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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】車両の制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20230911BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20230911BHJP
   B60T 8/26 20060101ALI20230911BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60T8/1755 C
B60T8/26 H
B60L7/24 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019173867
(22)【出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2021049858
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和晃
(72)【発明者】
【氏名】安武 俊雄
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064556(JP,A)
【文献】特開2013-180670(JP,A)
【文献】特開2008-037200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/18-8/30
B60L 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪及び後輪のうちの少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を調整する回生制動装置を備える車両に適用され、
前記前輪に付与する摩擦制動力及び前記後輪に付与する摩擦制動力を調整する摩擦制動装置と、前記車両の制動力を制御する制御装置と、を備え、
前記前輪に付与する制動力と前記後輪に付与する制動力との和に対する前記前輪に付与する制動力の比を前後制動力配分比とし、前記前輪及び前記後輪のうちの回生制動力を付与可能な車輪である回生対象車輪に付与する制動力に対する当該回生対象車輪に付与する摩擦制動力の比を摩擦回生配分比とした場合、
前記制御装置は、
前記車両のピッチング姿勢の目標を基に、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比を導出する配分比導出部と、
前記車両の制動力の目標である目標車両制動力と、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比とを基に、前記摩擦制動装置及び前記回生制動装置の作動を指示する作動指示部と、を備え
前記車両のピッチング姿勢の目標が、前記車両のピッチ角の目標である目標ピッチ角であり、
前記配分比導出部は、前記目標ピッチ角が大きいほど前記摩擦回生配分比を小さくする
車両の制動装置。
【請求項2】
前記配分比導出部は、前記回生対象車輪に付与する回生制動力が最大となる値を、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比として導出する
請求項1に記載の車両の制動装置。
【請求項3】
制動操作部材の操作量と前記車両の制動力との関係を第1関係とし、前記制動操作部材に入力される操作力と前記車両の制動力との関係を第2関係とし、前記操作量と前記操作力との関係を第3関係とした場合、
前記第1関係、前記第2関係及び前記第3関係のうちの少なくとも1つの関係を可変する制動関係調整部を備え、
前記制御装置は、前記車両のピッチング姿勢の目標として、前記目標ピッチ角を設定する目標設定部を有し、
前記第1関係、前記第2関係及び前記第3関係のうち、前記制動関係調整部によって変更される関係を、変更対象関係とした場合、
前記目標設定部は、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が基準関係である場合と比較して車両の制動力を小さくする関係に調整されているときには、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が前記基準関係である場合と比較して前記車両の制動力を大きくする関係に調整されているときよりも前記目標ピッチ角を大きくする
請求項1又は請求項2に記載の車両の制動装置。
【請求項4】
車両の前輪及び後輪のうちの少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を調整する回生制動装置を備える車両に適用され、
前記前輪に付与する摩擦制動力及び前記後輪に付与する摩擦制動力を調整する摩擦制動装置と、前記車両の制動力を制御する制御装置と、を備え、
前記前輪に付与する制動力と前記後輪に付与する制動力との和に対する前記前輪に付与する制動力の比を前後制動力配分比とし、前記前輪及び前記後輪のうちの回生制動力を付与可能な車輪である回生対象車輪に付与する制動力に対する当該回生対象車輪に付与する摩擦制動力の比を摩擦回生配分比とし
制動操作部材の操作量と前記車両の制動力との関係を第1関係とし、前記制動操作部材に入力される操作力と前記車両の制動力との関係を第2関係とし、前記操作量と前記操作力との関係を第3関係とした場合、
前記摩擦制動装置は、前記第1関係、前記第2関係及び前記第3関係のうちの少なくとも1つの関係を可変する制動関係調整部を備え、
前記制御装置は、
前記車両のピッチング姿勢の目標を基に、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比を導出する配分比導出部と、
前記車両の制動力の目標である目標車両制動力と、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比とを基に、前記摩擦制動装置及び前記回生制動装置の作動を指示する作動指示部と、
前記車両のピッチング姿勢の目標として、前記車両のピッチ角の目標である目標ピッチ角を設定する目標設定部と、を備え
前記第1関係、前記第2関係及び前記第3関係のうち、前記制動関係調整部によって変更される関係を、変更対象関係とした場合、
前記目標設定部は、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が基準関係である場合と比較して車両の制動力を大きくする関係に調整されているときには、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が前記基準関係である場合と比較して前記車両の制動力を小さくする関係に調整されているときよりも前記目標ピッチ角を大きくする
車両の制動装置。
【請求項5】
車両の前輪及び後輪のうちの少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を調整する回生制動装置を備える車両に適用され、
前記前輪に付与する摩擦制動力及び前記後輪に付与する摩擦制動力を調整する摩擦制動装置と、前記車両の制動力を制御する制御装置と、を備え、
前記前輪に付与する制動力と前記後輪に付与する制動力との和に対する前記前輪に付与する制動力の比を前後制動力配分比とし、前記前輪及び前記後輪のうちの回生制動力を付与可能な車輪である回生対象車輪に付与する制動力に対する当該回生対象車輪に付与する摩擦制動力の比を摩擦回生配分比とした場合、
前記制御装置は、
前記車両のピッチング姿勢の目標を基に、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比を導出する配分比導出部と、
前記車両の制動力の目標である目標車両制動力と、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比とを基に、前記摩擦制動装置及び前記回生制動装置の作動を指示する作動指示部と、
前記車両のピッチング姿勢の目標として、前記車両のピッチ角の目標である目標ピッチ角を設定する目標設定部と、を備え
前記目標設定部は、車両制動時には、車両制動の開始時点からの時間の経過、又は、車両制動の開始時点からの前記車両の車体速度の低下に従って前記目標ピッチ角を大きくする
車両の制動装置。
【請求項6】
前記作動指示部は、車両制動中において前記車両の制動力が保持されているとの判定をなしているときには、前記車両の制動力を保持しつつ、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比に基づいて前記摩擦制動装置及び前記回生制動装置の作動を指示する
請求項5に記載の車両の制動装置。
【請求項7】
前記作動指示部は、車両制動中において前記車両の制動力が保持されているとの判定をなしているときには、前記車両の制動力を増大させつつ、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比に基づいて前記摩擦制動装置及び前記回生制動装置の作動を指示し、
前記配分比導出部は、車両制動中において前記車両の制動力が保持されているとの判定をなしているときには、前記車両の制動力の増大量よりも前記回生対象車輪に付与する回生制動力の増大量が多くなるように、前記摩擦回生配分比を導出する
請求項5に記載の車両の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両制動時にあっては、ノーズダイブ側に車両がピッチング運動することがある。前輪に付与する制動力を前輪制動力とし、後輪に付与する制動力を後輪制動力とした場合、前輪制動力に応じたアンチダイブ力が車両の車体に作用し、後輪制動力に応じたアンチダイブ力が車体に作用する。そして、車両全体の制動力が同じであっても、前輪制動力と後輪制動力との配分比率が変わると、車体に作用するアンチダイブ力及びアンチリフト力が変わり、車両のピッチング姿勢が変わることがある。
【0003】
特許文献1には、摩擦制動装置と回生制動装置とを備える車両に適用される車両の制動制御装置の一例が記載されている。この装置では、回生制動力を変動させつつ、前輪制動力と後輪制動力との配分比率を可変させる場合、回生制動力の変化速度に対して制限を設けるようにしている。これにより、当該配分比率が緩やかに変化するようになるため、アンチダイブ力及びアンチリフト力の急激な変化を抑えることができる。その結果、車両のピッチング姿勢の急激な変化を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-139293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車輪に摩擦制動力が付与されるに際して当該車輪に制動力が作用する点と、車輪に回生制動力が付与されるに際して当該車輪に制動力が作用する点とは互いに異なる。そのため、車輪全体の制動力の大きさが同じであっても、車輪に摩擦制動力を付与する場合と、車輪に回生制動力を付与する場合とで、車体に作用するアンチダイブ力やアンチリフト力が相違する。そのため、例えば回生制動力を摩擦制動力にすり替えたり、摩擦制動力を回生制動力にすり替えたりする際には、上記のように回生制動力の変化速度に対して制限を設けたとしても、車両のピッチング姿勢の変化が発生してしまう。すなわち、車両制動時における車両のピッチング姿勢の制御性の向上という点で改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の制動装置は、車両の前輪及び後輪のうちの少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を調整する回生制動装置を備える車両に適用される。この制動装置は、前記前輪に付与する摩擦制動力及び前記後輪に付与する摩擦制動力を調整する摩擦制動装置と、前記車両の制動力を制御する制御装置と、を備える。前記前輪に付与する制動力と前記後輪に付与する制動力との和に対する前記前輪に付与する制動力の比を前後制動力配分比とし、前記前輪及び前記後輪のうちの回生制動力を付与可能な車輪である回生対象車輪に付与する制動力に対する当該回生対象車輪に付与する摩擦制動力の比を摩擦回生配分比とする。この場合、前記制御装置は、前記車両のピッチング姿勢の目標を基に、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比を導出する配分比導出部と、前記車両の制動力の目標である目標車両制動力と、前記前後制動力配分比及び前記摩擦回生配分比とを基に、前記摩擦制動装置及び前記回生制動装置の作動を指示する作動指示部と、を備える。
【0007】
車両制動時においては、回生対象車輪には摩擦制動力及び回生制動力のうちの少なくとも一方の制動力が付与される。回生対象車輪に付与する制動力の総計が同じであっても、摩擦回生配分比が変われば、車両のピッチング運動を抑制するための力である抑制力の大きさが変わる。そのため、摩擦回生配分比が変わると、車両のピッチング姿勢が変わるおそれがある。なお、前輪が回生対象車輪である場合、アンチダイブ力が抑制力に相当する一方、後輪が回生対象車輪である場合、アンチリフト力が抑制力に相当する。
【0008】
また、前後制動力配分比が変われば、アンチリフト力及びアンチダイブ力の大きさが変わるため、車両のピッチング姿勢が変わるおそれがある。
上記構成によれば、車両のピッチング姿勢をその目標に近づけるように、前輪に付与する制動力と後輪に付与する制動力との配分、及び、回生対象車輪において、摩擦制動力と回生制動力との配分を調整することができる。これにより、車両制動時において車両のピッチング姿勢の制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の車両の制動装置を備える車両の一部を模式的に示す構成図。
図2】制動力の配分の一例を示すグラフ。
図3】車両制動時に車両のピッチング姿勢が変化する様子を示す模式図。
図4】前輪に摩擦制動力が付与される場合のアンチダイブ力を説明する模式図。
図5】前輪に回生制動力が付与される場合のアンチダイブ力を説明する模式図。
図6】同制動装置の制御装置が車両制動時に実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
図7】車輪の摩擦回生配分比を算出する際に同制御装置が実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
図8】車輪の摩擦回生配分比を算出する関係式を説明するグラフ。
図9】第2実施形態の車両の制動装置における液圧発生装置の概略を示す構成図。
図10】制動操作部材の操作量と車両制動力との関係を示すグラフ。
図11】同制動装置の制御装置が実行する処理ルーチンのうち、要求ピッチングモーメント及び目標ピッチ角を導出する部分を説明するフローチャート。
図12】操作量差と第1補正値との関係を示すマップ。
図13】制動操作部材に入力される操作力と車両制動力との関係を示すグラフ。
図14】操作力差と第2補正値との関係を示すマップ。
図15】制動操作部材に入力される操作力と制動操作部材の操作量との関係を示すグラフ。
図16】操作力差と第3補正値との関係を示すマップ。
図17】第8実施形態の車両の制動装置において、(a),(b)は車両制動時におけるピッチングモーメント補正値の推移を示すタイミングチャート。
図18】第9実施形態の車両の制動装置における制御装置が、ピッチングモーメント補正値を導出する際に実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
図19】第10実施形態の車両の制動装置において、(a),(b)は制動力の配分が推移する様子を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、車両の制動装置の第1実施形態を図1図8に従って説明する。
図1には、本実施形態の制動装置30を備える車両10の一部が図示されている。車両10は、前輪11用の摩擦制動機構20Fと、後輪12用の摩擦制動機構20Rとを備えている。各摩擦制動機構20F,20Rでは、ホイールシリンダ21内の液圧が高いほど、対応する車輪11,12と一体回転する回転体22に対して摩擦材23が強く押し付けられる。このように摩擦材23を回転体22に押し付けることにより、車輪11,12に制動力が付与される。なお、以降の記載において、摩擦制動機構20F,20Rの作動によって車輪11,12に付与する制動力を「摩擦制動力」といい、ホイールシリンダ21内の液圧を、「WC圧」という。
【0011】
車両の制動装置30は、各ホイールシリンダ21内のWC圧を制御することにより、前輪11に付与する摩擦制動力及び後輪12に付与する摩擦制動力を調整する摩擦制動装置31と、車両の制動力を制御する制御装置35とを備えている。摩擦制動装置31は、液圧発生装置32と、制動アクチュエータ33とを有している。液圧発生装置32は、ブレーキペダルなどの制動操作部材321が運転者によって操作されているときに、その操作量に応じた液圧を発生する。そして、運転者によって制動操作が行われている場合、液圧発生装置32で発生した液圧に応じた量のブレーキ液が各ホイールシリンダ21内に供給される。これにより、各車輪11,12に摩擦制動力が付与される。制動アクチュエータ33は、各ホイールシリンダ21内のWC圧を個別に制御することにより、各車輪11,12に付与する摩擦制動力を個別に調整できる。なお、各ホイールシリンダ21は、各車輪11,12及び回転体22と同様に、サスペンションを構成するサスペンションアームやナックルに取り付けられている。そのため、摩擦制動力を発生させた際にホイールシリンダ21に作用する反力が、サスペンションに直接伝達される。
【0012】
図1に示す車両10は、前輪11用のモータジェネレータ51Fと、後輪12用のモータジェネレータ51Rとを備えている。モータジェネレータ51Fを電動機として機能させることにより、モータジェネレータ51Fから前輪11に駆動力が伝達される。一方、モータジェネレータ51Fを発電機として機能させることにより、モータジェネレータ51Fの発電量に応じた制動力が前輪11に付与される。同様に、モータジェネレータ51Rを電動機として機能させることにより、モータジェネレータ51Rから後輪12に駆動力が伝達される。一方、モータジェネレータ51Rを発電機として機能させることにより、モータジェネレータ51Rの発電量に応じた制動力が後輪12に付与される。以降の記載において、モータジェネレータ51F,51Rの発電によって車輪11,12に付与する制動力を「回生制動力」という。なお、各モータジェネレータ51F,51Rは、車体に取り付けられている。そのため、回生制動力を発生させた際にモータジェネレータ51F,51Rに作用する反力は車体に伝達され、各車輪11,12が取り付けられているサスペンションに当該反力が直接伝達されることはない。
【0013】
以降の記載において、前輪11に付与する摩擦制動力を前輪摩擦制動力といい、前輪11に付与する回生制動力を前輪回生制動力という。また、後輪12に付与する摩擦制動力を後輪摩擦制動力といい、後輪12に付与する回生制動力を後輪回生制動力という。
【0014】
各モータジェネレータ51F,51Rは、モータ制御装置52によって制御される。すなわち、本実施形態では、各モータジェネレータ51F,51Rと、モータ制御装置52とにより、前輪回生制動力及び後輪回生制動力を調整する「回生制動装置50」が構成されている。また、図1に示す例では、前輪11に回生制動力を付与でき、且つ、後輪12にも回生制動力を付与できる。よって、前輪11及び後輪12の双方が、「回生対象車輪」となる。
【0015】
次に、制御装置35について説明する。
図1に示すように、制御装置35には、操作量検出センサ101及び車速センサ102などの各種のセンサから検出信号が入力される。操作量検出センサ101は、運転者による制動操作部材321の操作量SBPを検出し、操作量SBPに応じた信号を検出信号として出力する。車速センサ102は、車両の車体速度である車速VSを検出し、車速VSに応じた信号を検出信号として出力する。
【0016】
また、制御装置35は、回生制動装置50のモータ制御装置52と各種の情報の送受信を行う。
図1に示すように、制御装置35は、機能部として、要求制動力導出部351と、目標設定部352と、配分比導出部353と、作動指示部354と、摩擦制御部355とを有している。
【0017】
要求制動力導出部351は、車両10に対して要求される制動力である要求車両制動力FxRを導出する。すなわち、制動操作部材321が操作されている場合、要求制動力導出部351は、制動操作部材321の操作量SBPに応じた値を要求車両制動力FxRとして導出する。例えば、要求制動力導出部351は、要求車両制動力FxRを操作量SBPが多いほど大きくする。また、要求制動力導出部351は、制動操作が行われていない状況下で車両10に減速が要求されたときにも要求車両制動力FxRを導出する。
【0018】
目標設定部352は、車両10のピッチング姿勢の目標として目標ピッチ角APTrを導出する。目標ピッチ角APTrとは、車両10のピッチ角APの目標である。車両10をノーズダイブ側にピッチング運動させるときには目標ピッチ角APTrが大きくなる。目標ピッチ角APTrの設定処理については後述する。
【0019】
配分比導出部353は、前後制動力配分比nと、前輪11の摩擦回生配分比nfと、後輪12の摩擦回生配分比nrとを導出する。各配分比n,nf,nrとして、「0」以上であって且つ「1」以下の値がそれぞれ導出される。図2に示すように、前後制動力配分比nとは、前輪制動力Fxfと後輪制動力Fxrとの和に対する前輪制動力Fxfの比である。前輪制動力Fxfは、前輪摩擦制動力Fxfbと前輪回生制動力Fxfdとの和である。また、後輪制動力Fxrは、後輪摩擦制動力Fxrbと後輪回生制動力Fxrdとの和である。前輪11の摩擦回生配分比nfとは、前輪制動力Fxfに対する前輪摩擦制動力Fxfbの比である。後輪12の摩擦回生配分比nrとは、後輪制動力Fxrに対する後輪摩擦制動力Fxrbの比である。前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrの導出処理については後述する。
【0020】
図1に戻り、作動指示部354は、回生制動装置50の各モータジェネレータ51F,51Rの作動と、摩擦制動装置31の制動アクチュエータ33の作動とを指示する。すなわち、作動指示部354は、前輪回生制動力Fxfdの要求値である前輪回生制動力要求値FxfdRを導出し、前輪回生制動力要求値FxfdRに関する情報を回生制動装置50のモータ制御装置52に送信する。作動指示部354は、後輪回生制動力Fxrdの要求値である後輪回生制動力要求値FxrdRを導出し、後輪回生制動力要求値FxrdRに関する情報をモータ制御装置52に送信する。また、作動指示部354は、前輪摩擦制動力Fxfbの要求値である前輪摩擦制動力要求値FxfbRと、後輪摩擦制動力Fxrbの要求値である後輪摩擦制動力要求値FxrbRとを導出する。
【0021】
摩擦制御部355は、作動指示部354で導出された前輪摩擦制動力要求値FxfbR及び後輪摩擦制動力要求値FxrbRを基に制動アクチュエータ33を作動させる。すなわち、摩擦制御部355は、前輪11に対して設けられているホイールシリンダ21内のWC圧が前輪摩擦制動力要求値FxfbRに応じた液圧となるとともに、後輪12に対して設けられているホイールシリンダ21内のWC圧が後輪摩擦制動力要求値FxrbRに応じた液圧となるように、制動アクチュエータ33を制御する。これにより、実際の前輪摩擦制動力Fxfbを前輪摩擦制動力要求値FxfbRとほぼ等しくでき、実際の後輪摩擦制動力Fxrbを後輪摩擦制動力要求値FxrbRとほぼ等しくできる。
【0022】
次に、モータ制御装置52について説明する。
図1に示すように、モータ制御装置52は、機能部として、前輪モータ制御部60Fと、後輪モータ制御部60Rとを有している。前輪モータ制御部60Fはモータジェネレータ51Fを制御し、後輪モータ制御部60Rはモータジェネレータ51Rを制御する。
【0023】
前輪モータ制御部60Fは、前輪側最大回生取得部61Fと、前輪回生制御部62Fとを含んでいる。前輪側最大回生取得部61Fは、そのときにモータジェネレータ51Fの駆動によって前輪11に付与できる回生制動力の最大値である最大前輪回生制動力FxfdMaxを取得する。例えば、前輪側最大回生取得部61Fは、前輪11の回転速度、モータジェネレータ51Fに電力を供給する車載バッテリの蓄電量及び温度などを基に、最大前輪回生制動力FxfdMaxを導出する。
【0024】
前輪回生制御部62Fは、前輪回生制動力Fxfdを調整するときにモータジェネレータ51Fの発電量を制御する。すなわち、前輪回生制御部62Fは、制動装置30の制御装置35から前輪回生制動力要求値FxfdRに関する情報を受信すると、前輪回生制動力要求値FxfdRと最大前輪回生制動力FxfdMaxとを比較する。前輪回生制御部62Fは、前輪回生制動力要求値FxfdRが最大前輪回生制動力FxfdMax以下であるときには、前輪回生制動力Fxfdが前輪回生制動力要求値FxfdRと等しくなるようにモータジェネレータ51Fの発電量を制御する。一方、前輪回生制御部62Fは、前輪回生制動力要求値FxfdRが最大前輪回生制動力FxfdMaxよりも大きいときには、前輪回生制動力Fxfdが最大前輪回生制動力FxfdMaxと等しくなるようにモータジェネレータ51Fの発電量を制御する。そして、前輪回生制御部62Fは、実際の前輪回生制動力Fxfdに関する情報を制御装置35に送信する。
【0025】
後輪モータ制御部60Rは、後輪側最大回生取得部61Rと、後輪回生制御部62Rとを含んでいる。後輪側最大回生取得部61Rは、そのときにモータジェネレータ51Rの駆動によって後輪12に付与できる回生制動力の最大値である最大後輪回生制動力FxrdMaxを取得する。例えば、後輪側最大回生取得部61Rは、後輪12の回転速度、モータジェネレータ51Rに電力を供給する車載バッテリの蓄電量及び温度などを基に、最大後輪回生制動力FxrdMaxを導出する。
【0026】
後輪回生制御部62Rは、後輪回生制動力Fxrdを調整するときにモータジェネレータ51Rの発電量を制御する。すなわち、後輪回生制御部62Rは、制動装置30の制御装置35から後輪回生制動力要求値FxrdRに関する情報を受信すると、後輪回生制動力要求値FxrdRと最大後輪回生制動力FxrdMaxとを比較する。後輪回生制御部62Rは、後輪回生制動力要求値FxrdRが最大後輪回生制動力FxrdMax以下であるときには、後輪回生制動力Fxrdが後輪回生制動力要求値FxrdRと等しくなるようにモータジェネレータ51Rの発電量を制御する。一方、後輪回生制御部62Rは、後輪回生制動力要求値FxrdRが最大後輪回生制動力FxrdMaxよりも大きいときには、後輪回生制動力Fxrdが最大後輪回生制動力FxrdMaxと等しくなるようにモータジェネレータ51Rの発電量を制御する。そして、後輪回生制御部62Rは、実際の後輪回生制動力Fxrdに関する情報を制御装置35に送信する。
【0027】
次に、図3を参照し、車両制動時における車両10のピッチング運動について説明する。図3では、前輪11側のばね上荷重SWf及び後輪12側のばね上荷重SWrが白抜きの矢印で表されている。ばね上荷重とは、車両重量及びピッチングモーメントMpによって車体からサスペンションに入力される垂直方向の荷重のことである。
【0028】
制動力の付与によって車両10が減速すると、図3に実線の矢印で示すようなピッチングモーメントMpが車両10に発生し、ノーズダイブ側に車両10がピッチング運動する。ノーズダイブとは、車両10の前部を下方に変位させるとともに車両10の後部を上方に変位させる車両10の挙動のことである。一方、車両10の前部を上方に変位させるとともに車両10の後部を下方に変位させる車両10の挙動のことを、「ノーズリフト」という。ノーズダイブ側に車両10がピッチング運動すると、車両10のピッチ角APが大きくなる一方、ノーズリフト側に車両10がピッチング運動すると、ピッチ角APが小さくなる。
【0029】
車両10がノーズダイブ側にピッチング運動すると、前輪11側のばね上荷重SWfが大きくなるため、前輪11用のサスペンションを構成する前輪用スプリング15Fが収縮する。その結果、図3に実線の矢印で示すように、前輪用スプリング15Fの復元力である前輪スプリング復元力FSfが車両10に付与される。また、車両10がノーズダイブ側にピッチング運動すると、後輪12側のばね上荷重SWrが小さくなるため、後輪12用のサスペンションを構成する後輪用スプリング15Rが伸長する。その結果、図3に実線の矢印で示すように、後輪用スプリング15Rの復元力である後輪スプリング復元力FSrが車両10に付与される。
【0030】
また、車両10には、図3に黒塗りの矢印で示すように、アンチダイブ力FADとアンチリフト力FALとが発生し得る。アンチダイブ力FADは、前輪11に制動力が付与されるときに車両前部を上方に変位させる力であり、前輪制動力Fxfが大きいほど大きくなる。アンチリフト力FALは、後輪12に制動力が付与されるときに車両後部を下方に変位させる力であり、後輪制動力Fxrが大きいほど大きくなる。
【0031】
車両10における前輪11用のサスペンション及び後輪12用のサスペンションのジオメトリは、前輪制動力Fxfと後輪制動力Fxrとが互いに同じ値であるときには、アンチリフト力FALのほうがアンチダイブ力FADよりも大きくなるように設定されることがある。本実施形態では、アンチリフト力FALのほうがアンチダイブ力FADよりも大きくなるものとする。
【0032】
次に、図4及び図5を参照し、前輪摩擦制動力Fxfbとアンチダイブ力FADとの大小関係と、前輪回生制動力Fxfdとアンチダイブ力FADとの大小関係とについて説明する。
【0033】
図4に示すように前輪11に摩擦制動力が付与された場合、前輪11と路面150との接地点が、前輪摩擦制動力Fxfbが前輪11に作用する作用点P2に相当する。図4に示す中心点P1は、前輪11用のサスペンションの回転中心である。作用点P2と中心点P1とを繋ぐ直線L1と路面150とのなす角を、「前輪作用角θfb」とした場合、中心点P1に作用する力のうち、路面150と直交する方向の成分と、車両重心から前輪11の車軸までの距離である前輪側距離Lfとの積が、アンチダイブ力FADに相当する。すなわち、アンチダイブ力FADは、以下の関係式(式1)のように表すことができる。関係式(式1)からも明らかなように、前輪摩擦制動力Fxfbが大きいほどアンチダイブ力FADが大きくなる。また、前輪作用角θfbが大きいほどアンチダイブ力FADが大きくなる。
【0034】
【数1】
図5に示すように前輪11に回生制動力が付与された場合、前輪11の回転中心が、前輪回生制動力Fxfdが前輪11に作用する作用点P3に相当する。前輪11用のサスペンションの中心点P1とこうした作用点P3を繋ぐ直線L2と路面150とのなす角を、「前輪作用角θfd」とした場合、中心点P1に作用する力のうち、路面150と直交する方向の成分と前輪側距離Lfとの積が、アンチダイブ力FADに相当する。すなわち、アンチダイブ力FADは、以下の関係式(式2)のように表すことができる。関係式(式2)からも明らかなように、前輪回生制動力Fxfdが大きいほどアンチダイブ力FADが大きくなる。また、前輪作用角θfdが大きいほどアンチダイブ力FADが大きくなる。
【0035】
【数2】
なお、図4及び図5に示すように、前輪11に摩擦制動力が付与される場合の前輪作用角θfbと、前輪11に回生制動力が付与される場合の前輪作用角θfdとを比較した場合、前輪作用角θfdが前輪作用角θfbよりも小さくなる。これは、前輪回生制動力Fxfdの前輪11に対する作用点P3が、前輪摩擦制動力Fxfbの前輪11に対する作用点P2よりも車両上方に位置するためである。その結果、回生制動力が前輪11に付与される場合に発生するアンチダイブ力FADは、摩擦制動力が前輪11に付与される場合に発生するアンチダイブ力FADよりも小さくなる。
【0036】
次に、後輪摩擦制動力Fxrbとアンチリフト力FALとの大小関係と、後輪回生制動力Fxrdとアンチリフト力FALとの大小関係とについて説明する。
後輪12に摩擦制動力が付与される場合、後輪摩擦制動力Fxrbの後輪12に対する作用点は、後輪12と路面150との接地点となる。また、後輪12に回生制動力が付与される場合、後輪回生制動力Fxrdの後輪12に対する作用点は、後輪12の回転中心となる。そのため、回生制動力が後輪12に付与される場合に発生するアンチリフト力FALは、摩擦制動力が後輪12に付与される場合に発生するアンチリフト力FALよりも小さくなる。
【0037】
次に、図6図8を参照し、車両10に制動力を付与する際に制動装置30の制御装置35が実行する処理ルーチンについて説明する。図6に示す処理ルーチンは、車両10に制動力を付与する際には繰り返して実行される。
【0038】
図6に示すように、本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS11では、配分比導出部353によって、前後制動力配分比nが導出される。例えば、前後制動力配分比nが理想前後制動力配分比を下回らないように、前後制動力配分比nが導出される。理想前後制動力配分比とは、前輪11と後輪12とが同時にロックする前後制動力配分比である。続いて、次のステップS12において、目標設定部352によって、目標ピッチ角APTr及び要求ピッチングモーメントMpRが導出される。要求ピッチングモーメントMpRとは、車両10のピッチ角APを目標ピッチ角APTrとするために必要な車両10のピッチングモーメントである。例えば、目標設定部352は、要求車両制動力FxRが大きいほど値が大きくなるように目標ピッチ角APTrを導出する。また、目標設定部352は、目標ピッチ角APTrが大きいほど小さい値を要求ピッチングモーメントMpRとして導出する。
【0039】
そして、ステップS13において、配分比導出部353によって、前輪11の摩擦回生配分比nf及び後輪12の摩擦回生配分比nrの双方が導出される。摩擦回生配分比nf,nrの導出処理については図7を用いて後述する。摩擦回生配分比nf,nrが導出されると、処理が次のステップS14に移行される。
【0040】
ステップS14において、作動指示部354によって、前後制動力配分比n及び摩擦回生配分比nf,nrと、要求車両制動力FxRとを基に、前輪摩擦制動力要求値FxfbR、前輪回生制動力要求値FxfdR、後輪摩擦制動力要求値FxrbR及び後輪回生制動力要求値FxrdRが導出される。例えば、以下の関係式(式3)、(式4)、(式5)及び(式6)を用いることにより、前輪摩擦制動力要求値FxfbR、前輪回生制動力要求値FxfdR、後輪摩擦制動力要求値FxrbR及び後輪回生制動力要求値FxrdRを算出できる。
【0041】
【数3】
関係式(式3)及び(式4)によれば、前輪摩擦制動力要求値FxfbR及び前輪回生制動力要求値FxfdRは、前後制動力配分比nが大きいほど大きくなる。前輪摩擦制動力要求値FxfbRは、前輪11の摩擦回生配分比nfが大きいほど大きくなる。前輪回生制動力要求値FxfdRは、前輪11の摩擦回生配分比nfが小さいほど大きくなる。関係式(式5)及び(式6)によれば、後輪摩擦制動力要求値FxrbR及び後輪回生制動力要求値FxrdRは、前後制動力配分比nが小さいほど大きくなる。後輪摩擦制動力要求値FxrbRは、後輪12の摩擦回生配分比nrが大きいほど大きくなる。後輪回生制動力要求値FxrdRは、後輪12の摩擦回生配分比nrが小さいほど大きくなる。
【0042】
各制動力要求値FxfbR,FxfdR,FxrbR,FxrdRが算出されると、処理が次のステップS15に移行される。ステップS15において、作動指示部354によって、回生制動が指示される。すなわち、作動指示部354によって算出された前輪回生制動力要求値FxfdR及び後輪回生制動力要求値FxrdRに関する情報がモータ制御装置52に送信される。
【0043】
すると、モータ制御装置52の前輪回生制御部62Fによって、モータジェネレータ51Fの発電量が制御される。また、後輪回生制御部62Rによって、モータジェネレータ51Rの発電量が制御される。
【0044】
続いて、次のステップS16では、前輪回生制動力要求値FxfdR及び後輪回生制動力要求値FxrdRに関する情報の送信に対する回答として、モータ制御装置52から実際の前輪回生制動力Fxfd及び後輪回生制動力Fxrdに関する情報を受信したか否かの判定が行われる。当該情報を未だ受信していない場合(S16:NO)、当該情報を受信するまでステップS16の判定が繰り返される。一方、当該情報を受信している場合(S16:YES)、処理が次のステップS17に移行される。
【0045】
ステップS17において、配分比導出部353によって、前後制動力配分比n、前輪11の摩擦回生配分比nf及び後輪12の摩擦回生配分比nrの再計算が行われる。すなわち、当該情報によって示される実際の前輪回生制動力Fxfdが前輪回生制動力要求値FxfdRと相違していること、及び、当該情報によって示される実際の後輪回生制動力Fxrdが後輪回生制動力要求値FxrdRと相違していることのうち、少なくとも一方が成立している場合、前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrがそれぞれ再計算される。前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrの再計算処理については後述する。
【0046】
そして、次のステップS18では、作動指示部354によって、前輪摩擦制動力要求値FxfbR及び後輪摩擦制動力要求値FxrbRがそれぞれ再計算される。すなわち、上記関係式(式3)において、「n」に、再計算した前後制動力配分比nを代入し、且つ、「nf」に、再計算した前輪11の摩擦回生配分比nfを代入することにより、前輪摩擦制動力要求値FxfbRが再計算される。同様に、上記関係式(式5)において、「n」に、再計算した前後制動力配分比nを代入し、且つ、「nr」に、再計算した後輪12の摩擦回生配分比nrを代入することにより、後輪摩擦制動力要求値FxrbRが再計算される。
【0047】
つまり、前輪回生制動力要求値FxfdR及び後輪回生制動力要求値FxrdRのうちの少なくとも一方を実現できない場合、車両のピッチ角APと目標ピッチ角APTrとの乖離を抑制するために前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrが再計算される。したがって、本実施形態では、配分比導出部353は、目標ピッチ角APTrを基に、前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrを導出するといえる。
【0048】
前輪摩擦制動力要求値FxfbR及び後輪摩擦制動力要求値FxrbRの再計算が完了すると、処理が次のステップS19に移行される。
なお、実際の前輪回生制動力Fxfdが前輪回生制動力要求値FxfdRと等しく、且つ、実際の後輪回生制動力Fxrdが後輪回生制動力要求値FxrdRと等しいことがある。この場合、ステップS17,S18の各処理がスキップされる。
【0049】
ステップS19において、作動指示部354によって、摩擦制動が指示される。すなわち、作動指示部354によって算出された前輪摩擦制動力要求値FxfbR及び後輪摩擦制動力要求値FxrbRに基づいて制動アクチュエータ33を作動させることが摩擦制御部355に指示される。
【0050】
そして、摩擦制御部355は、前輪11用のホイールシリンダ21内のWC圧が前輪摩擦制動力要求値FxfbRに応じた液圧となり、且つ、後輪12用のホイールシリンダ21内のWC圧が後輪摩擦制動力要求値FxrbRに応じた液圧となるように、制動アクチュエータ33の作動が制御される。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0051】
次に、図7を参照し、上記ステップS13の摩擦回生配分比nf,nrの導出処理について説明する。図7に示す各処理は、配分比導出部353によって実行される。
本処理ルーチンにおいて、ステップS21では、制動装置30を搭載する車両10が、前輪11及び後輪12の双方に回生制動力を付与可能な車両であるか否かの判定が行われる。車両10が前輪11及び後輪12の双方に回生制動力を付与可能な車両である場合(S21:YES)、処理が次のステップS22に移行される。ステップS22において、前輪用係数の最大値Jfmaxが後輪用係数の最大値Jrmax以下であるか否かの判定が行われる。前輪用係数の最大値Jfmax及び後輪用係数の最大値Jrmaxは、それぞれ「0」以上であって且つ「1」以下の値となる。
【0052】
ここで、前輪用係数の最大値Jfmax及び後輪用係数の最大値Jrmaxの算出処理について説明する。
車両制動時における車両10のピッチングモーメントMpは、以下の関係式(式7)のように表すことができる。関係式(式7)において、「H」は車両10の重心の高さであり、「MpA」は、制動力配分によって車両10に発生するピッチングモーメントである。つまり、当該ピッチングモーメントMpAは、前後制動力配分比n、前輪11の摩擦回生配分比nf及び後輪12の摩擦回生配分比nrの調整を通じて可変させることができる。よって、制動力配分によって車両10に発生するピッチングモーメントMpAを、「制御可能ピッチングモーメントMpA」ともいう。そして、制御可能ピッチングモーメントMpAは、以下の関係式(式8)のように表すことができる。
【0053】
【数4】
関係式(式8)において、「Zfb」は前輪11への摩擦制動力の付与によって発生するアンチダイブ力であり、「Zfd」は前輪11への回生制動力の付与によって発生するアンチダイブ力である。また、「Zrb」は後輪12への摩擦制動力の付与によって発生するアンチリフト力であり、「Zrd」は後輪12への回生制動力の付与によって発生するアンチリフト力である。前輪11への摩擦制動力の付与に対するアンチダイブ力の関係を示す係数KZfb、前輪11への回生制動力の付与に対するアンチダイブ力の関係を示す係数KZfd、後輪12への摩擦制動力の付与に対するアンチリフト力の関係を示す係数KZrb、及び、後輪12への回生制動力の付与に対するアンチリフト力の関係を示す係数KZrdは、以下の関係式(式9)~(式12)のように表すことができる。なお、関係式(式11)及び(式12)において、「Lr」は車両重心から後輪12の車軸までの距離である後輪側距離のことである。また、「θrb」は、後輪12と路面150との接地点と後輪12用のサスペンションの回転中心とを繋ぐ直線と、路面150とのなす角である。また、「θrd」は、後輪12の回転中心と後輪12用のサスペンションの回転中心とを繋ぐ直線と、路面150とのなす角である。
【0054】
【数5】
要求ピッチングモーメントMpRは、上記各関係式(式3)~(式6),(式8)~(式12)などに基づいて以下の関係式(式13)のように表すことができる。
【0055】
【数6】
関係式(式9)における「Lf・tanθfb」を「Ya」とし、関係式(式10)における「Lf・tanθfd」を「Yb」とする。また、関係式(式11)における「Lr・tanθrb」を「Yc」とし、関係式(式12)における「Lr・tanθrd」を「Yd」とする。この場合、関係式(式13)を、関係式(式14)及び(式15)のように変形することができる。
【0056】
【数7】
前輪回生制動力Fxfdと後輪回生制動力Fxrdとの和を車両回生制動力Fxdとした場合、車両回生制動力Fxdは、以下の関係式(式16)のように表すことができる。そして、前輪摩擦制動力Fxfbと後輪摩擦制動力Fxrbと前輪回生制動力Fxfdと後輪回生制動力Fxrdとの和を車両制動力Fxとした場合、車両制動力Fxのうち、車両回生制動力Fxdが占める割合のことを「係数J」とした場合、係数Jは以下の関係式(式17)のように表すことができる。
【0057】
【数8】
車両制動力Fxのうち、前輪回生制動力Fxfdが占める割合のことを「前輪用係数Jf」とし、車両制動力Fxのうち、後輪回生制動力Fxrdが占める割合のことを「後輪用係数Jr」とする。この場合、上記関係式(式14)、(式15)及び(式17)によれば、前輪用係数Jfを以下の関係式(18)のように表すことができる。また、後輪用係数Jrを以下の関係式(19)のように表すことができる。
【0058】
【数9】
関係式(式18)は、前輪11の摩擦回生配分比nfを変数とする一次関数である。関係式(式19)は、後輪12の摩擦回生配分比nrを変数とする一次関数である。そのため、横軸を摩擦回生配分比nf,nrとし、縦軸を係数Jf,Jrとするグラフ上では、図8において、線Kfは関係式(式18)を表す線であり、線Krは関係式(式19)を表す線である。摩擦回生配分比nf,nrは「0」以上であって且つ「1」以下であり、係数Jf,Jrもまた「0」以上であって且つ「1」以下である。そのため、図8に示す領域W内において、前輪用係数Jfの最大値が前輪用係数の最大値Jfmaxとして導出される。同様に、領域W内において、後輪用係数Jrの最大値が後輪用係数の最大値Jrmaxとして導出される。
【0059】
図7に戻り、ステップS22において、前輪用係数の最大値Jfmaxが後輪用係数の最大値Jrmax以下である場合(YES),処理が次のステップS23に移行される。ステップS23において、上記関係式(式18)と前輪用係数の最大値Jfmaxとを基に、前輪11の摩擦回生配分比nfが算出される。すなわち、関係式(式18)の「Jf」に前輪用係数の最大値Jfmaxを代入することにより、摩擦回生配分比nfを算出できる。続いて、次のステップS24では、上記関係式(式19)を基に、後輪12の摩擦回生配分比nrが算出される。すなわち、関係式(式19)において、「Jr」に前輪用係数の最大値Jfmaxと等しい値を代入することにより、摩擦回生配分比nrが算出される。このように各摩擦回生配分比nf,nrが算出されると、本処理ルーチンが終了される。
【0060】
一方、ステップS22において、前輪用係数の最大値Jfmaxが後輪用係数の最大値Jrmaxよりも大きい場合(NO),処理が次のステップS25に移行される。ステップS25において、上記関係式(式19)と後輪用係数の最大値Jrmaxとを基に、後輪12の摩擦回生配分比nrが算出される。すなわち、関係式(式19)の「Jr」に後輪用係数の最大値Jrmaxを代入することにより、摩擦回生配分比nrを算出できる。続いて、次のステップS26では、上記関係式(式18)を基に、前輪11の摩擦回生配分比nfが算出される。すなわち、関係式(式18)において、「Jf」に後輪用係数の最大値Jrmaxと等しい値を代入することにより、摩擦回生配分比nfが算出される。このように各摩擦回生配分比nf,nrが算出されると、本処理ルーチンが終了される。
【0061】
なお、図8に示す例では、前輪用係数の最大値Jfmaxが後輪用係数の最大値Jrmaxよりも小さい。そのため、前輪用係数Jfが最大値Jfmaxと等しくなるときの値が、前輪用の摩擦回生配分比nfとして算出される。この場合、摩擦回生配分比nfは「0」となる。すなわち、前輪回生制動力Fxfdが最大となる。一方、後輪用係数Jrが前輪用係数の最大値Jfmaxと等しいときの値が、後輪用の摩擦回生配分比nrとして算出される。この場合、摩擦回生配分比nrは、「0」よりも大きく且つ「1」未満となる。
【0062】
反対に、後輪用係数の最大値Jrmaxが前輪用係数の最大値Jfmaxよりも小さくなることもある。この場合、後輪用係数Jrが最大値Jrmaxと等しくなるときの値が、後輪用の摩擦回生配分比nrとして算出される。これにより、摩擦回生配分比nrが「0」又は「1」となる。一方、前輪用係数Jfが後輪用係数の最大値Jrmaxと等しいときの値が、前輪用の摩擦回生配分比nfとして算出される。この場合、摩擦回生配分比nfは、「0」よりも大きく且つ「1」未満となる。
【0063】
図7に戻り、ステップS21において、制動装置30を搭載する車両10が、前輪11及び後輪12の双方に回生制動力を付与可能な車両ではない場合(NO)、処理が次のステップS27に移行される。ステップS27において、車両10が、前輪11には回生制動力を付与可能である一方で後輪12には回生制動力を付与不能な車両であるか否かの判定が行われる。すなわち、回生制動装置50として、モータジェネレータ51Fは有するものの、モータジェネレータ51Rを有しない回生制動装置が採用されているか否かの判定が行われる。車両10が、前輪11には回生制動力を付与可能である一方で後輪12には回生制動力を付与不能な車両である場合(S27:YES)、処理が次のステップS28に移行される。
【0064】
ステップS28において、後輪12の摩擦回生配分比nrとして「1」が設定される。これは、車両10では後輪12に回生制動力を付与できないためである。続いて、次のステップS29では、前輪11の摩擦回生配分比nfが算出される。例えば、上記関係式(式15)を用い、摩擦回生配分比nfが算出される。このように各摩擦回生配分比nf,nrが算出されると、本処理ルーチンが終了される。
【0065】
一方、ステップS27において、車両10が、前輪11には回生制動力を付与可能である一方で後輪12には回生制動力を付与不能な車両ではない場合(NO)、車両10が、後輪12には回生制動力を付与可能である一方で前輪11には回生制動力を付与不能な車両であるため、処理が次のステップS30に移行される。
【0066】
ステップS30において、前輪11の摩擦回生配分比nfとして「1」が設定される。これは、車両10では前輪11に回生制動力を付与できないためである。続いて、次のステップS31では、後輪12の摩擦回生配分比nrが算出される。例えば、上記関係式(式14)を用い、摩擦回生配分比nrが算出される。このように各摩擦回生配分比nf,nrが算出されると、本処理ルーチンが終了される。
【0067】
次に、上記ステップS18の前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrの再計算処理について説明する。当該再計算処理は、配分比導出部353によって実行される。
【0068】
当該再計算処理を実行するに際し、要求ピッチングモーメントMpR、要求車両制動力FxR、前輪回生制動力Fxfd及び後輪回生制動力Fxrdは把握されている。そして、これらを基に、前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrが再計算される。
【0069】
例えば、前輪回生制動力Fxfdが前輪回生制動力要求値FxfdR未満となる場合を考える。このような状況下で前後制動力配分比nを保持した場合、前輪11の摩擦回生配分比nfが再計算前よりも大きくなる。すると、車両10に発生するアンチダイブ力FADが大きくなる。このようにアンチダイブ力FADが大きくなっても要求ピッチングモーメントMpRを変えないようにするためには、アンチリフト力FALを小さくする必要がある。後輪制動力Fxrを保持しつつアンチリフト力FALを小さくするには、後輪12の摩擦回生配分比nrを小さくすることが考えられる。このように摩擦回生配分比nrを小さくすることにより、後輪摩擦制動力Fxrbを小さくでき、結果として、アンチダイブ力FADの増大をアンチリフト力FALの減少によって相殺できる。
【0070】
ただし、このように後輪12の摩擦回生配分比nrを小さくする場合、アンチリフト力FALの減少量をアンチダイブ力FADの増大量まで大きくできないこともある。このような場合には、前後制動力配分比nもまた、再計算前の値から変更することにより、アンチダイブ力FADの増大を抑えつつ、アンチリフト力FALの減少量を多くできる。その結果、計算上では、アンチダイブ力FADの増大をアンチリフト力FALの減少によって完全に相殺できる。
【0071】
また、例えば後輪回生制動力Fxrdが後輪回生制動力要求値FxrdR未満となる場合を考える。このような状況下で前後制動力配分比nを保持した場合、後輪12の摩擦回生配分比nrが再計算前よりも大きくなる。すると、車両10に発生するアンチリフト力FALが大きくなる。このようにアンチリフト力FALが大きくなっても要求ピッチングモーメントMpRを変えないようにするためには、アンチダイブ力FADを小さくする必要がある。前輪制動力Fxfを保持しつつアンチダイブ力FADを小さくするには、前輪11の摩擦回生配分比nfを小さくすることが考えられる。このように摩擦回生配分比nfを小さくすることにより、前輪摩擦制動力Fxfbを小さくでき、結果として、アンチリフト力FALの増大をアンチダイブ力FADの減少によって相殺できる。
【0072】
ただし、このように前輪11の摩擦回生配分比nfを小さくする場合、アンチダイブ力FADの減少量をアンチリフト力FALの増大量まで大きくできないこともある。このような場合には、前後制動力配分比nもまた、再計算前の値から変更することにより、アンチリフト力FALの増大を抑えつつ、アンチダイブ力FADの減少量を多くできる。その結果、計算上では、アンチリフト力FALの増大をアンチダイブ力FADの減少によって完全に相殺できる。
【0073】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
車両制動時にあっては、車両10のピッチ角APを目標ピッチ角APTrに近づけるように、前後制動力配分比n、回生制動力を付与可能な車輪の摩擦回生配分比nf,nrが調整される。すなわち、要求ピッチングモーメントMpRが、目標ピッチ角APTrに応じた値に設定される。また、前後制動力配分比nが暫定的に導出される。
【0074】
すると、要求ピッチングモーメントMpRと、前後制動力配分比nとを基に、前輪11の摩擦回生配分比nf及び後輪12の摩擦回生配分比nrが算出される。上述したように、前輪11に回生制動力を付与する場合では、前輪11に摩擦制動力を付与する場合と比較し、アンチダイブ力FADが大きくなりにくい。そのため、目標ピッチ角APTrが大きいほど、すなわち要求ピッチングモーメントMpRが小さいほど、前輪11の摩擦回生配分比nfが小さくなりやすい。これにより、前輪回生制動力Fxfdを大きくでき、ひいては車両10のアンチダイブ力FADが大きくなりにくくなる。その結果、車両10のピッチ角APを大きくできる。
【0075】
また、上述したように、後輪12に回生制動力を付与する場合では、後輪12に摩擦制動力を付与する場合と比較し、アンチリフト力FALが大きくなりにくい。そのため、目標ピッチ角APTrが大きいほど、すなわち要求ピッチングモーメントMpRが小さいほど、後輪12の摩擦回生配分比nfが小さくなりやすい。これにより、後輪回生制動力Fxrdを大きくでき、ひいては車両10のアンチリフト力FALが大きくなりにくくなる。その結果、車両10のピッチ角APを大きくできる。
【0076】
したがって、本実施形態では、車両10のピッチング姿勢を制御することができる。そのため、車両10全体としての回生制動力の大きさを変動させつつ、前後制動力配分比nを可変させる場合であっても、こうした変化に起因する車両10のピッチング姿勢の変化を抑制できる。
【0077】
ところで、上記のように算出した摩擦回生配分比nf,nrを基に前輪回生制動力要求値FxfdR及び後輪回生制動力要求値FxrdRを算出し、前輪回生制動力要求値FxfdR及び後輪回生制動力要求値FxrdRに関する情報を回生制動装置50に送信しても、実際の前輪回生制動力Fxfdが前輪回生制動力要求値FxfdRを下回ることがある。また、実際の後輪回生制動力Fxrdが後輪回生制動力要求値FxrdRを下回ることがある。
【0078】
そこで、本実施形態では、実際の前輪回生制動力Fxfdが前輪回生制動力要求値FxfdRを下回ったり、実際の後輪回生制動力Fxrdが後輪回生制動力要求値FxrdRを下回ったりした場合でも要求ピッチングモーメントMpRを車両10に発生させることができるように、前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrが再計算される。そして、再計算した各配分比n,nf,nrと、実際の前輪回生制動力Fxfd及び実際の後輪回生制動力Fxrdとを基に、前輪摩擦制動力要求値FxfbR及び後輪摩擦制動力要求値FxrbRが再計算される。そして、再計算した前輪摩擦制動力要求値FxfbR及び後輪摩擦制動力要求値FxrbRを基に制動アクチュエータ33を作動させることにより、車両10に対する要求制動力を満たしつつ、車両10のピッチ角APと目標ピッチ角APTrとの乖離を抑制できる。すなわち、車両10のピッチング姿勢の制御性を向上させることができる。
【0079】
なお、本実施形態では、摩擦回生配分比nf,nrを算出するに際し、回生対象車輪に付与する回生制動力を最大となるように、摩擦回生配分比nf,nrを算出するようにしている。前輪11の摩擦回生配分比nfを算出するに際し、前輪用係数Jfが大きいほど、後輪12の摩擦回生配分比nrが大きくなる。すなわち、図8に示す例では、前輪用係数Jfが最大値Jfmaxとなるときの値が摩擦回生配分比nfとして算出される。そして、この摩擦回生配分比nfを基に、後輪12の摩擦回生配分比nrが算出される。その結果、後輪回生制動力Fxrdを極力大きくできる。
【0080】
反対に、後輪12の摩擦回生配分比nrを算出するに際し、後輪用係数Jrが大きいほど、前輪11の摩擦回生配分比nfが大きくなる。すなわち、後輪用係数Jrが最大値Jrmaxとなるときの値が摩擦回生配分比nrとして算出される。そして、この摩擦回生配分比nrを基に、前輪11の摩擦回生配分比nfが算出される。その結果、前輪回生制動力Fxfdを極力大きくできる。
【0081】
(第2実施形態)
次に、車両の制動装置の第2実施形態を図9図11に従って説明する。本実施形態では、液圧発生装置の構成、及び、目標ピッチ角APTr及び要求ピッチングモーメントMpRの設定処理の内容などが第1実施形態と相違している。以下の説明においては、第1実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0082】
図9に示すように、摩擦制動装置31の液圧発生装置32は、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク81と、マスタシリンダ82と、運転者から制動操作部材321への入力を助勢してマスタシリンダ82に出力する助勢装置90とを備えている。
【0083】
本実施形態の制動装置30に適用される助勢装置90は、制動操作部材321の操作量SBPと、助勢装置90からマスタシリンダ82への出力との関係を変更可能に構成されている。こうした助勢装置90としては、例えば「特開2018-176853号公報」に開示されている倍力装置を挙げることができる。
【0084】
すなわち、図9に示すように、助勢装置90は、制動操作部材321が接続されている入力部91と、マスタシリンダ82のピストン821を押圧する出力部92とを有している。入力部91は、制動操作部材321の操作に応じて軸線方向D1に変位する。出力部92は、軸線方向D1において入力部91とマスタシリンダ82との間に配置されている。
【0085】
また、助勢装置90は、第1電気モータ93、第2電気モータ94及び作動機構95を備えている。作動機構95は、第1電気モータ93の出力を入力部91に伝達する第1伝達機構951と、第2電気モータ94の出力を出力部92に伝達する第2伝達機構952と、入力部91の出力を出力部92に出力する第3伝達機構953とを有している。この構成によれば、運転者の制動操作中における各電気モータ93,94の駆動態様を可変させることにより、制動操作部材321の操作量SBPと、助勢装置90からマスタシリンダ82への出力との関係を可変させることができる。
【0086】
なお、助勢装置90からマスタシリンダ82への出力が変わると、マスタシリンダ82で発生する液圧であるMC圧が変わる。このようにMC圧が変わると、制動アクチュエータ33を通じてマスタシリンダ82と連通する各ホイールシリンダ21内のWC圧が変わる。WC圧が変わると、車輪11,12に付与する摩擦制動力Fxfb、Fxrbが変わる。つまり、制動操作部材321の操作量SBPと、助勢装置90からマスタシリンダ82への出力との関係を変えるということは、制動操作部材321の操作量SBPと、車両制動力Fxとの関係である第1関係を変えることと同じである。したがって、本実施形態では、助勢装置90が、第1関係を可変する「制動関係調整部」に相当する。
【0087】
本実施形態の制動装置30を備える車両10には、車両10の走行モードを選択するために運転者によって操作される操作部121が設けられている。選択可能な走行モードとしては、例えば、通常モード、通常モードの選択時よりも車両10の急な加減速を繰り返す走行に適したモードであるスポーティモード、通常モードの選択時よりも車両10の加減速を抑制するモードであるラグジュアリーモードが用意されている。そして、選択された走行モードに関する情報が制御装置35に入力される。
【0088】
制御装置35は、機能部として、助勢装置90を制御する関係設定部356をさらに有している。関係設定部356は、操作部121の操作を通じて選択された走行モードを基に、第1関係を設定する。そして、関係設定部356は、運転者が制動操作を行っているときには、設定した第1関係を満たすように各電気モータ93,94を制御する。
【0089】
なお、制御装置35には、操作量検出センサ101及び車速センサ102の他、操作力検出センサ103からの検出信号が入力される。操作力検出センサ103は、運転者から制動操作部材321に入力される操作力PBPを検出し、操作力PBPに応じた信号を検出信号として出力する。このように操作量SBP及び操作力PBPの双方を取得できる制御装置35にあっては、操作量SBP及び操作力PBPの少なくとも一方に基づいて要求車両制動力FxRが要求制動力導出部351によって導出される。
【0090】
図10では、第1関係の基準となる第1基準関係CR10が実線で示されており、第1急制動関係CR11及び第1緩制動関係CR12がそれぞれ破線で示されている。第1基準関係CR10は、走行モードとして通常モードが選択されているときの第1関係である。第1急制動関係CR11は、走行モードとしてスポーティモードが選択されているときの第1関係である。第1緩制動関係CR12は、走行モードとしてラグジュアリーモードが選択されているときの第1関係である。
【0091】
図10に実線で示すように、第1基準関係CR10は、操作量SBPの変化に対する車両制動力Fxの変化の量を操作量SBPが多いほど大きくする関係である。図10に破線で示すように、第1急制動関係CR11は、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較し、操作量SBPが同じであっても車両制動力Fxを大きくできる第1関係である。図10に破線で示すように、第1緩制動関係CR12は、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較し、操作量SBPが同じであっても車両制動力Fxを小さくできる第1関係である。
【0092】
次に、図11を参照し、目標設定部352によって実行される上記ステップS12について説明する。ステップS12は、要求ピッチングモーメントMpR及び目標ピッチ角APTrを導出する処理である。
【0093】
上記ステップS11において配分比導出部353によって前後制動力配分比nが導出されると、処理が次のステップS12に移行される。ステップS12において、はじめのステップS121では、要求ピッチングモーメント基準値MpBが導出される。例えば、要求ピッチングモーメント基準値MpBは、上記第1実施形態におけるステップS12で導出された要求ピッチングモーメントMpRと等しい。続いて、次のステップS122では、ピッチングモーメント補正値Mpaが導出される。ピッチングモーメント補正値Mpaの導出処理については後述する。そして、次のステップS123において、要求ピッチングモーメント基準値MpBからピッチングモーメント補正値Mpaを引いた値が、要求ピッチングモーメントMpRとして算出される。続いて、ステップS124において、要求ピッチングモーメントMpRが小さいほど大きい値が、目標ピッチ角APTrとして算出される。目標ピッチ角APTrが算出されると、ステップS12の処理が終了され、処理が上記ステップS13に移行される。
【0094】
次に、図10及び図12を参照し、ステップS122の具体的な処理内容について説明する。ここで説明する処理は、目標設定部352によって実行される。
ステップS122では、要求車両制動力FxRが取得され、制動操作部材321の操作量SBPが取得される。そして、第1関係として第1基準関係CR10が設定されているという仮定の下、図10に示すように要求車両制動力FxRを実現するための操作量SBPが基準操作量SBPBとして導出される。
【0095】
続いて、現時点の操作量SBPから基準操作量SBPBを引いた値が操作量差ΔSBPとして算出される。例えば第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合、現時点の操作量SBPは基準操作量SBPBと等しいため、操作量差ΔSBPは「0」となる。第1関係として第1急制動関係CR11が設定されている場合、現時点の操作量SBPは基準操作量SBPBよりも少ないため、操作量差ΔSBPは負の値となる。第1関係として第1緩制動関係CR12が設定されている場合、現時点の操作量SBPは基準操作量SBPBよりも多いため、操作量差ΔSBPは正の値となる。
【0096】
そして、算出した操作量差ΔSBPを基に、第1補正値Mpa1が導出される。すなわち、操作量差ΔSBPが大きいときには、操作量差ΔSBPが小さいときよりも大きい値が第1補正値Mpa1として導出される。このように第1補正値Mpa1が導出されると、第1補正値Mpa1が大きいほど大きい値が、ピッチングモーメント補正値Mpaとして導出される。本実施形態では、ピッチングモーメント補正値Mpaとして第1補正値Mpa1が設定される。
【0097】
上記ステップS12によれば、ピッチングモーメント補正値Mpaが大きいほど、要求ピッチングモーメントMpRが小さくなる。そして、要求ピッチングモーメントMpRが小さいほど、目標ピッチ角APTrが大きくなる。したがって、第1関係が第1緩制動関係CR12であるために操作量差ΔSBPが正の値である場合では、第1関係が第1基準関係CR10であるために操作量差ΔSBPが「0」である場合と比較し、目標ピッチ角APTrが大きくなる。一方、第1関係が第1急制動関係CR11であるために操作量差ΔSBPが負の値である場合では、第1関係が第1基準関係CR10であるために操作量差ΔSBPが「0」である場合と比較し、目標ピッチ角APTrが小さくなる。
【0098】
図12には、操作量差ΔSBPを基に第1補正値Mpa1を導出するマップの一例が実線で示されている。図12に実線で示すマップMAP11では、操作量差ΔSBPが大きいほど大きい値が、第1補正値Mpa1として導出される。すなわち、操作量差ΔSBPが「0」である場合、第1補正値Mpa1として「0」が導出される。操作量差ΔSBPが正の値である場合、第1補正値Mpa1として正の値が導出される。具体的には、操作量差ΔSBPが大きいほど、第1補正値Mpa1が大きくなる。一方、操作量差ΔSBPが負の値である場合、第1補正値Mpa1として負の値が導出される。具体的には、操作量差ΔSBPの絶対値が大きいほど、第1補正値Mpa1の絶対値が大きくなる。
【0099】
本実施形態によれば、上記第1実施形態で説明した作用効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
制動装置30を備える車両10では、車両制動力Fxが大きいほど、目標ピッチ角APTrが大きくなる。そのため、第1関係として第1緩制動関係CR12が設定されている場合、車両制動力Fxを大きくしにくいため、車両制動時に車両10がノーズダイブ側にピッチング運動しにくい。つまり、車両10のピッチング姿勢が変化しにくい。
【0100】
ここで、自身の制動操作に応じて車両10のピッチング姿勢が早期に変化する場合、運転者によって、車両10が制動操作に対する反応の良い車両であると判断されることがある。言い換えると、自身の制動操作に応じて車両10のピッチング姿勢がなかなか変化しない場合、運転者によって、車両10が制動操作に対する反応の良くない車両であると判断されるおそれがある。
【0101】
この点、本実施形態では、第1関係として第1緩制動関係CR12が設定されている場合には、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRの増大が抑制される。その結果、第1関係として第1緩制動関係CR12が設定されている場合では、車両制動力Fxが同じであっても、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrを大きくできる。すなわち、第1関係として第1緩制動関係CR12が設定されている場合に、車両10のピッチング姿勢を早期に変化させることができる。したがって、第1関係として第1緩制動関係CR12が設定されている場合において、車両10が制動操作に対する反応の良くない車両であると運転者によって判断されることを抑制できる。
【0102】
一方、本実施形態では、第1関係として第1急制動関係CR11が設定されている場合には、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRの増大が助長される。その結果、第1関係として第1急制動関係CR11が設定されている場合では、車両制動力Fxが同じであっても、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrの増大が抑制される。すなわち、第1関係として第1急制動関係CR11が設定されている場合に、車両10のピッチ角APが大きくなりすぎたり、ピッチ角APの変化速度が高くなりすぎたりすることを抑制できる。
【0103】
(第3実施形態)
次に、車両の制動装置の第3実施形態を図12に従って説明する。本実施形態では、設定されている第1関係に基づいて要求ピッチングモーメントMpRを補正する処理の内容が第2実施形態と相違している。以下の説明においては、上記各実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0104】
本実施形態の制動装置30に適用される助勢装置90でも、上記第2実施形態の場合と同様に第1関係を変更可能である。
次に、上記ステップS122において、ピッチングモーメント補正値Mpa及び第1補正値Mpa1を導出する処理について説明する。本実施形態では、ステップS122は目標設定部352によって実行される。
【0105】
ステップS122では、要求車両制動力FxR及び基準操作量SBPBが導出される。続いて、現時点の操作量SBPから基準操作量SBPBを引いた値が操作量差ΔSBPとして算出される。そして、算出した操作量差ΔSBPを基に、第1補正値Mpa1が導出される。本実施形態では、操作量差ΔSBPが小さいときには、操作量差ΔSBPが大きいときよりも大きい値が第1補正値Mpa1として導出される。すると、第1補正値Mpa1が大きいほど大きい値が、ピッチングモーメント補正値Mpaとして導出される。本実施形態では、ピッチングモーメント補正値Mpaとして第1補正値Mpa1が設定される。
【0106】
図12には、操作量差ΔSBPを基に第1補正値Mpa1を導出するマップの一例が破線で示されている。図12に破線で示すマップMAP12では、操作量差ΔSBPが小さいほど大きい値が、第1補正値Mpa1として導出される。すなわち、操作量差ΔSBPが「0」である場合、第1補正値Mpa1として「0」が導出される。操作量差ΔSBPが負の値である場合、第1補正値Mpa1として正の値が導出される。具体的には、操作量差ΔSBPの絶対値が大きいほど、第1補正値Mpa1が大きくなる。一方、操作量差ΔSBPが正の値である場合、第1補正値Mpa1として負の値が導出される。具体的には、操作量差ΔSBPが大きいほど、第1補正値Mpa1の絶対値が大きくなる。
【0107】
本実施形態によれば、上記第1実施形態で説明した作用効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
第1関係として第1急制動関係CR11が設定されている場合には、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRが大きくなりにくい。その結果、第1関係として第1急制動関係CR11が設定されている場合では、車両制動力Fxが同じであっても、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrを大きくできる。すなわち、第1関係として第1急制動関係CR11が設定されている場合に、車両10のピッチ角APを早期に大きくできる。その結果、車両制動の初期に車両10のピッチ角APをある程度大きくし、その後ではピッチ角APが大きい状態を保持しつつ車両10を減速させることが可能となる。
【0108】
一方、第1関係として第1緩制動関係CR12が設定されている場合には、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRの増大が助長される。その結果、第1関係として第1緩制動関係CR12が設定されている場合では、車両制動力Fxが同じであっても、第1関係として第1基準関係CR10が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrの増大が抑制される。すなわち、第1関係として第1緩制動関係CR12が設定されている場合にあっては、車両制動中における車両10のピッチング姿勢の変化を抑制できる。
【0109】
(第4実施形態)
次に、車両の制動装置の第4実施形態を図13図14に従って説明する。本実施形態では、目標ピッチ角APTr及び要求ピッチングモーメントMpRの設定処理の内容などが第2実施形態と相違している。以下の説明においては、上記各実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0110】
本実施形態の制動装置30の助勢装置90は、運転者の制動操作中における各電気モータ93,94の駆動態様を可変させることにより、制動操作部材321に入力される操作力PBPと、助勢装置90からマスタシリンダ82への出力との関係を可変させることができる。助勢装置90からマスタシリンダ82への出力が変わると、マスタシリンダ82のMC圧が変わる。このようにMC圧が変わると、各ホイールシリンダ21内のWC圧が変わるため、車輪11,12に付与する摩擦制動力Fxfb、Fxrbが変わる。つまり、制動操作部材321に入力される操作力PBPと、助勢装置90からマスタシリンダ82への出力との関係を変えるということは、操作力PBPと、車両制動力Fxとの関係である第2関係を変えることと同じである。したがって、本実施形態では、助勢装置90が、第2関係を可変する「制動関係調整部」に相当する。
【0111】
制御装置35の関係設定部356は、操作部121の操作を通じて選択された走行モードを基に、第2関係を設定する。そして、関係設定部356は、運転者が制動操作を行っているときには、設定した第2関係を満たすように各電気モータ93,94を制御する。
【0112】
図13では、第2関係の基準となる第2基準関係CR20が実線で示されており、第2急制動関係CR21及び第2緩制動関係CR22がそれぞれ破線で示されている。第2基準関係CR20は、走行モードとして通常モードが選択されているときの第2関係である。第2急制動関係CR21は、走行モードとしてスポーティモードが選択されているときの第2関係である。第2緩制動関係CR22は、走行モードとしてラグジュアリーモードが選択されているときの第2関係である。
【0113】
図13に実線で示すように、第2基準関係CR20は、操作力PBPの変化に対する車両制動力Fxの変化の量を操作力PBPが大きいほど大きくする関係である。図13に破線で示すように、第2急制動関係CR21は、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較し、操作力PBPが同じであっても車両制動力Fxを大きくできる第2関係である。図13に破線で示すように、第2緩制動関係CR22は、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較し、操作力PBPが同じであっても車両制動力Fxを小さくできる第2関係である。
【0114】
次に、要求ピッチングモーメントMpRを導出する上記ステップS12について説明する。本実施形態では、目標設定部352によってステップS12が実行される。
ステップS12において、はじめのステップS121では、上記第2実施形態と同様に要求ピッチングモーメント基準値MpBが導出される。続いて、次のステップS122では、ピッチングモーメント補正値Mpaが導出される。次のステップS123において、要求ピッチングモーメント基準値MpBからピッチングモーメント補正値Mpaを引いた値が、要求ピッチングモーメントMpRとして算出される。すると、ステップS12の処理が終了され、処理が上記ステップS13に移行される。
【0115】
次に、図13及び図14を参照し、上記ステップS122の具体的な処理内容について説明する。
ステップS122では、要求車両制動力FxRが取得され、制動操作部材321に入力される操作力PBPが取得される。そして、第2関係として第2基準関係CR20が設定されているという仮定の下、図13に示すように要求車両制動力FxRを実現するための操作力PBPが基準操作力PBPBとして導出される。
【0116】
続いて、現時点の操作力PBPから基準操作力PBPBを引いた値が操作力差ΔPBPとして算出される。例えば第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合、現時点の操作力PBPは基準操作力PBPBと等しいため、操作力差ΔPBPは「0」となる。第2関係として第2急制動関係CR21が設定されている場合、現時点の操作力PBPは基準操作力PBPBよりも小さいため、操作力差ΔPBPは負の値となる。第2関係として第2緩制動関係CR22が設定されている場合、現時点の操作力PBPは基準操作力PBPBよりも大きいため、操作力差ΔPBPは正の値となる。
【0117】
そして、算出した操作力差ΔPBPを基に、第2補正値Mpa2が導出される。すなわち、操作力差ΔPBPが大きいときには、操作力差ΔPBPが小さいときよりも大きい値が第2補正値Mpa2として導出される。このように第2補正値Mpa2が導出されると、第2補正値Mpa2が大きいほど大きい値が、ピッチングモーメント補正値Mpaとして導出される。本実施形態では、ピッチングモーメント補正値Mpaとして第2補正値Mpa2が設定される。
【0118】
上記ステップS12によれば、ピッチングモーメント補正値Mpaが大きいほど、要求ピッチングモーメントMpRが小さくなる。また、要求ピッチングモーメントMpRが小さいほど、目標ピッチ角APTrが大きくなる。したがって、第2関係が第2緩制動関係CR22であるために操作力差ΔPBPが正の値である場合では、第2関係が第2基準関係CR20であるために操作力差ΔPBPが「0」である場合と比較し、目標ピッチ角APTrが大きくなる。一方、第2関係が第2急制動関係CR21であるために操作力差ΔPBPが負の値である場合では、第2関係が第2基準関係CR20であるために操作力差ΔPBPが「0」である場合と比較し、目標ピッチ角APTrが小さくなる。
【0119】
図14には、操作力差ΔPBPを基に第2補正値Mpa2を導出するマップの一例が実線で示されている。図14に実線で示すマップMAP21では、操作力差ΔPBPが大きいほど大きい値が、第2補正値Mpa2として導出される。すなわち、操作力差ΔPBPが「0」である場合、第2補正値Mpa2として「0」が導出される。操作力差ΔPBPが正の値である場合、第2補正値Mpa2として正の値が導出される。具体的には、操作力差ΔPBPが大きいほど、第2補正値Mpa2が大きくなる。一方、操作力差ΔPBPが負の値である場合、第2補正値Mpa2として負の値が導出される。具体的には、操作力差ΔPBPの絶対値が大きいほど、第2補正値Mpa2の絶対値が大きくなる。
【0120】
本実施形態によれば、上記第1実施形態で説明した作用効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
制動装置30を備える車両10では、車両制動力Fxが大きいほど、目標ピッチ角APTrが大きくなる。そのため、第2関係として第2緩制動関係CR22が設定されている場合、車両制動力Fxを大きくしにくいため、車両制動時に車両10がノーズダイブ側にピッチング運動がしにくい。つまり、車両10のピッチング姿勢が変化しにくい。
【0121】
本実施形態では、第2関係として第2緩制動関係CR22が設定されている場合には、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRの増大が抑制される。その結果、第2関係として第2緩制動関係CR22が設定されている場合では、車両制動力Fxが同じであっても、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrを大きくできる。すなわち、第2関係として第2緩制動関係CR22が設定されている場合に、車両10のピッチング姿勢を早期に変化させることができる。したがって、第2関係として第2緩制動関係CR22が設定されている場合において、車両10が制動操作に対する反応の良くない車両であると運転者によって判断されることを抑制できる。
【0122】
一方、本実施形態では、第2関係として第2急制動関係CR21が設定されている場合には、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRの増大が助長される。その結果、第2関係として第2急制動関係CR21が設定されている場合では、車両制動力Fxが同じであっても、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrの増大が抑制される。すなわち、第2関係として第2急制動関係CR21が設定されている場合に、車両10のピッチ角APが大きくなりすぎたり、ピッチ角APの変化速度が高くなりすぎたりすることを抑制できる。
【0123】
(第5実施形態)
次に、車両の制動装置の第5実施形態を図14に従って説明する。本実施形態では、設定されている第2関係に基づいて要求ピッチングモーメントMpRを補正する処理の内容が第4実施形態と相違している。以下の説明においては、上記各実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0124】
本実施形態の制動装置30に適用される助勢装置90でも、上記第4実施形態の場合と同様に第2関係を変更可能である。
次に、上記ステップS122において、ピッチングモーメント補正値Mpa及び第2補正値Mpa2を導出する処理について説明する。本実施形態では、ステップS122は目標設定部352によって実行される。
【0125】
ステップS122では、要求車両制動力FxR及び基準操作力PBPBが導出される。続いて、現時点の操作力PBPから基準操作力PBPBを引いた値が操作力差ΔPBPとして算出される。そして、算出した操作力差ΔPBPを基に、第2補正値Mpa2が導出される。本実施形態では、操作力差ΔPBPが小さいときには、操作力差ΔPBPが大きいときよりも大きい値が第2補正値Mpa2として導出される。すると、第2補正値Mpa2が大きいほど大きい値が、ピッチングモーメント補正値Mpaとして導出される。本実施形態では、ピッチングモーメント補正値Mpaとして第2補正値Mpa2が設定される。
【0126】
図14には、操作力差ΔPBPを基に第2補正値Mpa2を導出するマップの一例が破線で示されている。図14に破線で示すマップMAP22では、操作力差ΔPBPが小さいほど大きい値が、第2補正値Mpa2として導出される。すなわち、操作力差ΔPBPが「0」である場合、第2補正値Mpa2として「0」が導出される。操作力差ΔPBPが負の値である場合、第2補正値Mpa2として正の値が導出される。具体的には、操作力差ΔPBPの絶対値が大きいほど、第2補正値Mpa2が大きくなる。一方、操作力差ΔPBPが正の値である場合、第2補正値Mpa2として負の値が導出される。具体的には、操作力差ΔPBPが大きいほど、第2補正値Mpa2の絶対値が大きくなる。
【0127】
本実施形態によれば、上記第1実施形態で説明した作用効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
第2関係として第2急制動関係CR21が設定されている場合には、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRが大きくなりにくい。その結果、第2関係として第2急制動関係CR21が設定されている場合では、車両制動力Fxが同じであっても、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrを大きくできる。すなわち、第2関係として第2急制動関係CR21が設定されている場合に、車両10のピッチ角APを早期に大きくできる。その結果、車両制動の初期に車両10のピッチ角APをある程度大きくし、その後ではピッチ角APが大きい状態を保持しつつ車両10を減速させることが可能となる。
【0128】
一方、第2関係として第2緩制動関係CR22が設定されている場合には、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRの増大が助長される。その結果、第2関係として第2緩制動関係CR22が設定されている場合では、車両制動力Fxが同じであっても、第2関係として第2基準関係CR20が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrの増大が抑制される。すなわち、第2関係として第2緩制動関係CR22が設定されている場合にあっては、車両制動中における車両10のピッチング姿勢の変化を抑制できる。
【0129】
(第6実施形態)
次に、車両の制動装置の第6実施形態を図15及び図16に従って説明する。本実施形態では、目標ピッチ角APTr及び要求ピッチングモーメントMpRの設定処理の内容などが第2実施形態と相違している。以下の説明においては、上記各実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0130】
本実施形態の制動装置30の助勢装置90は、運転者の制動操作中における各電気モータ93,94の駆動態様を可変させることにより、制動操作部材321の操作量SBPと、制動操作部材321に入力される操作力PBPとの関係である第3関係を可変させることができる。操作量SBPと操作力PBPとを基に要求車両制動力FxRを導出する構成の場合、第3関係が変わると、助勢装置90からマスタシリンダ82への出力が変わり、結果として、マスタシリンダ82のMC圧が変わる。このようにMC圧が変わると、各ホイールシリンダ21内のWC圧が変わるため、車輪11,12に付与する摩擦制動力Fxfb,Fxrbが変わる。つまり、第3関係を変えることにより、車両制動力Fxの推移を変えることができる。したがって、本実施形態では、助勢装置90が、第3関係を可変する「制動関係調整部」に相当する。
【0131】
制御装置35の関係設定部356は、操作部121の操作を通じて選択された走行モードを基に、第3関係を設定する。そして、関係設定部356は、運転者が制動操作を行っているときには、設定した第3関係を満たすように各電気モータ93,94を制御する。
【0132】
なお、本実施形態では、要求制動力導出部351は、操作量SBPが多いほど大きい値を要求車両制動力FxRとして導出する。
図15では、第3関係の基準となる第3基準関係CR30が実線で示されており、第3急制動関係CR31が二点鎖線で示されており、第3緩制動関係CR32が破線で示されている。第3基準関係CR30は、走行モードとして通常モードが選択されているときの第3関係である。第3急制動関係CR31は、走行モードとしてスポーティモードが選択されているときの第3関係である。第3緩制動関係CR32は、走行モードとしてラグジュアリーモードが選択されているときの第3関係である。
【0133】
図15に実線で示すように、第3基準関係CR30は、操作力PBPの増大に対してほぼ一次関数的に操作量SBPを大きくする関係である。
図15に二点鎖線で示すように、第3急制動関係CR31は、操作力PBPがそれほど大きくないときには、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較し、操作力PBPが同じであっても操作量SBPを大きくし、ひいては車両制動力Fxを大きくする第3関係である。ただし、第3急制動関係CR31は、操作力PBPがある程度大きくなると、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較し、操作力PBPが同じであっても操作量SBPが大きくならない第3関係である。
【0134】
図15に破線で示すように、第3緩制動関係CR32は、操作力PBPがそれほど大きくないときには、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較し、操作力PBPが同じであっても操作量SBPを小さくし、ひいては車両制動力Fxを小さくする第3関係である。ただし、第3緩制動関係CR32は、操作力PBPがある程度大きくなると、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較し、操作力PBPが同じであっても操作量SBPが大きくなる第3関係である。
【0135】
次に、要求ピッチングモーメントMpRを導出する上記ステップS12について説明する。本実施形態では、目標設定部352によってステップS12が実行される。
ステップS12において、はじめのステップS121では、上記第2実施形態と同様に要求ピッチングモーメント基準値MpBが導出される。続いて、次のステップS122では、ピッチングモーメント補正値Mpaが導出される。次のステップS123において、要求ピッチングモーメント基準値MpBからピッチングモーメント補正値Mpaを引いた値が、要求ピッチングモーメントMpRとして算出される。そして、次のステップS124において、要求ピッチングモーメントMpRが小さいほど大きい値が、目標ピッチ角APTrとして算出される。目標ピッチ角APTrが算出されると、ステップS12の処理が終了され、処理が上記ステップS13に移行される。
【0136】
次に、図15図16を参照し、上記ステップS122の具体的な処理内容について説明する。
ステップS122では、要求車両制動力FxRが取得され、制動操作部材321に入力される操作力PBPが取得される。また、制動操作部材321の操作量SBPが取得される。そして、第3関係として第3基準関係CR30が設定されているという仮定の下、図15に示すように、現時点の操作量SBPに応じた操作力PBPが基準操作力PBP1Bとして導出される。
【0137】
続いて、現時点の操作力PBPから基準操作力PBP1Bを引いた値が操作力差ΔPBP1として算出される。例えば第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合、現時点の操作力PBPは基準操作力PBP1Bと等しいため、操作力差ΔPBP1は「0」となる。第3関係として第3急制動関係CR31が設定されている場合、現時点の操作力PBPは基準操作力PBP1Bよりも小さいため、操作力差ΔPBP1は負の値となる。第3関係として第3緩制動関係CR32が設定されている場合、現時点の操作力PBPは基準操作力PBP1Bよりも大きいため、操作力差ΔPBP1は正の値となる。
【0138】
そして、算出した操作力差ΔPBP1を基に、第3補正値Mpa3が導出される。すなわち、操作力差ΔPBP1が大きいときには、操作力差ΔPBP1が小さいときよりも大きい値が第3補正値Mpa3として導出される。このように第3補正値Mpa3が導出されると、第3補正値Mpa3が大きいほど大きい値が、ピッチングモーメント補正値Mpaとして導出される。本実施形態では、ピッチングモーメント補正値Mpaとして第3補正値Mpa3が設定される。
【0139】
上記ステップS12によれば、ピッチングモーメント補正値Mpaが大きいほど、要求ピッチングモーメントMpRが小さくなる。そして、要求ピッチングモーメントMpRが小さいほど、目標ピッチ角APTrが大きくなる。したがって、第3関係が第3緩制動関係CR32であるために操作力差ΔPBP1が正の値である場合では、第3関係が第3基準関係CR30であるために操作力差ΔPBP1が「0」である場合と比較し、目標ピッチ角APTrが大きくなる。一方、第3関係が第3急制動関係CR31であるために操作力差ΔPBP1が負の値である場合では、第3関係が第3基準関係CR30であるために操作力差ΔPBPが「0」である場合と比較し、目標ピッチ角APTrが小さくなる。
【0140】
図16には、操作力差ΔPBP1を基に第3補正値Mpa3を導出するマップの一例が実線で示されている。図16に実線で示すマップMAP31では、操作力差ΔPBP1が大きいほど大きい値が、第3補正値Mpa3として導出される。すなわち、操作力差ΔPBP1が「0」である場合、第3補正値Mpa3として「0」が導出される。操作力差ΔPBP1が正の値である場合、第3補正値Mpa3として正の値が導出される。具体的には、操作力差ΔPBP1が大きいほど、第3補正値Mpa3が大きくなる。一方、操作力差ΔPBP1が負の値である場合、第3補正値Mpa3として負の値が導出される。具体的には、操作力差ΔPBP1の絶対値が大きいほど、第3補正値Mpa3の絶対値が大きくなる。
【0141】
本実施形態によれば、上記第1実施形態で説明した作用効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
制動装置30を備える車両10では、車両制動力Fxが大きいほど、目標ピッチ角APTrが大きくなる。そのため、第3関係として第3緩制動関係CR32が設定されている場合、操作量SBPが多くなりにくい分、車両制動力Fxを大きくしにくい。そのため、車両制動時に車両10がノーズダイブ側にピッチング運動がしにくい。つまり、車両10のピッチング姿勢が変化しにくい。
【0142】
本実施形態では、第3関係として第3緩制動関係CR32が設定されている場合には、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRの増大が抑制される。その結果、第3関係として第3緩制動関係CR32が設定されている場合では、操作量SBPが同じであるために車両制動力Fxが同じであっても、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrを大きくできる。すなわち、第3関係として第3緩制動関係CR32が設定されている場合に、車両10のピッチング姿勢を早期に変化させることができる。したがって、第3関係として第3緩制動関係CR32が設定されている場合において、車両10が制動操作に対する反応の良くない車両であると運転者によって判断されることを抑制できる。
【0143】
一方、本実施形態では、第3関係として第3急制動関係CR31が設定されている場合には、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRの増大が助長される。その結果、第3関係として第3急制動関係CR31が設定されている場合では、操作量SBPが同じであるために車両制動力Fxが同じであっても、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrの増大が抑制される。すなわち、第3関係として第3急制動関係CR31が設定されている場合に、車両10のピッチ角APが大きくなりすぎたり、ピッチ角APの変化速度が高くなりすぎたりすることを抑制できる。
【0144】
(第7実施形態)
次に、車両の制動装置の第7実施形態を図16に従って説明する。本実施形態では、設定されている第3関係に基づいて要求ピッチングモーメントMpRを補正する処理の内容が第6実施形態と相違している。以下の説明においては、上記各実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0145】
本実施形態の制動装置30に適用される助勢装置90でも、上記第6実施形態の場合と同様に第3関係を変更可能である。
次に、上記ステップS122において、ピッチングモーメント補正値Mpa及び第3補正値Mpa3を導出する処理について説明する。本実施形態では、ステップS122は目標設定部352によって実行される。
【0146】
ステップS122では、要求車両制動力FxR及び基準操作力PBP1Bが導出される。続いて、現時点の操作力PBPから基準操作力PBP1Bを引いた値が操作力差ΔPBP1として算出される。そして、算出した操作力差ΔPBP1を基に、第3補正値Mpa3が導出される。本実施形態では、操作力差ΔPBP1が小さいときには、操作力差ΔPBP1が大きいときよりも大きい値が第3補正値Mpa3として導出される。すると、第3補正値Mpa3が大きいほど大きい値が、ピッチングモーメント補正値Mpaとして導出される。本実施形態では、ピッチングモーメント補正値Mpaとして第3補正値Mpa3が設定される。
【0147】
図16には、操作力差ΔPBP1を基に第3補正値Mpa3を導出するマップの一例が破線で示されている。図16に破線で示すマップMAP32では、操作力差ΔPBP1が小さいほど大きい値が、第3補正値Mpa3として導出される。すなわち、操作力差ΔPBP1が「0」である場合、第3補正値Mpa3として「0」が導出される。操作力差ΔPBP1が負の値である場合、第3補正値Mpa3として正の値が導出される。具体的には、操作力差ΔPBP1の絶対値が大きいほど、第3補正値Mpa3が大きくなる。一方、操作力差ΔPBP1が正の値である場合、第3補正値Mpa3として負の値が導出される。具体的には、操作力差ΔPBP1が大きいほど、第3補正値Mpa3の絶対値が大きくなる。
【0148】
本実施形態によれば、上記第1実施形態で説明した作用効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
第3関係として第3急制動関係CR31が設定されている場合には、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRが大きくなりにくい。その結果、第3関係として第3急制動関係CR31が設定されている場合では、操作量SBPが同じであるために車両制動力Fxが同じであっても、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrを大きくできる。すなわち、第3関係として第3急制動関係CR31が設定されている場合に、車両10のピッチ角APを早期に大きくできる。その結果、車両制動の初期に車両10のピッチ角APをある程度大きくし、その後ではピッチ角APが大きい状態を保持しつつ車両10を減速させることが可能となる。
【0149】
一方、第3関係として第3緩制動関係CR32が設定されている場合には、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRの増大が助長される。その結果、第3関係として第3緩制動関係CR32が設定されている場合では、操作量SBPが同じであるために車両制動力Fxが同じであっても、第3関係として第3基準関係CR30が設定されている場合と比較して目標ピッチ角APTrの増大が抑制される。すなわち、第3関係として第3緩制動関係CR32が設定されている場合にあっては、車両制動中における車両10のピッチング姿勢の変化を抑制できる。
【0150】
(第8実施形態)
次に、車両の制動装置の第8実施形態を図17に従って説明する。本実施形態では、車両制動中に目標ピッチ角APTrを次第に大きくする点などが第1実施形態及び第2実施形態と相違している。以下の説明においては、上記各実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0151】
本実施形態では、要求ピッチングモーメントMpRを導出する場合、図11に示したような処理が目標設定部352によって実行される。すなわち、ステップS121で要求ピッチングモーメント基準値MpBが導出されると、次のステップS122において、ピッチングモーメント補正値Mpaが導出される。そして、ステップS123において、要求ピッチングモーメント基準値MpBからピッチングモーメント補正値Mpaを引いた値が、要求ピッチングモーメントMpRとして算出される。
【0152】
次に、図17を参照し、ピッチングモーメント補正値Mpaの導出処理について説明する。本実施形態でも、目標設定部352によってピッチングモーメント補正値Mpaの導出処理が実行される。
【0153】
図17(a)に示すように、車両制動力Fxとして要求車両制動力FxRの推移が取得される。そして、取得される要求車両制動力FxRに対してフィルタ処理を施し、フィルタ処理後の値が、フィルタ後車両制動力FxAとして導出される。
【0154】
本実施形態で実行されるフィルタ処理は、所定の周波数範囲以外の変化を遮断する処理である。例えば、所定の周波数範囲は、運転者が制動操作を保持しているときの車両制動力Fxが一定、あるいは車両制動力Fxのわずかなゆっくりとした変化を検出するものの、運転者が意識的に車両制動力Fxを変化させているときの車両制動力Fxの変化を遮断するように設定される。そのため、タイミングt11以前のように車両制動力Fxが変動している場合、フィルタ後車両制動力FxAとして「0」が導出される。一方、タイミングt11以降のように車両制動力Fxが変動しないようになると、フィルタ後車両制動力FxAが大きくなり始める。すなわち、タイミングt11以降では、時間の経過に従ってフィルタ後車両制動力FxAが次第に大きくなる。
【0155】
そして、図17(a),(b)に示すように、フィルタ後車両制動力FxAが判定制動力FxTh未満である場合、ピッチングモーメント補正値Mpaとして「0」が導出される。図17に示す例では、タイミングt12でフィルタ後車両制動力FxAが判定制動力FxThに達する。そのため、タイミングt12以降では、正の値がピッチングモーメント補正値Mpaとして導出される。すなわち、タイミングt12以降では、時間が経過するにつれてピッチングモーメント補正値Mpaが次第に大きくなる。
【0156】
例えば、フィルタ後車両制動力FxAから判定制動力FxThを引いた値が正の値である場合、フィルタ後車両制動力FxAから判定制動力FxThを引いた値が大きいほど、ピッチングモーメント補正値Mpaを大きくするようにしてもよい。また、フィルタ後車両制動力FxAが判定制動力FxTh以上である場合、フィルタ後車両制動力FxAが判定制動力FxThに達した時点からの経過時間に比例してピッチングモーメント補正値Mpaを大きくするようにしてもよい。
【0157】
このようにピッチングモーメント補正値Mpaとして正の値が導出されるようになると、ピッチングモーメント補正値Mpaが「0」である場合と比較し、要求ピッチングモーメントMpRが小さくなる。その結果、目標ピッチ角APTrが大きくなる。
【0158】
本実施形態では、要求ピッチングモーメントMpRが小さくなると、配分比導出部353によって、前後制動力配分比n、前輪11の摩擦回生配分比nf及び後輪12の摩擦回生配分比nrのうちの少なくとも1つの配分比が変更される。すると、作動指示部354によって導出される前輪摩擦制動力要求値FxfbR、後輪摩擦制動力要求値FxrbR、前輪回生制動力要求値FxfdR、後輪回生制動力要求値FxrdRが調整される。そして、こうした各制動力要求値FxfbR,FxrbR,FxfdR,FxrdRを基に、モータジェネレータ51F,51R及び制動アクチュエータ33が作動することにより、車両制動力Fxを保持しつつ、車両10のピッチ角APが大きくなる。
【0159】
すなわち、フィルタ後車両制動力FxAが大きくなり始めるということは、車両制動力Fxが保持されているとの判定をなすことができる。本実施形態では、車両制動力Fxが保持されているとの判定がなされているときに、ピッチングモーメント補正値Mpaとして正の値が導出されるようになる。これにより、目標設定部352では、要求ピッチングモーメントMpRを小さくすることができ、ひいては目標ピッチ角APTrを大きくできる。すなわち、目標設定部352は、車両制動時には、車両制動の開始時点からの時間の経過に従って目標ピッチ角APTrを大きくできる。したがって、車両制動力Fxを保持しつつも、車両10のピッチ角APを大きくすることにより、車両10の減速度が大きくなったような感覚を運転者に与えることができる。
【0160】
(第9実施形態)
次に、車両の制動装置の第9実施形態を図18に従って説明する。本実施形態では、車両制動中に目標ピッチ角APTrを次第に大きくする処理の内容が第8実施形態と相違している。以下の説明においては、上記各実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0161】
図18を参照し、ピッチングモーメント補正値Mpaの導出処理について説明する。本実施形態では、本処理ルーチンは、車両制動時には目標設定部352によって繰り返し実行される。
【0162】
本処理ルーチンにおいて、ステップS51では、制動要求があるか否かの判定が行われる。例えば、制動操作部材321の操作量SBPや制動操作部材321に入力される操作力PBPを基に、制動要求があるか否かの判定を行うことができる。もちろん、自動制動時にあっては、自動運転の制御を司る他の制御装置から減速要求があったときに、制動要求があると判定することもできる。
【0163】
制動要求があるとの判定がなされていない場合(S51:NO)、処理が次のステップS52に移行される。ステップS52において、制動要求があるとの判定がなされるようになった時点からの経過時間TMが「0」にリセットされる。その後、処理が後述するステップS55に移行される。
【0164】
一方、ステップS51において、制動要求があるとの判定がなされている場合(YES)、処理が次のステップS53に移行される。ステップS53において、経過時間TMが更新される。続いて、ステップS54において、更新した経過時間TMが判定経過時間TMThよりも長いか否かの判定が行われる。
【0165】
ここで、車両制動の初期では、要求車両制動力FxRが増大される。そして、要求車両制動力FxRがある程度の大きさになると、要求車両制動力FxRがほぼ保持されるようになる。
【0166】
そこで、本実施形態では、判定経過時間TMThは、車両制動によって車速VSが低下してきたか否かの判断基準であり、且つ、目標ピッチ角APTrを増大補正するか否かの判断基準として設定されている。そして、ステップS54において、経過時間TMが判定経過時間TMTh以下である場合(NO)、処理が次のステップS55に移行される。
【0167】
ステップS55において、ピッチングモーメント補正値Mpaとして「0」が導出される。この場合、目標ピッチ角APTrの増大補正が行われない。そして、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0168】
一方、ステップS54において、経過時間TMが判定経過時間TMThよりも長い場合(YES)、処理が次のステップS56に移行される。ステップS56において、ピッチングモーメント補正値Mpaとして正の値が導出される。例えば、経過時間TMから判定経過時間TMThを引いた値とゲイン値Gainとの積が、ピッチングモーメント補正値Mpaとして算出される。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0169】
このようにピッチングモーメント補正値Mpaが導出されると、要求ピッチングモーメントMpRが減少補正される。その結果、目標ピッチ角APTrが大きくなる。すなわち、目標設定部352は、車両制動時には、車両制動の開始時点からの車速VSの低下に従って目標ピッチ角APTrを大きくする。
【0170】
本実施形態では、要求ピッチングモーメントMpRが小さくなると、配分比導出部353によって、前後制動力配分比n、前輪11の摩擦回生配分比nf及び後輪12の摩擦回生配分比nrのうちの少なくとも1つの配分比が変更される。すると、作動指示部354によって導出される前輪摩擦制動力要求値FxfbR、後輪摩擦制動力要求値FxrbR、前輪回生制動力要求値FxfdR、後輪回生制動力要求値FxrdRが調整される。そして、こうした各制動力要求値FxfbR,FxrbR,FxfdR,FxrdRを基に、モータジェネレータ51F,51R及び制動アクチュエータ33が作動することにより、車両制動力Fxを保持しつつ、車両10のピッチ角APが大きくなる。
【0171】
したがって、本実施形態では、車両制動力Fxを保持しつつも、車両10のピッチ角APを大きくすることにより、車両10の減速度が大きくなったような感覚を運転者に与えることができる。
【0172】
(第10実施形態)
次に、車両の制動装置の第10実施形態を図19に従って説明する。本実施形態では、車両制動中に目標ピッチ角APTrを次第に大きくする際に車両制動力も大きくする点などが第8実施形態と相違している。以下の説明においては、上記各実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、上記各実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0173】
本実施形態では、車両制動中において、要求車両制動力FxRが保持されているとの判定がなされているときに、要求制動力導出部351によって要求車両制動力FxRが増大される。例えば、要求車両制動力FxRの増大量が所定のオフセット制動力ΔFxRとなるように、要求車両制動力FxRが徐々に増大される。
【0174】
このように要求車両制動力FxRが増大されると、目標設定部352によって、目標ピッチ角APTr及び要求ピッチングモーメントMpRが変更される。すなわち、要求車両制動力FxRの増大に従って、目標ピッチ角APTrが増大される。すると、要求ピッチングモーメントMpRは、目標ピッチ角APTrの増大に従って減少される。
【0175】
要求ピッチングモーメントMpRが導出されると、配分比導出部353によって、前後制動力配分比n、前輪11の摩擦回生配分比nf及び後輪12の摩擦回生配分比nrが導出される。この際、以下の条件を満たすように、前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrが導出される。
・目標ピッチ角APTrの増大に応じて車両10のピッチ角APを大きくすること。
・前輪回生制動力要求値FxfdRと後輪回生制動力要求値FxrdRとの和が、要求車両制動力FxRの増大量よりも大きくなること。
【0176】
このように導出した前輪摩擦制動力要求値FxfbR、後輪摩擦制動力要求値FxrbR、前輪回生制動力要求値FxfdR、後輪回生制動力要求値FxrdRを基に、モータジェネレータ51F,51R及び制動アクチュエータ33が作動することにより、車両制動力Fxを増大させつつ、車両10のピッチ角APを大きくすることができる。
【0177】
図19には、上記のように目標ピッチ角APTrを大きくする場合の一例が図示されている。図19(a),(b)に示すように、タイミングt20で制動操作が開始されると、制動操作部材321の操作量SBPの増大に応じて要求車両制動力FxRが増大される。そして、タイミングt21以降では、操作量SBPが保持されるため、要求車両制動力FxRが保持されるようになる。要求車両制動力FxRが保持されているとの判定がなされている状況下のタイミングt22で、操作量SBPが保持されているにも拘わらず、要求車両制動力FxRが増大されるようになる。
【0178】
すると、要求車両制動力FxRの増大に合わせ、前後制動力配分比n、前輪11の摩擦回生配分比nf及び後輪12の摩擦回生配分比nrが変更される。この際、要求車両制動力FxRの増大分よりも前輪回生制動力要求値FxfdRと後輪回生制動力要求値FxrdRとの和が大きくなるように、前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrが調整される。
【0179】
これにより、本実施形態では、車両10のピッチング姿勢を制御しつつ、車両制動力Fxのビルドアップを実現できる。また、このように車両制動力Fxをビルドアップさせる際に、車両10全体としての回生制動力をより大きくできる。その結果、車両制動時における発電量をより多くすることができる。
【0180】
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0181】
・第10実施形態において、タイミングt22以降でも操作量SBPが保持されている期間では、要求車両制動力FxRを増大させ続けるようにしてもよい。
・第8実施形態及び第9実施形態において、車両制動力Fxが保持されているとの判定がなされている期間中では、ピッチングモーメント補正値Mpaが閾値に達したときにはピッチングモーメント補正値Mpaを閾値で保持するようにしてもよい。
【0182】
・第2実施形態から第7実施形態では、第1関係、第2関係及び第3関係のうちの何れか1つの関係を変更対象関係とし、変更対象関係がどのような関係であるかに応じて目標ピッチ角APTr及び要求ピッチングモーメントMpRを導出するようにしている。しかし、第1関係、第2関係及び第3関係のうち、何れか2つの関係を変更対象関係とするようにしてもよい。例えば、第1関係と第2関係を変更対象関係とした場合、ピッチングモーメント補正値Mpaとしては、第1補正値Mpa1と第2補正値Mpa2との和に応じた値が設定されることになる。また、第1関係、第2関係及び第3関係の何れの関係をも変更対象関係としてもよい。この場合、ピッチングモーメント補正値Mpaとして、第1補正値Mpa1と第2補正値Mpa2と第3補正値Mpa3との和に応じた値が設定されることになる。
【0183】
・上記各実施形態では、前輪用係数の最大値Jfmaxが後輪用係数の最大値Jrmaxよりも大きい場合(S22:NO),ステップS25において、上記関係式(式19)の「Jr」に後輪用係数の最大値Jrmaxを代入することにより、摩擦回生配分比nrが算出される。また、次のステップS26では、上記関係式(式18)において、「Jf」として後輪用係数の最大値Jrmaxと等しい値を代入することにより、摩擦回生配分比nfが算出される。しかし、ステップS25では、上記関係式(式19)の「Jr」に後輪用係数の最大値Jrmaxよりも小さく且つ「0」よりも大きい値を代入することにより、摩擦回生配分比nrを導出するようにしてもよい。この場合、次のステップS26では、上記関係式(式18)において、摩擦回生配分比nrを算出するに際して「Jr」に代入した値を「Jf」に代入することにより、摩擦回生配分比nfが算出されることになる。
【0184】
・上記各実施形態では、前輪用係数の最大値Jfmaxが後輪用係数の最大値Jrmax以下である場合(S22:YES),ステップS23において、上記関係式(式18)の「Jf」に前輪用係数の最大値Jfmaxを代入することにより、摩擦回生配分比nfが算出される。また、次のステップS24では、上記関係式(式19)において、「Jr」として前輪用係数の最大値Jfmaxと等しい値を代入することにより、摩擦回生配分比nrが算出される。しかし、ステップS23では、上記関係式(式18)の「Jf」に前輪用係数の最大値Jfmaxよりも小さく且つ「0」よりも大きい値を代入することにより、摩擦回生配分比nfを導出するようにしてもよい。この場合、次のステップS24では、上記関係式(式19)において、摩擦回生配分比nfを算出するに際して「Jf」に代入した値を「Jr」に代入することにより、摩擦回生配分比nrが算出されることになる。
【0185】
・第2実施形態において、第1関係が第1緩制動関係CR12に調整されているときには、第1関係が第1緩制動関係CR12以外の関係CR10,CR11に調整されているときよりも目標ピッチ角APTrを大きくできるのであれば、上記実施形態とは異なるように第1補正値Mpa1を導出してもよい。例えば、操作量差ΔSBPが「0」よりも大きいときには、正の値を第1補正値Mpa1として導出する一方、操作量差ΔSBPが「0」以下であるときには第1補正値Mpa1として「0」を導出してもよい。
【0186】
・第3実施形態において、第1関係が第1急制動関係CR11に調整されているときには、第1関係が第1急制動関係CR11以外の関係CR10,CR12に調整されているときよりも目標ピッチ角APTrを大きくできるのであれば、上記実施形態とは異なるように第1補正値Mpa1を導出してもよい。例えば、操作量差ΔSBPが「0」よりも小さいときには、正の値を第1補正値Mpa1として導出する一方、操作量差ΔSBPが「0」以上であるときには第1補正値Mpa1として「0」を導出してもよい。
【0187】
・第4実施形態において、第2関係が第2緩制動関係CR22に調整されているときには、第2関係が第2緩制動関係CR22以外の関係CR20,CR21に調整されているときよりも目標ピッチ角APTrを大きくできるのであれば、上記実施形態とは異なるように第2補正値Mpa2を導出してもよい。例えば、操作力差ΔPBPが「0」よりも大きいときには、正の値を第2補正値Mpa2として導出する一方、操作力差ΔPBPが「0」以下であるときには第2補正値Mpa2として「0」を導出してもよい。
【0188】
・第5実施形態において、第2関係が第2急制動関係CR21に調整されているときには、第2関係が第2急制動関係CR21以外の関係CR20,CR22に調整されているときよりも目標ピッチ角APTrを大きくできるのであれば、上記実施形態とは異なるように第2補正値Mpa2を導出してもよい。例えば、操作力差ΔPBPが「0」よりも小さいときには、正の値を第2補正値Mpa2として導出する一方、操作力差ΔPBPが「0」以上であるときには第2補正値Mpa2として「0」を導出してもよい。
【0189】
・第6実施形態において、第3関係が第3緩制動関係CR32に調整されているときには、第3関係が第3緩制動関係CR32以外の関係CR30,CR31に調整されているときよりも目標ピッチ角APTrを大きくできるのであれば、上記実施形態とは異なるように第3補正値Mpa3を導出してもよい。例えば、操作力差ΔPBP1が「0」よりも大きいときには、正の値を第3補正値Mpa3として導出する一方、操作力差ΔPBP1が「0」以下であるときには第3補正値Mpa3として「0」を導出してもよい。
【0190】
・第7実施形態において、第3関係が第3急制動関係CR31に調整されているときには、第3関係が第3急制動関係CR31以外の関係CR30,CR32に調整されているときよりも目標ピッチ角APTrを大きくできるのであれば、上記実施形態とは異なるように第3補正値Mpa3を導出してもよい。例えば、操作力差ΔPBP1が「0」よりも小さいときには、正の値を第3補正値Mpa3として導出する一方、操作力差ΔPBP1が「0」以上であるときには第3補正値Mpa3として「0」を導出してもよい。
【0191】
・上記各実施形態において、アンチダイブ力FADの最大値FADMAX、アンチリフト力FALの最大値FALMAX、アンチダイブ力FADの最小値FADMIN及びアンチリフト力FALの最小値FALMINを導出した上で、要求ピッチングモーメントMpRを導出するようにしてもよい。これにより、上記のように前後制動力配分比n及び各摩擦回生配分比nf,nrを算出したときに、配分比n,nf,nrのうちの少なくとも1つの配分比が「0」未満になったり、「1」よりも大きくなったりすることを抑制できる。
【0192】
例えば、アンチダイブ力の最大値FADMAX、アンチリフト力の最大値FALMAX、アンチダイブ力の最小値FADMIN及びアンチリフト力の最小値FALMINは、以下の関係式(式20)、(式21)、(式22)及び(式23)のように表すことができる。
【0193】
【数10】
・車輪11,12に摩擦制動力を付与できるのであれば、摩擦制動機構20F,20Rは、上記各実施形態で説明した構成とは異なる機能であってもよい。例えば、摩擦制動機構20F,20Rは、ホイールシリンダ21を備えないで、電気モータの駆動量に応じた力で摩擦材23を回転体22に押し付ける機構のものであってもよい。こうした制動機構20F,20Rとしては、例えば、「特開2017-100507号公報」を挙げることができる。
【0194】
・前輪11用のサスペンション及び後輪12用のサスペンションのジオメトリが次に述べる条件を満たす車両に制動装置30を適用してもよい。すなわち、前輪制動力Fxfと後輪制動力Fxrとが互いに同じ値であるときには、アンチダイブ力FADのほうがアンチリフト力FALよりも大きくなること。
【0195】
・制御装置35は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェアなどの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。専用のハードウェアとしては、例えば、特定用途向け集積回路であるASICを挙げることができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0196】
次に、上記各実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)車両の前輪及び後輪のうちの少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を調整する回生制動装置を備える車両に適用され、
前記前輪に付与する摩擦制動力及び前記後輪に付与する摩擦制動力を調整する摩擦発生装置と、
制動操作部材の操作量と前記車両の制動力との関係である第1関係、前記制動操作部材に入力される操作力と前記車両の制動力との関係である第2関係、及び、前記操作量と前記操作力との関係である第3関係のうちの少なくとも1つの関係を可変する制動関係調整部と、
前記車両の制動力を制御する制御装置と、を備え、
前記前輪及び前記後輪のうちの回生制動力を付与可能な車輪である回生対象車輪に付与する制動力に対する当該回生対象車輪に付与する摩擦制動力の比を摩擦回生配分比とした場合、
前記制御装置は、
前記車両のピッチ角の目標である目標ピッチ角を設定する目標設定部と、
前記目標ピッチ角を基に、前記摩擦回生配分比を導出する配分比導出部と、
車両制動時には、前記車両の制動力の目標である目標車両制動力と、前記摩擦回生配分比とを基に、前記摩擦制動装置及び前記回生制動装置の作動を指示する作動指示部と、を有し、
前記第1関係、前記第2関係及び前記第3関係のうち、前記制動関係調整部によって変更される関係を、変更対象関係とした場合、
前記目標設定部は、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が基準関係である場合と比較して車両の制動力を小さくする関係に調整されているときには、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が前記基準関係である場合と比較して車両の制動力を大きくする関係に調整されているときよりも前記目標ピッチ角を大きくする。
【0197】
上記構成によれば、目標ピッチ角が設定されると、目標ピッチ角に応じた値が摩擦回生配分比として導出される。そして、この摩擦回生配分比と、目標車両制動力とを基に、摩擦制動装置及び回生制動装置を作動させることにより、車両制動時における車両のピッチ角と目標ピッチ角との乖離を抑制できる。また、変更対象関係が、当該変更対象関係が基準関係である場合と比較して車両の制動力を小さくする関係に調整されているときには、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が前記基準関係である場合と比較して車両の制動力を大きくする関係に調整されているときよりも目標ピッチ角として大きい値が設定される。そのため、変更対象関係が、当該変更対象関係が基準関係である場合と比較して車両の制動力を小さくする関係に調整されているときであっても、車両のピッチング姿勢を早期に変化させることができる。その結果、上記制動装置を備える車両が制動操作に対する反応が良くない車両であると運転者に判断されることを抑制できる。
【0198】
(ロ)車両の前輪及び後輪のうちの少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を調整する回生制動装置を備える車両に適用され、
前記前輪に付与する摩擦制動力及び前記後輪に付与する摩擦制動力を調整する摩擦発生装置と、
制動操作部材の操作量と前記車両の制動力との関係である第1関係、前記制動操作部材に入力される操作力と前記車両の制動力との関係である第2関係、及び、前記操作量と前記操作力との関係である第3関係のうちの少なくとも1つの関係を可変する制動関係調整部と、
前記車両の制動力を制御する制御装置と、を備え、
前記前輪及び前記後輪のうちの回生制動力を付与可能な車輪である回生対象車輪に付与する制動力に対する当該回生対象車輪に付与する回生制動力の比を摩擦回生配分比とした場合、
前記制御装置は、
前記車両のピッチ角の目標である目標ピッチ角を設定する目標設定部と、
前記目標ピッチ角を基に、前記摩擦回生配分比を導出する配分比導出部と、
車両制動時には、前記車両の制動力の目標である目標車両制動力と、前記摩擦回生配分比とを基に、前記摩擦制動装置及び前記回生制動装置の作動を指示する作動指示部と、を有し、
前記第1関係、前記第2関係及び前記第3関係のうち、前記制動関係調整部によって変更される関係を、変更対象関係とした場合、
前記目標設定部は、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が基準関係である場合と比較して車両の制動力を大きくする関係に調整されているときには、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が前記基準関係である場合と比較して車両の制動力を小さくする関係に調整されているときよりも前記目標ピッチ角を大きくする。
【0199】
上記構成によれば、目標ピッチ角が設定されると、目標ピッチ角に応じた値が摩擦回生配分比として導出される。そして、この摩擦回生配分比と、目標車両制動力とを基に、摩擦制動装置及び回生制動装置を作動させることにより、車両制動時における車両のピッチ角と目標ピッチ角との乖離を抑制できる。また、変更対象関係が、当該変更対象関係が基準関係である場合と比較して車両の制動力を大きくする関係に調整されているときには、前記変更対象関係が、当該変更対象関係が前記基準関係である場合と比較して車両の制動力を小さくする関係に調整されているときよりも目標ピッチ角として大きい値が設定される。そのため、変更対象関係が、当該変更対象関係が基準関係である場合と比較して車両の制動力を大きくする関係に調整されている場合にあっては、車両制動の初期に車両のピッチ角APをある程度大きくし、その後ではピッチ角が大きい状態を保持しつつ車両を減速させることが可能となる。
【0200】
(ハ)車両の前輪及び後輪のうちの少なくとも一方の車輪に付与する回生制動力を調整する回生制動装置を備える車両に適用され、
前記前輪に付与する摩擦制動力及び前記後輪に付与する摩擦制動力を調整する摩擦発生装置と、前記車両の制動力を制御する制御装置と、を備え、
前記前輪及び前記後輪のうちの回生制動力を付与可能な車輪である回生対象車輪に付与する制動力に対する当該回生対象車輪に付与する回生制動力の比を摩擦回生配分比とした場合、
前記制御装置は、
前記車両のピッチ角の目標である目標ピッチ角を設定する目標設定部と、
前記目標ピッチ角を基に、前記摩擦回生配分比を導出する配分比導出部と、
車両制動時には、前記車両の制動力の目標である目標車両制動力と、前記摩擦回生配分比とを基に、前記摩擦制動装置及び前記回生制動装置の作動を指示する作動指示部と、を有し、
前記目標設定部は、車両制動時には、車両制動の開始時点からの経過時間、又は、車両制動の開始時点からの車両の車体速度の低下に従って前記目標ピッチ角を大きくする。
【0201】
上記構成によれば、目標ピッチ角が設定されると、目標ピッチ角に応じた値が摩擦回生配分比として導出される。そして、この摩擦回生配分比と、目標車両制動力とを基に、摩擦制動装置及び回生制動装置を作動させることにより、車両制動時における車両のピッチ角と目標ピッチ角との乖離を抑制できる。また、上記構成では、車両制動時には、車両制動の開始時点からの経過時間、又は、車両制動の開始時点からの車両の車体速度の低下に従って目標ピッチ角が増大される。このように目標ピッチ角が増大されると、目標ピッチ角の増大に連動して摩擦回生配分比が調整される。これにより、車両制動中に車両のピッチ角を大きくすることができる。その結果、車両の減速度が大きくなったような感覚を運転者に与えることができる。
【符号の説明】
【0202】
10…車両、11…前輪、12…後輪、50…回生制動装置、30…制動装置、31…摩擦制動装置、321…制動操作部材、35…制御装置、352…目標設定部、353…配分比導出部、354…作動指示部、90…制動関係調整部の一例である助勢装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19