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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】温度計測装置及び温度記録装置
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/13 20060101AFI20231116BHJP
   G01K 1/024 20210101ALI20231116BHJP
   G01K 7/12 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01K7/13
G01K1/024
G01K7/12 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019212893
(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2021085691
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000117814
【氏名又は名称】安立計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕亮
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-96507(JP,A)
【文献】特表2017-529535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00 - 19/00
G01R 21/04
G01J 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体の外側に設置されて複数の種類の熱電対温度計が着脱自在の端子と、前記筐体の内側に設置されて前記端子に接続された基準接点補償器と、前記筐体の内側に設置されて前記基準接点補償器に接続された計測用情報処理装置と、を備え、この計測用情報処理装置が、所定の時間ごとに前記熱電対温度計が検出した検出値と前記基準接点補償器が検出した基準値とに基づいて計測値を算出する算出処理を行う構成である温度計測装置において、
前記計測用情報処理装置は、予め設定された複数の熱起電力表を有し、前記算出処理において前記複数の熱起電力表のうちから予め指定された熱起電力表を用いて前記計測値を算出し、算出した前記計測値とその計測値の基となった前記検出値および前記基準値とをそれらが検出された時刻ごとに記録する記録処理を行う構成であり、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値および前記基準値と前記指定された熱起電力表と異なる熱起電力表とを用いて再計算値を算出する構成であることを特徴とする温度計測装置。
【請求項2】
前記計測用情報処理装置は、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値の正負を反転した値を用いて再計算値を算出する構成である請求項1に記載の温度計測装置。
【請求項3】
筐体の外側に設置されて複数の種類の熱電対温度計が着脱自在の端子と、前記筐体の内側に設置されて前記端子に接続された基準接点補償器と、前記筐体の内側に設置されて前記基準接点補償器に接続された計測用情報処理装置と、を備え、この計測用情報処理装置が、所定の時間ごとに前記熱電対温度計が検出した検出値と前記基準接点補償器が検出した基準値とに基づいて計測値を算出する算出処理を行う構成である温度計測装置において、
前記計測用情報処理装置は、算出した前記計測値とその計測値の基となった前記検出値および前記基準値とをそれらが検出された時刻ごとに記録する記録処理を行う構成であり、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値の正負を反転した値を用いて再計算値を算出する構成であることを特徴とする温度計測装置。
【請求項4】
前記計測用情報処理装置は前記筐体の外部に存在する受信機と通信可能な送信機を有し、前記記録処理として、この送信機により前記計測値、前記検出値、前記基準値、および、前記時刻を前記受信機に送信する送信処理を行う構成にした請求項1~3のいずれか1項に記載の温度計測装置。
【請求項5】
筐体の外側に設置されて複数の種類の熱電対温度計が着脱自在の端子と、前記筐体の内側に設置されて前記端子に接続された基準接点補償器と、前記筐体の内側に設置されて前記基準接点補償器に接続された計測用情報処理装置と、前記筐体の外部に存在する受信機と通信可能な送信機と、を備え、前記計測用情報処理装置が、所定の時間ごとに前記熱電対温度計が検出した検出値と前記基準接点補償器が検出した基準値とに基づいて計測値を算出する算出処理と、算出した前記計測値とその計測値の基となった前記検出値および前記基準値とをそれらが検出された時刻ごとに記録し、前記送信機により前記計測値、前記検出値、前記基準値、および、前記時刻を前記受信機に送信する送信処理と、を行う構成にした温度計測装置と別体で構成される温度記録装置において、
前記送信機と通信可能な前記受信機と記録用補助記憶装置とを有する記録用情報処理装置を備え、この記録用情報処理装置が、前記受信が受信した前記計測値、前記検出値、前記基準値、および、前記時刻を時系列に整列して前記記録用補助記憶装置に記憶する記憶処理を行う構成であり、予め設定された複数の熱起電力表を有し、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値および前記基準値とその計測値を算出する際に用いられた熱起電力表と異なる熱起電力表とを用いて再計算値を算出する構成であることを特徴とする温度記録装置。
【請求項6】
前記記録用情報処理装置は、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値の正負を反転した値を用いて再計算値を算出する構成である請求項5に記載の温度記録装置。
【請求項7】
筐体の外側に設置されて複数の種類の熱電対温度計が着脱自在の端子と、前記筐体の内側に設置されて前記端子に接続された基準接点補償器と、前記筐体の内側に設置されて前記基準接点補償器に接続された計測用情報処理装置と、前記筐体の外部に存在する受信機と通信可能な送信機と、を備え、前記計測用情報処理装置が、所定の時間ごとに前記熱電対温度計が検出した検出値と前記基準接点補償器が検出した基準値とに基づいて計測値を算出する算出処理と、算出した前記計測値とその計測値の基となった前記検出値および前記基準値とをそれらが検出された時刻ごとに記録し、前記送信機により前記計測値、前記検出値、前記基準値、および、前記時刻を前記受信機に送信する送信処理と、を行う構成にした温度計測装置と別体で構成される温度記録装置において、
前記送信機と通信可能な前記受信機と記録用補助記憶装置とを有する記録用情報処理装置を備え、この記録用情報処理装置が、前記受信が受信した前記計測値、前記検出値、前記基準値、および、前記時刻を時系列に整列して前記記録用補助記憶装置に記憶する記憶処理を行う構成であり、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値の正負を反転した値を用いて再計算値を算出する構成であることを特徴とする温度記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度計測装置及び温度記録装置に関し、より詳細には、再計測する頻度を低減する温度計測装置及び温度記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温度計測装置や温度記録装置として、検出位置が異なる複数の温度を検出し、それら複数の温度に基づいて被計測体の温度を計測する装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5080681号
【文献】特開2015-083993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、温度計測装置や温度記録装置には被計測体の温度に基づいた検出値を検出する熱電対温度計が付け替え可能なものがある。この種の装置では、被計測体の温度を計測する前に、複数の種類から任意に選択された熱電対温度計を端子に取り付けている。
【0005】
しかし、取り付けの際に端子との接続において熱電対温度計の正極と負極とを逆に接続する誤接続が生じるおそれがある。また、熱電対温度計の種類を取り違えたり、計測結果の算出に必要な熱起電力表の指定が間違えたりする誤指定が生じるおそれもある。このような誤接続や誤指定は、被計測体の温度を正確に計測できないことから、再計測の要因となっている。特許文献1、2に記載の装置においては、計測時に誤接続や誤指定が生じるとその誤りを正した後に再計測する必要があった。
【0006】
本発明の目的は、再計測する頻度を低減する温度計測装置および温度記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明の温度計測装置は、筐体の外側に設置されて複数の種類の熱電対温度計が着脱自在の端子と、前記筐体の内側に設置されて前記端子に接続された基準接点補償器と、前記筐体の内側に設置されて前記基準接点補償器に接続された計測用情報処理装置と、を備え、この計測用情報処理装置が、所定の時間ごとに前記熱電対温度計が検出した検出値と前記基準接点補償器が検出した基準値とに基づいて計測値を算出する算出処理を行う構成である温度計測装置において、前記計測用情報処理装置は、予め設定された複数の熱起電力表を有し、前記算出処理において前記複数の熱起電力表のうちから予め指定された熱起電力表を用いて前記計測値を算出するし、算出した前記計測値とその計測値の基となった前記検出値および前記基準値とをそれらが検出された時刻ごとに記録する記録処理を行う構成であり、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値および前記基準値と前記指定された熱起電力表と異なる熱起電力表とを用いて再計算値を算出する構成であることを特徴とする。
また、本発明の温度計測装置は、筐体の外側に設置されて複数の種類の熱電対温度計が着脱自在の端子と、前記筐体の内側に設置されて前記端子に接続された基準接点補償器と、前記筐体の内側に設置されて前記基準接点補償器に接続された計測用情報処理装置と、を備え、この計測用情報処理装置が、所定の時間ごとに前記熱電対温度計が検出した検出値と前記基準接点補償器が検出した基準値とに基づいて計測値を算出する算出処理を行う構成である温度計測装置において、前記計測用情報処理装置は、算出した前記計測値とその計測値の基となった前記検出値および前記基準値とをそれらが検出された時刻ごとに記録する記録処理を行う構成であり、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値の正負を反転した値を用いて再計算値を算出する構成であることを特徴とする。
【0008】
上記の目的を達成する本発明の温度記録装置は、筐体の外側に設置されて複数の種類の熱電対温度計が着脱自在の端子と、前記筐体の内側に設置されて前記端子に接続された基準接点補償器と、前記筐体の内側に設置されて前記基準接点補償器に接続された計測用情報処理装置と、前記筐体の外部に存在する受信機と通信可能な送信機と、を備え、前記計測用情報処理装置が、所定の時間ごとに前記熱電対温度計が検出した検出値と前記基準接点補償器が検出した基準値とに基づいて計測値を算出する算出処理と、算出した前記計測値とその計測値の基となった前記検出値および前記基準値とをそれらが検出された時刻ごとに記録し、前記送信機により前記計測値、前記検出値、前記基準値、および、前記時刻を前記受信機に送信する送信処理と、を行う構成にした温度計測装置と別体で構成される温度記録装置において、前記送信機と通信可能な前記受信機と記録用補助記憶装置とを有する記録用情報処理装置を備え、この記録用情報処理装置が、前記受信が受信した前記計測値、前記検出値、前記基準値、および、前記時刻を時系列に整列して前記記録用補助記憶装置に記憶する記憶処理を行う構成であり、予め設定された複数の熱起電力表を有し、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値および前記基準値とその計測値を算出する際に用いられた熱起電力表と異なる熱起電力表とを用いて再計算値を算出する構成であることを特徴とする。
また、本発明の温度記録装置は、筐体の外側に設置されて複数の種類の熱電対温度計が着脱自在の端子と、前記筐体の内側に設置されて前記端子に接続された基準接点補償器と、前記筐体の内側に設置されて前記基準接点補償器に接続された計測用情報処理装置と、前記筐体の外部に存在する受信機と通信可能な送信機と、を備え、前記計測用情報処理装置が、所定の時間ごとに前記熱電対温度計が検出した検出値と前記基準接点補償器が検出した基準値とに基づいて計測値を算出する算出処理と、算出した前記計測値とその計測値の基となった前記検出値および前記基準値とをそれらが検出された時刻ごとに記録し、前記送信機により前記計測値、前記検出値、前記基準値、および、前記時刻を前記受信機に送信する送信処理と、を行う構成にした温度計測装置と別体で構成される温度記録装置において、前記送信機と通信可能な前記受信機と記録用補助記憶装置とを有する記録用情報処理装置を備え、この記録用情報処理装置が、前記受信が受信した前記計測値、前記検出値、前記基準値、および、前記時刻を時系列に整列して前記記録用補助記憶装置に記憶する記憶処理を行う構成であり、記録した前記計測値を再計算する場合に、その計測値の基となった前記検出値の正負を反転した値を用いて再計算値を算出する構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、計測結果である計測値のみを出力するのではなく、その計測値の基となる検出値および基準値のそれぞれと時刻とを記憶することで、計測後に再計算することが可能となる。これにより、誤接続や誤指定に起因する不正確な結果を後から再計算により正すことで、被計測体の温度を再計測する頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】基準接点補償器を備える温度計測装置の第一実施形態を例示する構成図である。
図2図1の端子を例示する斜視図である。
図3図1の基準接点補償器を例示する斜視図である。
図4図3の基準接点補償器の裏側を例示する斜視図である。
図5図4のボビン部の断面を例示する断面図である。
図6図1の計測用情報処理装置を例示するブロック図である。
図7】温度計測装置の計測方法を例示するフロー図である。
図8】温度計測装置の再計算方法を例示するフロー図である。
図9】基準接点補償器を備える温度計測装置の第二実施形態を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、基準接点補償器および温度計測装置の実施形態について、図面を参照して説明する。図面においては基板31の面を基準として方向を定義しており、その面において互いに直交する方向をX方向、Y方向とし、その面に垂直な方向をZ方向とする。実施形態において、Taを被計測体の温度、Tbを被計測体や温度計測装置10が存在する環境温度、Tcを温度計測装置10の筐体11の内部温度とする。また、nの符号に関しては熱電対の種類を示すアルファベット(K、T、E、Bなど)を示すものとする。なお、図面に関しては、構成が分かり易いように寸法を変化させており、各部材、各部品の板厚や幅や長さなどの比率も必ずしも実際に製造するものの比率とは一致させていない。
【0012】
図1に例示するように、本実施形態の温度計測装置10は熱電対温度計1が取り付けられて、その熱電対温度計1により被計測体の温度Taを計測した値として計測値Txを出力する装置である。
【0013】
熱電対温度計1は異なる二種類の金属線からなり、それらの接合点である測温接点が被計測体に当接されて生じる熱起電力として検出値Vaを出力するセンサである。熱電対温度計1としては、正極にクロメル、負極にアルメルを用いたタイプK、正極に銅、負極にコンスタンタンを用いたタイプT、正極にクロメル、負極にコンスタンタンを用いたタイプE、正極に白金ロジウム合金(ロジウム含有量30%)、負極に白金ロジウム合金(ロジウム含有量6%)を用いたタイプBなどの様々な種類が例示され、本実施形態においてその種類が特定されるものではない。
【0014】
温度計測装置10は端子20、基準接点補償器30、および、計測用情報処理装置50を備え、端子20が筐体11の外側に設置され、基準接点補償器30および計測用情報処理装置50が筐体11の内側に設置される。本実施形態において、筐体11の外側とは筐体11の内側では無い状態を示しており、筐体11の外側で筐体11から離間した状態や筐体11の外表面に設置された状態が例示される。
【0015】
図2に例示するように、端子20は熱電対温度計1を接続可能であればよく、一度に接続される熱電対温度計1の数は特に限定されずに一つでもよい。端子20は筐体11に直に取り付けられているが、端子20を筐体11から離間してもよい。端子20は端子台21、接続子22、および、均熱板23を備える。
【0016】
端子台21はZ方向上端から下端に向かって窪んだ複数の収納部24とこの収納部24に連通する連通孔25とを有する。収納部24の数は端子20に設置される均熱板23の数に設定される。本実施形態において均熱板23は一つの熱電対温度計1に対して一つずつ配置されるが、均熱板23は複数の熱電対温度計1に対して一つ配置される構成にしてもよく、全ての熱電対温度計1に対して一つ配置される構成にしてもよい。収納部24はその底部24aに貫通孔24bが形成される。貫通孔24bのそれぞれは内周にネジ山が形成されて、接続子22の固定ピン26がねじ込まれて固定される。一つの収納部24に形成される貫通孔24bの数は収納部24に設置される接続子22の数に設定される。連通孔25は後述する基準接点用熱電対35が挿通される孔である。連通孔25の数は基準接点用熱電対35の数に設定される。端子台21は樹脂で構成されることが望ましく、樹脂としてはポリイミド樹脂が例示される。このように端子台21が樹脂で構成されることで、端子20の軽量化には有利になる。
【0017】
接続子22は固定ピン26と固定板27と接触板28とを有して構成される。本実施形態において、接続子22は収納部24ごとに一対ずつ、互いにY方向に離間するように設置される。一対の接続子22は熱電対温度計1の正極、負極のそれぞれに対応する。固定ピン26は軸外周面にねじ山が形成されてなり、固定板27および接触板28のそれぞれは貫通孔の内周面にねじ山が形成されてなる。固定板27は収納部24の底部24aに固定され、接触板28は固定板27の上に固定された均熱板23の上に固定される。接続子22は固定ピン26と接触板28との間に熱電対温度計1の末端の正負の端子を挟持した状態で、固定ピン26が貫通孔24b、固定板27、および、接触板28のそれぞれに螺合することで、熱電対温度計1を端子20に留め、後述する導線34に電気的に接続する。接続子22は熱電対温度計1の正負の端子のそれぞれを電気的に接続可能であればよく、実施形態の構成に限定されずに、一対の接続子22がX方向に離間するように配置されてもよい。接続子22を構成する材料は導電材料で耐食性に優れたものが好ましく、ステンレス鋼が例示される。
【0018】
均熱板23は収納部24ごとに一つずつ設置され、一対の接続子22のそれぞれに対して電気的に絶縁された状態で接触可能に設置される。均熱板23はその外表面が絶縁膜で覆われて、二つの固定ピン用貫通孔26aと二つの熱電対用貫通孔26bとを有する。固定ピン用貫通孔26aは固定ピン26が非接触で挿通される孔であり、固定ピン26の軸径よりも大きい穴径となる。二つの熱電対用貫通孔26bは一方が均熱板23の連通孔25の側に配置され、他方が均熱板23の中央に配置される。二つの熱電対用貫通孔26bの間の長さは後述する基準接点用熱電対35の厚さの20倍程度の長さに設定されることが望ましい。均熱板23を構成する材料はその熱伝導率が接続子22を構成する材料の熱伝導率よりも高く、かつ、絶縁体であることが好ましく、外表面がアルマイト加工されたアルミニウムが例示される。なお、均熱板23は熱伝導率が高い材料とその材料の外表面に絶縁性の高い材料で構成された絶縁膜で覆う構成にしてもよい。
【0019】
端子20は筐体11に設置されて、導線34が固定ピン26の先端部に電気的に接合され、基準接点用熱電対35の測温接点が均熱板23に埋設される。端子20を筐体11に設置する場合に、筐体11に突起を設けて、連通孔25がその突起により塞がれることが望ましい。連通孔25が突起により塞がれて、固定ピン26が貫通孔24bを塞ぐことで、防水には有利になる。また、端子20は基準接点用熱電対35の中途部位が均熱板23の上面に接触し、残りが一方の熱電対用貫通孔26bと連通孔25とを介して内部に導出された状態となる。なお、一方の熱電対用貫通孔26bも接着剤で埋めるとよい。このように構成することで、基準接点用熱電対35の測温接点を含む先端部を基準接点用熱電対35の厚さに対して20倍以上の長さの部位を均熱板23に接触させることが可能となり、測定精度の向上には有利になる。
【0020】
被計測体の温度Taの計測時に、端子20は均熱板23が環境温度Tbに均熱される。それ故、熱電対温度計1の基準接点の温度を安定させて、測定精度を向上させることができる。端子20は端子台21が樹脂で構成されるともに均熱板23がアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されることが望ましく、樹脂とアルミニウムまたはアルミニウム合金の組み合わせることで、均熱性を確保しつつ、軽量化を図ることができる。
【0021】
また、均熱板23は接続される熱電対温度計1ごとに設置されると、端子20の場所によって環境温度Tbが相違する場合に好適である。また、均熱板23は一つの端子20に一つ設け、全ての接続子22で共用すると、環境温度Tbの均熱性を向上するには有利になり、基準接点の温度の高精度化には有利になる。
【0022】
図3図5に例示するように、実施形態の基準接点補償器30は、基板31、ボビン部32、測温抵抗体33、導線34、および、基準接点用熱電対35を備えて構成される。ボビン部32は巻き芯36、金属板37、固着軸38、および、廻り止め39を有して構成される。
【0023】
基板31は基材として金属を用いたリジットプリント配線基板である金属ベース基板で構成され、金属層31a、絶縁層31b、および、導体層31cを有する。基板31は金属層31a、絶縁層31b、および、導体層31cがZ方向にこの順で積層して成る片面一層基板が好ましい。基板31が片面一層基板で構成されると、基板31の片面31dは金属層31aが露出することになり、金属層31aの両面が絶縁層31bおよび導体層31cで覆われた両面二層基板に比して均熱性に有利になる。
【0024】
基板31はXY平面視で中心に配置された固着軸用貫通孔40と固着軸用貫通孔40から離間した位置に配置された廻り止め用貫通孔41とが形成される。固着軸用貫通孔40および廻り止め用貫通孔41はスルーホールビアではなく、その内周面にネジ山が形成されることが望ましい。
【0025】
金属層31aは基板31の基材であり、金属で構成される。金属層31aを構成する金属は均熱性に優れるものが好ましい。金属層31aを構成する金属としては、アルミニウムやアルミニウム合金が例示される。
【0026】
絶縁層31bは金属層31aと導体層31cとを電気的に絶縁する役割と、金属層31aと導体層31cと接着する役割とを有する。絶縁層31bとしてはエポキシ樹脂やポリイミド樹脂が例示される。なお、絶縁層31bをエポキシ樹脂が含浸したガラスクロスの板で構成し、この板を接着剤で金属層31aに貼り合わせてもよい。また、絶縁層31bをアルミニウムやアルミニウム合金の表面に形成された絶縁性皮膜で構成してもよい。
【0027】
導体層31cは所定の回路パターンに形成された導体箔で構成される。導体層31cの回路パターンの作成方法としてはサブトラクティブ法やアディティブ法が例示される。導体層31cに形成される回路パターンは、一つの基板用端子42、一つのスルーホール43、および、一つの配線44を組にした複数組のパターンからなる。
【0028】
複数の基板用端子42は複数の金属片で構成されて、それらの金属片が導体層31cの側端でY方向に向かって等間隔に配置される。複数の基板用端子42は後述する計測用本体51の基準接点用コネクタ51aに電気的に接続可能であればよく、構成が特に限定されるものではなく、基板31からZ方向に突出した金属片を有する構成でもよい。複数のスルーホール43は測温抵抗体33、導線34、および、基準接点用熱電対35のそれぞれの端部が挿入されて、ハンダ付けにより接合される。複数の配線44は各基板用端子42と各スルーホール43とを電気的に接続する配線である。
【0029】
ボビン部32は巻き芯36と金属板37とが一体化したものが固着軸38により基板31の片面31dに固定され、廻り止め39により固着軸38を軸とした巻き芯36と金属板37との回転が止められるように構成される。ボビン部32を構成する金属は基板31の金属層31aを構成する金属と同様に均熱性に優れるものが好ましい。ボビン部32を構成する金属としては、アルミニウムやアルミニウム合金が例示される。
【0030】
巻き芯36は下面が基板31の片面31dに接触した状態で固定されて、基板31と金属板37との間に介在する。巻き芯36は円筒状あるいは円柱状を成す。金属板37は下面が巻き芯36の上面に接触した状態で固定されて、巻き芯36と巻き芯36に巻き回された測温抵抗体33とをZ方向視で覆うように構成される。巻き芯36および金属板37のそれぞれは接合されて一体化させてもよく、それぞれが別体で構成されてもよい。巻き芯36および金属板37はZ方向視で中心に配置された固着軸用貫通孔45と固着軸用貫通孔45から離間した廻り止め用貫通孔46とが形成される。固着軸用貫通孔45および廻り止め用貫通孔46のそれぞれは、それぞれの内周面にネジ山が形成されることが望ましい。
【0031】
固着軸38は外周面にネジ山が形成されて、基板31に形成された固着軸用貫通孔40と巻き芯36および金属板37に形成された固着軸用貫通孔45とのそれぞれの内周面に形成されたネジ山と螺合されることが好ましい。固着軸38はそれぞれの貫通孔と螺合した状態で基板31の導体層31cにハンダにより固着される。廻り止め39は外周面にネジ山が形成されて、基板31に形成された廻り止め用貫通孔41と巻き芯36および金属板37に形成された廻り止め用貫通孔46とのそれぞれの内周面に形成されたネジ山と螺合されることが好ましい。廻り止め39はそれぞれの貫通孔と螺合した状態で基板31の導体層31cにハンダにより固着される。
【0032】
ボビン部32は糸巻きのボビンの如く測温抵抗体33の巻き回しに適した構造である。具体的に、ボビン部32は基板31の片面31dに固定された状態で、円筒状または円柱状の巻き芯36の両端の基板31および金属板37が巻き芯36の径方向外側へ突出した構造を成す。ボビン部32によれば、測温抵抗体33を巻き回す作業に要する時間を短縮するには有利になる。
【0033】
ボビン部32は金属板37の外縁の側の環状領域で測温抵抗体33が束ねられた状態で巻き回されるように構成される。本実施形態において金属板37の外縁の側の環状領域は、R1を巻き芯36の半径とし、R2を金属板37の半径とし、原点を固着軸38の軸中心としたXY平面の座標系において、(R1)<x+y<(R2)で表される領域である。巻き芯36の半径R1は金属板37の半径R2の半分の長さよりも長く、金属板37の半径R2よりも短いことが望ましい。このように、巻き芯36の半径R1を設定することで、巻き芯36を介して基板31および金属板37が良好に伝熱し、基板31とボビン部32とが均熱するには有利になる。
【0034】
測温抵抗体33は導体層31cに接続された金属線が巻き芯36に巻き回されて成り、その金属線が温度変化によって変化する抵抗値Rcが測定されることで温度が測定されるセンサである。測温抵抗体33は両端のそれぞれが導体層31cに接続された絶縁電線である巻線で構成される。測温抵抗体33を構成する金属線としては銅線が例示され、その銅線が撚り線であることが好ましい。金属線を撚った銅線にすることで、巻き芯36に巻き回わされたときに無誘導巻きとなり、磁界を起因とする温度誤差を防止するには有利になる。
【0035】
測温抵抗体33は所定の温度下で所定の抵抗値Rcとなるように巻き芯36に複数回、巻き回されて束ねられた状態となる。測温抵抗体は所定の温度下で所定の抵抗値Rcとなるように巻き終わりの端部を切断、接続を繰り返して調整される。測温抵抗体33は巻き芯36に巻き回されて束ねられた状態の測温抵抗体33の抵抗値Rcとしては、金属線として銅線を用いた場合に20℃において108.5Ωが例示される。
【0036】
導線34は、一端が導体層31cに接続されて、他端が接続子22に接続されて、熱電対温度計1に間接的に接続される。導線34は端子20に接続された熱電対温度計1と基板用端子42とを電気的に接続する金属線である。導線34は端子20に接続される熱電対温度計1の熱電対の素線と同等の金属線で構成される補償導線とは異なり、熱電対の素線と関係のない金属線で構成される。導線34は熱容量が小さい金属線で構成されることが好ましく、銅線が例示される。導線34は一つの熱電対温度計1に対して一組ずつ配置される。
【0037】
基準接点用熱電対35は、測温接点が均熱板23に接続されて、基準接点が導体層31cに接続されて、測温接点が均熱板23に当接されて生じる熱起電力Vbを出力するセンサである。基準接点用熱電対35は端子20の複数の均熱板23のそれぞれに対応するように複数設置され、一つの均熱板23に対して少なくとも一つ設置される。基準接点用熱電対35は熱容量が小さい材料で構成されることが好ましく、正極に銅、負極にコンスタンタンを用いたタイプTの熱電対が例示される。
【0038】
被計測体の温度Taの計測時に、基準接点補償器30は基板31の金属層31aおよびボビン部32が筐体11の内部温度Tcに均熱する。この金属層31aおよびボビン部32の均熱に伴って巻き芯36に巻き回された測温抵抗体33の金属線も内部温度Tcに均熱する。それ故、測温抵抗体33により内部温度Tcを高精度に検出することが可能となる。
【0039】
以上のように基準接点補償器30は、金属層31aを有する基板31の片面31dに固定された巻き芯36に金属線を巻き回して測温抵抗体33を構成する。それ故、基準接点補償器30によれば、測温抵抗体33を一箇所に束ねて導体層31cの回路パターンに使用可能な面積を増やすとともに、測温抵抗体33を束ねることで低下する均熱性を金属層31aの均熱性を利用して確保することができる。これにより、基板31の省スペース化に有利になり、均熱性を維持しつつ、小型化を図ることができる。
【0040】
基準接点補償器30は巻き芯36に測温抵抗体33を構成する金属線を巻き回す構成である。それ故、基準接点補償器30によれば、測温抵抗体33を構成する金属線を板状の端子シートに扁平状に巻き回す構成に比して、巻き回す工程に要する時間を短縮するには有利になる。
【0041】
基準接点補償器30は補償導線ではない導線34を介して熱電対温度計1に接続されて、基準接点用熱電対35が環境温度Tbに均熱された均熱板23に測温接点が接触する構成である。つまり、基準接点補償器30は熱電対温度計1の基準接点を端子20とするものである。これにより、補償導線を介して熱電対温度計1に接続されて、補償導線の末端を基準接点とする従来技術の補償器とは異なり、様々な種類の熱電対温度計1を接続することが可能となる。
【0042】
なお、端子20に接続される熱電対温度計1の種類が固定の場合に、本開示の基準接点補償器30の導線34を補償導線で構成し、基準接点用熱電対35を用いない構成にすることも可能である。この場合に、端子20の接続子22を構成する金属は接続する熱電対温度計1の熱電対と同様の金属で構成することが望ましい。
【0043】
図6に例示するように、計測用情報処理装置50は計測用本体51および計測用補助記憶装置52を備え、信号線を介して計測用電源装置12、計測用表示装置13、および、計測用操作装置14に接続され、計測用本体51が基準接点補償器30に接続される。計測用情報処理装置50は熱電対温度計1により検出された熱起電力である検出値Vaと基準接点補償器30により検出された基準値Vdと計測用操作装置14により指定されたタイプnに応じた熱起電力表CTnと電力変換表PTnに基づいて計測値Txを算出し、計測用表示装置13に算出したその計測値Txを出力するものである。
【0044】
また、計測用情報処理装置50は計測値Txを出力する過程において、計測値Txとその計測値Txの基となった検出値Vaおよび基準値Vdとそれらが検出された時刻txとが時系列に記憶された計測情報Dxを計測用補助記憶装置52に永続的に記録する記録処理を行うものである。
【0045】
計測用情報処理装置50は機能要素としてタイマ53、計測部54、基準値算出部55、計測値算出部56、計測用処理部57、および、計測用再計算部58を有する。各機能要素は、プログラムとして計測用補助記憶装置52に記憶されていて、適時、計測用本体51の中央演算処理装置(CPU)により主記憶装置に読み出されて実行されている。なお、各機能要素としては、プログラムの他にそれぞれが独立して機能するプログラマブルコントローラ(PLC)や電気回路で構成されてもよい。
【0046】
計測用本体51は、各種情報処理を行う中央演算処理装置、その各種情報処理を行うために用いられるプログラムや情報処理結果を読み書き可能で、それらを一時的に記憶する主記憶装置からなるハードウェアであり、基準接点補償器30の基板用端子42が接続される基準接点用コネクタ51aを有する。
【0047】
計測用補助記憶装置52は各種情報処理を行うために用いられるプログラムや情報処理結果を読み書き可能で、それらを永続的に記憶するハードウェアである。また、計測用補助記憶装置52は測温抵抗体33の抵抗値表RTと各種の熱起電力表CTn(n=K、T、E、B、R、S、N、J、C・・・)と各種の電力変換表PTn(n=K、T、E、B、R、S、N、J、C・・・)とが記憶されて、適時、計測用本体51の中央演算処理装置により読み出される。また、計測用補助記憶装置52は計測用情報処理装置50の情報処理結果として計測情報Dxが記憶される。
【0048】
本実施形態において、一時的な記憶は情報処理の過程で計測用本体51の主記憶装置が行うものであり、一時的に記憶された情報は情報処理が終了すると消去されるものとする。永続的な記憶は情報処理の過程で計測用補助記憶装置52が行うものであり、永続的に記憶された情報は意図的な消去や装置の故障以外では消去されないものとする。
【0049】
抵抗値表RTは、測温抵抗体33に一定の電流を流して計測される電圧から算出される測温抵抗体33の抵抗値Rcと温度との関係が記された換算表である。各種の熱起電力表CTnは熱電対の種類ごとに用意されて、熱電対の起電力と温度との関係が記された換算表である。各種の電力変換表PTnは熱電対の種類ごとに用意されて、基準接点補償器30が検出した基準値Vdを熱電対温度計1の熱電対における起電力である変換値Veに変換するものであり、基準値Vdと変換値Veとの関係が記された換算表である。変換値Veは、基準値Vdを基準接点用熱電対35に対応した熱起電力表(本実施形態ではタイプTの熱起電力表CTT)を用いて変換した温度を熱電対温度計1に対応した熱起電力表CTnを用いて変換された値である。
【0050】
タイマ53は所定の単位時間tの経過を数えており、所定の単位時間tの経過ごとに計測部54に計測を行わせる機能要素である。また、タイマ53は標準時を取得可能に構成されて計測した時刻txを計測用処理部57に出力する機能要素でもある。
【0051】
計測部54は単位時間tごとに熱電対温度計1の熱起電力である検出値Va、基準接点用熱電対35の熱起電力Vb、および、測温抵抗体33の抵抗値Rcを計測して、基準値算出部55、計測値算出部56、および、計測用処理部57のそれぞれに対応する値を出力する機能要素である。具体的に、計測部54は単位時間tごとに基板用端子42を介して基準接点用コネクタ51aに入力される電圧を計測する。なお、計測部54は測温抵抗体33に一定の電流を流す機能も有する。
【0052】
本実施形態においてタイマ53および計測部54を別々の機能要素として構成したが、単位時間tごとに入力信号を切り替える多重器(マルチプレクサともいう)で構成してもよい。なお、タイマ53および計測部54として多重器を用いる場合は、多重器で複数回計測を繰り返してその平均値を出力することができ、計測精度の向上に有利になる。
【0053】
基準値算出部55は計測部54が計測した測温抵抗体33の抵抗値Rcと基準接点用熱電対35の熱起電力Vbとが入力され、それらの値に基づいて基準値Vdを算出し、算出した基準値Vdを計測値算出部56と計測用処理部57とに出力する機能要素である。基準値Vdは起電力であり、環境温度Tbから内部温度Tcを減算した温度に応じた値である。
【0054】
計測値算出部56は計測部54で計測された熱電対温度計1の熱起電力である検出値Vaと基準値算出部55で算出された基準値Vdとが入力されて、予め計測用操作装置14により指定された熱電対温度計1のタイプnに応じた熱起電力表CTnおよび電力変換表PTnを用いて計測値Txを算出し、算出した計測値Txと検出値Vaとを計測用処理部57に出力する機能要素である。
【0055】
計測用処理部57は入力された時刻tx、基準値Vd、検出値Va、計測値Txを計測用補助記憶装置52に時系列に永続的に記憶させる機能要素である。また、計測用処理部57は計測値Txまたは再計算値Ty、Tz、Twのいずれかを計測用表示装置13に表示させる機能要素でもある。
【0056】
計測用再計算部58は計測用操作装置14で選択された再計算方法A、B、Cのいずれかの再計算方法が入力されて、計測用補助記憶装置52から計測情報Dxを読み込み、入力された再計算方法に基づいて再計算された再計算値Ty、Tz、Twを計測用処理部57に出力する機能要素である。再計算方法Aは誤指定のみを修正する再計算方法であり、再計算方法Bは誤接続のみを修正する再計算方法であり、再計算方法Cは誤指定および誤接続の両方を修正する再計算方法である。再計算方法A、Cの選択には計測値Txを計測したときと異なるタイプnの指定も含まれる。なお、計測用再計算部58は計測情報Dxの所望の時刻txの計測値Txのみを再計算可能であり、計測情報Dxに含まれる全ての時刻txの計測値Txを再計算可能である。
【0057】
図7に例示するように、温度計測装置10の温度計測方法を計測用情報処理装置50の機能として説明する。この温度計測方法は所定の単位時間tごとに行われる。なお、制御フローにおいてはリターンでスタートに戻ると単位時間tが経過するものとする。また、本実施形態において、スタート時には計測用操作装置14によりタイプKが入力されているものとする。
【0058】
タイマ53により単位時間tが経過して時刻txになると、計測部54が熱電対温度計1の熱起電力である検出値Va、基準接点用熱電対35の熱起電力Vb、測温抵抗体33の抵抗値Rcを計測する(S110)。
【0059】
ついで、基準値算出部55が計測した抵抗値Rcと熱起電力Vbとに基づいて基準値Vdを算出する(S120)。算出された基準値Vdは基準接点補償器30が計測した値に基づいて算出される値であり、熱電対温度計1の基準接点の温度、つまり、環境温度Tbから内部温度Tcを減算した温度に応じた値である。
【0060】
ついで、計測値算出部56が計測用操作装置14に指定された電力変換表PTnを用いて基準値Vdを変換値Veに変換する(S130)。ついで、計測値算出部56が検出値Vaと変換値Veとを加算した加算値Vfを算出し、熱起電力表CTnを用いて加算値Vfを計測値Txに変換する(S140)。
【0061】
ついで、計測用処理部57が計測値Txを計測用表示装置13に表示させるとともに計測値Tx、検出値Va、基準値Vd、および、時刻txを計測用補助記憶装置52に時系列に記憶させて(S150)、制御フローがリターンしてスタートへ戻る。
【0062】
以上のステップS110からステップS150を所望する計測期間の間で繰り返して、計測が終了となる。計測中は単位時間tごとに計測された計測値Txが計測用表示装置13に表示され、単位時間tごとに計測値Tx、検出値Va、基準値Vd、および、時刻txが計測用補助記憶装置52に時系列に記憶されて計測情報Dxが逐次、更新される。
【0063】
上記の計測時に、熱電対温度計1の正極、負極を逆にして端子20に接続する誤接続や、接続された熱電対温度計1に対応しない熱起電力表CTnや電力変換表PTnが指定される誤指定が生じるおそれがある。このような誤接続や誤指定は、被計測体の温度Taを正確に計測できないことから被計測体の温度Taの再計測の要因となっている。
【0064】
これに関して、本実施形態の温度計測装置10は誤接続や誤指定が発覚した場合に、計測用補助記憶装置52に計測値Tx、検出値Va、基準値Vd、および、時刻txを時系列に記憶させた計測情報Dxを用いて、再計算を行うことが可能となる。
【0065】
図8に例示するように、計測値Txの再計算方法は計測用操作装置14により再計算方法A、B、Cのいずれかが選択されると開始されて、再計算が完了すると終了する。なお、この再計算方法は計測用操作装置14により再計算方法A、B、Cのいずれかが選択されると開始される構成に限定されない。例えば、温度計測装置10を用いて温度制御を行う場合に、計測値Txと予め設定された目標値との偏差に基づいて再計算方法A、B、Cのいずれかを自動的に選択する制御を行うように構成されてもよい。なお、図6に示す計測方法と同様の工程に関しては同符号を用いるものとする。
【0066】
計測用操作装置14により再計算方法A、B、Cが選択される(S210)と、計測用再計算部58は選択された再計算方法を判別する(S220、S230)。ついで、再計算方法Aが選択されたと判別すると(S220:YES)、計測用再計算部58は再計算方法Aにより選択された電力変換表PTnを用いて基準値Vdを変換値Vgに変換する(S250)。ついで、計測用再計算部58は検出値Vaと変換値Vgとを加算した加算値Vhを算出し、熱起電力表CTnを用いて加算値Vhを再計算値Tyに変換する(S260)。ついで、計測用処理部57は再計算値Tyを計測用表示装置13に表示して(S270)、この再計算方法は完了する。
【0067】
一方、再計算方法Bが選択されたと判別すると(S220:NO、S230:YES)、計測用再計算部58は計測値Txを計測したときに用いた電力変換表PTnを用いて基準値Vdを変換値Veに変換する(S130)。ついで、計測用再計算部58は検出値Vaの正負を反転した値と変換値Veとを加算した加算値Viを算出し、熱起電力表CTnを用いて加算値Viを再計算値Tzに変換する(S280)。ついで、計測用処理部57は再計算値Tzを計測用表示装置13に表示して(S270)、この再計算方法は完了する。
【0068】
一方、再計算方法Cが選択されたと判別すると(S220:NO、S230:NO)、計測用再計算部58は再計算方法Cにより選択された電力変換表PTnを用いて基準値Vdを変換値Vgに変換する(S250)。ついで、計測用再計算部58は検出値Vaの正負を反転した値と変換値Vgとを加算した加算値Vjを算出し、熱起電力表CTnを用いて加算値Vjを再計算値Twに変換する(S290)。ついで、計測用処理部57は再計算値Twを計測用表示装置13に表示して(S270)、この再計算方法は完了する。
【0069】
以上のように、温度計測装置10は計測結果である計測値Txのみを出力するのではなく、計測値Txに加えてその計測値Txの基となる検出値Vaおよび基準値Vdのそれぞれと時刻txとを時系列に記憶した計測情報Dxを計測用補助記憶装置52に永続的に記憶する構成である。つまり、温度計測装置10によれば、再計算が可能な計測情報Dxを記憶して残しておくことで、計測後に再計算をすることができる。これにより、誤接続や誤指定に起因する不正確な結果を後から再計算により正すことができ、計測対象となる被計測体の温度Taを再計測する頻度を低減することができる。
【0070】
温度計測装置10は小型化した基準接点補償器30を備えることで、基準接点補償器30の設置スペースを狭くすることが可能となり、装置自体を小型化することができる。また、温度計測装置10は基準接点補償器30の配置の制限がなくなり、筐体11の内部の設計の自由度を高めることができる。
【0071】
温度計測装置10は電力変換表PTnを用いて基準値Vdを変換値Veに変換する構成である。変換値Veは熱起電力表CTTと熱起電力表CTnとの二つの熱起電力表を用いても変換可能な値であるが、電力変換表PTnを用いることで変換回数を減らすことができる。
【0072】
図9に例示するように、第二実施形態の温度計測装置10は第一実施形態に対して温度記録装置60と対にして使用される点が異なり、計測情報Dxが温度計測装置10の計測用補助記憶装置52ではなく、温度記録装置60の記録用補助記憶装置72に永続的に記録される。
【0073】
本実施形態の温度計測装置10は計測用情報処理装置50が送信機59を備える。送信機59は無線通信により信号Sxを送信する機器である。送信機59は無線通信により信号を送信するものに限定されずに、信号を受信する機能も有する送受信機で構成されてもよい。また、送信機59は有線通信で信号Sxを送信するものでもよい。
【0074】
本実施形態の計測用情報処理装置50は計測用処理部57が単位時間tごとに計測値Tx、検出値Va、基準値Vd、および、それらを検知した時刻txを組にした信号Sxを送信機59から送信する機能要素として構成される。なお、計測用処理部57が計測値Tx、検出値Va、基準値Vd、および、時刻txを計測用補助記憶装置52に一時的に記憶させてから、それらの信号Sxを送信機59から後で送信する構成にしてもよい。
【0075】
温度記録装置60は筐体61の内部に記録用情報処理装置70が設置され、その記録用情報処理装置70が記録用本体71、記録用補助記憶装置72、および、受信機79を備え、信号線を介して記録用電源装置62、記録用表示装置63、および、記録用操作装置64に接続される。記録用情報処理装置70は受信機79により受信した信号Sxを時系列に記憶した計測情報Dxを記録用補助記憶装置72に永続的に記録する記録処理を行うものである。また、記録用情報処理装置70は記録用補助記憶装置72に記録した計測情報Dxを記録用表示装置63に表示する処理と、計測情報Dxを再計算する再計算処理を行うものである。
【0076】
受信機79は送信機59から無線通信により送信された信号Sxを受信する機器である。受信機79は無線通信により信号を受信するものに限定されずに、信号を送信する機能も有する送受信機で構成されてもよい。また、受信機79は有線通信で信号Sxを受信するものでもよい。
【0077】
記録用情報処理装置70は機能要素として受信部74、記録用処理部77、および、記録用再計算部78を有する。各機能要素は、プログラムとして記録用補助記憶装置72に記憶されていて、適時、記録用本体71の中央演算処理装置により主記憶装置に読み出されて実行されている。なお、各機能要素としては、プログラムの他にそれぞれが独立して機能するプログラマブルコントローラや電気回路で構成されてもよい。
【0078】
記録用本体71は、各種情報処理を行う中央演算処理装置、その各種情報処理を行うために用いられるプログラムや情報処理結果を読み書き可能で、それらを一時的に記憶する主記憶装置からなるハードウェアである。
【0079】
記録用補助記憶装置72は各種情報処理を行うために用いられるプログラムや情報処理結果を読み書き可能で、それらを永続的に記憶するハードウェアである。また、記録用補助記憶装置72は各種の熱起電力表CTn(n=K、T、E、B、R、S、N、J、C・・・)と各種の電力変換表PTn(n=K、T、E、B、R、S、N、J、C・・・)が記憶されて、適時、記録用本体71の中央演算処理装置により読み出される。また、記録用補助記憶装置72は受信機79が受信した信号Sxが時系列に記憶された計測情報Dxが永続的に記憶される。
【0080】
受信部74は単位時間tごとに受信機79で受信された信号Sxを記録用処理部77に出力する機能要素である。記録用処理部77は入力された信号Sxに含まれる時刻tx、基準値Vd、検出値Va、計測値Txを記録用補助記憶装置72に時系列に記憶させる機能要素である。また、記録用処理部77は計測値Txまたは再計算値Ty、Tz、Twのいずれかを記録用表示装置63に表示させる機能要素でもある。
【0081】
記録用再計算部78は計測用再計算部58と同様に、記録用操作装置64で選択された再計算方法A、B、Cのいずれかが入力されて、記録用補助記憶装置72から計測情報Dxを読み込み、入力された再計算方法に基づいて再計算された再計算値Ty、Tz、Twを記録用処理部77に出力する機能要素である。なお、記録用再計算部78は計測情報Dxの所望の時刻txの計測値Txのみを再計算可能であり、計測情報Dxに含まれる全ての時刻txの計測値Txを再計算可能である。
【0082】
温度計測装置10で被測定体の温度Taの計測が開始されて、単位時間tごとに送信機59から計測値Tx、検出値Va、基準値Vd、および、時刻txからなる信号Sxが送信されと、温度記録装置60の受信機79が信号Sxを受信する。ついで、受信部74が計測値Tx、検出値Va、基準値Vd、および、時刻txを記録用処理部77に出力し、記録用処理部77が計測値Tx、検出値Va、基準値Vd、および、時刻txを記録用補助記憶装置72に時系列に記憶させる。また、記録用処理部77が計測値Txを記録用表示装置63に表示させる。
【0083】
温度計測装置10で被計測体の温度Taの計測の終了後に、記録用操作装置64により再計算方法A、B、Cのいずれかが選択されると、記録用再計算部78が選択された再計算方法により再計算値Ty、Tz、Twのいずれかを記録用処理部77に出力する。ついで、記録用処理部77が再計算値Ty、Tz、Twのいずれかを記録用表示装置63に表示させる。
【0084】
以上のように、温度計測装置10は温度記録装置60と組にして使用することで、計測機能と記録機能および再計算機能とを装置ごとに別けることができる。なお、温度記録装置60はパーソナルコンピュータで構成されてもよい。
【0085】
既述した実施形態では、基準値Vdから変換値Veへの変換に電力変換表PTnを用いる構成を例示したが、熱起電力表CTTを用いて基準値Vdを温度に変換し、熱起電力表CTnを用いて変換したこの温度を変換値Veに変換する構成としてもよい。また、熱起電力表CTTを用いて変換した温度を基準値Vdの代わりに基準値としてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 熱電対温度計
10 温度計測装置
20 端子
30 基準接点補償器
50 計測用情報処理装置
60 温度記録装置
Va 検出値
Vd 基準値
Tx 計測値
tx 時刻
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9