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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-31
(45)【発行日】2023-11-09
(54)【発明の名称】制御装置、プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/62 20160101AFI20231101BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231101BHJP
   H02P 25/22 20060101ALI20231101BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20231101BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20231101BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20231101BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231101BHJP
【FI】
H02P29/62
H02M7/48 E
H02P25/22
H02P27/06
B60L3/00 H
B60L9/18 J
B60L15/20 J
B60L15/20 K
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019218024
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021090238
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】柏▲崎▼ 貴司
(72)【発明者】
【氏名】塚本 康裕
(72)【発明者】
【氏名】赤間 貞洋
(72)【発明者】
【氏名】眞貝 知志
(72)【発明者】
【氏名】石田 稔
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-073039(JP,A)
【文献】特開2017-158389(JP,A)
【文献】特開2006-191775(JP,A)
【文献】特開2006-136144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K6/20-6/547
B60L1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60W10/00
10/02
10/06
10/08
10/10
10/18
10/26
10/28
10/30-20/50
H02M7/42-7/98
H02P4/00
6/00-6/34
21/00-25/03
25/04
25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置(40)と、前記蓄電装置に接続されるインバータ(20)と、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機(10)と、を備える回転電機システム(100)に適用される制御装置(50)であって、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定部と、
前記温度判定部により低いと判定された場合に、低くないと判定された場合に比べて前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値(IK)を設定する設定部と、を備え
前記蓄電装置の電圧を、前記回転電機に印加される電圧の電圧制限値とする場合に、前記回転電機のdq座標系において前記回転電機に流れるd,q軸電流により規定される楕円が電圧制限楕円とされており、
前記設定部は、前記温度判定部により低いと判定された場合に、前記インバータの電流指令値を、前記dq座標系において前記回転電機の目標トルク(TM)と等しいトルクとなる座標を結んだ等トルク線と前記電圧制限楕円との交点のうち、弱め界磁用の前記d軸電流が小さくなる側の減少側交点(PB)の電流指令値に設定する、制御装置。
【請求項2】
蓄電装置(40)と、前記蓄電装置に接続されるインバータ(20)と、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機(10)と、を備える回転電機システム(100)に適用される制御装置(50)であって、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定部と、
前記温度判定部により低いと判定された場合に、低くないと判定された場合に比べて前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値(IK)を設定する設定部と、を備え、
前記蓄電装置の電圧を、前記回転電機に印加される電圧の電圧制限値とする場合に、前記回転電機のdq座標系において前記回転電機に流れるd,q軸電流により規定される楕円が電圧制限楕円とされており、
前記設定部は、前記温度判定部により低いと判定された場合に、前記インバータの電流指令値を、前記dq座標系において前記回転電機の目標トルク(TM)と等しいトルクとなる座標を結んだ等トルク線と前記電圧制限楕円との交点のうち、弱め界磁用の前記d軸電流が大きくなる側の増加側交点(PC)の電流指令値に設定する、制御装置。
【請求項3】
蓄電装置(40)と、前記蓄電装置に接続されるインバータ(20)と、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機(10)と、前記蓄電装置の電圧を昇圧して前記インバータに供給するとともに、前記蓄電装置の電圧に対する前記インバータに供給される電圧の比である昇圧比(RB)を変更可能な昇圧回路(70)と、を備える回転電機システム(100)に適用される制御装置(50)であって、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定部と、
前記温度判定部により低いと判定された場合に、低くないと判定された場合に比べて前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値(IK)を設定する設定部と、
前記温度判定部により低いと判定される前の前記回転電機の出力トルクを低下前トルクとし、前記温度判定部により低いと判定される前の前記昇圧比を低下前昇圧比とする場合、前記温度判定部により低いと判定されたときに、前記昇圧比を前記低下前昇圧比から下げても、前記回転電機の出力トルクを前記低下前トルクに維持できるか否かを判定する維持判定部と、を備え、
前記設定部は、前記維持判定部により前記低下前トルクに維持できると判定された場合に、前記昇圧比を前記低下前昇圧比から下げつつ、前記回転電機の出力トルクを前記低下前トルクに維持し、かつ前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値を設定する、制御装置。
【請求項4】
n相(nは2以上の自然数)の巻線を有する回転電機(10)と、前記回転電機との間で電力の入出力を行う蓄電装置(40)と、を備える回転電機システム(100)に適用される制御装置(50)であって、
前記回転電機システムは、
前記蓄電装置に接続され、直列接続された上アームスイッチ(22)と下アームスイッチ(23)とを相毎に有し、それら上アームスイッチと下アームスイッチとの接続点が前記回転電機を構成する各相の巻線の両端のうち第1端に接続される第1インバータ(20)と、
前記蓄電装置に接続され、直列接続された上アームスイッチ(32)と下アームスイッチ(33)とを有し、上アームスイッチと下アームスイッチとの接続点が前記各相の巻線の両端のうち第2端に接続される第2インバータ(30)と、
前記第1インバータの高電位側と前記第2インバータの高電位側とを接続する高電位側接続線(LE)と、
前記第1インバータの低電位側と前記第2インバータの低電位側とを接続する低電位側接続線(LG)と、を備え、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定部と、
前記温度判定部により低いと判定された場合に、前記巻線に流れる電流が、前記巻線に流す電流に含まれる基本波(FA)に、前記基本波のn×(2k-1)次の高調波(kは自然数)(FB)を重畳した重畳波(FC)となるように前記第1インバータ及び前記第2インバータの電流指令値を設定する設定部と、を備える制御装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記回転電機に対する指令電圧及びキャリア信号に基づいて前記電流指令値を設定し、前記キャリア信号の周波数と前記回転電機のインダクタンスとに基づいて、前記高調波の次数を決定する請求項に記載の制御装置。
【請求項6】
蓄電装置(40)と、前記蓄電装置に接続されるインバータ(20)と、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機(10)と、前記回転電機のロータの回転を車両の駆動輪(82)に伝達する動力伝達機構(80,81)と、を備える回転電機システム(100)に適用される制御装置(50)であって、
前記動力伝達機構は、前記ロータの回転を所定の変速比(RH)で変速して前記駆動輪に伝達するとともに、前記変速比を変更可能な変速機(81)を備えており、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定部と、
前記温度判定部により低いと判定された場合に、低下判定前の前記車両の速度及び駆動力を維持しつつ、前記回転電機の回転速度が前記低下判定前よりも低くなるように前記変速比及び前記インバータの電流指令値を設定する設定部と、を備える制御装置。
【請求項7】
前記回転電機の回転速度を前記低下判定前よりも低く設定した場合に、前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが前記低下判定前よりも小さくなるか否かを判定し、小さくなると判定された場合に、前記低下判定前よりも低く設定することを禁止する禁止部を備える請求項に記載の制御装置。
【請求項8】
蓄電装置(40)と、前記蓄電装置に接続されるインバータ(20)と、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機(10)と、コンピュータと、を備える回転電機システム(100)に適用されるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定処理と、
前記温度判定処理により低いと判定された場合に、低くないと判定された場合に比べて前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値(IK)を設定する設定処理と、を実行させ、
前記蓄電装置の電圧を、前記回転電機に印加される電圧の電圧制限値とする場合に、前記回転電機のdq座標系において前記回転電機に流れるd,q軸電流により規定される楕円が電圧制限楕円とされており、
前記設定処理において、前記温度判定処理により低いと判定された場合に、前記インバータの電流指令値を、前記dq座標系において前記回転電機の目標トルク(TM)と等しいトルクとなる座標を結んだ等トルク線と前記電圧制限楕円との交点のうち、弱め界磁用の前記d軸電流が小さくなる側の減少側交点(PB)の電流指令値に設定する、プログラム。
【請求項9】
蓄電装置(40)と、前記蓄電装置に接続されるインバータ(20)と、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機(10)と、コンピュータと、を備える回転電機システム(100)に適用されるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定処理と、
前記温度判定処理により低いと判定された場合に、低くないと判定された場合に比べて前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値(IK)を設定する設定処理と、を実行させ、
前記蓄電装置の電圧を、前記回転電機に印加される電圧の電圧制限値とする場合に、前記回転電機のdq座標系において前記回転電機に流れるd,q軸電流により規定される楕円が電圧制限楕円とされており、
前記設定処理において、前記温度判定処理により低いと判定された場合に、前記インバータの電流指令値を、前記dq座標系において前記回転電機の目標トルク(TM)と等しいトルクとなる座標を結んだ等トルク線と前記電圧制限楕円との交点のうち、弱め界磁用の前記d軸電流が大きくなる側の増加側交点(PC)の電流指令値に設定する、プログラム。
【請求項10】
蓄電装置(40)と、前記蓄電装置に接続されるインバータ(20)と、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機(10)と、前記蓄電装置の電圧を昇圧して前記インバータに供給するとともに、前記蓄電装置の電圧に対する前記インバータに供給される電圧の比である昇圧比(RB)を変更可能な昇圧回路(70)と、コンピュータと、を備える回転電機システム(100)に適用されるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定処理と、
前記温度判定処理により低いと判定された場合に、低くないと判定された場合に比べて前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値(IK)を設定する設定処理と、
前記温度判定処理により低いと判定される前の前記回転電機の出力トルクを低下前トルクとし、前記温度判定処理により低いと判定される前の前記昇圧比を低下前昇圧比とする場合、前記温度判定処理により低いと判定されたときに、前記昇圧比を前記低下前昇圧比から下げても、前記回転電機の出力トルクを前記低下前トルクに維持できるか否かを判定する維持判定処理と、を実行させ、
前記設定処理において、前記維持判定処理により前記低下前トルクに維持できると判定された場合に、前記昇圧比を前記低下前昇圧比から下げつつ、前記回転電機の出力トルクを前記低下前トルクに維持し、かつ前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値を設定する、プログラム。
【請求項11】
n相(nは2以上の自然数)の巻線を有する回転電機(10)と、前記回転電機との間で電力の入出力を行う蓄電装置(40)と、コンピュータと、を備える回転電機システム(100)に適用されるプログラムであって、
前記回転電機システムは、
前記蓄電装置に接続され、直列接続された上アームスイッチ(22)と下アームスイッチ(23)とを相毎に有し、それら上アームスイッチと下アームスイッチとの接続点が前記回転電機を構成する各相の巻線の両端のうち第1端に接続される第1インバータ(20)と、
前記蓄電装置に接続され、直列接続された上アームスイッチ(32)と下アームスイッチ(33)とを有し、上アームスイッチと下アームスイッチとの接続点が前記各相の巻線の両端のうち第2端に接続される第2インバータ(30)と、
前記第1インバータの高電位側と前記第2インバータの高電位側とを接続する高電位側接続線(LE)と、
前記第1インバータの低電位側と前記第2インバータの低電位側とを接続する低電位側接続線(LG)と、を備え、
前記コンピュータに、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定処理と、
前記温度判定処理により低いと判定された場合に、前記巻線に流れる電流が、前記巻線に流す電流に含まれる基本波(FA)に、前記基本波のn×(2k-1)次の高調波(kは自然数)(FB)を重畳した重畳波(FC)となるように前記第1インバータ及び前記第2インバータの電流指令値を設定する設定処理と、を実行させる、プログラム。
【請求項12】
蓄電装置(40)と、前記蓄電装置に接続されるインバータ(20)と、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機(10)と、前記回転電機のロータの回転を車両の駆動輪(82)に伝達する動力伝達機構(80,81)と、コンピュータと、を備える回転電機システム(100)に適用されるプログラムであって、
前記動力伝達機構は、前記ロータの回転を所定の変速比(RH)で変速して前記駆動輪に伝達するとともに、前記変速比を変更可能な変速機(81)を備えており、
前記コンピュータに、
前記回転電機の温度(YM)が基準温度(YK)よりも低いか否かを判定する温度判定処理と、
前記温度判定処理により低いと判定された場合に、低下判定前の前記車両の速度及び駆動力を維持しつつ、前記回転電機の回転速度が前記低下判定前よりも低くなるように前記変速比及び前記インバータの電流指令値を設定する設定処理と、を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機を含む回転電機システムの制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流電源と、直流電源に接続されるインバータと、インバータに接続され、インバータを介して直流電源との間で電力の入出力を行う交流電動機と、を備える制御システムが知られている(例えば、特許文献1)。この制御システムでは、交流電動機の駆動時に、交流電動機の温度が基準温度よりも低い場合に、高い場合と比較して、インバータの制御に用いるキャリア信号のキャリア周波数を相対的に低く設定する。これにより、交流電動機に流れる電流のリプル電流を大きくすることができ、渦電流増加により交流電動機の温度を上昇させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-189181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制御システムでは、コアレスモータ等のインダクタンスの低い交流電動機が用いられることがある。インダクタンスが低い交流電動機において、インバータのキャリア周波数が低く設定されると、交流電動機に流れる電流の制御性が悪化するおそれがある。また、キャリア周波数が低く設定された結果、キャリア周波数と直流電源及びコンデンサ間の共振周波数とが近接し、交流電動機を適正に駆動できないおそれもある。したがって、交流電動機などの回転電機の温度が基準温度よりも低いと判定された場合に、回転電機の温度を上昇させる技術については、未だ改善の余地があると考えられる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転電機の温度が基準温度よりも低いと判定された場合に、回転電機の温度を上昇させることができる制御装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、蓄電装置と、前記蓄電装置に接続されるインバータと、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機と、を備える回転電機システムに適用される制御装置であって、前記回転電機の温度が基準温度よりも低いか否かを判定する温度判定部と、前記温度判定部により低いと判定された場合に、低くないと判定された場合に比べて前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値を設定する設定部と、を備える。
【0007】
この構成では、回転電機の温度が基準温度よりも低いと判定された場合に、低くないと判定された場合に比べて、回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるようにインバータの電流指令値が設定される。これにより、巻線の銅損増加を増加させることができ、回転電機の温度を上昇させることができる。
【0008】
第2の手段では、前記蓄電装置の電圧を、前記回転電機に印加される電圧の電圧制限値とする場合に、前記回転電機のdq座標系において前記回転電機に流れるd,q軸電流により規定される楕円が電圧制限楕円とされており、前記設定部は、前記温度判定部により低いと判定された場合に、前記インバータの電流指令値を、前記dq座標系において前記回転電機の目標トルクと等しいトルクとなる座標を結んだ等トルク線と前記電圧制限楕円との交点のうち、弱め界磁用の前記d軸電流が小さくなる側の減少側交点の電流指令値に設定する。
【0009】
回転電機の巻線に流れる電流ベクトルの大きさを大きくする場合、電流ベクトルは電圧制限楕円内において大きくすることができる。この場合に、電圧制限楕円内に存在する目標トルクの等トルク線上において、弱め界磁用のd軸電流を大きくする側又は小さくする側に設定することで、回転電機の出力トルクを目標トルクに維持しつつ、回転電機の巻線に流れる電流ベクトルの大きさを大きくできる。
【0010】
この点、第2の手段では、回転電機の巻線に流れる電流ベクトルの大きさを大きくする場合に、等トルク線上において弱め界磁用のd軸電流を小さくする側に設定する。これにより、キャリア信号の振幅に対する回転電機への電圧指令値の比で示される電圧利用率を上昇させて回転電機の昇温効果を高めつつ、インバータについては、スイッチング損減少により回転電機のように昇温を図ることなく発熱を抑制できる。
【0011】
また、第2の手段では、等トルク線上において弱め界磁用のd軸電流を小さくする側に設定する場合において、その端点である減少側交点の電流指令値に設定する。これにより、弱め界磁用のd軸電流を小さくする側に設定する場合において、回転電機の巻線に流れる電流ベクトルの大きさを最も大きくすることができ、回転電機の温度を早期に上昇させることができる。
【0012】
第3の手段では、前記蓄電装置の電圧を、前記回転電機に印加される電圧の電圧制限値とする場合に、前記回転電機のdq座標系において前記回転電機に流れるd,q軸電流により規定される楕円が電圧制限楕円とされており、前記設定部は、前記温度判定部により低いと判定された場合に、前記インバータの電流指令値を、前記dq座標系において前記回転電機の目標トルクと等しいトルクとなる座標を結んだ等トルク線と前記電圧制限楕円との交点のうち、弱め界磁用の前記d軸電流が大きくなる側の増加側交点の電流指令値に設定する。
【0013】
等トルク線と電圧制限楕円との交点として、弱め界磁用のd軸電流を大きくする側の増加側交点と弱め界磁用のd軸電流を小さくする側の減少側交点とが存在する。第3の手段では、電流指令値を設定する際に、増加側交点と減少側交点のうち、増加側交点の電流指令値に設定する。増加側交点の電流指令値により回転電機の巻線に流れる電流ベクトルの大きさは、減少側交点の電流指令値により回転電機の巻線に流れる電流ベクトルの大きさよりも大きい。これにより、巻線の銅損を好適に増加させることができ、回転電機の温度を早期に上昇させることができる。
【0014】
第4の手段では、前記回転電機システムは、前記蓄電装置の電圧を昇圧して前記インバータに供給するとともに、前記蓄電装置の電圧に対する前記インバータに供給される電圧の比である昇圧比を変更可能な昇圧回路を備えており、前記温度判定部により低いと判定される前の前記回転電機の出力トルクを低下前トルクとし、前記温度判定部により低いと判定される前の前記昇圧比を低下前昇圧比とする場合、前記温度判定部により低いと判定されたときに、前記昇圧比を前記低下前昇圧比から下げても、前記回転電機の出力トルクを前記低下前トルクに維持できるか否かを判定する維持判定部を備え、前記設定部は、前記維持判定部により前記低下前トルクに維持できると判定された場合に、前記昇圧比を前記低下前昇圧比から下げつつ、前記回転電機の出力トルクを前記低下前トルクに維持し、かつ前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるように前記インバータの電流指令値を設定する。
【0015】
この構成では、回転電機の温度が基準温度よりも低いと判定された場合に、インバータの電流指令値を変更する。この場合において、上記構成では、昇圧回路の昇圧比を低下前昇圧比から下げても、回転電機の出力トルクを低下前トルクに維持できるか否かを判定する。そして、維持できる場合には昇圧回路の昇圧比を低下前昇圧比から下げつつ、回転電機の出力トルクを低下前トルクに維持し、かつ回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるようにする。これにより、回転電機の温度を上昇させることができるとともに、昇圧回路の発熱を抑制できる。
【0016】
第5の手段では、n相(nは2以上の自然数)の巻線を有する回転電機と、前記回転電機との間で電力の入出力を行う蓄電装置と、を備える回転電機システムに適用される制御装置であって、前記回転電機システムは、前記蓄電装置に接続され、直列接続された上アームスイッチと下アームスイッチとを相毎に有し、それら上アームスイッチと下アームスイッチとの接続点が前記回転電機を構成する各相の巻線の両端のうち第1端に接続される第1インバータと、前記蓄電装置に接続され、直列接続された上アームスイッチと下アームスイッチとを有し、上アームスイッチと下アームスイッチとの接続点が前記各相の巻線の両端のうち第2端に接続される第2インバータと、前記第1インバータの高電位側と前記第2インバータの高電位側とを接続する高電位側接続線と、前記第1インバータの低電位側と前記第2インバータの低電位側とを接続する低電位側接続線と、を備え、前記回転電機の温度が基準温度よりも低いか否かを判定する温度判定部と、前記温度判定部により低いと判定された場合に、前記巻線に流れる電流が、前記巻線に流す電流に含まれる基本波に、前記基本波のn×(2k-1)次の高調波(kは自然数)を重畳した重畳波となるように前記第1インバータ及び前記第2インバータの電流指令値を設定する設定部と、を備える。
【0017】
この構成では、回転電機の温度が基準温度よりも低いと判定された場合に、インバータの電流指令値を設定する。この場合において、上記構成では、回転電機を構成する各相の巻線に流れる電流が、巻線に流す電流に含まれる基本波に、この基本波のn×(2k-1)次の高調波(kは自然数)を重畳した重畳波となるように電流指令値を設定する。これにより、回転電機の巻線が生成する磁束を、高調波に基づいて脈動させることができ、巻線に発生する渦電流により回転電機の温度を上昇させることができる。
【0018】
第6の手段では、前記設定部は、前記回転電機に対する指令電圧及びキャリア信号に基づいて前記電流指令値を設定し、前記キャリア信号の周波数と前記回転電機のインダクタンスとに基づいて、前記高調波の次数を決定する。
【0019】
基本波に重畳する高調波の次数は、回転電機の巻線がn相の場合、nの奇数倍であれば回転電機に高調波の電流成分が流れ続ける。一方、キャリア信号の周波数や回転電機のインダクタンスによっては、この高調波の電流成分により不具合が生じることがある。第6の手段では、高調波の次数をnの奇数倍とした上で、その具体的な次数をキャリア信号の周波数と回転電機のインダクタンスとに基づいて決定する。そのため、回転電機に適正な高調波の電流成分を流すことができる。
【0020】
第7の手段では、蓄電装置と、前記蓄電装置に接続されるインバータと、前記インバータに接続され、前記インバータを介して前記蓄電装置との間で電力の入出力を行う回転電機と、前記回転電機のロータの回転を車両の駆動輪に伝達する動力伝達機構と、を備える回転電機システムに適用される制御装置であって、前記動力伝達機構は、前記ロータの回転を所定の変速比で変速して前記駆動輪に伝達するとともに、前記変速比を変更可能な変速機を備えており、前記回転電機の温度が基準温度よりも低いか否かを判定する温度判定部と、前記温度判定部により低いと判定された場合に、低下判定前の前記車両の速度及び駆動力を維持しつつ、前記回転電機の回転速度が前記低下判定前よりも低くなるように前記変速比及び前記インバータの電流指令値を設定する設定部と、を備える。
【0021】
この構成では、回転電機の温度が基準温度よりも低下したと判定された場合に、変速機の変速比を設定するとともに、インバータの電流指令値を設定する。この場合において、上記構成では、低下判定前の車両の速度及び駆動力を維持しつつ、回転電機の回転速度が低下判定前よりも低くなるようにする。回転電機の回転速度が低下することで、回転電機の冷却性能が低下する。また、回転電機の回転速度が低下することで、回転電機の出力トルクが上昇し、回転電機の発熱量が増加する。これにより、回転電機の温度を上昇させることができる。
【0022】
第8の手段では、前記回転電機の回転速度を前記低下判定前よりも低く設定した場合に、前記回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが前記低下判定前よりも小さくなるか否かを判定し、小さくなると判定された場合に、前記低下判定前よりも低く設定することを禁止する禁止部を備える。
【0023】
回転電機の回転速度を低く設定することによる回転電機の昇温効果は、回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが小さくなることによる回転電機の降温効果よりも小さい。第8の手段では、回転電機の回転速度を低く設定した場合に、回転電機に流れる電流ベクトルの大きさが低下判定前よりも小さくなる場合には、この設定を禁止する。これにより、回転電機の温度が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態の回転電機システムの全体構成図。
図2】回転電機の温度と逆起電力との関係を示す図。
図3】第1実施形態の設定処理の手順を示すフローチャート。
図4】第1実施形態の電流指令値の設定変更を示す図。
図5】最小電流点と減少側交点におけるインバータの各スイッチの状態の推移を示す図。
図6】回転電機の始動時における回転電機の温度の推移を示す図。
図7】第1実施形態の変形例における電流指令値の設定変更を示す図。
図8】第2実施形態の回転電機システムの全体構成図。
図9】第2実施形態の設定処理の手順を示すフローチャート。
図10】第2実施形態の電流指令値の設定変更を示す図。
図11】第3実施形態の回転電機システムの全体構成図。
図12】制御装置の一部の回路構成を示す図。
図13】第3実施形態の設定処理の手順を示すフローチャート。
図14】基本波、高調波、及び重畳波の関係を示すグラフ。
図15】回転電機の巻線が生成する磁束の推移を示す図。
図16】第3実施形態の変形例における回転電機システムの全体構成図。
図17】第4実施形態の回転電機システムの全体構成図。
図18】第4実施形態の設定処理の手順を示すフローチャート。
図19】車両の速度と駆動力との関係を示す図。
図20】回転電機の電気角速度と出力トルクとの関係を示す図。
図21】回転電機の電気角速度と冷却性能との関係を示す図。
図22】回転電機の電気角速度と出力トルクとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る回転電機の制御装置を、車載の回転電機システム100に適用した実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る回転電機システム100は、回転電機10と、インバータ20と、蓄電装置としてのバッテリ40と、回転電機10を制御対象とする制御装置50と、を備えている。
【0027】
回転電機10は、力行駆動及び回生駆動の機能を有し、具体的には、MG(Motor Generator)である。回転電機10は、バッテリ40との間で電力の入出力を行うものである。具体的には、力行駆動時には、バッテリ40から入力される電力により駆動し、車両に推進力を付与し、回生駆動時には、車両の減速エネルギを用いて発電を行い、バッテリ40に電力を出力する。
【0028】
回転電機10は、ロータ11とステータ13とを備える。ロータ11には、界磁を行う永久磁石12が設けられている。つまり、回転電機10は、永久磁石界磁型回転電機である。永久磁石12は、例えばネオジム磁石やフェライト磁石である。ステータ13は、星形結線された3相の巻線14を有する。巻線14は、U相、V相、及び、W相の各相に対応した多相巻線である。ロータ11は、車両の駆動輪と動力伝達が可能なように接続されている。本実施形態において、回転電機10は同期機である。
【0029】
回転電機10の各相の巻線14の一端は、インバータ20に接続されており、インバータ20を介してバッテリ40に接続されている。バッテリ40は、充放電可能な蓄電池であり、例えば複数のリチウムイオン蓄電池が直列接続された組電池である。なお、バッテリ40は、他の種類の蓄電池であってもよい。
【0030】
インバータ20は、高電位側のスイッチング素子である上アームスイッチ22(22A,22B,22C)、及び低電位側のスイッチング素子である下アームスイッチ23(23A,23B,23C)の直列接続体が、並列に接続されて構成されている。各相において、上アームスイッチ22と下アームスイッチ23の接続点には、巻線14の一端が接続されている。なお、本実施形態では、スイッチ22,23として、電圧制御形の半導体スイッチング素子を用いており、より具体的にはIGBTを用いている。各スイッチ22,23には、フリーホイールダイオード24が逆並列にそれぞれ接続されている。
【0031】
バッテリ40の高電位側とインバータ20の高電位側とは、電源線LEにより接続されており、バッテリ40の低電位側とインバータ20の低電位側とは、接地線LGにより接続されている。電源線LEと接地線LGとの間には、コンデンサ25が接続されている。電源線LEのうち、コンデンサ25との接続点及びバッテリ40との接続点の間には、遮断スイッチ60が設けられている。遮断スイッチ60は、回転電機10の駆動時において通常オンされている。
【0032】
制御装置50は、CPU、ROM、RAM、及びフラッシュメモリ等からなる周知のマイクロコンピュータを備えている。制御装置50は、各種信号を取得し、取得した情報に基づき、各種制御を実施する。
【0033】
具体的には、制御装置50は、回転電機10の駆動時に、バッテリ40の電圧VBを検出する電圧センサ51、回転電機10の各相の巻線14に流れる電流I#(#=U,V,W)を検出する相電流センサ53、回転電機10の電気角θを検出する回転角センサ54、及び回転電機10の永久磁石12の温度YM(以下、回転電機10の温度YM)を検出する温度センサ55等から検出値を取得する。制御装置50は、取得した検出値に基づき、回転電機10の制御量をその指令値に制御すべく、インバータ20を制御する。本実施形態において、制御量は出力トルクTEである。
【0034】
具体的には、制御装置50は、インバータ20の制御において、デッドタイムを挟みつつスイッチ22,23を交互にオンとすべく、スイッチ22,23それぞれに対応する駆動信号SGを、スイッチ22,23に出力する。駆動信号SGは、スイッチ22,23をオン状態とするオン指令と、オフ状態とするオフ指令とのいずれかをとる。
【0035】
また、制御装置50は、取得した検出値に基づいて、遮断スイッチ60のオンオフを切り替えるべく、切替信号SCを生成し、生成した切替信号SCを遮断スイッチ60に出力する。
【0036】
ところで、図2に示すように、回転電機10では、温度が低いほど、巻線14に生じる逆起電力VRが大きくなる。逆起電力VRが大きくなると、ロータ11とステータ13との間のフリクションが増大することなどから、回転電機10に要求される出力トルクTEが大きくなる。従来技術では、回転電機10の駆動時に、温度YMが基準温度YKよりも低い場合に、高い場合と比較して、インバータ20の駆動信号SGの生成に用いるキャリア周波数を相対的に低く設定する。これにより、回転電機10のリプル電流を大きくすることができ、渦電流増加により回転電機10の温度YMを上昇させることができるという。ここでリプル電流は、インバータ20における上アームスイッチ22及び下アームスイッチ23のスイッチングにより、変動する回転電機10の巻線14に流れる電流I#であり、この電流I#の振幅が大きいほどリプル電流が大きくなる。
【0037】
しかし、回転電機システム100では、コアレスモータ等のインダクタンスの低い回転電機10が用いられることがある。インダクタンスが低い回転電機10において、インバータ20のキャリア周波数が低く設定されると、回転電機10の巻線14に流れる電流I#の制御性が悪化するおそれがある。また、キャリア周波数が低く設定された結果、キャリア周波数とバッテリ40及びコンデンサ25間の共振周波数とが近接し、回転電機10を適正に駆動できないおそれもある。
【0038】
本実施形態では、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低いと判定された場合に、低くないと判定された場合に比べて、回転電機10の巻線14に流れる電流I#により定まる回転電機10の電流ベクトルの大きさが大きくなるようにインバータ20の電流指令値IKを設定する設定処理を実施する。これにより、回転電機10のインダクタンスが低い場合でも、回転電機10を適正に駆動しつつ、巻線14の銅損増加により回転電機10の温度YMを上昇させることができる。
【0039】
図3に、本実施形態の設定処理のフローチャートを示す。制御装置50は、回転電機10の駆動時に、所定の制御周期TK(図6参照)毎に設定処理を繰り返し実施する。
【0040】
設定処理を開始すると、まずステップS10において、温度センサ55を用いて回転電機10の温度YMを取得する。続くステップS12において、ステップS10で取得された温度YMが基準温度YKよりも低いか否かを判定する。そして、続くステップS14,S16において、ステップS12の判定結果に基づいて、インバータ20の電流指令値IKを設定する。なお、本実施形態において、ステップS12の処理が「温度判定部」に相当する。
【0041】
具体的には、温度YMが基準温度YK以上であると判定した場合、回転電機10が高温であると判定する。この場合、ステップS12で否定判定し、続くステップS14において、インバータ20の電流指令値IKを、最小電流点PA(図4参照)の電流指令値IKに設定し、設定処理を終了する。
【0042】
ここで、最小電流点PAについて、図4を用いて説明する。図4には、バッテリ40の電圧VBを回転電機10に印加される電圧の電圧制限値とする場合に、回転電機10のdq座標系において、回転電機10の電流ベクトルのd軸成分(以下、d軸電流)Id及びq軸成分(以下、q軸電流)Iqにより規定される楕円である電圧制限楕円CAが記載されている。電圧制限楕円CAは、回転電機10に流すことができる電流ベクトルの範囲を示す。
【0043】
また、図4には、回転電機10に流れる単位大きさあたりの電流ベクトルに対して、回転電機10の出力トルクTEが最大となるd,q軸電流Id,Iqから定まる最大トルク最小電流曲線LAが記載されている。図4に矢印YA(破線)で示すように、本実施形態では、温度YMが基準温度YK以上である場合に、インバータ20の電流指令値IKを、電圧制限楕円CA内であって、最大トルク最小電流曲線LA上における最小電流点PAの電流指令値IKに設定する。ここで電流指令値IKは、ある出力トルクTEを生成するためのd,q軸電流Id,Iqの制御目標値である。最小電流点PAにおける回転電機10の出力トルクTEが、出力トルクTEの目標値である目標トルクTMである。図4には、出力トルクTEが目標トルクTMと等しくなる等トルク線LBが記載されている。
【0044】
一方、温度YMが基準温度YKよりも低いと判定した場合、回転電機10が低温であると判定する。この場合、ステップS12で肯定判定し、続くステップS16において、インバータ20の電流指令値IKを、電圧制限楕円CAと等トルク線LBとの交点のうち、最小電流点PAよりも弱め界磁用のd軸電流Idが小さくなる側の減少側交点PB(図4参照)の電流指令値IKに設定し、設定処理を終了する。なお、本実施形態において、ステップS14,16の処理が「設定部」に相当する。
【0045】
続いて、図4図6を用いて、設定処理をより具体的に説明する。図4に示すように、最小電流点PAと減少側交点PBとは同一の等トルク線LB線上に位置している。そのため、減少側交点PBにおける回転電機10の出力トルクTEは、最小電流点PAにおける回転電機10の出力トルクTEに等しい。つまり、本実施形態では、温度YMによらず、回転電機10の出力トルクTEが目標トルクTMに維持される。
【0046】
また、図4に矢印YB(実線)で示すように、減少側交点PBにおいて回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさは、最小電流点PAにおいて回転電機10に流れる電流ベクトルに比べて大きい。つまり、本実施形態では、温度YMが基準温度YKよりも低いと判定された場合に、基準温度YK以上であると判定された場合に比べて、回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるようにインバータ20の電流指令値IKが設定される。そのため、巻線14の銅損増加により回転電機10の温度YMを上昇させることができる。
【0047】
続いて、図5に、最小電流点PAと減少側交点PBとにおけるインバータ20の各スイッチ22,23の状態の推移を示す。ここで、図5(A)は、最小電流点PA、つまり回転電機10が高温である場合の各スイッチ22,23の状態の推移を示し、図5(B)は、減少側交点PB、つまり回転電機10が低温である場合の各スイッチ22,23の状態の推移を示す。
【0048】
図5(A)に示すように、回転電機10が高温である場合、PWM制御によりインバータ20が制御される。PWM制御では、回転電機10への電圧指令値と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づいて、各相の上,下アームスイッチの状態が制御される。回転電機10が高温である場合、キャリア信号の振幅と電圧指令値とが略同一とされる。つまり、キャリア信号の振幅に対する電圧指令値の比で示される電圧利用率が略1となる。そのため、各スイッチ22,23のオンオフの切り替えが、回転電機10への出力電圧の周期よりも短い周期で繰り返されるPWM駆動が実施される。
【0049】
また、図5(B)に示すように、回転電機10が低温である場合、矩形波駆動によりインバータ20が制御される。回転電機10が低温である場合、電流ベクトルの増大により電圧指令値が増大し、電圧利用率が上昇する。そのため、各スイッチ22,23のオンオフの切り替えが、回転電機10への出力電圧の周期と略同一の周期で繰り返される矩形波駆動が実施される。つまり、回転電機10が低温である場合、高温である場合に比べて、インバータ20における各スイッチ22,23のオンオフの切替回数を減らすことができ、スイッチング損減少によりインバータ20の発熱を抑制できる。
【0050】
続いて、図6に、回転電機10の始動時における回転電機10の温度YMの推移を示す。時刻t1に回転電機10が始動すると、この時刻t1に設定処理を開始し、制御周期TK毎に、回転電機10が低温であるか否かが判定される。設定処理では、回転電機10が低温であると判定されると、回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさが比較的大きい減少側交点PBの電流指令値IKにより、回転電機10の温度YMを上昇させる。これにより、図6に時刻t1から時刻t6までの期間として示されているように、回転電機10を始動させてから、回転電機10が継続して高温となるまでの期間を短縮でき、回転電機10の始動時に回転電機10の温度YMを早期に上昇させることができる。
【0051】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0052】
・本実施形態では、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低いと判定された場合に、基準温度YK以上であると判定された場合に比べて、回転電機10の巻線14に流れる電流ベクトルの大きさを大きくするようにインバータ20の電流指令値IKを設定する。これにより、巻線14の銅損増加により回転電機10の温度YMを上昇させることができる。
【0053】
・回転電機10の巻線14に流れる電流ベクトルの大きさを大きくする場合、電流ベクトルは電圧制限楕円CA内において大きくすることができる。この場合に、電圧制限楕円CA内に存在する目標トルクTMの等トルク線LB上において、最小電流点PAから弱め界磁用のd軸電流Idを大きくする側又は小さくする側に設定することで、回転電機10の出力トルクTEを目標トルクTMに維持しつつ、回転電機10の巻線14に流れる電流ベクトルの大きさを大きくできる。
【0054】
・本実施形態では、回転電機10の巻線14に流れる電流ベクトルの大きさを大きくする場合に、等トルク線LB上において弱め界磁用のd軸電流Idを小さくする側に設定する。これにより、キャリア信号の振幅に対する回転電機10への電圧指令値の比で示される電圧利用率を上昇させて回転電機10の昇温効果を高めつつ、インバータ20については、スイッチング損減少により回転電機10のように昇温を図ることなく発熱を抑制できる。
【0055】
また、本実施形態では、等トルク線LB上において弱め界磁用のd軸電流Idを小さくする側に設定する場合において、その端点である減少側交点PBの電流指令値IKに設定する。これにより、弱め界磁用のd軸電流Idを小さくする側に設定する場合において、回転電機10の巻線14に流れる電流ベクトルの大きさを最も大きくすることができ、回転電機10の温度YMを早期に上昇させることができる。
【0056】
(第1実施形態の変形例)
図7に示すように、設定処理において、温度YMが基準温度YKよりも低いと判定した場合に、インバータ20の電流指令値IKを、電圧制限楕円CAと等トルク線LBとの交点のうち、最小電流点PAよりも弱め界磁用のd軸電流Idが大きくなる側の増加側交点PCの電流指令値IKに設定してもよい。
【0057】
この場合、図7に矢印YC(実線)で示すように、増加側交点PCにおいて回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさは、最小電流点PAにおいて回転電機10に流れる電流ベクトルに比べて大きく、かつ減少側交点PBにおいて回転電機10に流れる電流ベクトルに比べて大きい。これにより、回転電機10の巻線14の銅損を好適に増加させることができ、回転電機10の温度YMを早期に上昇させることができる。
【0058】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図8図10を参照しつつ説明する。図8において、先の図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
本実施形態では、回転電機システム100が昇圧回路70を備えている点で、第1実施形態と異なる。昇圧回路70は、バッテリ40の電圧VBを所定の昇圧比RBで昇圧してインバータ20に供給する。
【0060】
昇圧回路70は、コンデンサ25とインバータ20との間に接続されており、高電位側のスイッチング素子である上アームスイッチ72、及び低電位側のスイッチング素子である下アームスイッチ73の直列接続体75を備える。なお、本実施形態では、スイッチ72,73として、電圧制御形の半導体スイッチング素子を用いており、より具体的にはIGBTを用いている。各スイッチ72,73には、フリーホイールダイオード74が逆並列にそれぞれ接続されている。
【0061】
直列接続体75の高電位側とインバータ20の高電位側とは、昇圧線LUにより接続されており、バッテリ40の高電位側と上アームスイッチ72と下アームスイッチ73との中間点PXとは、電源線LEにより接続されている。また、バッテリ40の低電位側と直列接続体75の低電位側とインバータ20の低電位側とは、接地線LGにより接続されている。昇圧線LUと接地線LGとの間には、コンデンサ76が接続されている。電源線LEのうちコンデンサ25と中間点PXとの間に、平滑リアクトル71が設けられている。
【0062】
昇圧回路70は、昇圧比RBを変更可能に構成されている。制御装置50は、温度センサ55等が取得した検出値に基づき、昇圧比RBを制御する。具体的には、制御装置50は、昇圧比RBの制御において、スイッチ72,73それぞれに対応する昇圧信号SDを、スイッチ72,73に出力する。
【0063】
本実施形態では、設定処理において、回転電機10の温度YMにより回転電機10の電流ベクトルの大きさとともに、昇圧回路70の昇圧比RBを変更する点で、第1実施形態と異なる。具体的には、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定された場合に、昇圧比RBを、低下判定前の昇圧比RBである低下前昇圧比RAから下げても、回転電機10の出力トルクTEを目標トルクTMに維持できるか否かを判定する。そして、維持できると判定された場合には、昇圧比RBを低下前昇圧比RAから下げるようにする。ここで昇圧比RBを下げるとは、例えば昇圧回路70の昇圧駆動を停止させて昇圧比RBを1とすることである。これにより、回転電機10の温度YMを上昇させることができるとともに、昇圧回路70の発熱を抑制できる。なお、本実施形態において、目標トルクTMが「低下前トルク」に相当する。
【0064】
図9に、本実施形態の設定処理のフローチャートを示す。低下判定前の昇圧比RBとあるように、本実施形態の設定処理では、回転電機10が高温で駆動していることを前提としている。そのため、制御装置50は、回転電機10の高温駆動時に、制御周期TK毎に設定処理を繰り返し実施する。なお、低下判定前とは、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低いと判定される直前を意味し、ここで「直前」とは、例えば低下判定した制御周期TKの1つ前、数個前の制御周期TKを意味する。図9において、先の図3に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0065】
本実施形態の設定処理では、ステップS10で回転電機10の温度YMを取得すると、ステップS12において、温度YMが基準温度YKよりも低下したか否かを判定する。ステップS12で否定判定すると、設定処理を終了する。つまり、制御装置50は、昇圧比RBを低下前昇圧比RAに維持するとともに、インバータ20の電流指令値IKを、最小電流点PD(図10参照)の電流指令値IKに維持する。
【0066】
ステップS12で肯定判定すると、つまり温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定した場合に、ステップS20において、昇圧比RBを低下前昇圧比RAから下げても、回転電機10の出力トルクTEを目標トルクTMに維持できるか否かを判定する。なお、本実施形態において、ステップS20の処理が「維持判定部」に相当する。
【0067】
ここで、目標トルクTMの維持判定について、図10を用いて説明する。図10には、昇圧比RBを低下前昇圧比RAとしたときに、インバータ20に供給される電圧を電圧制限値とする場合における第1電圧制限楕円CBが記載されている。
【0068】
図10に矢印YD(破線)で示すように、本実施形態では、回転電機10が高温である場合において、回転電機10には、第1電圧制限楕円CBと最大トルク最小電流曲線LAとの交点で定まる最小電流点PDの電流ベクトルが流れている。つまり、この最小電流点PDで定まる電流ベクトルが流れる場合の出力トルクTEが目標トルクTMである。
【0069】
昇圧回路70の昇圧駆動を停止させると、インバータ20に供給される電圧の低下により、電圧制限楕円が第1電圧制限楕円CBから第2電圧制限楕円CDへと縮小する。ここで第2電圧制限楕円CDは、昇圧比RBを1としたときに、インバータ20に供給される電圧、つまりバッテリ40の電圧VBを電圧制限値とする場合における電圧制限楕円である。ステップS20では、第2電圧制限楕円CD内に等トルク線LBの一部が存在するか否かを判定することにより、回転電機10の出力トルクTEを目標トルクTMに維持できるか否かを判定する。
【0070】
第2電圧制限楕円CD内に等トルク線LBが存在しない場合、目標トルクTMに維持できないと判定する。この場合、ステップS20で否定判定し、設定処理を終了する。
【0071】
一方、第2電圧制限楕円CD内に等トルク線LBの一部が存在する場合、目標トルクTMに維持できると判定する。この場合、ステップS20で肯定判定し、続くステップS22において、昇圧回路70の昇圧駆動を停止させる昇圧信号SDを昇圧回路70の各スイッチ72,73に出力する。具体的には、上アームスイッチ72をオンに切り替え、下アームスイッチ73をオンに切り替える昇圧信号SDを出力する。
【0072】
続くステップS24において、インバータ20の電流指令値IKを、第2電圧制限楕円CD内で等トルク線LB上の等トルク点PE(図10参照)の電流指令値IKに変更し、設定処理を終了する。
【0073】
続いて、図10を用いて、設定処理をより具体的に説明する。本実施形態では、等トルク点PEとして、等トルク線LBと第2電圧制限楕円CDとの交点のうち、弱め界磁用のd軸電流Idが小さい側の交点を等トルク点PEとして設定する。図10に矢印YE(実線)で示すように、等トルク点PEにおいて回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさは、最小電流点PDにおいて回転電機10に流れる電流ベクトルに比べて大きい。そのため、温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定された場合に、インバータ20の電流指令値IKを等トルク点PEの電流指令値IKに変更することで、回転電機10の温度YMを上昇させることができる。
【0074】
また、図10に示すように、等トルク点PEは第2電圧制限楕円CD上に位置している。そのため、インバータ20の電流指令値IKを等トルク点PEの電流指令値IKに変更することで、昇圧回路70の昇圧駆動を停止させることができ、昇圧回路70の発熱を抑制できる。
【0075】
以上詳述した本実施形態によれば、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定された場合に、インバータ20の電流指令値IKを変更する。この場合において、昇圧回路70の昇圧比RBを低下前昇圧比RAから下げても、回転電機10の出力トルクTEを目標トルクTMに維持できるか否かを判定する。そして、維持できる場合には昇圧回路70の昇圧比RBを低下前昇圧比RAから下げつつ、回転電機10の出力トルクTEを目標トルクTMに維持し、かつ回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるようにする。これにより、回転電機10の温度YMを上昇させることができるとともに、昇圧回路70の発熱を抑制できる。
【0076】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図11図15を参照しつつ説明する。図11において、先の図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付して説明を省略する。
【0077】
本実施形態では、回転電機システム100がインバータ20に加えてインバータ30を備えている点で、第1実施形態と異なる。以下では、区別のために、インバータ20を第1インバータ20と呼び、インバータ30を第2インバータ30と呼ぶ。
【0078】
第2インバータ30は、高電位側のスイッチング素子である上アームスイッチ32(32A,32B,32C)、及び低電位側のスイッチング素子である下アームスイッチ33(33A,33B,33C)の直列接続体が、並列に接続されて構成されている。なお、本実施形態では、スイッチ32,33として、電圧制御形の半導体スイッチング素子を用いており、より具体的にはIGBTを用いている。各スイッチ32,33には、フリーホイールダイオード34が逆並列にそれぞれ接続されている。
【0079】
本実施形態では、回転電機10は、オープンデルタ型の3相の巻線14を有し、各相上、第1インバータ20における上アームスイッチ22と下アームスイッチ23の接続点には、回転電機10の対応する相の巻線14の両端のうち第1端が接続されている。また、各相上、第2インバータ30における上アームスイッチ32と下アームスイッチ33の接続点には、回転電機10の対応する相の巻線14の両端のうち第2端が接続されている。
【0080】
バッテリ40の高電位側と第1インバータ20の高電位側と第2インバータ30の高電位側とは、電源線LEにより接続されており、バッテリ40の低電位側と第1インバータ20の低電位側と第2インバータ30の高電位側とは、接地線LGにより接続されている。電源線LEと接地線LGとの間において、コンデンサ25は、第1インバータ20及び第2インバータ30よりもバッテリ40側に位置しており、電源線LEにおいて、コンデンサ25よりもバッテリ40側に、遮断スイッチ60が設けられている。なお、本実施形態において、電源線LEが「高電位側接続線」に相当し、接地線LGが「低電位側接続線」に相当する。
【0081】
制御装置50は、第2インバータ30の制御において、デッドタイムを挟みつつスイッチ32,33を交互にオンとすべく、スイッチ32,33それぞれに対応する駆動信号SGを、スイッチ32,33に出力する。以下では、区別のために、第1インバータ20の駆動信号SGを第1駆動信号SG1と呼び、第2インバータ30の駆動信号SGを第2駆動信号SG2と呼ぶ。
【0082】
続いて、図12を用いて、制御装置50のうち、第1駆動信号SG1及び第2駆動信号SG2を生成する部分の回路構成について説明する。
【0083】
電流制御部61は、回転電機10の3相固定座標系における電流I#をdq座標系におけるd,q軸成分に変換したd,q軸電流Id,Iqを、回転電機10の目標トルクTMに基づいて設定されたd,q軸電流指令値Id*,Iq*とするための操作量として、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を算出する。
【0084】
3相変換部62は、電流制御部61から出力されたd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*、及び電気角θに基づいて、dq座標系におけるd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を、3相固定座標系におけるU,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する。3相変換部62は、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を、電気角θを有し、位相が互いに120°ずれた正弦波信号であるU,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する。なお、本実施形態において、U,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が「指令電圧」に相当する。
【0085】
駆動信号算出部63は、3相変換部62から出力されたU,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*、及びキャリア信号に基づいて、第1駆動信号SG1及び第2駆動信号SG2を算出する。つまり、駆動信号算出部63は、d,q軸電流Id,Iqをd,q軸電流指令値Id*,Iq*に制御すべく、第1インバータ20の各スイッチ22,23をオンオフするための第1駆動信号SG1を算出し、第2インバータ30の各スイッチ32,33をオンオフするための第2駆動信号SG2を算出する。
【0086】
角速度算出部64は、電気角θの時間微分値としての電気角速度ωを算出する。2相変換部65は、相電流センサ53から出力された電流I#、及び角速度算出部64から出力された電気角θと電気角速度ωとに基づいて、回転電機10の3相固定座標系における電流I#をd,q軸電流Id,Iqに変換し、電流制御部61に出力する。
【0087】
ところで、回転電機10では、温度YMが低いほど回転電機10に要求される出力トルクTEが大きくなる。そのため、回転電機10の出力トルクTEを維持しつつ、回転電機10の温度YMを上昇させることができる技術が求められている。
【0088】
本実施形態では、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低いと判定された場合に、回転電機10の巻線14に流れる電流I#の波形を設定する設定処理を実施する。設定処理では、回転電機10の巻線14に流れる電流I#が、巻線14に流す電流I#に含まれる基本波FAに、この基本波FAのn×(2k-1)次の高調波FB(kは自然数)を重畳した重畳波FCとなるように電流指令値を設定する(図14参照)。重畳波FCに含まれる基本波FAにより、回転電機10の出力トルクTEを維持することができる。また、重畳波FCに含まれる高調波FBにより、回転電機10の巻線14が生成する磁束Φが脈動する。これにより、巻線14に渦電流が発生し、渦電流損により回転電機10の温度YMを上昇させることができる。
【0089】
図13に、本実施形態の設定処理のフローチャートを示す。制御装置50は、回転電機10の駆動時に、所定の制御周期TK毎に設定処理を繰り返し実施する。
【0090】
設定処理を開始すると、まずステップS30において、温度センサ55を用いて回転電機10の温度YMを取得する。続くステップS32において、ステップS30で取得された温度YMが基準温度YKよりも低いか否かを判定する。そして、続くステップS34,S36において、ステップS32の判定結果に基づいて、回転電機10の巻線14に流れる電流I#の波形を設定する。なお、本実施形態において、ステップS32の処理が「温度判定部」に相当する。
【0091】
具体的には、温度YMが基準温度YK以上であると判定した場合、回転電機10が高温であると判定する。この場合、ステップS32で否定判定し、続くステップS34において、回転電機10の巻線14に流れる電流I#の波形が基本波FAとなるようにインバータ20の電流指令値IKを設定し、設定処理を終了する。具体的には、3相変換部62から出力されたU,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*は、基本波FAに対応する指令値であるため、このU,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を補正することなく駆動信号算出部63に出力するようにする。
【0092】
一方、温度YMが基準温度YKよりも低いと判定した場合、回転電機10が低温であると判定する。この場合、ステップS32で肯定判定し、続くステップS36において、回転電機10の巻線14に流れる電流I#の波形が重畳波FCとなるようにインバータ20の電流指令値IKを設定し、設定処理を終了する。具体的には、3相変換部62から出力されたU,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に、高調波FBに対応する指令値である高調波指令値Vz*を加算する補正をして、駆動信号算出部63に出力するようにする。なお、本実施形態において、ステップS34,S36の処理が「設定部」に相当する。
【0093】
ここで、U,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*の補正について、図12を用いて説明する。図12に示すように、制御装置50は、高調波算出部66と電圧補正部67とを備えている。高調波算出部66は、3相変換部62から出力されたU,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*、及び角速度算出部64から出力された電気角θと電気角速度ωとに基づいて、高調波指令値Vz*を算出する。高調波指令値Vz*は、振幅Ψz、電気角θ及びU相電流Iuに対する位相θzを用いて、(式1)のように表される。ここでzは次数を意味し、(式2)のように表される。
【0094】
Vz*=Ψz×sin(z×θ+θz)・・・(式1)
z=3×(2k-1)・・・(式2)
電圧補正部67は、高調波算出部66から出力された高調波指令値Vz*を用いて、3相変換部62から出力されたU,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を補正する。具体的には、電圧補正部67は、U,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に高調波指令値Vz*を加算することによって、U,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を補正する。駆動信号算出部63は、電圧補正部67により補正されたU,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、第1,第2駆動信号SG1,SG2を算出する。これにより、図14に示すように、回転電機10の巻線14には、重畳波FCの電流I#が流れる。なお、図14には、基本波FAに、次数zが3(k=1)の高調波FBが重畳した重畳波FCが記載されている。
【0095】
図15に、回転電機10の巻線14に電流I#を流した場合に、回転電機10の巻線14が生成する磁束Φの推移を示す。図14に実線で示すように、電流I#の波形が基本波FAであると、磁束Φは略一定に保たれる。一方、図14に破線で示すように、電流I#の波形が重畳波FCであると、重畳波FCに含まれる高調波FBに基づいて磁束Φが脈動する。これにより、巻線14に渦電流が発生し、渦電流損により回転電機10の温度YMを上昇させることができる。
【0096】
次に、高調波指令値Vz*の振幅Ψz及び次数zについて説明する。振幅Ψzは、温度YMと基準温度YKとの間の温度差に基づいて設定される。具体的には、温度差(=YK-YM)が大きいほど振幅Ψzが大きくなるように設定される。また、次数zは、回転電機10の相数の奇数倍に設定されている。そのため、回転電機10に高調波FBの電流成分を流し続けることができ、回転電機10の巻線14に渦電流を発生し続けることができる。
【0097】
(式1)に示すように、次数zが大きくなるほど高調波指令値Vz*の周波数が高くなる。これにより、高調波指令値Vz*の周波数がキャリア信号のキャリア周波数に近づくと、駆動信号算出部63において第1駆動信号SG1及び第2駆動信号SG2を適正に算出できない。そのため、次数zはキャリア周波数に基づいて設定される。また、次数zにより決定される高調波指令値Vz*の周波数によっては、回転電機10のインダクタンスにより巻線14に発生する銅損が大きくなる。そのため、次数zは回転電機10のインダクタンスに基づいて設定される。
【0098】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0099】
・本実施形態では、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低いと判定された場合に、回転電機10の巻線14に流す電流I#の波形が、基本波FAと高調波FBとを重畳した重畳波FCとなるようにする。これにより、回転電機10の巻線14が生成する磁束Φを、高調波FBに基づいて脈動させることができ、巻線14に発生する渦電流の渦電流損により回転電機10の温度YMを上昇させることができる。
【0100】
・高調波FBの次数zは、例えば回転電機10の巻線14が3相の場合、3の奇数倍であれば回転電機10に高調波FBの電流成分が流れ続ける。一方、キャリア周波数や回転電機10のインダクタンスによっては、この高調波FBの電流成分により不具合が生じることがある。本実施形態では、高調波FBの次数zを3の奇数倍とした上で、その具体的な次数zをキャリア周波数と回転電機10のインダクタンスとに基づいて決定する。そのため、回転電機10に適正な高調波FBの電流成分を流すことができる。
【0101】
(第3実施形態の変形例)
図16に示すように、第2インバータ30では、上アームスイッチ32及び下アームスイッチ33の直列接続体が1つのみ設けられていてもよい。第2インバータ30における上アームスイッチ32と下アームスイッチ33の接続点には、回転電機10の各巻線14の両端の一端が接続されている。なお、図16では、制御装置50や電圧センサ51等の記載を省略している。
【0102】
この場合、中性点として機能する上アームスイッチ32と下アームスイッチ33の接続点の電位を、上アームスイッチ32及び下アームスイッチ33により高電位側または低電位側に変化させることができ、これにより回転電機10に高調波FBの電流成分を流すことができる。
【0103】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図17図22を参照しつつ説明する。図17において、先の図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付して説明を省略する。
【0104】
本実施形態では、回転電機システム100が変速機81を備えている点で、第1実施形態と異なる。回転電機10のロータ11は、駆動軸80を介して車両の駆動輪82と動力伝達が可能なように接続されており、変速機81は、駆動軸80におけるロータ11と駆動輪82との間に設けられている。つまり、回転電機10のロータ11の回転は、駆動軸80及び変速機81を介して駆動輪82に伝達される。なお、本実施形態において、駆動軸80及び変速機81が「動力伝達機構」に相当する。
【0105】
変速機81は、回転電機10のロータ11の回転を、所定の変速比RHで変速して駆動輪82に伝達する。ここで変速比RHは、回転電機10の電気角θの時間微分値としての電気角速度ωに対する車両の速度NEの比(=NE/ω)を示しており、例えば変速機81のギア比である。
【0106】
変速機81は、変速比RHを変更可能に構成されている。制御装置50は、変速比RHを制御する。具体的には、制御装置50は、回転電機10の駆動時に、車両の速度NEを検出する回転速度センサ56、車両におけるアクセル83のアクセル操作量ASを検出するアクセルセンサ57等から検出値を取得する。制御装置50は、取得した検出値に基づき、変速比RHを制御する変圧信号SHを、変速機81に出力する。
【0107】
ところで、回転電機10では、温度YMが低いほど回転電機10に要求される出力トルクTEが大きくなる。そのため、回転電機10の温度YMを上昇させることができる技術が求められている。しかし、回転電機10が、駆動軸80を介して駆動輪82に接続されている構成では、回転電機10の温度YMを上昇させるために車両の速度NE及び駆動力WAを変更できないことがある。そのため、車両の速度NE及び駆動力WAを維持しつつ、回転電機10の温度YMを上昇させることができる技術が求められている。
【0108】
本実施形態では、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定された場合に、変速機81の変速比RHを変更するとともに、インバータ20の電流指令値IKを変更する。変速比RHと電流指令値IKとを対応させて変更することで、車両の速度NE及び駆動力WAを維持することが可能となる。なお車両の駆動力WAは、車両の速度NE及びアクセル操作量ASに基づいて算出される。
【0109】
具体的には、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定された場合に、低下判定前の車両の速度NE及び駆動力WAを維持しつつ、回転電機10の電気角速度ωを低下判定前よりも低くする設定処理を実施する。回転電機10の電気角速度ωが低下することで、回転電機10の冷却性能RS(図21参照)を低下させることができる。ここで冷却性能RSとは、回転電機10のロータ11の回転により回転電機10の温度YMを低下させる性能である。具体的には、回転電機10のロータ11の回転による遠心力で冷媒を圧送することにより、回転電機10を冷却する性能である。
【0110】
また、回転電機10の電気角速度ωが低下することで、回転電機10の出力トルクTEが上昇し、回転電機10の発熱量を増加させることができる。これにより、回転電機10の温度YMを上昇させることができる。なお、本実施形態において、電気角速度ωが「回転速度」に相当する。
【0111】
図18に、本実施形態の設定処理のフローチャートを示す。低下判定前の車両の速度NE及び駆動力WAとあるように、本実施形態の設定処理では、回転電機10が高温で駆動していることを前提としている。そのため、制御装置50は、回転電機10の高温駆動時に、制御周期TK毎に設定処理を繰り返し実施する。なお、低下判定前とは、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低いと判定される直前を意味し、ここで「直前」とは、例えば低下判定した制御周期の1つ前、数個前の制御周期TKを意味する。
【0112】
設定処理を開始すると、まずステップS40において、温度センサ55を用いて回転電機10の温度YMを取得する。続くステップS42において、温度YMが基準温度YKよりも低下したか否かを判定する。ステップS42で否定判定すると、設定処理を終了する。つまり、制御装置50は、変速比RHを維持するとともに、回転電機10の電気角速度ωが維持されるように、インバータ20の電流指令値IKを設定する。なお、本実施形態において、ステップS42の処理が「温度判定部」に相当する。
【0113】
ステップS42で肯定判定すると、つまり温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定した場合に、ステップS44において、特定条件を満たすか否かを判定する。
【0114】
ここで、特定条件について、図19を用いて説明する。図19には、変速比RHが第1変速比RH1である場合に、車両を走行可能な速度NE及び駆動力WAの範囲である第1駆動範囲EA1が示されている。ここで第1駆動範囲EA1は、車両の低速度領域において駆動力WAの広い領域に設定された範囲である。
【0115】
また、図19には、変速比RHが第1変速比RH1よりも大きい第2変速比RH2である場合に、車両を走行可能な速度NE及び駆動力WAの範囲である第2駆動範囲EA2が示されている。ここで第2駆動範囲EA2は、車両の低駆動力領域において速度NEの広い領域に設定された範囲である。
【0116】
そのため、第1駆動範囲EA1と第2駆動範囲EA2とは、車両の低速度領域及び低駆動力領域において重複しており、その重複した範囲である共通範囲EBでは、第1変速比RH1及び第2変速比RH2のいずれであっても車両を走行させることができる。本実施形態において、特定条件とは、車両の速度NE及び駆動力WAが、この共通範囲EBに含まれているという条件である。つまり、特定条件を満たす場合には、車両の速度NE及び駆動力WAを維持しつつ変速比RHを変更することができ、これにより電気角速度ωを変更することができる。
【0117】
ステップS44で否定判定すると、設定処理を終了する。一方、ステップS44で肯定判定すると、ステップS46において、回転電機10に弱め界磁が実施されているか否かを判定する。ここで弱め界磁は、d軸電流Idを所定の負の値にして、回転電機10の巻線14に生じる逆起電力VRを減少させる制御である。ステップS46で否定判定すると、ステップS50に進む。
【0118】
ステップS46で肯定判定すると、つまり回転電機10に弱め界磁が実施されている場合に、ステップS48において、回転電機10の電気角速度ωを低下させても、弱め界磁を維持できるか否かを判定する。
【0119】
ここで、弱め磁界の維持判定について、図19を用いて説明する。図19には、第1駆動範囲EA1において弱め界磁が実施可能な第1界磁範囲EC1、及び第2駆動範囲EA2において弱め界磁が実施可能な第2界磁範囲EC2が示されている。第1界磁範囲EC1は、第1界磁範囲EC1のうちの比較的高い速度領域において、駆動力WAの広い領域に設定されている。また、第2界磁範囲EC2は、第2界磁範囲EC2のうちの比較的高い速度領域に設定されている。
【0120】
第1界磁範囲EC1と第2界磁範囲EC2とは、共通範囲EBの一部において重複し、その重複した範囲である共通界磁範囲EDでは、第1変速比RH1及び第2変速比RH2のいずれであっても弱め界磁を実施させることができる。ステップS48では、車両の速度NE及び駆動力WAが共通界磁範囲EDに含まれているか否かを判定する。なお、本実施形態において、ステップS46,S48の処理が「禁止部」に相当する。
【0121】
車両の速度NE及び駆動力WAが共通界磁範囲EDに含まれていない場合、ステップS48で否定判定し、設定処理を終了する。一方、車両の速度NE及び駆動力WAが共通界磁範囲EDに含まれている場合、ステップS48で肯定判定し、ステップS50に進む。ステップS50では、変速比RHを第1変速比RH1から第2変速比RH2に上昇させる。続くステップS52において、変速比RHの上昇に対応させて回転電機10の電気角速度ωが低下するように、インバータ20の電流指令値IKを設定し、設定処理を終了する。なお、本実施形態において、ステップS50,S52の処理が「設定部」に相当する。
【0122】
続いて、図19図22を用いて、設定処理をより具体的に説明する。図19に示すように、共通範囲EBにおける第1界磁範囲EC1には、第2界磁範囲EC2と共通化された共通界磁範囲EDと、その他の範囲EXとが含まれる。
【0123】
図19に点PFで示すように、車両の速度NE及び駆動力WAが共通界磁範囲EDに含まれている場合、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定されると、弱め界磁を維持し、かつ車両の速度NE及び駆動力WAを維持しつつ、変速比RHを第1変速比RH1から第2変速比RH2に上昇させる。これにより、低下判定前よりも回転電機10の電気角速度ωを低くすることができる。
【0124】
図20に、変速比RHを第1変速比RH1から第2変速比RH2に上昇させた場合の電気角速度ωと出力トルクTEとの関係を示す。図20には、図19の第1駆動範囲EA1及び第2駆動範囲EA2を示す駆動範囲EAが記載されている。また、図20には、図19の第1界磁範囲EC1及び第2界磁範囲EC2を示す界磁範囲ECが記載されている。図20に示すように、電気角速度ωと出力トルクTEとの関係を示す図では、第1駆動範囲EA1及び第2駆動範囲EA2が共通の駆動範囲EAで示され、第1界磁範囲EC1及び第2界磁範囲EC2が共通の界磁範囲ECで示されている。
【0125】
図20に矢印YFで示すように、回転電機10では、電気角速度ωの低下により出力トルクTEが増大する。図21に示すように、回転電機10の電気角速度ωが低下することで、回転電機10の冷却性能RSが低下する。また、回転電機10の出力トルクTEが上昇することで、回転電機10の発熱量が増加する。これにより、回転電機10の温度YMを上昇させることができる。
【0126】
一方、図19に点PGで示すように、車両の速度NE及び駆動力WAがその他の範囲EXに含まれている場合、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定された場合に、変速比RHを第1変速比RH1から第2変速比RH2に上昇させると、弱め界磁を維持できない。具体的には、図22に矢印YGで示すように、変速比RHを第1変速比RH1から第2変速比RH2に上昇させると、電気角速度ωの低下により変更後の点PGが界磁範囲ECから外れてしまう。
【0127】
弱め界磁を維持できないと、電気角速度ωを低下させる際に弱め界磁用のd軸電流Idを小さくする必要がある。弱め界磁用のd軸電流Idを小さくすると、回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさが小さくなり、巻線14の銅損減少により回転電機10の温度YMが低下する。電気角速度ωが低下することによる回転電機10の昇温効果は、回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさが小さくなることによる回転電機10の降温効果よりも小さい。そのため、電気角速度ωを低下させると、回転電機10の温度YMが低下する。本実施形態では、弱め界磁を維持できない場合には、電気角速度ωを低下させることを禁止する。これにより、回転電機10の温度YMが低下することを抑制できる。
【0128】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0129】
・本実施形態では、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定された場合に、変速機81の変速比RHを変更するとともに、インバータ20の電流指令値IKを変更する。この場合において、本実施形態では、低下判定前の車両の速度NE及び駆動力WAを維持しつつ、回転電機10の電気角速度ωが低下判定前よりも低くなるようにする。回転電機10の電気角速度ωが低下することで、回転電機10の冷却性能RSが低下する。また、回転電機10の電気角速度ωが低下することで、回転電機10の出力トルクTEが上昇し、回転電機10の発熱量が増加する。これにより、回転電機10の温度YMを上昇させることができる。
【0130】
回転電機10の電気角速度ωを低く設定することによる回転電機10の昇温効果は、回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさが小さくなることによる回転電機10の降温効果よりも小さい。本実施形態では、回転電機10の電気角速度ωを低く設定した場合に、回転電機10に流れる電流ベクトルの大きさが低下判定前よりも小さくなる場合には、この設定を禁止する。これにより、回転電機10の温度YMが低下することを抑制できる。
【0131】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0132】
・回転電機10としては、3相のものに限らず、2相のものまたは4相以上のものであってもよい。
【0133】
・蓄電装置は、バッテリに限られず、キャパシタであってもよい。
【0134】
・インバータ20が備えるスイッチとしては、IGBTに限らず、例えばMOSFETであってもよい。この場合、スイッチに逆接続されるダイオードとしてMOSFETのボディダイオードを用いることができ、MOSFETとは別にフリーホイールダイオード24を用いる必要がない。なお、第2インバータ30及び昇圧回路70についても同様である。
【0135】
・第1実施形態において、最小電流点PAが減少側交点PBと等しいことがある。この場合には、回転電機10が低温であると判定されたときに、電圧制限楕円CA内に存在する目標トルクTMの等トルク線LB上において、最小電流点PAからd軸電流Idを大きくする側に設定することで、回転電機10の巻線14に流れる電流ベクトルの大きさを大きくしてもよい。
【0136】
・第2実施形態において、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低下する前の昇圧比RBが1である、つまり、昇圧回路70が昇圧していないことがある。この場合には、回転電機10の温度YMが基準温度YKよりも低下したと判定された場合に、昇圧比RBを1に維持しつつ、回転電機10の巻線14に流れる電流ベクトルの大きさが大きくなるようにすればよい。
【0137】
・本開示に記載の制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0138】
20…インバータ、40…バッテリ、50…制御装置、100…回転電機システム、IK…電流指令値、YK…基準温度、YM…温度。
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