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特許7386452光学素子の製造方法、及び光学素子製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】光学素子の製造方法、及び光学素子製造装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20231117BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20231117BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20231117BHJP
   B24B 13/00 20060101ALI20231117BHJP
   C03B 33/023 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
G02B3/00
C03C19/00 Z
B26F3/00 S
B24B13/00 A
C03B33/023
G02B3/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019209436
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021081604
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】519114890
【氏名又は名称】株式会社ロジストラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】栗田 光樹夫
(72)【発明者】
【氏名】荻野 司
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0043081(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0036338(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0305723(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0095022(US,A1)
【文献】特開2009-166136(JP,A)
【文献】米国特許第7118449(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00
C03C 19/00
B26F 3/00
B24B 13/00
C03B 33/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子の輪郭線に対応する切断位置で光学材料を切断することにより前記光学素子を製造する方法であって、
前記光学材料における前記切断位置よりも外側の領域において、前記切断位置よりも外側の位置と、前記光学材料の外周上の位置とを結ぶ線に沿って前記光学材料を切断することにより切り欠きを形成する切り欠き形成工程と、
前記切り欠き形成工程の後に前記光学材料を研磨する研磨工程と、
前記研磨工程の後に、前記切断位置で前記光学材料を切断する切断工程と、
を有し、
前記切り欠きは、前記光学材料の前記外周から内側に向けて形成された凹部である光学素子の製造方法。
【請求項2】
光学素子の輪郭線に対応する切断位置で光学材料を切断することにより前記光学素子を製造する方法であって、
前記光学材料における前記切断位置よりも外側の領域に、前記光学材料の外周に接する線と直交する方向に切り欠きを形成する切り欠き形成工程と、
前記切り欠き形成工程の後に前記光学材料を研磨する研磨工程と、
前記研磨工程の後に、前記切断位置で前記光学材料を切断する切断工程と、
を有し、
前記切り欠きは、前記光学材料の前記外周から内側に向けて形成された凹部である光学素子の製造方法。
【請求項3】
光学素子の輪郭線に対応する切断位置で光学材料を切断することにより前記光学素子を製造する方法であって、
前記光学材料における前記切断位置よりも外側の領域に、前記光学材料の中心点を通る直線に対して線対称となる複数の位置に複数の切り欠きを形成する切り欠き形成工程と、
前記切り欠き形成工程の後に前記光学材料を研磨する研磨工程と、
前記研磨工程の後に、前記切断位置で前記光学材料を切断する切断工程と、
を有し、
前記切り欠きは、前記光学材料の外周から内側に向けて形成された凹部である光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記切り欠き形成工程において複数の前記切り欠きを形成し、
前記研磨工程において、前記複数の切り欠きの間の領域を少なくとも1つの支持体で支持した状態で前記光学材料を研磨する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
光学素子の輪郭線に対応する切断位置で光学材料を切断することにより前記光学素子を製造するための光学素子製造装置であって、
前記光学材料における前記切断位置よりも外側の領域において、前記切断位置よりも外側の位置と、前記光学材料の外周上の位置とを結ぶ線に沿って前記光学材料を切断することにより前記光学材料に切り欠きを形成する切断部と、
前記光学材料における少なくとも前記切断位置の内側の領域を研磨する研磨部と、
を有し、
前記切り欠きは、前記光学材料の前記外周から内側に向けて形成された凹部である光学素子製造装置。
【請求項6】
光学素子の輪郭線に対応する切断位置で光学材料を切断することにより前記光学素子を製造するための光学素子製造装置であって、
前記光学材料における前記切断位置よりも外側の領域の一部を切断することにより、前記光学材料における前記光学材料の外周に接する線と直交する方向に切り欠きを形成する切断部と、
前記光学材料における少なくとも前記切断位置の内側の領域を研磨する研磨部と、
を有し、
前記切り欠きは、前記光学材料の前記外周から内側に向けて形成された凹部である光学素子製造装置。
【請求項7】
光学素子の輪郭線に対応する切断位置で光学材料を切断することにより前記光学素子を製造するための光学素子製造装置であって、
前記光学材料における前記切断位置よりも外側の領域の一部を切断することにより、前記光学材料における前記光学材料の中心点を通る直線に対して線対称となる複数の位置に複数の切り欠きを形成する切断部と、
前記光学材料における少なくとも前記切断位置の内側の領域を研磨する研磨部と、
を有し、
前記切り欠きは、前記光学材料の外周から内側に向けて形成された凹部である光学素子製造装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造方法、及び光学素子製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の望遠鏡には、高精度の非球面鏡が搭載されている。特許文献1には、非球面鏡の光学材料をリングの内側に収容した状態でリングに力を加えて非球面鏡の光学材料を変形させることにより非球面形状の鏡を成形する方法が開示されている。当該方法においては、非球面形状に変形させた後にリングに加えた力を解放し、その後、外周の近傍の微小領域を除去することにより所望の形状の非球面鏡が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-6693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
製造する光学素子よりも大きい光学材料を研磨した後に、光学素子の輪郭線に対応する切断位置において光学材料を切断することにより光学素子を製造する場合がある。この場合、この切断過程において、光学素子内部の残留応力の分布が変化するため、光学素子が反り、緩やかな形状誤差が発生する。残留応力は、光学材料の塊を鋳造し、冷却する際に光学材料における切断位置の外側の領域と切断位置の内側の領域とで温度が異なるために生じる。このような光学素子の変形を修正するために、切断後に再度高エネルギーのイオンガスを鏡面に照射する修正加工(IBF:Ion Beam Figuring)と再測定が必要となる。しかしながら、この切断後に行われる工程は大きな工数を要する作業になってしまうという問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、光学素子を製造する間の光学材料の変形を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、光学素子の輪郭線に対応する切断位置で光学材料を切断することにより前記光学素子を製造する方法であって、前記光学材料における前記切断位置よりも外側の領域に切り欠きを形成する切り欠き形成工程と、前記切り欠き形成工程の後に前記光学材料を研磨する研磨工程と、前記研磨工程の後に、前記切断位置で前記光学材料を切断する切断工程と、を有する光学素子の製造方法を提供する。
【0007】
また、前記切り欠き形成工程において、前記切断位置よりも外側の位置と、前記光学材料の外周上の位置とを結ぶ線に沿って前記光学材料を切断することにより前記切り欠きを形成してもよい。
【0008】
また、前記切り欠き形成工程において、前記光学材料の外周に接する線と直交する方向に前記切り欠きを形成してもよい。また、前記切り欠き形成工程において、前記光学材料の中心点を通る直線に対して線対称となる複数の位置に複数の前記切り欠きを形成してもよい。
【0009】
また、前記切り欠き形成工程において複数の前記切り欠きを形成し、前記研磨工程において、前記複数の切り欠きの間の領域を少なくとも1つの支持体で支持した状態で前記光学材料を研磨してもよい。
【0010】
本発明の第2の態様においては、光学素子の輪郭線に対応する切断位置で光学材料を切断することにより前記光学素子を製造するための光学素子製造装置であって、前記光学材料における前記切断位置よりも外側の領域の一部を切断することにより前記光学材料に切り欠きを形成する切断部と、前記光学材料における少なくとも前記切断位置の内側の領域を研磨する研磨部と、を有する光学素子製造装置を提供する。
【0011】
また、前記切断部は、研磨パッドにより前記光学材料が研磨された後に前記切断位置で前記光学材料を切断してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学素子を製造する間の光学材料の変形を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る光学素子の製造方法の概要を説明するための図である。
図2】切り欠きが形成されていない光学材料の形状を示す図である。
図3】切り欠きが形成されていない光学材料を研磨した後に切断位置の外側の領域を切除して光学素子を製造した場合の光学素子の断面形状を示す図である。
図4】光学素子製造装置Sの構成を模式的に示す図である。
図5】光学素子を製造する工程を示すフローチャートである。
図6】円形状の光学材料に切り欠きを形成することによる効果を説明するための図である。
図7】円形状でない光学材料に切り欠きを形成することによる効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[光学素子1の製造方法の概要]
図1は、本実施形態に係る光学素子1の製造方法Mの概要を説明するための図である。光学素子1は、例えば、表面が非球面状の非球面光学素子であり、大型望遠鏡で使用される鏡である。製造方法Mは、平坦面を有する光学材料2を研磨することにより、表面が非球面状の光学素子1を製造するための方法である。
【0015】
図1に示す光学材料2は直線状の辺と曲線状の辺を有する板であるが、光学材料2の形状は任意であり、多角形であってもよく円形であってもよい。光学材料2の大きさは任意であるが、例えば長い方の幅が1000mm以上であり、10mmから100mm程度の厚みを有する。光学材料2の材質は、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂又は金属である。
【0016】
図1に示すように、製造方法Mにおいては、製造する光学素子1よりも大きい光学材料2における光学素子1の輪郭線に対応する切断位置Cよりも外側の領域に切り欠き21を形成する。そして、光学材料2を研磨した後に、切断位置Cにおいて光学材料2を切断することにより光学素子1を製造する。詳細については後述するが、切り欠き21を形成することにより、光学材料2の内部に生じる残留応力が解放されるので、光学素子1を製造する間の光学材料2の変形を抑制することができる。
【0017】
なお、切断位置Cから光学材料2の外縁までの距離は、少なくとも研磨に用いる研磨パッドの半径以上である。切断位置Cから光学材料2の外縁までの距離が、研磨パッドの直径以上(すなわち半径の2倍以上)であることがさらに好ましい。研磨パッドの直径は、例えば100mmである。
【0018】
切断位置Cから光学材料2の外縁までの距離が研磨パッドの半径以上であることにより、切断位置Cの周辺位置においても、切断位置Cの内側と同等の条件で研磨されるので、光学素子1の全ての領域において十分な研磨精度を確保することができる。切断位置Cから光学材料2の外縁までの距離が研磨パッドの直径以上であることにより、切断位置Cの内側と同じ条件で研磨されるので、さらに研磨精度を高めることができる。
【0019】
[光学材料2の構造]
上述のとおり、光学材料2には、複数の切り欠き21が形成される。切り欠き21は、光学材料2における切断位置Cよりも外側の領域に形成される。具体的には、切り欠き21は、切断位置Cよりも外側の位置と、光学材料2の外周上の位置とを結ぶ線に沿う方向において延伸している。より具体的には、切り欠き21は、光学材料2の外周に接する線と直交する方向において延伸している。切り欠き21は、光学材料2の内部に生じる残留応力を解放するために形成されている。
【0020】
光学材料2の塊を鋳造し、冷却する際に光学材料2における切断位置Cの外側の領域と切断位置Cの内側の領域とで温度が異なるため、光学材料2の内部には残留応力が生じる。具体的には、光学材料2の塊を鋳造し、冷却して光学材料2の塊から光学材料2を切り出すと、冷却された光学材料2には、切断位置Cの内側の領域が収縮し、切断位置Cの外側の領域が切断位置Cの内側の領域を支えるような応力分布が生じる。このため、切り欠き21が形成されていない光学材料においては、残留応力に起因する変形が生じやすい。
【0021】
図2は、切り欠きが形成されていない光学材料9の形状を示す図である。図3は、切り欠きが形成されていない光学材料9を研磨した後に切断位置Dの外側の領域を切除して光学素子8を製造した場合の光学素子8の断面形状を示す図である。切り欠きが形成されていない光学材料9においては、光学材料9の切断位置Dの外側の領域を切断すると、支えを失った切断位置Dの内側の領域は中心に向かって収縮する。このとき、光学材料9がメニスカス(裏表両面が同じ形状)でない場合、光学素子8は面外に反る。図3に示すように、光学素子8の表面と裏面の対称性の悪い領域は切断後に300nm程度変形したことがわかる。
【0022】
これに対して、光学材料2に切り欠き21を形成することで、切り欠き21が形成された位置の近傍における切断位置Cの内側の領域では、内向きの応力が小さくなる。したがって、光学材料2が切り欠き21を有することで、光学材料2における残留応力が減少するので、切断位置Cの外側の領域を切断する前後での残留応力の差が小さくなる。その結果、切断位置Cの外側の領域を切断した後の光学材料2の変形を抑制することができる。
【0023】
切り欠き21は、光学材料2の中心点を通る直線に対して線対称となる複数の位置に形成されていることが望ましい。一例として、図1に示すように、切り欠き21は、光学材料2における4つの角、及び4つの辺の中点に形成されている。切り欠き21がこのように光学材料2の中心点を通る直線に対して線対称となる複数の位置に形成されていることで、残留応力が均等に解放されるので、光学材料2の全体の領域において変形を抑制することができる。
【0024】
[光学素子製造装置Sの構成]
図4は、光学素子製造装置Sの構成を模式的に示す図である。光学素子製造装置Sは、光学素子1の輪郭線に対応する切断位置Cで光学材料2を切断することにより光学素子1を製造するための装置である。図4(a)は、光学素子製造装置Sを側方から見た状態を示す図である。図4(b)は、光学素子製造装置Sに載置された光学材料2に切り欠き21が形成された状態を示す図である。
【0025】
光学素子製造装置Sは、土台10と、複数の内側支持体11(図4(b)においては黒丸で示している)と、複数の外側支持体12(図4(b)においては白丸で示している)と、研磨部としての研磨パッド13と、切断部14と、を有する。
【0026】
複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12は、土台10に固定されている。内側支持体11及び外側支持体12は弾性を有する物体であり、例えば、ばね、油圧シリンダー、空気シリンダー又は弾性樹脂を有する。図4(b)に示すように、外側の領域r2における複数の切り欠き21の間の領域には少なくとも1つの外側支持体12が設けられている。このように構成されていることで、複数の切り欠き21の間の領域が撓むことにより光学素子1になる領域r1に歪みが生じることを防げる。複数の切り欠き21の間の領域に複数の外側支持体12が設けられているとさらに望ましい。なお、外側支持体12が切り欠き21が形成された位置に重なって、1つの外側支持体12が、複数の切り欠き21の間の複数の領域を支持してもよい。
【0027】
内側支持体11及び外側支持体12は、支持位置(例えば長さ)と支持反力の大きさとを調整可能な物体であることが好ましい。それぞれの内側支持体11の弾性力は、複数の内側支持体11それぞれの支持位置に生じる支持反力が、光学素子1が望遠鏡に設置された状態でそれぞれの支持位置に生じる反力と等しくなるように設計されている。
【0028】
光学材料2を研磨する際には、光学素子1が望遠鏡に設置された状態に近い状態で光学材料2を支持しておくことが望ましい。具体的には、図4に示すように、複数の支持体で光学材料2を支持した状態で光学材料2を研磨する。具体的には、光学材料2における切断位置Cの内側の領域r1に設けられた複数の内側支持体11、及び切断位置Cの外側の領域r2に設けられた複数の外側支持体12で光学材料2を支持した状態で光学材料2を研磨する。図4に示す例においては、領域r1に10個の内側支持体11が設けられており、領域r2に12個の外側支持体12が設けられている。
【0029】
切断部14は、光学材料2における切断位置Cよりも外側の領域r2の一部を切断することにより光学材料2に切り欠き21を形成する装置であり、例えば、図4(a)の矢印で示す向きにウォータージェットを噴出する。切断部14は、研磨パッド13により光学材料2が研磨された後に切断位置Cで光学材料2を切断する。研磨パッド13は、光学材料2における少なくとも切断位置Cの内側の領域r1を研磨する。
【0030】
研磨パッド13は、光学材料2の表面を研磨する。切断位置Cの近傍が研磨パッド13の中央付近で研磨されるように、研磨パッド13の半径Rは、切断位置Cと外縁との距離の最小値Dよりも小さい。
【0031】
[光学素子1の製造方法の詳細説明]
図5は、光学素子1を製造する工程を示すフローチャートである。以下、図5を参照しながら、光学素子1の製造方法を詳細に説明する。
【0032】
図5に示すように、研磨工程を実行する前に支持位置決定工程を実行する(S1)。支持位置決定工程においては、切り欠き21が形成された光学材料2を複数の内側支持体11が支持している状態で複数の支持位置それぞれに生じる支持反力が、光学素子1が望遠鏡に設置された状態で複数の支持位置それぞれに生じる反力と等しくなる支持位置及び支持反力を決定するべく、支持位置を決定する。
【0033】
支持位置決定工程においては、例えば有限要素法を用いて、複数の支持位置と、複数の支持位置それぞれにおける支持反力(すなわち、内側支持体11及び外側支持体12の弾性力)とを決定する。支持位置は、例えば光学材料の重心位置に対する相対位置として表される。支持位置は、例えば固定した位置を原点として、固定した2点の位置を結ぶ線の方向を基準方向として、原点からの距離及び方向により表される。支持位置は、光学材料2の重心点からの距離及び方向により表されてもよい。
【0034】
一例として、まず、領域r1における内側支持体11の位置を決めた後に、領域r2における外側支持体12の位置を決定する。複数の外側支持体12のうち、少なくとも3つは、支持の高さが固定された固定点(図4に示す例における外側支持体12A、12B、12C)とする。固定点には、例えば金属のロッドが設けられる。固定点は、光学材料2におけるできるだけ外縁に近い位置に設けることが好ましい。
【0035】
領域r1における内側支持体11の位置を決める際には、完成状態の光学素子1(すなわち光学材料2から切断した後の鏡)を望遠鏡に搭載した時の自重による変形が十分に小さくなるように有限要素法を用いて解析する。内側支持体11の位置が決まると、有限要素法を用いた解析により、それぞれの内側支持体11の支持反力が算出される。
【0036】
領域r2における外側支持体12の位置を決める際には、内側支持体11の支持反力が定められた値になっている状態で領域r1の自重による変形が十分に小さくなるように有限要素法を用いて解析することにより、領域r2に複数の外側支持体12を追加する。外側支持体12の位置が決まると、有限要素法を用いた解析により、それぞれの外側支持体12の支持反力が算出される。
【0037】
支持位置及び支持反力を決定するために、製造しようとする光学素子1と同じ形状の光学素子が望遠鏡に設置された状態で測定された光学素子の複数の位置(以下、複数の測定位置という)における反力の大きさを示す測定データを取得してもよい。この場合、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を用いて光学材料2を支持した状態において、複数の測定位置における反力の大きさが、取得した測定データが示す値に等しくなるように、複数の内側支持体11の位置と弾性力、及び複数の外側支持体12の位置と弾性力を探索する。このようにして決定した弾性力を有する複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を準備し、決定した支持位置に複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を設置する。
【0038】
なお、複数の内側支持体11を設置する位置は、光学材料2を切断する前と後とで、複数の内側支持体11が光学材料2を支持する複数の位置それぞれに生じる支持反力の変化が相対的に小さくなる位置であることが好ましい。このような位置を特定するために、支持位置決定工程においては、図1(b)に示す切断前の状態において複数の内側支持体11と複数の外側支持体12とで光学材料2を支持している間における複数の支持位置それぞれに生じる支持反力と、図1(d)に示す切断後の状態における複数の支持位置それぞれに生じる支持反力とを比較する。
【0039】
そして、切断前の支持反力と切断後の支持反力との差が最小になるように、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を設置する位置を決定する。複数の内側支持体11に対応する複数の支持位置それぞれにおける支持反力の切断前後の差の平均値が最小になるように、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を設置する位置を決定してもよい。
【0040】
決定した支持位置に複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を設置した後に、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12で光学材料2を支持するように光学材料2を載置する載置工程を実行する(S2)。この際、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12の位置が光学材料2の中心線に対して左右対称になるように光学材料2を載置する。このように載置することで、高い精度で、予め決定した位置に光学材料2を載置しやすくなる。
【0041】
続いて、光学材料2における切断位置Cよりも外側の領域に切り欠き21を形成する切り欠き形成工程を実行する(S3)。具体的には、切り欠き形成工程においては、切断位置Cよりも外側の位置と、光学材料2の外周上の位置とを結ぶ線に沿って光学材料2を切断することにより切り欠き21を形成する。より具体的には、切り欠き形成工程においては、光学材料2の外周に接する線と直交する方向に切り欠き21を形成する。切り欠き形成工程においては、光学材料2の中心点を通る直線に対して線対称となる複数の位置に複数の切り欠き21を形成してもよい。光学材料2に切り欠き21を形成する方法は任意であるが、光学材料2における切り欠き21を形成する位置に加圧された水を噴射することにより光学材料2に切り欠き21を形成するウォータージェット法を用いることが好ましい。
【0042】
続いて、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12で光学材料2を支持した状態で研磨工程を実行する(S4)。研磨工程においては、複数の内側支持体11が光学材料2を支持している状態で複数の支持位置それぞれに生じる支持反力が、光学素子1が望遠鏡に設置された状態で複数の支持位置それぞれに生じる反力と等しくなるように複数の外側支持体12が光学材料2を支持する状態で光学材料2を研磨する。研磨工程において、複数の切り欠き21の間の領域を少なくとも1つの外側支持体12で支持した状態で光学材料2を研磨してもよい。また、研磨工程においては、光学材料2を切断する前と後とで、複数の内側支持体11が光学材料2を支持する複数の支持位置それぞれに生じる支持反力の変化が相対的に小さくなる位置において複数の外側支持体12が光学材料2を支持する状態で光学材料2を研磨してもよい。
【0043】
研磨工程においては、研磨パッド13を回転させながら光学材料2の全領域にわたって移動させる。研磨パッド13の半径Rは、切断位置Cと光学材料2の外縁との距離の最小値(例えば図4(b)に示すD)よりも小さい。したがって、研磨パッド13を光学材料2の外縁付近にまで移動することで、研磨パッド13の中心位置が切断位置Cの位置に接する状態で研磨することができるので、切断位置Cの付近においても切断位置Cの内側の領域r1と同等の条件で光学材料2を研磨することができる。
【0044】
研磨工程が終了すると、切断位置Cで光学材料2を切断する。必須ではないが、光学材料2を切断する前に、保護膜で光学材料2を覆う保護膜形成工程を実行することが好ましい(S5)。保護膜形成工程においては、例えばフッ素を含む保護剤をスプレーで光学材料2に塗布することにより、保護膜を形成する。光学材料2の表面を保護膜で覆うことで、切断工程において生じる粉末により光学材料2の表面に傷が生じることを予防することができる。
【0045】
続いて、切断位置Cにおいて光学材料2を切断する切断工程を実行する(S6)。光学材料2を切断する方法は任意であるが、光学材料2に加わるストレスを小さくするために、保護膜で覆われた状態の光学材料2における切断位置Cに加圧された水を噴射することにより光学材料2を切断するウォータージェット法を用いることが好ましい。
【0046】
切り欠き形成工程において、光学材料2に切り欠き21を形成することで、前述したように、光学素子1は、光学材料2における切断位置Cよりも外側の領域と共に収縮し、光学材料2は光学材料2内部の残留応力のほとんどを解放することができる。よって、切断位置Cにおいて光学材料2を切断する切断工程において、光学素子1内部の残留応力の分布が変化しづらくなるため、光学素子1は反りづらくなり、形状誤差が生じづらくなる。この結果、切断工程の後に、再度高エネルギーのイオンガスを鏡面に照射する修正加工(IBF)をすることなく高精度に面を形成して光学素子を製造することができる。
【0047】
[光学材料に切り欠きを形成することによる効果]
図6は、円形状の光学材料に切り欠きを形成することによる効果を説明するための図である。図6において、濃淡がひずみの大きさに対応しており、色がうすいほど、ひずみが大きく、色が濃いほど、ひずみが小さいことを示す。図6(a)は、比較例としての切り欠きが形成されていない円形状の光学材料におけるひずみの分布を示す図である。図6(b)は、実施例1としての6方向に切り欠きが形成されている円形状の光学材料におけるひずみの分布を示す図である。図6(c)は、実施例2としての4方向に切り欠きが形成されている円形状の光学材料におけるひずみの分布を示す図である。
【0048】
図6(a)に示すように、円形状の光学材料に切り欠きが形成されていない場合には、光学材料におけるひずみの分布は、ほぼ一様であることがわかる。すなわち、光学材料には、応力勾配が生じていることがわかる。これに対して、図6(b)及び図6(c)に示すように、切り欠きが形成されている円形状の光学材料の外周部におけるひずみは、図6(a)で示す切り欠きが形成されていない円形状の光学材料の外周部におけるひずみと比べて小さいことがわかる。また、切り欠きを直線で結んだ線を境界に応力が解放された様子がわかる。
【0049】
図7は、円形状でない光学材料2に切り欠きを形成することによる効果を示す図である。図7(a)は、実施例3としての4つの辺の中点のみに切り欠きが形成されている光学材料におけるひずみの分布を示す図である。図7(b)は、実施例4としての4つの角及び4つの辺の中点に切り欠き21が形成されている光学材料2におけるひずみの分布を示す図である。
【0050】
図7(a)及び図7(b)に示すように、光学材料2に切り欠き21を形成することで、光学材料2における切断位置Cの外側の領域には、ひずみがほとんどないことがわかる。図7(a)と図7(b)とを比べると、ひずみの状態には大きな差がない。このことから、光学材料2の中心に近い辺に切り欠き21を形成する方が、光学材料2の中心から遠い辺に切り欠き21を形成するよりも大きな効果を得られることがわかる。
【0051】
[製造方法Mによる効果]
以上説明したように、製造方法Mにおいては、切り欠き形成工程において、光学材料2における切断位置Cよりも外側の領域に切り欠き21を形成する。その後、研磨工程において、光学材料2を研磨する。その後、切断位置Cで光学材料2を切断することにより光学素子1を製造する。
【0052】
このようにすることで、切り欠き形成工程において、光学材料2に切り欠き21を形成することで、光学素子1は、光学材料2における切断位置Cよりも外側の領域と共に収縮し、光学材料2は光学材料2内部の残留応力のほとんどを解放することができる。よって、切断位置Cにおいて光学材料2を切断する切断工程において、光学素子1内部の残留応力の分布が変化しづらくなるため、光学素子1を製造する間の光学材料2の変形を抑制できる。その結果、光学素子1は反りづらくなり、形状誤差が生じづらくなる。
【0053】
したがって、製造方法Mを用いて光学素子1を製造することにより、切断後に修正をすることなく高精度に面を形成して光学素子1を製造することができる。具体的には、製造方法Mを用いて光学素子1を製造することにより、切断工程の後に、再度高エネルギーのイオンガスを鏡面に照射する修正加工(IBF)をすることなく高精度に面を形成して光学素子1を製造することができる。その結果、製造方法Mによれば、質が高い光学素子1を低コストで製造することが可能になる。なお、以上の説明においては、非球面を有する光学素子1を製造する場合を例示したが、球面を有する光学素子の製造に製造方法Mを適用してもよい。
【0054】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0055】
1 光学素子
2 光学材料
21 切り欠き
S 光学素子製造装置
10 土台
11 内側支持体
12 外側支持体
13 研磨パッド
14 切断部
8 光学素子
9 光学材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7