(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】車両の車外保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/36 20110101AFI20230907BHJP
【FI】
B60R21/36 320
B60R21/36 353
(21)【出願番号】P 2019239817
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【氏名又は名称】松川 直宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【氏名又は名称】河村 育郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-166548(JP,A)
【文献】特開平05-262193(JP,A)
【文献】特開2019-209923(JP,A)
【文献】特開2003-063334(JP,A)
【文献】特開2009-190606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体の外面に重ねて展開される袋体、および前記袋体を展開するインフレータ、を有する車外エアバッグ装置と、
前記車体と他の動体との接触を予測または検出する衝突検出部と、
前記衝突検出部により接触が予測または検出された場合に前記車外エアバッグ装置を展開する制御部と、
展開した状態において前記袋体の外面に複数の凸部を離散的に形成するように前記袋体の外面に設けられる凸形成部材と、
を有
し、
前記凸形成部材は、
展開した状態の前記袋体において、前記袋体の外面に付着する付着部と、前記袋体の外面から剥離して前記付着部から突出する突出部と、を有する、
車両の車外保護装置。
【請求項2】
前記突出部は、前記付着部から、前記車両の中央へ向けてまたは前へ向けて突出する、
請求項1記載の、車両の車外保護装置。
【請求項3】
車両の車体の外面に重ねて展開される袋体、および前記袋体を展開するインフレータ、を有する車外エアバッグ装置と、
前記車体と他の動体との接触を予測または検出する衝突検出部と、
前記衝突検出部により接触が予測または検出された場合に前記車外エアバッグ装置を展開する制御部と、
展開した状態において前記袋体の外面に複数の凸部を離散的に形成するように前記袋体の外面に設けられる凸形成部材と、
を有し、
前記凸形成部材は、
展開前の前記袋体の外面においてコート剤を塗布して硬化させてなるコート層により形成され、
前記袋体の展開に伴う前記袋体の変形または熱により、前記袋体の外面に硬化していた前記コート層が前記袋体の表面に付着したまま割れて、展開した状態の前記袋体の外面に離散的に付着する複数の凸部を形成する、
車両の車外保護装置。
【請求項4】
前記コート層は、
展開した状態の前記袋体の外面において形成される付着部と、
前記付着部と連続した表面のコート層を形成して、前記付着部と比べて前記袋体の外面から剥がれ易い剥離部と、を有する、
請求項
3記載の、車両の車外保護装置。
【請求項5】
前記コート層は、
前記袋体の外面の少なくとも一部において連続する表面に形成され、
連続する表面の前記コート層は、脆弱部を有する、
請求項
3または4記載の、車両の車外保護装置。
【請求項6】
前記コート層は、前記袋体の外面の少なくとも一部において連続した面状に形成され、
連続
した面状の前記コート層は、
熱硬化性の樹脂材料と、熱可塑性の樹脂材料とを組み合わせて、前記袋体の外面の少なくとも一部において連続した面状に形成される、
請求項
3から5
のいずれか一項記載の、車両の車外保護装置。
【請求項7】
前記コート剤は、樹脂系のコート剤である、
請求項
3から6のいずれか一項記載の、車両の車外保護装置。
【請求項8】
前記車外エアバッグ装置は、前記車両の前部に設けられ、
前記袋体は、前記車両の前部から後方へ展開する、
請求項
1から7のいずれか一項記載の、車両の車外保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車外保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車外の道路などには、他の移動体、歩行者、サイクリスト、ライダー、などがいる。車両は、自ら走行中に、または駐停車中に、これら車外の人などと衝突する可能性がある。このため、車両では、車外保護装置を設けることが考えられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両では、特許文献1のようにボンネットフードを可動させるのではなく、たとえばボンネットフードの上やフロントガラスやその左右両側部のピラーの前に、車外の人のためのエアバッグを展開することが考えられる。このような車外エアバッグ装置を用いることにより、車外の人についての車体への直接的な衝突を回避することができる。
しかしながら、車外の人についての保護は、これにより十分であるとは必ずしも言えない可能性がある。
【0005】
車両の車外保護装置では、車外の人についての保護について、さらなる改善を図ることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施の一形態に係る車両の車外保護装置は、車両の車体の外面に重ねて展開される袋体、および前記袋体を展開するインフレータ、を有する車外エアバッグ装置と、前記車体と他の動体との接触を予測または検出する衝突検出部と、前記衝突検出部により接触が予測または検出された場合に前記車外エアバッグ装置を展開する制御部と、展開した状態において前記袋体の外面に複数の凸部を離散的に形成するように前記袋体の外面に設けられる凸形成部材と、を有し、前記凸形成部材は、展開した状態の前記袋体において、前記袋体の外面に付着する付着部と、前記袋体の外面から剥離して前記付着部から突出する突出部と、を有する。
【0008】
好適には、前記突出部は、前記付着部から、前記車両の中央へ向けてまたは前へ向けて突出する、とよい。
【0009】
本発明の実施の一形態に係る車両の車外保護装置は、車両の車体の外面に重ねて展開される袋体、および前記袋体を展開するインフレータ、を有する車外エアバッグ装置と、前記車体と他の動体との接触を予測または検出する衝突検出部と、前記衝突検出部により接触が予測または検出された場合に前記車外エアバッグ装置を展開する制御部と、展開した状態において前記袋体の外面に複数の凸部を離散的に形成するように前記袋体の外面に設けられる凸形成部材と、を有し、前記凸形成部材は、展開前の前記袋体の外面においてコート剤を塗布して硬化させてなるコート層により形成され、前記袋体の展開に伴う前記袋体の変形または熱により、前記袋体の外面に硬化していた前記コート層が前記袋体の表面に付着したまま割れて、展開した状態の前記袋体の外面に離散的に付着する複数の凸部を形成する。
【0010】
好適には、前記コート層は、展開した状態の前記袋体の外面において形成される付着部と、前記付着部と連続した表面のコート層を形成して、前記付着部と比べて前記袋体の外面から剥がれ易い剥離部と、を有する、とよい。
【0011】
好適には、前記コート層は、前記袋体の外面の少なくとも一部において連続する表面に形成され、連続する表面の前記コート層は、脆弱部を有する、とよい。
【0012】
好適には、前記コート層は、前記袋体の外面の少なくとも一部において連続した面状に形成され、連続した面状の前記コート層は、熱硬化性の樹脂材料と、熱可塑性の樹脂材料とを組み合わせて、前記袋体の外面の少なくとも一部において連続した面状に形成される、とよい。
【0013】
好適には、前記コート剤は、樹脂系のコート剤である、とよい。
【0014】
好適には、前記車外エアバッグ装置は、前記車両の前部に設けられ、前記袋体は、前記車両の前部から後方へ展開する、とよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、衝突検出部により接触が予測または検出された場合に車外エアバッグ装置を展開する。車外エアバッグ装置は、車両の車体の外面に重ねて袋体を展開する。これにより、車外エアバッグ装置は、車両の車体の外面に重ねて展開する袋体により、車外の人についての車体への直接的な衝突を回避することができる。
しかも、展開した状態において袋体の外面には、袋体の外面に設けられる凸形成部材により、複数の凸部が離散的に形成される。これにより、展開した袋体に対して当たる車外の人は、たとえば袋体そのものの外面が滑りやすいものであったとしても、凸形成部材による複数の凸部に引っかかるようになる。展開した袋体に対して倒れ込んだ車外の人の身体は、展開した後の袋体の上から落ち難くなる。仮にたとえば袋体がその良好な展開性能などを確保するために表面摩擦が高くないナイロンその他の樹脂繊維により形成されていたとしても、車外の人は、その袋体の上から落ち難くなる。これにより、展開した袋体により車体への直接的な衝突を回避させた車外の人が、展開した袋体の位置から移動してしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車の説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の自動車の車外保護装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2の制御部による車外保護制御のフローチャートである。
【
図4】
図4は、第一の自動車に衝突した車外の歩行者、サイクリストなどについて想定し得る二次衝突の説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の第一実施形態に係る車外エアバッグ装置の説明図である。
【
図6】
図6は、
図5の車外エアバッグ装置の袋体を展開した状態の説明図である。
【
図7】
図7は、第一実施形態に係る車外エアバッグ装置による、車外の人の保護状態の説明図である。
【
図8】
図8は、第二実施形態に係る車外エアバッグ装置の袋体の説明図である。
【
図9】
図9は、第二実施形態の変形例に係る車外エアバッグ装置の袋体の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0018】
[第一実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る自動車1の説明図である。
図1(A)は、自動車1の上面図である。
図1(B)は、自動車1の左側面図である。
図1には、自動車1とともに、自動車1の外にいる車外の人として歩行者が図示されている。自動車1の外には、この他にもたとえばサイクリスト、ライダー、などが存在することがある。
【0019】
これらの車外の人は、走行する自動車1の前を横切るように横断したりすることがある。そして、自動車1は、その前を横切ろうとする人と衝突する可能性がある。
図1の自動車1は、車両の一例である。自動車1は、車体2、を有する。車体2の乗員室3の前には、フロントガラス4が設けられる。フロントガラス4より前の車体2の前部には、ボンネットフード5が開閉可能に設けられる。
【0020】
図2は、
図1の自動車1の車外保護装置10のブロック図である。
図2の車外保護装置10は、ステレオカメラ11、赤外線カメラ12、LiDAR13、加速度センサ14、通信装置15、GPS受信機16、車外エアバッグ装置17、および、これらが接続される制御部18、を有する。これら車外保護装置10の各センサおよび各装置は、不図示の車ネットワークにより、制御部18としてのCPUに接続されてよい。
【0021】
ステレオカメラ11は、たとえば
図1に示すように車室の前部において前向きに配置される。ステレオカメラ11は、車幅方向に並ぶ複数の撮像デバイスを有する。ステレオカメラ11は、複数の撮像デバイスにより撮像される車外の人などを撮像する。ステレオカメラ11は、撮像した車外の人についての車体2を基準とした方向および距離を演算してよい。ステレオカメラ11は、複数の撮像デバイスの撮像画像における被写体である車外の人の位置に基づいて、たとえば三角法などにより、被写体の方向および距離を演算してよい。ステレオカメラ11は、また、時間をずらして撮像した画像中での位置の変化により、被写体の移動の有無、移動方向、移動速度などを演算してよい。
赤外線カメラ12は、たとえばステレオカメラ11と同様に車室の前部において前向きに配置される。赤外線カメラ12は、車外の人などを撮像した赤外線画像を撮像する。
LiDAR13は、たとえば車体2の前部において前向きに配置される。LiDAR13は、前方へ向かって光を照射し、車体2の前方の車外の人による反射光に基づいて、被写体の方向、距離、速度などを取得する。
加速度センサ14は、車体2に設けられる。加速度センサ14に作用する加速度を検出する。車体2が人などの移動体に当たると、加速度センサ14は、通常の走行では生じないような大きな加速度を検出する。この場合、加速度センサ14は、衝突検出を出力してよい。この場合、加速度センサ14は、車体2と他の動体との接触を予測または検出する衝突検出部として機能する。
通信装置15は、無線通信により他の移動体、たとえば他の自動車1や歩行者の他の通信装置15、道路沿いに配置される基地局、などと通信する。通信装置15は、他の通信装置15から、他の移動体の現在位置、移動方向、移動速度などを取得してよい。
GPS受信機16は、GPS衛星などから電波を受信し、自車の現在位置、移動速度、などを取得する。
【0022】
車外エアバッグ装置17は、自動車1の車体2の外面に重ねて展開される袋体21、袋体21を展開するインフレータ20、を有する。袋体21は、たとえばナイロンその他の樹脂繊維により滑らかな表面に形成されてよい。袋体21は、たとえば
図1に示すように、車体2の前部のボンネットフード5の上に展開されてよい。この場合、ボンネットフード5の上に展開される袋体21は、車体2の前に当たる車外の人の上体が車体2の前部へ向かって倒れ込む場合、その上体とボンネットフード5との間で展開する。車体2に当たる車外の人の身体は、ボンネットフード5に直接に当たり難くなる。展開した袋体21が、車外の人の身体の荷重により撓みまたは縮小することにより、身体に対して強い衝撃が作用し難くなる。展開した袋体21は、車外の人に作用する衝撃を吸収することができる。
【0023】
制御部18は、たとえばCPUである。制御部18は、たとえば、車外エアバッグ装置17に専用のCPUとして自動車1に設けられても、自動車1の車内および車外の保護装置のCPUとして自動車1に設けられてもよい。CPUは、ROMなどのストレージからプログラムを読み込んで実行する。これにより、CPUは、少なくとも車外の人を保護するための車外エアバッグ装置17の制御部18として機能する。車外エアバッグ装置17の制御部18は、ステレオカメラ11、赤外線カメラ12、LiDAR13、加速度センサ14、通信装置15といった衝突検出部から、自動車1の進路上または進路へ侵入しようとする歩行者、サイクリスト、ライダーなどの情報を取得する。CPUは、取得した情報に基づいて車外の人との接触が予測または検出される場合、車外エアバッグ装置17の袋体21の展開を制御する。
【0024】
図3は、
図2の制御部18による車外保護制御のフローチャートである。
制御部18は、たとえば自動車1が走行している場合、
図3の車外保護制御を繰り返し実行する。制御部18は、新たに情報を取得する度に、
図3の車外保護制御を実行する。
【0025】
ステップST1において、制御部18は、新たに取得した車外の人の情報に基づいて、自車の進路に歩行者などがいるか否かを判断する。制御部18は、たとえば、検出されている車外の人の位置が進路上であるか否か、検出されている車外の人の移動方向が進路と交差するか否か、などに基づいて、自車の進路に歩行者などがいるか否かを判断してよい。自車の進路に歩行者などがいない場合、制御部18は、
図3の処理を終了する。自車の進路に歩行者などがいる場合、制御部18は、処理をステップST2へ進める。
【0026】
ステップST2において、制御部18は、自車の進路にいる歩行者などとの衝突を予測する。制御部18は、たとえば、歩行者の位置または交差位置へ自車が到達するタイミングと、歩行者が到達するタイミングとの時間差が所定値以下であるか否かに基づいて、自車の進路にいる歩行者などとの衝突を予測してよい。自車の進路にいる歩行者などとの衝突が予測されない場合、制御部18は、
図3の処理を終了する。自車の進路にいる歩行者などとの衝突が予測される場合、制御部18は、処理をステップST3へ進める。
【0027】
ステップST3において、制御部18は、自車の進路にいる歩行者などとの衝突に対する準備を開始する。制御部18は、たとえば、車外エアバッグ装置17を起動する。車外エアバッグ装置17は、たとえば、点火信号の入力によりインフレータ20が高圧ガスを噴出することができる状態にする。車外エアバッグ装置17は、たとえば袋体21の展開開始位置や展開開始方向が調整可能である場合、予測されている歩行者の衝突部位から袋体21が展開するように、袋体21の展展開開始位置や展開開始方向を調整する。
【0028】
ステップST4において、制御部18は、加速度センサ14の衝突検出の有無に基づいて、予測した歩行者などとの衝突を検出する。加速度センサ14により衝突が検出されている場合、制御部18は、処理をステップST5へ進める。加速度センサ14により衝突が検出されていない場合、制御部18は、処理をステップST6へ進める。
【0029】
ステップST5において、制御部18は、車外エアバッグを展開する。制御部18は、車外エアバッグ装置17へ点火信号を出力する。車外エアバッグ装置17のインフレータ20は、袋体21へ高圧ガスを噴出する。袋体21は、ボンネットフード5の上に展開される。
【0030】
ステップST6において、制御部18は、ステップST1の判断の後に新たに取得した情報に基づいて、衝突が回避されたか否かを判断する。制御部18は、たとえば、衝突を予測した車外の人の位置が進路から外れたか否か、検出されている車外の人の移動方向が変化して進路と交差しないようになったか否か、などに基づいて、衝突を予測した歩行者などについての衝突が回避されたか否かを判断してよい。衝突が回避されている場合、制御部18は、
図3の処理を終了する。衝突が回避されていない場合、制御部18は、処理をステップST4へ戻す。この場合、制御部18は、衝突が検出または回避されるまで、ステップST4とステップST6の処理を繰り返す。
【0031】
ところで、このような本実施形態の自動車1では、ボンネットフード5の上に、車外の人のためのエアバッグを展開することができる。このような車外エアバッグ装置17を用いることにより、車外の人についての車体2への直接的な衝突を回避することができる。
しかしながら、車外の人についての保護は、これにより十分であるとは必ずしも言えない可能性がある。
たとえば、展開した袋体21により車体2への直接的な衝突を回避させた後、その車外の人が、展開した袋体21の上から移動してボンネットフード5から落ちてしまう可能性が考えられる。車外の人が自動車1の横へ落ちた場合には、隣接する車線を走行する他の自動車1などに二次衝突してしまう可能性がある。
【0032】
図4は、第一の自動車30に衝突した車外の歩行者、サイクリストなどについて想定し得る二次衝突の説明図である。
図4には、車外の歩行者と、歩行者と衝突した第一の自動車30と、第一の自動車30の横を通過しようとしている第二の自動車31とが図示されている。
【0033】
第一の自動車30と衝突した歩行者は、当初は、ボンネットフード5の上に展開する袋体21の上に乗ると考えられる。その後、衝突した歩行者は、たとえば、袋体21の上を後へ向かって滑る可能性がある。この場合、衝突した歩行者は、フロントガラス4の前に展開されている他の袋体21に当たり、その位置において停止できる可能性がある。その一方で、衝突した歩行者は、直前の横切る方向への移動などにより、ボンネットフード5の上に展開する袋体21の上に乗った後に、斜め後方へ移動する可能性がある。この場合において、車幅方向への動きが大きい場合、衝突した歩行者は、ボンネットフード5の上から、第一の自動車30の横へ落下する可能性がある。第二の自動車31が、第一の自動車30の横を通過しようとしている場合、落下した歩行者はさらに第二の自動車31に当たる可能性がある。
このように、自動車1の車外保護装置10では、車外の人についての保護についてさらなる改善を図ることが望ましい。
【0034】
図5は、本発明の第一実施形態に係る車外エアバッグ装置17の説明図である。車外エアバッグ装置17は、
図5(A)の側面からの説明図にあるように、車体2の前部である前面上部に設けられ、ボンネットフード5の下に位置する。
図5において、車外エアバッグ装置17の袋体21は、ケースに収容された展開前の状態である。
【0035】
展開前の袋体21は、ケースに折り畳んで収容されている。ここで、袋体21は、
図5(B)の拡大図にあるように、一定幅毎に折り返して折り畳まれている。袋体21は、この他にも蛇腹状に折り畳まれても、ロール状に巻いて折り畳まれてもよい。また、袋体21は、これら複数種類の折り畳み方を組み合わせて、折り畳まれてもよい。
【0036】
また、折り畳まれている展開前の収容状態の袋体21の外面には、展開後に上面となる表面に、コート剤を塗布して硬化させてなるコート層22が形成される。コート剤は、袋体21の表面にシームのための塗布する伸縮性のあるゴム系のコート剤ではなく、硬化する樹脂系のコート剤でよい。また、樹脂系のコート剤には、袋体21の展開に伴って袋体21が折り畳まれた状態から展開した状態へ変形することにより、割れることができる程度の厚さ、硬度のものとするとよい。
【0037】
そして、コート層22の表面は、折り畳まれている袋体21の外面に沿って、滑らかな表面となるように形成されている。コート層22が滑らかな表面であることにより、袋体21を展開する際に、コート層22についての互いに折り重なっている部分同士が引っかかることが起き難くなる。コート層22は、袋体21の展開性を妨げないように形成されている。
【0038】
図6は、
図5の車外エアバッグ装置17の袋体21を展開した状態の説明図である。
図6において、袋体21は、最大に展開している。
車外エアバッグ装置17の袋体21は、
図6(A)の側面からの説明図にあるように、インフレータ20が発生する高温高圧のガスにより車体2の前面から展開を開始し、さらに車体2の前部から後方へ向かって展開してボンネットフード5の上に重なるように展開する。
【0039】
そして、展開した状態の袋体21の上面では、コート層22が袋体21の展開に伴う変形により部分的に割れて剥離して、複数の凸部23が離散的に形成される。
凸部23は、
図6(B)の部分拡大図にあるように、展開した状態の袋体21において、展開した状態の袋体21の外面に付着する付着部24と、展開した状態の袋体21の外面から剥離して付着部24から突出する突出部25と、を有する。ここで、突出部25は、付着部24から、自動車1の前へ向けて突出している。
【0040】
このように、展開前の袋体21の外面に硬化していたコート層22は、展開する袋体21の表面に付着したまま割れて、展開した状態の袋体21の外面に離散的に付着して複数の凸部23を形成する。コート層22は、展開した状態において袋体21の外面に複数の凸部23を形成するように袋体21の外面に設けられる凸形成部材として機能する。
【0041】
図7は、第一実施形態に係る車外エアバッグ装置17による、車外の人の保護状態の説明図である。
図7(A)は、衝突前の車外エアバッグ装置17の袋体21の展開状態である。袋体21は、車体2の前部から展開を開始して、ボンネットフード5の上に展開する。ボンネットフード5の上に展開した袋体21の上面には、凸形成部材による複数の凸部23が離散的に並べて設けられている。それぞれの凸部23は、展開している袋体21において、
図6の状態にある。
図7(B)は、衝突により車外の人が
図7(A)の袋体21の上に倒れ込んだ状態である。
図7(C)は、
図7(B)の衝突後の状態である。
【0042】
そして、
図7(A)において複数の凸部23は、袋体21の上面において突出している。歩行者などの車外の人は、
図7(B)に示すように、衝突により、このように複数の凸部23により凹凸な表面となっている展開した袋体21に対して倒れ込む。その後に、衝突した歩行者は、車体2の前への移動などにより、相対的に後方または斜め後方へ移動する可能性がある。しかしながら、袋体21へ倒れ込んだ車外の人の身体は、袋体21の表面に突出している複数の凸部23に引っかかるようになり、袋体21の上での移動が大きくなり難くなる。後方へ移動しようとしている車外の人には、身体に引っかかる凸部23により、車体2の前方または斜め前方へ引くような力が作用し得る。これにより、袋体21へ倒れ込んだ後の車外の人の身体は、ボンネットフード5の上から滑り落ちにくくなり、ボンネットフード5の上に留まり易くなる。
【0043】
以上のように、本実施形態では、衝突検出部により接触が予測または検出された場合に車外エアバッグ装置17を展開する。車外エアバッグ装置17は、自動車1の車体2の外面に重ねて袋体21を展開する。これにより、車外エアバッグ装置17は、自動車1の車体2の外面に重ねて展開する袋体21により、車外の人についての車体2への直接的な衝突を回避することができる。
しかも、展開した状態において袋体21の外面には、袋体21の外面に設けられる凸形成部材により、複数の凸部23が離散的に形成される。これにより、展開した袋体21に対して当たる車外の人は、たとえば袋体21そのものの外面が滑りやすいものであったとしても、凸形成部材による複数の凸部23に引っかかるようになる。車外エアバッグ装置17は、自動車1の前部に設けられ、袋体21が自動車1の前部から後方へ展開するので、複数の凸部23に引っかかった身体は、車体2とともに前へ移動することができる。展開した袋体21に対して倒れ込んだ車外の人の身体は、展開した後の袋体21の上から落ち難くなる。仮にたとえば袋体21がその良好な展開性能などを確保するために表面摩擦が高くないナイロンその他の樹脂繊維により形成されていたとしても、車外の人は、その袋体21の上から落ち難くなる。これにより、展開した袋体21により車体2への直接的な衝突を回避させた車外の人が、展開した袋体21の位置から移動してしまうことを抑制できる。
特に、本実施形態では、展開した状態において袋体21の外面に離散的な複数の凸部23を形成するように袋体21の外面に設けられる凸形成部材は、展開した状態の袋体21において、展開した状態の袋体21の外面に付着する付着部24と、展開した状態の袋体21の外面から剥離して付着部24から突出する突出部25と、を有し得る。また、突出部25は、付着部24から、自動車1の前へ向けて突出し得る。これにより、車外の人の身体は、展開した袋体21に対して倒れ込んだ後、袋体21の上をすべろうとしても、高い確実性で、凸形成部材による複数の凸部23に引っかかる。展開した袋体21の上で車外の人が大きく移動してしまうことを抑制できる。
【0044】
また、本実施形態において、凸形成部材は、展開前の袋体21の外面にコート剤を一面的に塗布して硬化させてなるコート層22が、袋体21の展開に伴う袋体21の変形または熱により、袋体21の表面に付着したまま割れることにより、展開した状態の袋体21の外面に離散的に付着する複数の凸部23を形成する。これにより、展開前の袋体21においてコート層22は、展開を阻害し難い滑らかな表面となり得るため、袋体21を展開して広げる際に、その展開性を妨げないようになる。これに対して、仮にたとえば展開前の袋体21の外面に、複数の凸部23を離散的に形成していた場合、展開前の折り畳んだ状態から袋体21が展開する際に、複数の凸部23同士が当たったり、引っかかったりし易くなる。この場合、袋体21の展開性が損なわれ、所望の短期間のうちに袋体21を所望の展開状態まで適切に展開することができなくなる可能性が生じる。本実施形態では、このような恐れはない。
【0045】
なお、本実施形態では、突出部25は、付着部24から、自動車1の前へ向けて突出している。この他にもたとえば、突出部25は、付着部24から、自動車1の中央へ向けて突出してもよい。この場合、展開した袋体21に対して倒れ込んだ車外の人の身体は、展開した後の袋体21の左右へ移動し難くなる。
【0046】
また、本実施形態では、コート層22は、展開前の袋体21の外面において一面的に形成されている。この他にもたとえば、コート層22は、展開前の袋体21の外面において複数のタイルを並べた状態に離散的に形成されてもよい。
【0047】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る自動車1の車外保護装置10について説明する。本実施形態では、上述した実施形態と同様の構成については同一の符号を使用して図示および説明を省略する。以下の説明では、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0048】
図8は、第二実施形態に係る車外エアバッグ装置17の袋体21の説明図である。
図8において、袋体21は、高圧ガスが注入されないまま広げられた状態にある。
【0049】
コート層22は、
図8(A)の上面図に示すように、袋体21についての上面に全面的に略四角形形状で形成される。コート層22は、袋体21の外面の少なくとも一部に形成されてよい。コート層22は、
図8(B)の側面図に示すように、略均一となる厚さに薄く形成され、その表面は滑らかな面となる。
【0050】
そして、このような略四角形面形状の薄いコート層22には、車体2の前後および左右の方向に沿って直線状に延在する複数の脆弱部26が形成される。コート層22についての脆弱部26が形成された部位は、他の部分より薄くなる。略四角形面形状の薄いコート層22は、展開により変形する袋体21の圧力などにより、複数の脆弱部26において、複数の略四角形のタイル状に割れやすくなる。
【0051】
これにより、展開した袋体21の表面には、
図6と同様に、複数の凸部23が形成される。凸部23は、付着部24と、付着部24から前へ突出する突出部25と、を有する。
【0052】
以上のように、本実施形態において、コート層22は、袋体21の外面の少なくとも一部において連続する滑らかな表面に形成される。そして、連続する表面のコート層22は、割れやすい脆弱部26を有する。袋体21が展開する場合、連続する表面のコート層22は、脆弱部26において割れやすくなる。袋体21の展開に伴う袋体21の変形または熱により、袋体21の外面に硬化していたコート層22が袋体21の表面に付着したまま割れて、展開した状態の袋体21の外面に離散的に付着する複数の凸部23が形成される。その結果、複数の凸部23は、脆弱部26のパターンにしたがって予め想定し得る状態で、展開した状態の袋体21の外面に離散的に形成され易くなる。
【0053】
なお、本実施形態では、連続する表面のコート層22に、割れやすい脆弱部26を設けることにより、脆弱部26のパターンにしたがってコート層22を割れやすくしている。この他にもたとえば、展開前の袋体21の折畳方をたとえば蛇腹状とすることにより、蛇腹の折目のパターンにしたがってコート層22を割れやすくしてもよい。さらに他にもたとえば、コート層22の厚みを、表面の滑らかな連続性を維持しながら変化させてもよい。
【0054】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る自動車1の車外保護装置10について説明する。本実施形態では、上述した実施形態と同様の構成については同一の符号を使用して図示および説明を省略する。以下の説明では、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0055】
図9は、第二実施形態の変形例に係る車外エアバッグ装置17の袋体21の説明図である。
【0056】
袋体21についての上面に全面的に略四角形形状で形成されるコート層22には、
図9の側面図に示すように、点火しても袋体21に付着して付着部24となる固定部27の樹脂材料と、剥離することにより突出部25となる剥離部28の樹脂材料と、が交互に用いられる。具体的には、固定部27は、展開した袋体21の熱によらずにその外面に付着し続けることができる熱硬化性の樹脂材料でよい。これに対し、剥離部28は、固定部27と比べて袋体21の外面から剥がれ易く、展開した袋体21の熱によりその外面から剥離される熱可塑性の樹脂材料でよい。そして、コート層22は、連続した表面となるように形成される。
【0057】
また、このような略四角形面形状の薄いコート層22には、車体2の前後および左右の方向に沿って直線状に延在する複数の脆弱部26が形成される。略四角形面形状の薄いコート層22は、展開により変形する袋体21の熱および圧力などにより、複数の脆弱部26において、複数の略四角形のタイル状に割れやすくなる。
【0058】
また、タイル状に割れることにより形成される各四角形の凸部23では、前側の剥離部28が袋体21から剥がれて、袋体21に付着する固定部27から前向きに突出する。
【0059】
これにより、展開した袋体21の表面には、
図6と同様に、複数の凸部23が形成される。凸部23は、袋体21に付着する付着部24と、付着部24から前へ突出する突出部25と、を有する。
【0060】
以上のように、本実施形態において、コート層22は、展開した状態の袋体21の外面において離散的に塗布して形成される付着部24と、付着部24と連続した表面のコート層22を形成するように塗布されて、付着部24と比べて袋体21の外面から剥がれ易い剥離部28と、を有する。この場合、展開した状態の袋体21の外面において、コート層22の中の付着部24が袋体21の外面に付着する一方で、剥離部28は、袋体21の外面から剥がれるようになる。剥がれた後の剥離部28は、付着部24から、自動車1の中央などへ向けて突出する突出部25として機能し得る。コート層22は、付着部24と剥離部28との塗布の組み合わせで想定し得る所望の割れ状態および剥がれ状態により、展開した状態の袋体21の外面に、付着部24と突出部25とを有する複数の凸部23を離散的に形成することが可能である。
特に、本実施形態では、連続した面状のコート層22は、割れやすい脆弱部26を有する。その結果、複数の凸部23は、脆弱部26のパターンにしたがって予め想定し得る状態で、展開した状態の袋体21の外面に離散的に形成され易くなる。
また、本実施形態では、連続した面状のコート層22は、熱硬化性の樹脂材料と、熱可塑性の樹脂材料とを組み合わせて、袋体21の外面の少なくとも一部において連続した面状に形成される。ここで、熱可塑性の樹脂材料の部分は、展開する際の袋体21の熱により袋体21から剥がれやすくなるため、剥離部28として機能する。これに対し、熱硬化性の樹脂材料の部分は、剥離部28と比べて、展開する際の袋体21の熱により袋体21から剥がれ難いので、展開した状態の袋体21の外面において離散的に塗布して形成される付着部24として機能する。その結果、複数の凸部23は、材料の塗布パターンにしたがって予め想定し得る状態で、展開した状態の袋体21の外面に離散的に形成され易くなる。
【0061】
なお、本実施形態では、基本的に、材料の組み合わせおよび塗布パターンにより、所望のパターンでコート層22を割れはがせるようにしている。しかも、本実施形態では、さらに、連続した面状のコート層22に、割れやすい脆弱部26を設けている。これらの相乗的な効果により、展開した状態の袋体21の外面には、コート剤を塗布する際に想定した状態で、離散的な複数の凸部23が形成され易い。
【0062】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…自動車(車両)、2…車体、3…乗員室、4…フロントガラス、5…ボンネットフード、10…車外保護装置、11…ステレオカメラ、12…赤外線カメラ、13…LiDAR、14…加速度センサ、15…通信装置、16…GPS受信機、17…車外エアバッグ装置、18…制御部、20…インフレータ、21…袋体、22…コート層、23…凸部、24…付着部、25…突出部、26…脆弱部、27…固定部、28…剥離部