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特許7369316コンクリートを認証コードとする、識別システムおよび識別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】コンクリートを認証コードとする、識別システムおよび識別方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20231018BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
G06T7/00 610
G06T7/00 300F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023027992
(22)【出願日】2023-02-27
【審査請求日】2023-04-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591121111
【氏名又は名称】株式会社安部日鋼工業
(73)【特許権者】
【識別番号】399041158
【氏名又は名称】西日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田部 貴憲
(72)【発明者】
【氏名】足立 伸朗
(72)【発明者】
【氏名】宮島 朗
(72)【発明者】
【氏名】石井 豪
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 奈々
(72)【発明者】
【氏名】出渕 弘
(72)【発明者】
【氏名】武藤 大喜
【審査官】▲広▼島 明芳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-176923(JP,A)
【文献】国際公開第2022/244357(WO,A1)
【文献】特開2021-149592(JP,A)
【文献】特開2021-124933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00 - 7/90
G06V 10/00 - 20/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製品又はコンクリート構造物の表面に露出している骨材の情報を認証コードに用いる識別システムであって、
コンクリート製品又はコンクリート構造物の骨材が露出している箇所である直径100mm以下の骨材露出面を撮像して得られた骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行った骨材露出面検出用ニューラルネットワークを備えており、入力画像に含まれる直径100mm以下の骨材露出面の位置を前記骨材露出面検出用ニューラルネットワークによって推定する骨材露出面位置推定部と、
前記骨材露出面位置推定部によって推定された直径100mm以下の骨材露出面の位置を特定して、前記入力画像から骨材露出面画像を抽出する骨材露出面画像抽出部と、
複数の骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行った骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを備えており、入力された骨材露出面画像の特徴量を前記骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークによって取得する骨材露出面画像特徴量取得部と、
照合先となる一以上のコンクリート製品又はコンクリート構造物の骨材露出面画像の特徴量とアクセス情報を記憶する記憶部と、
照合元となるコンクリート製品又はコンクリート構造物の骨材露出面画像の特徴量を入力して、照合先の前記骨材露出面画像の前記特徴量と照合し、同一であるか否かの判定結果を出力する照合部と、
前記照合部が、照合元の前記骨材露出面画像と同一であると判定した骨材露出面画像が照合先に存在する場合に、前記記憶部から照合先の前記骨材露出面画像に対応する前記アクセス情報を読み出すアクセス情報読出部と、
を備えている識別システム。
【請求項2】
前記骨材露出面画像特徴量取得部が、前記骨材露出面の前記特徴量として特徴ベクトルを取得し、
前記照合部が、前記骨材露出面画像の特徴ベクトルに基づいて、照合元の前記骨材露出面画像と照合先の前記骨材露出面画像の類似度を算出することを特徴とする請求項1記載の識別システム。
【請求項3】
前記骨材露出面画像に、セメントペーストが露出した部分と前記骨材が露出した部分とが撮像されていることを特徴とする請求項1記載の識別システム。
【請求項4】
前記骨材露出面検出用ニューラルネットワークの機械学習に用いる学習データは、骨材露出面画像の中の骨材露出面を囲むマークが追加された画像であることを特徴とする請求項1記載の識別システム。
【請求項5】
コンクリート製品又はコンクリート構造物の表面に露出している骨材の情報を認証コードに用いる識別方法であって、
照合先となる複数のコンクリート製品又はコンクリート構造物の直径100mm以下の骨材露出面を撮像した入力画像を用いて、骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行った骨材露出面検出用ニューラルネットワークを用いて、前記入力画像に含まれる直径100mm以下の骨材露出面の位置を推定する骨材露出面位置推定ステップと、
前記骨材露出面位置推定ステップによって推定された直径100mm以下の骨材露出面の位置を特定して、前記入力画像から骨材露出面画像を抽出する骨材露出面画像抽出ステップと、
複数の骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行った骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを用いて、入力された骨材露出面画像の特徴量を取得する骨材露出面画像特徴量取得ステップと、
前記骨材露出面画像の特徴量を、記憶する記憶ステップと、
前記骨材露出面画像に対応するアクセス情報を登録する登録ステップと、
を実行することにより、照合先の骨材露出面画像データベースを作成し、
照合元となるコンクリート製品又はコンクリート構造物の骨材露出面画像を入力し、前記骨材露出面位置推定ステップと、前記骨材露出面画像抽出ステップと、前記骨材露出面画像特徴量取得ステップとを行うことにより、照合元の骨材露出面画像の特徴量を抽出し、
照合元となる骨材露出面画像の特徴量を前記骨材露出面画像データベースの前記特徴量と照合し、
照合元の前記骨材露出面画像と同一であると判定された骨材露出面画像が骨材露出面画像データベースに存在する場合に、照合先の前記骨材露出面画像に対応するアクセス情報を出力することを特徴とする識別方法。
【請求項6】
コンクリート製品又はコンクリート構造物の表面を、研磨、切断、削り出し、薬品による溶解のいずれか一つ又は複数の処理を行って、一以上の骨材が露出している直径100mm以下の骨材露出面を形成する骨材露出面形成ステップを更に備えることを特徴とする請求項5に記載の識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製品又はコンクリート構造物のトレーサビリティ(追跡可能性)を確保するための認証技術と識別技術に関する。特に、本発明は、コンクリート製品やコンクリート構造物の表面に露出している骨材の形状、大きさ、色調、凹凸、および配置といった、骨材から得られる情報を認証コードとして用いる識別システム、識別方法、および識別プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート造りの製品又はコンクリート構造物は耐久性が高く、近年では、耐用期間を100年以上として設計されるものがある。しかしながら、建設後の保守が適切に行われなかった場合には、コンクリートに変状が生じ、設計耐用期間前に使用できなくなる恐れがある。このため、コンクリート製品やコンクリート構造物においては、製造や建設後の維持管理が極めて重要である。たとえば平成26年7月には、トンネル、橋その他の道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物について、道路管理者が適切な点検と保守を行うことの基本が平成26年国土交通省令告示第426号に示されている。
【0003】
現在、道路等の施設の点検保守を行う各自治体や団体では、点検保守の対象数が増加するのに対して、点検保守を行う人員が不足する傾向にある。道路等の点検保守が不十分な状態が続くと、道路の不具合に伴う通行止めが必要となるといった、近隣住民の生活に支障をきたす悪影響が懸念される。このため、確実で効率的な点検保守のための技術が求められている。
【0004】
コンクリート製品又はコンクリート構造物の点検保守に変状が確認されたときには、変状の要因を特定することを目的として、製造情報や維持管理記録等の確認を行う。ところが、これらの記録類は、原材料メーカー、製造業者、施工業者、又は維持管理者など製品や構造物に関わった者ごとに保有されていることがあって、情報の所在が容易にわからないことがある。また、保管先で記録が適切に管理されていない場合には、変状の要因特定に必要なデータの収集に非常に時間がかかったり、十分な情報が得られない場合がある。
【0005】
このような現状に対し、近年、製品又は構造物といった管理対象物の原材料情報、製造工程の情報、および完成品の維持管理の記録等をデータベースとして記録し、この記録を管理対象物と紐づけして対応関係を明確にするトレーサビリティツールが注目されている。トレーサビリティツールを使用することによって、管理対象物に関連するデータの蓄積、管理、抽出といった作業が容易となる。
【0006】
管理対象物のトレーサビリティを確保するには、第一に、個々の管理対象物を正確に特定するための識別技術が必要となる。特許文献1、特許文献2、および特許文献3には、m×n(m,nは1以上の正数)にセルが配列されてなる二次元コードであって、セルと背景に異なる色を配置して、色の組み合わせに対応させた情報を伝達する技術が開示されている。特許文献1~3で開示されている色情報を含む二次元コードは、シールに表示してコンクリート製品又はコンクリート構造物に貼り付け、識別コードとして利用することができる。
【0007】
特許文献4および特許文献5には、生コンクリートの中に、製造情報を記憶した記憶媒体を埋め込み、硬化後も記憶媒体から情報を読み出す技術が開示されている。特許文献6には、情報を記憶したICタグをコンクリート製品の表面に固定する技術が開示されている。特許文献7には、情報を記憶したICタグをコンクリート製品の内部に埋設する技術が開示されている。特許文献8には、ICアセンブリとアンテナをコンクリート製品の中に埋め込む技術が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1~3の色情報を含む二次元コードのシールは、条件によっては数年で退色し、判読が困難となる可能性がある。また、記憶媒体やICタグは、コンクリート製品の表面に取り付けた場合であっても埋め込んだ場合であっても、耐久性と信頼性に課題がある。コンクリート製品又はコンクリート構造物のトレーサビリティを保証するためには、通常は屋外環境下で少なくとも10年以上の耐用期間が必要であり、電磁的な記憶媒体を使用した場合には、耐久性の保証が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4435851号公報
【文献】特許第4435854号公報
【文献】特許第4499825号公報
【文献】特開2006-145385号公報
【文献】特開2011-258072号公報
【文献】特開2007-72868号公報
【文献】特開2007-224654号公報
【文献】特開2008-507925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
製品や構造物等の管理対象物を長期間点検保守していくために、個々の管理対象物ごとに情報を管理して追跡可能とするトレーサビリティツールが必要とされている。トレーサビリティの確保には、第一に、管理対象物を正確に特定し、認証することで、管理対象物に関する情報に誤りなくアクセスする必要がある。しかしながら、コンクリート製品やコンクリート構造物は、他の物品と比較して著しく耐用年数が長くしかも屋外に設置されることが多い。そこで、コンクリートの耐用年数と同等以上の期間に亘って管理対象物を特定可能とする識別技術が求められている。
【0011】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであって、コンクリートの耐用年数と同等以上の期間に亘って、コンクリート製品やコンクリート構造物を正確に特定して識別することのできる識別システム、識別方法、および識別プログラムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の識別システムは、コンクリート製品又はコンクリート構造物の表面に露出している骨材の情報を認証コードに用いる識別システムである。識別システムは、コンクリート製品又はコンクリート構造物の骨材が露出している箇所である直径100mm以下の骨材露出面を撮像し、得られた骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行った骨材露出面検出用ニューラルネットワークを備えており、入力画像に含まれる直径100mm以下の骨材露出面の位置を骨材露出面検出用ニューラルネットワークによって推定する骨材露出面位置推定部と、骨材露出面位置推定部によって推定された直径100mm以下の骨材露出面の位置を特定して、入力画像から骨材露出面画像を抽出する骨材露出面画像抽出部と、複数の骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行った骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを備えており、入力された骨材露出面画像の特徴量を骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークによって取得する骨材露出面画像特徴量取得部と、照合先となる一以上のコンクリート製品又はコンクリート構造物の骨材露出面画像の特徴量とアクセス情報を記憶する記憶部と、照合元となるコンクリート製品又はコンクリート構造物の骨材露出面画像の特徴量を入力して、照合先の骨材露出面画像の特徴量と照合し、同一であるか否かの判定結果を出力する照合部と、照合部が、照合元の骨材露出面画像と同一であると判定した骨材露出面画像が照合先に存在する場合に、記憶部から照合先の骨材露出面画像に対応するアクセス情報を読み出す読出部と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の識別システムは、骨材露出面画像特徴量取得部が、骨材露出面の特徴量として特徴ベクトルを取得し、照合部が、骨材露出面画像の特徴ベクトルに基づいて、照合元の骨材露出面画像と照合先の骨材露出面画像の類似度を算出することが好ましい。
【0014】
本発明の識別システムが認証に用いる骨材露出面画像には、セメントペーストが露出した部分と骨材が露出した部分とが撮像されていることが好ましい。
【0015】
なお、本発明の識別システムは、骨材露出面として、コンクリート表面の微細な気泡、模様、および傷などを含む面であれば骨材が表面に露出していなくとも識別画像に用いることができる。
【0016】
本発明の識別システムが骨材露出面検出用ニューラルネットワークの機械学習に用いる学習データは、骨材露出面画像の中の骨材露出面を囲むマークが追加された画像であることが好ましい。
【0017】
本発明の識別方法は、コンクリート製品又はコンクリート構造物の表面に露出している骨材の情報を認証コードに用いる識別方法である。
本発明の識別方法は、
照合先となる複数のコンクリート製品又はコンクリート構造物の直径100mm以下の骨材露出面を撮像した入力画像を用いて、
骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行った骨材露出面検出用ニューラルネットワークを用いて、前記入力画像に含まれる直径100mm以下の骨材露出面の位置を推定する骨材露出面位置推定ステップと、
骨材露出面位置推定ステップによって推定された直径100mm以下の骨材露出面の位置を特定して、前記入力画像から骨材露出面画像を抽出する骨材露出面画像抽出ステップと、
複数の骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行った骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを用いて、入力された骨材露出面画像の特徴量を取得する骨材露出面画像特徴量取得ステップと、
骨材露出面画像の特徴量を、記憶する記憶ステップと、
骨材露出面画像に対応するアクセス情報を登録する登録ステップと、
を実行することにより、照合先の骨材露出面画像データベースを作成する。
さらに本発明の識別方法は、
照合元となるコンクリート製品又はコンクリート構造物の骨材露出面画像を入力し、骨材露出面位置推定ステップと、骨材露出面画像抽出ステップと、骨材露出面画像特徴量取得ステップとを行うことにより、照合元となる骨材露出面画像の特徴量を抽出し、
照合元となる骨材露出面画像の特徴量を骨材露出面画像データベースの特徴量と照合し、
照合元の骨材露出面画像と同一であると判定された骨材露出面画像が骨材露出面画像データベースに存在する場合に、照合先の骨材露出面画像に対応するアクセス情報を出力することを特徴とする。
【0018】
本発明の識別方法は、コンクリート製品又はコンクリート構造物の表面を、研磨、切断、削り出し、薬品による溶解のいずれか一つ又は複数の処理を行って、一以上の骨材が露出している直径100mm以下の骨材露出面を形成する骨材露出面形成ステップを更に備えることが好ましい。
【0019】
(削除)
【0020】
本発明の識別システム、識別方法、および識別プログラムによって識別されるコンクリート製品又はコンクリート構造物表面を、研磨、切断、削り出し、薬品による溶解のいずれか一つ又は複数の処理を行うことによって骨材を露出させた骨材露出面を備えており、前記骨材露出面を認証コードとして使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の識別システム、識別方法、および識別プログラムは、管理対象物であるコンクリート製品又はコンクリート構造物自体の表面の一部を認証コードとして用いる。このため、従来の二次元コードのシールや電子機器を後から付与した場合には困難であった、長期間の信頼性を確保することができる。
【0022】
本発明の識別システム、識別方法、および識別プログラムは、骨材露出面画像検出用ニューラルネットワークを用いて画像に含まれる骨材露出面の位置を推定し、さらに骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを用いて骨材露出面画像の特徴量を取得することで、照合元の画像と照合先の画像の類似度を判定し、識別している。二種類の異なる学習を行ったニューラルネットワークを用いて照合を行っているので、より高精度な識別が可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本実施形態の識別システムの概略構成図である。
図2図2は、骨材露出面を含むコンクリートの表面を撮像した画像の一例を示す図面代用写真である。
図3図3は、入力画像から骨材露出面画像抽出部が抽出した骨材露出面画像の一例を示す図面代用写真である。
図4図4は、コンクリートに骨材露出面を形成する工程を示したフローチャートである。
図5図5は、照合先となる骨材露出面の画像データベースを作成する工程を示すフローチャートである。
図6図6は、照合元となるコンクリートの骨材露出面画像を用いた識別方法を示すフローチャートである。
図7図7は、実施例で用いた照合元の骨材露出面画像の図面代用写真である。
図8図8は、骨材露出面画像検出用ニューラルネットワークと骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークの精度評価の結果を示す図である。
図9図9は、コンクリートの骨材露出面画像を撮像する様子を模式的に示す図である。
図10図10は、複数の骨材露出面について、それぞれ撮像条件の異なる画像を入力画像として特徴量を抽出した場合の、特徴ベクトルの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のコンクリートを認証コードとする識別システムと識別方法の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明は例示であって、特許請求の範囲を限定することを意図したものではない。
【0025】
本明細書におけるコンクリートとは、主にセメント、水、粗骨材、細骨材、混和材、混和剤、空気からなる混合物を混練して硬化したものを指す。以下においては、細骨材と粗骨材の両方をあわせて、単に「骨材」とも称する。
【0026】
コンクリート製品には、ポール、ブロック類、板類、枕木、梁や柱などの建築部材、桁の他、コンクリートと他の材料を組み合わせた製品が含まれる。また、コンクリート構造物には、トンネル、橋、建物などのコンクリートが使用されている構造物が含まれる。以下においては、コンクリート製品とコンクリート構造物を併せたものを「コンクリート」とも称する。
【0027】
コンクリートの表層部の大部分は、セメントペーストに由来する灰色の表面を有する。一方で、コンクリートの中には、骨材が分散した状態で固定されている。コンクリートの中の骨材は配置が無作為であり、しかもその配置、形状、大きさは長期間に亘って、認証と識別に影響を及ぼすような変化をしない。このため、骨材の外観に関する情報はコンクリートの固有の情報として特定することができ、認証コードとして用いることができる。
【0028】
図1に、骨材露出面画像を用いてコンクリートの識別を行う識別システムの一実施形態を示す。本実施形態の識別システム1は、認証装置10を備えている。また、識別システム1は、カメラなどの撮像装置、又はタブレットや専用端末などの撮影機能を備えた使用者端末を備えることができる。さらに識別システム1は、必須ではないが、コンクリートの原材料情報、製造工程の情報、維持管理記録を記憶している一または複数の外部サーバーを備えることができる。認証装置10と、その他の装置とは、有線又は無線のネットワークによって通信可能に接続されており、種々の信号のやり取りが可能に構成されている。
【0029】
認証装置10は、好ましくは、CPU(Central Processing Unit)、半導体メモリ、通信インターフェースを備えた1台のコンピュータで構成することができる。認証装置10は、骨材露出面位置推定部11と、骨材露出面画像抽出部12と、骨材露出面画像特徴量取得部13と、照合部14と、アクセス情報読出部15とを備えている。また、認証装置10は、ハードディスクなどの記憶媒体で構成された記憶部16を備えている。
【0030】
認証装置10の骨材露出面位置推定部11、骨材露出面画像抽出部12、骨材露出面画像特徴量取得部13、照合部14、アクセス情報読出部15は、CPUでそれぞれの処理を実行可能なプログラムとして記憶部16又は半導体メモリに記憶されていても良い。また、代替例として、一部又は全部の機能をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)、その他の電気回路などのハードウェアで構成することも可能である。
【0031】
認証装置10は、コンクリートの骨材の外観に関する情報を識別コードとして、個々のコンクリート製品又はコンクリート構造物を正確に特定し、識別し、対応する情報に誤りなくアクセスさせるための情報を提供する。より具体的には、認証装置10は、コンクリート製品又はコンクリート構造物ごとに、骨材が露出している箇所である骨材露出面を撮像した骨材露出面画像の特徴量を照合先のデータベースとして記憶しており、照合元のコンクリートを撮影した画像が入力されると、骨材露出面の特徴量を抽出し、照合先の特徴量と照合して照合元を特定し、認証を行っている。
【0032】
照合元として用いられる入力画像は、骨材が露出している箇所である骨材露出面を含んで撮像された、コンクリートの表面の画像である。骨材が露出しているコンクリートの表面の画像の一例を図2(a)に示す。コンクリートの細骨材や粗骨材が露出している箇所は、周囲のセメントペーストの部分と比較すると、色調や色の濃度が明らかに異なっており、明確に識別可能である。なお、図2(a)には、一カ所気泡が存在している箇所が撮像されているが、この気泡についても、骨材と同等の認証のための情報として取り扱うことが可能となる。
【0033】
骨材露出面を含む入力画像は、デジタルカメラなどの専用の撮像装置や、スマートフォンやタブレット端末などの使用者端末のカメラ機能を用いて、容易に撮像して認証装置10に送信することができる。
【0034】
認証装置10の骨材露出面位置推定部11は、骨材露出面検出用ニューラルネットワークを備えており、入力画像に含まれる骨材露出面の位置を推定する。骨材露出面検出用ニューラルネットワークは、コンクリート製品又はコンクリート構造物の骨材が露出している箇所である骨材露出面を撮像した骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行ったニューラルネットワークである。ニューラルネットワークとしては、VGC16、ResNet、などの構造を有する畳み込みニューラルネットワークを用いることができる。
【0035】
骨材露出面検出用ニューラルネットワークの学習に用いられる画像の例を図2(b)に示す。必須ではないが、入力画像に、骨材露出面を取り囲むマークを追加することができる。図2(b)には、コンクリートの骨材露出面の位置を示す指標の例として、線で丸を描いたマークが付されている。骨材露出面検出用ニューラルネットワークには、上述した丸のマークが付されたコンクリート画像が多数入力されて機械学習が行われる。骨材露出面検出用ニューラルネットワークは、入力画像に含まれる骨材露出面の位置を示すマークを特徴の一つとして識別するので、骨材露出面位置の識別の精度が向上する。マークは、骨材露出面を取り囲むように付すことができるほか、骨材露出面の近傍に付して、位置の目印とすることもできる。
【0036】
骨材露出面位置推定部11の骨材露出面検出用ニューラルネットワークによって、入力画像の中の骨材露出面の位置の情報が出力される。
【0037】
骨材露出面画像抽出部12は、骨材露出面位置推定部11によって推定された骨材露出面の位置を特定して、入力画像から骨材露出面画像を抽出する。図3の図中左側に入力画像の一例を示し、図3の図中右側に抽出した骨材露出面画像の一例を示す。
【0038】
骨材露出面画像特徴量取得部13は、骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを備えており、骨材露出面画像の特徴量を取得する。骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークは、複数の骨材露出面画像を学習データとする機械学習を行ったニューラルネットワークである。ニューラルネットワークとしては、VGC16、ResNet、などの構造を有する畳み込みニューラルネットワークを用いることができる。骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークは、入力された骨材露出面画像をエンコードし、中間層の出力を取り出すことによって、低次元の特徴ベクトルに変換する。
【0039】
記憶部16は、骨材露出面画像特徴量取得部13が取得した骨材露出面画像の特徴量のうち、照合先として記憶する骨材露出面画像とその特徴量である特徴ベクトルを記憶する。さらに記憶部16は、骨材露出面画像に関連する原材料情報、製造工程の情報、および完成品の維持管理の記録を参照可能とするために、これらの情報を参照可能とするためのアクセス先の情報を、骨材露出面画像に関連付けて記憶している。別例として、記憶部16が、骨材露出面画像と関連付けられている、コンクリートの原材料情報、製造工程の情報、維持管理記録情報といった各種情報の一部又は全部を記憶しておくことも可能である。
【0040】
照合部14は、照合元となるコンクリートの骨材露出面画像の特徴量を入力して、記憶部16に記憶されている照合先の骨材露出面画像と一つ一つ照合する。照合処理の例として、照合元と照合先の特徴ベクトルのユークリッド距離や、コサイン類似度を算出して、類似度を算出する処理を適用することができる。照合処理の結果、照合元との類似度が、予め設定された閾値以上となる照合先の骨材露出面画像が存在する場合、その情報をアクセス情報読出部15に出力する。代替的には、類似度が高い複数の照合先の情報と類似度の値を出力することも可能である。
【0041】
照合部14から、照合元と同一であると判定された照合先の骨材露出面画像の情報を入力されたアクセス情報読出部15は、記憶部16から、対応するアクセス情報を読み出して出力する。また、記憶部16に情報が保存されている場合には、原材料情報、製造工程の情報、完成品の維持管理の記録の一部を、直接出力することも可能である。
【0042】
以上の識別システム1を用いて、コンクリートの識別を行う好適な識別方法の実施形態を、図4から図6のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0043】
図4に、認証対象のコンクリートに、識別コードとなる骨材露出面を形成する工程のフローチャートを示す。
【0044】
骨材露出面の位置は、認証対象のコンクリート製品又はコンクリート構造物の製造が硬化工程まで完了し(S11)、形状が確定した後に、設定される。通常、骨材露出面は、コンクリートの表面の一部に設定する(S12)。
【0045】
コンクリートは、一般に、表層部に形成されたセメントペーストによって均一なグレー色となっており、骨材は少数のみが露出していることが多い。そこで、コンクリートの表層の一部分を除去処理を行って骨材の露出数を増やした箇所を形成し、その箇所を骨材露出面に設定することが好ましい。コンクリートの表層除去処理の方法は、研磨、斫り、切断、化学的除去など、任意の方法で行うことができる。骨材露出面が平坦である必要はなく、骨材の凹凸がある状態であってもよい。骨材露出面の形状も任意であるが、照合元として長期間経過後も認識可能な形状を有していることが好ましい。小型のコンクリートの場合、撮影方向を予め設定した上で、コンクリート全体の表面を骨材露出面に設定しても良い。
【0046】
図5に、コンクリートの認証コードの照合先となる骨材露出面画像データベースを作成する工程のフローチャートを示す。
【0047】
管理対象物のコンクリートの骨材露出面は、撮像装置や使用者端末のカメラ機能によって撮像される。通常、さまざまな撮像条件で骨材露出面を撮像し、得られた複数の画像が、入力画像として、認証装置10に入力される(S21)。認証装置10の骨材露出面位置推定部11は、骨材露出面検出用ニューラルネットワークを用いて、入力画像に含まれる骨材露出面の位置を推定し、位置の情報を出力する骨材露出面位置推定ステップを実行する(S22)。骨材露出面画像抽出部12は、推定された骨材露出面の位置の情報に基づき、入力画像中の骨材露出面の位置を特定して、前記入力画像から骨材露出面画像を抽出する骨材露出面画像抽出ステップを実行する(S23)。骨材露出面画像特徴量取得部13は、骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを用いて、骨材露出面画像の特徴量を特徴ベクトルとして取得する骨材露出面画像特徴量取得ステップを実行する(S24)。取得された骨材露出面画像の特徴量が、記憶部16に記憶される(S25)。さらに、記憶された骨材露出面画像ごとに、対応する情報にアクセスするためのアクセス情報が登録される(S26)。管理対象物のコンクリートの骨材露出面画像の特徴量ごとに、アクセス情報を対応づけて蓄積することで、照合先の骨材露出面画像データベースが作成される。
【0048】
図6に、照合元となるコンクリートの骨材露出面画像を識別コードとして用いた識別方法を示すフローチャートを示す。
【0049】
本実施形態では、照合元となるコンクリートの骨材露出面もまた、照合先の骨材露出面と同様に、撮像装置や使用者端末のカメラ機能を用いて撮像され、認証装置10に入力される(S31)。照合元の入力画像は、照合先の入力画像と同様に、骨材露出面位置推定ステップ(S32)と、骨材露出面画像抽出ステップ(S33)と、骨材露出面画像特徴量取得ステップ(S34)とを行うことにより、照合元の骨材露出面画像の特徴量を抽出することができる。
【0050】
次に、認証装置10の照合部14は、照合元となる骨材露出面画像の特徴量を骨材露出面画像データベースの特徴量の類似度を算出して照合する照合ステップを行う(S35)。照合ステップによって、照合元の骨材露出面画像と類似度が高く同一であると判定された骨材露出面画像が骨材露出面画像データベースに存在する場合には、ステップS36が「はい」となり、アクセス情報読出部15が、照合先の骨材露出面画像に対応するアクセス情報を出力する(S37)。照合元の骨材露出面画像について、照合先の骨材露出面画像データベースの中に類似する骨材露出面画像が存在しない場合には、ステップS38が「いいえ」となり、アクセス情報読出部15が、エラー表示を出力し(S39)、一旦処理を終了する。
【0051】
照合元の骨材露出面画像が、照合先の骨材露出面画像と類似しない原因は、ほとんどが撮像箇所の誤りによって、データベースに登録されていない位置の画像を入力していることにある。予め学習データによって学習を行った骨材露出面画像検出用ニューラルネットワークと骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを用いて照合元の画像と照合先の画像の類似度を判定することにより、以下の実施例で説明するように、画像の色調の違いや陰の映り込みなどの撮像時の影響を排除し、同一の骨材露出面を撮像した画像では、高い精度で識別が可能となっている。
【実施例
【0052】
本発明の識別システムと識別方法を適用してコンクリートの識別を行った結果について、説明する。実施例では、骨材露出面の形状を円形とし、その直径を40mmと100mmのものを作成した。図7は、同一の骨材露出面(直径40mm)について、条件を変えて得た入力画像の例を示している。一つの骨材露出面に対して、骨材露出面の撮像時の条件が、「表面乾燥」、「部分的な水濡れ」、「全体が水濡れ」、「半乾き」、「一部に陰かかり」という五種類の状態にある場合について、それぞれ撮影位置の条件を「正対」、「鉛直方向で斜めの角度位置」、「水平方向で斜めの角度位置」に設定して入力画像を複数撮像した。図9に、コンクリートの骨材露出面画像を撮像する様子を模式的に示す。
【0053】
図8は、識別システム1の精度評価の結果を示したグラフである。図8のグラフは、図7に示した骨材露出面の5種類の条件ごとに撮影位置の条件を変更した画像を用い、学習の用いる画像数に対して、識別システム1が照合元に対して正しい照合先を識別した割合を識別精度の関係を示した割合を示している。学習に60パターンから70パターンの画像を使用することで、99%の精度で識別が可能となっている。
【0054】
図10は、骨材露出面画像特徴量取得部13を用いて、複数の骨材露出面ごとに、異なる条件で撮像した複数の骨材露出面画像の特徴量を抽出した場合の、特徴ベクトルの分布を示すグラフである。同一の骨材露出面の特徴量は、同一のパターンで示している。図10に示したように、本発明の識別システム1は、撮像時の表面の条件や撮像位置が異なった場合であっても、同一の骨材露出面の特徴量を非常に近い特徴ベクトルの値で抽出してグループ分けしており、高い識別能力を有していることが明らかとなった。
【0055】
以上説明したとおり、本発明のコンクリートの骨材に関する情報を認証コードとする識別システム、識別方法、および識別プログラムを用いることにより、コンクリート製品やコンクリート構造物を、長期間に亘って正確に特定して認証することが可能となる。その結果、個々のコンクリートごとに情報を管理して追跡可能とするトレーサビリティを確保することができる。
【0056】
本発明のコンクリートの識別システム、識別方法、および識別プログラムは、実施形態および実施例で説明した態様以外にも適用が可能である。たとえば、本発明の骨材露出面検出用ニューラルネットワークは、学習によって、骨材が含まれていないコンクリートの表面の画像であっても、コンクリート表面の微細な気泡、模様、傷、特徴的な輪郭線などを含む画像から、特定の面の位置を識別することができる。同様に、本発明の骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークは、学習によって、骨材が含まれていないコンクリートの表面の画像であっても、コンクリート表面の微細な気泡、模様、傷、特徴的な輪郭線などを含む画像から、特徴量を抽出して識別を行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
10 認証装置
11 骨材露出面位置推定部
12 骨材露出面画像抽出部
13 骨材露出面画像特徴量取得部
14 照合部
15 アクセス情報読出部
16 記憶部
【要約】
【課題】コンクリート製品やコンクリート構造物を、正確に特定して認証する識別システム、識別方法、および識別プログラムを提供する。
【解決手段】本発明の識別システムは、コンクリートの表面に露出している骨材の外観に関する情報を認証コードに用いる。識別システムは、管理対象となるコンクリートの骨材露出面を撮像して骨材露出面画像を取得し、機械学習を行った骨材露出面検出用ニューラルネットワークと骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを用いて、骨材露出面画像の特徴量を取得し、データベースに記憶している。照合元となるコンクリートの骨材露出面画像を入力すると、同様に骨材露出面検出用ニューラルネットワークと骨材露出面画像分類用ニューラルネットワークを用いて特徴量を抽出し、データベースの画像との類似度を算出して同一であるか否かの判定を行い、識別する。本発明は又、コンクリートの識別方法および識別プログラムを提供する。
【選択図】図1
図1
図2
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図7
図8
図9
図10