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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】ナノファイバー布帛
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/002 20120101AFI20230925BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20230925BHJP
   D03D 9/00 20060101ALI20230925BHJP
   D03D 15/275 20210101ALI20230925BHJP
   D04H 3/04 20120101ALI20230925BHJP
   D04H 3/12 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
D04H3/002
C01B32/168
D03D9/00
D03D15/275
D04H3/04
D04H3/12
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2020564440
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-13
(86)【国際出願番号】 US2019024038
(87)【国際公開番号】W WO2019221822
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】62/672,313
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516124627
【氏名又は名称】リンテック オブ アメリカ インク
【氏名又は名称原語表記】LINTEC OF AMERICA, INC.
【住所又は居所原語表記】15930 S. 48th Street, Suite 110, Phoenix, Arizona 85048, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】リマ マルシオ ディー
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/099975(WO,A1)
【文献】特開平05-098553(JP,A)
【文献】特開平08-302537(JP,A)
【文献】特開平10-325061(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0283994(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0224739(US,A1)
【文献】国際公開第2017/048803(WO,A1)
【文献】特表2008-523254(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0078329(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0304108(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0317790(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0219874(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0024483(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0192931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/39
D01F 9/08 - 9/32
D03D 1/00 - 27/18
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に配向した第1のナノファイバー糸のアレイと、
前記第1の方向とは異なる第2の方向に配向した第2のナノファイバー糸のアレイであって、複数の接合部において前記第1の複数のナノファイバー糸のアレイと接触している前記第2のナノファイバー糸のアレイと、
少なくとも一部の前記複数の接合部上の接着剤堆積物とを備え、
三次元トポグラフィーに追従する場合、前記第1のナノファイバー糸のアレイおよび前記第2のナノファイバー糸のアレイの一方は、他方に対する配向を維持する、ナノファイバー布帛。
【請求項2】
前記第1の方向と前記第2の方向との間の角度が45°~135°である、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項3】
前記第1の方向と前記第2の方向との間の角度が60°~120°である、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項4】
赤外線に対して透明である、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項5】
前記ナノファイバー布帛中の、前記第1の方向に配向したナノファイバーと前記第2の方向に配向したナノファイバーとの間に形成された間隙の幅が1μm~10mmである、請求項4に記載のナノファイバー布帛。
【請求項6】
電磁干渉に対する障壁として機能する、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項7】
前記第1のナノファイバー糸のアレイ及び前記第2のナノファイバー糸のアレイの少なくとも一方のナノファイバーがナノファイバー撚糸を構成する、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項8】
前記ナノファイバー撚糸がナノファイバー仮撚糸を含む、請求項7に記載のナノファイバー布帛。
【請求項9】
前記第1のナノファイバー糸のアレイ及び前記第2のナノファイバー糸のアレイの少なくとも一方がコイル状ナノファイバー糸を構成する、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項10】
前記コイル状ナノファイバー糸のコイルが、三次元トポグラフィーを有する基材と接触して配置された場合に、少なくとも部分的に引き延ばされることによって、前記第1のナノファイバー糸のアレイ及び前記第2のナノファイバー糸のアレイの少なくとも一部が、それらの互いに対する配向及び位置を維持することが可能になる、請求項9に記載のナノファイバー布帛。
【請求項11】
枠であって、前記第1のナノファイバー糸のアレイ及び前記第2のナノファイバー糸のアレイの端部の少なくとも一部がその上に配置されている前記枠を備え、
前記接着剤堆積物が、前記第1のナノファイバー糸のアレイ及び前記第2のナノファイバー糸のアレイの端部の少なくとも一部の上に存在し、前記端部が前記枠上に配置されている、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項12】
前記第1のナノファイバー糸のアレイ及び前記第2のナノファイバー糸のアレイの少なくとも一部に接着剤が浸透している、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項13】
前記第2のナノファイバー糸のアレイの対応するナノファイバーと接触している、前記第1のナノファイバー糸のアレイのナノファイバー上の第1の複数の接着剤フィレットをさらに備える、請求項12に記載のナノファイバー布帛。
【請求項14】
前記第2のナノファイバー糸のアレイのナノファイバーと接触している基材と、
前記第2のナノファイバー糸のアレイのナノファイバー及び前記基材の両方と接触している第2の複数の接着剤フィレットと
をさらに備える、請求項13に記載のナノファイバー布帛。
【請求項15】
接着エネルギーが40ダイン/cm未満である剥離ライナーを備え、前記剥離ライナーが前記ナノファイバー布帛の少なくとも片面上に存在する、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項16】
前記剥離ライナーが、三次元トポグラフィーを有する基材に追従するように変形するような構成の変形可能なシートを備える、請求項15に記載のナノファイバー布帛。
【請求項17】
前記接着剤堆積物がゾルゲル前駆体を含む、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項18】
前記ゾルゲル前駆体が二酸化ケイ素前駆体及び溶媒を含む、請求項17に記載のナノファイバー布帛。
【請求項19】
前記第1のナノファイバー糸のアレイが前記第2のナノファイバー糸のアレイと互いに製織されて、前記ナノファイバー布帛を形成する、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項20】
前記第1のナノファイバー糸のアレイが前記第2のナノファイバー糸のアレイの片面上に配置されて、前記ナノファイバー布帛を形成する、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項21】
前記第1のナノファイバー糸のアレイ及び前記第2のナノファイバー糸のアレイがカーボンナノチューブを含む、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項22】
前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブを含む、請求項21に記載のナノファイバー布帛。
【請求項23】
前記第1のナノファイバー糸のアレイ及び前記第2のナノファイバー糸のアレイの径が10nm~1μmである、請求項1に記載のナノファイバー布帛。
【請求項24】
第1の方向に配向した第1のナノファイバー糸のアレイを、前記第1の方向とは異なる第2の方向に配向した第2のナノファイバー糸のアレイの上に配置し、但し前記第1のナノファイバー糸のアレイと前記第2のナノファイバー糸のアレイとは複数の接合部で接触し、ナノファイバー布帛を形成することと、
少なくとも一部の前記複数の接合部に接着剤を塗布することと、
前記ナノファイバー布帛を剥離ライナーと接触させて配置することと
を含み、
三次元トポグラフィーに追従する場合、前記第1のナノファイバー糸のアレイおよび前記第2のナノファイバー糸のアレイの一方は、他方に対する配向を維持する、方法。
【請求項25】
前記ナノファイバー布帛及び前記剥離ライナーを三次元表面に追従させることをさらに含み、前記剥離ライナー及びナノファイバー布帛が前記三次元表面に追従する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ナノファイバー布帛が、前記三次元表面上の大きさが少なくとも10μmのフィーチャーに追従する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記三次元表面上に前記ナノファイバー布帛を残しながら前記剥離ライナーを除去することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記三次元表面上の2つの電気的に絶縁された導電体間のナノファイバー布帛を使用して確立された電気的接触をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記第1のナノファイバー糸のアレイまたは前記第2のナノファイバー糸のアレイは、撚りがかかりコイル状のナノファイバー糸を備える、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
前記接着剤を塗布することが、前記ナノファイバー布帛に接着剤のエアロゾルを加えることをさらに含み、前記エアロゾルは、前記複数の接合部の少なくとも一部の接合部上に蓄積する、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
前記接着剤を塗布することが、
前記第1のナノファイバー糸のアレイ及び前記第2のナノファイバー糸のアレイのナノファイバーに前記接着剤を浸透させることと、
少なくとも一部の前記複数の接合部上に接着剤フィレットを形成することと
をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
前記接着剤がゾルゲル前駆体を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ゾルゲル前駆体が酸化アルミニウム前駆体及び溶媒を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ゾルゲル前駆体が酸化イットリウム前駆体及び溶媒を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記ゾルゲル前駆体が硫化亜鉛前駆体及び溶媒を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記第1の方向に配向した前記第1のナノファイバー糸のアレイを、前記第1の方向とは異なる前記第2の方向の前記第2のナノファイバー糸のアレイの上に配置することが、前記第1のナノファイバー糸のアレイを前記第2のナノファイバー糸のアレイと互いに製織して、前記ナノファイバー布帛を形成することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概括的にはナノファイバーに関する。詳細には、本開示は、ナノファイバー糸製のナノファイバー布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
単層ナノチューブ及び多層ナノチューブの両方から構成されるナノファイバーフォレストを引き出して、ナノファイバーリボンまたはナノファイバーシートにすることができる。ナノファイバーフォレストは、それが引き出される前の状態においては、互いに平行であり成長のための基材の表面に垂直なナノファイバーの層(または数層の積層体)を含む。引き出されてナノファイバーシートになると、ナノファイバーの配向は成長のための基材の表面に対して垂直から平行に変化する。引き出されたナノファイバーシート中のナノチューブは、端部と端部が接する(end-to-end)構成で互いに連結して、ナノファイバーの縦軸がシートの平面に平行である(すなわち、ナノファイバーシートの第1の及び第2の主表面の両方に平行である)連続シートを形成する。個々のナノファイバーシートの厚さは、数ミクロン~数十ナノメートルであってよい。次いでナノファイバーシートを紡糸してナノファイバー糸にすることができる。
【発明の概要】
【0003】
例1は、
第1の方向に配向した第1の複数のナノファイバーと、
第1の方向とは異なる第2の方向に配向した第2の複数のナノファイバーであって、複数の接合部において上記第1の複数のナノファイバーと接触している上記第2の複数のナノファイバーと、
少なくとも一部の上記複数の接合部上の接着剤堆積物と
を備える、ナノファイバー布帛である。
【0004】
例2は、第1の方向と第2の方向との間の角度が45°~135°である、例1に記載の主題を含む。
【0005】
例3は、第1の方向と第2の方向との間の角度が60°~120°である、例1または例2に記載の主題を含む。
【0006】
例4は、上記ナノファイバー布帛が赤外線に対して透明である、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0007】
例5は、上記ナノファイバー布帛中の、第1の方向に配向したナノファイバーと第2の方向に配向したナノファイバーとの間に形成された間隙の幅が1μm~10mmである、例4に記載の主題を含む。
【0008】
例6は、上記ナノファイバー布帛が電磁干渉に対する障壁として機能する、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0009】
例7は、上記第1の複数及び上記第2の複数の少なくとも一方のナノファイバーがナノファイバー撚糸を構成する、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0010】
例8は、上記ナノファイバー撚糸がナノファイバー仮撚糸を含む、例7に記載の主題を含む。
【0011】
例9は、上記第1の複数及び上記第2の複数の少なくとも一方の上記ナノファイバーがコイル状ナノファイバー糸を構成する、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0012】
例10は、上記コイル状ナノファイバー糸のコイルが、三次元トポグラフィーを有する基材と接触して配置された場合に、少なくとも部分的に引き延ばされることによって、上記第1の複数のナノファイバー及び上記第2の複数のナノファイバーの少なくとも一部が、それらの互いに対する配向及び位置を維持することが可能になる、例9に記載の主題を含む。
【0013】
例11は、枠であって、上記第1の複数のナノファイバー及び上記第2の複数のナノファイバーの端部の少なくとも一部がその上に配置されている上記枠を備え、
上記接着剤堆積物が、上記第1の複数のナノファイバー及び上記第2の複数のナノファイバーの端部の少なくとも一部の上に存在し、上記端部が上記枠上に配置されている、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0014】
例12は、上記第1の複数のナノファイバー及び上記第2の複数のナノファイバーの少なくとも一部に接着剤が浸透している、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0015】
例13は、上記第2の複数のナノファイバーの対応するナノファイバーと接触している、上記第1の複数のナノファイバーのナノファイバー上の第1の複数の接着剤フィレットをさらに備える、例12に記載の主題を含む。
【0016】
例14は、上記第2の複数のナノファイバーのナノファイバーと接触している基材と、
上記第2の複数のナノファイバーのナノファイバー及び上記基材の両方と接触している第2の複数の接着剤フィレットと
をさらに備える、例13に記載の主題を含む。
【0017】
例15は、接着エネルギーが40ダイン/cm未満である剥離ライナーを備え、上記剥離ライナーが上記ナノファイバー布帛の少なくとも片面上に存在する、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0018】
例16は、上記剥離ライナーが、三次元トポグラフィーを有する基材に追従するように変形するような構成の変形可能なシートを備える、例15に記載の主題を含む。
【0019】
例17は、上記接着剤堆積物がゾルゲル前駆体を含む、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0020】
例18は、上記ゾルゲル前駆体が二酸化ケイ素前駆体及び溶媒を含む、例17に記載の主題を含む。
【0021】
例19は、上記第1の複数のナノファイバーが上記第2の複数のナノファイバーと互いに製織されて、上記ナノファイバー布帛を形成する、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0022】
例20は、上記第1の複数のナノファイバーが上記第2の複数のナノファイバーの片面上に配置されて、上記ナノファイバー布帛を形成する、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0023】
例21は、上記第1の複数のナノファイバー及び上記第2の複数のナノファイバーがカーボンナノチューブを含む、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0024】
例22は、上記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブを含む、例21に記載の主題を含む。
【0025】
例23は、上記第1の複数のナノファイバー及び上記第2の複数のナノファイバーの径が10nm~1μmである、先行例のいずれかに記載の主題を含む。
【0026】
例24は、
裏打ち材料及び第1の接着力を有する第1の接着剤を備える剥離ライナーと、
上記剥離ライナーの上記第1の接着剤上に配置された複数のナノファイバー糸であって、撚りがかかりコイル状のナノファイバーである上記ナノファイバー糸と、
上記ナノファイバー糸の少なくとも1つの表面上、または上記撚りがかかりコイル状のナノファイバーの間の、上記ナノファイバー糸の内部に配置された、第1の接着強度よりも大きい第2の接着強度を有する第2の接着剤と
を含むナノファイバー布帛である。
【0027】
例25は、上記複数のナノファイバーが、第1の方向に配向した第1の複数の平行なナノファイバーと、第2の方向に配向した第2の複数の平行なナノファイバーとを含む、例24に記載の主題を含む。
【0028】
例26は、第1の方向と第2の方向との間の角度が45°~135°である、例24に記載の主題を含む。
【0029】
例27は、第1の方向と第2の方向との間の角度が60°~120°である、例25に記載の主題を含む。
【0030】
例28は、上記ナノファイバー布帛が赤外線に対して透明である、例24~27のいずれかに記載の主題を含む。
【0031】
例29は、上記ナノファイバー布帛が電磁干渉に対する障壁として機能する、例24~28のいずれかに記載の主題を含む。
【0032】
例30は、上記ナノファイバー糸の撚り及びコイルが、三次元トポグラフィーを有する基材と接触して配置された場合に、少なくとも部分的に引き延ばされることによって、上記複数のナノファイバー糸が、それらの互いに対する配向及び位置を維持することが可能になる、例24~29のいずれかに記載の主題を含む。
【0033】
例31は、第1の接着剤の接着エネルギーが40ダイン/cm未満であり、上記剥離ライナーが上記ナノファイバー布帛の少なくとも片面上に存在する、例24~30のいずれかに記載の主題を含む。
【0034】
例32は、上記剥離ライナーが、三次元トポグラフィーを有する基材に追従するように変形するような構成の変形可能なシートを備える、例31に記載の主題を含む。
【0035】
例33は、上記接着剤がゾルゲル前駆体を含む、例24~32のいずれかに記載の主題を含む。
【0036】
例34は、上記ゾルゲル前駆体が二酸化ケイ素前駆体及び溶媒を含む、例33に記載の主題を含む。
【0037】
例35は、上記ゾルゲル前駆体が酸化アルミニウム前駆体及び溶媒を含む、例33に記載の主題を含む。
【0038】
例36は、上記ゾルゲル前駆体が酸化イットリウム前駆体及び溶媒を含む、例33に記載の主題を含む。
【0039】
例37は、上記ゾルゲル前駆体が硫化亜鉛前駆体及び溶媒を含む、例33に記載の主題を含む。
【0040】
例38は、第1の方向に配向した第1の複数のナノファイバーを、第1の方向とは異なる第2の方向の第2の複数のナノファイバーの上に配置し、但し上記第1の複数と上記第2の複数とは複数の接合部で接触し、ナノファイバー布帛を形成することと、
少なくとも一部の上記複数の接合部に接着剤を塗布することと、
上記ナノファイバー布帛を剥離ライナーと接触させて配置することと
を含む方法である。
【0041】
例39は、上記ナノファイバー布帛及び上記剥離ライナーを上記三次元表面に追従させることをさらに含み、上記剥離ライナー及びナノファイバー布帛が上記三次元表面に追従する、例38に記載の主題を含む。
【0042】
例40は、上記ナノファイバー布帛が、上記三次元表面上の大きさが少なくとも10μmのフィーチャーに追従する、例39に記載の主題を含む。
【0043】
例41は、上記三次元表面上に上記ナノファイバー布帛を残しながら上記剥離ライナーを除去することをさらに含む、例39に記載の主題を含む。
【0044】
例42は、上記第1の複数のナノファイバー及び上記第2の複数のナノファイバーが、上記三次元表面に追従させた場合に、それらの互いに対する配向を維持する、例39に記載の主題を含む。
【0045】
例43は、上記三次元表面上の2つの電気的に絶縁された導電体間のナノファイバー布帛を使用して確立された電気的接触をさらに含む、例39に記載の主題を含む。
【0046】
例44は、上記第1の複数のナノファイバーまたは上記第2の複数のナノファイバーの少なくとも一部が、撚りがかかりコイル状のナノファイバー糸である、例38~43のいずれかに記載の主題を含む。
【0047】
例45は、上記接着剤を塗布することが、上記ナノファイバー布帛に接着剤のエアロゾルを加えることをさらに含み、上記エアロゾルは、上記複数の接合部の少なくとも一部の接合部上に蓄積する、例38~43のいずれかに記載の主題を含む。
【0048】
例46は、上記接着剤を塗布することが、
上記第1の複数のナノファイバー及び上記第2の複数のナノファイバーのナノファイバーに上記接着剤を浸透させることと、
少なくとも一部の上記複数の接合部上に接着剤フィレットを形成することと
をさらに含む、例38~43のいずれかに記載の主題を含む。
【0049】
例47は、上記接着剤がゾルゲル前駆体を含む、例46に記載の主題を含む。
【0050】
例48は、上記ゾルゲル前駆体が酸化アルミニウム前駆体及び溶媒を含む、例47に記載の主題を含む。
【0051】
例49は、上記ゾルゲル前駆体が酸化イットリウム前駆体及び溶媒を含む、例47に記載の主題を含む。
【0052】
例50は、上記ゾルゲル前駆体が硫化亜鉛前駆体及び溶媒を含む、例47に記載の主題を含む。
【0053】
例51は、上記第1の方向に配向した第1の複数のナノファイバーを、第1の方向とは異なる第2の方向の第2の複数のナノファイバーの上に配置することが、上記第1の複数のナノファイバーを上記第2の複数のナノファイバーと互いに製織して、上記ナノファイバー布帛を形成することをさらに含む、例38~50のいずれかに記載の主題を含む。
【0054】
例52は、
基材と、
上記基材上に配置されたナノファイバーと、
中央部、中央部の反対側の第1の側部及び第2の側部、第1の側部に結合した第1の端部、ならびに第2の側部に結合した第2の端部を有するグラフェンシートと
を備え、
上記グラフェンシートの上記中央部が、上記基材の反対側の上記ナノファイバーの側面と接触しており、第1及び第2の端部が上記基材と接触しているナノファイバーアセンブリである。
【0055】
例53は、ナノファイバーを基材上に配置することと、
グラフェンシートを溶媒中に懸濁させてグラフェン懸濁液を形成することと、
上記グラフェン懸濁液を上記基材上の上記ナノファイバーに塗布して、上記懸濁液中のグラフェンシートの少なくとも1つが上記ナノファイバーを上記基材に取り付けることと
を含む、ナノファイバーの基材への取り付け方法である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】中にナノファイバーが封入された接着性フィルムであって、該接着フィルム及びナノファイバーが片側で基材に接着し、反対側でポリマーシートに接着した上記接着性フィルムを示す図である。
図2】一実施形態における、基材上のナノファイバーのフォレストの例を示す画像である。
図3】一実施形態における、ナノファイバーを成長させるための反応器の概略図である。
図4A】一実施形態におけるナノファイバーシートの図であって、当該シートの相対的な寸法を明らかにし、該シートの表面に平行な平面に端部と端部を接して配向した、シート内のナノファイバーを概略図として示す、上記ナノファイバーシートの図である。
図4B】ナノファイバーフォレストから側方に引き出されたナノファイバーシートであって、ナノファイバーが、図4Aに概略図として示すように端部と端部を接して配向している、上記ナノファイバーシートの画像である。
図5A】一実施形態における、互いに撚りがかかったナノファイバーを含み、コイルも含むナノファイバー糸の走査型電子顕微鏡(SEM)拡大図である。
図5B】一実施形態における、第1の方向に配向し、第1の方向に対して角度θの第2の方向に配向した第2の複数のナノファイバー糸に接合され、そのようにしてナノファイバー布帛を形成する第1の複数のナノファイバー糸を示す図である。
図5C】一実施形態における、三次元(3D)トポグラフィーを有する表面上の図5Bのナノファイバー布帛であって、上記三次元表面上に配置された場合であっても、上記ナノファイバー布帛のナノファイバーが、それらの互いに対する配向及び位置を維持する上記ナノファイバー布帛を示す図である。
図6A】一実施形態における自立性ナノファイバー布帛であって、該自立性ナノファイバー布帛の周囲の枠に接着された上記自立性ナノファイバー布帛の平面図である。
図6B図6Aのナノファイバー布帛の断面図である。
図6C】一実施形態における図6A及び6Bのナノファイバー布帛であって、上記枠から取り外され基材上に配置された、上記ナノファイバー布帛の断面図である。
図7A】一実施形態における、枠に接着された自立性ナノファイバー布帛であって、複数の接着剤堆積物がナノファイバー間接合物に配置された、上記自立性ナノファイバー布帛の平面図である。
図7B図7Aのナノファイバー布帛の断面図である。
図7C】一実施形態における図7A及び7Bのナノファイバー布帛であって、上記枠から取り外され基材上に配置された、上記ナノファイバー布帛の断面図である。
図8A】一実施形態における、枠に接着された自立性ナノファイバー布帛であって、該ナノファイバー布帛のナノファイバーに接着剤が浸透している、上記自立性ナノファイバー布帛の平面図である。
図8B図8Aのナノファイバー布帛の断面図である。
図8C】一実施形態における図8A及び8Bのナノファイバー布帛であって、上記枠から取り外され基材上に配置された、上記ナノファイバー布帛の断面図である。
図9A】一実施形態における、グラフェンシートによって基材に結合したナノファイバーの概略的な断面時である。
図9B】一実施形態における、ナノファイバーを基材に結合しているグラフェンシートの走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図9C】一実施形態における、ナノファイバーを基材に結合しているグラフェンシートの走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【0057】
これらの図は、例示のみを目的として、本開示の様々な実施形態を示している。以下の詳細な議論から、多数の変化形、構成、及び他の実施形態が明らかになろう。さらに、理解されるであろうが、上記の図は必ずしも一定の縮尺で描かれてはおらず、記載した実施形態を示した特定の構成に限定することを意図するものでもない。例えば、いくつかの図は概括的に直線、直角、及び滑らかな表面を示すが、製造プロセスの現実の制限を考慮すれば、開示される技術の実際の実装は完全な直線及び直角に満たない場合があり、一部のフィーチャーは表面トポグラフィーを有するかまたは他の形態でその表面が滑らかでない場合がある。要するに、上記の図は単に例示的な構造を示すために提供される。
【発明を実施するための形態】
【0058】
概要
本開示の実施形態は、接着剤をさらに備えるナノファイバー(及び/またはナノファイバー糸)の布帛を含む。いくつかの実施形態において、上記ナノファイバーには、該ナノファイバー及び/またはナノファイバー糸から布帛を形成する前に、撚りをかけて、または撚りをかけることとコイル状にすることの両方を行ってナノファイバー糸にしてもよい。これらの実施形態において、上記撚りをかけること及び/またはコイル状にすることによって、上記ナノファイバー布帛を、その下にある基材の表面のトポグラフィーに追従するように伸長させることを容易にすることができると同時に、それらの当初の(すなわち、上記基材の表面上に配置して該表面に追従させる前の)互いに対する位置及び配向を維持することが可能になる。さらに、いくつかの実施形態において、接着剤(またはグラフェンシートなどの接着剤を用いない取り付け技法)を、上記ナノファイバー布帛の一部のナノファイバー上またはそれらの内部に選択的に配置してもよい。上記接着剤(または他の接着剤を用いない取り付け)によって、ナノファイバー布帛をその下にある基材に取り付けることが可能になる一方で、上記布帛上の接着剤の選択的な位置によって、該接着剤とナノファイバー布帛のナノファイバーとの間の接触面積が制限される。この接触面積を制限する形態で接着剤を使用することによって、接触面積を制限しない場合には、より広範に接着剤が存在することにより低下する可能性のあるナノファイバーの有益な特性(例えば、熱伝導性、電気伝導性、赤外(IR)線透過性)を、維持するのに役立てることができる。本明細書に記載のいくつかの実施形態は、1つ以上の剥離ライナーに取り付けて、本開示のナノファイバー布帛の保管、取り扱い、及び基材への取り付けの利便性を改善することができる。
【0059】
本明細書に記載の実施形態は、多くの既存のナノファイバー糸の構成とは対照的であり、該実施形態においては、ナノファイバー糸がポリマー内に包埋されるか、またはナノファイバー糸が接着剤で完全に被覆される。これは図1に示されており、図1は、接着剤層内かつポリマーシート上に包埋されたナノファイバーを示している。この構成によってナノファイバー糸の取り付けが簡便になる一方で、上記接着剤層(及び場合によっては上記ポリマーシート)により、カーボンナノファイバーの有利な特性が阻害されるか、または他の形態で低下する可能性がある。たとえば、ナノファイバーを接着剤層内に包埋すると、ナノファイバーとその下にある基材との接触が(部分的にまたは全体的にのいずれかで)妨げられる。良好な物理的接触がないと、上記ナノファイバー糸の並外れて高い電気伝導性及び熱伝導性が接着剤層内に隔離され、したがってこれらの特性の利点が基材(またはアセンブリ全体)まで及ぶ可能性がよい低くなる。さらに、ナノファイバーと同一の広がりをもつ接着剤及び/またはポリマーシートを有することにより、多くの場合、この組み合わされたポリマーシート及びナノファイバーの一部の波長の光線(例えば、IR線)に対する透明性が低下する。
【0060】
本開示のナノファイバー布帛を説明する前に、ナノファイバーフォレスト及びナノファイバーシートを以下に説明する。
【0061】
ナノファイバーフォレスト
本明細書では、用語「ナノファイバー」とは、径が1μm未満の繊維を意味する。本明細書の実施形態は、主としてカーボンナノチューブから製造されたものとして説明するが、他の炭素同素体、グラフェン、ミクロンスケールもしくはナノスケールのグラファイト繊維及び/またはグラファイトプレートであっても、及び窒化ホウ素などの他の組成のナノスケール繊維でさえも、以下に記載する技法を用いて高密度化することができることが理解されよう。本明細書では、用語「ナノファイバー」及び「カーボンナノチューブ」とは、炭素原子が互いに連結されて円筒形構造を形成する、単層カーボンナノチューブ及び/または多層カーボンナノチューブの両方を包含する。いくつかの実施形態において、本明細書において言及されるカーボンナノチューブは4~10層である。本明細書では、用語「ナノファイバーシート」または単に「シート」とは、ナノファイバーのシートであって、上記ナノファイバーが延伸プロセス(PCT公開第WO2007/015710号に記載され、その全体が本明細書に援用される)によって配向し、その結果、上記シートのナノファイバーの長手方向の軸が、該シートの主表面に対して垂直(すなわち、当該シートの堆積したままの形態であり、多くの場合「フォレスト」と呼ばれる)ではなく、該シートの主表面に平行である上記シートをいう。これらを図3及び図4にそれぞれ図解しかつ示す。
【0062】
カーボンナノチューブの寸法は、用いる製造方法によって大きく異なる場合がある。例えば、カーボンナノチューブの径は0.4nm~100nmになる場合があり、その長さは、10μmから55.5cmを超える範囲になる場合がある。カーボンナノチューブはまた、非常に高いアスペクト比(長さの径に対する比)を持ち、132,000,000:1以上もの高さになることがある。広範な寸法の可能性を考えると、カーボンナノチューブの特性は高度に調節可能、つまり「調整可能」である。カーボンナノチューブの多くの興味深い特性が特定されてはいるが、実際の用途においてカーボンナノチューブの特性を利用するには、カーボンナノチューブの特徴を維持するまたは向上させることが可能な、規模拡大可能で制御可能な製造方法が必要である。
【0063】
カーボンナノチューブは、その独特の構造に起因して、特定の機械的、電気的、化学的、熱的、及び光学的特性を有しており、これらの特性によってカーボンナノチューブは特定の用途に非常に適する。特に、カーボンナノチューブは、優れた導電性、高い機械的強度、良好な熱安定性を示し、また疎水性でもある。カーボンナノチューブは、これらの特性に加えて、有用な光学特性も示す可能性がある。例えば、カーボンナノチューブは、狭い選択幅の波長の光を放出または検出するための発光ダイオード(LED)及び光検出器に使用することができる。カーボンナノチューブは、光子輸送及び/または音子輸送にも有用であることが証明される可能性がある。
【0064】
本開示のさまざまな実施形態によれば、ナノファイバー(カーボンナノチューブを含む、但しこれに限定されない)は、本明細書で「フォレスト」と呼ばれる構成を含む、さまざまな構成で配置することができる。本明細書では、ナノファイバーまたはカーボンナノチューブの「フォレスト」とは、基材上に互いに実質的に平行に配置された、ほぼ同等の寸法を有する配向したナノファイバーをいう。図2は、基材上のナノファイバーフォレストの例を示す。上記基材は任意の形状であってよいが、いくつかの実施形態において、上記基材は、その上にフォレストが構築される平面を有する。図2に示すように、フォレスト中のナノファイバーの高さ及び/または径はほぼ等しくすることができる。場合によっては、フォレストは「堆積したまま」であってもよく、これは、ナノチューブが基材上に形成されたか、または他の場合には、成長のための基材から二次基材上に移動させてもよい。
【0065】
本明細書に開示されるナノファイバーフォレストは、比較的密集することができる。詳細には、開示されるナノファイバーフォレストの密度は、少なくとも10億ナノファイバー/cmであってもよい。いくつかの特定の実施形態において、本明細書に記載のナノファイバーフォレストの密度は、100億本/cm~300億本/cmであってもよい。他の例において、本明細書に記載のナノファイバーフォレストの密度は、900億ナノファイバー/cmの範囲であってもよい。フォレストは高密度または低密度の領域を含む場合があり、特定の領域にはナノファイバーが存在しない場合もある。フォレスト内のナノファイバーはまた、ファイバー間の連結性を示す場合もある。たとえば、ナノファイバーフォレスト内の隣接するナノファイバーは、ファンデルワールス力によって互いに引き付けられる場合がある。いずれにしても、フォレスト内のナノファイバーの密度は、本明細書に記載の技法を適用することによって増加させることができる。
【0066】
ナノファイバーフォレストの製造方法は、例えば、PCT第WO2007/015710号に記載され、該特許文献はその全体が本明細書に援用される。
【0067】
さまざまな方法を用いて、ナノファイバー前駆体のフォレストを製造することができる。図3に概略図を示す一例としての方法は、高温炉中でナノファイバーを成長させることを含む。いくつかの実施形態において、触媒を基材上に沈着させ、反応器内に載置し、次いで、反応器に供給される燃料化合物に曝露ささせてもよい。基材は800℃または1000℃を超える温度に耐えることができ、不活性材料であってよい。上記基材は、下にあるケイ素(Si)ウェハー上に配置されたステンレス鋼またはアルミニウムを備えていてもよい。但し、Siウェハーに代えて他のセラミック基材(例えば、アルミナ、ジルコニア、SiO2、ガラスセラミック)を用いてもよい。前駆体フォレストのナノファイバーがカーボンナノチューブである例において、アセチレンなどの炭素系化合物を燃料化合物として使用してもよい。上記燃料化合物(複数種可)は、反応器に導入された後、触媒上に堆積し始めてもよく、基材から上向きに成長することによって集まり、ナノファイバーのフォレストを形成してもよい。上記反応器はまた、燃料化合物(複数種可)及びキャリアガスを反応器に供給することができるガス入口と、消費された燃料化合物及びキャリアガスを反応器から放出することができるガス出口とを備えていてもよい。キャリアガスの例としては、水素、アルゴン、ヘリウムが挙げられる。これらのガス、特に水素を、ナノファイバーフォレストの成長を促進するために反応器に導入してもよい。さらに、ナノファイバーに取り込まれるドーパントをガス流に添加してもよい。
【0068】
多層ナノファイバーフォレストを製造するために使用されるプロセスにおいては、1つのナノファイバーフォレストが基材上に形成され、続いて第1のナノファイバーフォレストと接触する第2のナノファイバーフォレストが成長する。多層ナノファイバーフォレストは、基材上に第1のナノファイバーフォレストを形成し、第1のナノファイバーフォレスト上に触媒を沈着させ、次いで反応器に追加の燃料化合物を導入して、第1のナノファイバーフォレスト上に配置された触媒からの第2のナノファイバーフォレストの成長を促進することによるなどの、さまざまかつ適宜の方法で形成することができる。適用する成長方法、触媒の種類、及び触媒の位置に応じて、第2のナノファイバー層は、第1のナノファイバー層の上に成長するか、または例えば水素ガスで、触媒を再活性化した後に基材上に直接成長する、したがって、第1のナノファイバー層の下に成長するかのいずれかであってもよい。いずれにしても、第2のナノファイバーフォレストは、第1のナノファイバーフォレストのナノファイバーとほぼ端部と端部を接して配向させることができる。但し、第1のフォレストと第2のフォレストの間には容易に検出可能な界面が存在する。多層ナノファイバーフォレストは、任意の数のフォレストを含んでいてもよい。例えば、多層前駆体フォレストは、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれを超えるフォレストを含んでいてもよい。
【0069】
ナノファイバーシート
対象とする用途のナノファイバーは、フォレスト構成での配置に加えて、シート構成で配置されてもよい。本明細書では、用語「ナノファイバーシート」、「ナノチューブシート」、または単に「シート」とは、ナノファイバーが平面内で端部と端部を接して配向しているナノファイバーの配置をいう。例としてのナノファイバーシートを、寸法の表示と共に図4Aに図解する。いくつかの実施形態において、上記シートの長さ及び/または幅は、該シートの厚さの100倍を超える大きさである。いくつかの実施形態において、上記長さ、幅、またはそれらの両方は、該シートの平均厚さの10倍、10倍、または10倍を超える大きさである。ナノファイバーシートの厚さは、例えば、約5nm~30μmであってよく、長さ及び幅は意図する用途に適した任意の長さ及び幅であってよい。いくつかの実施形態において、ナノファイバーシートの長さは1cm~10メートル、幅は1cm~1メートルであってよい。これらの長さは、単に例示のために記載したものである。ナノファイバーシートの長さ及び幅は、製造装置の構成によって制約され、ナノチューブ、フォレスト、もしくはナノファイバーシートのいずれかの物理的または化学的特性によって制約されるものではない。たとえば、連続プロセスにおいては、任意の長さのシートを製造することができる。これらのシートは、製造時にロールに巻き取ってもよい。
【0070】
図4Aに示すように、ナノファイバーが端部と端部を接して配向している軸は、ナノファイバー配向の方向と呼ばれる。いくつかの実施形態において、ナノファイバー配向の方向は、ナノファイバーシート全体にわたって連続的であってよい。ナノファイバーは必ずしも互いに完全に平行である必要はなく、ナノファイバー配向の方向は、ナノファイバーの配向の方向の平均的なまたは概括的な尺度であることが理解されよう。
【0071】
ナノファイバーシートは、当該シートを製造することができる任意の形式の適宜のプロセスを用いて構築することができる。いくつかの例示的な実施形態において、ナノファイバーシートは、ナノファイバーフォレストから引き出してもよい。ナノファイバーフォレストから引き出されているナノファイバーシートの例を図4Bに示す。
【0072】
図4Bに示すように、ナノファイバーをフォレストから側方に引き出し、次いで、端部と端部を接して配向させて、ナノファイバーシートを形成することができる。ナノファイバーシートがナノファイバーフォレストから引き出される実施形態において、フォレストの寸法を制御して、特定の寸法を有するナノファイバーシートを形成することができる。例えば、ナノファイバーシートの幅は、シートが引き出されたナノファイバーフォレストの幅にほぼ等しくてもよい。さらに、シートの長さは、例えば、所望のシートの長さに達したときに延伸プロセスを終了することによって制御することができる。
【0073】
ナノファイバーシートには、さまざまな用途に利用することができる多くの特性がある。例えば、ナノファイバーシートは、調整可能な不透明性、高い機械的強度及び可撓性、熱的及び電気的伝導性を有することができ、かつ疎水性を示すこともできる。シート内のナノファイバーの高い配向度を考えると、ナノファイバーシートは極度に薄くすることができる。いくつかの例において、ナノファイバーシートの厚さは(通常の測定公差内で測定して)約10nmのオーダーであり、ほぼ二次元になる。他の例において、ナノファイバーシートの厚さを、200nmまたは300nmといった大きな厚さにすることができる。よって、ナノファイバーシートは、部品に取り付けてもその厚さの増加を最小限にすることができる。
【0074】
ナノファイバーフォレストと同様に、ナノファイバーシート中のナノファイバーを、処理剤により、シートのナノファイバーの表面に化学基または元素を付加することによって機能化することができ、これにより当該ナノファイバー単独とは異なる化学的活性が提供される。ナノファイバーシートの機能化は、前もって機能化されたナノファイバーで実施することも、前もって機能化されていないナノファイバーで実施することもできる。機能化は、CVD及びさまざまなドーピング技法を含む、但しこれらに限定されない、本明細書に記載の技法のいずれかを用いて実施することができる。
【0075】
ナノファイバーフォレストから引き出されたナノファイバーシートを高純度とすることもでき、当該ナノファイバーシートの90重量%超、95重量%超、または99重量%超がナノファイバーに帰することができる場合がある。同様に、上記ナノファイバーシートは、90重量%超、95重量%超、99重量%超、または99.9重量%超の炭素を含むことができる。
【0076】
選択的に配置された接着剤を備えるナノファイバー布帛
上記に示したように、本開示の実施形態はナノファイバーの布帛を含む。上記布帛のナノファイバーは、撚りがかかっていても、コイル状であっても、仮撚りがかかっていても、またはそれらの任意の組み合わせであってもよく、そのようにしてナノファイバー糸が形成される。本明細書に記載のナノファイバー布帛の例は、当該布帛のナノファイバーの互いに対する配向及び位置の維持もしながら、その下にある三次元トポグラフィーを有する表面(概括的に「基材」と呼ばれる)上で該布帛を伸長させることができるように構成される。本明細書に記載の実施形態のいくつかはナノファイバー糸に言及しているが、撚りをかけていない及び/またはコイル状にしていないナノファイバー、リボン、シート、またはバンドルをナノファイバー糸に代えて使用して、本明細書に記載のナノファイバー布帛を形成してもよいこと、及びナノファイバー糸への言及は単に説明の便宜上に過ぎないことを理解されたい。さらに、本明細書に記載のナノファイバー布帛は、ナノファイバーを互いに製織することによって形成することができ(例えば、経糸と緯糸を有する)、または第1の方向に配向した1種の複数のナノファイバーを、第2の方向に配向した第2の複数のナノファイバーの片側のみの上に配置することによって形成することができる。
【0077】
上記布帛のナノファイバーは、該布帛のナノファイバー上及び/またはナノファイバー内に選択的に配置された接着剤をさらに備える。上記布帛のナノファイバーに接着剤を選択的に配置することによって、接着剤を選択的に配置しない場合には、ナノファイバー上に接着剤をより均一に塗布することによって低下することになるナノファイバーの特性を維持するのに役立つ。
【0078】
図5Aは、本開示の布帛に使用されるナノファイバーの一例を示しており、ここで上記ナノファイバーは、撚りがかかりかつコイル状のナノファイバー糸として構成されている。このSEM顕微鏡写真で理解することができようが、ナノファイバーを互いに撚ることによって、個々のナノファイバーを糸条に束ねることができる。コイルは、とりわけ、例えば糸条に「過度に撚りをかける」か、または撚りをかけた糸条をマンドレルの周囲に巻回することによって形成することができる。いずれにしても、ナノファイバー糸内の撚り及びコイルによって本質的に、長い糸条がコンパクトな形で収納される。すなわち、第1の長さを有する撚りがかかりコイル状の糸条は、当該の糸条を引き延ばす及び/または撚りを解くことにより、第1の長さよりも長い第2の長さに伸長させることができる。図5Aに示すナノファイバー糸のようなナノファイバー糸を、図5Bの概略図に示すような布帛に製織することができる。この図に示すように、第1の方向に配向したナノファイバー糸(緯糸)が、第1の方向に対して角度θの第2の方向に配向したナノファイバー糸(経糸)と互いに製織される。これにより、本明細書においてナノファイバー布帛とも呼ばれる、ナノファイバー糸の二次元アレイが生み出される。図5Bに示す例において、角度θは約90°(±5°または通常の製造変動内)である。角度θは、布帛の形式及び製織法に応じて90°より大きくてもまたは小さくてもよいこと、及び示したものは説明の便宜上に過ぎないことが理解されよう。たとえば、角度θは、以下の範囲、すなわち、30°~165°、45°~135°、60°~95°、及び60°~165°のいずれかの範囲内であってよい。さまざまな例において、第1の方向に配向したナノファイバー糸と第2の方向に配向したナノファイバー糸との間に形成された間隙は、以下の範囲、すなわち、1μm~1mm、10μm~1mm、10μm~100μm、100μm~500μm、500μm~2mm、1mm~10mm、10mm超のいずれかの範囲内であってよい。
【0079】
図5Bに示すナノファイバー糸布帛は、図5Cに示すように、三次元トポグラフィーを有する基材上で伸長させてもよい。この例に示すように、図5Bのナノファイバー糸布帛が図5Cの曲面上で伸長されている。これも図5Cの概略図に示すように、上記ナノファイバー布帛のナノファイバー糸の配向及び位置は、図5Bに示す伸長させていないナノファイバー布帛に対して変化していない。すなわち、図5Bに示す伸長させていない状態に比較して、角度θは同一または略同一(すなわち、θ±5°、例えば、90°±5°)であり、隣接する緯糸間及び隣接する経糸間の間隔はほぼ不変(±5°)である。これは、上記に示したように、ナノファイバー糸が、その下にあるトポグラフィーに追従するように伸長された場合に、糸条の互いに対する配向及び位置を変化させることなく、引き延ばされる及び/または撚りを解くことができることによる。いくつかの例において、上記ナノファイバー糸布帛は追従性があり、表面トポグラフィーであって、該表面の周囲領域よりもわずかに10ミクロン高いまたは低い上記表面トポグラフィーに(平坦な表面上であっても曲面上であっても)追従する。
【0080】
本開示のナノファイバー糸布帛は、ナノファイバー糸(あるいは、単にナノファイバー)の部分であって、外側の部分または内側の部分のいずれかを問わない上記部分に、選択的に塗布された接着剤を有するというさらなる利点を有する。上記に示したように、この選択的な塗布によって、選択的な塗布でない場合に、接着剤の存在によって低下することになるナノファイバーの特性の多くが維持されることから、上記選択的な塗布は有益である。たとえば、ナノファイバー糸及び/またはナノファイバー布帛のすべてではなく一部に接着剤を選択的に塗布することにより、上記ナノファイバー布帛は、ポリマー及び/または接着剤層を介在させることなく、その下にある基材との物理的、電気的、及び熱的接触を確立することができる。このようにして、上記ナノファイバー布帛の有益な特性を、接着剤によって低下させることなく、その下にある基材に付与することができる。別の例において、ナノファイバー糸及び/またはナノファイバー布帛のかなりの部分(例えば、ナノファイバー、ナノファイバー糸、及び/または布帛の表面積の50%超)に接着剤が存在しないことにより、ナノファイバー布帛が、IR線透明性を維持しながらその下にある基材に接着することが可能になる。
【0081】
以下の説明及び対応する図は、ナノファイバー糸布帛上の接着剤の選択的配置の様々な例示的な実施形態を示している。図6A、6B、及び6Cは、第1の例のナノファイバー布帛600の様々な投影図を示している。
【0082】
初めに図6A及び同時に図6B図6Aに示した位置における図6Aの断面図である)を見ると、ナノファイバー糸604、枠608、及び枠608上の接着剤層612を備えるナノファイバー布帛600が示される。
【0083】
この例において、ナノファイバー布帛600は、図5Bに示すナノファイバー布帛に類似した、水平及び垂直のナノファイバー糸604を備える。図5Bのナノファイバー布帛と同様に、ナノファイバー糸604は、ナノファイバー布帛600を形成するように、図5Bまたは図6Aに示す直交パターンだけでなく、互いに対して任意の角度及び/または任意の配向にあってもよいことが理解されよう。図6Aに示すナノファイバー糸604(及び以下の例に示されるナノファイバー糸)の垂直及び水平の配向は、単に説明の便宜上に過ぎない。
【0084】
ナノファイバー布帛600は、接着剤層612を介して枠608に結合している。接着剤層612は、枠の表面にのみ配置され、したがって、接着剤層612は、612と重なるナノファイバー布帛の周辺位置で、ナノファイバー布帛600上に選択的に配置される。これは図6Bに示され、図6Bは第2の方向に配向したナノファイバー糸604A~604E(図6Aの平面図において垂直に)と接触する第1の方向に配向したナノファイバー糸604F(図6Aの平面図において水平に)を示す。ナノファイバー糸604Fは、布帛600の周縁部でナノファイバー糸604A及び604Eと交差し、また、枠608と重なる。接着剤層612は枠608上に配置されるため、上記接着剤層がナノファイバー布帛600上に選択的に配置されるのは、布帛600と枠608が重なるこれらの位置である。場合によっては、第1の方向の糸条と第2の方向の糸条の間の接合部ではなく、単に糸条の端部であるナノファイバー糸604の末端が、枠608と重なっていてもよいことが理解されよう。これらの末端は、接着剤層612とのこの接触によって、選択的に塗布された接着剤層612と接触している。ナノファイバー布帛600の周縁部内(枠608上の接着剤層612との接触によって定義される)は、接着剤が存在しないナノファイバー布帛600の内側部である。接着剤層612の寸法は、以下の寸法、すなわち、1μm~1mm、10μm~1mm、10μm~100μm、100μm~500μm、500μm~2mm、1mm~10mm、10mm超のいずれかの範囲内であってよい。
【0085】
ナノファイバー布帛600の内側部に接着剤が存在しないことは、上述のように、ナノファイバー布帛600とその下にある基材との間に直接的な物理的、電気的、及び熱的接触を確立することができることを意味する。これは図6Cに示されている。図6Cに示すように、枠608は取り外されている。ナノファイバー布帛600は、ナノファイバー布帛600の周縁部上の接着剤612を介して基材616に取り付けられてアセンブリ614を形成し、したがって、基材616上のナノファイバー布帛600の内側部には接着剤またはポリマーが存在しないままの状態になる。上述のように、接着剤またはポリマーが存在する場合に、それらの存在によって損なわれることになるナノファイバー布帛600の熱伝導性及び電気伝導性、ならびにIR透明性などの特性は阻害されない。基材616とナノファイバー糸604Fとの間の、ナノファイバー糸604の径に相当する高さの間隙620も図6Cに示す。
【0086】
図7A、7B、及び7Cは、接着剤が異なる位置に選択的に塗布されること以外は、図6A、6B、及び6Cに類似した例を示す。
【0087】
初めに図7A及び同時に図7B(示した位置における図7Aの断面図である)を見ると、ナノファイバー布帛700は、ナノファイバー糸704、枠708、及び選択的に塗布された接着剤の堆積物712を備える。ナノファイバー布帛700は、ナノファイバー布帛600の場合と同様に、図5Bの文脈で上述した布帛に類似している。
【0088】
ナノファイバー布帛700は、ナノファイバー布帛600とは異なり、第1の方向に配置されたナノファイバー糸と第2の方向に配置されたナノファイバー糸との間の接合部に配置された接着剤の堆積物712を有する。これらの堆積物は図7Aにおいて、水平の糸条と垂直の糸条との間の交点の円として識別されており、図7Bにおいて712A、712B、712C、712D、及び712Eとして表示されている。ナノファイバー布帛700上のこの接着剤の選択的な配置によって、接着剤の表面積の量、及び図7Cに示す、ナノファイバー布帛700とその下にある基材716との間の接着剤接触点の数が増加する。図を精査すると明らかなように、接着剤堆積物712の数及び接着剤の表面積は増加しているにもかかわらず、ナノファイバー糸の表面積の大部分(例えば、ナノファイバー/ナノファイバー糸の表面積の50%を超える)ならびにナノファイバー糸704の間の空間には接着剤が存在しない。これにより、ナノファイバー布帛600の文脈で上述したものと同一の利点の多くが提供される。
【0089】
いくつかの例において、堆積物712の厚さは0.1μm~1mmであってよい。いくつかの例において、堆積物712の厚さは、接合部に相当しないナノファイバー糸の部分の上の接着剤層の厚さよりも1%大きい~1000%大きくてもよい。いくつかの例において、上記寸法(すなわち、ナノファイバー糸の表面から周囲雰囲気に曝露された堆積物712の表面までの測定された接着剤の厚さ)は、以下の範囲、すなわち、1μm~1mm、10μm~1mm、10μm~100μm、100μm~500μm、500μm~2mm、1mm~10mm、10mm超のいずれかの範囲内であってよい。
【0090】
接着剤をナノファイバー布帛700に塗布するための1つの方法は、接着剤を溶媒に溶解することから開始される。次いで、この接着剤溶媒溶液をエアロゾルとしてナノファイバー布帛700の上に噴霧してもよい。第1の方向及び第2の方向に配向したナノファイバー糸の間の接合部の接着剤堆積物の大きさ、及び接着剤がナノファイバー糸の表面上に配置されるに至る範囲は、エアロゾルの種々の因子に依存する。これらの因子としては、とりわけ、溶媒中の接着剤分子の濃度、溶媒自体の揮発性、及び上記溶液を塗布するために使用されるキャリアガスの圧力が挙げられるが、これらに限定はされない。但し、これらの要因にかかわらず、本明細書に記載の条件下では、上記接着剤エアロゾルは、主として、図7A及び7Bに示す接合部に堆積することができる。さらに他の例において、接着剤の堆積を防ぐために、ナノファイバー布帛700の一部をマスキングしてもよい。
【0091】
図8A、8B、及び8Cは、ナノファイバー布帛上に接着剤を選択的に堆積させるさらに別の例を示している。上記に提示した他の例と同様に、図8Aは、第1の方向及び第2の方向に配向したナノファイバー糸804を備えるナノファイバー布帛800を含む。この例は、枠808上に配置されたナノファイバー布帛を示している。しかしながら、上記に提示した例とは異なり、ナノファイバー布帛800中の接着剤は、単にナノファイバー間の接合部及び/またはナノファイバーと枠との間のみに配置されているのではない。そうではなく、ナノファイバー布帛800のナノファイバー糸804には、図8B及び8Cのナノファイバー804、806の様式によって示されるように、接着剤802が浸透している。接着剤802などの有機分子を含む材料の浸透は、接着剤を溶媒に溶解し、この溶液をナノファイバーに塗布することによって起こり得る。上記溶媒は接着剤(または他の材料)をナノファイバー糸の内部に搬送する。このナノファイバー及び/またはナノファイバー糸の内部には、構成するナノファイバー間の間隙及び他の隙間が含まれる。次いで溶媒が(加熱、真空、蒸発、またはそれらの組み合わせによって)除去され、接着剤802(または他の分子、粒子、もしくは材料)がナノファイバー糸内に、場合によってはナノファイバー糸の上に配置された状態で残る。
【0092】
いくつかの例において、ナノファイバー糸804の表面上に配置された接着剤(またはポリマー)は、負圧(すなわち、真空)及び/または高圧ガス(例えば、窒素、アルゴン、空気、もしくは他の圧縮ガスまたはガスの混合物)の焦点を絞った流れを用いて除去することもできる。これらの技法は、その全体が本明細書に援用され、添付文書1に含まれる米国特許出願第16/051,586号にさらに詳細に記載されている。このようにして糸条804の表面から接着剤(またはポリマー)を除去すると、接着剤が存在しない糸条表面が生じ、上述のように、ナノファイバー布帛800とその下にある基材との間に直接的な接触を確立すること可能になる。
【0093】
次いで、接着剤は、液体の流動可能な状態で繊維を通って、または繊維に沿って流動することができる。これは、その後の溶媒の塗布、接着剤(またはポリマー)分子のガラス転移温度を超える加熱、または回転などによる遠心力の印加などによって、担体溶媒の除去の前または後に行うことができる。ナノファイバー糸804内の接着剤を流動させることにより、いくつかの例において、互いに接触して隣接するナノファイバー糸804の間に接着剤フィレット806を形成することができる。これらを図8B及び8Cにフィレット806A、806B、806C、806D、及び806Eとして示す。厚さ(糸条804Fと、804A~804E、806A~806E、810A~810Eとの対面する表面間の最大距離)は、以下の範囲、すなわち、10nm~100nm、10nm~500nm、50nm~200nm、100nm~500nm、1μm~1mm、10μm~1mm、10μm~100μm、100μm~500μm、500μm~2mm、1mm~10mm、10mm超のいずれかの範囲内であってよい。
【0094】
次に、ナノファイバー布帛800を、枠808及びその下にある基材816から移動させてもよい。その後の溶媒の塗布、熱、または他の機構のいずれによって生じるかは問わず、ナノファイバー804内に配置された接着剤の一部は、基材816に接触するように上記ナノファイバーから流動することができる。次いで、この流動した接着剤がフィレット810A、810B、810C、810D、及び810Eを形成する。ナノファイバー布帛800、接着剤802、ならびにフィレット806及び810は、基材816に取り付けられると、アセンブリ818と呼んでもよい。
【0095】
上述の実施形態のいずれかにおける接着剤は、とりわけ、アクリル系接着剤、感圧接着剤、熱活性化接着剤、熱可塑性ポリマー、エポキシドまたはネットワーク硬化ポリマー、弾性ポリマー、それらの組み合わせを含んでいてもよいが、これらに限定はされない。いくつかの実施形態において、従来の有機接着剤に代えてゾルゲル前駆体材料を使用してもよい。したがって、これらの前駆体材料は、化学的に不活性であり、従来の接着剤に十分に接着しない可能性がある基材(例えば、セラミック、ガラス、またはガラスセラミック基材)に対しても、イン・シチュで反応して、基材との結合を形成することができる。ゾルゲル前駆体を含む実施形態は、以下により詳細に記載する。
【0096】
上述の実施形態の多くは、第2の複数のナノファイバーに対してある角度で配置された第1の複数のナノファイバー糸を備えるが、そうである必要はない。一実施形態において、ナノファイバー布帛は、図6Aに示す実施形態に類似した、支持枠と重なる末端部に接着剤を含む平行なナノファイバー糸のアレイを備える。一実施形態において、ナノファイバー布帛は、図8Aに示す実施形態に類似した、接着剤が浸透している平行なナノファイバー糸のアレイを備える。
【0097】
ゾルゲル接着剤の実施形態
上述の実施形態のいずれも、(例えば、図6Aに示すような)枠と重なるナノファイバー糸の端部、及び(例えば、図7Aに示すような)第1の方向に配向したナノファイバー糸と第2の方向に配向したナノファイバー糸の間の接合部に選択的に配置された、ならびに/または(例えば、図8Aに示すような)ナノファイバー糸の一部もしくはすべての部分内に浸透した、「接着剤」材料としてゾルゲル前駆体を使用してもよい。一例において、ゾルゲル前駆体は、上述の構成のいずれかにおいて、(上記にも記載したように)ナノファイバー布帛に、これを基材に取り付ける前に塗布される。上記ナノファイバー布帛は、任意選択で、輸送または貯蔵のために剥離ライナー上に配置してもよい。いずれにしても、ゾルゲル反応生成物が接着可能な基材にナノファイバー布帛を取り付ける場合、ゾルゲル反応を開始させる。例において、上記前駆体はとりわけ、反応したときに二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化イットリウム、及び硫化亜鉛を形成する前駆体を含む。
【0098】
このように使用されるセラミック接着剤によって、ナノファイバー糸間及びナノファイバー布帛と基材の間により耐久性のある結合が生じ、したがって、周囲温度または溶媒もしくは酸化剤の有無を問わず、糸条の互いに対する配向及び位置が維持される。このことは、ポリマー接着剤がガラス転移温度近傍の温度で、または当該ポリマーが溶媒和するもしくは分解する環境において流動する可能性がある、高温用途に有益である可能性がある。
【0099】
(ポリマー系またはオリゴマー系の接着剤ではなく)ゾルゲルを接着剤として使用する方法の一例は、ゾルゲル前駆体(複数種可)を溶媒、例えばエタノールまたはブタノールなどのアルコールに溶解することによって開始する。次いで、ゾルゲル前駆体及び溶媒の溶液が、ナノファイバー(複数種可)及び/またはナノファイバー糸(複数種可)に塗布される。上述のように、ゾルゲル前駆体及び溶媒は、場合によって、ナノファイバー(及びナノファイバー糸)の接合部に不均一に堆積し、及び/またはナノファイバー糸の個々のナノファイバー(またはナノファイバーの集合体)によって画定される繊維間の間隙に浸透する場合がある。いずれにしても、この方法では、続いてゾルゲル前駆体、溶媒、及びナノファイバー(糸)アセンブリの組み合わせを基材に取り付けて、基材上の上記アセンブリを乾燥させ、そのようにして溶媒を蒸発させ、前駆体を反応させることが行われる。反応が起こると、上記前駆体は上述のように、ナノファイバー糸と基材との間に機械的な結合を形成する。反応したゾルゲル前駆体の寸法は、上述の範囲のいずれかの範囲内となることができる。
【0100】
別の例において、ナノファイバー(糸)アセンブリは電気絶縁性となり得る。これは、セラミックゾルゲル前駆体(複数種可)を基材の一部またはすべてに(たとえば、ナノファイバー布帛が当該の基材に接触することになる部分に)塗布し、この前駆体を硬化させてセラミックを形成させ、次いで上記布帛を取り付けることによって実現することができる。
【0101】
グラフェンによる取り付けの実施形態
図9A、9B、及び9Cは、グラフェンシートを使用してナノファイバー糸をその下にある基材に結合するいくつかの例を示している。これらの例においては、グラフェンシートをナノファイバー糸に塗布して、その結果、グラフェンシートの中央部がナノファイバー糸の外表面の一部に追従し、グラフェンシートの反対側の端部が下にある基材に、ナノファイバー糸の反対側で結合することができる。次いでファンデルワールス力が、グラフェンシートとその下にある基材の間の引力を生じさせることができ、したがって、接着剤を含まないナノファイバー糸に対する物理的束縛因子として機能することができる。
【0102】
図9Aは、このシナリオの一例の(ナノファイバーの長さに垂直な)断面の概略図であり、これは、基材904、ナノファイバー908、及びグラフェンシート912を備える。図に示すように、ナノファイバー908は、基材904の表面上に配置される。グラフェンシート912は、3つの部分、すなわち、(1)中央部912A、(2)第1及び第2の側部912B及び912B’、ならびに(3)第1及び第2の端部912C及び912C’を有するものとして示される。図に示すように、中央部912Aはナノファイバー908の表面上に配置される。第1及び第2の端部912C及び912C’は基材904と接触している。第1及び第2の側部912B及び912B’は、対応する第1及び第2の端部912C及び912C’を伴って中央部912Aに結合する。このようにして、上述のように、接着剤またはゾルゲルシステムを使用することなく、ナノファイバー908を基材904に結合することができる。
【0103】
図9B及び9C(後者は図9Bの一部の拡大図である)は、図9Aに提示された図の実験例の画像を示す。これらの画像において、ナノファイバー糸920は基材916の表面上に配置されていることが示されている。グラフェンシートの中央部924は、図9Aに示す中央部912Aと類似して、ナノファイバー糸920の上に配置されている。グラフェンシートが極端に薄い(この場合、炭素原子の1層または2層の原子層に相当する)ことにより、この例のグラフェンシート(複数可)の中央部924は、ナノファイバーの表面トポグラフィーに追従し、その結果、互いにほとんど区別がつかない。グラフェンシート(複数可)の中央部924とナノファイバーの間の物理的境界は、図9Bよりも図9Cにおいてより容易に識別可能である。同一の理由で、基材916と接触し、グラフェンシートの他の部分の「アンカー」として機能するグラフェンシートの端部932は、主として、図9B及び9Cの画像における表面の不規則性の集合体として識別可能である。側部928は中央部924を端部932に結合し、したがって、接着剤またはゾルゲル前駆体を使用することなく、グラフェンシートによってナノファイバー920が基材916にピン留めされる、結合される、または他の方法で固定されることが可能になる。
【0104】
いくつかの例において、グラフェンを使用してナノファイバー(及び/またはナノファイバー糸)を基材に取り付ける方法は、グラフェン粒子(一般に炭素の1原子層の厚さであるが、場合によっては最大5または10原子層の厚さまで可能)を溶媒中に懸濁させることによって開始する。溶媒の例としては、とりわけ、水、エタノール、及びブタノールが挙げられる。この方法では、続いてグラフェンシートと溶媒の懸濁液を、エアロゾルを介してナノファイバーに噴霧することが行われる。理論に拘束されることを望むものではないが、毛管力によってナノファイバー糸の表面上にグラフェンシートが吸い上げられ(上記に説明及び図示したように)、したがってグラフェンシートが基材に結合されると考えられる。グラフェンシートは、ナノファイバーシートの表面の少なくとも一部に追従し、その下にある基材に結合することができる。これには、ナノファイバー(またはナノファイバー糸)を基材に固定する、取り付ける、または他の形態で結合する効果がある。
【0105】
先行の例示的な実施形態のいずれかを以下の用途に使用してもよい。一用途において、本開示のナノファイバー布帛を筐体の内側または外側に接着して、該筐体内に配置された構成部分を電磁干渉(EMI)遮蔽することができる。場合によっては、上記ナノファイバー布帛は、ギガヘルツ範囲のEMIならびに分極した及び分極していないEMIに対する障壁として機能する。別の例において、剥離ライナーを用いて簡便に取り付けられるものを含む、本開示の実施形態を使用して、開回路における電気的接触を確立または再確立することができる。例えば、異なる方向に配向したナノファイバー糸を備える本開示のナノファイバー布帛の一部を、回路の開口部の反対側の導体に接着してもよい。導電性ナノファイバー糸の二次元ネットワークは、介在する絶縁接着剤によって妨げられることなく導体と物理的及び電気的に接触することができるため、回路を閉じることができる。このようにして、本明細書の実施形態は、回路への導電性「パッチ」として使用することができる。いくつかの例において、本明細書の実施形態は、electrically resistive capacityに使用することができ、したがって発熱体として機能する。
【0106】
本明細書に記載の実施形態のいずれかを、最初に剥離層(または複数の剥離層)の上、またはその間に配置して、貯蔵及びその後の基材への取り付けを容易にしてもよい。いくつかの例において、上記剥離ライナーは、上記接着剤と本開示のナノファイバー布帛との間に、弱い接着剤または低表面エネルギー材料を含む接着剤を備える、薄く(すなわち、厚さが0.5mm未満)、可撓性の、及び/または弾性変形もしくは塑性変形可能な基材(とりわけ、例えば、ポリエチレン、塑性変形可能なポリジメチルシロキサン(PDMS)、金属箔、熱可塑性ポリマーフィルム)であってよい。一例において、熱可塑性フィルムを加熱して軟化させてもよく、ナノファイバー糸及び/またはナノファイバー布帛を、当該糸条及び/または布帛が、冷却されると熱可塑性フィルム内に一時的に固定されるが、ナノファイバー布帛の反対側の表面を基材に接着した後でもなお容易に除去されるように、部分的に(例えば、当該糸条及び/または布帛の厚さの1/2未満または4分の1未満を)包埋してもよい。このようにして、本明細書に記載の実施形態を製造して、剥離ライナー層の間で無期限に貯蔵してもよい。必要に応じて、剥離ライナーの1つの層を除去して、ナノファイバー布帛上に選択的に配置された接着剤を露出させてもよい。次いで、ナノファイバー布帛及び残りの変形可能な剥離層は、上記のように、ナノファイバー糸の互いに対する配向及び/または位置を乱すことなく、基材に(三次元トポグラフィーを有する基材にすら)追従させることができる。
【0107】
剥離ライナーを使用することの1つの便利な側面は、長い長さのナノファイバー布帛(例えば、50センチメートル以上)をスプールの周りに巻き付けることができることである。上記剥離ライナーは、ナノファイバー布帛及び対応する接着剤の隣接する層を互いに分離することから、ナノファイバー布帛を、接着剤堆積物を乱すことなく、物理的にコンパクトな形態(すなわち、数メートルのナノファイバー布帛及び剥離ライナーが、センチメートルオーダーの径のスプールの周囲に巻回される)で貯蔵、輸送、及び使用することができる。
【0108】
本明細書に記載の実施形態のいずれかは、上記接着剤堆積物内またはその上にある材料の粒子またはフレークを含んでいてもよい。例えば、銀ナノ粒子、グラフェンフレーク、カーボンナノ粒子(例えば、フラーレン)、無機充填剤(例えば、シリカもしくはカーボンのミクロンサイズの粒子)も、上記接着剤堆積物及び/または本明細書に記載の接着剤が充填されたナノファイバー糸と混合、これらに添加、またはこれらの上に載置してもよい。これらの粒子は、他の利点の中でも、ナノファイバー布帛と基材の間の接着を改善し、ナノファイバー布帛と基材の間の接着剤による結合の機械的特性を改善し、ナノファイバー布帛のナノファイバー糸の間の機械的特性(例えば、接着強度)を改善し、ナノファイバー布帛と基材の間の電気的、物理的、及び/または熱的接触を改善する。
【0109】
別の例において、単層ナノチューブのフィルムを使用して、ナノファイバー布帛を基材に接着することができる。単層カーボンナノチューブは強いファンデルワールス力を有し、これにより単層ナノチューブのフィルムの反対側と接触している表面間の接着を生じさせるまたは促進ことができる。厚さが1nm~3nmの範囲の複数の単層ナノチューブを、界面活性剤と水の溶液中に懸濁させてもよい。次いで、この懸濁液をろ過しし(または水/界面活性剤溶液を他の形態で除去し)、ナノチューブのフィルムを作製してもよい。次に、このナノチューブのフィルムをナノファイバー布帛に取り付けてもよい。このナノファイバー布帛を基材上に載置し、上記ナノファイバーフィルムをナノファイバー布帛と基材の間に挟持する。したがって、この単層ナノチューブフィルムは、ナノファイバー布帛と基材との間の接着を促進するように配置されている。
【0110】
さらなる考慮事項
上述の本開示の実施形態の説明は例示の目的で提示されおり、網羅的であること、または特許請求の範囲を開示されたそのものの形態に限定することを意図するものではない。関連技術分野の当業者であれば、上記の開示に照らして、多くの改変及び変形が可能であることを理解することができる。
【0111】
本明細書で使用される言語は、主として読みやすさ及び指導目的のために選択されており、本発明の主題を記述または限定するために選択されていない場合がある。したがって、本開示の範囲は、この詳細な説明によってではなく、本明細書に基づく出願時に提出する特許請求の範囲によって制限されることが意図される。したがって、本実施形態の開示は、本発明の範囲を例示することを意図するが、これを限定することは意図せず、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲に記載されている。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C