(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-22
(45)【発行日】2023-10-02
(54)【発明の名称】イブプロフェンまたはその構造類似体を含む多層経皮薬物送達システム
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20230925BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20230925BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230925BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230925BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230925BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230925BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230925BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230925BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K9/70 401
A61P29/00
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/04
(21)【出願番号】P 2021525301
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 CN2019113909
(87)【国際公開番号】W WO2020093906
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】201811332928.4
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521199177
【氏名又は名称】北京▲徳▼默高科医▲薬▼技▲術▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲謝▼ 文委
(72)【発明者】
【氏名】律 嵩
(72)【発明者】
【氏名】何 双江
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 楠
【審査官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105724(JP,A)
【文献】特開2018-140970(JP,A)
【文献】特開2016-084308(JP,A)
【文献】国際公開第2005/123046(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/117554(WO,A1)
【文献】特開2013-173805(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102940618(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102000043(CN,A)
【文献】国際公開第2011/034323(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/070406(WO,A1)
【文献】特表2013-514347(JP,A)
【文献】Drug Delivery,2016年,Vol.23, No.5,pp.1550-1557
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分と、
エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピレンジアミン、N-エチルモルホリン、N-エチルピペリジン、N-エチルピペラジン、N-ヒドロキシエチルピペリジン、N-ヒドロキシエチルピロール、ジメチルプロピレンジアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、N-ドデシルピロール、トリヘキシルアミン、N-ドデシルホモピペリジン、2-ピリジンメタノール、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、サイクレン、3-(ピペラジン-1-イル)プロパン-1,2-ジオール、N-ヒドロキシエチルピペラジン、N-メチルモルホリン、トリエチレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、2-ピペラジノン、3-アミノピペリジン、1,3-シクロヘキサンビスメタンアミン、プロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、エチレングリコールビス(3-アミノエチル)エーテルから選択される1種又は複数種から選択される少なくとも1つのアミノ基を含む化合物である経皮吸収促進剤と、
感圧接着剤と
を含有する高分子マトリックス層を含み、
前記活性成分が、イブプロフェンであり、
前記活性成分と、前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物中のアミノ基とのモル比が、12:1~1:1であり、
前記高分子マトリックス層が、15%~45%の重量含有量の前記活性成分を含み、
前記高分子マトリックス
層が、乾燥高分子マトリックスの総重量の0.5%~10%の充填剤を含む
ことを、特徴とする、イブプロフェンを含む経皮吸収パッチ。
【請求項2】
前記高分子マトリックス層において、活性成分の全部または一部が、前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物と塩を形成することを特徴とする、請求項1に記載の経皮吸収パッチ。
【請求項3】
形成される活性成分-アミノ化合物塩の融点が、イブプロフェンまたはそれに対応する構造類似体の融点よりも低いことを特徴とする、請求項2に記載の経皮吸収パッチ。
【請求項4】
前記高分子マトリックス層が、タルク、ベントナイト、カオリン、コロイダルシリカ、モンモリロナイトから選択されるいずれか1種又は複数種の充填剤を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の経皮吸収パッチ。
【請求項5】
前記充填剤の平均粒子サイズが、300メッシュ~5000メッシュであ
るか、
又は、500メッシュ~3000メッシュ
であることを特徴とする、請求項4に記載の経皮吸収パッチ。
【請求項6】
前記充填剤の表面積が、1.5m
2/g~15m
2/gであ
るか、
又は、3m
2/g~10m
2/g、
もしくは、4m
2/g~7m
2/g
であることを特徴とする、請求項4に記載の経皮吸収パッチ。
【請求項7】
前記高分子マトリックス層中の前記活性成分と、前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物中のアミノ基とのモル比が、10:1~1.5:1
であるか、
又は、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、もしくは、1.5:1である、及び/又は、
前記高分子マトリックス層中の前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物の重量含有量が、1%~15%であ
るか、
又は、2%~12%
であるか、もしくは、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、もしくは、12%である、及び/又は、
前記高分子マトリックス層中の前記活性成分の重量含有量が、20%~40%
であるか、
又は、20%~35
%もしく
は25%~35%
であるか、もしくは、25%、30%、もしくは、35%である、及び/又は、
前記高分子マトリックス層中のアクリル酸感圧接着剤の重量含有量が、40%~80%であ
るか、
又は、45%~75
%、もしくは、45%~70%であ
るか、
もしくは、45%、50%、55%、60%、65%、もしくは、70%
であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の経皮吸収パッチ。
【請求項8】
前記パッチが、さらに、裏打ち層と保護層を含み、前記高分子マトリックス層が、裏打ち層と保護層との間に配置されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の経皮吸収パッチ。
【請求項9】
請求
項8に記載の経皮吸収パッチを含み、さらに、裏打ち層、保護層、及び、裏打ち層と保護層との間に配置される、感圧接着剤を含有する高分子マトリックス層を含む第2の複合層を含むことを特徴とし、
使用前に第2の複合層の保護層を剥がし、経皮吸収パッチの裏打ち層に貼り付け、更に前記経皮吸収パッチの保護層を剥がし、投与部位に貼り付けるか、
あるいは、最初に前記経皮吸収パッチの保護層を剥がし、投与部位に貼り付け、更に第2の複合層の保護層を剥がし、前記経皮吸収パッチの裏打ち層に貼り付けて使用するための、
イブプロフェンまたはその構造類似体を含む多層経皮薬物送達システム。
【請求項10】
前記第2の複合層の高分子マトリックス層が、さらに、薬学的に許容される助剤を含み、及び/又は、さらに、イブプロフェンまたはその構造類似体を含むことを特徴とする、請求項9に記載の多層経皮薬物送達システム。
【請求項11】
前記第2の複合層の高分子マトリックス層中のイブプロフェンの重量含有量が、15%以下、もしくは、10%以下、8%以下、又は5%以下であることを特徴とする、請求項10に記載の多層経皮薬物送達システム。
【請求項12】
前記第2の複合層の周辺部の幅が、前記経皮吸収パッチの周辺部の幅よりわずかに広いことを特徴とする、請求項9から11のいずれか1項に記載の多層経皮薬物送達システム。
【請求項13】
前記第2の複合層の周辺部の幅が、前記経皮吸収パッチの周辺部の幅より0.5cm~1.0cm広いことを特徴とする、請求項12に記載の多層経皮薬物送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年11月9日に出願された発明の名称が「イブプロフェンまたはその構造類似体を含む多層経皮薬物送達システム」である中国特許出願第201811332928.4号に基づき優先権を主張し、その全開示内容をここに援用する。
【0002】
本発明は、経皮薬物送達技術分野に属するものであり、具体的には、イブプロフェンまたはその構造類似体を含む多層経皮薬物送達システムに関するものである。本発明のシステムは、薬物負荷の高いイブプロフェンまたはその構造類似体を含み、当該イブプロフェンまたはその構造類似体は高分子マトリックスに均一に分散でき、前記システムは、治療量のイブプロフェンまたはその構造類似体を12~24時間継続かつ安定的に送達できる。
【背景技術】
【0003】
イブプロフェンは、痛みを和らげ、熱を下げ、炎症を抑えるために使用される非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。本製品は、シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase、COX)COX-1及びCOX-2の活性を非選択的かつ可逆的に阻害できるが、COX-1及びCOX-2は、生体内のプロスタグランジン(prostaglandin、PG)の合成を触媒する重要な酵素である。COX-1およびCOX-2の活性を阻害することで、体内でのプロスタグランジンの生成による発熱および痛みの症状が軽減または解消される。その構造類似体であるナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ロキソプロフェンはいずれも類似の薬理と薬効を持っている。
【0004】
イブプロフェンは、1969年にイギリスで最初に販売されて以来、例えば、通常の固体経口錠剤、徐放性カプセル、経口液剤などの経口剤形を含む復数種の剤形が存在する。しかし、イブプロフェンの経口剤形には、例えば、半減期が短いため頻繁な投与を必要とすること、胃腸の刺激、消化管の出血などの、多くの不便や副作用が存在する。ゲル軟膏や坐薬などの、イブプロフェンの表面製剤も市場で販売されているが、ゲル軟膏を使用する場合、特別な操作と介護が必要であり、使用中に衣類が汚染され、医薬品の局部を損失する等のことがある。同時に、イブプロフェンの剤形には注射剤も存在するが、専門員による操作が必要であり、使用するのに不便であるため、特別な状況でのみ使用される。
【0005】
したがって、使用の利便性、薬効発現の速さ、安定した血中薬物濃度、そして、1日1回の投与という要望を満たすために、イブプロフェンの他の剤形を開発することが依然として強く求められている。経皮薬物送達は、イブプロフェンの投与要求を満たす理想的な手段である。
【0006】
現代の経皮薬物送達技術(transdermal drug delivery system、TDDS)は、主に、薬物がパッチの形で皮膚または粘膜を介して吸収された後、局所または全身循環系の治療において薬学的作用を果たす投与方法を指す。経皮薬物送達方式には、快適かつ利便であり、長時間作用・徐放でき、胃腸に対する刺激、初回通過効果、および侵襲性がなく、服薬の恐怖感や服薬の頻度を減らすことができ、経口吸収による血中薬物濃度の変動性を回避し、より高い安全性を有するといった多くの利点がある。経皮薬物送達は、薬物を自分で経口服用することが困難な乳幼児、および高齢者にとってより臨床的意義を有する。1979年に最初のスコポラミンパッチ(Transderm Scop(登録商標))が発売されて以来、治療効果のあるより多くの経皮薬物送達システムを開発するために、多くの試みがなされ、これまで、多くの製品が市場に送り出されている。
【0007】
パッチ中の活性成分と他の助剤との組み合わせに応じて、パッチは、一般にリザーバー型パッチ(reservoir systems)とDIA型パッチ(drug-in-adhesives)に分類される。そのうち、DIA型は、1つまたは複数の高分子材料および他の薬学的に許容される助剤からなる半固体組成物に、活性成分を均一に溶解または分散させ、均一な高分子マトリックスを形成するものであり、使用される高分子材料自身が感圧接着剤であれば、高分子材料は、薬物の担体として機能するとともに、貼り付け部位の皮膚との接着作用をも奏する。DIA型の高分子マトリックスパッチを設計する際に考慮すべき要素は、主に、活性成分自身の性質及びその薬物負荷、高分子マトリックスにおける各成分の物理化学的特性、およびすべての成分からなる高分子マトリックスの全体的な性能、パッチの製造と保管のための外部環境条件、パッチの使用箇所と時間、達成すべき薬物送達速度と治療効果、ならびにパッチの着用能等である。
【0008】
高分子マトリックス型パッチは、主に受動拡散によって薬物をマトリックスから皮膚の角質層を経て体内に送り込むため、拡散速度を決める主な要因は、マトリックスにおける薬物の濃度と飽和度、および薬物とマトリックスにおける他の成分との相互作用の強さ、特に組成物中の高分子化合物と薬物との相互作用である。活性成分自体の性質および使用される高分子化合物の相違に応じて、高分子マトリックス組成物中の薬物の濃度も異なる。マトリックス中の活性成分の濃度が低く、薬物負荷が少ない場合、理想的な薬物送達を達成することは困難であり、特に定常状態の送達を達成することは困難である。薬物負荷が高くて飽和濃度に達するか、あるいはそれに近い場合、薬物の拡散速度もそれに応じて改善されるが、接着力、剥離強度、およびせん断強度といったマトリックス組成物の全体的な接着特性が影響を受けたり、破壊されたりして、より深刻なのは、活性成分において望ましくない再結晶が発生するという問題である。
【0009】
イブプロフェンの経皮薬物送達システムを開発することを試みるために、文献では、イブプロフェンを含む異なる経皮薬物送達方法及び組成物が報告されている。例えば、中国特許出願CN201410301673.0及びUS20090161065A1では、それぞれ、主に天然高分子化合物であるキサンタンガムを使用してイブプロフェンの安定性、特に高温での安定性を改善するイブプロフェン表面組成物が開示されており、当該組成物におけるイブプロフェンまたはその塩の濃度は約5.0%である。中国特許出願CN200910079489.5では、イブプロフェン経皮放出パッチ及びその製造方法が開示されているが、イブプロフェンの薬物負荷はわずか5~15%である。中国特許出願CN200710151020.9では、活性成分の含有量が9.25%であることが好ましいイブプロフェンアルギニンのゲルが開示されている。特許PCT/US2012/036366では、イブプロフェンゲルが開示されているが、前記イブプロフェンの含有量は15%以下であり、溶媒として大量の低級アルコールが使用されているため、アレルギーや揮発の恐れがある。中国特許出願CN201510759804.4では、経皮吸収促進剤を利用して12~48時間の連続放出を達成する、イブプロフェンを含む長時間作用のDIA型経皮吸収パッチ、及びその製造プロセスが開示されている。中国特許出願CN201510181823.3では、複合イブプロフェンパッチ及びその製造方法が開示されており、使用されるイブプロフェンを漢方薬と複合して、肩関節周囲炎の治療に使用し、そのうち、活性成分であるイブプロフェンの含有量は約1%である。中国特許出願CN201510379997.0では、経皮吸収促進剤として漢方薬揮発性油であるチョウジ油を使用し、活性成分であるイブプロフェンの含有量が10%以下であり、剤形がゲルおよびクリームである、イブプロフェンを含む医薬組成物が開示されている。文献(Journal of Pharmaceutical Sciences 103 (2014):909-919)では、経皮吸収促進剤としてPEG200とオレイン酸を使用することが報じられ、5%というイブプロフェンの含有量の経皮吸収に対する効果が比較・研究された。文献(Drug Dev Ind Pharm,2014,Early Online:1-9)では、ICH Q8に基づいてイブプロフェンを含むパッチを設計する思想が開示されているが、コロイドとオレイルアルコールの簡単な状況しか設定されておらず、イブプロフェンの含有量が20%を達しているが、結晶化しやすく、実用性がない。文献(European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 60 (2005) 61-66)では、助剤がプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、硬化ヒマシ油ELおよび高分子化合物Eudragit E、RLである場合の、含有量3%のイブプロフェンの安定性に関する研究が報告されている。文献(Bangladesh Pharmaceutical Journal 15(1) (2012),17-21)では、イブプロフェンの薬物負荷が5~8%である場合、可溶化剤としてKollidon SRとEudragut Lとの2つの高分子化合物を使用することが報告されている。文献(Journal of Pharmaceutical Innovation 13 (2018),48-57)では、特許取得済みのコロイドのみを使用して、痛みに対するイブプロフェンパッチを開発することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】中国特許出願CN201410301673.0
【文献】US20090161065A1
【文献】中国特許出願CN200710151020.9
【文献】特許PCT/US2012/036366
【文献】中国特許出願CN201510759804.4
【文献】中国特許出願CN201510181823.3
【文献】中国特許出願CN201510379997.0
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の文献に開示されているイブプロフェンの含有量は比較的に少ない。12~24時間の投与範囲内で薬学的に意味のある用量の送達を達成するために、イブプロフェンパッチの薬物負荷および飽和濃度を増やし続け、それによって高分子マトリックス中の活性成分の熱力学的活性を増加させる必要がある。薬物負荷能力、飽和度、安定性の点、およびパッチのサイズ、コロイダル特性などのパッチ装着性の点から、適切なバランスを見つける。薬物負荷が高い場合、パッチ内のイブプロフェンの安定性がチャレンジであり、保管期間中に再結晶化する恐れがある。一方、イブプロフェン自身は低融点のフェニルプロピオン酸誘導体であり、水素結合供与体と水素結合受容体との両方を備え、これらの特性により、高分子マトリックス組成物と相互作用し、高分子マトリックスにおける流動性が妨げられ、さらに、イブプロフェンの全体的な経皮浸透速度が影響される。また、イブプロフェン自身の増粘性により、高分子マトリックスの全体的なコロイダル特性が変化し、例えば、凝集力が低下してパッチが皮膚に残留し、コールドフロー(cold flow)の問題により、使用時にパッチの周囲に黒い円が形成され、そして、保管期間中に性質の変化が起こる等のことがある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の問題について、本発明は、高い薬物負荷および高い経皮浸透効率を有するとともに、少なくとも12~24時間にわたって治療効果を達成できる血中薬物濃度を継続かつ安定的に維持できるイブプロフェンまたはその構造類似体を含む多層経皮薬物送達システムを提供する。同時に、本発明に記載のシステムは、薬物負荷が高い場合におけるイブプロフェンまたはその構造類似体の結晶化を阻害し、長期保管期間内において、皮膚に対する浸透効率が変化しないように保つことができる。同時に、本発明に記載のシステムは、良好なコロイダル特性を有し、パッチの使用期間の装着要求を満たしている。
【0013】
以下は、本発明に係る技術・科学専門用語であり、特に断りがない限り、当業者にとって、以下と同じ意味を有する。
【0014】
経皮薬物送達:活性成分を皮膚または粘膜を介して局所または全身循環系へ送り込む投与方式である。
【0015】
経皮薬物送達システム:活性成分を含有する、経皮薬物送達のためのシステムであり、一般的に、裏打ち層、離型フィルム、およびこの2つの層の間に配置される薬物送達層を含む。薬物送達層の活性成分と他の成分との組み合わせ方式により、一般的にリザーバー型とDIA型に分けられる。経皮薬物送達システムはパッチとも呼ばれ、本発明においてどちらを用いても良い。
【0016】
組成物:高分子マトリックス中の異なる成分を指し、活性成分、経皮吸収促進剤、酸化防止剤、可塑剤、充填剤および感圧接着剤などを含むが、これらに限定されない。また、物理混合されたものであって、各成分の間に化学的作用又は架橋作用がない。
【0017】
複合物:異なる高分子化合物が化学的作用によって架橋されて形成される、安定した特性を持つ高分子化合物である。
【0018】
拡散:薬物が受動的に皮膚や粘膜を通過することを指し、推進力は、皮膚の両側の活性成分の濃度の差であり、皮膚の内側と外側の濃度勾配に直接関係している。
【0019】
高分子マトリックス:経皮薬物送達システム内の水不溶性材料を指し、活性成分であるイブプロフェンが添加された高分子材料の任意の組み合わせを含むとともに、その他の薬学的に許容される成分、例えばアクリル酸ポリマー、ポリシリコーンポリマー、及びポリイソブチレンなどのゴムを含む。本発明の高分子マトリックス中のイブプロフェンは、当該高分子マトリックスに均一に溶解している。高分子マトリックスは、一般的に感圧接着剤を含む。高分子マトリックスは、経皮薬物送達システムの薬物送達層として機能し、DIA型の経皮薬物送達システムを形成する。
【0020】
感圧接着剤:粘弾性高分子材料の一種を指し、ほとんどの他の材料の表面と接触する場合、非常に軽い力でも材料に接着でき、長期にわたって接着力を維持できる。感圧接着剤には、感圧接着剤そのものと、増粘剤や可塑剤を添加することで感圧接着剤の機能を発揮するものの2種類がある。感圧接着剤は、室温において、良好な皮膚接着性といった望ましい物理的特性を有し、一定期間内に接着を維持し、皮膚を損傷することなく剥離することができる。一般的に、アクリル酸系感圧接着剤、ポリシリコーン系感圧接着剤、及び、ゴム感圧接着剤が含まれる。
【0021】
裏打ち層:経皮薬物送達システムは、一般的に、薬物透過不能の裏打ち層を含み、裏打ち層の一方の面は高分子マトリックス層に直接接続され、使用時に、裏打ち層は、マトリックス層を周囲の環境との接触から保護し、薬物の損失を防ぐ。裏打ち層の材料は、一般的に、ポリエステル、ポリエチレン-ポリ酢酸ビニルエステル複合フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、金属箔、不織布などを含む。厚さは、3M社のScotchPakTM 1109又は3M社のCotranTM 9720のように、一般的に2~1000μmである。
【0022】
離型フィルム:保護層とも呼ばれ、本発明では、両者は同じ意味を有し、どちらを使用しても良い。経皮薬物送達システムは、3M社のScotpakTM 9744のように、一般的に高分子マトリックス層の他方の面に直接接続される離型フィルムを含む。パッチを使用する前に、離型フィルムを取り除く必要がある。
【0023】
単層構造の経皮薬物送達システム:経皮薬物送達システムの裏打ち層と離型フィルムとの間に、薬物含有高分子マトリックスを一層しか含まず、高分子マトリックスに、高分子感圧接着剤が含まれるものを指す。当該マトリックス層は、薬物負荷の役割を果たすだけでなく、皮膚に直接接着する役割も果たしている。
【0024】
治療量:パッチの使用期間中に、疾患または症状の治癒、軽減または制御といった特定の薬理学的効果を達成するために、局所または全身に送達される、所望を達成し、効果を発揮するのに十分な活性物質の量である。
【0025】
剥離強度(peel adhesion)は皮膚からパッチを取り除くための力を指し、快適さと患者が痛みを感じるかどうかを反映する。
【0026】
接着力(adhesion)は、感圧接着剤と貼り付け部位の皮膚との間の力を反映するものであり、着用中にパッチが外れるかどうかを決定するものである。
【0027】
凝集力(cohesion)は、高分子マトリックス内の相互作用力を反映するものであり、凝集力が小さすぎると、高分子マトリックスが貼り付け部位において糸引きや残留という現象を引き起こすことになる。
【0028】
せん断強度(shear resistance)は、貼り付け部位の皮膚表面でのパッチの滑りの程度を反映するものであり、皮膚の柔らかい部分では、より大きいせん断強度が必要となる。
【0029】
一般的に、パッチは、コロイドの接着力、凝集力、剥離強度、及び、せん断強度等の特性のバランスをとる必要がある。医療用パッチの場合、テープを剥がした後に残留物がないように、十分な大きさの凝集力が必要である。コロイドのせん断力を増加させると、接着力と剥離強度が低下してしまう。上記の感圧接着剤の異なる特性のバランスにおいて、各特性は実は相互に依存しているため、他の特性に影響を与えることなく、または感圧接着剤の接着システム全体の性能を損なうことなく、凝集力または接着力だけを改善することを達成することは非常に困難である。感圧接着剤の場合、上記の4つの性質に加えて、その自身の適切な透明度と抗酸化能を実現する必要もある。
【0030】
増粘作用:経皮薬物送達システムにおける感圧接着剤を含む高分子マトリックスに、1種の物質を添加した後、高分子マトリックスの流動性および粘度が増加し、感圧接着剤の全体的な性能が変化することを指す。イブプロフェンは、高分子マトリックスに添加された後、増粘作用を有する。
【0031】
経皮吸収促進剤:高分子マトリックス中の活性成分の皮膚への拡散を促進できる物質である。一般的に、高分子マトリックスに混和でき、高分子マトリックス中に均一に分散する。
【0032】
コールドフロー(cold flow):高分子マトリックス層の接着力が凝集力よりも大きく、粘弾性クリープが発生し、パッチシステムの不安定性と安全問題を引き起こすことを指し、着用中に患者に黒い円が生じ、保管中に保護層や包装容器に付着する場合がある。
【0033】
活性成分であるイブプロフェンまたはその構造類似体:
イブプロフェンは、化学名が2-(4-イソブチルフェニル)プロピオン酸であり、分子式がC13H18O2であり、分子量が206.3であり、融点範囲が74.5~77.5℃である、白色の結晶性粉末であり、化学構造は下記の通りである。
【0034】
【0035】
イブプロフェンは、RとSの2つの光学異性体を持つキラル薬物であり、in vitro研究では、S異性体のみがプロスタグランジンの合成を阻害する効果があることが示されているが、in vitroで活性を持たないR異性体は、生体内でほとんどS異性体に変換する。したがって、本発明で使用されるイブプロフェンは、R異性体またはS異性体であっても良く、両者の混合物であっても良く、またはイブプロフェンのラセミ体であっても良い。イブプロフェン自身がカルボキシル基を有し、水素結合供与体でも水素結合受容体でもあるため、高分子マトリックス内の関連成分と相互作用することが期待できる。さらに、イブプロフェン自身の薬効が弱いため、治療効果のある血中薬物濃度を達成するために、多くの用量を送達する必要があり、したがって、経皮薬物送達システムにおいて高い薬物負荷が必要とされる。しかし、その自身の性質の制限により、一般的なパッチの高分子マトリックス、特に感圧接着剤高分子マトリックスシステムへの溶解度が比較的小さいため、イブプロフェンの再結晶のリスクは高くなりやすく、パッチの保存と使用に影響を与える。本発明の目的の1つは、十分な量のイブプロフェンが負荷され、かつ、当該イブプロフェンが高分子マトリックスにおいて均一に分散し、長期にわたって保存しても再結晶しない経皮薬物送達システムを提供することである。
【0036】
以下の表の化合物は、構造がイブプロフェンと類似しており、イブプロフェンと類似の特性および機能を有し、本発明の目的を達成することもできる。
【0037】
【0038】
アミノ化合物:
如何なる理論とも関係せず、イブプロフェンまたはその構造類似体は、それ自身が有するカルボキシル基により、高分子マトリックス成分と相互作用し、それの高分子マトリックスにおける拡散速度を影響するとともに、皮膚、特に角質層とも相互作用し、イブプロフェンまたはその構造類似体の体内への拡散を影響する。全体的な作用により、イブプロフェンまたはその構造類似体の拡散速度が妨げられ、規定の時間範囲内に治療量のイブプロフェンまたはその構造類似体を送達することを達成できなくなる。一般的に、中性分子は、それ自身が中性であるにせよ、酸または塩基と塩を形成する方法といった他の手段によってその性質を中性に調節したにせよ、活性成分と高分子マトリックスおよび皮膚の角質層との相互作用を低減し、活性成分の受動拡散の速度を高める目的を達成できるとされている。文献ACS Med.Chem.Lett.(2017),8:498-503とDrug Deliv.And Transl.Res.(2018)8:64-72では、カウンターイオンを利用して塩を形成するという概念、そして、カウンターイオンの相互作用によって極性化合物の経皮拡散能力を高めることが報告されている。ただし、カウンターイオンのスクリーニングおよび拡散能力の変化の程度には、現在、十分な理論的な裏付けがなく、依然として大量の実験によりスクリーニングおよび検証を行う必要がある。
【0039】
本発明は、驚くべきことに、大量の実験を通じて、少なくとも1つのアミノ基を含む化合物を添加することにより、規定の時間範囲内で連続かつ制御可能にイブプロフェンを安定して放出できることを発見した。如何なる理論とも関係せず、一部がアミノ化合物と塩を形成するイブプロフェンの高分子マトリックスにおける流れが増加し、皮膚表面との相互作用が減少する。イブプロフェンとアミノ化合物との塩形成は可逆的であり、皮膚表面に濃度勾配が存在する場合、高濃度のイブプロフェン-アミノ化合物塩がイブプロフェンを放出し、拡散作用によって角質層に入り、次に循環系に入る。拡散の速度は、イブプロフェン-アミノ化合物塩の濃度に関連し、イブプロフェンとアミノ化合物の含有量とモル比を制御することにより、所望の使用時間範囲での継続かつ制御可能な投与を達成し、治療効果のある血中薬物濃度に到達することが期待できる。
【0040】
本発明はさらに驚くべきことに、活性成分であるイブプロフェンが前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物と塩を形成した後(すなわち、イブプロフェン-アミノ化合物塩を形成した後)、前記塩の融点が遊離イブプロフェンと比較して大幅に低下し、ひいては室温でも液体であり、そのため、高分子マトリックスに均一に分散でき、長期にわたって保存する場合でも、再結晶しないことを見出した。他方、本発明は、イブプロフェンの高用量投与の要求を満たすために、高分子マトリックスにおけるイブプロフェンの薬物負荷およびイブプロフェンの飽和度を、比較的広い範囲内で調整できることを見出した。
【0041】
上記の研究に基づいて、本発明は、第一、イブプロフェンまたはその構造類似体を含む経皮吸収パッチを提供し、前記パッチは裏打ち層、保護層、及び、裏打ち層と保護層との間に配置される高分子マトリックス層を含む。前記高分子マトリックス層は、活性成分と、少なくとも1つのアミノ基を含む化合物と、感圧接着剤とを含有する。前記活性成分は、イブプロフェンまたはその構造類似体であり、前記イブプロフェン構造類似体は、ナプロキセン(Naproxen)、フェノプロフェン(Fenoprofen)、ケトプロフェン(Ketoprofen)、フルルビプロフェン(Flurbiprofen)、ロキソプロフェン(Loxoprofen)を含み、それらのいずれか1種又は複数種から選択されるものであってもよい。
【0042】
さらに、前記高分子マトリックス層において、活性成分の全部または一部は、前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物と塩を形成する。形成された活性成分-アミノ化合物塩の全部または一部(即ち、イブプロフェン-アミノ化合物塩、又はイブプロフェン構造類似体-アミノ化合物塩)及び遊離活性成分の全部または一部は、高分子マトリックスに均一に溶解されたまま、使用されるまでに再結晶することなく、安定して保管できる。
【0043】
さらに、形成される前記活性成分-アミノ化合物塩の融点は、イブプロフェンまたはそれに対応する構造類似体の融点より低い。
【0044】
さらに、高分子マトリックス層中の前記活性成分と、前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物中のアミノ基とのモル比は、約12:1~約1:1であり、約10:1~約1.5:1を含み、例えば、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1.5:1である。研究により、前記活性成分と前記アミノ化合物のアミノ基とのモル比が15:1を超えると、イブプロフェンまたはその構造類似体の経皮薬物送達系における経皮透過効率が低下し、送達能力が治療効果の要求を達成できないとともに、イブプロフェンまたはその構造類似体に対する高分子マトリックスの薬物負荷能力の低下につながること、そして、モル比が1:1未満の場合、形成される活性成分-アミノ化合物塩の融点が低下するか、もしくは、室温で液体であり、それにより、高分子マトリックスのコロイダル性能が低下し、特に、コロイドの凝集力が低下し、パッチの貼り付け後、貼り付け部位において糸引き、コロイドが皮膚に残留してしまうなどの深刻な問題を引き起こすことが見出された。
【0045】
さらに、前記パッチの高分子マトリックス層において、前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物の重量含有量(前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物の重量と高分子マトリックス層との乾燥重量比を指す)は、約1%~約15%であり、約2%~約12%を含み、例えば、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%である。
【0046】
前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物は、好ましくは脂肪族アミンであり、鎖状アミンまたは環状アミンであってもよい。前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物は、第一級アミン、第二級アミンまたは第三級アミンであってもよい。前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物は、1~4個のアミノ基を含んでもよく、例えば、1つのアミノ基を有してもよく、2つのアミノ基を有してもよく、3つのアミノ基を有してもよく、4つのアミノ基を有してもよい。前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物は、エタノールアミン(Am_1)、ジエタノールアミン(Am_2)、トリエタノールアミン(Am_3)、ジエチルアミン(Am_4)、トリエチルアミン(Am_5)、プロピレンジアミン(Am_6)、N-エチルモルホリン(Am_7)、N-エチルピペリジン(Am_8)、N-エチルピペラジン(Am_9)、N-ヒドロキシエチルピペリジン(Am_10)、N-ヒドロキシエチルピロール(Am_11)、ジメチルプロピレンジアミン(Am_12)、テトラメチルプロピレンジアミン(Am_13)、N-ドデシルピロール(Am_14)、トリヘキシルアミン(Am_15)、N-ドデシルホモピペリジン(Am_16)、2-ピリジンメタノール(Am_17)、エチレンジアミン(Am_18)、テトラメチルエチレンジアミン(Am_19)、スペルミジン(Am_20)、スペルミン(Am_21)、サイクレン(Am_22)、3-(ピペラジン-1-イル)プロパン-1,2-ジオール(Am_23)、N-ヒドロキシエチルピペラジン(Am_24)、N-メチルモルホリン(Am_25)、トリエチレンジアミン(Am_26)、トリス(2-アミノエチル)アミン(Am_27)、2-ピペラジノン(Am_28)、3-アミノピペリジン(Am_29)、1,3-シクロヘキサンビスメタンアミン(Am_30)、プロピレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル(Am_31)、エチレングリコールビス(3-アミノエチル)エーテル(Am_32)等の1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。
【0047】
前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物のいずれの化学名と化学構造が一致していない場合、次の化学式の構造に準じる。
【0048】
【0049】
本発明に記載のパッチにおいて、高分子マトリックスに添加される活性成分(即ち、イブプロフェンまたはその構造類似体)の量は、達成すべく治療効果およびパッチの貼り付け時間の範囲に応じて変化する。活性成分が受動拡散によって、パッチから皮膚へ入り込むことは、経皮吸収の速度を決定するステップであるため、この方法で必要な最小投与量は、パッチの貼り付け期間において治療効果を達成できる最小有効濃度に依存し、本発明に記載のパッチは、一般的に12~24時間使用されるので、いくつかの実施例では、本発明は、12~24時間で治療量を継続かつ制御可能に送達できる。いくつかの実施例では、前記パッチの高分子マトリックス層中の前記活性成分の重量含有量(活性成分の重量と高分子マトリックス層との乾燥重量比を指す)は、約15%~約45%であり、約20%~約40%を含み、例えば約20%~約35%であり、さらに好ましい範囲は約25%~約35%である。いくつかの特別な実施例では、高分子マトリックス層中の前記活性成分の重量含有量は25%であり、いくつかの特別な実施例では、高分子マトリックス層中の前記活性成分の重量含有量は30%であり、いくつかの特別な実施例では、高分子マトリックス層中の前記活性成分の重量含有量は35%である。
【0050】
前記パッチの高分子マトリックス層における感圧接着剤:
上記のように、本発明に記載のパッチの高分子マトリックス層は、少なくとも1種の薬学的に経皮薬物送達システムに適している感圧接着剤を含み、具体的には、アクリル酸に基づくポリマーまたはポリシリコーンポリマー、もしくはそれらの組成物、又はそれらの複合物から選択してもよい。
【0051】
いくつかの実施例では、高分子マトリックスは、アクリル酸系ポリマーを含む。アクリル酸重合体は、重合する際に選択されるモノマーによって異なり、アクリル酸重合体は、任意のホモポリマー、コポリマー、ターポリマー及び異なるアクリル酸のポリマーであってもよい。含まれる官能基の違いにより、非官能化アクリル酸感圧接着剤および官能化アクリル酸感圧接着剤であってもよい。
【0052】
非官能化アクリル酸感圧接着剤は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基などの官能基を含まないか、または実質的に含まない任意のアクリル酸ポリマーを含み、ポリアクリレートおよびポリアクリルアミドまたは対応するメタクリル酸誘導体を含む。官能化アクリル酸感圧接着剤は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基などの化学的活性を有する基を含む。
【0053】
いくつかの実施例において、添加される活性成分(すなわち、イブプロフェンまたはその構造類似体)の量および送達すべく治療量に応じて、アクリル酸ポリマーの種類および使用量も異なる。いくつかの例において、アクリル酸感圧接着剤は、高分子マトリックスの乾燥重量の約40%~約80%、好ましくは45%~約75%、例えば、約45%~約70%を占め、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%を含む。いくつかの特別な実施例では、官能化アクリル酸感圧接着剤を選択でき、いくつかの特別な実施例では、非官能化アクリル酸、又は両者の組成物を選択でき、具体的な割合は、パッチの性能要求に応じて確定し、従来の実験に従ってスクリーニングすることができる。官能基を含まないアクリル酸感圧接着剤が好ましい。また、官能化アクリル酸感圧接着剤と非官能化アクリル酸を混合して使用する場合、非官能化アクリル酸がより大きな割合を占めることが好ましい。
【0054】
購入により入手できるポリアクリル酸感圧接着剤として、ヘンケル(Henkel)社のDuro-Takといった製品があり、例えば、Duro-Tak 87-900A、Duro-Tak 87-9900、Duro-Tak 87-9301(非架橋、酢酸ビニル-アクリル酸感圧接着剤を含まず、官能基なし)、Duro-Tak 87-4098(非架橋酢酸ビニル-アクリル酸感圧接着剤、官能基なし)、Duro-Tak 87-2287(非架橋酢酸ビニル-アクリル酸感圧接着剤、官能基としてヒドロキシル基を有する)、Duro-Tak 87-2852(架橋アクリル酸感圧接着剤、官能基としてカルボキシル基を有する)、Duro-Tak 87-2196(架橋アクリル酸感圧接着剤、官能基としてカルボキシル基を有する)、Duro-Tak 87-2296(架橋アクリル酸感圧接着剤、官能基としてカルボキシル基を有する)、Duro-Tak 87-2194(架橋アクリル酸感圧接着剤、官能基としてカルボキシル基を有する)、Duro-Tak 87-2516(架橋アクリル酸感圧接着剤、官能基としてカルボキシル基を有する)、Duro-Tak 87-2070(架橋アクリル酸感圧接着剤、官能基としてカルボキシル基を有する)、Duro-Tak 87-2353(非架橋アクリル酸感圧接着剤、官能基としてカルボキシル基を有する)、Duro-Tak 87-2154(架橋アクリル酸感圧接着剤、官能基としてカルボキシル基を有する)、Duro-Tak 87-2510(非架橋アクリル酸感圧接着剤、官能基としてヒドロキシル基を有する)がある。製品情報の詳細については、専門書Handbook of Pressure Sensitive Adhesive echnology,第2版,著者Donatas Satas,出版社:New York:Van Nostrand Reinhold,1989;及びTechnology of Pressure-Sensitive Adhesives and Process,編集長Istvan Benedek,Mikhail M Feldstein,出版社:CRC press,2009を参照できる。
【0055】
いくつかの実施例では、高分子マトリックスにおいて、ポリシリコーン系高分子感圧接着剤を含むことがある。ポリシリコーン感圧接着剤は、薬物拡散速度が早いが、活性成分であるイブプロフェンまたはその構造類似体に対する溶解性が低く、そして、アクリル酸感圧接着剤と相溶しないため、第1の複合層において単独で使用されない。いくつかの特別な実施例では、少なくとも1種のポリアクリル酸系感圧接着剤と併用する。いくつかの特別な実施例では、ポリシリコーン感圧接着剤が高分子マトリックスにおいて占める乾燥重量比は、約0%~約10%であり、好ましくは約1%~約5%であり、約1.5%、約2%、約2.5%、約3%、約3.5%、約4%、約4.5%、約5%を含む。
【0056】
いくつかの特別な実施例では、高分子マトリックスは、ポリシリコーン系高分子感圧接着剤と、ポリアクリル酸系高分子感圧接着剤との複合物を含む。シリコーン重合体は、比較的早い薬物拡散速度を有し、皮膚を刺激せず、化学的安定性に優れ、アクリル酸感圧接着剤は、溶解性が高い。しかしながら、2種類のコロイドの性質が大きく異なるため、通常の物理的混合では懸濁液しか形成できず、ポリシリコーン接着剤の使用量が制限される。本発明では、化学的手段を用いてポリシリコーン系感圧接着剤とポリアクリル酸系感圧接着剤を架橋して形成される新型のポリシリコーン-ポリアクリル酸複合高分子感圧接着剤を使用し、前記複合感圧接着剤は、アクリル酸感圧接着剤とポリシリコーン感圧接着剤の性質のバランスをとりつつ、均一に混合され均一相を形成できる。いくつかの例では、ポリシリコーン-ポリアクリル酸複合高分子の高分子マトリックスにおける重量比は、約40%~80%であり、好ましくは約45%~75%であり、約45%、約50%、55%、60%を含む。
【0057】
購入により入手できるポリシリコーン感圧接着剤として、ダウコーニング(Dow-Corning)社の商品、例えばDow Corning(登録商標)7-6102 SilAc Hybrid PSA;Dow Corning(登録商標)7-6302 SilAc Hybrid PSA;及びBio-PSAの製品、例えばBio-PSA 7-4502、Bio-PSA 7-4602、Bio-PSA 7-4302およびBio-PSA 7-4102がある。
【0058】
さらに、前記イブプロフェンまたはその構造類似体を含む経皮吸収パッチの高分子マトリックス層には、薬学的に使用し得る助剤が含まれてもよい。
【0059】
前記パッチの高分子マトリックス層における充填剤:
上記のように、イブプロフェン自身及び前記イブプロフェン-アミノ化合物塩がいずれも高分子マトリックスに対して増粘作用を有するため、高分子マトリックスの凝集力が低下し、皮膚のパッチを貼り付けた箇所に、深刻な糸引きと残留が生じ、パッチのコロイダル特性が、着用の要求を満すか否かは、本発明を開発するときに、もう一つの深刻なチャレンジとなる。本発明は、驚くべきことに、大量の実験を通じて、薬学的に許容される充填剤を添加することで、活性成分であるイブプロフェンの全体的な経皮浸透速度を低下させることなく、コロイダル特性の問題を改善または解決できることを発見した。
【0060】
本発明は、適切な量の充填剤を添加すると、高分子マトリックスの全体的な凝集力が高くなり、それにより、貼り付け後の高分子マトリックスの皮膚表面における糸引きおよび残留の発生などの問題が減少するが、凝集力が高くなるとともに、接着力と剥離強度が低下することを発見した。如何なる理論とも関係せず、感圧接着剤の凝集力、接着力、剥離強度、及びせん断強度が相互に依存し、いずれの特性が変化すると、他の特性も変化するため、他の特性を影響することなく、又は、感圧接着剤の接着システム全体の機械的特性を損なうことなく、凝集力または接着力のみを向上させることを達成するのは困難である。凝集力は、対応する接着力の変化に伴って変化し、この変化により、充填剤の添加によってイブプロフェンとアミノ化合物を含む高分子マトリックスのコロイダル特性を調節することができ、また、適切な凝集力を有することで貼り付け後にコロイドの糸引きや残留がないように保持でき、そして、接着力、剥離強度、せん断強度を許容されるものにすることができる。
【0061】
いくつかの実施例では、高分子マトリックス層には、充填剤が含まれる。前記充填剤の平均粒子サイズは、約300メッシュ~約5000メッシュであり、約500メッシュ~約3000メッシュを含む。前記充填剤の表面積は、約1.5m2/g~約15m2/gであり、約3m2/g~約10m2/g、約4m2/g~約7m2/gを含む。前記充填剤は、タルク、ベントナイト、カオリン、コロイダルシリカ、モンモリロナイト等のいずれか1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。
【0062】
さらなる研究により、前記高分子マトリックス層中の充填剤が金属酸化物(例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなど)であってはならず、無機塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムなど)であってもならないことが見出された。これは、これらの充填剤が、イブプロフェンまたはその構造類似体の透過率を大幅に低下させるためである。
【0063】
いくつかの実施例では、高分子マトリックスに含まれる充填剤の量は、乾燥高分子マトリックスの総重量の約0.5%~約10%を占め、好ましい範囲は約1%~約10%であり、さらに好ましい範囲は約2%~約8%であり、例えば、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%である。活性成分の拡散速度を影響することなく、コロイドの機械的特性を精確に調節して着用要求を満すために、添加される充填剤の具体的な量は、高分子マトリックス中の前記活性成分とアミノ含有化合物の量、および使用される感圧接着剤の種類、性質、ならびに割合に応じて総合的に決定する必要がある。
【0064】
前記パッチの高分子マトリックス層における酸化防止剤:
いくつかの実施例では、高分子マトリックス層には、酸化防止剤も含まれる。前記酸化防止剤には、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、tert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ビタミンC、ビタミンE、アスコルビン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、d-α-トコフェリルポリエチレングリコールコハク酸(TPGS)、パルミチン酸L-アスコルビルおよびこれらの酸化防止剤の混合物が含まれる。高分子マトリックス中の酸化防止剤の含有量は、乾燥マトリックスの総重量の約0.1%~約1%を占め、好ましくは、約0.1%~約0.5%を占める。
【0065】
経皮吸収促進剤:
本発明は、経皮吸收システムで一般的に使用される経皮吸収促進剤が、本システムにおいて期待の拡散速度を速める効果を発揮できず、むしろ、異なる経皮吸収促進剤を添加した後、いくつかの特別な実施例において経皮吸収促進速度が基本的に変化せず、又はいくつかの特別な実施例において、逆にイブプロフェンまたはその構造類似体の経皮吸収速度が阻害されることを意外に発見した。前記経皮吸収促進剤には、例えば、プロピレングリコール、PEG600、オリーブオイル、スクアレン、シリコーンオイル、ミネラルオイル、オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸セチル、プロピレングリコールモノカプリレート、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、オレイン酸エチル、オレイン酸ポリエチレングリコールグリセリル、尿素、アゾン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセリン等、異なるメカニズムを有する異なる種類の経皮吸収促進剤が含まれるが、これらに限定されない。前記経皮吸収促進剤は、いくつかの実施例において単独でまたは組み合わせて使用される。高分子マトリックス中の経皮吸収促進剤の含有量は、乾燥高分子マトリックスの総重量の約0.5%~約5%、好ましくは、約1%~約5%、例えば約1%、約2%、約2.5%、約3%を占める。経皮吸収促進剤は、基本的に液体または油状物質であるため、本発明に記載の高分子マトリックスに添加されると、マトリックスの流動性がさらに高まり、如何なる理論とも関係せず、この場合、何らかの理由で流れが困難になることがある。したがって、経皮吸収促進剤は、本発明に記載のイブプロフェンまたはその構造類似体の経皮薬物送達系の経皮透過効率に寄与作用がなく、そのため、本発明は、経皮吸収促進剤を加える必要がない。
【0066】
本発明に記載のパッチは、高分子マトリックスの乾燥重量の約15%~45%を占める活性成分(即ち、イブプロフェンまたはその構造類似体)、及び一部または全部が塩の形成に使用されるアミノ化合物を含み、イブプロフェンまたはその構造類似体の拡散速度、高い薬物負荷および安定性の問題の解決に成功した。
【0067】
具体的には、本発明に記載のパッチの高分子マトリックス層において、前記活性成分(即ち、イブプロフェンまたはその構造類似体)の重量含有量は約15%~約45%であり、前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物の重量含有量は、約1%~約15%である;前記活性成分と前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物におけるアミノ基とのモル比は、約12:1~約1:1である;前記活性成分は、前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物の全部または一部と、塩を形成する。前記活性成分は、高分子マトリックスに均一に分散または溶解し、長期にわたって安定して保存でき、イブプロフェンまたはその構造類似体は再結晶しない。そのため、少なくとも12~24時間で治療量を継続かつ安定して送達できる。
【0068】
いくつかの実施例では、本発明のパッチは、血中薬物濃度を8時間継続的に増加させ、次の4時間で安定して低下させ、12時間の安定した臨床効果を達成できる。
【0069】
第2の複合層:
前記活性成分(即ち、イブプロフェンまたはその構造類似体)及び前記活性成分-アミノ化合物塩の高分子マトリックスに対する協同的な増粘作用により、高分子マトリックスの全体的な凝集力が低下し、パッチの貼り付け後、皮膚に深刻な糸引きと残留という問題が生じ、患者のパッチ着用に対するコンプライアンスを深刻に影響し、長期間着用する場合、滑ったり脱落したりする恐れがある。本発明は、固体充填剤を添加することにより、高分子マトリックスの凝集力を制御し、前記活性成分及び前記活性成分-アミノ化合物塩の増粘作用による皮膚への残留との問題を解決する。ただし、充填剤の添加により、凝集力が最適化されるとともに、接着力が失われてしまう。一方、パッチに遍在しているコールドフロー(cold flow)現象により、パッチの貼り付け後、パッチの周囲に残ったコロイドが環境におけるほこりと混ざり合って黒い円を形成するという結果が生じ、使用の安全性と患者のコンプライアンスを影響してしまう。したがって、本発明の解決しようとするもう一つの課題は、良好な着用性能を満たすことであり、12~24時間の使用中にパッチを安全かつ快適に着用できることである。
【0070】
上記の課題を解決するために、本発明は、また、上記イブプロフェンまたはその構造類似体を含む経皮吸収パッチ(「第1の複合層」と称してもよい)を含み、さらに第2の複合層を含む、イブプロフェンまたはその構造類似体を含む多層経皮薬物送達システムを提供する。
【0071】
前記第2の複合層は、裏打ち層、保護層、及び、裏打ち層と保護層との間に配置される高分子マトリックス層を含み、前記高分子マトリックス層は、感圧接着剤を含む。
【0072】
本発明は、第2の複合層のような多層構造の設計を追加することにより、上記の問題を大幅に軽減または回避できることを意外に発見し、着用要求を満たすイブプロフェン経皮薬物送達システムを提供する。本発明の多層経皮薬物送達システムは、性能が良好であり、着用要求を満たし、貼り付け中に滑ったり残したりすることがなく、剥離時に皮膚を損傷せず、また、パッチは保管および使用期間における安全性が良好であり、患者の着用に対するコンプライアンスが良好である。
【0073】
第2の複合層の役割は、着用要求を満たすイブプロフェンまたはその構造類似体の経皮薬物送達システムを提供することである。前記第2の複合層の裏打ち層及び保護層以外の、2つの層の間に配置される高分子マトリックス層は、感圧接着剤を含み、薬学的に許容される助剤を含んでもよく、及び/又は、更に前記活性成分(即ち、イブプロフェンまたはその構造類似体)もしくはその他の活性成分を含んでもよい。第2の複合層の高分子マトリックス層がイブプロフェン等の活性成分を含むかどうかは、上記第1の複合層の高分子マトリックス層のコールドフロー問題を解決することに実質的な影響を及ぼさない。第2の複合層の高分子マトリックス層にイブプロフェン等の活性成分を添加するかどうかは、実際の需要に応じて決定できる。さらなる研究により、前記第2の複合層の高分子マトリックス層に、イブプロフェンまたはその構造類似体が含まれる場合、その含有量が高すぎてはならず、15%を超えると、上記のコールドフロー問題を解決できないことが見出された。したがって、前記第2の複合層の高分子マトリックス層中のイブプロフェンまたはその構造類似体の重量含有量は、15%以下であってもよく、例えば10%以下、8%以下、又は5%以下である。
【0074】
いくつかの実施例では、前記第2の複合層の高分子マトリックス層は、少なくとも薬学的に許容されるポリアクリル酸感圧接着剤、ポリシリコーン感圧接着剤、ゴムのいずれか一種、又はそれらの2種または2種以上の混合物を含む。いくつかの特別な実施例では、感圧接着剤は、スチレン-イソブチレン-スチレン(SIS、styrene-isobutylene-styrene)ブロック重合体であってもよい。いくつかの実施例では、高分子マトリックスは、薬学的に許容される他の助剤、例えば酸化防止剤、可塑剤、充填剤などを含んでも良い。
【0075】
上記のように、本発明は、第2の複合層の使用により、イブプロフェンまたはその構造類似体の経皮薬物送達システムに望ましい着用性能を付与でき、12~24時間の使用範囲内に望ましい送達用量を達成できることを発見した。
【0076】
使用する前に、前記イブプロフェンまたはその構造類似体を含む独立の経皮吸収パッチと、前記第2の複合層とを組み合わせることで、本発明に記載の多層イブプロフェン経皮薬物送達システムを形成する。
【0077】
例えば、前記イブプロフェンまたはその構造類似体を含む多層経皮薬物送達システムは、使用前に第2の複合層の保護層を剥がし、前記イブプロフェンまたはその構造類似体を含む経皮吸収パッチの裏打ち層に貼り付け、更に前記経皮吸収パッチの保護層を剥がし、投与部位(例えば、患者の皮膚)に貼り付けてもよい。あるいは、最初に前記経皮吸収パッチの保護層を剥がし、投与部位(例えば、患者の皮膚)に貼り付け、更に第2の複合層の保護層を剥がし、前記経皮吸収パッチの裏打ち層に貼り付けてもよい。上記の2つの方法は、使用効果に違いがない。
【0078】
本発明のイブプロフェンまたはその構造類似体の経皮薬物送達システムは、経皮吸収促進剤を使用することなく、12~24時間の使用期間内に、治療量を継続かつ制御可能に送達でき、臨床使用の需要を満たすことができる。
【0079】
いくつかの特別な実施例では、本発明のパッチは、血中薬物濃度を16時間継続的に増加させ、次の8時間で安定して低下させ、24時間の安定した臨床効果を達成できる。したがって、本発明は、経皮吸収促進剤を使用することなく、治療効果の要求に応じて、治療量のイブプロフェンまたはその構造類似体を12~24時間送達できる。
【0080】
本発明は、解熱に適用でき、例えば、6ヶ月から36ヶ月までの小児の高熱の解熱に適用できる。本発明は、鎮痛にも使用でき、例えば、局所的な痛みの鎮痛に使用できる。
【0081】
いくつかの実施例では、前記イブプロフェンまたはその構造類似体を含む経皮吸収パッチ及び/又は第2の複合層における乾燥高分子マトリックス層の厚さが、約10μm~約120μmであり、好ましくは約15μm~約80μmである。
【0082】
好ましくは、前記第2の複合層の周辺部の幅は、前記イブプロフェンまたはその構造類似体を含む経皮吸収パッチの周辺部の幅よりわずかに広く、より好ましくは、約0.5cm~約1.0cm広い。
【0083】
さらに、前記経皮吸収パッチ及び/又は第2の複合層における高分子マトリックス層はいずれも単層構造である。
【0084】
いくつかの実施例では、本発明に記載の経皮吸収パッチ及び第2の複合層はいずれも、一つの単独の裏打ち層および保護層を含む。前記裏打ち層の一方の面は高分子マトリックス層に直接接続され、使用時に、マトリックス層を周囲の環境との接触から保護し、薬物の損失を防ぐ作用を果たす。裏打ち層の材料は、一般的に、ポリエステル、ポリエステルと酢酸ビニルの複合フィルム、ポリエチレンと酢酸ビニルの複合フィルム、ポリウレタン、金属アルミニウムをライナーとしたポリエステルといった金属箔、不織布などを含む。厚さは、一般的に約20~250μmであり、好ましくは20~100μmであり、例えば、3M社のScotchPakTM1109、ScotchPakTM9733、又は3M社のCotranTM9720、CotranTM9722がある。前記離型フィルムは、高分子マトリックス層の他方の面に接続され、離型フィルムの材料は、一般的に、ポリエステル、ポリプロピレンなどを含み、表面には、一般的に、フッ化物のコーティング層がある。厚さは、一般的に約50~100μmであり、好ましくは60~80μmであり、例えば、3M社のScotchPakTM9744、ScotchPakTM9755がある。
【0085】
本発明に記載の経皮吸収パッチと第2の複合層は、別々に製造できる。前記イブプロフェンまたはその構造類似体を含む経皮吸収パッチについて、まず、経皮薬物送達システムにおける高分子マトリックス部分を製造し、処方に基づいて計算した量の前記活性成分、感圧接着剤、アミノ化合物、又は更なる充填剤と酸化剤等を含む助剤を、適切な有機溶媒に加え、均一に攪拌した後、室温で保護層(離型フィルム)に塗布してから、塗布済の高分子マトリックスを一定の温度で乾燥させて有機溶媒を除去し、最後に裏打ち層と複合する。必要に応じて、所望の仕様に打ち抜くか、あるいはダイシングする。
【0086】
前記有機溶媒は、イブプロフェンまたはその構造類似体、感圧接着剤及びアミノ化合物を溶解できる溶剤であり、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、アセトニトリル、アセトンなどを含む。
【0087】
なお、上記のイブプロフェンまたはその構造類似体を含む経皮吸収パッチの製造に係る順番、添加される各成分の量、撹拌時間および速度等のパラメーターは、要求される最終的な使用目的に応じて異なる。前記パラメーターは、必要に応じて調整できる。
【0088】
本発明に係る製造方法については、開示された文献の方法を参照することができる。例えば、文献に報告されている従来の方法により、高分子マトリックスを離型フィルムに塗布してから、裏打ち層と複合して経皮薬物送達システムを形成し、最後に使用の必要に応じて異なる仕様に作成する。一般的な塗布方法は、溶液塗布である。いくつかの実施例では、すべての成分を混合して高分子マトリックスを製造し、次に製造された高分子マトリックスを離型フィルムに塗布して、約35~50℃に置いて溶媒を除去した後、裏打ち層と複合する。前記活性成分と固体充填剤は、必要に応じて任意の段階で添加しても良い。いくつかの実施例では、最初に高分子感圧接着剤、アミノ化合物を有機溶媒に溶解し、均一に攪拌した後、前記活性成分を添加し、すべてが溶解するまで攪拌し、最後に固体充填剤を添加する。いくつかの実施例では、まず、イブプロフェンまたはその構造類似体を有機溶媒に溶解し、その後、高分子感圧接着剤とアミノ化合物をこの順に添加し、上記混合物を均一に攪拌した後、固体充填剤を添加し、均一に分散するまで攪拌する。添加される前記成分の量、添加の順番、および攪拌時間は、当業者が実験を通じて決定できるものであり、例示的な製造方法は以下の通りである。
【0089】
ステップ(1):まず、計算された量の高分子感圧接着剤を測り、適切な有機溶剤に添加し、攪拌時間は、均一に混合されたかどうかに応じて決定し、一般的には約15分~30分である。次に、攪拌しながら、アミノ化合物と酸化防止剤を加え、すべてが溶解するまで攪拌する。続いて、前記活性成分をバッチで添加し、撹拌によって徐々に溶解させた後、すべての活性成分が添加されて溶解するまで、次のバッチの活性成分を添加する。最後に、固体充填剤を加え、すべてが均一に分散するまで攪拌する。
【0090】
ステップ(2):ステップ(1)で調製された混合溶液を離型フィルムに塗布し、塗布の厚さは、最終的な臨床使用の需要により決定される。
【0091】
ステップ(3):排気機能付きのオーブンにより35~50℃で5~15分間乾燥させ、有機溶剤を除去する。
【0092】
ステップ(4):乾燥した製品と選択された適切な裏打ちフィルムとを複合する。
【0093】
ステップ(5):使用の需要に応じて適切な仕様に打ち抜くか、あるいはダイシングする。
【0094】
パッチの一般的な製造方法に基づく場合、文献で報告された他の方法もまた、本発明のパッチの製造に使用できる。
【0095】
本発明に記載の第2の複合層は、上記の経皮吸収パッチの製造方法を参照して製造できる。
【0096】
いくつかの実施例では、本発明に記載のパッチの高分子マトリックスに含まれる前記活性成分(即ち、イブプロフェンまたはその構造類似体)の含有量の範囲は、約0.8mg/cm2~約4.0mg/cm2であり、約1.2mg/cm2~約3.2mg/cm2、約1.5mg/cm2~約2.9mg/cm2を含み、例えば、約1.6mg/cm2、約1.9mg/cm2、約2.2mg/cm2、約2.3mg/cm2、約2.4mg/cm2、約2.6mg/cm2、約2.9mg/cm2である。貼り付けの時間範囲で達成する必要のある血中薬物濃度に応じて、本発明に記載のパッチの投与面積は、約10cm2~約150cm2であり、約20cm2~約120cm2を含み、例えば、20cm2、30cm2、40cm2、50cm2、60cm2、70cm2、80cm2である。いくつかの特別な実施例では、本発明のパッチは、血中薬物濃度を8時間継続的に増加させ、次の4時間で安定して低下させ、12時間の安定した臨床効果を達成できる。いくつかの特別な実施例では、本発明のパッチは、血中薬物濃度を16時間継続的に増加させ、次の8時間で安定して低下させ、24時間の安定した臨床効果を達成できる。したがって、本発明は、治療効果の要求に応じて、治療量のイブプロフェンまたはその構造類似体を12~24時間で送達できる。
【0097】
いくつかの実施例では、本発明は解熱に適用され、例えば、6ヶ月から36ヶ月までの小児の高熱の解熱に適用される。いくつかの実施例では、本発明は鎮痛にも使用され、例えば、局所的な痛みの鎮痛に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【
図1】実験例1の安定性実験の結果を示す図である。
【
図2】実験例2のin vitro放出実験の結果を示す図である。
【
図3】実験例3のin vitro皮膚透過実験の結果を示す図である。
【
図4】実験例4のヒト血中薬物濃度実験の結果を示す図である。
【
図5】実験例5のラットの発熱惹起-解熱実験の結果を示す図である。
【
図6】本発明のイブプロフェンを含む経皮吸収パッチの概略構造図(
図6A)、及び第2の複合層の概略構造図(
図6B)である。
【発明を実施するための形態】
【0099】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するためのものではない。実施例において、具体的な技術や条件が特に明記されていないものは、当分野の文献に記載の技術や条件に準じて、又は、製品の取り扱い説明書に準じて行う。用いられるメーカーが特に明記されていない試薬や機器は、いずれも正式な販売経路を通じて購入できる通常の製品である。
【0100】
以下の実施例において、Dow Corning(登録商標)7-6102は、アクリル酸感圧接着剤とポリシリコーン感圧接着剤との複合物である。Duro-tack-4098は、アクリル酸と酢酸ビニルの共重合体である感圧接着剤であり、官能基がなく、架橋剤もない。Duro-tack-2074は、アクリル酸感圧接着剤であり、カルボキシル基とヒドロキシル基という官能基を備え、架橋剤を備える。Duro-tack-6908は、ポリイソブチレン感圧接着剤であり、官能基がなく、架橋剤もない。Bio-PSA-7-4302は、ポリシリコーン感圧接着剤である。tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール(BHA)は、酸化防止剤である。
【実施例】
【0101】
実施例1
イブプロフェンを含有する経皮吸収パッチであり、当該パッチは、高分子マトリックス層を含み、前記高分子マトリックス層は、活性成分であるイブプロフェンと、少なくとも1つのアミノ基を含む化合物と、感圧接着剤とを含む;前記高分子マトリックス層において、イブプロフェンの全部または一部が、前記少なくとも1つのアミノ基を含む化合物と塩を形成し、形成されたイブプロフェン-アミノ化合物塩の全部または一部、及び、遊離イブプロフェンの全部または一部は、高分子マトリックスに均一に溶解されたまま、使用されるまでに再結晶することなく、安定して保管できる。
【0102】
更に、本実施例の経皮吸収パッチは、さらに、裏打ち層と保護層を含み、前記高分子マトリックス層は、裏打ち層と保護層の間に配置されている。
【0103】
本実施例において、高分子マトリックス層におけるイブプロフェンの重量含有量は35%である;感圧接着剤の重量含有量は54%(ただし、Duro-tack-4098の重量含有量は50%であり、Bio-PSA-7-4302の重量含有量は4%である)である;1つのアミノ基を含む化合物(具体的には、Am_25)の重量含有量は5%である;なお、薬学的に許容される助剤(例えば、タルク、コロイダルシリカ、モンモリロナイト、ビタミンE等)を含んでもよい。
【0104】
本実施例は、また、下記のステップを含む当該経皮吸収パッチの製造方法を提供する。即ち、まず、計算された量の高分子感圧接着剤を測り、適量な酢酸エチルに添加した後、攪拌しながら、アミノ化合物、又は更に酸化防止剤(例えばビタミンE)等の助剤を加え、攪拌時間は、均一に混合されているかにより決定され、一般的には約15分~30分である。すべてが溶解するまでに攪拌した後、活性成分であるイブプロフェンをバッチで添加し、撹拌によって徐々に溶解させた後、すべてのイブプロフェンが添加されて溶解するまで、次のバッチのイブプロフェンを添加する。最後に、固体充填剤を加え、すべてが均一に分散するまで攪拌する。調製された高分子マトリックスを離型フィルムに塗布し、塗布の厚さは、最終的な臨床使用の需要により決定される。塗布された高分子マトリックスを、排気機能付きのオーブンにより35~50℃で5分~15分間乾燥させ、有機溶剤を除去する。その後、乾燥した製品と適切な裏打ちフィルムとを複合する。最後に、使用の需要に応じて適切な仕様に打ち抜くか、あるいはダイシングし、包装して製品とする。
【0105】
典型的なイブプロフェンを含む経皮吸収パッチの高分子マトリックス層の配合(実施例1-10)を、表1(製造方法は実施例1を参照できる)に示す。
【0106】
【0107】
比較例1 イブプロフェンを含む経皮吸収パッチであり、その高分子マトリックス層の配合は表1が示すとおりであり、製造方法は実施例1を参照した。
【0108】
実施例11-21
異なる種類の経皮吸収促進剤を含むイブプロフェンの経皮吸収パッチの高分子マトリックス層の配合(即ち、実施例11-21)、及び、その透過効率の変化を表2(製造方法は実施例1を参照できる)に示す。
【0109】
【0110】
表2の結果から、異なる種類の経皮吸収促進剤を添加しても、透過効率が実質的に増加しておらず、ほとんどの場合、逆に透過速度が妨げられたことが分かる。したがって、本発明は、経皮吸収促進剤を添加する必要がない。
【0111】
実施例22
イブプロフェンを含む多層経皮薬物送達システムであり、当該システムは、イブプロフェンを含む経皮吸収パッチ(第1の複合層と略称する)を含み、更に第2の複合層を含有する。前記第2の複合層は、裏打ち層、保護層、及び、裏打ち層と保護層との間に配置される高分子マトリックス層を含む。その中、前記イブプロフェンを含む経皮吸収パッチ(即ち、第1の複合層)は、実施例1~21のイブプロフェンを含む経皮吸収パッチから任意に選択できる。
【0112】
前記第2の複合層の高分子マトリックス層は、感圧接着剤及び薬学的に許容される助剤を含み、更に、イブプロフェン等の活性成分を含んでもよい。前記第2の複合層の高分子マトリックス層にイブプロフェンが含まれる場合、その重量含有量は、15%以下、例えば10%以下、8%以下、又は5%以下である。
【0113】
前記第2の複合層は、実施例1のイブプロフェンを含む経皮吸収パッチの製造方法を参照して製造できる。
【0114】
典型的な第2の複合層の高分子マトリックス層の配合(即ち、実施例22~26)を表3に示す。
【0115】
【0116】
実施例27
実施例1のイブプロフェンを含む経皮吸収パッチの概略構造図を
図6Aに示し、実施例22の第2の複合層の概略構造図を
図6Bに示す。両者は、イブプロフェンを含む多層経皮薬物送達システム10を構成する。
【0117】
イブプロフェンを含む経皮吸収パッチ100と第2の複合層200は、使用前に各々独立しており、それぞれ、裏打ち層、保護層、および2つの層の間に配置される高分子マトリックス層を含む。
【0118】
イブプロフェンを含む経皮吸収パッチ100について、その裏打ち層110の内面150は、高分子マトリックス層120の一方の面に直接貼合され、裏打ち層110の他方の面140は、環境に曝され、高分子マトリックス120を保護する作用を果たし、保護層130の内面160は、高分子マトリックス層120の他方の面に貼合され、高分子マトリックス120は、使用前に、保護層130と裏打ち層110との間に配置される。
【0119】
第2の複合層200について、裏打ち層210の内面250は、高分子マトリックス層220の一方の面に直接貼合され、裏打ち層210の他方の面240は、環境に曝され、高分子マトリックス220を保護する作用を果たし、保護層230の内面260は、高分子マトリックス220の他方の面に貼合され、高分子マトリックス層220は、使用前に、保護層210と裏打ち層230との間に配置される。
使用中、最初にイブプロフェンを含む経皮吸収パッチ100の保護層130を剥がし、患者の皮膚に貼り付け、次に第2の複合層200の保護層230を剥がし、第1の複合層100が完全に覆われるよう、第2の複合層200で第1の複合層100を覆う。前記第2の複合層は、イブプロフェンを含む経皮吸収パッチの周囲よりも0.5~1.0cm広い。
【0120】
使用中、最初にイブプロフェンを含む経皮吸収パッチ100の保護層160を剥がし、患者の皮膚に貼り付け、次に第2の複合層200の保護層260を剥がし、第1の複合層100が完全に覆われるよう、第2の複合層200で第1の複合層100を覆う。前記第2の複合層は、イブプロフェンを含む経皮吸収パッチの周囲よりも0.5~1.0cm広い。
【0121】
実験例1 安定性実験
比較例1と実施例1のパッチを同じ保管条件(30±2℃,60%±10%RH)に置いて、電子顕微鏡で定期的に観察して、観察結果を
図1に示した。
【0122】
継続的な観察結果は、アミノ化合物が添加されていない場合、比較例1において、活性成分が1週目に高分子マトリックスから析出し、明らかな結晶が観察されたことを示している。実施例1の場合、12ヶ月の観察期間内に変化が見られておらず、イブプロフェンが接着性マトリックスに均一に分散し、異なる倍率の光学顕微鏡を用いても結晶が観察されず、結晶現象も観察されていなく、これはパッチの安定性が良好であることを表している。
【0123】
実験例2 in vitro放出実験
in vitro放出は、活性成分と高分子マトリックスにおける他の成分との相互作用を反映する、パッチの基本的な性能の指標の一つである。高分子マトリックスの全体的な性能、イブプロフェンと高分子化合物とその他の成分との間の相互作用、例えば水素結合、イオンペア、ファンデルワールス力などが、イブプロフェンの高分子マトリックスにおける流動挙動の相違をもたらす。in vitro放出は、経皮吸収の基礎であり、適切な放出能力のみが特定の経皮吸収の要求を満足できる。
【0124】
PBSを溶出媒質とし、温度32℃、50rpm/分で、溶出試験法(中国薬典2015年版第4部通則0931第4の方法-パドルオーバーディスク法)に準じて操作し、それぞれ、0.3h、0.5h、0.7h、1.0h、1.5h、2.0h、3.0h、6.0h、9.0h、12.0h、18.0h、及び、24.0hに、10mlのサンプルを採取して、濾過した;適量のイブプロフェン対照物質を別途精密に計量し、溶出媒質で溶解させ、対照溶液として適切な濃度の溶液を調製した。
【0125】
オクタデシルシラン結合シリカゲルを充填剤とし、メタノール-リン酸塩水溶液(40mmol/Lリン酸二水素カリウム水溶液、pH=2.50になるようリン酸で調整されたもの)(77:23)を移動相とし、検出波長を225nmとし、カラム温度を50℃とし、イブプロフェンによって計算された理論段数は、2000以上である。HPLC法(中国薬典2015年版第4部通則0512)に準じて測定した。
【0126】
結果を
図2に示した。結果は、実施例1、2、4、5がいずれも速い放出挙動を有し、最初の2時間でほぼ完全に放出されたことを示している。前記放出挙動は、経皮吸収の要求を完全に満たしており、全体的な経皮吸収挙動を妨げることはなかった。
【0127】
実験例3 in vitro皮膚透過実験
in vitro皮膚透過実験は、フランツ縦型拡散セルによって測定を行った。健康な成豚の耳の皮膚から、使用される皮膚として、標準的な熱分離法に従って、ブタの耳の皮膚のキューティクルを得た。レセプター液はpH7.4のPBS溶液であり、レセプターセルの容量は7mLであり、設定温度は32±0.1℃であり、攪拌速度は300rpm/分であった。それぞれ、1h、2h、3h、4h、5h、6h、8h、10h、12h、及び、24hに、サンプルを毎回3mL採取し、その後、等温のブランクレセプター液を補充添加した。群毎に、平行に、6つのサンプルとするとともに、平行に、一つのブランクを対照とした。結果に基づいて各時点での累積透過量を計算した。
【0128】
結果を
図3に示した。結果は、24時間の実験範囲内で、本発明のパッチが放出速度および放出の総量を調節できるため、使用の需要に応じて治療量のイブプロフェンを送達できることを示した。
【0129】
実験例4 健康なボランティアにおけるヒト血中薬物濃度実験
年齢24.6±2.5(22~30)歳、体重61.2±2.8(58~65)kgの健康な成人男性12名を選択し、被験者は、薬物アレルギー歴がなく、過去2週間に薬物を使用していなかった。実験中に他の薬を服用することが禁じられ、実験中の飲食を統一した。対照薬としてフェンビッド(登録商標)(400mg/イブプロフェン徐放性カプセル、ロット番号:17090198)を選択し、被験者に1カプセルを経口摂取してもらった。実施例3および6を選択し、各自の下腹部に貼り付けた。被験者12名をランダムに3つの群に分け、群あたり4名とした。第1の群は、フェンビッド(登録商標)を経口投与し、第2の群は、実施例3を貼り付け、第3の群は、実施例6を貼り付けた。
【0130】
採血方法:上肢の静脈から採血し;それぞれ、0h;0.25h;0.5h;1h;2h;3h;6h;9h;12hに採血し、毎回の採血量を5mLとした。
【0131】
検出方法:HPLC法;
【0132】
クロマトグラフィー条件:
カラム:C18;150*4.6mm;5um;移動相:5.4g/Lリン酸二水素カリウム水溶液(pH=2.50となるようリン酸で調整されたもの):メタノール=30:70;カラム温度:50oC;流速:1.0mL/min;検出波長:225nm;注入量:20ul;溶離方式:等濃度溶出;注入方式:自動注入。
【0133】
サンプル処理方式:タンパク質沈殿法(0.2mlの血清に0.2mlのアセトニトリルを加え、ボルテックスで均一に混合し、10000r/minで15分遠心し、上清を採取した)。
【0134】
具体的な結果を
図4に示した。結果は、フェンビッド(登録商標)徐放性カプセルと比べて、本発明のパッチが、血中薬物濃度を8時間継続的に増加させ、次の4時間で安定して低減させ、12時間の安定した臨床効果を達成できること、そして、血中薬物濃度を15時間継続的に増加させ、次の8時間で安定して低減させ、24時間の安定した臨床効果も達成できることを示した。したがって、本発明のパッチは、治療効果の要求に従って、治療量のイブプロフェンを12~24時間内に送達できる。
【0135】
実験例5 ラット発熱惹起-解熱実験
動物:ウィスターラット、オス、体重300g±20g、5つの群に分けた(群あたりのラットを4匹とした)。そのうち、1つの群は実施例1のパッチを貼り付けるために使用され、3つの群は異なる用量のメリルリンチTM(それぞれ5mg、10mg、及び20mg)を強制経口投与するために使用され、1つの群は発熱後のブランク対照として使用された。
【0136】
発熱惹起方法:首の後ろに乾燥酵母溶液を皮下注射した(300gあたり4mlの30%乾燥酵母溶液を注射した);
【0137】
温度測定方法:肛門深さ3cm、電子体温計、並行して2回測定し、平均値を取った(2回の測定結果の偏差は±0.1℃を超えなかった)
【0138】
シェービング方法:麻酔後、まず電気シェーバーでほとんどの毛を取り除き、次に脱毛クリームを均一に塗布し、3分後に水で洗い流した。
【0139】
投与方法:
パッチ群では、実施例1のパッチをラットの腹部に貼り付け、ガーゼで固定した。
【0140】
【0141】
経口投与群では、各群の動物にメリルリンチTM(Johnson&Johnson K.K.、濃度20mg/ml;製造ロット番号:171101428)5mg、10mg、20mgを強制経口投与した。
【0142】
具体的な結果を
図5に示した。結果は、メリルリンチ
TMを経口投与した場合の比較的短い解熱効果と比べて、本発明のパッチが、長期間にわたって安定した解熱効果を有し、解熱効果が安定しており、持続時間が長いことを示した。
【0143】
実験例6 貼り付け実験
健康成人被験者を選択し、上腕の内側に貼り付け、皮膚における残留とコールドフロー現象を調べた。
【0144】
群分けをし、次のように実験を行った。
(1)実施例2、4および6のイブプロフェンを含む経皮吸収パッチをそれぞれ単独で使用。方法:まず保護層を取り除き、次にボランティアの上腕の内側に貼り付けた。
(2)第2の複合層を単独で使用(マトリックスの配合は実施例22と同じである)。方法:まず保護層を取り除き、次にボランティアの上腕の内側に貼り付けた。
(3)イブプロフェンを含む多層経皮薬物送達システムを使用:実施例2、4、6のイブプロフェンを含む経皮吸収パッチをそれぞれ第1の複合層として、第2の複合層(マトリックスの配合は実施例22と同じである)と併用。併用方法:第2の複合層の保護層を剥がし、それぞれ第1の複合層としての実施例2、4、6の経皮吸収パッチの裏打ち層に貼り付けた後、前記経皮吸収パッチの保護層を剥がし、上腕の内側に貼り付けた。
【0145】
上記の各群について、それぞれ4h、8h、12h、及び、24hにパッチを除去し、貼り付け部位における残留状態とコールドフローの程度を観察して、観察結果を表4に示した。
【0146】
【0147】
観察結果から、本発明のパッチがほとんど残留がないことが明らかになった。第2の複合層がない場合、実施例4および実施例6のように、明確なコールドフロー現象が観察されたが、組み合わて使用する場合、コールドフロー現象が解消された。
【0148】
以上、イブプロフェンを活性成分として関連実験を行ったが、構造、特性および機能が類似しているため、当業者は、イブプロフェン構造類似体であるナプロキセン(Naproxen)、フェノプロフェン(Fenoprofen)、ケトプロフェン(Ketoprofen)、フルルビプロフェン(Flurbiprofen)、ロキソプロフェン(Loxoprofen)も基本的に同じ機能を実現し、基本的に同じ技術的相関関係を達成できると予測できる。文章の長さの制限により、関連実験を挙げることができなかった。
【0149】
上記において、一般的な説明及び具体的な実施形態で本発明を詳しく説明したが、本発明に基づき、いくつかの補正や改善を行い得ることは、当業者にとって明らかである。従って、本発明の趣旨から逸脱しない範疇で行われるこれらの補正や改善は、いずれも本発明の保護しようとする範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明は、イブプロフェンまたはその構造類似体を含む多層経皮薬物送達システムを提供する。前記多層経皮薬物送達システムは、イブプロフェンまたはその構造類似体を含む経皮吸収パッチと、第2の複合層とを含む。前記経皮吸収パッチは、活性成分と、少なくとも1つのアミノ基を含む化合物と、感圧接着剤とを含有する、高分子マトリックス層を含む。前記高分子マトリックス層で形成された活性成分-アミノ化合物塩の全部または一部、及び、遊離活性成分の全部または一部は、高分子マトリックスに均一に溶解されたまま、使用されるまでに再結晶することなく、安定して保管できる。本発明は、同時に、経皮薬物送達システムの製造方法及びその使用方法を提供する。本発明の経皮薬物送達システムは、経皮吸収促進剤の非存在下で、12~24時間の範囲内で、治療量のイブプロフェンまたはその構造類似体を継続かつ制御可能に送達できる。本発明の経皮薬物送達システムは、着用能が優れ、コールドフロー現象が回避され、より良好な経済的価値および使用の見通しを有する。