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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-13
(45)【発行日】2023-09-22
(54)【発明の名称】車両用動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 47/02 20060101AFI20230914BHJP
   F16H 61/4069 20100101ALI20230914BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
F16H47/02 B
F16H47/02 C
F16H61/4069
F16H61/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022553871
(86)(22)【出願日】2021-09-23
(86)【国際出願番号】 JP2021034917
(87)【国際公開番号】W WO2022071073
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2020163688
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】鯉沼 琢麻
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-540866(JP,A)
【文献】特開2007-64269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 47/02
F16H 61/4069
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された原動機によって回転する入力軸と、
前記車両の走行装置に回転を出力する出力軸と、
前記入力軸と前記出力軸との間に設けられ、前記入力軸側の回転を変速して前記出力軸側に伝達する遊星式無段変速機構とを備え、
前記遊星式無段変速機構は、
前記入力軸側に接続された遊星歯車機構と、
前記遊星歯車機構の出力側に設けられた第1クラッチと、
前記第1クラッチを介して前記遊星歯車機構の出力側と接続される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプと一対の主管路を介して接続された油圧モータと、
前記油圧モータと前記出力軸側との間に設けられた第2クラッチと、
前記第1クラッチおよび前記第2クラッチの接続、解放を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記原動機からの動力を前記走行装置に伝達することを可能とする走行状態から、前記原動機からの動力が前記走行装置に伝達されることを遮断または制限するニュートラル状態に切換えるときに、前記第1クラッチと前記第2クラッチとのうちの少なくとも一方のクラッチを解放することを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用動力伝達装置において、
前記コントローラは、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチの制御に加えて、前記油圧ポンプの傾転を制御し、
前記コントローラは、
前記走行状態から前記ニュートラル状態に切換えるときに、前記油圧ポンプの傾転を最小にしてから、前記第1クラッチと前記第2クラッチとのうちの少なくとも一方のクラッチを解放することを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用動力伝達装置において、
前記一対の主管路の間には、前記一対の主管路の間を連通状態と遮断状態とに切換え可能な連通弁が設けられており、
前記連通弁は、前記走行状態から前記ニュートラル状態に切換わるときに前記遮断状態から前記連通状態に切換えられることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用動力伝達装置において、
前記コントローラは、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチの制御に加えて、前記連通弁の連通、遮断を制御し、
前記コントローラは、
前記第1クラッチと前記第2クラッチとの両方が接続された状態から、前記第1クラッチと前記第2クラッチとのうちの少なくとも一方のクラッチを解放するときに、
前記連通弁を遮断状態から連通状態に切換えた後、前記第1クラッチと前記第2クラッチとのうちの少なくとも一方のクラッチを解放することを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項5】
請求項3に記載の車両用動力伝達装置において、
前記コントローラは、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチの制御に加えて、前記連通弁の連通、遮断を制御し、
前記コントローラは、
前記第1クラッチと前記第2クラッチとのうちの少なくとも一方のクラッチが解放された状態から、前記第1クラッチと前記第2クラッチとの両方を接続するときに、
前記第1クラッチと前記第2クラッチとの両方を接続した後、前記連通弁を連通状態から遮断状態に切換えることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項6】
請求項3に記載の車両用動力伝達装置において、
前記連通弁は、連通状態に対応する開位置と遮断状態に対応する閉位置とに切換え可能な電磁開閉弁であることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項7】
請求項3に記載の車両用動力伝達装置において、
前記連通弁は、設定圧の変更が可能な電磁リリーフ弁であり、設定圧を高くすることにより遮断状態とし、設定圧を低くすることにより連通状態とすることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項8】
請求項3に記載の車両用動力伝達装置において、
前記連通弁は、開位置と閉位置とに切換え可能な電磁開閉弁および設定圧の変更が可能な電磁リリーフ弁であり、
前記電磁開閉弁および前記電磁リリーフ弁は、前記一対の主管路の間に並列に設けられていることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ホイールローダに搭載され、種々の作業状態に最適な走行速度と駆動力を得ることができる車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダは、ダンプへの積み込み作業を主体とした「Vサイクル」の動作、または、ホッパへの投入作業を主体とした「ロード&キャリー」の動作を繰り返す。「Vサイクル」は、土砂等を掘削後にダンプへ積込する動作パターンである。「ロード&キャリー」は、土砂等を掘削後、運搬(負荷走行)し、ホッパへ排土し、回送(無負荷走行)する動作パターンである。このような掘削、運搬、積込、回送等の種々の作業を行うときに、ホイールローダは、最適な走行速度と駆動力を得るために、変速機構を頻繁に切換える。
【0003】
ホイールローダの駆動システムは、代表的なものとして、「トルクコンバータ付トランスミッション」と、「静油圧式無段変速機(HST)」と、「油圧機械式無段変速機(HMT)」との3つに大別される。トルクコンバータ(以下、トルコンという)が搭載された車両(以下、トルコン車という)には、高効率にするために、機械的結合ができるロックアップ式トルコン車がある。
【0004】
トルコン車は、低速域では、トルコンによるトルク増幅が行われており、車体の発進、掘削などのトルクを必要とする作業の場合にトルク増幅の効果を発揮する。しかし、トルク増幅が行われているときは、トルコンの滑りが発生しており、効率が落ちる。具体的には、速度比の上昇に従って、効率も上昇していくが、ある速度比で効率は最大になり、その後下降していく。このため、トルコン車は、高速度域では効率が下がる傾向にある。しかし、トルコン車は、ロックアップ機構を採用することにより、機械的にエンジンの出力軸とトランスミッションの出力軸を連結し、動力伝達効率を高めることができる。
【0005】
静油圧式無段変速機搭載車は、静油圧式無段変速機内の油圧ポンプと油圧モータの両方、または、何れか一方が可変容量型である。静油圧式無段変速機搭載車は、可変容量型の油圧ポンプまたは油圧モータの傾転を制御することによって容積を変化させ、車速と牽引力を制御することができる。効率は、静油圧式無段変速機の機械効率と容積効率の積で求められる。静油圧式無段変速機搭載車は、高速域で約70~80%の高い効率で稼働することができ、低速域での効率もトルコン車に比べ高い効率を発揮できる。
【0006】
油圧機械式無段変速機は、静油圧式無段変速機の油圧ユニットによる油圧動力伝達機構と、歯車による機械動力伝達機構を兼ね備えた構造となっている(特許文献1)。エンジンから油圧機械式無段変速機に入力された動力は、油圧動力伝達と機械動力伝達に分割され、後に結合され出力される。その動力の分割・結合の役割を担っているのが、遊星歯車機構である。油圧機械式無段変速機搭載車は、遊星歯車機構の作用により、車速が速くなるにつれて、伝達効率の低い油圧動力伝達の割合より伝達効率の高い機械動力伝達の割合が多くなる。この構成により、油圧機械式無段変速機搭載車は、トルコン車のデメリットの一つである低速度域でのトルコン滑りによる低効率が改善され、高速域では静油圧式無段変速機搭載車よりも高い伝達効率を実現することが可能となる。また、油圧機械式無段変速機搭載車は、油圧動力伝達機構の傾転制御による容積変化により、車速と牽引力の制御が可能である。このため、油圧機械式無段変速機搭載車は、荷役作業機と駆動システムとの間で、エンジンによって入力された動力の分配制御が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2010-540866号公報(特許第5190513号公報)
【発明の概要】
【0008】
油圧機械式無段変速機搭載車は、低速(5~10km/h)で荷物を運搬する場合に、無段階の変速により高効率が実現できる。しかし、油圧機械式無段変速機搭載車は、高速(10~20km/h)で運搬するときであっても、油圧に動力を分配するため、ロックアップ機構を採用するトルコン車より伝達効率が低下してしまう可能性がある。また、油圧機械式無段変速機搭載車は、回送(10~40km/h)するときも同様に、油圧に動力を分配するため、ロックアップ機構を採用するトルコン車より伝達効率が低下してしまう可能性がある。例えば、0~5km/hでは、油圧機械式無段変速機搭載車とトルコン車の効率の差は0に近い。これに対して、5~10km/hでは、油圧機械式無段変速機搭載車の方がトルコン車よりも高効率となる。一方、10~40km/hでは、油圧機械式無段変速機搭載車よりロックアップ機構を採用するトルコン車の方が高効率となる。
【0009】
そこで、高効率化を図るべく、低速走行時および掘削積込作業時には、低速走行時に伝達効率が高く、操作性の優れた油圧を用いた油圧機械式無段変速機を動力が経由し、回送および運搬等の高速走行時には、高速走行時に伝達効率の高い直結機構に動力の経由を切換えるトランスミッションが考えられる。具体的には、車両に搭載された原動機によって回転する入力軸と、車両の走行装置に回転を出力する出力軸と、入力軸と出力軸との間に設けられ、入力軸側の回転を変速して出力軸側に伝達する遊星式無段変速機構と、入力軸側の回転を出力軸側に遊星式無段変速機構をバイパスして伝達する直結機構と、遊星式無段変速機構の出力側および直結機構の出力側を機械的に結合するアイドラ要素と、直結機構内で入力軸とアイドラ要素との間に設けられた直結クラッチとを備え、遊星式無段変速機構は、入力軸側に接続された遊星歯車機構と、遊星歯車機構の第1の出力側に設けられたポンプ側クラッチ(第1クラッチ)と、ポンプ側クラッチを介して遊星歯車機構の出力側と接続される油圧ポンプと、油圧ポンプと一対の主管路を介して接続された油圧モータと、油圧モータとアイドラ要素または出力軸との間に設けられたモータ側クラッチ(第2クラッチ)と、遊星歯車機構の第2の出力側でアイドラ要素と機械的に結合する部材とを備えた車両用動力伝達装置が考えられる。
【0010】
このような構成の場合、例えば、原動機からの動力が走行装置に伝達されることを遮断または制限するニュートラル状態のときに、ポンプ側クラッチとモータ側クラッチとの両方が接続された状態であると、エネルギ損失が大きくなる可能性がある。ニュートラル状態は、原動機となるエンジンを動作(回転)させたまま車両を停止させる場合に必要となる。
【0011】
本発明の目的は、遊星歯車機構の出力側および油圧モータの出力側にそれぞれクラッチを設けた構成で、ニュートラル状態のときのエネルギ損失を低減できる車両用動力伝達装置を提供することにある。
【0012】
本発明は、車両用動力伝達装置であって、車両に搭載された原動機によって回転する入力軸と、前記車両の走行装置に回転を出力する出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間に設けられ、前記入力軸側の回転を変速して前記出力軸側に伝達する遊星式無段変速機構とを備え、前記遊星式無段変速機構は、前記入力軸側に接続された遊星歯車機構と、前記遊星歯車機構の出力側に設けられた第1クラッチと、前記第1クラッチを介して前記遊星歯車機構の出力側と接続される油圧ポンプと、前記油圧ポンプと一対の主管路を介して接続された油圧モータと、前記油圧モータと前記出力軸側との間に設けられた第2クラッチと、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチの接続、解放を制御するコントローラとを備え、前記コントローラは、前記原動機からの動力を前記走行装置に伝達することを可能とする走行状態から、前記原動機からの動力が前記走行装置に伝達されることを遮断または制限するニュートラル状態に切換えるときに、前記第1クラッチと前記第2クラッチとのうちの少なくとも一方のクラッチを解放する。
【0013】
本発明によれば、遊星歯車機構と油圧ポンプとの間に第1クラッチを設けると共に油圧モータの出力側に第2クラッチを設けた構成で、ニュートラル状態のときのエネルギ損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態による車両用動力伝達装置が搭載されたホイールローダを示す左側面図である。
図2図1中の変速装置(車両用動力伝達装置)を示す一部破断の側面図である。
図3】ホイールローダの動力伝達経路をコントローラと共に示す構成図である。
図4図3中のコントローラを連通弁(電磁開閉弁)等と共に示すブロック図である。
図5】ポンプ側クラッチ(第1クラッチ)とモータ側クラッチ(第2クラッチ)が接続されているときのコントローラによる処理を示すフローチャートである。
図6】ポンプ側クラッチ(第1クラッチ)とモータ側クラッチ(第2クラッチ)が解放されているときのコントローラによる処理を示すフローチャートである。
図7図1中のホイールローダのキャブの内部を示す一部破断の斜視図である。
図8】第1の変形例による車両用動力伝達装置が搭載されたホイールローダの動力伝達経路をコントローラと共に示す構成図である。
図9】第2の変形例による車両用動力伝達装置が搭載されたホイールローダの動力伝達経路をコントローラと共に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態による車両用動力伝達装置を、ホイールローダに適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、図5および図6に示すフローチャートの各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
【0016】
図1ないし図7は、実施の形態を示している。図1において、ホイールローダ1は、車両(作業車両)の代表例である。ホイールローダ1は、左,右の前車輪2が設けられた前部車体3と左,右の後車輪4が設けられた後部車体5とが左,右方向に屈曲可能に連結されたアーティキュレート式の作業車両として構成されている。即ち、前部車体3および後部車体5は、ホイールローダ1の車体を構成している。前部車体3と後部車体5との間には、センタヒンジ6、ステアリングシリンダ(図示せず)が設けられている。前部車体3と後部車体5は、ステアリングシリンダを伸長・縮小させることにより、センタヒンジ6を中心に左,右方向に屈曲する。これにより、ホイールローダ1は、走行時の操舵を行うことができる。
【0017】
ホイールローダ1の前部車体3には、荷役作業機とも呼ばれる作業装置7が俯仰の動作を可能に設けられている。作業装置7は、ローダバケット7Aを備えている。一方、ホイールローダ1の後部車体5には、内部が運転室となったキャブ8、エンジン9、油圧ポンプ10、トランスミッションである変速装置21等が設けられている。
【0018】
図7に示すように、キャブ8内には、運転席8A、ステアリングホイール8B、アクセルペダル8C、ブレーキペダル8D、FNRレバー8E、駐車ブレーキ用スイッチ等が設けられている。FNRレバー8Eは、オペレータによって操作されることにより、ホイールローダ1の前進、後退を切換えると共に、変速段を切換える。オペレータは、ホイールローダ1を前進させるときにFNRレバー8Eを前進位置(F)に切換える。オペレータは、ホイールローダ1を後退させるときにFNRレバー8Eを後退位置(R)に切換える。オペレータは、ホイールローダ1を走行させずに停止を継続するときにFNRレバー8Eをニュートラル位置(N)に切換える。オペレータは、変速段を切換えるときにFNRレバー8Eをレバー軸周りに回転させる。
【0019】
エンジン9は、ホイールローダ1の動力源(原動機)である。動力源(原動機)は、内燃機関となるエンジン9単体で構成できる他、例えば、エンジンと電動モータ、または、電動モータ単体により構成してもよい。油圧ポンプ10は、エンジン9と接続されている。油圧ポンプ10は、作業装置7を動作させるための油圧源である。
【0020】
前部車体3の下側には、左,右方向に延びるフロントアクスル12が設けられている。フロントアクスル12の両端側には、左,右の前車輪2が取付けられている。一方、後部車体5の下側には、左,右方向に延びるリヤアクスル13が設けられている。リヤアクスル13の両端側には、左,右の後車輪4が取付けられている。
【0021】
フロントアクスル12は、前プロペラシャフト14を介して変速装置21に接続されている。リヤアクスル13は、後プロペラシャフト15を介して変速装置21に接続されている。変速装置21は、エンジン9の回転を減速して前プロペラシャフト14および後プロペラシャフト15に伝達する。即ち、エンジン9からの動力は、エンジン9に結合された変速装置21に伝達される。
【0022】
エンジン9からの動力は、変速装置21で回転数と回転方向を調整された後、変速装置21の前,後の出力軸23A,23Bから前プロペラシャフト14および後プロペラシャフト15を介してフロントアクスル12およびリヤアクスル13に伝達される。即ち、図2に示すように、変速装置21は、エンジン9と接続される入力軸22と、前プロペラシャフト14に接続される前側の出力軸23Aと、後プロペラシャフト15に接続される後側の出力軸23Bとを備えている。変速装置21は、変速装置21内の動力伝達経路を切換えることにより、入力軸22と出力軸23A,23Bとの間で変速および正転・逆転の切換えを行う。
【0023】
次に、実施の形態による変速装置21について、図1および図2に加え、図3ないし図6も参照しつつ説明する。なお、図3では、図面が複雑になることを避けるために、変速装置21の出力軸23を、フロントアクスル12およびリヤアクスル13との両方に動力を伝達する共通の出力軸23(=出力軸23A,23B)として簡略的に表している。即ち、図3では、例えばセンタディファレンシャル機構等を介して前側の出力軸23Aと後側の出力軸23Bとに動力を分割する構成に関しては省略している。
【0024】
車両用動力伝達装置としての変速装置21は、入力軸22と、出力軸23と、遊星式無段変速機構31と、コントローラ43とを備えている。また、変速装置21は、有段変速機構としての変速機構25と、直結機構27と、伝達軸28と、アイドラ要素としてのアイドラギヤ29とを備えている。
【0025】
入力軸22は、車両に搭載された原動機となるエンジン9によって回転する。即ち、入力軸22には、エンジン9(の駆動軸)が接続されている。これに対して、出力軸23は、車両の走行装置となるフロントアクスル12および/またはリヤアクスル13に回転を出力する。即ち、エンジン9の動力は、トランスミッションである変速装置21を介して出力軸23から出力される。出力軸23は、ホイールローダ1のフロントアクスル12および/またはリヤアクスル13を介して前車輪2および/または後車輪4に回転を出力する。即ち、出力軸23の動力は、走行装置であるフロントアクスル12および/またはリヤアクスル13に伝達される。
【0026】
入力軸22から変速装置21に入力された動力は、遊星式無段変速機構31または直結機構27を経由して、アイドラギヤ29に伝達される。アイドラギヤ29に伝達された動力は変速機構25を通じて出力軸23から出力される。遊星式無段変速機構31は、入力軸22と出力軸23との間に設けられている。遊星式無段変速機構31は、入力軸22側の回転を変速して出力軸23側に伝達する。遊星式無段変速機構31の入力側は、直結機構27の入力側ギヤ27Aが設けられた入力軸22に接続されている。遊星式無段変速機構31の出力側は、アイドラギヤ29が設けられた伝達軸28に接続されている。
【0027】
変速機構25は、入力軸22と出力軸23との間に遊星式無段変速機構31および直結機構27と直列に設けられている。変速機構25も、入力軸22側の回転を変速して出力軸23側に伝達する。この場合、変速機構25は、アイドラギヤ29と噛合した中間ギヤ26と出力軸23との間に設けられている。即ち、変速機構25の入力側は、中間ギヤ26に接続されている。変速機構25の出力側は、出力軸23に接続されている。変速機構25は、例えば、複数段の有段変速機構として構成されている。変速機構25は、例えば、複数の伝達軸と、複数の歯車と、複数のクラッチとを含んで構成されている。この場合、変速機構25は、例えば、ホイールローダ1を前進させるときに接続される前進クラッチ25Aと、ホイールローダ1を後退させるときに接続される後退クラッチ25Bとを備えた変速機構(DCT:Dual Clutch Transmission)として構成することができる。例えば、キャブ8のFNRレバー8Eが前進位置(F)のときは、前進クラッチ25Aが接続される。キャブ8のFNRレバー8Eが後退位置(R)のときは、後退クラッチ25Bが接続される。なお、変速機構25は省略してもよい。即ち、中間ギヤ26と出力軸23とを変速機構25を介することなく直接的に接続してもよい。
【0028】
直結機構27は、入力軸22側の回転を出力軸23側に遊星式無段変速機構31をバイパスして伝達する。即ち、直結機構27は、入力軸22の回転を、遊星式無段変速機構31を介さずに変速機構25に直接的に伝達する。直結機構27は、入力軸22に接続された入力側ギヤ27Aと、この入力側ギヤ27Aと噛合する出力側ギヤ27Bと、伝達軸28と同軸に配置された回転軸27B1と、第3クラッチとしての直結クラッチ30とを備えている。出力側ギヤ27Bの回転は、直結クラッチ30を介して伝達軸28に伝達される。実施の形態では、入力側ギヤ27Aは、入力軸22に設けられている。出力側ギヤ27Bは、伝達軸28と同軸に配置された回転軸27B1に設けられている。直結クラッチ30は、伝達軸28と回転軸27B1の間に同軸上に配置されている。
【0029】
伝達軸28は、直結機構27の出力軸に対応し、かつ、遊星式無段変速機構31の出力軸に対応する。この場合、伝達軸28は、直結機構27の回転軸27B1と同軸に、かつ、遊星式無段変速機構31のモータ軸39と同軸に配置されている。伝達軸28は、直結機構27の回転軸27B1と直結クラッチ30を介して接続される。直結クラッチ30が接続されているときは、直結機構27の出力側ギヤ27Bの回転が伝達軸28に伝達される。伝達軸28は、遊星式無段変速機構31の油圧モータ38とモータ側クラッチ40を介して接続される。モータ側クラッチ40が接続されているときは、遊星式無段変速機構31の油圧モータ38の回転が伝達軸28に伝達される。また、伝達軸28は、遊星式無段変速機構31の遊星出力ギヤ32Bと、アイドラギヤ29を介して接続されている。
【0030】
アイドラ要素としてのアイドラギヤ29は、伝達軸28に設けられている。アイドラギヤ29は、遊星式無段変速機構31の出力側および直結機構27の出力側を機械的に結合する。アイドラギヤ29は、遊星式無段変速機構31を構成する遊星歯車機構32の遊星出力ギヤ32Bと噛合している。アイドラギヤ29は、中間ギヤ26と噛合している。アイドラギヤ29の回転は、中間ギヤ26を介して変速機構25に伝達される。即ち、変速装置21の入力軸22から入力された動力は、遊星式無段変速機構31または直結機構27を経由して、アイドラギヤ29に伝達される。アイドラギヤ29に伝達された動力は、変速機構25を通じて出力軸23から出力される。
【0031】
入力軸22とアイドラギヤ29との間に設けられた直結機構27内には、直結クラッチ30が設けられている。即ち、直結クラッチ30は、直結機構27内の出力側ギヤ27Bの回転軸27B1とアイドラギヤ29が設けられた伝達軸28との間に設けられている。直結クラッチ30は、直結機構27(回転軸27B1)とアイドラギヤ29(伝達軸28)との間で回転(トルク、回転力、動力)の伝達を行う「接続状態(締結状態)」と、回転の伝達が断たれる「遮断状態(解放状態)」とに切換えが可能となっている。直結クラッチ30が接続状態のときは、直結機構27の出力側ギヤ27B(回転軸27B1)の回転が伝達軸28を介してアイドラギヤ29に伝達される。直結クラッチ30が解放状態のときは、出力側ギヤ27B(回転軸27B1)の回転は伝達軸28に伝達されない。直結クラッチ30の接続、解放は、コントローラ43からの指令(指令信号C)に基づいて制御される。
【0032】
次に、遊星式無段変速機構31について説明する。
【0033】
遊星式無段変速機構31は、遊星歯車機構32と、第1クラッチとしてのポンプ側クラッチ33と、静油圧式無段変速機構34と、第2クラッチとしてのモータ側クラッチ40と、コントローラ43とを備えている。静油圧式無段変速機構34は、ポンプ軸35と、油圧ポンプ36と、一対の主管路37A,37Bと、油圧モータ38と、モータ軸39と、電磁開閉弁41と、接続管路42とを備えている。
【0034】
遊星歯車機構32は、入力軸22側に接続されている。具体的には、遊星歯車機構32は、入力軸22と接続されている。遊星歯車機構32は、1または複数段の遊星歯車装置(図示せず)と、遊星出力軸32Aと、遊星出力ギヤ32Bとにより構成されている。遊星歯車装置は、例えば、サンギヤと、リングギヤと、これらサンギヤとリングギヤとに噛合するプラネタリギヤを支持するキャリアとを備えている。例えば、入力軸22は、サンギヤとリングギヤとキャリアとのうちのいずれかの部材に接続されている。遊星出力軸32Aは、サンギヤとリングギヤとキャリアとのうちの入力軸22が接続された部材以外の部材に接続されている。遊星出力ギヤ32Bは、サンギヤとリングギヤとキャリアとのうちの残りの部材に接続されている。遊星出力軸32Aは、ポンプ側クラッチ33を介して静油圧式無段変速機構34のポンプ軸35(油圧ポンプ36)と接続される。遊星出力軸32Aの回転は、ポンプ側クラッチ33を介して静油圧式無段変速機構34のポンプ軸35(油圧ポンプ36)に伝達される。遊星出力ギヤ32Bは、アイドラギヤ29に噛合している。遊星出力ギヤ32Bの回転は、アイドラギヤ29に伝達される。
【0035】
ポンプ側クラッチ33は、遊星歯車機構32の出力側に設けられている。即ち、ポンプ側クラッチ33は、遊星歯車機構32の遊星出力軸32Aと静油圧式無段変速機構34のポンプ軸35(油圧ポンプ36)との間に設けられている。ポンプ側クラッチ33は、遊星歯車機構32(遊星出力軸32A)と静油圧式無段変速機構34の油圧ポンプ36(ポンプ軸35)との間で回転の伝達を行う「接続状態(締結状態)」と、回転の伝達が断たれる「遮断状態(解放状態)」とに切換えが可能となっている。ポンプ側クラッチ33が接続状態のときは、遊星歯車機構32の遊星出力軸32Aの回転が静油圧式無段変速機構34のポンプ軸35を介して油圧ポンプ36に伝達される。ポンプ側クラッチ33が解放状態のときは、遊星出力軸32Aの回転はポンプ軸35に伝達されない。ポンプ側クラッチ33の接続、解放は、コントローラ43からの指令(指令信号C)に基づいて制御される。
【0036】
静油圧式無段変速機構34のポンプ軸35は、静油圧式無段変速機構34の入力軸に対応する。ポンプ軸35は、油圧ポンプ36の回転軸(入力軸)に接続されている。または、ポンプ軸35は、油圧ポンプ36の回転軸(入力軸)に相当する。油圧ポンプ36は、ポンプ側クラッチ33を介して遊星歯車機構32の出力側、即ち、遊星歯車機構32の遊星出力軸32Aと接続される。油圧ポンプ36は、ポンプ軸35が回転駆動されることにより、一対の主管路37A,37B内に圧油を流通させる。油圧ポンプ36は、例えば、可変容量型で斜板式の油圧ポンプにより構成されている。油圧ポンプ36は、ポンプ容量を調整するためのレギュレータ36Aを有している。油圧ポンプ36のレギュレータ36Aは、コントローラ43からの指令(指令信号W)に基づいて可変に制御される。一対の主管路37A,37Bは、油圧ポンプ36の一対の給排ポートと油圧モータ38の一対の給排ポートとを接続している。
【0037】
油圧モータ38は、油圧ポンプ36と一対の主管路37A,37Bを介して接続されている。油圧モータ38は、油圧ポンプ36から供給される圧油により回転する。油圧モータ38は、例えば、可変容量型で斜板式の油圧モータにより構成されている。油圧モータ38は、モータ容量を調整するためのレギュレータ38Aを有している。油圧モータ38のレギュレータ38Aは、コントローラ43からの指令(指令信号W)に基づいて可変に制御される。静油圧式無段変速機構34のモータ軸39は、静油圧式無段変速機構34の出力軸に対応する。モータ軸39は、油圧モータ38の回転軸(出力軸)に接続されている。または、モータ軸39は、油圧モータ38の回転軸(出力軸)に相当する。
【0038】
モータ側クラッチ40は、油圧モータ38と出力軸23側との間に設けられている。即ち、モータ側クラッチ40は、油圧モータ38とアイドラギヤ29との間に設けられている。これにより、油圧モータ38は、モータ側クラッチ40を介してアイドラギヤ29と接続される。この場合、モータ側クラッチ40は、静油圧式無段変速機構34のモータ軸39とアイドラギヤ29が設けられた伝達軸28との間に設けられている。モータ側クラッチ40は、アイドラギヤ29(伝達軸28)と静油圧式無段変速機構34の油圧モータ38(モータ軸39)との間で回転の伝達を行う「接続状態(締結状態)」と、回転の伝達が断たれる「遮断状態(解放状態)」とに切換えが可能となっている。モータ側クラッチ40が接続状態のときは、静油圧式無段変速機構34のモータ軸39の回転(=油圧モータ38の回転)が伝達軸28を介してアイドラギヤ29に伝達される。モータ側クラッチ40が解放状態のときは、モータ軸39の回転は伝達軸28に伝達されない。モータ側クラッチ40の接続、解放は、コントローラ43からの指令(指令信号C)に基づいて制御される。
【0039】
実施の形態では、変速装置21の入力軸22から入力された動力は、遊星式無段変速機構31を経由し変速機構25に動力伝達するか、または、直結機構27を経由し変速機構25に動力伝達するかを、任意に選ぶことができる。これにより、遊星式無段変速機構31の動作が適している条件では、遊星式無段変速機構31を利用することができる。一方、直結機構27による変速が適している場合には、直結機構27を経由して動力伝達することができる。
【0040】
遊星式無段変速機構31を経由して変速機構25に動力伝達する場合は、直結クラッチ30を解放し、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を接続する。この場合は、動力の流れとして、遊星歯車機構32および静油圧式無段変速機構34を介して変速機構25側に動力を分配する場合と、油圧ポンプ36の回転数を0にすることで静油圧式無段変速機構34に動力を伝達せずに変速機構25側に動力を伝達する場合がある。
【0041】
直結クラッチ30を解放し、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を接続し、静油圧式無段変速機構34に動力を伝達せずに、変速機構25側に動力伝達する状態を内部直結という。一方で、直結クラッチ30を解放し、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を接続し、静油圧式無段変速機構34に動力が伝達され、変速機構25側に動力伝達する状態を無段変速状態という。内部直結時には、油圧ポンプ36の傾転(吐出容量)を所定以上に上昇させ、油圧モータ38の傾転を中立にすることで、静油圧式無段変速機構34内にブレーキ作用を働かせ、油圧ポンプ36の回転数を0にする。これにより、エンジン9からの動力を変速機構25に伝達させる。実際には、油圧ポンプ36および油圧モータ38は油漏れがあるため、油圧ポンプ36の回転数は0にはならないが、エンジン9からの動力の多くを変速機構25に分配できる。一方、直結機構27を経由し変速機構25に動力伝達する場合は、直結クラッチ30を接続し、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。
【0042】
ここで、直結クラッチ30、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40は、湿式多板クラッチまたはシンクロメッシュ機構クラッチを採用できる。湿式多板クラッチは、摩擦板を押し付け合うことで伝達トルクを発生させる。シンクロメッシュ機構クラッチは、軸に固定したハブの端面の小さな歯同士を噛み合わせてトルクを伝達する。シンクロメッシュ機構クラッチは、小さな歯同士を噛み合わせてトルクを伝達するため、摩擦板クラッチと比較して小型かつ伝達トルク容量が大きい。さらに、シンクロメッシュ機構クラッチは、噛合を解除(解放)したときの引き摺りトルクが小さいため、連れ回りによる発熱が湿式多板クラッチに比較して小さい。
【0043】
このため、実施の形態では、損失低減のため、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40は、爪部の係合(噛合)により回転を伝達する噛合クラッチ、即ち、シンクロメッシュ機構クラッチとする。直結クラッチ30は、湿式多板クラッチとする。しかし、このようにポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40をシンクロメッシュ機構クラッチとした場合、静油圧式無段変速機構34の油圧ポンプ36および油圧モータ38の負荷を低下させなければ、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の接続、解放が困難になる。
【0044】
そこで、実施の形態では、静油圧式無段変速機構34は、連通弁としての電磁開閉弁41を備えている。即ち、静油圧式無段変速機構34の一対の主管路37A,37Bの間は、接続管路42によって接続されている。そして、接続管路42の途中に電磁開閉弁41が設けられている。これにより、一対の主管路37A,37Bの間には、これら一対の主管路37A,37Bの間を連通状態と遮断状態とに切換え可能な電磁開閉弁41が設けられている。電磁開閉弁41は、連通状態に対応する開位置(A)と遮断状態に対応する閉位置(B)とに切換えが可能である。電磁開閉弁41の切換えは、コントローラ43からの指令(指令信号W)に基づいて制御される。電磁開閉弁41は、遊星式無段変速機構31を通じて動力が伝達されている状態において、一対の主管路37A,37Bの間を遮断する閉位置(B)にある。一方、電磁開閉弁41は、遊星式無段変速機構31と直結機構27との動力伝達経路の切換えを行うときに、一対の主管路37A,37Bの間を連通する開位置(A)に切換えられる。このとき、一対の主管路37A,37Bの間を連通させることで、遊星式無段変速機構31の油圧回路内の油圧による動力伝達を短時間で遮断した状態で、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の接続、解放を行う。これにより、遊星式無段変速機構31と直結機構27の切換え、および、直結機構27から遊星式無段変速機構31への切換え、を可能にしている。
【0045】
次に、ニュートラル状態、即ち、原動機であるエンジン9からの動力が、変速装置21の出力軸23を介して走行装置であるフロントアクスル12および/またはリヤアクスル13に伝達されることを阻止するニュートラル状態について考える。ニュートラル状態は、エンジン9を動作(回転)させたままホイールローダ1を停止させる場合に必要となる。ここで、ニュートラル状態は、エンジン9からの動力がフロントアクスル12および/またはリヤアクスル13(以下、走行装置12,13ともいう)に伝達されることを「遮断」または「制限」している状態に対応する。エンジン9からの動力が走行装置12,13に伝達されることを「遮断」している状態は、例えば、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)に切換えられており、変速機構25の前進クラッチ25Aおよび後退クラッチ25Bが解放されている状態に対応する。
【0046】
エンジン9からの動力が走行装置12,13に伝達されることを「制限」している状態は、例えば、FNRレバー8Eが前進位置(F)または後退位置(R)に切換えられており、変速機構25の前進クラッチ25Aまたは後退クラッチ25Bが接続されているが、オペレータに走行の意思がない状態に対応する。オペレータに走行の意思がない状態は、例えば、車速がV1以下(V1:0~1km/h、実質的に0km/h)であり、加速指示が0(アクセルペダル8Cの踏込みが0)の状態に対応する。より具体的には、例えば、FNRレバー8Eが前進位置(F)または後退位置(R)に切換えられているが、ホイールローダ1が停止しており、オペレータがブレーキペダル8Dを踏込んでいる状態に対応する。このようなニュートラル状態、即ち、エンジン9からの動力が走行装置12,13に伝達されることを阻止(遮断または制限)している状態のときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が接続された状態であると、例えば、油圧ポンプ36が回転したままとなり、エネルギ損失が大きくなる可能性がある。
【0047】
そこで、実施の形態では、ニュートラル状態のときは、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との少なくとも一方のクラッチ33(40)を解放する。より具体的には、ニュートラル状態のときは、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する。これにより、ニュートラル状態のときの油圧ポンプ36の回転によるエネルギ損失を低減することができる。
【0048】
これに加えて、実施形態では、ニュートラル状態のときに、電磁開閉弁41は、閉位置(B)から開位置(A)に切換えられる。即ち、電磁開閉弁41は、遊星式無段変速機構31が動力伝達経路のときに閉位置(B)となっている。換言すれば、電磁開閉弁41は、エンジン9からの動力を遊星式無段変速機構31および出力軸23を介して走行装置12,13に伝達することを可能とする走行状態のときに、閉位置(B)となっている。これに対して、ニュートラル状態のときは、電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換える。即ち、ニュートラル状態のときに、電磁開閉弁41は、開位置(A)となっている。このため、一対の主管路37A,37Bの間を連通させることで、遊星式無段変速機構31の油圧回路内の油圧による動力伝達を遮断することができ、この面からもニュートラル状態のときのエネルギ損失を低減することができる。しかも、動力伝達を遮断した状態で、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放できる。これにより、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の解放を安定して行うこともできる。
【0049】
さらに、実施形態では、走行状態からニュートラル状態に切換えるときに、油圧ポンプ36の傾転を最小にしてから、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。これにより、油圧ポンプ36の負荷を低下させた状態で、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を円滑に解放することができる。即ち、実施形態では、走行状態からニュートラル状態に切換えるときに、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。また、走行状態からニュートラル状態に切換わるときに、電磁開閉弁41は、閉位置(B)から開位置(A)に切換えられる。
【0050】
次に、変速装置21のコントローラ43について、図3および図4を参照しつつ説明する。ここで、図4は、コントローラ43の詳細を示すブロック図である。
【0051】
コントローラ43の入力側は、第1速度検出器44と、第2速度検出器45と、第1圧力検出器46と、第2圧力検出器47と、第3圧力検出器48に接続されている。コントローラ43の出力側は、電磁開閉弁41と、直結クラッチ30と、ポンプ側クラッチ33と、モータ側クラッチ40と、遊星式無段変速機構31の油圧ポンプ36のレギュレータ36Aと、遊星式無段変速機構31の油圧モータ38のレギュレータ38Aとに接続されている。コントローラ43は、例えば、演算回路(CPU)、メモリ等を備えたマイクロコンピュータを含んで構成され、メモリには、後述の図5および図6に示す処理フローを実行するための処理プログラム、即ち、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の接続、解放の切換え制御処理に用いる処理プログラム等が格納されている。
【0052】
第1速度検出器44は、変速装置21の入力軸22に設けられている。第1速度検出器44は、入力軸22の回転速度および回転方向を検出する回転検出センサである。入力軸22の回転速度は、エンジン9の回転速度(以下、エンジン回転速度Vinという)に対応する。第1速度検出器44は、エンジン回転速度Vinに対応する検出信号をコントローラ43へ出力する。第2速度検出器45は、変速装置21の出力軸23に設けられている。第2速度検出器45は、出力軸23の回転速度(以下、出力回転速度Voutという)および回転方向を検出する回転検出センサである。出力回転速度Voutは、車速に対応している。第2速度検出器45は、出力回転速度Voutおよび回転方向に対応する検出信号をコントローラ43へ出力する。
【0053】
第1圧力検出器46は、一方の主管路37Aに設けられている。第1圧力検出器46は、一方の主管路37Aの液圧(圧力)を検出する圧力センサである。第1圧力検出器46は、一方の主管路37Aの液圧Pに対応する検出信号をコントローラ43へ出力する。第2圧力検出器47は、他方の主管路37Bに設けられている。第2圧力検出器47は、他方の主管路37Bの液圧(圧力)を検出する圧力センサである。第2圧力検出器47は、他方の主管路37Bの液圧Pに対応する検出信号をコントローラ43へ出力する。第3圧力検出器48は、直結クラッチ30に設けられている。第3圧力検出器48は、直結クラッチ30のクラッチ圧(圧力)を検出する圧力センサである。第3圧力検出器48は、直結クラッチ30のクラッチ圧Pに対応する検出信号をコントローラ43へ出力する。
【0054】
コントローラ43は、直結クラッチ30、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の接続、解放を制御する。コントローラ43は、直結機構27を経由し変速機構25に動力伝達する場合は、直結クラッチ30を接続し、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。この場合は、例えば、ホイールローダ1を高速走行させることが可能な高速モードに対応する。コントローラ43は、遊星式無段変速機構31を経由して変速機構25に動力伝達する場合は、直結クラッチ30を解放し、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を接続する。この場合は、例えば、ホイールローダ1を発進および低速走行させることが可能な低速モードに対応する。コントローラ43は、ニュートラル状態のときは、直結クラッチ30を解放し、かつ、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する。
【0055】
コントローラ43は、直結クラッチ30、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の制御に加えて、電磁開閉弁41の連通、遮断を制御する。ここで、直結クラッチ30が解放されており、かつ、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が接続された状態、即ち、遊星式無段変速機構31および出力軸23を介して走行装置12,13に動力を伝達することが可能な状態を、第1の状態(走行状態)とする。これに対して、直結クラッチ30が解放されており、かつ、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が解放された状態、即ち、出力軸23を介して走行装置12,13に動力が伝達されることを遮断または制限する状態を、第2の状態(ニュートラル状態)とする。
【0056】
この場合に、コントローラ43は、第1の状態から第2の状態に切換えるときに、電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換えた後、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40とを解放する。一方、コントローラ43は、第2の状態から第1の状態に切換えるときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40とを接続した後、電磁開閉弁41を開位置(A)から閉位置(B)に切換える。即ち、コントローラ43は、第1の状態から第2の状態に切換えるときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40とを解放する。また、コントローラ43は、第1の状態から第2の状態に切換えるときに、電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換える。
【0057】
また、コントローラ43は、第1圧力検出器46および第2圧力検出器47の検出値に基づいて、電磁開閉弁41を切換える。第1圧力検出器46および第2圧力検出器47は、一対の主管路37A,37Bの圧力差を検出する圧力検出器に対応する。コントローラ43は、第1圧力検出器46および第2圧力検出器47の検出値が閾値以下になったときに、電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換える。より具体的には、コントローラ43は、第1圧力検出器46の検出値と第2圧力検出器47の検出値の差、即ち、一対の主管路37A,37Bの圧力差(差圧)が閾値以下になったときに電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換える。なお、差圧の検出には、差圧を直接的に検出する差圧計(差圧検出器)を用いてもよい。また、差圧の閾値は、例えば、電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換えるときの圧力変動を抑制できる値として設定することができる。
【0058】
コントローラ43は、直結クラッチ30、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の制御に加えて、静油圧式無段変速機構34の油圧ポンプ36および油圧モータ38の傾転を制御する(ポンプ容量、モータ容量を調整する)。即ち、コントローラ43は、油圧ポンプ36のレギュレータ36Aおよび油圧モータ38のレギュレータ38Aを制御する。この場合、コントローラ43は、走行状態からニュートラル状態に切換えるときに、油圧ポンプ36の傾転を最小にしてから、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。
【0059】
図4に示すように、コントローラ43は、エンジン回転速度検出部43Aと、車速判定部43Bと、圧力検出部43Cと、指令演算部43Dと、連通弁指令部43Eと、クラッチ指令部43Fと、傾転制御指令部43Gとを備えている。エンジン回転速度検出部43Aには、第1速度検出器44からエンジン回転速度Vinが入力される。エンジン回転速度検出部43Aは、エンジン回転速度Vinを指令演算部43Dに出力する。車速判定部43Bには、第2速度検出器45から出力回転速度Voutが入力される。車速判定部43Bは、車速に対応する出力回転速度Voutを指令演算部43Dに出力する。圧力検出部43Cには、第1圧力検出器46、第2圧力検出器47および第3圧力検出器48から液圧P,Pおよびクラッチ圧Pが入力される。圧力検出部43Cは、液圧Pと液圧Pとの圧力差(=一対の主管路37A,37Bの差圧)とクラッチ圧Pとを指令演算部43Dに出力する。
【0060】
また、コントローラ43は、時間を計測するタイマ43Hと、自身の水平面に対する傾斜を検出する傾斜検出器43Jとを備えている。タイマ43Hは、例えば、ホイールローダ1が停車している時間(停車継続時間)を計測する。具体的には、タイマ43Hは、例えば、第2速度検出器45により検出される出力回転速度Voutが車速閾値V1以下となったときに、この車速閾値V1以下の状態が継続する時間Tを計測する。車速閾値V1は、ホイールローダ1が停車しているか否かを判定するための判定値であり、例えば、V1=0~1km/h(実質的に0km/h)に設定することができる。タイマ43Hは、計測時間Tを指令演算部43Dに出力する。傾斜検出器43Jは、水平面に対するホイールローダ1の傾斜角度θを検出する傾斜センサ(勾配センサ)である。傾斜検出器43Jは、傾斜角度θを指令演算部43Dに出力する。
【0061】
指令演算部43Dは、エンジン回転速度検出部43A、車速判定部43B、圧力検出部43C、タイマ43Hおよび傾斜検出器43Jからの入力に基づき、電磁開閉弁41に対する指令(電磁弁指令)、クラッチ30,33,40に対する指令(クラッチ指令)、油圧ポンプ36のレギュレータ36Aに対する指令(ポンプ指令)、油圧モータ38のレギュレータ38Aに対する指令(モータ指令)を演算する。指令演算部43Dは、電磁弁指令を連通弁指令部43Eに出力し、クラッチ指令をクラッチ指令部43Fに出力し、ポンプ指令およびモータ指令を傾転制御指令部43Gに出力する。
【0062】
連通弁指令部43Eには、指令演算部43Dから電磁弁指令が入力される。連通弁指令部43Eは、指令演算部43Dからの電磁弁指令に従って、電磁開閉弁41の開閉動作に関する制御指令を電磁開閉弁41に出力する。即ち、連通弁指令部43Eは、電磁開閉弁41に対してON(連通)/OFF(遮断)信号Wを出力する。この場合、ON(連通)は電磁開閉弁41の開位置(A)に対応し、OFF(遮断)は、電磁開閉弁41の閉位置(B)に対応する。クラッチ指令部43Fには、指令演算部43Dからクラッチ指令が入力される。クラッチ指令部43Fは、指令演算部43Dからのクラッチ指令に基づき、クラッチ30,33,40の接続、解放の動作に関する制御指令をクラッチ30,33,40に出力する。即ち、クラッチ指令部43Fは、クラッチ30,33,40に対してON(接続)/OFF(解放)信号C,C,Cを出力する。この場合、直結クラッチ30には信号Cを出力し、ポンプ側クラッチ33には信号Cを出力し、モータ側クラッチ40には信号Cを出力する。
【0063】
傾転制御指令部43Gには、指令演算部43Dからポンプ指令およびモータ指令が入力される。傾転制御指令部43Gは、指令演算部43Dからのポンプ指令およびモータ指令に基づき、油圧ポンプ36および油圧モータ38の傾転動作に関する制御指令を油圧ポンプ36のレギュレータ36Aおよび油圧モータ38のレギュレータ38Aに出力する。即ち、傾転制御指令部43Gは、油圧ポンプ36のレギュレータ36Aおよび油圧モータ38のレギュレータ38Aに対して斜板又は斜軸の傾転指令信号W,Wを出力する。この場合、油圧ポンプ36のレギュレータ36Aには傾転指令信号Wを出力し、油圧モータ38のレギュレータ38Aには傾転指令信号Wを出力する。静油圧式無段変速機構34内の油圧ポンプ36と油圧モータ38は、可変容量型である。油圧ポンプ36と油圧モータ38は、斜板又は斜軸の傾転角が変更されることにより吐出容量が変更される。油圧ポンプ36および油圧モータ38は、片傾転でも両傾転でもよい。
【0064】
次に、コントローラ43によって行われるポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の接続、解放の具体的な制御処理について説明する。なお、直結クラッチ30は解放されている。
【0065】
図5は、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40が接続されているときにコントローラ43で実行される具体的な処理フロー、即ち、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40が接続された状態から解放するときの制御処理(判定処理)を示している。図5の制御処理は、例えば、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40が接続されている間、換言すれば、遊星式無段変速機構31で動力の伝達を行うことが可能な状態の間、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0066】
例えば、後述の図6のS12の処理により、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40が接続されると、図5の処理フローが開始される。図5のS1では、加速指示がOFFであるか否かを判定する。例えば、S1では、アクセルペダル8CがOFFであるか否かを判定する。なお、S1では、ブレーキペダル8Dが踏込まれているか否かにより加速指示がOFFであるか否かを判定してもよい。S1で「YES」、即ち、加速指示がOFFである(アクセルペダル8Cが踏まれていない)と判定された場合は、S3に進む。一方、S1で「NO」、加速指示がONである(アクセルペダル8Cが踏まれている)と判定された場合は、S2に進む。S2では、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の接続を継続し、リターンする。即ち、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。
【0067】
S3では、ホイールローダ1の車速Vが車速閾値V1以下であるか否かを判定する。車速Vは、第2速度検出器45により検出される実際のホイールローダ1の速度(実速度)に対応する。車速閾値V1は、ホイールローダ1が停車しているか否かを判定するための閾値であり、例えば、V1=0~1km/hである。S3で「NO」、即ち、車速Vが閾値V1を超えていると判定された場合は、S2に進む。S3で「YES」、即ち、車速Vが閾値V1以下であると判定された場合は、S4に進む。S4では、キャブ8内に設けられた駐車ブレーキスイッチがOFFであるか否かを判定する。S4で「NO」、即ち、駐車ブレーキスイッチがON(制動付与)であると判定された場合は、S5に進む。
【0068】
S5では、サービスブレーキをONにし、かつ、駐車ブレーキをONにする。サービスブレーキは、例えば、湿式多板式のディスクブレーキで走行装置12,13内に設けられている。サービスブレーキは、圧油の供給により、制動力が付与される。駐車ブレーキは、例えば、変速機構25と走行装置12,13との間に設けられるネガティブブレーキで、圧油の供給が解除されることにより、制動力が付与される。続くS6では、電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換える。このとき、油圧ポンプ36の傾転を最小にする。続くS7では、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。S7でポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放したら、図6の処理を開始する。
【0069】
一方、S4で「YES」、即ち、駐車ブレーキスイッチがOFFであると判定された場合は、S8に進む。S8では、ホイールローダ1の傾斜角度θが傾斜閾値θ1以下であるか否かを判定する。ホイールローダ1の傾斜角度θは、傾斜検出器43Jにより検出される実際のホイールローダ1の傾斜角度に対応する。傾斜閾値θ1は、例えば、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放しても、ホイールローダ1の停止を維持できるか否かを判定するための傾斜角度の基準(閾値)である。傾斜閾値θ1は、ホイールローダ1が傾斜地に停車しているときに、ホイールローダ1の重量(車両重量)、路面との間の摩擦等によって算出することができる。S8で「NO」、即ち、ホイールローダ1の傾斜角度θがθ1よりも大きいと判定された場合は、S2に進む。一方、S8で「YES」、即ち、ホイールローダ1の傾斜角度θがθ1以下と判定された場合は、S9に進む。
【0070】
S9では、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)であるか否かを判定する。S9で「YES」、即ち、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)にある場合は、S5に進む。これに対して、S9で「NO」、即ち、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)にない場合は、S10に進む。S10では、車速VがV1以下の状態でT1時間以上継続したか否かを判定する。車速VがV1以下となってからの経過時間は、タイマ43Hによって計測される。判定時間である閾値T1は、ホイールローダ1の作業装置7による積み込み作業を停止している状態であるか、積み込み作業中に一時的に停車した状態であるかを判定する時間として設定することができる。例えば、作業装置7がダンプトラックに荷を積み込んでいる間は、FNRレバー8Eを前進位置(F)にした状態でサービスブレーキを動作させて2~6秒程度停車する。一方、FNRレバー8Eを前進位置(F)にした状態で、ダンプトラックを待っているときは、10~180秒程度停車する。
【0071】
このため、閾値T1は、例えば、3~60秒の間で設定することができる。このように、コントローラ43は、タイマ43Hを用いることにより、停車の時間差から、積み込み作業を停止している状態であるか、積み込み作業中に一時的に停車した状態であるかを判定することができる。S10で「YES」、即ち、車速VがV1以下の状態でT1時間以上継続したと判定された場合は、S5に進む。これに対して、S10で「NO」、即ち、車速VがV1以下の状態でT1時間以上継続していないと判定された場合は、S2に進む。
【0072】
図6は、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40が解放されているときにコントローラ43で実行される具体的な処理フロー、即ち、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40が解放された状態から接続するときの制御処理(判定処理)を示している。図6の制御処理は、例えば、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40が解放されている間、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0073】
例えば、前述の図5のS7の処理により、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40が解放されると、図6の処理フローが開始される。図6のS11では、ホイールローダ1の車速Vが車速閾値V1以下であるか否かを判定する。S11で「NO」、即ち、車速Vが閾値V1を超えていると判定された場合は、S12に進む。S12では、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を接続する。続くS13では、電磁開閉弁41を開位置(A)から閉位置(B)に切換える。続くS14では、サービスブレーキをOFFにし、かつ、駐車ブレーキをOFFにする。S14でサービスブレーキおよび駐車ブレーキをOFFにしたら、図5の処理を開始する。
【0074】
一方、S11で「YES」、即ち、車速Vが閾値V1以下であると判定された場合は、S15に進む。S15では、駐車ブレーキスイッチがOFFであるか否かを判定する。S15で「NO」、即ち、駐車ブレーキスイッチがONであると判定された場合は、S16に進む。S16では、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の解放を継続し、リターンする。即ち、リターンを介してスタートに戻り、S11以降の処理を繰り返す。一方、S15で「YES」、即ち、駐車ブレーキスイッチがOFFであると判定された場合は、S17に進む。S17では、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)であるか否かを判定する。S17で「YES」、即ち、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)にある場合は、S16に進む。これに対して、S17で「NO」、即ち、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)にない場合は、S18に進む。
【0075】
S18では、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)から前進位置(F)に操作されたか否かを判定する。S18で「YES」、即ち、FNRレバー8Eが前進位置(F)に操作されたと判定された場合は、S12に進む。これに対して、S18で「NO」、即ち、FNRレバー8Eが前進位置(F)に操作されていないと判定された場合は、S19に進む。S19では、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)から後退位置(R)に操作されたか否かを判定する。S19で「YES」、即ち、FNRレバー8Eが後退位置(R)に操作されたと判定された場合は、S12に進む。これに対して、S19で「NO」、即ち、FNRレバー8Eが後退位置(R)に操作されていないと判定された場合は、S16に進む。
【0076】
以上のように、実施の形態によれば、遊星歯車機構32の出力側(遊星歯車機構32と油圧ポンプ36との間)に、ポンプ側クラッチ33(第1クラッチ)が設けられている。また、油圧モータ38の出力側(油圧モータ38とアイドラギヤ29との間)に、モータ側クラッチ40(第2クラッチ)が設けられている。そして、コントローラ43は、エンジン9からの動力が走行装置12,13に伝達されることを遮断または制限するニュートラル状態のときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する。このため、ニュートラル状態のときのエネルギ損失を低減することができる。
【0077】
例えば、FNRレバー8Eがニュートラル位置(N)に切換えられており、変速機構25の前進クラッチ25Aおよび後退クラッチ25Bが解放されている状態(動力遮断ニュートラル状態)のときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する。このため、油圧ポンプ36または油圧モータ38に動力が伝達されなくなる。これにより、油圧ポンプ36または油圧モータ38が回転(空転)することによるエネルギ損失を低減することができる。また、例えば、FNRレバー8Eが前進位置(F)または後退位置(R)に切換えられており、変速機構25の前進クラッチ25Aまたは後退クラッチ25Bが接続されているが、オペレータに走行の意思がない状態(動力制限ニュートラル状態)のときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する。このため、油圧ポンプ36または油圧モータ38に動力が伝達されなくなる。これにより、この場合も、エネルギ損失を低減することができる。しかも、この場合には、アクセルペダル8Cが踏込まれる等によりオペレータの走行の意思を検出すると、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を接続するだけで、直ちにホイールローダ1を発進できる。このため、ニュートラル状態でエネルギ損失を低減することと、ホイールローダ1を発進させるときの応答性を向上することとを両立できる。
【0078】
実施の形態によれば、エンジン9からの動力を走行装置12,13に伝達することを可能とする走行状態からニュートラル状態に切換えるときに、油圧ポンプ36の傾転を最小にしてから、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する。このため、油圧ポンプ36の負荷を低下させた状態で、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を円滑に解放することができる。このように、実施の形態では、走行状態からニュートラル状態に切換えるときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する。
【0079】
実施の形態によれば、油圧ポンプ36と油圧モータ38とを接続する一対の主管路37A,37Bの間に連通弁としての電磁開閉弁41を設けている。そして、電磁開閉弁41は、ニュートラル状態のときに連通位置となる開位置(A)となっている。即ち、コントローラ43は、ニュートラル状態のときに電磁開閉弁41を開位置(A)にする。このため、ニュートラル状態のときに遊星式無段変速機構31(静油圧式無段変速機構34)の油圧回路内の油圧による動力伝達を遮断することができ、この面からもエネルギ損失を低減することができる。また、電磁開閉弁41を開位置(A)とすることにより、油圧回路内の動力伝達を遮断した状態で、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放できる。これにより、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の解放を安定して行うこともできる。特に、実施の形態では、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40をシンクロメッシュ機構クラッチとしている。このため、電磁開閉弁41により油圧ポンプ36と油圧モータ38との間を連通させることにより、油圧ポンプ36および油圧モータ38の回転による動力を短時間で遮断した状態で、シンクロメッシュ機構クラッチを安定して接続、解放できる。この結果、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放したときの引き摺りトルクが小さいシンクロメッシュ機構クラッチを用いることが可能となり、車両の動力損失を低減でき、伝達効率の高い変速装置21(トランスミッション)を提供することができる。
【0080】
実施の形態によれば、コントローラ43は、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が接続された状態(走行状態)から、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放するときに、電磁開閉弁41を遮断位置となる閉位置(B)から連通位置となる開位置(A)に切換えた後、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する。このため、遊星式無段変速機構31(静油圧式無段変速機構34)の油圧回路内の油圧による動力伝達を短時間で遮断した状態で、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を円滑に解放することできる。このように、実施の形態では、電磁開閉弁41は、走行状態からニュートラル状態に切換わるときに、遮断位置となる閉位置(B)から連通位置となる開位置(A)に切換えられる。
【0081】
実施の形態によれば、コントローラ43は、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が解放された状態(ニュートラル状態)から、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を接続するときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を接続した後、電磁開閉弁41を開位置(A)から閉位置(B)に切換える。このため、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を接続するときに圧力変動を低減でき、これらポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を円滑に接続することができる。
【0082】
実施の形態によれば、コントローラ43は、圧力検出器46,47により検出される一対の主管路37A,37Bの圧力差が閾値以下になったときに、電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換える。このため、電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換ることにより一対の主管路37A,37Bの間を連通するときの急激な圧力変動を抑制できる。
【0083】
実施の形態によれば、出力軸23の回転速度を検出する第2速度検出器45と、時間を計測するタイマ43Hとを備えている。そして、コントローラ43は、第2速度検出器45とタイマ43Hとからホイールローダ1の停止継続時間T(車速VがV1以下の継続時間)が予め設定したT1時間以上経過したと判定すると、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。即ち、コントローラ43は、停止継続時間Tが予め設定した所定時間(T1時間)以上経過したことにより、積み込み作業中の一時的な停止ではなく作業を中断していると判定し、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。これにより、適切なタイミングでポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放することができ、この面からもエネルギ損失を低減できる。
【0084】
また、実施の形態によれば、FNRレバー8Eを備えている。コントローラ43は、FNRレバー8Eの位置がニュートラル位置(N)のときに、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。また、FNRレバー8Eの切換位置が前進位置(F)または後退位置(R)であっても、コントローラ43は、車速VがV1以下の状態で所定時間(T1時間)以上経過すると、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。また、コントローラ43は、駐車ブレーキによる制動が付与されると、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放する。これにより、オペレータに走行の意思がないときに、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を解放することができる。
【0085】
実施の形態によれば、コントローラ43は、ホイールローダ1の車速VがV1を超えると、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40を接続する。このため、エンジン9からの動力を走行装置12,13に伝達すべきときに、エンジン9からの動力を走行装置12,13に伝達することができる。さらに、コントローラ43は、傾斜検出器43Jにより検出される傾斜角度θが傾斜閾値θ1を超えているときは、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の接続を継続する。このため、ホイールローダ1が傾斜した路面で停車しているときに、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の接続を継続することにより、停車した状態を維持することができる。
【0086】
実施の形態によれば、一対の主管路37A,37Bを連通・遮断する連通弁を電磁開閉弁41としている。このため、電磁開閉弁41を遮断位置となる閉位置(B)から連通位置となる開位置(A)にすることにより、一対の主管路37A,37Bの間を遮断状態から連通状態にすることができる。一方、電磁開閉弁41を開位置(A)から閉位置(B)にすることにより、一対の主管路37A,37Bの間を連通状態から遮断状態にすることができる。
【0087】
なお、実施の形態では、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40をシンクロメッシュ機構クラッチとした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、ポンプ側クラッチ(第1クラッチ)とモータ側クラッチ(第2クラッチ)をドグクラッチや湿式多板クラッチとしてもよい。
【0088】
実施の形態では、一対の主管路37A,37Bを連通・遮断する連通弁を電磁開閉弁41とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、図8に示す第1の変形例のように、一対の主管路37A,37Bの間を連通状態と遮断状態とに切換え可能な連通弁を、設定圧(リリーフ設定圧、リリーフ開始圧)の変更が可能な電磁リリーフ弁51A,51Bとしてもよい。ここで、一対の主管路37A,37Bの間を接続する接続管路42には、逆止弁となるチェック弁52,53が設けられている。一方のチェック弁52は、一方の主管路37A側から他方の主管路37B側に向けて圧油が流通するのを許容し、逆向きに圧油が流通するのを阻止する。他方のチェック弁53は、他方の主管路37B側から一方の主管路37A側に向けて圧油が流通するのを許容し、逆向きに圧油が流通するのを阻止する。接続管路42には、それぞれのチェック弁52,53をバイパスするバイパス管路54,55が接続されている。電磁リリーフ弁51A,51Bは、バイパス管路54,55の途中に設けられている。
【0089】
電磁リリーフ弁51A,51Bは、コントローラ43からの指令信号(指令信号W)に基づいて開弁圧(リリーフ圧)が変化する電動式の可変リリーフバルブにより構成されている。電磁リリーフ弁51A,51Bの設定圧(リリーフ設定圧、リリーフ開始圧)の変更は、コントローラ43からの指令信号(指令信号W)に基づいて制御される。電磁リリーフ弁51A,51Bは、設定圧を高くすることにより一対の主管路37A,37Bの間を遮断する遮断状態とし、設定圧を低くすることにより一対の主管路37A,37Bの間を連通する連通状態とする。
【0090】
このように、第1の変形例では、静油圧式無段変速機構34内の油圧による動力伝達を遮断する手段として、可変リリーフバルブである電磁リリーフ弁51A,51Bを用いている。電磁リリーフ弁51A,51Bは、通常はリリーフ圧を高圧側所定値(例えば、35MPaから50MPa)に設定してある。そして、ニュートラル状態のときに、コントローラ43は、電磁リリーフ弁51A,51Bのリリーフ圧を低圧側所定値(例えば、最小値)に変更する。即ち、電磁リリーフ弁51A,51Bにより一対の主管路37A,37Bの間で圧力をリリーフする。また、コントローラ43は、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が接続された第1の状態(走行状態)からポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が解放された第2の状態(ニュートラル状態)に切換えるときに、電磁リリーフ弁51A,51Bのリリーフ圧を低圧側所定値(最小値)に変更した後、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40とを解放する。一方、コントローラ43は、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が解放された第2の状態(ニュートラル状態)からポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が接続された第1の状態(走行状態)に切換えるときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40とを接続した後、電磁リリーフ弁51A,51Bのリリーフ圧を高圧側所定値に変更する。これにより、静油圧式無段変速機構34内の油圧による動力伝達を遮断した状態で、ポンプ側クラッチ33およびモータ側クラッチ40の接続、解放を行うことができる。
【0091】
なお、連通弁として、電磁開閉弁41と電磁リリーフ弁51A,51Bとの両方を設ける構成としてもよい。即ち、連通弁を、開位置(A)と閉位置(B)とに切換え可能な電磁開閉弁41および設定圧の変更が可能な電磁リリーフ弁51A,51Bとする。そして、電磁開閉弁41および電磁リリーフ弁51A,51Bは、一対の主管路37A,37Bの間に並列に設ける。この場合、コントローラ43は、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が接続された第1の状態(走行状態)からポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が解放された第2の状態(ニュートラル状態)に切換えるときに、電磁リリーフ弁51A,51Bのリリーフ圧を低圧側所定値(最小値)に変更した後、電磁開閉弁41を閉位置(B)から開位置(A)に切換え、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40とを解放する。一方、コントローラ43は、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が解放された第2の状態(ニュートラル状態)からポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方が接続された第1の状態(走行状態)に切換えるときに、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40とを接続した後、電磁開閉弁41を開位置(A)から閉位置(B)に切換え、電磁リリーフ弁51A,51Bのリリーフ圧を高圧側所定値に変更する。
【0092】
実施の形態では、遊星式無段変速機構31の油圧モータ38とアイドラギヤ29との間に第2クラッチとしてのモータ側クラッチ40を設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、図9に示す第2の変形例のように、遊星式無段変速機構31の油圧モータ38と出力軸23との間にモータ側クラッチ40を設けてもよい。即ち、変速機構25の出力側に接続される出力軸23には、出力軸ギヤ61が設けられている。出力軸側伝達軸62には、出力軸23の出力軸ギヤ61と直接または複数の歯車(図示せず)を介して噛合する伝達ギヤ63が設けられている。
【0093】
モータ側クラッチ40は、静油圧式無段変速機構34のモータ軸39と出力軸側伝達軸62との間に設けられている。モータ側クラッチ40は、出力軸23と静油圧式無段変速機構34(油圧モータ38のモータ軸39)との間で回転の伝達を行う「接続状態(締結状態)」と、回転の伝達が断たれる「遮断状態(解放状態)」とに切換えが可能となっている。モータ側クラッチ40が接続状態のときは、静油圧式無段変速機構34のモータ軸39の回転(=油圧モータ38の回転)が出力軸側伝達軸62、伝達ギヤ63、出力軸ギヤ61を介して、出力軸23に伝達される。モータ側クラッチ40が解放状態のときは、モータ軸39の回転は出力軸側伝達軸62に伝達されない。このような第2の変形例によれば、変速機構25を小型に構成することができる。
【0094】
実施の形態では、オペレータによって操作されることにより、前進(F)、後退(R)、ニュートラル(N)を切換える操作具をFNRレバー8Eとし、このFNRレバー8Eの位置がニュートラル(N)位置のときに、図5のS9および図6のS17で「YES」と判定する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、操作具は、例えば、FNRスイッチとしてもよい。また、操作具は、例えば、FRレバーとNスイッチとしてもよい。さらに、操作具は、例えば、FRスイッチとNスイッチとしてもよい。
【0095】
実施の形態では、変速装置21は、直結機構27、伝達軸28、アイドラギヤ29、第3クラッチである直結クラッチ30、第3圧力検出器48を備える構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、これらの構成、即ち、直結機構に関する構成を省略してもよい。実施の形態では、ニュートラル状態のときに電磁開閉弁41を開位置(A)にする構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、ニュートラル状態のときに電磁開閉弁41を開位置(A)にせずに閉位置(B)のままにしてもよい。実施の形態では、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との接続、解放の前後で電磁開閉弁41を切換える構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、ポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との接続、解放の前後で電磁開閉弁41を切換えなくてもよい。電磁リリーフ弁51A,51Bについても同様である。
【0096】
実施の形態では、コントローラ43は、ニュートラル状態のときにポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、ニュートラル状態のときにポンプ側クラッチ33を解放し、モータ側クラッチ40を接続したままとしてもよい。また、ニュートラル状態のときにモータ側クラッチ40を解放し、ポンプ側クラッチ33を接続したままとしてもよい。即ち、コントローラは、原動機からの動力が走行装置に伝達されることを遮断または制限するニュートラル状態のときに、第1クラッチ(ポンプ側クラッチ)と第2クラッチ(モータ側クラッチ)とのうちの少なくとも一方のクラッチを解放する。好ましくは、ニュートラル状態のときに、第1クラッチ(ポンプ側クラッチ)と第2クラッチ(モータ側クラッチ)とのうちの少なくとも第1クラッチ(ポンプ側クラッチ)を解放する。換言すれば、実施の形態では、コントローラ43は、走行状態からニュートラル状態に切換えるときにポンプ側クラッチ33とモータ側クラッチ40との両方を解放する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、走行状態からニュートラル状態に切換えるときにポンプ側クラッチ33を解放し、モータ側クラッチ40を接続したままとしてもよい。また、走行状態からニュートラル状態に切換えるときにモータ側クラッチ40を解放し、ポンプ側クラッチ33を接続したままとしてもよい。即ち、コントローラは、原動機からの動力を走行装置に伝達することを可能とする走行状態からニュートラル状態に切換えるときに、第1クラッチ(ポンプ側クラッチ)と第2クラッチ(モータ側クラッチ)とのうちの少なくとも一方のクラッチを解放する。好ましくは、走行状態からニュートラル状態に切換えるときに、第1クラッチ(ポンプ側クラッチ)と第2クラッチ(モータ側クラッチ)とのうちの少なくとも第1クラッチ(ポンプ側クラッチ)を解放する。
【0097】
実施の形態では、車両用動力伝達装置としての変速装置21を、作業車両のとしてのホイールローダ1に搭載した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、ホイール式ショベル等の建設車両、リフトトラック等の運搬車両、トラクタ等の農業車両といった各種の車両の動力伝達装置として広く適用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 ホイールローダ(車両)
9 エンジン(原動機)
12 フロントアクスル(走行装置)
13 リヤアクスル(走行装置)
21 変速装置(車両用動力伝達装置)
22 入力軸
23,23A,23B 出力軸
31 遊星式無段変速機構
32 遊星歯車機構
33 ポンプ側クラッチ(第1クラッチ)
36 油圧ポンプ
37A,37B 主管路
38 油圧モータ
40 モータ側クラッチ(第2クラッチ)
41 電磁開閉弁(連通弁)
43 コントローラ
51A,51B 電磁リリーフ弁(連通弁)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9