(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-10
(45)【発行日】2023-11-20
(54)【発明の名称】付加プリント用フィラメント材料
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20231113BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20231113BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20231113BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20231113BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20231113BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20231113BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231113BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/118
C08J5/04 CEZ
C08K7/06
C08K7/14
C08L23/12
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2021510125
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 US2019047237
(87)【国際公開番号】W WO2020041291
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-08-16
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】ウィン,ヴィンセント ペー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーユ,マルティン
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193601(JP,A)
【文献】特開2016-193801(JP,A)
【文献】特開2018-065970(JP,A)
【文献】特表2021-521021(JP,A)
【文献】国際公開第2017/096576(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0096576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/10,64/106,64/118,64/20,
64/30,64/314,64/40
B33Y 10/00,30/00,40/00,50/00,70/00,
80/00
C08J 5/04
C08K 7/06,7/14
C08L 23/12,101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加プリント用フィラメントストランド(40)であって;
ガラス繊維(62)を含む第1コア(63)であって、前記フィラメントストランド(40)
のl0質量%~50質量%で含まれる第1コア(63);
炭素繊維(64)を含む第2コア(65)であって、前記フィラメントストランド(40)
の5質量%~30質量%で含まれる第2コア(65);
前記フィラメント
ストランド(40)の50質量%~80質量%で含まれる熱可塑性マトリックス(60);及び
第1コア(63)及び第2コア(64)の少なくとも一方をコーティグする熱可塑性相溶性サイジング剤(66、67)、
を含
み、
前記熱可塑性相溶性サイジング剤(66、67)が、前記第1コア(63)をコーティングする第1熱可塑性サイジング剤(66)、及び前記第2コア(65)をコーティングする第2熱可塑性相溶性サイジング剤(67)である、付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項2】
前記熱可塑性マトリックス(60)が、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA6、PA8、PA11、PA12)、又はポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレン(PE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリフェニルエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリウレタン(PUR)のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項3】
前記熱可塑性マトリックス(60)がポリプロピレンを含む、請求項1に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項4】
前記ガラス繊維(64)がチョップドストランドである、請求項1に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項5】
前記フィラメントストランド(40)の前記チョップドストランドの最終寸法が、200μmから500μmである、請求項
4に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項6】
前記第1コア(63)が、前記フィラメント
ストランド(40)の15質量%~25質量%で含まれる、請求項1に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項7】
前記第1コア(63)が、前記フィラメントストランド(40)
の20質量%で含まれる、請求項
6に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項8】
前記第2コア(65)が、前記フィラメントストランド(40)
の8質量%~12質量%で含まれる、請求項1に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項9】
前記第2コア(65)が、前記フィラメントストランド(40)
の10質量%で含まれる、請求項
8に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項10】
前記熱可塑性マトリックス(60)が、前記フィラメントストランド(40)
の65質量%~75質量%で含まれる、請求項
9に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項11】
前記第1コア(63)が前記フィラメントストランド(40)
の15質量%~25質量%で含まれ、前記第2コア(65)が前記フィラメントストランド(40)
の8質量%~12質量%で含まれ、前記熱可塑性マトリックス(60)が前記フィラメントストランド(40)
の65質量%~75質量%で含まれる、請求項1に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項12】
前記熱可塑性相溶性サイジング剤(66、67)が、前記第1コア(63)をコーティングする第1熱可塑性サイジング剤(66)、及び前記第2コア(65)をコーティングする第2熱可塑性相溶性サイジング剤(67)である、請求項
11に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項13】
前記熱可塑性マトリックス(60)がホモポリマーである、請求項1に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)。
【請求項14】
付加プリント用フィラメントストランド(40)を製造する方法(500)であって:
ガラス繊維(62)を含む第1コア(63)に第1熱可塑性相溶性サイジング剤(66)を適用すること;
炭素繊維(64)を含む第2コア(65)に第2熱可塑性相溶性サイジング剤(67)を適用すること;
熱可塑性マトリックス(60)を溶融状態に加熱すること;
前記第1コア(63)及び前記第2コアを前記熱可塑性マトリックス(60)と混合して、組成物(72)を形成すること;及び
前記組成物(72)を押し出してフィラメントストランド(40)を形成すること、を含み、
前記第1コア(63)が、前記フィラメントストランド(40)
のl0質量%~50質量%で含まれ;
前記第2コア(65)が、前記フィラメントストランド(40)
の5質量%~30質量%で含まれ;
前記熱可塑性マトリックス(60)が、前記フィラメントストランド(40)
の50質量%~80質量%で含まれる、付加プリント用フィラメントストランド(40)を製造する方法(500)。
【請求項15】
前記組成物(72)を押し出すことが、前記フィラメントストランド(40)に1つ以上の望ましい最終寸法を与えるための配合工程及び押し出し工程を含む、請求項
14に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)を製造する方法(500)。
【請求項16】
前記フィラメントストランド(40)の1つ以上の所望の寸法が、1.5mm~1.9m
mの直径である、請求項
14に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)を製造する方法(500)。
【請求項17】
前記フィラメントストランド(40)の1つ以上の所望の寸法が、2.5mm~3.1m
mの直径である、請求項
14に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)を製造する方法(500)。
【請求項18】
前記第1コア(63)が前記フィラメントストランド(40)
の15質量%~25質量%で含まれ、前記第2コア(65)が前記フィラメントストランド(40)
の8質量%~12質量%で含まれ、及び前記熱可塑性マトリックス(60)が前記フィラメントストランド(40)
の65質量%~75質量%で含まれる、請求項
14に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)を製造する方法(500)。
【請求項19】
前記ガラス繊維(62)が、チョップドストランドである、請求項
14に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)を製造する方法(500)。
【請求項20】
前記フィラメントストランド(40)の前記チョップドストランドの最終寸法が、100μmから1500μ
mである、請求項
19に記載の付加プリント用フィラメントストランド(40)を製造する方法(500)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2018年8月21日に出願された米国仮特許出願第62/720497出願の優先権の利益を主張し、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ガラス繊維を含む第1コア、炭素繊維を含む第2コア、熱可塑性マトリックス、並びに第1及び第2コアのうちの少なくとも一方をコーティングする熱可塑性サイジング剤を含む、付加プリント用のフィラメントストランドに関する。
【背景技術】
【0003】
付加製造システムは、デジタルモデルから3D部品をプリント又は構築するために使用されており、迅速なプロトタイピング及び製造に有益であり得る。最も一般的な付加製造技術の1つは、溶融フィラメント製造として知られる方法であり、プリント材料を層で配置することを含む。プリント材料は、スプールに巻かれたフィラメントの形態である。フィラメントは巻きを解かれ、熱可塑性プリント材料の場合には、プリントして部品を製造するために、溶融され押し出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリ乳酸(PLA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリフェニルスルホン(PPSF)、ポリカーボネート(PC)、及びポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)などの熱可塑性材料が、それらの耐熱特性のため、付加製造に用いられる。通常、ポリプロピレン(PP)は、反りが大きく、層の密着性が不十分であるため、PPでプリントするのが困難であり得るため、付加製造のための望ましい材料ではない。さらに、PPは、ABS及びPLAと比較して、引張弾性率が低く、衝撃強度が低く、溶融強度が低い。付加製造プリント材料の機械的特性の改善は、付加的に製造される部品が射出成形部品と同様の機械的特性を有することが望ましいため有利である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本開示は、ガラス繊維を含む第1コアであってフィラメントの約l0質量%~50質量%で含まれる第1コア、炭素繊維を含む第2コアであってフィラメントの約5質量%~30質量%で含まれる第2コア、フィラメントの約50質量%~80質量%で含まれるポリプロピレンマトリックス、及び第1及び第2コアの少なくとも一方をコーティグする熱可塑性サイジング剤を含む、付加プリント用フィラメントに関する。
【0006】
別の態様では、本開示は、付加プリント用のフィラメントを製造する方法であって、ガラス繊維を含む第1コアに第1熱可塑性サイジング剤を適用することと、炭素繊維を含む第2コアに第2熱可塑性サイジング剤を適用することと、ポリプロピレンマトリックスを溶融状態に加熱することと、第1コアと第2コアをポリプロピレンマトリックスと混合して混合物を形成することとを含む、方法に関し、前記第1コアは、前記フィラメントの約l0質量%~50質量%で含まれ、前記第2コアは、前記フィラメントの約5質量%~30質量%で含まれ、前記ポリプロピレンマトリックスは、前記フィラメントの約50質量%~80質量%で含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図面において、
【
図1】本明細書に記載される様々な態様による付加プリント方法を示す概略図である。
【
図2】本明細書に記載される様々な態様による付加プリント用フィラメントストランドの形成方法を示す概略図である。
【
図3】本開示の態様によるフィラメントストランドの形成方法を示すフローチャートである。
【
図4】本明細書に記載される様々な態様による付加プリント及び射出成形に使用される材料の曲げ弾性率を示す概略棒グラフである。
【
図5】本明細書に記載される様々な態様による付加プリントに使用される材料の引張弾性率を示す概略棒グラフである。
【
図6】本明細書に記載される様々な態様による付加プリント及び射出成形に使用される材料の曲げ強度を示す概略棒グラフである。
【
図7】本明細書に記載される様々な態様による付加プリントに使用される材料の耐熱性を示す概略棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載の様々な態様による付加プリント用フィラメント材料の有益かつ有利な特徴は、熱可塑性マトリックス中に熱可塑性サイジング剤を有するガラス繊維及び炭素繊維強化材の組み合わせによる機械的性能の向上を含む。具体的には、引張弾性率、曲げ弾性率、及び熱特性は、ガラス繊維強化材のみを有する付加プリント用フィラメント材料と比較して、著しい増加を示す。
【0009】
さらに、これに加えて、ガラス繊維と炭素繊維強化材との組み合わせによる付加プリント用フィラメント材料の機械的性能の増加は、ハイブリッド強化フィラメントで製品をプリントする場合に、最終プリント製品の反り及び変形を制限することができる。
【0010】
図1は、本明細書に記載の様々な態様による付加プリント方法を示す。付加プリント方法は、構築プラットフォーム10、及びノズル22、24を有する押出ヘッド20を含むことができる。付加プリント用フィラメントストランド40としても知られる構築材料及び支持材料42のスプール30、32は、ノズル22、24にそれぞれ結合することができ、付加プリント用フィラメントストランド40及び支持材料42は、プリントのために加熱及び押し出し、又は分配され得る。押出ヘッド20は、所定の順序で構築プラットフォーム10に対してx、y、及びz方向に移動して、付加プリント用フィラメントストランド40及び支持材料42を構築プラットフォーム10上の層に堆積させることにより、部品50を形成することができる。付加プリント用フィラメントストランド40及び支持材料42の層は、固化して、部品50を形成することができる。支持材料42は、プリントプロセス中に部品50に構造を提供するように、取り外し可能な部品50の部分52を形成するために使用され得る。
図1は、支持用の部分52を有する部品50を示しているが、部品50を支持材料42なしでプリントすることも可能である。
【0011】
図2を参照して、本開示の一態様による付加プリント用フィラメントストランド40は、第1補強用繊維68、第2補強用繊維70、及び熱可塑性マトリックス60を含む組成物72などのハイブリッド材料から形成され得る。任意で、プリント用フィラメントストランド40は例えば、UV防止染料、カップリング剤、難燃性添加剤、粘度調整剤、充填剤、安定化剤、靱性調整剤、熱安定化剤、相溶化剤、加工助剤、分散助剤、及び表面添加剤、ならびに他の添加剤などの顔料を含むがこれらに限定されない添加剤をさらに含むことができる。
【0012】
熱可塑性マトリックス60は、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA6、PA8、PA11、PA12)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレン(PE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリフェニルエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリウレタン(PUR)、又は任意の他の適切な熱可塑性材料であり得る。一例では、熱可塑性マトリックス60は、ポリプロピレンホモポリマーである。熱可塑性マトリックス60は、フィラメントストランド40の50質量%~85質量%の範囲、好ましくはフィラメントストランド40の65質量%~75質量%の範囲であり得る。
【0013】
第1補強用繊維68は、熱可塑性相溶性サイジング剤66でコーティングされた第1コア63を含むことができる。第1コア63は、約10.0μmの初期直径及び約4.0~4.5mmの長さを有するチョップドストランドなどのガラス繊維62を含むことができる。ガラス繊維62は、フィラメントストランド40の10質量%~50質量%の範囲、好ましくは15質量%~25質量%の範囲であり得る。一例では、熱可塑性相溶性サイジング剤66は、ガラス繊維62に適したポリプロピレン熱可塑性相溶性サイジング剤66である。
【0014】
第2補強用繊維70は、熱可塑性相溶性サイジング剤67でコーティングされた第2コア65を含むことができる。第2コア65は、チョップドファイバーなどの炭素繊維64を含むことができる。一例では、炭素繊維64は、約7.0μmの初期直径及び約6.0mmの長さを有する。炭素繊維64は、フィラメントストランド40の5質量%~30質量%の範囲、好ましくはフィラメントストランド40の8質量%~12質量%の範囲とすることができる。一例では、熱可塑性相溶性サイジング剤67は、炭素繊維64に適したポリプロピレン熱可塑性相溶性サイジング剤67である。
【0015】
熱可塑性相溶性サイジング剤66、67、又は熱可塑性サイジング剤は、ガラス繊維62及び炭素繊維64の表面で保護コーティングとして機能することによって、これらの繊維の加工性を向上させることができる。さらに、熱可塑性相溶性サイジング剤66、67は、ガラス繊維62及び炭素繊維64と熱可塑性マトリックス60との結合を強化するためのカップリング剤を提供することができる。熱可塑性相溶性サイジング剤66、67は、熱可塑性マトリックス60内の熱可塑性材料と相溶し、ガラス繊維62及び/又は炭素繊維64をコーティングするのにも適した任意のサイジング剤であり得る。一例において、熱可塑性相溶性サイジング剤66は、ガラス繊維62に適切なポリプロピレン熱可塑性相溶性サイジング剤66であり得る一方、熱可塑性相溶性サイジング剤67は、炭素繊維64に適切なポリプロピレン熱可塑性相溶性サイジング剤67であり得る。あるいは、本開示の別の態様において、ガラス繊維62及び炭素繊維64をそれぞれコーティングするための熱可塑性相溶性サイジング剤66、67は、同じ熱可塑性相溶性サイジング剤66、67を含むことができる。
【0016】
補強用繊維68、70を形成するために使用される熱可塑性相溶性サイジング剤66、67の量は、繊維62、64の表面上の材料のパーセントであり、補強用繊維68、70のそれぞれの総質量の質量パーセンテージによって定義される。質量パーセンテージは、強熱減量値によって測定される。強熱減量(LOI)は、ISO 1887:2014「繊維ガラス-可燃性物質含有量の測定」を用いて試料の質量が変化しなくなるまで、揮発性物質を逃がすように、特定の温度で材料の試料を強く加熱又は点火することによって測定することができる。一例では、ガラス繊維62及び熱可塑性相溶性サイジング剤66を含む第1補強用繊維68のLOIは、第1補強用繊維68の0.55質量%及び0.75質量%の範囲内とすることができる。他の例では、炭素繊維64及び熱可塑性相溶性サイジング剤67を含む第2補強用繊維70のLOIは、第2補強用繊維70の2.50質量%及び3.00質量%の範囲内とすることができる。
【0017】
図3を参照して、本開示の一態様による付加プリントのためのフィラメントストランドを形成するためのプロセス又は方法500が示されている。方法500は、付加的プリント用フィラメントストランド40に関連して記載されているが、本明細書に記載されているプロセスは、本明細書に明示的に記載されていない他のフィラメントストランドを形成するために使用されてもよく、異なる論理的順序で行われてもよく、又は追加の又は介在する工程が含まれてもよい。
【0018】
付加プリント用フィラメントストランド40を形成するための方法500は、第1及び第2補強用繊維68、70を形成するためのコーティング工程505、組成物72を形成するための配合工程510、次いで、工程520でフィラメントストランド40を形成するための1以上の押し出し工程510、515を含む。フィラメントストランド40が工程520で形成されると、フィラメントストランド40をスプール化することができ、任意でさらに工程530で調整することができる。
【0019】
505において、第1コア63の約0.55~0.75質量%間のLOIを有する第1熱可塑性サイジング剤66は、ガラス繊維62を含む第1コア63に適用されて、第1補強用繊維68を形成し、第2コア67の約2.5~3.0質量%間のLOIを有する第2熱可塑性サイジング剤67は、炭素繊維64を含む第2コア65に適用されて、第2補強用繊維70を形成する。
【0020】
配合工程510において、組成物72は、熱可塑性マトリックス60を第1補強用繊維68及び第2補強用繊維70と混合又は配合することによって形成される。一例において、共回転スクリューは、熱可塑性マトリックス60を溶融状態に加熱し、補強用繊維68及び70を熱可塑性マトリックス60と混合して組成物72を形成する。本開示の一態様において、組成物72は、フィラメントストランド40の約10質量%~50質量%を含む第1コア63と、フィラメントストランド40の約5質量%~30質量%を含む第2コア65と、フィラメントストランド40の約50質量%~80質量%を含むポリプロピレンなどの熱可塑性マトリックス60とを含む。別の態様において、組成物72は、フィラメントストランド40の約15質量%~25質量%を含む第1コア63と、フィラメントストランド40の約8質量%~12質量%を含む第2コア65と、フィラメントストランド40の約65質量%~75質量%を含むポリプロピレンなどの熱可塑性マトリックス60とを含む。
【0021】
510において、組成物72を共回転スクリューから直接押し出してフィラメントストランド40を形成することができ、又は任意に515において、組成物72を単一スクリュー押出機のような第2の押出機に供給することができる。組成物72は、任意で、工程510及び/又は工程515において所望の添加剤と混合することができる。520において、組成物72は、ノズルを通して引き出され、フィラメントストランド40を形成することができる。フィラメントストランド40の最終直径は、フィラメントストランド40が最終ダイに入る前に押出機のノズルから引き出されてフィラメントストランドの最終形状を与える速度及び圧力によって制御することができる。フィラメントストランド40の最終直径は、約1.75mm(+/-0.05mm)又は2.85mm(+/-0.05mm)とすることができる。530において、フィラメントストランド40は、温水タンクに供給されることができ、そこでは、フィラメントストランド40を冷却して、円形断面を形成することができる。その後、フィラメントストランド40は、フィラメントストランド40が室温に冷却されることができるように、冷水タンクに通して供給されることができる。フィラメントストランド40が冷却されると、フィラメントストランド40をスプール30に巻き取ることができる。
【0022】
表1は、ガラス繊維62及び炭素繊維64の配合工程210後の初期長さの変化を、ISO規格22314:2006「プラスチック-ガラス繊維強化製品-繊維長の決定」に従って決定された最終フィラメントストランド40と比較して示す。
【0023】
【0024】
図4では、棒グラフ100は、射出成形vs付加プリントを使用して、本明細書に記載される様々な態様による例示的な組成物を有する材料の曲げ弾性率を比較している。x軸110は種々な材料のそれぞれを識別し、y軸112は各材料のギガパスカル(GPa)で測定した曲げ弾性率を示す。第1材料120は、約30質量%のガラス繊維を有する組成物である。第2材料130は、約20質量%のガラス繊維、10質量%の炭素繊維、及び熱可塑性相溶性サイジング剤を有する組成物である。第3材料140は、約20質量%のガラス繊維、10質量%の炭素繊維、及び熱硬化性相溶性サイジング剤を有する組成物であり、第4材料150は、約10質量%の炭素繊維及び熱可塑性相溶性サイジング剤を有する組成物である。第2材料130は、出願人の開示の例示的な実施形態による組成物を表す。
【0025】
グラフ100に示されるように、第1材料120は、3Dプリント時には、バー122によって示されるように、7.0GPaの曲げ弾性率を有し、射出成形時には、バー124によって示されるように、6.0GPaの曲げ弾性率を有する。第2材料130は、3Dプリント時には、バー132によって示されるように、9.8GPaの曲げ弾性率を有し、射出成形時には、バー134によって示されるように、8.1GPaの曲げ弾性率を有する。第3材料140は、3Dプリント時には、バー142によって示されるように、8.4GPaの曲げ弾性率を有し、射出成形時には、バー144によって示されるように、6.9GPaの曲げ弾性率を有する。第4材料150は、3Dプリント時には、バー152によって示されるように、5.6GPaの曲げ弾性率を有し、射出成形時には、バー154によって示されるように、4.2GPaの曲げ弾性率を有する。
【0026】
グラフ100から明らかなように、第2材料130は、他の材料120、140、150と比較した場合、優れた曲げ弾性率特性を有する。付加プリント用フィラメントストランド40として使用される場合、第2材料130の曲げ弾性率はおおよそ、第1材料120よりも40%高く、第3材料140よりも17%高く、そして第4材料150よりも75%高い。射出成形フィラメントとして使用される場合、第2材料130の曲げ弾性率はおおよそ、第1材料120よりも35%高く、第3材料140よりも17%高く、第4材料150よりも93%高い。したがって、第2材料130におけるような熱可塑性相溶性サイジング剤を有するガラス繊維と炭素繊維の組み合わせは、第1材料120におけるようなガラス繊維のみを有する材料、又は第3材料140におけるような熱硬化性相溶性サイジング剤を有するガラス繊維と炭素繊維を有する材料、又は第4材料150におけるような熱可塑性相溶性サイジング剤を有する炭素繊維のみを有する材料と比較して、曲げ弾性率の増加を示す。
【0027】
図5は、本明細書に記載される様々な態様による付加プリントに使用される第1材料120、第2材料130、及び第4材料150の、ギガパスカル(GPa)で測定された引張弾性率を比較する棒グラフ200を示す。第3材料140との比較は完了していない。x軸210は、種々な材料のそれぞれを識別し、y軸212は、各材料のギガパスカル(GPa)で測定した引張弾性率を示す。
【0028】
グラフ200に示されているように、第1材料120は、バー222で示されるように、3Dプリント時に7.604GPaの引張弾性率を有する。第2材料130は、バー232で示されるように、3Dプリント時に9.825GPaの引張弾性率を有する。第4材料150は、バー252で示されるように、3Dプリント時に5.810GPaの引張弾性率を有する。
【0029】
グラフ200から明らかなように、第2材料130は、他の材料120及び150と比較して優れた引張弾性率特性を有する。付加プリント用フィラメントストランド40として使用される場合、第2材料130の引張弾性率は、第1材料120よりも約29%高く、第4材料150よりも約69%高い。したがって、第2材料130におけるような熱可塑性相溶性サイジング剤を有するガラス繊維及び炭素繊維の組合せは、第1材料120におけるようなガラス繊維のみを有する材料、又は第4材料150におけるような熱硬化性相溶性サイジング剤を有する炭素繊維を有する材料と比較して。引張弾性率の増加を示す。
【0030】
図6は、本明細書に記載される様々な態様による様々な材料組成物を有する材料120、130、140及び150の、#3Dプリントvs射出成形の場合の曲げ強度を比較する棒グラフ300を示す。x軸310は、様々な材料120、130、140及び150のそれぞれを識別し、y軸312は、メガパスカル(MPa)で測定された各材料の曲げ強度を示す。
【0031】
グラフ300に示されるように、第1材料120は、3Dプリント時には、バー322によって示されるように、149.0MPaの曲げ強度を有し、射出成形時には、バー324によって示されるように、143.0MPaの曲げ強度を有する。第2材料130は、3Dプリント時には、バー332によって示されるように、152.0MPaの曲げ強度を有し、射出成形時には、バー334によって示されるように、141.0MPaの曲げ強度を有する。第3材料140は、3Dプリント時には、バー342によって示されるように、111.0MPaの曲げ強度を有し、射出成形時には、バー344によって示されるように、105.0MPaの曲げ強度を有する。第4材料150は、3Dプリント時には、バー352によって示されるように、102.0MPaの曲げ強度を有し、射出成形時には、バー354によって示されるように、91.0MPaの曲げ強度を有する。
【0032】
グラフ300から明らかなように、第2材料130は、第1材料120と比較した場合、同様の曲げ強度特性を有し、他の材料140及び150と比較した場合、優れた曲げ強度特性を有する。付加プリント用フィラメントストランド40として使用された場合、第2材料130の曲げ強度は、第3材料140よりも約37%高く、第4材料150よりも約49%高い。射出成形フィラメントとして使用された場合、第2材料130の曲げ強度は、第3材料140よりも約34%高く、第4材料150よりも55%高い。したがって、第2材料130におけるような熱可塑性相溶性サイジング剤を有するガラス繊維及び炭素繊維の組み合わせは、第3材料140におけるような熱硬化性相溶性サイジング剤を有するガラス繊維及び炭素繊維を有する材料、又は第4材料150におけるような熱可塑性相溶性サイジング剤を有する炭素繊維のみを有する材料と比較して、曲げ強度の増加を示す。
【0033】
図7は、第1材料120と第2材料130の耐熱性を比較した棒グラフ400を示している。x軸410は材料を識別し、y軸412は材料120、130の摂氏で測定された熱撓み温度を示す。第1材料120と第2材料130の熱撓み温度は、ISO 75標準法Aによって1.8MPaの荷重で試験された。熱撓み温度は、標準テストバーがある荷重下で指定された距離だけ撓む温度として定義される。熱撓み温度は、短期的な耐熱性を決定するために使用される。
【0034】
グラフ400に示されるように、第1材料120は、バー422に示されるように、120°Cの熱撓み温度を有する。第2材料130は、バー432に示されるように、150°Cの熱撓み温度を有する。したがって、第2材料130は、第1材料120よりも約25%高い耐熱性を有する。このように、熱可塑性相溶性サイジング剤を有するガラス繊維及び炭素繊維の組み合わせを含む第2材料130は、ガラス繊維のみを有する第1材料120と比較して、熱特性の増加を示す。
【0035】
本明細書に記載の本開示の態様は、射出成形部品と同等の機械的特性を有する最終部品を提供することができる付加製造用プリントフィラメント材料を含むことができる。したがって、本明細書に記載される態様によるプリント用フィラメントストランドを用いて製造される部品又はプロトタイプは、プロトタイプを製造するために金型を必要としないため、射出成形と比較して費用効果の高い解決策であり得る。さらに、本明細書に記載の態様によるフィラメントストランドから製造されたプロトタイプは、従来のプリントフィラメントで付加的に製造された部品と比較して機械的特性が増大しているため、実際の条件で試験することができる。
【0036】
まだ説明されていない範囲まで、様々な実施形態の異なる特徴及び構造は、所望により互いに組み合わせて使用することができる。1つの特徴を全ての実施形態で説明することができないということは、それができないと解釈されることを意味するのではなく、説明を簡潔にするために行われている。したがって、異なる実施形態の様々な特徴は、新しい実施形態が明示的に記載されているかどうかにかかわらず、所望に応じて混成及び整合されて、新しい実施形態を形成することができる。
【0037】
本発明をその特定の実施形態に関連して具体的に説明してきたが、これは例示であって限定ではないことを理解されたい。添付の特許請求の範囲に定義された本発明の精神から逸脱することなく、前述の開示及び図面の範囲内で合理的な変形及び修正が可能である。