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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20231003BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20231003BHJP
【FI】
F16H57/04 P
F16H57/037
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020019490
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021124188
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏臣
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】実開平2-33960(JP,U)
【文献】特開2007-315456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 57/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内部に差動ギヤ機構が配置されたデファレンシャル装置であって、
動力源から伝達される動力によって回転されるドライブ軸と、
前記ドライブ軸の回転に伴って回転されるドライブギヤと、
前記ドライブギヤを介して伝達される動力によって回転されるリングギヤとを備え、
前記ハウジングの内部には前記ドライブ軸が配置される軸配置空間と前記ドライブギヤと前記リングギヤが配置されるギヤ配置空間とが形成され、
前記ハウジングの内部には前記軸配置空間と前記ギヤ配置空間を仕切ると共に前記ギヤ配置空間から前記軸配置空間へ向かう潤滑オイルが流入される流入孔が形成された仕切壁が設けられ、
前記仕切壁には前記リングギヤの回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量に応じて回動される制御プレートが支持され、
前記制御プレートに前記リングギヤの回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量が増加するに従って前記流入孔の開口面積を低減させる制御孔が形成された
デファレンシャル装置。
【請求項2】
前記制御プレートに前記リングギヤの回転によって跳ね上げられる潤滑オイルを受けるオイル受けリブが設けられ、
前記オイル受けリブに対する潤滑オイルからの流体抵抗に応じて前記制御プレートが回動される
請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項3】
前記制御孔が前記制御プレートの回動方向に沿って幅が変位する形状に形成され、
前記制御プレートは前記制御孔が前記流入孔の少なくとも一部に重なる状態で回動される
請求項1又は請求項2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項4】
前記制御プレートは前記流入孔の開放状態が最大になる最大開放位置と前記流入孔の開放状態が最小になる最小開放位置との間で回動可能にされ、
前記仕切壁に前記制御プレートを前記最大開放位置と前記最小開放位置にそれぞれ保持する保持突部が設けられた
請求項1、請求項2又は請求項3に記載のデファレンシャル装置。
【請求項5】
前記制御プレートを前記最小開放位置から前記最大開放位置へ向かう回動方向へ付勢する付勢バネが設けられた
請求項4に記載のデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載され車両の走行時における差動を行うデファレンシャル装置についての技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両にはエンジンや電動モーター等の動力を駆動輪に伝達するための動力伝達装置が設けられ、動力伝達装置から出力された動力がデファレンシャル装置を介して駆動輪に伝達される。
【0003】
デファレンシャル装置は内部に所要の各部を収容するハウジングとハウジングの内部に配置された差動ギヤ機構とを備え、差動ギヤ機構はリングギヤ、デファレンシャルケース、サイドギヤ及びピニオンギヤ等の各部によって構成されている。ハウジングの内部には動力が伝達されるドライブ軸とドライブ軸の一端部に固定されたドライブギヤとが配置され、ドライブギヤがリングギヤに噛合されている。
【0004】
車両の直進時には左右の駆動輪に対する路面からの抵抗が同等であるため、リングギヤと一体になって回転されるデファレンシャルケースがピニオンギヤを公転させ、ピニオンギヤに噛合されている左右のサイドギヤにピニオンギヤの回転力が伝達される。このときピニオンギヤは自転せずに公転される。
【0005】
一方、車両の旋回時には左右の駆動輪に対する路面からの抵抗が異なり、一方のサイドギヤがピニオンギヤを押し返そうとしてピニオンギヤが公転かつ自転する。従って、ピニオンギヤの自転により他方のサイドギヤの回転が増速され、左右の駆動輪に回転差が生じて円滑な走行状態が確保される。
【0006】
上記のように、デファレンシャル装置においてはハウジングの内部にギヤ等の所要の各部が配置されると共に各部の潤滑を行うための潤滑オイルが貯留されている。潤滑オイルはリングギヤによって跳ね上げられ、跳ね上げられることによりハウジングの内部における各部へ向けて流動され、流動された潤滑オイルによって各部が潤滑される。
【0007】
ハウジングの内部にはドライブ軸が配置される軸配置空間とドライブギヤやリングギヤ等が配置されるギヤ配置空間とが形成され、軸配置空間とギヤ配置空間が仕切壁によって仕切られている。仕切壁にはギヤ配置空間から軸配置空間へ向かう潤滑オイルが流入される流入孔(オリフィス)が形成されている。従って、リングギヤによって跳ね上げられた潤滑オイルの一部は、ギヤ配置空間から流入孔を介して軸配置空間に流動されてドライブ軸やドライブ軸を支持するベアリング等が潤滑される。軸配置空間に流動された潤滑オイルは戻り経路を通って再びギヤ配置空間に流動され、ギヤ配置空間に流動された潤滑オイルによってギヤ配置空間に配置された各部が潤滑される。
【0008】
ところで、車両の高速走行等が行われる状態においては、リングギヤの回転数が高くされており、リングギヤによって跳ね上げられる油量が多くなり、ギヤ配置空間から流入孔に流入される油量が増加し、ギヤ配置空間から流入孔を介して軸配置空間に流動される油量が軸配置空間から戻り経路を通ってギヤ配置空間に流動される油量に対して増加し、ギヤ配置空間における油量が低下し易くなる。
【0009】
従って、ギヤ配置空間において高い回転数で回転されているリングギヤやリングギヤを支持するベアリング等に対する潤滑オイルによる潤滑が不十分になり、リングギヤ等の各ギヤやこれらの各ギヤを支持するベアリング等に焼き付きが発生するおそれがある。
【0010】
そこで、デファレンシャル装置には、上記のような高速走行が行われるときのギヤ配置空間における潤滑オイルの油量の低下を抑制するように構成さたものがある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0011】
特許文献1に記載されたデファレンシャル装置にあっては、ギヤ配置空間の内部にリングギヤの回転によって掻き上げられる潤滑オイルの流入孔への流入量を抑制する抑制部材が設けられた構成が記載されている。
【0012】
特許文献2に記載されたデファレンシャル装置にあっては、アクチュエーターによって動作される油受けを設け、状況に応じたアクチュエーターの駆動状態により潤滑オイルの流入孔への流入量を抑制する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2007-110732号公報
【文献】実開平4-7902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、特許文献1に記載されたデファレンシャル装置にあっては、ギヤ配置空間においてリングギヤの外周側に抑制部材が設けられているため、ハウジングの内周とリングギヤの外周との間に抑制部材を配置するための空間が必要になり、その分、ハウジングの外形状を大きくする必要が生じ、デファレンシャル装置が大型になってしまう。
【0015】
また、特許文献2に記載されたデファレンシャル装置にあっては、アクチュエーターの駆動状態により潤滑オイルの流入孔への流入量が抑制される構成にされており、アクチュエーターに加えて潤滑オイルの状態を検出する検出部等が必要になり、製造コストの高騰を来すおそれがある。
【0016】
そこで、本発明は、リングギヤが高い回転数で回転されている状態において製造コストの高騰及び大型化を来すことなくギヤ配置空間に配置された各部に対する十分な潤滑状態を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1に、本発明に係るデファレンシャル装置は、ハウジングの内部に差動ギヤ機構が配置されたデファレンシャル装置であって、動力源から伝達される動力によって回転されるドライブ軸と、前記ドライブ軸の回転に伴って回転されるドライブギヤと、前記ドライブギヤを介して伝達される動力によって回転されるリングギヤとを備え、前記ハウジングの内部には前記ドライブ軸が配置される軸配置空間と前記ドライブギヤと前記リングギヤが配置されるギヤ配置空間とが形成され、前記ハウジングの内部には前記軸配置空間と前記ギヤ配置空間を仕切ると共に前記ギヤ配置空間から前記軸配置空間へ向かう潤滑オイルが流入される流入孔が形成された仕切壁が設けられ、前記仕切壁には前記リングギヤの回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量に応じて回動される制御プレートが支持され、前記制御プレートに前記リングギヤの回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量が増加するに従って前記流入孔の開口面積を低減させる制御孔が形成されたものである。
【0018】
これにより、制御プレートがリングギヤの回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量に応じて仕切壁に対して回動され、リングギヤの回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量が増加するに従って流入孔の開口面積が低減される。
【0019】
第2に、上記した本発明に係るデファレンシャル装置においては、前記制御プレートに前記リングギヤの回転によって跳ね上げられる潤滑オイルを受けるオイル受けリブが設けられ、前記オイル受けリブに対する潤滑オイルからの流体抵抗に応じて前記制御プレートが回動されることが望ましい。
【0020】
これにより、オイル受けリブに対する潤滑オイルからの流体抵抗によって制御プレートが回動される。
【0021】
第3に、上記した本発明に係るデファレンシャル装置においては、前記制御孔が前記制御プレートの回動方向に沿って幅が変位する形状に形成され、前記制御プレートは前記制御孔が前記流入孔の少なくとも一部に重なる状態で回動されることが望ましい。
【0022】
これにより、流入孔と制御孔が重なる大きさに応じてギヤ配置空間からの流入孔に対する潤滑オイルの流入量が制御される。
【0023】
第4に、上記した本発明に係るデファレンシャル装置においては、前記制御プレートは前記流入孔の開放状態が最大になる最大開放位置と前記流入孔の開放状態が最小になる最小開放位置との間で回動可能にされ、前記仕切壁に前記制御プレートを前記最大開放位置と前記最小開放位置にそれぞれ保持する保持突部が設けられることが望ましい。
【0024】
これにより、制御プレートが保持突部によって最大開放位置と最小開放位置に保持される。
【0025】
第5に、上記した本発明に係るデファレンシャル装置においては、前記制御プレートを前記最小開放位置から前記最大開放位置へ向かう回動方向へ付勢する付勢バネが設けられることが望ましい。
【0026】
これにより、リングギヤの回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量が低減する状態において制御プレートが付勢バネの付勢力によって最小開放位置から最大開放位置へ向かう方向へ回動される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、制御プレートがリングギヤの回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量に応じて仕切壁に対して回動され、リングギヤの回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量が増加するに従って流入孔の開口面積が低減されるため、リングギヤが高い回転数で回転されている状態において製造コストの高騰及び大型化を来すことなく軸配置空間に配置された各部に対する十分な潤滑状態を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図2乃至図8と共に本発明デファレンシャル装置の実施の形態を示すものであり、本図は、車両の概略構成を示す図である。
図2】デファレンシャル装置の水平断面図である。
図3】デファレンシャル装置の垂直断面図である。
図4】仕切壁や制御プレート等を示す断面図である。
図5】制御プレートが最大開放位置に保持されている状態を示す背面図である。
図6】制御プレートが仕切壁に支持される構造を示す断面図である。
図7】制御プレートが最大開放位置と最小開放位置の間にある状態を示す背面図である。
図8】制御プレートが最小開放位置に保持されている状態を示す背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明デファレンシャル装置を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。
【0030】
<車両の構成>
先ず、デファレンシャル装置を備えた車両100の構成の概要について説明する(図1参照)。
【0031】
車両100はエンジン101と動力伝達装置102と油圧制御部103とギヤ機構104とデファレンシャル装置1と駆動輪105、105とエンジン制御部106と伝達機構制御部107とバス108を備えている。
【0032】
エンジン101は車両100を走行させる走行用の動力源として機能し、燃料を消費して車両100の駆動輪105、105に作用させる動力を発生する。エンジン101は燃料を燃焼して動力伝達装置102への出力シャフトとして機能するクランクシャフト109にトルクを発生させる。尚、車両100においては、走行用の駆動源として電動モーターがエンジン101に代えて又はエンジン101に加えて設けられていてもよい。
【0033】
動力伝達装置102はトルクコンバーター110と前後進切替機構111と変速伝達機構112を有している。動力伝達装置102はエンジン101から駆動輪105、105への動力伝達の経路中に設けられ、エンジン101から駆動輪105、105に動力を伝達する機能を有し、差動油の油圧によって動作する。
【0034】
トルクコンバーター110はエンジン101と前後進切替機構111の間に配置され、エンジン101からクランクシャフト109を介して伝達された動力のトルクを増幅又は維持し、前後進切替機構111に伝達する機能を有している。
【0035】
前後進切替機構111はトルクコンバーター110と変速伝達機構112の間に配置され、エンジン101からトルクコンバーター110を介して伝達された動力によって回転される回転軸の回転速度を変速する機能と回転軸の回転方向を切り換える機能とを有している。
【0036】
変速伝達機構112は前後進切替機構111とギヤ機構104の間に配置されている。変速伝達機構112には前後進切替機構111から入力軸113を介して動力が伝達され、変速伝達機構112から入力軸113を介して入力された動力が出力軸114を介してギヤ機構104へ向けて出力される。変速伝達機構112は入力軸113を介して入力される動力を無段階に変速する無段変速機(連続可変トランスミッション:Continuously Variable Transmission(CVT))を有している。
【0037】
変速伝達機構112から出力軸114に伝達された動力はギヤ機構104を介してデファレンシャル装置1に伝達される。デファレンシャル装置1は伝達された動力を車軸115、115を介して駆動輪105、105に伝達する。デファレンシャル装置1は車両100が旋回する際に生じる駆動輪105、105間の回転速度の差を吸収する機能を有している。
【0038】
油圧制御部103は差動油の油圧によってトルクコンバーター110と前後進切替機構111と変速伝達機構112を動作させる。油圧制御部103には図示しない複数の油路やオイルリザーバーやオイルポンプや複数の電磁弁等が設けられ、伝達機構制御部107から出力される制御信号に基づいて動力伝達装置102の各部に供給される差動油の流量や油圧を制御する。また、油圧制御部103は動力伝達装置102の各部やデファレンシャル装置1の各部の潤滑を行う潤滑油供給部としても機能する。
【0039】
エンジン制御部106と伝達機構制御部107は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するマイクロコンピューターを備え、CAN(Controller Area Network)等の所定の車載ネットワーク通信規格に対応したバス108を介して相互のデータ通信が可能に接続されている。
【0040】
エンジン制御部106は、エンジン101についての燃料噴射制御や点火制御や吸入空気量調節制御等の各種の動作制御を行う機能を有している。エンジン制御部106は伝達機構制御部107と通信可能にされ、必要に応じてエンジン101の動作状態に関するデータを伝達機構制御部107に出力し、また、必要に応じ伝達機構制御部107から出力される各種の信号に基づいてエンジン101の動作制御を行う。
【0041】
伝達機構制御部107は油圧制御部103を制御することにより、トルクコンバーター110と前後進切替機構111と変速伝達機構112の動作制御を行う。
【0042】
<デファレンシャル装置の構成>
次に、デファレンシャル装置1の構成について説明する(図2乃至図6参照)。
【0043】
デファレンシャル装置1はハウジング2に所要の各部が配置又は支持されて構成されている(図2及び図3参照)。
【0044】
ハウジング2は前後に延びる筒状に形成された軸支持部3と軸支持部3の後端に連続されたカバー部4とを有している。カバー部4の左右両側面部にはそれぞれ部材配置孔4a、4aが形成されている。ハウジング2の内部には軸支持部3とカバー部4の間に前後方向を向く仕切壁5が設けられている。尚、仕切壁5はハウジング2と一体に形成されていてもよい。
【0045】
仕切壁5の略中央部には軸挿通孔5aが形成されている(図3参照)。仕切壁5には軸挿通孔5aの周囲の位置に流入孔5bと戻り孔5cが形成され、流入孔5bが戻り孔5cの上方に位置されている(図4参照)。仕切壁5には後方に突出された保持突部6が設けられ、保持突部6における反対側の面はそれぞれ第1の規制面6aと第2の規制面6bとして形成されている(図5参照)。仕切壁5にはそれぞれ後方に突出されたバネ支持突部5dとバネ掛け突部5eが設けられている。
【0046】
軸支持部3の内部における少なくとも下端寄りの位置には隔壁部7が設けられている。隔壁部7の前面部には略上下に延びる流出孔7aが形成されている。
【0047】
ハウジング2の内部空間は仕切壁5によって前後で仕切られており、仕切壁5によって仕切られた前側の空間のうち隔壁部7の上側の空間が軸配置空間8として形成され、仕切壁5によって仕切られた後側の空間がギヤ配置空間9として形成されている。また、仕切壁5によって仕切られた前側の空間のうち軸支持部3の内部における隔壁部7の下側の空間が戻り経路10として形成され、戻り経路10は前端が流出孔7aに連通され後端が戻り孔5cに連通されている。従って、戻り経路10は、流出孔7aを介して軸配置空間8に連通され、戻り孔5cを介してギヤ配置空間9に連通されている。
【0048】
カバー部4の左右両側面部にはそれぞれ軸受部材11、11が固定されている(図2参照)。軸受部材11は一部が部材配置孔4aに挿入されて配置された状態でカバー部4に固定されている。
【0049】
軸受部材11、11にはそれぞれベアリング12、12を介して軸連結部材13、13が回転可能に支持されている。軸連結部材13には車軸115が連結されている。
【0050】
ハウジング2の軸支持部3にはドライブ軸14がベアリング15、16、16を介して回転自在に支持されている。ベアリング15、16、16は前側から順に位置されている。ドライブ軸14は軸配置空間8に配置され、後端部が仕切壁5の軸挿通孔5aに挿通されて支持されている。ドライブ軸14にはギヤ機構104を介してエンジン101等の動力が伝達される。
【0051】
ベアリング15、16、16のうち最も後側に位置されているベアリング16の直ぐ後側には仕切壁5に形成された流入孔5bが位置されている。
【0052】
ドライブ軸14の後端部にはドライブギヤ17が固定されている。ドライブギヤ17はハウジング2のギヤ配置空間9に配置され、ドライブ軸14に伴って回転される。
【0053】
ハウジング2のギヤ配置空間9には差動ギヤ機構18が配置されている。差動ギヤ機構18はリングギヤ19とデファレンシャルケース20とピニオンギヤ21、21とサイドギヤ22、22を有している。
【0054】
リングギヤ19は回転軸の軸方向が左右方向にされ、前端部においてドライブギヤ17に噛合されている。
【0055】
デファレンシャルケース20にはリングギヤ19が固定されている。従って、リングギヤ19とデファレンシャルケース20は一体になって回転される。デファレンシャルケース20の内部の空間はギヤ配置空間20aとして形成され、デファレンシャルケース20の両側面部にはそれぞれギヤ支持孔20b、20bが形成されている。デファレンシャルケース20のギヤ支持孔20b、20bにはそれぞれ軸連結部材13、13の一部が挿通され、それぞれ軸連結部材13、13の内側の端部がギヤ配置空間20aに位置されている。
【0056】
デファレンシャルケース20にはギヤ支持軸23が固定されている。ギヤ支持軸23は軸方向が前後方向にされ、デファレンシャルケース20の前後両面部間に位置されている。
【0057】
ピニオンギヤ21、21はギヤ支持軸23に回転可能に支持され、デファレンシャルケース20のギヤ配置空間20aに位置されている。
【0058】
サイドギヤ22、22はそれぞれ軸連結部材13、13の内側の端部に固定された状態で一部を除いてギヤ配置空間20aに位置され、それぞれ二つのピニオンギヤ21、21の双方に噛合されている。サイドギヤ22、22は一部がそれぞれデファレンシャルケース20のギヤ支持孔20b、20bに挿通され、それぞれデファレンシャルケース20に対して軸連結部材13、13と一体になって回転される。
【0059】
ハウジング2の内部における下側の空間には潤滑オイルが貯留されている。潤滑オイルはハウジング2の内部に配置された各部を潤滑する役割を担い、リングギヤ19の回転によって跳ね上げられ、各部へ向けて流動される。
【0060】
仕切壁5の後面には制御プレート24が回動可能に支持されている(図4乃至図6参照)。制御プレート24は所定の形状に形成されたベース板部25とベース板部25における外周縁の一部から後方に突出されたオイル受けリブ26とオイル受けリブ26の外周面から突出された第1の被規制部27とベース板部25の外周面から突出された第2の被規制部28とを有している。
【0061】
ベース板部25は前後方向を向く板状に形成され、それぞれ前後方向に貫通された被支持孔29と制御孔30を有している(図5及び図6参照)。被支持孔29は円形状に形成され制御孔30は非円形状に形成されている。制御孔30は、例えば、略勾玉状に形成され、制御プレート24の回動方向において次第に幅が変化する形状にされている(図5参照)。
【0062】
具体的には、制御孔30は最も幅が広い幅広部30aと最も幅が狭い幅狭部30bとを有している。制御孔30の幅広部30aと幅狭部30bの間の部分は中間部30cとして形成されている。幅広部30aの幅は仕切壁5に形成された流入孔5bの径より大きくされ、幅狭部30bの幅は流入孔5bの径より小さくされている。
【0063】
オイル受けリブ26は制御孔30に沿う位置に設けられ、ベース板部25における外周縁の形状に沿って略下方に凸になるように湾曲されている。
【0064】
第1の被規制部27はベース板部25の厚み方向に直交する方向においてオイル受けリブ26の外周面から突出され、第2の被規制部28はベース板部25の厚み方向に直交する方向においてベース板部25の外周面から突出されている。第1の被規制部27と第2の被規制部28はベース板部25の周方向に離隔して位置されている。
【0065】
ベース板部25には円筒カラー31が結合されている(図6参照)。円筒カラー31は前端部が被支持孔29に嵌合された状態でベース板部25に結合されている。
【0066】
円筒カラー31にはカラー部材32が支持されている。カラー部材32は円筒カラー31より一回り径が小さい円筒状の筒部32aと筒部32aの後端部から外方に張り出されたフランジ部32bとから成り、筒部32aが円筒カラー31の内部に挿入されている。カラー部材32は筒部32aが円筒カラー31に前後方向において摺動自在に支持されている。
【0067】
円筒カラー31には圧縮コイルバネ33が支持され、圧縮コイルバネ33は伸縮方向における両端がカラー部材32のフランジ部32bとベース板部25における被支持孔29の周囲の部分とに押し付けられる。
【0068】
制御プレート24はボルト34によって仕切壁5に回動可能に支持される。ボルト34は螺軸部34aがカラー部材32を挿通されて仕切壁5に螺合される。ボルト34の螺軸部34aが仕切壁5に螺合された状態において、ボルト34の頭部34bによってカラー部材32の筒部32aが仕切壁5の後面に押し付けられ、フランジ部32bによって圧縮コイルバネ33が圧縮され、圧縮コイルバネ33によってベース板部25が仕切壁5の後面に押し付けられる。従って、制御プレート24は仕切壁5からの浮き上がりが防止され、ベース板部25が仕切壁5に摺動可能な状態で回動可能に支持される。
【0069】
制御プレート24が仕切壁5に回動可能に支持された状態においては、第1の被規制部27と第2の被規制部28の間に仕切壁5に設けられた保持突部6が位置される。
【0070】
制御プレート24は制御孔30の少なくとも一部が仕切壁5の流入孔5bに重なる状態で仕切壁5に対して回動される。制御孔30は制御プレート24の回動方向において次第に幅が変化する形状にされているため、制御プレート24の回動位置に応じて流入孔5bとの重なる領域が変化される。制御プレート24は流入孔5bの開放状態が最大になる最大開放位置と流入孔5bの開放状態が最小になる最小開放位置との間で回動される。
【0071】
仕切壁5には付勢バネ35が支持されている。付勢バネ35は、例えば、捩じりコイルバネであり、コイル部35aがバネ支持突部5dに支持され、第1の腕部35bがバネ掛け突部5eに係合され、第2の腕部35cが制御プレート24におけるオイル受けリブ26の外面に係合される。従って、制御プレート24は付勢バネ35によって最小開放位置から最大開放位置へ向かう回動方向へ付勢され、付勢バネ35に対して付勢力に反する力が作用していない状態においては第1の被規制部27が保持突部6の第1の規制面6aに押し付けられて最大開放位置に保持される。
【0072】
上記したように、ハウジング2の内部には潤滑オイルが貯留され、リングギヤ19の回転によって跳ね上げられるが、リングギヤ19の回転によって跳ね上げられた潤滑オイルは、一部を除いて下方に流動され再びリングギヤ19の回転によって跳ね上げられてギヤ配置空間9において循環される(図3に示す矢印A参照)。潤滑オイルがギヤ配置空間9において循環されることにより、ギヤ配置空間9に配置された差動ギヤ機構18や差動ギヤ機構18の各部を支持するベアリング12等の各部が潤滑される。
【0073】
一方、リングギヤ19の回転によって跳ね上げられた潤滑オイルの一部は、制御プレート24の制御孔30を通り仕切壁5に形成された流入孔5bに流入され軸配置空間8へ向けて流動され、軸配置空間8において流動される(図3に示す矢印B参照)。潤滑オイルが軸配置空間8において流動されることにより、軸配置空間8に配置されたドライブ軸14やドライブ軸14を支持するベアリング15、16、16等の各部が潤滑される。
【0074】
軸配置空間8において流動された潤滑オイルは、軸配置空間8から隔壁部7の流出孔7aから流出され(図3に示す矢印C参照)、戻り経路10を流動されて仕切壁5に形成された戻り孔5cを介して再びギヤ配置空間9に流入される(図3に示す矢印D参照)。
【0075】
<デファレンシャル装置における動作>
以下に、デファレンシャル装置1における差動ギヤ機構18等の動作について説明する。
【0076】
ドライブ軸14を介してドライブギヤ17にエンジン101等からの動力が伝達されると、ドライブギヤ17と噛合されているリングギヤ19が回転され、リングギヤ19とデファレンシャルケース20が一体になって回転されると共にピニオンギヤ21、21がデファレンシャルケース20の回転に伴って公転される。ピニオンギヤ21、21が公転されると、ピニオンギヤ21、21と噛合されているサイドギヤ22、22が回転され、サイドギヤ22、22と軸連結部材13、13が一体になって回転され、車軸115、115を介して駆動輪105、105に動力が伝達されて車両100が走行される。
【0077】
このとき、車両100の直進時には左右の駆動輪105、105に対する路面からの抵抗が同等であるため、ピニオンギヤ21、21がデファレンシャルケース20の回転に伴って公転されるが自転はされず、ピニオンギヤ21、21に噛合されているサイドギヤ22、22にピニオンギヤ21、21の回転力が同等に伝達される。
【0078】
一方、車両100の旋回時には左右の駆動輪105、105に対する路面からの抵抗が異なり、一方のサイドギヤ22がピニオンギヤ21、21を押し返そうとしてピニオンギヤ21、21が公転かつ自転する。従って、ピニオンギヤ21、21の自転により他方のサイドギヤ22の回転が増速され、左右の駆動輪105、105に回転差が生じて円滑な走行状態が確保される。
【0079】
上記のように車両100の走行時には、リングギヤ19が回転されてリングギヤ19によって潤滑オイルが跳ね上げられる。
【0080】
このとき車両100が低速走行されている状態においては、リングギヤ19の回転速度が低く潤滑オイルのリングギヤ19の回転による跳ね上げ量は少ないため、制御プレート24のオイル受けリブ26に対する潤滑オイルの作用は小さく、オイル受けリブ26に上方側から付与される潤滑オイルによる流体抵抗が小さい状態にされている。従って、制御プレート24は付勢バネ35の付勢力によって第1の被規制部27が保持突部6の第1の規制面6aに押し付けられ、一方の回動端である最大開放位置に保持されている(図5参照)。
【0081】
最大開放位置においては、ベース板部25に形成された制御孔30の幅広部30aが仕切壁5に形成された流入孔5bに重なった状態にされ、流入孔5bの開放状態が最大にされている。従って、リングギヤ19の回転による跳ね上げ量に応じて十分な量の潤滑オイルが流入孔5bから軸配置空間8へ向けて流動される。
【0082】
一方、車両100の走行速度が上昇していく状態においては、リングギヤ19の回転速度が高くなっていき潤滑オイルのリングギヤ19の回転による跳ね上げ量が増加していくため、制御プレート24のオイル受けリブ26に対する潤滑オイルの作用が大きくなっていく。従って、オイル受けリブ26に上方側から付与される潤滑オイルによる流体抵抗が大きくなっていき、制御プレート24が付勢バネ35の付勢力に反して最小開放位置へ向けて回動されていく(図7参照)。
【0083】
制御プレート24が最小開放位置へ向けて回動されていくことにより、付勢バネ35の付勢力によって第1の規制面6aに押し付けられていた第1の被規制部27が保持突部6から離隔される。
【0084】
制御プレート24が最大開放位置から最小開放位置へ向けて回動されていくことにより、制御孔30の中間部30cが流入孔5bに重なった状態にされ、流入孔5bの開放状態が小さくされていく。従って、リングギヤ19の回転による跳ね上げ量は増加していくが、流入孔5bに対する潤滑オイルの流入可能な量が小さくされていく。
【0085】
さらに車両100の走行速度が上昇し車両100が高速走行される状態においては、リングギヤ19の回転速度がさらに高くなり潤滑オイルのリングギヤ19の回転による跳ね上げ量がさらに増加するため、制御プレート24のオイル受けリブ26に対する潤滑オイルの作用が一層大きくなる。従って、オイル受けリブ26に上方側から付与される潤滑オイルによる流体抵抗がさらに大きい状態にされ、制御プレート24が付勢バネ35の付勢力に反して最小開放位置へ向けてさらに回動されていく(図8参照)。
【0086】
最小開放位置へ向けてさらに回動された制御プレート24は、第2の被規制部28が保持突部6の第2の規制面6bに押し付けられて最小開放位置に保持される。
【0087】
最小開放位置においては、制御孔30の幅狭部30bが流入孔5bに重なった状態にされ、流入孔5bの開放状態が最小にされる。従って、リングギヤ19の回転による跳ね上げ量はさらに増加するが、流入孔5bに対する潤滑オイルの流入可能な量がさらに小さくされる。
【0088】
このとき、例えば、流入孔5bから軸配置空間8へ向けて流動される潤滑オイルの量は、低速走行時における油量と同等又は少なくされる。従って、ギヤ配置空間9において潤滑するための潤滑オイルの量が不足せず、ギヤ配置空間9における十分な量の潤滑オイルによって差動ギヤ機構18や差動ギヤ機構18の各部を支持するベアリング12等の各部が潤滑される。
【0089】
<まとめ>
以上に記載した通り、デファレンシャル装置1にあっては、仕切壁5にリングギヤ19の回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量に応じて回動される制御プレート24が支持され、制御プレート24にリングギヤ19の回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量が増加するに従って流入孔5bの開口面積を低減させる制御孔30が形成されている。
【0090】
従って、制御プレート24がリングギヤ19の回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量に応じて仕切壁5に対して回動され、リングギヤ19の回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量が増加するに従って流入孔5bの開口面積が低減される。
【0091】
これにより、リングギヤ19の外周側に潤滑オイルの流入孔5bへの流入量を制御する構造物を設ける必要がなく、アクチュエーター等によって潤滑オイルの流入孔5bへの流入量を制御する構造や潤滑オイルの状態を検出する構成を設ける必要もない。従って、リングギヤ19が高い回転数で回転されている状態において製造コストの高騰及び大型化を来すことなくギヤ配置空間9に配置された各部に対する十分な潤滑状態を確保することができる。
【0092】
また、制御プレート24にリングギヤ19の回転によって跳ね上げられる潤滑オイルを受けるオイル受けリブ26が設けられ、オイル受けリブ26に対する潤滑オイルからの流体抵抗に応じて制御プレート24が回動される。
【0093】
従って、オイル受けリブに対する潤滑オイルからの流体抵抗によって制御プレート24が回動されるため、簡素な構成によりリングギヤ19の回転状態に応じて制御プレート24が回動され、製造コストの高騰を来すことなく流入孔5bに流入される潤滑オイルの流動量を制御することができる。
【0094】
さらに、制御孔30が制御プレート24の回動方向に沿って幅が変位する形状に形成され、制御プレート24は制御孔30が流入孔5bの少なくとも一部に重なる状態でが回動される。
【0095】
従って、リングギヤ19の回転時には常時ギヤ配置空間9から軸配置空間8に潤滑オイルが流動されるため、車両100の走行時に常に軸配置空間8に配置された各部の円滑な動作状態を確保することができる。
【0096】
また、流入孔5bと制御孔30が重なる大きさに応じてギヤ配置空間9からの流入孔5bに対する潤滑オイルの流入量が制御されるため、簡素な構成により製造コストの高騰を来すことなくギヤ配置空間9からの流入孔5bに対する潤滑オイルの流入量の制御を行うことができる。
【0097】
さらにまた、制御プレート24は流入孔5bの開放状態が最大になる最大開放位置と流入孔5bの開放状態が最小になる最小開放位置との間で回動可能にされ、仕切壁5に制御プレート24を最大開放位置と最小開放位置にそれぞれ保持する保持突部6が設けられている。
【0098】
従って、制御プレート24が保持突部6によって最大開放位置と最小開放位置に保持されるため、制御プレート24を各開放位置に保持してギヤ配置空間9からの流入孔5bに対する潤滑オイルの流入量の制御を適正に行うことができる。
【0099】
加えて、制御プレート24を最小開放位置から最大開放位置へ向かう回動方向へ付勢する付勢バネ35が設けられている。
【0100】
従って、リングギヤ19の回転により跳ね上げられる潤滑オイルの量が低減する状態において制御プレート24が付勢バネ35の付勢力によって最小開放位置から最大開放位置へ向かう方向へ回動されるため、車両100に振動等が生じた場合においても制御プレート24の意図しない回動が抑制され、流入孔5bへの流入量の意図しない低減を防止して軸配置空間8に配置された各部に対する安定した潤滑状態を確保することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 デファレンシャル装置
2 ハウジング
5 仕切壁
5b 流入孔
6 保持突部
8 軸配置空間
9 ギヤ配置空間
14 ドライブ軸
17 ドライブギヤ
18 差動ギヤ機構
19 リングギヤ
24 制御プレート
26 オイル受けリブ
30 制御孔
35 付勢バネ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8