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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】材料供給装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20230911BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230911BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C23C14/24 D
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020034116
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134417
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 修司
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-299081(JP,A)
【文献】特開2002-030418(JP,A)
【文献】特開2007-051356(JP,A)
【文献】特表2007-534844(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0193636(US,A1)
【文献】特開2019-206733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
H10K 50/10
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ(Vc1,1)内で成膜対象物(Sw)に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源(Es)に蒸着材料(Em)を供給するための材料供給装置(MF)において、
真空チャンバ(Vc1,1)内と雰囲気分離された空間としての第3雰囲気空間(4a)を画成する隔壁(4,11)を有し、当該隔壁のX軸方向に位置する部分(11)第1弁孔(12)が開設され、
隔壁(4,11)内に可動枠(5)が配置され、この可動枠(5)のX軸方向前後の進退を可能とする駆動手段(6)と、予定のストローク長を超えた可動枠のX軸方向前方への移動を規制する規制手段(7)と、可動枠と駆動手段の駆動ロッド(61)との間に設けられる付勢手段(8)とを備え、
可動枠(5)に、第1弁孔(12)を閉塞する第1弁蓋(54)と、蒸着源(Es)に供給しようとする蒸着材料(Em)を保持する保持手段(52)と、駆動ロッド(61)の前端部分が挿通するガイド孔(52e)とが備えられ、隔壁(4、11)内に可動枠(5)が位置する待機位置からの駆動ロッド(61)のX軸方向前方への移動により、真空チャンバ(Vc1,1)第3雰囲気空間(4a)とが互いに連通して可動枠(5)第1弁孔(12)を通って真空チャンバ(Vc1,1)内に進入し、規制手段(7)で可動枠(5)の移動が規制された状態で付勢手段(8)の付勢力に抵抗しながら駆動ロッド(61)のX軸方向前方への更なる移動により、駆動ロッド(61)の前端部分がガイド孔(52e)から突出して保持手段(52)で保持された蒸着材料(Em)がX軸方向前方へ押し出されるように構成したことを特徴とする材料供給装置。
【請求項2】
請求項1記載の材料供給装置であって、
前記蒸着源(Es)が、第1雰囲気空間(1a)を画成する第1隔壁()と、この第1隔壁(1)で囲繞されて第1雰囲気空間と雰囲気分離された第2雰囲気空間(2a)を画成すると共にその内部に蒸着材料(Em)が格納される第2隔壁(2)とを有し、
前記第1弁孔(12)にX軸方向で互いに対峙させて第2隔壁(2)に開設した第2弁孔(25)を有すると共に、第1隔壁()と前記隔壁(4,11)とが連設されて、第1弁孔を介して第1雰囲気空間(1a)と第3雰囲気空間(4a)との連通も可能なものにおいて、
前記第1弁蓋(54)は、隔壁(4)にその内側から当接して第1弁孔(12)を閉塞するように構成され、第2隔壁(2)にその内側から当接して第2弁孔(25)を閉塞する第2弁蓋(55)を可動枠(5)に更に設けたことを特徴とする材料供給装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の材料供給装置であって、蒸着材料(Em)が円柱状の輪郭を持つものにおいて、
前記保持手段(52)は、蒸着材料(Em)の鉛直方向下方の外周面部分が載置される保持板部(52b)と、蒸着材料(Em)の重心からX軸方向前方にオフセットさせて保持板部(52b)に突設した、蒸着材料(Em)を係止する係止突起(53)とを備えることを特徴とする材料供給装置。
【請求項4】
前記第1弁蓋(54)と前記第2弁蓋(55)との間に、X軸方向で第1弁蓋(54)と第2弁蓋(55)とが互いに引き合うように付勢する他の付勢手段(56)が設けられることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の材料供給装置。
【請求項5】
前記第2弁蓋(55)のX軸方向前方にリフレクター板(57)が備えられることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の材料供給装置。
【請求項6】
前記蒸着源(Es)は、長手方向が鉛直方向に合致する姿勢で設置され、蒸着材料(Em)が充填される坩堝部を有する主筒体(2)と、坩堝部内に充填される蒸着材料(Em)より上方に位置する主筒体(2)の部分に突設され、放出開口を有する副筒体(3)と、少なくとも坩堝部に充填される蒸着材料(Em)の加熱を可能とする加熱手段(23)と、坩堝部の上面開口を開閉自在に閉塞する蓋板(22)とを備えることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の材料供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内で成膜対象物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源に蒸着材料を供給するための材料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、樹脂製や金属製のシート状の基材は可撓性を有し、加工性も良いことから、その一方の面や両面に、真空雰囲気で所定の金属膜や酸化物膜等の所定の薄膜を成膜して電子部品や光学部品とすることが知られている。このような真空処理としての成膜処理を施す真空処理装置は例えば特許文献1で知られている。このものは、真空雰囲気の形成が可能な真空チャンバを備え、真空チャンバ内には、成膜対象物としてのシート状の基材を繰り出す繰出ローラと、成膜済みの基材を巻き取る巻取ローラと、繰出ローラから繰り出されたシート状の基材を搬送するガイドローラとが設けられている。真空チャンバ内の底面にはまた、一対のガイドローラ間を水平搬送されるシート状の基材の部分に対向配置させて蒸着源が設けられている。
【0003】
蒸着源は、蒸着材料を収容する直方体状の収容箱を備え、収容箱のシート状の基材の部分との対向面(即ち、鉛直方向の上面)には、スリット状の放出開口が設けられている(所謂ラインソース)。そして、収容箱内にインゴット状や顆粒状の蒸着材料を収納した後、真空雰囲気中にて加熱手段により収容箱内の蒸着材料を加熱して昇華または気化させ、この昇華または気化したものを真空チャンバ内との圧力差で放出開口から放出させ、シート状の基材の部分に付着、堆積させて所定の薄膜が蒸着される(所謂デポアップ式成膜)。
【0004】
ところで、収容箱に収容された蒸着材料を加熱により昇華または気化させると、これに伴って蒸着材料自体は減少するので、蒸着材料を定期的に補充する必要がある。従来の真空蒸着装置では、成膜工程を停止して真空チャンバを大気雰囲気に戻した状態でしか収容箱への蒸着材料の補充ができない。このため、蒸着源としての収容箱への蒸着材料の定期的な補充により著しく生産性が損なわれるという問題がある。このことから、真空チャンバ内を大気雰囲気に戻すことなく、蒸着材料を蒸着源に供給することができる装置の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5543159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、真空チャンバ内を大気雰囲気に戻すことなく、真空蒸着装置の蒸着源に固体の蒸着材料を供給することができる材料供給装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内で成膜対象物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源に蒸着材料を供給するための本発明の材料供給装置は、真空チャンバ内と雰囲気分離された空間としての第3雰囲気空間を画成する隔壁を有し、当該隔壁のX軸方向に位置する部分に第1弁孔が開設され、隔壁内に可動枠が配置され、この可動枠のX軸方向前後の進退を可能とする駆動手段と、予定のストローク長を超えた可動枠のX軸方向前方への移動を規制する規制手段と、可動枠と駆動手段の駆動ロッドとの間に設けられる付勢手段とを備え、可動枠に、第1弁孔を閉塞する第1弁蓋と、蒸着源に供給しようとする蒸着材料を保持する保持手段と、駆動ロッドの前端部分が挿通するガイド孔とが備えられ、隔壁内に可動枠が位置する待機位置からの駆動ロッドのX軸方向前方への移動により、真空チャンバと第3雰囲気空間とが互いに連通して可動枠が第1弁孔を通って真空チャンバ内に進入し、規制手段で可動枠の移動が規制された状態で付勢手段の付勢力に抵抗しながら駆動ロッドのX軸方向前方への更なる移動により、駆動ロッドの前端部分がガイド孔から突出して保持手段で保持された蒸着材料がX軸方向前方へ押し出されるように構成したことを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記蒸着源が、前記真空チャンバ内に連通する第1雰囲気空間を画成する第1隔壁と、この第1隔壁で囲繞されて第1雰囲気空間と雰囲気分離された第2雰囲気空間を画成すると共にその内部に蒸着材料が格納される第2隔壁とを有し、前記弁孔は、第1隔壁と第2隔壁とにX軸方向で互いに対峙させて開設した第1弁孔と第2弁孔とを有すると共に、前記隔壁は、第1隔壁に連設されて第1弁孔を介して第1雰囲気空間も連通可能なものである場合、前記弁蓋は、第1隔壁にその内側から当接して第1弁孔を閉塞する第1弁蓋と、第2隔壁にその内側から当接して第2弁孔を閉塞する第2弁蓋とを備える構成を採用してもよい。また、本発明において、例えば、蒸着材料が円柱状の輪郭を持つものである場合、前記保持手段は、蒸着材料の鉛直方向下方の外周面部分が載置される保持板部と、蒸着材料の重心からX軸方向前方にオフセットさせて保持板部に突設した、蒸着材料を係止する係止突起とを備える構成を採用することができる。
【0009】
本発明によれば、隔壁(以下、これを「第3隔壁」という)内の空間(以下、これを「第3雰囲気空間」という)を大気雰囲気とし、例えば円柱状の蒸着材料をその外周面を保持板部に載置し、係止突起で係止させて可動枠の保持手段に蒸着材料をセットする。このとき、第3雰囲気空間は、第1弁蓋及び第2弁蓋により第1弁孔及び第2弁孔が閉塞されて第1雰囲気空間と隔絶され、第1及び第2の両雰囲気空間は真空雰囲気となっている。その後、第3雰囲気空間は真空ポンプユニットにより所定の圧力まで真空排気される。
【0010】
第2隔壁内に蒸着材料を供給する場合、駆動ロッドをX軸方向前方に移動させると、付勢手段の付勢力で可動枠もX軸方向前方に移動する。すると、第1弁蓋及び第2弁蓋が第1隔壁及び第2隔壁から離間して第1、第2及び第3の各雰囲気空間が真空雰囲気の状態で連通する。そして、可動枠が第1及び第2の各弁孔を通って第2雰囲気空間内に進入し、駆動ロッドが予定のストローク長だけ移動すると、規制手段により可動枠のX軸方向前方への移動が規制される。この状態では、蒸着材料が保持手段で保持されたままである。
【0011】
可動枠の移動が規制された状態で駆動ロッドを付勢手段の付勢力に抗してX軸方向前方へ更に移動させると、駆動ロッドの前端部分がガイド孔から可動枠内に突出して蒸着材料をX軸方向前方へと押し出す。すると、蒸着材料が係止突起を乗り越え、保持手段のX軸方向前端と第1弁蓋との間の空間を通って第2隔壁内に落とし込まれる。これにより、殊更、成膜が実施される真空チャンバ内を大気雰囲気に戻すことなく、駆動ロッドのX軸方向一方への移動だけで、成膜に必要な蒸着材料を収納する第2隔壁内に追加の蒸着材料を供給することができ、しかも、駆動源は単一で済む。このとき、第2隔壁内の蒸着材料を加熱する加熱手段も作動させたままとすることも可能である。その結果、蒸着源への蒸着材料の定期的な補充により著しく生産性が損なわることを回避することができる。なお、蒸着材料の供給が完了すると、駆動ロッドを後退するだけで、第1弁蓋及び第2弁蓋が第1隔壁及び第2隔壁に夫々当接し、第3雰囲気空間が第1の雰囲気空間から隔絶される。
【0012】
ところで、第2隔壁内の蒸着材料を加熱して昇華または気化させる際、第2隔壁自体も高温に加熱され、第2隔壁が熱伸びする。このため、第2弁蓋の閉塞による第1雰囲気空間と第2雰囲気空間との隔絶が不十分になる虞がある。本発明においては、前記第1弁蓋と前記第2弁蓋との間に、X軸方向で第1弁蓋と第2弁蓋とが互いに引き合うように付勢する他の付勢手段が設けられる構成を採用できる。これにより、他の付勢手段の付勢力で第2弁蓋を第2隔壁に常時押し付けて当接させることができ、第2隔壁の熱伸び起因した隔絶不良を可及的に抑制することができる。
【0013】
また、本発明においては、前記第2弁蓋のX軸方向前方にリフレクター板が備えられる構成を採用することが好ましい。これによれば、第2隔壁が加熱されても、第1弁蓋、第3隔壁やその内部に存する可動枠といった部品が加熱されることが抑制でき、供給しようとする蒸着材料が第2隔壁内へと移動される前に溶解するといった不具合の発生を防止することができる。この場合、第1隔壁に対峙する第2隔壁部分にもリフレクター板を設けるようにしてもよい。

【0014】
なお、本発明においては、前記蒸着源として、長手方向が鉛直方向に合致する姿勢で設置され、蒸着材料が充填される坩堝部を有する主筒体と、坩堝部内に充填される蒸着材料より上方に位置する主筒体の部分に突設され、放出開口を有する副筒体と、少なくとも坩堝部に充填される蒸着材料の加熱を可能とする加熱手段と、坩堝部の上面開口を開閉自在に閉塞する蓋体とを備えるものが利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の材料供給装置を備える蒸着源が設けられた真空処理装置の正面から視た断面図。
図2図1のII-II線に沿う断面図。
図3図2の一部を拡大して示す断面図。
図4】蒸着材料の投入位置に可動枠を移動させたときの図2の一部を拡大して示す断面図。
図5】坩堝部への蒸着材料の投入を説明する拡大断面図。
図6】坩堝部への蒸着材料の投入を説明する拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、真空蒸着装置を成膜対象物としてのシート状の基材Swを真空雰囲気中で走行させながら真空蒸着法によりシート状の基材Swの一方の面に所定の薄膜を成膜するもの、また、蒸着材料を円筒状の輪郭を持つインゴット状のものとし、真空蒸着装置に備えられる蒸着源に本発明の材料供給装置を適用した場合を例にその実施形態を説明する。以下において、後述のキャンローラの軸線方向が水平方向に一致する姿勢でキャンローラが真空チャンバ内に収容されているものとし、軸線方向をX軸方向、同一の水平面内でX軸に直交する方向をY軸方向、X軸及びY軸に直交する鉛直方向をZ軸方向とし、上、下といった方向は、真空蒸着装置の設置姿勢で示す図2を基準とする。
【0017】
図1及び図2を参照して、真空蒸着装置Dmは、真空チャンバとしての中央の成膜チャンバVc1と、成膜チャンバVc1のY軸方向両側に夫々連設される第1及び第2の各搬送チャンバVc2,Vc3とを備える。特に図示して説明しないが、成膜チャンバVc1と各搬送チャンバVc2,Vc3とには、ターボ分子ポンプ、ロータリーポンプ等で構成される真空ポンプユニットからの排気管が夫々接続され、真空雰囲気を形成できるようになっている。成膜チャンバVc1と、各搬送チャンバVc2,Vc3との互いに向かい合う側壁には、シート状の基材Swの通過を許容する透孔h1~h4が夫々開設されると共に、成膜チャンバVc1と、各搬送チャンバVc2,Vc3との両側壁間の隙間には、この隙間を通過するシート状の基材Swの部分を覆うようにしてロードロックバルブLvが設けられている。これにより、真空雰囲気中にて一貫してシート状の基材Swが搬送できると共に成膜チャンバVc1と各搬送チャンバVc2,Vc3とを互いに隔絶できるようにしている。なお、この種の真空蒸着装置Dmに利用されるロードロックバルブLvとしては公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0018】
Y軸方向一方(図1中、左側)に位置する第1の搬送チャンバVc2には、成膜前のシート状の基材Swが巻回される繰出ローラWrが設けられ、第1の搬送チャンバVc2外に設けられるモータM1により回転駆動されるようになっている。Y軸方向他方(図1中、右側)に位置する第2の搬送チャンバVc3には、成膜済みのシート状の基材Swを巻き取る巻取ローラUrが設けられ、第2の搬送チャンバVc3外に設けられるモータM2により回転駆動されるようになっている。なお、第1及び第2の各搬送チャンバVc2,Vc3には、繰出ローラWrから繰り出されたシート状の基材Swを成膜チャンバVc1に、及び、成膜チャンバVc1から搬送されるシート状の基材Swを巻取ローラUrに案内するガイドローラGrが適宜設けられている。
【0019】
成膜チャンバVc1には、キャンローラCrが設けられ、成膜チャンバVc1外に設けられるモータM3により回転駆動されるようになっている。キャンローラCrは、これに巻き掛けられて周回する間にシート状の基材Swを冷却できるものであり、これ自体は公知のものであるため、これ以上の説明は省略する。成膜チャンバVc1にもまた、シート状の基材Swを案内するガイドローラGrが適宜設けられている。そして、キャンローラCrに巻き掛けられた基材Swの部分に対して成膜するために、キャンローラCrのZ軸方向直下に位置させて、本実施形態の材料供給装置MFを備える蒸着源Esが設けられている。
【0020】
蒸着源Esは、これを拡大して示す図3も参照して、成膜チャンバVc1のX軸方向一方(図2中、左側)の側壁W1に連設される拡張チャンバ1と、拡張チャンバ1内に設けられる主筒体2と、成膜チャンバVc1内に設けられる副筒体3とを備える。主筒体2は、直方体状の輪郭を持ち、その長手方向がZ軸方向に合致する姿勢で拡張チャンバ1内に設けられる。主筒体2のZ軸方向の下部には蒸着材料Emが充填される坩堝部21が設けられている。蒸着材料Emとしては、シート状の基材Swに成膜(蒸着)しようとする薄膜の組成に応じて適宜選択され、例えば、アルミニウム、リチウム、インジウム及びその合金などの金属材料や有機材料が用いられる。坩堝部21の近傍には、図外の直動モータなどの駆動源によりZ軸方向に上下動する駆動軸22aが設けられ、駆動軸22aの上端部に蓋板22が取り付けられている。そして、駆動軸22aを下動させると、蓋板22により坩堝部21の上面開口を開閉自在に閉塞できるようにしている(これにより、蒸着材料Emの昇華または気化により坩堝部21の内部圧力が上昇した時でも、蓋板22と坩堝部21との間のコンダクタンスを確保し、蒸着材料Emが主筒体2内へ不都合な漏洩が発生しないようにできる)。主筒体2内にはまた、加熱手段としてのシースヒータ23が設けられ、シースヒータ23に図外の電源から通電することで、坩堝部21内の蒸着材料Emだけでなく、主筒体2内の内面などを略均等に加熱できるようにしている。
【0021】
なお、上述の蓋板22および駆動軸22aからなる坩堝部21の上面開口を開閉する機構は、1)基材Swの一方の面に成膜する際に主筒体2を経て副筒体3に移送される際に障害(気体輸送の抵抗)とならないこと、2)坩堝部21へ蒸着材料Emを供給する際に障害とならない(供給動線が確保できる)こと、3)蒸着材料Emを含め、系が熱的な平衡状態となるまで坩堝部21の上面を閉塞することの各機能を全て両立する必要がある。これに併せて、主筒体2の内部容積は、性能および装置の小型化要求より、極小とすることが求められる。これらから、本実施形態では、上記1)及び2)の際には蓋板22を主筒体2のZ軸方向上方へ退避させる構成を採用している。これ以外の蓋板22の退避位置は、主筒体2の内部容積の若干の増加を許容すれば、主筒体2のY軸方向前方あるいは後方側が考えられる。このような構成は、蓋板22は坩堝部21に付属する扉式の開閉機構を用いれば、実現できる。蓋板22の退避位置を主筒体2のX軸後方側とすることもできるが、上記1)の条件を満たすために、主筒体2の内部容積を(本実施形態と比較して)増大させる必要が生じてしまう。例えば、扉式とした場合、開閉にリンク機構を用いる事が一般的手法であるが、蓋板22と坩堝部21との間の面圧(つまりコンダクタンス)確保を行うために、構成するリンクは本実施形態の駆動軸に比べて剛性を高くする必要が生じる。つまり、太いリンクを用いるために、内部容積は増大する。
【0022】
副筒体3は、円筒状の輪郭を持ち、主筒体2の一側壁24aからX軸方向にのびるように突設されている。この場合、副筒体3のZ軸方向の高さ位置は、少なくとも坩堝部21内に充填される蒸着材料Emの上層部分より上方に位置するように設定される。副筒体3は、成膜チャンバVc1の側壁W1に開設した連通孔h5に挿通させてその先端が成膜チャンバVc1内に突出するように配置され、側壁W1内面に固定の支持体31で支持されている。副筒体3のZ軸方向上側に位置する外周部分には、レーストラック状の輪郭を持つ突条32が設けられると共に、突条32で囲繞されるようにしてY軸方向に長手のスリット状の放出開口33が開設されている。副筒体3内にはまた、主筒体2から副筒体3に移送される、昇華または気化した蒸着材料Emが、放出開口33に導かれる際に通過する分布孔34aが形成された分布板34が挿設されると共に加熱手段としてのシースヒータ35が設けられている、そして、シースヒータ35に図外の電源から通電することで、副筒体3の内面や分布板34表面をその全面に亘って略均等に加熱できるようにしている。
【0023】
本実施形態では、拡張チャンバ1が連通孔h5を介して成膜チャンバVc1と連通していることで、拡張チャンバ1と成膜チャンバVc1の側壁W1とが真空チャンバとしての成膜チャンバVc1内に連通する第1雰囲気空間(即ち、拡張チャンバ1内の第1空間1a)を画成する第1隔壁の構成要素となる。この場合、拡張チャンバ1に真空ポンプユニットからの排気管を接続し、成膜チャンバVc1と別個に真空排気できるように構成してもよい。他方、互いに連通する主筒体2と副筒体3との内部空間2a,3aは、副筒体3の放出開口33を介して成膜チャンバVc1内に連通するものの、放出開口33のコンダクタンスにより第1空間1aと雰囲気分離されることで、主筒体2と副筒体3とが第2雰囲気空間を画成する本実施形態の第2隔壁の構成要素となる。
【0024】
上記真空蒸着装置Dmにて、シート状の基材Swを走行させながら、シート状の基材Swの両面に成膜する場合、蒸着源Esの坩堝部21に蒸着材料Emを充填し、蓋板22により坩堝部21の上面開口を閉塞した状態とする。また、第1の搬送チャンバVc2にて繰出ローラWrにシート状の基材Swが巻回され、その先端部が各ガイドローラGr及びキャンローラCrに夫々巻き掛けられた後、第2の搬送チャンバVc3に案内され、ガイドローラGrを経て巻取ローラUrに取り付けられた状態とする。そして、成膜チャンバVc1、第1及び第2の各搬送チャンバVc2,Vc3及び拡張チャンバ1が夫々所定圧力まで真空排気される。
【0025】
次に、各シースヒータ23,35に通電して坩堝部21を含む主筒体2と副筒体3とが加熱される。ここで、蒸着材料Emが所定温度に達すると、坩堝部21内の蒸着材料Emが液化し、その蒸着材料Emが持つ蒸気圧曲線に従って上層部分から気化し始める。このとき、坩堝部21内の圧力(蒸着材料Emの分圧)は、所定温度に対応した蒸気圧まで上昇し、最終的には蒸気圧律速で気化が抑制される熱的な平衡状態まで移行する(シースヒータ23,35の通電電流(ヒータ出力)が安定する)。
【0026】
次に、モータM1~M3を回転駆動して、シート状の基材Swを一定の速度で走行させると共に、駆動源により駆動軸22aを介して蓋板22を上動させて坩堝部21の上面開口を開放する。すると、真空雰囲気中の成膜チャンバVc1内に存する副筒体3との分圧の差が平衡状態となるように、気化した蒸着材料Emはその蒸気圧を保ちつつ主筒体2を経て副筒体3に移送(拡散)され、放出開口33へと導かれて、放出開口33から真空雰囲気中に放出され、キャンローラCrを周回する間にシート状の基材Swの一方の面に成膜される。成膜されたシート状の基材Swは、第2の搬送チャンバVc3へと搬送されて巻取ローラUrに巻き取られ、第2の搬送チャンバVc3を大気開放した後、成膜処理済みのシート状の基材Swが回収される。
【0027】
ところで、坩堝部21内の蒸着材料Emを加熱により昇華または気化させると、これに伴って蒸着材料Em自体は減少するので定期的に補充する必要があるが、成膜チャンバVc1、第1及び第2の各搬送チャンバVc2,Vc3及び拡張チャンバ1を一旦大気雰囲気に戻すのでは著しく生産性が損なわれる。本実施形態では、成膜チャンバVc1、第1及び第2の各搬送チャンバVc2,Vc3及び拡張チャンバ1の真空雰囲気を維持したまま坩堝部21に蒸着材料Emを供給するために、本実施形態の材料供給装置MFが設けられている。
【0028】
材料供給装置MFは、図4図6も参照して、拡張チャンバ1のX軸方向一方(図2中、左側)の側壁11に連設され、坩堝部21に供給しようとする蒸着材料Emを一旦格納する格納チャンバ4と、格納チャンバ4内に設けられる可動枠5と、この可動枠5をX軸方向前後に進退する駆動手段6と、予定されたストローク長を超えた可動枠5のX軸方向前方への移動を規制する規制手段7と、可動枠5と後述の駆動手段6の駆動ロッド61との間に設けられる付勢手段8とを備える。以降、蒸着材料Emを坩堝部21に供給するために後述の駆動ロッド61が移動する方向を前方(図3中、右側)、その逆方向を後方(図3中、左側)とする。本実施形態では、格納チャンバ4はそのX軸方向一端(前端)が開口され、真空シールとしてのOリングS1を介して拡張チャンバ1に連設されることで、格納チャンバ4と拡張チャンバ1の側壁11とが、第1空間1aと隔絶された第3の雰囲気空間(即ち、格納チャンバ4内の内部空間4a)を画成する第3隔壁の構成要素となる。また、特に図示して説明しないが、拡張チャンバ1の上壁は開閉自在に形成され、その内部を大気雰囲気としたとき、上壁を開けて後述の保持手段52に蒸着材料Emをセットできるようになっている。
【0029】
可動枠5は、Y軸方向に間隔をおいて配置される一対の支持壁51と、両支持壁51間に設けられて蒸着材料Emを保持する保持手段52とを備える。保持手段52は、図5及び図6に拡大して示すように、両支持壁51のX軸方向後方側で両支持壁51間に設けられる起立壁部52aと、起立壁部52aの下端にX軸方向前方にのびるように形成した保持板部52bとを備える。X軸方向における保持板部52bの長さは支持壁51より短く定寸され、保持板部52bのX軸方向前端と、後述の第1弁蓋との間に蒸着材料Emの落下を許容する空間Fsが存するようにしている。また、格納チャンバ4のX軸方向後側の側壁41には貫通孔42が形成され、起立壁部52aのX軸方向後面に突出した筒状体52cが貫通孔42に挿通されている。
【0030】
X軸方向前端側に位置する保持板部52bの上面には、蒸着材料Emの外周面に略一致する曲率を持ち、且つ、X軸方向前方に向かうに従い高さが低くなる円弧面52dが形成されている。円弧面52dには係止突起53が立設されている。係止突起53は、保持板部52bの円弧面52dにその外周面一部分が載置されるように蒸着材料Emを載置したとき、蒸着材料Emの重心EからX軸方向前方にオフセットさせるように配置され、係止突起53により蒸着材料Emを係止させることで、可動枠5を移動させたときの振動等で保持板部52bから蒸着材料Emが脱落しないようにしている。この場合、蒸着材料Emを係止できるものであれば、係止突起53の形状、円弧面52dに設ける数や配置については特に制限はなく、係止突起53をY軸方向にのびる突条で構成してもよい。なお、蒸着材料Emが立方体や直方体(すなわち方形)の輪郭を持つもの、または、その座面が平面状であるような場合、これに応じて、保持板部52bの円弧面52dは斜面状または水平面状として形成することができる。この場合、斜面あるいは水平面において、蒸着材料Emの重力に起因する摩擦力が係止突起53の脱落防止機能を兼ねることが可能となるため、係止突起53は必要に応じて不要とできる。
【0031】
可動枠5には第1及び第2の各弁蓋54,55が設けられている。この場合、拡張チャンバ1の側壁11には、その板厚方向に貫通する第1弁孔12が開設されると共に、主筒体2の一側壁24aに対向する他側壁24bには、第1弁孔12にX軸方向で対峙させて第2弁孔25が開設されている。第1弁蓋54は、両支持壁51のX軸方向前端に取り付けられた皿状部材で構成され、筒状の胴部54aのX軸方向前端に形成されたフランジ部54bが、第1弁孔12の周縁に位置する側壁11の内面(第1空間1a側の面)に真空シールとしてのOリングS2を介して当接することで、第1空間1aと内部空間4aとが互いに隔絶されるようになっている。また、胴部54a内には、X軸方向前方にむかってのびる収容筒部54cが形成されている。
【0032】
第2弁蓋55は板状部材で構成され、X軸方向後方側の外周面が、第2弁孔25の周縁に位置する他側壁24bの内面(第2空間2a側の面)に面接触することで、第1空間1aと主筒体2と副筒体3との内部空間2a,3aとが互いに雰囲気分離されるようになっている。第2弁蓋55のX軸方向後側の面にはロッド部55aが突設され、ロッド部55aの先端が収容筒部54cに挿入され、第1弁蓋54に対する第2弁蓋55のX軸方向後方への移動を許容すると共に、X軸方向の1次元直線運動以外の動作を規制するガイドとしての機能を果たすようにしている。また、第1弁蓋54と第2弁蓋55との間には、他の付勢手段としての複数本のコイルばね56が設けられ、第1弁蓋54と第2弁蓋55とがX軸方向で常に引き合うように付勢(予圧)されるようにしている。この場合、第1弁蓋54と第2弁蓋55との定常状態では、フランジ部54bのX軸方向前方端と第2弁蓋55のX軸方向後方端(後述のリフレクター板57を支持するピン部材57aの後方端)とが接触した状態となる。更に、第2弁蓋55のX軸方向後面には複数枚のリフレクター板57がピン部材57aを介してX軸方向の隙間を存して設けられている。この場合、拡張チャンバ1の側壁11に対向する主筒体2の他側壁24b、上壁24cや底壁24dにも他のリフレクター板58a,58b,58cを固定配置することが好ましい。
【0033】
ここで、複数本のコイルばね56の付勢力(当初の予圧力と図3における離間距離に比例したコイルばね56のばね定数からなる力を全て合算した力)は、第2弁蓋55のX軸方向後方側の外周面と第2弁孔25の周縁に位置する他側壁24bの内面の接触面における面圧となり、内部空間2a,3aとの雰囲気分離において設計上のコンダクタンスを担保している。コンダクタンスを担保するために装置状態が変化しても各接触部は同様の面圧が再現できる必要がある。このため、例えば、ロッド部55aと収容筒部54cの嵌め合いはX軸方向のみの動作を許容するが、図3における側壁11の内面と他側壁24bの内面とのアライメント誤差を許容できるように、本部分の構造を設計することが望ましい。一例としては、ロッド部55aと収容筒部54cの嵌め合いを適宜選定することで、動作自由度を、若干許容する設計とすることが挙げられる。しかし、本実施形態では、第2弁蓋55とロッド部55aの結合部を一点で結合されるように構成し、この結合部位では傾斜を許容する構造(板バネ)とし、動作自由度の担保する機構を分けてアライメント誤差を吸収するようにしている。これにより、蒸着時に高温となり、その後に室温に戻るような温度サイクルに曝されても、ロッド部55aと収容筒部54cとの固着等の問題を引き起こさずに、アライメント誤差を吸収し続ける構成となる。また、一点結合としたことから、蒸着時において主筒体2から側壁11へ流出する熱流束に対して、熱抵抗を向上させることができる。
【0034】
駆動手段6は、X軸方向にのびる駆動ロッド61を備える。駆動ロッド61のX軸方向後端は、格納チャンバ4に取り付けた支持フレームSfで支持されるロッドレスシリンダ62に連結され、X軸方向前後に移動自在となっている。駆動ロッド61のX軸方向前端部分は、格納チャンバ4に取り付けたリニアブッシュ63を介して、起立壁部52aの筒状体52cにX軸方向に貫通させて形成したガイド孔52eに挿通されている。駆動ロッド61のX軸方向前端部分には、その径方向に延出させて第1及び第2の各フランジ部61a,61bが間隔を存して設けられ、X軸方向前端側に位置する第1のフランジ部61aが、ガイド孔52eを挿通して起立壁部52aの可動枠5内側の面に当接するようになっている。また、リニアブッシュ63からX軸方向後方に突出する駆動ロッド61の部分には、ベローズ管64が外挿され、駆動ロッド61のX軸方向前後の移動によっても格納チャンバ4が気密保持されるようにしている。
【0035】
付勢手段8はコイルばねで構成され、第1のフランジ部61aと起立壁部52aとの間に設けられている。そして、可動枠5の移動が規制されない状態では、コイルばね8の付勢力で第2のフランジ部61bのX軸方向後方面が、起立壁部52aの可動枠5内側の面に当接し、コイルばね8の付勢力が当該面間の予圧となり、駆動ロッド61と可動枠5とが恰も一体となって駆動ロッド61の移動に伴う可動枠5の移動を許容する。一方、可動枠5のX軸方向前方への移動が規制されると、駆動ロッド61のX軸方向前方への推進力が当該予圧力を上回ると、コイルばね8の付勢力に抗して駆動ロッド61の更なる移動のみを許容する。なお、付勢手段8は、コイルばねに限定されるものではなく、板ばねなど他の形態ものもの利用できる。また、規制手段7は、主筒体2内の所定位置に固定配置され、第1弁蓋54が当接する板状のストッパで構成される。なお、規制手段7は、可動枠5の移動を規制できるものであれば、これに限定されるものではない。
【0036】
ここで、本実施形態では、第1空間1aと確実に隔絶された第3雰囲気空間を構成するには、格納チャンバ4と拡張チャンバ1の側壁11や、OリングS2や第1の弁蓋54といった部品だけでなく、OリングS2をその全周に亘って潰すための外力が必須となるため、駆動ロッド61のX軸方向後方への引き込み力が、駆動ロッド61に設けた第2のフランジ部61bが当接する起立壁部52aの可動枠5内側の面、可動枠5の支持壁51、第1の各弁蓋54へとすべて剛体(付勢手段の関与なし)で伝達されるようになっている。なお、第2のフランジ部61bと起立壁部52aの可動枠5内側の面とは予め当接しているが、これは、付勢手段8の離間方向の付勢力による(言い換えると、付勢手段8の付勢力がストッパとして機能することによる)ものであり、駆動ロッド61の引き込み時、直ちにOリングS2の潰し力となる(つまり、一体あるいは剛体での動作、2段階動作やバネを介した動作とならない)。このため、仮に何らかの理由で駆動ロッド61を引き戻した際に、蒸着材料Emが振動で途中落下するような事故が発生しにくい構造(予圧でガタツキが無い構造)となっている。なお、第1弁孔12の周縁に位置するOリングS2の全周に対して略均一な面圧を発揮させるために、後述する駆動ロッド61のリニアブッシュ63は、第1弁孔12の周縁に位置する側壁11の内面に沿うことができるように構成するのが望ましい。例えば、駆動ロッド61のリニアブッシュ63との嵌め合いを適宜選択することによって、側壁11の内面に沿う(倣う)ことが実現できる。これにより、側壁11が温度条件や差圧条件によって変形した際にも追従することが可能となる。以下に、材料供給装置MFを用いた蒸着材料Emの坩堝部21への供給を具体的に説明する。
【0037】
第1弁蓋54及び第2弁蓋55により第1弁孔12及び第2弁孔25が閉塞されて第1及び第2の両雰囲気空間1a,2a(3a)が真空雰囲気とされ、シート状の基材Swへの成膜が実施されている。このとき、駆動ロッド61は可動枠5が拡納チャンバ4内に位置する待機位置にあるものとする(図3参照)。そして、拡納チャンバ4内を大気雰囲気とする。このとき、ロッドレスシリンダ62は拡納チャンバ4と第1の雰囲気空間1aとの差圧に起因する力、図3に示す状態でのコイルばね56の収縮力、およびOリングS2の弾性力のすべてを合一した力に対し、拮抗する力をX軸方向後方側へ発揮して、待機位置を保持している。この状態で、上壁を開けて保持手段52に蒸着材料Emをセットした後、上壁を再度閉じてその内部を所定圧力まで真空排気する。ロッドレスシリンダ62は、上記待機状態と略同一の力をX軸方向後方側へ発揮しているが、駆動ロッド61、その第2のフランジ部61b、保持手段52、支持壁51、第2の弁蓋54及び拡張チャンバ1の側壁11に至る経路が剛結合の状態であるので、待機位置が保たれる。
【0038】
次に、坩堝部21に蒸着材料Emを供給する場合、ロッドレスシリンダ62により駆動ロッド61をX軸方向前方に移動させると、先ず、OリングS2の弾性力が開放され、第1の雰囲気空間1aと第3の雰囲気空間(即ち、格納チャンバ4内の内部空間4a)とが連通し、次に、第1の弁蓋54のフランジ部54bのX軸方向前端部が第2の弁蓋55のX軸方向後端部と接触し、同時に、第2の弁蓋55が側壁24bからの離間を開始し、離間すると、格納チャンバ4内の内部空間4aと、第1の雰囲気空間1aと、第2の雰囲気空間2aが互いに連通する。そして、駆動ロッド61が予定のストローク長だけ移動すると、可動枠5が第1及び第2の各弁孔12,25を順次通って主筒体2内の空間2a内に進入し、第1の弁蓋54と第2の弁蓋55とが一体となった状態で規制手段7に当接することで、可動枠5のX軸方向前方への移動が規制され、可動枠5が投入位置に到達する(図4参照)。この状態では、蒸着材料Emが保持手段52で保持されたままである。
【0039】
可動枠5の移動が規制された状態で、ロッドレスシリンダ62により駆動ロッド61を付勢手段8の付勢力に抗してX軸方向前方へ更に移動させると、駆動ロッド61の前端部分がガイド孔52eから可動枠5内に突出し(図5参照)、この突出した前端部分が蒸着材料Emを押し出す。すると、蒸着材料Emが転動して係止突起53を乗り越え、空間Fsを通って坩堝部21内に落とし込まれる(図6参照)。なお、蒸着材料Em座面が平面である場合、例えば蒸着材料Emの重心位置が保持手段52の先端を超えると、重力により落下する。そして、蒸着材料Emが坩堝部21内に落とし込まれた後は、ロッドレスシリンダ62を引き込むことで各雰囲気分離を保つことができ、生産運転を容易に継続することができる。
【0040】
以上によれば、殊更、成膜が実施される成膜チャンバVc1内を大気雰囲気に戻すことなく、駆動ロッド61のX軸方向一方への移動だけで、成膜に必要な蒸着材料Emを坩堝部21に供給することができ、また、駆動源(アクチュエータ)も単一で済む。このとき、シースヒータ23,35はその作動を継続した状態とできる。その結果、坩堝部21への蒸着材料Emの定期的な補充により著しく生産性が損なわることを回避することができる。なお、蒸着材料Emの供給が完了すると、駆動ロッド61を後退させるだけで、第1弁蓋54及び第2弁蓋55が側壁(第1隔壁)11及び他側壁(第2隔壁)24bに夫々当接し、格納チャンバ4を成膜チャンバVc1及び拡張チャンバ1から隔絶されることができる。また、コイルばね56により第2弁蓋55が第1弁蓋54に向けて常時付勢されることで、シースヒータ23,35による加熱で主筒体2の壁面が熱伸びしても、隔絶不良を回避できる。更に、リフレクター板57を設けることで、拡張チャンバ1の壁面への伝熱が抑制され、第1弁蓋54、格納チャンバ(第3隔壁)4やその内部に存する可動枠5といった部品が加熱されることを抑制でき、供給しようとする蒸着材料Emを坩堝部21に供給する前に溶解するといった不具合の発生を防止することができる。また、主筒体2内の空間が加熱された状態(材料が気相となる壁面温度状態)であるために、仮に蒸着材料Em(固体)が坩堝部21内に落とし込まれた際に、坩堝部21内の蒸着材料Em(液体)が壁面まで飛散したとしても、速やかに気化されるため、生産運転に支障が出ることがない。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、蒸着材料Emとしてインゴット状のものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、顆粒状のものとしてもよい。この場合、保持板部52bに顆粒状の蒸着材料Emを積み重ね、可動枠5の移動が規制されたときに突出する駆動ロッド61の先端のフランジ部が顆粒状の蒸着材料Emを押し出すようにするか、または、押し出し時にバケットに転動させる構成として、バケット内の蒸着材料Emを投入すればよい。また、駆動手段6として、ロッドレスシリンダ62で駆動ロッド61をX軸方向前後に移動させるものを例に説明したが、可動枠5の移動に伴って蒸着材料Emを押し出して坩堝部21に落下できるものであれば、その形態は問わない。
【0042】
上記実施形態では、拡張チャンバ1を設け、この拡張チャンバ1から成膜チャンバVc1に跨るように主筒体2と副筒体3とを持つ蒸着源Esを設けたものを例に説明したが、本発明の材料供給装置MFは、真空チャンバ内に連通する第1雰囲気空間とこの第1雰囲気空間と雰囲気分離された第2雰囲気空間とを画成できるものであれば、広く適用でき、このとき、坩堝部21の有無や加熱手段の形態は問わない。他方、特に図示して説明しないが、例えば真空チャンバ内にその内部雰囲気に曝さられる状態で蒸着源(坩堝)が直接設置されているような場合、真空チャンバに、これと雰囲気分離された空間を画成する隔壁としての格納チャンバを連接すると共に、真空チャンバに連なるX軸方向の隔壁部分に弁孔を開設した上で、本発明を適用して、駆動ロッドのX軸方向一方への移動だけで、格納チャンバ内に格納されている蒸着材料を蒸着源(坩堝)に供給できるように構成することができる。また、真空チャンバ内に、その内部雰囲気と隔絶された状態で蒸着源が設置されている場合でも、真空チャンバ内の一部を格納チャンバとして利用し、蒸着源を構成する隔壁に弁孔を開設した上で、本発明を適用して、駆動ロッドのX軸方向一方への移動だけで蒸着源に蒸着材料を供給できるように構成することができる。
【符号の説明】
【0043】
MF…材料供給装置、Dm…真空蒸着装置、Em…蒸着材料、Es…蒸着源、Sw…シート状の基材(成膜対象物)、Vc1…成膜チャンバ(真空チャンバ、第1隔壁の構成要素)、W1…成膜チャンバVc1の側壁(第1隔壁の構成要素)、1a…第1空間(第1雰囲気空間)、2…主筒体(第2隔壁の構成要素)、2a…主筒体2の内部空間(第2雰囲気空間)、3…副筒体(第2隔壁の構成要素)、3a…副筒体3の内部空間(第2雰囲気空間)、4…格納チャンバ(第3隔壁の構成要素)、4a…第2空間(第3雰囲気空間)、5…可動枠、6…駆動手段、7…規制手段、8…コイルばね(付勢手段)、11…拡張チャンバ1の側壁(第3隔壁の構成要素)、12…第1弁孔、21…坩堝部、22…蓋板、23…シースヒータ(加熱手段)、24…第2弁孔、52…保持手段、52b…保持板部、52e…ガイド孔、53…係止突起、54…第1弁蓋、55…第2弁蓋、56…コイルばね(他の付勢手段)、57…リフレクター板、61…駆動ロッド。
図1
図2
図3
図4
図5
図6