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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】分析システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
C12M1/34 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019223864
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021090392
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000137476
【氏名又は名称】株式会社マルコム
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】原田 学
(72)【発明者】
【氏名】林 泰圭
(72)【発明者】
【氏名】大石 隆二
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-174764(JP,A)
【文献】特開2015-154728(JP,A)
【文献】特開2003-116518(JP,A)
【文献】特開2013-021960(JP,A)
【文献】特開2017-201886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に駆動可能に構成され培養容器を保持するステージが内部に配置されたチャンバと、前記チャンバ内の雰囲気温度が一定温度に保持されるように制御可能に構成された温調装置と、前記チャンバ内に配置され前記培養容器を透過照明する照明装置と、前記培養容器における培養領域を撮像する撮像モジュールと、前記撮像モジュールによって取得される画像を解析する解析装置とを備え、
前記撮像モジュールは、前記一方向に直交する方向に延びるライン状の領域を撮像するセンサアレイを備えたラインセンサカメラにより構成され、前記ラインセンサカメラのセンサアレイが前記チャンバ内において対物レンズを介さずに前記培養容器に近接して配置されるように設けられ、
前記撮像モジュールには、前記センサアレイの発熱を排熱する排熱手段が設けられていることを特徴とする分析システム。
【請求項2】
前記照明装置は、波長400nm以上500nm以下の範囲の光を放射する照明用光源を備えていることを特徴とする請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記照明装置は、前記培養面に平行光を照射するよう構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記温調装置は、前記チャンバの内部空間と区画された風洞部を形成する筐体と、前記風洞部に設けられた循環ファンと、前記循環ファンの吐出側の位置に設けられたヒーターとを備え、
前記チャンバの内部空間と前記風洞部を区画する隔壁部分には、温調された空気を前記チャンバ内に供給する供給用通風口および前記チャンバ内の環境雰囲気の空気を排出する排出用通風口が形成され、
前記供給用通風口は、前記培養容器が前記ステージによって保持されるレベル位置において、温調された空気が前記培養容器に直接的に吹き付けられることがないように形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の分析システム。
【請求項5】
前記チャンバ内に供給される温調された空気の温度を測定する温度測定手段が前記供給用通風口に近接した位置に設けられており、前記温度測定手段の出力に基づいて前記ヒーターの動作状態がPID制御されることを特徴する請求項4に記載の分析システム。
【請求項6】
前記ステージは、前記一方向に並ぶ複数の培養容器保持部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養容器で培養される培養対象の培養状態を分析する分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の検出・同定試験は、食品や医薬品、化粧品の製造工程の管理や、医療分野における臨床診断を目的として広く行われている。微生物による健康被害を最小化し、さらに微生物によってもたらされる疾病の蔓延を防ぐため、簡便かつ迅速な微生物検出・同定法の開発が求められている。
【0003】
微生物検査の公定法としては、微生物の検出能が優れていることから、例えば寒天培地希釈法が広く用いられており、培養容器としては、開放系容器、例えばシャーレ(ペトリ皿)が用いられている。
本手法は、シャーレ内で作製した2倍系列希釈の薬剤液添加寒天培地に前培養した試験菌液を塗沫し、シャーレを37℃の培養温度に保持されているインキュベータ内に入れ、試験菌が微生物などの細菌なら18~20時間、真菌なら48時間の時間の間培養し、試験菌の培養状態を顕微鏡観察する方法で、試験菌の発育が完全に阻止された最小濃度の評価に用いられる。
【0004】
而して、培養対象である試験菌の培養状態を観察するに際しては、シャーレがインキュベータから取り出される。
インキュベータ内の温度は所定の培養温度(37℃)に保持されているため、シャーレ内の気相部は培養液からの水蒸気で飽和状態になっている。従って、シャーレがインキュベータ外部の室温環境下に置かれると、気相部に接するシャーレの光透過面の内面には、温度差により結露が生じてしまう。この結果、顕微鏡の照明光、特に位相差観察のためのリング照明がこの結露面で散乱し、適正な位相差効果が得られないという問題が生じていた。シャーレの蓋を取って観察すれば、結露に起因する問題はなくなるが、空中の落下菌などによるコンタミネーションの危険が生ずる。
【0005】
また、寒天培地法による微生物検査にあっては、所定の培養温度を超える温度環境に晒されると試験菌が死滅してしまうことがある。
然るに、培養状態の観察に際して寒天培地に照射される照明光は、必要に応じてコンデンサレンズにより集光された白色光を含む光が用いられ、この照明光には、多くの熱線成分が含まれている。このため、長時間の観察はもとより短時間でも試験菌の温度が上昇するおそれがある。例えば、培養液の量にもよるが、照明光により試験菌の温度が1分間で数度上昇することが確認されている。
このように、照明光を培養容器(寒天培地)に単に照射することは、危険な状態とも言え、培養状態の観察に際しては、培養対象の温度を所定の培養温度に維持することが必要とされる。
【0006】
一方、シャーレをインキュベータから取り出すことなく、インキュベータ内に設置した状態のまま、培養対象の培養状態を観察する培養観察装置が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
この特許文献1に記載の培養観察装置は、培養対象である微生物が培養可能に構成された筐体内に設けられた照明ユニットによりシャーレ内の寒天培地に照明光を照射し、筐体内に設けられ2次元エリアセンサを備えたカメラユニットにより寒天培地を撮像することで、微生物の培養を行いつつ、微生物の増加状況が観察(コロニー数の計測)可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-021960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
而して、ラインセンサは、エリアセンサと比較して、歪みが少ない高解像度の画像が撮影可能であるという特徴があることから、培養対象の培養状態を分析する分析システムにおいて、撮像素子が線状に配列された撮像モジュールを備えたラインセンサを用いることが有用であると考えられる。
しかしながら、インキュベータ内の培養容器についてラインセンサを用いて広域のイメージングを行うためには、撮像モジュールを駆動する駆動部などが必要であって、ラインセンサをインキュベータに一体に設けた場合には、装置自体が概して大型のものとなってしまう、といった問題がある。
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、小型化が図られ、光センシングが結露によって妨げられることがなく、一定の培養温度を維持しながら培養対象の培養状態を高い信頼性で実施可能な分析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の分析システムは、一方向に駆動可能に構成され培養容器を保持するステージが内部に配置されたチャンバと、前記チャンバ内の雰囲気温度が一定温度に保持されるように制御可能に構成された温調装置と、前記チャンバ内に配置され前記培養容器を透過照明する照明装置と、前記培養容器における培養領域を撮像する撮像モジュールと、前記撮像モジュールによって取得される画像を解析する解析装置とを備え、前記撮像モジュールは、前記一方向に直交する方向に延びるライン状の領域を撮像するセンサアレイを備えたラインセンサカメラにより構成され、前記ラインセンサカメラのセンサアレイが前記チャンバ内において対物レンズを介さずに前記培養容器に近接して配置されるように設けられ、前記撮像モジュールには、前記センサアレイの発熱を排熱する排熱手段が設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明の分析システムにおいては、前記照明装置は、波長400nm以上500nm以下の範囲の光を放射する光源を備えた構成とされることが好ましい。
また、前記照明装置は、前記培養面に平行光を照射するよう構成されていることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明の分析システムにおいては、前記温調装置は、前記チャンバの内部空間と区画された風洞部を形成する筐体と、前記風洞部に設けられた循環ファンと、前記循環ファンの吐出側の位置に設けられたヒーターとを備え、前記チャンバの内部空間と前記風洞部を区画する隔壁部分には、温調された空気を前記チャンバ内に供給する供給用通風口および前記チャンバ内の環境雰囲気の空気を排出する排出用通風口が形成され、前記供給用通風口は、前記培養容器が前記ステージによって保持されるレベル位置において、温調された空気が前記培養容器に直接的に吹き付けられることがないように形成された構成とされることが好ましい。
また、前記チャンバ内に供給される温調された空気の温度を測定する温度測定手段が前記供給用通風口に近接した位置に設けられており、前記温度測定手段の出力に基づいて前記ヒーターの動作状態がPID制御されることが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明の分析システムにおいては、前記ステージは、前記一方向に並ぶ複数の培養容器保持部を有する構成とされることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1に係る分析システムによれば、撮像モジュールがラインセンサカメラにより構成されていることにより、広域のイメージングを行うことができるため、微小なコロニーの形成や成長を同時多並列にモニタリングすることができる。また、培養対象の培養経過を高い時間分解能で経時的に記録することが可能であり、時間経過に伴う変化を生じないバックグラウンドに対して、動的変化を示すコロニー像をシグナルとして判別することにより、コロニー形成の迅速な判定が可能となる。
しかも、培養対象の培養状態の分析するに際して、培養容器を一定の培養温度に保持された環境から取り出す必要がない。このため、培養容器に生ずる結露によって照明光が散乱するなどして撮像モジュールによる光センシングが妨げられることがなく、適正な位相差効果を得ることができる。従って、培養対象とバックグランドとのコントラストの高い画像を取得することができ、分析結果に高い信頼性を得ることができる。
さらにまた、培養容器を保持するステージが駆動可能に構成されることで培養容器内の培養面を走査可能に構成され、ラインセンサカメラにより構成される撮像モジュールのみが培養対象を培養可能に構成されたチャンバに一体に設けられた構成とされるので、分析システム自体の小型化を図ることができる。
【0015】
本願請求項2に係る構成によれば、照明光に含まれる熱線成分(近赤外光以上の波長成分)が培養容器に照射されることがないので、培養対象に対する熱的悪影響を軽減することができ、培養状態の分析を行うにあたって培養対象の培養(コロニーの形成や成長など)を阻害することを回避することができる。
【0016】
本願請求項3に係る構成によれば、透過照明光学系が平行光を培養容器に照射するよう構成されていることにより、培養容器に対する均一な照明を行うことができるため、培養対象とバックグラウンドとのコントラストが高く培養対象をより精度良く強調した画像を得ることができる。
【0017】
本願請求項4に係る構成によれば、温調された空気を循環させることでチャンバ内の環境雰囲気の温度を一定温度に保持し、しかも、温調された空気が培養容器に直接吹き付けられることがないため、培養対象に対する熱的影響を排除しつつ、チャンバ内の環境温度の温度制御を容易に行うことが可能となる。
本願請求項5に係る構成によれば、チャンバ内の温度をより精度よく制御することが可能となる。
【0018】
本願請求項6に係る構成によれば、複数の培養容器について培養対象の培養を同時に実施可能であり、ステージを駆動させることで個々の培養容器における培養対象の培養状態を同一測定条件でモニタリングすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の分析システムの一構成例を概略的に示す上方から見た図である。
図2図1に示す分析システムを正面側から見た図である。
図3図1に示す分析システムを一側面側から見た図である。
図4】培養容器と撮像モジュールとの位置関係を概略的に示す図である。
図5】光センシング部の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の分析システムの一例における構成を概略的に示す上方から見た図、図2は、図1に示す分析システムを正面側から見た図、図3は、図1に示す分析システムを一側面側から見た図である。
この分析システムは、培養容器15が内部に収容され培養対象を培養可能に構成されたチャンバ10と、培養容器15における培養領域の画像を取得する光センシング部30と、チャンバ10内の雰囲気温度が一定の培養温度に保持されるよう制御可能に構成された温調装置50と、取得された画像を解析する解析装置(不図示)とを備えている。
培養容器15としては、例えばシャーレ(ペトリ皿)などの開放系容器が用いられ、蓋16が下方に位置される姿勢(皿17内に作製された培地18が上方側に位置される姿勢)で保持される。
【0021】
チャンバ10内には、培養容器15を保持するステージ20が配置されている。
ステージ20は、水平に延びる天板部21と、天板部21の一側縁における中央部に連続して下方に延びる支持板部22と、支持板部22の下端に連続して水平に延びる基板部23とを有し、側面視にて略コの字状の形態をなすように構成されている。
【0022】
ステージ20の天板部21には、培養容器15を保持する培養容器保持部24が設けられている。培養容器保持部24の数は、特に限定されるものではなく、一つであっても複数であってもよい。本実施例においては、例えば3つの培養容器保持部24が一方向(図1において左右方向)に並ぶよう設けられた状態が示されている。培養容器保持部24は、ステージ20の天板部21において培養容器15の蓋16を受容可能に形成された保持穴がステージ20の下面に設けられ照明光に対して透過性を有する光透過性部材25により塞がれることで形成されている。このような構成であることにより、ステージ20の駆動による培養容器15の移動を規制することができる。なお、培養容器保持部は、ステージ20(天板部21)自体を照明光に対して透過性を有する材料により構成し、天板部21に培養容器15を受容する凹所を形成することで構成されていてもよい。
【0023】
ステージ20は、ステージ駆動機構28によって前記一方向に駆動可能に構成されている。このような構成とされることにより、複数の培養容器15について培養対象の培養を同時に実施可能であり、ステージ20を駆動させることで個々の培養容器15における培養対象の培養状態を同一測定条件でモニタリングすることが可能となる。
ステージ駆動機構28は、例えばアクチュエータにより構成することができる。
【0024】
光センシング部30は、培養容器15における培養領域を撮像する撮像モジュール31と、培養容器15を透過照明する照明装置40とを備える。
【0025】
撮像モジュール31は、前記一方向に直交する方向に延びるライン状の領域を撮像するラインセンサカメラにより構成される。
撮像モジュール31としてラインセンサカメラが用いられることにより、広域のイメージングを行うことができるため、微小なコロニーの形成や成長を同時多並列にモニタリングすることができる。しかも、培養対象の培養経過を高い時間分解能で経時的に記録することが可能であり、時間経過に伴う変化を生じないバックグラウンドに対して、動的変化を示すコロニー像をシグナルとして判別することにより、コロニー形成の迅速な判定が可能となる。
【0026】
撮像モジュール31は、図4にも示すように、複数の撮像素子33が前記一方向(ステージ20における容器保持部24が並ぶ方向)に直交する方向に線状に並ぶよう配置されたセンサアレイ32を備えている。センサアレイ32は、複数の撮像素子33が線状に一列に配置されたものであっても、複数列に配置されたものであってもいずれであってもよい。図4においては、センサアレイ32として複数の撮像素子33が線状に一列に配置されたものが例示してある。
【0027】
撮像モジュール31は、図5にも示すように、センサアレイ32がチャンバ10内において培養容器15に対物レンズを介さずに近接して配置されるように、チャンバ10に対して気密に設けられている。
センサアレイ32における各々の撮像素子33の受光面と培養容器15における皿17の底面との離間距離dは、5mm以下であることが好ましく、より好ましくは1~3mmである。
【0028】
撮像素子33は、培養対象に対して透過照明光を照射した場合に、当該培養対象由来の光シグナルを撮像できるものであればよい。このような撮像素子33としては、例えばCCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、ダブルゲート構造のTFT(Thin Film Transistor)、CIS(Contact Image Sensor)等を用いることができる。撮像素子33は、例えば10μm/pixel以下の解像度を有するものであるが好ましい。
【0029】
撮像モジュール31は、センサアレイ32の発熱を排熱するための排熱手段を備えた構成とされていることが好ましく、具体的には、センサアレイ32の背面側に高性能熱伝導シートが設けられた構成、あるいは、ヒートシンクと空冷ファンが設けられた構成とすることができる。このような構成とされることにより、センサアレイ32の発熱による培養対象に対する熱的悪影響を排除することができる。
【0030】
照明装置40は、例えばステージ20の天板部21の下方に位置される空間部に配置され、平行光による照明光を培養容器15に照射する透過照明光学系41を備える。
透過照明光学系41が平行光を培養容器15に照射するよう構成されていることにより、培養容器15に対する均一な照明を行うことができるため、培養対象とバックグラウンドとのコントラストが高く培養対象をより精度良く強調した画像を得ることができる。
【0031】
透過照明光学系41は、図5にも示すように、光軸が水平方向に延びるように配置された照明用光源42と、照明用光源42の光軸上に位置され点光源を形成するピンホール43と、照明用光源42の光軸上に位置されピンホール43を透過した光を平行光もしくは平行光に近い状態で出射するコリメート光学系45とを備えている。
コリメート光学系45は、光軸が照明用光源42の光軸と一致する状態で配置された一対の平凸レンズ46a,46bと、光軸が照明用光源42の光軸に対して直交方向(鉛直方向)に延びるように配置された平凸レンズ47と、平凸レンズ46bからの光を平凸レンズ47に向かって反射する反射部材48とにより構成されている。
【0032】
照明用光源42としては、LED、有機EL、蛍光灯、白熱球等のいずれのものも用いることができるが、波長400nm以上500nm以下の範囲の光を放射するものであることが好ましく、培養対象とバックグラウンドとのコントラストを高くできる点から波長400nm以上500nm以下の範囲の光を放射するLEDを用いることがより好ましい。
このような照明用光源42によれば、照明光に含まれる熱線成分(近赤外光以上の波長成分)が培養容器15に照射されることがないので、培養対象に対する熱的悪影響を軽減することができ、培養状態の分析を行うにあたって培養対象の培養(コロニーの形成や成長など)を阻害することを回避することができる。
なお、照明用光源42として、近赤外光以上の波長成分(熱線成分)を含む光が放射されるものが用いられる場合には、例えばバンドパスフィルターや熱線吸収フィルタといった熱線除去部材を照明光の光路上に設けた構成とすることで、同様の効果が得られる。
【0033】
温調装置50は、チャンバ10の内部空間と区画された風洞部52を形成する筐体51を備えている。筐体51は、光センシング部30に対応する位置においてチャンバ10の背面に一体に設けられている。風洞部52とチャンバ10の内部空間とを区画する隔壁部分には、温調された空気の供給用通風口およびチャンバ10内の空気の排出用通風口が形成されている。
供給用通風口は、培養容器15がステージ20によって保持された高さ方向レベル位置において、温調された空気が培養容器15に直接的に吹き付けられることがないように形成されている。本実施形態においては、供給用通風口は、温調された空気が隣接する培養容器間に流れるようスリット状に形成されている。
また、排出用通風口は、隔壁部分の下方位置に形成されている。
【0034】
風洞部52には、図3に示すように、例えば軸流ファンからなる循環ファン54が配置され、循環ファン54の吐出側の位置にヒーター53が配置されており、図3において白抜きの矢印で示すように、温調された空気が循環ファン54によってチャンバ10内で循環されるように循環風路が形成されている。
チャンバ10内における供給用通風口の近傍位置には、温度測定手段55が配置されており、チャンバ10内の雰囲気の温度が所定の培養温度に保持されるように温度測定手段55の出力に基づいて、ヒーター53の動作状態がPID制御される。
【0035】
このように、温調された空気を循環させることでチャンバ10内の雰囲気の温度を一定温度に保持し、しかも、温調された空気が培養容器15に直接吹き付けられることがないため、培養対象に対する熱的影響を排除しつつ、チャンバ10内の雰囲気温度の制御を容易に行うことが可能となる。特に、ヒーター53の動作状態が温度測定手段の出力に基づいてPID制御されることにより、チャンバ10内の雰囲気温度をより精度よく制御することが可能となる。
【0036】
図1乃至図3において、符号11で示される構成部材は断熱材であって、チャンバ10における少なくとも温調された空気の循環風路が形成される部分の外面を覆うように設けられている。断熱材11は、チャンバ10全体を覆うよう設けられていてもよい。また、チャンバ10だけでなく、温調装置50の筐体51を覆うように設けられていてもよい。
【0037】
解析装置は、撮像モジュール31により取得され散乱光パターンからなる培養対象のコロニー形成画像のピクセルデータから定量的パラメータを抽出し、それらを用いて多変量解析を行う演算装置により構成される。
【0038】
上記の分析システムにおいては、透過照明下で撮像モジュール31により取得される画像の高輝度部と低輝度部から構成される光学パターンによってコロニー像が特定できる。また、当該コロニー像のサイズ(ピクセル数)は、実際のコロニーサイズと相関するため、コロニー像のサイズをコロニーサイズとして計測することで、経時的に変化するコロニーをモニタリングすることができる。そして、当該モニタリングは、撮像モジュール31が培養容器15に対して相対的に一方向に走査されることで培養面において点在する全コロニーについて、同時多並列的に可能である。すなわち、広域を対象とした培養対象の培養経過をモニタリングすることにより、動的変化を示すコロニー像をシグナルとして検出することが可能であり、コロニー形成の迅速な判定が可能である。ここで、モニタリングとは、コロニーの形成の有無、又はコロニーのサイズ若しくは立体形状を測定することにより、コロニーを追跡又は解析することを意味する。
また、コロニー像においては、菌体の単層ないし軽度の積層部分は高輝度部として、多層集積した中心部分は低輝度部として、さらに異なる積層状態の境界部では帯状の低輝度部として、それぞれ可視化される。したがって、得られた画像中のコロニー像の光学パターンから、コロニーの立体形状の推定が可能となる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る分析システムによれば、撮像モジュール31がラインセンサカメラにより構成されていることにより、広域のイメージングを行うことができるため、微小なコロニーの形成や成長を同時多並列にモニタリングすることができる。また、培養対象の培養経過を高い時間分解能で経時的に記録することが可能であり、時間経過に伴う変化を生じないバックグラウンドに対して、動的変化を示すコロニー像をシグナルとして判別することにより、コロニー形成の迅速な判定が可能となる。
しかも、培養対象の培養状態の分析するに際して、培養容器15を一定の培養温度に保持された環境から取り出す必要がない。このため、培養容器15に生ずる結露によって照明光が散乱するなどして撮像モジュール31による光センシングが妨げられることがなく、適正な位相差効果を得ることができる。従って、培養対象とバックグランドとのコントラストの高い画像を取得することができ、分析結果に高い信頼性を得ることができる。
また、培養容器15を保持するステージ20が駆動可能に構成されることで撮像モジュール31が培養容器15内の培養領域を走査可能に構成され、ラインセンサカメラにより構成される撮像モジュール31のみが培養対象を培養可能に構成されたチャンバ10に一体に設けられた構成とされるので、分析システム自体の小型化を図ることができる。
【0040】
本発明において分析可能な培養対象は、コロニーを形成するものであれば特に限定されず、例えば、細菌や真菌などの微生物、もしくは生物の細胞などいずれであってよい。
【符号の説明】
【0041】
10 チャンバ
11 断熱材
15 培養容器
16 蓋
17 皿
18 培地
20 ステージ
21 天板部
22 支持板部
23 基板部
24 容器保持部
25 光透過性部材
28 ステージ駆動機構
30 光センシング部
31 撮像モジュール
32 センサアレイ
33 撮像素子
40 照明装置
41 透過照明光学系
42 照明用光源
43 ピンホール
45 コリメート光学系
46a 平凸レンズ
46b 平凸レンズ
47 平凸レンズ
48 反射部材
50 温調装置
51 筐体
52 風洞部
53 ヒーター
54 循環ファン
55 温度測定手段
図1
図2
図3
図4
図5