(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-12
(45)【発行日】2023-09-21
(54)【発明の名称】電動航空機
(51)【国際特許分類】
B64C 39/02 20060101AFI20230913BHJP
B64D 27/24 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
B64C39/02
B64D27/24
(21)【出願番号】P 2019155148
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】平林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】荻巣 敏充
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第205203403(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0048262(US,A1)
【文献】特開2015-168425(JP,A)
【文献】米国特許第06002584(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 39/02
B64D 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータで駆動するプロペラによって推進力を得る電動航空機において、
前記プロペラを駆動するための複数の電動モータをそれぞれ制御する複数のコントローラが
、
翼の前縁部を構成する板状部材が当該複数のコントローラを冷却するヒートシンクとして機能するように、前記板状部材の内面側に直接又は間接的に取り付けられ、
前記翼の延在方向に沿って延在する主桁よりも、前記翼の前縁側に配置されている、
ことを特徴とする電動航空機。
【請求項2】
前記複数のコントローラは、前記翼の延在方向に沿って前記翼の前縁部の内面側にそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電動航空機。
【請求項3】
前記コントローラは、前記翼の前縁部を構成する板状部材の内面側に直接又は熱伝導性を有する治具を介して取り付けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動航空機。
【請求項4】
前記翼の前縁部より後方の表面部分に防氷塗料が塗布されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動航空機。
【請求項5】
前記翼の前縁部の内面側が、前記コントローラごとに防火壁で仕切られていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動航空機。
【請求項6】
前記防火壁で仕切られた各空間の内壁面に防火塗料が塗布されていることを特徴とする請求項5に記載の電動航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動航空機に係り、特に電動モータで駆動するプロペラによって推進力を得る電動航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の翼に氷が付着すると、空気抵抗が増加したり揚力が減少するなど飛行性能が低下する場合があり、最悪の場合、事故につながる危険性がある。
そのため、航空機の翼への着氷を防止する技術すなわち防氷のための技術が種々開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、航空機の翼の前縁部の内側と外側にそれぞれ電熱線層を配置し、各電熱線層にそれぞれ通電して発熱させることで、航空機の翼の前縁部への着氷を防止したり付着した氷を除去する防氷のための技術が開示されている。
また、この他にも、氷が付着しやすい翼の前縁部を圧縮エアによって部分的に膨らませたり翼の前縁部に温風を送るなどする翼の前縁部の防氷のための技術が種々開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように、防氷のために電熱線層や、圧縮エアや温風の送風管等の新たな装置を航空機の翼に配置すると、翼部分の重量の増加につながるとともに、電動航空機の製造コストの高騰にもつながるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、翼に新たな装置等を配置することなく、翼の防氷を確実に行うことが可能な電動航空機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
電動モータで駆動するプロペラによって推進力を得る電動航空機において、
前記プロペラを駆動するための複数の電動モータをそれぞれ制御する複数のコントローラが、
翼の前縁部を構成する板状部材が当該複数のコントローラを冷却するヒートシンクとして機能するように、前記板状部材の内面側に直接又は間接的に取り付けられ、
前記翼の延在方向に沿って延在する主桁よりも、前記翼の前縁側に配置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動航空機において、前記複数のコントローラは、前記翼の延在方向に沿って前記翼の前縁部の内面側にそれぞれ配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の電動航空機において、前記コントローラは、前記翼の前縁部を構成する板状部材の内面側に直接又は熱伝導性を有する治具を介して取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動航空機において、前記翼の前縁部より後方の表面部分に防氷塗料が塗布されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動航空機において、前記翼の前縁部の内面側が、前記コントローラごとに防火壁で仕切られていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の電動航空機において、前記防火壁で仕切られた各空間の内壁面に防火塗料が塗布されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電動航空機において、翼に新たな装置等を配置することなく、翼の防氷を確実に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】プロペラを駆動するための電動モータの配置の一例を表す図である。
【
図3】本実施形態に係る電動航空機の翼を下側から見た図であり、翼の下面やプロペラのナセル等を仮想的に取り外した状態を表す概略図である。
【
図4】板状部材の上部の内面側にコントローラを取り付けた状態を表す(A)断面図であり、(B)斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る電動航空機の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、電動航空機の一例を表す外観斜視図である。
電動航空機10は、翼11にプロペラ12が取り付けられており、後述する電動モータ20でプロペラ12を駆動して推進力を得るように構成されている。なお、
図1では、プロペラ12が固定翼に取り付けられている場合が示されているが、これに限定されず、例えばプロペラ12がティルトウイング等の可動する翼に取り付けられていてもよい。また、電動航空機10は無人機であってもよい。
【0016】
図2は、プロペラを駆動するための電動モータの配置の一例を表す図である。
本実施形態では、プロペラを駆動するための電動モータ20の配置が冗長系のモータ配置とされており、複数の電動モータ20A~20Eでプロペラ12を駆動するようになっている。
なお、
図2では、ナセル等の図示が省略されている。また、
図2等では5基の電動モータ20A~20Eで1つのプロペラ12を駆動する場合が示されており、以下では、1つのプロペラ12につき電動モータ20が5基設けられている場合について説明するが、電動モータ20の数は複数であればよく、5基以外でもよい。また、複数の電動モータ20の配置のしかたは
図2の場合に限定されない。
【0017】
図2の例では、前方に3基の電動モータ20A~20Cが配置され、後方に2基の電動モータ20D、20Eが配置されている。そして、各電動モータ20の出力軸に取り付けられた第1ギヤ21がそれぞれプロペラ軸12aの前側や後側に固定された第2ギヤ22と噛み合うように各電動モータ20が配置されている。
そして、各電動モータ20を駆動させることでプロペラ12がプロペラ軸12a周りに回転駆動されるようになっている。
【0018】
図3は、本実施形態に係る電動航空機の翼を下側から見た図であり、翼の下面やプロペラのナセル等を仮想的に取り外した状態を表す概略図である。
本実施形態に係る電動航空機10では、プロペラ12を駆動するための複数の電動モータ20をそれぞれ制御する複数のコントローラ30が、翼11の延在方向に沿って翼11の前縁部11aの内面側にそれぞれ配置されている。なお、本発明において前縁部とは、翼11の前縁やその近傍を含む翼11の部分をいう。
【0019】
具体的には、コントローラ30は、例えば
図4(A)、(B)に示すように、翼11の前縁部11aを構成する、垂直断面が「つ」の字状の例えばアルミニウム製の板状部材13の上部の内面側に、直接あるいは図示しない治具を介して取り付けられている。
なお、治具を介してコントローラ30を取り付ける場合、治具は熱伝導性を有するように構成される。また、
図4(A)中の11cは翼11を構成する構造物であり(
図3では図示省略)、11dについては後で説明する。
【0020】
そして、翼11の前縁部11aを構成する板状部材13の上部の内面側に取り付けられたコントローラ30が、
図3に示すように、翼11の延在方向に沿って翼11の前縁部11aにそれぞれ配置されている。
なお、
図3では、プロペラ12より翼11の先端側にコントローラ30が2個、プロペラ12より翼11の根元側にコントローラ30が3個配置されている場合が示されているが、コントローラ30を翼11の延在方向のどの位置にそれぞれ配置するかは、後述する各コントローラ30の熱による翼11の防氷効果や後述する配線31A、31Bの重量等を考慮して適宜決められる。
【0021】
各コントローラ30は、翼11の主桁11b等に沿うように引き回された配線31Aを通じて電動航空機10の胴体部や主翼内部等に配置された図示しないバッテリ等に接続されており、配線31Bを通じてプロペラ12の電動モータ20にそれぞれ接続されている。
そして、各コントローラ30は、バッテリから供給される電力に基づいて自らが担当する電動モータ20をそれぞれ制御してプロペラ12を回転駆動させるようになっている。なお、
図3では、コントローラ30ごとに配線31A、31Bがそれぞれ1本ずつ示されているが、配線31A、31Bはそれぞれ必要な本数が接続される。
【0022】
本実施形態に係る電動航空機10によれば、このように、プロペラ12を駆動するための複数の電動モータ20をそれぞれ制御する複数のコントローラ30を翼11の延在方向に沿って翼11の前縁部11aの内面側にそれぞれ配置することで、各コントローラ30が電動モータ20を制御する際にコントローラ30で発生した熱を翼11の前縁部11aを構成する板状部材13に伝え、翼11の前縁部11aへの着氷を防止したり、翼11の前縁部11aに付着した氷を融かして除去することが可能となる。
【0023】
このように、本実施形態に係る電動航空機10では、複数のコントローラ30を翼11の延在方向に沿って翼11の前縁部11aの内面側にそれぞれ配置することで、各コントローラ30が電動モータ20を制御する際の発熱を利用して、翼11の前縁部11aの防氷を確実に行うことが可能となる。
なお、上記のように構成すると、翼11の前縁部11aを構成する板状部材13が各コントローラ30のヒートシンクとして機能するため、各コントローラ30を効率良く冷却することも可能となる。
【0024】
また、各コントローラ30はプロペラ12の各電動モータ20を制御するためにそもそも電動航空機10に搭載されるものであり、本実施形態ではそれらを利用して翼11の前縁部11aの防氷を図るものであるため、防氷のために新たな装置を電動航空機10の翼11の部分に配置する必要がない。
そのため、本実施形態に係る電動航空機10によれば、翼11の部分に新たな装置等を配置することなく翼11の防氷を行うことが可能となる。そのため、新たな装置等を設けて翼11の部分の重量が増加したり電動航空機の製造コストが高騰したりする事態が生じることを防止することが可能となる。
【0025】
以上のように、本発明に係る電動航空機10によれば、複数のコントローラ30を翼11の延在方向に沿って翼11の前縁部11aの内面側にそれぞれ配置することで、翼11に新たな装置等を配置することなく、翼11の防氷を確実に行うことが可能となる。
また、各コントローラ30を効率良く冷却することも可能となる。
【0026】
ところで、翼11の前縁部11aで融けた氷が翼11の前縁部11aより後方の表面部分11d(
図4(A)参照)を流れる間に再び凍り、表面部分11dに氷が付着する場合がある。そのため、翼11の前縁部11aより後方の表面部分11dに、氷の付着を防止するための防氷塗料を塗布しておくように構成することが可能である。
このように構成すれば、翼11の前縁部11aで融けた氷が翼11の前縁部11aより後方の表面部分11dで凍っても撥水性を有する防氷塗料により氷が表面部分11dに付着することを防止することが可能となり、氷が付着して飛行性能が低下する等の問題が生じることを防止することが可能となる。
【0027】
一方、コントローラ30は電動モータ20に流す大電流を制御する装置であるため、コントローラ30がショートしたり断線したりして故障が生じると発火する可能性がある。その際、複数のコントローラ30を1か所にまとめて配置すると、1つのコントローラ30が発火した際に、その火や熱の影響が他のコントローラ30に連鎖して広がってしまうおそれがある。
しかし、
図3に示した本実施形態のように、複数のコントローラ30が翼11の延在方向に沿って分散して配置されていれば、1つのコントローラ30が発火した際に、火や熱の影響が他のコントローラ30に連鎖して広がる可能性は少なくなる。
【0028】
なお、この場合も、1つのコントローラ30が発火すると、その火や熱の影響が隣接するコントローラ30に及んでしまい、隣接するコントローラ30に故障等が生じるおそれがある。
そこで、これを防止するために、例えば
図3に示すように、翼11の前縁部11aの内面側に防火壁14を仕切り板のように設け、コントローラ30ごとに防火壁14で仕切るように構成することが可能である。
【0029】
このように構成すれば、1つのコントローラ30が発火しても、防火壁14によって隣接するコントローラ30への延焼や熱の伝導が妨げられる。
そのため、火や熱の影響が隣接するコントローラ30に及ぶことを的確に防止することが可能となる。
【0030】
また、その際、例えば、防火壁14で仕切られた各空間S(
図3参照。すなわち防火壁14と板状部材13とで包囲されコントローラ30が内包されているコントローラ30ごとの各空間S)の内壁面に、火や熱により発泡したり自己消火性を有する防火塗料が塗布されていれば、延焼や熱の伝導がより確実に妨げられる。
そのため、火や熱の影響が隣接するコントローラ30に及ぶことをより確実に防止することが可能となる。
【0031】
なお、本発明が上記の実施形態等に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更可能であることは言うまでもない。
例えば、各コントローラ30は、
図4(A)、(B)に示した位置よりもさらに翼11の前端に近い位置に配置するように構成することも可能であり、防氷が効果的に行われる適宜の位置に配置される。
【0032】
また、翼11の前縁部11aにコントローラ30以外の他の熱源を配置するように構成することも可能である。
さらに、本発明のように翼11の前縁部11aに複数のコントローラ30を配置するとともに、前述した防氷のための装置を翼11に配置するように構成すること(すなわち本発明の複数のコントローラ30の配置と他の防氷のための装置とを組み合わせて用いること)も可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 電動航空機
11 翼
11a 前縁部
11d 表面部分
12 プロペラ
13 板状部材
14 防火壁
20、20A~20E 電動モータ
30 コントローラ
S 空間