(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-20
(45)【発行日】2023-09-28
(54)【発明の名称】圧電積層体、圧電素子および圧電積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20230921BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20230921BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20230921BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20230921BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20230921BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20230921BHJP
H10N 30/082 20230101ALI20230921BHJP
H10N 30/079 20230101ALI20230921BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20230921BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20230921BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20230921BHJP
C01G 33/00 20060101ALN20230921BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/87
H10N30/06
H10N30/076
H10N30/082
H10N30/079
C23C14/08 K
H03H9/17 F
H03H3/02 B
C01G33/00 A
(21)【出願番号】P 2018229831
(22)【出願日】2018-12-07
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和俊
(72)【発明者】
【氏名】堀切 文正
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-538189(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0376068(US,A1)
【文献】特開2018-019108(JP,A)
【文献】特開2011-143259(JP,A)
【文献】特開2013-197553(JP,A)
【文献】特開2011-179021(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105819856(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/20
H10N 30/30
H10N 30/87
H10N 30/06
H10N 30/076
H10N 30/082
H10N 30/079
C23C 14/08
H03H 9/17
H03H 3/02
C01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
電極膜と、
組成式(K
1-xNa
x)NbO
3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜と、を備え、
前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率が65%以上
75%以下である圧電積層体。
【請求項2】
前記基板は、少なくとも可視光の波長領域における光透過率が65%以上である
請求項1に記載の圧電積層体。
【請求項3】
前記電極膜は、少なくとも可視光の波長領域における光透過率が65%以上である
請求項1又は2に記載の圧電積層体。
【請求項4】
前記圧電積層体全体の少なくとも可視光の波長領域における光透過率が50%以上である
請求項1~3のいずれか1項に記載の圧電積層体。
【請求項5】
基板と、
電極膜と、
組成式(K
1-xNa
x)NbO
3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化からなる圧電膜と、を備え、
前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率が65%以上
75%以下である圧電素子。
【請求項6】
(a)基板上、またはいずれかの主面上に電極膜が製膜された基板上に、組成式(K
1-xNa
x)NbO
3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜を製膜する工程を有し、
(a)では、前記圧電膜の製膜雰囲気中のH
2O分圧を0.05Pa以上に高めることで、前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率を65%以上
75%以下とする圧電積層体の製造方法。
【請求項7】
(a)基板上、またはいずれかの主面上に電極膜が製膜された基板上に、組成式(K
1-xNa
x)NbO
3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜を製膜する工程と、
(b)大気または酸素含有雰囲気で、前記圧電膜に対して600℃~1000℃で熱処理を行う工程と、を有し、
(a)を行った後(b)を行うことで、前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率を65%以上
75%以下とする圧電積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電積層体、圧電素子および圧電積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体は、センサやアクチュエータ等の機能性電子部品に広く利用されている。圧電体の材料としては、例えばニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)が用いられることがある(例えば特許文献1,2参照)。近年、より汎用性が高いKNNからなる圧電体が強く求められるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-184513号公報
【文献】特開2008-159807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、汎用性を高めた圧電膜およびその関連技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
基板と、
電極膜と、
組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜と、を備え、
前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率が65%以上である圧電積層体およびその関連技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、汎用性を高めた圧電膜およびその関連技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる圧電積層体10の断面構造の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる圧電デバイス30の概略構成図である。
【
図3】本発明の変形例にかかる圧電デバイス30の概略構成図である。
【
図4】(a)は、本発明の一実施形態にかかる圧電積層体10の他の製法で得られる積層体の概略構成図であり、(b)は、(a)に示す積層体から第1基板を分離して圧電積層体10を得る様子を示す概略図である。
【
図5】本発明の変形例にかかる圧電積層体10の断面構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について
図1~
図2を参照しながら説明する。
【0009】
(1)圧電積層体の構成
図1に示すように、本実施形態にかかる圧電膜を有する積層体(積層基板)10(以下、圧電積層体10とも称する)は、基板1と、基板1上に製膜された下部電極膜2と、下部電極膜2上に製膜された圧電膜(圧電薄膜)3と、圧電膜3上に製膜された上部電極膜4と、を備えている。
【0010】
基板1としては、少なくとも可視光の波長領域(380~800nm程度)、好ましくは可視光および近赤外線の波長領域(380~1,400nm)における光透過率が例えば65%以上である基板(透明基板)を用いることが好ましい。基板1として、例えば、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、略称STO)基板、石英ガラス(SiO2)基板、サファイア(Al2O3)基板、窒化ガリウム(GaN)基板、酸化ガリウム(Ga2O3)基板を用いることができる。基板1の厚さは例えば300~1,000μmである。
【0011】
下部電極膜2は、少なくとも可視光の波長領域、好ましくは可視光および近赤外線の波長領域における光透過率が例えば65%以上である電極(透明電極)で構成されていることが好ましい。下部電極膜2は、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3、略称:SRO)、ニッケル酸ランタン(LaNiO3、略称:LNO)等の金属酸化物を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、単結晶膜または多結晶膜となる。SROを用いて下部電極膜2を製膜する場合、下部電極膜2(SRO膜)を構成する結晶は、基板1の表面に対して(100)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、SRO膜の表面(圧電膜3の下地となる面)は、主にSRO(100)面により構成されていることが好ましい。これらのことは、LNOについても同様のことがいえる。すなわち、LNOを用いて下部電極膜2を製膜する場合、LNO膜の表面は、主にLNO(100)面により構成されていることが好ましい。下部電極膜2は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、SRO、LNO以外に、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)等のインジウム酸化物を用いて製膜することもできる。下部電極膜2の厚さは例えば10~400nmである。
【0012】
また、下部電極膜2は、白金(Pt)、金(Au)等の各種金属、これらを主成分とする合金を用いて製膜した薄膜(金属薄膜)であってもよい。Ptを用いて下部電極膜2を製膜する場合、下部電極膜2(Pt膜)は基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、Pt膜の表面はPt(111)面により構成されていることが好ましい。下部電極膜2(Pt膜)は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2(Pt膜)の厚さは例えば1~10nm、好ましくは2~5nmである。
【0013】
圧電膜3は、例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)を含み、組成式(K1-xNax)NbO3で表されるアルカリニオブ酸化物、すなわち、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)を用いて製膜することができる。上述の組成式中の係数x[=Na/(K+Na)]は、0<x<1、好ましくは0.4≦x≦0.7の範囲内の大きさとする。圧電膜3は、KNNの多結晶膜(以下、KNN膜3とも称する)となる。KNNの結晶構造は、ペロブスカイト構造となる。
【0014】
KNN膜3を構成する結晶は、基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、KNN膜3の表面(上部電極膜4の下地となる面)は、主にKNN(001)面により構成されていることが好ましい。下部電極膜2(基板1の表面に対して(100)面方位に優先配向させたSRO膜や(111)面方位に優先配向させたPt膜)上にKNN膜3を直接製膜することで、KNN膜3を構成する結晶を、基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向させることが容易となる。例えば、KNN膜3を構成する結晶群のうち80%以上の結晶を基板1の表面に対して(001)面方位に配向させ、KNN膜3の表面のうち80%以上の領域をKNN(001)面とすることが可能となる。KNN膜3の厚さは例えば0.1~10μmである。
【0015】
KNN膜3は、スパッタリング法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ゾルゲル法等の手法を用いて製膜することができる。KNN膜3の組成比は、例えば、スパッタリング製膜時に用いるターゲット材の組成を制御することで調整可能である。ターゲット材は、例えば、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末等を混合させて焼成すること等により作製することができる。この場合、ターゲット材の組成は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末等の混合比率を調整することで制御することができる。
【0016】
KNN膜3は、光透過性(透明性)を有する。KNN膜3の可視光および近赤外線の波長領域(380~1,400nm)における平均光透過率は65%以上である。また、KNN膜3の可視光の波長領域(380~800nm)における平均光透過率は例えば56%以上である。平均光透過率の上限については特に限定されず、上限は100%であることが好ましい。しかしながら、現在の技術水準では、KNN膜3の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率の上限は75%程度である。
【0017】
ここで、平均光透過率とは、所定の波長領域(範囲)におけるKNN膜3の光透過率の平均値である。KNN膜3の光透過率は、公知の光透過率測定装置によって測定することができる。本実施形態では、KNN膜の光透過率の測定は、分光エリプソメータ(J.A.Woollam社製、M-2000)により行われる。
【0018】
KNN膜3の紫の可視光の波長領域(380nm以上450nm未満)における平均光透過率は、好ましくは39.5%以上39.9%以下である。KNN膜3の青の可視光の波長領域(450nm以上495nm未満)における平均光透過率は、好ましくは48.5%以上54%以下である。KNN膜3の緑の可視光の波長領域(495nm以上570nm未満)における平均光透過率は、好ましくは55%以上61.5%以下である。KNN膜3の黄の可視光の波長領域(570nm以上590nm未満)における平均光透過率は、好ましくは58.5%以上65%以下である。KNN膜3の橙の可視光の波長領域(590nm以上620nm未満)における平均光透過率は、好ましくは60%以上66.5%以下である。KNN膜3の赤の可視光の波長領域(620nm以上750nm未満)における平均光透過率は、好ましくは63.5%以上70%以下である。KNN膜3の赤紫の可視光の波長領域(750nm以上800nm以下)における平均光透過率は、好ましくは66.5%以上71.5%以下である。
【0019】
KNN膜3のスパッタリング製膜時の雰囲気ガスには、例えばアルゴン(Ar)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガス(Ar/O2混合ガス)が用いられる。KNN膜3の光透過率を高めるためには、スパッタリング製膜時のAr/O2混合ガスに含まれる水分の分圧(H2O分圧)を高めたり、KNN膜3の製膜後、後述の上部電極膜4の製膜前に大気または酸素含有雰囲気でKNN膜3に対して熱処理を行ったりすることが有効である。これらにより、KNN膜3を充分に酸化させることができ、KNN膜3中の酸素欠損を減らすことができる。その結果、KNN膜3の光透過率を高めることが可能となる。
【0020】
例えば600~1,000℃、好ましくは650~900℃、大気雰囲気又は酸素含有雰囲気の条件下で、KNN膜3の厚さ1μmあたり0.5時間以上、好ましくは24時間以上、より好ましくは40時間以上熱処理を行うことで、KNN膜3の光透過率を上記範囲とすることが可能となる。熱処理は、KNN膜3の製膜温度以上の温度で行うことが好ましい。また例えば、熱処理を行う代わりに、KNN膜3の製膜時のH2O分圧を0.05Pa以上とすることでも、KNN膜3の光透過率を上記範囲とすることが可能となる。
【0021】
KNN膜3は、好ましくは銅(Cu)およびマンガン(Mn)からなる群より選択される金属元素を、0.2~2.0at%の範囲内の濃度で含む。
【0022】
KNN膜3中のCu又はMnの少なくともいずれかを上述の濃度範囲内で添加することで、KNN膜3の膜特性を向上させることが可能となる。例えば、KNN膜3の絶縁性(リーク耐性)を高めたり、KNN膜3の比誘電率を圧電積層体10の用途に応じた好適な大きさとしたりすることが可能となる。また、KNN膜3中にCuを上述の濃度範囲内で添加することで、上述の絶縁性に加え、フッ素系エッチング液(例えばフッ化水素(HF)及びフッ化アンモニウム(NH4F)をそれぞれ所定の濃度で含むバッファードフッ酸(BHF)溶液)に対する耐性、すなわちエッチング耐性を高めることも可能となる。これにより、KNN膜3の露出面を保護するための保護膜を形成する必要がなくなる。すなわち、保護膜を形成することなく、エッチング液としてBHF溶液を用いることができるようになる。その結果、圧電積層体を形成した後の処理における加工プロセスを簡素化させることができる。
【0023】
なお、KNN膜3中にCuやMn等の金属元素を含ませた場合、KNN膜3の光透過率は低下する傾向にある。しかしながら、KNN膜3がCuやMn等を含む場合であっても、KNN膜3中に含まれるCuおよびMnの合計濃度が上記範囲内であれば、上述のようにKNN膜3の製膜雰囲気中のH2O分圧を高めたり、KNN膜3の製膜後に熱処理を行ったりすることで、KNN膜3の光透過率を上記範囲とすることが可能となる。
【0024】
また、KNN膜3中におけるCuおよびMnの合計濃度が前記の範囲にあると、KNN膜3の比誘電率が過大とならず、圧電積層体10が例えばセンサに適用された際に感度の低下を招きにくい傾向がある。これは、CuやMnの添加量が適正であり、KNN膜3を構成する結晶を基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向させることが困難となりにくいことが一つの理由として考えられる。また、KNN膜3の製膜雰囲気中のH2O分圧を高めたり、KNN膜3の製膜後に熱処理を行ったりした場合であっても、KNN膜3の光透過率を上記範囲にすることができる傾向がある。
【0025】
KNN膜3は、リチウム(Li)、Ta、アンチモン(Sb)等のK、Na、Nb、Cu、Mn以外の元素を、KNN膜3の光透過率を上述の範囲内に維持することができる濃度、例えば5at%以下の濃度で含んでいてもよい。
【0026】
上部電極膜4は、少なくとも可視光の波長領域、好ましくは可視光および近赤外線の波長領域における光透過率が例えば65%以上である電極(透明電極)で構成されていることが好ましい。上部電極膜4は、SRO、LNO等の金属酸化物、ITO、IZO、IGZO等のインジウム酸化物を用いて製膜することができる。上部電極膜4は、下部電極膜2のようにKNN膜3の結晶構造に大きな影響を与えるものではない。そのため、上部電極膜4の結晶構造、製膜手法は特に限定されない。上部電極膜4は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、金属ペースト法等の手法を用いて製膜することができる。上部電極膜4の厚さは例えば3~1,000nmである。また、上部電極膜4は、Pt、Au等の各種金属、これらを主成分とする合金を用いて製膜した薄膜(金属薄膜)であってもよい。PtやAu等を用いて上部電極膜4を製膜する場合、上部電極膜4の厚さは例えば1~10nm、好ましくは2~5nmである。また、上部電極膜4は、Pt、Au等の各種金属、これらを主成分とする合金を用いて形成した細線(金属細線)であってもよい。
【0027】
圧電積層体10が、上述の基板1(透明基板)と下部電極膜2(透明電極)と透明性を有するKNN膜3と上部電極膜4(透明電極)とを有することで、圧電積層体10全体での少なくとも可視光の波長領域、好ましくは可視光および近赤外線の波長領域における光透過率(平均光透過率)を例えば50%以上、好ましくは60%以上とすることが可能となる。
【0028】
(2)圧電デバイスの構成
図2に、本実施形態における圧電デバイス30の概略構成図を示す。圧電デバイス30は、上述の圧電積層体10を所定の形状に成形して得られる圧電素子20と、圧電素子20に接続される電圧検出手段11aまたは電圧印加手段11bと、を少なくとも備えて構成される。
【0029】
電圧検出手段11aを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイス30をセンサとして機能させることができる。KNN膜3が何らかの物理量の変化に伴って変形すると、その変形によって下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧が発生する。この電圧を電圧検出手段11aによって検出することで、KNN膜3に印加された物理量の大きさを測定することができる。上述のように、KNN膜3は光透過性を有することから、圧電デバイス30は、光透過性(透明性)が要求される用途に好適に用いることができる。例えば、圧電デバイス30は、タッチパネルや携帯電話のディスプレイ用のセンサとして好適に用いることができる。
【0030】
電圧印加手段11bを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイス30をアクチュエータとして機能させることができる。電圧印加手段11bにより下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧を印加することで、KNN膜3を変形させることができる。この変形動作により、圧電デバイス30に接続された各種部材を作動させることができる。
【0031】
(3)圧電積層体、圧電素子、圧電デバイスの製造方法
続いて、上述の圧電積層体10の製造方法について説明する。まず、基板1のいずれかの主面上に下部電極膜2を製膜する。なお、いずれかの主面上に下部電極膜2が予め製膜された基板1を用意してもよい。続いて、下部電極膜2上に、例えばRFスパッタリング法を用いてKNN膜3を製膜する。その後、KNN膜3に対して熱処理を行う。そして、熱処理後のKNN膜3上に、例えばRFスパッタリング法を用いて上部電極膜4を製膜する。これにより、圧電積層体10が得られる。圧電積層体10をエッチング等により所定の形状に成形することで、圧電素子20が得られ、圧電素子20に電圧検出手段11aまたは電圧印加手段11bを接続することで、圧電デバイス30が得られる。下部電極膜2、KNN膜3、上部電極膜4を製膜する際の条件、KNN膜3の熱処理条件としては、下記の条件が例示される。
【0032】
(下部電極膜(SRO膜)および上部電極膜(SRO膜)製膜時の条件の一例)
温度(製膜温度、例えば基板温度):常温(27℃程度)~500℃、好ましくは150~250℃、より好ましくは200℃程度
放電パワー:100~500W、好ましくは200~400W
導入ガス:Arガス
Arガス雰囲気の圧力:1~10Pa、好ましくは3~5Pa
製膜時間:3~10分、好ましくは5~6分
【0033】
(下部電極膜(Pt膜)および上部電極膜(Pt膜)製膜時の条件の一例)
温度(製膜温度、例えば基板温度):100~500℃、好ましくは200~400℃
放電パワー:1,000~1,500W、好ましくは1,200~1300W
処理雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1~0.5Pa、好ましくは0.2~0.4Pa
処理時間:30秒から2分、好ましくは1分程度
【0034】
(KNN膜製膜時の条件の一例)
温度(製膜温度、例えば基板温度):500~700℃、好ましくは600℃
放電パワー:2,000~2,400W、好ましくは2,200W
導入ガス:Ar+O2混合ガス
Ar+O2混合ガス雰囲気の圧力:0.2~0.5Pa、好ましくは0.25~0.4Pa
O2ガスに対するArガスの分圧(Ar/O2分圧比):30/1~20/1、好ましくは27/1~23/1
製膜速度:0.5~2μm/hr、好ましくは1~1.5μm/hr
【0035】
(KNN膜製膜後の熱処理条件の一例)
雰囲気:大気または酸素含有雰囲気
温度:600~1,000℃、好ましくは650~900℃、より好ましくは、上記範囲内の温度であってKNN膜の処理温度以上の温度
熱処理時間:KNN膜の厚さ1μmあたり0.5時間以上、好ましくは24時間以上、より好ましくは40時間以上
【0036】
なお、圧電積層体10を形成する際、KNN膜3に対して熱処理を行う代わりに、KNN膜3の製膜雰囲気中のH2O分圧を高めてもよい。これにより、上述の熱処理を行った場合と同様に、KNN膜3の光透過率を高めることができる。また、KNN膜3の製膜雰囲気中のH2O分圧を高めるとともに、KNN膜3の製膜後上部電極4の製膜前に、KNN膜3に対して熱処理を行ってもよい。これにより、KNN膜3の光透過率をより高めることができる。
【0037】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0038】
(a)本実施形態にかかるKNN膜3では、可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率が65%以上である。このようにKNN膜3が光透過性を有することから、基板1として透明基板を用い、下部電極膜2および上部電極膜4として透明電極を用いることで、圧電積層体10全体を光透過性が高い積層体とすることが可能となる。例えば、圧電積層体10全体の少なくとも可視光の波長領域における光透過率を50%以上にすることが可能となる。このような圧電積層体10を加工することで作製される圧電デバイス30は、タッチパネルや携帯電話のディスプレイ、通信デバイス等のような電子部品等に好適に適用することが可能である。すなわち、圧電デバイス30の汎用性を高めることが可能となる。本実施形態にかかるKNN膜3では、平均光透過率を可視光の波長領域に限って見た場合であっても、56%以上である。したがって、圧電デバイス30を、タッチパネルやディスプレイ等のような可視光透過性が要求される電子部品等により好適に適用することが可能となる。
【0039】
KNN膜3の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率が65%未満であると、上述の圧電デバイス30を例えばタッチパネルに適用した際に、圧電デバイス30(KNN膜3)によってディスプレイに表示された画像がにじんだり、ぼやけたりする場合がある。このため、上述の圧電デバイス30をタッチパネルに適用することができない場合がある。
【0040】
(b)KNN膜3中にCuおよびMnからなる群より選択される金属元素を0.2at%~2.0at%の範囲内で含有させることで、KNN膜3の絶縁性やエッチング耐性を高めたり、KNN膜3の比誘電率を圧電積層体10の用途に応じた好適な大きさとしたりすることが可能となる。
【0041】
(c)KNN膜3の製膜雰囲気中のH2O分圧を高めたり、KNN膜3の製膜後に所定の熱処理を行ったりすることで、KNN膜3を充分に酸化させ、KNN膜3の光透過率を高めることができる。このため、KNN膜3中にCuやMn等を上記範囲内で含有させた場合であっても、KNN膜3の平均光透過率を上記範囲にすることが可能となる。このように本実施形態によれば、KNN膜3の絶縁性を高めたり、比誘電率、エッチング耐性等を調整したりしつつ、KNN膜3の平均光透過率を上記範囲にすることが可能となる。
【0042】
(5)変形例
本実施形態は上述の態様に限定されず、以下のように変形することもできる。
【0043】
(変形例1)
圧電積層体10は、下部電極膜2を備えていなくてもよい。すなわち、圧電積層体10は、基板1と、基板1上に製膜されたKNN膜(圧電膜)3と、KNN膜3上に製膜された上部電極膜4(電極膜4)と、を備えて構成されていてもよい。
【0044】
図3に本変形例にかかる圧電積層体10を用いて作製した圧電デバイス30の概略構成図を示す。圧電デバイス30は、圧電積層体10を所定の形状に成形して得られる圧電素子20と、圧電素子20に接続される電圧検出手段11aおよび電圧印加手段11bと、を少なくとも備えて構成されている。本変形例では、圧電素子20は、電極膜4を所定のパターンに成形することで形成されたパターン電極を有している。例えば、圧電素子20は、入力側の正負一対のパターン電極4p
1と、出力側の正負一対のパターン電極4p
2と、を有している。パターン電極4p
1,4p
2としては、くし型電極(Inter Digital Transducer、略称:IDT)が例示される。
【0045】
電圧印加手段11bをパターン電極4p1間に接続し、電圧検出手段11aをパターン電極4p2間に接続することで、圧電デバイス30を表面弾性波(Surface Acoustic Wave、略称:SAW)フィルタ等のフィルタデバイスとして機能させることができる。電圧印加手段11bによりパターン電極4p1間に電圧を印加することで、KNN膜3の表面にSAWを励起させることができる。励起させるSAWの周波数の調整は、例えばパターン電極4p1のピッチを調整することで行うことができる。例えば、パターン電極4p1としてのIDTのピッチが短くなるほど、SAWの周波数は高くなり、上記ピッチが長くなるほど、SAWの周波数は低くなる。電圧印加手段11bにより励起され、KNN膜3を伝搬してパターン電極4p2に到達したSAWのうち、パターン電極4p2としてのIDTのピッチ等に応じて定まる所定の周波数(周波数成分)を有するSAWにより、パターン電極4p2間に電圧が発生する。この電圧を電圧検出手段11aによって検出することで、励起させたSAWのうち所定の周波数を有するSAWを抽出することができる。なお、ここでいう「所定の周波数」という用語は、所定の周波数だけでなく、中心周波数が所定の周波数である所定の周波数帯域を含み得る。
【0046】
(変形例2)
上述の実施形態では、基板1上に下部電極膜2、KNN膜3、および上部電極膜4を、この順に製膜して圧電積層体10を作製する場合について説明したが、これに限定されるものではない。圧電積層体10を以下のように作製してもよい。なお、本変形例では、上述の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0047】
まず、
図4(a)に示すように、第1基板41上に犠牲層42を形成し、犠牲層42上に第1電極膜43を製膜し、第1電極膜43上に圧電膜(KNN膜3)を製膜し、KNN膜3上に第2電極膜44を製膜し、第2電極膜44上に第2基板45を貼り合わせて、積層体46を形成する。本変形例においても、KNN膜3の製膜雰囲気中のH
2O分圧を高めたり、KNN膜3の製膜後第2電極膜44の製膜前に所定の熱処理を行ったりすることで、KNN膜3を充分に酸化させ、KNN膜3の光透過率を高めることができる。その後、
図4(b)に示すように、積層体46のうち犠牲層42をエッチングし、積層体46を、第1基板41と、第1電極膜43、KNN膜3、第2電極膜44、および第2基板45を有する圧電積層体10と、に分離させる。
【0048】
第1基板41は、後述するように積層体46から分離される基板である。このため、第1基板41は、上述の基板1のように透明基板である必要はない。第1基板41としては、
図4(a)に示すように、熱酸化膜やCVD(Chemical Vapor Deposition)酸化膜等の表面酸化膜(SiO
2膜)41bが形成された単結晶シリコン(Si)基板41a、すなわち、表面酸化膜付きSi基板を好適に用いることができる。また、第1基板41としては、
図5に示すように、その表面にSiO
2以外の絶縁性材料により構成された絶縁膜41dが形成されたSi基板41aを用いることもできる。また、第1基板41としては、表面にSi(100)面やSi(111)面等が露出したSi基板41a、すなわち、表面酸化膜41bや絶縁膜41dを有さないSi基板を用いることもできる。また、第1基板41としては、SOI(Silicon On Insulator)基板、ガリウム砒素(GaAs)基板、ステンレス等の金属材料により構成される金属基板を用いることもできる。単結晶Si基板41aの厚さは例えば300~1,000μmであり、表面酸化膜41bの厚さは例えば5~3,000nmである。
【0049】
犠牲層42は、後述のエッチングにより消失する材料を用いて形成されている。犠牲層42は、例えば、Ti、SRO、酸化亜鉛(ZnO)を用いて形成することができる。犠牲層42は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて形成することができる。犠牲層42の厚さは例えば1~200nmとすることができる。
【0050】
(犠牲層42(SRO層、ZnO層)形成時の条件の一例)
温度(例えば基板温度):常温(27℃程度)~500℃、好ましくは100~300℃
放電パワー:100~500W、好ましくは200~400W
雰囲気:Arガス雰囲気
Arガス雰囲気の圧力:1~10Pa、好ましくは3~5Pa
時間:3~8分、好ましくは3~6分
【0051】
(犠牲層42(Ti層)形成時の条件の一例)
温度(例えば基板温度):100~500℃、好ましくは200~400℃
放電パワー:1,000~1,500W、好ましくは1,200~1,300W
雰囲気:Arガス雰囲気
Arガス雰囲気の圧力:0.1~0.5Pa、好ましくは0.2~0.4Pa
処理時間:30秒から3分、好ましくは1分
【0052】
第1電極膜43は、少なくとも可視光の波長領域、好ましくは可視光および近赤外線の波長領域における光透過率が例えば65%以上である電極(透明電極)で構成されていることが好ましい。第1電極膜43は、KNN膜3の下地となる膜である。このため、第1電極膜43は、上述の実施形態における下部電極膜2と同様の結晶構造を有していることが好ましい。第1電極膜43は上述の下部電極膜2と同様の材料、製膜手法、条件等により製膜することができる。なお、第1電極膜43は、圧電積層体10を用いて作製した圧電素子20(圧電デバイス30)において上部電極膜となる膜である。
【0053】
第2電極膜44は、少なくとも可視光の波長領域、好ましくは可視光および近赤外線の波長領域における光透過率が例えば65%以上である電極(透明電極)で構成されていることが好ましい。第2電極膜44は、第1電極膜43のようにKNN膜3の結晶構造に大きな影響を与えるものではない。このため、上述の実施形態における上部電極膜4と同様に、第2電極膜44の結晶構造、製膜手法は特に限定されない。第2電極膜44は、上述の上部電極膜4と同様の材料、製膜手法、条件等により製膜することができる。なお、第2電極膜44は、圧電積層体10を用いて作製した圧電素子20(圧電デバイス30)において下部電極膜となる膜である。
【0054】
第2基板45としては、少なくとも可視光、好ましくは可視光および近赤外線の波長領域における光透過率が例えば65%以上である基板(透明基板)を用いることが好ましい。第2基板45は、第2電極膜44と同様に、KNN膜3の結晶構造に大きな影響を与えるものではない。そのため、第2基板45の材料、結晶構造、表面粗さ等の表面(主面)状態、形成手法、厚さ等は特に限定されない。第2基板45は、光透過性に加えて可撓性を有することが好ましい。第2基板45としては、例えばポリイミド基板(ポリイミドフィルム)等の樹脂基板(樹脂フィルム)を好適に用いることができる。
【0055】
第2電極膜44上への第2基板45の貼り合わせは、接着や融着等により行うことができる。貼り合わせを接着により行う場合、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等を主成分として含む接着剤を用いて行うことができる。例えば、第2電極膜44上に上述の接着剤をスピンコート法等により塗布して接着層を形成し、接着層上に第2基板45を配置することで、第2電極膜44上に第2基板45を貼り合わせることができる。貼り合わせを融着により行う場合、接着剤の代わりに金(Au)等の金属や熱融着フィルム等の熱融着可能な材料を用い、融解状態にある上記材料上に第2基板45を配置した後、上記材料を固化させることで、貼り合わせを行うことができる。
【0056】
犠牲層42のエッチングは、例えば塩化水素(HCl)、第二硝酸セリウムアンモニウム((NH4)2[Ce(NO3)6])、または酢酸(CH3COOH)のいずれかを含む溶液をエッチング液として用いたウエットエッチングにより行うことができる。エッチング液の濃度、エッチング時間、エッチング温度等のエッチング条件は、犠牲層42の形成材料や、厚さ、平面積等により調整される。例えば、Tiを用いて犠牲層42を形成した場合、HClを例えば36.8%の濃度で含む溶液中に積層体46を浸漬させ、犠牲層42をエッチングする。また例えば、SROを用いて犠牲層42を形成した場合、第二硝酸セリウムアンモニウムを例えば50mol%の濃度で含む溶液中に積層体46を浸漬させ、犠牲層42をエッチングする。また例えばZnOを用いて犠牲層42を形成した場合、酢酸を例えば33%の濃度で含み、50~60℃に加熱した溶液中に積層体46を浸漬させ、犠牲層42をエッチングする。本発明者等は、上述の条件下で積層体46に対しエッチング液を供給したところ、積層体46のうち犠牲層42のエッチングのみを進行させることができることを確認済みである。なお、犠牲層42はエッチングにより消失する。
【0057】
なお、上述の変形例1に記載のように下部電極膜が不要である圧電積層体10の場合、第2電極膜44を製膜しなくてもよい。すなわち、KNN膜3上に第2基板45を直接貼り合わせてもよい。この場合も、上述と同様の貼り合わせ手法、貼り合わせ条件とすることができる。
【0058】
本変形例においても、上述の実施形態と同様の光透過性を有するKNN膜3を備える圧電積層体10を得ることができ、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0059】
(変形例3)
圧電積層体10全体の上述の光透過率を例えば50%以上に保つことができれば、基板1と下部電極膜2との間や、KNN膜3と上部電極膜4との間に、これらの密着性を高めるため、例えばチタン(Ti)、タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO2)、ニッケル(Ni)、ルテニウム酸化物(RuOx)、イリジウム酸化物(IrOx)等を主成分とする密着層を設けてもよい。これらの密着層の厚さは例えば1~10nmとすることができる。
【0060】
(変形例4)
上述の圧電積層体10を圧電素子20に成形する際、圧電積層体10(圧電素子20)を用いて作製した圧電デバイス30をセンサやアクチュエータ等の所望の用途に適用することができる限り、圧電積層体10から基板1を除去してもよい。
【0061】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。但し、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0062】
上述の実施形態では、圧電積層体10を加工することで作製される圧電デバイス30が上述のように光透過性を要求される用途に用いられる場合について説明したが、これに限定されない。例えば、角速度センサ、超音波センサ、圧カセンサ、加速度センサ等のセンサや、インクジェットプリンタ用のヘッド、スキャナー用のMEMSミラー、超音波発生装置用の振動子等のアクチュエータのような、光透過性を有することが要求されない用途にも用いることが可能である。
【0063】
圧電積層体10を加工することで作製される圧電デバイス30に光透過性を有することが要求されない場合、基板1は、透明基板で構成されていなくてもよい。基板1として、例えば上述の変形例における第1基板41と同様の基板を用いてもよい。また、下部電極膜2(第2電極膜44)も同様に、透明電極で構成されていなくてもよい。下部電極膜2(第2電極膜44)は、Pt、Auやルテニウム(Ru)やイリジウム(Ir)等の各種金属、これらを主成分とする合金等を用いて製膜することもできる。この場合の下部電極膜2(第2電極膜44)の厚さは例えば100~400nmとすることができる。また、上部電極膜4(第1電極膜43)も同様に、透明電極で構成されていなくてもよい。上部電極膜4(第1電極膜43)は、例えば、Pt、Au、アルミニウム(Al)、Cu等の各種金属やこれらの合金を用いて製膜することができる。この場合の上部電極膜4(第1電極膜43)の厚さは例えば100~5,000nmとすることができる。また、基板1と下部電極膜2との間や、KNN膜3と上部電極膜4との間に上述の密着層を設ける場合、密着層は例えば1~200nmの厚さを有していてもよい。
【0064】
また、圧電積層体10を加工することで作製される圧電デバイス30に光透過性を有することが要求されない場合、上述の変形例の第2基板45として、ステンレス等の金属材料で形成した基板や、プラスチック材料で形成した基板等を用いることもできる。また、第2基板45として、表面に窒化シリコン(SiN)膜が形成されたSi基板、ポリSi基板等の種々の基板を用いることもできる。また、第2基板45として、基板1や第1基板41に要求される品質よりも低品質のSOI基板、SiO2基板を用いることもできる。低品質の基板の一例として、基板1や第1基板41よりも表面が粗い(基板1よりも表面粗さが大きな)基板が挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、上述の実施形態の効果を裏付ける実験結果について説明する。
【0066】
基板として、Si基板(表面が(100)面方位に優先配向、厚さ:610μm、直径:6インチ)を用意した。Si基板の表面には熱酸化膜(厚さ:200nm)が形成されている。そして、このSi基板(熱酸化膜)上に下部電極膜としてのPt膜(基板の表面に対して(111)面方位に優先配向、厚さ:200nm)、圧電膜としてのKNN膜(基板の表面に対して(001)面方位に優先配向、厚さ:2μm)を順に製膜し、圧電積層体を作製した。なお、KNN膜中におけるCu濃度(CuO濃度)が2.0at%となるように、KNN膜中にCuを添加した。そして、KNN膜に対して所定の条件下で熱処理を行った。なお、本実施例では、KNN膜のみの光透過率を測定する観点から、不透明な(光を透過しない)Si基板と、不透明なPt膜と、光透過性を有するKNN膜とを有する圧電積層体を作製した。
【0067】
Pt膜は、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて製膜した。Pt膜を製膜する際の条件は、下記の通りとした。
処理温度:300℃
放電パワー:1,200W
導入ガス:Arガス
Ar雰囲気の圧力:0.3Pa
製膜時間:5分
【0068】
KNN膜は、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて製膜した。KNN膜を製膜する際の条件は、下記の通りとした。
製膜温度:600℃
放電パワー:2,200W
導入ガス:Ar+O2混合ガス
Ar+O2混合ガス雰囲気の圧力:0.3Pa
O2ガスに対するArガスの分圧(Ar/O2分圧比):25/1
製膜速度:1μm/hr
【0069】
Cuが添加されたKNN膜を製膜する際のスパッタリングターゲット材としては、(K+Na)/Nb=0.8~1.2、Na/(K+Na)=0.4~0.7の組成を有し、Cuを2.0at%の濃度で含む(K1-xNax)NbO3焼結体を用いた。なお、ターゲット材は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、CuO粉末を、ボールミルを用いて24時間混合させ、850℃で10時間仮焼成し、その後、再びボールミルで粉砕し、200MPaの圧力で成型した後、1080℃で焼成することで作製した。ターゲット材の組成は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、CuO粉末の混合比率を調整することで制御し、製膜処理を行う前にEDX(エネルギー分散型X線分光分析)によって測定した。
【0070】
KNN膜に対して行った熱処理条件は、下記の通りとした。
熱処理雰囲気:大気
熱処理温度:650℃
熱処理時間:48時間
【0071】
(平均光透過率の評価)
KNN膜の平均光透過率の評価は、以下の手順で行った。分光エリプソメータを用い、熱処理を行う前と熱処理を行った後で、圧電積層体が有する圧電膜(KNN膜)の380~1,400nmの波長領域における光透過率を測定した。光透過率は、380~1,400nmの波長領域において1nm毎に測定した。そして、所定の波長範囲内における光透過率の測定値の平均値(算術平均値)を算出し、この算出した値を平均光透過率とした。平均光透過率の算出結果は下記の表1に示す通りである。
【0072】
【0073】
表1から、圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率は、どの波長領域においても、熱処理を行った後の方が、熱処理を行う前よりも高くなっていることが分かる。すなわち、表1から、熱処理を行うことで、圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における光透過率を高めることができることが分かる。また、表1から、Cuを含有するKNN膜であっても、可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率が65%以上であることが分かる。
【0074】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0075】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
基板と、
電極膜と、
組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物がからなる圧電膜と、を備え、
前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率が65%以上である圧電積層体が提供される。
【0076】
(付記2)
付記1の圧電積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜の可視光の波長領域における平均光透過率が56%以上である。
【0077】
(付記3)
付記1または2の圧電積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜は、CuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つ以上の金属元素を、0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含む。
【0078】
(付記4)
付記1~3のいずれかの圧電積層体であって、好ましくは、
前記基板は、少なくとも可視光の波長領域における光透過率が65%以上である。
【0079】
(付記5)
付記1~4のいずれかの圧電積層体であって、好ましくは、
前記電極膜は、少なくとも可視光の波長領域における光透過率が65%以上である。
【0080】
(付記6)
付記1~5のいずれかの圧電積層体であって、好ましくは、
前記圧電積層体全体の少なくとも可視光の波長領域における光透過率が50%以上、好ましくは60%以上である。
【0081】
(付記7)
本発明のさらに他の態様によれば、
基板と、前記基板上に製膜された下部電極膜と、前記下部電極膜上に製膜され、組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜と、前記圧電膜上に製膜された上部電極膜と、を有する圧電積層体を備え、
前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率が65%以上である圧電素子または圧電デバイスが提供される。
【0082】
(付記8)
付記7の圧電素子または圧電デバイスであって、好ましくは、
前記基板、前記下部電極膜、および前記上部電極膜の少なくとも可視光の波長領域における光透過率が65%以上である。
【0083】
(付記9)
本発明のさらに他の態様によれば、
基板と、前記基板上に製膜され、組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化からなる圧電膜と、前記圧電膜上に製膜された電極膜と、を有する圧電積層体を備え、
前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率が65%以上である圧電素子または圧電デバイスが提供される。
【0084】
(付記10)
付記9の圧電素子または圧電デバイスであって、
前記基板および前記電極膜の少なくとも可視光の波長領域における光透過率が65%以上である。
【0085】
(付記11)
付記7~9のいずれかの圧電素子または圧電デバイスであって、
前記圧電積層体全体の少なくとも可視光の波長領域における光透過率が50%以上、好ましくは60%以上である。
【0086】
(付記12)
本発明のさらに他の態様によれば、
(a)基板上、またはいずれかの主面上に電極膜が製膜された基板上に、組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜を製膜する工程を有し、
(a)では、前記圧電膜の製膜雰囲気中のH2O分圧を高めることで、前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率を65%以上とする圧電積層体の製造方法が提供される。
【0087】
(付記13)
本発明のさらに他の態様によれば、
(a)基板上、またはいずれかの主面上に電極膜が製膜された基板上に、組成式(K1-xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなる圧電膜を製膜する工程と、
(b)大気または酸素含有雰囲気で、前記圧電膜に対して熱処理を行う工程と、を有し、
(a)を行った後(b)を行うことで、前記圧電膜の可視光および近赤外線の波長領域における平均光透過率を65%以上とする圧電積層体の製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0088】
1 基板
2 電極膜(下部電極膜)
3 圧電膜
4 電極膜(上部電極膜)
10 圧電積層体