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特許7385929線維化を伴う疾患の予防及び/又は治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-15
(45)【発行日】2023-11-24
(54)【発明の名称】線維化を伴う疾患の予防及び/又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/38 20060101AFI20231116BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231116BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20231116BHJP
   A61K 35/44 20150101ALI20231116BHJP
   A61K 35/407 20150101ALN20231116BHJP
【FI】
A61L27/38 200
A61P1/16
A61P43/00 105
A61K35/28
A61K35/44
A61P43/00 121
A61K35/407
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020565734
(86)(22)【出願日】2020-01-06
(86)【国際出願番号】 JP2020000043
(87)【国際公開番号】W WO2020145231
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2019001578
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、[再生医療実現拠点ネットワークプログラム疾患・組織別実用化研究拠点(拠点B)]「iPS細胞を用いた代謝性臓器の創出技術開発拠点」および[橋渡し研究戦略的推進プログラム:シーズB]「ヒトiPS細胞を活用した新規肝硬変治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】村田 聡一郎
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-209303(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047639(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/012158(WO,A1)
【文献】村田聡一郎,ヒトiPS細胞由来肝臓原基移植による新しい肝硬変治療法の開発,KAKEN,2018年12月17日,URL: https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-16K15596/16K155962017jisseki/
【文献】武部貴則、谷口英樹,肝疾患を対象とした再生医療の現況,小児内科,2017年07月,Vol. 49, No. 7,pp. 981-986
【文献】TAKEBE, Takanori et al.,Massive and Reproducible Production of Liver Buds Entirely from Human Pluripotent Stem Cells,Cell Reports,2017年12月05日,Vol. 21,pp. 2661-2670,DOI: 10.1016/j.celrep.2017.11.005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00 -33/18
A61K 35/00 -35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞及び血管内皮細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体を含有する、臓器及び/又は組織の線維化を伴う疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物であって、前記細胞混合物及び/又は細胞集合体は肝細胞及び内胚葉細胞のいずれも含まない前記医薬組成物。
【請求項2】
細胞混合物及び/又は細胞集合体における間葉系幹細胞血管内皮細胞の比率が1~10:10~1である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
間葉系幹細胞及び血管内皮細胞を含む細胞集合体が間葉系幹細胞血管内皮細胞の共培養により作製されたものである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
間葉系幹細胞が未分化である請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
間葉系幹細胞がES細胞又はiPS細胞に由来する請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
血管内皮細胞がES細胞又はiPS細胞に由来する請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
線維化が生じている臓器及び/又は組織の表面に移植する請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
間葉系幹細胞及び血管内皮細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体を含有する、臓器及び/又は組織の線維化抑制剤であって、前記細胞混合物及び/又は細胞集合体は肝細胞及び内胚葉細胞のいずれも含まない前記剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維化を伴う疾患の予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肝硬変は各種肝疾患の末期的状態であって肝臓の著しい線維化を引き起こす。進行した肝硬変の根本的な治療法は肝移植のみであるが、圧倒的なドナー不足の状態にある。
【0003】
組織幹細胞である間葉系幹細胞は骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能をもつとされており、再生医療への応用が期待されている。また免疫抑制作用を有することも判明し治療抵抗性の免疫疾患に対する細胞療法剤として有望視されている。間葉系幹細胞は体細胞(骨髄、脂肪組織)から採取することも、ヒトiPS細胞から分化誘導することも可能である。間葉系幹細胞を用いた細胞治療法は多くの臨床研究が行われている。移植方法としては末梢静脈、門脈等に単一細胞状態で投与する手法が一般的である。効果は一時的であり、組織学的に移植した間葉系細胞が肝細胞に分化したり、長期生着を確認出来たという報告はない。間葉系幹細胞の細胞シートも発表されているが、明らかな肝疾患治療効果は報告されていない。
【0004】
血管内皮細胞は血管内腔を被覆する細胞で、血管機能の中心的役割を果たしている。ヒト血管内皮細胞を用いた研究には、臍帯静脈由来血管内皮細胞、ヒトiPS細胞等の多能性幹細胞から分化誘導した細胞が用いられている(特許第5920741号(特許文献1)他)。 またiPS細胞由来血管前駆細胞シートの作製法も報告されている(WO2013/069661(特許文献2))。血管内皮細胞、血管前駆細胞シート等に肝疾患治療効果は報告されていない。
【0005】
間葉系幹細胞と血管内皮細胞は、臓器や組織を形成する際の支持組織として考えられているため、これらの細胞やこれらの細胞のみによる細胞集合体の医学的な有用性は報告されていない。特に肝臓などの臓器や組織の線維化改善効果の報告はされていない。
【0006】
これまで、本発明者らは、iPS細胞などの多能性幹細胞より得た至適分化段階の肝内胚葉細胞を血管内皮細胞および間葉系細胞と共培養を行い、これら3つの異なった細胞成分を最適な混合比率で培養を行うことにより、器官原基の創出に成功している(特許文献3)。さらにin vitroにおいて作製した生物学的組織に血管細胞及び間葉系細胞と共培養することにより血管系を付与することが可能である(特許文献4)。また、均一な大きさのスフェロイドを高効率に作製する技術も開発に成功している(特許文献5)。しかしながら、これらの従来技術では多能性幹細胞からなる細胞集合体の長期生着及び肝硬変治療効果は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5920741号
【文献】WO2013/069661
【文献】WO2013047639 A1
【文献】WO2015012158 A1
【文献】WO2014196204 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、線維化を伴う疾患の予防及び/又は治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これまで、本発明者らは、胎仔肝組織を肝硬変モデル動物の表面に移植する方法を開発した。さらに、胎仔肝組織の移植によって、肝組織の生着、肝機能改善、線維化改善、生存率の改善が認められた(再生医療学会2018)。胎仔肝組織は、多能性幹細胞より分化誘導した肝内胚葉細胞、間葉系幹細胞、血管内皮細胞の3種類の細胞集合体(肝芽)に類似した構造と考えられる。これらの基盤技術を用いて、多能性幹細胞より分化誘導した肝内胚葉細胞、間葉系幹細胞、血管内皮細胞の3種類の細胞集合体を肝硬変モデル動物に移植することにより、従来の技術では達成困難であった多能性幹細胞による肝線維化改善、生存率改善効果を認めた。線維化改善に主に寄与している細胞は、マイクロアレイ、シングルセルRNAシークエンス解析、免疫染色等の解析により、間葉系幹細胞と血管内皮細胞であることが判明した。また、両者を混合培養すると、それぞれ単独のときと比較して線維溶解因子(MMPs)が著明に高発現していた。また、線維化は肝臓内の星細胞がTGF beta刺激により活性化されて、星細胞がコラーゲンを産生することにより引き起こされる。2種細胞集合体では、TGF betaを阻害するdecorin等の因子が高発現していた。これらのことから、間葉系幹細胞と血管内皮細胞の2種類の細胞集合体の移植によっても、肝臓などの臓器や組織の線維化を改善できると考えられる。実際に、2種細胞集合体を肝硬変モデル動物に移植すると、肝線維化改善、生存率改善効果が認められた。
【0010】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体を含有する、臓器及び/又は組織の線維化を伴う疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
(2)細胞混合物及び/又は細胞集合体における間葉系細胞と血管細胞の比率が1~10:10~1である(1)記載の組成物。
(3)間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞集合体が間葉系細胞と血管細胞の共培養により作製されたものである(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)間葉系細胞が未分化である(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)血管細胞が血管内皮細胞である(1)~(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)間葉系細胞がES細胞又はiPS細胞に由来する(1)~(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)血管細胞がES細胞又はiPS細胞に由来する(1)~(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)細胞混合物及び/又は細胞集合体が、さらに肝細胞を含む(1)~(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)細胞混合物及び/又は細胞集合体における肝細胞と間葉系細胞と血管細胞の比率が10:0.1~10:0.1~10である(8)記載の組成物。
(10)肝細胞、間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞集合体が肝細胞、間葉系細胞と血管細胞の共培養により作製されたものである(8)又は(9)に記載の組成物。
(11)肝細胞が肝内胚葉細胞である(8)~(10)のいずれかに記載の組成物。
(12)肝細胞がES細胞又はiPS細胞に由来する(8)~(11)のいずれかに記載の組成物。
(13)線維化が生じている臓器及び/又は組織の表面に移植する(1)~(12)のいずれかに記載の組成物。
(14)間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体を含有する、臓器及び/又は組織の線維化抑制剤。
(15)細胞混合物及び/又は細胞集合体が、さらに肝細胞を含む(14)記載の剤。
(16)間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体を医薬的に有効な量で被験者に移植することを含む、臓器及び/又は組織の線維化を伴う疾患の予防及び/又は治療方法。
(17)細胞混合物及び/又は細胞集合体が、さらに肝細胞を含む(16)記載の方法。
(18)間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体を医薬的に有効な量で被験者に移植することを含む、臓器及び/又は組織の線維化を抑制する方法。
(19)細胞混合物及び/又は細胞集合体が、さらに肝細胞を含む(18)記載の方法。
(20)臓器及び/又は組織の線維化を伴う疾患の予防及び/又は治療のための、間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体の使用。
(21)細胞混合物及び/又は細胞集合体が、さらに肝細胞を含む(20)記載の使用。
(22)臓器及び/又は組織の線維化を伴う疾患の予防及び/又は治療方法に使用するための、間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体の使用。
(23)細胞混合物及び/又は細胞集合体が、さらに肝細胞を含む(22)記載の使用。
(24)臓器及び/又は組織の線維化を抑制するための、間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体の使用。
(25)細胞混合物及び/又は細胞集合体が、さらに肝細胞を含む(24)記載の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、肝臓などの臓器や組織の線維化を改善できる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2019‐1578の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】2種細胞/3種細胞集合体を表す。上図左:3種細胞集合体(肝芽)(肝内胚葉細胞:血管細胞:間葉系細胞=10:7:1)である。上図右:2種細胞集合体の画像(血管細胞:間葉系細胞=7:1、1:1、1:7)を表す。それぞれ同等の形態を認める。上段はマイクロパターンプレートを用いて作製したもの、下段はハイドロゲルを用いて作製したものである。血管細胞をクサビラオレンジで標識している。下図:融合型3種細胞集合体(肝内胚葉細胞:血管細胞:間葉系細胞=10:7:1, 10:7:7, 10:4:4, 10:2:2)。マイクロパターンプレートで作製した小型3種細胞集合体をセルカルチャーインサート上で融合させたものである(融合0日/9日)
図2】肝内胚葉細胞(分化段階別にDE, HE, IH, MH)、3種細胞集合体、2種細胞集合体、肝細胞(Liver)骨髄間葉系幹細胞の網羅的遺伝子解析を行ったところ、2種/3種細胞集合体ともMMP1, MMP2, MMP3, MMP7等の線溶系因子、decorin, TRAIL等のマトリクス産生抑制因子、MIF(マクロファージ分化誘導)等の発現が亢進していた。
図3】3種細胞集合体の培養上清のサイトカインアレイ解析を行ったところ、Emmprin (MMP誘導)、HGF (星細胞線維化抑制)、FGF19、MMP9、DKK1 (線維化抑制)、CXCL1 (M1マクロファージ誘導)、IL4(M2 マクロファージ誘導)、CCL20 (免疫細胞リクルート)、MIF (マクロファージ肝内リクルート)、GDF15 (免疫細胞機能阻害)等のサイトカインの産生が亢進していた。
図4】3種細胞集合体を構成する肝内胚葉細胞、血管細胞、間葉系細胞のシングルセルRNAシークエンス解析結果を示す。マウス胎仔肝臓構成細胞(ピンク)、3種細胞集合体構成細胞(赤)。HE:肝内胚葉細胞、EC:血管内皮細胞、MC:間葉系細胞。3種細胞集合体の構成細胞はマクロファージ誘導、M2マクロファージ分極化、細胞外マトリックス(ECM)分解・産生抑制、血管新生をそれぞれ発現しており、線維化改善に寄与している。
図5】融合型3種細胞集合体、2種細胞集合体を免疫不全マウス肝硬変モデルに移植して2週間後の sirius red染色による線維化の改善を表す。融合型3種細胞集合体、2種細胞集合体移植により、sirius red陽性領域の低下が認められた。
図6】3種細胞集合体、2種細胞集合体、融合型3種細胞集合体を免疫不全ラット肝硬変モデルに移植して3週間後の肝組織中のコラーゲン量の比較である。融合型3種細胞集合体は細胞の配合比率を(肝内胚葉細胞:血管細胞:間葉系細胞=10:7:1, 10:7:7, 10:4:4, 10:2:2)で比較検討している。肝臓を加水分解してヒドロキシプロリンを定量している。細胞集合体を移植した肝左葉のコラーゲン量を表す。*p<0.05,**p<0.01 vs 肝硬変群, One way ANOVA, n=7~18
図7】正常群、肝硬変群(sham手術群)、3種細胞集合体移植群の肝組織の3群のマイクロアレイデータを示す。3種細胞集合体移植により、移植群において線維化シグナチャーの低下と正常化シグナチャーの増加が認められた。
図8】融合型3種細胞集合体を免疫不全ラットおよびマウス肝硬変モデルに移植し、ラットは移植3週、マウスは移植10週後までの生存率を示す。左(ラット):融合型3種細胞集合体移植群はsham群および3種細胞集合体移植群と比較して有意に生存率が改善した。*p=0.0474, 右(マウス):融合型3種細胞集合体移植群はsham群および非手術群と比較して有意に生存率が改善した。*p=0.0013 Log rank test
図9】融合型3種細胞集合体を免疫不全ラット肝硬変モデルに移植し、移植3週間後の生着組織像を示す。ヒトアルブミン陽性の肝細胞、ヒトCD31陽性の血管様構造、ヒトCK19陽性の胆管構造を認める。
図10】融合型3種細胞集合体を免疫不全マウス肝硬変モデルに移植し、移植6週後のマクロファージ集積、MMP9集積像を示す。*p<0.05 vs sham群, Mann Whitney U test。
図11】2種/3種細胞集合体を免疫不全ラット肝硬変モデルに移植し、移植1~3週間後の血液生化学データを示す。移植によりヒアルロン酸,NH3,ALT,血小板の改善傾向が見られた。*p<0.05,**p<0.01 vs 肝硬変群, One way ANOVA, n=3~13
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体を含有する、臓器及び/又は組織の線維化を伴う疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物を提供する。本明細書において、「治療」とは、治癒だけでなく、症状の緩和や改善も含む概念である。
【0015】
細胞混合物及び/又は細胞集合体は、さらに、肝細胞を含んでもよい。
【0016】
本発明において「間葉系細胞」とは、主として中胚葉に由来する結合織に存在し、組織で機能する細胞の支持構造を形成する結合織細胞であり、間葉系細胞への分化運命が決定しているが、まだ間葉系細胞へ分化していない細胞も含む概念である。本発明において用いる間葉系細胞は、分化したものであっても、未分化なものであってもよい。ある細胞が未分化間葉系細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、Stro-1、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD133、CD271、Nestinが発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば未分化間葉系細胞であると判断できる。)。また、前項のマーカーのいずれも発現していない間葉系細胞は分化間葉系細胞と判断できる。当業者間で使用されている用語のうち、mesenchymal stem cells、mesenchymal progenitor cells、mesenchymal cells(R. Peters, et al. PLoS One. 30;5(12):e15689.(2010))などは本発明における間葉系細胞に含まれる。間葉系細胞は、iPS細胞やES細胞などの全能性あるいは多能性を有する細胞から分化誘導したものであってもよいし、骨髄、脂肪等の体細胞由来の細胞であってもよい。Cell Reports 21, 2661-2670, 2017には、iPS細胞から間葉系細胞を誘導する方法が記載されており、本発明では、この方法で作製した間葉系細胞を用いることができる。作製された間葉系細胞(iPSC-MC)は、CD166陽性であり血管内皮のマーカーであるCD31(PECAM1)を発現しない細胞でありうる。この細胞は、中隔膜間葉(STM)細胞であってもよい。STM細胞は、LHX2陽性であり、WT1陽性であるうる。間葉系細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)由来の細胞を用いてもよい。
【0017】
血管細胞は、臍帯静脈などの血管組織から分離することができるが、血管組織から分離された細胞に限定されることはなく、iPS細胞やES細胞などの全能性あるいは多能性を有する細胞から分化誘導されたものであってもよい。血管細胞としては、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞などを例示することができるが、血管内皮細胞が好ましく、臍帯静脈由来血管内皮細胞が市販されており、入手しやすい。本明細書において、「血管内皮細胞」とは、血管内皮を構成する細胞、又はそのような細胞に分化することのできる細胞(例えば、血管内皮前駆細胞、血管内皮幹細胞など)をいう。ある細胞が血管内皮細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、TIE2、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、CD31が発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば血管内皮細胞であると判断できる)。また、血管内皮前駆細胞のマーカーとしては、c-kit、Sca-1などが報告されており、これらのマーカーの発現により、血管内皮前駆細胞であることを確認しうる(S Fang,et al. PLOS Biology. 2012;10(10):e1001407.)。当業者間で使用されている用語のうち、endothelial cells、umbilical vein endothelial cells、endothelial progenitor cells、endothelial precursor cells、vasculogenic progenitors、hemangioblast(HJ. Joo, et al. Blood. 25;118(8):2094-104.(2011))などは本発明における血管内皮細胞に含まれる。本明細書において、「血管平滑筋細胞」とは、血管平滑筋を構成する細胞、又はそのような細胞に分化することのできる細胞(例えば、血管平滑筋前駆細胞、血管平滑筋幹細胞など)をいう。血管平滑筋細胞は市販のものを用いることが可能である。ある細胞が血管平滑筋細胞であるかどうかは、alpha SMA陽性、フォンビルブランド因子(vWF)、CD90等のマーカーにより判定することができる。Cell Reports 21, 2661-2670, 2017には、iPS細胞から血管細胞(血管内皮細胞)を誘導する方法が記載されており、本発明では、この方法で作製した血管細胞を用いることができる。作製された血管細胞(iPSC-EC)は、CD31陽性であり、CD144陽性でありうる。また、この血管細胞は、PECAM1、CDH5、KDR及びCD34からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子の発現が分化誘導前の多能性幹細胞より上昇しているとよい。血管細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)由来の血管細胞を用いてもよい。血管細胞は、臍帯血、臍帯血管、新生児組織、肝臓、大動脈、脳、骨髄、脂肪組織などから得られる。
【0018】
肝細胞は、肝臓を構成する機能細胞に分化した細胞、又は機能細胞へと分化できる未分化細胞を含む概念であり、未分化細胞には、幹細胞、前駆細胞、内胚葉細胞、器官芽細胞などが含まれる。未分化細胞は、機能細胞への分化運命が決定されているが、まだ機能細胞に分化していない細胞であることが好ましい。「未分化な肝細胞」としては、例えば、肝臓、膵臓、消化管(咽頭、食道、胃、腸管)、肺、甲状腺、副甲状腺、尿路、胸腺などの内胚葉性器官に分化可能な細胞などを挙げることができる。ある細胞が内胚葉性器官に分化可能な細胞であるかどうかは、マーカーとなるタンパク質の発現を調べることにより確認できる(マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば内胚葉性器官に分化可能な細胞であると判断できる。)。例えば、肝臓に分化可能な細胞では、HHEX、SOX2、HNF4A、AFP、 ALBなどがマーカーになり、膵臓に分化可能な細胞では、PDX1、SOX17、SOX9などがマーカーになり、腸管に分化可能な細胞では、CDX2、SOX9などがマーカーになり、腎臓に分化可能な細胞では、SIX2、SALL1、心臓に分化可能な細胞では、NKX2-5 MYH6、ACTN2、MYL7、HPPA、血液に分化可能な細胞では、C-KIT、SCA1、TER119、HOXB4、脳や脊髄に分化可能な細胞では、HNK1、AP2、NESTINなどがマーカーになる。当業者間で使用されている用語のうち、hepatoblast、hepatic progenitor cells、pancreatoblast、hepatic precursor cellsなどは本発明における未分化な肝細胞に含まれる。未分化肝細胞は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)などの多能性幹細胞から公知の方法に従って作製することができる。例えば、肝臓に分化可能な細胞は、K.Si-Taiyeb, et al. Hepatology, 51 (1): 297- 305(2010)、T. Touboul, et al. Hepatology. 51(5):1754-65.(2010)に従って作製することができる。肝臓を構成する機能細胞としては、肝臓の肝細胞などを例示できる。本発明において、肝細胞は、肝内胚葉細胞であることが好ましい。肝内胚葉細胞とは、未分化iPS細胞からSOX17, CXCR4陽性の胚体内胚葉細胞を分化誘導し、さらに分化誘導を1段階進めた細胞である。作製された肝内胚葉細胞HNF4A陽性、CXCR4陽性率が50%未満、Tra2-49/6E+の陽性率が10%未満でありうる。肝内胚葉細胞を更に分化誘導すると成熟肝細胞となり、ヒトアルブミンを分泌する。Cell Reports 21, 2661-2670, 2017には、iPS細胞から肝細胞(肝内胚葉細胞)を誘導する方法が記載されており、本発明では、この方法で作製した肝細胞を用いることができる。作製された肝細胞(iPSC-HE)は、TBX3陽性であり、ADRA1B陽性でありうる。肝細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物(例えば、実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)由来の細胞を用いてもよい。
【0019】
細胞混合物及び/又は細胞集合体における間葉系細胞と血管細胞の比率は、1~10:10~1であるとよい。間葉系細胞と血管細胞の比率(間葉系細胞:血管細胞)は、1:10と10:1の間で設定することが好ましいが、より好ましくは、1:1である。
【0020】
細胞混合物及び/又は細胞集合体における肝細胞と間葉系細胞と血管細胞の比率は、10:0.1~10:0.1~10であるとよい。肝細胞と間葉系細胞と血管細胞の比率は、肝細胞10に対して、間葉系細胞は1~7、血管細胞は1~7が好ましいが、より好ましくは、肝細胞:間葉系細胞:血管細胞=10:7:1である。
【0021】
間葉系細胞と血管細胞の2種類の細胞は、混合物の状態であっても、細胞集合体を形成している状態であってもよい。
【0022】
また、肝細胞、間葉系細胞と血管細胞の3種類の細胞は、混合物の状態であっても、細胞集合体を形成している状態であってもよい。
【0023】
本明細書において、「細胞集合体」とは、「細胞同士が接着し、三次元構造を形成しているもの」をいう。細胞集合体は、非破壊的に回収可能な程度の強度を有していることが好ましく、また、細胞同士の相互作用が可能であるものが好ましい。
【0024】
間葉系細胞及び血管細胞を含む細胞集合体は、間葉系細胞と血管細胞の共培養により作製することができる。また、肝細胞、間葉系細胞と血管細胞の3種類の細胞を含む細胞集合体は、肝細胞、間葉系細胞と血管細胞の共培養により作製することができる。
【0025】
例えば、ゲル状支持体上で間葉系細胞と血管細胞の混合物(さらに、肝細胞を含んでもよい)を二次元培養することにより細胞集合体を形成することができる。具体的には、細胞培養用の培養皿に、適切な硬さ(例えば、ヤング率200kPa以下(マトリゲルをコートした形状が平坦なゲルの場合など)であるが、支持体の適正な硬さはコーティングと形状によって変化しうる。)を有するゲル状基材で支持体を形成し、固層化する。そのような基材としては、ハイドロゲル(例えば、アクリルアミドゲル、ゼラチン、マトリゲルなど)などを例示することができるが、それらに限定されることはない。支持体の硬さは、好ましくは、100kPa以下、より好ましくは1~50kPaである。ゲル状支持体は、平面であってもよいし、ゲル状支持体の培養する側の断面がU又はV字の形状であってもよい。作製した支持体上にマトリゲルまたはラミニンを加えて修飾するとよい。コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール、フィブリン等を用いることも可能である。
【0026】
細胞集合体の作製には、マイクロパターンプレートを用いる事も可能である。例えば、WO2015/182159には、細胞培養用のマイクロパターンプレートが記載されており、これを用いることができる。
【0027】
他にも、コラーゲン/フィブロネクチンのゲル内で培養する方法(Transplant Proc. 2012 May;44(4):1130-3)、ハンギングドロップ法(Journal of Visualized Experiments, 2011, 51, 1-4)などの方法で、細胞集合体を作製してもよい。
【0028】
2種類の細胞の混合比率は、間葉系細胞1~10:血管内皮細胞10~1であるとよいが、この限りではない。3種類の細胞の混合比率は、肝細胞10:間葉系細胞0.1~10:血管内皮細胞0.1~10であるとよいが、この限りではない。培養期間は、1日~3日程度がよいが、適宜変更しうる。培地は、StemProTM-34 SFM (StemPro社)、Mesenchymal Stem Cell Growth Medium 2 (MSCGM2: PromoCell社)を1:1に混合し、VEGFを添加したものを用いるが、この限りではない。
【0029】
培養時の温度は特に限定されないが、30~40℃とするのが好ましく、37℃とするのが更に好ましい。
【0030】
さらに、細胞集合体同士を融合させてもよい。細胞塊を融合させる方法は公知であり、公知のいかなる細胞塊融合法を用いて細胞集合体同士を融合させてもよい。
【0031】
例えば、WO2019/189324には、細胞塊を細胞接着可能な面上に播種し、細胞塊を播種した面の表側及び裏側から培地を供給しながら培養することを含む、細胞塊融合法が開示されている。WO2019/189324の細胞塊融合法により、細胞集合体同士を融合させることができる。「細胞集合体同士の融合」とは、複数の細胞集合体が連続した構造体を形成することをいい、融合した細胞集合体は、内部が自己組織化して連結した血管構造を構築しうる。細胞集合体同士が融合することで、細胞集合体が大型化されるだけでなく、細胞集合体に血管網構造が形成されるようになったり、血管網構造がさらに発達したり、また、細胞集合体の機能が向上しうる。WO2019/189324の細胞塊融合法により、細胞集合体に血管網構造を構築できる。また、φ8 mm以上の融合型細胞集合体を作製することができる。播種面に対して細胞集合体が占める面積の比率が40~100%となるように細胞集合体を細胞接着可能な面上に播種するとよく、播種面に対して細胞集合体が占める面積の比率は、60~100%が好ましく、80~100%がより好ましい。播種面に対して細胞集合体が占める面積の比率は、細胞集合体の投射陰影面積を測定し、播種面の面積に対する比率を算出することにより得られる。細胞集合体の投射陰影面積は以下の方法により測定することができる。FIJI, ImageJ, Photoshopなどの画像解析ソフトにより細胞集合体の投射陰影面積を算出する。細胞集合体は高密度で細胞接着可能な面上に播種されうる。高密度とは、例えば、直径150 umの細胞集合体の場合に空間1 cm3当たりに存在する細胞集合体の数が、9.5 x 104 ~3.8 x 105個であるとよく、好ましくは、1.9 x 105~3.8 x 105個であり、より好ましくは、2.9 x 105~3.8 x 105個である。細胞集合体の数は、2個以上であるとよく、細胞集合体の数を増やせば、より大きな融合型細胞集合体を作製することができる。細胞集合体の大きさは、80~500μmが適当であり、100~250μmが好ましい。培地は、細胞集合体の培養に適したものであればよく、例えば、細胞集合体が肝芽である場合、EGM BulletKit(Lonza社製)とHCM BulletKit(Lonza社製)よりhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたものを1:1で混ぜたものに、Dexamethasone、Oncostatin M、HGFを添加した培地、EGM BulletKit(Lonza社製)とVascuLife EnGS Comp Kit(LCT社製)を1:1で混合した培地、EGM BulletKit(Lonza社製)とEndothelial Cell Growth Medium MV(社製)を1:1で混合した培地などの培地が好ましいが、これらに限定されるわけではない。
【0032】
細胞集合体を細胞接着可能な面上に播種し、細胞集合体を播種した面の表側及び裏側から培地を供給しながら培養することで、細胞集合体を融合させることができる。
細胞集合体の融合が細胞接着可能な面上で行われる場合、例えば、細胞接着可能な面が多孔性メンブレンの構造をとっていると、融合型の細胞集合体を上下から栄養供給可能な点や酸素供給の面で融合後の培養に有利であると考えられるが、この態様に限定されるわけではない。細胞接着可能な面としては、大気下コロナ放電や真空ガスプラズマ重合処理(細胞接着表面処理)などにより、マイナスにチャージし、親水性を持つようになったもの、表面がゼラチン処理されたもの、細胞外マトリクス(コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなど)やムコ多糖(ヘパリン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸など)でコーティングしたもの、塩基性合成ポリマー(ポリ-D-リシンなど)でコーティングしたもの、合成ナノファイバー表面を持つもの、親水性で中性なハイドロゲル層の表面を持つもの、コラーゲン膜(高研)などを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。細胞接着可能な面が多孔性メンブレンの構造をとっている場合、ポアサイズは、0.4~8 μmであるとよい。細胞接着可能な面を有する培養器材としては、Falcon セルカルチャープレート(Corning)、Falconマルチセルカルチャープレート(Corning)、Falconセルカルチャーインサート(Corning)などがあり、好適に使用することができる。培養は、回分培養、半回分培養(流加培養)、連続培養(灌流培養)のいずれの方法でもよい。また、静置培養、通気培養、攪拌培養、振盪培養、回転培養のいずれであってもよいが、静置培養が好ましい。
細胞集合体の融合のための培養温度は、特に限定されないが、25~37℃とするのが好ましい。
細胞集合体の融合のための培養期間は、特に限定されないが、1~10日とするのが好ましい。
【0033】
細胞集合体を融合させることにより、φ100μm以上、φ1mm以上、φ2mm以上、φ2.5mm以上、φ4mm以上、φ6mm以上、φ8mm以上の融合型細胞集合体を作製することができる。φ100μm以上、φ1mm以上、φ2mm以上、φ2.5mm以上、φ4mm以上、φ6mm以上、φ8mm以上の融合型細胞集合体は、それぞれ、大きさ80~150μm程度の細胞集合体2~4個、150~200個、300~400個、350~500個、600~800個、1200~1600個、2400~2800個から作製しうる。
融合型細胞集合体は、血管網構造を形成しうる。後述の実施例では、融合型3種細胞集合体に血管網構造が形成された。血管網構造としては、毛細血管、細小動静脈、類洞などが挙げられる。また、融合型3種細胞集合体は胆管構造を形成しうる。
融合型細胞集合体は、融合前の細胞集合体よりも機能が向上しうる。例えば、細胞集合体が肝芽である場合、融合型肝芽は、融合させる前の肝芽よりも、肝分化マーカー(例えば、FoxA2、AFP、CYP3A7、CYP7A1)の遺伝子発現レベルが上昇しうる。また、融合させる前の肝芽よりも肝機能が向上しうる。例えば、融合型肝芽は、融合させる前の肝芽よりも、肝分化マーカー(例えばALB, OTC, CYP3A7, GLUT2)の遺伝子発現レベル、アルブミン産生量・トランスフェリン産生量、アンモニア代謝量が上昇しうる。また、融合型細胞集合体を生体に移植した場合、融合させる前の細胞集合体よりも、生着率が向上しうる。さらに、融合型細胞集合体が血管網を有する場合、生体に移植した融合型細胞集合体の血管網はホスト血管との吻合及び血管灌流が観察されうる。
【0034】
間葉系細胞及び血管細胞(さらに、肝細胞を含んでもよい)を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体(融合型であっても、融合型でなくてもよい)を被験者に移植することにより、MMP1, 2, 9, 13等の線維溶解酵素(線溶系因子)、Emmprin (MMP誘導)、HGF (星細胞線維化抑制)、FGF19、MMP9、DKK1 (線維化抑制)、CXCL1 (M1マクロファージ誘導)、IL4(M2 マクロファージ誘導)、CCL20 (免疫細胞リクルート)、MIF (マクロファージ肝内リクルート)、GDF15 (免疫細胞機能阻害)等のサイトカイン発現が上昇して、臓器及び/又は組織の線維化を抑制することができ、臓器及び/又は組織の線維化を伴う疾患を予防及び/又は治療することができる。よって、本発明は、間葉系細胞及び血管細胞(さらに、肝細胞を含んでもよい)を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体(融合型であっても、融合型でなくてもよい)を含む、臓器及び/又は組織の線維化抑制剤も提供する。本発明の線維化抑制剤は、医薬として、あるいは実験用試薬として、使用しうる。また、本発明は、間葉系細胞及び血管細胞(さらに、肝細胞を含んでもよい)を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体(融合型であっても、融合型でなくてもよい)を医薬的に有効な量で被験者に移植することを含む、臓器及び/又は組織の線維化を抑制する方法も提供する。
【0035】
線維化は、皮膚、肺、膵臓、肝臓、腎臓などの生体の任意の器官で起こりえる。線維化を伴う疾患としては、肝硬変、非アルコール性脂肪性肝炎、アルコール性肝炎などの慢性肝炎、線維化を引き起こす腎障害(具体的には糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎)、肺障害(具体的には、特発性間質性肺炎、膠原病に伴う間質生肺炎、過敏性肺臓炎、薬剤性肺炎、放射性肺臓炎、acute respiratory distress syndrome (ARDS)等)、皮膚障害(強皮症、褥瘡、ケロイド等)を例示することができる。
【0036】
被験者には、ヒト及び非ヒト動物(実験動物、愛玩動物、使役動物、競走馬、闘犬などに利用される動物、具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、イヌ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ニワトリ、サメ、エイ、ギンザメ、サケ、エビ、カニなど)が含まれる。移植部位は、移植可能であればどの部位であってもよく、頭蓋内、腸間膜、肝臓、脾臓、腎臓、腎被膜下、門脈上などを例示することができるが、線維化が生じている臓器及び/又は組織の表面に移植することが好ましい。例えば、肝臓に移植する場合には、注射針、電気メス、超音波外科吸引装置などを用いて無血的かつ広範囲に肝漿膜を剥離し、剥離した肝臓表面に間葉系細胞と血管細胞(さらに、肝細胞を含んでもよい)を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体(融合型であっても、融合型でなくてもよい)を移植した後、臨床用外科被覆材により固定するとよい。同様の方法で肝臓以外の臓器や組織へも移植することができる。
【0037】
間葉系細胞及び血管細胞(さらに、肝細胞を含んでもよい)を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体(融合型であっても、融合型でなくてもよい)は、被験者の年齢、性別、体重、症状などを考慮して、予防及び/又は治療に有効な量で、被験者に移植(投与)されるとよい。例えば、1回の移植につき、間葉系細胞と血管細胞(さらに、肝細胞を含んでもよい)の数は、それぞれ、移植部位 10cm2あたり、108 ~ 109個であるとよく、1x109 ~ 2x109個が好ましく、2x109 ~ 3x109個がより好ましい。前記の細胞数は、被験者に投与するのが、細胞の混合物であるのか、細胞集合体であるのかを問わない。
【0038】
間葉系細胞及び血管細胞(さらに、肝細胞を含んでもよい)を含む細胞混合物及び/又は細胞集合体(融合型であっても、融合型でなくてもよい)の移植にあたっては、StemProTM-34 SFM、EGM、MSCGM2などの培地成分、インターシード、セプラフィルム等の外科用癒着防止剤、マトリゲル、コラーゲン、ラミニン等の基質、VEGF、FGF2、HGF、EGFなどの増殖因子、IL6、IL1betaなどのサイトカインなどを用いるとよい。よって、本発明の医薬組成物は、これらの材料を含んでもよい。
【実施例
【0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
・肝内胚葉細胞(HE)の調製
HEについてはヒトiPS細胞由来肝内胚葉細胞(Cell Reports 21, 2661-2670, 2017)、PXB細胞(フェニックスバイオ社)などを用いた。培地はGM BulletKit(Lonza社製)とHCM BulletKit(Lonza社製)よりhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたものとを1:1で混ぜたものに、Dexamethasone、Oncostatin Mを添加したものを用いた。
【0040】
・間葉系細胞(MC)の調製
MCについては、ヒト骨髄より分離した細胞 (Lonza, cat. No. PT-2501)他、ヒト臍帯間質(ワルトン鞘)より分離した細胞、ヒトiPS細胞由来間葉系細胞(Cell Reports 21, 2661-2670, 2017)などのいずれかを用いた。本実験で主として用いた、ヒト骨髄より分離した間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell: hMSC)は、hMSC培養に調製された専用の培地(MSCGM2TM (登録商標))(Promocell C-28009)を用いて培養した。
【0041】
・血管細胞(EC)の調製
ECについては、ヒトiPS細胞由来血管内皮細胞(Cell Reports 21, 2661-2670, 2017)、正常臍帯静脈内皮細胞(Normal Umbilical Vein Endothelial Cells: HUVEC)などのいずれかを用いた。HUVECは、説明と同意を取得した妊産婦の分娩時に提供を頂いた臍帯より分離した細胞、ないし購入した細胞(HUVECs (Lonza, cat. No. 191027)他をEGM(登録商標)Bulletkit(登録商標)(Lonza CC-4133)を用いて、5回以内の継代回数で培養した。
【0042】
・3種細胞集合体
マトリゲルコーティング(Corning(登録商標)Matrigel(登録商標)の原液、ないしマトリゲルと培地を1:1の割合で混合した溶液を1ウェル毎に300μlずつ入れ、37℃、5% CO2のインキュベーター内に10分以上静置し固めた)を行った、24ウェルプレートの1ウェルに細胞数として5x105 cellsのiPS細胞由来肝内胚葉細胞、ないしヒト成体肝細胞と、3.5x105 cellsのヒトiPS細胞由来血管細胞またはヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞、5x104 cellsのヒトiPS細胞由来間葉系細胞またはヒト間葉系細胞と混合後、37℃のインキュベーターで2日間培養した。播種後、実体顕微鏡を用いた細胞共培養の経時観察を実施した。図1に示すように細胞集合体が形成されることが示される。マイクロパターンプレートを用いて3種細胞集合体を作製することも可能である(図1)。またマイクロパターンプレートを用いて作製した3種細胞集合体をセルカルチャーインサート(Falcon(登録商標)Cell Culture Inserts)上で1~9日程度培養して融合型3種細胞集合体を作製することも可能である(図1)。
【0043】
・2種細胞集合体
マトリゲルコーティング(Corning(登録商標)Matrigel(登録商標)の原液、ないしマトリゲルと培地を1:1の割合で混合した溶液を1ウェル毎に300μlずつ入れ、37℃、5% CO2のインキュベーター内に10分以上静置し固めた)を行った、24ウェルプレートの1ウェルに細胞数として5x105 cellsのヒトiPS細胞由来間葉系細胞またはヒト間葉系細胞と、5x105 cellsのヒトiPS細胞由来血管細胞またはヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞と混合後37℃のインキュベーターで2日間培養した。播種後、実体顕微鏡を用いた細胞共培養の経時観察を実施した。図1に示すように3種細胞と同様に細胞集合体が形成されることが示される。マイクロパターンプレートを用いても細胞集合体が作製可能である(図1)。
【0044】
・2種細胞群の線維溶解遺伝子発現
ヒトiPSC由来肝内胚葉細胞(分化段階別にDE, HE, IH, MH), 3種細胞群, 2種細胞群, 肝細胞(Liver), 骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)、 ヒトiPSC由来血管細胞(EC)、ヒトiPSC由来間葉系細胞(MC)の網羅的遺伝子解析データを示す(図2)。
【0045】
DE, IH, MHは、Cell Reports 21, 2661-2670, 2017に記載の方法により作製した。
【0046】
網羅的遺伝子解析はAgilent社のSurePrint G3 Human GE Ver 2.0 (G4851B)を用いた。
【0047】
Relative mRNA expression Levelは、以下のようにして測定した。GeneSpring GXソフト上にアレイデータを取り込み、70%Shiftile法で正規化後、遺伝子毎に中央値補正を行った。得られた値をグラフ上にプロットした。
【0048】
・3種細胞集合体の特性解析
ヒトiPSC由来肝内胚葉細胞(分化段階別にDE, HE, IH, MH)、3種細胞集合体、肝細胞(Liver)の網羅的遺伝子解析(図2)および3種細胞集合体の培養上清のサイトカインアレイデータ(図3)、シングルセルRNAシークエンス解析(図4)を示す。
【0049】
サイトカインアレイはR&D社 Proteome Profiler Human XL Cytokine Array Kit (ARY022B)を用いた。シングルセルRNAシークエンス解析はFludigm社のC1 Systemを用いて細胞の単離およびRNAサンプル調製を行い、次世代シーケンサーを用いて解析を行った。
【0050】
・免疫不全マウス肝硬変モデル
免疫不全マウス(NOD/scid)に1週間に3回thioacetamide (WAKO, 以下TAA)を100mg/kg(body weight)の濃度で2週間腹腔内に注射し、免疫不全マウス肝硬変モデルを作製した。その後2種および3種細胞集合体を肝表面に移植し、次の日からTAAを2~10週間、肝硬変モデル作製時と同条件で投与した。移植から2週間経過した後、生着組織の組織学的解析と2種および3種細胞集合体による治療効果の検討を行った(図5, 7, 8, 10)。
・免疫不全ラット肝硬変モデル
免疫不全ラット(IL2rg KO)に1週間に3回N-Nitrosodimethylamin(DMN)(WAKO)を10 mg/kgの濃度で2週間腹腔内に注射し、免疫不全ラット肝硬変モデルを作製した。その後2種および3種細胞集合体を肝表面に移植し、次の日からDMNを1週間、肝硬変モデル作製時と同条件で投与した。移植から3週間経過した後、生着組織の組織学的解析と2種および3種細胞集合体による治療効果の検討を行った(図6, 8, 9, 11)。
【0051】
・sirius red染色(図5
免疫不全マウスの肝表面に2種および3種細胞集合体を移植し、2週間後に肝組織を摘出し、パラフィンブロックを作成した。パラフィンブロックよりパラフィン切片を薄切しキシレン10分、3回脱パラフィン処理を行い、下降エタノール系列 (50~100%)で浸水した。MilliQ水に置換し、1%シリウスレッド溶液 (武藤化学)を飽和ピクリン酸 (武藤化学)で0.03%に希釈し作製したSirius Red染色液で30分間染色した。洗浄後、上昇エタノール系列 (50~100%)で脱水し、キシレンで3分、3回透徹処理を行い、MOUNT-QUICK (大道産業株式会社)を滴下後、スライドガラス (MATSUNAMI)を被せて封入した。
【0052】
図5上図は3種細胞集合体、2種細胞集合体を免疫不全マウス肝硬変モデルに移植して2週間後の 肝組織のsirius red染色を表す。下図はsirius red陽性領域をImageJ(Rasband, W.S., ImageJ, U. S. National Institutes of Health, Bethesda, Maryland, USA, http://rsb.info.nih.gov/ij/, 1997-2012.)を用いて定量化した。3種細胞集合体、2種細胞集合体移植により、sirius red陽性領域の低下が認められた。
【0053】
・コラーゲン量(図6
サンプリングした臓器の一部をバイオマッシャーチューブ (ニッピ)に移し、組織重量4倍量の6N HCl (WAKO)を加え、ホモジナイズした。サンプルをスクリューキャップ付きチューブへと移し、サンプル4倍量の6N HClを加えた後、ヒーターへセットし96℃、12~15時間加水分解する。ヒーターから取り出し、室温にて冷却後、チューブを反転し内液を均一にし、15000rpm、5分遠心を行なった。サンプルを適量採取し、0.5倍量のH2Oを加えた。サンプル20 μLに対して作製しておいたChloramine T 試薬 (50% 2-プロパノール (WAKO)、Chloramine T 3H2O (SIGMA)、酢酸-クエン酸バッファーを混合したもの)を75 μL加えた後、混和した。次に、作製しておいたEhrlich’s 試薬 (2-プロパノール (WAKO)、Dimethylaminobenzaldehyde (SIGMA)、過塩素酸 (SIGMA)を混合したもの)を75 μL加え、60℃、10分インキュベートした後、560 nmの波長で吸光度を計測し、コラーゲン量(ヒドロキシプロリン量)を算出した。
【0054】
・マウス肝硬変モデル、3種細胞集合体移植群、正常マウス群の肝臓よりRNAを抽出し、網羅的遺伝子解析を行った(図7)。遺伝子の網羅的解析にはAgilent社Whole Mouse Genome Ver 2.0 4x44k (G4846A)を用いた。その後線維化関連因子を抽出した。
【0055】
・生着組織の組織学的解析
肝組織のパラフィンブロックよりパラフィン切片を薄切しキシレン10分、3回脱パラフィン処理を行い、下降エタノール系列 (50~100%)で浸水した。クエン酸bufferに浸した状態でオートクレーブ処理し抗原の賦活化を行った。Protein blockでブロッキング後一次抗体を一晩反応させた。0.05% PBS-Tweenで洗浄後二次抗体を1時間反応させDAB chromogen(DAKO)により発色させた。一次抗体は以下を使用した。抗ヒトアルブミン抗体(Sigma)、抗ヒトCD31抗体(Dako)、抗ヒトCk19抗体(Dako)。
【0056】
・血液生化学データ
肝硬変モデル動物から採取した血液を4000rpm、20分間遠心し、血清を回収した。回収した血清を富士ドライケムスライド (富士フィルム)を用いてAST (アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT (アラニンアミノトランスフェラーゼ)、NH3 (アンモニア)、ALB (アルブミン)、T-Bil (総ビリルビン)、D-Bil(直接ビリルビン)について解析を行った。測定にはDRI-CHEM 7000V (富士フィルム)を使用した。
【0057】
結果
結果を図1~11に示す。
【0058】
2種細胞/3種細胞集合体を表す(図1)。上図左:3種細胞集合体(肝芽)(肝内胚葉細胞:血管細胞:間葉系細胞=10:7:1)である。上図右:2種細胞集合体の画像(血管細胞:間葉系細胞=7:1、1:1、1:7)を表す。それぞれ同等の形態を認める。上段はマイクロパターンプレートを用いて作製したもの、下段はハイドロゲルを用いて作製したものである。血管細胞をクサビラオレンジで標識している。下図:融合型3種細胞集合体(肝内胚葉細胞:血管細胞:間葉系細胞=10:7:1, 10:7:7, 10:4:4, 10:2:2)。2種細胞群と3種細胞群のマイクロアレイ解析により、2種細胞群は線維溶解酵素、線維産生抑制遺伝子(TGF beta抑制因子)、線維溶解酵素をより発現する肝内マクロファージ誘導因子等の発現増強が認められた(図2)。3種細胞集合体の特性解析を行ったところ、MMP1, MMP9, MMP13, Emmprin他の線溶系因子、HGF (星細胞線維化抑制)、FGF19、MMP9、DKK1 (線維化抑制)、CXCL1 (M1マクロファージ誘導)、IL4(M2 マクロファージ誘導)、CCL20 (免疫細胞リクルート)、MIF (マクロファージ肝内リクルート)、GDF15 (免疫細胞機能阻害)等のサイトカインの産生が確認され(図3)、これらの因子の産生による線維化抑制効果が推察された。3種細胞集合体を構成する肝内胚葉細胞、血管細胞、間葉系細胞のシングルセルRNAシークエンス解析結果を示す(図4)。マウス胎仔肝臓構成細胞(ピンク)、3種細胞集合体構成細胞(赤)。HE:肝内胚葉細胞、EC:血管内皮細胞、MC:間葉系細胞。3種細胞集合体の構成細胞はマクロファージ誘導、M2マクロファージ分極化、細胞外マトリックス(ECM)分解・産生抑制、血管新生をそれぞれ発現しており、線維化改善に寄与している。
【0059】
図5は、3種細胞集合体、2種細胞集合体を免疫不全マウス肝硬変モデルに移植して2週間後の sirius red染色による線維化の改善を表す。3種細胞集合体、2種細胞集合体移植により、sirius red陽性領域の低下が認められた。
【0060】
図6は3種細胞集合体、2種細胞集合体、融合型3種細胞集合体を免疫不全ラット肝硬変モデルに移植して3週間後の肝組織中のコラーゲン量の比較である。融合型3種細胞集合体は細胞の配合比率を(肝内胚葉細胞:血管細胞:間葉系細胞=10:7:1, 10:7:7, 10:4:4, 10:2:2)で比較検討している。細胞集合体を移植した肝左葉のコラーゲン量を表す。融合型3種細胞集合体(10:4:4, 10:2:2)および2種細胞集合体において肝組織中のコラーゲン量の減少が認められた。
【0061】
正常群、肝硬変群(sham手術群)、3種細胞集合体移植群の肝組織の3群のマイクロアレイデータでは、3種細胞集合体移植により、移植群において線維化シグナチャーの低下と正常化シグナチャーの増加が認められた(図7)。
【0062】
図8は融合型3種細胞集合体を免疫不全ラットおよびマウス肝硬変モデルに移植した後の生存率である。ラットは移植3週、マウスは移植10週後までの生存率を示す。左(ラット):融合型3種細胞集合体移植群はsham群および3種細胞集合体移植群と比較して有意に生存率が改善した。右(マウス):融合型3種細胞集合体移植群はsham群および非手術群と比較して有意に生存率が改善した。
融合型3種細胞集合体を免疫不全ラット肝硬変モデルに移植して3週間後の生着組織像を詳細に検討すると、ヒトアルブミン陽性の肝細胞、ヒトCD31陽性の血管様構造、ヒトCK19陽性の胆管構造を認めた(図9)。図10は融合型3種細胞集合体を免疫不全マウス肝硬変モデルに移植し、移植6週後のマクロファージ集積、MMP9集積像を示した画像である。Sham群と比較して融合型3種細胞集合体は有意にマクロファージ集積、MMP9増加を認めた。図11は2種/3種細胞集合体を免疫不全ラット肝硬変モデルに移植し、移植1~3週間後の血液生化学データを示したものである。移植によりヒアルロン酸,NH3,ALT,血小板の改善傾向が見られた。
すなわち、本発明による、間葉系幹細胞および血管内皮細胞の2種並びに肝内胚葉細胞、間葉系細胞及び血管細胞の3種の細胞集合体は、肝組織内に長期間にわたって生着し、線維溶解酵素を生産し続けるため、肝線維化を効率的かつ効果的に抑制することが出来る。同様の効果が、間葉系幹細胞、血管内皮細胞の2種の細胞の混合物、肝内胚葉細胞、間葉系細胞及び血管細胞の3種の細胞の混合物でも期待できる。混合物を移植して、体内で結合することにより線維化が改善することが予想される。また、肝細胞のような臓器及び/又は組織の主要な細胞を含まない、間葉系細胞及び血管細胞の2種細胞集合体でも顕著な線維化改善効果が観られたことから、肝臓に限らず様々な臓器及び/又は組織の線維化を抑制することが期待できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、臓器及び/又は組織の線維化を伴う疾患の予防及び/又は治療に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11