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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20230912BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C08G59/40
C08G59/50
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023541126
(86)(22)【出願日】2023-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2023014174
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2022071789
(32)【優先日】2022-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】河野 和起
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-152085(JP,A)
【文献】特開2000-26769(JP,A)
【文献】特開平7-48499(JP,A)
【文献】特開2001-2986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、溶剤(C)、及び芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、成分(B)、(C)、(D)の合計含有量に対する成分(C)及び成分(D)の合計含有量の質量比[(C+D)/(B+C+D)]が0.42~0.57であり、且つ、成分(D)に対する成分(C)の質量比C/Dが1.00以上である、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂硬化剤(B)が、下記式(1)で示されるポリアミン化合物と、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物との反応物を含む反応組成物である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
N-CH-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aはフェニレン基又はシクロヘキシレン基である。)
【請求項3】
前記溶剤(C)が、ベンジルアルコール、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びプロピレングリコールフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)の25℃における粘度が100mPa・s以上である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)を構成する芳香族炭化水素が、トルエン、キシレン、メシチレン、及びプソイドキュメンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記質量比C/Dが1.00~3.50である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミン化合物はエポキシ樹脂硬化剤として有用であることが知られている。これらのエポキシ樹脂硬化剤を利用したエポキシ樹脂組成物は、船舶・橋梁・陸海上鉄構築物用防食塗料等の塗料分野、コンクリート構造物のライニング・補強・クラック補修材・シーリング材・注入材・プライマー・スクリード・トップコート・FRP補強、建築物の床材、上下水道のライニング、舗装材、接着剤等の土木・建築分野、ダイアタッチ材、絶縁封止剤等の電気・電子分野、繊維強化プラスチック分野等において広く利用されている。
【0003】
またエポキシ樹脂組成物において、用途に応じた所望の特性を付与するために、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂により変性された変性エポキシ樹脂を用いることが知られている。
例えば特許文献1には、エポキシ樹脂と芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性ノボラック型エポキシ樹脂を含む熱硬化型エポキシ樹脂組成物が、耐熱性、高接着性、耐湿性に優れることが開示されている。
特許文献2には、エポキシ樹脂、アミン系硬化剤、及び芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂とエポキシ樹脂の反応物を所定の割合で含有する重防食塗料用組成物が、安全衛生上問題なく、防食性、耐水性、付着性に優れ、タールに比べて明色の塗膜を形成し得ることが開示されている。
【0004】
特許文献1,2の開示技術では、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂がエポキシ樹脂の変性に用いられているが、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂をエポキシ樹脂組成物に配合する技術も知られている。例えば特許文献3には、エポキシ樹脂、アミン系硬化剤、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂、顔料、及び溶剤からなる重防食用塗料組成物が、タールに起因する安全衛生性の問題がなく、石油樹脂の相溶性不良を解決し、塗膜にべたつきが残らず、防食性、低温硬化性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-48499号公報
【文献】特開2000-26769号公報
【文献】特開2001-152085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塗料、床材、接着剤、シーリング材等に用いるエポキシ樹脂組成物においては、室温硬化が可能であることが要求される場合がある。また、これらの用途において、エポキシ樹脂組成物の硬化物には機械物性が良好であることが求められる。該硬化物の機械物性としては、耐久性の観点から、機械強度が高く、且つ可撓性を有することが望ましい。しかしながら従来技術にかかるエポキシ樹脂組成物においては、機械強度及び可撓性に優れる硬化物を得るには未だ改善の余地があった。
本発明の課題は、室温硬化が可能であり、機械強度及び可撓性の高い硬化物を形成し得るエポキシ樹脂組成物、及びその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、溶剤、及び芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂を所定の割合で含有するエポキシ樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記に関する。
[1]エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、溶剤(C)、及び芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、成分(B)、(C)、(D)の合計含有量に対する成分(C)及び成分(D)の合計含有量の質量比[(C+D)/(B+C+D)]が0.42~0.57であり、且つ、成分(D)に対する成分(C)の質量比C/Dが1.00以上である、エポキシ樹脂組成物。
[2]上記[1]に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、室温硬化が可能であり、機械強度及び可撓性の高い硬化物を形成し得るエポキシ樹脂組成物を提供できる。該エポキシ樹脂組成物は、塗料、接着剤、床材、コンクリート用建造物等に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう)は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、溶剤(C)、及び芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、成分(B)、(C)、(D)の合計含有量に対する成分(C)及び成分(D)の合計含有量の質量比[(C+D)/(B+C+D)]が0.42~0.57であり、且つ、成分(D)に対する成分(C)の質量比C/Dが1.00以上である。
【0010】
本発明の組成物は上記構成であることにより、室温硬化が可能であり(以下、単に「室温硬化性」ともいう)、機械強度及び可撓性の高い硬化物を形成し得る。その理由については定かではないが、次のように考えられる。
室温硬化性の従来のエポキシ樹脂組成物においては、硬化物の機械強度と可撓性との両立が困難であった。これに対し、本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)の他に、所定割合の成分(C)及び成分(D)を含有することで、室温硬化させたエポキシ樹脂組成物の硬化物中で成分(C)及び成分(D)が可塑剤として作用し、且つ、硬化物Tgを過度に低下させないため、得られる硬化物において機械強度と可撓性とを両立できたと考えられる。具体的には、質量比[(C+D)/(B+C+D)]が0.42~0.57の範囲であると可撓性を発現しやすく、質量比C/Dが1.00以上であると、硬化物の機械強度の低下を抑制できるため、機械強度及び可撓性の高い硬化物を形成できると考えられる。
【0011】
本明細書において「室温硬化性のエポキシ樹脂組成物」とは、意図的に加熱を行わず、室温、好ましくは5~45℃で硬化させて用いるエポキシ樹脂組成物を意味する。
本発明において、エポキシ樹脂組成物の硬化物の機械強度は引張強度及び曲げ強度、可撓性は破断点変位により評価するものとする。エポキシ樹脂組成物の硬化物の引張強度、曲げ強度、及び破断点変位は、いずれも実施例に記載の方法により測定できる。
以下、本発明の組成物に用いる各成分について説明する。
【0012】
<エポキシ樹脂(A)>
エポキシ樹脂(A)(以下、単に「成分(A)」ともいう)は、後述するエポキシ樹脂硬化剤(B)中の活性水素と反応し得るグリシジル基を2つ以上有する樹脂であれば特に制限されず、飽和又は不飽和の脂肪族化合物や脂環式化合物、芳香族化合物、複素環式化合物のいずれであってもよい。機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点からは、エポキシ樹脂(A)は、芳香環又は脂環式構造を分子内に含むエポキシ樹脂が好ましい。
当該エポキシ樹脂の具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及び/又はグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。上記のエポキシ樹脂は、2種以上混合して用いることもできる。
【0013】
上記の中でも、室温硬化性向上の観点、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、エポキシ樹脂としてはメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものが好ましく、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点、入手性及び経済性の観点から、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂を主成分とするものがより好ましい。
なお、ここでいう「主成分」とは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含みうることを意味し、好ましくは全体の50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは90~100質量%を意味する。
【0014】
エポキシ樹脂(A)は、取り扱い性向上の観点から、主成分として含み得る上記エポキシ樹脂以外に、反応性希釈剤を含有していてもよい。該反応性希釈剤としては、少なくとも1つのエポキシ基を有する低分子化合物が挙げられ、例えばフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等の芳香族モノグリシジルエーテル;ブチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル等のアルキルモノグリシジルエーテル;1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の、脂肪族ジオールのジグリシジルエーテルが例示される。
上記反応性希釈剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、好ましくは80g/当量以上、より好ましくは100g/当量以上、さらに好ましくは120g/当量以上、よりさらに好ましくは150g/当量以上であり、得られるエポキシ樹脂組成物の取り扱い性、及び室温硬化性向上の観点から、好ましくは1,000g/当量以下、より好ましくは800g/当量以下、さらに好ましくは500g/当量以下、よりさらに好ましくは300g/当量以下である。
【0016】
<エポキシ樹脂硬化剤(B)>
本発明に用いるエポキシ樹脂硬化剤(B)(以下、単に「硬化剤(B)」又は「成分(B)」ともいう)としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。中でも、速硬化性を有し、室温硬化性にも優れるという観点から、エポキシ樹脂硬化剤(B)は、少なくともアミン系硬化剤を含むことが好ましい。エポキシ樹脂硬化剤(B)中のアミン系硬化剤の含有量は、室温硬化性向上の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
アミン系硬化剤は、分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物であれば特に制限されない。例えば、分子内に少なくとも2つのアミノ基を有する、ポリアミン化合物又はその変性体が挙げられる。
【0017】
当該ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等の鎖状脂肪族ポリアミン化合物;オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン(PXDA)等の芳香環含有脂肪族ポリアミン化合物;イソホロンジアミン(IPDA)、メンセンジアミン、ノルボルナンジアミン、トリシクロデカンジアミン、アダマンタンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-3,6-ジエチルシクロヘキサン、ジアミノジエチルメチルシクロヘキサン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン)、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂環式構造を有するポリアミン化合物;フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン等の芳香族ポリアミン化合物;N-アミノエチルピペラジン、N,N’-ビス(アミノエチル)ピペラジン等の複素環式構造を有するポリアミン化合物;ポリエーテルポリアミン化合物等が挙げられる。
【0018】
また、当該ポリアミン化合物の変性体としては、上記化合物のマンニッヒ変性物、エポキシ変性物、マイケル付加物、マイケル付加・重縮合物、スチレン変性物、ポリアミド変性物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
上記の中でも、室温硬化性向上の観点、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、エポキシ樹脂硬化剤(B)は、好ましくはポリアミン化合物の変性体であり、より好ましくはポリアミン化合物のエポキシ変性物であり、さらに好ましくは、下記式(1)で示されるポリアミン化合物と、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物との反応物を含む反応組成物である。
N-CH-A-CH-NH (1)
(式(1)中、Aはフェニレン基又はシクロヘキシレン基である。)
【0020】
ポリアミン化合物と、少なくとも1つのエポキシ基を有するエポキシ化合物との反応物を含む反応組成物とは、該ポリアミン化合物とエポキシ化合物とを反応させて得られる生成物であって、該ポリアミン化合物とエポキシ化合物との反応物(付加物)の他、該反応物以外の副生成物、未反応原料等も含む組成物を意味する。以下、該反応組成物を単に「前記反応組成物」ともいう。
【0021】
式(1)中、Aはフェニレン基又はシクロヘキシレン基であり、フェニレン基であることが好ましい。具体的には、Aは1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、及び1,4-シクロヘキシレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、機械強度が高い硬化物を形成する観点から、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、及び1,4-フェニレン基からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、1,3-フェニレン基がより好ましい。なお本明細書におけるシクロヘキシレン基には、シス体、トランス体のいずれも含まれる。
【0022】
式(1)で示されるポリアミン化合物の具体例としては、例えば、o-キシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン(PXDA)、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。これらの中でも、好ましくはo-キシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、及びパラキシリレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはメタキシリレンジアミンである。
【0023】
前記反応組成物に用いるエポキシ化合物は、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であればよく、2つ以上有する化合物がより好ましい。
該エポキシ化合物の具体例としては、エピクロロヒドリン、ブチルジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビフェノールジグリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジヒドロキシアントラセンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルグリコールウリル、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有する多官能エポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及び/又はグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂、及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
機械強度が高い硬化物を形成する観点、並びに硬化性の観点からは、エポキシ化合物としては分子中に芳香環又は脂環式構造を含む化合物がより好ましく、分子中に芳香環を含む化合物がさらに好ましく、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂がよりさらに好ましい。
【0024】
前記反応組成物は、ポリアミン化合物とエポキシ化合物とを公知の方法で開環付加反応させることにより得られる。例えば、反応器内にポリアミン化合物を仕込み、ここに、エポキシ化合物を一括添加、又は滴下等により分割添加して加熱し、反応させる方法が挙げられる。該付加反応は窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0025】
ポリアミン化合物とエポキシ化合物の使用量は、得られる反応物が活性水素を有するアミノ基を含有するような比率であれば特に制限されない。得られる反応物がエポキシ樹脂硬化剤としての機能を発現する観点から、当該付加反応においては、エポキシ化合物のエポキシ当量に対して過剰量のポリアミン化合物を用いることが好ましい。具体的には、エポキシ化合物中のエポキシ基数に対するポリアミン化合物中の活性水素数(ポリアミン化合物中の活性水素数/エポキシ化合物中のエポキシ基数)が、好ましくは50/1~4/1、より好ましくは20/1~4/1となるように、ポリアミン化合物とエポキシ化合物とを使用する。
【0026】
付加反応時の温度及び反応時間は適宜選択できるが、反応速度及び生産性、並びに原料の分解等を防止する観点からは、付加反応時の温度は好ましくは25~150℃、より好ましくは40~120℃である。また反応時間は、エポキシ化合物の添加が終了してから、好ましくは0.5~12時間、より好ましくは1~6時間である。
【0027】
エポキシ樹脂硬化剤(B)中の前記反応組成物の含有量は、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは75質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%以下である。
【0028】
エポキシ樹脂硬化剤(B)の活性水素当量(AHEW)は、エポキシ樹脂組成物への配合量が少なくても高い硬化性を発現する観点から、好ましくは150以下、より好ましくは120以下、さらに好ましくは110以下である。一方で機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、当該硬化剤のAHEWは、好ましくは35以上、より好ましくは50以上である。
【0029】
<溶剤(C)>
溶剤(C)(以下、単に「成分(C)」ともいう)としては、アルコール系溶剤、アルキレングリコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2-エチルへキシルアルコール、デカノール等の、炭素数1~10の脂肪族モノアルコール;ベンジルアルコール等の芳香環含有モノアルコール;フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等の複素環含有モノアルコールが挙げられる。
【0030】
アルキレングリコール系溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル[2-(2-メトキシエトキシ)エタノール]、トリエチレングリコールモノメチルエーテル[2-{2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ}エタノール]、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル[2-(2-エトキシエトキシ)エタノール]、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル[フェノキシエタノール]、ジエチレングリコールフェニルエーテル、トリエチレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールフェニルエーテル等が挙げられる。
【0031】
エステル系溶剤としては酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられ、ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられ、炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレン、イソオクタン、イソドデカン等の炭素数6~12の炭化水素化合物が挙げられる。
【0032】
上記の中でも、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、及び芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)の溶解性の観点から、溶剤(C)としては、アルコール系溶剤、アルキレングリコール系溶剤、エステル系溶剤、及び炭化水素系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、アルコール系溶剤及びアルキレングリコール系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0033】
さらに、5%重量減少温度がより高い硬化物を形成する観点からは、溶剤(C)は、1気圧における沸点が、好ましくは140℃以上、より好ましくは200℃以上の溶剤である。
【0034】
上記の中でも、可撓性、並びに、5%重量減少温度がより高い硬化物を形成する観点から、溶剤(C)は、ベンジルアルコール、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びプロピレングリコールフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことがさらに好ましく、ベンジルアルコールを含むことがよりさらに好ましい。
【0035】
溶剤(C)中の、ベンジルアルコール、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びプロピレングリコールフェニルエーテルの合計含有量は、可撓性、並びに、5%重量減少温度がより高い硬化物を形成する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは75質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%以下である。
また溶剤(C)中のベンジルアルコールの含有量は、可撓性、並びに、5%重量減少温度がより高い硬化物を形成する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは75質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%以下である。
【0036】
<芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)>
芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)(以下、単に「樹脂(D)」又は「成分(D)」ともいう。)は、芳香族炭化水素とホルムアルデヒドとを反応させることにより得られる樹脂である。
該芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、プソイドキュメン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、デシルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、メチルビフェニル、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、エチルナフタレン、アントラセン、メチルアントラセン、ジメチルアントラセン、エチルアントラセン、及びビナフチルからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)を構成する芳香族炭化水素は、トルエン、キシレン、メシチレン、及びプソイドキュメンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、キシレンがより好ましい。すなわち、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)は、トルエンとホルムアルデヒドとを反応させることにより得られるトルエンホルムアルデヒド樹脂、キシレンとホルムアルデヒドとを反応させることにより得られるキシレンホルムアルデヒド樹脂、メシチレンとホルムアルデヒドとを反応させることにより得られるメシチレンホルムアルデヒド樹脂、及びプソイドキュメンとホルムアルデヒドとを反応させることにより得られるプソイドキュメンホルムアルデヒド樹脂から選ばれる少なくとも1種が好ましく、キシレンホルムアルデヒド樹脂を含むことがより好ましい。
芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)中のキシレンホルムアルデヒド樹脂の含有量は、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0037】
芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)の25℃における粘度は、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、好ましくは30mPa・s以上、より好ましくは50mPa・s以上、さらに好ましくは100mPa・s以上、よりさらに好ましくは200mPa・s以上、よりさらに好ましくは250mPa・s以上である。該粘度の上限は特に制限されないが、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点、エポキシ樹脂(A)との良好な相溶性を維持する観点、及び取り扱い性の観点から、好ましくは30,000mPa・s以下、より好ましくは20,000mPa・s以下、さらに好ましくは15,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは10,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは8,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは5,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは2,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは1,000mPa・s以下、よりさらに好ましくは800mPa・s以下、よりさらに好ましくは500mPa・s以下である。
上記粘度は、25℃においてE型粘度計を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0038】
芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)の水酸基当量(g/当量)は、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、好ましくは200~5,000g/当量、より好ましくは500~4,000g/当量、さらに好ましくは1,000~3,500g/当量、よりさらに好ましくは1,500~3,000g/当量である。上記水酸基当量は、JIS K0070-1992に記載の方法により水酸基価を測定し、該水酸基価の値を水酸基当量に換算することで求められる。
【0039】
芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)は、市販品を用いてもよく、公知の方法により製造してもよい。
芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)の製造方法としては、例えば、特公昭37-5747号公報等に記載された方法により、芳香族炭化水素及びホルムアルデヒドを、触媒の存在下で縮合反応させる方法が挙げられる。
【0040】
芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)の市販品としては、例えば、フドー(株)製のキシレンホルムアルデヒド樹脂である「ニカノールY-50」、「ニカノールY-100」、「ニカノールY-300」、「ニカノールY-1000」、「ニカノールL」、「ニカノールLL」、「ニカノールLLL」、「ニカノールG」、「ニカノールH」、「ニカノールH-80」等が挙げられる。
【0041】
<含有量>
エポキシ樹脂組成物中の各成分の含有量及び含有量比は、好ましくは下記の範囲である。
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)との比率は、室温硬化性向上の観点、並びに、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、エポキシ樹脂硬化剤(B)中の活性水素数と、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の数との比率[活性水素数/エポキシ基数]が、好ましくは1/0.8~1/1.2、より好ましくは1/0.9~1/1.1、さらに好ましくは1/1となる量である。
【0042】
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の含有量は、室温硬化性向上の観点、並びに、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは40~65質量%である。
【0043】
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂硬化剤(B)の含有量は、室温硬化性の観点、並びに、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~30質量%、さらに好ましくは15~25質量%である。
【0044】
エポキシ樹脂組成物中の、成分(B)、(C)、(D)の合計含有量に対する成分(C)及び成分(D)の合計含有量の質量比[(C+D)/(B+C+D)]は、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、0.42~0.57であり、好ましくは0.45~0.55、より好ましくは0.47~0.53である。
【0045】
エポキシ樹脂組成物中の、成分(D)に対する成分(C)の質量比C/Dは、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、1.00以上であり、好ましくは1.00~3.50、より好ましくは1.20~3.30、さらに好ましくは1.20~3.00、よりさらに好ましくは1.20~2.70、よりさらに好ましくは1.20~2.50、よりさらに好ましくは1.30~2.20である。
【0046】
エポキシ樹脂組成物中の溶剤(C)の含有量は、前記質量比[(C+D)/(B+C+D)]及び質量比C/Dを満たす範囲であればよいが、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、エポキシ樹脂組成物中、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは3~20質量%、よりさらに好ましくは5~20質量%、よりさらに好ましくは7~15質量%である。
【0047】
エポキシ樹脂組成物中の芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)の含有量は、前記質量比[(C+D)/(B+C+D)]及び質量比C/Dを満たす範囲であればよいが、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、エポキシ樹脂組成物中、好ましくは1~25質量%、より好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは3~15質量%、よりさらに好ましくは3~12質量%、よりさらに好ましくは4~10質量%である。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに公知の硬化促進剤、充填材、可塑剤などの改質成分、揺変剤などの流動調整成分、顔料、レベリング剤、粘着付与剤などのその他の成分を配合してもよい。
但し、本発明のエポキシ樹脂組成物は、室温硬化性向上の観点、機械強度、及び可撓性が高い硬化物を形成する観点から、顔料の含有量が少ないことが好ましい。エポキシ樹脂組成物中の顔料の含有量は、好ましくは5質量%未満、より好ましくは2質量%未満、さらに好ましくは1質量%未満、よりさらに好ましくは0.1質量%未満であり、よりさらに好ましくは0質量%である。
【0049】
また本発明のエポキシ樹脂組成物は、好ましくは非水系のエポキシ樹脂組成物であり、水の含有量が少ないことが好ましい。エポキシ樹脂組成物中の水の含有量は、好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、さらに好ましくは2質量%未満、よりさらに好ましくは1質量%未満、よりさらに好ましくは0.1質量%未満であり、よりさらに好ましくは0質量%である。ここでいう水の含有量は、意図的にエポキシ樹脂組成物に添加した水の量であり、不純物としての少量の水が存在することを排除するものではない。
【0050】
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、溶剤(C)、及び芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)の合計含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、よりさらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上であり、100質量%以下である。
【0051】
<エポキシ樹脂組成物の製造方法>
エポキシ樹脂組成物の製造方法には特に制限はなく、成分(A)~(D)、及び必要に応じ用いられる他の成分を公知の方法及び装置を用いて混合し、調製することができる。エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分の混合順序にも特に制限はないが、取り扱い性向上の観点から、予めエポキシ樹脂硬化剤(B)を溶剤(C)に溶解させた溶液を調製し、該溶液と、成分(A)、成分(D)とを混合することが好ましい。
エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分を混合する際の温度及び時間は適宜調整できるが、粘度上昇を抑制する観点から、混合温度は、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下であり、エポキシ樹脂の混和性の観点から、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上である。また、混合時間は好ましくは0.1~20分、より好ましくは1~10分の範囲である。
【0052】
[硬化物]
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、本発明の組成物を公知の方法で硬化させて得られる。エポキシ樹脂組成物の硬化条件は用途、形態に応じて適宜選択され、該エポキシ樹脂組成物を硬化させるのに十分な温度及び時間において、公知の方法により行われる。例えば、室温硬化性が要求される用途においては、エポキシ樹脂組成物の硬化条件は、好ましくは、硬化温度は5~45℃、硬化時間は1時間~10日間の範囲で選択される。但し、溶剤(C)が過度に揮発しない条件であれば、上記範囲外の硬化温度及び硬化時間を採用してもよい。また、上記範囲外の硬化温度及び硬化時間にて、室温硬化させた後に硬化物のポストキュアを行うことを排除するものではない。
硬化物の形態も特に限定されず、用途に応じて選択することができる。例えばエポキシ樹脂組成物が各種塗料用途である場合、その硬化物は通常、膜状の硬化物である。
【0053】
<用途>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、室温硬化性を有し、機械強度及び可撓性が高い硬化物を形成しうることから、塗料、接着剤、床材、封止剤、ポリマーセメントモルタル、ガスバリアコーティング、プライマー、スクリード、トップコート、シーリング材、コンクリート用建造物、クラック補修材、道路の舗装材等に用いられ、特に、塗料、接着剤、床材、コンクリート用建造物等に好適に用いられる。
【実施例
【0054】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各種測定及び評価は以下の方法により行った。
【0055】
(粘度測定)
成分(D)の25℃における粘度は、E型粘度計「TVE-22H型粘度計 コーンプレートタイプ」(東機産業(株)製)を用いて測定した。
【0056】
(引張強度、曲げ強度、破断点変位の測定)
各例で得られたエポキシ樹脂組成物を2枚のアルミ板の間に流し込み、23℃、50%RHの条件下で、7日間硬化させた後、80℃で1時間加熱し、厚さ4mmのエポキシ樹脂組成物の硬化物を得た。その後、切削機で下記JIS規格に準じた試験片の形に加工し、オートグラフ((株)島津製作所製)を使用して、下記条件で引張強度、曲げ強度、及び破断点変位を測定した。いずれも値が大きいほど、良好な結果であることを意味する。
引張強度:JIS K7161-1:2014及びJIS K7161-2:2014に準拠した方法で、温度:23℃、試験速度:5mm/分にて引張試験を行い、引張強度を測定した。
曲げ強度及び破断点変位:JIS K7171:2016に準拠した方法で、温度:23℃にて曲げ試験を行い、曲げ強度及び破断点変位を測定した。
【0057】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
各例で得られたエポキシ樹脂組成物約5mgを23℃、50%RHの条件下で7日間硬化させた。この硬化物を、示差走査熱量計(TAインスツルメント製「DSC25」)を用いて、昇温速度1℃/分の条件で-10~100℃まで加熱し、硬化物のTgを求めた。
【0058】
(5%重量減少温度の測定)
各例で得られたエポキシ樹脂組成物約15mgを、23℃、50%RHの条件下で、7日間硬化させた。この硬化物を、熱重量分析装置(セイコーインスツル(株)社製「TG/DTA6200」)を用いて、窒素ガス流量50mL/分、昇温速度10℃/分の条件で25~300℃まで加熱し、重量が5質量%減少した温度を5%重量減少温度とした。
【0059】
製造例1(メタキシリレンジアミンとエポキシ化合物との反応物を含む反応組成物(MXDA-jER828反応組成物)溶液の製造)
撹拌装置、温度計、窒素導入管、滴下漏斗及び冷却管を備えた内容積1リットルのセパラブルフラスコに、メタキシリレンジアミン(三菱瓦斯化学(株)製、MXDA)179gを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら、エポキシ化合物として、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する多官能エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製「jER828」、エポキシ当量:186g/当量)121g(メタキシリレンジアミン中の活性水素数/エポキシ化合物中のエポキシ基数=8/1となる量)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃に昇温して2時間反応を行い、MXDA-jER828反応組成物を得た。ここに溶剤(C)であるベンジルアルコールを全体量の40質量%となる量を添加して希釈し、前記反応組成物の濃度が60質量%の反応組成物溶液を得た。該反応組成物溶液(ベンジルアルコールを含む全量)の活性水素当量(AHEW)は109.8であった。
【0060】
実施例1(エポキシ樹脂組成物の調製、評価)
エポキシ樹脂(A)として、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製「jER828」、エポキシ当量186g/当量)を使用し、エポキシ樹脂硬化剤(B)及び溶剤(C)の混合物として、製造例1で得られたMXDA-jER828反応組成物溶液を使用した。また成分(D)として、キシレンホルムアルデヒド樹脂(フドー(株)製「ニカノールY-300」)を用いた。
上記成分(A)~(D)を表1に示す配合量となるよう配合して23℃にて撹拌、混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基数に対するエポキシ樹脂硬化剤(B)中の活性水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤(B)中の活性水素数/エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基数)は1/1となるようにした。
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、前述の方法で各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
実施例2~4、比較例1~4
エポキシ樹脂組成物への配合成分及び配合量を表1に記載の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でエポキシ樹脂組成物を調製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。なお表1中に記載の配合量は、いずれも有効成分量である。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に記載の成分は下記である。
<エポキシ樹脂(A)>
*1 jER828:ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有する液状エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株)製「jER828」、エポキシ当量:186g/当量
<エポキシ樹脂硬化剤(B)>
*2 MXDA-jER828反応組成物:製造例1で得られた反応組成物(ベンジルアルコールを除いた量)
<芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)>
*3 Y-300:キシレンホルムアルデヒド樹脂、フドー(株)製「ニカノール Y-300」、25℃における粘度:285mPa・s、水酸基当量:2,805g/当量(水酸基価:20mgKOH/g)
*4 Y-100:キシレンホルムアルデヒド樹脂、フドー(株)製「ニカノール Y-100」、25℃における粘度:109mPa・s、水酸基当量:2,244g/当量(水酸基価:25mgKOH/g)
*5 Y-50:キシレンホルムアルデヒド樹脂、フドー(株)製「ニカノール Y-50」、25℃における粘度:50mPa・s、水酸基当量:2,805g/当量(水酸基価:20mgKOH/g)
【0064】
表1に示すように、本実施例のエポキシ樹脂組成物は23℃での硬化が可能で、その硬化物は、引張強度が30MPa以上、及び曲げ強度が50MPa以上となり機械強度が高く、さらに、可撓性も良好である。
実施例1と実施例3との対比より、溶剤(C)がベンジルアルコールであると、プロピレングリコールフェニルエーテルである場合と比較して5%重量減少温度が高く、より耐熱性の点で優れることがわかる。
これに対し本比較例1~3のエポキシ樹脂組成物の硬化物では、機械強度及び可撓性のいずれかが劣る結果となった。なお、比較例4のエポキシ樹脂組成物は各成分が相溶せず、評価を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、室温硬化が可能であり、機械強度及び可撓性の高い硬化物を形成し得るエポキシ樹脂組成物を提供できる。該エポキシ樹脂組成物は、塗料、床材、コンクリート用建造物、及び接着剤用途等に好適に用いられる。
【要約】
エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、溶剤(C)、及び芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂(D)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、成分(B)、(C)、(D)の合計含有量に対する成分(C)及び成分(D)の合計含有量の質量比[(C+D)/(B+C+D)]が0.42~0.57であり、且つ、成分(D)に対する成分(C)の質量比C/Dが1.00以上であるエポキシ樹脂組成物、及びその硬化物である。