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特許7378733鉄道可動構造物の不具合予測方法、プログラム、コンピュータ記憶媒体及び不具合予測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】鉄道可動構造物の不具合予測方法、プログラム、コンピュータ記憶媒体及び不具合予測システム
(51)【国際特許分類】
   B61L 23/04 20060101AFI20231107BHJP
   B61K 9/08 20060101ALI20231107BHJP
   B61L 25/06 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B61L23/04
B61K9/08
B61L25/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020041862
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021142826
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513186383
【氏名又は名称】株式会社ギックス
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐丞
(72)【発明者】
【氏名】松村 隆範
(72)【発明者】
【氏名】比澤 庸平
(72)【発明者】
【氏名】花谷 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】加部東 大悟
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-528304(JP,A)
【文献】特開2000-43726(JP,A)
【文献】特開2019-147433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/04
B61L 25/06
B61K 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道の可動構造物の不具合を予測する方法であって、
前記可動構造物を動作させる実験を計画する計画工程と、
前記可動構造物に対して、当該可動構造物の動作を測定する測定部を複数設置する設置工程と、
前記実験を複数回行って実験条件を最適化しつつ、当該実験のパターン数を増加させる実験工程と、
前記実験において前記測定部での測定結果に基づいて機械学習を行い、有効な前記測定部を特定する学習工程と、
前記有効な測定部を用いて、可動構造物の不具合を予測する予測工程と、を有することを特徴とする、鉄道可動構造物の不具合予測方法。
【請求項2】
前記可動構造物は転てつ器であり、
前記予測工程で予測する不具合は、分岐器の転換不良又は鎖錠不良であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄道可動構造物の不具合予測方法。
【請求項3】
前記学習工程における機械学習の目的変数は、トングレールと基本レールとの間の密着又は接着であることを特徴とする、請求項2に記載の鉄道可動構造物の不具合予測方法。
【請求項4】
前記学習工程における機械学習の説明変数は、電流及び電圧のデータ、軸力のデータ、ひずみのデータ及び変位のデータであることを特徴とする、請求項2又は3に記載の鉄道可動構造物の不具合予測方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の不具合予測方法を不具合予測システムによって実行させるように、当該不具合予測システムを制御する、コンピュータ上で動作するプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のプログラムを格納した読み取り可能なコンピュータ記憶媒体。
【請求項7】
鉄道の可動構造物の不具合を予測するシステムであって、
前記可動構造物を動作させる実験を計画する計画部と、
前記実験中において、前記可動構造物に複数設けられた測定部によって測定された、当該可動構造物の動作の測定結果を記憶する記憶部と、
前記実験を複数回行って実験条件を最適化しつつ、当該実験のパターン数を増加させる分析部と、
前記記憶部に記憶された前記測定部の測定結果に基づいて機械学習を行い、有効な前記測定部を特定する学習部と、
前記有効な測定部を用いて、可動構造物の不具合を予測する前記可動構造物の不具合を予測する予測部と、を有することを特徴とする、鉄道可動構造物の不具合予測システム。
【請求項8】
前記可動構造物は転てつ器であり、
前記予測部で予測する不具合は、分岐器の転換不良又は鎖錠不良であることを特徴とする、請求項7に記載の鉄道可動構造物の不具合予測システム。
【請求項9】
前記学習部における機械学習の目的変数は、トングレールと基本レールとの間の密着又は接着であることを特徴とする、請求項8に記載の鉄道可動構造物の不具合予測システム。
【請求項10】
前記学習部における機械学習の説明変数は、電流及び電圧のデータ、軸力のデータ、ひずみのデータ及び変位のデータであることを特徴とする、請求項8又は9に記載の鉄道可動構造物の不具合予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道可動構造物の不具合予測方法、プログラム、コンピュータ記憶媒体及び不具合予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道は長大で膨大な設備を有する大規模輸送システムである。鉄道設備は複数の線路を有しており、例えば複数の線路間を通行するために分岐器が設置されている。分岐器は通常、一般軌道と比べて構成部品が多く、構造も複雑である。しかも、分岐器の各構成部品は、列車が走行するにつれ摩耗や損傷、変形等が生じる場合がある。このため、分岐器上で列車を安全に走行させるためには、分岐器の状態を的確に把握し、不良箇所を整備、補修する必要がある。
【0003】
そこで従来、列車の安全走行を確保するため、分岐器を検査するための種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば特許文献1に開示された分岐器検査システムは、レール上を走行可能な移動台車と、移動台車に載置されたセンサ部と、移動台車に載置された制御装置とを有する。センサ部は、レールに略直交する面内にスリット光を投射する光源装置と、スリット光により生ずるレールの光切断像を、予め定めたレール上の特定の複数の位置である撮像箇所で撮像する撮像装置とを備える。そして、撮像装置によって得られたレールの光切断像を画像処理してレール断面形状を求め、基準断面形状と比較することによりレールの摩耗量を求めている。
【0005】
また、例えば特許文献2に開示された分岐器検査装置は、軌道上を走行可能な台車と、台車に設置され台車の走行距離を測定する距離センサと、台車上に搭載され測定対象物の形状を測定するレーザ式変位センサと、レーザ式変位センサを測定対象側レールの軌間測定点の鉛直線上に常に位置させるスライドガイドと、台車上に搭載された測定制御装置とを有する。そして、測定点毎に、測定対象物の各測定項目を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-247733号公報
【文献】特開2011-31708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように分岐器を検査する方法は、例えば特許文献1、2に開示されたように種々提案されている。しかしながら、このような分岐器の検査システムや検査装置を用いた場合、一部の測定対象物の検査を行うことが可能であるが、分岐器全体を検査するためには依然として、分岐器を動作させ、ほとんど人手に頼って検査が行われている状況にある。したがって、分岐器の検査には多大な労力と時間を必要としている。
【0008】
また、このように分岐器の検査には労力と時間を有するため、分岐器の検査を効率よく行い、さらには分岐器の不具合(異常状態)を予測することまで望まれるが、現状ではそこまで至っていない。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、鉄道の可動構造物の不具合を効率よく予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明は、鉄道の可動構造物の不具合を予測する方法であって、前記可動構造物を動作させる実験を計画する計画工程と、前記可動構造物に対して、当該可動構造物の動作を測定する測定部を複数設置する設置工程と、前記実験を複数回行って実験条件を最適化しつつ、当該実験のパターン数を増加させる実験工程と、前記実験において前記測定部での測定結果に基づいて機械学習を行い、有効な前記測定部を特定する学習工程と、前記有効な測定部を用いて、可動構造物の不具合を予測する予測工程と、を有することを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、実験工程において、可動構造物の動作実験を複数回行って実験条件を最適化しつつ、実験のパターン数を増加させる。かかる場合、実験を重ねることで、複数ある実験条件のうち、可動構造物の動作に有効な条件を見出して、当該実験条件を最適化でき、実験を効率よく行うことができる。特に、重厚長大な鉄道の可動構造物を動作させる実験を何度も行うのは多大な労力と時間を必要とするが、この実験を効率化できるのは極めて有用である。そして、最適化された実験条件での実施のパターン数を増やし、換言すれば、可動構造物の動作に有効な試番を増やす。そうすると、測定部による測定結果を多く取得できるので、学習工程において、機械学習を行うために有効なデータを増加させることができる。その結果、機械学習の精度を高めることができ、可動構造物の動作実験に有効な測定部を特定することができる。さらに、予測工程において、特定された有効な測定部を用いて、可動構造物の不具合を適切に予測することができる。
【0012】
前記不具合予測方法において、前記可動構造物は転てつ器であり、前記予測工程で予測する不具合は、分岐器の転換不良又は鎖錠不良であってもよい。
【0013】
前記不具合予測方法において、前記学習工程における機械学習の目的変数は、トングレールと基本レールとの間の密着又は接着であってもよい。
【0014】
前記不具合予測方法において、前記学習工程における機械学習の説明変数は、電流及び電圧のデータ、軸力のデータ、ひずみのデータ及び変位のデータであってもよい。
【0015】
別な観点による本発明によれば、前記不具合予測方法を不具合予測システムによって実行させるように、当該不具合予測システムを制御する、コンピュータ上で動作するプログラムが提供される。
【0016】
また別な観点による本発明によれば、前記プログラムを格納した読み取り可能なコンピュータ記憶媒体が提供される。
【0017】
さらに別な観点による本発明は、鉄道の可動構造物の不具合を予測するシステムであって、前記可動構造物を動作させる実験を計画する計画部と、前記実験中において、前記可動構造物に複数設けられた測定部によって測定された、当該可動構造物の動作の測定結果を記憶する記憶部と、前記実験を複数回行って実験条件を最適化しつつ、当該実験のパターン数を増加させる分析部と、前記記憶部に記憶された前記測定部の測定結果に基づいて機械学習を行い、有効な前記測定部を特定する学習部と、前記有効な測定部を用いて、可動構造物の不具合を予測する前記可動構造物の不具合を予測する予測部と、を有することを特徴としている。
【0018】
前記不具合予測システムにおいて、前記可動構造物は転てつ器であり、前記予測部で予測する不具合は、分岐器の転換不良又は鎖錠不良であってもよい。
【0019】
前記不具合予測システムにおいて、前記学習部における機械学習の目的変数は、トングレールと基本レールとの間の密着又は接着であってもよい。
【0020】
前記不具合予測システムにおいて、前記学習部における機械学習の説明変数は、電流及び電圧のデータ、軸力のデータ、ひずみのデータ及び変位のデータであってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、鉄道の可動構造物の不具合を効率よく且つ適切に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】転てつ器の構成の概略を示す説明図である。
図2】転てつ器の構成の概略を示す説明図である。
図3】本実施形態にかかる不具合予測システムの構成の概略を示す説明図である
図4】本実施形態にかかる不具合予測方法の主な工程を示すフロー図である。
図5】転てつ器の実験条件及び試番数を示す説明図である。
図6】転てつ器におけるセンサの配置を示す説明図である。
図7】各グループのセンサによる測定データの一例を示す説明図である。
図8】機械学習を行った結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
<転てつ器の構成>
本実施形態においては、鉄道の可動構造物が転てつ器である場合について説明する。図1及び図2はそれぞれ、転てつ器10の構成の概略を示す説明図である。
【0025】
図1及び図2に示すように転てつ器10は、分岐器20と転てつ装置30を有している。分岐器20は、基本レール21に対してトングレール22と称する可動部分を動かすことで、列車の進行方向を基準線と分岐線に振り分ける。転てつ装置30は、トングレール22を移動させ基本レール21に密着させて、分岐器20を転換し、さらに分岐器20を鎖錠する。
【0026】
なお、以下の説明においては、トングレール22が一定の圧力をもって基本レール21に接している状態を「密着」といい、トングレール22に圧力を加えないで一定部分が一様に基本レール21に接している状態を「接着」という。「密着」は転てつ装置30の有する機能であり、列車が転てつ器10を通過中にトングレール22の先端を開口させない役割を果たす。一方、「接着」は分岐器20の基本レール21とトングレール22の接した状態を表している。
【0027】
転てつ装置30は、例えば電気転てつ機31、スイッチアジャスタ32、フロントロッド33、接続かん34、絶縁オフセットリンク35、及びアジャストリンク36を有している。電気転てつ機31とスイッチアジャスタ32とは、複数の接続かん34等で接続されている。また、電気転てつ機31とフロントロッド33は、接続かん34、絶縁オフセットリンク35、アジャストリンク36等で接続されている。
【0028】
転てつ装置30では、トングレール22に接続されたスイッチアジャスタ32が電気転てつ機31に接続されることによって転換を行う。また、転てつ装置30では、転換されたトングレール22はフロントロッド33を通じて電気転てつ機31により鎖錠を行う。具体的には、電気転てつ機31の内部は、転換ローラ、動作かん、鎖錠かん、ロックピース(鎖錠駒)等が設けられ、これらで構成される転換鎖錠部によって、上述した転換及び鎖錠が行われる。
【0029】
なお、図1及び図2は、本発明が適用される転てつ器10の構成の一例を示すものであり、転てつ器10の構成はこれに限定されない。本発明は、公知の分岐器20と転てつ装置30に広く適用されるものである。
【0030】
<不具合予測システムの構成>
次に、上述した転てつ器10の不具合(異常状態)、すなわち分岐器20の転換不良又は鎖錠不良を予測するシステムについて説明する。図3は、本実施形態にかかる不具合予測システム40の構成の概略を示す説明図である。
【0031】
不具合予測システム40は、ネットワークNを介して、転てつ器10に接続されている。なお、ネットワークNは、不具合予測システム40と転てつ器10との間の通信を行うことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えばインターネットや有線LAN、無線LANなどにより構成される。また、転てつ器10と不具合予測システム40は必ずしもネットワークNを介して接続されている必要はなく、転てつ器10から取得されるデータが不具合予測システム40に入力されればよい。
【0032】
転てつ器10には、後述するように複数のセンサが取り付けられる。以下の説明においては、実験中に各センサで測定されたデータを「測定データ」という。
【0033】
不具合予測システム40は、通信部41、入力部42、計画部43、分析部44、学習部45、予測部46、記憶部47、及び出力部48を有している。
【0034】
通信部41は、ネットワークNとの間の通信を媒介する通信インタフェースであり、転てつ器10とデータ通信を行う。
【0035】
入力部42は、例えばオペレータがキーボードやタッチパネルを操作することにより、後述する実験条件や実験パターン(試番)等を入力する。
【0036】
計画部43は、入力部42で入力された情報に基づいて、転てつ器10を動作させる実験の計画を設定する。
【0037】
分析部44は、転てつ器10に取り付けられたセンサからの測定データに基づいて、実験条件を最適化しつつ、実験パターン数(試番数)を増加させる。具体的な実験条件の最適化や実験パターン数の増加は、入力部42で入力された情報に基づいて行われる。
【0038】
学習部45は、転てつ器10に取り付けられたセンサからの測定データに基づいて機械学習を行い、複数のセンサのうち、転てつ器10の不具合を予測するために有効なセンサを特定する。
【0039】
予測部46は、特定された有効なセンサを用いて、分岐器20の転換不良や鎖錠不良を予測する。
【0040】
記憶部47は、不具合予測システム40で処理される各種データを記憶する。具体的には、転てつ器10から不具合予測システム40に入力された測定データ、計画部43で設定された実験計画、分析部44で最適化された実験条件及び実験パターン数(試番数)、学習部45で行われた機械学習の結果、予測部46で予測された分岐器20の転換不良や鎖錠不良などが記憶される。また、記憶部47には、不具合予測システム40の制御を行うための各種プログラムが格納される。
【0041】
出力部48は、記憶部47に記憶された各データを不具合予測システム40の外部に出力する。
【0042】
なお、不具合予測システム40の構成要素は、回路(ハードウェア)、又はCPUなどの中央演算処理装置と、これらを機能させるためのプログラム(ソフトウェア)から構成することができる。そして、このプログラムは各部41~48を制御して、後述するデータ処理を実行する。この場合において、上記プログラムは、例えば記憶部47に格納されていてもよいし、あるいはコンピュータ読み取り可能なハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルデスク(MO)、各種メモリなどのコンピュータに読み取り可能な記憶媒体に格納されていてもよい。また、上記プログラムは、インターネットなどの通信回線網を介してダウンロードすることにより、上記記憶媒体などに格納することができる。
【0043】
<不具合予測方法>
次に、以上のように構成された不具合予測システム40を用いて行われる、転てつ器10の不具合を予測する方法について、具体的な事例を用いて説明する。本実施形態では、転てつ器10を動作させる実験を複数回行って、転てつ器10の不具合(異常状態)、すなわち分岐器20の転換不良又は鎖錠不良を予測する。図4は、転てつ器10の不具合予測方法の主な工程を示すフロー図である。図5は、転てつ器10の実験条件及び試番数(パターン数)を示す説明図である。
【0044】
[S1:実験計画工程]
先ず、転てつ器10を動作させる実験を計画する。図5(a)に示すように初期計画では、各試番(パターン)において分岐器20を100往復転換させ、試番数を23試番とした。
【0045】
また、図6に示すように転てつ器10に、測定部としてのセンサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17を設ける。これらセンサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17は、設置しやすさ、コスト、耐久性等を考慮して設置する。なお、以下の説明においては、センサA1~A4で構成されるグループをグループAといい、センサB1~B3で構成されるグループをグループBといい、センサC1~C34で構成されるグループをグループCといい、センサD1~D17で構成されるグループをグループDという。
(1)グループA
センサA1~A4は電気系のセンサであって、センサが設けられた部材を流れる電流及び電圧を測定する。センサA1~A4には、例えば電流計や電圧計が用いられる。
(2)グループB
センサB1~B3は軸力系のセンサであって、センサが設けられた部材に作用する軸力を測定する。センサB1~B3は、例えば、ある部材を押圧するための部材に設けられる。
(3)グループC
センサC1~C34はひずみ系の系のセンサであって、センサが設けられた部材のひずみを測定する。センサC1~C34は、例えば転てつ器10を動作させた際に力が作用する部材に設けられる。センサC1~C34には、例えばひずみゲージが用いられる。
(4)グループD
センサD1~D17は変位系のセンサであって、センサが設けられた部材の変位を測定する。センサD1~D17には、例えば変位計が用いられる。
【0046】
そして実験中、すべてのセンサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17で部材の電流及び電圧、軸力、ひずみ、変位をそれぞれ測定する。
【0047】
なお、実験条件はオペレータによって入力部42から入力され、計画部43で実験計画が設定される。
【0048】
[S2:センサ設置工程]
次に、ステップS1の図6で計画されたセンサ位置に基づいて、実験対象の転てつ器10にセンサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17を設置する。
【0049】
[S3:アジャイル実験工程]
次に、ステップS1における実験計画に基づいて実験を行う。図7は、各グループA~DのセンサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17による測定データの一例を示す。図7(a)は、グループAのセンサA1で測定した電流及び電圧の測定データの時系列変化を示す。図7(b)は、グループBのセンサB1で測定した軸力の測定データの時系列変化を示す。図7(c)は、グループCのセンサC1で測定したひずみの測定データの時系列変化を示す。図7(d)は、グループDのセンサD1で測定した変位データの時系列変化を示す。
【0050】
転てつ器10のセンサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17からの測定データは、ネットワークNを介して不具合予測システム40に入力される。不具合予測システム40に入力された測定データは、記憶部47に記憶される。また測定データは、出力部48から出力され、図7に示したように可視化されて、オペレータが確認できるようになっている。
【0051】
そして、実験後の測定データに基づいて、実験条件を見直す。本実施形態では、図5(b)に示すように、各試番(パターン)において分岐器20を転換させる回数を100往復から20往復に減少させるともに、試番数を55試番に増加する。
【0052】
さらに、この条件で実験を行った後の測定データに基づいて、実験条件を見直す。本実施形態では、図5(c)に示すように、各試番(パターン)において分岐器20を転換させる回数を20往復から10往復に減少させるともに、試番数を79試番に増加する。
【0053】
かかる場合、試番数を増やすことで、各センサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17の測定データの数を多くすることができる。このように測定データの数が多いと、後続のステップS4における機械学習の精度を向上させることができる。
【0054】
なお、以下の説明において、実験を複数回行って、実験条件を最適化し、実験試番数を増加させる実験を、アジャイル実験という場合がある。また、実験条件の最適化と実験試番数の増加は、オペレータによって入力部42から入力され、分析部44で設定される。
【0055】
[S4:機械学習工程]
次に、学習部45において、センサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17からの測定データに基づいて機械学習を行う。機械学習において目的変数は、基本レール21とトングレール22との間の密着又は接着とする。また、説明変数は、センサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17からの測定データ、すなわち電流及び電圧のデータ、軸力のデータ、ひずみのデータ、及び変位のデータとする。なお、機械学習の方法は任意であり、公知の方法、例えば重回帰分析を用いることができる。
【0056】
図8は、機械学習を行った結果の一例を示したものである。目的変数は、密着1、接着1、密着2、接着2であり、“1”は一方の基本レール21とトングレール22との間の密着又は接着を示し、“2”は他方の基本レール21とトングレール22との間の密着又は接着を示している。説明変数は、グループA~Dのセンサの組み合わせである。そして、図8中の四角内には、各パターンにおける機械学習の精度を示している。
【0057】
本実施形態では、機械学習の精度の閾値、すなわち転てつ器10の不具合に有効な機械学習の閾値を、例えば0.7と設定している。換言すれば、機械学習の精度の閾値が0.7以上のセンサが有効であると特定できる。
【0058】
なお、本実施形態の図8の例では、説明変数としてグループA~Dを図示したが、これをセンサ毎に図示してもよい。かかる場合、複数のセンサA1~A4、B1~B3、C1~C34、D1~D17のうちの有効なセンサを個別に特定することができる。
【0059】
[S5:不具合予測工程]
以降、ステップS4において特定された有効なセンサを用いて実験を行い、予測部46において、転てつ器10の不具合、すなわち分岐器20の転換不良又は鎖錠不良を予測する。かかる場合、有効なセンサのみを用いているので、不具合を適切に予測することができる。
【0060】
なお、本実施形態において、分岐器20の転換不良には、分岐器20が転換不能になっている、いわゆる不転換が含まれるが、この不転換が起こる前の段階も含まれる。すなわち、不転換の予兆も予測することができる。また、分岐器20の転換不良には、転換は行われるが、例えばトングレール22に必要以上の荷重が作用しているなどの異常状態も含まれる。さらに、分岐器20の鎖錠不良には、転てつ装置30のロック不良も含まれる。
【0061】
以上の実施形態によれば、ステップS3のアジャイル実験工程において、転てつ器10の動作実験を複数回行って実験条件(分岐器20の転換回数)を最適化しつつ、実験の試番数(パターン数)を増加させる。かかる場合、実験を重ねることで、複数ある実験条件のうち、転てつ器10の動作に有効な条件を見出して、当該実験条件を最適化でき、実験を効率よく行うことができる。特に、分岐器20のように重厚長大な可動構造物を動作させる実験を何度も行うのは多大な労力と時間を必要とするが、この実験を効率化できるのは極めて有用である。
【0062】
そして、ステップS3のアジャイル実験工程において、最適化された実験条件での実施の試番数を増やし、換言すれば、転てつ器10の動作に有効な試番を増やす。そうすると、センサによる測定データを多く取得できるので、ステップS4の機械学習工程において、機械学習を行うために有効なデータを増加させることができる。その結果、機械学習の精度を高めることができ、転てつ器10の動作に有効なセンサを特定することができる。さらに、ステップS5の予測工程において、特定された有効なセンサを用いて、転てつ器10の不具合を適切に予測することができる。
【0063】
また、このように転てつ器10の不具合を適切に予測することが可能になれば、当該転てつ器10のメンテナンスも適切に行うことができる。その結果、列車走行の安全性をさらに向上させることができる。
【0064】
なお、以上の実施形態では、可動構造物である転てつ器10の動作を測定する測定部としてセンサを用いたが、これに限定されない。測定目的に応じて、他の測定器、例えばカメラなどを用いてもよい。
【0065】
また、以上の実施形態では、本発明が転てつ器10に適用される場合について説明したが、これに限定されない。本発明は、他の鉄道の可動構造物、例えばホームドアなどの不具合を予測する際にも適用することができる。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、、鉄道の可動構造物の不具合を予測際に有用である。
【符号の説明】
【0068】
10 転てつ器
20 分岐器
21 基本レール
22 トングレール
30 転てつ装置
31 電気転てつ機
32 スイッチアジャスタ
33 フロントロッド
34 接続かん
35 絶縁オフセットリンク
36 アジャストリンク
40 不具合予測システム
41 通信部
42 入力部
43 計画部
44 分析部
45 学習部
46 予測部
47 記憶部
48 出力部
N ネットワーク
図1
図2
図3
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図8