(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】膜型表面応力センサ、およびそれを用いた分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20231017BHJP
G01L 1/18 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
G01N5/02 Z
G01L1/18 A
(21)【出願番号】P 2021530565
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024068
(87)【国際公開番号】W WO2021006003
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019128311
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020056897
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 賢司
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/157581(WO,A1)
【文献】特表2007-506977(JP,A)
【文献】特開2016-158592(JP,A)
【文献】特開2006-214744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
G01L 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル液に、膜型表面応力センサを浸漬する工程と、
液相中で前記膜型表面応力センサに電圧を印加する工程と、
前記膜型表面応力センサにおけるピエゾ抵抗素子の応力変化の測定により、前記サンプル液中のターゲットを分析する工程とを含み、
前記膜型表面応力センサは、
アプタマーと、膜と、センサ基板とを含み、
前記アプタマーは、
前記ターゲットに結合する核酸分子であり、前記膜に固定化され、
前記膜は、前記アプタマーへの前記ターゲットの結合により変形する膜であり、
前記センサ基板は、支持領域を有し、
前記支持領域は、前記膜を支持し、ピエゾ抵抗素子を有し、
前記ピエゾ抵抗素子は、前記膜の変形を検出する素子である
ことを特徴とする
、ターゲットの分析方法。
【請求項2】
前記膜が、シリコン膜である、請求項1記載の
ターゲットの分析方法。
【請求項3】
前記支持領域は、前記膜を部分的に支持する、請求項1または2記載の
ターゲットの分析方法。
【請求項4】
前記アプタマーは、リンカーを介して、前記膜表面に固定されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の
ターゲットの分析方法。
【請求項5】
各アプタマーにおけるリンカーの長さは、略一定である、請求項4記載の
ターゲットの分析方法。
【請求項6】
前記リンカーは、シランカップリング剤を含む、請求項4または5記載の
ターゲットの分析方法。
【請求項7】
前記リンカーは、架橋剤を含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の
ターゲットの分析方法。
【請求項8】
前記リンカーの主鎖長は、1~15であり、
前記主鎖長は、前記膜上の官能基とアフィニティータグまでの最短の分子鎖の長さ、又は、前記膜上の官能基と前記アプタマーまでの最短の分子鎖の長さである、請求項4から7のいずれか一項に記載の
ターゲットの分析方法。
【請求項9】
前記アプタマーが、シランカップリング剤を介して、前記膜の表面に固定化されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の
ターゲットの分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜型表面応力センサ、およびそれを用いた分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医療等の多種多様な分野において、ターゲットの検出は重要であり、様々な方法が提案されている。そして、近年において、膜型表面応力センサが注目されている(特許文献1参照)。前記膜型表面応力センサは、例えば、シリコン膜等の膜にターゲットを結合させることで、前記膜を変形させ、前記変形による電気抵抗の変動を測定することによって、ターゲットの有無や量を分析できる。しかしながら、ターゲットを前記膜に結合させる方式については、例えば、分析精度の向上や、適応できるターゲットの拡張等の観点から、さらなる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、ターゲットを結合させるための新たな形態をとる膜型表面応力センサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の膜型表面応力センサは、
アプタマーと、膜と、センサ基板とを含み、
前記アプタマーは、ターゲットに結合する核酸分子であり、前記膜に固定化され、
前記膜は、前記アプタマーへの前記ターゲットの結合により変形する膜であり、
前記センサ基板は、支持領域を有し、
前記支持領域は、前記膜を支持し、ピエゾ抵抗素子を有し、
前記ピエゾ抵抗素子は、前記膜の変形を検出する素子である
ことを特徴とする。
【0006】
本発明のターゲットの分析方法は、
サンプル液に、前記本発明の膜型表面応力センサを浸漬する工程と、
液相中で前記膜型表面応力センサに電圧を印加する工程と、
前記膜型表面応力センサにおける前記ピエゾ抵抗素子の応力変化の測定により、前記サンプル液中のターゲットを分析する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ターゲットを結合させるための形態として、新たに、前記膜にアプタマーを固定化することによって、例えば、これまでの膜型表面応力センサとは異なるターゲットへの適用や、これまでの膜型表面応力センサとは異なる改変等の可能性を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、MSSの一般的な構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例2におけるMSSの構造を示す模式図およびMSSの電圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、以下、「膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface-stress Sensor」は、MSSともいう。いわゆるMSSは、ターゲットへの結合性を有する膜が、ピエゾ抵抗素子を有する支持体に支持されている。そして、前記ターゲットが前記膜に結合すると、前記結合により前記膜は応力を受けて、歪みの発生等により前記膜は変形(歪みの発生)する。そして、前記膜の変形の量に応じて、前記膜を支持する前記支持体のピエゾ抵抗素子に応力が発生し、前記応力に比例して、前記ピエゾ抵抗素子の抵抗値が変化する。このため、MSSに電圧を印加して、抵抗値の変化に伴う電気シグナルを測定することで、間接的に、前記膜に結合した前記ターゲットの有無を定性したり、前記膜に結合した前記ターゲットの量を定量する分析が可能である。本発明は、このようなMSSにおいて、ターゲットに結合するアプタマーを使用すること、具体的には、前記膜に前記アプタマーを固定化して、前記ターゲットをMSSに結合させることが特徴である。このため、本発明において、前記膜にアプタマーを固定化する以外、その他の構成は、特に制限されず、既存の構成を利用でき、また、同様の機能を奏する将来の構成にも利用できる。
【0010】
本発明において、「アプタマー」は、ターゲットに対して結合性を有する核酸分子である。前記アプタマーは、例えば、ターゲットに特異的に結合する核酸分子ということもできる。前記アプタマーの構成単位は、例えば、ヌクレオチド残基および非ヌクレオチド残基である。前記ヌクレオチド残基は、例えば、デオキシリボヌクレオチド残基およびリボヌクレオチド残基があげられ、前記ヌクレオチド残基は、例えば、修飾されても、未修飾でもよい。前記アプタマーは、例えば、デオキシリボヌクレオチド残基からなるDNAアプタマー、リボヌクレオチド残基からなるRNAアプタマー、両方を含むアプタマー、修飾ヌクレオチド残基を含むアプタマー等があげられる。前記アプタマーの長さは、特に制限されず、例えば、10~200塩基である。前記ターゲットに対するアプタマーは、例えば、既存のアプタマーを使用してもよいし、前記ターゲットに応じて、例えば、SELEX法等を利用して新たに取得したものを使用することもできる。
【0011】
本発明において、「ターゲット」は、特に制限されず、任意に設定でき、例えば、液体中で前記アプタマーに接触できる物質であればよい。前記ターゲットは、例えば、炭疽菌、大腸菌、サルモネラ、大腸菌等の細菌をはじめとする微生物;インフルエンザウイルス等のウイルス;アレルゲン;等があげられる。前記アレルゲンは、例えば、小麦等の穀物、卵、肉、魚、貝、野菜、果物、牛乳、ピーナッツ等の豆、スギ、ヒノキ等の花粉等があげられる。前記ターゲットの種類は、特に制限されず、例えば、タンパク質、糖鎖、核酸、ポリマー等の高分子化合物;低分子化合物;等があげられる。
【0012】
本発明において、「液体サンプル」は、液体であればよい。採取検体が液体の場合、それをそのまま液体サンプルとしてもよいし、さらに、液体溶媒によって、希釈、懸濁、分散等を行って調製した液体サンプルでもよい。採取検体が固体の場合、例えば、液体溶媒によって、溶解、懸濁、分散等を行って調製した液体サンプルでもよい。また、採取検体が気体の場合、例えば、前記気体中のエアロゾルを濃縮した液体サンプルでもよいし、さらに、液体溶媒によって、溶解、懸濁、分散等を行って調製した液体サンプルでもよい。前記液体溶媒の種類は、特に制限されず、例えば、アプタマーとターゲットとの結合等に影響を与えにくい溶媒であり、具体例として、水、緩衝液等があげられる。前記採取検体は、例えば、食品、血液、尿、唾液、体液、土壌、排水、水道水、池、河川、空気等が例示できる。
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、例をあげて説明する。本発明は、以下の実施形態には限定されない。また、各実施形態の説明は、特に言及がない限り、互いの説明を援用できる。さらに、各実施形態の構成は、特に言及がない限り、組合せ可能である。
【0014】
[実施形態1]
本実施形態のMSSは、前述のように、アプタマーと、膜と、センサ基板とを含み、前記アプタマーは、ターゲットに結合する核酸分子であり、前記膜に固定化され、前記膜は、前記アプタマーへの前記ターゲットの結合により変形する膜であり、前記センサ基板は、支持領域を有し、前記支持領域は、前記膜を支持し、ピエゾ抵抗素子を有し、前記ピエゾ抵抗素子は、前記膜の変形を検出する素子であることを特徴とする。
【0015】
本実施形態のMSSにおいて、前記膜は、MSS膜ともいう。前記MSS膜は、前述のように、ターゲットの結合によって変形し、その変形によって、前記ピエゾ抵抗素子に応力を与えるものであればよく、特に制限されない。前記膜は、例えば、薄膜であり、その厚みおよび各表面の面積は、特に制限されず、例えば、市販のMSSに使用されているMSS膜と同様である。前記膜の平面形状は、例えば、円形であり、具体的には、例えば、正円である。前記膜の素材は、特に制限されず、例えば、シリコン膜であり、具体例として、n型 Si(100)があげられる。
【0016】
本実施形態のMSSにおいて、前記MSS膜には、前記アプタマーが固定化されている。前記アプタマーは、例えば、前記MSS膜の一方の表面に固定化されてもよいし、両方の表面に固定化されてもよい。前記MSS膜の両面に前記アプタマーが固定化される場合、一方の表面のアプタマーと他方の表面のアプタマーは、例えば、同じターゲットに結合する同じアプタマーであることが好ましい。以下の説明において、前記MSS膜の表面とは、例えば、一方の表面でもよいし、両面でもよい。
【0017】
前記MSS膜に対する前記アプタマーの固定化方法は、特に制限されず、前記MSS膜に対して、前記アプタマーを直接的に固定化しても、間接的に固定化してもよい。前者の場合、例えば、前記MSS膜と前記アプタマーとを化学的処理することによって、共有結合等により固定化することができる。前記直接的な固定方法は、例えば、フォトリソグラフィーを利用する方法があげられ、具体例として、米国特許5,424,186号明細書等を参照できる。また、他の直接的な固定方法は、例えば、前記MSS膜上で前記センサを合成する方法があげられる。この方法は、例えば、いわゆるスポット法があげられ、具体例として、米国特許5,807,522号明細書等を参照できる。後者の場合、例えば、前記MSS膜に対して、リンカーを介して前記アプタマーを固定化することができる。前記リンカーの種類は、何ら制限されず、例えば、ビオチンまたはビオチン誘導体(以下、ビオチン類という)と、アビジンまたはアビジン誘導体(以下、アビジン類という)との組み合わせ等があげられる。前記ビオチン誘導体は、例えば、ビオシチン等があり、前記アビジン誘導体は、例えば、ストレプトアビジン等がある。前記リンカーの長さは、例えば、MSS膜上の官能基(例えば、シリコン膜上のシラノール基の酸素原子)と、アビジン等のアフィニティータグまたはアプタマーまでの最短の分子鎖の長さ(主鎖長)で表すことができる。前記リンカーの主鎖長は、1~20であり、MSSの感度を向上できることから、好ましくは、1~15、1~13、3~13、5~13、1~11、3~11、1~10、3~10、1~8、3~8、1~5、1~3、1または2である。以下に、固定化方法を例示するが、本発明は、これらには制限されない。
【0018】
第1の例として、前記MSS膜および前記アプタマーのいずれか一方に、前記ビオチン類を結合させ、他方に、前記アビジン類を結合させる。そして、前記ビオチン類と前記アビジン類とを結合させることによって、間接的に、前記MSS膜に前記アプタマーを固定化できる。
【0019】
なお、第1の例では、アビジン類-ビオチン類間の特異的な結合、すなわち、アビジン類へのビオチン類のアフィニティーを利用して、アプタマーを間接的にMSS膜に固定したが、本発明はこれに限定されず、アビジン類-ビオチン類以外のアフィニティータグを利用してもよい。前記アフィニティータグとしては、例えば、Hisタグ(His×6タグ)-ニッケルイオン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ-グルタチオン、マルトース結合タンパク質-マルトース、エピトープタグ(mycタグ、FLAGタグ、HA(ヘマグルチニン)タグ)-抗体または抗原結合断片が利用できる。他のアフィニティータグを用いてもよい点は、後述の第2~4の例においても同様である。
【0020】
第2の例として、前記MSS膜に対して、例えば、介在膜を介して、前記アプタマーを固定化してもよい。前記MSS膜上に前記介在膜を形成し、前記第1の例と同様に、前記介在膜および前記アプタマーのいずれか一方に、前記ビオチン類を結合させ、他方に、前記アビジン類を結合させ、前記ビオチン類と前記アビジン類との結合により、前記介在膜を介して前記アプタマーを前記MSSに固定化できる。前記介在膜は、例えば、金等の金属の膜であり、前記MSS膜に対して前記金属を蒸着することにより形成できる。前記介在膜の厚みは、特に制限されず、例えば、10~100nmである。前記介在膜は、例えば、一層でも二層以上でもよい。前記介在膜の表面を金にする場合、前記介在膜は、例えば、二層とし、金膜の接着性を向上できる点から、前記MSS膜に対して、接着用の金属膜(接着膜)を介して前記金膜を形成することが好ましい。前記接着膜の金属は、例えば、チタン、クロム等があげられる。前記接着膜の厚みは、例えば、0.1~10nmであり、前記金膜の厚みは、例えば、0.1~100nmである。前記介在膜に前記ビオチン類を結合する場合、例えば、前記介在膜の表面に、さらに、前記ビオチン類が結合したチオールアルカンを用いて、チオールアルカンの自己形成膜(SAM:self-assembled monolayers)を形成し、前記ビオチン類が結合したアプタマーを接触させ、前記ビオチン類と前記アビジン類との結合により、前記アプタマーを固定化してもよい。
【0021】
第3の例として、前記MSS膜に対して、アミノ基を結合させ、さらにグルタルアルデヒドを結合させることによって、前記ストレプトアビジン類を結合させる方法があげられる。すなわち、前記MSS膜に対して、アミノ基を有するシランカップリング剤を反応させ、前記MSS膜上にアミノ基を結合させる。前記反応は、例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を含む溶液を前記MSS膜に塗布することにより実施できる。さらに、前記MSS膜に対して、アミノ基とアミノ酸の主鎖もしくは側鎖とを結合可能な架橋剤、または前記MSS膜に対して、アミノ基とアミノ酸の主鎖もしくは側鎖との間にリンカーを形成可能な、グルタルアルデヒド等の架橋剤とを反応させ、前記MSS膜上の前記アミノ基にグルタルアルデヒド等の架橋剤の一端を結合させる。具体的には、シランカップリング後のMSS膜について、膜表面を洗浄し、架橋剤を含む溶液を前記MSS膜に塗布し、前記アミノ基と、前記架橋剤とを結合させる。前記架橋反応の条件は、例えば、架橋剤の種類に応じて適宜決定できる。つぎに、前記グルタルアルデヒド等の架橋剤の他端に前記アビジン類を結合させる。具体的には、架橋後のMSS膜について、膜表面を洗浄し、アビジン類を含む溶液を塗布し、架橋剤の他端と、アビジン類のアミノ酸の主鎖または側鎖とを結合させる。そして、このように処理した前記MSS膜に、前記ビオチンを結合させたアプタマーを接触させ、前記ビオチン類と前記アビジン類との結合により、前記アプタマーを固定化できる。
【0022】
シランカップリング剤は、例えば、Y-Si(CH3)3-n(OR)nで表される。前記シランカップリング剤がアミノ基を有するシランカップリング剤の場合、n、R、およびYは、例えば、以下の例があげられる。前記「n」は、2または3である。Rは、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基;アセチル基、プロピル基等のアシル基;等があげられる。Yは、アミノ基を末端に有する反応性官能基である。
【0023】
前記アミノ基を有するシランカップリング剤は、例えば、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(例えば、KBM-602(信越シリコーン社製))、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(例えば、KBM-603(信越シリコーン社製))、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(例えば、KBM-903(信越シリコーン社製))、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(例えば、KBE-903(信越シリコーン社製))、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(例えば、GENIOSIL(登録商標)GF 91(旭化成ワッカーシリコーン社製))、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン(例えば、GENIOSIL(登録商標)GF 95(旭化成ワッカーシリコーン社製))等があげられる。
【0024】
前記架橋剤は、リンカーと結合するアミノ酸の主鎖または側鎖の官能基に応じて、適宜決定できる。前記官能基は、例えば、アミノ基(-NH2)、チオール基(-SH)、カルボキシル基(-COOH)等があげられる。前記アミノ基は、例えば、タンパク質もしくはペプチドのN末端またはリジンの側鎖が有する。前記チオール基は、例えば、システインの側鎖が有する。前記カルボキシル基は、例えば、タンパク質もしくはペプチドのC末端またはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸の側鎖が有する。
【0025】
前記アミノ酸の主鎖または側鎖のアミノ基を利用する場合、前記架橋剤としては、例えば、グルタルアルデヒド等のアルデヒド基を両端に有する架橋剤;ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート(BS3)、グルタル酸ジスクシンイミジル(DSG)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)、ジチオビス(プロピオン酸スクシンイミジル)、ジチオビス(プロピオン酸スルホスクシンイミジル)(DSP)、ジチオビス(プロピオン酸スクシンイミジル)(DTSP)、ジチオビス(プロピオン酸スルホスクシンイミジル)(DTSSP)、酒石酸ジスクシンイミジル(DST)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(ESG)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(Sulfo-ESG)、PEG化ビス(スルホスクシンイミジル)(BS(PEG)5、BS(PEG)9等)等のN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル(N-ヒドロキシスクシンイミド反応基)を両端に有する架橋剤;アジポイミド酸ジメチル(DMA)、ピメルイミド酸ジメチル(DMP)、ピメルイミド酸ジメチル(DMS)等のイミドエステル反応基を両端に有する架橋剤;等があげられる。
【0026】
前記アミノ酸の側鎖のチオール基を利用する場合、前記架橋剤としては、例えば、N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)、N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スルホスクシンイミド(Sulfo-EMCS)、N-(8-マレイミドカプリルオキシ)スクシンイミド(HMCS)、N-(8-マレイミドカプリルオキシ)スルホスクシンイミド(Suflo-HMCS)、N-α-maleimidoacet-oxysuccinimide ester(AMAS)、N-β-maleimidopropyl-oxysuccinimide ester(BMPS)、N-γ-maleimidobutyryl-oxysuccinimide ester(GMBS)、N-γ-maleimidobutyryl-oxysulfosuccinimide ester(Sulfo-GMBS)、m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester(MBS)、m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysulfosuccinimide ester(Sulfo-MBS)、succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl) cyclohexane-1-carboxylate(SMCC)、sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidomethyl) cyclohexane-1-carboxylate(Sulfo-SMCC)、succinimidyl 4-(p-maleimidophenyl) butyrate(SMPB)、sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidophenyl) butyrate(Sulfo-SMPB)、Succinimidyl 6-((beta-maleimidopropionamido) hexanoate)(SMPH)、succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl) cyclohexane-1-carboxy-(6-amidocaproate)(LC-SMCC)、N-κ-maleimidoundecanoyl-oxysulfosuccinimide ester(Sulfo-KMUS)等のマレイミド基とN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルとを分子の両端に有する架橋剤;succinimidyl iodoacetate(SIA)、succinimidyl 3-(bromoacetamido) propionate(SBAP)、succinimidyl (4-iodoacetyl) aminobenzoate(SIAB)、sulfosuccinimidyl (4-iodoacetyl) aminobenzoate(Sulfo-SIAB)等のN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ハロアセチル反応基とを両端に有する架橋剤;succinimidyl 3-(2-pyridyldithio) propionate(SPDP)、succinimidyl 6-(3(2-pyridyldithio) propionamido) hexanoate(LC-SPDP)、succinimidyl 6-(3(2-pyridyldithio) propionamido) hexanoate(Sulfo-LC-SPDP)、4-succinimidyloxycarbonyl-alpha-methyl-α(2-pyridyldithio) toluene(SMPT)、2-Pyridyldithiol-tetraoxatetradecane-N-hydoxysuccinimide(PEG4-SPDP)、2-Pyridyldithiol-tetraoxaoctatriacontane-N-hydoxysuccinimide(PEG12-SPDP)等のN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ピリジルジチオール反応基とを両端に有する架橋剤;等があげあられる。
【0027】
前記アミノ酸の主鎖または側鎖のカルボキシル基を利用する場合、前記架橋剤としては、例えば、Dicyclohexylcarbodiimide(DCC)、1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide(EDC)、N-hydroxysuccinimide(NHS)、N-hydroxysulfosuccinimide(Sulfo-NHS)、無水酢酸等があげられる。なお、DCC、EDC、NHS、Sulfo-NHS、無水酢酸は、例えば、アミノ基とカルボキシル基とを直接結合させるため、カルボキシル基とアミノ基との間に残存せず、架橋剤に由来するリンカー領域(基)は生じない。
【0028】
前記架橋剤は、リンカーの長さを略一定化または一定化できることから、自己縮合が実質的に生じない架橋剤が好ましい。前記リンカーの長さが一定とは、例えば、複数のアプタマーのリンカーにおいて、各アプタマーのリンカーの長さが略同一または同一であることを意味する。前記リンカーの長さは、例えば、リンカーの構造を略同一または同一とすることにより、略同一または同一にすることができる。第3の例では、このような架橋剤を用いることにより、MSSの感度を向上できる。前記感度の向上は、以下の理由によると推定される。なお、本発明は、以下の推定に何ら制限されない。アプタマーにターゲットが結合すると、ターゲットと結合したアプタマーの周囲には、前記ターゲットに起因する立体的障害が生じる。前記アプタマーが前記MSS膜に対して異なる距離で固定化されている場合、前記ターゲットは、前記MSS膜から遠位端側に存在するアプタマーと接触する可能性が高い。このため、前記ターゲットは、前記MSS膜から遠位端側のアプタマーと優先的に結合すると推定される。この場合、前記ターゲットが結合したアプタマーの周囲に前記ターゲットに起因する立体的障害が生じても、他のアプタマーは、前記ターゲットが結合したアプタマーと比較して、前記MSS膜側に存在するものが多いため、前記ターゲットに起因する立体的障害を受けづらい。このため、前記ターゲットがアプタマーに結合しても、周囲に存在するアプタマーが、立体的障害による影響を受けて、位置が動く可能性が低い。したがって、前記アプタマーが前記MSS膜に対して異なる距離で固定化されている場合、前記MSS膜上では、前記周囲のアプタマーの位置の移動に起因して、MSS膜の歪みが生じる可能性も相対的に低い。すなわち、アプタマーの結合に起因して、周囲のアプタマーが動き、MSS膜の歪みが増幅される可能性が低い。他方、前記アプタマーが前記MSS膜に対して略同一の距離で固定化されている場合、アプタマーにターゲットが結合すると、周囲のアプタマーは、前記ターゲットに起因する立体的障害の影響を受ける。このため、周囲のアプタマーの位置が動く可能性が高く、周囲のアプタマーの位置の移動に起因して、MSS膜の歪みが生じる可能性も相対的に高い。すなわち、前記アプタマーが前記MSS膜に対して略同一の距離で固定化されている場合、前記MSS膜上では、1つのアプタマーとターゲットとの結合により、周囲のアプタマーの位置の移動も生じるため、前記MSS膜の歪みが増幅されることになる。したがって、前記アプタマーが前記MSS膜に対して略同一の距離で固定化されている場合、すなわち、前記リンカーの長さが略一定化されている場合、前記MSS膜は、感度が向上すると推定される。
【0029】
前記自己縮合が実質的に生じない架橋剤の具体例としては、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを両端に有する架橋剤、イミドエステル反応基を両端に有する架橋剤、マレイミド基とN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを分子の両端に有する架橋剤、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ハロアセチル反応基とを両端に有する架橋剤、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ピリジルジチオール反応基とを両端に有する架橋剤、DCC、EDC、NHS、Sulfo-NHS、無水酢酸等があげられる。
【0030】
前記リンカーは、例えば、下記式(1)で表される。下記式(1)において、M1は、MSS膜上のシランカップリング剤と結合している原子を表し、L1は、シランカップリング剤由来の領域(基)を表し、L2は、架橋剤由来の領域(基)を表し、L2は、あってもなくてもよく、M2は、アフィニティータグにおける架橋剤またはNHと結合している原子を表す。また、NHは、アミノ基を有するシランカップリング剤のアミノ基由来のアミンを表す。
M1-L1-NH-L2-M2・・・(1)
【0031】
L1は、例えば、(M1)-Si(CH3)2-m(OR4)m-R1-(NH)または(M1)-Si(CH3)2-m(OR4)m-R2-NH-R3-(NH)で表される。R1は、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。R2およびR3は、例えば、それぞれ独立して、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、同じでもよいし、異なってもよい。前記アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等があげられる。R4は、例えば、水素原子または結合手である。mは、1または2である。
【0032】
前記シランカップリング剤として、3-アミノプロピルトリエトキシシランを用いた場合、L1は、例えば、(M1)-Si(OR4)2-(CH2)3-(NH)で表される。R4は、例えば、水素原子または結合手である。また、前記架橋剤として、グルタルアルデヒドを用いた場合、L2は、例えば、(NH)=CH-C3H6-CH=(CH(CHO)-C2H4-CH)n=CH(CHO)-C2H4-C=(M2)で表される。
【0033】
前記リンカーの長さは、例えば、MSS膜上の官能基(例えば、シリコン膜上のシラノール基の酸素原子)と、アビジン等のアフィニティータグまたはアプタマーまでの最短の分子鎖の長さ(主鎖長)で表すことができる。前記リンカーの主鎖長は、1~20であり、MSSの感度を向上できることから、好ましくは、1~15、1~13、3~13、5~13、1~11、3~11、1~10、3~10、1~8、3~8、1~5、1~3、1または2である。
【0034】
なお、第3の例では、アビジン類-ビオチン類の結合を利用しているが、第3の例は、これに限定されず、前記アプタマーの水酸基またはリン酸基に、リンカーを直接結合させてもよい。この場合、アプタマーは、3’末端のリン酸基をアミダイド化し、前記リンカーと反応させることにより、前記MSS膜に固定化できる。
【0035】
第4の例として、前記MSS膜に対して、メタクリル基(-C(=O)-C(CH3)=CH2)を結合させ、さらにアミノ酸またはその誘導体(以下、「アミノ酸誘導体」という)を介して、前記ストレプトアビジン類を結合させる方法があげられる。すなわち、前記MSS膜に対して、メタクリル基を有するシランカップリング剤を反応させ、前記MSS膜上にアミノ基を結合させる。前記反応は、例えば、メタクリル基を有するシランカップリング剤を含む溶液を前記MSS膜に塗布することにより実施できる。さらに、前記MSS膜に対して、N-アセチルシステイン等のアミノ酸誘導体を反応させた後、前記アミノ酸誘導体の主鎖または側鎖と、アビジン類のアミノ酸の主鎖または側鎖の間にリンカーを形成可能な架橋剤とを反応させ、前記MSS膜上の前記アミノ酸誘導体に架橋剤の一端を結合させる。具体的には、アミノ酸誘導体処理後のMSS膜について、膜表面を洗浄し、架橋剤を含む溶液を前記MSS膜に塗布し、前記アミノ酸誘導体と、前記架橋剤とを結合させる。前記架橋反応の条件は、例えば、架橋剤の種類に応じて適宜決定できる。つぎに、前記架橋剤の他端に前記アビジン類を結合させる。具体的には、架橋後のMSS膜について、膜表面を洗浄し、アビジン類を含む溶液を塗布し、架橋剤の他端と、アビジン類のアミノ酸の主鎖または側鎖とを結合させる。そして、このように処理した前記MSS膜に、前記ビオチンを結合させたアプタマーを接触させ、前記ビオチン類と前記アビジン類との結合により、前記アプタマーを固定化できる。なお、第4の例では、アビジン類-ビオチン類の結合を利用しているが、第4の例は、これに限定されず、前記アプタマーの水酸基またはリン酸基に、リンカーを直接結合させてもよい。
【0036】
前述のように、前記シランカップリング剤は、例えば、Y-Si(CH3)3-n(OR)nで表される。前記シランカップリング剤がメタクリル基を有するシランカップリング剤の場合、n、R、およびYは、例えば、以下の例があげられる。前記「n」は、2または3である。Rは、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基;アセチル基、プロピル基等のアシル基;等があげられる。Yは、メタクリル基を末端に有する反応性官能基である。
【0037】
前記メタクリル基を有するシランカップリング剤は、例えば、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルメチルジメトキシシラン(例えば、KBM-502(信越シリコーン社製))、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(例えば、KBM-503(信越シリコーン社製)、GENIOSIL(登録商標)GF31(旭化成ワッカーシリコーン社製))、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルメチルジメトキシシラン(例えば、KBE-502(信越シリコーン社製))、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン(例えば、KBE-503(信越シリコーン社製))等があげられる。
【0038】
前記アミノ酸またはアミノ酸誘導体は、例えば、メタクリル基と反応可能な官能基と、カルボキシル基とを有する。前記メタクリル基と反応可能な官能基は、例えば、チオール基(-SH)等があげられる。前記チオール基を有するアミノ酸またはアミノ酸誘導体は、例えば、システイン;N-アセチルシステイン等のアミノ基が修飾されたシステイン;等があげられる。
【0039】
前記架橋剤は、例えば、架橋に供するアミノ酸誘導体の官能基と、架橋に供するアビジン類のアミノ酸の官能基とに応じて、適宜決定できる。具体例として、2つの官能基がアミノ基の場合、前記架橋剤は、前記第3の例における前記アミノ酸の主鎖または側鎖のアミノ基を利用する場合の架橋剤の説明を援用できる。また、2つの官能基の一方がアミノ基であり、他方がチオール基である場合、前記架橋剤は、前記第3の例における前記アミノ酸の側鎖のチオール基を利用する場合の架橋剤の説明を援用できる。さらに、2つの官能基の一方がアミノ基であり、他方がカルボキシル基である場合、前記架橋剤は、前記第3の例における前記アミノ酸の主鎖または側鎖のカルボキシル基を利用する場合の架橋剤の説明を援用できる。
【0040】
前記架橋剤は、リンカーの長さを一定化できることから、自己縮合が実質的に生じない架橋剤が好ましい。第4の例では、このような架橋剤を用いることにより、前述の第3の例で説明するメカニズムと同様のメカニズムにより、MSSの感度を向上できる。自己縮合が実質的に生じない架橋剤の具体例としては、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを両端に有する架橋剤、イミドエステル反応基を両端に有する架橋剤、マレイミド基とN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを分子の両端に有する架橋剤、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ハロアセチル反応基とを両端に有する架橋剤、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ピリジルジチオール反応基とを両端に有する架橋剤、DCC、EDC、NHS、Sulfo-NHS、無水酢酸等があげられる。
【0041】
前記リンカーは、例えば、下記式(2)で表される。下記式(2)において、M1は、MSS膜上のシランカップリング剤と結合している原子を表し、L1は、シランカップリング剤由来の領域(基)を表し、Aは、アミノ酸誘導体を表し、L2は、架橋剤由来の領域(基)を表し、L2は、あってもなくてもよく、M2は、アフィニティータグにおける架橋剤またはNHと結合している原子を表す。
M1-L1-A-L2-M2・・・(2)
【0042】
L1は、例えば、(M1)-Si(CH3)2-m(OR4)m-R5-C(=O)-CHl(CH3)2-l-(A)で表される。R4は、例えば、水素原子または結合手である。R5は、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。前記アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等があげられる。mは、1または2である。lは、0または1である。
【0043】
前記シランカップリング剤として、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシランを用いた場合、L1は、例えば、(M1)-Si(OR4)2-(CH2)3-O-C(=O)-C(CH3)2-(A)で表される。R4は、例えば、水素原子または結合手である。また、前記アミノ酸誘導体として、N-アセチルシステインを用いた場合、Aは、例えば、(L1)-S-CH2-CH(NH-COCH3)-C(=O)-(M2)で表される。前記架橋剤として、無水酢酸を用いた場合、L2は、例えば、存在しない。
【0044】
前記リンカーの長さは、例えば、MSS膜上の官能基(例えば、シリコン膜上のシラノール基)と、アビジン等のアフィニティータグまでの最短の分子鎖の長さ(主鎖長)で表すことができる。前記リンカーの主鎖長は、1~20であり、MSSの感度を向上できることから、好ましくは、1~15、1~13、1~11、1~10、1~8、1~5、1~3、1または2である。
【0045】
なお、第4の例では、アビジン類-ビオチン類の結合を利用しているが、第4の例は、これに限定されず、前記アプタマーの水酸基またはリン酸基に、リンカーを直接結合させてもよい。この場合、アプタマーは、3’末端のリン酸基をアミダイド化し、前記リンカーと反応させることにより、前記MSS膜に固定化できる。
【0046】
前記MSS膜に対する前記アプタマーの固定化部位は、特に制限されず、例えば、3’末端または5’末端があげられる。
【0047】
本実施形態のMSSにおいて、前記センサ基板は、前記MSS膜を支持する支持領域を有し、前記支持領域は、ピエゾ抵抗素子を有する。前記センサ基板は、前記支持領域によって、前記MSS膜を支持する。前記MSS膜は、例えば、対向する一方の表面または両方の表面に、前述のように前記アプタマーが固定化され、側面において、前記センサ基板により支持される。前記センサ基板は、例えば、前記MSS膜を部分的に支持することが好ましく、具体的に、前記MSS膜の側面を部分的に支持することが好ましい。前記MSS膜において、前記センサ基板の支持領域によって支持されている箇所(支持部)の数は、特に制限されず、例えば、4点である。なお、これは例示であって、何ら制限されない。
【0048】
前記センサ基板において、前記支持領域は、例えば、シリコン膜であり、前記シリコン膜の任意の領域を、不純物のドーピングによりp型化することによって、前記p型化した領域(p型Si)を、前記ピエゾ抵抗素子として機能させることができる。前記支持領域は、例えば、前記MSS膜を支持している箇所またはその付近に、前記ピエゾ抵抗素子を有する。前記センサ基板は、例えば、全体がシリコン製でもよいし、前記支持領域のみがシリコン膜でもよく、前記ピエゾ抵抗素子を含む支持領域以外の材料は、特に制限されない。
【0049】
本実施形態のMSSにおいて、例えば、前記センサ基板は、電圧を印加するための回路を有する。前記支持領域が、複数の点で前記MSS膜を支持し、その支持している箇所およびその付近に、それぞれピエゾ抵抗素子を有する場合、例えば、前記回路は、前記支持領域における複数のピエゾ抵抗素子を含むホイートストンブリッジ回路があげられる。本実施形態のMSSは、例えば、前記ホイートストンブリッジ回路に電圧を印加することで、前述のように、前記ピエゾ抵抗素子における抵抗値の変化に伴う電気シグナルを測定できる。
【0050】
本実施形態のMSSは、例えば、前記センサ基板が、複数の前記支持領域を有し、前記複数の支持領域が、それぞれ、前記MSS膜を支持してもよい。本実施形態のMSSにおいて、前記支持領域の数および支持される前記MSS膜の数は、特に制限されず、それぞれ、1つでもよいし、2つ以上の複数でもよい。本実施形態のMSSが複数の前記MSS膜を有する場合、前記複数のMSS膜は、例えば、同じターゲットに対するアプタマーが固定化されたMSS膜でもよいし、異なるターゲットに対するアプタマーが固定化されたMSS膜でもよく、両方であってもよい。ここで、「同じターゲットに対するアプタマー」とは、例えば、同じターゲットに対する同じ配列のアプタマーでもよいし、同じターゲットに対する異なる配列のアプタマーでもよい。
【0051】
本実施形態のMSSが同じターゲットに対するアプタマーが固定化されたMSS膜を複数有する場合、例えば、同じターゲットに対する分析を一つのMSSで、同時に複数行うことができる。また、本実施形態のMSSが異なるターゲットに対するアプタマーが固定化されたMSS膜を複数有する場合、例えば、異なるターゲットに対する分析を一つのMSSで、同時に行うことができる。
【0052】
本実施形態のMSSは、例えば、使用時において、前記センサ基板に前記MSS膜が配置された形態であればよく、使用前は、前記センサ基板と前記MSS膜とが別個独立した形態でもよい。後者の場合、例えば、本発明のMSSは、例えば、前記センサ基板と前記MSS膜とを別個独立に含むキットであってもよい。
【0053】
本実施形態のMSSは、例えば、後述する分析方法において、既存の計測モジュールを使用して、前記MSSにおける前記ピエゾ抵抗素子の応力変化に伴う抵抗値の変化を、電子シグナルとして測定することができる。
【0054】
[実施形態2]
本実施形態のターゲットの分析方法は、前述のように、サンプル液に、前記本発明の膜型表面応力センサ(MSS)を浸漬する工程と、液相中で前記MSSに電圧を印加する工程と、前記MSSにおける前記ピエゾ抵抗素子の応力変化の測定により、前記サンプル液中のターゲットを分析する工程とを含むことを特徴とする。本発明の分析方法は、前述のようにアプタマーが固定化されたMSSを使用することが特徴であり、その他の工程および条件等は、特に制限されない。
【0055】
前記浸漬工程において、前記MSSの浸漬は、例えば、前記センサ基板における前記ピエゾ抵抗素子を含む支持領域と、それに支持された前記MSS膜とが、前記サンプル液に浸漬できればよい。前記サンプル液への前記MSSの浸漬条件は、特に制限されず、例えば、温度20~35℃で0.1~120分、温度50~60℃で0.1~120分等が例示できる。前記MSSが複数のMSS膜を有する場合は、例えば、前記MSSにおける複数のMSS膜を同時に同じサンプル液に浸漬させればよい。
【0056】
前記印加工程は、前述のように、液相中で前記膜型表面応力センサに電圧を印加する。前記電圧の印加条件は、特に制限されず、例えば、市販のMSSと同様の条件が例示できる。前記液相は、例えば、前記浸漬工程におけるサンプル液でもよいし、他の溶媒でもよい。後者の場合、前記浸漬工程後の前記MSSを、前記サンプル液から取出し、新たな溶媒に浸漬させて、電圧を印加すればよい。前記サンプル液への浸漬工程後、前記サンプル中の前記アプタマーに結合しなかった物質を除去するために、前記MSSを洗浄した場合等、このように新たな溶媒に前記MSSを浸漬させて、電圧を印加することが好ましい。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、PBS、Tris-HCl等の緩衝液、水等があげられる。
【0057】
前記分析工程は、前述のように、前記MSSにおける前記ピエゾ抵抗素子の応力変化の測定により、前記サンプル液中のターゲットを分析する。前記応力変化の測定は、例えば、電気シグナルの測定により行うことができ、市販の計測モジュール(例えば、MSS-8RM、NANOSENSOR社)等が使用できる。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
市販のMSSにおけるMSS膜に、アプタマーを固定化し、ターゲットの分析が可能であることを確認した。
【0059】
(1)非特異的吸着法によるアプタマーの固定
市販のMSS(商品名:SD-MSS-1K2G、NANOSENSOR社)を使用した。前記MSSの構成を、
図1の上面図に示す。前記MSSは、
図1に示すように、センサ基板10が、電極11、アルミ線12、MSS膜13およびピエゾ抵抗素子14を有し、MSS膜13は、ピエゾ抵抗素子14を介してアルミ線12と連結し、アルミ線12は、それぞれ電極11と連結した構造である。
【0060】
前記センサ基板上の前記アルミ線に、アクリル樹脂(商品名:Mr.COLOR 62、GSI クレオス社製)、およびエポキシ樹脂(商品名:PM 165-R Hi、セメダイン社製)を塗布して、防水処理を施した。そして、処理後の前記センサ基板を、その電極が挿入されるように、コネクタ付き基板(商品名:IFB-FFC-(0.5)4P-B、AITENDO社製)に連結させた。さらに、前記コネクタ付き基板のコネクタの全体について、金属の露出部、および金属部へつながる隙間等に、前述と同じ樹脂を塗布・充填することによって、防水処理を施した。
【0061】
つぎに、前記センサ基板のMSS膜に対して、その裏面(前記アルミ線が形成されている表面とは反対側の面)に、ストレプトアビジン溶液1μlを滴下し、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温(約25℃)で、1時間静置した。前記ストレプトアビジン溶液は、ストレプトアビジンが2%となるように1×PBS(pH7.4)に懸濁して調製した。つぎに、前記PBSで前記裏面を洗浄した後、前記MSS膜の表面に、前記ストレプトアビジン溶液3μlを滴下し、同条件で静置し、さらに、前記PBSで洗浄した。そして、前記センサ基板を、10分間、室温で乾燥させた。
【0062】
このようにして、2つの前記センサ基板を処理し、一方のセンサ基板には、アプタマーをさらに結合させ、実施例1AのMSSとし、他方のセンサ基板には、ポリTをさらに結合させ、参照例1AのMSSとした。
【0063】
すなわち、前記一方のセンサ基板には、アプタマー溶液3μlを、前記表面に滴下して、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、1時間静置した。前記アプタマー溶液は、3’末端にビオチンタグが付加されたトロンビンアプタマー(配列番号1:GGTTGGTGTGGTTGGTTTTT-biotin-3’)を終濃度1μmol/lとなるように、前記PBSに懸濁して調製した。前記トロンビンアプタマーは、ビオチンタグを有することから、前記MSS膜の表面にストレプトアビジンが結合していれば、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの結合により、前記MSS膜の表面に前記トロンビンアプタマーが固定されることになる。これを実施例1AのMSSとした。
【0064】
前記他方のセンサ基板には、ポリT溶液3μlを、前記表面に滴下して、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、1時間静置した。前記ポリT溶液は、3’末端にビオチンタグが付加されたポリTのDNA(配列番号2:TTTTTTTTTTTTTTTTTTTT-biotin-3’)を終濃度1μmol/lとなるように、前記PBSに懸濁して調製した。前記ポリTは、ビオチンタグを有することから、前記MSS膜の表面にストレプトアビジンが結合していれば、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの結合により、前記MSS膜の表面に前記ポリTが固定されることになる。これを参照例1のMSSとした。
【0065】
(2)金蒸着法によるアプタマーの固定
特に示さない限りは、前記(1)と同様の処理を行った。すなわち、前記市販のMSSのセンサ基板について、前記センサ基板上のアルミ線への防水処理を施した後、前記センサ基板の電極をマスクし、前記MSS膜を含めた前記センサ基板の全面にチタン蒸着を行い、その後、さらに金蒸着を行った。前記チタン蒸着により、厚さ約5nmのチタン薄膜を形成し、前記金蒸着により、厚さ約100nmの金薄膜を形成した。そして、前記センサ基板をエタノールで洗浄した。
【0066】
つぎに、前記センサ基板の全体を、100μmol/l BiotinSAMエタノール溶液(同仁化学研究所)に浸漬し、室温で1時間静置し、さらに、エタノールで洗浄した。そして、前記(1)と同様に、前記コネクタ付き基板に連結し、さらに前記コネクタ全体に防水処理を施した。
【0067】
つぎに、前記センサ基板のMSS膜に対して、その一方の表面(前記アルミ線が形成されている表面)に、0.5%のストレプトアビジン溶液1μlを滴下し、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、0.5時間静置した。つぎに、前記PBSで洗浄した後、前記センサ基板を、10分間、室温で乾燥させた。
【0068】
このようにして、2つの前記センサ基板を処理し、一方のセンサ基板には、アプタマーをさらに結合させ、実施例のMSSとし、他方のセンサ基板には、ポリTをさらに結合させ、参照例のMSSとした。
【0069】
すなわち、前記一方のセンサ基板には、アプタマー溶液3μlを、前記表面に滴下して、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、1時間静置した。前記アプタマー溶液は、前記トロンビンアプタマーを終濃度5μmol/lとなるように、前記PBSに懸濁して調製した。静置後、さらに、1% BSA含有PBSに浸漬し、室温で50分静置し、前記PBSで洗浄した。前記トロンビンアプタマーは、ビオチンタグを有することから、前記MSS膜の表面にストレプトアビジンが結合していれば、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの結合により、前記MSS膜の表面に前記トロンビンアプタマーが固定されることになる。これを実施例2のMSSとした。
【0070】
前記他方のセンサ基板には、ポリT溶液3μlを、前記表面に滴下して、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、1時間静置した。前記ポリT溶液は、前記ポリTのDNAを終濃度5μmol/lとなるように、前記PBSに懸濁して調製した。静置後、さらに、1% BSA含有PBSに浸漬し、室温で50分静置し、前記PBSで洗浄した。前記ポリTは、ビオチンタグを有することから、前記MSS膜の表面にストレプトアビジンが結合していれば、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの結合により、前記MSS膜の表面に前記ポリTが固定されることになる。これを参照例2のMSSとした。
【0071】
(3)シランカップリング法によるアプタマーの固定
前記市販のMSSの前記センサ基板をエタノールで洗浄した後、前記MSS膜が配置されている端部をシランカップリング溶液に浸漬して、室温で20分間静置した。前記シランカップリング剤は、エタノール8ml、酢酸200μl、APTMS(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)10μl、純水1.8mlの組成とした。そして、前記センサ基板の浸漬させた前記端部を純水で洗浄し、110℃で1.5時間処理を行った。
【0072】
前記センサ基板について、前記(1)と同様に、前記センサ基板上のアルミ線への防水処理を施した後、前記センサ基板を、前記コネクタ付き基板に連結し、前記コネクタの全体に防水処理を施した。
【0073】
つぎに、前記センサ基板の前記MSS膜の一方の表面(前記アルミ線が形成されている表面)に、14%グルタルアルデヒド溶液1μlを滴下し、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、0.75時間静置した。つぎに、前記PBSで洗浄した後、前記センサ基板を、10分間、室温で乾燥させた。さらに、前記センサ基板のMSS膜の同じ表面に、0.5%ストレプトアビジン溶液1μlを滴下し、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、0.5時間静置した。つぎに、前記センサ基板について、前記MSS膜が配置されている端部の前記表面を、0.1mol/l Tris-HCl(pH8)で洗浄した後、さらに、0.1mol/l Tris-HCl(pH8)に前記端部を浸漬し、室温で15分間静置した。その後、前記端部を前記PBSで洗浄した。
【0074】
このようにして、2つの前記センサ基板を処理し、一方のセンサ基板には、アプタマーをさらに結合させ、実施例のMSSとし、他方のセンサ基板には、ポリTをさらに結合させて、参照例のMSSとした。
【0075】
すなわち、前記一方のセンサ基板には、アプタマー溶液3μlを、前記表面に滴下して、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、1時間静置した。前記アプタマー溶液は、前記トロンビンアプタマーを終濃度5μmol/lとなるように、前記PBSに懸濁して調製した。静置後、さらに、1% BSA含有PBSに浸漬し、室温で30分静置し、前記PBSで洗浄した。前記トロンビンアプタマーは、ビオチンタグを有することから、前記MSS膜の表面にストレプトアビジンが結合していれば、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの結合により、前記MSS膜の表面に前記トロンビンアプタマーが固定されることになる。これを実施例3のMSSとした。
【0076】
前記他方のセンサ基板には、ポリT溶液3μlを、前記表面に滴下して、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、1時間静置した。前記ポリT溶液は、前記ポリTのDNAを終濃度5μmol/lとなるように、前記PBSに懸濁して調製した。静置後、さらに、1% BSA含有PBSに浸漬し、室温で30分静置し、前記PBSで洗浄した。前記ポリTは、ビオチンタグを有することから、前記MSS膜の表面にストレプトアビジンが結合していれば、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの結合により、前記MSS膜の表面に前記ポリTが固定されることになる。これを参照例3のMSSとした。
【0077】
(4)電気シグナルの検出
実施例1と参照例1のMSS、実施例2と参照例2のMSS、実施例3と参照例3のMSSを、それぞれセットとし、同時にサンプル液に浸漬し、電圧を印加し、応力変化に伴う電圧変化を測定した。具体的には、まず、前記PBSに、前記MSSにおけるMSS膜を含む端部を浸漬し、前記MSSに電圧を印加して、電圧のシグナルが安定するまで放置した。そして、電圧のシグナルが十分に安定した計測時間1400秒の時点で、前記MSSの浸漬をトロンビン溶液に切り替え、電圧のシグナルを引き続き測定した。前記トロンビン溶液は、終濃度240nmol/lとなるようにトロンビン試薬(商品名:αThrombin,Human、フナコシ社)を前記PBSに混合して調製した。
【0078】
そして、前記各MSSについて、前記電圧シグナルを電圧に換算し、前記サンプル液への浸漬後の安定した電圧(Vs)と、前記トロンビン溶液への浸漬後の最も低い電圧(Vt)との差(Vs-Vt)を求め、これをトロンビン溶液への浸漬による降下電圧値(μV)とした。これらの結果を、下記表1に示す。
【0079】
【0080】
実施例1、実施例2、および実施例3のいずれのMSSについても、トロンビン溶液への浸漬後、急激な電圧の低下が確認された。そして、各実施例の降下電圧は、前記表1に示すように、対応する各参照例の降下電圧よりも、著しく有意に大きい値(電圧の大きな降下)を示した。この結果から、実施例のMSSは、ターゲットであるトロンビン溶液への浸漬によって、前記MSSのMSS膜にアプタマーを介してトロンビンが結合し、応力変化が発生したことがわかる。なお、前記表1に示すように、各参照例についても、トロンビン溶液への切り替え後に電気シグナルの計測値の低下が見られたが、これは使用したトロンビン試薬に含まれるグリセリンの影響(グリセリンの前記MSS膜への非特異的吸着等の影響)であって、バックグラウンド補正により無視できる。また、各実施例が、対応する各参照例よりも大きな電圧の降下を示していることからも、実施例においては、参照例とは異なり、ターゲットであるトロンビンとの特異的な結合が生じていることは明らかといえる。以上の結果から、アプタマーを固定化したMSSによれば、ターゲットを分析できることが確認できた。
【0081】
[実施例2]
アプタマーをMSS膜に対して略同一の距離で固定化することにより、MSSの感度が向上することを確認した。
【0082】
(1)MSSの作製
実施例のMSSとして、
図2(A)に示すMSSを作製した。まず、前記実施例1(1)の市販のMSSの前記センサ基板をエタノールで洗浄した後、前記MSS膜が配置されている端部をシランカップリング溶液を100μlほどでリンスし、室温で1.5時間放置した。前記シランカップリング剤は、エタノール8ml、酢酸200μl、APTMS(トリメトキシリル3-プロピルメタクリル酸(3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン)100μl、純水1.8mlの組成とした。そして、前記センサ基板をエタノールで洗浄し、室温で5分乾燥した。
【0083】
つぎに、前記センサ基板のMSS膜の一方の表面(前記アルミ線が形成されている表面)に、N-アセチルシステイン溶液1μlを滴下し、UV(ナイトライド社、NS365L-6SMG)を数分照射した。水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、乾燥するまで照射した。その後、前記センサ基板を、純水で洗浄し、室温で乾燥した。
【0084】
つぎに、前記センサ基板のセンサ部分を無水酢酸溶液(10%無水酢酸、90%アセトニトリル)に浸し、60℃、0.5時間反応させた。前記反応後、前記センサ基板をアセトニトリルで洗浄した。
【0085】
つぎに、前記センサ基板を、10分間、室温で乾燥させた。さらに、前記センサ基板のMSS膜の同じ表面に、0.5%ストレプトアビジン溶液1μlを滴下し、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、1.5時間静置した。前記静置後、前記センサ基板を、前記PBSで洗浄した。
【0086】
前記センサ基板について、前記実施例1(1)と同様に、前記センサ基板上のアルミ線への防水処理を施した後、前記センサ基板を、前記コネクタ付き基板に連結し、前記コネクタの全体に防水処理を施した。
【0087】
このようにして、2つの前記センサ基板を処理し、一方のセンサ基板には、アプタマーをさらに結合させ、実施例のMSS(実施例2-1)とし、他方のセンサ基板には、ポリTをさらに結合させて、参照例のMSS(参照例2-1)とした。
【0088】
すなわち、前記一方のセンサ基板には、アプタマー溶液3μlを、前記表面に滴下して、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、1時間静置した。前記アプタマー溶液は、前記トロンビンアプタマーを終濃度5μmol/lとなるように、前記PBSに懸濁して調製した。静置後、さらに、1% BSA含有PBSに浸漬し、室温で30分静置し、前記PBSで洗浄した。前記トロンビンアプタマーは、ビオチンタグを有することから、前記MSS膜の表面にストレプトアビジンが結合していれば、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの結合により、
図2(A)に示すように、前記MSS膜の表面に前記トロンビンアプタマーが固定されることになる。これを実施例2-1のMSSとした。なお、実施例2-1のMSSは、アプタマーが、MSS膜に対して略同一の距離で固定化されたMSSに対応する。
【0089】
前記他方のセンサ基板には、ポリT溶液3μlを、前記表面に滴下して、水蒸気雰囲気下(100%(相対湿度))、室温で、1時間静置した。前記ポリT溶液は、前記ポリTのDNAを終濃度5μmol/lとなるように、前記PBSに懸濁して調製した。静置後、さらに、1% BSA含有PBSに浸漬し、室温で30分静置し、前記PBSで洗浄した。前記ポリTは、ビオチンタグを有することから、前記MSS膜の表面にストレプトアビジンが結合していれば、前記ビオチンと前記ストレプトアビジンとの結合により、前記MSS膜の表面に前記ポリTが固定されることになる。これを参照例2-1のMSSとした。
【0090】
さらに、前記実施例1(1)と同様にして、実施例のMSS(実施例2-2)および参照例のMSS(参照例2-2)のMSSを作製した。
【0091】
(2)電気シグナルの検出
実施例2-1と参照例2-1のMSS、実施例2-2と参照例2-2のMSSを、それぞれセットとし、同時にサンプル液に浸漬し、電圧を印加し、応力変化に伴う電圧変化を測定した。具体的には、まず、前記PBSに、前記MSSにおけるMSS膜を含む端部を浸漬し、前記MSSに電圧を印加して、電圧のシグナルが安定するまで放置した。そして、電圧のシグナルが十分に安定した計測時間1200秒または2100秒の時点で、前記MSSの浸漬をトロンビン溶液に切り替え、電圧のシグナルを引き続き測定した。前記トロンビン溶液は、終濃度約200nmol/lとなるように、前記トロンビン試薬を前記PBSに混合して調製した。この結果を
図2に示す。
【0092】
図2は、MSSの構造を示す模式図およびMSSの電圧を示すグラフである。
図2において、(A)は、実施例2-1のMSSの構造を示す図であり、(B)は、実施例2-1および参照例2-1の結果を示すグラフであり、(C)は、実施例2-2および参照例2-2の結果を示すグラフである。
図2(B)および(C)において、横軸は、PBSに前記端部を浸漬開始後の時間を示し、縦軸は、電圧を示す。
図2(B)および(C)に示すように、実施例2-1および実施例2-2のいずれのMSSにおいても、参照例2-1および参照例2-2と比較して、有意に高い電圧値を示し、ターゲットの有無で電圧が変化することが確認できた。すなわち、本発明のMSSによれば、ターゲットを検出できることがわかった。また、実施例2-1のMSSの電圧値と参照例2-1のMSSの電圧値の差分と、実施例2-2のMSSの電圧値と参照例2-2のMSSの電圧値の差分とを比較した場合、前者は、後者の約2倍であった。すなわち、実施例2-1のMSSは、実施例2-2のMSSと比較して、2倍の感度を示した。
【0093】
また、前記表1に示すように、非特異的吸着法により作製された実施例1のMSSは、シランカップリング法により作製された実施例3のMSSの約2倍の感度を示す。このため、実施例2-1のMSSは、前記表1の実施例3のMSSの約4倍の感度を示すと言える。さらに、前記表1における実施例3のMSSは、シランカップリング剤を用いて、ストレプトアビジンをMSS膜に固定化しているが、架橋剤として、グルタルアルデヒドを用いているため、アプタマーが、MSS膜に対して異なる距離で固定化されている。したがって、実施例2-1のMSSと前記表1の実施例3のMSSとの感度の差は、アプタマーが、MSS膜に対して一定の距離で固定化されているか否かによると推定された。さらに、実施例2-1のMSSにおけるリンカーの主鎖長は、11であるため、アプタマーが、MSS膜に対して略一定の距離で固定化し、かつその際のリンカー長を11前後とすることにより、MSSの感度をよくできると推定された。
【0094】
以上のことから、アプタマーをMSS膜に対して略同一の距離で固定化することにより、MSSの感度が向上することがわかった。
【0095】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0096】
この出願は、2019年7月10日に出願された日本出願特願2019-128311および2020年3月26日に出願された日本出願特願2020-056897を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【0097】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
アプタマーと、膜と、センサ基板とを含み、
前記アプタマーは、ターゲットに結合する核酸分子であり、前記膜に固定化され、
前記膜は、前記アプタマーへの前記ターゲットの結合により変形する膜であり、
前記センサ基板は、支持領域を有し、
前記支持領域は、前記膜を支持し、ピエゾ抵抗素子を有し、
前記ピエゾ抵抗素子は、前記膜の変形を検出する素子である
ことを特徴とする膜型表面応力センサ。
(付記2)
前記膜が、シリコン膜である、付記1記載の膜型表面応力センサ。
(付記3)
前記支持領域は、前記膜を部分的に支持する、付記1または2記載の膜型表面応力センサ。
(付記4)
前記膜の一方の表面に前記アプタマーが固定化されている、付記1から3のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記5)
前記膜の両面に前記アプタマーが固定化されている、付記1から3のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記6)
前記アプタマーが、アビジンまたはアビジン誘導体と、ビオチンまたはビオチン誘導体との結合体を介して、前記膜に固定化されている、付記1から5のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記7)
前記膜の表面に、金属膜を有し、前記金属膜を介して、前記アプタマーが、前記膜の表面に固定化されている、付記1から6のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記8)
前記アプタマーは、リンカーを介して、前記膜表面に固定されている、付記1から7のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記9)
各アプタマーにおけるリンカーの長さは、略一定である、付記8記載の膜型表面応力センサ。
(付記10)
前記リンカーは、シランカップリング剤(シランカップリング剤由来の領域)を含む、付記8または9記載の膜型表面応力センサ。
(付記11)
前記リンカーは、架橋剤(架橋剤由来の領域)を含む、付記8から10のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記12)
前記リンカーの主鎖長は、1~15である、付記8から11のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記13)
前記アプタマーが、シランカップリング剤(シランカップリング剤由来の領域)を介して、前記膜の表面に固定化されている、付記1から12のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記14)
前記センサ基板が、複数の支持領域を有し、
前記複数の支持領域は、それぞれ、前記膜を支持する、付記1から13のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記15)
前記複数の膜型表面応力センサが、異なるターゲットに対するアプタマーが固定化されたセンサを含む、付記14記載の膜型表面応力センサ。
(付記16)
前記センサ基板が、回路を有し、
前記支持領域が複数のピエゾ抵抗素子を含み、
前記回路は、前記複数のピエゾ抵抗素子を含むホイートストンブリッジ回路である、付記1から15のいずれかに記載の膜型表面応力センサ。
(付記17)
サンプル液に、付記1から16のいずれかに記載の膜型表面応力センサを浸漬する工程と、
液相中で前記膜型表面応力センサに電圧を印加する工程と、
前記膜型表面応力センサにおける前記ピエゾ抵抗素子の応力変化の測定により、前記サンプル液中のターゲットを分析する工程とを含むことを特徴とするターゲットの分析方法。
(付記18)
前記印加工程において、前記液相が、前記サンプル液であり、
前記浸漬工程の後、そのまま前記印加工程を行う、付記17記載の分析方法。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、ターゲットを結合させるための形態として、新たに、前記膜にアプタマーを固定化することによって、例えば、これまでの膜型表面応力センサとは異なるターゲットへの適用や、これまでの膜型表面応力センサとは異なる改変等の可能性を広げることができる。
【符号の説明】
【0099】
10 センサ基板
11 電極
12 アルミ線
13 MSS膜
14 ピエゾ抵抗素子
【配列表】