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特許7377841組成物の装置における使用、装置、および、冷凍サイクル装置
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  • 特許-組成物の装置における使用、装置、および、冷凍サイクル装置 図1
  • 特許-組成物の装置における使用、装置、および、冷凍サイクル装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-01
(45)【発行日】2023-11-10
(54)【発明の名称】組成物の装置における使用、装置、および、冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20231102BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20231102BHJP
【FI】
F25B1/00 396Z
C09K5/04 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021124362
(22)【出願日】2021-07-29
(65)【公開番号】P2022027633
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2021-07-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2020131013
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】四元 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】臼井 隆
【合議体】
【審判長】間中 耕治
【審判官】竹下 和志
【審判官】槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-38014号公報
【文献】特開2015-83899号公報
【文献】特開2007-298254号公報
【文献】特開昭63-248994号公報
【文献】特開2019-196312号公報
【文献】特開2015-140946号公報
【文献】特開2010-267912号公報
【文献】特開2012-255640号公報
【文献】特開昭58-150794号公報
【文献】特開2014-159773号公報
【文献】特開2018-31336号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
C09K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン系のフルオロオレフィン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、および、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)からなる群より選択される1種または2種以上を含む組成物の装置における使用であって、
前記装置は、融点が1200℃以上である部分の熱容量が6.5J/K以上である金属を有し、前記組成物の不均化反応が発生した場合に熱を吸熱する、
使用。
【請求項2】
前記組成物は、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、モノフルオロエチレン(HFO-1141)、および、パーハロオレフィンからなる群より選択される1種または2種以上を含む、
請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組成物は、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む、
請求項2に記載の使用。
【請求項4】
エチレン系のフルオロオレフィン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、および、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)からなる群より選択される1種または2種以上を含む組成物を用いる装置であって、
融点が1200℃以上である部分の熱容量が6.5J/K以上である金属を有し、前記組成物の不均化反応が発生した場合に熱を吸熱する、
装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装置であって前記組成物を冷媒として用いる装置と、前記装置に接続される冷媒配管と、を含む冷媒回路を備えた冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
組成物の装置における使用、装置、および、冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷凍装置には、HFC冷媒より地球温暖化係数(Global Warming Potential:以下、単に、GWPという場合がある。)の低いハイドロフルオロオレフィン(HFO冷媒)が注目されている。例えば、特許文献1(特開2019-196312号公報)では、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)等がGWPの低い冷媒として検討されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようなHFO冷媒は、GWPが低いものの、安定性が低い。このため、一定条件下において不均化反応と呼ばれる自己分解反応が発生しやすい場合がある。不均化反応とは、同一種類の分子2個以上が相互に反応するなどの原因により、2種類以上の異なる種類の物質に転じる化学反応である。そして、このようにして発生したHFO冷媒の不均化反応は、伝播していく場合がある。
【0004】
本開示の目的は、冷媒の不均化反応の伝播を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の発明者らは冷媒の不均化反応の伝播を抑制すべく鋭意研究を重ねた結果、熱容量の大きなものを用いることにより冷媒の不均化反応の伝播が抑制されうることを新規に見出し、さらに検討を重ねることにより本開示の内容を完成するに至った。本開示は、以下の各観点に係る組成物の装置における使用、装置、および、冷凍サイクル装置を提供する。
【0006】
第1観点に係る使用は、組成物の装置における使用である。組成物は、エチレン系のフルオロオレフィン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、および、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)からなる群より選択される1種または2種以上を含む。装置は、融点が1000℃以上である部分の熱容量が6.5J/K以上である。
【0007】
なお、特に限定されないが、当該装置は、可動部分および/または電動部分を含むものであってよい。
【0008】
この組成物の装置における使用によれば、装置において不均化反応が発生したとしても、その不均化反応の伝播を抑制することが可能になる。
【0009】
第2観点に係る組成物の装置における使用は、第1観点の組成物の装置における使用であって、組成物は、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、モノフルオロエチレン(HFO-1141)、および、パーハロオレフィンからなる群より選択される1種または2種以上を含む。
【0010】
なお、1,2-ジフルオロエチレンは、トランス-1,2-ジフルオロエチレン[(E)-HFO-1132]であってもよく、シス-1,2-ジフルオロエチレン[(Z)-HFO-1132]であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0011】
第3観点に係る組成物の装置における使用は、第2観点の組成物の装置における使用であって、組成物は、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含む。
【0012】
第4観点に係る装置は、組成物を用いる装置である。組成物は、エチレン系のフルオロオレフィン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、および、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)からなる群より選択される1種または2種以上を含む。装置は、融点が1000℃以上である部分の熱容量が6.5J/K以上である。
【0013】
なお、特に限定されないが、当該装置は、可動部分および/または電動部分を含むものであってよい。
【0014】
この装置は、装置において冷媒の不均化反応が発生したとしても、その不均化反応の伝播を抑制することが可能になる。
【0015】
第5観点に係る冷凍サイクル装置は、冷媒回路を備えている。冷媒回路は、装置と、冷媒配管と、を含む。装置は、第4観点に係る組成物を冷媒として用いる装置である。冷媒配管は、装置に接続されている。
【0016】
この冷凍サイクル装置では、冷媒回路を循環する冷媒の不均化反応の伝播を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】冷凍サイクル装置の概略構成図である。
図2】不均化反応の伝播と熱容量の関係に関する試験で用いた器具を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示に係る組成物の装置における使用、装置、および、冷凍サイクル装置について、例を挙げつつ具体的に説明するが、これらの記載は本開示内容を限定するものではない。
【0019】
本開示に係る組成物の装置における使用は、エチレン系のフルオロオレフィンおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)からなる群より選択される1種または2種以上を含む組成物の、融点が1000℃以上である部分の熱容量が6.5J/K以上である装置における使用である。
【0020】
組成物は、エチレン系のフルオロオレフィン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、および、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)からなる群より選択される1種または2種以上を含む。なお、ISO817で定義される燃焼速度については、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)の1.2cm/sは、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)の1.5cm/sよりも低い点で好ましい。また、ISO817で定義されるLFL(LowerFlammability Limit:燃焼下限界)については、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)の65000vol.ppm6.5%は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)の62000vol.ppm6.2%よりも高い点で好ましい。なかでも、当該組成物としては、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、モノフルオロエチレン(HFO-1141)、および、パーハロオレフィンからなる群より選択される1種または2種以上を含むものであってよい。当該組成物としては、特に、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、および/または、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)を含むものであることが好ましい。
【0021】
ここで、エチレン系のフルオロオレフィンとしては、例えば、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、モノフルオロエチレン(HFO-1141)、パーハロオレフィン等が挙げられる。また、パーハロオレフィンとしては、例えば、クロロトリフルオロエチレン(CFO-1113)、テトラフルオロエチレン(FO-1114)等が挙げられる。
【0022】
これらの組成物は、例えば、所定の高温条件、高圧条件、および、着火エネルギ条件を満たす状況下において、不均化反応が発生しうるが、本開示の内容により、不均化反応が発生したとしても、その伝播が抑制されるものである。
【0023】
以上の組成物は、装置において、冷媒として用いられるものであってよい。また、組成物は、装置において、冷凍機油とともに用いられるものであってよい。
【0024】
装置は、融点が1000℃以上である部分の熱容量が6.5J/K以上である。装置は、融点が1000℃以上である部分の熱容量が6.7J/K以上であることが好ましい。また、装置は、融点が1200℃以上である部分の熱容量が6.5J/K以上であることが好ましく、融点が1200℃以上である部分の熱容量が6.7J/K以上であることがより好ましい。また、装置は、融点が1400℃以上である部分の熱容量が6.5J/K以上であることがより好ましく、融点が1400℃以上である部分の熱容量が6.7J/K以上であることがさらに好ましい。装置が有する熱容量が6.5J/K以上の部分の融点が1000℃以上であることにより、不均化反応が発生したとしても、当該部分の融解が抑制される。また、装置が当該熱容量を有することにより、装置において不均化反応が発生したとしても、高い熱容量の箇所が吸熱することにより温度の急激な上昇が抑制されるものと考えられ、発生した不均化反応の伝播が抑制される。
【0025】
装置において、上記熱容量が6.5J/K以上である箇所は、上記組成物が用いられる際に組成物が接触する箇所であることが好ましい。装置における熱容量が6.5J/K以上である箇所は、単一の部材によって構成されていてもよいし、複数の部材の集合体として構成されていてもよい。装置における熱容量が6.5J/K以上である箇所は、例えば、金属で構成されていることが好ましい。
【0026】
このような装置としては、特に限定されず、上記組成物を輸送するための輸送管であってもよいし、例えば、可動部分および/または電動部分を含む装置であってよい。可動部分および/または電動部分を含む装置としては、例えば、冷凍サイクル装置において用いられる圧縮機であってもよいし、膨張弁や開閉弁等の制御弁であってもよい。このように可動部分を有する装置では可動部分の摩擦熱に起因して不均化反応が発生しやすく、電動部分を有する装置では電動部分の電気的エネルギに起因して不均化反応が発生しやすいが、このようにして発生した不均化反応の伝播を抑制することができる。このような圧縮機や制御弁を有する冷凍サイクル装置としては、例えば、図1に示す冷凍サイクル装置1であってよい。冷凍サイクル装置1は、圧縮機21、レシーバ41、四路切換弁22、室外熱交換器23、膨張弁24、室内熱交換器31が冷媒配管で接続されて構成された冷媒回路10と、室外ファン25と、室内ファン32と、コントローラ7と、を有している。冷媒回路10内には、冷媒としての上述の組成物が冷凍機油と共に充填されている。コントローラ7は、圧縮機21と膨張弁24と室外ファン25と室内ファン32を駆動制御することで、冷媒回路10内の冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う。
【0027】
以上に述べた組成物の装置における使用、装置、および、冷凍サイクル装置では、発明者等が確認した試験結果によれば、不均化反応が発生したとしても、その発生した不均化反応の伝播を抑制することができる。
【0028】
具体的には、発明者等は、図2に示す試験装置を用意して、不均化反応を発生させ、不均化反応の発生箇所の周囲に存在するメッシュ部材の熱容量等を変化させながら不均化反応の伝播の様子の違いを観察した。試験装置は、主として、耐圧容器Pと、着火源Sと、メッシュ部材Mとから構成した。耐圧容器Pは、円筒形状の内部空間を有する容器である。着火源Sは、耐圧容器Pの内部空間の中心において、2つの電極間を繋ぐように設けた白金線である。メッシュ部材Mは、着火源Sの周囲を径方向外側から覆うように設けられた外形が円筒形状であるメッシュ状の部材である。なお、このようにメッシュ状の部材を用いたのは、メッシュ部材Mの内側と外側とで冷媒の圧力を同じに保って試験するためである。耐圧容器Pの内部空間の径方向の大きさは、メッシュ部材Mの径方向の大きさよりも十分に大きくなるように試験装置を構成した。メッシュ部材Mは、メッシュ状シートを円筒形状となるように巻き上げて構成した。なお、各試験例において、メッシュ部材Mの網目の大きさは統一されており、試験例1~9では、同一のSUSのメッシュ状シートを用い、巻き付ける回数を増減させることで、熱容量を変化させた。なお、いずれのメッシュ部材Mについても、径方向の厚みが1~3mm程度となるようにまとめられたものとした。ここで、耐圧容器Pには、冷媒としての1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)を充填し、冷媒の温度を150℃、冷媒の圧力を1.5MPaとした。メッシュ部材Mについて、材質と、直径Dと、熱容量と、を変化させ、着火源Sをスパークさせることで発生させた不均化反応の伝播が、メッシュ部材Mの径方向外側まで伝播するか否かを観察した。以下に、試験結果を示す。
【0029】
なお、以下の表において、「反応後状態」は、不均化反応を発生させた後のメッシュ部材Mの状態を目視にて確認した結果を示している。また、「メッシュ部材外の温度上昇(℃)」は、不均化反応を発生させた際の最高到達温度を示しており、耐圧容器P内であってメッシュ部材Mの外側に配置した温度センサでの検知温度を用いて測定したものである。
【0030】
【表1】
【0031】
以上の試験結果によれば、試験例10におけるガラス繊維を材質とするメッシュ部材Mは、融点が840℃と低いものであるため、不均化反応の発生により高温環境下に曝されることで、溶解し、消滅していた。この試験例10では、メッシュ部材Mが存在していた箇所よりも外の冷媒の温度上昇が確認されており、不均化反応の伝播が抑制できなかったことが確認された。
【0032】
また、試験例1、2、4-6、8におけるSUSを材質とするメッシュ部材Mは、融点は1400℃と高いものの、熱容量が6.5J/K未満で不足していたため、メッシュ部材M外の冷媒の温度上昇が確認されており、不均化反応の伝播が抑制できなかったことが確認された。具体的には、熱容量が0.65~1.30J/Kで非常に小さい試験例1、2では、メッシュ部材Mの全体が溶解してしまっていた。また、熱容量が1.91~6.49J/Kで比較的小さい試験例4-6、8では、メッシュ部材Mの一部が溶解し、メッシュ部材Mの径方向に貫通した穴が生じていることが確認された。
【0033】
他方、試験例3、7、9におけるSUSを材質とするメッシュ部材Mは、融点は1400℃で高く、しかも熱容量が6.5J/K以上であったため、メッシュ部材Mの溶解も無く、メッシュ部材M外の冷媒の温度上昇も無かったことから、不均化反応の伝播が抑制されていることが確認された。
【0034】
なお、例えば、試験例3と試験例6を比較すると、いずれもメッシュ部材Mについて融点が1400℃のSUSであり直径が13mmで共通しているにも関わらず、試験例6では不均化反応の伝播が抑制できず、試験例3では不均化反応の伝播が抑制された(試験例9と試験例1の関係、試験例7と試験例5の関係等も同様)。このため、不均化反応の伝播の抑制には、メッシュ部材Mの直径は無関係であることが分かる。
【0035】
(付記)
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
特許文献1:特開2019-196312号公報
図1
図2