(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
E04H 1/02 20060101AFI20231018BHJP
E03B 3/03 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
E04H1/02
E03B3/03 B
(21)【出願番号】P 2021044340
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2022-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】307042385
【氏名又は名称】ミサワホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】平山 由佳理
(72)【発明者】
【氏名】山下 登教
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155919(JP,A)
【文献】特開2002-054188(JP,A)
【文献】特開2002-167813(JP,A)
【文献】特開平11-269945(JP,A)
【文献】特開2015-014164(JP,A)
【文献】特開2015-151709(JP,A)
【文献】特開2006-070473(JP,A)
【文献】特開平11-343644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/02
E03B 3/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一フロアと、当該第一フロアよりも上階の第二フロアと、を有する複数階建ての建物であって、
第一外周壁と、
屋外側の面が前記第一外周壁とは異なる方角を向く第二外周壁と、
雨水を貯留する第一貯水タンク及び第二貯水タンクと、
前記第一外周壁と一体的に設けられ、かつ前記第一外周壁よりも厚みが厚く形成された厚型壁体と、を備えており、
前記第一貯水タンクは、前記第一外周壁に面する屋外空間に設置されており、
前記第二貯水タンクは、前記第二外周壁に面する屋外空間に設置されており、
前記厚型壁体は、
当該厚型壁体の側面を構成する複数の側壁部と、
前記複数の側壁部によって囲まれた位置に形成された内部中空部と、を備えており、
前記厚型壁体が、前記第一フロアから屋根の高さまで設けられていて、前記内部中空部は、下階側中空部と、上階側中空部と、を有しており、
前記第一貯水タンクは、前記
下階側中空部に収納されており、
前記第一貯水タンクには、前記上階側中空部に配置されている集水パイプを介して前記屋根から雨水が供給され、
前記第一貯水タンクに貯留されている雨水は、
前記上階側中空部に配置されている給水パイプを介して前記第二フロアに供給されることを特徴とする建物。
【請求項2】
請求項1に記載の建物において、
前記第一貯水タンク及び前記第二貯水タンクは、
互いに接続されていないために、一方に貯留されている雨水が他方へと移動不可であり、
両方とも前記第一フロアに設置されていることを特徴とする建物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の建物において、
屋内空間における幅方向又は奥行方向の中心線を境にして、一方側に前記第一貯水タンクが設置され、他方側に前記第二貯水タンクが設置されていることを特徴とする建物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の建物において、
前記第一貯水タンクと前記第二貯水タンクとの間には屋内空間が配されていることを特徴とする建物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の建物において、
前記第二貯水タンクに貯留されている雨水は、前記第一フロアに供給されることを特徴とする建物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の建物において、
前記第二外周壁は、前記第一外周壁よりも日当たりが悪い方角を向いていることを特徴とする建物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の建物において、
前記第一貯水タンクに貯留されている雨水の用途と、前記第二貯水タンクに貯留されている雨水の用途と、を異ならせることで、前記第一貯水タンクの貯水量と、前記第二貯水タンクの貯水量と、を季節に応じてコントロール可能としたことを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅の周囲に緑化植栽を巡らし、当該緑化植栽の育成のための灌水を雨水貯溜タンクに貯溜した雨水により行うシステムが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1のシステムでは、雨水貯溜タンクとして、緑化植栽よりも高い位置に設けられた高位置雨水貯溜タンクと、緑化植栽よりも低い位置に設けられた低位置雨水貯溜タンクと、高位置雨水貯溜タンクよりも低く低位置雨水貯溜タンクよりも高い位置に設けられた中位置雨水貯溜タンクと、が用いられる。さらに、引用文献1では、タンクに貯溜した雨水をトイレの洗浄水として利用することも提案されている。
また、雨水を利用して建物を冷却するシステムも知られている(例えば特許文献2参照)。特許文献2のシステムでは、捕集した雨水を貯溜する手段として地下に簡易な地下貯水槽が設けられている。
また、雨水を利用して建物の屋上を冷やし、なおかつ災害時にはろ過して飲用するシステムも提案されている(例えば特許文献3参照)。特許文献3のシステムでは、建物の屋上防水を利用して屋上に雨水を張り、その雨水をろ過、冷却し循環させて屋上を冷やすようになっている。また、屋上に雨水タンクが設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-269945号公報
【文献】特開2006-97367号公報
【文献】特開2006-283542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
貯溜した雨水を災害時に飲用水等の生活用水として利用する観点から、土砂崩れや水害等の災害が発生しても、タンク等が破損することなく、タンクから雨水を安定的に供給できることが望ましい。
例えば、特許文献2の地下貯水槽のようにタンクを地下に設置する構成や、特許文献3の雨水タンクのようにタンクを屋上に設置する構成であれば、災害の影響を受けにくい。しかしながら、タンクを地下や屋上に設置する構成には、設置場所が限られる、設置できるタンクのサイズや数が限られる、施工コストがかかる等の問題がある。一方、特許文献1の高位置雨水貯溜タンクや中位置雨水貯溜タンクのように、タンクを地上(本願では、地面と住宅屋根との間を「地上」という)に設置すれば、これらの問題は解消される。しかしながら、タンクを地上に設置する構成は、災害の影響を受けやすいので、災害時にタンクから雨水が供給されなくなるおそれがある。
【0005】
特許文献1において、高位置雨水貯溜タンクは、住宅の壁面に設置できるように設計されたタンクであり、北側の壁面に設置されている。それは、北側の窓は一般的に縦型の小窓等が配置されることが多く、壁面も広くなっているので、集水樋の配置構成が簡単となるからである。また、中位置雨水貯溜タンクは、車庫の空間を利用して設置できるように設計されたタンクであり、車庫屋根を支持するパーゴラ部分に設置されている。したがって、引用文献1の場合、タンクの設置場所は、災害を考慮して決定されるのではなく、タンクの特性(形状等)によって決定される。
そのため、例えば、車庫が住宅の北側にある場合には、北側の壁面に設置する仕様の高位置雨水貯溜タンクだけでなく、車庫に設置する仕様の中位置雨水貯溜タンクも、住宅の北側に設置されることとなる。この場合、住宅の北側に影響を与えるような災害が発生した場合(例えば、住宅から見て北の方角にある山が土砂崩れした場合)には、高位置雨水貯溜タンク及び中位置雨水貯溜タンクの双方が災害の影響を受ける可能性が高い。したがって、高位置雨水貯溜タンクに貯溜されている雨水も、中位置雨水貯溜タンクに貯溜されている雨水も、利用できなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、通常時及び非常時に、地上に設置した貯水タンクから雨水を安定的に供給できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、例えば
図1~
図9に示すように、第一フロア(1階)と、当該第一フロアよりも上階の第二フロア(2階)と、を有する複数階建ての建物1であって、
第一外周壁(南側の外周壁)と、
屋外側の面が前記第一外周壁とは異なる方角を向く第二外周壁(北側の外周壁)と、
雨水を貯留する第一貯水タンク41a(タンク本体41a)及び第二貯水タンク42a(タンク本体42a)と、
前記第一外周壁(南側の外周壁)と一体的に設けられ、かつ前記第一外周壁よりも厚みが厚く形成された厚型壁体7(第二厚型壁体7)と、を備えており、
前記第一貯水タンク41aは、前記第一外周壁に面する屋外空間に設置されており、
前記第二貯水タンク42aは、前記第二外周壁に面する屋外空間に設置されており、
前記厚型壁体7は、
当該厚型壁体7の側面を構成する複数の側壁部SWと、
前記複数の側壁部SWによって囲まれた位置に形成された内部中空部HPと、を備えており、
前記厚型壁体7が、前記第一フロアから屋根の高さまで設けられていて、前記内部中空部HPは、下階側中空部HP1と、上階側中空部HP2と、を有しており、
前記第一貯水タンク41a(タンク本体41a)は、前記
下階側中空部HP
1に収納されており、
前記第一貯水タンク41a(タンク本体41a)には、前記上階側中空部HP2に配置されている集水パイプを介して前記屋根から雨水が供給され、
前記第一貯水タンク41a(タンク本体41a)に貯留されている雨水は、
前記上階側中空部HP2に配置されている給水パイプを介して前記第二フロアに供給されることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)と第二貯水タンク42a(タンク本体42a)とが2つの箇所(屋外側の面が互いに異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間)に分かれて設置されている。したがって、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとを1つの箇所にまとめて設置する場合と比較して、災害の影響を受けて貯水タンクが全滅してしまう可能性が低いので、災害時等の非常時であっても、地上に設置した貯水タンクから雨水を安定的に供給することができる。
また、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとが2つの箇所に分かれて設置されているので、1つの箇所に多数の貯水タンクを設置したり、貯水タンクを大型化したりすることなく、多量の雨水を貯留しておくことができる。したがって、通常時及び非常時に、貯水タンクから雨水を安定的に供給することができる。
また、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)が厚型壁体7(第二厚型壁体7)内に収納されているので、災害が発生しても、第一貯水タンク41aを厚型壁体7によって防護することができる。したがって、災害の影響を受けて貯水タンクが全滅してしまう可能性をより効果的に低減することができるので、災害時等の非常時であっても、地上に設置した貯水タンクから雨水をより安定的に供給することが可能となる。
また、第一貯水タンク41aは、厚型壁体7内に収納されているので、外気温の影響を受けにくい。したがって、第一貯水タンク41aに貯留されている雨水は、夏に高温になりすぎることも、冬に低温になりすぎることもないので、温度調整(冷却や加熱)することなく利用することが可能である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、例えば図1~図9に示すように、請求項1に記載の建物1において、
前記第一貯水タンク41a(タンク本体41a)及び前記第二貯水タンク42a(タンク本体42a)は、
互いに接続されていないために、一方に貯留されている雨水が他方へと移動不可であり、
両方とも前記第一フロア(1階)に設置されていることを特徴とする。
請求項
3に記載の発明は、例えば
図1~
図9に示すように、請求項1
又は2に記載の建物1において、
屋内空間における幅方向(東西方向)又は奥行方向(南北方向)の中心線CLを境にして、一方側に前記第一貯水タンク41a(タンク本体41a)が設置され、他方側に前記第二貯水タンク42a(タンク本体42a)が設置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、中心線CLを境にして一方側に第一貯水タンク41a(タンク本体41a)が設置されて他方側に第二貯水タンク42a(タンク本体42a)が設置されているので、中心線CLを境にして一方側に第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aを設置して他方側に貯水タンクを設置しない場合と比較して、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとが離れて設置されることとなる。したがって、災害の影響を受けて貯水タンクが全滅してしまう可能性をより効果的に低減することができるので、災害時等の非常時であっても、地上に設置した貯水タンクから雨水をより安定的に供給することが可能となる。
【0011】
請求項
4に記載の発明は、例えば
図1~
図9に示すように、請求項1
から3のいずれか一項に記載の建物1において、
前記第一貯水タンク41a(タンク本体41a)と前記第二貯水タンク42a(タンク本体42a)との間には屋内空間が配されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)と第二貯水タンク42a(タンク本体42a)との間に屋内空間が配されているので、災害が発生して、第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aのうち一方が破損しても、他方は建物1本体によって防護されて破損する可能性が低い。したがって、災害の影響を受けて貯水タンクが全滅してしまう可能性をより効果的に低減することができるので、災害時等の非常時であっても、地上に設置した貯水タンクから雨水をより安定的に供給することが可能となる。
【0013】
請求項
5に記載の発明は、例えば
図1~
図9に示すように、請求項1から
4のいずれか一項に記載の建物1において、
前記第二貯水タンク42a(タンク本体42a)に貯留されている雨水
は、前記第一フロア(1階)に供給
されることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、第二フロア(2階)には、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)に貯留されている雨水が供給され、第一フロア(1階)には、第二貯水タンク42a(タンク本体42a)に貯留されている雨水が供給されるので、断水中等の非常時に、上下階を行き来することなく、貯水タンクに貯留されている雨水を雑用水や中水、また浄化して飲用水等として利用することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、例えば
図1~
図9に示すように、請求項1から5のいずれか一項に記載の建物1において、
前記第二外周壁(北側の外周壁
)は、前記第一外周壁(南側の外周壁
)よりも日当たりが悪い
方角を向いていることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、第二外周壁(北側の外周壁)が、第一外周壁(南側の外周壁)よりも日当たりの悪い方角を向いているので、第二貯水タンク42a(タンク本体42a)が設置される屋外空間は、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)が設置される屋外空間よりも日当たりの悪い。したがって、第二貯水タンク42aに貯留されている雨水は、夏に高温になりすぎることがないので、温度調整(冷却)することなく利用することが可能である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、例えば
図1~
図9に示すように、請求項1から6のいずれか一項に記載の建物1において、
前記第一貯水タンク41a(タンク本体41a)に貯留されている雨水の用途と、前記第二貯水タンク42a(タンク本体42a)に貯留されている雨水の用途と、を異ならせることで、前記第一貯水タンク41a(タンク本体41a)の貯水量と、前記第二貯
水タンク42a(タンク本体42a)の貯水量と、を季節に応じてコントロール可能
としたことを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)の貯水量と、第二貯水タンク42a(タンク本体42a)の貯水量と、を季節(具体的には通常時における雨水の利用用途)に応じてコントロール可能であるので、災害が発生しても、その災害が発生した季節にかかわらず、貯水タンクから雨水を長期間に亘り安定的に供給することが可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、通常時及び非常時に、地上に設置した貯水タンクから雨水を安定的に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3】建物の1階及び1.5階を示す断面図である。
【
図7】貯留量(貯水量)の変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。なお、以下の実施形態及び図示例における方角は、あくまでも説明の便宜上設定したものである。
【0028】
図1~
図6において符号1は建物を示す。この建物1は、2階建てであり、1階の一部、1.5階及び2階が住人用スペース(第一エリア)として、1階の一部が事務所や店舗として貸し出すことが可能なテナントスペース(第二エリア)として、1階の更に他の一部が、テナントスペースの従業者と住人が使用する共用スペースとして用いられている。
【0029】
建物1は、壁や床、屋根といった建物の構成要素を予め工場でパネル化しておき、施工現場でこれらのパネルを組み立てて構築するパネル工法で構築されるが、これに限られるものではなく、従来の軸組工法、壁式工法、ツーバイフォー工法等で構築されるものとしてもよい。
【0030】
また、パネルとは、建築用パネルであり、図示はしないが、縦横の框材が矩形状に組み立てられるとともに、矩形枠の内部に補助桟材が縦横に組み付けられて枠体が構成され、この枠体の両面もしくは片面に、面材が貼設されたものであり、内部中空な構造となっている。その内部中空部(面材の裏側)には、通常、グラスウールやロックウール等の断熱材が装填される。
【0031】
建物1の上には屋根が設けられ、屋根の直下であって建物1正面の2階にはバルコニー2が設けられている。バルコニー2には、
図4に示すように、建物1正面から東側にかけて手摺壁3が設けられている。
手摺壁3における西側端部の西側には、横長のルーバー材が上下に連なる格子壁部4が設けられている。また、手摺壁3の下端部には、手摺壁3よりも前方及び側方に張り出す庇5が設けられている。
【0032】
建物1正面の東側コーナーには、窓が設けられた他の外周壁よりも厚みのある状態に形成された第一厚型壁体6が、1階から屋根の高さまで設けられている。第一厚型壁体6の正面には、手摺壁3及び庇5の端部が接続されている。
第一厚型壁体6は、上記の建築用パネル(建築用壁パネル)を四角筒状に組んで構築したものであり、この第一厚型壁体6自体には開口部が形成されていない。
【0033】
手摺壁3における格子壁部4の西側には、第一厚型壁体6よりも厚みのある状態に形成された第二厚型壁体7が、1階から屋根の高さまで設けられている。この第二厚型壁体7の上端部は、北側部分が屋根に達する高さとなっており、南側部分は、北側部分よりも高さが低く、屋根との間に隙間が形成された状態となっている。
第二厚型壁体7は、上記の建築用パネル(建築用壁パネル)を四角筒状に組んで構築したものである。そして、第二厚型壁体7には、複数の開口部7a,7b,7cが形成されており、これら複数の開口部7a,7b,7cから第二厚型壁体7の内部中空部HPを利用できるようになっている。当該内部中空部HPには、例えば屋外設置機器(以下、ライフライン設備)として充電制御装置40や第一雨水タンク設備41が収納されている(
図3参照)。
なお、第一雨水タンク設備41への雨水の供給は、建物1の屋根から第二厚型壁体7の内部中空部HPに通される配管を通じて行われる。
【0034】
建物1正面の西側コーナーには、第一厚型壁体6と同等の厚み寸法に設定された第三厚型壁体8が、1階から2階床よりも上方に突出する程度の高さまで設けられている。
第三厚型壁体8は、上記の建築用パネル(建築用壁パネル)を四角筒状に組んで構築したものであり、この第三厚型壁体8自体には開口部が形成されていない。
【0035】
バルコニー2の中央には、2階からバルコニー2側に突出した位置に配置されたインナーテラス部9の外壁9aが設けられている。
なお、手摺壁3における西側端部は、インナーテラス部9の外壁9aの正面に接続されている。そのため、バルコニー2は、インナーテラス部9を境界に、西側と東側に分割されている。なお、西側のバルコニー2を、以下、第一バルコニー2aと称し、東側のバルコニー2を、以下、第二バルコニー2bと称する。
バルコニー2には、第一バルコニー2aと第二バルコニー2bとに亘って花壇が設けられている。また、バルコニー2には、当該花壇に自動的に水やりをする自動散水装置2cが設置けられている。
【0036】
また、建物1の1階において、第二厚型壁体7の両側にはポーチ10,11がそれぞれ設けられており、本実施形態においては、西側のポーチが第一ポーチ10とされ、東側のポーチが第二ポーチ11とされている。
すなわち、第二厚型壁体7を境にして東側と西側に位置する領域は、この第二厚型壁体7によって概略的に分けられることになる。例えば東側と西側の領域のうち、一方をプライベート性の強い領域とし、他方をパブリック性の強い領域とすれば、第二厚型壁体7による領域分けの特性が際立ち、建物1における外観性を向上できるので好ましい。
【0037】
第一ポーチ10は、駐車スペースであり、テナントスペースの従業者と住人が使用する共用スペースとされている。また、第一ポーチ10は、建物1の正面から奥(北側)に伸びて設けられている。第二厚型壁体7と第三厚型壁体8との間に形成された開口部を通じて車両の出し入れを行うことができ、屋外に向かって開放されていることが常態とされている。
第一ポーチ10の奥(北側)には、建物1の玄関21が設けられている。
また、第一ポーチ10の床は、玄関21(北側)から屋外(南側)に向かって下り勾配となるスロープ状に形成されている。そのため、屋外から玄関21に向かうルート上のバリアフリー化が可能となり、人の通行や、車椅子での通行がしやすく、車両も駐車しやすい。
【0038】
第一ポーチ10の上方には、建物1の外周壁と一体的に形成されたポーチ屋根12が設けられている。また、第一ポーチ10の西側には、第三厚型壁体8と南北方向に連続して配置されて共にポーチ屋根12を支持するポーチ壁13が設けられている。
【0039】
ポーチ壁13には、建物1の西側に位置し、かつ第一ポーチ10と屋外とを連通する西側開口部13a(第四開口部)が形成されている。そして、この西側開口部13aには、横長の冷却ルーバー材が上下に連なる冷却ルーバー装置14が設置されている。
冷却ルーバー装置14は、保水した複数の冷却ルーバー材間を空気が流通したときの気化熱によって周囲の温度を下げるための装置であり、屋外から第一ポーチ10内に空気を取り込むのに合わせて第一ポーチ10内を冷却できるようになっている。
【0040】
本実施形態における冷却ルーバー装置14は、上端部の高さ位置が、第一ポーチ10の天井付近までの高さに設定されているが、これに限られるものではなく、この上端部の高さ位置は適宜変更可能とする。すなわち、冷却ルーバー装置14の上端部と、第一ポーチ10の天井との間に、
図2に示すよりも大きな隙間を形成し、より多くの空気を取り込めるようにしてもよい。
【0041】
また、冷却ルーバー装置14に水を供給する給水源は、水道であってもよいし、雨水を利用してもよい。
雨水を利用する場合は、建物1の屋根から第二厚型壁体7の内部中空部HPに通され、ポーチ屋根12の内部中空部に通される配管を通じて行われる。すなわち、冷却ルーバー装置14に雨水を供給するための配管は、第一雨水タンク設備41又は後述する第二雨水タンク設備42に雨水を供給する配管から分岐するものであってもよいし、第一雨水タンク設備41又は後述する第二雨水タンク設備42から雨水が供給される配管から分岐するものであってもよいし、別々の配管でもよい。また、ポーチ屋根12に降り注いだ雨水も利用することができる。
このように冷却ルーバー装置14への給水に雨水を利用できれば、例えば災害等により水道の断水が発生しても、雨さえ降れば、冷却ルーバー装置14に水を供給することができるので、たとえ断水が発生しても冷却ルーバー装置14に対して給水できるようにしたいという要望に応えることができて災害対応力の向上を図ることができる。
また、建物1の屋根の面積を広くしたり、片流れ式の屋根にしたりすれば、効率よく雨水を収集できるので好ましい。
【0042】
第二ポーチ11は、建物1の南側面から東側面にかけて設けられたポーチであり、テナントスペースの従業者と住人が使用する共用スペースとされている。また、第二ポーチ11は、建物1の1階における部屋の南側及び東側に位置する外周壁に面している。
第二ポーチ11の床面は、床タイルによって仕上げられており、第一ポーチ10の床面よりも高さ位置が高く設定されている。
また、第二ポーチ11の南側縁部には、第二ポーチ11と地面とを繋ぐポーチ階段15と、箱型に形成されて上面が開口した花壇部16と、が設けられている。なお、ポーチ階段15も、第二ポーチ11と同様の床タイルによって仕上げられている。
【0043】
花壇部16は、ポーチ階段15の東側端部から第二ポーチ11の東側端部にかけて長尺に形成されている。すなわち、花壇部16は、ポーチ階段15と共に、第二ポーチ11の南側縁部に沿って並んで設けられている。また、この花壇部16は、その上面の高さ位置が、第二ポーチ11の床面の高さ位置よりも上方に位置している。
【0044】
さらに、花壇部16は、第二ポーチ11の南側縁部に沿って設けられた花壇部16における本体部の東側端部から、建物1の東側面に回り込んで設けられた第二ポーチ11の縁部に沿って配置された延長壁部16aを有する。なお、この延長壁部16aの上面の高さ位置は、花壇部16の本体部の上面の高さ位置と等しく、第二ポーチ11の床面の高さ位置よりも上方に位置している。
【0045】
第二ポーチ11のうち、ポーチ階段15の北側に位置する部分であって、かつ第二厚型壁体7の東側に位置する部分は、平面視において東西方向よりも南北方向に長く伸びている。そして、このような第二ポーチ11のうちの南北方向に長い部分の北側には、第二ポーチ11と床面が連続する半屋外空間としてのラウンジ17が設けられている。なお、ラウンジ17の床面も、第二ポーチ11と同様の床タイルによって仕上げられている。
第二ポーチ11とラウンジ17との間の開口部(出入口)には、扉が設けられている。本実施形態において扉は、自動ドアとされている。
【0046】
ラウンジ17は、テナントスペースの従業者と住人が使用する共用スペースとされており、待合室として用いられるだけでなく、住人用スペース又はテナントスペースの前室としても用いられる。
ラウンジ17の奥(北側)には、建物1の玄関21が設けられている。
【0047】
ラウンジ17の西側には、駐車スペースである第一ポーチ10が設けられ、東側には、テナントスペースである大空間室18が設けられている。ラウンジ17と第一ポーチ10との間には、開閉可能なガラス窓を含む複数のガラス窓が設けられた中央第一開口部17a(第一開口部)が形成されている。ラウンジ17と大空間室18との間には、開閉可能なガラス戸と、固定されたガラス壁と、が設けられた中央第二開口部17b(第二開口部)が形成されている。
すなわち、建物1には、当該建物1の1階を東西方向に貫通する連通空間Sが形成されており、この連通空間S内には、西側から、駐車スペースとしての第一ポーチ10、半屋外空間としてのラウンジ17、テナントスペースとしての大空間室18が連続して配置されている。
【0048】
中央第一開口部17aに設けられたガラス窓は、複数の地窓と、その上方に位置する複数の窓と、を備えており、これらの窓のうち少なくとも一つの窓が開閉可能に構成されている。中央第一開口部17aにおける開閉可能な窓は、単に空気の流通だけが可能な程度に開閉するものとしてもよいし、物品の受け渡しが可能な程度に開閉するものとしてもよいし、人の行き来が可能な程度に開閉するものとしてもよい。
中央第二開口部17bに設けられたガラス戸は、複数の折戸を備えている。ただし、これに限られるものではなく、引戸や引き違い戸でもよいし、開き戸でもよい。更には、自動開閉式でもよいし、手動開閉式でもよい。中央第二開口部17bにおけるガラス戸は、人の行き来が可能なものであり、ガラス戸を開け放てば、当然、空気の流通や物品の受け渡しも可能となっている。
【0049】
さらに、ラウンジ17は、2階の天井まで吹き抜けた吹抜部17Vを有している。すなわち、上記の連通空間Sは、東西方向だけでなく、部分的に2階まで連通しており、逆T字型の空間となっている。
【0050】
大空間室18は、建物1における1階中央から東側にかけて幅広に、かつ、南北方向にも長く形成されている。より詳細には、大空間室18は、建物1における間口寸法の半分以上の幅寸法に設定されている。南北方向においては、北側に位置する収納室19を含めると、建物1の南端部から北端部にかけて設けられている。つまり、大空間室18は、建物1の奥行き寸法いっぱいに設けられていることになる。収納室19を除いても、建物1における奥行き寸法の3分の2程度の奥行き寸法に設定されている。したがって、建物1の1階部分に対して大きな割合でテナントスペースを確保することができる。
【0051】
大空間室18の東側の壁には、建物1の東側に位置し、大空間室18と屋外(第二ポーチ11)とを連通する東側開口部18a(第三開口部)が形成されている。また、東側の壁には、東側開口部18aを開閉する窓が設けられており、窓を開けて、大空間室18と第二ポーチ11との間を行き来できるようになっている。なお、大空間室18の東側の壁には、東側開口部18aを開閉する窓としての複数の掃き出し窓と、これら複数の掃き出し窓の上方に位置する高窓と、が設けられている。
東側開口部18aは、第一厚型壁体6の北端部から収納室19の東側に位置する外周壁にかけて幅広に形成されている。
そして、このような東側開口部18aと、西側開口部13a、中央第一開口部17a、中央第二開口部17bは、開口幅が等しく設定されている。さらに、西側開口部13a、中央第一開口部17a、中央第二開口部17b、東側開口部18aは、上端部の高さ位置も等しく設定されている。また、下端部の高さ位置については、西側開口部13aは他よりも上方に位置しているが、中央第一開口部17a、中央第二開口部17b、東側開口部18aは、下端部の高さ位置も等しく設定されている。
【0052】
上記の連通空間Sは、東西方向に並び、かつ互いに平行に配置された各開口部13a,17a,17b,18aと、各開口部13a,17a,17b,18a間に位置する第一ポーチ10、ラウンジ17、大空間室18と、を備えている。そして、上記のように吹抜部17Vを含んで、逆T字型の空間となっている。
【0053】
収納室19は、大空間室18のうち中央第二開口部17bと東側開口部18aとの間に位置するメイン空間の北側に位置し、かつ、建物1背面の東側コーナーに位置している。
この収納室19は、天井高が0.8~1.4メートルに設定された低天井収納空間である。この0.8m~1.4mの天井高とは、人が収納室19に入って、何とか作業ができる最低限の高さを確保するための高さ範囲であり、かつ、このように天井高を必要最小限に抑えることで、建物1の高さが高くなることによって隣接する建物に及ぼす日照減少等の影響を極力少なくすることができる高さ範囲である。
【0054】
大空間室18のうち中央第二開口部17bと東側開口部18aとの間に位置するメイン空間の南側には、第一厚型壁体6側に位置するサブ空間と、第二厚型壁体7側に位置する小部屋20と、が設けられている。
サブ空間は、壁によってメイン空間と区切られない空間である。すなわち、大空間室18は、メイン空間と、このメイン空間と連続するサブ空間と、を有して平面視略L字型に形成されている。なお、サブ空間の南側に位置する壁には、複数の掃き出し窓と、これら複数の掃き出し窓の上方に位置する高窓が設けられた大開口部が形成されている。
小部屋20は、壁20a,20bによって大空間室18におけるメイン空間及びサブ空間と区切られており、大空間室18に付属している。一方の壁20aは、平面視においてL字型に形成され、メイン空間に面するとともに第二厚型壁体7に対向して設けられている。他方の壁20bは、第一厚型壁体6に対向して設けられている。
なお、大空間室18のうちメイン空間の天井は、部分的に天井高の高い折り上げ天井とされており、サブ空間や小部屋20の天井高よりも高く設定されている。
【0055】
大空間室18は、本実施形態においては、テナントスペースとして用いられているが、これに限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、店舗として用いられてもよいし、賃貸住宅として用いられてもよい。
なお、テナントスペースとは、従業者が仕事を行う場所を指し、大空間室18のメイン空間だけでなく、サブ空間、収納室19、小部屋20もテナントスペースに含まれるものとする。
また、大空間室18のメイン空間における北側の壁面には、壁付けの複数の家具が設けられているが、これら複数の家具の間に位置する壁面には鏡18bが設けられている。大空間室18の内部の景色を鏡18bに映し出すことにより、大空間室18を更に広い空間に見せることができる。
【0056】
そして、建物1における1階部分のうち、第一ポーチ10、ラウンジ17、大空間室18よりも北側に位置する領域は、収納室19を除き、住人用スペースとされている。
建物1における1階部分のうち住人用スペースとされた領域には、第一ポーチ10及びラウンジ17の北側に位置する上記の玄関21が設けられている。
【0057】
玄関21は、南北方向よりも東西方向に長く形成されている。そして、玄関21は、第一ポーチ10との間を行き来するための第一玄関開口部21aと、ラウンジ17との間を行き来するための第二玄関開口部21bと、を有する。これら第一玄関開口部21a及び第二玄関開口部21bは、第一ポーチ10及びラウンジ17との間に位置する壁に形成されている。
第一玄関開口部21aには、引戸又は引き違い戸が設けられ、第二玄関開口部21bには引戸が設けられている。
玄関21の床面は、第一ポーチ10の床面よりも上方に位置するとともに、ラウンジ17の床面と連続し、ラウンジ17の床面と同様の床タイルによって仕上げられている。
【0058】
玄関21の西側には宅配ボックス22が設けられている。
宅配ボックス22の北側には、玄関21の北側を回り込むようにしてシューズクローク23が設けられている。
シューズクローク23の北側に位置する外周壁に面する屋外空間には、ライフライン設備として第二雨水タンク設備42が設置されている。第二雨水タンク設備42への雨水の供給は、建物1の屋根から建物1の外壁面に沿って配置される配管を通じて行われる。
【0059】
玄関21の北側であって、かつシューズクローク23の東側には、ホール24が設けられ、このホール24は、東側に伸びている。
そして、ホール24の先には、1.5階及び2階に上がるためのエレベーター25と、1.5階及び2階に上がるための階段26と、エレベーター25及び階段26の裏側(東側)に回り込む収納室27と、が設けられている。収納室27は、開口していない壁を介して上記の収納室19と東西に隣接し、当該収納室19と同様、天井高が0.8~1.4メートルに設定されている。
【0060】
エレベーター25及び階段26を半階上がった位置には、
図3(b)に示すように、トイレ・洗面脱衣所・浴室からなる水廻り室28が設けられている。この水廻り室28は、収納室19の上方に位置している。なお、階段26の踊り場が、収納室27の上方に位置している。
【0061】
エレベーター25及び階段26を更に上がって2階に到達するとホール29があり、ホール29の東側には、二段分の階段を上った位置に主寝室30が設けられている。主寝室30の東側には、ウォークインクローゼット30aが設けられている。
【0062】
ホール29及び主寝室30の南側には、リビングとダイニングとキッチンの機能を一室に併存させた部屋(以下、居室)31が設けられている。居室31は、ホール29との間に設けられた出入口と、主寝室30との間に設けられた出入口と、を有する。
居室31の南側には、上記のバルコニー2及びインナーテラス部9が設けられている。インナーテラス部9は、居室31からバルコニー2側に突出した位置に配置されており、居室31と連続する屋内空間として用いられている。
【0063】
インナーテラス部9の西側に形成された出入口の屋外側には、バルコニー2における第一バルコニー2aが設けられている。インナーテラス部9の東側に形成された出入口の屋外側には、バルコニー2における第二バルコニー2bが設けられている。
第一バルコニー2aは、上記の格子壁部4の内側に位置しており、屋外からの空気を取り込みやすくなっている。なお、格子壁部4に替えて、冷却ルーバー装置を設置してもよいものとする。
また、第一バルコニー2aの西側には、上記の第二厚型壁体7が設けられており、更にその西側には、ドローンの発着場となるドローンポートDPが設けられている。
【0064】
また、ホール29の西側には、部屋32が設けられている。この部屋32は、例えば住人用スペースにおける仕事部屋として用いられている。なお、通信設備等を導入することによってテレワークを行うことも可能となっている。
部屋32とホール29との間に位置する中間領域32aには、トイレ及び洗面台が設けられている。
【0065】
そして、上記のラウンジ17上方における吹抜部17Vは、ポーチ屋根12よりも上方に位置しており、かつ、第一バルコニー2aと居室31と部屋32に囲まれた位置に設けられた状態となっている。
【0066】
吹抜部17Vの西側に位置し、かつポーチ屋根12の上方空間に面して設けられた壁33には、開閉可能なガラス窓を含む複数のガラス窓が設けられた排気用の開口部33a(第五開口部)が形成されている。そして、排気用の開口部33aからは吹抜部17V内の空気を屋外に排出することができるようになっている。
すなわち、ポーチ屋根12の上方である屋外空間と吹抜部17Vとの間に設けられた壁33は、排気用壁33とされている。
【0067】
第一バルコニー2aの北側は、上記の吹抜部17Vとなっている。この吹抜部17Vとの間に設けられた壁34には開口部が形成されており、この開口部には、嵌め殺しの窓が設けられている。すなわち、第一バルコニー2aと吹抜部17Vとの間に設けられた壁34は、ガラス壁34となっている。そのため、第一バルコニー2aからは、ガラス壁34を通じてラウンジ17を見下ろすことができる。
【0068】
居室31の西側は、上記の吹抜部17Vとなっている。この吹抜部17Vとの間に設けられた壁35には開口部が形成されており、この開口部には、嵌め殺しの窓が設けられている。すなわち、居室31と吹抜部17Vとの間に設けられた壁35は、ガラス壁35となっている。そのため、居室31からは、ガラス壁35を通じてラウンジ17を見下ろすことができる。
【0069】
なお、ガラス壁35に採用されたガラスには、透明モードと不透明モードの切り替えを行うことが可能な調光ガラスが採用されている。透明モードにおいては、吹抜部17V及びラウンジ17の様子を視認できるだけでなく、平行する排気用壁33の開口部33aから屋外の様子も視認できる。不透明モードにおいては、ラウンジ17からの視線を遮断したり、居室31で使用されるプロジェクターからの画像を投影したりすることができる。
【0070】
部屋32の南側は、上記の吹抜部17Vとなっている。この吹抜部17Vとの間に設けられた壁36には開口部が形成されており、この開口部には、嵌め殺しの窓が設けられている。部屋32からは、壁36の窓を通じてラウンジ17を見下ろすことができる。
【0071】
なお、本実施形態においては、壁36の開口部には嵌め殺しの窓が設けられるものとしたが、開閉可能な窓が設けられてもよい。これにより、部屋32とラウンジ17との間で人が声を交わしたり、ラウンジの様子を確認しやすくなったりする。また、開閉可能な窓の外(ラウンジ17側)に、例えば螺旋階段や梯子等の昇降手段を設けてもよい。
【0072】
以上の実施形態において、住宅等の建物における厚みの厚い上記の厚型壁体(第一厚型壁体6、第二厚型壁体7、第三厚型壁体8)とは、例えば浸水時における漂流物、強風時における飛来物から建物を保護する機能を発揮する。
このような厚型壁体は、外周壁の一部として、開口を有する外壁(例えば東側開口部18aが形成された壁など)よりも外方に位置して設けられている。
また、厚型壁体は、建物から敷地外に向かって突出し、上記の開口を有する外壁よりも開口が少なく、かつ厚さが厚く形成されている。さらに、平面視においては建物の間口方向と直交する方向に長く形成されている。
なお、本実施形態においては、第一厚型壁体6及び第三厚型壁体8を含む、建物1の東西側面に位置する外周壁(東側開口部18aが形成された壁を除く)が、厚みが厚く形成されている。
また、玄関21周りの壁と、小部屋20の一方の壁20aも、平面視において厚みが厚く形成されている。
【0073】
〔建物1の防災機能について〕
本実施形態における建物1は、第一厚型壁体6と、第二厚型壁体7と、第三厚型壁体8と、を利用した防災機能を備えている。
【0074】
まず、第一厚型壁体6、第二厚型壁体7、第三厚型壁体8の構成について説明する。これら各厚型壁体6,7,8は、側面を構成する複数の側壁部SWと、複数の側壁部SWによって囲まれた位置に形成された内部中空部HPと、をそれぞれ備えている。
側壁部SWは、上記の建築用パネル(建築用壁パネル)によって構成されている。そのため、建物1の各壁との一体性を確保しやすくなっている。
【0075】
建物1正面の東西コーナーに設けられた第一厚型壁体6及び第三厚型壁体8は、開口部が形成されていない。そのため、複数の側壁部SWと内部中空部HPとを備えることにより平断面視においてロ字型に形成されている。
第一厚型壁体6は、1階から屋根の高さまで設けられている。これに伴い、内部中空部HPも、1階から屋根の高さまで形成されている。
また、第三厚型壁体8は、1階から2階床よりも上方に突出する程度の高さに設定されている。これに伴い、内部中空部HPも、1階から2階床の高さまで形成されている。なお、この第三厚型壁体8の上端部は、ポーチ壁13と一体化しており、フラットな屋根面とその周縁部に立設されたパラペット壁とを有する。
ここで、側壁部SWは、単体での厚みが、外周壁のうち厚みの薄い他の壁(例えば東側開口部18aが形成された壁など)と同程度に設定されている。したがって、このような側壁部SWが四方に配置されて平断面視においてロ字型に形成された第一厚型壁体6及び第三厚型壁体8は、上記の外周壁のうち厚みの薄い他の壁に比して、極めて堅牢性に優れている。
【0076】
第二厚型壁体7は、第一厚型壁体6及び第三厚型壁体8に比して南北方向の長さが長く設定されるとともに東西方向の長さも長く設定されている。また、北側面の位置は、各厚型壁体6,7,8共に揃っているため、第二厚型壁体7は、第一厚型壁体6及び第三厚型壁体8よりも建物1の前方(南側)の敷地外に向かって突出した状態となっている。
第二厚型壁体7を構成する側壁部SWの厚みは、第一厚型壁体6及び第三厚型壁体8における側壁部SWと同一である。したがって、第二厚型壁体7の内部中空部HPは、第一厚型壁体6及び第三厚型壁体8における内部中空部HPよりも広く形成されている。
また、第二厚型壁体7の高さは、建物1の中心側に位置する部位(北側部分)が1階から屋根までの高さに設定され、前方に突出している側の部位(南側部分)が1階から屋根の直下までの高さに設定されている。これに伴い、第二厚型壁体7における内部中空部HPは、下階側中空部HP1と、上階側中空部HP2と、を有する。
【0077】
第二厚型壁体7における内部中空部HPには、少なくとも災害時に使用可能なライフライン設備が収納されている。本実施形態では、ライフライン設備として、充電制御装置40と、第一雨水タンク設備41と、が収納されている。
【0078】
充電制御装置40は、充放電可能なバッテリを有する車両との間で相互に電力供給を可能とされた機器であり、図示はしないが、車両に搭載されたバッテリに接続可能な充電ケーブルを有する。
このような充電制御装置40は、図示しない分電盤に接続され、通常時においては、太陽光発電装置や系統電源から電力を受けて車両に充電することができ、非常時(災害時や停電中等)においては車両から電力を受けて家庭内で使用することができる。
そして、本実施形態の充電制御装置40は、下階側中空部HP1に収納されている。
また、このような充電制御装置40が駐車スペースである第一ポーチ10の近傍に配置されることになるので、大規模発電所の電力供給に頼らないマイクログリッドによる周辺地域との間での電力融通が可能となる。
例えば建物1の屋根の面積を広くし、太陽光発電装置の面積を広く確保できれば、多くの電力を得ることができるので、通常時だけでなく、非常時における自然エネルギーの活用を促進し、建物1における災害対応力を向上できる。また、屋根の面積もさることながら、例えば屋根として、南側に面した片流れ屋根等を採用できれば、太陽光発電装置による発電効率を向上できるので好ましい。
【0079】
第一雨水タンク設備41は、通常時及び災害時において貯留した雨水を雑用水や中水として利用するための設備であり、タンク本体41aと、集水パイプと、給水パイプと、を有する。
タンク本体41aは、内部中空部HPのうち下階側中空部HP1に配置されており、図示しない蛇口部やオーバーフロー管を備える。
集水パイプは、内部中空部HPのうち上階側中空部HP2に配置されており、建物1の屋根から雨水を収集してタンク本体41aに送水する。より具体的には、屋根の周囲に取り廻された軒樋44から第一集水器45aや第一呼樋45b、第一竪樋45c等(
図2、
図6参照)を介して集水パイプが雨水を受けることができるようになっている。
給水パイプは、内部中空部HPのうち上階側中空部HP2に配置されており、タンク本体41aに貯留されている雨水を建物1の2階に供給する。より具体的には、給水パイプは、タンク本体41aから建物1の所定箇所(例えば2階の収納部43(後述))にかけて延設されており、当該所定箇所において自動散水装置2cと接続されている。給水パイプの経路中には給水ポンプが配されており、給水ポンプによって、タンク本体41aから給水パイプを介して自動散水装置2cへ送水できるようになっている。
【0080】
第二厚型壁体7には、複数の開口部7a,7b,7cが形成されている。そのうち、第二厚型壁体7の1階部分における西側の側壁部SWに形成された開口部7aは、第二厚型壁体7の内部中空部HPと外部とを連通しており、充電制御装置40及び第一雨水タンク設備41が収納された内部中空部HP(下階側中空部HP1)内を使用する場合に開放される設備用開口部7aとされている。
この設備用開口部7aは、第二厚型壁体7の1階部分における西側の側壁部SWのうち敷地外に向かって突出した部位よりも建物1の中心側に位置している。そして、充電制御装置40は、内部中空部HP(下階側中空部HP1)のうち設備用開口部7aに隣接する位置に配置されている。反対に、第一雨水タンク設備41は、内部中空部HP(下階側中空部HP1)のうち設備用開口部7aから遠い方(敷地外に向かって突出した部位の内部中空部)の位置に配置されている。
設備用開口部7aには扉が設けられており、設備用開口部7aを開閉できるようになっている。なお、扉に替えて、横長のルーバー材が上下に連なる格子壁部を着脱自在に設けてもよい。
【0081】
第二厚型壁体7に形成された複数の開口部7a,7b,7cのうち、開口部7bは、第一バルコニー2aとドローンポートDPとを連通し、側壁部SW及び内部中空部HPを東西方向に貫通するポート用開口部7bとされている。すなわち、ポート用開口部7bは、第二厚型壁体7における2階部分に形成されている。
また、ポート用開口部7bには扉が設けられており、ポート用開口部7bを開閉できるようになっている。
【0082】
第二厚型壁体7に形成された複数の開口部7a,7b,7cのうち、開口部7cは、上記のポート用開口部7bに隣接し、内部中空部HP(上階側中空部HP2)を利用して形成された収納部43の開放部分である収納部用開口部7cとされている。すなわち、収納部用開口部7cも、第二厚型壁体7における2階部分に形成されている。
なお、収納部43と、第二厚型壁体7における上階側中空部HP2は、東西方向に隣接して形成されている。そのため、収納部43から上階側中空部HP2内のメンテナンスを行えるようにしてもよい。
また、収納部用開口部7cには扉が設けられており、収納部用開口部7cを開閉できるようになっている。
【0083】
以上のように構成された第一厚型壁体6、第二厚型壁体7、第三厚型壁体8は、堅牢性に優れるため、例えば浸水時における漂流物、強風時における飛来物から建物1を防護できるとともに、第二厚型壁体7においては、内部中空部HPに収納されたライフライン設備40,41を保護できるようになっている。
【0084】
さらに、本実施形態における建物1は、ライフライン設備として第二雨水タンク設備42を備えている。
【0085】
第二雨水タンク設備42は、通常時及び非常時において貯留した雨水を雑用水や中水として利用するための設備であり、タンク本体42aと、集水パイプと、給水パイプと、を有する。
タンク本体42aは、建物1の北側面に位置する外周壁を挟んでシューズクローク23と隣り合う屋外空間に配置されており、図示しない蛇口部やオーバーフロー管を備える。
集水パイプは、建物1の北側面に位置する外周壁の屋外側の面に配置されており、建物1の屋根から雨水を収集してタンク本体42aに送水する。より具体的には、屋根の周囲に取り廻された軒樋44から第二集水器46aや第二呼樋46b、第二竪樋等(
図2、
図6参照)を介して集水パイプが雨水を受けることができるようになっている。
給水パイプは、建物1の外周壁の屋外側の面等に配置されており、タンク本体42aに貯留されている雨水を建物1の1階に供給する。より具体的には、給水パイプは、タンク本体42aから建物1の所定箇所(例えば1階のポーチ壁13)にかけて延設されており、当該所定箇所において冷却ルーバー装置14と接続されている。給水パイプの経路中には給水ポンプが配されており、給水ポンプによって、タンク本体42aから給水パイプを介して冷却ルーバー装置14へ送水できるようになっている。
【0086】
〔雨水利用について〕
本実施形態における建物1は、雨水を貯留する貯水タンクとして、第一雨水タンク設備41のタンク本体41aと、第二雨水タンク設備42のタンク本体42aと、を備えている。
【0087】
第一雨水タンク設備41のタンク本体41aは、建物1の中心から見て南西の位置にある屋外空間であって、建物1の1階における部屋(ここでは第一ポーチ10を含む)の南側に位置する外周壁(以下「南側の外周壁」という)に面する屋外空間に設置されている。具体的には、第一雨水タンク設備41は、2つのタンク本体41aを有しており、これら2つのタンク本体41aは、南側の外周壁に面する第二ポーチ11上に配置されている。
第二雨水タンク設備42のタンク本体42aは、建物1の中心から見て北西の位置にある屋外空間であって、建物1の1階における部屋の北側に位置する外周壁(以下「北側の外周壁」という)に面する屋外空間に設置されている。具体的には、第二雨水タンク設備42は、3つのタンク本体42aを有しており、これら3つのタンク本体42aは、北側の外周壁に沿って配置されている。
【0088】
すなわち、本実施形態において、建物1は、第一雨水タンク設備41及び第二雨水タンク設備42の2つの雨水タンク設備を備えている。そして、第一雨水タンク設備41のタンク本体41a及び第二雨水タンク設備42のタンク本体42aは、屋外側の面が互いに異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間に設置されている。さらに、屋内空間における奥行方向(南北方向)の中心線CLを境にして、一方側の屋外空間にタンク本体41aが設置されており、他方側の屋外空間にタンク本体42aが設置されている。また、タンク本体41aとタンク本体42aとの間には屋内空間が配されている。
【0089】
例えば、雨水タンク設備を1つだけ備えている場合、その雨水タンク設備が故障すると、貯留されている雨水を利用することができなくなってしまう。これに対し、本実施形態において、建物1は、雨水タンク設備を2つ備えている。したがって、一方の雨水タンク設備が故障して当該一方の雨水タンク設備に貯留されている雨水が利用できなくなっても、他方の雨水タンク設備に貯留されている雨水は利用することができるので、通常時及び非常時において雨水タンク設備から雨水が供給されない不都合を回避することができる。
【0090】
そして、本実施形態においては、第一雨水タンク設備41のタンク本体41aと、第二雨水タンク設備42のタンク本体42aと、が2つの箇所(屋外側の面が互いに異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間)に分かれて設置されている。タンク本体41a及びタンク本体42aが1つの箇所(一の外周壁に面する屋外空間)にまとめて設置されていると、災害が発生した場合に、その影響を受けてタンク本体が全滅してしまって、貯留されている雨水が利用できなくなる可能性がある。具体的には、例えば、タンク本体41a及びタンク本体42aを北側の外周壁に面する屋外空間にまとめて設置する構成の場合には、建物1から見て北の方角にある山が土砂崩れした際に、タンク本体が全滅してしまう可能性がある。本実施形態では、この可能性を低減するために、タンク本体を2つの箇所に分けて設置している。
【0091】
また、タンク本体41a及びタンク本体42aを1つの箇所にまとめて設置する場合、その1つの箇所に5個のタンク本体が設置されることとなり、設置場所が限られる、建物1の外観上の見た目が悪くなる等の問題が生じる。一方、その1つの箇所に設置するタンク本体の個数を少なくすると、多量の雨水を貯留しておくためには、タンク本体を大型化する必要がある。これに対し、本実施形態では、タンク本体を2つの箇所に分けて設置するので、1つの箇所に多数のタンク本体を設置したり、タンク本体を大型化したりすることなく、多量の雨水を貯留しておくことができる。さらに、市街地のように宅地面積や形状が限られ、変形敷地などを宅地として利用する場合には、庭の空きスペースを有効活用することができる。
【0092】
例えば、一の外周壁に面する屋外空間が、建物1の屋外(ただし敷地内)の中で最も災害の影響を受けにくい空間であれば、その空間にタンク本体41a及びタンク本体42aをまとめて設置しても、タンク本体が全滅してしまう可能性は低い。しかしながら、敷地の形状、接道部分の位置、地形等によっては、人目に付く空間(例えば建物1の正面に面する屋外空間)が最も災害の影響を受けにくい空間となることがあり、そのような空間に多数のタンク本体を設置したり、大型のタンク本体を設置したりすると、建物1の外観上の見た目が悪くなる。すなわち、そのような空間にタンク本体を設置する際には、少数のタンク本体を設置したり、小型のタンク本体を設置したりして、タンク本体が目立たないようにすることが望まれる。
【0093】
このように、多量の雨水を貯留することを前提とした場合、タンク本体41a及びタンク本体42aを1つの箇所にまとめて設置すると、災害に強い貯水と、建物1の外観のデザイン性を損なわない貯水と、の両立が困難となることが多い。これに対し、本実施形態では、タンク本体を2つの箇所に分けて設置するので、例えば、当該2つの箇所のうち、一方を災害の影響を考慮して選択し、他方を建物1のデザイン性を考慮して選択することが可能となる。すなわち、タンク本体を2つの箇所に分けて設置することで、多量の雨水を貯留することと、災害が発生しても貯留されている雨水を利用できることと、建物1の外観のデザイン性を損なわないことと、の3つを兼ね備えた貯水を行うことができる。
【0094】
さらに、本実施形態のように、屋内空間における南北方向の中心線CLを境にして、一方側(南側)にタンク本体41aを設置して、他方側(北側)にタンク本体42aを設置すると、より好ましい。屋内空間における南北方向(奥行方向)の中心線CLは、例えば、屋内空間のうち南北方向の長さが最も長い空間(本実施形態の場合、収納室19の北側に位置する外周壁と、大空間室18の南側に位置する外周壁と、の間の空間)における南北方向の中心点を通り、かつ、東西方向(幅方向)に平行な直線である。
また、本実施形態のように、タンク本体41aとタンク本体42aとの間に屋内空間を配置すると、より好ましい。
【0095】
例えば、タンク本体を2つの箇所(屋外側の面が互いに異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間)に分けて設置しても、タンク本体41a及びタンク本体42aが互いに直交する外周壁に面する屋外空間に設置されている場合には、双方が災害の影響を受けて、タンク本体が全滅してしまう可能性がある。具体的には、例えば、東側の外周壁(建物1の1階における部屋の東側に位置する外周壁)に面する屋外空間にタンク本体41aを設置するとともに、北側の外周壁に面する屋外空間にタンク本体42aを設置する構成の場合には、建物1から見て北の方角にある山で土砂崩れが発生した際に、建物1の北側だけでなく、建物1の東側や西側にも影響が及ぶので、タンク本体42aだけなく、タンク本体41aも破損してしまう可能性がある。
【0096】
特に、タンク本体41aの設置箇所とタンク本体42aの設置箇所とが近い場合には、災害の影響を受けてタンク本体が全滅してしまう可能性が高くなる。具体的には、例えば、建物1から見て北の方角にある山で土砂崩れが発生した際には、建物1の北側だけでなく、建物1の東側や西側にも影響が及ぶが、建物1の東側であっても、建物1の北側から遠ざかるほど被害が小さくなる可能性が高い。すなわち、屋内空間における南北方向の中心線CLを境にして南側の方が北側よりも被害が小さくなる可能性が高い。そのため、本実施形態では、屋内空間における南北方向の中心線CLを境にして、南側にタンク本体41aを設置するとともに、北側にタンク本体42aを設置している。これにより、屋内空間における南北方向の中心線CLを境にして、一方側にタンク本体41a及びタンク本体42aを設置して、他方側にタンク本体を設置しない場合と比較して、タンク本体41aとタンク本体42aとが離れて設置されることとなるので、災害の影響を受けてタンク本体が全滅してしまう可能性をより効果的に低減することができる。
【0097】
加えて、本実施形態では、屋外側の面が南の方角を向く外周壁(南側の外周壁)に面する屋外空間にタンク本体41aを設置するとともに、屋外側の面が北の方角を向く外周壁(北側の外周壁)に面する屋外空間にタンク本体42aを設置している。すなわち、タンク本体41a及びタンク本体42aが互いに対向する外周壁に面する屋外空間に設置されており、タンク本体41aとタンク本体42aとの間に屋内空間が配されているので、例えば、建物1から見て北の方角にある山で土砂崩れが発生しても、南側にあるタンク本体41aは、建物1本体によって守られて被害を免れることができる。したがって、本実施形態のように、タンク本体41a及びタンク本体42aの設置位置を、タンク本体41aとタンク本体42aとの間に屋内空間が配置される位置に設定することで、災害が発生しても、タンク本体41a及びタンク本体42aのうち少なくとも一方を建物1本体によって防護することが可能となるので、災害の影響を受けてタンク本体が全滅してしまう可能性をより効果的に低減することができる。
【0098】
ここで、本実施形態において、建物1の屋根は、
図6において一点鎖線で示すように、寄棟屋根とされている。そして、屋根の周囲に取り廻された軒樋44は、屋根の南側及び東側の縁部に設けられる第一軒樋44aと、屋根の北側及び西側の縁部に設けられる第二軒樋44bと、に分割されている。
【0099】
第一軒樋44aには第一集水器45aが取り付けられており、第一軒樋44aによって集められた雨水は、第一集水器45aや第一呼樋45b、第一竪樋45c、第一雨水タンク設備41の集水パイプ等を介して、タンク本体41aに供給される。
第二軒樋44bには第二集水器46aが取り付けられており、第二軒樋44bによって集められた雨水は、第二集水器46aや第二呼樋46b、第二竪樋、第二雨水タンク設備42の集水パイプ等を介して、タンク本体42aに供給される。
なお、第一軒樋44a及び第二軒樋44bは、一体的に形成されていてもよい。
【0100】
通常時には、第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水は、ポーチ壁13に設置されている冷却ルーバー装置14に供給される。冷却ルーバー装置14は、周囲の温度を下げるための装置であるので、主に夏に使用されて、冬には使用されない。したがって、第二雨水タンク設備42の貯水量は、夏に減少しやすく冬に減少しにくい。
また、第二雨水タンク設備42のタンク本体42aは、日当たりの悪い北側に設置されている。したがって、第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水の温度は、夏でも高温になりすぎることがないので、冷却ルーバー装置14による冷却効果を高めることができる。
また、冷却ルーバー装置14で使用した雨水(冷却ルーバー装置14の複数の冷却ルーバー材から垂れた水)は、庭に流してビオトープ等に利用することができる。
なお、通常時には、第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水を、冷却ルーバー装置14への給水に使用することに加えて(あるいは替えて)、1階の花壇部16への給水等、その他の雑用水や中水として使用するようにしてもよい。
【0101】
また、通常時には、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水は、バルコニー2に設置されている自動散水装置2cに供給される。インナーバルコニーなど、大屋根の下などに位置するバルコニーの花壇は雨がかかりにくく、一年を通して散水が必要となる。このため、第一雨水タンク設備41の貯水量は、一日の使用水量は多くないが、一年を通して少しずつ減少する。ただし、夏は降水量が多いため、夏の貯留量が減少しにくい。
また、第一雨水タンク設備41のタンク本体41aは、日当たりの良い南側に設置されているが、第二厚型壁体7の内部中空部HPに収納されている。したがって、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水の温度は、夏でも高温になりすぎることがなく、冬でも低温になりすぎることがないので、年間を通して水やりに適した温度の雨水を自動散水装置2cに供給することができる。
なお、通常時には、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水は、自動散水装置2cへの給水に使用することに加えて(あるいは替えて)、第二厚型壁体7の内部中空部HPを通した配管を通じて、2階のトイレの洗浄水等、その他の雑用水や中水として使用するようにしてもよい。
【0102】
また、非常時には、第一雨水タンク設備41及び第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水は、飲用水として利用することができる。
具体的には、例えば、ポータブル型の浄化装置を、建物1の屋内空間や内部中空部HPに保管しておく。浄化装置の保管場所は、災害の影響を受けにくい1.5階や2階が好ましい。また、浄化装置は、電源に頼らずに雨水をろ過できる手動の浄化装置であることが好ましい。
【0103】
そして、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水を飲用水として利用する場合には、浄化装置を、例えば第一雨水タンク設備41の給水パイプから分岐する配管に接続する。これにより、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水が、浄化装置によってろ過されて、飲用に適した状態となる。
また、第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水を飲用水として利用する場合には、浄化装置を、例えば第二雨水タンク設備42の給水パイプから分岐する配管に接続する。これにより、第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水が、浄化装置によってろ過されて、飲用に適した状態となる。
【0104】
本実施形態において、第一雨水タンク設備41の給水パイプから分岐する配管の給水口(浄化装置と接続する部分)は、上階側中空部HP2を利用して形成された収納部43(あるいはバルコニー2)に配置されているので、1階に設置されているタンク本体41a内の雨水を、2階にいながら利用することができる。したがって、1階にいるときには第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水を飲用水として利用し、2階にいるときには第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水を飲用水として利用するといったような使い分けが可能であるので、非常時に上下階を行き来することなく、雨水タンク設備に貯留されている雨水を飲用水として利用することができる。
【0105】
また、第一雨水タンク設備41の給水パイプから分岐する配管の給水口(浄化装置と接続する部分)と、第二雨水タンク設備42の給水パイプから分岐する配管の給水口(浄化装置と接続する部分)と、は浄化装置に接続されていない状態でも使用可能である。したがって、1階にいるときには第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水を雑用水や中水として利用し、2階にいるときには第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水を雑用水や中水として利用するといったような使い分けも可能であるので、非常時に上下階を行き来することなく、雨水タンク設備に貯留されている雨水を雑用水や中水として利用することもできる。
【0106】
また、本実施形態において、第一雨水タンク設備41のタンク本体41aは1階に設置されているが、タンク本体41aは下階側中空部HP1に収納されており、第一雨水タンク設備41の集水パイプや給水パイプは上階側中空部HP2に収納されている。すなわち、第一雨水タンク設備41は第二厚型壁体7内に収納されている。したがって、1階に影響を与えるような災害が発生しても、第二厚型壁体7によって防護されるので第一雨水タンク設備41は故障しにくい。すなわち、1階が浸水したり土砂で埋まったりして、第二雨水タンク設備42が故障しても、第一雨水タンク設備41は故障しない可能性が高い。さらに、本実施形態においては、前述したように、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水を2階にいながら利用できるので、1階に影響を与えるような災害が発生しても、雨水タンク設備に貯留されている雨水を利用することが可能である。
【0107】
また、本実施形態においては、前述したように、通常時には、第一雨水タンク設備41の貯水量は一日の使用水量は多くないが、一年を通して少しずつ減少し、第二雨水タンク設備42の貯水量は夏に減少しやすく冬に減少しにくい。したがって、夏に災害が発生したときには、主に、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水を利用して、冬に災害が発生したときには、主に、第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水を利用するといったように使い分けることができるので、災害が発生した季節にかかわらず、雨水タンク設備に貯留されている雨水を長期間に亘り利用することが可能である。さらに、地域の降雨特性を踏まえ、夏に降雨が少ない地域では、貯水量が一年を通して少しずつ減少する第一雨水タンク設備41の容量を大きくし、冬に降雨が少ない地域では、貯水量が夏に減少しやすく冬に減少しにくい第二雨水タンク設備42の容量を大きくしておくとよい。
図7に、第一雨水タンク設部41(南側タンク)及び第二雨水タンク設備42(北側タンク)の貯留量(貯水量)の変化の実施例を示す。
図7に示すグラフから、降雨量が少なかった8月上旬から中旬を除いて、実際に、第一雨水タンク設備41(南側タンク)の貯水量は、一日の使用水量は多くないが、一年を通して少しずつ減少し、第二雨水タンク設備42(北側タンク)の貯水量は、夏に減少しやすく冬に減少しにくくなっていることが分かる。このように、通常時における、第一雨水タンク設部41の用途(例えば、バルコニー2の花壇への灌水)と、第二雨水タンク設備42の用途(例えば、冷却ルーバー装置14への給水)と、を異ならせることで、季節に応じて貯水量をコントロール可能としている。
【0108】
なお、第一雨水タンク設備41が有するタンク本体41aの数は、2つに限られるものではなく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
また、第二雨水タンク設備42が有するタンク本体41aの数は、3つに限られるものではなく、1つであってもよいし、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
また、建物1が備える雨水タンク設備の数は、第一雨水タンク設備41及び第二雨水タンク設備42の2つに限られるものではなく、3つ以上であってもよい。地域の降雨特性と用途、屋根の集水面積を踏まえてバランスをとるとよい。
また、例えば、バルコニー2の上方に位置する大屋根の面積を小さくして、バルコニー2の花壇に雨がかかりやすくすることで、自動散水装置2cによる散水量を減らすことができる。これにより、降雨量の少ない地域でも第一雨水タンク設備41の貯水量を確保できるし、第一雨水タンク設備41が有するタンク本体41aの小型化が可能となる。
また、本実施形態では、タンク本体を2つの箇所(屋外側の面が異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間)に分けて設置するようにしたが、これに限られるものではなく、タンク本体を3つ以上の箇所に分けて設置してもよい。タンク本体を3つ以上の箇所に分けて設置する場合には、これら3つ以上の箇所のうち少なくとも2つの箇所が、屋外側の面が異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間であればよく、例えばこれら3つ以上の箇所のすべてが、屋外側の面が異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間であってもよい。
【0109】
また、本実施形態では、建物1の屋根を、寄棟屋根としたが、これに限られるものではない。建物1の屋根は、例えば片流れ屋根であってもよいが、屋根から第一雨水タンク設備41への雨水供給経路と、屋根から第二雨水タンク設備42への雨水供給経路と、の双方の配置が容易となる等の観点から、寄棟屋根、切妻屋根、招き屋根等のような複数の屋根面を有する屋根が好ましい。
また、本実施形態では、第一軒樋44aを、屋根の南側及び東側の縁部に設けられる軒樋とし、第二軒樋44bを、屋根の北側及び西側の縁部に設けられる軒樋としたが、第一軒樋44a及び第二軒樋44bの形状は、これに限られるものではない。例えば、第一軒樋44aを、屋根の南側及び西側の縁部に設けられる軒樋とするとともに、第二軒樋44bを、屋根の北側及び東側の縁部に設けられる軒樋としてもよいし、第一軒樋44aを、屋根の南側の縁部のみに設けられる軒樋とするとともに、第二軒樋44bを、屋根の北側の縁部のみに設けられる軒樋としてもよい。また、第一軒樋44a及び第二軒樋44bの形状は、屋根の形状に応じて適宜変更可能である。
【0110】
無論、非常時にも、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水を、自動散水装置2cへの給水に使用したり、その他の雑用水や中水として使用したりしてもよい。すなわち、非常時にも、通常時と同様、第一雨水タンク設備41の給水パイプから分岐する配管の給水口(浄化装置と接続する部分)を使用しない態様で、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水を利用してもよい。また、通常時に、第一雨水タンク設備41の給水パイプから分岐する配管の給水口(浄化装置と接続する部分)を使用する態様で、第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水を利用することも可能である。
また、非常時にも、第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水を、冷却ルーバー装置14への給水に使用したり、その他の雑用水や中水として使用したりしてもよい。すなわち、非常時にも、通常時と同様、第二雨水タンク設備42の給水パイプから分岐する配管の給水口(浄化装置と接続する部分)を使用しない態様で、第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水を利用してもよい。また、通常時に、第二雨水タンク設備42の給水パイプから分岐する配管の給水口(浄化装置と接続する部分)を使用する態様で、第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水を利用することも可能である。
【0111】
本実施形態によれば、第一外周壁(南側の外周壁)と、屋外側の面が第一外周壁とは異なる方角を向く第二外周壁(北側の外周壁)と、雨水を貯留する第一貯水タンク41a(タンク本体41a)及び第二貯水タンク42a(タンク本体42a)と、を備えており、第一貯水タンク41aは、第一外周壁に面する屋外空間に設置されており、第二貯水タンク42aは、第二外周壁に面する屋外空間に設置されている。
すなわち、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)と第二貯水タンク42a(タンク本体42a)とが2つの箇所(屋外側の面が互いに異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間)に分かれて設置されている。したがって、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとを1つの箇所にまとめて設置する場合と比較して、災害の影響を受けて貯水タンクが全滅してしまう可能性が低いので、災害時等の非常時であっても、地上に設置した貯水タンクから雨水を安定的に供給することができる。
また、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとが2つの箇所に分かれて設置されているので、1つの箇所に多数の貯水タンクを設置したり、貯水タンクを大型化したりすることなく、多量の雨水を貯留しておくことができる。したがって、通常時及び非常時に、貯水タンクから雨水を安定的に供給することができる。
【0112】
なお、本実施形態においては、第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aを互いに対向する外周壁に面する屋外空間に設置するようにしたが、これに限られない。すなわち、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとが2つの箇所(屋外側の面が互いに異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間)に分かれて設置されるという条件を満たせばよいので、例えば、第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aを互いに直交する外周壁に面する屋外空間に設置するようにしてもよい。
また、本実施形態においては、第一貯水タンク41aを、第二ポーチ11の床面に設置するようにしたが、これに限られず、例えば第二貯水タンク42aのように地面に直接設置してもよい。また、本実施形態において、第一貯水タンク41aは、1階に設置されているが、1階よりも上階のフロア(屋上を除く)に設置してもよい。すなわち、第一貯水タンク41aは、地上(地面から住宅屋根までの間)に設置されていればよい。
また、本実施形態においては、第二貯水タンク42aを、地面に直接設置するようにしたが、これに限られず、例えば第一貯水タンク41aのように、少なくとも上部が地面から露出する地中埋設物の上面に設置してもよい。また、本実施形態において、第二貯水タンク42aは、1階に設置されているが、1階よりも上階のフロア(屋上を除く)に設置してもよい。すなわち、第二貯水タンク42aは、地上(地面から住宅屋根までの間)に設置されていればよい。
【0113】
また、本実施形態によれば、屋内空間における奥行方向(南北方向)の中心線CLを境にして一方側に第一貯水タンク41a(タンク本体41a)が設置されて他方側に第二貯水タンク42a(タンク本体42a)が設置されているので、中心線CLを境にして一方側に第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aを設置して他方側に貯水タンクを設置しない場合と比較して、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとが離れて設置されることとなる。したがって、災害の影響を受けて貯水タンクが全滅してしまう可能性をより効果的に低減することができるので、災害時等の非常時であっても、地上に設置した貯水タンクから雨水をより安定的に供給することが可能となる。
【0114】
なお、本実施形態においては、第一貯水タンク41aを南側の外周壁に面する屋外空間に設置するとともに第二貯水タンク42aを北側の外周壁に面する屋外空間に設置するようにしたが、これに限定されない。例えば、第一貯水タンク41aを東側の外周壁に面する屋外空間のうちの南寄りの位置に設置するとともに、第二貯水タンク42aを西側の外周壁(建物1の1階における部屋(ここでは第一ポーチ10を含む)の西側に位置する外周壁)に面する屋外空間のうちの北寄りの位置に設置してもよく、この場合も、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとが2つの箇所(屋外側の面が互いに異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間)に分かれて設置されるという条件と、中心線CLを境にして南側に第一貯水タンク41aが設置されて北側に第二貯水タンク42aが設置されるという条件と、の双方を満たすこととなる。
【0115】
また、中心線CLを境にして、南側に第一貯水タンク41aを設置するとともに、北側に第二貯水タンク42aを設置するようにしたが、無論、逆でもよい。すなわち、中心線CLを境にして、北側に第一貯水タンク41aを設置するとともに、南側に第二貯水タンク42aを設置するようにしてもよい。
また、屋内空間における幅方向(東西方向)の中心線を境にして、一方側に第一貯水タンク41aを設置して、他方側に第二貯水タンク42aを設置するようにしてもよい。例えば、第二厚型壁体7は屋内空間における幅方向の中心線よりも西側にあるので、第二厚型壁体7内に第一貯水タンク41aを収納する構成において、第二貯水タンク42aを、北側の外周壁を挟んで収納室19と隣り合う屋外空間や、東側の外周壁に面する屋外空間に設置することで、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとが2つの箇所(屋外側の面が互いに異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間)に分かれて設置されるという条件と、屋内空間における幅方向(東西方向)の中心線を境にして一方側(西側)に第一貯水タンク41aが設置されて他方側(東側)に第二貯水タンク42aが設置されるという条件と、の双方を満たすこととなる。
【0116】
また、本実施形態によれば、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)と第二貯水タンク42a(タンク本体42a)との間に屋内空間が配されているので、災害が発生して、第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aのうち一方が破損しても、他方は建物1本体によって防護されて破損する可能性が低い。したがって、災害の影響を受けてタンク本体が全滅してしまう可能性をより効果的に低減することができるので、災害時等の非常時であっても、地上に設置した貯水タンクから雨水をより安定的に供給することが可能となる。
【0117】
なお、本実施形態では、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとが2つの箇所(屋外側の面が互いに異なる方角を向く外周壁に面する屋外空間)に分かれて設置されるという第一条件と、屋内空間における幅方向又は奥行方向の中心線を境にして一方側に第一貯水タンク41aが設置されて他方側に第二貯水タンク42aが設置されるという第二条件と、第一貯水タンク41aと第二貯水タンク42aとの間に屋内空間が配されるという第三条件と、の3つの条件すべてを満たしているが、これに限られず、少なくとも第一条件を満たせばよい。例えば、本実施形態では、第一ポーチ10は屋内空間であり第二ポーチ11は屋外空間であるが、本実施形態とは異なり、第一ポーチ10も屋外空間である場合(例えばポーチ壁13が設けられていない場合)には、第一ポーチ10に貯水タンクを設置することも可能である。具体的には、第一ポーチ10が屋外空間である場合(例えばポーチ壁13が設けられていない場合)には、例えば、当該第一ポーチ10に第一貯水タンク41aを設置するとともに、北側の外周壁に面する屋外空間に第二貯水タンク42aを設置するようにしてもよく、その際、第一貯水タンク41aは、上記の第一条件と上記の第二条件と上記の第三条件との3つすべてを満たす位置(第一ポーチ10のうち中心線CLよりも南側の位置)に設置してもよいし、上記の第一条件及び上記の第三条件を満たすが上記の第二条件は満たさない位置(第一ポーチ10のうち中心線CLよりも北側の位置)に設置してもよい。
【0118】
また、本実施形態によれば、建物1は、第一フロア(1階)と、当該第一フロアよりも上階の第二フロア(2階)と、を有する複数階建ての建物であり、第二フロアには第一貯水タンク41a(タンク本体41a)に貯留されている雨水が供給され、第一フロアには第二貯水タンク42a(タンク本体42a)に貯留されている雨水が供給されるので、断水中等の非常時に、上下階を行き来することなく、貯水タンクに貯留されている雨水を雑用水や中水、また浄化して飲用水等として利用することができる。
【0119】
なお、建物1は、2階建ての建物に限られるものではなく、3階以上建ての建物であってもよい。また、第一フロアは1階に限られるものではないし、第二フロアは2階に限られるものではなく、例えば建物1が3階建ての建物である場合に、第一フロアを1階として第二フロアを3階としてもよいし、第一フロアを2階として第二フロアを3階としてもよい。また、第二フロアは屋上であってもよい。
また、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)に貯留されている雨水を第二フロアに供給して、第二貯水タンク42a(タンク本体42a)に貯留されている雨水を第一フロアに供給するようにしたが、その逆であってもよい。すなわち、第一貯水タンク41aに貯留されている雨水を第一フロアに供給して、第二貯水タンク42aに貯留されている雨水を第二フロアに供給するようにしてもよい。また、第一貯水タンク41aに貯留されている雨水と、第二貯水タンク42aに貯留されている雨水と、を同じフロアに供給するようにしてもよい。
【0120】
また、本実施形態によれば、第一外周壁(南側の外周壁)と一体的に設けられ、かつ前記第一外周壁よりも厚みが厚く形成された厚型壁体7(第二厚型壁体7)を備えており、厚型壁体7は、当該厚型壁体7の側面を構成する複数の側壁部SWと、複数の側壁部SWによって囲まれた位置に形成された内部中空部HPと、を備えており、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)は、内部中空部HPに収納されている。
すなわち、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)が厚型壁体7(第二厚型壁体7)内に収納されているので、災害が発生しても、第一貯水タンク41aを厚型壁体7によって防護することができる。したがって、災害の影響を受けてタンク本体が全滅してしまう可能性をより効果的に低減することができるので、災害時等の非常時であっても、地上に設置した貯水タンクから雨水をより安定的に供給することが可能となる。
また、第一貯水タンク41aは、厚型壁体7内に収納されているので、外気温の影響を受けにくい。したがって、第一貯水タンク41aに貯留されている雨水は、夏に高温になりすぎることも、冬に低温になりすぎることもないので、温度調整(冷却や加熱)することなく利用することが可能である。
なお、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)は、厚型壁体7(第二厚型壁体7)内に収納された状態で第一外周壁に面する屋外空間に設置されるものに限られず、例えば、第二貯水タンク42a(タンク本体42a)のように、露出した状態で第一外周壁に面する屋外空間に設置されていてもよい。
【0121】
また、本実施形態によれば、第二外周壁(北側の外周壁)に面する屋外空間は、第一外周壁(南側の外周壁)に面する屋外空間よりも日当たりが悪い。すなわち、第二貯水タンク42a(タンク本体42a)が設置される屋外空間は、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)が設置される屋外空間よりも日当たりの悪い。したがって、第二貯水タンク42aに貯留されている雨水は、夏に高温になりすぎることがないので、温度調整(冷却)することなく利用することが可能である。
なお、第二貯水タンク42a(タンク本体42a)は、露出した状態で第二外周壁に面する屋外空間に設置されるものに限られず、例えば、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)のように、収納された状態で第二外周壁に面する屋外空間に設置されていてもよい。
【0122】
また、本実施形態によれば、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)の貯水量と、第二貯留タンク42a(タンク本体42a)の貯水量と、を季節(具体的には通常時における雨水の利用用途や地域の降雨特性)に応じてコントロール可能であるので(
図7参照)、災害が発生しても、その災害が発生した季節にかかわらず、貯水タンクから雨水を長期間に亘り安定的に供給することが可能である。
【0123】
〔参考例〕
以下、参考例について説明する。以下に挙げる参考例は、例えば部分的に構成を抽出するなどして可能な限り上述の実施形態と組み合わせてもよい。また、以下の参考例において、上述の実施形態と共通する要素については、説明を省略又は簡略する。
【0124】
図8及び
図9は、本参考例の建物1における軒樋44を説明する図である。
本参考例において、軒樋44は、第一軒樋44aと第二軒樋44bとに分割されていない。そして、軒樋44の内部(雨水の流路)のうち、南側の流路と東側の流路との間には第一切替片47aが、南側の流路と西側の流路との間には第二切替片47bが、北側の流路と東側の流路との間には第三切替片47cが、北側の流路と西側の流路との間には第四切替片47dが、設けられている。
【0125】
切替片47a,47b,47c,47dは、例えば長尺方向の一端部を軸として回動可能に、軒樋44の内部に設けられている。
第一切替片47aは、回動することで、軒樋44内を流れる雨水のルートのうち、東側から南側へのルートを開閉可能となっている。
図8には、東側から南側へのルートを開放する開状態の第一切替片47aを示している。
また、第二切替片47bは、回動することで、軒樋44内を流れる雨水のルートのうち、西側から南側へのルートを開閉可能となっている。
図8には、西側から南側へのルートを閉塞する閉状態の第二切替片47bを示している。
また、第三切替片47cは、回動することで、軒樋44内を流れる雨水のルートのうち、東側から北側へのルートを開閉可能となっている。
図8には、東側から北側へのルートを閉塞する閉状態の第三切替片47cを示している。
また、第四切替片47dは、回動することで、軒樋44内を流れる雨水のルートのうち、西側から北側へのルートを開閉可能となっている。
図8には、西側から北側へのルートを開放する開状態の第四切替片47dを示している。
【0126】
切替片47a,47b,47c,47dの回動は、図示しない制御装置によって制御されている。
本参考例においては、第一雨水タンク設備41に、当該第一雨水タンク設備41の貯水量(貯水残量)を検出するセンサーが設けられているとともに、第二雨水タンク設備42に、当該第二雨水タンク設備42の貯水量(貯水残量)を検出するセンサーが設けられている。上記の制御装置は、これらのセンサーによるセンシング結果を監視しており、そのセンシング結果に応じて、切替片47a,47b,47c,47dの動作をコントロールする。
【0127】
具体的には、上記の制御装置は、第一雨水タンク設備41の貯水量である南側貯水量が目標量以上であるか否か判断するとともに、第二雨水タンク設備42の貯水量である北側貯水量が目標量以上であるか否か判断する。
例えば、第一雨水タンク設備41が有する2つのタンク本体41aの貯水量の合計が所定の第一閾値以上である場合に、南側貯水量が目標量以上であると判断し、第二雨水タンク設備42が有する3つのタンク本体42aの貯水量の合計が所定の第二閾値以上である場合に、北側貯水量が目標量以上であると判断する。なお、第一閾値と第二閾値とは、同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
あるいは、第一雨水タンク設備41が有する2つのタンク本体41aの中に貯水量が所定の第三閾値未満のタンク本体41aがない場合に、南側貯水量が目標量以上であると判断し、第二雨水タンク設備42が有する3つのタンク本体42aの中に貯水量が所定の第四閾値未満のタンク本体42aがない場合に、北側貯水量が目標量以上であると判断する。なお、第三閾値と第四閾値とは、同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0128】
そして、上記の制御装置は、南側貯水量が目標量以上であり、かつ北側貯水量が目標量以上であると判断した場合と、南側貯水量が目標量以上でなく、かつ北側貯水量が目標量以上でないと判断した場合と、の双方においては、例えば
図8に示すように、第一切替片47a及び第四切替片47dが開状態となり、第二切替片47b及び第三切替片47cが閉状態となるように、切替片47a,47b,47c,47dを回動させる。これにより、軒樋44の北側部分及び東側部分で受けた雨水が第一集水器45a等を介して第一雨水タンク設備41へと供給されるとともに、軒樋44の南側部分及び西側部分で受けた雨水が第二集水器46a等を介して第二雨水タンク設備42へと供給されるので、第一雨水タンク設備41に供給される雨水の量と、第二雨水タンク設備42に供給される雨水の量と、がほぼ同量となる。なお、この場合、第一切替片47a及び第四切替片47dが閉状態となり、第二切替片47b及び第三切替片47cが開状態となるように、切替片47a,47b,47c,47dを回動させてもよいし、あるいは、切替片47a,47b,47c,47dが開状態となるように、切替片47a,47b,47c,47dを回動させてもよい。
【0129】
また、上記の制御装置は、南側貯水量が目標量以上であり、かつ北側貯水量が目標量以上でないと判断した場合においては、例えば
図9(a)に示すように、第一切替片47a及び第二切替片47bが閉状態となり、第三切替片47c及び第四切替片47dが開状態となるように、切替片47a,47b,47c,47dを回動させる。これにより、軒樋44の北側部分で受けた雨水が第一集水器45a等を介して第一雨水タンク設備41へと供給されるとともに、軒樋44の南側部分、東側部分及び西側部分で受けた雨水が第二集水器46a等を介して第二雨水タンク設備42へと供給されるので、第二雨水タンク設備42に供給される雨水の量が、第一雨水タンク設備41に供給される雨水の量よりも多くなる。これにより、第一雨水タンク設備41に供給される雨水の量と、第二雨水タンク設備42に供給される雨水の量と、がほぼ同量となる場合(例えば
図8に示す場合)に比べて、北側貯水量(第二雨水タンク設備42の貯水量)が目標量に達するまでの時間を短縮することができる。
【0130】
また、上記の制御装置は、南側貯水量が目標量以上でなく、かつ北側貯水量が目標量以上であると判断した場合においては、例えば
図9(b)に示すように、第一切替片47a及び第二切替片47bが開状態となり、第三切替片47c及び第四切替片47dが閉状態となるように、切替片47a,47b,47c,47dを回動させる。これにより、軒樋44の北側部分、東側部分及び西側部分で受けた雨水が第一集水器45a等を介して第一雨水タンク設備41へと供給されるとともに、軒樋44の南側部分で受けた雨水が第二集水器46a等を介して第二雨水タンク設備42へと供給されるので、第一雨水タンク設備41に供給される雨水の量が、第二雨水タンク設備42に供給される雨水の量よりも多くなる。これにより、第一雨水タンク設備41に供給される雨水の量と、第二雨水タンク設備42に供給される雨水の量と、がほぼ同量となる場合(例えば
図8に示す場合)に比べて、南側貯水量(第一雨水タンク設備41の貯水量)が目標量に達するまでの時間を短縮することができる。
【0131】
本参考例によれば、樋44(軒樋44)を通る雨水のルートを、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)へのルートと、第二貯水タンク42a(タンク本体42a)へのルートと、の間で切り替えることが可能である。したがって、第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aの貯水量を調整できるので、通常時及び非常時に、貯水タンクから雨水を安定的に供給することができる。
【0132】
また、本参考例によれば、第一貯水タンク41a(タンク本体41a)及び第二貯水タンク42a(タンク本体42a)の貯水量(貯水残量)に基づいて、樋44(軒樋44)を通る雨水のルートを切り替えることが可能である。したがって、例えば、第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aのうち一方の貯水量が十分であるのに対し他方の貯水量が十分でない場合には、当該他方へ集中して雨水が供給されるように樋44を通る雨水のルートを切り替えることができるので、通常時及び非常時に、貯水タンクから雨水を安定的に供給することができる。
なお、本参考例では、第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aの貯水量に基づいて、樋44を通る雨水のルートを切り替えるようにしたが、例えば、第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aにおける雨水の利用状況に基づいて、樋44を通る雨水のルートを切り替えるようにしてもよい。具体的には、例えば、第一雨水タンク設備41に、当該第一雨水タンク設備41に貯留されている雨水の利用状況(利用頻度や利用量等)を検出するセンサーを設けるとともに、第二雨水タンク設備42に、当該第二雨水タンク設備42に貯留されている雨水の利用状況(利用頻度や利用量等)を検出するセンサーを設けて、制御装置によって、これらのセンサーによるセンシング結果を監視して、そのセンシング結果に応じて、切替片47a,47b,47c,47dの動作をコントロールするようにしてもよい。これにより、例えば、第一貯水タンク41a及び第二貯水タンク42aのうち一方に貯留されている雨水よりも他方に貯留されている雨水の方が利用頻度や利用量が多い場合には、当該他方へ集中して雨水が供給されるように樋44を通る雨水のルートを切り替えることができるので、通常時及び非常時に、貯水タンクから雨水を安定的に供給することが可能となる。
【符号の説明】
【0133】
1 建物
7 第二厚型壁体:厚型壁体
41 第一雨水タンク設備:第一設備
41a タンク本体:第一貯水タンク
42 第二雨水タンク設備:第二設備
42a タンク本体:第二貯水タンク
44 軒樋:樋
47a 第一切替片:切替手段
47b 第二切替片:切替手段
47c 第三切替片:切替手段
47d 第四切替片:切替手段
CL 中心線
HP 内部中空部
SW 側壁部