(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】複合半透膜および複合半透膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20230905BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230905BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20230905BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230905BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230905BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D69/02
B01D71/56
B01D69/00
B32B27/34
B32B5/18
(21)【出願番号】P 2019157774
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中宏明
(72)【発明者】
【氏名】峰原宏樹
(72)【発明者】
【氏名】小川貴史
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-152818(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022694(WO,A1)
【文献】特開平03-232523(JP,A)
【文献】国際公開第2014/095717(WO,A1)
【文献】特開2017-131794(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143297(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に位置する多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に位置する分離機能層とを備えた複合半透膜であって、
前記分離機能層は脂肪族アミンおよび芳香族アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重縮合によって形成されるポリアミドを含有し、
前記脂肪族アミンは2、3、5、6位のいずれか一つ以上に置換基を有するピペラジン誘導体であり、
前記ポリアミドを構成する芳香環炭素に結合した水素量Aと非芳香環炭素に結合した水素量Bが以下の式を満たす複合半透膜。
0.015≦ B/(A+B)≦ 0.15
【請求項2】
前記分離機能層がひだ構造を持ち、前記ひだ構造における凸部高さの中間値が80nm以上であり、
前記ひだ構造における凸部厚みの中間値が8nm以上15nm以下である請求項
1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
基材と、前記基材上に位置する多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に位置する分離機能層とを備えた複合半透膜の製造方法であって、
前記多孔性支持層上に分離機能層を形成する工程を備え、
前記工程は、
前記多孔性支持層上で、多官能性アミン
水溶液と多官能性酸ハロゲン化物溶液とを接触させることで、界面重縮合反応によりポリアミドの層を形成するステップを備え、
前記多官能性アミン水溶液が含有する多官能性アミンは、脂肪族アミンおよび芳香族アミンであり、
前記脂肪族アミンは2、3、5、6位のいずれか一つ以上に置換基を有するピペラジン誘導体であり、
前記多官能
性アミン水溶液に含まれる
前記脂肪族アミンおよび
前記芳香族アミンの量が、
0.01≦脂肪族アミン〔mol〕/(芳香族アミン+脂肪族アミン)〔mol〕<0.1
を満たす、請求項1または2に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族アミンがm-フェニレンジアミンである請求項3に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜に関する。本発明によって得られる複合半透膜は、例えば海水またはかん水の淡水化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。
【0003】
膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがあり、これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合、または工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0004】
現在市販されている逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は複合半透膜であり、微多孔性支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、微多孔性支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものとの2種類がある。
【0005】
なかでも、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を多孔性支持膜上に被覆して得られる複合半透膜(特許文献1)は、透水性および除去性の高い分離膜として広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、膜運転時の省エネルギー化のニーズが高まっており、複合半透膜の透水性は従来に対しさらに高める必要がある。一方で、膜の透水性を高めるとそれに伴い除去性が低下する問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、膜の除去性を維持しつつも透水性を大幅に向上させるために以下の構成をとる。
〔1〕基材と、前記基材上に位置する多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に位置する分離機能層とを備えた複合半透膜であって、
前記分離機能層は脂肪族アミンおよび芳香族アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重縮合によって形成されるポリアミドを含有し、
前記ポリアミドを構成する芳香環炭素に結合した水素量Aと非芳香環炭素に結合した水素量Bが以下の式を満たす複合半透膜。
0.015≦ B/(A+B)≦ 0.15
〔2〕前記分離機能層がひだ構造を持ち、前記ひだ構造における凸部高さの中間値が80nm以上であり、
前記ひだ構造における凸部厚みの中間値が8 nm以上15 nm以下である〔1〕に記載の複合半透膜。
〔3〕基材と、前記基材上に位置する多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に位置する分離機能層とを備えた複合半透膜の製造方法であって、
前記多孔性支持層上に分離機能層を形成する工程を備え、
前記工程は、
前記多官能性アミン水溶液が含有する多官能性アミンは、脂肪族アミンおよび芳香族アミンであり、
多官能アミン水溶液に含まれる脂肪族アミンおよび芳香族アミンの量が、
0.01≦脂肪族アミン〔mol〕/(芳香族アミン+脂肪族アミン) 〔mol〕<0.1
を満たす複合半透膜の製造方法。
〔4〕前記脂肪族アミンがピペラジン誘導体である〔3〕に記載の複合半透膜の製造方法。
〔5〕前記芳香族アミンがm-フェニレンジアミンである〔3〕または〔4〕に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合半透膜は、分離機能層の主成分であるポリアミドを構成する芳香環炭素に結合した水素量Aと非芳香環炭素に結合した水素量Bが0.015≦ B/(A+B)≦ 0.15を満たすことで、高い透水性と実用的な除去率を両立するのに適したひだ構造をとることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.複合半透膜
(1-1)微多孔性支持膜
本発明において微多孔性支持膜は、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する後述の分離機能層に強度を与えるためのものである。微多孔性支持膜の孔のサイズおよび分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような微多孔性支持膜が好ましい。
【0011】
本発明において、微多孔性支持膜は、基材とその上に形成された多孔性支持体から構成される。
【0012】
(1-1-1)基材
上記基材としては、例えば、ポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛が例示される。
【0013】
基材に用いられる布帛としては、長繊維不織布または短繊維不織布を好ましく用いることができる。基材には、基材上に高分子重合体の溶液を流延した際にそれが過浸透により裏抜けしたり、基材と多孔性支持体が剥離したり、さらには基材の毛羽立ち等により膜の不均一化またはピンホール等の欠点が生じたりすることがないような優れた製膜性が要求される。そのため、基材には長繊維不織布をより好ましく用いることができる。
【0014】
長繊維不織布としては、熱可塑性連続フィラメントより構成される長繊維不織布などが挙げられる。基材が長繊維不織布からなることにより、短繊維不織布を用いたときに起こる、毛羽立ちによって生じる高分子溶液流延時の不均一化または膜欠点を抑制することができる。また、複合半透膜を連続製膜する工程においては、基材の製膜方向に張力がかけられることからも、基材としては、寸法安定性に優れる長繊維不織布を用いることが好ましい。
【0015】
基材の通気度は2.0cc/cm2/sec以上であることが好ましい。通気度がこの範囲だと、複合半透膜の透過水量が高くなる。これは、微多孔性支持膜を形成する工程で、基材上に高分子重合体を流延し、凝固浴に浸漬した際に、基材側からの非溶媒置換速度が速くなることで多孔性支持体の内部構造が変化し、その後の分離機能層を形成する工程においてモノマーの保持量または拡散速度に影響を及ぼすためと考えられる。
【0016】
なお、通気度はJIS L1096(2010)に基づき、フラジール形試験機によって測定できる。例えば、200mm×200mmの大きさに基材を切り出し、サンプルとする。このサンプルをフラジール形試験機に取り付け、傾斜形気圧計が125Paの圧力になるように吸込みファン及び空気孔を調整し、このときの垂直形気圧計の示す圧力と使用した空気孔の種類から基材を通過する空気量、すなわち通気度を算出することができる。フラジール形試験機は、カトーテック株式会社製KES-F8-AP1などが使用できる。
【0017】
また、基材の厚みは、10μm以上200μm以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30μm以上120μm以下の範囲内である。
【0018】
(1-1-2)多孔性支持体
本発明における多孔性支持体は、上記基材上に位置する。
【0019】
多孔性支持体の素材としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。
【0020】
ここでセルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。
【0021】
中でもポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。ポリスルホン、酢酸セルロース及びポリ塩化ビニル、またはそれらを混合したものがより好ましく使用され、化学的、機械的、熱的に安定性の高いポリスルホンを使用するのが特に好ましい。
【0022】
また、多孔性支持体の厚みは、10~200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20~100μmの範囲内である。多孔性支持体の厚みが10μm以上であることで、良好な耐圧性が得られると共に、欠点のない均一な支持膜を得ることができるので、このような多孔性支持体を備える複合半透膜は、良好な塩除去性能を示すことができる。多孔性支持体の厚みが200μm以下であることで、製造時の未反応物質の残存量が増加せず、透過水量が低下することによる耐薬品性の低下を防ぐことができる。
【0023】
上記基材に上記多孔性支持体を形成した微多孔性支持膜の厚みは、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。本発明の複合半透膜が、十分な機械的強度および充填密度を得るためには、微多孔性支持膜(基材と多孔性支持膜の合計)の厚みは30~300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは50~250μmの範囲内である。
【0024】
微多孔性支持膜の形態は、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡及び原子間顕微鏡等により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材から多孔性支持体を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金-パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3~6kVの加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR-FE-SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S-900型電子顕微鏡などが使用できる。
【0025】
本発明に使用する微多孔性支持膜は、ミリポア社製“ミリポアフィルターVSWP”(商品名)または、東洋濾紙社製“ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるが、“オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造することもできる。
【0026】
上記基材および多孔性支持体、複合半透膜の厚みは、デジタルシックネスゲージによって測定することができる。また、後述する分離機能層の厚みは微多孔性支持膜と比較して非常に薄いので、複合半透膜の厚みを微多孔性支持膜の厚みとみなすこともできる。従って、複合半透膜の厚みをデジタルシックネスゲージで測定し、複合半透膜の厚みから基材の厚みを引くことで、多孔性支持体の厚みを簡易的に算出することができる。デジタルシックネスゲージとしては、尾崎製作所株式会社のPEACOCKなどが使用できる。デジタルシックネスゲージを用いる場合は、20箇所について厚みを測定して平均値を算出する。
【0027】
なお、基材および多孔性支持体、複合半透膜の厚みを上述した顕微鏡で測定してもよい。1つのサンプルについて任意の5箇所における断面観察の電子顕微鏡写真から厚みを測定し、平均値を算出することで厚みが求められる。なお、本発明における厚みおよび孔径は平均値を意味するものである。
【0028】
(1-2)分離機能層
本発明の複合半透膜において、実質的にイオン等の分離性能を有するのは、分離機能層である。分離機能層は凹部と凸部が繰り返される、ひだ構造を形成する。凸部が高いほど表面積が大きくなるため有効膜面積が大きくなり、透水性は向上する。
【0029】
本発明においては分離機能層の凸部の高さの中間値は、80nm以上、好ましくは90nm以上である。また、分離機能層の凸部の高さの中間値は、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは800nm以下である。凸部の高さの中間値が80m以上であることで、十分な透水性を備えた複合半透膜を容易に得ることができる。また、凸部の高さの中間値が1000nm以下であることにより、複合半透膜を高圧で運転して使用する際にも凸部が潰れることなく、安定した膜性能を得ることができる。
【0030】
また本発明においては分離機能層の凸部の厚さの中間値は、15nm以下、好ましくは13nm以下である。また凸部の厚さの中間値は8nm以上が好ましい。凸部の厚さの中間値が15 nmであることで十分な透水性を備えた複合半透膜を容易に得ることができ、凸部の厚さの中間値が8 nm以上であることで実用的な塩除去率と運転時の圧力に対する物理的耐久性を保つことができる。
【0031】
ここで、本発明における分離機能層の凸部とは、10点平均面粗さの5分の1以上の高さの凸部のことをいう。10点平均面粗さとは、次のような算出方法で得られる値である。まず電子顕微鏡により、膜面に垂直な方向の断面を下記の倍率で観察する。得られた断面画像には、分離機能層(
図1に符号“1”で示す。)の表面が凸部と凹部が連続的に繰り返される、ひだ構造の曲線として表れる。この曲線について、ISO4287:1997に基づき定義される粗さ曲線を求める。上記粗さ曲線の平均線の方向に2.0μmの幅で断面画像を抜き取る(
図1)。
【0032】
なお、平均線とは、ISO4287:1997に基づき定義される直線であり、測定長さにおいて、平均線と粗さ曲線とで囲まれる領域の面積の合計が平均線の上下で等しくなるように描かれる直線である。
【0033】
抜き取った幅2.0μmの画像において、上記平均線を基準線として、分離機能層における凸部の高さと、凹部の深さをそれぞれ測定する。最も高い凸部から徐々に高さが低くなって5番目の高さまでの5つの凸部の高さH1~H5の絶対値について平均値を算出し、最も深い凹部から徐々に深さが浅くなって5番目の深さまでの5つの凹部の深さD1~D5の絶対値について平均値を算出して、さらに、得られた2つの平均値の絶対値の和を算出する。こうして得られた和が、10点平均面粗さである。
【0034】
そして、凸部の高さの中間値は、透過型電子顕微鏡により、測定することができる。
【0035】
まず、透過型電子顕微鏡(TEM)用の超薄切片作製のため、サンプルを水溶性高分子で包埋する。水溶性高分子としては、サンプルの形状を保持できるものであればよく、例えばPVA等を用いることができる。次に、断面観察を容易にするためにOsO4で染色し、これをウルトラミクロトームで切断して超薄切片を作製する。得られた超薄切片を、TEMを用いて断面写真を撮影する。凸部高さは、断面写真を画像解析ソフトに読み込み、解析を行うか、スケールなどにより直接測定できる。凸部の高さは、10点平均面粗さの5分の1以上の高さを有する凸部について測定される値である。
【0036】
凸部の高さの中間値は次のようにして測定される。複合半透膜において、任意の10箇所の断面を観察したときに、各断面において、上述の10点平均面粗さの5分の1以上である凸部の高さを測定する。さらに、10箇所の断面についての算出結果に基づいて、中間値を算出することで凸部高さ中間値を求めることができる。ここで、各断面は、上記粗さ曲線の平均線の方向において、2.0μmの幅を有する。
【0037】
凸部の厚さの中間値は、ひだ構造の外表面から内表面までの最短距離を少なくとも50箇所の測定値より算出する。算出は20,000~100,000倍のTEMの断面写真をスケールなどにより直接測定することにより行われる。
【0038】
本発明における分離機能層は、ポリアミドを主成分とする薄膜を含有する。分離機能層を構成するポリアミドは、例えば、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重縮合反応により形成することができる。ここで、多官能性アミンまたは多官能性酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0039】
ここで、多官能性アミンとは、一分子中に少なくとも2個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有し、そのアミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基であるアミンをいう。
【0040】
本発明のポリアミド分離機能層は芳香環炭素に結合した水素量Aと非芳香環炭素に結合した水素量Bが以下の式を満たすものである。
0.015≦ B/(A+B)≦ 0.15
界面重縮合の際に、非芳香環炭素が存在することによって電子的、立体的要因により重縮合反応速度をマイルドにすることができる。
【0041】
特に重縮合反応速度を適度に低下させ、芳香環炭素に結合した水素量Aと非芳香環炭素に結合した水素量Bが上記範囲にあるポリアミド分離機能層は、凸部が膜の透水性を十分に発現するのに適した高さへの成長を継続しつつ、凸部内部の反応による膨潤は抑制されるため厚みが小さくなることで、膜の除去性を実用的に維持しつつも極めて高い透水性を発現する膜となることが分かった。
【0042】
芳香環炭素に結合した水素量Aと非芳香環炭素に結合した水素量Bは例えば以下のように求める。
【0043】
まず複合半透膜から物理的に基材を剥離させ、支持層を溶解可能な溶媒、例えばジクロロメタンなどを用い分離機能層を抽出する。得られた分離機能層50 mgに対し6規定以上の水酸化ナトリウム水溶液2mLを加え、耐圧容器に収めた後、120℃で1時間以上加熱する。得られた溶液を、塩酸などを用い強酸性にしたのちろ過を行い、ろ液を乾固させたものを重クロロホルムに溶解させ1H NMR測定を行う。得られたスペクトルにおける化学シフト6~9.5 ppmのピーク積分値を芳香環炭素に結合した水素量A、0.7~4 ppmのピーク積分値を非芳香環炭素に結合した水素量Bとする。
【0044】
本発明におけるポリアミドを構成する多官能性アミンは、脂肪族アミンおよび芳香族アミンをそれぞれ含む。脂肪族アミンとしては例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ピペラジン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノシクロへキサンおよびそれらの誘導体を挙げることができるが、特に複合半透膜の性能を向上させるものとして、ピペラジンの2、3、5、6位のいずれか一つ以上に置換基を有するピペラジン誘導体が特に好ましい。
【0045】
芳香族アミンとしては例えば、2個のアミノ基がオルト位またはメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミンなどを挙げることができ、中でも、膜の選択分離性および透過性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2~4個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンであることが好ましい。このような多官能芳香族アミンとしては、例えば、m-フェニレンジアミン(以下、m-PDAと記す)、p-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン等が好適に用いられる。中でも、入手の容易性または取り扱いのしやすさから、m-PDAを用いることがより好ましい。
【0046】
多官能性酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物としては、例えば、トリメシン酸クロリド、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4-シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができる。
【0047】
2官能酸ハロゲン化物としては、例えば、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。
【0048】
多官能性アミンとの反応性を考慮すると、多官能性酸ハロゲン化物は多官能性酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2~4個の塩化カルボニル基を有する多官能性芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性または取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能性酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0049】
2.複合半透膜の製造方法
次に、本発明の複合半透膜の製造方法について説明する。
【0050】
(2-1)支持膜の形成工程
支持膜の形成工程は、基材に高分子溶液を塗布する工程及び高分子溶液を塗布した前記基材を凝固浴に浸漬させて高分子を凝固させる工程を含む。
【0051】
基材に高分子溶液を塗布する工程において、高分子溶液は、多孔性支持層の成分である高分子を、その高分子の良溶媒に溶解して調製する。
【0052】
高分子溶液塗布時の高分子溶液の温度は、高分子としてポリスルホンを用いる場合、10℃以上60℃以下であることが好ましい。高分子溶液の温度が、この範囲内であれば、高分子が析出することがなく、高分子溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。その結果、アンカー効果により多孔性支持層が基材に強固に接合し、良好な支持膜を得ることができる。なお、高分子溶液の好ましい温度範囲は、用いる高分子の種類または、所望の溶液粘度等によって適宜調整することができる。
【0053】
基材上に高分子溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬させるまでの時間は、0.1秒以上5秒以下であることが好ましい。凝固浴に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、高分子を含む有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。なお、凝固浴に浸漬するまでの時間の好ましい範囲は、用いる高分子溶液の種類または、所望の溶液粘度等によって適宜調整することができる。
【0054】
凝固浴としては、通常水が使われるが、多孔性支持層の成分である高分子を溶解しないものであればよい。凝固浴の組成によって得られる支持膜の膜形態が変化し、それによって得られる複合半透膜も変化する。凝固浴の温度は、-20℃以上100℃以下が好ましく、さらに好ましくは10℃以上50℃以下である。凝固浴の温度がこの範囲以内であれば、熱運動による凝固浴面の振動が激しくならず、膜形成後の膜表面の平滑性が保たれる。また、凝固浴の温度がこの範囲内であれば、凝固速度が適当で、製膜性が良好である。
【0055】
次に、このようにして得られた支持膜を、膜中に残存する溶媒を除去するために熱水洗浄する。このときの熱水の温度は40℃以上100℃以下が好ましく、さらに好ましくは60℃以上95℃以下である。熱水の温度がこの範囲内であれば、支持膜の収縮度が大きくならず、透過水量が良好である。また、熱水の温度がこの範囲内であれば、洗浄効果が十分である。
【0056】
(2-2)分離機能層の形成工程
半透膜を構成する分離機能層は、例えば、上記の多官能アミンを含有する水溶液と、多
官能酸ハロゲン化物を含有する、水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、微多孔性支持膜
の表面で界面重縮合を行うことによりその骨格を形成できる。
【0057】
ここで、多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は脂肪族アミンと芳香族アミンを合計が0.1~10重量%の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.5~5.0重量%の範囲内である。多官能アミンの濃度をこの範囲内とすることで適度に反応を進行させることができ、一方、分離機能層が過度に厚くならず十分な透水性を確保できる。また、脂肪族アミンと芳香族アミンの割合は、脂肪族アミン〔mol〕/(芳香族アミン+脂肪族アミン) 〔mol〕が0.01以上0.1未満を満たすことが好ましい。前記割合が0.01未満であると膜の透水性を有意に向上させるのに不十分であり、0.1以上であると分離機能層の凸部高さが小さくなることで、逆に膜の透水性を低下する方向に働くためである。
【0058】
多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、微多孔性支持膜表面の濡れ性を向上させ、多官能アミン水溶液と有機溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重縮合反応を効率よく行える場合がある。
【0059】
界面重縮合を微多孔性支持膜上で行うために、まず、上述の多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させる。接触は、微多孔性支持膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜にコーティングする方法や微多孔性支持膜を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。微多孔性支持膜と多官能アミン水溶液との接触時間は、1秒~10分間の範囲内であることが好ましく、10秒~3分間の範囲内であるとさらに好ましい。
【0060】
多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させたあとは、膜上に液滴が残らないように十分に液切りするのが好ましい。膜形成後に膜欠点の原因となる液滴が残らないので膜性能の低下を招きにくい。液切りの方法としては、たとえば、特開平2-78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの風を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の一部を除去することもできる。
【0061】
次いで、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜に、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層の骨格を形成させる。
有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物の濃度は、0.01~10重量%の範囲内であると好ましく、0.02~2.0重量%の範囲内であるとさらに好ましい。この範囲内であると反応の進行が遅くならず、副反応が起こりにくい。さらに、この有機溶媒溶液にN,N-ジメチルホルムアミドのようなアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、さらに好ましい。
【0062】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し、微多孔性支持膜を破壊しないことが好ましい。また、この有機溶媒は多官能アミンおよび多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればいずれであってもよい。好ましい例としては、液状の炭化水素、トリクロロトリフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられるが、オゾン層を破壊しない物質であることや入手のしやすさ、取り扱いの容易さ、取り扱い上の安全性などを考慮すると、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカンなど、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン、1-オクテン、1-デセンなどの単体あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0063】
多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜と接触させる方法は、前記した多官能アミン水溶液の微多孔性支持膜への被覆方法と同様に行えば良い。
【0064】
上述したように、多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を接触させて界面重縮合を行い、微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成したあとは、余剰の溶媒を液切りするとよい。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1~5分の間にあることが好ましく、1~3分間であるとより好ましい。短すぎると分離機能層が完全に形成せず、長すぎると有機溶媒が過乾燥となり欠点が発生しやすく、性能低下を起こしやすい。
【0065】
(2-3)その他の処理
上述の方法により得られた複合半透膜は、40~100℃の範囲内、好ましくは60~
100℃の範囲内で1~10分間、より好ましくは2~8分間熱水処理する工程などを付加することで、複合半透膜の溶質阻止性能や透水性をより一層向上させることができる。
【0066】
また、本発明で得られる複合半透膜は、熱水処理後に分離機能層上の第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物(I)と接触させ、その後前記化合物(I)との反応性をもつ水溶性化合物(II)を接触させる工程を含むことにより、塩除去率をさらに向上させることができる。
【0067】
接触させる第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物(I)としては、亜硝酸およびその塩、ニトロシル化合物などの水溶液が挙げられる。亜硝酸またはニトロシル化合物の水溶液は気体を発生して分解しやすいので、例えば、亜硝酸塩と酸性溶液との反応によって亜硝酸を逐次生成するのが好ましい。
【0068】
一般に、亜硝酸塩は水素イオンと反応して亜硝酸(HNO2)を生成するが、水溶液のpHが7以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下で効率よく生成する。中でも、取り扱いの簡便性から水溶液中で塩酸または硫酸と反応させた亜硝酸ナトリウムの水溶液が特に好ましい。
【0069】
前記第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する化合物(I)、例えば亜硝酸ナトリウムの濃度は、好ましくは0.01~1重量%の範囲である。この範囲であると十分なジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する効果が得られ、溶液の取扱いも容易である。
【0070】
該化合物の温度は15℃~45℃が好ましい。この範囲だと反応に時間がかかり過ぎることもなく、亜硝酸の分解が早過ぎず取り扱いが容易である。
【0071】
該化合物との接触時間は、ジアゾニウム塩および/またはその誘導体が生成する時間であればよく、高濃度では短時間で処理が可能であるが、低濃度であると長時間必要である。そのため、上記濃度の溶液では10分間以内であることが好ましく、3分間以内であることがより好ましい。
【0072】
また、接触させる方法は特に限定されず、該化合物の溶液を塗布(コーティング)しても、該化合物の溶液に該複合半透膜を浸漬させてもよい。該化合物を溶かす溶媒は該化合物が溶解し、該複合半透膜が侵食されなければ、いかなる溶媒を用いてもかまわない。また、溶液には、第一級アミノ基と試薬との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤または酸性化合物、アルカリ性化合物などが含まれていてもよい。
【0073】
次に、ジアゾニウム塩またはその誘導体が生成した複合半透膜を、ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する水溶性化合物(II)と接触させる。ここでジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する水溶性化合物(II)とは、塩化物イオン、臭化物イオン、シアン化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化ホウ素酸、次亜リン酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸イオン、芳香族アミン、フェノール類、硫化水素、チオシアン酸等が挙げられる。
【0074】
亜硫酸水素ナトリウム、および亜硫酸イオンと反応させると瞬時に置換反応が起こり、アミノ基がスルホ基に置換される。また、芳香族アミン、フェノール類と接触させることでジアゾカップリング反応が起こり膜面に芳香族を導入することが可能となる。これらの化合物は単一で用いてもよく、複数混合させて用いてもよく、異なる化合物に複数回接触させてもよい。接触させる化合物として、好ましくは亜硫酸水素ナトリウム、および亜硫酸イオンである。
【0075】
ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する水溶性化合物(II)と接触させる濃度と時間は、目的の効果を得るために適宜調節することができる。
【0076】
ジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する水溶性化合物(II)と接触させる温度は10~90℃が好ましい。この温度範囲であると反応が進みやすく、一方ポリマーの収縮による透過水量の低下も起こらない。
【0077】
(3)複合半透膜の利用
このように製造される本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0078】
また、上記の複合半透膜およびそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプまたは、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0079】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.15MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0080】
本発明に係る複合半透膜によって処理される原水としては、例えば、海水、かん水、排水等の50mg/L~100g/Lの塩(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、塩は総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5~40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【実施例】
【0081】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0082】
実施例および比較例における測定は次のとおり行った。
【0083】
(膜透過流束)
供給水(塩化ナトリウム溶液)の膜透過水量を、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)でもって膜透過流束(m3/m2/d)を表した。
【0084】
(塩除去率)
温度25℃、pH6.5に調整した500mg/L 塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を操作圧力0.5 MPaで複合半透膜に供給し、透過水中の塩濃度を測定した。膜による塩の除去率は次の式から求めた。
塩除去率(%)=100×{1-(透過水中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}
(凸部の高さおよびの厚さの中間値の測定)
複合半透膜サンプルをエポキシ樹脂で包埋し、断面観察を容易にするため四酸化オスミ
ウムで染色して、これをウルトラミクロトームで切断し超薄切片を10個作成した。得られた超薄切片について、透過型電子顕微鏡を用いて断面写真を撮影した。観察時の加速電
圧は100kVであり、観察倍率は20,000倍であった。得られた断面写真について、支持膜の膜面方向の幅2.0μmの距離における凸部の数をスケールを用いて測定し、上述したように10点平均面粗さを算出した。この10点平均面粗さに基づいて、10点平均面粗さの5分の1以上の高さを有する部分を凸部として、断面写真中の全ての凸部の高さおよび厚さをスケールで測定し、それぞれの中間値を求めた。
【0085】
(芳香環炭素に結合した水素量Aと非芳香環炭素に結合した水素量B)
複合半透膜サンプル2 m2から物理的に基材を剥離させ、ジクロロメタンなどを用い分離機能層を抽出した。得られた分離機能層50 mgに対し7規定の水酸化ナトリウム水溶液2mLを加え、耐圧容器に収めた後、120℃で2時間加熱した。得られた溶液を、塩酸を用い強酸性にしたのちろ過を行い、ろ液を乾固させたものを重クロロホルムに溶解させ以下の条件にて1H NMR測定を行い、得られたスペクトルにおいて重溶媒由来のピークを除く化学シフト6~9.5 ppmのピーク積分値を芳香環炭素に結合した水素量A、0.7~4 ppmのピーク積分値を非芳香環炭素に結合した水素量Bとした。
使用装置:JNM-ECZ400R(日本電子株式会社製)
測定方法:single1H pulse
観測核:1H
観測周波数:399.8MHz
パルス幅:90°、6.8μs
Xポイント数:16384
積算回数:16回
測定温度:22℃
試料回転数:15Hz
(参考例1)
ポリエステル不織布(通気度0.5~1cc/cm2/sec)上にポリスルホンの15.7重量%DMF溶液を200μmの厚みで、室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜(厚さ210~215μm)を作製した。得られた微多孔性支持膜を20cm四方に切り取り、金属製の枠に固定し、多官能アミン水溶液としてm-PDAの1.8重量%水溶液中に2分間浸漬した。該支持膜を上記水溶液から垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。その後、TMC0.065重量%を含む25℃のn-デカン溶液25mlを、支持膜の表面が完全に濡れるように枠内に注ぎ込み、n-デカン溶液と支持膜の最初の接触から1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りし、その後、80℃の熱水で2分間洗浄した。さらに洗浄後の膜を35℃、pH3の0.3重量%亜硝酸ナトリウム水溶液に1分間浸漬させた後、0.1重量%の亜硫酸ナトリウム水溶液に2分間浸漬し、複合半透膜を得た。
【0086】
(比較例1~8、実施例1~6)
多官能アミン水溶液をそれぞれ変更したこと以外は参考例1と同様の方法にて複合半透膜を得た。
【0087】
それぞれ得られた膜の分離機能層凸部高さ中心値、凸部厚さ中心値、B/(A+B)、複合半透膜性能として膜透過流束、塩除去率を表1に示す。
【0088】
比較例1~6のようにB/(A+B)が0.15より大きい値の膜は凸部高さが参考例1と比較し有意に小さくなり、膜透過流束も低い値となった。また、比較例7にように0.015未満の膜では参考例と比較し凸部構造に大きな変化はなく、膜性能も同等のものであった。一方比較例8ではB/(A+B)が0.015以上0.15以下の値を示したものの、凸部厚さが小さすぎることにより塩除去率が大幅に低下する膜となった。
【0089】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の複合半透膜は、特に海水、かん水の脱塩に好適に用いることができる。