(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】定着部材、定着装置、及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20230926BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230926BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20230926BHJP
C25D 5/56 20060101ALI20230926BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20230926BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
G03G15/20 515
C23C28/00 A
C25D5/12
C25D5/56 Z
F16C13/00 A
F16C13/00 B
B32B15/08 E
(21)【出願番号】P 2019172757
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕祐
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 友子
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 智丈
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀明
(72)【発明者】
【氏名】吉川 亮平
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-173344(JP,A)
【文献】特開2018-004902(JP,A)
【文献】特開2004-068148(JP,A)
【文献】特開2009-025565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
C23C 28/00
C25D 5/12
C25D 5/56
F16C 13/00
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む基材層と、
前記基材層の外周面上に設けられ、Cuを含む第1の金属層と、
前記第1の金属層の外周面上に前記第1の金属層と接して設けられ、Niを含む第2の金属層であって、前記第2の金属層の平均結晶粒径が0.15μm以上0.19μm以下である第2の金属層と、
前記第2の金属層の外周面上に設けられた弾性層と、
を備え
、
前記第1の金属層の平均結晶粒径に対する前記第2の金属層の平均結晶粒径の比(Ni/Cu)は、0.05以上1.90以下である、定着部材。
【請求項2】
前記第2の金属層の平均結晶粒径が0.16μm以上0.18μm以下である請求項1に記載の定着部材。
【請求項3】
前記第1の金属層の平均結晶粒径が0.10μm以上3.10μm以下である請求項1又は請求項2に記載の定着部材。
【請求項4】
前記第1の金属層の平均結晶粒径が0.10μm以上1.90μm以下である請求項3に記載の定着部材。
【請求項5】
前記第2の金属層を面方向と垂直に切断した断面において、面方向における結晶粒の平均長さは、厚み方向における結晶粒の平均長さよりも長い請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の定着部材。
【請求項6】
前記面方向における結晶粒の平均長さは、前記厚み方向における結晶粒の平均長さの1.01倍以上1.25倍以下である請求項
5に記載の定着部材。
【請求項7】
前記第2の金属層の厚みが5μm以上30μm以下である請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の定着部材。
【請求項8】
前記第2の金属層の厚みが7μm以上15μm以下である請求項
7に記載の定着部材。
【請求項9】
前記基材層の厚みが50μm以上90μm以下である請求項1~請求項
8のいずれか1項に記載の定着部材。
【請求項10】
前記第2の金属層の厚みに対する前記基材層の厚みの比は、3以上13以下である請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載の定着部材。
【請求項11】
請求項1~請求項
10のいずれか1項に記載の定着部材と、
前記定着部材の外周面を加圧する加圧部材と、
前記定着部材が備える前記第1の金属層を電磁誘導によって発熱させる電磁誘導装置と、
を有し、
未定着のトナー像が表面に形成された記録媒体を前記定着部材と前記加圧部材とで挟み込んで前記トナー像を前記記録媒体に定着させる定着装置。
【請求項12】
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電させる帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
前記像保持体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記像保持体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
前記トナー像を前記記録媒体に定着させる請求項
11に記載の定着装置と、
を有する画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着部材、定着装置、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「少なくとも離型層と、電鋳ニッケルからなる金属層とを有する定着ベルトであって、前記電鋳ニッケルの結晶組織において、結晶子の平均サイズが0.05μm以上0.2μm以下であることを特徴とする定着ベルト」が開示されている。
【0003】
特許文献2には、「銅又は銅合金からなる基材の上に、ニッケル又はニッケル合金層、銅錫合金層、錫層がこの順に積層されてなる錫めっき付銅端子材であって、前記錫層は、平均厚みが0.2μm以上1.2μm以下であり、前記銅錫合金層は、Cu6Sn5を主成分とし、該Cu6Sn5の銅の一部がニッケルに置換した化合物合金層であり、平均結晶粒径が0.2μm以上1.5μm以下であり、一部が前記錫層の表面に露出しており、前記錫層の表面に露出する前記銅錫合金層の露出面積率が1%以上60%以下であり、前記ニッケル又はニッケル合金層は、その平均厚みが0.05μm以上1.0μm以下であり、平均結晶粒径が0.01μm以上0.5μm以下であり、結晶粒径の標準偏差/平均結晶粒径が1.0以下であり、前記銅錫合金層と接する面の算術平均粗さRaが0.005μm以上0.5μm以下であり、表面の動摩擦係数が0.3以下であることを特徴とする錫めっき付銅端子材」が開示されている。
【0004】
特許文献3には、「銅又は銅合金からなる基材の上にニッケルまたはニッケル合金からなるニッケル層が積層されており、前記ニッケル層は、結晶粒径が0.02μm以上0.3μm以下で厚みが0.1μm以上5.0μm以下であることを特徴とするめっき付銅端子材」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-068148号公報
【文献】特開2018-115361号公報
【文献】特開2017-150055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電磁誘導加熱方式の定着装置では、例えば、樹脂を含む基材層と金属層と弾性層とを有する定着部材を用い、電磁誘導装置によって前記金属層を加熱する。そして、加熱された定着部材と加圧部材とで、未定着のトナー像が表面に形成された記録媒体を挟みこむことで、トナー像を記録媒体に定着させる。
上記電磁誘導加熱方式の定着装置では、省エネ等の観点から、電磁誘導装置による加熱を開始してから定着部材が目的の温度に達するまでの時間(以下「暖機運転時間」ともいう)を短縮することが望まれている。
また、樹脂を含む基材層と金属層と弾性層とを有する定着部材を画像形成装置の定着装置内で長期間使用すると、定着部材に応力がかかって繰り返し屈曲することによって、金属層に割れが生じてしまうことがある。
【0007】
本発明の課題は、基材層と第1の金属層と第2の金属層と弾性層とを有し、第2の金属層の平均結晶粒径が0.15μm未満又は0.19μm超えの場合に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0009】
<1>
樹脂を含む基材層と、
前記基材層の外周面上に設けられ、Cuを含む第1の金属層と、
前記第1の金属層の外周面上に前記第1の金属層と接して設けられ、Niを含む第2の金属層であって、前記第2の金属層の平均結晶粒径が0.15μm以上0.19μm以下である第2の金属層と、
前記第2の金属層の外周面上に設けられた弾性層と、
を備えた定着部材。
<2>
前記第2の金属層の平均結晶粒径が0.16μm以上0.18μm以下である<1>に記載の定着部材。
【0010】
<3>
前記第1の金属層の平均結晶粒径が0.10μm以上3.10μm以下である<1>又は<2>に記載の定着部材。
<4>
前記第1の金属層の平均結晶粒径が0.10μm以上1.90μm以下である<3>に記載の定着部材。
<5>
前記第1の金属層の平均結晶粒径に対する前記第2の金属層の平均結晶粒径の比(Ni/Cu)は、0.05以上1.90以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載の定着部材。
【0011】
<6>
前記第2の金属層を面方向と垂直に切断した断面において、面方向における結晶粒の平均長さは、厚み方向における結晶粒の平均長さよりも長い<1>~<5>のいずれか1つに記載の定着部材。
<7>
前記面方向における結晶粒の平均長さは、前記厚み方向における結晶粒の平均長さの1.01倍以上1.25倍以下である<6>に記載の定着部材。
<8>
前記第2の金属層の厚みが5μm以上30μm以下である<1>~<7>のいずれか1つに記載の定着部材。
<9>
前記第2の金属層の厚みが7μm以上15μm以下である<8>に記載の定着部材。
<10>
前記基材層の厚みが50μm以上90μm以下である<1>~<9>のいずれか1つに記載の定着部材。
<11>
前記第2の金属層の厚みに対する前記基材層の厚みの比は、3以上13以下である<1>~<10>のいずれか1つに記載の定着部材。
【0012】
<12>
<1>~<11>のいずれか1つに記載の定着部材と、
前記定着部材の外周面を加圧する加圧部材と、
前記定着部材が備える前記第1の金属層を電磁誘導によって発熱させる電磁誘導装置と、
を有し、
未定着のトナー像が表面に形成された記録媒体を前記定着部材と前記加圧部材とで挟み込んで前記トナー像を前記記録媒体に定着させる定着装置。
【0013】
<13>
像保持体と、
前記像保持体の表面を帯電させる帯電装置と、
帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、
前記像保持体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記像保持体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
前記トナー像を前記記録媒体に定着させる<12>に記載の定着装置と、
を有する画像形成装置。
【発明の効果】
【0014】
<1>に係る発明によれば、基材層と第1の金属層と第2の金属層と弾性層とを有し、第2の金属層の平均結晶粒径が0.15μm未満又は0.19μm超えの場合に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材が提供される。
<2>に係る発明によれば、第2の金属層の平均結晶粒径が0.16μm未満又は0.18μm超えの場合に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材が提供される。
【0015】
<3>に係る発明によれば、第1の金属層の平均結晶粒径が0.10μm未満又は3.10μm超えの場合に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材が提供される。
<4>に係る発明によれば、第1の金属層の平均結晶粒径が0.10μm未満又は1.90μm超えの場合に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材が提供される。
<5>に係る発明によれば、比(Ni/Cu)が0.05未満若しくは1.90超えの場合に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材が提供される。
【0016】
<6>に係る発明によれば、第2の金属層の面方向における結晶粒の平均長さが厚み方向における結晶粒の平均長さ以下である場合に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材が提供される。
<7>に係る発明によれば、第2の金属層の面方向における結晶粒の平均長さが厚み方向における結晶粒の平均長さの1.01倍未満又は1.25倍超えの場合に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材が提供される。
<8>に係る発明によれば、第2の金属層の厚みが5μm以上30μm以下であっても、第2の金属層の平均結晶粒径が0.15μm未満又は0.19μm超えの場合に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材が提供される。
<9>に係る発明によれば、第2の金属層の厚みが7μm以上15μm以下であっても、第2の金属層の平均結晶粒径が0.15μm未満又は0.19μm超えの場合に比べ、繰り返し屈曲による第2の金属層の割れが抑制される定着部材が提供される。
<10>に係る発明によれば、基材層の厚みが50μm未満又は90μm超えの場合に比べ、繰り返し屈曲による第2の金属層の割れが抑制される定着部材が提供される。
<11>に係る発明によれば、第2の金属層の厚みに対する基材層の厚みの比が3未満又は13超えの場合に比べ、繰り返し屈曲による第2の金属層の割れが抑制される定着部材が提供される。
【0017】
<12>に係る発明によれば、基材層と第1の金属層と第2の金属層と弾性層とを有し、第2の金属層の平均結晶粒径が0.15μm未満又は0.19μm超えである定着部材を適用した場合に比べ、暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着部材を有する定着装置が提供される。
<13>に係る発明によれば、基材層と第1の金属層と第2の金属層と弾性層とを有し、第2の金属層の平均結晶粒径が0.15μm未満又は0.19μm超えである定着部材を適用した場合に比べ、暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立される定着装置を有する画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る定着部材の一例における層構成を示す概略断面図である。
【
図2】本実施形態に係る定着装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0020】
[定着部材]
本実施形態に係る定着部材は、樹脂を含む基材層と、前記基材層の外周面上に設けられ、Cuを含む第1の金属層と、前記第1の金属層の外周面上に前記第1の金属層と接して設けられ、Niを含む第2の金属層であって、前記第2の金属層の平均結晶粒径が0.15μm以上0.19μm以下である第2の金属層と、前記第2の金属層の外周面上に設けられた弾性層と、を備える。
【0021】
電磁誘導加熱方式の定着装置では、例えば、樹脂を含む基材層と金属層と弾性層とを有する定着部材を用い、電磁誘導装置によって前記金属層を加熱する。そして、加熱された定着部材と加圧部材とで、未定着のトナー像が表面に形成された記録媒体を挟みこむことで、トナー像を記録媒体に定着させる。
上記電磁誘導加熱方式の定着装置では、電磁誘導装置による加熱を開始してから定着部材が目的の温度に達するまでに時間がかかり、省エネ等の観点から、この暖機運転時間を短縮することが望まれている。
【0022】
また、樹脂を含む基材層と金属層と弾性層とを有する定着部材は、例えば、定着装置内において加圧部材によって、外周面が加圧されながら回転することで、応力がかかり、繰り返し屈曲する。特に、定着部材が無端ベルト状であり、加圧部材との接触領域において定着部材が加圧部材の外周面にそって移動することで曲率が周期的に変動する場合、屈曲が繰り返されることによる金属層への負荷が大きくなると考えられる。そして、定着部材を画像形成装置の定着装置内で長期間使用すると、繰り返し屈曲によって、第2の金属層に割れ(以下「クラック」ともいう)が生じてしまうことがある。
【0023】
これに対して、本実施形態に係る定着部材は、Niを含む第2の金属層の平均結晶粒径が上記範囲であることにより、繰り返し屈曲による第2の金属層のクラックが抑制され、かつ、暖機運転時間が短縮される。そして、本実施形態に係る定着部材は、繰り返し屈曲による第2の金属層のクラックが抑制されることにより耐久性が高く、また時定数が小さいことにより暖機運転時間に加えて徐熱時間も短縮され、結果として省エネ性が高いと考えられる。
その理由は定かではないが、平均結晶粒径が前記範囲であることにより、前記範囲よりも大きい場合に比べ、局所的に結晶粒界に沿った割れが発生しても、割れの進行を妨げる障壁が多く割れが進みにくいため、結果として金属層のクラックが抑制されると推測される。また、平均結晶粒径が前記範囲であることにより、前記範囲よりも小さい場合に比べ、単結晶の大きさが大きくなることで、理想的な単結晶に近い状態となり、金属としての特性が優位となり、熱伝導性及び導電性が高くなるため、暖機運転時間が短縮されると推測される。したがって、本実施形態では、暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制とが両立されると推測される。
【0024】
ここで、各金属層における平均結晶粒径は、以下のようにして求める。
まず、測定対象の金属層を、外周面に垂直な方向に切断して断面を得る。得られた断面を、走査型電子顕微鏡(GeminiSEM 450 Zeiss製)により観察し、断面画像を得る。得られた断面画像を画像処理ソフトウェア(ImageJ)により解析して結晶粒を抽出し、抽出された結晶すべてに対してそれぞれ最大径を測定し、それらの個数平均値を「平均結晶粒径」とする。
【0025】
本実施形態に係る定着部材としては、例えば、無端ベルト状の管状体(以下、単に「無端ベルト」ともいう)が挙げられる。
以下、本実施形態に係る定着部材の一例として、無端ベルトの構成について、図を用いて説明する。
【0026】
図1は、無端ベルトの一例を示す概略構成図である。
図1に示すベルト10は、樹脂を含む基材層である基材10Aの外周面上に、金属層10Bと、接着剤層10Cと、弾性層10Dと、離型層10Eと、が順に積層された層構成を有する無端ベルトである。接着剤層10C及び離型層10Eは、必要に応じて設けられる層である。
また、金属層10Bは、下地金属層102、Cuを含む第1の金属層である電磁誘導金属層104、及びNiを含む第2の金属層である金属保護層106がこの順に積層されている。下地金属層102は必要に応じて設けられる層である。また、電磁誘導金属層104は、ベルト10を電磁誘導方式の定着装置に用いた場合、電磁誘導作用により自己発熱する層である。
【0027】
なお、本実施形態に係る無端ベルトとして、以下、
図1に示す構成のベルト10を例に挙げて説明するが、本実施形態はこの構造に限定されるものではなく、さらに他の層を有していてもよい。
なお、以下において、各層の符号は省略して説明する場合がある。
【0028】
<基材10A>
基材10Aは、少なくとも樹脂を含む層であれば特に限定されるものではない。
ベルト10を電磁誘導方式の定着装置に用いる場合、基材10Aは、金属層10Bが発熱した状態でも物性の変化が少なく、高強度を維持する層であることがよい。このため、基材10Aは、主として耐熱性樹脂から構成されることが好ましい(本明細書において、「主として」、「主成分」とは、質量比で50%以上であることを意味し、以下も同義である)。
【0029】
基材10Aを構成しうる樹脂としては、ポリイミド、芳香族ポリアミド、サーモトロピック液晶ポリマー等の液晶材料など、高耐熱かつ高強度の耐熱性樹脂等が挙げられ、これら以外にも、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリイミドアミド等が用いられる。これらの中でも、ポリイミドが好ましい。
また、樹脂中に断熱効果のある充填材を加えたり、樹脂を発泡させたりすることにより、断熱効果を更に向上させてもよい。
基材10A全体に対する樹脂の含有量としては、例えば50質量%以上が挙げられ、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、78質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0030】
基材10Aの厚みは、ベルトの長期に渡る繰り返しの周動搬送を実現する剛性と柔軟性とを両立させる観点から、10μm以上200μm以下の範囲が好ましく、30μm以上100μm以下の範囲がより好ましく、50μm以上90μm以下の範囲がさらに好ましい。
また、電磁誘導金属層104の厚みに対する基材10Aの厚み(すなわち、基材10Aの厚み/電磁誘導金属層104の厚み)は、繰り返し屈曲による電磁誘導金属層104の割れを抑制する観点から、1.7以上18以下であることが好ましく、3.0以上13以下であることがより好ましく、3.4以上12以下であることがさらに好ましい。
【0031】
金属層10Bの亀裂の発生を抑制する観点から、基材10Aの引張り強度は200MPa以上(より好ましくは250MPa以上)を満たすことが好ましい。基材の引張り強度は、樹脂の種類、充填材の種類及び添加量によって調整される。
なお、基材の引張り強度(MPa)は、基材を幅5mmの短冊形状に切り出し、これを引張試験機Model 1605N(アイコーエンジニアリング社製)に設置し、10mm/sec等速で引っ張った際の引張破断強度(MPa)にして測定される。
【0032】
なお、基材10Aの外周面は、下地金属層102を形成する際に金属粒子が付着し易いよう、表面粗さを予め粗くする処理(粗面化処理)が施されていてもよい。粗面化処理としては、例えば、アルミナ砥粒等を用いたサンドブラスト、切削、サンドペーパーがけ等が挙げられる。
【0033】
<下地金属層102>
下地金属層102は、基材10Aの外周面に電磁誘導金属層104を電解めっき法により形成するために予め形成される層であり、必要に応じて設けられる。電磁誘導金属層104の形成方法としては、コスト等の観点から電解めっき法が好ましいが、主に樹脂で構成される基材10Aを用いる場合は、直接電解めっきを行うことが困難である。そこで、電磁誘導金属層104形成のため、下地金属層102を設けることが好ましい。
【0034】
基材10Aの外周面に下地金属層102を形成する方法としては、無電解めっき法、スパッタリング法、蒸着法等が挙げられ、成膜の容易性の観点から化学めっき法(無電解めっき法)が好ましい。
下地金属層102としては、例えば、無電解ニッケルめっき層、無電解銅めっき層等が挙げられる。なお、「ニッケルめっき層」とは、Niを含むめっきの層(例えば、ニッケル層、ニッケル合金層等)であることを表し、「銅めっき層」とは、Cuを含むめっきの層(例えば、銅層、銅合金層等)であることを表す。
【0035】
下地金属層102の厚さは0.1μm以上5μm以下の範囲が好ましく、0.3μm以上3μm以下の範囲がより好ましい。
【0036】
なお、本実施形態に係るベルトを構成する各層の厚さは、ベルトの円筒体の周方向、軸方向について断面を作製し、走査型電子顕微鏡(日本電子社製「JSM6700F」)の加速電圧2.0kV、5000倍における観察像から膜厚を測定した値である。
【0037】
<電磁誘導金属層104>
電磁誘導金属層104は、少なくともCuを含む層であれば特に限定されるものではない。ベルト10を電磁誘導方式の定着装置に用いた場合、電磁誘導金属層104は、磁界が印加された際にこの層内に発生する渦電流により発熱する機能を有する発熱層となる。
電磁誘導金属層104は、Cuに加えて、例えば、ニッケル、鉄、金、銀、アルミニウム、クロム、錫、亜鉛等のCu以外の電磁誘導作用を生ずる金属を含んでもよい。ただし、電磁誘導金属層104は、銅又は銅を主成分とする合金の層であることが好ましく、電磁誘導金属層104全体に対するCuの含有量としては、例えば、80質量%以上が挙げられ、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0038】
電磁誘導金属層104は、周知の方法、例えば電解めっき法により形成される。
電磁誘導金属層104を電解めっき法により形成する場合、例えば、銅イオンを含むめっき液を準備し、下地金属層102が設けられた基材10Aをこのめっき液に浸漬して電解めっきを行う。上記めっき液は、光沢剤を含んでもよい。めっき液に光沢剤を添加することで、電磁誘導金属層104の結晶構造を制御しやすくなる。
電磁誘導金属層104を形成するためのめっき液に添加する光沢剤としては、例えば、KOTAC1、KOTAC2(以上、大和特殊株式会社製)、エレカッパー25MU、エレカッパー25A、トップルチナSF(以上、奥野製薬株式会社製)等が挙げられる。
【0039】
電磁誘導金属層104の平均結晶粒径は、0.10μm以上3.10μm以下であることが好ましく、1.10μm以上1.90μm以下であることがより好ましい。
電磁誘導金属層104の平均結晶粒径が上記範囲であり、かつ、金属保護層106の平均結晶粒径が0.15μm以上0.19μm以下であると、金属保護層106に加えて電磁誘導金属層104における割れも抑制されることから、結果として、繰り返し屈曲による金属層10B全体の割れが抑制され、かつ、定着装置の暖機運転時間がさらに短縮される。
電磁誘導金属層104の平均結晶粒径は、例えば電磁誘導金属層104を電解めっき処理により形成する場合、電解めっき液に添加する光沢剤の添加量(すなわち、電解めっき液全体に対する光沢剤の含有量)、電解めっき処理時における電解めっき液の温度、及びめっき電流密度を調整することにより制御される。
【0040】
電磁誘導金属層104の厚みは、ベルト10を電磁誘導方式の定着装置に用いた場合に効率的に発熱させる観点から、3μm以上50μm以下の範囲であることが好ましく、3μm以上30μm以下の範囲であることがより好ましく、5μm以上20μm以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0041】
<金属保護層106>
金属保護層106は、電磁誘導金属層104と接して設けられ、かつ、Niを含む金属層である。金属保護層106は、金属層10Bの膜強度を向上させ、繰り返しの変形による亀裂、長時間の繰り返し加熱による酸化劣化等を抑制し、発熱特性を維持する。
金属保護層106は、少なくともNiを含み、必要に応じて他の金属を含んでもよい。ただし、金属保護層106は、ニッケル又はニッケルを主成分とする合金の層であることが好ましく、金属保護層106全体に対するNiの含有量としては、例えば、80質量%以上が挙げられ、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0042】
金属保護層106は、薄膜での加工性も考慮した場合、電解めっき法で形成することが好ましい。
金属保護層106を電解めっき法により形成する場合、例えば、ニッケルイオンを含むめっき液を準備し、このめっき液に、下地金属層102及び電磁誘導金属層104を有する基材10Aを浸漬して電解めっきを行い、求められる厚さの電解めっき層を形成する。上記めっき液は、光沢剤を含んでもよい。めっき液に光沢剤を添加することで、金属保護層106の結晶構造を制御しやすくなる。
金属保護層106を形成するためのめっき液に添加する光沢剤としては、例えば、トップセリーナ95X、スーパーネオライト、スーパーゼナー、モノライト、トップルナー、トップレオナNL、アクナB-30、アクナB、ターボライト(以上、奥野製薬株式会社製)、#810、#81、#83、#81-J(以上、荏原ユージライト株式会社製)等が挙げられる。
【0043】
金属保護層106の平均結晶粒径は、0.15μm以上0.19μm以下であり、0.16μm以上0.18μm以下であることが好ましい。金属保護層106の平均結晶粒径が上記範囲であると、繰り返し屈曲による金属層10B全体の割れが抑制され、かつ、定着装置の暖機運転時間が短縮される。
また、耐クラック性の観点からは、金属保護層106の平均結晶粒径が0.16μm超え0.19μm以下の範囲であることが好ましく、0.17μm超え0.19μm以下の範囲であることがより好ましい。
金属保護層106の平均結晶粒径は、例えば金属保護層106を電解めっき法により形成する場合、電解めっき液に添加する光沢剤の添加量(すなわち、めっき液全体に対する光沢剤の含有量)、電解めっき処理時における電解めっき液の温度、及びめっき電流密度を調整することにより制御される。
【0044】
電磁誘導金属層104の平均結晶粒径に対する金属保護層106の平均結晶粒径の比(Ni/Cu)は、0.05以上1.90以下であることが好ましく、0.05以上1.80以下であることがより好ましく、0.08以上1.80以下であることがさらに好ましい。
比(Ni/Cu)が上記範囲であることにより、さらに、定着装置の暖機運転時間の短縮と繰り返し屈曲による金属層の割れの抑制とが両立される。
【0045】
金属保護層106を面方向と垂直に切断した断面において、面方向における結晶粒の平均長さが、厚み方向における結晶粒の平均長さよりも長いことが好ましい。面方向における結晶粒の平均長さが厚み方向における結晶粒の平均長さよりも長いことにより、さらに繰り返し屈曲による金属層の割れが抑制される。その理由は定かではないが、面方向における結晶粒の平均長さの方が長いことで、例えば結晶粒界において微細な割れが発生しても割れが進行しにくくなるからであると推測される。
金属層の割れをさらに抑制する観点から、金属保護層106を面方向と垂直に切断した断面において、面方向における結晶粒の平均長さは、厚み方向における結晶粒の平均長さの1.01倍以上1.25倍以下であることが好ましく、1.05倍以上1.25倍以下であることがより好ましく、1.10倍以上1.25倍以下であることがさらに好ましい。
【0046】
なお、上記厚み方向における結晶粒の平均長さ及び面方向における結晶粒の平均長さは、前記各金属層における平均結晶粒径を求める方法と同様にして測定対象の金属層の断面画像を得て、得られた断面画像から線分法により求める。
具体的には、厚み方向における結晶粒の平均長さを求める場合、金属層の厚み方向に延びる試験線(長さ2.0μm)を、0.10μmの間隔で10本引き、それらの試験線が結晶粒を分断する分断長さの平均値を「厚み方向における結晶粒の平均長さ」とする。また、面方向における結晶粒の平均長さを求める場合は、金属層の面方向に延びる試験線(長さ2.0μm)を、0.10μmの間隔で10本引き、それらの試験線が結晶粒を分断する分断長さの平均値を「面方向における結晶粒の平均長さ」とする。
【0047】
金属保護層106の厚みは、繰り返し屈曲による割れを抑制しつつ、柔軟性が得られ、膜自体の熱容量が大きくなりすぎず、ウォームアップ時間を短く抑える観点から、2μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、5μm以上30μm以下の範囲であることがより好ましく、5μm以上20μm以下の範囲であることがさらに好ましく、5μm以上15μm以下であることが特に好ましい。
【0048】
<接着剤層10C>
金属層10Bの外周表面を構成する層(
図1では金属保護層106)と弾性層10Dとの間には、両層の接着性を向上させる観点で、必要に応じて、接着剤層10Cを介在させてもよい。
【0049】
なお、熱伝導性等の観点から、接着剤層10Cは通常薄膜の層(例えば1μm以下)として設けられる。接着剤層10Cの厚さとしては、接着剤層の成形容易性の観点から、0.1μm以上1μm以下が好ましく、0.2μm以上0.5μm以下がより好ましい。
【0050】
接着剤層10Cに用いられる接着剤としては、隣接する金属層10Bが発熱した状態でも物性の変化が少なく、かつ外周表面側への伝熱性に優れるものが好ましい。具体的には、シランカップリング剤系接着剤、シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、及びウレタン樹脂系接着剤等が挙げられる。
【0051】
接着剤層10Cの形成は、公知の方法を適用すればよく、例えば接着層形成用塗布液を、塗布法によって金属層10B上に形成すればよい。接着層形成用塗布液の調製は、公知の方法で行えばよく、例えば、接着剤と、必要に応じて溶剤と、を混合し、攪拌することで、接着層形成用塗布液を調製すればよい。
具体的には、例えば、まず、接着層形成用塗布液を金属層10B上に塗布(例えば、フローコート法(螺旋巻き塗布)による塗布)して、必要に応じて、乾燥および加熱することで接着剤皮膜を形成する。上記乾燥における乾燥温度としては、例えば、10℃以上35℃以下が挙げられ、乾燥時間としては、例えば10分以上360分以下が挙げられる。また、上記加熱における加熱温度としては、100℃以上200℃以下の範囲が挙げられ、加熱時間としては、例えば10分以上360分以下が挙げられる。なお、加熱は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス等)雰囲気下で行ってもよい。
【0052】
<弾性層10D>
弾性層10Dは、弾性を有する層であればよく、特に限定されるものではない。
弾性層10Dは、定着部材への外周側からの加圧に対して弾性を付与する観点で設けられる層であり、例えば画像形成装置において定着ベルトとして用いられる場合、記録媒体上のトナー像の凹凸に追従して、定着部材の表面がトナー像に密着する役割を担う。
【0053】
弾性層10Dは、例えば、100Paの外力印加により変形させても、もとの形状に復元する弾性材料から構成されることがよい。
弾性層10Dに用いられる弾性材料としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フルオロシリコーンゴム等が挙げられる。弾性層の材質としては、耐熱性、熱伝導性、絶縁性等の観点から、シリコーンゴム及びフッ素ゴムが好ましく、シリコーンゴムがより好ましい。
【0054】
シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴム、液状シリコーンゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)等が挙げられる。
シリコーンゴムの市販品としては、例えば、ダウコーニング社製の液状シリコーンゴムSE6744等が挙げられる。
【0055】
シリコーンゴムとしては、架橋形態として付加反応型を主とするものが好ましい。また、シリコーンゴムは様々な種類の官能基が知られており、メチル基を有するジメチルシリコーンゴム、メチル基とフェニル基を有するメチルフェニルシリコーンゴム、ビニル基を有するビニルシリコーンゴム(ビニル基含有シリコーンゴム)などが好ましい。なお、ビニル基を有するビニルシリコーンゴムがより好ましく、さらにビニル基を有するオルガノポリシロキサン構造とケイ素原子に結合する水素原子(SiH)を有するハイドロジェンオルガノポリシロキサン構造とを有するシリコーンゴムが好ましい。
【0056】
フッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン/プロピレン系ゴム、四フッ化エチレン/パーフルオロメチルビニルエーテルゴム、フォスファゼン系ゴム、フルオロポリエーテル等が挙げられる。
フッ素ゴムの市販品としては、例えば、DuPont Dow elastmers社製のバイトンB-202等が挙げられる。
【0057】
弾性層10Dに用いられる弾性材料は、シリコーンゴムが主成分である(つまり質量比で50%以上含む)ことが好ましく、さらにその含有率は90質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0058】
弾性層10Dは、弾性材料のほか、補強、耐熱、及び伝熱等を目的として、無機系の充填剤を含んでもよい。無機系の充填剤としては、公知のものが挙げられ、例えば、煙霧状シリカ、結晶性シリカ、酸化鉄、アルミナ、金属珪素等が好ましく挙げられる。
無機系の充填剤の材質としては、上記のほか炭化物(例えば、カーボンブラック、カーボンファイバ、カーボンナノチューブ等)、酸化チタン、炭化ケイ素、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、黒鉛、窒化ケイ素、窒化ホウ素、酸化セリウム、炭酸マグネシウム等の周知の無機フィラーが挙げられる。
これらの中でも、熱伝導性の点からは、窒化ケイ素、炭化ケイ素、黒鉛、窒化ホウ素、炭化物が好ましい。
弾性層10Dにおける無機系の充填剤の含有量は、求められる熱伝導性、機械的強度等により決定されればよく、例えば、1質量%以上20質量%以下が挙げられ、3質量%以上15質量%以下が好ましく、5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0059】
また、弾性層10Dは、添加剤として、例えば、軟化剤(パラフィン系等)、加工助剤(ステアリン酸等)、老化防止剤(アミン系等)、加硫剤(硫黄、金属酸化物、過酸化物等)、機能性充填剤(アルミナ等)等が含んでいてもよい。
【0060】
弾性層10Dの厚みは、例えば、30μm以上600μm以下の範囲であることがよく、100μm以上500μm以下の範囲であることが好ましい。
【0061】
弾性層10Dの形成は、公知の方法を適用すればよく、例えば、塗布法によって接着剤層10C上に形成すればよい。
弾性層10Dの弾性材料としてシリコーンゴムを用いる場合、例えば、まず、加熱により硬化されてシリコーンゴムとなる液状シリコーンゴムを含む弾性層形成用塗布液を調製する。次に、接着層形成用塗布液の塗布及び乾燥により形成された接着剤皮膜上に、弾性層形成用塗布液を塗布(例えば、フローコート法(螺旋巻き塗布)による塗布)して弾性塗膜を形成し、例えば、必要に応じて弾性塗膜を加硫させることで、接着剤層上に弾性層が形成される。なお、加硫における加硫温度としては、例えば150℃以上250℃以下が挙げられ、加硫時間としては、例えば30分以上120分以下が挙げられる。
【0062】
<離型層10E>
離型層10Eは、記録媒体と接触する側の面(外周面)に、定着時に溶融状態のトナー像が固着するのを抑制する役割を担う層である。離型層は、必要に応じて設けられる。
【0063】
離型層10Eは、例えば耐熱性や離型性が求められる。この観点から、離型層を構成する材料には耐熱性離型材料を用いることが好ましく、具体的にはフッ素ゴム、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、耐熱性離型材料としては、フッ素樹脂がよい。
フッ素樹脂として、具体的には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、フッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。
【0064】
離型層の弾性層側の面には表面処理を施してもよい。表面処理としては、湿式処理であっても乾式処理であってもよく、例えば、液体アンモニア処理、エキシマレーザ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
【0065】
離型層10Eの厚さは、10μm以上100μm以下の範囲であることがよく、20μm以上50μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0066】
離型層10Eの形成は公知の方法を適用すればよく、例えば塗布法によって形成すればよい。
また、離型層10Eは、チューブ状の離型層を予め準備し、例えばチューブの内面に接着剤層を形成した上で、弾性層10Dの外周上に被覆させることで、離型層10Eを形成してもよい。
【0067】
<用途>
ベルト10は、例えば画像形成装置において好適に用いられる。具体的には、未定着のトナー像が表面に形成された記録媒体に対して前記トナー像を定着させる電磁誘導加熱方式の定着装置に用いられる定着ベルト、加圧ベルト等として用いられる。
【0068】
<定着装置>
本実施形態に係る定着装置は、前述の本実施形態に係る定着部材と、前記定着部材の外周面を加圧し、未定着のトナー画像が表面に形成された記録媒体を前記定着部材と共に挟み込む加圧部材と、前記定着部材が備える金属層(具体的には、第1の金属層)を電磁誘導によって発熱させる電磁誘導装置と、を有する。
以下、本実施形態に係る定着装置の一例として、定着部材として前述の無端ベルト(すなわち、ベルト10)を適用した形態について説明するが、これに限られない。
【0069】
図2は、本実施形態に係る定着装置の一例を示す概略構成図である。
本実施形態に係る定着装置100は上記本実施形態に係るベルト10を備える電磁誘導方式の定着装置である。
図2に示すごとく、ベルト10の一部を加圧するよう加圧ロール(加圧部材)11が配置され、効率的に定着を行う観点でベルト10と加圧ロール11との間に接触領域(ニップ)が形成され、ベルト10は加圧ロール11の周面に沿った形に湾曲している。また、記録媒体の剥離性を確保する観点で前記接触領域(ニップ)の末端においてベルトが屈曲する屈曲部が形成される。
【0070】
加圧ロール11は、基材11A上にシリコーンゴム等による弾性層11Bが形成され、さらに弾性層11B上にフッ素系化合物による離型層11Cが形成されて構成されている。
【0071】
ベルト10の内側には、加圧ロール11と対向する位置に対向部材13が配置されている。対向部材13は、金属、耐熱性樹脂、耐熱ゴム等からなり、ベルト10の内周面に接して局所的に圧力を高めるパッド13Bと、パッド13Bを支持する支持体13Aを有している。
【0072】
ベルト10を中心として加圧ロール11(加圧部材の一例)と対向する位置には、電磁誘導コイル(励磁コイル)12aを内蔵した電磁誘導発熱装置12が設けられている。電磁誘導発熱装置(電磁誘導装置)12は、電磁誘導コイルに交流電流を印加することにより、発生する磁場を励磁回路で変化させ、ベルト10の金属層10B(特に
図1に示す態様のベルトでは電磁誘導金属層104)に渦電流を発生させる。この渦電流が金属層10Bの電気抵抗によって熱(ジュール熱)に変換され、結果的にベルト10の表面が発熱する。
なお、電磁誘導発熱装置12の位置は
図2に示す位置に限定されず、例えば、ベルト10の接触領域に対して回転方向Bの上流側に設置されていてもよいし、ベルト10の内側に設置されていてもよい。
【0073】
本実施形態に係る定着装置100では、ベルト10の端部に固定されたギアに駆動装置により駆動力が伝達されることで、ベルト10が矢印B方向に自己回転し、ベルト10の回転に伴って加圧ロール11は逆方向、すなわち矢印C方向に回転する。
未定着トナー像14が形成された記録媒体15は、矢印A方向に、定着装置100におけるベルト10と加圧ロール11との接触領域(ニップ)に通され、未定着トナー像14が溶融状態として圧力が加えられて記録媒体15に定着される。
【0074】
<画像形成装置>
本実施形態に係る画像形成装置は、像保持体と、前記像保持体の表面を帯電させる帯電装置と、帯電した前記像保持体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成装置と、前記像保持体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、前記像保持体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、前記トナー像を前記記録媒体に定着させる本実施形態に係る定着装置と、を有する。
【0075】
図3は、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
本実施形態に係る画像形成装置200は、
図3に示すように、感光体(像保持体の一例)202、帯電装置204、レーザ露光装置(潜像形成装置の一例)206、ミラー208、現像装置210、中間転写体212、転写ロール(転写装置の一例)214、クリーニング装置216、除電装置218、定着装置100、及び給紙装置(給紙ユニット220、給紙ローラ222、位置合わせローラ224、及び記録媒体ガイド226)を備えている。
【0076】
この画像形成装置200で画像形成を行う場合、まず、感光体202に近接して設けられた非接触型の帯電装置204が、感光体202の表面を帯電させる。
【0077】
帯電装置204により帯電した感光体202の表面に各色の画像情報(信号)に応じたレーザ光が、ミラー208を介してレーザ露光装置206より照射されて静電潜像が形成される。
【0078】
現像装置210は、感光体202の表面に形成された潜像にトナーを付与することによりトナー像を形成する。現像装置210は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のトナーをそれぞれ収容した各色の現像器(不図示)を備えており、現像装置210が矢印方向に回転することにより、感光体202の表面に形成されている潜像に各色のトナーを付与し、トナー像が形成される。
【0079】
感光体202の表面に形成された各色のトナー像は、感光体202と中間転写体212との間に印加されたバイアス電圧により、感光体202と中間転写体212との接触部において、各色のトナー像毎に画像情報と一致するように中間転写体212の外周面に重ねて転写される。
【0080】
中間転写体212は、外周面が感光体202の表面に接触し矢印E方向に回転する。
中間転写体212の周囲には、感光体202の他に、転写ロール214が設けられている。
【0081】
多色のトナー像が転写された中間転写体212は矢印E方向に回転する。中間転写体212上のトナー像は、転写ロール214と中間転写体212との接触部において、給紙装置によって接触部に矢印A方向に搬送されてきた記録媒体15の表面に転写される。
【0082】
なお、中間転写体212と転写ロール214との接触部への給紙は、給紙ユニット220に収納された記録媒体が、給紙ユニット220に内蔵された不図示の記録媒体押し上げ手段により給紙ローラ222に接触する位置まで押し上げられ、その記録媒体15が給紙ローラ222に接触した時点で、給紙ローラ222及び位置合わせローラ224が回転することにより記録媒体ガイド226に沿って矢印A方向に搬送されることにより行われる。
【0083】
記録媒体15の表面に転写されたトナー像は、矢印A方向に移動し、ベルト10と加圧ロール11との接触領域(ニップ)では、トナー像14は溶融状態で記録媒体15の表面に押圧され、記録媒体15の表面に定着される。これにより、記録媒体の表面に定着した画像が形成される。
【0084】
中間転写体212の表面にトナー像を転写した後の感光体202の表面はクリーニング装置216によって清掃される。
感光体202の表面はクリーニング装置216によって清掃された後、除電装置218によって除電される。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
<基材10A(樹脂を含む基材層)>
外径30mmの円筒形ステンレス型の表面に、市販のポリイミド前駆体溶液(UワニスS、宇部興産社製)を浸漬法によって塗布することにより、塗膜を形成した。次にこの塗膜を100℃で30分間乾燥させることにより、前記塗膜中の溶媒を揮発させた後、380℃で30分焼成しイミド化させ、膜厚60μmのポリイミド皮膜を形成した。ステンレス型の表面からポリイミド皮膜を剥離することにより、内径30mm、膜厚60μm、長さ370mmの無端ベルト状の耐熱ポリイミド基材を得て、これを基材10A(樹脂を含む基材層)とした。
【0087】
<下地金属層102>
次にこの耐熱ポリイミド基材の外周面に膜厚0.3μmの無電解ニッケルめっき膜を形成し、これを下地金属層102とした。
【0088】
<電磁誘導金属層104(第1の金属層)>
この無電解ニッケルめっき膜(下地金属層102)を電極として、電解めっき法により、厚み10μmの銅層を設け、これを電磁誘導金属層104(第1の金属層)とした。
なお、銅層を設ける際に用いた電解めっき液は、光沢剤としてエレカッパー25MU(奥野製薬製)が添加されており、電解めっき液全体に対する光沢剤の含有量は2mL/Lであった。また、電解めっき処理時における電解めっき液の温度は25℃、めっき電流密度は2A/dm2であった。
【0089】
<金属保護層106(第2の金属層)>
次に、得られた銅層の外周面に、電解めっき法により、厚み10μmのニッケル層を設け、これを金属保護層106(第2の金属層)とした。
なお、ニッケル層を設ける際に用いた電解めっき液は、光沢剤としてトップセリーナ95X(奥野製薬製)が添加されており、電解めっき液全体に対する光沢剤の含有量は8.5mL/Lであった。また、電解めっき処理時における電解めっき液の温度は50℃、めっき電流密度は6A/dm2であった。
【0090】
<弾性層10D(弾性層)>
次に、得られたニッケル層(すなわち第2の金属層)の外周面に、JISタイプAで規定される硬度が35度となるように調整された液状シリコーンゴム(KE1940-35、液状シリコーンゴム35度品、信越化学工業社製)を膜厚200μmになるように塗布し乾燥させ弾性層10D(弾性層)を得た。
【0091】
<離型層10E>
次に、得られた弾性層の外周面に、PFAディスパージョン(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の分散液、500cL、三井デュポンフロロケミカル社製)を膜厚30μmになるように塗布し、380度で焼成することにより離型層10Eを設けた。
以上のようにして、無端ベルト状の定着部材1を得た。
【0092】
[実施例2]
電解めっき法によりニッケル層(第2の金属層)を設ける際の光沢剤の含有量を9mL/L、電解めっき液の温度を45℃、めっき電流密度を5A/dm2とした以外は、実施例1と同様にして、無端ベルト状の定着部材2を得た。
【0093】
[実施例3]
電解めっき法により銅層(第1の金属層)を設ける際の光沢剤の含有量を1.5mL/L、電解めっき液の温度を30℃、めっき電流密度を1.5A/dm2とした以外は、実施例1と同様にして、無端ベルト状の定着部材3を得た。
【0094】
[実施例4]
耐熱ポリイミド基材の膜厚を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして、無端ベルト状の定着部材4を得た。
【0095】
[比較例1]
電解めっき法によりニッケル層(第2の金属層)を設ける際の光沢剤の含有量を4mL/L、電解めっき液の温度を60℃、めっき電流密度を2A/dm2とした以外は、実施例1と同様にして、無端ベルト状の定着部材C1を得た。
【0096】
[比較例2]
電解めっき法によりニッケル層(第2の金属層)を設ける際の光沢剤の含有量を12mL/L、電解めっき液の温度を35℃、めっき電流密度を8A/dm2とした以外は、実施例1と同様にして、無端ベルト状の定着部材C2を得た。
【0097】
<測定>
得られた定着部材について、銅層(第1の金属層)における平均結晶粒径、並びにニッケル層(第2の金属層)における平均結晶粒径及び結晶粒の平均長さを前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0098】
<評価(省エネ性評価)>
22度55%RH環境下で、画像形成装置(ApeosPort-VI C3371改造機)に、得られた定着部材を装着した。続いてこの画像形成装置を用いて定着部材を電磁誘導加熱した状態で、暖機運転時間(電源を入れてから設定温度180℃に到達するまでの時間)を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
<評価(耐屈曲性評価)>
耐屈曲性評価は、上記実施例及び比較例の定着部材の製造において、耐熱ポリイミド基材(基材10A)に無電解ニッケルめっき膜(下地金属層102)、銅層(電磁誘導金属層104)、及びニッケル層(金属保護層106)を設けたもの(以下「めっきベルト」ともいう)を用いて行った。
2本のφ8mmのロール(応力付与ロール)に、得られためっきベルトを張架し、めっきベルトの表面(すなわちニッケル層側の表面)をヒートガンで30℃に加熱しながらめっきベルトを回転させ、10万回転ごとにめっきベルトの表面(すなわちニッケル層側の表面)を顕微鏡で100倍に拡大観察し、ニッケル層にクラックが発生しているかどうか確認することを5回繰り返した。クラック発生までの回転数(5回の平均値)を表1に示す。
【0100】
【0101】
上記のように、実施例では、比較例に比べ、定着装置の暖機運転時間の短縮と、繰り返し屈曲による第2の金属層の割れの抑制と、が両立されていることが分かる。
【符号の説明】
【0102】
10 ベルト
10A 基材
102 下地金属層
104 電磁誘導金属層
106 金属保護層
10B 金属層
10C 接着剤層
10D 弾性層
10E 離型層
11 加圧ロール
11A 基材
11B 弾性層
11C 離型層
12 電磁誘導発熱装置
13 対向部材
13A 支持体
13B パッド
14 トナー像
15 記録媒体
100 定着装置
200 画像形成装置
202 感光体
204 帯電装置
206 露光装置
210 現像装置
212 中間転写体
214 転写ロール