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特許7366907排気式マイクロチャンバを備えたマイクロ流体デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】排気式マイクロチャンバを備えたマイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/02 20060101AFI20231016BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20231016BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20231016BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
G01N35/02 A
G01N37/00 101
G01N35/08 A
C12M1/00 A
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020538093
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 US2018066706
(87)【国際公開番号】W WO2019143440
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】15/873,722
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514000473
【氏名又は名称】キアゲン サイエンシーズ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ヤマナ, カビール ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ヤマナ-ヘイズ, ショーン
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/116616(WO,A2)
【文献】特表平04-504758(JP,A)
【文献】国際公開第2013/175833(WO,A1)
【文献】特開2004-170408(JP,A)
【文献】特開2006-197906(JP,A)
【文献】特開2009-109222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-35/10
G01N 37/00
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料を取り扱うためのマイクロ流体デバイスであって、
前記マイクロ流体デバイスは、前記流体試料を受け入れるように構成された少なくとも1つのマイクロ流体ウェルを備え、
前記少なくとも1つのマイクロ流体ウェルは、
入口マイクロ流体チャネルと流体連通可能に結合されている一次入口と、
複数の並列なマイクロ流体チャネルの入口端部において前記複数の並列なマイクロ流体チャネルに流体連通可能に結合されている前記入口マイクロ流体チャネルであって、各マイクロ流体チャネルは、直列に配列されている複数のマイクロチャンバを含み、前記複数のマイクロチャンバは、出口端部を介して出口マイクロ流体チャネルに流体連通可能に結合されている、前記入口マイクロ流体チャネルと、
一次排気孔に流体連通可能に結合されている前記出口マイクロ流体チャネルであって、前記一次排気孔は、前記複数の並列マイクロ流体チャネルからガスを排出するように構成されている、前記出口マイクロ流体チャネルと
を備え、
各マイクロチャンバは、前記流体試料を受け入れるように構成されている反応チャンバと、前記流体試料が前記反応チャンバに流入するときに前記反応チャンバからガスを排出するように構成されている排気チャンバとを含み、
前記反応チャンバは、入口を介して対応するマイクロ流体チャネルに流体連通可能に結合されており、前記排気チャンバは、出口を介して前記対応するマイクロ流体チャネルに流体連通可能に結合されており、
前記反応チャンバは、前記ガスが前記出口に排出された後に、前記流体試料を前記排気チャンバに流すように構成されている、マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記反応チャンバは、前記排気チャンバよりも大きい、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記排気チャンバは、前記流体試料が前記反応チャンバに流入するときに前記反応チャンバからのガスの流れを可能にする一方で最初は前記反応チャンバからの前記流体試料の流れを阻止するように構成されている、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記排気チャンバは、前記反応チャンバから前記ガスが排出されたときに前記反応チャンバから前記流体試料の流れを放出するように構成されている、請求項3に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記排気チャンバは、バルブとして作用するように構成されている入口を含む、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記反応チャンバは、直径Dを有し、前記排気チャンバは、マイクロチャネルに沿った方向に延びる長さLと、前記長さに直交する方向に延びる幅Wとを有し、前記排気チャンバは、D/W≧2の直径対幅比と、L/W≧0.7の長さ対幅比とを有するように構成されている、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記排気チャンバは、L/W≧0.8の長さ対幅比を有する、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記排気チャンバは、L/W≧0.9の長さ対幅比を有する、請求項7に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
前記排気チャンバは、L/W≧1の長さ対幅比を有する、請求項8に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
前記反応チャンバは、深さdと、d/D≦2の深さ対直径比とを有する、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
前記反応チャンバは、約1.5の深さ対直径比d/Dを有する、請求項10に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
前記反応チャンバは、D≦600μmの直径を有する、請求項6に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
前記反応チャンバは、少なくとも60μmの直径Dを有する、請求項12に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
前記反応チャンバは、深さdを有し、前記マイクロ流体チャネルは、深さdを有し、前記反応チャンバ深さ対前記マイクロ流体チャネル深さ比d/dは、2:1以下である、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
前記排気チャンバは、前記反応チャンバ深さの少なくとも50%である深さを有する、請求項14に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
流体試料を取り扱うためのマイクロ流体デバイスであって、前記マイクロ流体デバイスは、
前記流体試料を受け入れるように構成されている少なくとも1つのマイクロ流体ウェルであって、前記少なくとも1つのマイクロ流体ウェルは、
入口マイクロ流体チャネルと流体連通可能に結合されている一次入口と、
複数の並列なマイクロ流体チャネルの入口端部において前記複数の並列なマイクロ流体チャネルに流体連通可能に結合されている前記入口マイクロ流体チャネルであって、各マイクロ流体チャネルは、直列に配列されている複数のマイクロチャンバを含み、前記複数のマイクロチャンバは、出口端部を介して出口マイクロ流体チャネルに流体連通可能に結合されている、前記入口マイクロ流体チャネルと、
一次排気孔に流体連通可能に結合される前記出口マイクロ流体チャネルであって、前記一次排気孔は、前記複数の並列マイクロ流体チャネルからガスを排出するように構成されている、前記出口マイクロ流体チャネルと
を備え、
各マイクロチャンバは、前記流体試料を受け入れるように構成されている反応チャンバと、前記流体試料が前記反応チャンバに流入するときに前記反応チャンバからガスを排出するように構成されている排気チャンバとを含み、
前記反応チャンバは、入口を介して対応するマイクロ流体チャネルに流体連通可能に結合されており、前記排気チャンバは、出口を介して前記対応するマイクロ流体チャネルに流体連通可能に結合されており、
前記反応チャンバは、前記ガスが前記出口に排出された後に、前記流体試料を前記排気チャンバに流すように構成されている、少なくとも1つのマイクロ流体ウェルと、
前記少なくとも1つのマイクロ流体ウェル内に設けられているマイクロ流体回路であって、前記マイクロ流体ウェル内に前記流体試料を分配するように構成されているマイクロ流体回路と
を備え、
前記マイクロ流体回路は、複数の反応チャンバと、前記複数の反応チャンバに関連する複数のマイクロ流体バルブとを含み、各マイクロ流体バルブは、関連する反応チャンバに流体連通可能に結合されている、マイクロ流体デバイス。
【請求項17】
前記反応チャンバは、前記マイクロ流体チャネルの上流側セグメントから流体を受け入れるように前記マイクロ流体回路内に配置されており、前記マイクロ流体バルブは、前記マイクロ流体チャネルの下流側セグメントに流体を送るように前記マイクロ流体回路内に配置されている、請求項16に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
前記複数の反応チャンバは、第1の反応チャンバと第2の反応チャンバとを含み、前記マイクロ流体バルブの1つは、前記第1の反応チャンバと前記第2の反応チャンバとの間に位置する、請求項16に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
前記第1の反応チャンバは、前記マイクロ流体バルブに流体連通可能に結合されており、前記マイクロ流体バルブは、前記第2の反応チャンバに流体連通可能に結合されており、前記マイクロ流体回路は、前記第1の反応チャンバから前記マイクロ流体バルブを通って前記第2の反応チャンバに流れるように前記流体試料を導くように配置されている、請求項18に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項20】
前記マイクロ流体バルブは、所定量の前記流体試料が前記第1の反応チャンバ内に受け入れられるまで前記第1の反応チャンバからの前記流体試料の前記流れを制限するように構成されている、請求項19に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項21】
各マイクロ流体バルブは、受動バルブであるように構成されている、請求項16に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項22】
各マイクロ流体バルブは、疎水性材料で形成されている、請求項16に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項23】
各マイクロ流体バルブは、ポリプロピレン、ポリエチレン、PTFEのうちの1つ以上から形成されている、請求項22に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項24】
流体試料を取り扱う方法であって、前記方法は、
直列に配列されている複数のマイクロチャンバと、前記複数のマイクロチャンバを流体連通可能に結合する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルとを含むマイクロ流体デバイスに流体試料を送るステップ(a)であって、各マイクロチャンバは、反応チャンバと、前記反応チャンバに流体連通可能に結合されている排気チャンバとを含む、ステップ(a)と、
前記流体試料を各マイクロチャンバの前記反応チャンバ内に導くステップ(b)であって、前記ステップ(b)は、前記マイクロ流体チャネルの第1のセグメントを通して前記
流体試料を前記反応チャンバ内に導くことを含む、ステップ(b)と、
前記流体試料が前記反応チャンバに流入するときに前記反応チャンバから前記排気チャンバを介してガスを排出するステップ(c)であって、前記ステップ(c)は、前記マイクロ流体チャネルの第2のセグメントを通してガスを排出することを含み、前記ステップ(c)は、前記流体試料を前記排気チャンバから前記マイクロ流体チャネルの前記第2のセグメントに流れるように導くことを含む、ステップ(c)と
を含む、方法。
【請求項25】
前記方法は、前記ステップ(c)中に前記流体試料が前記排気チャンバに流入することを阻止するステップ(d)を更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記方法は、前記ガスが前記反応チャンバから排出されたときに前記反応チャンバから前記排気チャンバ内に前記流体試料を放出するステップ(e)を更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記複数のマイクロチャンバは、第1のマイクロチャンバと第2のマイクロチャンバと第3のマイクロチャンバとを含み、前記第1のマイクロチャンバおよび前記第2のマイクロチャンバおよび前記第3のマイクロチャンバは、前記少なくとも1つのマイクロ流体チャネルによって流体連通可能に結合されており、前記マイクロ流体チャネルの第1のセグメントは、前記第1のマイクロチャンバと前記第2のマイクロチャンバとを流体連通可能に結合し、前記マイクロ流体チャネルの第2のセグメントは、前記第2のマイクロチャンバと前記第3のマイクロチャンバとを流体連通可能に結合する、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記方法は、前記反応チャンバに前記流体試料を充填した後に前記マイクロ流体デバイス上でデジタルPCRを実行するステップ(f)を更に含む、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の態様は、概して、マイクロ流体取り扱い方法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、DNA断片の単一又は少数のコピーを数桁に増幅して、数百万~数十億の特定のDNA配列のコピーを生成するために、分子生物学において使用される技術である。集束したDNA断片を反復的に複製する簡単で安価で且つ信頼性の高い方法であり、近代生物学及び関連する科学における数多くの分野に適用可能な概念である。
【0003】
PCRは、臨床及び研究室において幅広い用途で使用される一般的な技術である。そのような用途の例としては、配列決定のためのDNAクローニング、遺伝子クローニング及び遺伝子操作、遺伝子変異誘発;DNAに基づく系統発生の構築、又は遺伝子の機能解析;遺伝性疾患の診断及びモニタリング;古代DNAの増幅;DNAプロファイリングのための(例えば、法科学及び親子鑑定での)遺伝子指紋の解析;並びに感染症の診断のための核酸検査での病原体の検出が挙げられる。
【0004】
PCR方法は、典型的には、異なる温度依存性反応、具体的にはDNA融解と酵素によるDNA複製とが、何度も連続して迅速に進行することを可能にするために、反応物を反復的な加熱及び冷却のサイクルにさらすことを伴う、熱サイクルに依存する。標的領域に相補的な配列を含むプライマー(短いDNA断片)は、DNAポリメラーゼと共に、選択的且つ反復的な増幅を可能にする。PCRが進行すると、生成されたDNAはそれ自体が複製用の鋳型として使用され、元のDNA鋳型が指数関数的に増幅される連鎖反応が開始される。
【0005】
例えば、比較的高温(例えば、90℃よりも高い温度)にさらされると、DNA試料の二重らせん分子が一本鎖に分離される。比較的低温(例えば、50~70℃)では、DNAプライマーが標的部位でDNA試料の一本鎖に結合する。中程度の温度(例えば、60~80℃)では、ポリメラーゼは、初期にプライマーが一本鎖DNA分子に結合して形成されるDNA断片の伸長を促進する。次いで、1回のPCRサイクルの二本鎖DNA産物を比較的高温の温度域で分割し、新しいプライマー鎖に結合させることができ、試薬が使い果たされるまで各サイクルでDNAの量を倍増させる。したがって、標的DNA配列を含むDNA試料の濃度は、PCRに供されたときに、指数関数的に上昇し得る。
【0006】
デジタルPCR(dPCR)は、DNA試料を多数の別々のアリコートに分割して、標的DNA分子がアリコート中に存在するかどうかを判定するためにアリコートを増幅することを伴うPCR分析の一種である。指数関数的に増加したアリコートの数に基づいて、分割前のDNAの元の濃度が測定されてもよい。
【0007】
デジタルPCRは検出特異性を高めることができる。標的が非標的DNAの量と比較して相対的に希少である場合、バックグラウンドDNAは、試薬に関して競合し、非特異的増幅を起こす可能性がある。試料をdPCRマイクロプレート上の多くの小さなチャンバに分割することによって、区画内の希少標的の有効濃度が増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、dPCR又は分子生物学に関連する他の技術を行い得る、流体試料を取り扱うためのマイクロ流体デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、分子生物学的応用に関連する種々の技術に供され得る流体試料を取り扱うための、マイクロプレートなどの、マイクロ流体デバイスに関する。
【0010】
一態様によれば、マイクロ流体デバイスは、流体試料を受け入れるように構成された少なくとも1つのマイクロ流体ウェルを備える。少なくとも1つのマイクロ流体ウェルは、複数のマイクロチャンバと、複数のマイクロチャンバを流体的に結合する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルとを含む。各マイクロチャンバは、反応チャンバと排気チャンバとを含み、反応チャンバは、マイクロ流体チャネルから流体試料を受け入れるように構成され、且つ排気チャンバは、流体試料が反応チャンバに流入するときに反応チャンバからマイクロ流体チャネルを介してガスを排出するように構成される。
【0011】
別の態様によれば、マイクロ流体デバイスは、流体試料を受け入れるように構成された少なくとも1つのマイクロ流体ウェルと、少なくとも1つのマイクロ流体ウェル内に設けられたマイクロ流体回路とを備える。マイクロ流体回路は、マイクロ流体ウェル内に流体試料を分配するように構成される。マイクロ流体回路は、複数の反応チャンバと、反応チャンバを流体的に結合する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと、複数の反応チャンバに関連する複数のマイクロ流体バルブとを含む。各マイクロ流体バルブは、関連する反応チャンバに流体的に結合される。各反応チャンバは、マイクロ流体チャネルから流体試料を受け入れるように構成され、且つ各マイクロ流体バルブは、流体試料が反応チャンバに流入するときに、対応する反応チャンバからマイクロ流体チャネルを介してガスを排出するように構成される。
【0012】
別の態様によれば、流体試料を取り扱うための方法が提供される。本方法は、複数のマイクロチャンバと、複数のマイクロチャンバを流体的に結合する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルとを含むマイクロ流体デバイスに流体試料を送ること(a)を含む。各マイクロチャンバは、反応チャンバと、反応チャンバに流体的に結合された排気チャンバとを含む。本方法は、流体試料を各マイクロチャンバの反応チャンバ内に導くこと(b)と、流体試料が反応チャンバに流入するときに反応チャンバから排気チャンバを介してガスを排出すること(c)とを更に含む。
【0013】
前述の内容は、本開示の非限定的な概要である。他の態様、実施形態及び/又は特徴は、以下の説明から明らかになるであろう。
【0014】
本開示の種々の実施形態は、ある利点をもたらし得、且つ従来のマイクロ流体デバイスのある欠点を克服し得る。本開示の実施形態が同じ利点を共有するわけではなく、同じ利点を共有する実施形態が、全ての状況下で同じ利点を共有するわけではない。
例えば、本願は以下の項目を提供する。
(項目1)
流体試料を取り扱うためのマイクロ流体デバイスであって、
前記流体試料を受け入れるように構成された少なくとも1つのマイクロ流体ウェルであって、複数のマイクロチャンバと、前記複数のマイクロチャンバを流体的に結合する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルとを含む、前記少なくとも1つのマイクロ流体ウェルを備え、
各マイクロチャンバが、反応チャンバと排気チャンバとを含み、前記反応チャンバが、前記マイクロ流体チャネルから前記流体試料を受け入れるように構成され、且つ前記排気チャンバは、前記流体試料が前記反応チャンバに流入するときに前記反応チャンバから前記マイクロ流体チャネルを介してガスを排出するように構成される、
マイクロ流体デバイス。
(項目2)
前記反応チャンバが、前記マイクロ流体チャネルの第1のセグメントに流体的に結合され、且つ前記排気チャンバが、前記マイクロ流体チャネルの第2のセグメントに流体的に結合される、項目1に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目3)
前記マイクロ流体チャネルの前記第1のセグメントが、前記反応チャンバを前記反応チャンバに隣接して位置する第1のマイクロチャンバに流体的に結合する、項目2に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目4)
前記マイクロ流体チャネルの前記第2のセグメントが、前記排気チャンバを前記排気チャンバに隣接して位置する第2のマイクロチャンバに流体的に結合する、項目3に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目5)
前記反応チャンバが、前記排気チャンバよりも大きい、項目1に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目6)
前記反応チャンバが、前記排気チャンバに流体的に結合される、項目1に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目7)
前記排気チャンバは、前記流体試料が前記反応チャンバに流入するときに前記反応チャンバからのガスの流れを可能にする一方で最初は前記反応チャンバからの前記流体試料の流れを阻止するように構成される、項目1に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目8)
前記排気チャンバは、前記ガスが前記反応チャンバから排出されたときに前記反応チャンバから前記流体試料の流れを放出するように構成される、項目7に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目9)
前記排気チャンバが、バルブとして作用するように構成された入口を含む、項目1に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目10)
前記少なくとも1つのマイクロ流体ウェルが、複数のマイクロ流体チャネルを含み、各マイクロ流体チャネルが、マイクロチャンバの群を流体的に結合する、項目1に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目11)
各マイクロ流体チャネルが、マイクロチャンバの前記群を直列に流体的に結合する、項目10に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目12)
各マイクロ流体チャネルが、入口端部と出口端部とを含み、前記少なくとも1つのマイクロ流体ウェルが、入口チャネルと出口チャネルとを含み、各入口端部が前記入口チャネルに流体的に結合され、且つ各出口端部が前記出口チャネルに流体的に結合される、項目1に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目13)
前記少なくとも1つのマイクロ流体ウェルが、前記流体試料を受け入れるように構成された主入口を含み、前記主入口が前記入口チャネルに流体的に結合される、項目12に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目14)
前記少なくとも1つのマイクロ流体ウェルが、前記複数のマイクロチャンバからガスを排出するように構成された主排気孔を含み、前記主排気孔が前記出口チャネルに流体的に結合される、項目13に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目15)
前記反応チャンバが直径Dを有し、且つ前記排気チャンバが、マイクロチャネルに沿った方向に延びる長さLと、前記長さに直交する方向に延びる幅Wとを有し、前記排気チャンバが、D/W≧2の直径対幅比と、L/W≧0.7の長さ対幅比とを有するように構成される、項目1に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目16)
前記排気チャンバが、L/W≧0.8の長さ対幅比を有する、項目15に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目17)
前記排気チャンバが、L/W≧0.9の長さ対幅比を有する、項目16に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目18)
前記排気チャンバが、L/W≧1の長さ対幅比を有する、項目17に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目19)
前記反応チャンバが、深さdと、d/D≦2の深さ対直径比とを有する、項目15に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目20)
前記反応チャンバが、約1.5の深さ対直径比d/Dを有する、項目19に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目21)
前記反応チャンバが、D≦600μmの直径を有する、項目15に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目22)
前記反応チャンバが、少なくとも60μmの直径Dを有する、項目21に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目23)
前記反応チャンバが深さdを有し、且つ前記マイクロ流体チャネルが深さd を有し、前記反応チャンバ深さ対前記マイクロ流体チャネル深さ比d/d が2:1以下である、項目1に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目24)
前記排気チャンバが、前記反応チャンバ深さの少なくとも50%である深さを有する、項目23に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目25)
流体試料を取り扱うためのマイクロ流体デバイスであって、
前記流体試料を受け入れるように構成された少なくとも1つのマイクロ流体ウェルと、
前記少なくとも1つのマイクロ流体ウェル内に設けられたマイクロ流体回路であって、前記マイクロ流体ウェル内に前記流体試料を分配するように構成された前記マイクロ流体回路とを備え、
前記マイクロ流体回路が、複数の反応チャンバと、前記反応チャンバを流体的に結合する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと、前記複数の反応チャンバに関連する複数のマイクロ流体バルブとを含み、各マイクロ流体バルブが、関連する反応チャンバに流体的に結合され、
各反応チャンバが、前記マイクロ流体チャネルから流体試料を受け入れるように構成され、且つ各マイクロ流体バルブは、前記流体試料が前記反応チャンバに流入するときに、対応する反応チャンバから前記マイクロ流体チャネルを介してガスを排出するように構成される、
マイクロ流体デバイス。
(項目26)
前記反応チャンバが、前記マイクロ流体チャネルの上流側セグメントから流体を受け入れるように前記マイクロ流体回路内に配設され、且つ前記マイクロ流体バルブが、前記マイクロ流体チャネルの下流側セグメントに流体を送るように前記マイクロ流体回路内に配設される、項目25に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目27)
前記複数の反応チャンバが、第1の反応チャンバと第2の反応チャンバとを含み、前記マイクロ流体バルブの1つが、前記第1の反応チャンバと前記第2の反応チャンバとの間に位置する、項目25に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目28)
前記第1の反応チャンバが前記マイクロ流体バルブに流体的に結合され、且つ前記マイクロ流体バルブが前記第2の反応チャンバに流体的に結合され、前記マイクロ流体回路が、前記第1の反応チャンバから前記マイクロ流体バルブを通って前記第2の反応チャンバへ流れるように前記流体試料を導くように配設される、項目27に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目29)
前記マイクロ流体バルブは、所定量の前記流体試料が前記第1の反応チャンバ内に受け入れられるまで前記第1の反応チャンバからの前記流体試料の前記流れを制限するように構成される、項目28に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目30)
各マイクロ流体バルブが、受動バルブであるように構成される、項目25に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目31)
各マイクロ流体バルブが疎水性材料で形成される、項目25に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目32)
各マイクロ流体バルブが、ポリプロピレン、ポリエチレン及びPTFEの1つ又は複数から形成される、項目31に記載のマイクロ流体デバイス。
(項目33)
流体試料を取り扱う方法であって、
複数のマイクロチャンバと、前記複数のマイクロチャンバを流体的に結合する少なくとも1つのマイクロ流体チャネルとを含むマイクロ流体デバイスに流体試料を送る行為であって、各マイクロチャンバが、反応チャンバと、前記反応チャンバに流体的に結合された排気チャンバとを含む、前記行為(a)と、
前記流体試料を各マイクロチャンバの前記反応チャンバ内に導く行為(b)と、
前記流体試料が前記反応チャンバに流入するときに前記反応チャンバから前記排気チャンバを介してガスを排出する行為(c)と
を含む方法。
(項目34)
行為(b)が、前記マイクロ流体チャネルの第1のセグメントを通して前記反応チャンバ内に前記流体試料を導くことを含み、且つ行為(c)が、前記マイクロ流体チャネルの第2のセグメントを通してガスを排出することを含む、項目33に記載の方法。
(項目35)
行為(c)が、前記排気チャンバから前記マイクロ流体チャネルの前記第2のセグメントに流れるように前記流体試料を導くことを含む、項目34に記載の方法。
(項目36)
行為(c)中に前記流体試料が前記排気チャンバに流入するのを阻止する行為(d)を更に含む、項目33に記載の方法。
(項目37)
前記ガスが前記反応チャンバから排出されたときに前記反応チャンバから前記排気チャンバ内に前記流体試料を放出する行為(e)を更に含む、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記複数のマイクロチャンバが、前記少なくとも1つのマイクロ流体チャネルによって流体的に結合された、第1のマイクロチャンバと第2のマイクロチャンバと第3のマイクロチャンバとを含み、前記マイクロ流体チャネルの第1のセグメントが、前記第1のマイクロチャンバと前記第2のマイクロチャンバとを流体的に結合し、且つ前記マイクロ流体チャネルの第2のセグメントが、前記第2のマイクロチャンバと前記第3のマイクロチャンバとを流体的に結合する、項目33に記載の方法。
(項目39)
前記反応チャンバに前記流体試料を充填した後に前記マイクロ流体デバイス上でデジタルPCRを実施する行為(f)を更に含む、項目33に記載の方法。
【0015】
類似の符号が類似の要素を指す添付の図面を参照しながら、本開示の態様を、例として、以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態によるマイクロ流体デバイスの上面図である。
図2図2は、一実施形態によるマイクロ流体回路を図示する図1のマイクロ流体デバイスのウェルの拡大図である。
図3図3は、一実施形態によるマイクロ流体回路のマイクロチャンバ及びマイクロ流体チャネルを図示する図2のウェルの拡大図である。
図4図4は、図3の切断線4-4に沿って切ったマイクロ流体回路の断面図である。
図5図5は、一実施形態によるマイクロチャンバの拡大図である。
図6図6は、図5の切断線6-6に沿って切ったマイクロチャンバ回路の断面図である。
図7図7は、流体試料を内部に受け入れる図5図6のマイクロチャンバの上面図である。
図8図8は、流体試料が反応チャンバを部分的に満たし且つ空気が排気チャンバを通して排出される図6の概略図である。
図9図9は、流体試料が反応チャンバを満たし且つ排気チャンバへの狭窄部によって反応チャンバ内に保持される図6の概略図である。
図10図10は、反応チャンバ内で上昇した流体圧力によって、流体を反応チャンバ内に保持する表面張力に流体が打ち勝つ前に自由表面が狭窄部を越えて排気チャンバ内に突出する図6の概略図である。
図11図11は、図10のマイクロチャンバの上面概略図である。
図12図12は、マイクロチャンバの代表的な流体回路を図示するマイクロプレートウェルの概略図である。
図13図13は、流体的に結合されたマイクロチャンバの群を図示する図13の切断線13-13に沿って切ったマイクロプレートの断面図である。
図14図14A図19Bは、dPCR法での処理のためにマイクロプレートのウェルに流体試料を充填する工程を図示する概略図である。
図15図14A図19Bは、dPCR法での処理のためにマイクロプレートのウェルに流体試料を充填する工程を図示する概略図である。
図16図14A図19Bは、dPCR法での処理のためにマイクロプレートのウェルに流体試料を充填する工程を図示する概略図である。
図17図14A図19Bは、dPCR法での処理のためにマイクロプレートのウェルに流体試料を充填する工程を図示する概略図である。
図18図14A図19Bは、dPCR法での処理のためにマイクロプレートのウェルに流体試料を充填する工程を図示する概略図である。
図19図14A図19Bは、dPCR法での処理のためにマイクロプレートのウェルに流体試料を充填する工程を図示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の態様は、本開示の態様による例示の実施形態を示す、図を参照しながら本明細書で説明されることが理解されるべきである。本明細書で説明する例示の実施形態は、必ずしも本開示の全ての態様を示すように意図されておらず、むしろ、2、3の例示の実施形態を説明するために使用される。したがって、本開示の態様は、例示の実施形態を考慮して狭義に解釈されるように意図されていない。そして、本明細書で述べる種々の概念及び実施形態は、開示の概念及び実施形態がいかなる特定の実施態様にも限定されないので、数多くの方法のいずれかで実現され得ることが認識されるべきである。加えて、本開示の態様は、単独で、又は本開示の他の態様との任意の好適な組み合わせで使用され得ることが理解されるべきである。
【0018】
本開示は、分子生物学に関連する技術に供すべき流体材料の試料を取り扱うためのマイクロ流体デバイスに関し、且つデジタルPCR(dPCR)法での使用に特に好適である。理解を容易にするために、本開示の範囲を限定することなく、限定されるものではないが、特に、DNA融解と酵素によるDNA複製とを含むdPCR法との関連でマイクロ流体デバイスについて以下に説明する。しかしながら、当業者に明らかなように、マイクロ流体デバイスは、そのように限定されるものではなく、分子生物学に関連する他の臨床及び/又は研究技術と共に用いられ得ることが理解されるべきである。例えば、非限定的に、マイクロ流体デバイスは、配列決定のためのDNAクローニング、遺伝子クローニング及び遺伝子操作、遺伝子変異誘発;DNAに基づく系統発生の構築、又は遺伝子の機能解析;遺伝性疾患の診断及びモニタリング;古代DNAの増幅;DNAプロファイリングのための遺伝子指紋の解析;並びに感染症の診断のための核酸検査での病原体の検出のために用いられてもよい。マイクロ流体デバイスは、各々個別に又は組み合わせて、そのような特性に寄与する、1つ又は複数の特徴を含み得る。
【0019】
本開示は、より詳細には、dPCR法を用いて分析すべき1つ又は複数の流体試料を受け入れるための1つ又は複数のマイクロ流体ウェルを含むマイクロ流体デバイスを対象とするが、本開示はそのように限定されるものではない。各マイクロ流体ウェルは、ウェルに送られた一定量の流体試料を受け入れるように構成された複数のマイクロチャンバを含み得る。各マイクロチャンバは、マイクロ流体チャネル又はチャネルのセグメントによって、隣接するマイクロチャンバに流体的に結合されてもよい。マイクロチャンバは、ウェルを横切って延びる1つ又は複数のマイクロ流体チャネルによって流体的に結合されてもよい。例えば、マイクロチャンバは、マイクロチャンバの各群が、ウェルを横切って延びる別々のマイクロ流体チャネルによって流体的に結合される、マイクロチャンバの別々の群に配設されてもよい。このような配置は、流体試料が1つのマイクロチャンバからマイクロ流体チャネルを通って隣接するマイクロチャンバに流れ得るマイクロ流体回路を作り出す。
【0020】
マイクロ流体ウェル内に流体試料を受け入れる前に、ウェルのマイクロチャンバ及びマイクロ流体チャネルには、典型的には、空気などのガスが充填される。dPCR法に好適な他のガスもマイクロ流体回路内に存在し得るが、便宜上、本開示では、以下において、空気について言及する。流体試料をマイクロ流体ウェル内に導入することは、流体試料がマイクロ流体回路に沿って流れてマイクロ流体回路を満たすことを可能にするために、マイクロチャンバ及びマイクロ流体チャネルから空気を押し出す必要がある。マイクロ流体回路内に残存するいかなる空気も、dPCR法の精度に影響を与え得る気泡を潜在的にマイクロチャンバ内に形成する可能性がある。
【0021】
マイクロチャンバの深さ対直径のアスペクト比を変えることによって、マイクロ流体デバイス内での気泡形成に対処してもよい。例えば、比較的浅い深さ及び大きな直径(すなわち、比較的小さなアスペクト比)を有するように構成されたマイクロチャンバは、流体がマイクロチャンバに流入するときの気泡の形成及び/又は混入を回避するのに効果的である場合がある。本発明者らは、そのようなマイクロチャンバ構成によってマイクロ流体ウェル内のマイクロチャンバの数が制限される可能性があることを認識した。本発明者らは、マイクロ流体ウェル内のマイクロチャンバの数を増加させることがマイクロ流体デバイスのいくつかの用途で望ましい場合があることを更に認識した。マイクロチャンバの数を増加させるには、比較的大きなアスペクト比(すなわち、より小さな直径、より大きな深さ)を有するマイクロチャンバを使用して、より小さなアスペクト比を有するマイクロチャンバと同じ容積を達成する必要がある。しかしながら、本発明者らは、比較的高いアスペクト比を有するように構成されたマイクロチャンバが、気泡形成の影響を受けやすくなり得ることを認識した。例えば、マイクロチャンバがマイクロ流体チャネルよりも実質的に深い、マイクロチャンバを比較的浅いマイクロ流体チャネルと流体的に結合することが望ましい場合がある。流体試料が入口チャネルを通ってマイクロチャンバに流入すると、マイクロチャンバ内のガスは、流入した流体によって押し出されて、出口チャネルから抜ける。しかしながら、マイクロチャンバを完全に満たす前に流体試料が出口チャネルに達する可能性があり得る。流体試料が出口チャネルに達して出口チャネルに入ったときに、追加のガスがマイクロチャンバから抜けることができず、その結果、気泡がマイクロチャンバ内に閉じ込められることがある。
【0022】
本発明者らは、マイクロ流体回路内に、特にマイクロ流体ウェル内のマイクロチャンバ内に存在する気泡を排除しないまでも低減するマイクロ流体デバイスが、特にdPCR法に有利であることを認識した。本発明者らは更に、マイクロチャンバ内での気泡形成の可能性をコスト効率の高い方式で低減するマイクロ流体デバイスを開発することが有益であると認識した。
【0023】
本開示のマイクロ流体デバイスには、各マイクロチャンバが反応チャンバと関連する排気チャンバとを含むマイクロチャンバのアレイが設けられてもよい。マイクロ流体回路は、マイクロ流体ウェルに導入された流体試料が反応チャンバに流入して反応チャンバ内に存在する空気又は他のガスがマイクロチャンバから排気チャンバを通って排出されるように配設されてもよい。マイクロチャンバは、流体試料によって反応チャンバから空気が押し出され且つ/又は所定量の流体試料が反応チャンバ内に受け入れられるまで反応チャンバから排気チャンバ内への空気の流れのみを可能にするように構成されてもよい。マイクロチャンバは更に、その後に流体試料が反応チャンバから排気チャンバに流入することを可能にするように構成されてもよい。マイクロチャンバのアレイは、排気チャンバから出た流体が、マイクロチャンバを流体的に結合するマイクロ流体チャネルを通ってマイクロ流体回路内の次のマイクロチャンバの反応チャンバへ流れ得るように配設されてもよい。マイクロ流体チャネルは、マイクロチャンバに流体試料が充填された後のチャネルの封止を容易にするためにマイクロチャンバよりも浅くてもよい。
【0024】
マイクロチャンバは、流体及び空気の流れを制御するために反応チャンバと排気チャンバとの間にマイクロ流体バルブ又はバルブ類似装置を含み得る。一態様において、マイクロチャンバは、排気チャンバが少なくとも1つの寸法において反応チャンバよりも小さくなるように構成され、且つ表面張力が流体の圧力によって克服されるまで、流体が排気チャンバに入るのを阻止するために、反応チャンバから排気チャンバへの移行部において十分な表面張力を生じさせるように構成されてもよい。このように、マイクロ流体バルブは、流体が流れることを可能にするのに必要な弁の能動作動なしに受動的に作用する排気チャンバへの移行部又は入口に形成される。
【0025】
排気チャンバは、反応チャンバと同じか又はそれよりも更に深い深さを有するように構成されてもよい。排気チャンバは、流体試料がマイクロチャンバに流入するときに、流体が反応チャンバの完全な深さを満たすまでガスが抜けることができるように、マイクロチャンバの深さの、全体ではないとしても、大部分にわたって反応チャンバに接続されてもよい。代替的に、所定の気泡を混入させることが望ましい場合があるいくつかの用途では、排気チャンバの深さは、反応チャンバの深さよりも小さく、且つ反応チャンバの一部のみにわたって延びてもよい。流体試料が、排気チャンバに結合されていない反応チャンバの一部に達すると、反応チャンバ内に残存する一定量のガスは、排出できずに混入され、それによって、排気チャンバによって排出されない、反応チャンバの一部によって画定される気泡を形成する。
【0026】
各マイクロ流体ウェルには、流体試料を受け入れるための主入口と、流体試料がウェルに送られるときにマイクロチャンバから空気及び過剰な流体を排出するための主排気孔とが設けられてもよい。マイクロ流体ウェルへの主入口は、当業者には明らかなように、流体試料を各マイクロ流体ウェルに送るためのピペッティング又は他の技術に対応するように配設されてもよい。
【0027】
各マイクロ流体ウェルは、流体試料の一部をマイクロチャンバの各々に分配するように構成されてもよい。例えば、非限定的に、マイクロチャンバは、流体試料の一部が、群の各マイクロチャンバを流体的に結合する別々のマイクロ流体チャネルによってマイクロチャンバの各群に送られる、複数の群に配設されてもよい。いくつかの用途では、各群のマイクロチャンバは、複数のマイクロ流体チャネル又はマイクロ流体チャネルのセグメントによって直列に流体的に結合されてもよい。各群はまた、流体試料の一部を互いに並列に受け入れるように配設されてもよい。しかしながら、本開示は、そのように限定されるものではなく、且つマイクロチャンバは、当業者には明らかなように、任意の好適な方式で配設及び/又は流体的に結合されてもよい。
【0028】
図1に示す一実施形態では、マイクロ流体デバイス20は、限定されるものではないが、dPCR法を用いて分析すべき1つ又は複数の流体試料を受け入れるための1つ又は複数のマイクロ流体ウェル24が設けられたマイクロプレート22を含み得る。当業者によって認識されるように、マイクロ流体ウェル24の各々は、同じ流体試料を受け入れてもよく、又は異なるウェルは、分析のために異なる流体試料を受け入れてもよい。
【0029】
図示するように、マイクロ流体ウェル24は、特定の技術及び/又はマイクロ流体システムに好適な他の配置も考慮されるが、格子パターンを有するアレイで配設されてもよい。一実施形態では、マイクロ流体デバイスは、8×12の格子パターンで配設された96個のマイクロ流体ウェルを含み得る。他の配置は、限定されるものではないが、格子パターンで配設された24個のマイクロ流体ウェルを備えたマイクロプレートを含み得る。
【0030】
各マイクロ流体ウェル24は、ウェルを横切って延びる1つ又は複数のマイクロ流体チャネル30によって流体的に結合された複数のマイクロチャンバ28を含むマイクロ流体回路26を有し得る。マイクロチャンバ28は、dPCR又は他の技術に供すべき所定量の流体試料を受け入れて保持するように構成されてもよい。各マイクロ流体ウェル24は、マイクロ流体回路全体に分配すべき流体試料を受け入れるための一次入口32と、マイクロ流体回路から空気及び過剰な流体を排出するための一次排気孔34とを含み得る。
【0031】
マイクロ流体回路を通る流体の流れを容易にするために、マイクロチャンバは、互いに流体的に結合される群又は副回路内に配設されてもよい。図2図4に図示する一実施形態では、マイクロチャンバは、複数の群36に配設されてもよく、且つ各群におけるマイクロチャンバは、マイクロ流体チャネル30又はマイクロ流体チャネルのセグメントと直列に互いに流体的に結合されてもよい。マイクロチャンバの各群36は、流体の流れを互いに並列に受け入れるように配設されてもよい。マイクロチャンバの各群36は、入口端部38と出口端部40とを備えたマイクロ流体チャネル30を含み得る。入口端部38は、入口マイクロ流体チャネル42を介して一次入口32に流体的に結合されてもよく、且つ出口端部40は、出口マイクロ流体チャネル44を介して一次排気孔34に流体的に結合されてもよい。当業者には明らかなように、流体試料の流れ又は分配を容易にするために任意の好適なマイクロ流体回路配置が用いられ得ることを認識されたい。
【0032】
いくつかの用途では、マイクロ流体ウェル内のマイクロ流体チャネルの数を増加させることが望ましい場合がある。マイクロ流体チャネルの数を増加は、マイクロチャンバの直径を減少させることを伴い得る、隣り合うマイクロチャンバ間の間隔を狭めることによって達成されてもよい。同じマイクロチャンバ容積を維持するために、マイクロチャンバの深さを増加させる。しかしながら、本発明者らは、このようにマイクロチャンバのアスペクト比を変えることによって、マイクロチャンバ内に気泡が閉じ込められる可能性がより高い、マイクロ流体ウェルのマイクロ流体回路を通る流体試料のあまり効率的でない流れが生み出され得ることを認識した。
【0033】
この懸念事項に対処するために、各マイクロチャンバは、マイクロチャンバ内に気泡が閉じ込められる発生率の低下を伴う、流体がマイクロ流体回路を通って効率的に流れることを可能にする方式で、流体試料がマイクロチャンバに流入するときに、空気などの、ガスを排出するように構成されてもよい。
【0034】
図3図5に図示する一実施形態では、各マイクロチャンバ28は、反応チャンバ46と、関連する排気チャンバ48とを含み得る。反応チャンバ46は、マイクロ流体チャネル30から所定量の試料を受け入れて保持するように構成され、且つ排気チャンバ48は、流体試料が反応チャンバに流入するときに反応チャンバ46からガスを排出するように構成される。少なくとも反応チャンバからガスが排出され且つ/又は反応チャンバが所定量の流体を受け入れたときに、流体試料が、排気チャンバ48を通って流れ、且つマイクロ流体チャネル30に沿ってマイクロ流体回路内の次のマイクロチャンバまで連続する。このように、反応チャンバ46は、マイクロ流体チャネルの上流側セグメント30aから流体を受け入れ、流体は排気チャンバを通過してマイクロ流体チャネルの下流側セグメント30bに移る。その上、マイクロ流体回路内に存在する空気は、マイクロ流体チャネルに沿って進む流体試料の流れによって、マイクロ流体回路から排出される。
【0035】
前述のように、マイクロチャンバ28は、流体及び空気の流れを制御するためのマイクロ流体バルブ又はバルブ類似装置を含み得る。一実施形態では、排気チャンバ48は、毛細管バルブ又は疎水性バルブ(としてではないとしても)と同様に作用するように構成されてもよい。より詳細には、マイクロチャンバ28は、反応チャンバ46が空気を実質的に含まなくなるまで(さもなければ空気が充填工程中に反応チャンバ内に気泡を形成する)最初は液体試料が排気チャンバ48に入るのを阻止するために狭い疎水性狭窄部50を有するように構成されてもよい。追加的又は代替的に、マイクロチャンバ28は、正確な結果をもたらすのに適切であり得る所定量の流体試料が反応チャンバ46に充填されるまで最初は流体試料が排気チャンバ48に入るのを阻止するために狭い疎水性狭窄部50を有するように構成されてもよい。
【0036】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、毛管力は、液体、空気及び固体表面の間の界面において、液体、空気及び固体表面の相互作用をもたらす。液相中の分子は、液体のバルク中で均衡が保たれる凝集力によって互いに保持される。液体の縁にある液体分子では、他の液体分子との凝集力が、隣接する空気分子との相互作用よりも大きく、その結果、界面における液体分子が液体の方に引き寄せられる。これらの力の全体的な効果は、空気にさらされる液体の自由表面を最小限に抑えることである。表面積の減少によって生じる低下した表面エネルギーの釣り合いが表面張力である。
【0037】
表面張力は、毛細管などの、空の非湿潤通路に液体を押し込むのに必要な圧力上昇のために重要である。したがって、反応チャンバ46から排気チャンバ48への狭い疎水性狭窄部50を設けることによって、狭窄部における表面張力が反応チャンバ内の流体圧力の上昇によって克服されるまで、反応チャンバから排気チャンバへの流体試料の流れが阻止される。マイクロチャンバは、所定量の液体が反応チャンバ内に存在するときに表面張力を克服するのに必要な圧力が発生するように構成されてもよく、この圧力は、反応チャンバから排気チャンバ内に又は排気チャンバを通して空気が押し出されたときに生じる。
【0038】
反応チャンバ46と排気チャンバ48との間の毛管効果は、チャンバ間に位置する狭い狭窄部50を含むマイクロチャンバ構成によって達成されてもよい。図3図5に図示する一実施形態では、反応チャンバ46は、直径Dと深さdとを備えた円形構成を有し得る。排気チャンバ48は、長さLと幅Wとを備えた矩形構成を有し得る。図示のように、排気チャンバの長さLは、幅Wが長さを横断する、例えば長さに直交する状態で、マイクロチャネル30に沿った方向に延びてもよい。排気チャンバ48は、反応チャンバ全体からのガスの排出を容易にするために、反応チャンバと同じ深さを有し得る。反応チャンバ46は、排気チャンバの幅Wとチャンバの深さdとによって画定された入口又は狭窄部50によって排気チャンバに流体的に結合されてもよい。他の実施形態では、排気チャンバの深さは、特に規定量のガスを混入させて反応チャンバ内に気泡を形成することが望ましい場合、反応チャンバの深さよりも小さくてもよい。
【0039】
マイクロチャンバ28の毛管効果は、チャンバに関連する寸法関係によって影響を受ける場合がある。例えば、毛管効果は、反応チャンバ46と排気チャンバ48との直径対幅比D/W、排気チャンバ48の長さ対幅比L/W、及び反応チャンバ46の深さ対直径比d/Dに影響される場合がある。
【0040】
例示の一実施形態では、マイクロチャンバ28は、D/W≧2の直径対幅比とL/W≧1の長さ対幅比とを有するように構成されてもよい。これらの比率を有するマイクロチャンバ構成は、反応チャンバがd/D≦2の深さ対直径比を有するマイクロチャンバ構成に好適である。例えば、非限定的に、1.5の深さ対直径比d/Dが、D/W≧2及びL/W≧1と共に用いられてもよい。しかしながら、所望のレベルの表面張力又は毛管効果を達成するために、マイクロチャンバに他の比率も用いられ得ることを認識されたい。他の実施形態では、排気チャンバ48は、L/W≧0.7の長さ対幅比、L/W≧0.8の長さ対幅比、L/W≧0.9の長さ対幅比、又はL/W≧1の長さ対幅比を有し得る。
【0041】
毛管効果はまた、チャンバの幾何学的側面によって影響を受ける場合がある。例えば、非限定的に、排気チャンバ48への入口50の縁部構成は、流体が排気チャンバに入るのを妨げる表面張力の量に影響を及ぼすことがある。より詳細には、比較的鋭い縁部は、より丸みを帯びた縁部に比べて高い表面張力をもたらし得る。一実施形態では、マイクロチャンバは、反応チャンバ内の一定量の流体が表面張力を克服するのに十分な流体圧力を生み出すまで表面張力を高めて流体を反応チャンバ内に保持するために、排気チャンバへの入口に比較的鋭い縁部を有するように構成されてもよい。マイクロチャンバは、反応チャンバに気泡が含まれない場合にこのことが起こるように構成されてもよい。
【0042】
マイクロチャンバ及び/又はマイクロ流体回路の特徴に関連する他の寸法関係もまた、流体試料の流れ及び/又はマイクロチャンバ内の気泡混入に影響を及ぼす場合がある。例えば、流体の流れ及び/又は気泡混入は、反応チャンバ46とマイクロ流体チャネル30との深さ比と、反応チャンバ46と排気チャンバ48との深さ比とによって影響を受ける場合がある。一実施形態では、反応チャンバ及びマイクロ流体チャネルは、d/d≧2:1の深さ比を有し得る。一実施形態では、排気チャンバの深さは、反応チャンバの深さの少なくとも50%であってもよい。しかしながら、当業者には明らかなように、他の深さ比も用いられ得ることを認識されたい。
【0043】
例示の一実施形態では、マイクロチャンバ28は、60μmの直径Dを有する反応チャンバ46と、25μmの幅Wと約16μmの長さLを有する排気チャンバ48とで構成されてもよい。反応チャンバ及び排気チャンバは各々、100μmの深さdを有し得る。マイクロチャンバはまた、マイクロチャネル30の方向に反応チャンバの直径Dを横切って75μmの排気チャンバの端壁52まで延びる全長Lを有し得る。好ましくは、反応チャンバの直径は、30μm~600μmであってもよい。しかしながら、30μm未満の直径を有する反応チャンバが、いくつかの用途で使用されてもよい。同様に、表面張力効果は、直径が600μmを超えて増加するにつれて低下して効果が小さくなり得るが、反応チャンバは、600μmよりも大きな直径を有するように構成されてもよい。
【0044】
例示の一実施形態では、各ウェル24のマイクロ流体回路は、各群が、マイクロ流体チャネル30と互いに流体的に結合された約74個のマイクロチャンバを含み、その結果、ウェルが、流体試料の別々の部分を受け入れるための8500個よりも多くのマイクロチャンバを有する、約116群のマイクロチャンバ28を含むように配設されてもよい。図2図3に図示するように、マイクロチャンバの群36は、ウェルを横切って延びる直線状パターンで配設されてもよい。マイクロ流体回路は、各群におけるマイクロチャンバが直列に配設された状態で、各群を通って互いに並列に流れるように流体試料を導くように配設されてもよい。しかしながら、マイクロ流体回路では、当業者には明らかなように、任意の好適な構成が用いられ得ることを認識されたい。
【0045】
例示の一実施形態では、マイクロチャンバの各群は、隣接する群から約70μmの間隔Sをおいて配設されてもよい。図3に示すように、隣り合う群におけるマイクロチャンバは、ウェル内のマイクロチャンバの密度を更に増加させるために、約55μmのオフセットSを有するように配設されてもよい。各マイクロ流体チャネル又はマイクロ流体チャネルの接続セグメントは、約45μmの幅Wと約20μmの深さdとを有し得る。しかしながら、マイクロ流体回路では、当業者には明らかなように、マイクロチャンバ間の任意の好適な間隔と、マイクロ流体チャネルの任意の好適なサイズが用いられ得ることを認識されたい。
【0046】
図1に示す図示の一実施形態では、マイクロ流体デバイスは、8×12の格子配置で配設された96個のウェルを備えたマイクロプレートを含み得る。各ウェルは、9mm×9mmの正方形構成を有し得る。マイクロプレートの全体のサイズは、72mm×108mmであってもよい。そのような配置では、1つのマイクロプレート当たり760,000個を超えるマイクロチャンバが提供され得る。マイクロ流体デバイスでは、当業者には明らかなように、ウェルの他の好適な配置も用いられ得ることを理解されたい。
【0047】
マイクロ流体デバイスは、当業者には明らかなように、任意の好適な製造技術を使用して任意の好適な材料から作られてもよい。
【0048】
例示の一実施形態では、マイクロ流体デバイスは、複数の材料層から形成されてもよい。マイクロ流体デバイスの層は、同様の又は異なる材料から構成されてもよい。一実施形態では、マイクロ流体デバイスは、反応チャンバが流体を受け入れているときに排気チャンバへの流体及び空気の流れを制御するために、マイクロチャンバ内で毛管効果を高めるための疎水性材料を含み得る。
【0049】
いくつかの実施態様において、デバイスの層は、比較的硬質のプラスチック、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、PTFEなどで作製されてもよい。PTFE、ポリプロピレンなどの、一部のプラスチックは、本来疎水性であり、それゆえ、液体が排気チャンバに尚早に流入するのを阻止する毛管効果の性能を改善し得る。代替的に、層は、シリコーン又は他のエラストマーなどの可撓性のあるゴム状材料を含み得る。他の可能性のある材料としては、ガラス、セラミック、シリコンなどが挙げられ得る。そのようなものとして、層は、硬質又は変形可能であってもよい。そのような材料は、チャンバ/空洞内の内容物の光学的測定を容易に可能にするために、半透明又は透明であってもよい。
【0050】
マイクロ流体デバイスの個々の層は、任意の好適な方法によって作製されてもよい。いくつかの実施形態では、層は、射出成形によって、空洞及びチャネルをプラスチック薄板にエンボス加工すること、エッチング、又は他の任意の好適な方法によって、作製される。例えば、空洞及びチャネルを画定する空間は、層を構成するプラスチック/ポリマー又はエラストマー材料中に形成され(例えば、成形され、エッチングされ)てもよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、異なる層は、最初は流体連通状態にある空洞及びチャネルを画定してもよい。例えば、第1の層は、空洞を互いに接続するチャネルを画定せずに多数の空洞を画定してもよく、第1の層に隣接する追加の層は、空洞を接続するチャネルを画定してもよい。そのようなチャネルは、例えば、2つの層の互いに対する圧縮によって、適切に封止されてもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、層は、アクリル接着剤、天然ゴム接着剤、又はシリコーン接着剤を含み得る。そのような材料は、圧縮力を受けたときに(例えば、封止材料として)デバイスのチャネルに変形するのに好適であってもよい。いくつかの実施形態では、接着剤は、比較的硬質の層上に、又は代替的に、別個の基材上に配置されてもよい。好適な基材の例としては、限定されるものではないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、及び/又は他の好適なプラスチックが挙げられ得る。
【0053】
マイクロ流体デバイスの種々の構成要素(例えば、層、接着剤など)は、任意の好適な方法によって互いに接着されてもよい。例えば、接着剤は、分離/封止材料と第1及び/又は第2の層とを接合するためになど、1つ又は複数の構成要素を互いに接合するために使用されてもよい。いくつかの実施形態では、マイクロ流体デバイスの構成要素は、異なる層の表面間の均一に分布した接合をもたらすように(例えば、締め付け、圧延、又は他の外部から印加される力によって)互いに圧縮されてもよい。
【0054】
ある特定の材料では、適切な量の圧縮力及び/又は熱の印加によって、デバイスの構成要素のある特定の特徴に変化がもたらされてもよい。例えば、高温では、ワックスなどのある特定の材料は、粘着性及び/又は接着性がますます高まり、デバイスの構成要素間に強固な接着をもたらす。よって、ワックス層を含む、デバイスの異なる層は、組み付けられ、次いで、適切な時間にわたって圧縮及び加熱に供されて、ワックスが接合を生じさせることを可能にしてもよい。いくつかの実施形態では、層間の接合を促進するために、1つ又は複数の適切な溶媒が使用されてもよい。
【0055】
図6図11は、流体試料がウェルのマイクロ流体回路を通って流れるときのマイクロチャンバ内への及びマイクロチャンバからの流体及び空気の流れの一例を図示している。
【0056】
図6は、流体試料の導入前の空気又は何か他のガスのみを収容するマイクロチャンバ28を図示している。
【0057】
図7図8は、反応チャンバ46に入って空気を排気チャンバ48内に押し出す流体試料を図示している。図8は、流体試料が反応チャンバに入るときに下方向に流れる流体試料を図示しているが、マイクロ流体デバイスは、典型的には、流体試料が実際に反応チャンバの底部に入って上方向に流れるような向きに配置される。この点に関して、図6図11は、マイクロ流体デバイスで使用する際にマイクロチャンバが典型的にどのような向きに配置されるかから180°回転させたマイクロチャンバを図示している。
【0058】
図9は、流体試料が充填され且つ反応チャンバからの空気の排出に起因する気泡が含まれない反応チャンバ46を図示している。図示のように、流体は、排気チャンバ48への入口50で生じる表面張力によって反応チャンバ46内に維持される。
【0059】
図10図11に図示するように、反応チャンバ46内の流体圧力の増加によって、流体圧力が表面張力を克服して流体が排気チャンバ48に流入するまで流体の自由表面60が入口50から突出する。図10に図示するように、どこで及びどのくらいの速さで流体が狭窄部を通り抜けるかに応じて、気泡が排気チャンバ48内に閉じ込められる可能性があり得る。しかしながら、排気チャンバの一部内に閉じ込められた気泡は、反応チャンバ内で発生する反応に悪影響を及ぼすものとは予期されていない。
【0060】
図12図19は、dPCR又は分子生物学に関連する他の技術を行うためのマイクロ流体デバイスのウェルのマイクロ流体回路を通して導入される流体試料の例を図示している。
【0061】
図12は、流体試料の導入前の、マイクロ流体回路26を備えたマイクロプレートウェル22の概略図である。マイクロ流体回路は、並列に配設された14群26のマイクロチャンバ28を含み、且つ各群は、マイクロ流体チャネルによって直列に流体的に結合された13個のマイクロチャンバを含む。各マイクロ流体チャネル30の第1の端部38は、入口チャネル42に流体的に結合され、且つ各マイクロ流体チャネル30の第2の端部40は、出口チャネル44に流体的に結合される。回路入口32は、入口チャネル42に結合され、且つ回路排気孔34は、出口チャネル44に結合される。
【0062】
図13は、回路入口と、マイクロ流体チャネルによって流体的に結合されたマイクロチャンバの群とを図示する図12のウェルの側面図である。
【0063】
図14A図14Bに図示するように、PCR反応混合物などの、流体試料は、回路入口32に送られる。一実施形態では、ピペットは、PCR反応混合物を入口に送るために使用されてもよい。
【0064】
図15に図示するように、可撓性プレートシール62は、PCR反応混合物が回路入口32内に残存する状態で、マイクロプレート22の上部に且つ各ウェル24を覆うように貼り付けられる。その後、混合物に対してdPCR法を行うために、マイクロプレートを機器に入れる。例えば、非限定的に、マイクロプレートは、Formulatrix of Bedford,MAから入手可能なCONSTELLATION Digital PCRシステムで使用するのに特に好適であり得る。
【0065】
機器内に配置された時点で、流体試料は、マイクロ流体回路26を通して流体を移動させて回路内の空気を回路排気孔34から排出することによって、各マイクロチャンバ28内に充填される。図16A図16Bに図示するように、流体試料は、回路入口と回路排気孔との間に圧力差を生じさせて流体がマイクロ流体回路を通って流れるようにするためにプレートシール62を回路入口32に押し付けるピストン64又は他の好適なデバイスを使用して、マイクロ流体回路26に注入されてもよい。空気に加えて、マイクロ流体回路内の過剰な流体は、回路排気孔34から出てもよい。
【0066】
マイクロ流体回路に流体試料が充填された状態で、ローラ66は、図17A~17Bに図示するように、マイクロプレートの底部シール68を圧縮して、図18A図18Bに図示するように、マイクロ流体チャネル30を遮断し、マイクロチャンバ28の各々によって保持された流体試料を隔離するために使用されてもよい。その後、マイクロプレートは、各マイクロチャンバ内の反応物を反復的な加熱及び冷却のサイクルにさらすために、機器によって熱サイクル処理されてもよく、それによって、異なる温度依存性反応を可能にする。例えば、非限定的に、マイクロプレートを熱サイクル処理することによって、各サイクルで標的DNAを倍増させてもよい。
【0067】
図19A図19Bに図示するように、標的DNAを収容するマイクロチャンバ28aは、蛍光を発する。次いで、マイクロプレートは、陽性マイクロチャンバの数をカウントするために機器によって撮像されてもよい。
【0068】
本特許出願及びこれを基に発行されるあらゆる特許の目的のために、本明細書及び特許請求の範囲で使用される不定冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、反対のことが明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味するものと理解されるべきである。本明細書及び特許請求の範囲で使用される「及び/又は」という語句は、そのように等位接続された要素の「いずれか又は両方」、すなわち、ある場合には接続的に存在し、他の場合には非接続的に存在する要素を意味するものと理解されるべきである。「及び/又は」を用いて列挙された複数の要素は、同様に、すなわち、そのように等位接続された要素の「1つ又は複数」と解釈されるべきである。「及び/又は」節によって具体的に特定された要素以外の他の要素が、それらの具体的に特定された要素と関連するか又は関連しないかに関わらず、任意選択的に存在してもよい。
【0069】
本明細書における「含む」、「備える」、「有する」、「収容する」、「伴う」、及び/又はそれらの変形の使用は、それ以降に列挙する項目及びそれらの等価物、並びに追加の項目を包含することを意味している。
【0070】
また、反対のことが明確に示されない限り、本明細書で特許請求される、2つ以上のステップ又は行為を含む任意の方法において、この方法のステップ又は行為の順番は、この方法のステップ又は行為が列挙される順番に必ずしも限定されないことを理解すべきである。
【0071】
種々の実施形態の前述の説明は、単に実施形態を例示するように意図されており、且つその他の実施形態、修正形態、及び等価物は添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B