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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】編み機工具、特に編み機針
(51)【国際特許分類】
   D04B 35/04 20060101AFI20230904BHJP
   D04B 35/06 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
D04B35/04
D04B35/06
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019122538
(22)【出願日】2019-06-29
(65)【公開番号】P2020012226
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-11
(31)【優先権主張番号】18184119.8
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】598132646
【氏名又は名称】グロツ・ベッケルト コマンディートゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】ウヴェ シュティンゲレ
(72)【発明者】
【氏名】ヨルグ サウター
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-210049(JP,A)
【文献】特開2012-132125(JP,A)
【文献】特開2012-021252(JP,A)
【文献】特開2001-140148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 35/04
D04B 35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
編み機針(11)である編み機工具(10)であって、
長さ方向(L)に延び、下側に接触面(20)を備える針幹部(12)であって、前記針幹部(12)は前端部(18)がループ形成用に構成され、前記接触面(20)は、少なくとも前記前端部(18)と後端(14)との間で、単一平面(E)で連続的に延びる、前記針幹部(12)と、
前方案内部(45)では、案内片持ち梁(47)が前記針幹部(12)から高さ方向(H)に延び、後方案内部(46)では、さらなる案内片持ち梁(47)が前記針幹部(12)から前記高さ方向(H)に延び、
各前記案内片持ち梁(47)は、前記高さ方向(H)で下方に配置された前記針幹部(12)の部分とともに前記長さ方向(L)に開かれた間隙(50)を形成する片持ち梁脚(49)を備え、
前記前方案内部(45)と前記後方案内部(46)との間に配置されるバット部(26)であって、前記高さ方向に前記針幹部(12)から延びるバット(27)が存在し、前記バット(27)は編み機の駆動装置と協働するよう構成されている、ことを特徴とする前記バット部(26)と
を備える編み機工具。
【請求項2】
前記案内片持ち梁(47)は、前記片持ち梁脚(49)と前記針幹部(12)を接続する接続脚(48)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の編み機工具。
【請求項3】
前記接続脚(48)の長さ方向(L)に対する傾斜角(α)は20°から90°又は25°から65°の範囲である、ことを特徴とする請求項に記載の編み機工具。
【請求項4】
前記案内片持ち梁(47)の幅(s2)は、前記針幹部(12)への移行部において、前記針幹部(12)の最大針幹高(z)の少なくとも1.5倍である、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか1つに記載の編み機工具。
【請求項5】
前記片持ち梁脚(49)は自らの延長方向と直交する幅(s1)を有し、前記幅(s1)は下方に配置される前記針幹部(12)のシャンク高(z1)と等しい、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか1つに記載の編み機工具。
【請求項6】
前記後方案内部(46)の前記案内片持ち梁(47)の前記片持ち梁脚(49)は、前記長さ方向(L)に前記針幹部(12)の後端(14)と同じ位置にある脚端(51)を有する、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか1つに記載の編み機工具。
【請求項7】
前記針幹部(12)の前方針幹部(19)は前記前端部に接続し、前記前方針幹部(19)は少なくとも部分的に前記案内片持ち梁(47)と重なる、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか1つに記載の編み機工具。
【請求項8】
前記バット(27)は前記針幹部(12)への遷移領域にバット基礎(28)を備え、前記バット基礎(28)の長さ方向(L)の長さは、前記高さ方向(H)に前記バット基礎(28)に隣接するバット上部領域(29)の長さより短い、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか1つに記載の編み機工具。
【請求項9】
前記バット基礎(28)の基礎高(b)は、前記前方案内部(45)と前記後方案内部(46)の針幹高(z1)より高く、及び/又は前記バット基礎(28)の基礎高(b)は、前記案内片持ち梁(47)の前記針幹部(12)の下側からの案内片持ち梁高(c)より低い、ことを特徴とする請求項に記載の編み機工具。
【請求項10】
前記バット基礎(28)は、長さ方向で対向する自らの2つの側面に湾曲部(40、41)を有する、ことを特徴とする請求項8又は9に記載の編み機工具。
【請求項11】
前記湾曲部(40、41)は、一定の曲率半径(R2、R3)を有する、ことを特徴とする請求項10に記載の編み機工具。
【請求項12】
前記湾曲部(40、41)は変化する曲率半径(R2、R3)を有し、前記針幹部(12)に隣接して最大限の変動曲率半径(R2、R3)を有する、ことを特徴とする請求項10に記載の編み機工具。
【請求項13】
前記バット(27)は、前記高さ方向(H)に前記針幹部(12)と距離を置いて配置される、少なくとも1つのバット凹み(34)を備える、ことを特徴とする請求項1乃至12の何れか1つに記載の編み機工具。
【請求項14】
前記少なくとも1つのバット凹み(34)は、前記高さ方向に前記針幹部(12)と反対側で開かれている、ことを特徴とする請求項13に記載の編み機工具。
【請求項15】
前記針幹部(12)は、前記バット部(26)に最大1.1mmの針幹高(z2)を有する、ことを特徴とする請求項1乃至14の何れか1つに記載の編み機工具。
【請求項16】
前記針幹部(12)の全長(xg)は、前記長さ方向(L)に最大100mmである、ことを特徴とする請求項1乃至15の何れか1つに記載の編み機工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は編み機工具に関し、特に編み機、例えば、円形編み機で用いられる編み機針に関する。
【背景技術】
【0002】
編み機工具はいろいろな形態で知られている。編み機針、例えばべら針又はスライド針は、編成動作中に編み機で案内又は針みぞ内で長さ方向に移動する。その際、編み機工具のバットが編み機のカム装置に係合され、編み機工具をその長さ方向で位置決め又は移動させる。円形(丸)編み機において、編み機針を備えた編成シリンダはカム装置に対して周方向どちらにも回転し、編み機針のバットはカム通路で案内される。この時、バットに編み機針の長さ方向の力が働くだけでなく、横断方向にも直角な力が働く。シンカ又はスライド針のスライダ等のその他の編み機工具は、適切な駆動装置によって編成作業中に編み機中で移動又は位置決めされる。
【0003】
高い生産性の要件を満たし、その一方で長い寿命を保証するために、編み機工具は複数の部分的に相反する条件を満たす必要がある。高い生産性には、編み機工具の速い移動速度又は加速度が必要となる。これらの加速度により、過度の摩耗現象、例えば、編み機工具の疲労破壊等が発生してはならない。故障した編み機工具の交換には編み機の停止が必要となり、生産性の低下につながる。同様に重要なのは、ループ形成中の故障の発生を避けるために、編み機工具の正確な位置決めができることである。位置決め精度は、案内又は針みぞ、特にみぞの底面に蓄積することがある、汚れにより悪影響を受けることがあってはならない。これらの異なる限界条件を満たすため、完成された編み機工具は全ての条件を十分に考慮し、そして全ての条件を出来るだけ満たした形状でなければならない。
【0004】
先行技術では複数の異なる編み機工具の構成が提案されてきた。針の重さを減らすため、特許文献1では編み機針のバットに凹部を設けて重さを減らすことが提案されている。
【0005】
特許文献2は針幹部とバットとを備えた編み機針を開示しており、編み機針の移動のためのこのバットは針幹部から離れるように延びている。針幹は、編み機針の前端とバットとの間に、複数回湾曲するアーチ型のバネ弾力部を備える。この部分は、加速が発生すると減衰効果をもたらす。さらに、特許文献3又は特許文献4から蛇行型に延びる針幹が知られており、編み機針のジャークのような加速の衝撃を減衰し、損傷を回避する。
【0006】
特許文献5は編成工具を提案しており、その針幹部は少なくとも1つのブリッジを備える。この針幹部は、このブリッジの領域において、案内みぞ又は針みぞの底部から離れて距離を持つ。ブリッジの領域において、針幹部のウェブ部の高さは、1.1mm又は0.9mm以下である。
【0007】
しかし、これらの減衰のための部分において、針幹部のそれぞれの部分は編み機の針みぞの底部に接触せず、汚れが蓄積することがないようになっている。さらに、全長の短い編み機工具の問題は、かかる弧状又は蛇行型のシャフト部は、編み機工具のループ形成及びシャフトでの1つ又は複数のループ保持のための有効動作長を減少させることである。
【0008】
特許文献6から既知であるのは、丸編み機のカム装置が編み機針を動作させるだけでなく、編成シリンダの径方向外側への回転中の遠心力に対して編み機針を支持することである。
【0009】
特許文献7は編み機のべら針を開示している。このべら針は、べら針の長さ方向に、間隔を置いて配置された2つのバットとその間の分離領域とを備え、この分離領域は針幹の上縁の高さの下に下向きに延びる。2つのバットが配置されたべら針のバット部において、さらなる面取りを針幹の下側に設け得る。さらなる面取りを、バットから針幹の上側の、針幹部への移行部で行ってよい。針幹がバット部で弱くなるため、バットを通じて挿入される針の加速による衝撃は減衰される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第3464237号明細書
【文献】米国特許第5154069号明細書
【文献】米国特許第5231855号明細書
【文献】独国特許第69218303号明細書
【文献】独国特許第2820925号明細書
【文献】欧州特許第2799603号明細書
【文献】独国特許第2229858号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、加わる衝撃及び振動を十分に減衰することができるよう、案内及び位置決めが改善された編み機における編み機工具を提供することである。
【0012】
この目的は、請求項1に記載の技術的特徴を有する編み機工具により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明性を有する編み機工具は、特に編み機針として形成されたべら針又はスライド針である。この編み機工具は、長さ方向に延び、その下側に接触面を有する針幹部を有する。この接触面は編み機の案内又は針みぞの底部に当接するよう構成されている。針幹部は前端を有し、この前端は前端部に接合されている。前端部において、針幹部はループ形成のための手段、特に針フックを備える。針幹部は長さ方向において、前端部とは反対側に後端を有する。前端部の他は、接触面は単一平面で連続的に後端まで延び、その接触面は半径を有して後端に移行する。針幹部の前端から後端までの全長は、好ましくは最大100mmである。ループ形成用に構成された前端部の長さは、針幹部の全長の最大5%である。べら針の場合、前端部はべらベアリングを超えて延びないことが好ましく、例えば、針フックとべらベアリングとの間で終端する。
【0014】
編み機工具は、前方案内部を有し、案内片持ち梁が針幹部から高さ方向に延びる。同様に、後方案内部からさらなる案内片持ち梁が針幹部から高さ方向に延びる。2つの案内部の間にバット部が存在し、バットが針幹部から高さ方向に延びる。このバットは編み機のカム装置又はその他の駆動装置と協働し、編み機の針みぞ又は案内みぞ中で長さ方向に編み機工具を動かすよう構成されている。
【0015】
各案内片持ち梁は片持ち梁脚を有し、片持ち梁脚はその下方で高さ方向に配置された、針幹部との間の間隙を形成する。少なくとも1つの間隙が、バットと離れる方向に向いた面で、長さ方向に開かれていることが好ましい。片持ち梁脚は、長さ方向に平行又は長さ方向に15度又は10度未満の小さな傾斜角で延びてよい。案内片持ち梁及び針幹部は、各案内部において、編み機工具のいわゆるフォーク型の領域を形成する。
【0016】
特に突起部も窪みもスルーホールも存在しない、連続的に平坦な接触面を有するこの編み機工具の新規な構成により、針幹の領域にスペースが設けられることはない。スペースがあれば、汚物が蓄積し、案内みぞ又は針みぞにおける編み機工具の方向付け又は案内に影響する。案内みぞでの編み機工具の運動中に発生する、汚物の蓄積により助長される摩擦又は摩耗もさらに防止される。この編み機工具は短繊維糸又は綿紡糸を編成するために特別に構成され又は適合されている。かかる糸を使用すると、短繊維糸の糸残留物により、編み機に特に高水準の汚染が発生する。そのため、本発明の編み機工具はかかる汚染物に対して特に耐性があり、かかる糸の編成に特に適している。
【0017】
案内及び位置決め精度をさらに向上させるため、バット又はバット部の両側に案内部が設けられる。バット又はバット部からこの案内部への距離は等しくても異なってもよい。例えば、両案内部はバット部に直接接合してよい。本発明の1つの態様において、案内部の1つ及び特に前方案内部は直にバット部に隣接してよく、中間部がもう1つの案内部、特に後方案内部とバット部の間に存在してよい。
【0018】
案内片持ち梁は高さ方向及び/又は横断方向で生じる力に対して針を支え、この横断方向は高さ方向及び長さ方向に直交する。力が片持ち梁脚に高さ方向に働いている場合、片持ち梁脚とその下方に配置される針幹部の領域との間の間隙により、バネ弾力効果が生じる。そのため、これらの力は針幹部に対して直接働かず、少なくとも部分的に案内片持ち梁により受け入れられるか、又は支持され得る。そのようにして、編み機工具の非常に正確な案内及び位置決めが実現する。その構成により、横断方向に延びる軸及び/又は長さ方向に延びる軸の周りに傾く傾向も抑制させることができる。
【0019】
各案内片持ち梁が針幹部と片持ち梁脚を接続する接続脚を1つ有すると都合が良い。この接続脚の傾斜角は、長さ方向に対して約20から90度の範囲、好ましくは約25から65度の範囲である。各案内片持ち梁の接続脚は、針幹部から離れるように斜めに延び、同時にバットからも離れるように斜めに延びると好ましい。
【0020】
本発明の1つの好ましい態様において、各案内片持ち梁の幅は、針幹部への移行部において、針幹部の最大針幹高の少なくとも2倍である。移行部における案内片持ち梁の幅は、長さ方向で測定される。針幹部の針幹高は、下側の接触面と、針幹部の高さ方向での、下側とは反対側にある上側との間の距離である。案内片持ち梁の移行部における幅は、各案内部の針幹高の特に2倍である。
【0021】
片持ち梁脚は、各案内部の針幹部の針幹高と同じ高さである自らの延長方向と直交する幅を有してよい。針幹高は各案内部において一定であることが好ましい。
【0022】
後方案内片持ち梁の片持ち梁脚は、針幹部の後端と長さ方向に同じ位置にある自由端を有する。後方案内片持ち梁の片持ち梁脚と針幹部は互いに面一で終端する。そのようにして、案内部又は案内片持ち梁は、編み機工具の全長を長くすることなく、互いの長さ方向の距離を出来るだけ長くすることができる。1つの態様において、前方案内片持ち梁のバットからの距離は、後方案内片持ち梁のバットからの距離より短くてよい。前方案内片持ち梁をバットにできるだけ近く配置して、前端部から前方案内片持ち梁までの針幹部の有効作動長を最大限に長くする。針幹部の前方針幹部は前端部に隣接してよく、前方針幹部は少なくとも部分的に前方案内片持ち梁と重なる。この前方針幹部はループの受け渡しのために設けられており、ループは前端部及び前方針幹部において前方案内片持ち梁の針幹部への接続位置へとスライドすることができる。通常の編成動作では前端部の長さの最大約半分がループ受け取りに使用される。1つの態様においては、前方針幹部の長さの半分がループ受け取り用になるよう設定される。
【0023】
バットは針幹部への移行領域にバット基礎を有することができ、このバット基礎の針幹部の長さ方向への長さは、高さ方向にバット基礎に隣接するバットのバット上部領域の長さより短い。このバット基礎には、例えば、長さ方向にバットの喉部分を形成することができる。これにより、編み機工具の加速力の発生中に長さ方向にバットに作用する応力を低減することができる。本発明において、接触面は針幹部の全長の全体又はほぼ全体にわたり編み機の案内みぞに当接し、それにより減衰効果はさらに改善することができる。
【0024】
バット基礎の基礎高が案内部の針幹高より高いと都合がよい。追加として又は代替として、この基礎高は案内片持ち梁の案内片持ち梁高より低くてもよい。案内片持ち梁高は、針幹部の下側から案内脚の上側までの最大距離である。基礎高は、隣接する針幹部の上側を始点とする、バット基礎の高さである。バット基礎と隣接するバット上部領域は、バットの長さ方向における長さが最大となる場所でつながる。
【0025】
本発明の好ましい態様において、バット基礎は長さ方向で対向する2つの側面にそれぞれ湾曲部を有する。前方案内部に面する湾曲部は、前方案内片持ち梁及び特に前方案内片持ち梁の接続脚に直につなげることができる。後方案内片持ち梁は、後方案内片持ち梁に面するバット基礎の湾曲部と距離をもって配置されることが好ましい。
【0026】
湾曲部の少なくとも1つ又は両方の曲率半径は、一定でも又は変化してもよい。この可変の曲率半径は、高さ方向で針幹部に隣接する湾曲部の領域で最大となり得る。
【0027】
バットが少なくとも1つのバット凹みを備えると、さらに都合がよい。このバット凹みは高さ方向に針幹部と距離を置いて配置され、特にバット基礎の外側のバット上部領域にのみ存在する。バット凹みは、高さ方向で針幹部の反対側に開かれていてよい。少なくとも1つのバット凹みにより、編み機工具の総重量を減少させることができる。頻繁に交互する力がバットに働いて長さ方向に編み機工具を加速させるため、バット凹みが完全にバット基礎の外に延びる場合には、バットの過剰な弱化を回避することができる。
【0028】
本発明の1つの態様において、針幹部のバット部における針幹部の高さは最大1.1mmである。針幹部の高さは、案内部の1つ又は両方において、バット部の針幹部の針幹高より低くても又は最大で同じ高さでもよい。
【0029】
本発明の好ましい実施例は、特許請求の範囲の従属項、発明の詳細な説明、及び図面に記載される。以下では、本発明の好ましい実施例を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】編み機針である編み機工具の実施例を示す概略的側面図である。
図2図1の切断線II-IIに基づく、図1の編み機針の針幹部の断面である。
図3】前方案内部及び隣接するバット部の領域における、図1の編み機針の部分の部分的拡大図である。
図4】後方案内部からバット部までの領域における、図1の編み機工具の部分の部分的拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、編み機針11である編み機工具10の実施例の側面図である。この編み機針11は、前端13と後端14との間で延びる針幹部12を有する。この針幹部12の前端13は、編み機で編成作業中にループを形成するよう構成されている。この実施例において、針幹部12の前端13には針フック15が形成されている。針フック15の内側領域の開閉が可能なように、編み機針11はべら17の形態の閉鎖要素16を備える。このべら17は直角方向Qに延びるピボット軸Aの周りに枢動可能に支持され、べら17はピボット軸受と反対側のその端部で針フック15に当接して、フックの内側領域を閉鎖することができる。
【0032】
針幹部12は長さ方向Lに延びる。実施例において、前端13と後端14との間の全長xgは最大100mmである。
【0033】
前端部18は針フック15の領域で前端13に向かって延び、この前端部18がループ形成のための構成になっている。前端13を始点に、前端部18は最大でべら17のべらベアリングの端部にまで延びる。前端部の長さx1は、針幹部12の全長xgの最大5%であることが好ましい。
【0034】
針幹部12の前方針幹部19は、前端部18に直に隣接する。この領域において、針幹部12は1つ又は複数のループを受け入れるよう構成され、編成作業中に針幹部12はそのループを通って延びる。前方針幹部19の長さ方向Lの長さx2は、前端部18の長さx1より長い。
【0035】
編み機針11の針幹部12は長さ方向L及び横断方向Qと直交する高さ方向Hに針幹高zを有し、針幹高zは長さ方向で、針幹部12の異なる部分で変化する。針幹高zは、図2に概略的に記載されている。針幹部12は、高さ方向に見たときの下側で大半が単一平面Eで延びて粗度がない接触面20を有し、この平面Eでは突起又は窪みは存在しない。前端部18及び後端14への移行径すなわち後端14のみにおいて、針幹部12の下側は平面Eで延長部から逸脱し、例えば、ループ形成、特に針フック15形成のための前端部18を構成することができる。少なくとも針幹部の下側は接触面20を形成するよう構成され、接触面20は、針幹部の下側が存在する平面Eの最前点と後方点の間において、平面Eで連続的に延びる。
【0036】
接触面20の反対側において、針幹部12は上側21を有する。接触面20と上側21とは、針幹部12の横断方向Qで対向する2つの側面22により接続されている。そのため、針幹部12は主に長方形の断面を有し、隅の領域は半径を有する曲線でも又は面取りしてもよい(図2)。これに代わり、針幹部12は異なる断面輪郭、例えば、楕円又は円形の断面も有し得る。
【0037】
編み機針11はバット部26を備え、バット27は高さ方向Hに針幹部12から離れるように延びる。実施例によると、バット27と針幹部12は一体的に形成されている。バット27は、針幹部12に高さ方向Hで直に隣接するバット基礎28を備える。針幹部12と反対側で、バット上部領域29がバット基礎28に隣接する。バット基礎28の長さは、バット上部領域29と比較して短い。バット上部領域29は、バット27の最大長x3及びそのためバット部26の長さx3を規定する。バット上部領域29は、バット前端30と、バット後端31とを備える。バット前端30及びバット後端31は、それぞれ高さ方向Hに延び、長さ方向Lに間隔を置いて配置される。バット前端30とバット後端31との間の距離は、バット27の最大長x3に対応する。図1が示す通り、バット基礎28は2つのバット縁30、31に隣接する。そのため、バット基礎28に隣接する2つのバット縁30、31の端部は、バット基礎28とバット上部領域29との間の移行位置32を定める。遷移位置32は、図1及び2で点線で示されている。
【0038】
バット前端30及びバット後端31は、バット上端33により互いにつながっている。実施例において、バット上端33は長さ方向Lに平行な部分でのみ延びる。バット上部領域29において、バット凹み34は、横断方向Qでバット27を通じて完全に延びるように形成される。上述の実施例において、バット凹み34は高さ方向Hに針幹部12と反対側で開放、換言すると、上向きに開かれている。バット凹み34は、バット上端33の部分により制限される。
【0039】
特に図3に見られる通り、バット凹み34は横断方向Qで見て実質的にV型の断面を有し、2つの逃げ面35により形成される。2つの逃げ面35は高さ方向に対して傾斜して延び、第1の曲率半径R1を有する湾曲接続部36を介して互いに接続されている。逃げ面35と接続部36は、バット上端33の部分によりそれぞれ形成される。
【0040】
バット凹み34の高さ方向Hで見た場合の深さtは、接続部36と逃げ面35に隣接するバット上端33の間の部分との間の最大距離となる。
【0041】
前方湾曲部40を有する縁部は、バット前端30と針幹部12の間をバット基礎28に沿って延びる。後方湾曲部41を有する縁部は、バット後端31と針幹部12の間を延びる。バット基礎28はバット27の喉部分を形成し、該喉部分の長さはこれら湾曲部40、41によりバット上部領域29よりも短い。湾曲部40、41は、いわゆる凹形縁領域を形成する。前方湾曲部40は第2の曲率半径R2を有し、後方湾曲部41は第3の曲率半径R3を有する。第2の曲率半径R2及び/又は第3の曲率半径R3は少なくとも複数の部分で一定でよく、湾曲部40、41は1つ又はそれ以上の隣接する円弧により形成することが可能である。湾曲部40、41は、図3の破点線が概略的に示す通り、連続的に変化する曲率半径R2、R3により形成されてよい。
【0042】
2つの湾曲部40、41は対称平面について鏡対称であることが好ましく、この対称平面は長さ方向Lに直交するよう方向づけられ、バット27内を延びる。バット27全体は、この対称平面について対称でよい。
【0043】
湾曲部40、41は、針幹部12の上側21へとつながる。バット基礎28は、針幹部12の上側21から移行位置32、具体的にはバット上部領域29までの基礎高bを有する。実施例において、基礎高bは針幹部12の最大針幹高zより高い。
【0044】
編み機針11は、その間にバット部26が配置された2つの案内部、具体的には前方案内部45と後方案内部46とを追加的に有する。2つの案内部45、46は、実質的に同じに形成される。実施例において、少なくとも前方案内部45はバット部26に直に隣接する一方、後方案内部46はバット部26と距離を置いて配置される。各案内部45、46は、針幹部12から延びる案内片持ち梁47を有する。実施例において、各案内片持ち梁47は、高さ方向H及び長さ方向Lに対して斜めに傾斜して延びる接続脚48と、長さ方向Lに実質的に平行且つそのため針幹部12と平行な片持ち梁脚49とを有する。高さ方向Hにおいて、片持ち梁脚49は針幹部12から距離を置いて配置される。実施例において、案内片持ち梁47は、針幹部12の一部分とともに、長さ方向Lに片側で開放された間隙50を形成する。この間隙50は片持ち梁脚49と下に配置された針幹部12の部分との間に配置され、接続脚48により長さ方向Lに片側で制限される。そのため、案内片持ち梁47及び間隙50に隣接する針幹部12の部分は、編み機針11のフォーク型の部分を形成する。
【0045】
接続脚48は、長さ方向Lに対する傾斜角α以下で延びる。傾斜角αは少なくとも15-20度であり、好ましい実施例では25から45度の範囲又は25から65度の範囲でよい。接続脚48は高さ方向Hに針幹部12から離れるように延びるとともに、長さ方向Lにはバット27から離れるように延びる。2つの案内部45、46の間隙50はそれぞれ、バット27とは反対方向に長さ方向Lに向かって開かれている。
【0046】
上述の実施例において、片持ち梁脚49は長さ方向Lに平行に延びる。片持ち梁脚49も長さ方向Lに対して傾斜して延びてよく、傾斜角は比較的小さい最大10から15度の範囲である。
【0047】
接続脚48を始点に、片持ち梁脚49は脚端51まで延びる。後方案内部46において、片持ち梁脚49の脚端51及び針幹部12の後端14は長さ方向Lで見ると同じ位置にあるため、面一で終端する。そのため、長さ方向Lに直交するよう方向づけられた平面は、後端14及び脚端51に接し、後端40とも脚端51とも交差しない。
【0048】
片持ち梁脚49は、脚端51近接するように、その延長方向に直交する第1の脚幅s1を有する部分を含む。実施例において、片持ち梁脚49は長さ方向Lに平行に向けられているため、片持ち梁脚49の第1の脚幅s1は高さ方向Hで測定される。第1の脚幅s1は、案内部45、46の針幹部の第1の針幹高z1とほぼ同じ大きさである。
【0049】
接続脚48は、針幹部12への移行部に第2の脚幅s2を有する。第2の脚幅s2は、針幹部12の第1の針幹高z1及び/又は第1の脚幅s1の少なくとも約1.5倍である。第2の脚幅s2は、長さ方向Lで測定され、針幹部12に近接する。
【0050】
接触面20と片持ち梁脚49の上側又は上縁との間の最大距離は、案内片持ち梁高cを規定する。高さ方向Hにおいて、間隙は脚端51の領域で間隙高dを有する。間隙高dは、接続脚48の下方では減少する。
【0051】
間隙に隣接する接続脚48の内縁52は、第4の曲率半径R4を有する湾曲部により、針幹部12の上側21につながっている。
【0052】
実施例において、前方案内部45は直にバット部26に隣接する。そのため、内縁52と反対側の、接続脚48の外縁53は、前方湾曲部40に直に接続する。外縁53と前方湾曲部40との間のこの接続領域において、針幹部12は、第1の針幹高z1とは異なり得る第2の針幹高z2を有する。第2の針幹高z2は、最大1.1mmである。実施例において、第2の針幹高z2は第1の針幹高z1より高い。又は、第1の針幹高z1と第2の針幹高z2は等しくてよい。
【0053】
図1に見られる通り、案内片持ち梁47及び特に前方案内部45の片持ち梁脚49は前方針幹部19と重なる。そのため、前方針幹部19は、前方案内部45の間隙50へと延びる。
【0054】
実施例において、前方案内部45及び後方案内部46は同じ長さx4を有する。この2つの案内部45、46の長さは異なってよい。案内部45、46の長さx4は片側では脚端51により、もう1つの側で針幹部12の案内片持ち梁47からの移行部により制限され、実施例では針幹部12の上側21の外縁53での移行部の位置により制限される。案内部45、46の長さx4は、バット部26の長さx3とほぼ一致してよい。
【0055】
図1及び4に見られる通り、後方案内部46はバット部26に直に接続せず、後方案内部46とバット部26との間には中間部57が存在し、針幹部57は実質的に長方形の断面を有し、中間部57には突起も窪みも存在しない。中間部57は、長さ方向Lに長さx5を有する。実施例において、中間部57の長さx5は、バット部26の長さx3及び/又は案内部45、46の長さx4より短い。その他の実施例において、中間部57はバット部26及び/又は案内部45、46より長くてよい。針幹部12は中間部57に第3の針幹高z3を有する。実施例において、第3の針幹高z3は、第1の針幹高z1又は第2の針幹高z2と同じ高さでよい。
【0056】
前方針幹部の長さx2は、案内部45、46の長さx4、バット部26の長さx3、及び/又は中間部57の長さx5より長いことが好ましい。長さx2のほんの一部、例えば、半分が編成作業中のループ受け取りのために使用されることが多い。しかし、前方針幹部19の針幹部12の自由長は、特にバット27経由で編み機針11に伝わる衝撃及び振動を減衰する。
【0057】
案内部45、46の案内片持ち梁47に基づき、編み機針は高さ方向H及び横断方向Qにおいて、長さ方向Lに互いに距離を置いて配置した場所で支持されてよい。編み機針11は、カム装置及び/又は互いに横断方向Qで対向する編み機の案内又は針流路の流路壁により支持される。円形(丸)編み機において、例えば、遠心力及びバット27に側面から作用する力は、カム装置に対する編成シリンダの回転により発生する。加えて、編み機針11は、バット27を介してカム装置のカム通路により長さ方向Lに加速される。バット基礎28の喉部分により、特に2つのバット縁30、31を介してバット27に長さ方向Lに作用する力は減衰され得るので、編み機針11への応力が低下し、ループ形成の際の位置決め精度の変動が減少する。編み機針11の案内及び位置決めは案内片持ち梁47によりさらに支持され、その片持ち梁脚49は高さ方向Hに針幹部12と距離を置いて配置されて間隙50を形成する。片持ち梁脚49は、針幹部12の下部に対して弾性的に動くことができる。そのため、カム装置により高さ方向Hに片持ち梁脚49に対して働く力は、片持ち梁脚49の弾性により少なくとも部分的に支えられる。このようにして、編み機針11の接触面20は、編成シリンダの針流路又は案内流路の底部に非常に良好に当接する。特にこの位置決め精度の改善がさらに達成されたのは、接触面20に窪み及び凹みがなく、編成作業中にゴミが溜まることがないからである。これは、短繊維糸で編む際に特に優位性がある。
【0058】
本発明は編み機工具10に関し、特に長さ方向Lに延び、下側に接触面20を備える針幹部を有する編み機針11に関する。ループ形成用に構成された端部18の他は、接触面20は平面Eで連続的に延び、前端部18の反対側の針幹部12の後端14への移行部へと達する。前方案内部45と後方案内部46の間に、バット27を有するバット部26が存在する。各案内部において、案内片持ち梁47が存在する。案内片持ち梁47は高さ方向Hに針幹部12から離れるように延び、案内片持ち梁47の片持ち梁脚49と下方に配置された針幹部12の部分との間の間隙50を形成する。
【符号の説明】
【0059】
10 編み機工具
11 編み機針
12 針幹部
13 前端
14 後端
15 針フック
16 閉鎖要素
17 べら
18 前端部
19 ループ受け取り部
20 接触面
21 上側
22 側面
26 バット部
27 バット
28 バット基礎
29 バット上部領域
30 バット前端
31 バット後端
32 遷移位置
33 バット上端
34 バット凹み
35 逃げ面
36 接続部
40 前方湾曲部
41 後方湾曲部
45 前方案内部
46 後方案内部
47 案内片持ち梁
48 接続脚
49 片持ち梁脚
50 間隙
51 脚端
52 接続脚の内縁
53 接続脚の外縁
57 中間部
α 傾斜角
A ピボット軸
b 基礎高
c 片持ち梁高
d 間隙高
H 高さ方向
L 長さ方向
Q 横断方向
R1 第1の曲率半径
R2 第2の曲率半径
R3 第3の曲率半径
R4 第4の曲率半径
s1 第1の脚幅
s2 第2の脚幅
t バット凹みの深さ
xg 全長
x1 前端部の長さ
x2 前方針幹部の長さ
x3 バット部の長さ
x4 案内部の長さ
x5 中間部の長さ
z シャンク高
z1 第1の針幹高
z2 第2の針幹高
z3 第3の針幹高

図1
図2
図3
図4