(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】焼結機械部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 5/00 20060101AFI20230907BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20230907BHJP
【FI】
B22F5/00 Z
B22F3/00 A
(21)【出願番号】P 2021038442
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】306000315
【氏名又は名称】株式会社ダイヤメット
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀田 克哉
(72)【発明者】
【氏名】西川 綾
(72)【発明者】
【氏名】小黒 雅樹
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-092548(JP,A)
【文献】特開2013-082955(JP,A)
【文献】実開平1-025699(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/00,5/00
F27D 3/12
G01M 1/12,1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を成形してなる
水平面への投影面の形状が円形の径が大きく厚みが薄い円盤形状の成形品の下面に3つの突部を下向きに突出させて一体に形成する成形工程と、この成形工程で得られた成形品を焼結する焼結工程とを備え、3つの突部の中心点の位置をa、b、c
、成形品の水平面への投影面積を3Xとしたときに、成形工程において、
(1)aとbを通る直線abと、cを通り直線abと平行な直線cとで区切られる部分の面積がA、B、Cのとき、|X-A|+|X-B|+|X-C|=D
(2)aとcを通る直線acと、bを通り直線acと平行な直線bとで区切られる部分の面積がA’、B’、C’のとき、|X-A’|+|X-B’|+|X-C’|=E
(3)bとcを通る直線bcと、aを通り直線bcと平行な直線aとで区切られる部分の面積がA”、B”、C”のとき、|X-A”|+|X-B”|+|X-C”|=F
(4)D+E+F≦3X
の条件を満たす位置に3つの突部を形成することを特徴とする焼結機械部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結機械部品の製造方法に関し、特に焼結時における焼結機械部品の変形を抑えることのできる焼結機械部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属粉末の成形体を焼結することにより焼結機械部品を製造する方法において、金網の上に平面度の良好なセラミック板を載せ、その上に成形体を載せて焼結が実施されていた(特許文献1)。そうすることにより、焼結時に金網の反りに倣って焼結機械部品が変形することが抑制され、焼結機械部品の寸法のばらつきも抑えられていた。
【0003】
しかし、成形体を載せるセラミック板は、使用の度に表面が少しずつ摩耗し、平面度が悪化してしまうという問題があった。そして、スプロケットのような径が大きく厚みが薄い焼結機械部品の場合は、セラミック板の平面度の影響を受けやすく、平面度の悪化したセラミック板を使用して焼結した場合に、要求精度の厳しいギア部の寸法規格を満足することが困難であった。
【0004】
このような背景から、セラミック板の平面度の管理が重要となっていた。特に変形の影響が大きく要求精度の厳しい焼結機械部品の場合は、セラミック板の平面度管理の閾値も小さく設定する必要があり、所定の平面度を維持するために頻繁にセラミック板の表面を研磨するか、新しいセラミック板を準備する必要があった。また、セラミック板の平面度を管理するための平面度測定器を維持管理する必要もあり、管理工数も増えることから、莫大なコストアップが懸念されていた。
【0005】
一方で、金属粉末を成形した後、焼結して焼結機械部品を得る際に、焼結むらをなくすために、焼結する成形品の下面に3つ以上の突部を一体に成形することが知られている(特許文献2)。これによれば、焼結時に成形品の下面に隙間ができ、この隙間を焼結雰囲気ガスが通ることにより、むらなく焼結され、焼結機械部品の形状に歪が生じない。また、成形品の下面に隙間ができるため、径が小さく厚みのある焼結機械部品の場合は、セラミック板の平面度が高くても焼結機械部品の形状にその影響が及びにくい。
【0006】
しかしながら、スプロケットのような径が大きく厚みが薄い焼結機械部品の場合は、下面に形成する突部の位置によっては、成形品の自重によって大きな歪が生じてしまうという問題あった。したがって、成形品の下面において突部を形成する適切な位置を見つけるために試行錯誤が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-167585号公報
【文献】特開平4-358002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、スプロケットのような径が大きく厚みが薄い焼結機械部品の場合であっても、金属粉末の成形品の下面に突部を形成することにより焼結時における焼結機械部品の変形を抑えることのできる、焼結機械部品の製造方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の焼結機械部品の製造方法は、金属粉末を成形してなる水平面への投影面の形状が円形の径が大きく厚みが薄い円盤形状の成形品の下面に3つの突部を下向きに突出させて一体に形成する成形工程と、この成形工程で得られた成形品を焼結する焼結工程とを備え、3つの突部の中心点の位置をa、b、c、成形品の水平面への投影面積を3Xとしたときに、成形工程において、
(1)aとbを通る直線abと、cを通り直線abと平行な直線cとで区切られる部分の面積がA、B、Cのとき、|X-A|+|X-B|+|X-C|=D
(2)aとcを通る直線acと、bを通り直線acと平行な直線bとで区切られる部分の面積がA’、B’、C’のとき、|X-A’|+|X-B’|+|X-C’|=E
(3)bとcを通る直線bcと、aを通り直線bcと平行な直線aとで区切られる部分の面積がA”、B”、C”のとき、|X-A”|+|X-B”|+|X-C”|=F
(4)D+E+F≦3X
の条件を満たす位置に3つの突部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の焼結機械部品の製造方法によれば、スプロケットのような径が大きく厚みが薄い焼結機械部品の場合であっても、金属粉末の成形品の下面に突部を形成することにより焼結時における焼結機械部品の変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の焼結機械部品の製造方法における面積の求め方を示す説明図である。
【
図2】実施例において突部を設けた位置を示す説明図である。
【
図3】実施例の面積誤差計と平面度平均値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の焼結機械部品の製造方法は、スプロケットのような径が大きく厚みが薄い焼結機械部品を製造する際に、焼結時の変形を抑えるものである。そして、焼結時の変形を抑えるために、焼結時に成形品が載置されるセラミック板などの載置面に面する下面に3つの突部を設け、成形品の重量を3つの突部にバランスよく分散させ、3つの突部だけで成形品を支えるようにするものである。
【0013】
本発明の方法は、はじめの成形工程において、金属粉末を成形してなる円盤形状の成形品の下面に3つの突部を下向きに突出させて一体に形成する。このとき、3つの突部の中心点の位置をa、b、c、つぎの焼結工程における成形品の水平面への投影面積を3Xとしたときに、
(1)aとbを通る直線abと、cを通り直線abと平行な直線cとで区切られる部分の面積がA、B、Cのとき、|X-A|+|X-B|+|X-C|=D
(2)aとcを通る直線acと、bを通り直線acと平行な直線bとで区切られる部分の面積がA’、B’、C’のとき、|X-A’|+|X-B’|+|X-C’|=E
(3)bとcを通る直線bcと、aを通り直線bcと平行な直線aとで区切られる部分の面積がA”、B”、C”のとき、|X-A”|+|X-B”|+|X-C”|=F
(4)D+E+F≦3X
の条件を満たす位置に3つの突部を形成する。
【0014】
図1に示す例を参照しながら、それぞれの条件に付いて説明すると、1は、焼結工程における成形品の水平面への投影面であり、この投影面1の形状は円形である。そして、投影面1に3つの突部の中心点の位置がa、b、cで示されている。ここで、投影面1の全体面積を求め、その3分の1をXとする。すなわち、投影面積は3Xとなる。
【0015】
図1のパターン1において、aとbを通る直線を直線abとし、cを通り直線abと平行な直線を直線cとする。また、直線abと直線cで区切られる部分の投影面1の面積を、それぞれA、B、Cとし、それぞれの値を求める。そして、|X-A|+|X-B|+|X-C|=Dの式により、Dの値を求める。
【0016】
同様に、
図1のパターン2において、aとcを通る直線を直線acとし、bを通り直線acと平行な直線を直線bとする。また、直線acと直線bで区切られる部分の投影面1の面積を、それぞれA’、B’、C’とし、それぞれの値を求める。そして、|X-A’|+|X-B’|+|X-C’|=Eの式により、Eの値を求める。
【0017】
さらに同様に、
図1のパターン3において、bとcを通る直線を直線bcとし、aを通り直線bcと平行な直線を直線aとする。また、直線bcと直線aで区切られる部分の投影面1の面積を、それぞれA”、B”、C”とし、それぞれの値を求める。そして、|X-A”|+|X-B”|+|X-C”|=Fの式により、Fの値を求める。
【0018】
つぎに、D+E+Fの値を「面積誤差計」と定義する。この値と投影面積3Xの値を比較して、D+E+F≦3Xの条件を満たす位置に3つの突部a、b、cを形成する。
【0019】
そして、つぎの焼結工程において、上記の成形工程で得られた成形品を焼結する。D+E+Fの値が小さいほど、焼結後に得られる焼結品の変形が小さく抑えられる。なお、AとBとCが等しく、A’とB’とC’が等しく、A”とB”とC”が等しくなる条件のときに、D+E+Fの値が最小値の0となる。
【0020】
成形品に設けられる突部については、焼結時に載置される載置面との接触が点当たりとなるように形成することが望ましい。そうすることで、成形品の重量バランスに対し、焼結中の支持点の位置を統一することが可能となり、焼結品の個体ごとの変形のばらつきを抑えることが可能となる。また、成形品に突部を設けるため、焼結時の載置面側の平面度の管理は不要となる。さらに、成形品の加工面となる面に突部を設けて、焼結後の加工時に突部を除去すれば、製品形状に影響を与えることもない。
【0021】
突部の高さは、成形品を載せる載置台の平面度に応じて設定すればよい。すなわち、成形品を載置台に載置して焼結したときに、突部だけが載置台に接触し、その他の部分が接触しないような高さにすればよい。突部の幅は、成形時の形成しやすさや、焼結後の加工時の除去しやすさなどを考慮して、適切な幅に設定すればよい。例えば、突部の高さを0.05~1.0mm、幅を0.5~10mmとすることができる。形状も任意であるが、水平面の断面形状を円、正方形などとすることができる。
【0022】
なお、本発明の方法においては、円盤形状であって、焼結時の上面視で略円形の焼結機械部品が対象となる。特に対象の焼結機械部品が薄肉形状であればあるほど、焼結時に発生する変形は大きくなるため、本発明の方法による効果を享受できる。このほか、焼結時の変形が大きくなるような形状を有する焼結機械部品が、本発明の方法の好適な対象となる。
【0023】
以下、実施例に基づき、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
[焼結機械部品の製造]
原料として、JPMAでSMF4040相当、JIS_Z2550でP2054相当の金属粉末(Fe:Bal、C:0.6~1.0%、Cu:1~3%、平均粒径:75μm)を用いて、寸法が直径100mm、高さ8mmの円盤状の成形品を複数作成した。成形品には、成形品ごとに異なる位置の3か所に厚み0.5mm、幅φ3mmの突部を設けた。成形品を加圧成形するときのプレス圧は約450t、加圧成形後に得られた成形品の密度は6.9g/cm3であった。
【0025】
得られた成形品を、メッシュベルト炉を用いて焼結した。このときの焙焼温度は750℃、焼結温度は1130℃、送り速度は150mm/分、雰囲気はRxガスであった。
【0026】
成形品の突部を設けた位置を以下の表に示す。半径と角度の測定位置については、
図2に示す。
【0027】
【0028】
[平面度の測定]
得られた焼結品について、形状測定器(キーエンス社製VRシリーズ)を用いて、円形の焼結品の中心から80~98%の範囲の外径側端面の平面度を測定した。平面度は各条件10個ずつの平均値にて算出した。
【0029】
[面積誤差計と平面度平均値との比較]
それぞれの成形品について、3つの突部の形成位置から面積誤差計の値(D+E+F)を求め、それらから得られた焼結品の平面度の平均値を求めた。そして、これらの関係を
図3にまとめた。この結果より、面積誤差計の値と平面度平均値との間に相関があることが認められた。
【0030】
また、この結果より、平面度平均値の許容範囲を完成状態の製品の平面度規格を考慮し0.06mm以下としたい場合、面積誤差計の値(D+E+F)を焼結工程における成形品の水平面への投影面積(3X)よりも小さくする必要があることが分かった。本実施例では、直径100mmの成形品を用いたので、直径100mmの円の面積である7854mm2よりも小さくなるように、3つの突部の位置を設定する必要があることが分かった。