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特許7344098永久磁石回転子の製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】永久磁石回転子の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/03 20060101AFI20230906BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230906BHJP
   H01F 13/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
H02K15/03 H
H01F41/02 G
H01F13/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019211534
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021083289
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591027042
【氏名又は名称】日本電磁測器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 成康
(72)【発明者】
【氏名】溝口 徹彦
(72)【発明者】
【氏名】日南田 純平
(72)【発明者】
【氏名】花田 和成
(72)【発明者】
【氏名】冨田 直矢
(72)【発明者】
【氏名】堀 充孝
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/03
H01F 41/02
H01F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心に着磁前磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造装置であって、
搬送経路を有し、その搬送経路内にて前記永久磁石回転子を加熱して加熱後回転子を得る加熱部と、
搬送経路を有し、その搬送経路内にて前記加熱後回転子に含まれる加熱後永久磁石を着磁して、着磁後永久磁石を含む着磁後回転子を得る着磁部と、
前記着磁後回転子を通過させることができる軟磁性材からなる経路内を備える後処理部と、
を有し、前記加熱部が有する前記搬送経路と、前記着磁部が有する前記搬送経路と、前記後処理部が有する前記経路と、が繋がっていて、1本の直線的な経路となっている、永久磁石回転子の製造装置。
【請求項2】
前記後処理部が備える前記経路内において、前記着磁後回転子を冷却することができる、請求項1に記載の永久磁石回転子の製造装置。
【請求項3】
前記経路の外側または前記経路を構成する部材の中に冷却管があり、前記冷却管の内部に冷却媒が流れている、請求項またはに記載の永久磁石回転子の製造装置。
【請求項4】
前記着磁後回転子を前記着磁部から前記後処理部へ搬送するための搬送経路を有し、前記搬送経路内において前記着磁後回転子を前記着磁部から前記後処理部へ移動させることできる、請求項1~3のいずれかに記載の永久磁石回転子の製造装置。
【請求項5】
鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心に着磁前磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造方法であって、
前記永久磁石回転子を加熱して加熱後回転子を得る加熱工程と、
前記加熱後回転子に含まれる加熱後永久磁石を着磁して、着磁後永久磁石を含む着磁後回転子を得る着磁工程と、
前記着磁後回転子を軟磁性材からなる経路内を通過させる後処理工程と、
を備え、請求項1~4のいずれかに記載の永久磁石回転子の製造装置を用いて行う、永久磁石回転子の製造方法。
【請求項6】
前記後処理工程において、
前記経路内にて前記着磁後回転子を冷却する、請求項に記載の永久磁石回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石回転子の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類磁石(ネオジム磁石等)のような保磁力が高い磁石が、モーター等に利用される永久磁石回転子として用いられる場合がある。保磁力が高い磁石は耐熱性が高いという利点を有する。
【0003】
永久磁石回転子に搭載される永久磁石を多極着磁する方法として、例えばコイル通電方式の着磁装置を用いた方法が挙げられる。この着磁装置には、被着磁物である回転子を挿入・抜出可能な穴部が着磁ヨークの中心に設けられ、その穴部の内壁面に軸方向に延びる溝が着磁の極数に応じて形成されている。さらにその溝内には、絶縁性被膜を施した導線が埋設されており、隣り合う導線がつづら折れ状に連続してコイルを形成している。
このような穴部に被着磁物を挿入し、コンデンサに蓄えた電荷を瞬時に放出することでコイルにパルス電流を流し、そのパルス電流によって着磁ヨークに発生した着磁磁場により、回転子に搭載された磁石の着磁を行うことができる。
【0004】
しかしながら、保磁力が高い磁石を着磁するには高い着磁磁場が必要となるため、着磁装置(着磁ヨーク)は大型化し、または着磁のために高い電力が必要になるというデメリットが生じていた。例えば結晶粒径が小さく保磁力が高い磁石は、例えば特許文献1に記載のような方法によって、複数回にわたって着磁することで完全着磁を達成できる可能性もあるが、高い電力が必要となり、また、着磁するために長時間が必要となる。
【0005】
そして、着磁が不十分になってしまうと、特に希土類磁石においては温度上昇時に不可逆減磁が発生しやすい。
そこで、保磁力が高い磁石であっても飽和着磁するための方法として、被着磁物を高温に加熱し、飽和着磁に要する着磁磁場を減少させて着磁する方法が提案されている。
【0006】
例えば特許文献2には、永久磁石と強磁性材料よりなる継鉄とを備えた磁石部品の着磁において、当該永久磁石をこれに接するように設置された磁極片と、この磁極片に巻かれた着磁コイルとによって着磁する着磁装置であって、磁極片あるいは継鉄に交流磁束を流してこれらを誘導加熱する手段を備えるとともに、磁極片あるいは継鉄及び永久磁石を流体によって冷却する手段を備えたことを特徴とする永久磁石の着磁装置が記載されている。そして、このような着磁装置は着磁器に誘導加熱用コイルと流体を用いた冷却手段とを備えることによって、永久磁石部品の短時間での加熱と冷却とを行うことができ、これによって高温度での着磁を行うことにより、ネオジム系希土類磁石など保磁力のきわめて高い永久磁石を用いた部品の着磁が可能となるだけでなく、永久磁石部品を着磁器から取出した後の減磁についても、これを抑えることが出来ると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-63555号公報
【文献】特開平7-183124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の着磁装置では、永久磁石部品を流体によって冷却する際に、同時に着磁器も冷却してしまうため、次に別の永久磁石部品を着磁する際に、着磁器内を加熱するか、または、着磁器に挿入することで永久磁石部品の温度が低下することを考慮して、予め必要以上に着磁前の永久磁石部品を加熱するか、もしくは着磁磁場を高める必要が生じる。このように着磁器または永久磁石部品を加熱する場合、加熱に時間およびエネルギーがかかってしまう。
【0009】
このように永久磁石部品を加熱した後に着磁する場合、加熱や着磁に必要なエネルギーは、より低いことが好ましい。また、それらは、より短時間に行われることが好ましい。
【0010】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明の目的は、より短時間に、より低エネルギーで加熱および着磁を行うことができる、永久磁石の製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は下記(1)~(6)である。
(1)鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心に着磁前磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造方法であって、
前記永久磁石回転子を加熱して加熱後回転子を得る加熱工程と、
前記加熱後回転子に含まれる加熱後永久磁石を着磁して、着磁後永久磁石を含む着磁後回転子を得る着磁工程と、
前記着磁後回転子を軟磁性材からなる経路内を通過させる後処理工程と、
を備える永久磁石回転子の製造方法。
(2)前記後処理工程において、前記経路内にて前記着磁後回転子を冷却する、上記(1)に記載の永久磁石回転子の製造方法。
(3)鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心に着磁前磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造装置であって、
前記永久磁石回転子を加熱して加熱後回転子を得る加熱部と、
前記加熱後回転子に含まれる加熱後永久磁石を着磁して、着磁後永久磁石を含む着磁後回転子を得る着磁部と、
前記着磁後回転子を通過させることができる軟磁性材からなる経路内を備える後処理部と、
を有する永久磁石回転子の製造装置。
(4)前記後処理部が備える前記経路内において、前記着磁後回転子を冷却することができる、上記(3)に記載の永久磁石回転子の製造装置。
(5)前記経路の外側または前記経路を構成する部材の中に冷却管があり、前記冷却管の内部に冷却媒が流れている、上記(3)または(4)に記載の永久磁石の製造装置。
(6)前記着磁後回転子を前記着磁部から前記後処理部へ搬送するための搬送経路を有し、前記搬送経路内において前記着磁後回転子を前記着磁部から前記後処理部へ移動させることできる、上記(3)~(5)のいずれかに記載の永久磁石の製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より短時間に、より低エネルギーで加熱および着磁を行うことができる、永久磁石の製造方法および製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】永久磁石回転子の概略斜視図である。
図2】永久磁石回転子を形成するために用い得る電磁鋼板を例示した概略斜視図である。
図3】永久磁石回転子(完成図)の概略斜視図である。
図4】チャッキング治具の具体例を示す概略斜視図である。
図5】治具付き加熱前回転子の具体例を示す概略横断面図である。
図6】加熱部の具体例を示す概略横断面である。
図7】着磁前磁石の温度と、有効磁界と、着磁率との関係の具体例を示す図である。
図8】完全着磁が得られる温度と磁界との関係Xの具体例を示す図である。
図9】Tbを求めるための概念図である。
図10】減磁曲線の例示である。
図11】着磁部の具体例を示す概略横断面である。
図12】後処理部の具体例を示す概略横断面である。
図13】後処理部の別の具体例を示す概略横断面である。
図14】加熱部、着磁部、後処理部の具体例を示す概略横断面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について説明する。
本発明は、鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心に着磁前磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造方法であって、前記永久磁石回転子を加熱して加熱後回転子を得る加熱工程と、前記加熱後回転子に含まれる加熱後永久磁石を着磁して、着磁後永久磁石を含む着磁後回転子を得る着磁工程と、前記着磁後回転子を軟磁性材からなる経路内を通過させる後処理工程と、を備える永久磁石回転子の製造方法である。
このような永久磁石回転子の製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0015】
また、本発明は、鉄心の中央に回転軸を有し、前記鉄心に着磁前磁石を備える永久磁石回転子を加熱した後、着磁する、永久磁石回転子の製造装置であって、前記永久磁石回転子を加熱して加熱後回転子を得る加熱部と、前記加熱後回転子に含まれる加熱後永久磁石を着磁して、着磁後永久磁石を含む着磁後回転子を得る着磁部と、前記着磁後回転子を通過させることができる軟磁性材からなる経路内を備える後処理部と、を有する永久磁石回転子の製造装置である。
このような永久磁石回転子の製造装置を、以下では「本発明の製造装置」ともいう。
【0016】
以下において、単に「本発明」と記した場合、本発明の製造方法および本発明の製造装置の両方を意味するものとする。
【0017】
<永久磁石回転子>
初めに、本発明において加熱および着磁の対象となる永久磁石回転子について、図を用いて説明する。
本発明において加熱および着磁の対象となる永久磁石回転子1(以下では「回転子1」ともいう)は、例えば図1に示すように、鉄心10の中央に回転軸12を有し、鉄心10における回転軸12の外周側にスロット14を有し、さらにスロット14内に着磁前磁石3を備える。
本発明における永久磁石回転子は、図1に示すようにスロットを有する態様であってもよいし、スロットを有さない態様であってもよい。
【0018】
鉄心10の中央には回転軸12を貫通させるための孔11が形成されており、この孔11に貫通された回転軸12は鉄心10に固定されている。
【0019】
鉄心10は、例えば図2に示すように、所定の形状(円形等)に打ち抜かれた電磁鋼板5を複数積層し、各々の主面を固着して形成することができる。電磁鋼板5は、例えば厚さが350μm程度のものを用いることができる。
鉄心10は電磁鋼板5の他、例えば軟磁性板材を複数積層し、各々の主面を固着して形成することもできる。
【0020】
鉄心10は、中心軸12の外周側において周方向に略等間隔で極数分、設けられたスロット14を有している。図1に例示する鉄心は4つのスロット14を有している。
スロット14は着磁前磁石3を挿入するための孔であり、回転軸12の軸方向に平行な方向が深さ方向となるように形成されている。
【0021】
そして、スロット14の各々の中に、着磁前磁石3が挿入される。図1に例示する態様の場合、4つの着磁前磁石3が、4つのスロット14の各々の内部へ配置される。
スロット14内に着磁前磁石3を挿入した後、図3に示すように、回転軸12に平行な方向における鉄心10の少なくとも一方の面(図3においては鉄心10の両端面)に、着磁前磁石3が回転軸12と平行な方向へ抜けてしまうことを防止するための端板16が取り付けられる。
【0022】
着磁前磁石3の厚さは、スロット14の幅より小さくなければならないが、小さすぎてもいけない。着磁前磁石3とスロット14の加工精度を考慮して適切に定めなければならない。
着磁前磁石3として着磁前のダイドー電子株式会社製PLP焼結磁石やMQ3熱間圧延磁石等のネオジム磁石を用いることができる。
【0023】
また、着磁前磁石3は、平均結晶粒径が0.1~3.5μm(好ましくは0.3~3.0μm)の微細結晶粒からなるネオジム磁石であってよい。
このような平均結晶粒径が小さい磁石は保磁力が高く耐熱性が高いという利点がある。しかし、平均結晶粒径が小さくなるほど完全着磁を達成するための磁界は高くなる。また、磁石温度が高いほど、完全着磁を達成するための低くなる。
【0024】
本発明では、上記のような永久磁石回転子をチャッキング治具によって保持して、後述する加熱および/または着磁に供してもよい。
チャッキング治具は回転軸の両端部を保持する治具であり、チャッキング治具によって回転軸の両端部を保持すると、チャッキング治具および永久磁石回転子は全体として棒状をなす。本発明では、永久磁石回転子における回転軸をチャッキング治具によって保持してなる棒状のものであって加熱前のものを、治具付き加熱前回転子ともいう。
【0025】
なお、本発明において、回転軸の両端部とは、回転軸における鉄心内に含まれていない部分を指すものとする。
【0026】
また、チャッキング治具における少なくとも回転軸の両端部と接する部分は、断熱材からなることが好ましい。この場合、回転子からチャッキング治具への熱伝導は生じ難いので、治具付き加熱前回転子を加熱した場合に着磁前磁石の昇温が効率的に行われる。回転子からチャッキング治具へ熱電導が生じやすい場合、治具付き加熱前回転子を加熱しても、そのエネルギーが着磁前磁石の昇温に利用され難くなり、効率が悪くなってしまう。
チャッキング治具における少なくとも回転軸の両端部と接する部分に用いられる断熱材として、例えばTCボード(不飽和ポリエステル樹脂)、PEEK材(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)、ガラエポ(150℃)が挙げられる。
【0027】
チャッキング治具および棒状の治具付き加熱前回転子について、図4および図5に具体例を示して説明する。
図4は、チャッキング治具の具体例(概略斜視図)を示しており、図5は、図4に示したチャッキング治具を回転子1に装着した状態、すなわち、治具付き加熱前回転子の具体例(概略横断面図)を示している。
【0028】
図4においてチャッキング治具20は断熱材からなる円筒状の部材であり、その断面直径(外径)は、鉄心10の外径とほぼ同じとなるように調整されている。また、チャッキング治具20の一方の端面21に回転子1の回転軸12を保持するための孔22を有する。
孔22の断面直径は、回転軸12の断面直径とほぼ同一となるように形成されている。チャッキング治具20における孔22が形成されている部分が弾性を有する場合は、孔22の断面直径が回転軸12の断面直径よりも若干小さく形成されていてもよく、この場合、チャッキング治具20によって回転軸12の両端部を強固に保持することができる。
【0029】
このようなチャッキング治具20を2つ用意し、各々が有する孔22へ回転軸12を挿入することで回転軸12を保持して、図5に示すような棒状の治具付き加熱前回転子25を得ることができる。
【0030】
<加熱部、加熱工程>
本発明では、上記のような永久磁石回転子(または治具付き加熱前回転子)を加熱部の内部に配置して加熱する。
加熱部は、その内部に永久磁石回転子(または治具付き加熱前回転子)を加熱することができる態様のものであればよい。
【0031】
加熱部について、図6に具体例を示して説明する。図6は治具付き加熱前回転子25を加熱する加熱部の具体例を示す概略横断面である。
図6において加熱部30は、その内部に治具付き加熱前回転子25を、その回転軸12を水平に配置した状態において加熱することができる。
【0032】
ここで加熱部30は、治具付き加熱前回転子25の一方端部27から挿入孔32へ挿入した後、回転軸12が水平となるように保持した状態で治具付き加熱前回転子25を加熱した後、排出孔34から、治具付き加熱前回転子25の一方端部27が先行するように、これを排出することができる。
具体的には、例えば、加熱部30がトンネルのような経路を有し、その経路内において治具付き加熱前回転子25は搬送され、その経路の途中で治具付き加熱前回転子25は加熱され、その後は、さらに経路内を搬送されて、加熱部30の排出孔34から排出される態様であることが好ましい。
ここで治具付き加熱前回転子25が加熱部30によって加熱され、排出孔34から排出されたものが、治具付き加熱後回転子35である。
このような態様であると、回転子1が有する回転軸12の方向と、回転子1を加熱する際の搬送方向とが一致しているために、加熱時の搬送効率を高めることができる。
【0033】
本発明では、上記のような回転子(または治具付き加熱前回転子)を、完全着磁が得られる特定温度(Ta℃)以上、かつ、不可逆減磁を起こす特定温度(Tb℃)以下の範囲で加熱することが好ましい。
【0034】
ここで特定温度(Ta℃)は、次のようにして求めることができる。
初めに、着磁前磁石において完全着磁が得られる温度と有効磁界との関係Xを得る。
このような関係Xを得る方法について、具体例を挙げて説明する。
永久磁石回転子のスロットに挿入する永久磁石と同一生産ロットから取り出した永久磁石を磁気特性測定装置によって定められたサイズ、例えば7mm立方体、に加工する。
次に、例えば日本電磁測器株式会社製パルスBH測定装置(PBH-1000)等を用いて室温(23℃)における各種の最大測定磁界(例えば、最大測定磁界が0.5T、1T、2T、5T、8T)に対する磁化-磁界曲線(J-H曲線)を取得する。各々の最大測定磁界に対するJ-H曲線からB-H曲線が得られる(B=J+μ0H)。このB-H曲線の第2象限部分(いわゆる減磁曲線)と横軸(磁界軸)との交点から保磁力bcを求めることができる。最大磁界5T以上におけるbcを(bcmaxとしたときに、各最大測定磁界におけるbcを(bcmaxで除した値(=bc/(bc)max)を室温でのその最大測定磁界における着磁率と定義する。
室温に引き続き、測定温度を例えば70℃、100℃、150℃といった高温において同様の測定を行い、各温度におけるそれぞれの最大測定磁界における着磁率を求める。
なお、上記において「磁界」は磁石中を有効に横切るいわゆる「有効磁界」とする。
【0035】
このようにして、着磁前磁石の温度と、有効磁界と、着磁率との関係を求めると、例えば図7(a)が得られる。なお、図7(b)は図7(a)の一部拡大図である。
そして、完全着磁(着磁率が0.98以上とする)が得られる着磁前磁石の温度と有効磁界との値を図7(b)から読み取る。具体的には図7(b)において、着磁前磁石の温度が150℃、100℃、70℃、R.T.である場合に完全着磁となることを意味する点であるP1、P2、P3、P4における有効磁界を読み取る。そして、これらの値から図8を作成する。図8は着磁前磁石において完全着磁が得られる温度と有効磁界との関係Xを示す図である。関係Xを式で表すことができる場合もある。
そして、加熱後に着磁する際の磁界(有効磁界(kOe))を決めれば、それを用いて関係Xから完全着磁が得られる温度を求めることができる。
この完全着磁が得られる温度が特定温度(Ta℃)であり、着磁前磁石がこの温度(特定温度(Ta℃))以上となるように、回転子(または治具付き加熱前回転子)を加熱することが好ましい。
【0036】
加熱工程では、回転子について、上記のような特定温度(Ta℃)であって、かつ、不可逆減磁を起こす特定温度(Tb℃)以下の範囲で加熱することが好ましい。
【0037】
ここで特定温度(Tb℃)は、関係Xを求める際に測定したスロットに装填する永久磁石と同一生産ロットの製品から切りだした永久磁石のJH曲線(磁化曲線)から求めたBH曲線の第2象限(減磁曲線)上の折れ曲がり点(クニック点)を回転子中の永久磁石の動作線(Pc線)が横切る温度を求めることにより決定することができる。すなわち、特定温度(Tb℃)は、B-H曲線の第2象限において、動作点が屈曲点よりも下に来ない温度を意味する。したがって、パーミアンス係数が大きいほど特定温度(Tb℃)は高くなる。
図9にTbを求める概念図を、図10に実際の永久磁石のJH曲線、BH曲線の減磁曲線の例を示すが、あるPcの場合にはTbが160℃であることがわかる。
【0038】
このように本発明における着磁工程では、前記回転子を、完全着磁が得られる特定温度(Ta℃)以上、かつ、不可逆減磁を起こす特定温度(Tb℃)以下の範囲で加熱して、加熱後永久磁石を得る。
【0039】
上記のような加熱工程は、永久磁石回転子の組立工程における一般的な焼き嵌め工程や樹脂封入工程で必要とされる加熱工程を兼ねることが好ましい。
【0040】
<着磁部、着磁工程>
本発明では、上記のようにして加熱して得られた加熱後回転子(または治具付き加熱後回転子)を着磁する。
【0041】
このような着磁部および着磁方法について、図11を用いて説明する。図11は治具付き加熱後回転子を着磁する着磁部の具体例を示す概略横断面である。
図11において着磁部40は、装置軸の方向が水平となるように配置されている。
そして、例えば、着磁部40の着磁ヨーク44がトンネルのような経路を有し、治具付き加熱後回転子35を、その一方端部37から挿入孔43へ装入した後、回転軸12が水平となるように保持し、さらに、治具付き加熱後回転子35を回転軸12の両端部と接する部分が少なくとも断熱材からなる固定治具によって特定位置に固定した状態で着磁する。そして、着磁した後、排出孔46から一方端部37が先行するように排出することができる。
ここで治具付き加熱後回転子35が着磁部40によって着磁され、排出孔46から排出されたものが、治具付き着磁後回転子48である。
【0042】
また、治具付き加熱後回転子35は、チャッキング治具20とは異なる別の治具(固定治具)によって所定の位置に固定されてもよく、チャッキング治具20そのものを固定治具として用いることもできる。この場合、チャッキング治具20を所望の位置に固定することで、治具付き加熱後回転子35を所望の位置に固定することもできる。
【0043】
このような態様であると、回転子1が有する回転軸12の方向と、回転子1を加熱する際の搬送方向(図の水平方向)とが一致しているために、加熱のみならず、着磁時の搬送効率も高めることができる。
【0044】
さらに図11に示す態様の場合、加熱部30の内部において治具付き加熱前回転子25を搬送する経路と、着磁部40の内部において治具付き加熱後回転子35を搬送する経路とが繋がっていて、1本の直線的な経路となっているので、搬送効率を極めて高くすることができる。
ここで加熱部30中における治具付き加熱前回転子25の滞留時間と、着磁部40中における治具付き加熱後回転子35の滞留時間をほぼ同一とすると、搬送効率がより高まり好ましい。
【0045】
<後処理部、後処理工程>
上記のようにして得た着磁後回転子(または、治具付き着磁後回転子)を、後処理部が備える軟磁性材からなる経路内を通過させる。後処理部は着磁部とは異なる部位である。
【0046】
従来、加熱後の磁石を着磁部にて着磁した後、減磁を防止するために着磁部の内部で冷却していた。
しかし、この場合、冷却に時間がかかる。着磁部内の温度が低下するので、次に使用する際に着磁器内を加熱するか、または、着磁器に挿入することで加熱後回転子(または治具付き加熱後回転子)の温度が低下することを考慮して、予め必要以上に加熱後回転子の温度を高めるか、もしくは着磁磁場を高める必要があった。この場合、これらの加熱に時間がかかってしまうため、工程時間ロスおよびエネルギーロスが発生していた。
そこで、本発明では、着磁部にて着磁した着磁後の磁石(着磁後回転子)を冷却させずに後処理部へ移動させる。この場合、着磁部を次の磁石の着磁のために利用することができる。また、着磁後の磁石を後処理部にて冷却することができるので、冷却時間が短くなり、かつ、着磁部内の温度が低下し難いので、次に使用する際に着磁部内を再加熱しなくてよいか、または、再加熱するとしても微量でよく、もしくは予め必要以上に加熱後回転子の温度を高める必要がない。したがって、工程時間ロスおよびエネルギーロスが発生し難い。
【0047】
本発明において、着磁後回転子(または治具付き着磁後回転子)を通過させる経路は軟磁性材からなるので、着磁後永久磁石は減磁し難い。
ここで軟磁性材は比透磁率が1.0以上のものであり、10以上のものであることが好ましい。
このような軟磁性材として鉄材が挙げられる。
【0048】
後処理部が備える軟磁性材からなる経路の内面と、その中を通過させる着磁後回転子(または治具付き着磁後回転子)との隙間は、できるだけ小さいことが好ましく、具体的には隙間は1mm以下であることが好ましく、0.75mm以下であることがより好ましい。この隙間が小さいほど、より減磁し難くなるからである。
【0049】
なお、経路の内面とその中を通過させる着磁後回転子との隙間とは、着後回転子の通過方向に垂直な断面における、経路の内面と着磁後回転子との距離の平均値を意味するものとする。
【0050】
後処理部が備える軟磁性材からなる経路の全長は特に限定されないが、例えば50~200mmであってよい。
【0051】
また、経路の外側または経路を構成する部材の中に冷却管があり、冷却管の内部に冷却媒が流れていることが好ましい。
例えば図12は経路52の外側に冷却管54が巻かれている状態を示す概略断面図であり、図13は経路52を構成する部材の中に冷却管54が螺旋状に存在している状態を示す概略断面図である。
そして、その冷却管内に冷却媒が流れていることが好ましい。この場合、経路の中の着磁後回転子(または治具付き着磁後回転子)を効率よく冷却することができる。
冷却媒として、例えば、水、油、空気が挙げられる。
【0052】
ここで後処理部が備える経路52には、図12図13に示すように、その内部へ治具付き着磁後回転子48を挿入するための挿入孔56と、冷却後にそれを内部から外部へ排出する排出孔58が形成されていることが好ましい。この場合、治具付き着磁後回転子48の一方端部(チャッキング治具の端面)49から挿入孔56へ挿入し、これを水平方向へ移動させることで冷却し、その後、排出孔58から、その一方端部49が先行するように排出することができる。
【0053】
図12および図13に例示した態様の後処理部が、図11に例示した態様の着磁部および加熱部と繋がっていることが好ましい。このような態様を図14に例示する。
図14に示す態様の場合、加熱部30の内部において治具付き加熱前回転子25を搬送する経路と、着磁部40の内部において治具付き加熱後回転子35を搬送する経路と、後処理部50において治具付き着磁後回転子48を搬送する経路とが繋がっていて、1本の直線的な経路となっているので、搬送効率を極めて高くすることができる。
【0054】
図14に例示した態様において、着磁部40と後処理部50とが断熱材60を介して繋がっていると、着磁部40から後処理部50への伝熱が少ないため、後処理部50における経路52を短くしても回転子を冷却することができる。
一方、着磁部40と後処理部50との間に断熱材を配置しない場合、着磁部40から後処理部50へ伝熱が生じるため、後処理部50によって着磁部40を冷却することができる。ただし、この場合、相対的には回転子を冷却し難くなるため、後処理部50における経路52を相対的に長くすることが必要となる。
【符号の説明】
【0055】
1 回転子
3 着磁前磁石
5 電磁鋼板
10 鉄心
11 孔
12 回転軸
14 スロット
16 端板
20 チャッキング治具
22 孔
25 治具付き加熱前回転子
27 治具付き加熱前回転子の一方端部
30 加熱部
32 挿入孔
34 排出孔
35 治具付き加熱後回転子
37 治具付き加熱後回転子の一方端部
40 着磁部
43 挿入孔
44 着磁ヨーク
46 排出孔
48 治具付き着磁後回転子
49 治具付き着磁後回転子の一方端部
50 後処理部
52 経路
54 冷却管
56 挿入孔
58 排出孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14