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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/183 20060101AFI20231011BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231011BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20231011BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
B62D1/183
B62D5/04
B62D6/00
B62D113:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020004107
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021109611
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 健
(72)【発明者】
【氏名】野沢 康行
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-182054(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0154932(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0368522(US,A1)
【文献】特許第6596612(JP,B1)
【文献】独国特許出願公開第102016125839(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/183
B62D 5/04
B62D 6/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵を行うためのステアリング装置であって、
操作部材が連結された回転軸と、
前記回転軸を回転させる駆動力を前記回転軸に与える第一アクチュエータと、
前記車両の転舵輪であって、前記回転軸とは機械的に連結されていない転舵輪に、転舵のための駆動力を与える第二アクチュエータと、
前記ステアリング装置の動作制御を行う制御部と、
前記操作部材を、運転者による操作のための位置である通常位置と、前記通常位置よりも前方の格納領域との間で移動させる移動部と、を備え、
前記制御部は、
前記操作部材が前記格納領域にない場合に、運転者による前記操作部材の操作に基づいて前記第二アクチュエータを駆動する手動運転モードと、
運転者による前記操作部材の操作によらずに生成される指示に基づいて前記第二アクチュエータを駆動する自動運転モードと、の切り替えが可能であり、
前記操作部材を、前記格納領域から前記通常位置へ移動させる場合、前記操作部材が前記通常位置に到達する前に、前記操作部材が前記格納領域と前記通常位置との間の所定の位置に到達したとき、前記第一アクチュエータを制御することで、前記回転軸の回転角を、前記第二アクチュエータによる前記転舵輪の転舵角に応じた角度にさせる同期制御を開始する、
ステアリング装置。
【請求項2】
車両の操舵を行うためのステアリング装置であって、
操作部材が連結された回転軸と、
前記回転軸を回転させる駆動力を前記回転軸に与える第一アクチュエータと、
前記車両の転舵輪であって、前記回転軸とは機械的に連結されていない転舵輪に、転舵のための駆動力を与える第二アクチュエータと、
前記ステアリング装置の動作制御を行う制御部と、
前記操作部材を、運転者による操作のための位置である通常位置と、前記通常位置よりも前方の格納領域との間で移動させる移動部と、を備え、
前記制御部は、
前記操作部材が前記格納領域にない場合に、運転者による前記操作部材の操作に基づいて前記第二アクチュエータを駆動する手動運転モードと、
運転者による前記操作部材の操作によらずに生成される指示に基づいて前記第二アクチュエータを駆動する自動運転モードと、の切り替えが可能であり、
前記操作部材を、前記格納領域から前記通常位置へ移動させる場合、前記操作部材が前記通常位置に到達する前に、前記操作部材が所定の条件を満たしたとき、前記第一アクチュエータを制御することで、前記回転軸の回転角を、前記第二アクチュエータによる前記転舵輪の転舵角に応じた角度にさせる同期制御を開始し、
さらに、前記操作部材を支持する支持部材と、
前記車両の幅方向に延びる横軸を中心に、前記支持部材を回動させる回動機構部と、を備え、
前記制御部は、前記操作部材が所定の条件を満たしたときである、前記操作部材の前記横軸周りの回動位置が所定の回動位置に到達した場合、前記同期制御を開始する、
テアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイール等の操作部材を移動させることで運転者の前方空間を広げることのできるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の自動運転においてシステムが責任をもつ自動運転レベル3以上の状態では、運転者は、車両の操作に責任を持つ必要がないため、ステアリングホイールを持つ必要がなくなる。従って自動運転時にステアリングホイールが移動し運転者の前方の空間が広く確保されれば運転者の快適性を高めることが出来る。例えば特許文献1には、ステアリングホイールである運転操作子の移動が可能な車両操作システムが開示されている。この車両操作システムは、乗員の操作を受け付ける運転操作子と、車両において実行される自動運転の実行状態に基づいて、運転操作子の保持機構の状態の変更を伴って運転操作子が収納されるように保持機構を制御する制御部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-77354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の車両操作システムのような、ステアリングホイール(操作部材)を移動させるステアリング装置では、例えば、操作部材を、運転者による操作のための位置(通常位置)と、通常位置よりも前方の格納領域との間で移動させる。つまり、車両が自動運転モードで走行中など、運転者が操作部材を操作する必要がない場合は、操作部材を格納領域に格納(「退避」ともいう。)させる。格納領域は、例えば、操作部材と運転者との干渉を防止するために、運転席の前方のダッシュボード等の車両部材の内部に設けられる。この場合、格納領域に格納された操作部材は、操作部材に伴って移動及び回転する部材とともに、格納領域内で回転しないように回転位置が保持される。これは、例えば格納領域を形成する壁等と、操作部材を含む格納物との干渉を防ぐためである。
【0005】
このように、操作部材が格納領域に格納された状態では、自動運転モードで走行中の車両の転舵輪の転舵角と、操作部材の回転位置とは同期させないことで、他の部材と干渉することによる操作部材等の損傷または異音の発生が防止される。しかし、この場合、手動運転モードを開始または再開する場合に、格納領域内の操作部材が通常位置に進出する際、その時点の操作部材の回転位置は、その時点の転舵輪の転舵角に対応していない可能性が高い。従って、通常位置に進出した操作部材を操作する運転者は、その操作に違和感を覚える可能性がある。また、通常位置に進出した操作部材を、転舵輪の転舵角に応じた回転位置にする同期制御を行うことで、操作開始時の違和感を低減させることは可能である。しかしなら、この場合は、手動運転を行おうとする運転者を待たせる時間が長くなるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、本願発明者らが上記課題に新たに着目することによってなされたものであり、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、手動運転への移行を効率よく行うことができるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るステアリング装置は、車両の操舵を行うためのステアリング装置であって、操作部材が連結された回転軸と、前記回転軸を回転させる駆動力を前記回転軸に与える第一アクチュエータと、前記車両の転舵輪であって、前記回転軸とは機械的に連結されていない転舵輪に、転舵のための駆動力を与える第二アクチュエータと、前記ステアリング装置の動作制御を行う制御部と、前記操作部材を、運転者による操作のための位置である通常位置と、前記通常位置よりも前方の格納領域との間で移動させる移動部と、を備え、前記制御部は、前記操作部材が前記格納領域にない場合に、運転者による前記操作部材の操作に基づいて前記第二アクチュエータを駆動する手動運転モードと、運転者による前記操作部材の操作によらずに生成される指示に基づいて前記第二アクチュエータを駆動する自動運転モードと、の切り替えが可能であり、前記操作部材を、前記格納領域から前記通常位置へ移動させる場合、前記操作部材が前記通常位置に到達する前に、前記操作部材が所定の条件を満たしたとき、前記第一アクチュエータを制御することで、前記回転軸の回転角を、前記第二アクチュエータによる前記転舵輪の転舵角に応じた角度にさせる同期制御を開始する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、手動運転への移行を効率よく行うことができるステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係るステアリング装置の構成概要を示す模式図である。
図2】実施の形態に係るステアリング装置が備えるステアリング機構部の外観を示す斜視図である。
図3】実施の形態に係るステアリング装置の機能構成を示すブロック図である。
図4】実施の形態に係るステアリング装置における操作部材の退避時の動作を示す図である。
図5A】実施の形態に係る操作部材の通常位置における回転位置の一例を示す図である。
図5B】実施の形態に係る操作部材の格納領域に格納される際の回転位置の一例を示す図である。
図5C】実施の形態に係る操作部材の格納領域に格納される際の姿勢の一例を示す図である。
図6A】実施の形態に係る操作部材の回転位置が転舵輪の転舵角に対応していない状態を示す図である。
図6B】実施の形態に係る操作部材の回転位置が転舵輪の転舵角に対応している状態を示す図である。
図7】実施の形態に係るステアリング装置の基本的な動作の流れを示すフロー図である。
図8】実施の形態に係るステアリング装置における同期制御の開始位置についての第1の例を示す図である。
図9】実施の形態に係るステアリング装置における同期制御の開始位置についての第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るステアリング装置の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ及びステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。
【0011】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、及び比率とは異なる場合がある。さらに、以下の実施の形態において、平行及び直交などの、相対的な方向または姿勢を示す表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密には、その方向または姿勢ではない場合も含む。例えば、2つの方向が平行である、とは、当該2つの方向が完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行であること、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。
【0012】
(実施の形態)
[1.ステアリング装置の機械的な構成]
図1は、実施の形態に係るステアリング装置100の構成概要を示す模式図である。図2は、実施の形態に係るステアリング装置100が備えるステアリング機構部101の外観を示す斜視図である。
【0013】
本実施の形態に係るステアリング装置100は、例えば手動運転モードと自動運転モードとを切り替えることができる乗用車、バス、トラック、建機、または農機などの車両に搭載される装置である。
【0014】
ステアリング装置100は、図1に示すように、運転者に操作される操作部材110を有するステアリング機構部101と、転舵輪210を転舵させる転舵機構部102とを備える。ステアリング装置100は、例えば手動運転モードにおいて、操作部材110の回転角などをセンサ等で読み取り、センサ等の信号に基づいて軸体230が左右に往復動することで転舵輪210を転舵するいわゆるSBW(Steer By Wire)システムを構成している。
【0015】
このような車両の操舵に関する動作及び処理における上流側に位置するステアリング機構部101では、操作部材110に回転軸112が連結されており、回転軸112には、第一アクチュエータ151による回転駆動力が作用するように構成されている。第一アクチュエータ151による回転駆動力により、運転者が操作部材110を操作する際の反力が操作部材110に与えられる。また、第一アクチュエータ151による回転駆動力は、操作部材110の回転位置を、転舵輪210の転舵角と同期させるためにも用いられる。第一アクチュエータ151を用いた動作制御例は、図7等を用いて後述する。
【0016】
ステアリング機構部101の下流に位置する転舵機構部102では、軸体230の車両の幅方向(図1における左右方向)の移動により、タイロッド211を介して軸体230に接続された転舵輪210が転舵する。具体的には、手動運転モードでは、ステアリング機構部101から送信される操作部材110の回転角等を示す信号に基づき、第二アクチュエータ250が動作する。これにより、軸体230が車両の幅方向に移動し、転舵輪210が転舵する。つまり、操作部材110の操作に応じて、転舵輪210が転舵する。また、自動運転モードでは、車両が備える自動運転のためのコンピュータ(図示せず)から送信される信号等に基づいて第二アクチュエータ250が動作し、これにより、操作部材110の操作によらず、転舵輪210が転舵する。
【0017】
このように構成されたステアリング装置100において、ステアリング機構部101は、より具体的には、図2に示すように、操作部材110を支持する支持部材115と、回動機構部130と、を備えている。本実施の形態では、操作部材110は、例えば、ステアリングホイールにおけるリムに相当する部材であり、支持部材115は、ステアリングホイールにおけるスポークに相当する部材である。
【0018】
操作部材110は、運転者の操作によりステアリング軸Aa(車両の前後方向に延びる仮想軸、本実施の形態ではX軸に平行)周りに回転し、これに伴って、操作部材110に連結された回転軸112もステアリング軸Aa周りに回転する。手動運転モードでは、この回転量等に基づいて、上述のように、車両の1以上の転舵輪210が転舵される。
【0019】
また、操作部材110は、例えば転舵輪210が直進状態となる中立状態において、回動機構部130の、車両の幅方向(本実施の形態ではY軸方向)の両側から延設された支持部材115に支持されている。操作部材110のステアリング軸Aa周りの回転に伴って、回動機構部130もステアリング軸Aa周りに回転する。また、一端が回動機構部130に固定された回転軸112も操作部材110の回転に伴って回転する。つまり、本実施の形態では、回転軸112は、回動機構部130を介して操作部材110に連結されている。
【0020】
本実施の形態では、回動機構部130の運転者側(X軸プラス側)にエアバッグ収容部120が固定されており、操作部材110を運転者側から見た場合、操作部材110の中央部分にエアバッグ収容部120が位置する。エアバッグ収容部120にはエアバッグが展開可能に収容されており、エアバッグは、例えば車両の衝突時にエアバッグ収容部120を押し破って展開する。
【0021】
回動機構部130は、車両の幅方向に延びる回動軸(横軸Ab)を中心に、支持部材115を回動させる装置である。回動機構部130は、支持部材115を回動させるための回動用モータ131等を備えている。回動機構部130の駆動力により支持部材115が横軸Ab周りに回動することで、支持部材115に支持された操作部材110も、横軸Abを中心として(横軸Ab周りに)回動する。
【0022】
回動機構部130による操作部材110の回動は、操作部材110の出退動作に伴って行われる。例えば、手動運転モードから自動運転モードに切り替えられることで、操作部材110を運転席の前方のダッシュボードに設けられた格納領域に格納される際に、操作部材110が、ステアリング軸Aaと平行になるように折り畳まれる。また、自動運転モードから手動運転モードに切り替えられることで、操作部材110を通常位置に戻す際に、操作部材110が横軸Ab周りに回転されることで、操作部材110は、ステアリング軸Aaに直交する姿勢にされる。操作部材110の格納領域に対する出退については、図4等を用いて後述する。
【0023】
本実施の形態に係るステアリング装置100はさらに、図1に示すように、回動機構部130の前側(X軸マイナス側)に配置されたスイッチ保持部140及び反力発生装置150を備える。スイッチ保持部140は、方向指示器を作動させるスイッチ等を保持する部材であり、運転者によって操作されるウインカーレバー等(図示せず)と接続される。
【0024】
反力発生装置150は、運転者が操作部材110を操作して操舵する際に、運転者の力に反するトルクを操作部材110に付与する装置であり、上述の第一アクチュエータ151等を有する。この反力発生装置150は、タイヤと操作部材とが機械的に接続されている従来の車両において、運転中に操作部材に生じる力などを反力として再現する装置である。つまり、本実施の形態では、一端が回動機構部130に固定され、かつ、スイッチ保持部140に挿し通された回転軸112の他端が、反力発生装置150と接続されている。反力発生装置150は、この回転軸112を介して操作部材110に反力を付与する。また、反力発生装置150は、操作部材110のステアリング軸Aa周りの回転位置を制御することもできる。具体的には、例えば自動運転モードへの移行時または車両の停車時において、操作部材110が格納領域に格納される際に、操作部材110は、転舵輪210が直進状態となる中立の回転位置(中立回転位置)にされる。このときの操作部材110の回転駆動に第一アクチュエータ151が用いられる。さらに、その後に、操作部材110が格納領域から通常位置に進出する際に、その時点の転舵輪210の転舵角に応じた回転位置となるように、操作部材110の回転位置を制御する同期制御が実行される。この同期制御の際の操作部材110の回転駆動に、第一アクチュエータ151が用いられる。同期制御を実行される際のステアリング装置100の動作例については図6A図9を用いて後述する。
【0025】
ステアリング装置100はさらに、上述の、操作部材110、支持部材115、回動機構部130、スイッチ保持部140、及び反力発生装置150を、一体の機構部として、その位置を変化させる機構を有している。これにより操作部材110の、運転者との間の距離の変更が可能である。
【0026】
具体的には、ステアリング装置100は、図2に示すように、操作部材110を含む一体の機構部の、前後方向の位置を移動させる移動部170を有している。本実施の形態において、移動部170は、スライド機構によって操作部材110等を移動させる装置である。具体的には、操作部材110を含む一体の機構部は、可動体162を介して基礎ガイド161に支持されており、可動体162は基礎ガイド161に摺動可能に保持されている。基礎ガイド161は、例えば図示しないブラケットを介して車両に固定される。基礎ガイド161には、図2に示すようにスライド駆動軸173が固定されており、移動部170が有するスライド用モータ172の駆動力によりスライド用モータ172を含む本体がスライド駆動軸173に沿って移動する。これにより、移動部170の本体に接続された可動体162が、基礎ガイド161に沿って前後方向に移動する。その結果、操作部材110及び回動機構部130等が前後方向に移動する。なお、ステアリング装置100は、操作部材110を含む一体の機構部の傾きを変化させるチルト機構部を有してもよい。
【0027】
[2-1.ステアリング装置の基本的な機能構成及び動作]
以上のように構成されたステアリング装置100の基本的な機能構成及び動作について、図3図5Cを用いて説明する。図3は、実施の形態に係るステアリング装置100の機能構成を示すブロック図である。図4は、実施の形態に係るステアリング装置100における操作部材110の退避時の動作を示す図である。図5Aは、実施の形態に係る操作部材110の通常位置Paにおける回転位置の一例を示す図である。図5Bは、実施の形態に係る操作部材110の退避する際の回転位置の一例を示す図である。図5Cは、実施の形態に係る操作部材110の格納領域410に格納される際の姿勢の一例を示す図である。
【0028】
なお、図4及び図5A図5Cでは、操作部材110の挙動をわかりやすくするために、ステアリング装置100における操作部材110及びその周辺の部材のみを図示している。また、図4において、ダッシュボード400は、格納領域410を示すために簡易的な断面図で表されている。これらの補足事項は、後述する図6A図6B図8、及び図9にも適用される。
【0029】
図3に示すように、ステアリング装置100は、第一アクチュエータ151と、第二アクチュエータ250と、制御部190と、移動部170とを備える。第一アクチュエータ151は、上述のように回転駆動力を回転軸112(図1参照)に与える装置であり、第二アクチュエータ250は、転舵輪210(図1参照)に転舵のための駆動力を与える装置である。移動部170は、図4に示すように、操作部材110を、運転者による操作のための位置である通常位置Paと、通常位置Paよりも前方の格納領域410との間で移動させる装置である。
【0030】
制御部190は、ステアリング装置100の動作を制御する装置である。具体的には、制御部190は、ステアリング装置100の動作モードを、自動運転モード及び手動運転モードの一方から他方に切り替えることができる。例えば、制御部190は、自動運転モードから手動運転モードに切り替える場合、移動部170を制御することで、格納領域410に格納されている操作部材110を、図4に示す通常位置Paまで進出させる。制御部190は、手動運転モードから自動運転モードに切り替える場合、移動部170を制御することで、通常位置Paにある操作部材110を、図4に示す格納領域410に格納する。なお、制御部190は、例えば、運転者のスイッチ操作等による運転者の出退指示に応じて操作部材110の出退動作を実行してもよい。また、制御部190は、自動運転モード及び手動運転モードの一方から他方への切り替え、及び、運転者による出退指示(または出退許可)の両方がある場合に、操作部材110の出退動作を実行してもよい。なお、通常位置Paは、固定位置である必要はなく、例えば、運転者の好みに応じて変更されてもよい。
【0031】
なお、制御部190は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等の記憶装置、および情報の入出力のためのインタフェース等を備えたコンピュータによって実現される。制御部190は、例えば、記憶装置に格納された所定のプログラムをCPUが実行することで、車両が備える上位制御部300等から送信される制御信号、及び、センサの検出結果等に応じたステアリング装置100の動作制御を行うことができる。
【0032】
このように、ステアリング装置100を搭載する車両が自動運転で走行する場合、操作部材110は格納領域410に格納されるため、運転者の前方の空間が広げられる。また、当該車両において手動運転を開始する場合、または、手動運転を再開する場合、つまり、当該車両において手動運転への移行が生じる場合は、操作部材110は通常位置Paまで進出される。これにより、運転者は操作部材110の操作することで、車両を運転することができる。
【0033】
本実施の形態において、格納領域410は、車両部材の一例であるダッシュボード400の内部に設けられており、ダッシュボード400の前面に設けられた開口部405を介して、操作部材110が格納領域410に対して出し入れされる。開口部405は、例えば図5Aに示すように、操作部材110、及び、回動機構部130等の操作部材110とともに移動する部材群を、手動運転時の姿勢のまま出し入れできるほど大きくは形成されていない。そのため、制御部190は、図4に示すように、回動機構部130を制御することで、支持部材115を横軸Ab周りに回動させ、これにより、操作部材110を折り畳む。具体的には、操作部材110を、ステアリング軸Aaに平行な姿勢にする。
【0034】
このとき、例えば図5Aのように、操作部材110の回転位置が、操作部材110が中立回転位置ではない場合、このまま操作部材110を折り畳んでも、操作部材110を含む部材群は開口部405を通過できない。そこで、制御部190は、操作部材110を格納領域410に格納させる場合、図5Bに示すように、操作部材110の回転位置が、中立回転位置になるように、操作部材110をステアリング軸Aa周りに回転させる。具体的には、制御部190は、第一アクチュエータ151を制御することで、回転軸112を回転させ、これにより、操作部材110の回転位置を、中立回転位置に一致させる。なお、制御部190は、第一アクチュエータ151が有するモータのエンコーダ値等により、回転軸112の回転角を常に取得することができ、これにより、操作部材110の回転位置を常に取得することができる。
【0035】
制御部190は、図5Bに示すように、操作部材110の回転位置を中立回転位置にし、かつ、回動機構部130を制御することで、図5Cに示すように操作部材110を折り畳む。制御部190はさらに、移動部170を制御することで、図4に示すように、操作部材110を格納領域410に格納する。また、制御部190は、操作部材110を格納領域410から通常位置Paに戻す場合、回動機構部130を制御することで、図4及び図5Bに示すように、操作部材110をステアリング軸Aaに直交する姿勢に戻す。以下、折り畳まれた(ステアリング軸Aaに平行な姿勢にされた)操作部材110を、ステアリング軸Aaに直交する姿勢に戻すことを、「操作部材110を展開する」と表現する。
【0036】
操作部材110は、格納領域410に格納された状態では、格納領域410を形成する内壁等との干渉を避けるため、回転位置が保持される。具体的には、制御部190は、第一アクチュエータ151を制御することで、操作部材110を含む部材群が図4に示す姿勢に維持されるように、操作部材110に連結された回転軸112の回転角を制御する。これにより、例えば、走行中の振動等に起因する、操作部材110のステアリング軸Aa周りの回転が抑制される。その結果、操作部材110を含む部材群が格納領域410を形成する内壁等と干渉することによる損傷及び異音の発生が抑制される。また、例えば操作部材110が回転不可能な状態で第一アクチュエータ151を作動させることによる、第一アクチュエータ151の負荷が生じない。
【0037】
また、操作部材110を格納領域410から通常位置Paに向けて進出させる場合、操作部材110が開口部405を通過するように、回転軸112の回転角は、操作部材110が格納領域410に格納されているときの回転角に維持される。その結果、操作部材110を格納領域410から通常位置Paまで戻して操作部材110を展開した場合、操作部材110の回転位置が、転舵輪210の転舵角に対応していない可能性がある。具体的には、通常位置Paまで戻されて展開された操作部材110の回転位置が、例えば図5Bに示す中立回転位置であるのに対し、その時点の転舵輪210の転舵角に対応する操作部材110の本来的な回転位置は、図5Aに示す回転位置である場合がある。従って、操作部材110の回転位置を、転舵輪210の転舵角に対応させるための同期制御が必要となる。また、操作部材110が格納領域410に格納されている期間は、上記のように操作部材110の回転位置(回転軸112の回転角)が保持されているため、同期制御は、操作部材110が格納領域410から出た後に行う必要がある。この同期制御の具体例について、図6A図9を用いて説明する。
【0038】
[2-2.同期制御の具体例]
図6Aは、実施の形態に係る操作部材110の回転位置が転舵輪210の転舵角に対応していない状態を示す図である。図6Bは、実施の形態に係る操作部材110の回転位置が転舵輪210の転舵角に対応している状態を示す図である。
【0039】
例えば図6Aに示すように、開口部405から格納領域410の外部に進出した操作部材110を展開した時点において、転舵輪210の直進方向を基準とする転舵角がθ(≠0°)である場合を想定する。この場合、転舵輪210は直進方向を向いていない一方で、操作部材110は中立回転位置、つまり、転舵輪210が直進方向を向いているときの回転位置である。従って、制御部190は、第一アクチュエータ151を制御することで、回転軸112の回転角を変更し、これにより、図6Bに示すように、操作部材110の回転位置を、転舵角θに応じた回転位置にする。図6Bでは、操作部材110の回転位置は、中立回転位置を基準とした場合、反時計回りにφだけ回転した位置である。つまり、本例における同期制御では、回転軸112は、第一アクチュエータ151によって反時計回りにφだけ回転される。このように、制御部190は、回転軸112の回転角を、第二アクチュエータ250による転舵輪210の転舵角に応じた角度にさせる同期制御を実行する。また、自動運転モードで走行中に上記同期制御が開始された場合、運転者による操作部材110の操作の開始が検出されるまで同期制御は継続して実行される。つまり、自動運転モードにおける転舵輪210の転舵角の変化に追随して、操作部材110の回転位置も変化する。これにより、手動運転を行おうとする運転者は、違和感なく手動運転を開始することができる。なお、制御部190は、同期制御が完了するまで運転者による操作部材110の操作を有効化させないようにしてもよい。つまり、制御部190は、同期制御が完了するまで、運転者による操作部材110の操作を受け付けない状態(操作部材を無効化した状態)を維持してもよい。
【0040】
ここで、制御部190による同期制御は、操作部材110の通常位置Paへの移動の完了後に実行することも可能であるが、この場合、運転者は、操作部材110の通常位置Paへの移動の完了と、その後の同期制御の完了とを待つ必要がある。また、操作部材110が通常位置Paに到達した時点で運転者が操作部材110を掴むことも考えられ、この場合、同期制御の開始が遅れる等の問題が生じる。
【0041】
そこで、本実施の形態に係るステアリング装置100では、例えば図7に示す動作が実行される。図7は、実施の形態に係るステアリング装置100の基本的な動作の流れを示すフロー図である。図7に示すように、制御部190は、例えば、運転者による所定の操作または上位制御部300からの指示(以下「所定の操作等」という。)により、移動部170を作動させる。これにより、操作部材110の後方への移動(進出)が開始される(S12)。その後、操作部材110が通常位置Paに到達するまでの期間において、所定の条件を満たした場合(S20でYes)、制御部190は同期制御を開始する(S40)。つまり、操作部材110が格納領域410から外部に進出して通常位置Paに到達するまでの中間位置において同期制御が開始される。
【0042】
このように、本実施の形態に係るステアリング装置100は、操作部材110が連結された回転軸112と、第一アクチュエータ151と、第二アクチュエータ250と、制御部190と、移動部170とを備える。第一アクチュエータ151は、回転軸112を回転させる駆動力を回転軸112に与える。第二アクチュエータ250は、車両の転舵輪210であって、回転軸112とは機械的に連結されていない転舵輪210に、転舵のための駆動力を与える。制御部190は、ステアリング装置100の動作制御を行う。移動部170は、操作部材110を、運転者による操作のための位置である通常位置Paと、通常位置Paよりも前方の格納領域410との間で移動させる。制御部190は、手動運転モードと自動運転モードとの切り替えが可能である。手動運転モードは、操作部材110が格納領域410にない場合に、運転者による操作部材110の操作に基づいて第二アクチュエータ250を駆動する動作モードである。自動運転モードは、運転者による操作部材110の操作によらずに生成される指示に基づいて第二アクチュエータ250を駆動する動作モードである。制御部190は、操作部材110を、格納領域410から通常位置Paへ移動させる場合、操作部材110が通常位置Paに到達する前に、操作部材110が所定の条件を満たしたとき、第一アクチュエータ151を制御することで、回転軸112の回転角を、第二アクチュエータ250による転舵輪210の転舵角に応じた角度にさせる同期制御を開始する。
【0043】
この構成によれば、ステアリング装置100が搭載された車両における手動運転への移行時に、格納領域410から出された操作部材110が通常位置Paに到達するまでの間に、操作部材110が何等かの条件を満たしたことをトリガとして同期制御が開始される。つまり、車両の走行中における自動運転モードから手動運転モードへの切り替え、または、停車中の車両の走行開始時における手動運転モードの開始時において、操作部材110が通常位置Paまで進出する際に、進出の完了より前に同期制御が開始される。そのため、例えば、操作部材110が通常位置Paに到達するよりも前の時点で同期制御を完了させることも可能である。従って、運転者は、操作部材110が通常位置Paに到達した時点またはその直後に、操作部材110を操作することによる手動運転を違和感なく開始することができる。このように、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、手動運転への移行を効率よく行うことができる。
【0044】
[2-3.同期制御が開始される所定の条件の具体例]
上述のように、制御部190は、操作部材110が所定の条件を満たしたことをトリガとして同期制御を開始するが、この所定の条件としては、例えば、操作部材110の位置または姿勢についての条件が挙げられる。以下、所定の条件の具体例を、図8及び図9を参照しながら説明する。図8は、実施の形態に係るステアリング装置100における同期制御の開始位置についての第1の例を示す図である。図9は、実施の形態に係るステアリング装置100における同期制御の開始位置についての第2の例を示す図である。
【0045】
本実施の形態に係るステアリング装置100において、制御部190は、図8に示すように、操作部材110が所定の条件を満たしたときである、操作部材110が所定の位置Pbに到達したとき、同期制御を開始する、としてもよい。
【0046】
具体的には、制御部190は、例えば、移動部170が有するスライド用モータ172のエンコーダ値を用いて、または、操作部材110を撮影した画像を解析すること等により、基準位置に対する操作部材110の相対位置を検出することができる。なお、操作部材110の位置検出は、制御部190が行う必要はなく、例えば、スライド用モータ172のエンコーダ値を取得して操作部材110の相対位置を出力する位置検出部が、センサ等を備える専用機器により実現されてもよい。
【0047】
この構成によれば、制御部190は、操作部材110の前後方向の位置、という比較的に簡単に取得(算出)可能な数値を用いて、操作部材110の回転位置についての同期制御を開始するか否かの判断が可能である。また、例えば、同期制御に要する最大時間と、操作部材110の進出時における移動速度とから、通常位置Paに到達するまでに同期制御が完了するように、同期制御の開始位置である所定の位置Pbを予め算出しておくことができる。すなわち、制御部190は、比較的に容易な情報処理により、手動運転への移行を効率よく行うことができる。
【0048】
なお、操作部材110が所定の位置Pbに到達したか否かは、操作部材110そのものの位置と、所定の位置Pbとの比較によって判断する必要はない。例えば、操作部材110とともに移動する回転軸112または回動機構部130等の他の部材の位置と、所定の位置Pbに対応する、当該他の部材についての所定の位置との比較によって、操作部材110が所定の位置Pbに到達したか否かが判断されてもよい。
【0049】
また、本実施の形態に係るステアリング装置100において、制御部190は、図9に示すように、操作部材110が所定の条件を満たしたときである、操作部材110の横軸Ab(図2参照)周りの回動位置が所定の回動位置に到達した場合、同期制御を開始する、としてもよい。
【0050】
具体的には、制御部190は、例えば、回動機構部130の回動用モータ131のエンコーダ値を用いて、または、操作部材110を撮影した画像を解析すること等により操作部材110の横軸Ab周りの回動位置を検出することができる。なお、操作部材110の横軸Ab周りの回動位置の検出は、制御部190が行う必要はなく、例えば、回動用モータ131のエンコーダ値を取得して、操作部材110の横軸Ab周りの回動位置を出力する回動位置検出部が、センサ等を備える専用機器により実現されてもよい。
【0051】
本実施の形態では、上述のように、格納領域410に格納された操作部材110を通常位置Paまで移動させる場合、折り畳まれた操作部材110を展開させる制御が実行される。具体的には、制御部190は、開口部405を通過して格納領域410の外部に進出する操作部材110が、例えばダッシュボード400と干渉しない位置で回動機構部130を制御することで操作部材110の展開を開始し、その後、当該展開を完了させる。この展開の完了時の操作部材110の位置は、通常位置Paよりも前方の所定の位置Pcである。つまり、ステアリング装置100は、操作部材110が通常位置Paに到達する前に、操作部材110の展開を完了させることができる。
【0052】
そこで本実施の形態に係るステアリング装置100では、例えば、この操作部材110の展開の完了をトリガとして同期制御を開始することができる。つまり、操作部材110が格納領域410から出されて展開が完了している時点では、操作部材110をステアリング軸Aa周りに回転させても、操作部材110がダッシュボード400等の他の部材を干渉しない。そのため、制御部190は、同期制御を確実にかつ効率よく実行することができる。
【0053】
また、制御部190は、操作部材110の展開の完了の前の時点において、操作部材110の横軸Ab周りの回動位置が所定の回動位置になった場合に、同期制御を開始させてもよい。例えば、所定の回動位置は、操作部材110の展開が開始された直後の位置であってもよい。また、同期制御に要する最大時間と、操作部材110の展開速度とから、展開完了までに同期制御が完了するように、所定の回動位置を定めてもよい。この場合、例えば、操作部材110の展開の完了の時点またはその前に、同期制御を完了させることもできる。これにより、運転者は、操作部材110の展開の完了という視覚的にも分かりやすい判断基準によって手動運転を開始することができる。
【0054】
なお、操作部材110の回動位置が所定の回動位置に到達したか否かは、操作部材110そのものの横軸Ab周りの回動位置と、所定の回動位置との比較によって判断する必要はない。例えば、操作部材110とともに横軸Ab周りに回動する支持部材115等の他の部材の横軸Ab周りの回動位置と、当該他の部材についての所定の回動位置との比較によって、操作部材110の横軸Ab周りの回動位置が、所定の回動位置に到達したか否かが判断されてもよい。
【0055】
また、本実施の形態では、上述のように、操作部材110の回転位置を所定の回転位置に保持する回転保持部として機能する第一アクチュエータ151を備える。制御部190は、操作部材110が所定の条件を満たしたときである、第一アクチュエータ151による操作部材110の回転位置の保持(回転軸112の回転角の保持)が解除されたとき、同期制御を開始する、としてもよい。つまり、制御部190は、操作部材110の回転位置を所定の回転位置と一致させるように第一アクチュエータ151を制御する保持制御を行うことで、第一アクチュエータ151を回転保持部として動作させることができる。この場合、制御部190は、当該保持制御を終了することで当該回転位置の保持を解除することができる。
【0056】
具体的には、操作部材110がステアリング軸Aa周りに回転する場合、操作部材110に加えて、回動機構部130及びスイッチ保持部140等の他の部材も回転する。これら操作部材110を含む部材群は、ステアリング軸Aaの方向から見た場合に円形ではない。そのため、格納領域410内において、操作部材110の回転位置が一定の場合、当該部材群はダッシュボード400に干渉しないが、操作部材110の回転位置が変わると、ダッシュボード400に干渉するという事態が発生し得る。
【0057】
そこで、制御部190は、例えば、110を含む部材群の全体が、ダッシュボード400の開口部405から外部に出た時点で、操作部材110の回転位置の保持を解除する。これにより、回転位置の保持後に、操作部材110を含む部材群をステアリング軸Aa周りに回転させた場合であっても、当該部材群とダッシュボード400等の他の部材との干渉が生じない。つまり、制御部190は、操作部材110の回転位置の保持(回転軸112の回転角の保持)を解除するとともに、同期制御を開始する。これにより、制御部190は、操作部材110をダッシュボード400等の他の部材と干渉させることなく、同期制御を確実にかつ効率よく完了させることができる。
【0058】
なお、第一アクチュエータ151が回転保持部として機能することは必須ではない。ステアリング装置100は、例えば、制御部190の制御に応じて、回転軸112に周方向で係合する部材を移動させるロック機構部を備えてもよい。この場合、回転保持部による回転軸112の保持及びその解除の機能を、ロック機構部が担うことができる。
(他の実施の形態)
【0059】
以上、本発明に係るステアリング装置について、実施の形態に基づいて説明した。しかしながら、本発明は、上記実施の形態限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を上記実施の形態に施したものも、あるいは、上記説明された複数の構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0060】
例えば、ステアリング装置100は、回動機構部130を備えることは必須ではない。つまり、操作部材110の出退に、操作部材110の、車両の幅方向に延びる横軸Ab回りの回転は伴わなくてもよい。この場合であっても、操作部材110を、運転席の前方のダッシュボード400等に形成された格納領域410に格納することは可能である。なお、この場合の格納領域410(開口部405)は、操作部材110を、手動運転時の姿勢のまま格納領域410に格納できるように、運転席の前方のダッシュボード400等に、操作部材110の形状またはサイズに対応した形状またはサイズに形成される。また、操作部材110の格納領域410への格納には、操作部材110を支持している部材であって、ステアリング軸Aaの方向から見た場合に非円形である部材も格納領域410に格納される場合がある。また、ステアリング軸Aaの方向から見た場合に、操作部材110が、真円ではなく非円形である場合がある。これらの場合は、操作部材110の格納時における回転位置は制限される。そのため、格納領域410から進出した時点での操作部材110の回転位置と、その時点の転舵輪210の転舵角との対応が不一致となる問題は生じる。従って、この場合も、操作部材110を通常位置Paに進出させる場合における、操作部材110の回転位置についての同期制御は必要である。従って、回動機構部130の有無にかかわらず、操作部材110が通常位置Paに到達する前に同期制御を開始することは、手動運転への効率のよい移行に有用である。また、格納領域410(開口部405)を、ステアリング軸Aa周りの回転位置が未定な状態の非円形部材を格納できるサイズ及び形状に形成する必要がない。そのため、格納領域410(開口部405)を比較的に小さくすることができる。
【0061】
また、制御部190による、第一アクチュエータ151等を有するステアリング機構部101を制御する機能と、第二アクチュエータ250等を有する転舵機構部102を制御する機能とは、互いに別体のコンピュータで実現されてもよい。つまり、ステアリング機構部101を制御する第一制御部と、転舵機構部102を制御する第二制御部と、第一制御部及び第二制御部を制御する主制御部とによって、本実施の形態に係る制御部190が実現されてもよい。さらに、第一制御部が、第二制御部を制御する機能を有することで、第一制御部及び第二制御部によって、本実施の形態に係る制御部190が実現されてもよい。つまり、ステアリング装置100を制御するためのハードウェア及びソフトウェアの構成に特に限定はなく、その配置位置にも特に限定はない。
【0062】
また、操作部材110を前後方向に移動させるための機構は、スライド機構でなくてもよい。例えば、操作部材110等を含む機構部を一体として支持する、1以上の関節を持つアームの折り畳み及び展開により、操作部材110を格納領域と通常位置Paとの間で移動させてもよい。
【0063】
また、格納領域410への出入り口である開口部405に、例えば、操作部材110の出退に伴って自動で開閉するシャッターが設けられてもよい。これにより、例えば自動運転時において操作部材110を完全に隠すことができ、かつ、シャッターを車両の室内空間を形成する壁部の一部として機能させることができる。また、停車時に操作部材110を格納領域410に格納することで、操作部材110がシャッターによって隠され、その結果、車両の盗難防止効果が向上する。
【0064】
また、操作部材110は、図1に示すような円環状である必要はない。例えば、操作部材110の、図2における上端部または/及び下端部などの一部を欠いたようなU字状またはH字状であってもよい。つまり、運転者が、手動運転モードにおいて車両の運転が可能ない状態で把持できる形状及びサイズであれば、操作部材110の形状及びサイズに特に限定はない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、運転者の前方空間を広げることができ、かつ、手動運転への移行を効率よく行うことができるステアリング装置として有用である。従って、手動運転が可能であり、かつ自動運転が可能な乗用車、バス、トラック、農機、建機など、車輪または無限軌道などを備えた車両に利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
100:ステアリング装置、101:ステアリング機構部、102:転舵機構部、110:操作部材、112:回転軸、115:支持部材、120:エアバッグ収容部、130:回動機構部、131:回動用モータ、140:スイッチ保持部、150:反力発生装置、151:第一アクチュエータ、161:基礎ガイド、162:可動体、170:移動部、172:スライド用モータ、173:スライド駆動軸、190:制御部、210:転舵輪、211:タイロッド、230:軸体、250:第二アクチュエータ、300:上位制御部、400:ダッシュボード、405:開口部、410:格納領域
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8
図9