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特許7376048大腸癌の診断を補助する方法、キット及びバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】大腸癌の診断を補助する方法、キット及びバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20231031BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20231031BHJP
   C07K 14/81 20060101ALN20231031BHJP
【FI】
G01N33/574 B
C07K14/47 ZNA
C07K14/81
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021556158
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042344
(87)【国際公開番号】W WO2021095824
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2019206727
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】川崎 ナナ
(72)【発明者】
【氏名】太田 悠葵
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-184168(JP,A)
【文献】JABERIE Hajar et al.,Evaluation of Alpha 1-Antitrypsin for the Early Diagnosis of Colorectal Cancer,Pathology & Oncology Research,2019年06月10日,Vol.26 No.2,Page.1165-1173
【文献】Cormac McCarthy,The Role and Importance of Glycosylation of Acute Phase Proteins with Focus on Alpha-1 Antitrypsin in Acute and Chronic Inflammatory Conditions,J. Proteome Res,2014年06月03日,Vol.13,Page.3131-3143
【文献】Haidi Yin,Quantitative Analysis of α-1-Antitrypsin Glycosylation Isoforms in HCC Patients Using LC-HCD-PRM-MS,Anal. Chem,2020年05月19日,Vol.92,Page.8201-8208
【文献】L. Renee Ruhaak,Targeted Biomarker Discovery by High Throughput Glycosylation Profiling of Human Plasma Alpha1- Antitrypsin and Immunoglobulin A,PLoS ONE,2013年09月09日,Vol.8 No.9,Page.e73082
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/574
C07K 14/47
C07K 14/81
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)に記載された糖鎖を含む、大腸癌の診断を補助するためのバイオマーカー:
(1)被検動物由来の試料中に含まれるアルファ1アンチトリプシンに存在する、下記式1’’、式1’’’、式2’’又は式2’’’で表される少なくとも1つの糖鎖であって、前記糖鎖は、アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合しており、前記試料が全血、血清又は血漿である。
(式1’’中、X 、X 及びX はそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、X 、X 及びX の何れか1つがFuc、残り2つがそれぞれHであり、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である))
(式1’’’中、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
(式2’’中、X 、X 、X 及びX はそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A 、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、X 、X 、X 及びX の何れか1つがFuc、残り3つがそれぞれHであり、A 、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
(式2’’’中、A 、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、A 、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
【請求項2】
前記糖鎖が、前記式2’’又は式2’’’で表される糖鎖である、請求項1に記載のバイオマーカー。
【請求項3】
被検動物由来の試料中の、下記(1)に記載の糖鎖を測定することを含み、前記試料が全血、血清又は血漿である、データの取得方法:
(1)アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合している、下記式1’’、1’’’、2’’又は2’’’で表される少なくとも1つの糖鎖。
(式1’’中、X 、X 及びX はそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、X 、X 及びX の何れか1つがFuc、残り2つがそれぞれHであり、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である))
(式1’’’中、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
(式2’’中、X 、X 、X 及びX はそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A 、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、X 、X 、X 及びX の何れか1つがFuc、残り3つがそれぞれHであり、A 、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
(式2’’’中、A 、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、A 、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
【請求項4】
前記糖鎖が、前記式2’’又は式2’’’で表される糖鎖である、請求項3に記載のデータの取得方法。
【請求項5】
被検動物由来の試料中の、下記(1)に記載された糖鎖を測定し、得られた測定結果をカットオフ値と比較する、得られた測定結果を健常動物由来の試料を用いて前記測定により得られた値と比較する、又は、同一の被検動物においてある時点における被検動物由来の測定結果と、異なる時点での被検動物由来の測定結果を比較し、
前記試料が、全血、血清又は血漿である、
大腸癌の診断を補助する方法:
(1)アルファ1アンチトリプシンに存在する、下記式1’’、式1’’’、式2’’又は式2’’’で表される少なくとも1つの糖鎖であって、前記糖鎖は、アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合している。
(式1’’中、X 、X 及びX はそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、X 、X 及びX の何れか1つがFuc、残り2つがそれぞれHであり、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である))
(式1’’’中、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
(式2’’中、X 、X 、X 及びX はそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A 、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、X 、X 、X 及びX の何れか1つがFuc、残り3つがそれぞれHであり、A 、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
(式2’’’中、A 、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、A 、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
【請求項6】
前記糖鎖が、前記式2’’又は式2’’’で表される糖鎖である、請求項5に記載の大腸癌の診断を補助する方法。
【請求項7】
下記(1)に記載された糖鎖に親和性を有する物質を含全血、血清又は血漿に対して用いられる、大腸癌の診断を補助するための試薬キット:
(1)アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合している、下記式1’’、式1’’’、式2’’又は式2’’’で表される少なくとも1つの糖鎖
(式1’’中、X 、X 及びX はそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、X 、X 及びX の何れか1つがFuc、残り2つがそれぞれHであり、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である))
(式1’’’中、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
(式2’’中、X 、X 、X 及びX はそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A 、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、X 、X 、X 及びX の何れか1つがFuc、残り3つがそれぞれHであり、A 、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
(式2’’’中、A 、A 及びA はそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表し、但し、A 、A 及びA におけるNeu5Acの総数が2である)
【請求項8】
前記糖鎖が、前記式2’’又は式2’’’で表される糖鎖である、請求項7に記載の大腸癌の診断を補助するための試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸癌の診断を補助する方法、キット及びバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖とは、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン等の単糖及びこれらの誘導体がグリコシド結合によって鎖状に結合した分子の総称である。
糖鎖は、生体内ではタンパク質や脂質と結合した複合糖質の形態で主に細胞表面に存在しており、細胞の増殖、細菌やウィルスへの感染、神経の伸長、炎症、免疫等の生理作用に関与している。
【0003】
一方、糖鎖は、大腸癌等の疾患に伴いその構造が変化することも知られている。近年、糖鎖を大腸癌等の疾患のバイオマーカーとして用いるための研究が盛んに行われている。
上記バイオマーカーとしては、例えば、癌胎児性抗原(CEA:carcinoembryonic antigen)、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテイン等が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-184168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の公知のバイオマーカーは、正確度の点で十分ではなかった。
本発明は、新たな大腸癌のバイオマーカー、キット及び診断補助方法の提供を課題とする。
特に、正確度の高い大腸癌のバイオマーカーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決する目的でなされたものであり、以下の構成よりなる。
[1]
下記(1)~(4)から選ばれる糖鎖を含む、大腸癌の診断を補助するためのバイオマーカー:
(1)アルファ1アンチトリプシンに存在する、下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式1で表される糖鎖、
(3)アルファ1アンチキモトリプシンに存在する、下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体成分9に存在する、下記式1で表される糖鎖。


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)


(式2中、X、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
[2]
前記糖鎖が、下記(1-1)~(4-1)の何れか1つで表される糖鎖である、[1]に記載のバイオマーカー:
(1-1)アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(2-1)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より79番目のアスパラギン残基、186番目のアスパラギン残基又は269番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1で表される糖鎖、
(3-1)アルファ1アンチキモトリプシンのアミノ酸配列のN末端より93番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4-1)補体成分9のアミノ酸配列のN末端より415番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1で表される糖鎖。
[3]
前記糖鎖が、アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖である、[1]又は[2]に記載のバイオマーカー。
[4]
被検動物由来の試料中の、下記(1)~(4)から選ばれる糖鎖を測定し、得られた測定結果に基づいて被検動物が大腸癌に罹患しているか否かを判定する、大腸癌の診断を補助する方法:
(1)アルファ1アンチトリプシンに存在する、下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式1で表される糖鎖、
(3)アルファ1アンチキモトリプシンに存在する、下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体成分9に存在する、下記式1で表される糖鎖。


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)


(式2中、X、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
[5]
前記糖鎖が、下記(1-1)~(4-1)の何れか1つで表される糖鎖である、[4]に記載の方法:
(1-1)アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(2-1)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より79番目のアスパラギン残基、186番目のアスパラギン残基又は269番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1で表される糖鎖、
(3-1)アルファ1アンチキモトリプシンのアミノ酸配列のN末端より93番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4-1)補体成分9のアミノ酸配列のN末端より415番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1で表される糖鎖。
[6]
前記糖鎖が、アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖である、[4]又は[5]に記載の方法。
[7]
前記試料が、全血、血清又は血漿である、[4]~[6]の何れか1つに記載の方法。
[8]
下記(1)~(4)から選ばれる糖鎖に親和性を有する物質を含む、大腸癌の診断を補助するための試薬キット:
(1)アルファ1アンチトリプシンに存在する、下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式1で表される糖鎖、
(3)アルファ1アンチキモトリプシンに存在する、下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体成分9に存在する、下記式1で表される糖鎖。


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)


(式2中、X、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
[9]
前記糖鎖が、下記(1-1)~(4-1)の何れか1つで表される糖鎖である、[8]に記載の試薬キット:
(1-1)アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(2-1)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より79番目のアスパラギン残基、186番目のアスパラギン残基又は269番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1で表される糖鎖、
(3-1)アルファ1アンチキモトリプシンのアミノ酸配列のN末端より93番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4-1)補体成分9のアミノ酸配列のN末端より415番目のアスパラギン残基に結合している、前記式1で表される糖鎖。
【発明の効果】
【0007】
本発明の大腸癌の診断を補助するためのバイオマーカー及び方法、並びにそのための試薬キットによれば、高い正確度で大腸癌の診断を補助することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】糖ペプチドA、B、C及びDのピーク面積値について、大腸癌患者(n=18)の平均値及び健常者(n=20)の平均値を示した図である。
図2】糖ペプチドE,F、G及びHのピーク面積値について、大腸癌患者(n=18)の平均値及び健常者(n=20)の平均値を示した図である。
図3】糖ペプチドI、J、K及びLのピーク面積値について、大腸癌患者(n=18)の平均値及び健常者(n=20)の平均値を示した図である。
図4】糖ペプチドMのピーク面積値について、大腸癌患者(n=18)の平均値及び健常者(n=20)の平均値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の大腸癌の診断を補助するためのバイオマーカー>
本発明の大腸癌の診断を補助するためのバイオマーカー(以下、本発明のバイオマーカーと略記する場合がある。)は、下記(1)~(4)から選ばれる糖鎖を含むものである。
(1)アルファ1アンチトリプシンに存在する、下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖(以下、本発明のバイオマーカー(1)と略記する場合がある。)、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、下記式1で表される糖鎖(以下、本発明のバイオマーカー(2)と略記する場合がある。)、
(3)アルファ1アンチキモトリプシンに存在する、下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖(以下、本発明のバイオマーカー(3)と略記する場合がある。)、
(4)補体成分9に存在する、下記式1で表される糖鎖(以下、本発明のバイオマーカー(4)と略記する場合がある。)。
尚、本発明のバイオマーカーは、本発明のバイオマーカー(1)~(4)の何れかを単独で含むものでも、或いは複数種を含むものであってもよい。
以下に本発明のバイオマーカー(1)~(4)についてそれぞれ説明する。
【0010】
[本発明のバイオマーカー(1)]
本発明のバイオマーカー(1)は、アルファ1アンチトリプシンに存在する下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖を含むものである。


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)


(式2中、X、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
【0011】
上記式1及び2における、Neu5AcはN-アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GlcNAcはN-アセチルグルコサミン、Manはマンノース、Fucはフコース、Hは水素原子を表す。
上記式1及び2における、XがHの場合(X、X、X、X、X又は/及びXがHの場合も同様)、X-GlcNAcは、GlcNAcを表す。また、上記式1及び2における末端のAがHの場合(A、A、A又は/及びAがHの場合も同様)、A-Gal-は、Gal-を表す。以下、本明細書において同じ意味を表す。
【0012】
尚、本発明のバイオマーカー(1)としては、上記式1で表される糖鎖及び上記式2で表される糖鎖のうち、式1で表される糖鎖のみを有するものでも、式2で表される糖鎖のみを有するものでも、式1で表される糖鎖と式2で表される糖鎖の両方を有するものでもよい。また、式1に含まれる単一の糖鎖のみを有するものでも、式1に含まれる複数の糖鎖を有するものでもよく、式2に含まれる単一の糖鎖のみを有するものでも、式2に含まれる複数の糖鎖を有するものでもよい。
【0013】
本発明のバイオマーカー(1)に係るアルファ1アンチトリプシンとは、394個のアミノ酸からなる糖タンパク質であり、主に肝細胞で生成され、種々の炎症時に血中で増加する急性相反応物質の一つである。また、血中における最も主要なプロテアーゼインヒビターとして機能していることも知られている。
また、上記アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列は、例えば、Uniprot(アクセッション番号:P01009)等のデータベースに登録されている。
本発明のバイオマーカー(1)に係るアルファ1アンチトリプシンは、上記データベースに登録されているもののみならず、生体内で生じ得る変異体等も含む。例えば、当該アルファ1アンチトリプシンにおいて1~5個、好ましくは1又は2個のアミノ酸が欠失、置換又は/及び付加されたものであって、多型性や突然変異等により生じるものである。
但し、変異体であっても、本発明のバイオマーカー(1)における式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖とアルファ1アンチトリプシンとの結合部位である、当該アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が保存されているものが好ましい。
【0014】
本発明のバイオマーカー(1)における式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖(末端のN-アセチルグルコサミン)は、アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合(N-グリコシド結合)しているものが好ましい。
以下に、本発明のバイオマーカー(1)における式1又は2で表される糖鎖について、それぞれ説明する。
【0015】
[アルファ1アンチトリプシンに存在する式1で表される糖鎖]


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
【0016】
上記式1におけるX、X及びXは、下記表1に示す組み合わせが好ましく、組み合わせ4~7がより好ましい。
【0017】
【表1】
【0018】
上記式1におけるA及びAは、下記表2に示す組み合わせが好ましく、組み合わせ1、2及び4がより好ましい。
【0019】
【表2】
【0020】
上記式1におけるX、X及びX、並びにA及びAの組み合わせとしては、下記表3に示すものが好ましく、組み合わせ16、17、19、21、22、24、26、27、29、31、32及び34がより好ましい。
【0021】
【表3】
【0022】
上記式1で表される糖鎖は、GlcNAc、Man、Gal、Neu5Ac、Fuc等の各単糖同士の結合様式により、例えば、下記式1’で表されるものが好ましい。


(式1’中、X、X及びX、並びにA及びAは、上記と同じ)
【0023】
更に、上記式1’は、下記式1’’又は式1’’’で表されるものが好ましい。

【0024】
(式1’’中、X、X及びX、並びにA及びAは、上記と同じ(但し、X、X及びXの何れか1つがFuc、残り2つがそれぞれHであり、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))


(式1’’’中、A及びAは、上記と同じ(但し、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0025】
上記式1’、式1’’及び式1’’’におけるX、X又はXがFucである場合、Fucは、例えば、α1-6グリコシド結合によりGlcNAcと結合するのが好ましい。A又は/及びAがNeu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-3グリコシド結合又はα2-6グリコシド結合によりGalと結合するのが好ましい。また、A又はAがNeu5Ac-Neu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-8グリコシド結合によりNeu5Acと結合するのが好ましい。
式1’、式1’’及び式1’’’におけるX、X及びX、並びにA及びAの具体例、組み合わせは、上記式1と同じである。
【0026】
[アルファ1アンチトリプシンに存在する式2で表される糖鎖]


(式2中、X、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
【0027】
上記式2におけるX、X、X及びXは、例えば、下記表4に示す組み合わせが好ましい。
【0028】
【表4】
【0029】
上記式2におけるA、A及びAは、下記表5に示す組み合わせが好ましい。
【0030】
【表5】
【0031】
上記式2におけるX、X、X及びX、並びにA、A及びAの組み合わせとしては、下記表6に示すものが好ましい。
【0032】
【表6】
【0033】
上記式2で表される糖鎖は、GlcNAc、Man、Gal、Neu5Ac、Fuc等の各単糖同士の結合様式により、例えば、下記式2’で表されるものが好ましい。


(式2’中、X、X、X及びX、並びにA、A及びAは、上記と同じ)
【0034】
更に、上記式2’は、下記式2’’又は式2’’’で表されるものが好ましい。


(式2’’中、X、X、X及びX、並びにA、A及びAは、上記と同じ(但し、X、X、X及びXの何れか1つがFuc、残り3つがそれぞれHであり、A、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0035】


(式2’’’中、A、A及びAは、上記と同じ(但し、A、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0036】
上記式2’、式2’’及び式2’’’におけるX、X、X又はXがFucである場合、Fucは、例えば、α1-6グリコシド結合によりGlcNAcと結合するのが好ましい。A、A又は/及びAがNeu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-3グリコシド結合又はα2-6グリコシド結合によりGalと結合するのが好ましい。また、A、A又はAがNeu5Ac-Neu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-8グリコシド結合によりNeu5Acと結合するのが好ましい。
式2’、式2’’及び式2’’’におけるX、X、X及びX、並びにA、A及びAの具体例、組み合わせは、上記式2と同じである。
【0037】
本発明のバイオマーカー(1)、即ち、アルファ1アンチトリプシンに存在する式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖を含む、バイオマーカーとしては、(i)アルファ1アンチトリプシンに存在する式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖そのもの、(ii)式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖が結合したアルファ1アンチトリプシン、(iii)アルファ1アンチトリプシンの一部分であって、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖が結合したペプチド断片等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
尚、上記ペプチド断片とは、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖とアルファ1アンチトリプシンとの結合部位である、アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)を少なくとも有する任意の断片である。具体的には、例えば、生体内で生じるものや、アルファ1アンチトリプシンを、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼ処理に付した結果生じるものが挙げられ、より具体的には、2~50個のアミノ酸残基からなるもの等が挙げられ、配列番号1で表されるものが好ましい。
【0038】
[本発明のバイオマーカー(2)]
本発明のバイオマーカー(2)は、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する下記式1で表される少なくとも1つの糖鎖を含むものである。


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
尚、本発明のバイオマーカー(2)としては、上記式1に含まれる単一の糖鎖のみを有するものでも、式1に含まれる複数の糖鎖を有するものでもよい。
【0039】
本発明のバイオマーカー(2)に係るロイシンリッチアルファ2グリコプロテインとは、血液に含まれるタンパク質であり、ロイシンリッチリピート構造を有することを特徴とするものである。関節リウマチ、炎症性腸疾患等種々の疾患に関与していることが報告されている。
また、上記ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列は、例えば、Uniprot(アクセッション番号:P02750)等のデータベースに登録されている。
本発明のバイオマーカー(2)に係るロイシンリッチアルファ2グリコプロテインは、上記データベースに登録されているもののみならず、生体内で生じ得る変異体等も含む。例えば、当該ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインにおいて1~5個、好ましくは1又は2個のアミノ酸が欠失、置換又は/及び付加されたものであって、多型性や突然変異等により生じるものである。
但し、変異体であっても、本発明のバイオマーカー(2)における式1で表される糖鎖とロイシンリッチアルファ2グリコプロテインとの結合部位である、当該ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より79番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)、186番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)、又は269番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が保存されているものが好ましい。
【0040】
本発明のバイオマーカー(2)における式1で表される糖鎖(末端のN-アセチルグルコサミン)は、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より79番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)、186番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)、又は269番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合(N-グリコシド結合)しているものが好ましい。
以下に、本発明のバイオマーカー(2)における式1で表される糖鎖について、説明する。
【0041】
[ロイシンリッチアルファ2グリコプロテイに存在する式1で表される糖鎖]


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
【0042】
上記式1におけるX、X及びXは、上記表1に示す組み合わせが好ましい。
【0043】
上記式1におけるA及びAは、上記表2に示す組み合わせが好ましい。
【0044】
上記式1におけるX、X及びX、並びにA及びAの組み合わせとしては、上記表3に示すものが好ましい。
【0045】
上記式1で表される糖鎖は、GlcNAc、Man、Gal、Neu5Ac、Fuc等の各単糖同士の結合様式により、例えば、下記式1’で表されるものが好ましい。


(式1’中、X、X及びX、並びにA及びAは、上記と同じ)
【0046】
更に、上記式1’は、下記式1’’、式1’’’又は式1’’’’で表されるものが好ましい。


(式1’’中、X、X及びX、並びにA及びAは、上記と同じ(但し、X、X及びXの何れか1つがFuc、残り2つがそれぞれHであり、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0047】


(式1’’’中、A及びAは、上記と同じ(但し、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0048】


(式1’’中、X、X及びX、並びにA及びAは、上記と同じ(但し、X、X及びXの何れか2つがそれぞれFuc、残り1つがHであり、A及びAにおけるNeu5Acの総数が1である))
【0049】
上記式1’、式1’’、式1’’’及び式1’’’’におけるX、X又はXがFucである場合、Fucは、例えば、α1-6グリコシド結合によりGlcNAcと結合するのが好ましい。A又は/及びAがNeu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-3グリコシド結合又はα2-6グリコシド結合によりGalと結合するのが好ましい。また、A又はAがNeu5Ac-Neu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-8グリコシド結合によりNeu5Acと結合するのが好ましい。
式1’、式1’’及び式1’’’におけるX、X及びX、並びにA及びAの具体例、組み合わせは、上記式1と同じである。
【0050】
本発明のバイオマーカー(2)、即ち、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する式1で表される糖鎖を含む、バイオマーカーとしては、(i)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する式1で表される糖鎖そのもの、(ii)式1で表される糖鎖が結合したロイシンリッチアルファ2グリコプロテイン、(iii)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインの一部分であって、式1で表される糖鎖が結合したペプチド断片等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
尚、上記ペプチド断片とは、式1で表される糖鎖とロイシンリッチアルファ2グリコプロテインとの結合部位である、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より70番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)、186番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)、又は269番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)を少なくとも有する任意の断片である。具体的には、例えば、生体内で生じるものや、アルファ1アンチトリプシンを、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼ処理に付した結果生じるものが挙げられ、より具体的には、2~50個のアミノ酸残基からなるもの等が挙げられ、配列番号2、配列番号3又は配列番号4で表されるものが好ましい。
【0051】
[本発明のバイオマーカー(3)]
本発明のバイオマーカー(3)は、アルファ1アンチキモトリプシンに存在する下記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖を含むものである。


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)


(式2中、X、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
【0052】
尚、本発明のバイオマーカー(3)としては、上記式1で表される糖鎖及び上記式2で表される糖鎖のうち、式1で表される糖鎖のみを有するものでも、式2で表される糖鎖のみを有するものでも、式1で表される糖鎖と式2で表される糖鎖の両方を有するものでもよい。また、式1に含まれる単一の糖鎖のみを有するものでも、式1に含まれる複数の糖鎖を有するものでもよく、式2に含まれる単一の糖鎖のみを有するものでも、式2に含まれる複数の糖鎖を有するものでもよい。
【0053】
本発明のバイオマーカー(3)に係るアルファ1アンチキモトリプシンとは、433個のアミノ酸からなる糖タンパク質であり、血清中に存在するセリンプロテアーゼインヒビターファミリーの1つである。また、血中における最も主要なプロテアーゼインヒビターとして機能していることが知られている。
また、上記アルファ1アンチキモトリプシンのアミノ酸配列は、例えば、Uniprot(アクセッション番号:P01011)等のデータベースに登録されている。
本発明のバイオマーカー(3)に係るアルファ1アンチキモトリプシンは、上記データベースに登録されているもののみならず、生体内で生じ得る変異体等も含む。例えば、当該アルファ1アンチキモトリプシンにおいて1~5個、好ましくは1又は2個のアミノ酸が欠失、置換又は/及び付加されたものであって、多型性や突然変異等により生じるものである。
但し、変異体であっても、本発明のバイオマーカー(3)における式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖とアルファ1アンチキモトリプシとの結合部位である、当該アルファ1アンチキモトリプシのアミノ酸配列のN末端より93番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が保存されているものが好ましい。
【0054】
本発明のバイオマーカー(3)における式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖(末端のN-アセチルグルコサミン)は、アルファ1アンチキモトリプシのアミノ酸配列のN末端より93番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合(N-グリコシド結合)しているものが好ましい。
以下に、本発明のバイオマーカー(3)における式1又は2で表される糖鎖について、それぞれ説明する。
【0055】
[アルファ1アンチキモトリプシンに存在する式1で表される糖鎖]


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
【0056】
上記式1におけるX、X及びXは、上記表1に示す組み合わせが好ましく、組み合わせ4~7がより好ましい。
【0057】
上記式1におけるA及びAは、上記表2に示す組み合わせが好ましく、組み合わせ1、2及び4がより好ましい。
【0058】
上記式1におけるX、X及びX、並びにA及びAの組み合わせとしては、上記表3に示すものが好ましく、組み合わせ16、17、19、21、22、24、26、27、29、31、32及び34がより好ましい。
【0059】
上記式1で表される糖鎖は、GlcNAc、Man、Gal、Neu5Ac、Fuc等の各単糖同士の結合様式により、例えば、下記式1’で表されるものが好ましい。


(式1’中、X、X及びX、並びにA及びAは、上記と同じ)
【0060】
更に、上記式1’は、下記式1’’又は式1’’’で表されるものが好ましい。


(式1’’中、X、X及びX、並びにA及びAは、上記と同じ(但し、X、X及びXの何れか1つがFuc、残り2つがそれぞれHであり、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0061】


(式1’’’中、A及びAは、上記と同じ(但し、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0062】
上記式1’、式1’’及び式1’’’におけるX、X又はXがFucである場合、Fucは、例えば、α1-6グリコシド結合によりGlcNAcと結合するのが好ましい。A又は/及びAがNeu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-3グリコシド結合又はα2-6グリコシド結合によりGalと結合するのが好ましい。また、A又はAがNeu5Ac-Neu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-8グリコシド結合によりNeu5Acと結合するのが好ましい。
式1’、式1’’及び式1’’’におけるX、X及びX、並びにA及びAの具体例、組み合わせは、上記式1と同じである。
【0063】
[アルファ1アンチキモトリプシンに存在する式2で表される糖鎖]


(式2中、X、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
【0064】
上記式2におけるX、X、X及びXは、例えば、上記表4に示す組み合わせが好ましい。
【0065】
上記式2におけるA、A及びAは、上記表5に示す組み合わせが好ましい。
【0066】
上記式2におけるX、X、X及びX、並びにA、A及びAの組み合わせとしては、上記表6に示すものが好ましい。
【0067】
上記式2で表される糖鎖は、GlcNAc、Man、Gal、Neu5Ac、Fuc等の各単糖同士の結合様式により、例えば、下記式2’で示されるものが好ましい。


(式2’中、X、X、X及びX、並びにA、A及びAは、上記と同じ)
【0068】
更に、上記式2’は、下記式2’’又は式2’’’で表されるものが好ましい。


(式2’中、X、X、X及びX、並びにA、A及びAは、上記と同じ(但し、X、X、X及びXの何れか1つがFuc、残り3つがそれぞれHであり、A、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0069】


(式2’’’中、A、A及びAは、上記と同じ(但し、A、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0070】
上記式2’、式2’’及び式2’’’におけるX、X、X又はXがFucである場合、Fucは、例えば、α1-6グリコシド結合によりGlcNAcと結合するのが好ましい。A、A又はAがNeu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-3グリコシド結合又はα2-6グリコシド結合によりGalと結合するのが好ましい。また、A又はAがNeu5Ac-Neu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-8グリコシド結合によりNeu5Acと結合するのが好ましい。
式2’、式2’’及び式2’’’におけるX、X、X及びX、並びにA、A及びAの具体例、組み合わせは、上記式1と同じである。
【0071】
本発明のバイオマーカー(3)、即ち、アルファ1アンチキモトリプシンに存在する式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖を含む、バイオマーカーとしては、(i)アルファ1アンチキモトリプシンに存在する式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖そのもの、(ii)式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖が結合したアルファ1アンチキモトリプシン、(iii)アルファ1アンチキモトリプシンの一部分であって、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖が結合したペプチド断片等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
尚、上記ペプチド断片とは、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖とアルファ1アンチキモトリプシンとの結合部位である、アルファ1アンチキモトリプシンのアミノ酸配列のN末端より93番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)を少なくとも有する任意の断片である。具体的には、例えば、生体内で生じるものや、アルファ1アンチキモトリプシンを、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼ処理に付した結果生じるものが挙げられ、より具体的には、2~50個のアミノ酸残基からなるもの等が挙げられ、配列番号5で表されるものが好ましい。
【0072】
[本発明のバイオマーカー(4)]
本発明のバイオマーカー(4)は、補体成分9に存在する下記式1で表される糖鎖を含むものである。


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
【0073】
本発明のバイオマーカー(4)に係る補体成分9とは、免疫反応(抗原抗体反応)を補助するタンパク質の1つである。生理的な機能としては、抗原のオプソニン化、膜侵襲複合体による細菌の破壊、マクロファージ等の貪食細胞の活性化等が知られている。
また、上記補体成分9のアミノ酸配列は、例えば、Uniprot(アクセッション番号:P02748)等のデータベースに登録されている。
本発明のバイオマーカー(4)に係る補体成分9は、上記データベースに登録されているもののみならず、生体内で生じ得る変異体等も含む。例えば、当該補体成分9において1~5個、好ましくは1又は2個のアミノ酸が欠失、置換又は/及び付加されたものであって、多型性や突然変異等により生じるものである。
但し、変異体であっても、本発明のバイオマーカー(4)における式1で表される糖鎖と補体成分9との結合部位である、当該補体成分9のアミノ酸配列のN末端より415番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)が保存されているものが好ましい。
【0074】
本発明のバイオマーカー(4)における式1で表される糖鎖(末端のN-アセチルグルコサミン)は、補体成分9のアミノ酸配列のN末端より415番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合(N-グリコシド結合)しているものが好ましい。
以下に、本発明のバイオマーカー(4)における式1で表される糖鎖について、それぞれ説明する。
【0075】
[補体成分9に存在する式1で表される糖鎖]


(式1中、X、X及びXはそれぞれ独立してFuc又はHを表し、A及びAはそれぞれ独立してNeu5Ac、Neu5Ac-Neu5Ac又はHを表す)
【0076】
上記式1におけるX、X及びXは、上記表1に示す組み合わせが好ましく、組み合わせ7がより好ましい。
【0077】
上記式1におけるA及びAは、上記表2に示す組み合わせが好ましく、組み合わせ1、2及び4がより好ましい。
【0078】
上記式1におけるX、X及びX、並びにA及びAの組み合わせとしては、上記表3に示すものが好ましく、組み合わせ31、32及び34がより好ましい。
【0079】
上記式1で表される糖鎖は、GlcNAc、Man、Gal、Neu5Ac、Fuc等の各単糖同士の結合様式により、例えば、下記式1’で示されるものが好ましい。


(式1’中、X、X及びX、並びにA及びAは、上記と同じ)
【0080】
更に、上記式1’は、下記式1’’’で表されるものが好ましい。


(式1’’’中、A及びAは、上記と同じ(但し、A及びAにおけるNeu5Acの総数が2である))
【0081】
上記式1’におけるX、X又はXがFucである場合、Fucは、例えば、α1-6グリコシド結合によりGlcNAcと結合するのが好ましい。上記式1’及び式1’’’におけるA又は/及びAがNeu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-3グリコシド結合又はα2-6グリコシド結合によりGalと結合するのが好ましい。また、A又はAがNeu5Ac-Neu5Acである場合、Neu5Acは、例えば、α2-8グリコシド結合によりNeu5Acと結合するのが好ましい。
式1’及び式1’’’におけるX、X及びX、並びにA及びAの具体例、組み合わせは、上記式1と同じである。
【0082】
本発明のバイオマーカー(4)、即ち、補体成分9に存在する式1で表される糖鎖を含む、バイオマーカーとしては、(i)補体成分9に存在する式1で表される糖鎖そのもの、(ii)式1で表される糖鎖が結合した補体成分9、(iii)補体成分9の一部分であって、式1で表される糖鎖が結合したペプチド断片等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
尚、上記ペプチド断片とは、式1で表される糖鎖と補体成分9との結合部位である、補体成分9のアミノ酸配列のN末端より415番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)を少なくとも有する任意の断片である。具体的には、例えば、生体内で生じるものや、補体成分9を、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼ処理に付した結果生じるものが挙げられ、より具体的には、2~50個のアミノ酸残基からなるもの等が挙げられ、配列番号6で表されるものが好ましい。
【0083】
本発明のバイオマーカーとしては、(i)アルファ1アンチトリプシンに存在する、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖を含むもの又は(ii)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、式1で表される糖鎖を含むものが好ましく、(i)アルファ1アンチトリプシンに存在する、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖を含むものがより好ましく、(iii)アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列N末端より70番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合している式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖が特に好ましい。
【0084】
[本発明に係る大腸癌]
本発明に係る大腸癌とは、大腸から発生した癌(悪性腫瘍)のことである。本発明に係る大腸癌には、例えば、結腸癌、直腸癌等が含まれる。
【0085】
<本発明の大腸癌の診断を補助する方法>
本発明の大腸癌の診断を補助する方法(以下、本発明の補助方法と略記する場合がある)は、被検動物由来の試料中の下記(1)~(4)から選ばれる糖鎖を測定し(以下、本発明に係る測定工程と略記する場合がある)、得られた測定結果に基づいて被検動物が大腸癌に罹患しているか否かを判定すること(以下、本発明に係る判定工程と略記する場合がある)によりなされる。
(1)アルファ1アンチトリプシンに存在する、上記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖(本発明のバイオマーカー(1))、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、上記式1で表される糖鎖(本発明のバイオマーカー(2))、
(3)アルファ1アンチキモトリプシンに存在する、上記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖(本発明のバイオマーカー(3))、
(4)補体成分9に存在する、上記式1で表される糖鎖(本発明のバイオマーカー(4))
尚、本発明の補助方法は、本発明のバイオマーカー(1)~(4)の何れか単独を用いてなされても、或いは複数種を用いてなされてもよい。
【0086】
[本発明に係る被検動物]
本発明に係る被検動物としては、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ウサギ、チンパンジー等の哺乳動物が挙げられ、ヒト、サル、マウス又はラットが好ましく、ヒトがより好ましい。
【0087】
[本発明に係る試料]
本発明に係る試料としては、上記被検動物由来のものであればよく、例えば、血清、血漿、全血、尿、唾液、脳脊髄液、組織液、汗、涙、羊水、骨髄液、胸水、腹水、間接液、眼房水、硝子体液等の生体由来試料が挙げられ、血清、血漿、全血等の血液由来試料が好ましく、血清がより好ましい。
【0088】
本発明に係る試料を上記被検動物から得る(採取する)方法は、特に限定されず、例えば、自体公知の方法に基づいて、当該被検動物から当該試料を得る(採取する)ことによりなされればよく、要すれば自体公知の方法に従って、分離、濃縮、精製等を行ってもよい。
尚、上記試料は、上記被検動物から得られた(採取された)直後のものであっても、当該試料を保存したものであってもよい。試料を保存する方法としては、通常この分野で行われている方法であれば何れでもよい。
【0089】
[本発明に係る測定工程]
本発明に係る測定工程は、下記(1)~(4)から選ばれる糖鎖を測定することによりなされる。
(1)アルファ1アンチトリプシンに存在する、上記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、上記式1で表される糖鎖、
(3)アルファ1アンチキモトリプシンに存在する、上記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体成分9に存在する、下記式1で表される糖鎖
尚、本発明に係る測定工程としては、本発明のバイオマーカー(1)~(4)の何れか単独を測定することによりなされても、或いは複数種を測定することによりなされてもよい。
【0090】
本発明に係る測定工程における上記(1)~(4)から選ばれる糖鎖の測定とは、本発明のバイオマーカー(1)~(4)から選ばれる1つを測定することであり、具体的には、例えば、(i)本発明のバイオマーカーにおけるコアタンパク質に結合した(由来する)糖鎖そのものの量の測定、(ii)本発明のバイオマーカーにおける糖鎖が結合したコアタンパク質の量の測定、(iii)本発明のバイオマーカーにおけるコアタンパク質の一部分であって、糖鎖が結合したペプチド断片の量の測定等が挙げられ、(ii)又は(iii)が好ましい。
上記本発明のバイオマーカーにおけるコアタンパク質とは、本発明のバイオマーカーにおける糖鎖以外の部分を意味し、本発明のバイオマーカー(1)であれば、アルファ1アンチトリプシンを意味し、本発明のバイオマーカー(2)であれば、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインを意味し、本発明のバイオマーカー(3)であれば、アルファ1アンチキモトリプシンを意味し、本発明のバイオマーカー(4)であれば、補体成分9を意味する。
尚、上記「量」とは、容量、質量等の絶対値又は濃度、イオン強度、吸光度、蛍光強度、濁度、ピーク面積等から算出された値等の相対値の何れであってもよい。
【0091】
本発明に係る測定工程における測定方法としては、通常この分野で行われているものであれば何れでもよく、具体的には、例えば、(A)本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質(例えば、抗体、レクチン等)を用いる方法、(B)質量分析法を利用する方法等が挙げられ、(A)が好ましい。
以下に、上記(A)及び(B)についてそれぞれ具体的に説明する。
【0092】
(A)本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法
【0093】
上記本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質とは、本発明のバイオマーカーにおけるコアタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合する抗体や、本発明のバイオマーカーにおける糖鎖に特異的に結合するレクチンや抗体等が挙げられる。
本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質として、抗体のみを用いる場合は免疫学的測定方法により、抗体以外の物質(例えばレクチン等)あるいは抗体以外の物質及び抗体を用いる場合は免疫学的測定方法に準じた方法により、本発明のバイオマーカーを測定すればよい。これらの測定方法の原理としては、例えばサンドイッチ法や競合法が挙げられ、また、ホモジニアスな測定系であってもヘテロジニアスな測定系であってもよい。
【0094】
上記本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法としては、具体的には、例えば、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとを接触させて、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとの複合体を形成させ、本発明のバイオマーカーの量を測定することによりなされればよい。
【0095】
本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法としては、具体的には、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA法)、酵素免疫測定法(EIA法)、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)、ラテックス凝集比濁法等の免疫比濁法、免疫比ろう法、イムノクロマト法、ウェスタンブロット法、Luminescent Oxygen ChannelingImmunoassay(LOCI法)、Liquid-phase Binding Assay-ElectroKinetic Analyte Transport Assay(LBA-EATA法)、レクチン電気泳動法等のキャピラリー電気泳動法、表面プラズモン共鳴法、レクチンカラム法等が挙げられ、ELISA法、EIA法、RIA法、FIA法、CLEIA法、LBA-EATA法、レクチン電気泳動法等のキャピラリー電気泳動法がより好ましい。
【0096】
上記本発明のバイオマーカーにおけるコアタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合する抗体としては、具体的には、例えば、本発明のバイオマーカー(1)であれば、抗アルファ1アンチトリプシン抗体、本発明のバイオマーカー(2)であれば、抗ロイシンリッチアルファ2グリコプロテイン抗体、本発明のバイオマーカー(3)であれば、抗アルファ1アンチキモトリプシン抗体、本発明のバイオマーカー(4)であれば、抗補体成分9抗体等が挙げられる。
上記抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよく、これらを単独で或いは組み合わせて用いてもよい。
上記抗体は、Fab、F(ab’2)、Fv、sFv等の抗体フラグメントやダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ等の合成抗体等であってもよい。
また、上記抗体は、市販の抗体を用いても、自体公知の方法に従って調製したものを用いてもよい。
尚、自体公知の方法に従って、上記抗体を調製する場合には、例えば、「免疫測定法」(生物化学的測定研究会編集、講談社、2014年)等に記載の方法に従ってなされればよい。
【0097】
また、上記抗体は、標識物質で標識されたものであってもよい。当該標識物質としては、具体的には、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ウシ小腸アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ等の酵素、99mTc、131I、125I、14C、H、32P、35S等の放射性同位元素、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、4-メチルウンベリフェロン、ローダミン或いはこれらの誘導体等の蛍光性物質、ルシフェリン、ルミノール、ルテニウム錯体等の発光性物質、フェノール、ナフトール、アントラセン或いはこれらの誘導体等の紫外部に吸収を有する物質、4-アミノ-2,2,6,-テトラメチルピぺリジン-1-オキシル等のオキシル基を有する化合物に代表されるスピンラベル化剤としての性質を有する物質、HiLyte系色素、Alexa系色素、CyDye系色素等の色素、金コロイド、量子ドット等のナノ粒子等が挙げられる。
尚、上記標記物質を抗体に結合させる方法としては、自体公知の方法に従ってなされればよい。
【0098】
上記本発明のバイオマーカーにおける糖鎖に特異的に結合するレクチンとしては、具体的には、例えば、下記の通りである。
即ち、本発明のバイオマーカー(1)であれば、上記式1で表される糖鎖のFuc(フコース)に結合するAleuria Aurantia Lectin(AAL)やLotus Tetragolonobus Lectin(LTL)等、Neu5Ac(N-アセチルノイラミン酸)に結合するElderberry Balk Lectin(EBL),Maackia Amurensis Lectin(MAA)等、上記式2で表される糖鎖のFuc(フコース)に結合するAALやLTL等、Neu5Ac(N-アセチルノイラミン酸)に結合するEBL、MAA等が挙げられる。
本発明のバイオマーカー(2)であれば、上記式1で表される糖鎖のFuc(フコース)に結合するAALやLTL等、Neu5Ac(N-アセチルノイラミン酸)に結合するEBL、MAA等が挙げられる。
本発明のバイオマーカー(3)であれば、上記式1で表される糖鎖のFuc(フコース)に結合するAALやLTL等、Neu5Ac(N-アセチルノイラミン酸)に結合するEBL、MAA等が挙げられる。
また、本発明のバイオマーカー(4)であれば、上記式1で表される糖鎖のFuc(フコース)に結合するAALやLTL等、Neu5Ac(N-アセチルノイラミン酸)に結合するEBL、MAA等が挙げられる。
【0099】
上記レクチンは、標識物質で標識されたものであってもよく、当該標識物質としては、上記本発明のバイオマーカーにおけるコアタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合する抗体にて説明した通りであり、具体例等も同じである。また、上記標識物質をレクチンに結合させる方法としては、自体公知の方法に従ってなされればよい。
【0100】
上記本発明のバイオマーカーにおける糖鎖に特異的に結合する抗体としては、具体的には、例えば、下記の通りである。
即ち、本発明のバイオマーカー(1)であれば、上記式1で表される糖鎖に特異的に結合する抗体、上記式2で表される糖鎖に特異的に結合する抗体等が挙げられる。
本発明のバイオマーカー(2)であれば、上記式1で表される糖鎖に特異的に結合する抗体等が挙げられる。
本発明のバイオマーカー(3)であれば、上記式1で表される糖鎖に特異的に結合する抗体、上記式2で表される糖鎖に特異的に結合する抗体等が挙げられる。
本発明のバイオマーカー(4)であれば、上記式1で表される糖鎖に特異的に結合する抗体等が挙げられる。
【0101】
上記抗体は、標識物質で標識されたものであってもよく、当該標識物質としては、上記本発明のバイオマーカーにおけるタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合する抗体にて説明した通りであり、具体例等も同じである。
また、上記標識物質をレクチンに結合させる方法としては、自体公知の方法に従ってなされればよい。
【0102】
上記本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとの複合体の量を測定する方法としては、当該複合体の量を測定し得る方法であれば何れでもよく、具体的には、例えば、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質に結合した標識物質に由来するシグナルを検出する方法、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとの複合体に由来する性質を利用する方法等が挙げられ、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質に結合した標識物質に由来するシグナルを検出する方法が好ましい。
【0103】
上記本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質に結合した標識物質に由来するシグナルを検出する方法としては、具体的には、例えば、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質に結合した標識物質に由来するシグナルを自体公知の方法により検出することによりなされればよい。例えば、標識物質が酵素の場合には、免疫測定法の常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、51~63,共立出版、1987)等に記載された方法に準じて測定を行えばよく、標識物質が放射性物質の場合には、例えばRIAで行われている常法に従い、該放射性物質の出す放射線の種類および強さに応じて液浸型GMカウンター、液体シンチレーションカウンター、井戸型シンチレーションカウンター、HPLC用カウンター等の測定機器を適宜選択して使用し、測定を行えばよい(例えば医化学実験講座、第8巻、山村雄一監修、第1版、中山書店、1971等参照)。また、標識物質が蛍光物質の場合には、例えば蛍光光度計等の測定機器を用いるFIAで行われている常法、例えば「図説 蛍光抗体、川生明著、第1版、ソフトサイエンス社、1983」等に記載された方法に準じて測定を行えばよく、標識物質が発光物質の場合にはフォトカウンター等の測定機器を用いる常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、252~263、共立出版、1987)等に記載された方法に準じて測定を行えばよい。さらに、標識物質が紫外部に吸収を有する物質の場合には分光光度計等の測定機器を用いる常法によって測定を行えばよく、標識物質がスピンの性質を有する場合には電子スピン共鳴装置を用いる常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、264~271、共立出版、1987)等に記載された方法に準じてそれぞれ測定を行えばよい。
【0104】
上記本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとの複合体に由来する性質を利用する方法としては、具体的には、例えば、表面プラズモン共鳴法等のホモジニアスイムノアッセイ系等の方法等が挙げられる。
尚、上記方法の具体的な手法については、自体公知の手法に従ってなされればよい。
【0105】
以下に、(A)本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法について、より具体的に説明する。
尚、下記説明において、本発明のバイオマーカーにおけるコアタンパク質(又はペプチド断片)を「標的コアタンパク質(又は標的ペプチド断片)」、本発明のバイオマーカーにおける糖鎖を「標的糖鎖」と表記する。
例えば、本発明のバイオマーカー(1)を測定する場合、アルファ1アンチトリプシンが「標的コアタンパク質(又は標的ペプチド断片)」を、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖が「標的糖鎖」を意味する。
本発明のバイオマーカー(2)を測定する場合、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインが「標的コアタンパク質(又は標的ペプチド断片)」を、式1で表される糖鎖が「標的糖鎖」を意味する。
本発明のバイオマーカー(3)を測定する場合、アルファ1アンチキモトリプシンが「標的コアタンパク質(又は標的ペプチド断片)」、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖が「標的糖鎖」を意味する。
本発明のバイオマーカー(4)を測定する場合、補体成分9が「標的コアタンパク質(又は標的ペプチド断片)」を、式1で表される糖鎖が「標的糖鎖」を意味する。
【0106】
上記(A)本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法としては、具体的には、例えば、下記工程1及び2を含む方法が挙げられる。
(工程1)試料から標的糖鎖が結合した標的コアタンパク質(本発明のバイオマーカー)を分離する工程、
(工程2)前記工程1で分離された標的糖鎖が結合した標的コアタンパク質の量を測定する工程
【0107】
工程1としては、試料から標的糖鎖が結合した標的コアタンパク質を分離し得る方法であれば何れでもよく、具体的には、例えば、試料中に存在する標的糖鎖が結合した標的コアタンパク質と他の成分とを分離する方法が挙げられる。このような方法としては、具体的には、例えば、2種以上の親和性を有する物質、即ち、標的糖鎖に特異的に結合する物質、及び標的コアタンパク質に特異的に結合する物質を用いて、標的糖鎖が結合した標的コアタンパク質と親和性を有する物質との複合体(標的コアタンパク質に特異的に結合する物質-本発明のバイオマーカー標的糖鎖に特異的に結合する物質)を形成させ、自体公知の方法により、標的糖鎖が結合した標的コアタンパク質を分離すればよい。
また、例えば、標的糖鎖に特異的に結合する物質(例えば、上記の本発明のバイオマーカーにおける糖鎖に特異的に結合するレクチン)と本発明のバイオマーカーとの相互作用を利用して、本発明のバイオマーカー等の標的糖鎖と相互作用する成分と他の成分を分離し、さらに標的コアタンパク質に特異的に結合する物質を用いて、本発明のバイオマーカーと他の成分を分離する方法、例えば、標的コアタンパク質に特異的に結合する物質を用いて、本発明のバイオマーカーと他の成分を分離し、さらに標的糖鎖に特異的に結合する物質(例えば、上記の本発明のバイオマーカーにおける糖鎖に特異的に結合するレクチン)と本発明のバイオマーカーとの相互作用を利用して、本発明のバイオマーカー等の標的糖鎖と相互作用する成分と他の成分を分離する方法により、試料から標的糖鎖が結合した標的コアタンパク質(本発明のバイオマーカー)を分離してもよい。当該本発明のバイオマーカーの分離は、例えばレクチン電気泳動法やレクチンカラム法によりおこなうことができる。
尚、標識物質で標識された親和性を有する物質を用いる場合には、標的糖鎖が結合した標的タンパク質の分離は、標識物質で標識された親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとの複合体の分離と言い換えてもよく、この場合、標識物質で標識された親和性を有する物質と本発明のバイオマーカー以外の成分との複合体又は/及び遊離の標識物質で標識された親和性を有する物質とを分離すればよい。標識物質で標識された親和性を有する物質を構成成分として含まない成分との分離は不要である。
また、上記糖鎖に特異的に結合する親和性を有する物質及びコアタンパク質に特異的に結合する親和性を有する物質については、上述の通りであり、具体例等も同じである。
【0108】
工程2としては、前記工程1で分離された標的糖鎖が結合した標的コアタンパク質を測定し得る方法であれば何れでもよく、具体例等は上述の通りである。
【0109】
上記方法において、工程1を行う前に、予め試料中の全タンパク質(標的タンパク質を含む)をペプチド断片化し、工程1で標的糖鎖が結合した標的ペプチド断片を分離し、工程2で当該標的糖鎖が結合した標的ペプチド断片を測定してもよい。
該断片化処理としては、具体的には、例えば、工程1を行う前に、試料にトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のプロテアーゼを加えることによりなされればよく、工程1で標的糖鎖に結合する物質、及び標的ペプチド断片に結合する物質をそれぞれ用いて、標的糖鎖が結合した標的ペプチド断片と親和性を有する物質との複合体(標的ペプチド断片に特異的に結合する物質-本発明のバイオマーカー標的糖鎖に特異的に結合する物質)を形成させ、該複合体を上述の如く分離した後、該複合体の量を測定すればよい。
【0110】
また、上記全タンパク質の断片化を行った場合、当該断片化に引き続いて、レクチンカラム等のカラムによる濃縮を行ってもよい。当該濃縮は自体公知の方法に従ってなされればよく、市販のレクチンカラム等のカラムを用いればよい。
【0111】
更に、上記方法において、工程2のかわりに、工程1で分離された標的糖鎖が結合した標的タンパク質から標的糖鎖を分離し、当該標的糖鎖のみを測定してもよい。
具体的には、例えば、工程1で分離された標的糖鎖が結合した標的タンパク質を、グリカナーゼ、ヒドラジン等にて処理することにより標的糖鎖を分離した後、当該糖鎖の量のみを上述の如く測定すればよい。
【0112】
(B)質量分析法を利用する方法
質量分析法を利用する方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)、キャピラリー電気泳動質量分析計(CE/MS)、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)、液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計(LC/MS/MS)等を利用する方法が挙げられる。
上記方法としては、具体的には、例えば、液体クロマトグラフ等のクロマトグラフを有する分離部にて、試料中の成分を分離し、分離された種々の成分を質量分析部にてイオン化させ、更に質量電荷比(m/z)毎に分離することによりなされればよい。
尚、上記質量分析法を利用する方法における具体的な手法は自体公知の手法やWO2014/038524、WO2017/19588、WO2018/034346等に記載の手法に従ってなされればよい。
【0113】
上記質量分析法を利用する方法において、試料から予め全タンパク質を抽出してもよく、その方法としては、具体的には、例えば、試料に、アセトン、メタノール、エタノール、トリクロロ酢酸、塩酸水溶液等の溶媒を加えて全タンパク質を沈殿させることによりなされればよい。
【0114】
また、必要に応じ、試料から全タンパク質を抽出する前又は後に、全タンパク質を断片化してもよく、断片化を行った場合、当該断片化に引き続いて、レクチンカラム等のカラムによる濃縮を行ってもよい。当該断片化及び濃縮については、上述の通りである。
【0115】
[好ましい測定工程]
本発明に係る測定工程では、(i)アルファ1アンチトリプシンに存在する、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖又は(ii)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、式1で表される糖鎖を測定することが好ましく、(i)アルファ1アンチトリプシンに存在する、式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖を測定することがより好ましく、(i)アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアミノ酸残基(アスパラギン残基)に結合している式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖を測定することが更に好ましい。
また、上記測定を行う場合には、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質を用いる方法が好ましく、ELISA法、EIA法、RIA法、FIA法、CLEIA法、ラテックス凝集比濁法等の免疫比濁法、免疫比ろう法、イムノクロマト法、ウェスタンブロット法、LOCI法、LBA-EATA法、レクチン電気泳動法等のキャピラリー電気泳動法、表面プラズモン共鳴法、レクチンカラム法がより好ましく、ELISA法、EIA法、RIA法、FIA法、CLEIA法、LBA-EATA法、レクチン電気泳動法等のキャピラリー電気泳動法がさらに好ましい。
本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとを接触させて、本発明のバイオマーカーを分離し、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとの複合体を形成させ、当該複合体の量を測定する方法がより好ましく、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとを接触させて、本発明のバイオマーカーに対して親和性を有する物質と本発明のバイオマーカーとの複合体を形成させ、当該複合体に結合した標識物質に由来するシグナルを検出する方法がさらに好ましい。
また、標的糖鎖に特異的に結合する物質(例えば、上記の本発明のバイオマーカーにおける糖鎖に特異的に結合するレクチン)と本発明のバイオマーカーとの相互作用を利用して、本発明のバイオマーカー等の標的糖鎖と相互作用する成分と他の成分を分離し、さらに標的コアタンパク質に特異的に結合する物質を用いて、本発明のバイオマーカーと他の成分を分離し、本発明のバイオマーカーの量を測定するのがより好ましく、
標的糖鎖に特異的に結合する物質と本発明のバイオマーカーとの相互作用を利用して、本発明のバイオマーカー等の標的糖鎖と相互作用する成分と他の成分を分離し、さらに標的コアタンパク質に特異的に結合する物質を用いて、本発明のバイオマーカーと他の成分を分離し、標的コアタンパク質に特異的に結合する物質と本発明のバイオマーカーとの複合体に結合した標識物質に由来するシグナルを検出する方法がさらに好ましい。
【0116】
[本発明に係る判定工程]
本発明に係る判定工程は、本発明に係る測定工程により得られた測定結果に基づいて被検動物が大腸癌に罹患しているか否かを判定する工程である。
【0117】
本発明に係る判定工程は、具体的には、例えば、被検動物由来の試料を用いて本発明に係る測定工程により得られた値(以下、被検動物由来の値と略記する場合がある)と予め設定した基準値(カットオフ値等)とを用いてなされる。
即ち、(i)被検動物由来の値が、予め設定した基準値(カットオフ値等)以上の場合、「被検動物が大腸癌に罹患しているおそれがある、或いは被検動物が大腸癌に罹患しているおそれが高い」等の判定を下すことができ、(ii)被検動物由来の値が、予め設定した基準値(カットオフ値等)未満の場合、「被検動物が大腸癌に罹患しているおそれはない、或いは大腸癌に罹患しているおそれが低い」等の判定を下すことができる。
また、別の態様として、(i)被検動物由来の値が、予め設定した基準値(カットオフ値等)以下の場合、「被検動物が大腸癌に罹患しているおそれがある、或いは被検動物が大腸癌に罹患しているおそれが高い」等の判定を下すことができ、(ii)被検動物由来の値が、予め設定した基準値(カットオフ値等)超の場合、「被検動物が大腸癌に罹患しているおそれはない、或いは大腸癌に罹患しているおそれが低い」等の判定を下すことができる。
尚、上記基準値(カットオフ値等)は、大腸癌に罹患している動物由来の試料を用いて本発明に係る測定工程により得られた測定値と健常動物由来の試料を用いて本発明に係る測定工程により得られた値(以下、健常動物由来の値と略記する場合がある)とを用いてROC(Receiver Operating Characteristic)曲線解析等の統計解析に基づいて決定することができる。
また、上記基準値(カットオフ値等)の感度又は/及び特異度は、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。
【0118】
別の形態として、被検動物由来の値と健常動物由来の値とを比較し、(i)被検動物由来の値が、健常動物由来の値より多い場合、「被検動物が大腸癌に罹患しているおそれがある、或いは被検動物が大腸癌に罹患しているおそれが高い」等の判定を下すことができ、(ii)被検動物由来の値と、健常動物由来の値との間に顕著な差が認められない場合、「被検動物が大腸癌に罹患しているおそれはない、或いは大腸癌に罹患しているおそれが低い」等の判定を下すことができる。
【0119】
更に別の形態として、同一の被検動物において、ある時点における被検動物由来の値と、異なる時点での被検動物由来の値とを比較し、該値の有無又は/及び増減の程度を評価することにより、大腸癌の進行度、悪性度の診断、術後の予後診断等が可能である。即ち、(i)値の増加が認められた場合、大腸癌へ病態が進行した(或いは大腸癌の悪性度が増した)、又は大腸癌への病態の進行の兆候が認められる(或いは大腸癌の悪性度が増す兆候が認められる)等の判定を下すことができ、(ii)値の減少が認められた場合、大腸癌の病態が改善した、又は大腸癌の病態の改善の兆候が認められる等の判定を下すことができる。
【0120】
尚、本発明に係る測定工程にて本発明のバイオマーカーを複数種測定した場合は、得られた複数の値を用いて上述の通りに本発明に係る判定工程を行えばよく、より正確度の高い判定が可能となる。
【0121】
<本発明の大腸癌の診断を補助するための試薬キット>
本発明の大腸癌の診断を行うための試薬キット(以下、本発明のキットと略記する場合がある)は、下記(1)~(4)から選ばれる糖鎖に親和性を有する物質を含むものである。
(1)アルファ1アンチトリプシンに存在する、上記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(2)ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに存在する、上記式1で表される糖鎖、
(3)アルファ1アンチキモトリプシンに存在する、上記式1又は2で表される少なくとも1つの糖鎖、
(4)補体成分9に存在する、上記式1で表される糖鎖。
本発明のキットは、本発明のバイオマーカー、言い換えると、本発明のバイオマーカー(1)~(4)にそれぞれ親和性を有する物質を含むものである。
尚、本発明のキットにおける、本発明のバイオマーカー及び大腸癌については、<本発明のバイオマーカー>及び<本発明の補助方法>にて説明した通りであり、具体例、好ましい例等も同じである。
【0122】
上記親和性を有する物質とは、本発明のバイオマーカーにおける糖鎖やタンパク質(又はペプチド断片)に特異的に結合するものであり、レクチン、抗体等が挙げられる。
上記親和性を有する物質については、<本発明の補助方法>にて説明した通りであり、具体例、好ましい例等も同じである。
【0123】
本発明のキットには、更に、通常この分野で用いられる試薬類、例えば、トリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、AspN等のペプチド断片化用試薬、レクチンカラム等の濃縮用カラム、タンパク質抽出用溶媒、緩衝剤、洗浄剤、反応促進剤、糖類、タンパク質、塩類、界面活性剤等の安定化剤、防腐剤、試料を希釈するための液、レクチン固定化固相、抗体固定化固相、抗原固定化固相等の固定化固相、標識物質で標識された二次抗体又は該二次抗体の断片、標識物質検出用試薬等であって、共存する試薬等の安定性を阻害しないものが含まれていてもよい。また、その濃度、pHも通常この分野で用いられている範囲であればよい。
【0124】
上記レクチン固定化固相、抗体固定化固相、抗原固定化固相等の固定化固相としては、磁性シリカ粒子等の磁性粒子、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ガラス、セラミック等の素材に、本発明のバイオマーカーにおけるタンパク質(又はペプチド断片)や糖鎖に特異的に結合する親和性を有する物質(レクチン、抗体又は該抗体の断片等)を固相化したものであれば何れでもよい。
尚、上記レクチン固定化固相、抗体固定化固相、抗原固定化固相等の固定化固相における素材については、自体公知の方法により製造されたものを用いても、市販のものを用いてもよい。例えば、自体公知の方法により上記磁性シリカ粒子等の磁性粒子を製造する場合、WO2012/173002に記載の方法により製造することができる。
【0125】
上記標識物質で標識された二次抗体又はその抗体断片とは、上記固相化された親和性を有する物質(レクチン、抗体又は当該抗体の断片等)にそれぞれ結合する抗体又はその抗体断片である。
尚、上記標識物質で標識された二次抗体又はその抗体断片における、標識物質及び標識物質を結合させる方法については、<本発明の補助方法>にて説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。
【0126】
上記標識物質検出用試薬とは、レクチン、抗体又は当該抗体の断片等の親和性を有する物質が標識物質で標識されている場合、標識物質で標識されたレクチン、抗体又は当該抗体の断片等の親和性を有する物質中の標識又は/及び上記標識された二次抗体又は当該二次抗体の断片中の標識を検出するものであり、テトラメチルベンジジン、オルトフェニレンジアミン等の吸光度測定用基質、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、ヒドロキシフェニル酢酸等の蛍光基質、ルミノール等の発光物質が挙げられ、4-ニトロフェニルフォスフェート等の吸光度測定用試薬、4-メチルウンベリフェリルフォスフェート等の蛍光基質等が挙げられる。
【0127】
更に、本発明のキットには、本発明の補助方法を行うための説明書等を含まれていてもよい。当該「説明書」とは、本発明の補助方法の特徴、原理、操作手順、判定手順等が文章又は/及び図表により実質的に記載されている本発明に係る試薬の取扱い説明書、添付文書、パンフレット(リーフレット)等を意味する。具体的には、例えば、(i)本発明に係る測定工程の原理、操作手順等が記載されたもの、(ii)本発明に係る測定工程及び判定工程の原理、操作手順等が記載されたもの等が挙げられる。
【0128】
このように本発明のキットによれば、本発明の補助方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【0129】
<本発明に係る大腸癌の診断を補助するための装置>
本発明に係る大腸癌の診断を補助するための装置(以下、本発明に係る補助装置と略記する場合がある)は、少なくとも(1)測定部を備えている。更に、(2)判定部、(3)出力部及び(4)入力部を備えていてもよい。
【0130】
本発明に係る補助装置における(1)測定部は、試料中の上記本発明のバイオマーカー(1)~(4)から選ばれる糖鎖の量を測定するように構成されている。具体的には、例えば、本発明に係る測定工程にて用いられる各種質量分析計、免疫学的測定法に準じた方法に用いられる装置等の測定装置が挙げられる。
尚、要すれば、(1)測定部では、測定された測定値に基づいて、上記本発明のバイオマーカー(1)~(4)の量を算出するように構成されていてもよい。
【0131】
本発明に係る補助装置における(2)判定部は、(1)測定部にて得られる結果に基づいて被検動物が大腸癌に罹患しているか否かを判定するように構成されている。
【0132】
本発明に係る補助装置における(3)出力部は、(1)測定部にて得られる結果又は/及び(2)判定部にて得られる結果を出力するよう構成されている。
【0133】
本発明に係る補助装置における(4)入力部は、操作する者の操作を受けて、(1)測定部へ、当該(1)測定部を作動させるための信号を送るよう構成されている。
【0134】
尚、上記本発明に係る補助装置の(1)測定部及び(2)判定部によりなされる測定、判定等については、<本発明の補助方法>にて説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。
【0135】
上記本発明に係る補助装置によれば、本発明の補助方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【0136】
<本発明に係る大腸癌を治療する方法>
本発明に係る大腸癌を治療する方法(以下、本発明に係る治療方法と略記する場合がある)は、被検動物由来の試料中の本発明のバイオマーカー(1)~(4)から選ばれる糖鎖の量を測定し、得られた測定結果に基づいて被検動物が大腸癌に罹患しているか否かを判定し、その判定結果に基づいて大腸癌のおそれがある又は大腸癌のおそれが高いと判定された患者に適切な治療を施すことによりなされる。
尚、本発明に係る治療方法における試料、マーカー、測定、判定等については、<本発明の補助方法>にて説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。
本発明に係る治療方法における適切な治療としては、具体的には、例えば、内視鏡治療、開腹手術、腹腔鏡手術等の外科療法、化学放射線療法等の放射線治療、オキサリプラチン(一般名)、イリノテカン(一般名)、フルオロウラシル(一般名)、ベバシズマブ(一般名)、ラムシルマブ(一般名)、アフリベルセプト(一般名)、セツキシマブ(一般名)、パニツムマブ(一般名)等の薬剤を投与することによりなされる薬物療法等が挙げられる。
【0137】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例
【0138】
実施例1.大腸癌マーカーの選別
[(1)検体(サンプル)]
横浜市立大学センター病院及び横浜市立大学先端医科学研究センターバイオバンクより提供された、大腸癌患者由来の血清(18検体)及び健常者由来の血清(20検体)を検体(サンプル)として用いた。
【0139】
[(2)糖ペプチドの調製]
12mM Sodiumn deoxycholate(SDC)、12mM N-lauroylsarcosine(LS)を含む100mM Tris-HCl(pH9.0)からなる消化バッファーを調製し、当該消化バッファー90μLと上記(1)の大腸癌患者由来の血清及び健常者由来の血清10μLとをそれぞれ混合した。次いで、メルカプトエタノール溶液を最終濃度10mMとなるようそれぞれ添加し、95℃で5分間インキュベートすることにより、タンパク質を変性させた。次いで、最終濃度20mMとなるようacrylamide(AA)溶液をそれぞれ添加し、25℃で30分間、暗所でインキュベートすることにより、システインをアルキル化させた。次いで、5μgのLys-Cを用いて37℃で1時間インキュベートすることにより、タンパク質を消化した。次いで、1.5mM CaClを含む400μLの50mM Tris-HCl(pH8.0)でそれぞれ希釈した後、5μgのトリプシンを用いて37℃で12時間インキュベートすることにより、タンパク質を更に消化した。次いで、500μLの酢酸エチルと10μLのギ酸をそれぞれ加えた後、30秒間ボルテックスし、14000×gで5分間遠心した。その後、SDCとLCを含む上層(酢酸エチル層)を除去し、遠心エバポレーターで約30μLまで蒸発させることにより、糖ペプチドをそれぞれ調製した。
【0140】
[(3)糖ペプチドの濃縮]
上記(2)で調製した38検体分(大腸癌患者:18検体、健常者:20検体)の各糖ペプチドを、下記手順によりそれぞれ濃縮した。
即ち、先ず、15mL遠心管内で、セルロース微結晶樹脂300μLを10mLの0.1%trifluoroacetic acid(TFA)/90%acetonitrile(ACN)を用いて洗浄した。次いで、洗浄済の300μLセルロース微結晶樹脂、10mlの0.1%TFA/90%ACN及び8μLの(2)で調製した各糖ペプチドをそれぞれ混合し、1rpmで6分間インキュベートした。次いで、各糖ペプチドを吸着させたセルロース微結晶樹脂を、10mLの0.1%TFA/80%ACNでそれぞれ4回洗浄した。次いで、各糖ペプチドを600μLの30%ACNでそれぞれ2回洗浄し、上記セルロース微結晶性樹脂から各糖ペプチドをそれぞれ溶出させることにより、糖ペプチドをそれぞれ濃縮した。尚、濃縮後、微細なセルロース粒子を除去するために、14000×gで遠心分離し、遠心エバポレーターで蒸発させ、50μLの0.1%ギ酸/3%ACNでそれぞれ再溶解した
【0141】
[(4)脱糖鎖ペプチドの調製]
上記(3)で調製した濃縮糖ペプチド試料25μLを、糖鎖修飾部位の同定のために、PNGase F処理にそれぞれ付した。即ち、上記試料に、20μLの1M Tris-HCl(pH8.0)をそれぞれ添加することで中和し、1ユニットのPNGase Fとそれぞれ混合した。次いで、37℃で1時間インキュベートした後、5μLのACNと0.1%ギ酸で事前に洗浄した脱塩カラムにそれぞれロードした。5μLの0.1%ギ酸でそれぞれ2回洗浄した後、5μLの50%ACNでそれぞれ溶出することにより、脱糖鎖ペプチドをそれぞれ調製した。尚、調製後、20μLの0.1%ギ酸でそれぞれ希釈し、使用するまでは-30℃で保存した。
【0142】
[(5)ナノ液体クロマトグラフィー質量分析(nanoLC/MS/MS)による解析]
上記(3)で調製した各濃縮糖ペプチドを、Orbitrap質量分析計Q-Exactive(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)にてそれぞれ解析(分離/分析)した。
具体的には、Q-Exactiveに接続したnanoLC、EASY-nLC1000(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)に各糖ペプチド1.6μLを200barでナノボアトラップカラムにそれぞれ注入し、20μLの0.1%ギ酸でそれぞれ洗浄した。次いで、流量300nL/分にて0.1%ギ酸(溶媒A)及び0.1%ギ酸/ACNの二元線形グラジエントでそれぞれ溶出することにより、糖ペプチドの量を測定した(0-150分:0%溶媒B-35%溶媒B、150-155分:100%溶媒B)。
尚、ナノボアトラップカラムと分析カラムは、各分析の前に、それぞれ12μL及び5μLの0.1%FAで初期化した。フルMSはm/z350からm/z2000までResolution 70000でモニタリングし、プロダクトイオンスキャンはData dependent acquisitionにより取得した。上記測定におけるイオン化パラメーター及びQ-ExactiveのData dependent acquisitionパラメーターは、それぞれ下記の通りである。
<イオン化パラメーター>
spray voltage:1800V
capillary temperature:250℃
S-lens RF level:50(単位なし)
尚、オグジリラリガス及びシースガスは使用しなかった。また、健常者と大腸癌患者由来の血清サンプルの測定順序は、交絡因子の影響を避けるためにランダム化した。
<Q-ExactiveのData dependent acquisitionパラメーター>
Resolution:17500
AGC target:1000000
maximum injection time:350ミリ秒
isolation width:3.0m/z
:stepped normalized collision energy:25及び35
【0143】
また、(4)で調製した各脱糖鎖糖ペプチド1.6 μLを、上記と同一の条件にてそれぞれ解析(分離/分析)した。その後、Proteome Discoverer 1.4(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いて脱糖鎖ペプチドにおける糖鎖結合部位をそれぞれ同定した。更に、上記同定情報を基に、糖ペプチドの構造をそれぞれ確認した。
【0144】
[(6)結果]
上記(1)~(5)により、下記表7に示す通り、アルファ1アンチトリプシン、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテイン、アルファ1アンチキモトリプシン及び補体成分9にそれぞれ由来する糖ペプチドA~Mが同定された。
また、上記糖ペプチドA~Mのピーク面積値について、大腸癌患者(18検体)の平均値及び健常者(20検体)の平均値を表8及び図1~4にそれぞれ示す。
【0145】
【表7】
【0146】
【表8】
【0147】
上記表7及び8、並びに図1より、アルファ1アンチトリプシンに由来する、(i)式1’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドA(大腸癌患者平均ピーク面積値:1939358186.22222、健常者平均ピーク面積値:306335029.7)、(ii)式1’’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドB(大腸癌患者平均ピーク面積値:1099675503.77778、健常者平均ピーク面積値:245395191.4)、(iii)式2’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドC(大腸癌患者平均ピーク面積値:132975907.444444、健常者平均ピーク面積値;14027932.45)及び(iv)式2’’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドD(大腸癌患者平均ピーク面積値:138263873.055556、健常者平均ピーク面積値:25985005.75)の発現量は、健常者と比較して、大腸癌患者において有意に増加していることが分かった。
また、上記糖ペプチドAにおける式1’’で表される糖鎖、糖ペプチドBにおける式1’’’で表される糖鎖、糖ペプチドCにおける式2’’で表される糖鎖及び糖ペプチドDにおける式2’’’で表される糖鎖は、アルファ1アンチトリプシンのアミノ酸配列のN末端より70番目のアスパラギン残基に結合していることを確認した。
【0148】
上記表7及び8、並びに図2より、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインに由来する、(i)式1’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドE(大腸癌患者平均ピーク面積値:36204545.5555556、健常者平均ピーク面積値:2037297.6)、(ii)式1’’’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドF(大腸癌患者平均ピーク面積値:53995609.7777778、健常者平均ピーク面積値:3415333.55)、(iii)式1’’’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドG(大腸癌患者平均ピーク面積値:53995609.7777778、健常者平均ピーク面積値:3415333.55)及び(iv)式1’’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドH(大腸癌患者平均ピーク面積値:387390364.555556、健常者平均ピーク面積値:92357205.6)の発現量は、健常者と比較して、大腸癌患者において有意に増加していることが分かった。
また、上記糖ペプチドEにおける1’’で表される糖鎖及び糖ペプチドFにおける式1’’’’で表される糖鎖は、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より79番目のアスパラギン残基に結合していることを確認した。上記糖ペプチドGにおける式1’’’’で表される糖鎖は、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より186番目のアスパラギン残基に結合していることを確認した。上記糖ペプチドHにおける式1’’’で表される糖鎖は、ロイシンリッチアルファ2グリコプロテインのアミノ酸配列のN末端より269番目のアスパラギン残基に結合していることを確認した。
【0149】
上記表7及び8、並びに図3より、アルファ1アンチキモトリプシンに由来する、(i)式2’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドI(大腸癌患者平均ピーク面積値:162903669.944444、健常者平均ピーク面積値:8899040.75)、(ii)式2’’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドJ(大腸癌患者平均ピーク面積値:206514550.444444、健常者平均ピーク面積値:18952737.35)、(iii)式1’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドK(大腸癌患者平均ピーク面積値:13321110.3333333、健常者平均ピーク面積値:913077)及び(iv)式1’’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドL(大腸癌患者平均ピーク面積値:14098497.3333333、健常者平均ピーク面積値:2290770.7)の発現量は、健常者と比較して、大腸癌患者において有意に増加していることが分かった。
また、上記糖ペプチドIにおける式2’’で表される糖鎖、糖ペプチドJにおける式2’’’で表される糖鎖、糖ペプチドKにおける式1’’で表される糖鎖及び糖ペプチドLにおける式1’’’で表される糖鎖は、アルファ1アンチキモトリプシンのアミノ酸配列のN末端より93番目のアスパラギン残基に結合していることを確認した。
【0150】
上記表7及び8、並びに図1より、補体成分9に由来する、(i)式1’’’で表される糖鎖を有する糖ペプチドM(大腸癌患者平均ピーク面積値:733351267.666667、健常者平均ピーク面積値:202557121.85)の発現量は、健常者と比較して、大腸癌患者において有意に増加していることが分かった。
【0151】
更に、上記糖ペプチドA~Mの発現量について、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線解析によりAUC値(Area Under the Curve:曲線面積値)を算出した。
その結果を下記表9に示す。尚、AUC値については、1に近づく程高い判定能があるとされている。
【0152】
【表9】
【0153】
上記表9より、上記糖ペプチドA~Mは、何れも良好なAUC値を示した。
【0154】
以上より、上記糖ペプチドA~Mを大腸癌のバイオマーカーとして用いることにより、被験者が大腸癌に罹患しているか否かを判定することができることが分かった。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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