先端部が当接するVリング当接位置S1a)にグリスを塗布(移す)面である。グリス塗布面11は、リング状であり、Vリング30のリップ32の先端部に対応する径を有する。
【0015】
押し込み面13は、Vリング30の環状基部31を軸方向に押し込む面である。位置決め面12は、Vリング設置面S1に当接してVリング30を押し込む終端位置を決めるための面である。押し込み面13はリング状の面であり、押し込み面13のリング内径は、Vリング30の環状基部31の外径よりも小さく、リング外径は、Vリング30の環状基部31の外径よりも大きい。位置決め面12から押し込み面13までの軸方向の長さは、Vリング30の環状基部31の軸方向における一端(リップ32の反対側の一端)からリップ32の先端部までの軸方向長さに対応している。
【0016】
Vリング組込治具10の一端側(グリス塗布面11の配置側)の内周面は、グリス塗布面11に向けて拡径する拡径部K1を有する。なお、拡径部K1は、拡径する方向に傾斜した傾斜面であってもよいし、拡径する段部であってもよいし、このような傾斜面と段部とが含まれていてもよい。
【0017】
Vリング組込治具10の内周部において、拡径部K1と、押し込み面13との間には、内径が最小の最小内径部K3があってもよい。最小内径部K3は、モータ軸110の外径よりも大きい。Vリング組込治具10の内周部において、押し込み面13と位置決め面12との間には、Vリング30が収容可能な空間A1を有する。この空間A1の内径は、Vリング30の外径よりも大きい。
【0018】
Vリング組込治具10の外周部には、ローレット加工面などの滑り止め面K11が設けられている。グリス塗布面11側の外径は、位置決め面12側の外径よりも小さく、Vリング組込治具10の外周部において、グリス塗布面11側と位置決め面12側との間には、位置決め面12側に向けて拡径する外周拡径部K10が設けられている。外周拡径部K10は、拡径する方向に傾く傾斜面であってもよいし、拡径する段部であってもよいし、このような傾斜面と段部とが含まれる構成であってもよい。滑り止め面K11と、外周拡径部K10とは、少なくとも一部が重なる。滑り止め面K11には、滑り止め作用のある凹凸を利用して、治具のサイズの表記がなされていてもよい。
【0019】
<Vリング組込方法>
図4及び
図5は、本発明の実施形態に係るVリング組込方法の説明図であり、
図4(A)は第1工程、
図4(B)は第2工程、
図5(A)は第3工程における前段、
図5(B)は第3工程の完了時をそれぞれ示す。
【0020】
Vリング30を組み込む工程には、次の第1工程から第3工程が含まれる。第1工程では、
図4(A)に示すように、先ず、作業員は、Vリング組込治具10のグリス塗布面11にグリスGを塗布し(付着させ)、Vリング組込治具10のグリス塗布面11側をVリング設置面S1側に向ける。次に、作業員は、Vリング組込治具10の中空部にモータ軸110が挿通されるように、Vリング組込治具10をモータ軸110に通して移動させ、グリス塗布面11をVリング設置面S1に当接させる。グリス塗布面11が当接する位置は、Vリング30のリップ32の先端が当接するVリング当接位置S1aに相当し、ここにグリスGが移される。すなわちグリスGが塗布される。Vリング当接位置S1aにグリスGを十分に塗布したら、作業員は、Vリング組込治具10をVリング設置面S1から離間させて回収し、グリス塗布面11のグリスGをふき取って、次の工程へ進む。
【0021】
第1工程において、Vリング組込治具10の内周部に拡径部K1があることで、Vリング組込治具10の内周部がモータ軸110に接触したとしても、グリスGがモータ軸110に付着してしまうことが防止される。
【0022】
第2工程では、
図4(B)に示すように、作業員が、モータ軸110の途中までVリング30を外嵌させる。
【0023】
第3工程では、
図5(A)、(B)に示すように、作業員は、先ず、Vリング組込治具10の位置決め面12側をVリング設置面S1に向け、Vリング組込治具10をモータ軸110に通して移動させ、押し込み面13をVリング30の環状基部31に当接させる。そのまま、作業員は、位置決め面12がVリング設置面S1に当接するまで、Vリング組込治具10をVリング設置面S1側に押し込む。すると、モータ軸110に外嵌されているVリング30が、モータ軸110に沿ってスライドし、リップ32がVリング設置面S1に当接する位置まで移動する。
【0024】
第3工程において、Vリング組込治具10の外周部に外周拡径部K10及び滑り止め面K11があることで、作業員は、Vリング組込治具10をVリング設置面S1の方へ力を掛けやすく、Vリング30を円滑に押し込むことができる。
【0025】
図5(B)に示すように、位置決め面12がVリング設置面S1に当接すると、Vリング30のリップ32がVリング当接位置S1aに当接する。Vリング当接位置S1aには、第1工程によりグリスGが塗布されているので、リップ32とVリング当接位置S1aとの間にグリスGが介在した状態で、Vリング30が規定位置に組み込みられる。その後、作業員は、Vリング組込治具10をVリング30から離間させ、回収し、組込工程が完了する。
【0026】
以上のように、本実施形態のVリング組込治具10及びこれを用いたVリングの組込方法によれば、Vリング当接位置S1aへのグリスGの塗布から、Vリング30を規定の位置まで組み込む作業を、容易に実現できる。したがって、熟練を要さずに、規定通りのVリング30の組込みを実現できる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、グリス塗布面並びに押し込み面はリング状の平面に限られず、リングの一部が欠けた形状であってもよい。また、グリス塗布面は、グリスが保持されやすいように、凹凸を有する面であってもよいし、繊維材料が固定されていてもよい。同様に、位置決め面は、リング状の平面に限られず、例えば小さな接触面が、周方向に分散された3点以上に設けられ、3点以上の接触により、Vリング組込治具10とVリング設置面S1との配置関係が決まる構成としてもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、フランジの貫通孔から外方へ飛び出したモータ軸にVリングを組み込む例を示したが、Vリングが組込みられる軸及びVリング設置面としては、この例に限られず、様々な部材の一面及び軸が適用されてもよい。さらに、上記実施形態では、Vリングを組み込む対象装置としてモータを示したが、これに限定されず、対象装置は、例えば、減速機又はギヤモータなどのVリングが組み込まれる装置であればどのような装置であってもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 Vリング組込治具
11 グリス塗布面
12 位置決め面
13 押し込み面
K1 拡径部
K10 外周拡径部
K11 滑り止め面
30 Vリング
31 環状基部
32 リップ
G グリス
100 対象装置
110 モータ軸
121 フランジ
S1 Vリング設置面
S1a Vリング当接位置
H1 貫通孔