(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】サーボ制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20230905BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20230905BHJP
H02P 29/40 20160101ALI20230905BHJP
【FI】
G05B13/02 Z
G05B19/404 J
H02P29/40
(21)【出願番号】P 2019133481
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】下田 隆貴
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 聡史
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-118362(JP,A)
【文献】特許第4565034(JP,B2)
【文献】特開平10-63339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00 - 7/04
G05B 11/00 -13/04
G05B 17/00 -17/02
G05B 21/00 -21/02
G05B 19/18 -19/416
G05B 19/42 -19/46
H02P 4/00
H02P 25/08 -25/098
H02P 29/00 -31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用機械の軸を駆動する電動機を制御するためのサーボ制御装置であって、
前記産業用機械の稼働プログラム及び/又は稼働計画情報から前記電動機又は前記電動機によって動く被駆動体の
イナーシャの時系列又はイベント系列のデータを導出する状態値導出部と、
速度ゲイン、位置ゲイン、フィードフォワードゲイン、フィルタ周波数、補間後加減速時定数のうち、少なくとも一つのパラメータを、前記状態値導出部で導出した
イナーシャの時系列又はイベント系列のデータに基づいて、
イナーシャの時系列又はイベント系列に沿って変更するパラメータ変更部と、
を備える、サー
ボ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、機械工作の分野では、CNC(コンピュータ数値制御:Computerized Numerical Control)技術を適用し、移動量や移動速度などをコンピュータで数値制御することにより、同一動作の繰り返しや、複雑な動作などを高度に自動化している。
【0003】
また、設計、製図をCAD(Computer Aided Design)で行い、CADデータに合う動作プログラム(加工プログラムなど)をCAM(Computer Aided Manufacturing)で作成し、CAMで作成したデータをCNCに取り込み、例えば、オプション、パラメータ、NCプログラム、マクロプログラム、マクロ変数、ワーク原点オフセット、工具オフセット、工具形状データ、工具管理データなどの各種データを入力して制御することによって、設計から製造まで一貫してNC旋盤やマシニングセンタなどのNC工作機械などを自動化することも行われている。
【0004】
一方、工作機械やロボットなどの産業用機械の軸などを駆動するためのサーボモータ(電動機)は、回転量、速度、トルク等が駆動制御されている。
【0005】
ここで、特許文献1には、「電動機の制御装置において、前記電動機へのトルク指令に正弦波状指令を加える手段と、前記電動機に流れる電流値を取得する手段と、前記電動機の加速度値を取得する手段と、前記正弦波状指令の複数周期にわたる、同一の動作状態での、複数の前記電流値と複数の前記加速度値から得た電流代表値と加速度代表値、及び前記電動機のトルク定数から前記電動機による被駆動体のイナーシャを推定する手段と、を有することを特徴とする制御装置。」が開示されている。
【0006】
特許文献2には、「共有データベースと接続され、工作機械を制御する数値制御装置であって、前記共有データベースには、前記数値制御装置及び前記工作機械に係る加工リソース情報と、CAD及びCAMにより作成された、加工内容についての加工内容情報と、加工に求められる少なくとも1つの要求についての加工要求情報を含む加工指令情報と、が記憶されており、前記数値制御装置は、前記加工指令情報を解読する加工指令解読部と、前記加工指令解読部が解読した結果に基づいて加工を実行する加工指令実行部を有し、前記加工指令解読部は、前記共有データベースに記憶されている前記加工指令情報及び前記加工リソース情報に基づいて前記加工指令情報による前記工作機械での加工可否を判断する処理と、加工のパラメータを決定する処理と、加工に使用する前記数値制御装置及び前記工作機械が備える機能を自動的に選択する処理と、のうちの少なくとも1つを実行する、数値制御装置。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許4565034号公報
【文献】特開2018-151736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、工作機械では、加工などの機械動作によってイナーシャや機械位置の状態(状態値)が変わると、ゲイン(位置ゲイン、速度ゲインなど)やフィルタ帯域などの最適なパラメータも変わる。
一般に、パラメータは固定しているので、機械の変動に合わせて最も保守的な設定になっている。すなわち、加工などの機械動作によって発振しにくいように、予め、低いゲイン、減衰の大きい(遅れが大きい)フィルタ、長い時定数となるように設定されている。これにより、サイクルタイム短縮が困難となる。
あるいはパラメータをある条件で最適になるよう設定していた場合は、イナーシャや位置の変更があった時にパラメータが最適でなくなり、工作機械での加工時に、振動気味になって加工表面に傷を残すおそれなどがある。
【0009】
このように固定パラメータでは変動に対して不利でるため、機械の状態などに合わせてパラメータを最適に変更する手法が強く望まれていた。
【0010】
なお、状態に応じてパラメータを最適化する手法としては、(1)適応的にパラメータを変更する手法、(2)予め計画的にパラメータを変更する手法が考えられる。このうち、適応的なパラメータ変更手法においては、リアルタイムでの状態推定と最適値計算が必要であり、このため、(A)計算負荷が重くなる(=高価な演算装置が必要)、(B)推定計算はリアルタイムでセンサから得られるFBデータを用いるため、ノイズの影響を受ける、(C)推定計算自体に用いられるハイパーパラメータの調整が難しいという問題がある。
【0011】
また(2)予め計画的にパラメータを変更する場合については、CNC(数値制御装置)内の情報だけでは、最適なパラメータスケジュールを作成するに足る情報が不足していることが多い。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のサーボ制御装置の一態様は、産業用機械の軸を駆動する電動機を制御するためのサーボ制御装置であって、前記産業用機械の稼働プログラム及び/又は稼働計画情報から前記電動機又は前記電動機によって動く被駆動体の状態値の時系列又はイベント系列のデータを導出する状態値導出部と、速度ゲイン、位置ゲイン、フィードフォワードゲイン、フィルタ周波数、補間後加減速時定数のうち、少なくとも一つのパラメータを、前記状態値導出部で導出した時系列又はイベント系列のデータに基づいて、時系列又はイベント系列に沿って変更するパラメータ変更部と、を備える構成とした。
【発明の効果】
【0013】
本開示のサーボ制御装置の一態様によれば、予測される機械のイベント又は時系列データに基づいて、最適なパラメータのイベント又は時系列的なスケジュールを求め、このスケジュールに沿ってパラメータを変更することにより、駆動体や軸など、機械の状態に応じてパラメータを最適化することが可能になる。これにより、例えば、工作機械による加工精度の向上など、産業用機械の稼働精度の向上、時間短縮(歩掛りの向上)を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一態様の工作機械の制御システム、サーボ制御装置を示す図である。
【
図2】一態様のサーボ制御装置を示すブロック図である。
【
図3】一態様のサーボ制御装置によって最適なパラメータのイベント又は時系列的なスケジュールを作成する説明に用いた図である。
【
図4】一態様のサーボ制御装置によって最適なパラメータのイベント又は時系列的なスケジュールを作成する説明に用いた図である。
【
図5】一態様のサーボ制御装置によって最適なパラメータのイベント又は時系列的なスケジュールを作成する説明に用いた図である。
【
図6】一態様のサーボ制御装置によって最適なパラメータのイベント又は時系列的なスケジュールを作成する説明に用いた図である。
【
図7】一態様のサーボ制御装置によって最適なパラメータのイベント又は時系列的なスケジュールを作成する説明に用いた図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1から
図7を参照し、一実施形態に係るサーボ制御装置について説明する。
【0016】
はじめに、本実施形態では、産業用機械が工作機械であるものとし、電動機が工作機械の主軸(軸、被駆動体)などを駆動するサーボモータであるものとして説明を行う。
但し、本発明に係る産業用機械は、ロボット、搬送機、計測器、試験装置、プレス機、圧入器、印刷機、ダイカストマシン、射出成型機、食品機械、包装機、溶接機、洗浄機、塗装機、組立装置、実装機、木工機械、シーリング装置又は切断機など、他の産業用機械であっても勿論構わない。
【0017】
はじめに、本実施形態の工作機械の制御システム1は、
図1及び
図2に示すように、製品の設計、製図等を行うためのCAD2と、CAD2で作成した加工形状データ(製品データ)から加工プログラム(稼働プログラム)の作成を行う加工プログラム作成部(稼働プログラム作成部)3、加工シミュレーション(稼働シミュレーション)を行う加工シミュレータ部(稼働シミュレータ部)4を有するCAM5と、CAM5から送られた加工計画情報(Gコード、稼働計画情報)9に基づいて指令信号を発信する指令部のCNC6と、CNC6の指令に基づいて工作機械のサーボモータ(駆動部)7の駆動を制御するモータ制御部8と、を備えている。
【0018】
駆動部のサーボモータ7は、例えば、ワーク(被駆動体)を保持するテーブル(被駆動体)を移動させるための送り軸(軸)、工具(被駆動体)などが装着される主軸(軸)などを駆動するためのサーボモータ(電動機)であり、モータ制御部8は、例えば、サーボアンプなどである。
【0019】
一方、本実施形態のサーボ制御装置10は、上記の加工プログラム作成部3と、加工シミュレータ部4と、加工プログラム作成部3、加工シミュレータ部4で作成された加工計画情報を取得し、加工計画情報からワークやテーブルなどの被駆動体やサーボモータ7の状態値の時系列又はイベント系列のデータを求める状態値導出部11と、速度ゲイン、位置ゲイン、フィードフォワードゲイン、フィルタ周波数、補間後加減速時定数のうち、少なくとも一つのパラメータを、状態値導出部11で導出した時系列又はイベント系列のデータに基づいて、時系列又はイベント系列に沿って変更するパラメータ変更部12と、を備えている。
【0020】
具体的に、
図1に示すように、CAD2、CAM5で作成した加工計画情報9がCNC6で取得された後、指令部のCNC6が補間後の位置指令、加減速指令をサーボアンプのモータ制御部8に出し、モータ制御部8によってサーボモータ7の駆動が制御される。
【0021】
このとき、本実施形態のサーボ制御装置10では、状態値導出部11が、CAM5から加工計画情報9を取得し、加工計画情報9からイナーシャの時系列又はイベント系列の関係13を求める。なお、イナーシャのイベント系列とは、加工工程(イベント)毎に要する時間を連続的、時系列的に示したものであり、例えば、不測の事態などによって、ある加工工程と次の加工工程の間に、工程に無関係な時間が生じた場合などを反映させたイナーシャの時系列を意味する。
【0022】
より具体的に一例を説明する。
【0023】
図3に示すように、サーボモータ7の駆動によって送り軸(ボールねじ)15が軸線周りに正逆回転することによって移動するステージ(テーブル)6にワークが保持(載置)されていない状態で、イナーシャJは、J=J
0となる。J
0はモータのロータ、送り軸15、ステージ16のイナーシャ値の総和である。
【0024】
図4に示すように、質量Mのワーク17をステージ6に保持した場合には、イナーシャJ
LOAD=J
0+MR
2となる。なお、Rは、リード(移動距離)L(m)対して回転-直動の変換係数であり、R=L/2π(m/rad)で表される。
【0025】
これにより、速度FBゲイン、速度FFゲインは、JLOAD/J=1+(MR2/J0)倍するようにスケジュールする。例えば、J0=0.01kgm2、M=500kg、L=0.02mでは、ゲインをJLOAD/J=1+(MR2/J0)から1.5倍する。
【0026】
一方、サーボモータ7のトルクからステージ16の位置(機械端)までの伝達特性を図示すると、例えば
図5のようになる。また、
図6に示すように、ステージ16の位置が変われば、機械の軸方向の剛性Ktが変化し、共振周波数(固有振動数)も変化する。特に、大型機械や長いボールねじ(ストローク等)の場合には剛性が位置によって大きく変わる。
【0027】
このため、
図7に示すように位置に合わせてフィルタ18の減衰中心周波数(共振周波数が変わるため)や、時定数(剛性が低くなると振動しやすくなるため時定数を長くする)などをスケジュールする。
【0028】
次に、
図1に示すように、状態値導出部11がCAM5から加工計画情報9を取得し、加工計画情報9からイナーシャの時系列又はイベント系列の関係13を求めた後、状態値導出部11は、イナーシャの時系列又はイベント系列の関係13からゲインスケジュール(時系列的な速度ゲインや位置ゲイン、フォードフォワードゲインなど)14を求め、このゲインスケジュールとCNC6の指令とを同期させる。
【0029】
次に、パラメータ変更部12が状態値導出部11で導出したゲインスケジュール(時系列又はイベント系列のデータ)14に基づいて、モータ制御部8の速度ループ(及び/又は位置ループ)のパラメータを時系列又はイベント系列に沿って変更する。例えば、
図1に示すように、速度ループのパラメータ「β(係数)」、「Kν(ゲイン)」をゲインスケジュールに合わせて変更する。ちなみに、
図1の速度ループや位置ループの「s」は微分値である。
【0030】
そして、ゲインスケジュールに合わせて変更した速度FF(や位置FF:フィードフォワード)に基づいて、モータ制御部8からトルク指令などの指令が出され、サーボモータ7が駆動制御される。
【0031】
これにより、本実施形態のサーボ制御装置10においては、予測される機械のイベント又は時系列データに基づいて、上記のような最適なパラメータのイベント又は時系列的なスケジュール14を求め、このスケジュール14に沿ってパラメータを変更することにより、駆動体や軸など、機械の状態に応じてパラメータを常に最適化することが可能になる。また、FBを用いて制御する必要もなくなる。
【0032】
したがって、本実施形態のサーボ制御装置10によれば、工作機械による加工精度の向上(産業用機械の稼働精度の向上)、時間短縮(歩掛りの向上)を図ることが可能になる。
【0033】
ここで、状態値導出部11は、被駆動体イナーシャの時系列又はイベント系列のデータを導出したり、工作機械などの軸の位置の時系列又はイベント系列のデータを導出することが好ましい。また、
図1では、速度ループ(速度ゲイン)のパラメータ「β(係数)」、「Kν(ゲイン)」をゲインスケジュールに合わせて変更するようにしているが、位置ループ(位置ゲイン)のパラメータを変更したり、フィードフォワードゲイン、フィルタ周波数、補間後加減速時定数のパラメータを状態値導出部11の導出結果に基づいて変更するようにしてもよい。
被駆動体イナーシャの時系列又はイベント系列のデータを導出する場合には、パラメータの速度ゲインを変更するスケジュールを作成でき、軸の位置の時系列又はイベント系列のデータを導出する場合には、フィルタ周波数や時定数を変更するスケジュールを作成できる。
そして、上記のようにした場合においても、上記と同様の作用効果を得ることが可能になる。
【0034】
以上、サーボ制御装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 工作機械(産業用機械)の制御システム
2 CAD
3 加工プログラム作成部(稼働プログラム作成部)
4 加工シミュレータ部(稼働シミュレータ部)
5 CAM
6 CNC
7 サーボモータ(駆動部)
8 モータ制御部
9 加工計画情報(稼働計画情報)
10 サーボ制御装置
11 状態値導出部
12 パラメータ変更部