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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-25
(45)【発行日】2023-11-02
(54)【発明の名称】張力付与装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20231026BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F02B67/06 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021159930
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049912
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 誠
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 瑠璃
(72)【発明者】
【氏名】村木 悠平
(72)【発明者】
【氏名】袴田 哲兵
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-080588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸(11)と被動軸(21)とを接続する無端状の駆動力伝達部材(22)に摺接する摺接部材(31)と、前記摺接部材(31)を押圧して前記駆動力伝達部材(22)に張力を付与する押圧部材(32)とを備える張力付与装置において、
前記摺接部材(31)は、前記駆動力伝達部材(22)の進行方向(D)に沿って延びる棒状であり、前記進行方向(D)に沿って前記駆動力伝達部材(22)に面接触し、
前記押圧部材(32)の押圧力を摺接部材(31)に伝達する押圧力伝達部材(33)が設けられ、
前記押圧力伝達部材(33)は、前記押圧部材(32)によって押圧されて揺動して前記摺接部材(31)を押圧し、
前記駆動軸(11)の軸方向に見た場合に、前記押圧部材(32)は、前記駆動軸(11)に対し前記摺接部材(31)とは反対側に配置されることを特徴とする張力付与装置。
【請求項2】
前記押圧力伝達部材(33)は、前記押圧部材(32)によって押圧される被押圧部(50)と、前記摺接部材(31)に当接して前記摺接部材(31)を押圧する押圧部(51)と、前記被押圧部(50)と前記押圧部(51)との間の位置に配置される揺動軸(52)とを備え、
前記押圧力伝達部材(33)は、前記揺動軸(52)を中心に揺動することを特徴とする請求項記載の張力付与装置。
【請求項3】
前記押圧力伝達部材(33)は、前記摺接部材(31)の長手方向の一端部(31a)を押圧し、
前記摺接部材(31)の他端部(31b)には、前記摺接部材(31)を支持する揺動支持部(35)が設けられ、前記摺接部材(31)は、前記揺動支持部(35)を中心に前記押圧力伝達部材(33)の揺動方向に揺動可能に支持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の張力付与装置。
【請求項4】
前記摺接部材(31)の前記一端部(31a)は、前記駆動軸(11)の近傍に配置され、
前記摺接部材(31)の前記他端部(31b)は、前記駆動軸(11)と前記被動軸(21)との間で、前記被動軸(21)側に寄せて配置されることを特徴とする請求項記載の張力付与装置。
【請求項5】
前記押圧力伝達部材(33)が前記摺接部材(31)に当接して前記摺接部材(31)を押圧する押圧部(51)と前記揺動支持部(35)との距離(L1)は、前記摺接部材(31)が前記駆動力伝達部材(22)に摺接する摺接部(31c)の長さよりも大きいことを特徴とする請求項3または4に記載の張力付与装置。
【請求項6】
前記摺接部材(31)が前記駆動力伝達部材(22)に摺接する摺接部(31c)の大半は、前記進行方向(D)において、前記押圧力伝達部材(33)が前記摺接部材(31)に当接して前記摺接部材(31)を押圧する押圧部(51)と前記揺動支持部(35)との間に挟まれていることを特徴とする請求項からのいずれかに記載の張力付与装置。
【請求項7】
前記張力付与装置は、内燃機関(10)に設けられ、
前記内燃機関(10)は、クランク軸(11)と、前記クランク軸(11)を支持するクランクケース(12)と、前記クランクケース(12)に結合されるシリンダーブロック(14)と、前記シリンダーブロック(14)に結合されるシリンダーヘッド(15)と、前記シリンダーヘッド(15)に支持されるカム軸(21)とを備え、
前記駆動軸は前記クランク軸(11)であり、前記被動軸は前記カム軸(21)であり、
前記押圧部材(32)は前記クランクケース(12)に配置され、
前記摺接部材(31)は、前記シリンダーヘッド(15)によって揺動自在に支持されることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の張力付与装置。
【請求項8】
前記押圧力伝達部材(33)は、前記クランクケース(12)に配置され、
前記押圧力伝達部材(33)は、前記クランクケース(12)内で前記摺接部材(31)を押圧することを特徴とする請求項記載の張力付与装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張力付与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動軸と被動軸とを接続する無端状の駆動力伝達部材に摺接する摺接部材と、摺接部材を押圧して駆動力伝達部材に張力を付与する押圧部材とを備える張力付与装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、摺接部材は、摺接部材の端部に設けられたローラーによって駆動力伝達部材を押圧する。また、特許文献1では、摺接部材の他に設けられるガイドローラーによっても、駆動力伝達部材に張力を付している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-53883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、張力付与装置では、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与することが望まれる。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、張力付与装置において、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
駆動軸と被動軸とを接続する無端状の駆動力伝達部材に摺接する摺接部材と、前記摺接部材を押圧して前記駆動力伝達部材に張力を付与する押圧部材とを備える張力付与装置において、前記摺接部材は、前記駆動力伝達部材の進行方向に沿って延びる棒状であり、前記進行方向に沿って前記駆動力伝達部材に面接触し、前記押圧部材の押圧力を前記摺接部材に伝達する押圧力伝達部材が設けられ、前記押圧力伝達部材は、前記押圧部材によって押圧されて揺動して前記摺接部材を押圧し、前記駆動軸の軸方向に見た場合に、前記押圧部材は、前記駆動軸に対し前記摺接部材とは反対側に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
張力付与装置において、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係る内燃機関の断面図である。
図2図1において張力付与装置の周辺部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る内燃機関10の断面図である。
内燃機関10は、鞍乗り型車両等の車両に搭載される。鞍乗り型車両は、例えば自動二輪車であるが、鞍乗り型車両は、前輪または後輪を2つ備える3輪の鞍乗り型車両、及び4輪以上を備える鞍乗り型車両を含む。
以下の説明における前後、左右、上下等の方向は、内燃機関を鞍乗り型車両に搭載した状態の鞍乗り型車両の向きに対応する。各図に示す符号FRは鞍乗り型車両の前方を示し、符号UPは鞍乗り型車両の上方を示す。
【0009】
上記鞍乗り型車両は、車体フレーム(不図示)にパワーユニットとしての内燃機関10が支持され、前輪(不図示)を操舵可能に支持するフロントフォーク(不図示)が車体フレーム(不図示)の前端に操舵可能に支持され、後輪(不図示)を支持するスイングアーム(不図示)が車体フレームの後部に設けられる車両である。
上記鞍乗り型車両では、車両後部の上面に設けられるシートに、乗員が跨るようにして着座する。
【0010】
内燃機関10は、4ストロークエンジンである。内燃機関10は、クランク軸11を収容するクランクケース12と、往復運動するピストン(不図示)を収容するシリンダー部13とを備える。
シリンダー部13は、クランクケース12の上面から上方に延出する。
シリンダー部13は、クランクケース12の前部の上面に結合されるシリンダーブロック14と、シリンダーブロック14の上面に結合されるシリンダーヘッド15と、シリンダーヘッド15の上面を覆うヘッドカバー16とを備える。
シリンダー部13のシリンダー軸線13aは、やや前傾した姿勢で上下に延びる。上記ピストンは、シリンダーブロック14の筒内をシリンダー軸線13aの軸方向に往復運動する。上記ピストンは、コンロッド(不図示)を介してクランク軸11に接続される。
【0011】
シリンダー部13に吸気する吸気装置(不図示)は、シリンダーヘッド15の後面の吸気ポート(不図示)に接続される。
シリンダー部13の排気を排出する排気装置(不図示)は、シリンダーヘッド15の前面面の排気ポート(不図示)に接続される。
【0012】
クランク軸11は車幅方向(左右方向)に延びる軸である。クランク軸11の一端は、クランクケース12が備える支持壁12aによって支持される。クランク軸11の他端は、クランクケース12が備える第2支持壁(不図示)によって支持される。
支持壁12aは、クランク軸11に直交する壁である。支持壁12aは、ベアリング12bを介してクランク軸11を回転自在に支持する。
【0013】
クランクケース12の後部には変速機17を収納する変速機室18が設けられる。変速機17は、クランク軸11によって回転させられるメイン軸17aと、メイン軸17aによって回転させられるカウンタ軸17bとを備える。メイン軸17a及びカウンタ軸17bは、常時噛み合い式の変速歯車列を備える。
クランク軸11の回転は、クラッチ機構(不図示)を介してメイン軸17aに伝達される。
駆動輪である上記後輪は、カウンタ軸17bと後輪とを接続する伝達部材(不図示)によって駆動される。
【0014】
内燃機関10は、シリンダーヘッド15に設けられる吸気弁(不図示)及び排気弁(不図示)の開閉を制御する動弁機構20を備える。
動弁機構20は、カムによって上記吸気弁及び排気弁を駆動するカム軸21と、カム軸21とクランク軸11とを接続する駆動力伝達部材22とを備える。
カム軸21は、クランク軸11によって回転駆動される。カム軸21は、クランク軸11と平行に車幅方向に延びる。
【0015】
カム軸21の端部には、従動歯車21aが設けられる。クランク軸11の端部には、駆動歯車11aが設けられる。駆動力伝達部材22は、従動歯車21a及び駆動歯車11aに巻き掛けられる無端状のカムチェーンである。
クランク軸11の回転は、駆動歯車11a、駆動力伝達部材22、及び従動歯車21aを介してカム軸21に伝達される。従動歯車21aは、駆動歯車11aよりも大径且つ歯数が多い歯車である。
クランク軸11は、カム軸21を駆動する駆動軸であり、カム軸21は、クランク軸11に駆動される被動軸である。
【0016】
カム軸21は、シリンダーヘッド15によって回転自在に支持される。
内燃機関10は、駆動力伝達部材22が通る駆動力伝達部材室25を内部に備える。
駆動力伝達部材室25は、クランクケース12内、シリンダーブロック14内、及びシリンダーヘッド15内を通る空洞部である。
駆動力伝達部材室25は、上記ピストンを収容するシリンダーブロック14の筒部に対し車幅方向外側に配置されている。駆動力伝達部材室25は、変速機室18の前方に位置する。
駆動力伝達部材室25は、シリンダー軸線13aに沿うように上下に長く延びる。図1の断面は、クランク軸11に直交し且つ駆動力伝達部材室25を通る平面で内燃機関10を切断した断面である。また、図1は、駆動力伝達部材室25等をクランク軸11の軸方向に見た断面である。
【0017】
内燃機関10の運転時において、駆動歯車11aの回転方向Rは、図1中の反時計回り方向である。このため、駆動力伝達部材22では、駆動歯車11aによって引っ張られる方向に力を受ける第1区間部22aと、駆動歯車11aに押し出される方向に力を受ける第2区間部22bとが存在する。
第1区間部22aは、クランク軸11及びカム軸21に対し前方の部分であり、第2区間部22bは、クランク軸11及びカム軸21に対し後方の部分である。
駆動歯車11aの回転によって進行させられる駆動力伝達部材22の進行方向Dは、第2区間部22bでは、駆動歯車11aから従動歯車21aに向かう方向であり、上方向である。
第2区間部22bは、駆動歯車11aの回転によって押し出されるため、駆動力伝達部材22の進行中において、第1区間部22aよりも弛みが発生し易い。
【0018】
駆動力伝達部材室25には、第1区間部22aの進行をガイドするスライダー26が設けられる。
スライダー26は、第1区間部22aの前方に配置される。スライダー26は、第1区間部22aに沿って進行方向Dに延伸する棒状である。スライダー26は、第1区間部22aにおいて駆動力伝達部材22の外周部22cに前方から摺接する。スライダー26は、内燃機関10の壁の内面に固定される。
【0019】
内燃機関10には、駆動力伝達部材22に張力を付与する張力付与装置30が設けられる。
張力付与装置30は、駆動力伝達部材22の第2区間部22bに摺接する摺接部材31と、摺接部材31を押圧して駆動力伝達部材22に張力を付与する押圧部材32と、押圧部材32の押圧力を摺接部材31に伝達する押圧力伝達部材33とを備える。
【0020】
図2は、図1において張力付与装置30の周辺部を拡大した断面図である。
摺接部材31は、クランク軸11の上方において第2区間部22bの後方に配置される。摺接部材31は、第2区間部22bに沿って進行方向Dに延伸する棒状であり、上下方向に長く延びる。摺接部材31は、第2区間部22bにおいて駆動力伝達部材22の外周部22cに後方から摺接する。
摺接部材31は、駆動力伝達部材室25において、クランクケース12内からシリンダーブロック14内を通り、シリンダーヘッド15内まで延びる。
摺接部材31の長手方向の一端部31aは、駆動力伝達部材室25においてクランクケース12内に位置する。
摺接部材31の長手方向の他端部31bは、駆動力伝達部材室25においてシリンダーヘッド15内に位置する。
一端部31aは、摺接部材31の下端部であり、クランク軸11の近傍に配置される。
他端部31bは、摺接部材31の上端部であり、カム軸21の近傍に配置される。
【0021】
摺接部材31は、駆動力伝達部材22の外周部22cに摺接する摺接部31cを、一端部31aと他端部31bとの間に備える。
摺接部材31は、図1及び図2のようにクランク軸11の軸方向に見た場合、全体が弓状に湾曲している。摺接部31cは、摺接部材31の弓形状の長手方向の中間部に位置する。一端部31a及び他端部31bは、外周部22cに対し離間するように、摺接部31cに対し後方側に湾曲している。
【0022】
摺接部材31の他端部31bには、摺接部材31を揺動自在に支持する揺動支持部35が設けられる。揺動支持部35は、クランク軸11及びカム軸21と平行に車幅方向に延びる軸である。揺動支持部35は、駆動力伝達部材室25においてシリンダーヘッド15に取り付けられる。摺接部材31は、揺動支持部35を介しシリンダーヘッド15に支持される。
摺接部材31は、揺動支持部35を中心に揺動自在である。
【0023】
クランクケース12内においてクランク軸11の下方には、押圧部材32を支持する押圧部材支持孔部37が設けられる。押圧部材支持孔部37は、クランク軸11の軸方向に見た場合、後上方に向けて斜めに延びる筒状部である。押圧部材支持孔部37の上端は、後上方に向けて開口している。
【0024】
押圧部材32は、押圧力伝達部材33を押圧するリフター40と、リフター40を押圧力伝達部材33に向けて付勢する付勢部材41と、制御弁42とを備える。
リフター40は、押圧部材支持孔部37の軸方向に移動可能に押圧部材支持孔部37の筒内に配置される。リフター40は、押圧部材支持孔部37の上端の開口から後上方に突出する。リフター40は、下方に開放する円筒状部材である。
付勢部材41は、押圧部材支持孔部37の筒内においてリフター40の下方に配置されるばねである。付勢部材41は、圧縮された状態で配置されており、復元力によってリフター40の下端を押圧することでリフター40を上方に押し上げ、リフター40の上端部40aを押圧力伝達部材33に当接させる。
【0025】
リフター40の筒内には、クランクケース12を潤滑するオイルの一部が充填される。
制御弁42は、押圧部材支持孔部37の筒内において、リフター40と付勢部材41との間に配置される。制御弁42は、リフター40の筒内に充填されるオイルの量を調整する。
リフター40は、リフター40の筒内に充填されるオイルによって、下方への後退を規制される。
【0026】
押圧部材32は、クランク軸11に対し下方に配置され、摺接部材31は、クランク軸11に対し上方に配置される。
すなわち、クランク軸11の軸方向に見た場合、押圧部材32は、クランク軸11に対し摺接部材31とは反対側に配置される。
【0027】
押圧力伝達部材33は、駆動力伝達部材室25においてクランクケース12内に配置される。押圧力伝達部材33は、クランク軸11の後上方、且つメイン軸17aの前方に配置される。
押圧力伝達部材33は、リフター40と摺接部材31とを接続するように上下方向に延びる。押圧力伝達部材33は、摺接部材31よりも上下方向に短い。
【0028】
押圧力伝達部材33の下端部には、押圧部材32のリフター40によって押圧される被押圧部50が設けられる。
押圧力伝達部材33の上端部には、摺接部材31に当接して摺接部材31を押圧する押圧部51が設けられる。
押圧力伝達部材33において被押圧部50と押圧部51との間には、揺動軸52が設けられる。揺動軸52は、押圧力伝達部材33の上下の中間部に位置する。
【0029】
押圧力伝達部材33は、摺接部材31、リフター40、及び駆動力伝達部材22の下部に対し後方に配置される。
揺動軸52は、クランク軸11及び揺動支持部35と平行に車幅方向に延びる軸である。
押圧力伝達部材33は、揺動軸52を中心にしてシーソーのように揺動する。揺動軸52は、クランクケース12内に配置され、クランクケース12に支持される。
【0030】
押圧力伝達部材33は、クランクケース12内で、被押圧部50の前面を介してリフター40の上端部40aに当接する。
押圧力伝達部材33は、クランクケース12内で、押圧部51の前面を介し、摺接部材31の一端部31aの後面に当接する。すなわち、一端部31aは、押圧部51によって押圧されて駆動力伝達部材22側に押されることで、押圧部51によって支持されている。
【0031】
ここで、張力付与装置30の動作を説明する。
押圧力伝達部材33は、被押圧部50が、押圧部材32のリフター40によって後上方に向けて押圧される。これにより、押圧力伝達部材33は、揺動軸52を中心に揺動し、押圧部51が摺接部材31の一端部31aを前方に向けて押圧する。
摺接部材31に対する押圧部51の押圧方向Pは、クランク軸11の軸方向に見た場合、進行方向Dに略直交する方向である。
【0032】
摺接部材31は、一端部31aが押圧部51によって押圧されると、他端部31b側の揺動支持部35を中心にして押圧方向Pに揺動する。これにより、摺接部材31の摺接部31cは、駆動力伝達部材22の第2区間部22bの外周部22cに押し当てられ、外周部22cに摺接する。摺接部31cは、外周部22cに対し面接触する。摺接部31cに押された第2区間部22bが第1区間部22a側に向けて前方に変位することで、駆動力伝達部材22の張力が増加する。
押圧部材32は、リフター40の筒内に充填されるオイルの油圧によって、押圧力伝達部材33が押圧方向Pとは反対方向に揺動することを規制する。
【0033】
張力付与装置30では、摺接部材31及び押圧部材32がクランク軸11の上方及び下方に分けて配置され、押圧部材32の押圧力が、揺動する押圧力伝達部材33によって摺接部材31に伝達されるため、張力付与装置30をコンパクトに配置できる。
例えば、押圧部材32と同様の押圧部材を摺接部材31の後方に配置し、この押圧部材で摺接部材31を直接的に押圧する構造に比して、張力付与装置を前後方向(進行方向Dに対し直交する方向)にコンパクト化できる。
【0034】
摺接部材31は、クランクケース12内からシリンダーヘッド15内まで延在しており、駆動力伝達部材22の進行方向Dに長い。このため、摺接部31cを進行方向Dの広範囲に亘って駆動力伝達部材22に面接触させることができ、駆動力伝達部材22に効果的に張力を付与できる。
【0035】
押圧力伝達部材33の押圧部51と摺接部材31の揺動支持部35との距離L1は、摺接部31cの長さL2よりも大きい。また、長さL2の範囲は、進行方向Dにおいて、押圧部51と揺動支持部35との間に挟まれている。
本実施の形態では、進行方向Dにおいて、摺接部31cの全体が、押圧部51と揺動支持部35との間に挟まれているが、これに限らず、摺接部31cは、進行方向Dにおいて摺接部31cの大半が押圧部51と揺動支持部35との間に挟まれていれば良い。例えば、図2において、距離L1を小さく設定して長さL2の範囲が距離L1の範囲よりも上方または下方に位置する場合には、摺接部31c(長さL2の部分)の大半が押圧部51と揺動支持部35との間に挟まれていれば良い。ここで、大半とは、長さL2の8割以上である。
【0036】
以上説明したように、本発明を適用した実施の形態によれば、張力付与装置30は、駆動軸であるクランク軸11と被動軸であるカム軸21とを接続する無端状の駆動力伝達部材22に摺接する摺接部材31と、摺接部材31を押圧して駆動力伝達部材22に張力を付与する押圧部材32とを備える。摺接部材31は、駆動力伝達部材22の進行方向Dに沿って延びる棒状であり、進行方向Dに沿って駆動力伝達部材22に面接触し、押圧部材32の押圧力を摺接部材31に伝達する押圧力伝達部材33が設けられ、押圧力伝達部材33は、押圧部材32によって押圧されて揺動して摺接部材31を押圧する。
この構成によれば、駆動力伝達部材22の進行方向Dに沿って延びる棒状の摺接部材31を、押圧部材32によって押圧されて揺動する押圧力伝達部材33によって押圧するため、駆動力伝達部材22の広い範囲に亘って摺接部材31を摺接させることができる。このため、駆動力伝達部材22に効果的に張力を付与できる。
【0037】
また、クランク軸11の軸方向に見た場合に、押圧部材32は、クランク軸11に対し摺接部材31とは反対側に配置される。
この構成によれば、クランク軸11の軸方向に見た場合に、駆動力伝達部材22の進行方向Dに対し直交する方向に押圧部材32がスペースを占めることが抑制される。このため、押圧部材32をコンパクトに配置できる。
【0038】
また、押圧力伝達部材33は、押圧部材32によって押圧される被押圧部50と、摺接部材31に当接して摺接部材31を押圧する押圧部51と、被押圧部50と押圧部51との間の位置に配置される揺動軸52とを備え、押圧力伝達部材33は、揺動軸52を中心に揺動する。
この構成によれば、被押圧部50と押圧部51との間に配置される揺動軸52を中心に押圧力伝達部材33を揺動させて、摺接部材31を効果的に駆動力伝達部材22に押し付けることができる。
【0039】
さらに、押圧力伝達部材33は、摺接部材31の長手方向の一端部31aを押圧し、摺接部材31の他端部31bには、摺接部材31を支持する揺動支持部35が設けられ、摺接部材31は、揺動支持部35を中心に押圧力伝達部材33の揺動方向に揺動可能に支持される。
この構成によれば、摺接部材31は、長手方向の一端部31aを押圧され、摺接部材31の他端部31bの揺動支持部35を中心に揺動する。このため、摺接部材31を摺接部材31の長手方向の広範囲に亘って駆動力伝達部材22に摺接させることができ、駆動力伝達部材22に効果的に張力を付与できる。また、摺接部材31は、一端部31a及び他端部31bが支持されることで強固に支持されるため、摺接部材31の振動の発生が抑制される。このため、摺接部材31の振動による音の発生を抑制できる。
【0040】
また、摺接部材31の一端部31aは、クランク軸11の近傍に配置され、摺接部材31の他端部31bは、クランク軸11とカム軸21との間で、カム軸21側に寄せて配置される。
この構成によれば、摺接部材31を摺接部材31の長手方向の広範囲に亘って駆動力伝達部材22に摺接させることができ、駆動力伝達部材22に効果的に張力を付与できる。
【0041】
また、押圧力伝達部材33が摺接部材31に当接して摺接部材31を押圧する押圧部51と揺動支持部35との距離L1は、摺接部材31が駆動力伝達部材22に摺接する摺接部31cの長さL2よりも大きい。
この構成によれば、押圧力伝達部材33からの押圧力を、摺接部31cに対し効果的に伝達できる。このため、駆動力伝達部材22に効果的に張力を付与できる。
【0042】
また、摺接部31cの大半は、進行方向Dにおいて、押圧部51と揺動支持部35との間に挟まれている。
この構成によれば、押圧力伝達部材33からの押圧力を、摺接部31cに対し効果的に伝達できる。このため、駆動力伝達部材22に効果的に張力を付与できると同時に打音の発生を抑制できる。
【0043】
また、張力付与装置30は、内燃機関10に設けられ、内燃機関10は、クランク軸11と、クランク軸11を支持するクランクケース12と、クランクケース12に結合されるシリンダーブロック14と、シリンダーブロック14に結合されるシリンダーヘッド15と、シリンダーヘッド15に支持されるカム軸21とを備え、駆動軸はクランク軸11であり、被動軸はカム軸21であり、押圧部材32はクランクケース12に配置され、摺接部材31は、シリンダーヘッド15によって揺動自在に支持される。
この構成によれば、押圧部材32及び摺接部材31をクランクケース12からシリンダーヘッド15までのスペースを利用して配置でき、摺接部材31を長くできる。このため、摺接部材31を長手方向の広範囲に亘って駆動力伝達部材22に摺接させることができ、駆動力伝達部材22に効果的に張力を付与できる。
【0044】
さらに、押圧力伝達部材33は、クランクケース12に配置され、押圧力伝達部材33は、クランクケース12内で摺接部材31を押圧する。
この構成によれば、摺接部材31がクランクケース12内で押圧力伝達部材33に押圧されるため、摺接部材31を長くできる。このため、摺接部材31を長手方向の広範囲に亘って駆動力伝達部材22に摺接させることができ、駆動力伝達部材22に効果的に張力を付与できる。
【0045】
なお、上記実施の形態は本発明を適用した一態様を示すものであって、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
また、上記実施の形態では、内燃機関10が車両としての鞍乗り型車両に搭載される構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、内燃機関10は、作業機や発電機に搭載される汎用のエンジンであっても良い。
【0046】
[上記実施の形態によりサポートされる構成]
上記実施の形態は、以下の構成をサポートする。
【0047】
(構成1)駆動軸と被動軸とを接続する無端状の駆動力伝達部材に摺接する摺接部材と、前記摺接部材を押圧して前記駆動力伝達部材に張力を付与する押圧部材とを備える張力付与装置において、前記摺接部材は、前記駆動力伝達部材の進行方向に沿って延びる棒状であり、前記進行方向に沿って前記駆動力伝達部材に面接触し、前記押圧部材の押圧力を前記摺接部材に伝達する押圧力伝達部材が設けられ、前記押圧力伝達部材は、前記押圧部材によって押圧されて揺動して前記摺接部材を押圧することを特徴とする張力付与装置。
この構成によれば、駆動力伝達部材の進行方向に沿って延びる棒状の摺接部材を、押圧部材によって押圧されて揺動する押圧力伝達部材によって押圧するため、駆動力伝達部材の広い範囲に亘って摺接部材を摺接させることができる。このため、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与できる。
【0048】
(構成2)前記駆動軸の軸方向に見た場合に、前記押圧部材は、前記駆動軸に対し前記摺接部材とは反対側に配置されることを特徴とする構成1記載の張力付与装置。
この構成によれば、駆動軸の軸方向に見た場合に、駆動力伝達部材の進行方向に対し直交する方向に押圧部材がスペースを占めることが抑制される。このため、押圧部材をコンパクトに配置できる。
【0049】
(構成3)前記押圧力伝達部材は、前記押圧部材によって押圧される被押圧部と、前記摺接部材に当接して前記摺接部材を押圧する押圧部と、前記被押圧部と前記押圧部との間の位置に配置される揺動軸とを備え、前記押圧力伝達部材は、前記揺動軸を中心に揺動することを特徴とする構成1または2記載の張力付与装置。
この構成によれば、被押圧部と押圧部との間に配置される揺動軸を中心に押圧力伝達部材を揺動させて、摺接部材を効果的に駆動力伝達部材に押し付けることができる。
【0050】
(構成4)前記押圧力伝達部材は、前記摺接部材の長手方向の一端部を押圧し、前記摺接部材の他端部には、前記摺接部材を支持する揺動支持部が設けられ、前記摺接部材は、前記揺動支持部を中心に前記押圧力伝達部材の揺動方向に揺動可能に支持されることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載の張力付与装置。
この構成によれば、摺接部材は、長手方向の一端部を押圧され、摺接部材の他端部の揺動支持部を中心に揺動する。このため、摺接部材を摺接部材の長手方向の広範囲に亘って駆動力伝達部材に摺接させることができ、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与できる。また、摺接部材は、一端部及び他端部が支持されるため、摺接部材の振動の発生が抑制される。このため、摺接部材の振動による音の発生を抑制できる。
【0051】
(構成5)前記摺接部材の前記一端部は、前記駆動軸の近傍に配置され、前記摺接部材の前記他端部は、前記駆動軸と前記被動軸との間で、前記被動軸側に寄せて配置されることを特徴とする構成4記載の張力付与装置。
この構成によれば、摺接部材を摺接部材の長手方向の広範囲に亘って駆動力伝達部材に摺接させることができ、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与できる。
【0052】
(構成6)前記押圧力伝達部材が前記摺接部材に当接して前記摺接部材を押圧する押圧部と前記揺動支持部との距離は、前記摺接部材が前記駆動力伝達部材に摺接する摺接部の長さよりも大きいことを特徴とする構成4または5記載の張力付与装置。
この構成によれば、押圧力伝達部材からの押圧力を、摺接部に対し効果的に伝達できる。このため、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与できる。
【0053】
(構成7)前記摺接部材が前記駆動力伝達部材に摺接する摺接部の大半は、前記進行方向において、前記押圧力伝達部材が前記摺接部材に当接して前記摺接部材を押圧する押圧部と前記揺動支持部との間に挟まれていることを特徴とする構成4から6のいずれかに記載の張力付与装置。
この構成によれば、押圧力伝達部材からの押圧力を、摺接部に対し効果的に伝達できる。このため、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与できると同時に打音の発生を抑制できる。
【0054】
(構成8)前記張力付与装置は、内燃機関に設けられ、前記内燃機関は、クランク軸と、前記クランク軸を支持するクランクケースと、前記クランクケースに結合されるシリンダーブロックと、前記シリンダーブロックに結合されるシリンダーヘッドと、前記シリンダーヘッドに支持されるカム軸とを備え、前記駆動軸は前記クランク軸であり、前記被動軸は前記カム軸であり、前記押圧部材は前記クランクケースに配置され、前記摺接部材は、前記シリンダーヘッドによって揺動自在に支持されることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載の張力付与装置。
この構成によれば、押圧部材及び摺接部材をクランクケースからシリンダーヘッドまでのスペースを利用して配置でき、摺接部材を長くできる。このため、摺接部材を長手方向の広範囲に亘って駆動力伝達部材に摺接させることができ、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与できる。
【0055】
(構成9)前記押圧力伝達部材は、前記クランクケースに配置され、前記押圧力伝達部材は、前記クランクケース内で前記摺接部材を押圧することを特徴とする構成8記載の張力付与装置。
この構成によれば、摺接部材がクランクケース内で押圧力伝達部材に押圧されるため、摺接部材を長くできる。このため、摺接部材を長手方向の広範囲に亘って駆動力伝達部材に摺接させることができ、駆動力伝達部材に効果的に張力を付与できる。
【符号の説明】
【0056】
10 内燃機関
11 クランク軸(駆動軸)
12 クランクケース
14 シリンダーブロック
15 シリンダーヘッド
21 カム軸(被動軸)
22 駆動力伝達部材
30 張力付与装置
31 摺接部材
31a 一端部
31b 他端部
31c 摺接部
32 押圧部材
33 押圧力伝達部材
35 揺動支持部
50 被押圧部
51 押圧部
52 揺動軸
D 進行方向
L1 距離
L2 長さ
図1
図2