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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】色鉛筆芯
(51)【国際特許分類】
   C09D 13/00 20060101AFI20231013BHJP
   B43K 19/02 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C09D13/00
B43K19/02 K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019196555
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021070724
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】神林 宏信
(72)【発明者】
【氏名】乾 太郎
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-118772(JP,A)
【文献】特開平08-027408(JP,A)
【文献】特開平07-041723(JP,A)
【文献】特開昭51-063744(JP,A)
【文献】特開平10-237378(JP,A)
【文献】特開2001-181545(JP,A)
【文献】特開2002-188034(JP,A)
【文献】特開2015-209508(JP,A)
【文献】特開2003-012992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 13/00
B43K 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体質材と無機結合材とを含んでなる多孔性芯体と、
前記多孔性芯体の気孔中に充填された着色インキと、
を含んでなり、
前記着色インキが、
染料で樹脂を染着した着色顔料と、
炭素数2~4のアルキレンオキシド単位からなるポリアルキレングリコールと炭素数3~10のカルボン酸とのエステルである可塑剤と、を含んでなることを特徴とする色鉛筆芯。
【請求項2】
前記体質材が、酸化チタン、雲母、タルク、窒化ホウ素、アルミナ、および炭酸カルシウムからなる群から選択される、請求項に記載の色鉛筆芯。
【請求項3】
前記無機結合材が、粘土類、セラミックス類、ゼオライト、珪藻土、活性白土、シリカ、およびリン酸アルミニウムからなる群から選択される、請求項1または2に記載の色鉛筆芯。
【請求項4】
前記多孔性芯体の気孔率が、5~40%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の色鉛筆芯。
【請求項5】
前記多孔性芯体が焼成芯体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の色鉛筆芯。
【請求項6】
(a)体質材と無機結合材を混練して混合物を調製する混練工程、
(b)前記混合物を押出成形して線状成形物を作成する押出工程、
(c)前記線状成形物を焼成して、多孔性芯体を作成する焼成工程、および
(d)前記多孔性芯体に、染料で樹脂を染着した着色顔料と、炭素数2~4のアルキレンオキシド単位からなるポリアルキレングリコールと炭素数3~10のカルボン酸とのエステルである可塑剤とを含んでなる着色インキを接触させて含浸させる含浸工程、
を含んでなることを特徴とする、色鉛筆芯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色鉛筆芯に関する。更に詳細には、発色性および消去性に優れ、書き味が滑らかで、物理的強度が高い、色鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャープペンシルなどに用いられている色鉛筆芯は、窒化ホウ素などの体質材と粘土などの結合材を主成分とし、必要に応じて有機高分子化合物などを含む混練物を押出成型した後、高温で焼成し得られた白色の多孔性芯体の気孔中に着色剤を含むインキを含浸させたものが用いられている。このような色鉛筆芯の発色性を高くするためには、色鉛筆芯に含まれるインキまたは着色剤の量を多くすることが考えられる。
【0003】
しかし、含浸するインキの量を多くするために多孔性芯体の気孔率を高くすると芯体の強度が低下する傾向がある。またインキ中の着色剤濃度を高くすると、着色剤が溶剤揮発によって析出し、筆跡の色調が変化することもあった。さらに溶剤の揮発によって、筆記時の書き味も変化する傾向にあった。
【0004】
また、インキに含まれる染料や溶剤の種類によって、色鉛筆芯を保持する材料や部材が変性することもあった。具体的には、溶剤にオレイン酸などを用いた場合、色鉛筆芯を保持するシャープペンシルやホルダーなどの部品が、経時によって腐食を受けることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭51-63744号公報
【文献】特開昭61-23667号公報
【文献】実開昭61-142835号公報
【文献】特開平07-041723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、筆記時の書き味および筆跡の発色性に優れ、経時保存後においてもその書き味および発色性が高いレベルで維持できる、色鉛筆芯を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による色鉛筆芯は、
体質材と無機結合材とを含んでなる多孔性芯体と、
前記多孔性芯体の気孔中に充填された着色インキと、
を含んでなり、
前記着色インキが、着色剤と、ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステルおよびアルコールのカルボン酸エステルからなる群から選択される可塑剤と、を含んでなることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明による色鉛筆芯の製造方法は、
(a)体質材と無機結合材を混練して混合物を調製する混練工程、
(b)前記混合物を押出成形して線状成形物を作成する押出工程、
(c)前記線状成形物を焼成して、多孔性芯体を作成する焼成工程、および
(d)前記多孔性芯体に、着色剤と、ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステルおよびアルコールのカルボン酸エステルからなる群から選択される可塑剤とを含んでなる着色インキを接触させて含浸させる含浸工程、
を含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明による色鉛筆芯は、十分な強度を有し、優れた書き味および発色性を有するものである。さらに、本発明による色鉛筆芯は、経時安定性に優れ、経時後にも優れた書き味および発色性を維持できるものである。また、同時に、その色鉛筆芯によって形成された筆跡も経時安定性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<色鉛筆芯>
本発明による色鉛筆芯は、多孔性芯体と、その多孔性芯体の気孔中に充填された着色インキとを含んでなる。以下に、それらの構成について説明すると以下の通りである・
【0011】
本発明の色鉛筆芯に用いる多孔性芯体は、主成分として体質材と無機結合材を含んでなる。体質材としては、酸化チタン、雲母、タルク、窒化ホウ素、アルミナ、炭酸カルシウムなど白色のものや、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛など有色のものなどが挙げられる。本発明による色鉛筆芯は、鮮やかな筆跡を形成させることが望ましい。また、着色剤として蛍光着色剤を用いることで蛍光色の筆跡を形成させる場合に、その発色を阻害しないものが好ましい。このため明度の高い筆跡を形成させるために、白色の体質材を用いることが好ましい。特に、窒化ホウ素を用いると、体質材が発色を阻害せず、また、色鉛筆芯の強度が高くなることから好ましい。
【0012】
前記無機結合材としては、カオリナイト類、ハロサイト類、モンモリロナイト類、セリサイト類、ベントナイト類などの粘土類、セラミックス類、ゼオライト、珪藻土、活性白土、シリカ、およびリン酸アルミニウムなどが挙げられ、これらを単独、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0013】
多孔性芯体の主成分である体質材と無機結合材との配合比は特に限定されないが、質量比で9:1~7:3であることが好ましい。
【0014】
本発明において、多孔性芯体は体質材と無機結合材とを含んでなる。一般的に鉛筆芯は、体質材と、無機結合材との混合物を成形した後に焼成することで製造されるが、本発明においても同様の方法を適用することができる。すなわち、体質材と無機結合との混合物を焼成することにより製造することができる(詳細後記)。
【0015】
また、体質材と、無機結合材と、無機物や水溶性樹脂などを含む混合物を、高圧で圧縮し、その後、水や溶剤などに浸漬して、前記無機物や水溶性樹脂などを取り除くことで、多孔性芯体を製造することもできる。
【0016】
また、本発明に用いる多孔性芯体の気孔率は特に限定されないが、5~40%の範囲であることが好ましく、10~30%の範囲であることがより好ましい。5%より小さいと、気孔内に存在する着色インキの量が少なくなり、発色が劣ったり、運筆に若干の抵抗が生じる傾向があり、40%より大きいと、得られた多孔性芯体の強度が低下して折れやすくなる傾向がある。5~40%の範囲であると、発色性も良好で、書き味が滑らかで、色鉛筆芯の強度が維持できるので好ましい。
【0017】
なお、本発明に用いる多孔性芯体の気孔率は、JIS R1634(1998)を参考に、以下の方法により測定することが出来る。まず、多孔性芯体の乾燥質量(W1)を測定する。次に、浸透性の良い液体(例えばベンジルアルコール)中に浸漬し、多孔性芯体の気孔に液体を飽和するまで吸収させた後、液中質量(W2)を測定する。さらに多孔性芯体を液中から取り出し、その表面に付着した液体を除去してから、飽液質量(W3)を測定する。これらの測定値を用いて、下記に示す数式(1)により、気孔率が求められる。
【0018】
気孔率 = (W3-W1)/(W3-W2)×100 (1)
【0019】
本発明による色鉛筆芯は、上記した多孔性芯体の気孔中に着色インキが充填されている。この着色インキは、主成分として着色剤と可塑剤とを含む。
【0020】
着色剤としては、染料または顔料を用いることができる。また、染料で樹脂を染着した着色顔料を用いることもできる。一般的に染料は溶液としたときに多孔性芯体に容易に浸透するので、本発明による鉛筆芯の製造が容易となる。
【0021】
本発明に用いることができる染料は特に限定されず、一般染料や蛍光染料が挙げられる。
【0022】
一般染料の例としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などが挙げられる。またそれら染料の造塩染料等して、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などが挙げられる。より具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(オリエント化学工業株式会社)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット CRH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(保土谷化学工業株式会社)などが挙げられる。
【0023】
蛍光染料の例としては、ベーシックイエロー1、同40、ベーシックレッド 1、同1:1、同13、ベーシックバイオレット1、同7、同10、同11:1、ベーシックオレンジ22、ベーシックブルー7、ベーシックグリーン1、アシッドイエロー3、同7、アシッドレッド52、同77、同87、同92、アシッドブルー9、ディスパースイエロー121、同82、同83、ディスパースオレンジ11、ディスパースレッド58、ディスパースブルー7、ダイレクトイエロー85、ダイレクトオレンジ8、ダイレクトレッド9、ダイレクトブルー22、ダイレクトグリーン6、ソルベントイエロー44、ソルベントレッド49、ソルベントブルー5、ソルベントグリーン7などが挙げられる。
【0024】
これらの染料は、色鉛筆芯の性能に影響を及ぼさない範囲で、筆跡の色を調整するなどのために、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの染料に、その他の染料を併用してもよい。
【0025】
また、着色剤としては、任意の顔料を用いることもできる。また、超微細化顔料や加工顔料等を用いることもできる。
【0026】
また、染料で樹脂を染着した着色顔料を用いることもできる。樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル樹脂、スチレン樹脂、含窒素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、など任意の樹脂を用いることができる。これらの樹脂に組み合わせる染料は、上記したものから選択することができる。
【0027】
それら樹脂の可塑剤に対する溶解性や、分散性および分散安定性、および、染料による染着性などを考慮すれば、樹脂として含窒素樹脂、スチレン-アクリロニトリル樹脂を用いることが好ましく、含窒素樹脂がより好ましい。含窒素樹脂については、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、ベンゾクアナミン樹脂などが好ましく用いられ、可塑剤との溶解安定性の観点から、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂が好ましく、メラミン樹脂がより好ましい。
【0028】
着色顔料の例としては、NKS-1000シリーズ、MPI-500シリーズ(日本蛍光化学株式会社製)、FNPシリーズ、FMシリーズ(シンロイヒ株式会社製)などが挙げられる。
【0029】
これらの着色顔料は、色鉛筆芯の性能に影響を及ぼさない範囲で、筆跡の色を調整するなどのために、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。さらに、これらの着色顔料に、染料を併用してもよい。
【0030】
着色インキは可塑剤をも含む。この可塑剤は、溶剤または分散媒としての機能を有する。一般に染料は可塑剤に溶解しており、また顔料は可塑剤中に分散している。
【0031】
本発明において用いられる可塑剤は、(i)ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステル(以下、エステル(i)ということがある)および(ii)アルコールのカルボン酸エステル(以下、エステル(ii)ということがある)からなる群から選択される。
【0032】
(i)ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステル
エステル(i)を構成するポリアルキレングリコールは、アルキレンオキシド単位に含まれる炭素数が2~4であるものが好ましい。具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドを単位として含むホモポリマーまたはコポリマーが挙げられる。これらのアルキレンオキシドは、一般的に直鎖状構造を有するが、分岐構造を有していてもよい。これらのうち、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキシド・プロピレンオキシド) コポリマーは、入手が容易であるので好ましい。
【0033】
また、エステル(i)を構成するカルボン酸は、モノカルボン酸であってもポリカルボン酸であってもよく、脂肪族カルボン酸であっても、芳香族カルボン酸であってもよい。このようなカルボン酸のうち、炭素数3~10のカルボン酸が好ましい。具体的には、プロピオン酸、ブタン酸、イソブタン酸、n-ペンタン酸、2-エチルブチル酸、2-エチルヘキシル酸、デカン酸などが挙げられる。
【0034】
ポリアルキレングリコールは、複数の末端に水酸基を有しており、その水酸基がカルボ酸のカルボキシル基と反応してエステルを形成する。一般的には、ポリアルキレングリコールのすべての水酸基がカルボキシル基と反応しているが、一部の水酸基が未反応のまま残っていてもよい。
【0035】
(ii)アルコールのカルボン酸エステル
エステル(ii)を構成するアルコールは、モノアルコールであっても、ポリオールであってもよいが、炭素数2~14のアルコールが好ましい。アルコールを構成する炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよく、また炭化水素鎖の炭素原子と炭素原子との間にオキシ基-O-を含んでいてもよい。具体的には、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、n-デシルアルコール、ベンジルアルコール、エトキシエチルアルコール、ブトキシエチルアルコール、ジブトキシエトキシエチルアルコールなどが挙げられる。
【0036】
エステル(ii)を構成するカルボン酸は、脂肪族カルボン酸であっても、芳香族カルボン酸であってもよい。脂肪族カルボン酸は、炭素数3~10であることが好ましい。また、カルボン酸は複数のカルボキシル基を有するポリカルボン酸が好ましい。具体的には、マロン酸、フマル酸、クエン酸、アセチルクエン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。芳香族ポリカルボン酸は、炭素数8~14であることが好ましい。具体的には、フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸などが挙げられる。
【0037】
より具体的には、(a)脂肪族ポリカルボン酸エステルとしては、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ-n-オクチル、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等、(b)芳香族ポリカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジル、トリメリット酸トリメチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸トリプロピル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリヘキシル、トリメリット酸トリ-n-オクチル等が挙げられる。
【0038】
本発明において可塑剤として用いることができるエステルは、一般に市販されており、例えば、エステル(i)として、アデカサイザーRS-1000、RS-735、RS-700等(いずれも商品名、株式会社ADEKA製)が、エステル(ii)として、アデカサイザーC-8、C-880、C-79、C810、C-9N、C-10等(いずれも商品名、株式会社ADEKA製)が挙げられる。また、エステル(ii)のうち、アルコールがオキシ基を含むものとして、アデカサイザーRS-107(アジピン酸ジブトキシエトキシエチル)等(商品名、株式会社ADEKA製)が挙げられる。
【0039】
本発明において、可塑剤は上記のエステル(i)および(ii)を用いることができるが、これらのうち、エステル(i)と、エステル(ii)のうち、アルコールがオキシ基を含むものは、着色インキの溶解性または安定性が優れている傾向がある。これは、エステル中に含まれるオキシ基と染料との相溶性が高いことに起因していると考えられる。
【0040】
可塑剤としてエステル(i)およびエステル(ii)を用いる場合、着色剤の溶解性や分散性、色鉛筆芯の保存性の観点から、質量平均分子量が3,000以下であることが好ましく、1,000以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明において用いられる可塑剤は、特定の溶解特性を示すことが好ましい。具体的には、SP値が8.0以上11以下であることが好ましい。ここで、SP値は、可塑剤を構成する各々のブロックのSP値の、質量基準の加重平均として算出される。また、可塑剤が、複数種類の化合物の混合物である場合には、各化合物のSP値の質量基準の加重平均値を可塑剤のSP値とする。
【0042】
本発明において、可塑剤は、常温において揮発しにくいものが好ましい。このような可塑剤を用いることによって、色鉛筆芯の経時安定性を高いレベルで維持することができる。具体的には、可塑剤は250℃以下では揮発しない液体であることが好ましい。また、可塑剤は、多孔性芯体の気孔への含浸を容易にするために、粘度が低いことが好ましい。具体的には、可塑剤の粘度は25℃において1,000mPa・s以下であることが好ましく、500mPa・s以下であることがより好ましく、100mPa・s以下であることがより好ましい。ここで粘度は、JIS-K-2283に準拠した方法で測定されたものである。
【0043】
着色インキ中の着色剤の濃度は、着色剤の種類によって適切な量が変わるが、5~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましく、30~50質量%であることが特に好ましい。また、色鉛筆芯の総質量に対する着色インキの含有量は、その種類によって適切な量が変わるが、15~40質量%であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。この範囲より少ないと、着色剤の含有量が少なくなり、発色性が劣る傾向があり、この範囲より多いと、着色剤の添加量に応じた発色性の向上が見られない傾向にあり、また着色剤が経時的に析出するなど、溶液または分散液の経時安定性が低くなる恐れがある。
【0044】
本発明による色鉛筆芯は、その性能に影響を及ぼさない範囲で各種添加剤を含んでいてもよい。具体的な添加剤としては、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、樹脂等が挙げられる。これらの添加剤は、着色インキに配合されていても、多孔性芯体に配合されていてもよい。
【0045】
本発明による色鉛筆芯の形状は特に限定されないが、一般に断面が円形である線状体とされる。その大きさは、例えばシャープペンシル用色鉛筆芯としては、断面直径が0.2~2.0mmであることが好ましく、0.3~0.7mmであることが好ましい。また、長さは30~100mmであることが好ましく、40~70mmであることがより好ましい。また、木材などの支持体に保持された一般的な色鉛筆に適用する場合には、断面直径が0.5~3.0mmであることが好ましく、0.8~2.0mmであることが好ましい。一般的な色鉛筆は、製造過程において長さの長い色鉛筆芯を木材などに挟み込んでから切断をすることが多いので、長さについては限定されないが、一般に1,000mm以下である。
【0046】
本発明による色鉛筆芯は、焼成により製造された多孔性芯体を用いると、高い物理的強度を実現できる。本発明による色鉛筆芯の曲げ強度は、120MPa以上であることが好ましく。180MPa以上であることがより好ましい。ここで曲げ強度は、JIS S 6005:2007に規定された方法で測定することができる。
【0047】
<色鉛筆芯の製造方法>
本発明による色鉛筆芯の製造方法は特に限定されない。しかしながら、
(a)体質材と無機結合材を混練して混合物を調製する混練工程、
(b)前記混合物を押出成形して線状成形物を作成する押出工程、
(c)前記線状成形物を焼成して、多孔性芯体を作成する焼成工程、および
(d)前記多孔性芯体に、着色剤と、ポリアルキレングリコールのカルボン酸エステルおよびアルコールのカルボン酸エステルからなる群から選択される可塑剤とを含んでなる着色インキを接触させて含浸させる含浸工程、
を含んでなる方法により製造することが好ましい。以下にこの方法について説明する。
【0048】
(a)混練工程
まず、体質材と無機結合材を混練して混合物を調製する。この混合物は多孔性芯体の主成分となるものである。混合に際しては、必要に応じて有機溶媒、可塑剤などを添加を添加することができる。ここで用いられる可塑剤は、原料混合物に流動性を持たせ、混合物を均一にするためのものであり、焼成工程においてほぼ完全に除去されるものであり、着色インキに用いられるものとは独立したものである。
【0049】
(b)押出工程、
引き続き、形成された混合物を押出成形して線状成形物を作成する。本発明による色鉛筆芯は、一般に断面形状が円形である線状体に成形することが好ましいので、押し出し成形によって線状成形物とされる。
【0050】
(c)焼成工程
得られた線状成形物を必要に応じて乾燥した後、焼成して、多孔性芯体を作成する。焼成によって、上記の混合物に含まれる有機溶媒が除去され、体質材と無機結合材とが焼結して多孔性芯体が形成される。焼成条件は、材料が焼結して多孔性芯体が形成される条件であれば特に限定されないが、例えば最高温度は650~1000℃とすることができる。また、急激な温度変化を避けるために、焼成時の温度を連続的または段階的に上昇させることもできる。このような場合の昇温速度は例えば10~100℃/hrとすることができる。また、設定された温度まで上昇させた後に、一定温度で一定時間、例えば0.5~2時間程度、焼成することも好ましい。さらに、目的に応じてこれらの各条件を任意に組み合わせることができる。例えば酸素雰囲気中で、常温から650℃までを10℃/hrで昇温し、その後650℃を1時間保って焼成する条件や、常温から1000℃までを100℃/hrで昇温し、その後1000℃を1時間保って焼成する条件などが採用できる。
【0051】
(d)含浸工程
形成された多孔性芯体を必要に応じて冷却した後、多孔性芯体を着色インキに接触させる。この工程において、多孔性芯体中に存在する気孔に着色インキが浸透する。含浸する方法としては、常圧含浸または減圧、加圧含浸法を用いることができる。
【0052】
必要に応じて、さらに洗浄などを行い、本発明による色鉛筆芯を得ることができる。
【実施例
【0053】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0054】
[実施例1~4、比較例1]
[混練工程、押出工程、および焼成工程]
窒化ホウ素 45質量部
シリカ 45質量部
ポリビニルアルコール 10質量部
水 100質量部
上記配合物をニーダー、三本ロールにて水分を蒸発しながら加熱混練し、得られた混練物を所定の径にて押出成形を行い、線状成形物を得た。この線状成形物をアルゴンガス中において 、昇温速度10℃/時間で600℃まで昇温し5時間保持し、その後、酸素雰囲気として 、100℃/hrで昇温し、900℃で1時間焼成して、気孔率が25%の多孔性芯体を得た。
【0055】
表1に示された着色剤および可塑剤を混合し、60℃で、均一に混合するまで攪拌をし、着色インキを得た。
【0056】
焼成工程で得られた多孔性芯体を、各着色インキ中に、60℃に加温した状態で浸漬し、6時間保持をした後、表面に残留している着色インキを拭き取って、色鉛筆芯を得た。
【0057】
【表1】
表中、
ピンク色蛍光顔料:MPI-507C(商品名、日本蛍光化学株式会社製、メラミン・パラトルエンスルホンアミド・ホルマリン重縮合物(メラミン樹脂)と、ベーシックバイオレット11:1(蛍光染料)と、ベーシックレッド 1:1(蛍光染料)との混合物からなる蛍光顔料)
イエロー色蛍光顔料:MPI-505C(商品名、日本蛍光化学株式会社製、メラミン・パラトルエンスルホンアミド・ホルマリン重縮合物(メラミン樹脂)と、ベーシックイエロー40(蛍光染料)との混合物からなる蛍光顔料)
オレンジ色蛍光顔料:MPI-504C(商品名、日本蛍光化学株式会社製、メラミン・パラトルエンスルホンアミド・ホルマリン重縮合物(メラミン樹脂)と、ベーシックイエロー40(蛍光染料)と、ベーシックバイオレット11:1(蛍光染料)と、ベーシックレッド 1:1(蛍光染料)との混合物からなる蛍光顔料)
【0058】
[評価]
得られた色鉛筆芯の性能について、以下の方法で評価した。
【0059】
[初期発色性の評価方法(発色性1)]
色鉛筆芯を用いて、上質紙(旧JIS P3201に規定される筆記用紙Aに相当するもの。化学パルプ100%を原料に抄造され、秤量範囲40~157g/m2 、白色度75.0%以上)に筆記し、その時の発色状態を目視により評価した。
A :非常に発色が良く、蛍光色が鮮やかに視認可能。
B :筆跡が薄く、やや発色に劣るが、蛍光色が視認可能。
C :筆跡が薄く、発色に劣り、蛍光色が視認困難。
【0060】
[初期書き味の評価方法(書き味1)]
色鉛筆芯を用いて、前記上質紙に筆記し、その時の書き味を官能試験により評価した。
A :非常に滑らかに筆記可能。
B :滑らかに筆記可能。
C :筆感がややざらつき重い。
【0061】
[経時後発色性の評価方法(発色性2)]
製造後、25℃環境下で4週間放置した焼成色鉛筆芯を用いて、前記上質紙に筆記し、その時の発色状態を目視により評価した。
A :非常に発色が良く、蛍光色が鮮やかに視認可能。
B :筆跡が薄く、やや発色に劣るが、蛍光色が視認可能。
C :筆跡が薄く、発色に劣り、蛍光色が視認困難。
【0062】
[経時後書き味の評価方法(書き味2)]
製造後、25℃環境下で4週間放置した焼成色鉛筆芯を用いて、前記上質紙に筆記し、その時の書き味を官能試験により評価した。
A :非常に滑らかに筆記可能。
B :滑らかに筆記可能。
C :筆感がややざらつき重い。
【0063】
得られた結果は表2に示すとおりであった。
【0064】
【表2】
【0065】
また、実施例1~4の色鉛筆芯を、真鍮製のチャックを有し且つ該チャックを前進させて鉛筆芯を繰り出すシャープペンシルに用いたところ、色鉛筆芯をチャックに保持した状態で、50℃環境下で8週間放置しても、チャックが腐食されることがなかった。