IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-シートベルト装置 図1
  • 特許-シートベルト装置 図2
  • 特許-シートベルト装置 図3
  • 特許-シートベルト装置 図4
  • 特許-シートベルト装置 図5
  • 特許-シートベルト装置 図6
  • 特許-シートベルト装置 図7
  • 特許-シートベルト装置 図8
  • 特許-シートベルト装置 図9
  • 特許-シートベルト装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】シートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/20 20060101AFI20231012BHJP
   B60R 22/185 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B60R22/20 108
B60R22/185 105
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019238344
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107167
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-264164(JP,A)
【文献】特開2009-196508(JP,A)
【文献】特開2015-013565(JP,A)
【文献】特開2006-298257(JP,A)
【文献】特開2018-162026(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0263349(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第19822473(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/20
B60R 22/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が乗員の腰部前面に沿って車幅方向にわたして配置されるラップベルト部、及び、少なくとも一部が乗員の胸部前面に沿って斜行して配置されるショルダベルト部を有するウェビングと、
前記ウェビングの前記ラップベルト部と前記ショルダベルト部との間に設けられ、装着時において車体に連結されるタングとを備え、
前記タングは、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて、前記車体に対して前記ショルダベルト部を捩じる方向に回動し、
前記ウェビングに発生する張力を前記タングを回動させる回転力に変換するタング回動機構と、
通常時に前記タングの回動を規制し、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて破断するピンと
を備えること
を特徴とするシートベルト装置。
【請求項2】
少なくとも一部が乗員の腰部前面に沿って車幅方向にわたして配置されるラップベルト部、及び、少なくとも一部が乗員の胸部前面に沿って斜行して配置されるショルダベルト部を有するウェビングと、
前記ウェビングの前記ラップベルト部と前記ショルダベルト部との間に設けられ、装着時において車体に連結されるタングとを備え、
前記タングは、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて、前記車体に対して前記ショルダベルト部を捩じる方向に回動し、
前記タングが回動する際の中心軸は、前記タングの近傍における前記ショルダベルト部の下縁部よりも上縁部に近い側に配置されること
を特徴とするシートベルト装置。
【請求項3】
前記タングは、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて、通常時に対して前記ショルダベルト部の下縁部が上縁部に対して後退する方向に回動すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシートベルト装置。
【請求項4】
アクチュエータを用いて前記タングを回動させるタング回動機構と、
車両の衝突又は衝突の前兆に応じて前記アクチュエータを作動させる制御部とを備えること
を特徴とする請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項5】
車両の衝突又は衝突の前兆に応じて前記タングを車体に対して上昇させるタング上昇機構を備えること
を特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のシートベルト装置。
【請求項6】
車両の衝突又は衝突の前兆に応じて前記タングを車体に対して下降させるタング下降機構を備えること
を特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のシートベルト装置。
【請求項7】
前記タングは、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて前記ウェビングの前記ショルダベルト部側及び前記ラップベルト部側への移動を禁止するロッキングタングであること
を特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の座席に着座する乗員が装着するシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両の座席に着座する乗員を拘束し、衝突時などの傷害を抑制するため、3点式のシートベルトが広く用いられている。
3点式のシートベルトは、乗員の腰部前面に沿って車幅方向にわたして設けられるラップベルト部、及び、乗員の胸部前面に沿って斜行して設けられるショルダベルト部を有する。
【0003】
3点式シートベルトに関する従来技術として、例えば特許文献1には、作動時にショルダウェビングと乗員との間の隙間を少なくしかつ乗員拘束性を向上させるため、乗員がウェビングを装着すると、バックル駆動装置がバックル装置を車両幅方向内側へ移動させてショルダウェビングと乗員との間の隙間を少なくし、さらにショルダウェビングが全体的に車両上方へ移動されることになるので、ショルダウェビングの乗員拘束性を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-196881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前面衝突において、乗員の胸部の傷害や、車室内の他部品との2次衝突を軽減するため、シートベルト装置は有効な手段である。
しかし、斜行したショルダベルトを有する3点式シートベルトの場合、ショルダベルトのタング側(低い側)の部分が、乗員の上体の前傾などの挙動や、プリテンショナの作動あるいは衝突による乗員前進などに起因する張力増加などにより、胸部に対して相対的に上方へせり上がると、肋骨付近を上方へ圧迫し、肋骨に曲げ力を発生させる場合がある。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、ショルダベルトによる胸部の圧迫を抑制したシートベルト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、少なくとも一部が乗員の腰部前面に沿って車幅方向にわたして配置されるラップベルト部、及び、少なくとも一部が乗員の胸部前面に沿って斜行して配置されるショルダベルト部を有するウェビングと、前記ウェビングの前記ラップベルト部と前記ショルダベルト部との間に設けられ、装着時において車体に連結されるタングとを備え、前記タングは、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて、前記車体に対して前記ショルダベルト部を捩じる方向に回動し、前記ウェビングに発生する張力を前記タングを回動させる回転力に変換するタング回動機構と、通常時に前記タングの回動を規制し、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて破断するピンとを備えることを特徴とするシートベルト装置である。
これによれば、衝突又は衝突の前兆に応じて、タングを回動させ、ショルダベルト部を捩じることによりショルダベルト部が幅方向における広い範囲で乗員の胸部に接するようにすることができる。
これにより、ショルダベルト部が幅方向における一方の端縁側でのみ乗員の胸部に接し、引掛りにより高摩擦となる状態でショルダベルト部が胸部に対してせり上がることを防止できる。
また、ウェビングの張力増加に応じてタングを回動させることにより、タングの回動用として専用のアクチュエータ等を設ける必要がなく、装置の構成を簡素化することができる。
また、衝突時にのみタングの回動を許容することにより、通常使用時におけるシートベルト装置の使い勝手に影響を及ぼすことを防止できる。
請求項2に係る発明は、少なくとも一部が乗員の腰部前面に沿って車幅方向にわたして配置されるラップベルト部、及び、少なくとも一部が乗員の胸部前面に沿って斜行して配置されるショルダベルト部を有するウェビングと、前記ウェビングの前記ラップベルト部と前記ショルダベルト部との間に設けられ、装着時において車体に連結されるタングとを備え、前記タングは、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて、前記車体に対して前記ショルダベルト部を捩じる方向に回動し、前記タングが回動する際の中心軸は、前記タングの近傍における前記ショルダベルト部の下縁部よりも上縁部に近い側に配置されることを特徴とするシートベルト装置である。
これによれば、ショルダベルト部の上縁部が乗員の胸部から離間することを防止し、上述した効果を促進することができる。
【0007】
請求項に係る発明は、前記タングは、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて、通常時に対して前記ショルダベルト部の下縁部が上縁部に対して後退する方向に回動することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシートベルト装置である。
これによれば、ショルダベルト部の上縁部が乗員の胸部に引掛った状態でせり上がることを防止し、上述した効果を確実に得ることができる。
【0010】
請求項に係る発明は、アクチュエータを用いて前記タングを回動させるタング回動機構と、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて前記アクチュエータを作動させる制御部とを備えることを特徴とする請求項に記載のシートベルト装置である。
これによれば、タングを回動させるタイミングの制御の自由度を高め、上述した効果をより確実に得ることができる。
【0012】
請求項に係る発明は、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて前記タングを車体に対して上昇させるタング上昇機構を備えることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のシートベルト装置である。
これによれば、突又は衝突の前兆に応じてタングを上昇させることにより、ショルダベルトが乗員の胸部と当接する箇所を高くし、ショルダベルトが肋骨の下方側から乗員の胸部に沿ってせり上がることを防止できる。
【0013】
請求項に係る発明は、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて前記タングを車体に対して下降させるタング下降機構を備えることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のシートベルト装置である。
これによれば、衝突又は衝突の前兆に応じてタングを下降させることにより、ショルダベルトが胸部にかかる位置を低くして、ショルダベルトがせり上がり肋骨に干渉することを抑制できる。
【0014】
請求項に係る発明は、前記タングは、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて前記ウェビングの前記ショルダベルト部側及び前記ラップベルト部側への移動を禁止するロッキングタングであることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載のシートベルト装置である。
これによれば、衝突又は衝突の前兆に応じて、ロッキングタングをロック状態とすることにより、ショルダベルト部の張力が過度に高まって肋骨等への加害性を高めることを防止できる。
また、衝突前後におけるショルダベルトの長さの変化を抑制し、ショルダベルトと乗員の上体との接触状態を適切に制御することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、ショルダベルトによる胸部の圧迫を抑制したシートベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明を適用したシートベルト装置の第1実施形態の構成を模式的に示す斜視図である。
図2】第1実施形態のシートベルト装置におけるロッキングタングの模式的断面図であって、フリー状態を示すものである。
図3】第1実施形態のシートベルト装置におけるロッキングタングの模式的断面図であって、ロック状態を示すものである。
図4】第1実施形態のシートベルト装置における制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
図5】第1実施形態のシートベルト装置における衝突時のウェビング張力の推移の一例を示す図である。
図6】第1実施形態のシートベルト装置におけるロッキングタングが回動した後の状態を模式的に示す斜視図である。
図7図6のVII-VII部矢視模式断面図である。
図8】本発明を適用したシートベルト装置の第2実施形態における制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
図9】本発明を適用したシートベルト装置の第3実施形態におけるロッキングタングが回動した後の状態を模式的に示す斜視図である。
図10】本発明を適用したシートベルト装置の第4実施形態におけるロッキングタングが回動した後の状態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用したシートベルト装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態のシートベルト装置は、例えば乗用車等の自動車において乗員が前方を向いて着座する前席に設けられる3点式シートベルトである。
【0018】
図1は、第1実施形態のシートベルト装置の構成を模式的に示す斜視図である。
乗員Pが着座するシート10は、クッション11、シートバック12を有する。
クッション11は、シート10の下部に設けられ、乗員Pの臀部及び大腿部が載置される座面部を有する部分である。
シートバック12は、座面部の後端部近傍から上方へ突出して設けられ、乗員Pの背部、肩部等を保持する部分である。
【0019】
シート10の車幅方向における一方側には、Bピラー20が設けられている。
Bピラー20は、乗員Pが乗降するドア開口の後縁部に沿って上下方向に延在する柱状の車体構造部材である。
シートベルト装置100は、ウェビング110、リトラクタ120、ラッププリテンショナ130、ショルダアンカ140、ロッキングタング150、バックル160等を有して構成されている。
【0020】
ウェビング110は、例えばポリエステル繊維の編物により可撓性を有するベルト状に形成された部材である。
ウェビング110は、その中間部が挿通され折り返されるロッキングタング150を境として、ラップベルト部111、ショルダベルト部112を有する。
ラップベルト部111は、乗員Pの主に腰部の前面に沿うように、車幅方向に延在して配置されている。
ショルダベルト部112は、乗員Pの主に胸部の前面に沿うように配置されている。
ショルダベルト部112は、車幅方向におけるBピラー20側が高くなるよう、斜行して配置されている。
【0021】
リトラクタ120は、ウェビング110のショルダベルト112側の端部が連結されるとともに、Bピラー20の下部に取り付けられている。
リトラクタ120は、ウェビング110の余剰部分を巻き取って収容する機能を有する。
ウェビング110は、リトラクタ120から上方側へ引き出されるようになっている。
リトラクタ120には、例えば火薬式のガス発生装置を用いたアクチュエータにより、シートベルト制御ユニット210からの指令に応じて、ショルダベルト部112を牽引するショルダプリテンショナ121(図4参照)が設けられている。
【0022】
ラッププリテンショナ130は、車体のBピラー20の下端部近傍に設けられ、ウェビング110のラップベルト部111の車幅方向外側の端部が接続されている。
ラッププリテンショナ130は、例えば火薬式のガス発生装置を用いたアクチュエータにより、シートベルト制御ユニット210からの指令に応じて、ラップベルト部111を牽引する機能を有する。
【0023】
ショルダアンカ140は、車体のBピラー20の上端部付近に設けられ、リトラクタ120から上方へ引き出されたウェビング110のショルダベルト部112が、斜め下方側のロッキングタング150側へ折り返される部分である。
ショルダアンカ140は、Bピラー20に対して、車幅方向にほぼ沿った軸線回りに回動可能であるとともに、リトラクタ130側とロッキングタング150側との間でウェビング110が通過することを妨げないようになっている。
【0024】
ロッキングタング150は、ウェビング110が挿通された状態で着脱可能にバックル160に取り付けられ、車体に連結される部材である。
ウェビング110において、ロッキングタング150よりもプリテンショナ130側の領域がラップベルト部111として機能し、ロッキングタング150よりもショルダアンカ140側の領域がショルダベルト部112として機能する。
【0025】
ロッキングタング150は、車両の通常使用時(非衝突時)には、ウェビング110の通過を妨げないよう構成されるとともに、車両の衝突等により、ウェビング110の張力が増大した場合には、ウェビング110を拘束し、ラップベルト部111側とショルダベルト部112側との行き来が規制(ロック)されるようになっている。
ロッキングタング150の詳細な構成については、後に詳しく説明する。
【0026】
バックル160は、車体におけるシート10のクッション11の車幅方向内側であって後端部に近接する箇所に取り付けられている。
バックル160は、ロッキングタング150のタングプレート157が挿入された際にこれと係合する係合機構、及び、係合機構を解除するリリース機構等を有する。
バックル160の車幅方向内側の面部には、リリース機構を解除させるリリースボタン161が設けられている。
【0027】
次に、ロッキングタング150の構成について説明する。
図2図3は、第1実施形態のシートベルト装置におけるロッキングタングの模式的断面図であって、フリー状態、ロック状態をそれぞれ示している。
ロッキングタング150は、本体部151、空間部152、ラップベルトスリット153、ショルダベルトスリット154、ロック部材155、タングプレート156、タングプレート保持部157、タング回動機構158、回動ロック機構159等を有する。
【0028】
本体部151は、ウェビング110がラップベルト部111側とショルダベルト部112側との間で折り返された状態で挿通される部分である。
本体部151は、例えば衝突事故発生時にウェビング110に作用する最大張力に対して十分な強度をもつよう、例えば金属材料や硬質の樹脂材料等を組み合わせて構成されている。(図2,3においては、簡素化して図示している。)
【0029】
空間部152は、本体部151の内部に形成された空洞状の部分であり、ウェビング110の一部、及び、ロック部材155等を収容する。
空間部152の内面には、摺動面部152a、ロック凹部152bが形成されている。
摺動面部152aは、凹曲面状に形成され、ロック部材155の摺動面部155aと当接するとともに、ロック部材155の動作時にこの摺動面部155aと相互に摺動する部分である。
摺動面部152aは、本体部151におけるラップベルトスリット153、ショルダベルトスリット154の間の領域の内面部に形成されている。
ロック凹部152は、ウェビング110に所定以上の張力が負荷され、ロック部材155が移動した際に、ロック部材155と協働してウェビング110を挟持し、ロックする部分である。
ロック凹部152bは、空間部152の内面であって、摺動面部152aとショルダベルトスリット154を挟んで隣接する領域に形成されている。
【0030】
ラップベルトスリット153、ショルダベルトスリット154は、本体部151の表面から空間部152の内部まで貫通して形成され、ウェビング110が挿通される開口である。
ラップベルトスリット153、ショルダベルトスリット154は、ウェビング110の幅方向(図2図3における紙面と直交する方向)に沿った長手方向を有する長孔状のスリットとして形成されている。
ラップベルトスリット153は、ラップベルト部111の端部が空間部152の内部に導入されるものである。
ショルダベルトスリット154は、ショルダベルト部112の端部が空間部152の内部に導入されるものである。
【0031】
ロック部材155は、空間部152の内部に配置されるとともに、ウェビング110の張力増大に応じて、ウェビング110の通過を許容する解放位置から、ウェビング110をロックするロック位置へ移動するものである。
ロック部材155は、摺動面部155a、ウェビング当接部155b、ウェビング拘束部155c等を有する。
摺動面部155aは、本体部151の内面部152における摺動面部152aに対して摺動可能な状態で当接する凸曲面状の部分である。
ウェビング当接部155bは、摺動面部155aの一方の端部側(図2図3における下端部)に設けられ、ウェビング110の折り返し箇所と当接する凸部である。
ウェビング拘束部155cは、ロッキングタング150がロック状態である際に、ロック凹部152bと協働してウェビング110を挟持、拘束し、ラップベルト部111側とショルダベルト部112側との間でウェビング110がロッキングタング150を通過して移動しないようロックするものである。
ウェビング拘束部155cは、摺動面部155aのウェビング当接部155b側とは反対側の端部側(図2図3における上端部)に設けられている。
【0032】
ウェビング110は、ウェビング当接部155bにおいてラップベルト部111側からショルダベルト側112側へ折り返される。
ロッキングタング150がフリー状態であるときには、ウェビング110は、ウェビング当接部155bの表面に沿って滑走することにより、ロッキングタング150を自由に通過可能(ラップベルト部111側又はショルダベルト部112側へ通過可能)な状態となっている。
【0033】
車両の衝突時にウェビング110に作用する張力が増大すると、ロッキングタング150は、図2に示すフリー状態から、図3に示すロック状態へ移行する。
ロック部材155は、ウェビング110の張力によって図2,3における上方へ引き上げられ、摺動面部152a、155aが相互に摺動しつつ移動する。
ロック部材155の移動範囲の終端においては、ロック部材155のウェビング拘束部155cは、空間部152に形成されたロック凹部152bとの間でウェビング110を拘束する。
【0034】
タングプレート156は、ロッキングタング150の使用時における下端部から突出し、バックル160の係合機構と係合する部材である。
タングプレート156は、例えば鋼板等の金属材料により、平板状に形成されている。
タングプレート保持部157は、ロッキングタング150の本体部151に対して使用時における下側(バックル160側)に設けられた部分であって、タングプレート156を保持するものである。
タングプレート保持部157には、タングプレート156の上部が埋設され固定されている。
【0035】
タング回動機構158は、ロッキングタング150の本体部151とタングプレート保持部157との間に設けられ、ウェビング110の張力増加に応じて、タングプレート保持部157に対して本体部151を所定の回転軸回りに回動させるものである。
タング回動機構158は、シャフト158a、穴部158b、カム溝158c、カムフォロワ突起158d等を有する。
【0036】
シャフト158aは、本体部151の下面部(タングプレート保持部157と対向する面部)から突出した円柱状の部分である。
シャフト158aは、シートベルト装置の通常使用時(非衝突時の装着時)には、上端部(本体部151側の端部)が、下端部(タングプレート保持部157側の端部)に対して、車両前方側、かつ、左右方向乗員側(シート10の中央側)となるように、傾斜して配置されている。
シャフト158aは、ロッキングタング151を車幅方向から見た側面視において、ショルダベルト部112の中心部に対して、ショルダベルト部112の上縁部側へ、オフセットして配置されている。
【0037】
穴部158bは、タングプレート保持部157の上面部(本体部151と対向する面部)に形成され、シャフト158aが挿入されるものである。
カム溝158cは、穴部158bの内周面の一部を凹ませて形成され、らせん状に延在する溝部である。
カムフォロワ突起158dは、シャフト158aの外周面から突出して形成され、カム溝158cの中に、カム溝158cに沿って相対移動可能とされた凸部である。
カム溝158cとカムフォロワ突起158dとは協働して、ウェビング110の張力増加に応じて、本体部151をタングプレート保持部157に対してシャフト158aの中心軸回りに回動させるカム機構として機能する。
タング回動機構158は、ウェビング110の張力増加に応じて、本体部151を、その近傍におけるショルダベルト部112の前縁部が後退する方向に回動させる。
【0038】
回動ロック機構159は、シートベルト装置100の通常使用時(非衝突時)に、本体部151のタングプレート保持部157に対する相対回動を規制するものである。
回動ロック機構159は、ピン159a、穴部159b等を有する。
ピン159aは、本体部151の下面部から突出した軸状の部分である。
穴部159bは、タングプレート保持部157の上面部に形成され、ピン159aが挿入される部分である。
ピン159aは、例えば硬質の樹脂材料などにより形成され、所定以上のせん断荷重の入力に応じて破断するよう構成されている。
破断したピン159aは、図3に示すように、穴部159bの内部に脱落する。
【0039】
シートベルト装置100は、以下説明する制御システムを有する。
図4は、第1実施形態のシートベルト装置における制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
制御システム200は、シートベルト制御ユニット210、着座センサ220、シートベルト着用センサ230、加速度センサ240、環境認識ユニット250等を有する。
【0040】
シートベルト制御ユニット210は、衝突又はその前兆を検出し、シートベルト装置100に設けられた各アクチュエータに対して指令を与えるものである。
着座センサ220は、シート10のクッション11に設けられた荷重センサであって、シート10への乗員Pの着座有無を検出するものである。
シートベルト着用センサ230は、バックル160に設けられ、バックル160にロッキングタング150が連結された状態(シートベルト着用状態)を検出するものである。
【0041】
加速度センサ240は、例えば車体の前端部などに設けられ、車体に作用する前後方向等の加速度を検出するものである。
加速度センサ240は、車両の衝突を検出するセンサとして用いられる。
【0042】
環境認識ユニット250は、各種センサや車車間通信、路車間通信などの通信を利用して、自車両周囲の道路形状や、他車両、歩行者、建築物、地形、樹木等の障害物等に関する情報等を認識するものである。
環境認識ユニット250には、ステレオカメラ装置251、ミリ波レーダ装置252、レーザスキャナ装置253、通信装置254等が接続されている。
【0043】
ステレオカメラ装置251は、撮像範囲を車両前方に向けかつ車幅方向に離間して配置された一対のカメラ、及び、各カメラの撮像画像に公知のステレオ画像処理を施す画像処理部を有する。
ミリ波レーダ装置252は、例えば30乃至300GHzの電波を用いて自車両前方等に存在する障害物の自車両に対する相対位置、相対速度等を検出するものである。
レーザスキャナ装置253は、パルス状のレーザ光を照射するとともに、これに対する散乱光を測定することにより、自車両周囲の障害物の形状及び位置を検出する3D LIDARである。
通信装置254は、車車間通信、路車間通信により、上述した各センサにより検出が困難な障害物(例えば、建築物などで遮蔽された箇所から出現する他車両等)に関する情報を取得する。
環境認識ユニット250は、車両の実際の衝突に先立ち、衝突が発生する可能性が極めて高い状態(衝突の前兆)を検出する機能を有する。
衝突の前兆に応じて、シートベルト制御ユニット210は、ショルダプリテンショナ121、ラッププリテンショナ130を作動させる。
【0044】
図5は、第1実施形態のシートベルト装置における衝突時のウェビング張力の推移の一例を示す図である。
図5において、横軸は時間を示し、縦軸は張力を示している。また、図5において、ラップベルト部の張力を実線、ショルダベルト部の張力を破線で示す。
先ず、時間T1において、環境認識ユニット250が他車両等との前面衝突が不可避である状態(プリクラッシュ状態)を判別すると、ウェビング110の弛みを軽減するためショルダプリテンショナ121、ラッププリテンショナ130が作動し、ラップベルト部111、ショルダベルト部112の張力が一時的に高まり、その後やや低下する。
【0045】
時間T2において、車両が実際に障害物に衝突し、車体に前後方向加速度が作用して、乗員Pのシート10に対する相対前進が開始される。
これにより、ラップベルト部111、ショルダベルト部112の張力はともに増加を開始するが、このときの張力は、ラップベルト部111のほうがショルダベルト部112に対して大きくなっている。
【0046】
時間T3において、回動ロック機構159のピン159aが折損してロックが解除され、タング回動機構158によるタングプレート保持部157に対する本体部151の回動(首振り)が開始される。
図6は、第1実施形態のシートベルト装置におけるロッキングタングが回動した後の状態を模式的に示す斜視図である。
図7は、図6のVII-VII部矢視模式断面図である。
ロッキングタング150の本体部151をタングプレート保持部157に対して回動させることにより、ショルダベルト部112は、乗員Pの胸部から腹部に当接する領域(ロッキングタング150に隣接する領域)においては、ウェビング110の下縁部が上縁部に対して後退する方向に捩じられる。
【0047】
その後、時間T4においてウェビング110の張力がさらに大きくなると、ロッキングタング150がロック状態となる。
その後、乗員Pの上体の前進が大きくなり、ショルダベルト部112の張力はさらに大きくなる。
【0048】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)衝突又は衝突の前兆に応じて、ロッキングタング150の本体部151を回動させ、ショルダベルト部112を捩じることによりショルダベルト部112が幅方向における広い範囲で乗員Pの胸部に接するようにすることができる。
これにより、ショルダベルト部112が幅方向における一方の端縁側でのみ乗員Pの胸部に接し、引掛りにより高摩擦となる状態でショルダベルト部112が胸部に対してせり上がることを防止できる。
(2)ロッキングタング150の本体部151が、ショルダベルト部112の下縁部が上縁部に対して後退する方向に回動することにより、上述した効果を確実に得ることができる。
(3)ロッキングタング150の本体部151が回動する際の中心軸であるシャフト158aは、ロッキングタング150の近傍におけるショルダベルト部112の下縁部よりも上縁部に近い側に配置されることにより、ショルダベルト部112の上縁部が乗員Pの胸部から浮き上がって離間することを防止し、上述した効果を促進することができる。
(4)ウェビング110に発生する張力を、ロッキングタング150の本体部151を回動させる回転力に変換するタング回動機構158を備えることにより、ウェビング110の張力増加に応じてロッキングタング150の本体部151を回動させることができ、専用のアクチュエータ等を設ける必要がなく、装置の構成を簡素化することができる。
(5)通常時にロッキングタング150の本体部151の回動を規制するとともに、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて本体部151の回動を許容する回動ロック機構159を備えることにより、通常使用時におけるシートベルト装置100の使い勝手に影響を及ぼすことを防止できる。
(6)タングとして、車両の衝突又は衝突の前兆に応じてウェビング110のショルダベルト部111側及びラップベルト部112側への移動を禁止するロッキングタング150を用いたことにより、衝突又は衝突の前兆に応じて、ロッキングタング150をロック状態とし、ショルダベルト部112の張力が過度に高まって肋骨等への加害性を高めることを防止できる。
【0049】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用したシートベルト装置の第2実施形態について説明する。
以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0050】
図8は、第2実施形態のシートベルト装置における制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
第2実施形態においては、上述した第1実施形態におけるウェビング110の張力を利用したパッシブ型のタング回動機構158に代えて、タング回動アクチュエータ170により、バックル160及びタングプレート保持部157に対してロッキングタング150の本体部151を回動させている。
タング回動アクチュエータ170として、例えば火薬式のガス発生装置を用いたものや、電動アクチュエータなどを用いることができる。
【0051】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果((4)項に記載のものを除く)に加えて、ロッキングタング150を回動させるタイミングの制御の自由度を高め、上述した効果をより確実に得ることができる。
【0052】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用したシートベルト装置の第3実施形態について説明する。
図9は、第3実施形態のシートベルト装置におけるロッキングタングが回動した後の状態を模式的に示す斜視図である。
第3実施形態のシートベルト装置においては、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて、ロッキングタング150の本体部151を回動(首振り)させるとともに、ロッキングタング150及びバックル160を、バックル160のシート10への取付箇所を支点として、車幅方向に沿った軸回りに、ロッキングタング150が上昇しかつ後退する方向に回動(揺動)させている。
【0053】
このようなロッキングタング150及びバックル160の回動は、例えば、バックル160の基部に、シートベルト制御ユニット210によって制御されるアクチュエータを有するタング上昇機構を設けることによって行うことができる。
また、バックル160の基部に、所定以上の外力が作用した際に一方向にのみ回動するワンウェイロック(ワンウェイクラッチ)を設けて、ショルダベルト部112がロッキングタング150を引き上げる方向の張力によって、ロッキングタング150及びバックル160が回動する構成としてもよい。
【0054】
以上説明した第3実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、ショルダベルト部112が乗員Pの胸部と当接する箇所を高くし、ショルダベルト部112が肋骨の下方側から乗員の胸部に沿ってせり上がることをより確実に防止できる。
【0055】
<第4実施形態>
次に、本発明を適用したシートベルト装置の第4実施形態について説明する。
図10は、第4実施形態のシートベルト装置におけるロッキングタングが回動した後の状態を模式的に示す斜視図である。
第4実施形態のシートベルト装置においては、車両の衝突又は衝突の前兆に応じて、ロッキングタング150の本体部151を回動(首振り)させるとともに、ロッキングタング150及びバックル160を、バックル160のシート10への取付箇所を支点として、車幅方向に沿った軸回りに、ロッキングタング150が下降しかつ前進する方向に回動(揺動)させている。
【0056】
このようなロッキングタング150及びバックル160の回動は、例えば、バックル160の基部に、シートベルト制御ユニット210によって制御されるアクチュエータを有するタング下降機構を設けることによって行うことができる。
また、バックル160の基部に、所定以上の外力が作用した際に一方向にのみ回動するワンウェイロック(ワンウェイクラッチ)を設けて、ラップベルト部111がロッキングタング150を前方へ引く方向の張力によって、ロッキングタング150及びバックル160が回動する構成としてもよい。
【0057】
以上説明した第4実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、衝突又は衝突の前兆に応じてロッキングタング150を下降させることにより、ショルダベルト部112が胸部にかかる位置を低くして、ショルダベルトがせり上がって肋骨に干渉することをより確実に抑制できる。
【0058】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車両及びシートベルト装置の構成は、上述した各実施形態に限らず、適宜変更することができる。
例えば、シートベルトを構成する各部品の形状、構造、機能、配置、個数などは、適宜変更することができる。
(2)各実施形態においては、ロッキングタングは、ウェビングの張力増加に応じてロックするパッシブ式のものであるが、本発明はこれに限らず、制御装置により制御されるアクチュエータによってロックするアクティブ式のロッキングタングを用いてもよい。
また、パッシブ型のロッキングタングの構成も実施形態のものに限定されず、適宜変更することができる。
(3)各実施形態においては、タングを回動させショルダベルトを捩じるタング回動機構をロッキングタングに設けているが、このようなタング回動機構をバックル側に設けて、バックル及びタングをともに回動させてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 シート 11 クッション
12 シートバック 20 Bピラー
100 シートベルト装置 110 ウェビング
111 ラップベルト部 112 ショルダベルト部
120 リトラクタ 121 ショルダリトラクタ
130 ラッププリテンショナ 140 ショルダアンカ
150 ロッキングタング 151 本体部
152 空間部 152a 摺動面部
152b ロック凹部 153 ラップベルトスリット
154 ショルダベルトスリット 155 ロック部材
155a 摺動面部 155b ウェビング当接部
155c ウェビング拘束部 156 タングプレート
157 タングプレート保持部 158 タング回動機構
158a シャフト 158b 穴部
158c カム溝 158d カムフォロワ突起
159 ロック部 159a ピン
159b 穴部 160 バックル
161 リリースボタン 170 タング回動アクチュエータ
200 制御システム 210 シートベルト制御ユニット
220 着座センサ 230 シートベルト着用センサ
240 加速度センサ 250 環境認識ユニット
251 ステレオカメラ装置 252 ミリ波レーダ装置
253 レーザスキャナ装置 254 通信装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10