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特許7362153複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法およびその応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法およびその応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20231010BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20231010BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20231010BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12P21/02 C
C12Q1/68
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021570890
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-01
(86)【国際出願番号】 CN2020093500
(87)【国際公開番号】W WO2020239111
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】201910460987.8
(32)【優先日】2019-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520037016
【氏名又は名称】康碼(上海)生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】KANGMA-HEALTHCODE (SHANGHAI) BIOTECH CO., LTD
【住所又は居所原語表記】BUILDING 12, 118 FURONGHUA ROAD, PUDONG NEW AREA, SHANGHAI 201321,PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グオ、ミン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、シュエ
【審査官】茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/097829(WO,A1)
【文献】PLoS One,2011年,6(11):e27321
【文献】Anal. Biochem.,2017年,518,pp.139-142
【文献】Nat. Commun.,2018年,9(1):1457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)標準曲線を作成する、すなわち、
対応する標準タンパク質を用いて、各共発現タンパク質のタンパク質濃度と発光強度の関係の標準曲線を作成する、
(2)各標準タンパク質をそれぞれ発現させるための、各標準タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを作る、
(3)各標的タンパク質の濃度パーセンテージと、対応するベクターの濃度パーセンテージとの間の定量的関係の式を作成する、
ここで、ステップ(2)における標準タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを、異なる濃度比でタンパク質合成反応のためのインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加し、特定の反応時間後に反応液中の各標的タンパク質の発光値を求め、ステップ(1)で示した標準曲線に従い各標的タンパク質生成物の濃度を算出し、各標的タンパク質生成物の濃度パーセンテージと対応するベクターの濃度パーセンテージとの間の定量的関係の式をフィッティングにより求め、インビトロ無細胞タンパク質合成体系においてベクターの総濃度は同じままである、
(4)複数種のタンパク質を定量的に共発現させるための、ベクターの濃度と濃度比を算出する、
発現させる複数種の標的タンパク質の目標濃度比関係に従い、ステップ(3)で作成した式を用いて、発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれに対するベクターの濃度と濃度比を算出する、
(5)複数種のタンパク質を定量的に共発現させる、
ここで、ステップ(4)で得られた各標的タンパク質ベクターの必要濃度または濃度比に従い、対応する量の、各標的タンパク質の独立なベクターを、ステップ(3)に記載したインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加し、ステップ(3)で規定した特定の時間後に、共発現した複数種の標的タンパク質を得られるのを含む、複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項2】
各母液中の各標的タンパク質の独立なベクターの濃度が同じであり、
ステップ(3)は各標的タンパク質の濃度パーセンテージと、対応するベクターの濃度パーセンテージまたは体積パーセンテージとの間の定量的関係の式を作成する、
ステップ(2)における標的タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを、インビトロでのタンパク質合成のために、異なる濃度比率または体積比率でインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加し、特定の反応時間後に反応液中の各標的タンパク質の発光値を求め、ステップ(1)で示した標準曲線に従い各標的タンパク質生成物の濃度を算出し、各標的タンパク質の濃度パーセンテージと対応するベクターの濃度パーセンテージまたは体積パーセンテージとの間の定量関係の式をフィッティングにより求め、
前記インビトロ無細胞タンパク質合成体系において、ベクターの総濃度は同じままであり、
ステップ(4)は、複数種のタンパク質を定量的に共発現させるために必要なベクター濃度またベクター体積と、対応する濃度比率または体積比率とを算出する、
発現させる複数種の標的タンパク質の濃度比関係に従い、ステップ(3)で作成した式を用いて、発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれに必要なベクターの濃度と濃度比とを算出し、または発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれに必要なベクターの体積と体積比率を算出し、
ステップ(5)は、複数種のタンパク質を定量的に共発現させる、
ステップ(4)で得られた各標的タンパク質ベクターの必要濃度もしくは濃度比率、または各標的タンパク質ベクターの必要体積もしくは体積比率に従い、各標的タンパク質の別々のベクターの対応量をステップ(3)に記載したインビトロ無細胞タンパク質合成体系に、添加し、ステップ(3)で規定した特定時間反応させた後に、共発現した複数種の標的タンパク質を得るものである、請求項1に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項3】
ステップ(3)における各標的タンパク質の発光値が、最大発光波長において他のタンパク質に干渉されない請求項1に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項4】
ステップ(2)におけるそれぞれの標的タンパク質遺伝子を含むベクターが、それぞれ対応する標的タンパク質をコードする配列を含むプラスミドである、請求項1に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項5】
ステップ(3)におけるインビトロ無細胞タンパク質合成体系が、酵母細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、大腸菌ベースのインビトロタンパク質合成体系、哺乳類細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、植物細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、昆虫細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、およびこれらの組合せからなる群から選択される1つである、請求項1~4のいずれか1項に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項6】
前記酵母細胞が、サッカロマイセス・セレビジエ、ピキア・パストリスおよびクルイベロミセス、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項5に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項7】
前記発光値が相対蛍光単位(RFU)値である請求項3に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項8】
前記複数種の標的タンパク質がそれぞれ独立に発光ラベルを有する発光タンパク質または融合タンパク質である請求項1~7のいずれか1項に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項9】
前記発光タンパク質が、天然蛍光タンパク質、改変蛍光タンパク質、または蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である、請求項8に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項10】
前記蛍光タンパク質が赤色蛍光タンパク質、オレンジ色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質、シアン色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質または紫色蛍光タンパク質である、請求項9に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項11】
前記標的タンパク質の分離・精製をさらに含む、請求項1~10いずれか1項に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法の全てのステップを含む方法のための、インビトロ無細胞タンパク質合成体系の使用
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本出願は、2019年5月30日に出願された中華人民共和国特許出願CN201910460987.8号の優先権を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
1.技術分野
【0002】
本発明はバイオテクノロジーの分野に関し、より詳細には複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法およびその応用に関するものである。
2.関連技術の説明
【0003】
蛍光タンパク質は、生物学の多くの研究分野で広く利用されている。蛍光タンパク質ベースの分子プローブや標識法は、生きた細胞における、すなわちインビボでのダイナミックイメージングにより生体高分子や細胞機能を研究するための重要な研究ツールとなっている。1992年にクラゲから緑色蛍光タンパク質の遺伝子が初めてクローン化されて以来、多くの海洋生物から多くの新しい蛍光タンパク質がクローン化され、蛍光タンパク質の改変により新しい変異体が得られている。これらの新しい蛍光タンパク質や変異体は、生体分子や細胞を「光らせる」ことができ、生体分子の活動を示すことができるので、分子や細胞の活動法則や性質を明らかにするのに役立つ。報告された蛍光タンパク質のスペクトルは可視領域全体にわたって分布している。これらの蛍光タンパク質は、遺伝子の発現と制御、タンパク質の空間位置と輸送、タンパク質の折りたたみ、シグナル伝達、プロテアーゼ活性分析、生体分子の相互作用などの分野で広く利用されている。蛍光タンパク質の発見と応用は、現代生物学の研究に強力な研究手段を提供している。
【0004】
バイオテクノロジーの進歩により、合成生物学者は生物体系を迅速かつ確実に改造し、生体高分子を設計および産生すること、特に、生物学機能を持つタンパク質高分子を設計・産生することができている。ここ数年の合成生物学の発展の中で、タンパク質は主に細胞を宿主とした細胞内で操作されているが、細胞内で操作することは時間がかかり、かつ困難である。これは、細胞の成長および適応性のプロセスが工学設計の目的とは通常一致せず、また、生細胞系統の複雑さ、遺伝子要素の標準化の難しさ、および細胞膜が生み出す障壁のために、生体成分の改変が大きく制限されているためである。これらの制限は、人々を新たな発展方向に探索させ、工学技術の新たな分野、すなわち無細胞合成生物学の発展を促している。無細胞合成生物学には、インビトロの転写や翻訳を含む、インビトロ合成系ともして知られている無細胞合成体系という先端技術が含まれている。無細胞タンパク質合成体系では、外因性の標的mRNAやDNAがタンパク質合成の鋳型となり、タンパク質合成に必要な基質や転写および翻訳関連のタンパク質因子を手動で制御して、標的タンパク質を合成する。無細胞タンパク質合成体系では、タンパク質を合成・発現させるためのプラスミド構築、形質転換、細胞培養、細胞採取、破壊などのステップが不要、タンパク質を迅速・時間節約・便利にタンパク質を発現させる方法である。
【0005】
蛍光タンパク質の特性により、蛍光タンパク質は生物学的研究において重要かつ代わりのない役割を果たしている。複数種のタンパク質を定量的にインビトロでいかに共発現させるかということは、現在直面している重要な技術的課題である。文献を調査および検索したにもかかわらず、インビトロ無細胞タンパク質合成技術を用いて、複数種のタンパク質を同一反応体系で定量的に共発現させることについての報告は見つけ出せなかった。本発明についての多くの実験および研究の結果、鋳型DNAの体積または濃度の比例を調整することで、複数種の蛍光タンパク質を定量的に共発現させる方法を見出した。それは、高効率の蛍光指示分子、各種の研究または他の目的などのための蛍光標識された細胞または生物の研究および開発などに利用できる。
【発明の概要】
【0006】
本発明では、複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法が開示されている。この方法では、標的タンパク質の鋳型(好ましくはDNA鋳型)の濃度と投与量の比例関係に従って、同一反応体系の中で複数種のタンパク質を定量的に共発現させることが可能である。
【0007】
本発明の第一方面では、以下の手順を含む複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法が提供される。
(1)標準曲線を作成する。
【0008】
標準タンパク質のそれぞれの濃度とそれぞれの発光量との関係の標準曲線を作成する。
【0009】
ステップ(1)では、共発現させる複数種の標的タンパク質の種類に従い、各標的タンパク質に対応する標準タンパク質を用意する。複数種の標的タンパク質はそれぞれ独立に発光機能を持つタンパク質であり、複数種の標的タンパク質は各発光特性に基づいて互いに区別でき、「相互干渉なしに」別々に検出することができるので、各標的タンパク質の定量的な検出を達成することができる。
【0010】
特に、ステップ(1)における標準タンパク質は、標的タンパク質の標準サンプルである。それは、標的タンパク質の合成後の分離および精製により得ることもできるし、市販の分析用純製品を購入することも可能である。
【0011】
(2)複数の異なる標的タンパク質をそれぞれ発現させるために、異なる標的タンパク質遺伝子を含むベクターをそれぞれ作る。
【0012】
「標的タンパク質遺伝子を含むベクター」とは、ベクターが標的タンパク質のエンコーディング配列を含むことを意味し、「標的タンパク質のベクター」と呼ぶこともできる。例えば、「GFPタンパク質をコードするベクター」は、単に「GFPのベクター」と呼ぶことができる。
【0013】
このステップでは、各標的タンパク質をそれぞれ発現させるために、標的タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを作る。それぞれの標的タンパク質に対し、エンコーディング配列を含む独立なベクターを作り、作られた独立なベクターを通じて、標的タンパク質を共発現の体系で独立に発現させる。
【0014】
(3)各標的タンパク質の濃度パーセンテージと、対応するベクター濃度のパーセンテージとの間の定量的な関係式を確立する。
【0015】
ステップ(2)の標的タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを、インビトロでのタンパク質合成反応、すなわちインキュベーション反応のために、異なる濃度比でインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加し、複数種の標的タンパク質を合成する。特定の反応時間後に、反応溶液の中で各標的タンパク質の発光値を得る。ステップ(1)で示した標準曲線に従い、各標的タンパク質生成物の濃度を算出し、各標的タンパク質生成物の濃度パーセンテージと対応するベクターの濃度パーセンテージとの間の定量的関係式をフィッティングにより求める。インビトロ無細胞タンパク質合成体系において、ベクターの総濃度は同じままである。
【0016】
インビトロ無細胞タンパク質合成体系において、標的タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを異なる濃度比率で添加した場合、複数回のインビトロタンパク質反応中の総ベクター濃度は同じままである。
【0017】
総ベクター濃度とは、インビトロ無細胞タンパク質合成体系におけるすべての標的タンパク質のベクター濃度の合計を指す。
【0018】
(4)複数種のタンパク質を定量的に発現させるために必要なベクターの濃度と濃度比率を算出する。
【0019】
実現しようとする複数種の標的タンパク質の生成物濃度比率関係(例えば、質量濃度比例関係)を、複数種の標的タンパク質の目標濃度比率として設定し、ステップ(3)で設定した定量関係式を用いて、発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれのベクター濃度と濃度比率を算出する。
【0020】
(5)複数種のタンパク質を定量的に共発現させる。
【0021】
ステップ(4)で得られた各標的タンパク質ベクターの必要な濃度・濃度比に従い、ステップ(3)で記述したインビトロ無細胞タンパク質合成体系に、各標的タンパク質の独立なベクターの対応する量を添加し、ステップ(3)で定義した特定の反応時間を経て、共発現させた複数種の標的タンパク質を得る。
【0022】
各母液中の各標的タンパク質の独立なベクターの濃度が同じである場合、投与量は単に体積または体積比率で制御することもできる。例は以下の通りである。
【0023】
複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法であって、以下の手順を含む。
【0024】
ステップ(1)とステップ(2)は前述の通りである。
【0025】
ステップ(3)では、各標的タンパク質の濃度パーセンテージと、対応するベクターの濃度パーセンテージあるいは体積パーセンテージとの間の定量的関係式を作成する。
【0026】
ステップ(2)の標的タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを、インビトロでのタンパク質合成のために、異なる濃度比率または体積比率でインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加する。所定の反応時間後に反応液中の各標的タンパク質の発光値を得る。ステップ(1)で示した標準曲線に従い、各標的タンパク質生成物の濃度を算出し、各標的タンパク質の濃度パーセンテージまたは体積パーセンテージと、対応するベクターの濃度パーセンテージまたは体積パーセンテージとの間の定量的関係式をフィッティングにより求める。インビトロ無細胞タンパク質合成系において、ベクターの総濃度は同じままである。
【0027】
ステップ(4)では、複数種のタンパク質を定量的に共発現させるために必要なベクター濃度またはベクター体積と、対応する濃度比率または体積比率とを算出する工程。
【0028】
発現させる複数種の標的タンパク質の目標濃度比率関係に従い、発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれに必要なベクターの濃度と濃度比率を算出し、またはステップ(3)で立てた定量関係式を用いて、発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれに必要なベクターの体積と体積比率を算出する。
【0029】
各標的タンパク質ベクターの必要濃度および濃度比率は、ステップ(3)で示した総ベクター濃度に従い算出することができる。
【0030】
各標的タンパク質ベクターの必要体積と体積比率は、ステップ(3)で示した総ベクター濃度と、各ベクターの母液濃度に従い算出することができる。各ベクターの母液濃度が同じであれば、各標的タンパク質ベクターの濃度比率関係は、対応する体積比率関係と一致する。
【0031】
(5)複数種のタンパク質を定量的に共発現させる。
【0032】
ステップ(4)で得られた各標的タンパク質ベクターの必要濃度もしくは濃度比率、または各標的タンパク質ベクターの必要体積および体積比率に従い、ステップ(3)で記述したインビトロ無細胞タンパク質合成体系に、各標的タンパク質の独立なベクターの対応する量を添加し、ステップ(3)で定義した特定の反応時間を経て、共発現した複数種の標的タンパク質を得る。
【0033】
インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、鋳型を除き、タンパク質合成に必要な成分を少なくとも含んでいる。インビトロ無細胞タンパク質合成体系は鋳型を含んでいてもいなくてもよい。インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、実験室で調製することもできるし、市販品であってもよい。
【0034】
好ましい実施形態の例の一つとして、インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、以下の成分を含む。
(a)酵母細胞抽出物、
(b)ポリエチレングリコール、
(c)任意の外因性スクロース、および
(d)任意の溶媒、ここで溶媒は水または水性溶媒である。
【0035】
ここで、酵母細胞は、野生型の細胞に由来するものであっても、遺伝子組換え細胞に由来するものであってもよい。
【0036】
ここで、成分(c)および成分(d)における「任意の」という表現は、必ずしも必要でないことを意味し、成分(c)および成分(d)は、それぞれ独立に、必ずしも必要でない。
【0037】
好ましい実施形態では、インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、酵母細胞抽出物、トリヒドロキシメチルアミノメタン(トリス)、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ヌクレオシド三リン酸混合物(NTP)、アミノ酸混合物、リン酸カリウム、アミラーゼ、ポリエチレングリコール、マルトデキストリンなどを含む。もう一つの好ましい実施形態では、本発明で提供されるインビトロ無細胞タンパク質合成系は、酵母細胞抽出物、トリス、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ヌクレオシド三リン酸混合物(NPT)、アミノ酸混合物、リン酸カリウム、アミラーゼ、ポリエチレングリコール、マルトデキストリン、蛍光タンパク質DNAなどを含む。
【0038】
本発明において、インビトロ無細胞タンパク質合成体系における酵母細胞抽出物の割合は、特に限定されていない。一般的には、インビトロ無細胞タンパク質合成体系における酵母細胞抽出物の体積含有率は、20%~70%の範囲内にあり、好ましくは30%~60%の範囲内にあり、より好ましくは、40%~50%の範囲内にある。
【0039】
好ましくは、ステップ(3)における各標的タンパク質の発光値は、最大発光波長において、他のタンパク質に干渉されない。
【0040】
ステップ(3)における各標的タンパク質の濃度パーセンテージにおける濃度とは、インビトロ無細胞タンパク質合成体系において鋳型を添加してから一定時間反応させた後の反応液中に合成された各標的タンパク質の最終濃度を指し、すなわち各標的タンパク質生成物の濃度を指す。好ましくは、前記濃度は反応が16~23時間続いた後の反応溶液中の各標的タンパク質の濃度を指す。
【0041】
好ましくは、ステップ(5)における反応時間は、ステップ(3)で規定した反応時間と一致する。
【0042】
より好ましくは、ステップ(2)におけるベクターは標的タンパク質をコードする配列を含むプラスミドである。すなわち、それぞれの標的タンパク質遺伝子を含む独立なベクターは、それぞれ対応する標的タンパク質コーディング配列を含むプラスミドである。
【0043】
別の好ましい実施形態では、ステップ(3)におけるインビトロ無細胞タンパク質合成体系は、酵母細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、大腸菌ベースのインビトロタンパク質合成体系、哺乳類細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、植物細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、昆虫細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、およびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0044】
別の好ましい実施形態では、酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ、ピキア・パストリスおよびクルイベロミセス、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0045】
別の好ましい実施形態では、発光値は相対蛍光単位(RFU)値である。
【0046】
好ましくは、複数種のタンパク質のうち、試験するあるタンパク質を試験する際に、そのタンパク質の最大励起波長と最大発光波長の条件で試験すると、溶液中の他のタンパク質によって試験するタンパク質の発光値が干渉されず、光学フィルターの使用に適している。
【0047】
いくつかの好ましい実施形態では、複数種の標的タンパク質はそれぞれ独立に発光ラベルを担持する発光タンパク質または融合タンパク質である。発光ラベルは、発光機能を有するポリアミノ酸(少なくとも2つのアミノ酸単位を有する)であり、ペプチドでまたはタンパク質であり得る。
【0048】
別の好ましい実施形態では、標的タンパク質は発光タンパク質である。発光タンパク質は、天然発光タンパク質、改変発光タンパク質、および発光タンパク質を含む融合タンパク質、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0049】
別の好ましい実施形態では、発光タンパク質は蛍光タンパク質である。蛍光タンパク質は、天然蛍光タンパク質、改変蛍光タンパク質、および蛍光タンパク質を含む融合タンパク質、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0050】
別の好ましい実施形態では、蛍光タンパク質は、赤色蛍光タンパク質、オレンジ色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質、シアン色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、または紫色蛍光タンパク質である。
【0051】
別の好ましい実施形態では、複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法は、標的タンパク質の分離・精製をさらに含む、すなわち、以下のプロセス:標的タンパク質の分離、および標的タンパク質の精製のうち少なくとも1つを含む。
【0052】
本発明の第二方面では、本発明の第一方面での複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法における、インビトロ無細胞タンパク質合成体系の応用を提供する。
【0053】
本発明の第三方面では、インビトロ無細胞タンパク質合成体系を用いて発現された1種または複数種の蛍光タンパク質を提供する。ここで、複数種の蛍光タンパク質は、同じ反応体系で共発現される。
【0054】
本発明の主な利点は以下を含む。
【0055】
(1)本発明は、複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法を初めて提供するものである。この方法では、インビトロの無細胞タンパク質合成体系を用いて複数種のタンパク質を合成し、これは、操作が簡単で、効率的かつ迅速である。これを用いて蛍光タンパク質を合成すると、肉眼で視覚的に検出できる測定可能な蛍光強度を得ることができる。従来の方法に比べ、効率的かつ直感的に発現タンパク質をリアルタイムでモニターすることができ、複雑な現象を単純化することができる。
【0056】
(2)複数種の蛍光タンパク質を定量的に共発現させる方法、すなわち複数種のタンパク質を同一体系内で同時に合成する方法が提供される。この方法では、あらかじめ設定された比率で標的タンパク質を定量的に合成することができる。
【0057】
(3)本発明方法は、治療用タンパク質の合成に用いることができる。例えば、本発明方法は、抗体の重鎖タンパク質と軽鎖タンパク質をインビトロで定量的に共発現させ、抗体の重鎖タンパク質と軽鎖タンパク質をある比率で合成するように構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1図1は緑色系(シアン、緑、黄を含む)を認識するために、最大Ex/Em(励起/発光波長)が488/507nmであるときの、インビトロで合成した蛍光タンパク質の相対蛍光単位(RFU)値の決定を図式で示すグラフである。図1は複数種の蛍光タンパク質(19種のタンパク質、例えばmoxCerulean3、AmCyan1、MiCy、mEGFP、Clover、mVenus、ZsYellow1およびmEos3.2を含む)の総RFU値(すなわち、反応終了後の反応液のRFU値)と、を遠心分離にかけたタンパク質の上澄みのRFU値を示し、ここで上澄み中のAmCyan1およびZsYellow1の発現量は比較的に低い。
【0059】
図2図2は赤色系(赤、タンジェリン色、遠赤色等を含む)を認識するために、最大Ex/Em(励起/発光波長)が569/593nmであるときの、インビトロで合成した蛍光タンパク質の相対蛍光単位(RFU)値の決定を図式で示すグラフである。図2は複数種の蛍光タンパク質(17種のタンパク質、例えばmKO2、TurboRFP、tdTomato、eqFP611、mKate1.3、mNeptune2およびmiRFP670を含む)の総RFU値(すなわち、反応終了後の反応液のRFU値)と、を遠心分離にかけたタンパク質の上澄みRFU値を示し、ここで上澄み中のTurboRFPの発現量は比較的に低い。
【0060】
図3図3は、9種類のタンパク質の蛍光イメージングの結果を示す。図3aは、励起光と放射光がそれぞれ、430nmと535nmの波長を有する場合の蛍光イメージングの結果である。図3bは、励起光と放射光がそれぞれ、530nmと605nmの波長を有する場合の蛍光イメージングの結果である。図3においてSDS-PAGE電気泳動タンパク質により示される分子量とともに、表1に記載された単一分子量に従い、タンパク質の凝集構造を分析した。ここでAmCyan1とZsGreenは四量体構造であり、MiCyは二量体構造であり、moxCerulean3、Clover、mVenus、mKO2、tdTomatoおよびmKate1.3は単量体構造である。
【0061】
図4図4は、Ni-ビーズ精製の最適化前の精製タンパク質のクマシーブリリアントブルー染色のゲルイメージングの結果である。この結果は、タンパク質mAmetrineおよびmEOS3.2のみが単一の高純度タンパク質を得ており、AmCyan1、ZsGreen、MiCy、moxCerulean3、Clover、mVenus、mKO2、tdTomato、mKate1.3、mTagBFP2、ZsYellow1、mNeptune2およびPAmCherryの精製されたバンドサイズが正しく、はっきりと見えており、いずれも不純物タンパク質を含んでおり、ここでmiRFP670のバンドは弱く、eqFP611は精製されたバンドを得ていないことを示している。
【0062】
図5図5は、Ni-ビーズ精製の最適化後の精製タンパク質のクマシーブリリアントブルー染色のゲルイメージングの結果を示しており、精製されたタンパク質は18種類のタンパク質、すなわちAmCyan1、ZsGreen、MiCy、moxCerulean3、Clover、mVenus、mKO2、tdTomato、mKate1.3、mTagBFP2、ZsYellow1、mEOS3.2、TurboRFP、eqFP611、mNeptune2、miRFP670、mAmetrineおよびPAmCherryを含み、tdTomatoを除いて、上記のタンパク質はすべて単一の高純度タンパク質を得ている。クマシーブリリアントブルー染色の結果は、バンドサイズは正しく、はっきりと見えるが、eqFP611およびmiRFP670のバンドは弱いことを示している。
【0063】
図6図6は、タンパク質の濃度と相対蛍光単位(RFU)値との間の関係を示す。蛍光タンパク質tdTomato、cloverおよびMicyを例にとると、1つのタンパク質の濃度はRFU値と正に相関し、その関係は基本的に線形である。
【0064】
図7図7は、タンパク質を単独で発現させた場合のDNA鋳型比率と相対蛍光単位(RFU)値との間の関係を示す。蛍光タンパク質tdTomato、Clover、およびMicyを例にとると、tdTomatoまたはCloverまたはMiCyを単独で発現させた場合、タンパク質の収率は必ずしも鋳型の量とは関係しない。ここでいう鋳型比率とは、図に示されているように100%のときの濃度値を基準にして、鋳型溶液の濃度を異なる程度に希釈して得られる一連の異なる比率を指す。
【0065】
図8図8は、2種のタンパク質を共発現させた体系でのタンパク質の鋳型比と相対蛍光単位(RFU)値との間の関係を示す。tdTomatoおよびCloverが同じ反応体系で共発現されているように、2種のタンパク質が共発現される場合、タンパク質の収率は鋳型の量と正に相関し、その関係は基本的に線形である。ここでいう鋳型比とは、共発現させた2種のタンパク質の鋳型の総量に対する、その中の1種のタンパク質の鋳型の量との一連の異なる比率を指す。
【0066】
図9図9は、3種のタンパク質を共発現させた体系でのタンパク質の鋳型比率と相対蛍光単位(RFU)値との間の関係を示したものである。tdTomato、CloverおよびmKate1.3が同じ反応系で共発現されるように、3種のタンパク質が共発現している場合、タンパク質の収率は鋳型の量と正に相関し、その関係は基本的に線形である。図9に示すように、A1、B1、C1、D1、E1、F1、G1は、Clover:tdTomato:mKate1.3の、鋳型比率が、それぞれ1:1:1、1:2:3、1:3:2、2:1:3、2:3:1、3:1:2、3:2:1であることを表し、A2、B2、C2、D2、E2、F2、G2はClover:tdTomato:mNeptune2の鋳型比率が、それぞれ、1:1:1、1:2:3、1:3:2、2:1:3、2:3:1、3:1:2、3:2:1であることを表す。ここでの鋳型比率とは、共発現させた3種のタンパク質の鋳型の総量に対する、1種のタンパク質の鋳型の量との一連の異なる比率を指す。
【0067】
図10図10は、蛍光タンパク質を合成する方法のフローチャートである。インビトロ無細胞タンパク質合成体系を用いて18種の蛍光タンパク質を合成し、合成したタンパク質を精製して異なる色の蛍光タンパク質を得る。得られた蛍光タンパク質は高い純度を有し、肉眼で見ることができる。
【0068】
図11図11は、pD2Pプラスミドのマップである。pD2Pプラスミドは、6384bpの長さを有し、以下の要素:プロモーター要素(図の記載なし)、5’UTR(オメガエンハンサーを含む)、シグナルペプチドコーディング配列(SP12)、標的タンパク質コーディング遺伝子、LAC4ターミネーター、多重クローニング部位(MCS)、T7ターミネーター、複製起点(flori)、AmpRプロモーター、アンピリシン耐性遺伝子(AmpR遺伝子)、高コピー数複製起点(ori)、プラスミドのコピー数を制御する遺伝子(rop遺伝子)、laeIプロモーター、LacIのコーディング配列などを含む。[詳細な説明] 用語 本発明では、「インビトロタンパク質合成体系」、「インビトロ無細胞タンパク質合成体系」、「無細胞タンパク質合成体系」は同じ意味を持ち、互換的に使用することができる。
【0069】
本発明では、「遺伝子」という用語は、あるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を指す。「遺伝子」という用語は、タンパク質のコーディング配列(CDS)を含む。
【0070】
コーディング配列はCDSと略記される。タンパク質のコドンに完全に対応するヌクレオチド配列はタンパク質には対応しない他の配列を含まない(mRNAの処理プロセスや他のプロセス中の配列変化は考慮していない。)
本発明では、「発光機能を有する」という表現は、感光性を有することをいい、検出可能な波長の光を放出させることができる。発光特性によれば、発光機能には、蛍光、燐光、紫外光、赤外光などが含まれるが、これらに限定されない。発光の原理によれば、発光機能は、フォトルミネセンス、ケミルミネセンス、自己発光などであり得る。
【0071】
本発明において、基質濃度のキャラクタリゼーション方法は、定量化が次の方法すなわち、質量濃度、モル濃度、質量体積濃度、および体積濃度などを含むが、これらに限定されない方法を用いることによって達成される限り、特に制限されない。タンパク質、ベクターおよび他の物質については、キャラクタリゼーションおよび定量化に適した濃度形態を独立に用いることができる。
【0072】
本発明では、「標的タンパク質の濃度」は、好ましくは質量濃度または質量体積濃度であり、他の定量化可能な濃度形態、例えばモル濃度なども選択可能である。
【0073】
本発明では、「複数種」とは2種以上(2種を含む)を意味する。
【0074】
本発明では、「複数回」とは、2回以上(2回を含む)を意味する。
【0075】
本発明では、「任意」とは、それが必ずしも本発明の実施形態である必要はないが、本発明の技術的解決策に応じて選択的に適用できることを意味する。そして、本発明の技術的解決策に適しているかどうかが選択の基準とされる。
【0076】
本発明では、「その組合せ」とは上記対象物を少なくとも2種含む、任意の適切な組合せを意味する。
【0077】
上述した本発明の技術的特徴と、以下に(例えば例において)具体的に説明する技術的特徴は、互いに組合せて、新しいまたは好ましい技術的解決策を構成することができることを理解すべきである。
【0078】
インビトロタンパク質合成体系
いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、以下を含むインビトロタンパク質合成系を提供する。
(a)細胞抽出物、好ましくは、酵母細胞抽出物、
(b)任意の適切なクラウディング剤、例えばポリエチレングリコール、
(c)任意の外因性なスクロース、および
(d)任意の溶媒、ここで溶媒は水または水性溶媒である。
【0079】
成分(c)と成分(d)における「任意の」という表現は、それぞれ独立に、成分(c)と成分(d)が不要であることを表す。
【0080】
好ましい実施形態では、本発明によるインビトロタンパク質合成体系は、酵母細胞抽出物、トリス、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ヌクレオシド三リン酸混合物(NTPs)、アミノ酸混合物、リン酸カリウム、アミラーゼ、ポリエチレングリコール、マルトデキストリン(maltodextrin)などを含む。蛍光タンパク質DNA等を、インビトロタンパク質合成反応のために、インビトロタンパク質合成体系にさらに添加することもできる。
【0081】
本発明において、インビトロ無細胞タンパク質合成体系における酵母細胞抽出物の割合は、特に限定されない。一般的にはインビトロ無細胞タンパク質合成体系における酵母細胞抽出物の体積含有率は、20%~70%の範囲内、好ましくは、30%~60%の範囲内、より好ましくは、40%~50%の範囲内(50%)にある。
【0082】
本発明において、細胞抽出物は、好ましくは、無傷細胞を含まない。細胞抽出物を調製するために、適切な既報告の細胞抽出物調製技術を選択することができる。細胞抽出物の調製は、通常、少なくとも、次のような手順を含む:適量の酵母細胞を提供する、細胞を破砕する、固液分離を行う、および上澄みを回収する。細胞抽出物の調製方法に従い得られた抽出物には、少量またはごく少量の無傷細胞が残っていることがあり得、この種の抽出物もまた本発明の細胞抽出物の範囲に含まれる。細胞抽出物は、無傷細胞の存在を排除するものではない。
【0083】
本発明のインビトロタンパク質合成体系もまた、本発明の目的の実現に影響を与えない限り、つまり定量的な共発現の実現に影響を与えない限り、無傷細胞の存在を排除するものではない。これらの無傷細胞の存在の背後には多くの要因がある。無傷細胞は、細胞抽出物を調製する過程で生じた残留物であり得るし、意図的に導入されたものであり得、例えば、細胞を単純に破壊して添加して得られた細胞断片は、完全に破壊された生成物と無傷細胞の混合物であり得、または無傷細胞を単独で添加したことにより、無傷細胞が存在する。
【0084】
典型的な細胞抽出物(酵母細胞抽出物を含む)は、タンパク質翻訳のためのリボソーム、tRNAおよびアミノアシルtRNA、シンテターゼ、タンパク質合成に必要な開始因子、伸長因子および終結放出因子を含む。さらに細胞抽出物(酵母細胞抽出物を含む)は、細胞質由来のいくつかの他のタンパク質、特に可溶性タンパク質も含む。
【0085】
いくつかの好ましい実施形態では、酵母細胞抽出物はクルイベロミセス細胞抽出物である。いくつかの好ましい実施形態において、クルイベロミセスは、クルイベロミセス・ラクチス(K.ラクチス)、クルイベロミセス・ラクチス変種ドロソフィララム、クルイベロミセス・ラクチス変種ラクチス、クルイベロミセス・マルキシアヌス、クルイベロミセス・アルキシアヌス変種ラクチス、クルイベロミセス・マルキシアヌス変種マルキシアヌス、クルイベロミセス・マルキシアヌス変種バヌデニー、クルイベロミセス・ドブシャンスキイ、クルイベロミセス・アエステツアリイ、クルイベロミセス・ノンファーメンタス、クルイベロミセス・ウィッカーハミイ、クルイベロミセス・サーモトレランス、クルイベロミセス・フラジリス、クルイベロミセス・フベイエンシス、クルイベロミセス・ポリスポラム、クルイベロミセス・シアメンシス、クルイベロミセス・ヤロウィおよびこれらの組合せからなる群の中から選ばれる。
【0086】
インビトロ無細胞タンパク質合成体系に必要なタンパク質成分(例えば、RNAポリメラーゼ)は、内因的に提供され、または外因的に添加されて得る。それらが内因的に提供される場合、限定されないが、以下の既存文献や引用文献:CN108690139A、CN109423496A、CN106978439A、CN110408635A、CN110551700A、CN110093284A、CN110845622A、CN110938649A、CN2018116198190、“Molecular and Cellular Biology, 1990, 10(1):353-360”に提供されている遺伝子組換え方法を参考にすることができる。これらの方法は、コーティング配列を細胞内エピソーマルプラスミドに挿入すること、コーティング遺伝子を細胞ゲノムに組み込むこと、またはそれらの組合せを含む。それらが外因的に提供される場合、その含有量は当該系により要求されるとおりに制御および調整することができる。
【0087】
いくつかの好ましい実施形態では、インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、酵母細胞抽出物、トリス、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ヌクレオシド三リン酸混合物(NTP)、アミノ酸混合物、リン酸カリウム、糖(グルコース、スクロース、マルトデキストリンおよびそれらの組合せのいずれかであり、マルトデキストリンが含まれる場合にはアミラーゼも好ましく含まれる)、ポリエチレングリコール、RNAポリメラーゼなどを含む。RNAポリメラーゼは内因的に提供され、または、外因的に添加され得る。RNAポリメラーゼのより好ましい形態の一つはT7RNAポリメラーゼである。
【0088】
いくつかの好ましい実施形態では、インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、外因的に添加されたRNAポリメラーゼを含む。
【0089】
いくつかの好ましい実施形態では、インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、外因的に添加されたT7RNAポリメラーゼを含む。
【0090】
いくつかの好ましい実施形態では、インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、クルイベロミセス・ラクチス細胞抽出物および外因的に添加されたT7RNAポリメラーゼを含む。いくつかの好ましい実施形態では、T7RNAポリメラーゼの濃度は、0.01~0.3mg/mLの範囲内にある。いくつかの他の好ましい実施形態では、T7RNAポリメラーゼの濃度は、0.02~0.1mg/mLの範囲内にある。いくつかの他の好ましい実施形態では、T7RNAポリメラーゼの濃度は、0.027~0.054mg/mLの範囲内にある。いくつかの他の好ましい実施形態では、T7RNAポリメラーゼの濃度は0.04mg/mLである。
【0091】
本発明において、酵母細胞抽出物のタンパク質含有量は、好ましくは20mg/mL~100mg/mLの範囲内にあり、より好ましくは50mg/mL~100mg/mLの範囲内にある。タンパク質含量の測定方法は、クーマシーブリリアントブルーアッセイである。
【0092】
インビトロ無細胞タンパク質合成体系におけるヌクレオシド三リン酸の混合物は、好ましくは、アデノシン三リン酸、グアノシン三リン酸、シチジン三リン酸およびウリジン三リン酸を含む。本発明において、各種モノヌクレオチドの濃度には特に制限はない。一般的に、各モノヌクレオチドの濃度は、0.5mMから5mMまでの範囲内にあり、好ましくは1.0mMから2.0mMまでの範囲内にある。
【0093】
インビトロ無細胞タンパク質合成体系におけるアミノ酸混合物は、天然アミノ酸または非天然アミノ酸を含んでいてもよく、D型のアミノ酸またはL型のアミノ酸を含んでいてもよい。代表的なアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、セリン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニンおよびヒスチジンの20種類の天然のアミノ酸を含むが、これらに限定されるものではない。各アミノ酸の濃度は、通常0.01mMから0.5mMまでの範囲内、好ましくは、0.02mMから0.2mMまでの範囲内にあり、例えば、0.05mM、0.06mM、0.07mM、0.08mMである。
【0094】
いくつかの好ましい実施形態では、インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、ポリエチレングリコール(PEG)またはその類似体をさらに含む。ポリエチレングリコールまたはその類似体の濃度は、特に限定されない。一般的に、ポリエチレングリコールまたはその類似体の濃度(w/v)は、タンパク質合成体系の総体積を基準にして、0.1%から8%までの範囲内、好ましくは、0.5%から4%までの範囲内、より好ましくは1%から2%までの範囲内にある。PEGの代表例は、PEG3000、PEG8000、PEG6000およびPEG3350を含むが、これらに限定されるものではない。本発明での体系は、他の様々な分子量を有するポリエチレングリコール(PEG200、400、1500、2000、4000、6000、8000、10000など)をさらに含んでいてもよいことを理解すべきである。
【0095】
いくつかの好ましい実施形態では、インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、スクロースをさらに含む。スクロースの濃度は特に限定されない。一般的に、スクロースの濃度(w/v)は、タンパク質合成体系の総体積を基準にして、0.2%から4%までの範囲内、好ましくは、0.5%から4%までの範囲内、より好ましくは、0.5%から1%までの範囲内にある。
【0096】
酵母抽出物に加えて、いくつかの好ましいインビトロ無細胞タンパク質合成体系は、以下の成分:22mMトリス(pH8)、30~150mM酢酸カリウム、1.0~5.0mM酢酸マグネシウム、1.5~4mMヌクレオチド三リン酸混合物、0.08~0.24mMアミノ酸混合物、20~25mMリン酸カリウム、0.001~0.005mg/mLアミラーゼ、1%~4%ポリエチレングリコール、320~360mMマルトデキストリン(グルコース単位のモル量を基準とする)、8~25ng/μL蛍光タンパク質DNAなどをさらに含む。さらに、インビトロ無細胞タンパク質合成体系の総体積は、10μLから10000μLまでの範囲内、好ましくは、15μから100μLまでの範囲内にあり、好ましくは30μLである。酵母抽出物は、より好ましくはクルイベロミセス細胞抽出物であり、さらに好ましくはクルイベロミセス・ラクチス抽出物である。
【0097】
酵母抽出物に加えて、特にいくつかの特に好ましいインビトロ無細胞タンパク質合成体系は、以下の成分:22mMトリス(pH8)、30~150mM酢酸カリウム、1.0~5.0mM酢酸マグネシウム、1.5~4mMヌクレオチド三リン酸混合物、0.08~0.24mMアミノ酸混合物、20~25mMリン酸カリウム、0.001~0.005mg/mLアミラーゼ、1%~4%ポリエチレングリコール、320~360mMマルトデキストリン(グルコース単位のモル量を基準とする)、0.027~0.054mg/mL T7RNAポリメラーゼなどを含む。インビトロタンパク質合成反応のために、それらの成分を8~25ng/μLの蛍光タンパク質DNAと混合することができる。反応体積は、好ましくは15μLから100μLまでの範囲内にある。好ましい体積のひとつは30μLである。
【0098】
鋳型
本発明において、用語「鋳型」は、タンパク質合成を指導するために使用される核酸テンプレートを指し、mRNA、DNA鋳型、またはそれらの組合せであることができ、好ましくはDNA鋳型である。それは直線状でも環状でもよく、好ましい鋳型のひとつは環状プラスミドである。
【0099】
インビトロタンパク質合成のプロセス中、標的タンパク質の合成を開始するための鋳型中のプロモーターはAOD1、MOX、AUG1、AOX1、GAP、FLD1、PEX8、YPT1、LAC4、PGK、ADH4、AMY1、GAM1、XYL1、XPR2、TEF、RPS7、T7、およびこれらのいずれか適切な組合せからなる群から選択することができる。好ましいプロモーターのひとつはT7プロモーターである。
【0100】
相互干渉なし
本発明において、「相互干渉なし」とは、複数種のタンパク質を含む混合溶液中で、複数種のタンパク質中の1種以上の試験するタンパク質(すなわち標的タンパク質)を測定する際に、実験の発光検出条件、例えば、最大励起波長、最大発光波長および光学フィルターの使用に適した条件で、他の蛍光タンパク質または融合タンパク質の発光値が試験する1種以上のタンパク質の発光値とほとんどまたは全く重ならないことを意味する。使用する光学フィルターがタンパク質の光学特性とマッチしていない場合、例えば、以下の実施形態におけるタンパク質の比率と対応するベクターのパーセンテージとの間の線形関係など、一部の線形関係の不正確なキャラクタリゼーションをもたらし得ることに注意すべきである。
【0101】
この実験の蛍光検出条件下において、他の蛍光タンパク質または蛍光融合タンパク質の発光値が1種以上の試験するタンパク質の発光値と部分的に重なる(例えば干渉する)場合には、本発明における技術的解決策を実施することが可能であることに注意すべきである。部分的な重なりとは、特定の蛍光検出条件下において、測定された発光信号が試験するタンパク質の発光信号と他のタンパク質の発生信号を含み、そのような重なりが本発明の技術的解決策を用いた試験するタンパク質の検出に影響を与えないことを意味する。
【0102】
標準タンパク質
本発明において、標準タンパク質とは、1種以上(1種を含む)の標的タンパク質の濃度と発光値との間の線形関係を校正するためのタンパク質サンプルを指す。標準タンパク質は、蛍光タンパク質または蛍光融合タンパク質であり得、検査対象の標的タンパク質分子に含まれる発光ユニットにより決定される。例えば、標準タンパク質は、標的タンパク質または標的タンパク質の構造に含まれる蛍光タンパク質(標的タンパク質が融合蛍光タンパク質である場合、標的タンパク質分子が蛍光タンパク質と融合していることを意味する)、または発光ラベルであることができる。標準タンパク質の純度および濃度は、既知であるか、または使用前に決定される。
【0103】
複数種のタンパク質を共発現させる
本発明において、このようなプロセスとは、反応系における複数種のタンパク質の生成物濃度に特定の比率を割り当て、この予め設定された濃度比率でインビトロタンパク質合成反応を開始する、その結果、予め設定された濃度割合関係を有する複数種の標的タンパク質の生成物を得ることができるもの、または反応体系における複数種の生成物濃度に特定の値を割り当て、インビトロタンパク質合成反応をこの濃度で開始する、その結果所望の定量的関係を有する複数種のタンパク質生成物を得ることができるものをいう。
【0104】
蛍光タンパク質
下村はクラゲから緑色蛍光タンパク質(GFP)を初めて単離し、チャルフィーは発現のためにGFPを他の生物種中に初めてクローン化させた。チェンは、GFPの発光の化学的メカニズムを率先して詳細にわたって解明し、単一点突然変異(S65T)技術によって大幅に向上した蛍光強度と光安定性を有するGFP変異体(GFP-S65T)を得た。チェンに代表される多くの研究者たちが、GFPに遺伝子変異を導入してGFPをさらに形質転換させて、青色蛍光タンパク質(BFP、青色FP)、シアン蛍光タンパク質(CFP、シアンFP)、緑色蛍光タンパク質(GFP、緑色FP)および黄色蛍光タンパク質(YFP、黄色FP)を得た。その後、研究者たちは、サンゴやイソギンチャクおよび他の生物種から、赤色シフト蛍光タンパク質をクローン化し、これは蛍光タンパク質のマルチカラーイメージングへの応用を大きく広げた。近年、科学者たちは、光活性化および光変換蛍光タンパク質を、高解像度のイメージングに巧みに応用し、光回折の限界を打ち破り、数十ナノメートルの解像度を獲得した。これは、顕微鏡イメージング技術の歴史における革新的な飛躍である。それ以来、蛍光タンパク質は生命科学のさらなる発展の原動力となっている。
【0105】
1962年、下村脩は北極海の氷海域に生息するクラゲ「オワンクラゲ」中の緑色蛍光タンパク質(GFP)を初めて発見し、GFPを単離・精製した。マーチン・チャルフィーはGFPの価値を発見し、魔法の道具であるGFPを使って初めて実験的な研究を行った。1994年には、ヨングジャン・キアンがGFPを改変し、GFPの蛍光をより強くならせ、色を変化させた。この3人の科学者は、2008年にノーベル化学賞を受賞した。それ以来、蛍光タンパク質はバイオテクノロジーに新たな革新をもたらした。クラゲから発見されたGFPは、26.9kDaの分子量を有する238個のアミノ酸から構成され、65、66および67位のアミノ酸が自発的に蛍光発光基p-ヒドロキシベンジルイミダゾリジノンを作り、これが光で励起されて蛍光を生み出す。多くの科学者たちは、蛍光タンパク質の発光メカニズムを利用して、クラゲから蛍光タンパク質遺伝子を抽出し、他の生物に移すことで、生物の変化をより多様化させた。1992年にGFPがクローン化されて以来、科学研究者たちは多くのGFP変異体および非変異タンパク質を設計し、現代の生物学的研究に強力な研究手段を提供した。
【0106】
蛍光タンパク質は様々な色を持ち、その蛍光は安定していて毒性がないので、基質および補因子を加えなくても発色することができ、物種や細胞の種類、場所に制限されず、複雑な系統構造を可視化し、規則的な時間および特定の位置で検出することができ、なので、蛍光タンパク質は広く利用されている。報告されている蛍光タンパク質のスペクトルは可視光領域にわたって分布しており、遺伝子の発現と制御、タンパク質の空間的位置と輸送、タンパク質の折り畳み、シグナル伝達、プロテアーゼ活性分析、生体分子の相互作用などの生物学的研究分野で広く利用されており、なので、蛍光マウス、蛍光ウサギおよび蛍光ブタが出現している。その間にも、それらは、腫瘍の病態解明、薬物スクリーニング、飼料材料の改良、水生環境の検出、栄養代謝研究などの分野でも利用されている。
【0107】
本発明では、実用性を考慮して、異なる励起および発光波長、高輝度、異なる会合構造、および異なる色を有するタンパク質を選択している。表1に示す以下の変異体(eGFPをベースに改変されたタンパク質)の特性を持つ18種類のタンパク質のうち、計11種を選択する。
【0108】
【表1】
【0109】
他の引用文献
次の細胞種、大腸菌、小麦胚芽細胞、ウサギ網状赤血球溶解物(RRL)、サッカロマイセス・セレビシエ、ピキア・パストリス、クルイベロミセス・マルキシアヌスおよび他の細胞種をベースにした、報告されているインビトロ無細胞タンパク質合成体系を、本発明のインビトロ無細胞タンパク質合成体系の代替形態として本発明に組み込むことができる。例えば、WO2016005982A1に記録されている大腸菌ベースのインビトロ無細胞タンパク質合成体系、および参照文献Lu, Y.著の「Advances in Cell-Free Biosynthetic Technology. Current Developments in Biotechnology and Bioengineering、2019年、章2,節23―45」の27~28ページの「2.1Systems and Advantages」に限らない節における引用文献に記録されているインビトロ無細胞タンパク質合成体系を、適切な場合、本発明のインビトロ無細胞タンパク質合成体系を実施するために用いることができる。
【0110】
本発明のインビトロタンパク質合成体系、鋳型、プラスミド、標的タンパク質、インビトロタンパク質合成反応(インキュベーション反応)、各種調製方法、各種検出方法および他の技術的要素は、以下の文献、CN106978349A、CN108535489A、CN108690139A、CN108949801A、CN108642076A、CN109022478A、CN109423496A、CN109423497A、CN109423509A、CN109837293A、CN109971783A、CN109988801A、CN109971775A、CN110093284A、CN11048635A、CN110408636A、CN110551745A、CN110551700A、CN110551785A、CN110819647A(CN201808881848)、CN110845622A(CN201809550734)、CN110938649A(CN2018111131300)、CN110964736A(CN2018111423277)、CN2018110683534、CN2018116198186、CN2018116198190、CN201902128619、CN2019102355148、CN2019107298813、CN2019112066163、CN2018112862093、CN2019114181518、CN2020100693833、CN2020101796894、CN20201026933X、CN2020102693382、CN2020103469030から適切な実施方法を独立に得ることができるが、これらに限定されるものではない。本発明の目的に抵触しない限り、これらの文献およびその引用文献は、その全体が本明細書に引用されている。
【0111】
本発明はさらに、
ステップ1、共発現させる複数種の標的タンパク質と各標的タンパク質の目標発現パーセンテージを決定しインビトロ無細胞タンパク質合成体系を提供する、
ステップ2、各標的タンパク質をそれぞれ発現させるために、それぞれの標的タンパク質遺伝子を含むベクターをそれぞれ作成し、ベクターは1つの標的タンパク質のコーディング配列のみを含む、
ステップ3、各標的タンパク質の発現パーセンテージと対応するベクターの量のパーセンテージの間の定量的関係の式を作成する、
それぞれの標的タンパク質のベクターを、インビトロタンパク質合成のために、ある総ベクター濃度とあるベクター量比に従い、インビトロタンパク質合成体系に添加し、特定の反応時間後に、各標的タンパク質生成物の発現レベルを測定し、分析に効果的であり、かつ各標的タンパク質生成物の発現レベルのパーセンテージと対応するベクターの量のパーセンテージとの定量的な関係の式をフィッティングにより得ることができるまで、あらかじめ設定した総ベクター濃度と一連の異なるベクター量比に従い、インビトロ無細胞タンパク質合成反応を複数回行う、
ステップ4、複数種のタンパク質を定量的に共発現させるために必要なベクターの量のパーセンテージを計算する、
発現させる複数種の標的タンパク質の目標発現レベルの比率に従い、発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれに必要なベクター量またはベクター量比率を、総ベクター濃度が算出される条件で、ステップ3で作成した定量関係式を用いて得る、
ステップ5、複数の標的タンパク質を定量的に共発現させる、
複数種の標的タンパク質を発現させるために必要なベクターの量またはパーセンテージに従い、それぞれの標的タンパク質のベクターの対応する量を、インビトロタンパク質合成反応のために、ステップ3で説明したインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加し、ステップ(3)で規定した特定の時間反応させた後に、共発現した複数種の標的タンパク質を得るのを含む、複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法を提供する。
【0112】
本発明の手引きの下、非蛍光の方法または非発光の方法でタンパク質生成物の発現レベルを定量的に決定することにより、複数種のタンパク質を定量的に共発現させる方法も本発明の範囲内にある。紫外線吸収や赤外線吸収などの非発光の方法で、タンパク質の発現レベルを定量的にキャラクタライズする。
【0113】
以下、具体的な例および添付の図1~11と併せて、本発明をさらに説明する。例1~4で用いたプロセスの技術の流れを図10に示す。これらの例は、本発明を説明するためのみ用いられ、本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。以下の例における具体的に記載された条件を伴わない実験方法に関しては、従来の条件、例えば、Sambrook et, al 著のMolecular Cloning : A laboratory Manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)に記載されている条件またはメーカーが推奨する条件に従うのが一般的である。特に明記しない限り、パーセンテージおよびポーションは重量でのパーセンテージおよびポーションを示す。以下の例において、クルイベロミセス・ラクチス(クルイベロミセス・ラクチスNRRL Y-1140)は説明のための例示に過ぎず、本発明はクルベロミセス・ラクチスのみ適用されることを意味するものではなく、それどころか、それは本発明の具体的な発現系として研究のために使用されているに過ぎない。例における技術的解決方法は、他の酵母細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、大腸菌ベースのインビトロタンパク質合成体系、哺乳類細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、植物細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、昆虫細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系にも適用される。
【0114】
本発明の例として使用した材料や試薬は、特記しない限り、すべて市販品である。
【0115】
例1 異なる蛍光タンパク質発現配列のDNAスクリーニングとコドング最適化
異なるデーターベースを検索することで、18種類の蛍光タンパク質遺伝子のコーディング配列をBlastにかけ、クルイベロミセス・ラクチスベースのインビトロ無細胞タンパク質合成体系に適させるようにコドンを最適化した。
【0116】
例2 インビトロ無細胞タンパク質合成体系のための真核細胞翻訳制御配列、蛍光タンパク質コーディング配列、タグ(タンパク質発現および精製配列)を含むプラスミドの構築
2.1全遺伝子合成
ゲノム合成には、表2の最適化されたDNA配列を用いた。
【0117】
2.2プライマー設計
プライマー設計はOligo7.0ソフトウェアで行い、プライマーの配列を表2に示す。
【0118】
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】
【0119】
2.3プラスミドの構築
発現させる標的タンパク質の遺伝子配列をpD2Pプラスミドに挿入し(図11参照)、プラスミドの構築プロセスは、以下の通りである。
【0120】
pD2Pプラスミドを鋳型として、分子クローニング技術を用いてプラスミドの構築を行った。2対のプライマーを用いて、それぞれ2回のPCR増幅を行った。各PCR増幅プロセスの8.5μLの生成物を混合し、続いて1μLのDpnIと2μLの10×Cutsmartバッファーを加え、ついで、その混合物を37℃で3時間インキュベートした。5μLのDpnI処理生成物を50μLのDH5αコンピテントセルに加えた。この混合物を氷上に30分置き、42℃で45分間ヒートショックを与えた後、1mLのLB液体培地を加え、ついで37℃で1時間振とう培養した。その後、混合物をAmp耐性LB固体培地にコーティングし、ついでモノクローナルコロニーが生えてくるまで37℃で転倒培養を行った。3つのモノクローナルコロニーを選び出した後、増殖培養を行った。シークエンシングで正しいことを確認した後、プラスミドを抽出し、保存し、プラスミド濃度を同じレベルに調整した。使用前にすべてのプラスミドを、OD値をもとに測定し、同一濃度(450ng/μL)に調整した、つまり各標的タンパク質の鋳型/ベクターの母液の濃度は同じである。
【0121】
pD2Pプラスミドの中の標的タンパク質のコーディング遺伝子をT7プロモーターで開始した。
【0122】
例3 酵母ベースのインビトロ無細胞タンパク質合成体系における異なる蛍光タンパク質の発現
すべてのプラスミドにおける転写開始配列5’UTRと終結配列3’UTRとの間の全ての断片を、上記プラスミドを鋳型として、phi29DNAポリメラーゼを用いる増幅プロセスを行う方法に従い、ランダムな7塩基のプライマーを用いて増幅させた。増幅した生成物は、種々の蛍光タンパク質の合成のための鋳型DNAとして用いた。転写開始配列5’UTRと終結配列3’UTRとの間には、1つ以上のタンデムコンビネーションが含まれていた。このタンデムコンビネーションは、翻訳促進制御要素とタンパク質発現・精製タグ要素とを含む。
【0123】
使用説明に従い、準備した蛍光タンパク質の鋳型DNA(異なる蛍光タンパク質の鋳型の母液濃度は同じ)を自作のクルイベロミセス・ラクチスベースのインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加した。
【0124】
本例で使用したインビトロ無細胞タンパク質合成体系(総容量30μLを有する)は、クルイベロミセス・ラクチス細胞抽出物50%(v/v)、22mMトリス(pH8)、90mM酢酸カリウム、4.0mM酢酸マグネシウム、3.0mMヌクレオシド三リン酸混合物、0.16mMアミノ酸混合物、22mMリン酸カリウム、0.003mg/mLアミラーゼ、3%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG-8000)、340mMマルトデキストリン(グルコース単位で、約55mg/mLに相当)、0.04mg/mL外因的添加RNAポリメラーゼ、15ng/mL蛍光タンパク質DNAなどを含む。蛍光タンパク質の種類が1を超える場合、ここでの15ng/μLはすべての蛍光タンパク質DNAの総濃度である。
【0125】
上記の反応体系を22~30℃の環境に置き、約20時間インキュベートした。反応過程中に、異なる蛍光が観察されることがあり、一定時間の間に蛍光の色が徐々に濃く見えた。反応が完了した後、反応系を直ちにTecan Infinite F200/M200マルチファンクショナルマイクロプレートリーダーに設置した。異なる光学フィルターを選択し、測定する蛍光タンパク質の特性に応じて対応する最大励起波長と最大発光波長を設定し、値を読み取り、各蛍光信号の強さを検出し、相対蛍光単位(RFU)値を有効単位とし、その結果を図1および図2に示した。
【0126】
例4 蛍光タンパク質の精製
反応によって得られた蛍光タンパク質は、市販のニッケルビーズ(Sangon,C600033)を用いて最適化し、精製した。具体的な精製方法については、取扱説明書を参照される。精製したタンパク質サンプルの純度を測定してそのタンパク質濃度を得た。精製したタンパク質を溶液にし、その溶液から1μLを取り出し、1μLの5×SDS-ローディングバッファー(DTTなし)に加え、SDS-PAGEを行い、蛍光イメージングを行った。図3(3a,3b)に示すように、明らかな蛍光を持ついくつかのタンパク質を例として選択した。上記の精製タンパク質10μLを取り出し、SDS‐PAGE用に2.5μLの5×SDS-ローディングバッファー(500mMDTTを含む)に加えて、クマシーブリリアントブルー染色脱色およびゲルイメージングを順次行い、最適化前の結果を図4(4a、4b)に、最適化後の結果を図5(5a、5b)に示した。
【0127】
例5 標準曲線の作成
1)単一のタンパク質の濃度と相対蛍光単位(RFU)との関係を検出する。
【0128】
例4でニッケルビーズにより精製したタンパク質サンプルを標準タンパク質サンプルとして用いた。このタンパク質サンプルをバッファー(500mMNaCl+20mMトリス-HCL(pH8.0))で異なる勾配で希釈し、異なる濃度のタンパク質をTecan Infinite F200/M200マルチファンクショナルマイクロプレートリーダーに設置した。異なる光学フィルターを選択し、測定する蛍光タンパク質の特性に応じて対応する最大励起波長と最大発光波長を設定し、RFU値を読み取った。蛍光タンパク質tdTomato、cloverおよびMicyを例にとると、図6(6a~6d)に示すように、1つのタンパク質の濃度はRFU値と正に相関していた。タンパク質濃度に対して信号強度をプロットした曲線をフィッティングすることで、タンパク質質量濃度標準曲線を得た。タンパク質質量濃度標準曲線は以下の通りであった。
=0.00326x, R=0.9994
=0.0433x, R=0.9994
=0.1523x, R=0.9998
式中y、y、およびyは、それぞれ、試験するタンパク質tdTomato、CloverおよびMicyの質量濃度(単位:μg/mL)を表し、x、xおよびxはそれぞれtdTomoto、CloverおよびMicyの発光量(RFU)を表す。
【0129】
2)単一のタンパク質を発現させたときの鋳型比率と相対蛍光単位(RFU)値との関係を検出する。用意した蛍光タンパク質の鋳型DNA(異なる蛍光タンパク質の鋳型の母液濃度は同じであった)を自作のクルイベロミセス・ラクチスベースのインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加した。
【0130】
本例で使用したインビトロ無細胞タンパク質合成体系(総体積30μLを有する)は、クルイベロミセス・ラクチス細胞抽出物50%(v/v)、22mMトリス(pH8)、90mM酢酸カリウム、4.0mM酢酸マグネシウム、3.0mMヌクレオシド三リン酸混合物、0.16mMアミノ酸混合物、22mMリン酸カリウム、0.003mg/mLアミラーゼ、3%(w/v)ポリエチレングリコール、340mMマルトデキストリン(グルコース単位で、約55mg/mLに相当)および15ng/mL蛍光タンパク質DNAなどを含む。
【0131】
上記の反応体系を22~30℃の環境に置き、約20時間インキュベートした。反応が完了した後、反応体系を直ちにTecan Infinite F200/M200マルチファンクショナルマイクロプレートリーダーに設置した。試験した蛍光タンパク質の特性に従い、対応する最大励起波長と最大発光波長を設定し、RFU値を読み取った。例として、蛍光タンパク質tdTmato、Clover、Micyを取った。tdTomato、CloverおよびMicyを別々に発現させた場合、図7(7a~7c)に示すように、タンパク質の収率は鋳型の量(30μLの体系ごとに1μLの鋳型を加え)と無関係であった。
【0132】
例6 2種のタンパク質の定量的共発現
2種のタンパク質を共発現させた体系でのタンパク質の鋳型DNAの体積パーセンテージ(すなわち、2種の蛍光タンパク質の鋳型DNAの総量に対して得られたパーセンテージ)と、タンパク質の質量のパーセンテージ(すなわち、標的タンパク質の総質量に対する各標的タンパク質の質量のパーセンテージでの比率)との関係を検出する。ここでの各タンパク質鋳型の体積パーセンテージは、各タンパク質の濃度パーセンテージと一致していた。
【0133】
用意した蛍光タンパク質のDNA鋳型(異なる蛍光タンパク質の鋳型の母液濃度は同じであった)を、自作のクルイベロミセス・ラクチスベースのインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加した。
【0134】
本例で使用したインビトロ無細胞タンパク質合成体系(総体積30μLを有する)は、クルイベロミセス・ラクチス細胞抽出物50%(v/v)、22mMトリス(pH8)、90mM酢酸カリウム、4.0mM酢酸マグネシウム、3.0mMヌクレオシド三リン酸混合物、0.16mMアミノ酸混合物、22mMリン酸カリウム、0.003mg/mLアミラーゼ、3%(w/v)ポリエチレングリコール、340mMマルトデキストリン(グルコース単位で、約55mg/mLに相当)、および15ng/mLの蛍光タンパク質DNA(鋳型の総濃度に相当)を含み、2種の蛍光タンパク質の総体積は1μLであった。
【0135】
上記の反応体系を22~30℃の環境に置き、約20時間インキュベートした。反応が完了した後、反応体系を直ちにTecan Infinite F200/M200マルチファンクショナルマイクロプレートリーダーに設置した。試験した蛍光タンパク質の特性に従い、対応する最大励起波長と最大発光波長を設定し、RFU値を読み取った。2種のタンパク質を共発現させる場合、例えば、tdTomatoとCloverとを、またはtdTomatoとMicyとを同じ反応体系で共発現させる場合、図8(8a~8d)に示すように、タンパク質収量は鋳型量と正に相関し、その関係は基本的に線形であることがわかった。図8では、tdTomatoとCloverの共発現を例にとり、単一種のタンパク質の比率とそのベクターのパーセンテージとの間の線形関係を示しているが、さらに、tdTomatoとMiCyの共発現も1種のタンパク質の比率と対応するベクターの割合との間の同様の線形関係を示している。
【0136】
tdTomatoとCloverの共発現を例に、得られたタンパク質の濃度パーセンテージ(すなわち、総タンパク質に対する全体系における各タンパク質の比率)に対する鋳型DNAの体積パーセンテージ(すなわち、総鋳型体積に対するある鋳型体積の比率であり、数値的には総鋳型濃度に対するある鋳型濃度の比率に等しい)を以下のようにプロットし、例5の標準曲線を組合せることで標準曲線を作る。
【0137】
tdTomatoとCloverとを共発現させた場合、
=1.0371X,R=0.9973(0<X1<0.96)
=0.9713(1-x)=-0.9713x+0.9713,R=0.9969
式中、yおよびyはタンパク質tdTomato、Cloverのパーセンテージを表し、xは2種のタンパク質を共発現させた場合のtdTomatoの鋳型DNAの体積パーセンテージを表す。
【0138】
例7 3種のタンパク質の定量的共発現
3種のタンパク質を共発現させた系における単一種のタンパク質の鋳型比と相対蛍光単位(RFU)値との関係を検出する。
【0139】
用意した蛍光タンパク質のDNA鋳型(異なる蛍光タンパク質の鋳型の母液濃度は同じであった)を、自作のクルイベロミセス・ラクチスベースのインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加した。
【0140】
本例で使用したインビトロ無細胞タンパク質合成体系(総体積30μLを有する)は、クルイベロミセス・ラクチス細胞抽出物50%(v/v)、22mMトリス(pH8)、90mM酢酸カリウム、4.0mM酢酸マグネシウム、3.0mMヌクレオシド三リン酸混合物、0.16mMアミノ酸混合物、22mMリン酸カリウム、0.003mg/mLアミラーゼ、3%(w/v)ポリエチレングリコール、340mMマルトデキストリン(グルコース単位で、約55mg/mLに相当)および15ng/μL蛍光タンパク質DNA(鋳型の総濃度に相当)を含み、3種の蛍光タンパク質の総体積は1μLであった。
【0141】
上記の反応体系を22~30℃の環境に置き、約20時間インキュベートした。反応が完了した後、反応体系を直ちにTecan Infinite F200/M200マルチファンクショナルマイクロプレートリーダーに設置した。試験した蛍光タンパク質の特性に従い、対応する最大励起波長と最大発光波長を設定し、RFU値を読み取った。3種のタンパク質、例えばtdTomato、CloverおよびmKate1.3を共発現させた場合、およびtdTomato、CloverおよびmNeptune2を共発現させた場合、先の例(すなわち例6)で示したのと同様の線形関係であるように思われ、すなわちタンパク質収量は鋳型の量と正に相関し、その関係は基本的に線形であった。図9(9a~9d)に示すように、A1、B1、C1、D1、E1、F1、G1は、Clover:tdTomato:mkate1.3の鋳型比を表し、それぞれ1:1:1、1:2:3、1:3:2、2:1:3、2:3:1、3:1:2、3:2:1であり、A2、B2、C2、D2、E2、F2、G2はClover:tdTomato:mNeptune2の鋳型比を表し、それぞれ、1:1:1、1:2:3、1:3:2、2:1:3、2:3:1、3:1:2であった。
【0142】
本例で、鋳型比とタンパク質収量比率でフィッティングしたタンパク質パーセンテージ標準曲線は以下の通りであった。
【0143】
tdTomato、CloverおよびmKate1.3を共発現させた場合、
=0.9147x+0.1041, R=0.973(0<x<0.979)
式中、yは測定するタンパク質Cloverの含有量(全タンパク質の総量に対する)であり、xは3種のタンパク質を共発現させた場合のCloverの鋳型DNAの体積パーセンテージである。
【0144】
tdTomato、CloverおよびmNeptune2を共発現させた場合、
=0.9664x+0.159,R=0.9721(0<x<1)
式中、yは測定するタンパク質Cloverの含有量(全タンパク質の総量に対する)であり、xは3種のタンパク質を共発現させた場合のCloverの鋳型DNAの体積パーセンテージである。
【0145】
図9では、Cloverのみを例にして、そのタンパク質の比率とそのベクターのパーセンテージとの間の線形関係を示している。加えて、共発現させた他の2種のタンパク質も、タンパク質の比率と対応するベクターのパーセンテージとの間の同様の線形関係を示している。
例8 2種の蛍光タンパク質tdTomatoとCloverの定量的共発現
合成した2種の標的タンパク質の質量濃度比率は、必要に応じて1:1、すなわちtdTomatoタンパク質の濃度は、50%であり、MiCyタンパク質の濃度は50%であった。2種の蛍光タンパク質の鋳型DNAの体積比率関係(濃度比率関係と一致)は、tdTomatoとCloverを共発現させた場合の例6で得られた関係式に従い算出した:
=1.0371x,R=0.973(0<x<0.96)
式中、yはtdTomatoタンパク質のパーセンテージを表し、1-yはCloverタンパク質のパーセンテージを表し、Xは2種のタンパク質を共発現させたときのtdTomato鋳型DNAの体積パーセンテージを表す。
【0146】
つまり、yが50%であったとき、x=50%/1.0371=48%、1-x=1-48%=52%と計算され、2種のタンパク質tdTomatoとCloverのベクターの体積比は0.48:0.52であった。2種のタンパク質ベクターの総量が1μLであったとき、そこに添加したtdTomatoベクターの体積は0.48μLであり、そこに添加したCloverベクターの体積は0.52μLであった。
【0147】
上記の計算結果に従い、同じ鋳型母液濃度を有する2種の蛍光タンパク質tdTomatoとCloverのDNA鋳型(450ng/μL)の0.48μLと0.52μLを、自作のクルイベロミセス・ラクチスベースのインビトロ無細胞タンパク質合成体系(総容量30μLを有する)に添加した。ここで、インビトロ無細胞タンパク質合成体系は、クルイベロミセス・ラクチス細胞抽出物50%(v/v)、22mMトリス(pH8)、90mM酢酸カリウム、4.0mM酢酸マグネシウム、3.0mMヌクレオシド三リン酸混合物、0.16mMアミノ酸混合物、22mMリン酸カリウム、0.003mg/mLアミラーゼ、3%(w/v)ポリエチレングリコール、340mMマルトデキストリン(グルコース単位で、約55mg/mLに相当)、および15ng/μL蛍光タンパク質DNA(鋳型の総濃度に相当)を含み、2種の蛍光タンパク質tdTomatoとCloverの鋳型の総体積は1μLであった。
【0148】
上記の反応体系を22~30℃の環境下に置き、約20時間インキュベートした。反応が完了した後、反応体系を直ちにTecan Infinite F200/M200マルチファンクショナルマイクロプレートリーダーに設置した。試験した蛍光タンパク質の特性に従い、対応する最大励起波長と最大発光波長を設定し、RFU値を読み取った。tdTomatoとCloverのRFU値は、それぞれ1308と975であった。得られたRFU値を例5で説明した標準曲線の関係式に代入した:
=0.0326X,R=0.9994
=0.0433X,R=0.9994
式中、yおよびyはそれぞれ測定するタンパク質tdTomatoとCloverの質量濃度(単位:μg/mL)を表し、X、XはtdTomatoとCloverの発光値(RFU)を表す。以上の式から、試験するtdTomatoとCloverの質量濃度はそれぞれ42.64μg/mLと42.22μg/mLであり、両タンパク質の質量濃度比は42.64:42.22と1:1に近い値であるということが得られた。このような結果は実質的に期待通りのものであった。その結果、本発明の方法は、複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させるのに正確であり、かつ実行可能である。
【0149】
本発明は、複数のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法を初めて提供する。この方法では、インビトロ無細胞タンパク質合成体系を用いて複数種のタンパク質を合成し、その方法は簡便で効率的かつ迅速である。この体系を用いて蛍光タンパク質を合成すると、肉眼で視覚的に検出できる測定可能な蛍光強度を発生させることができる。従来の方法と比較して、効率的かつ直感的にリアルタイムで発現タンパク質をモニターすることができ、複雑な現象を簡略化することができる。複数種の蛍光タンパク質を定量的に共発現させる方法、すなわち、同一体系内で複数種のタンパク質を同時に合成する方法が提供される。この方法では、あらかじめ設定された比率(目標比率)に従い、複数種の目標タンパク質を目標比率で定量的に合成することができる。
【0150】
以上の説明は、本発明の実施形態の一部に過ぎず、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的解決策の手引きおよび教示の下で、同じ技術的効果を有する多くの修正および変形が、当業者には明らかであり、本発明の保護範囲内にある。
【0151】
本発明で言及されているすべての文書は、各文書が個別に参考文献として引用されているのと同様に、本願において参考文献として引用されている。さらに、当業者は上記の教示に照らして本発明に様々な変更または修正を加えることができ、その均等物も本願の添付の特許請求の範囲によって規定される範囲に入ることを理解すべきである。
【0152】
参考文献
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5. Gurskaya, N.G. et al. GFP-like chromoproteins as a source of far-red fluorescent proteins. FEBS Lett, 2001, 507: 16-20.
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7. Chong, S., Overview of Cell-Free Protein Synthesis: Historic Landmarks, Commercial Systems, and Expanding Applications. 2014: John Wiley & Sons, Inc. 16.30.1-16.30.11.
8. Chudakov D M, Lukyanov S, Lukyanov K
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9. Shaner N C, Patterson G H, Davidson M W. Advances in fluorescent protein technology[J]. Journal of cell science, 2007, 120(24): 4247-4260.
10. Satoshi KARASAWA*, Toshio ARAKI*, Takeharu NAGAI*, Hideaki MIZUNO* and Atsushi MIYAWAKI*. Cyan-emitting and orange-emitting fluorescent proteins as a donor/acceptorpair for fluorescence resonance energy transfer. Biochem. J. (2004) 381, 307-312 (Printed in Great Britain).
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、当業者は、これらは例示に過ぎず、本発明の原理と精神から逸脱することなく、これら実施形態に多くの修正と変形を加えることができることを理解すべきである。したがって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
(1)標準曲線を作成する、すなわち、
対応する標準タンパク質を用いて、各共発現タンパク質のタンパク質濃度と発光強度の関係の標準曲線を作成する、
(2)各標準タンパク質をそれぞれ発現させるための、各標準タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを作る、
(3)各標的タンパク質の濃度パーセンテージと、対応するベクターの濃度パーセンテージとの間の定量的関係の式を作成する、
ここで、ステップ(2)における標準タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを、異なる濃度比でタンパク質合成反応のためのインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加し、特定の反応時間後に反応液中の各標的タンパク質の発光値を求め、ステップ(1)で示した標準曲線に従い各標的タンパク質生成物の濃度を算出し、各標的タンパク質生成物の濃度パーセンテージと対応するベクターの濃度パーセンテージとの間の定量的関係の式をフィッティングにより求め、インビトロ無細胞タンパク質合成体系においてベクターの総濃度は同じままである、
(4)複数種のタンパク質を定量的に共発現させるための、ベクターの濃度と濃度比を算出する、
発現させる複数種の標的タンパク質の目標濃度比関係に従い、ステップ(3)で作成した式を用いて、発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれに対するベクターの濃度と濃度比を算出する、
(5)複数種のタンパク質を定量的に共発現させる、
ここで、ステップ(4)で得られた各標的タンパク質ベクターの必要濃度または濃度比に従い、対応する量の、各標的タンパク質の独立なベクターを、ステップ(3)に記載したインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加し、ステップ(3)で規定した特定の時間後に、共発現した複数種の標的タンパク質を得られるのを含む、複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[2]
各母液中の各標的タンパク質の独立なベクターの濃度が同じであり、
ステップ(3)は各標的タンパク質の濃度パーセンテージと、対応するベクターの濃度パーセンテージまたは体積パーセンテージとの間の定量的関係の式を作成する、
ステップ(2)における標的タンパク質遺伝子を含む独立なベクターを、インビトロでのタンパク質合成のために、異なる濃度比率または体積比率でインビトロ無細胞タンパク質合成体系に添加し、特定の反応時間後に反応液中の各標的タンパク質の発光値を求め、ステップ(1)で示した標準曲線に従い各標的タンパク質生成物の濃度を算出し、各標的タンパク質の濃度パーセンテージと対応するベクターの濃度パーセンテージまたは体積パーセンテージとの間の定量関係の式をフィッティングにより求め、
前記インビトロ無細胞タンパク質合成体系において、ベクターの総濃度は同じままであり、
ステップ(4)は、複数種のタンパク質を定量的に共発現させるために必要なベクター濃度またベクター体積と、対応する濃度比率または体積比率とを算出する、
発現させる複数種の標的タンパク質の濃度比関係に従い、ステップ(3)で作成した式を用いて、発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれに必要なベクターの濃度と濃度比とを算出し、または発現させる複数種の標的タンパク質のそれぞれに必要なベクターの体積と体積比率を算出し、
ステップ(5)は、複数種のタンパク質を定量的に共発現させる、
ステップ(4)で得られた各標的タンパク質ベクターの必要濃度もしくは濃度比率、または各標的タンパク質ベクターの必要体積もしくは体積比率に従い、各標的タンパク質の別々のベクターの対応量をステップ(3)に記載したインビトロ無細胞タンパク質合成体系に、添加し、ステップ(3)で規定した特定時間反応させた後に、共発現した複数種の標的タンパク質を得るものである、[1]の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[3]
ステップ(3)における各標的タンパク質の発光値が、最大発光波長において他のタンパク質に干渉されない[1]の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[4]
ステップ(2)におけるそれぞれの標的タンパク質遺伝子を含むベクターが、それぞれ対応する標的タンパク質をコードする配列を含むプラスミドである、[1]の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[5]
ステップ(3)におけるインビトロ無細胞タンパク質合成体系が、酵母細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、大腸菌ベースのインビトロタンパク質合成体系、哺乳類細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、植物細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、昆虫細胞ベースのインビトロタンパク質合成体系、およびこれらの組合せからなる群から選択される1つである、[1]~[4]いずれかの複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[6]
前記酵母細胞が、サッカロマイセス・セレビジエ、ピキア・パストリスおよびクルイベロミセス、およびそれらの組合せからなる群から選択される、[5]の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[7]
前記発光値が相対蛍光単位(RFU)値である[3]の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[8]
前記複数種の標的タンパク質がそれぞれ独立に発光ラベルを有する発光タンパク質または融合タンパク質である[1]~[7]いずれかの複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[9]
前記発光タンパク質が、天然蛍光タンパク質、改変蛍光タンパク質、または蛍光タンパク質を含む融合タンパク質である、[8]の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[10]
前記蛍光タンパク質が赤色蛍光タンパク質、オレンジ色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質、シアン色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質または紫色蛍光タンパク質である、[9]の複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[11]
前記標的タンパク質の分離・精製をさらに含む、[1]~[10]いずれかの複数種のタンパク質をインビトロで定量的に共発現させる方法。
[12]
[1]~[11]いずれかの複数種のタンパク質を定量的に共発現させる方法における、インビトロ無細胞タンパク質合成体系の応用。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
【配列表】
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