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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】画像記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
B41J2/01 205
B41J2/01 207
B41J2/01 213
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019059751
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020157608
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】荒金 覚
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-246842(JP,A)
【文献】特開2015-199253(JP,A)
【文献】特開2010-89376(JP,A)
【文献】特開2009-160833(JP,A)
【文献】特開2017-71067(JP,A)
【文献】特開平11-129472(JP,A)
【文献】特開2015-212031(JP,A)
【文献】特開2014-692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体を搬送方向に搬送する搬送部と、
前記搬送方向に配列された複数のノズルを有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に移動するキャリッジと、
前記複数のノズルの少なくとも一部について、異常が生じた異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力する信号出力部と、
前記複数のノズルから前記記録ヘッド内のインクを排出する排出動作を行う排出手段と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記信号出力部からの信号に基づいて、前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあるか否かを判定し、
前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、前記複数のノズルから被記録媒体に液体を吐出させる記録パスと、前記搬送部に被記録媒体を前記搬送方向へ搬送させる搬送動作と、を交互に行わせることによって、被記録媒体への画像の記録を行わせ、
連続する複数の前記記録パスで画像が記録される被記録媒体上の記録領域同士が部分的に重なるように、前記搬送動作で被記録媒体を搬送し、且つ、前記記録領域同士が重なる重複領域の前記走査方向の1ライン分のライン画像を、前記連続する複数の前記記録パスの各々において、異なる前記ノズルを使用し、マスクデータに基づいて前記ライン画像の異なる一部分を間引いた間引き画像を記録する、マルチパス記録モードで画像の記録を行わせることが可能であり、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
前記連続する複数の前記記録パスにおいて、前記マスクデータとしての第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引き、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルであると判定し、且つ、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引くと、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての、前記ライン画像全体のドット数に対する前記間引き画像で記録されるドット数の割合であるドット記録率が、閾値以上となる場合には、
前記連続する複数の前記記録パスにおいて、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引く代わりに、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となる、前記マスクデータとしての第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引き、
前記第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引く場合には、
前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、被記録媒体への画像の記録を行わせ、
画像の記録の完了後、所定時間が経過するまでに、記録指令が入力されなかった場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせ、
画像の記録の完了後、前記所定時間が経過するまでに、前記マルチパス記録モードでの画像の記録を指示する記録指令が入力された場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、当該記録指令に基づいて被記録媒体への画像の記録を行わせることを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
被記録媒体を搬送方向に搬送する搬送部と、
前記搬送方向に配列された複数のノズルを有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に移動するキャリッジと、
前記複数のノズルの少なくとも一部について、異常が生じた異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力する信号出力部と、
前記複数のノズルから前記記録ヘッド内のインクを排出する排出動作を行う排出手段と、
複数種類のマスクデータを記憶する記憶部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記信号出力部からの信号に基づいて、前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあるか否かを判定し、
前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、前記複数のノズルから被記録媒体に液体を吐出させる記録パスと、前記搬送部に被記録媒体を前記搬送方向へ搬送させる搬送動作と、を交互に行わせることによって、被記録媒体への画像の記録を行わせ、
連続する複数の前記記録パスで画像が記録される被記録媒体上の記録領域同士が部分的に重なるように、前記搬送動作で被記録媒体を搬送し、且つ、前記記録領域同士が重なる重複領域の前記走査方向の1ライン分のライン画像を、前記連続する複数の前記記録パスの各々において、異なる前記ノズルを使用し、前記マスクデータに基づいて前記ライン画像の異なる一部分を間引いた間引き画像を記録する、マルチパス記録モードで画像の記録を行わせることが可能であり、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
前記連続する複数の前記記録パスにおいて、前記複数種類のマスクデータのうちのいずれかである第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引き、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルであると判定し、且つ、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引くと、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての、前記ライン画像全体のドット数に対する前記間引き画像で記録されるドット数の割合であるドット記録率が、閾値以上となる場合には、
前記連続する複数の前記記録パスにおいて、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引く代わりに、前記複数種類のマスクデータのうち、前記第1マスクデータ以外の前記マスクデータであって、全ての異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となる第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引き、
前記第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引く場合には、
前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、被記録媒体への画像の記録を行わせ、
画像の記録の完了後、所定時間が経過するまでに、記録指令が入力されなかった場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせ、
画像の記録の完了後、前記所定時間が経過するまでに、前記マルチパス記録モードでの画像の記録を指示する記録指令が入力された場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、当該記録指令に基づいて被記録媒体への画像の記録を行わせ、
前記複数種類のマスクデータの中に、全ての前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となるマスクデータがない場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせてから、画像の記録を行わせることを特徴とする画像記録装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
1つの被記録媒体への画像の記録を行うための全ての前記記録パスにおいて、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引き、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルであると判定し、且つ、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引くと、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が、前記閾値以上となる場合には、
1つの被記録媒体への画像の記録を行うための全ての前記記録パスにおいて、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引く代わりに、前記第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引くことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記信号出力部は、少なくともインクが吐出されないノズルについて、前記異常ノズルであることを示す信号を出力することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあると判定し、且つ、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引くと、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値以上となる場合に、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがないと判定した場合と同じ回数の前記連続する前記パス記録によって前記ライン画像を記録させ、
前記第2マスクデータは、前記第1マスクデータよりも、前記異常ノズルと同じライン画像の記録に使用され且つ前記異常ノズルではない前記ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が高くなるマスクデータであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
連続する2回の前記パス記録によって、前記ライン画像を記録し、
Nを自然数とし、
前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引いたときの、前記搬送方向の上流側からN番目のノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率をR1N[%]とし、
前記第2マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引いたときの、前記搬送方向の上流側からN番目のノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率をR2N[%]としたときに、
R2N[%]=(100-R1N)[%]の関係が成立することを特徴とする請求項5に記載の画像記録装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあると判定し、且つ、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引くと、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値以上となる場合に、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがないと判定した場合よりも、前記ライン画像を記録する前記連続する前記パス記録の回数を多くし、
前記第2マスクデータは、前記第1マスクデータよりも、前記複数のノズルの各々によって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率の平均値が低くなるマスクデータであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項8】
複数種類の前記マスクデータを記憶する記憶部、を備え、
前記制御部は、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあると判定し、且つ、前記複数種類のマスクデータのうちのいずれかである前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引くと、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値以上となる場合に、
前記複数種類のマスクデータのうち、前記第1マスクデータ以外の前記マスクデータであって、全ての異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となる前記マスクデータを、前記第2マスクデータに設定することを特徴とする請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項9】
前記複数のノズルから前記記録ヘッド内のインクを排出する排出動作を行う排出手段、を備え、
前記制御部は、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
前記第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引く場合には、
前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、被記録媒体への画像の記録を行わせることを特徴とする請求項2のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項10】
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあると判定した場合には、
前記異常ノズルの前記搬送方向の位置に基づいて前記第2マスクデータを生成し、
全ての前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となる前記第2マスクデータを生成できない場合には、
前記排出手段に前記排出動作を行わせてから、画像の記録を行わせることを特徴とする請求項1又は9に記載の画像記録装置。
【請求項11】
前記複数のノズルから前記記録ヘッド内のインクを排出する排出動作を行う排出手段、を備え、
前記制御部は、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
前記第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引く場合には、
前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、被記録媒体への画像の記録を行わせ、
前記複数種類のマスクデータの中に、全ての前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となるマスクデータがない場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせてから、画像の記録を行わせることを特徴とする請求項8に記載の画像記録装置。
【請求項12】
前記制御部は、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあると判定した場合に、
前記信号出力部からの信号に基づいて前記異常ノズルの数の情報を取得し、
前記異常ノズルの数が所定値を超えている場合には、前記排出動作を行わせずに画像の記録を行わせる他の条件を満たしていたとしても、前記排出手段に前記排出動作を行わせてから、画像の記録を行わせることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項13】
前記複数のノズルが所定長さにわたって前記搬送方向に配列され、
前記制御部は、
前記マルチパス記録モードと、前記搬送動作で被記録媒体を前記所定長さ搬送し、前記ライン画像を1回の前記記録パスだけで記録するシングルパス記録モードとのうち、いずれかで選択的に画像の記録を行わせることが可能であり、
前記シングルパス記録モードで画像の記録を行わせるときには、前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあると判定した場合に、前記排出手段に前記排出動作を行わせてから、被記録媒体への画像の記録を行わせることを特徴とする請求項1~12のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項14】
前記制御部は、
前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、
前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあると判定しても、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引くと、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となる場合には、
前記連続する複数の前記記録パスにおいて、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引き、
前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、被記録媒体への画像の記録を行わせることを特徴とする請求項1~13のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項15】
前記排出手段は、
前記ノズルを覆うキャップと、
前記キャップに接続された吸引ポンプと、を備えていることを特徴とする請求項1~14のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項16】
前記排出手段は、前記記録ヘッド内のインクを加圧する加圧ポンプ、を備えていることを特徴とする請求項1~15のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項17】
前記記録ヘッドは、
前記ノズルに連通する圧力室と、
前記圧力室内のインクに圧力を付与する駆動素子と、を有し、
前記排出手段が、前記駆動素子を有することを特徴とする請求項1~14のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項18】
前記複数のノズルは、
第1インクを吐出する複数の第1ノズルと、
前記第1インクよりも薄い色の第2インクを吐出する複数の第2ノズルと、を含み、
前記制御部は、
前記異常ノズルが前記第1ノズルである場合には、前記閾値を第1閾値に設定し、
前記異常ノズルが前記第2ノズルである場合には、前記閾値を前記第1閾値よりも大きい第2閾値に設定することを特徴とする請求項1~17のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項19】
前記第2インクがイエローインクであり、
前記第1インクが、イエローインク以外の色のインクであることを特徴とする請求項18に記載の画像記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルからインクを吐出して画像を記録する画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインクを吐出して画像を記録する画像記録装置の例として、特許文献1,2には、ノズルからインクを吐出して記録を行うプリンタが記載されている。
【0003】
特許文献1のプリンタでは、ノズル毎に吐出状態をチェックし、そのチェック結果が条件を満たした場合にメンテナンス動作を行う。
【0004】
特許文献2のプリンタでは、印刷ヘッドを主走査方向に移動させつつ、印刷ヘッドから用紙にインクを吐出する記録パスと、搬送機構を用いて用紙を搬送方向に搬送する搬送処理とを繰り返して印刷を行う。また、特許文献2では、用紙の、連続する2回の記録パスで画像が記録される2つのバンド領域が部分的に重なるようにし、上記2回の記録パスの各々において、2つのバンド領域が重複する部分領域に形成されるドットの異なる一部分を印刷する、いわゆるマルチパス記録を行う。そして、特許文献2のプリンタでは、このような印刷を行うために、ノズル毎にドット記録率を設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-177423号公報
【文献】特開2016-153182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、例えば、特許文献1に記載のように、画像の記録指令が入力されたときに、ノズル毎に吐出状態をチェックし、上記条件を満たしていないときには、メンテナンス動作を行わずに、そのまま記録を行い、上記条件を満たしたときにはメンテナンス動作を行ってから記録を行うことが考えられる。特許文献2に記載されているようなマルチパス記録を行う場合において、上述したように、上記条件を満たしたときに、一律にメンテナンス動作を行ってから記録を行うようにすると、記録指令が入力されてから画像の記録が完了するまでの時間が長くなってしまう。一方で、上記条件を満たしたときに、メンテナンス動作を行わずに、そのまま記録を行うと、記録される画像の画質が低下してしまう可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、記録指令が入力されてから画像の記録が完了するまでの時間を極力短くしつつも、記録される画像の画質を確保することが可能な画像記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の画像記録装置は、被記録媒体を搬送方向に搬送する搬送部と、前記搬送方向に配列された複数のノズルを有する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に移動するキャリッジと、前記複数のノズルの少なくとも一部について、異常が生じた異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力する信号出力部と、前記複数のノズルから前記記録ヘッド内のインクを排出する排出動作を行う排出手段と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記信号出力部からの信号に基づいて、前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあるか否かを判定し、前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、前記複数のノズルから被記録媒体に液体を吐出させる記録パスと、前記搬送部に被記録媒体を前記搬送方向へ搬送させる搬送動作と、を交互に行わせることによって、被記録媒体への画像の記録を行わせ、連続する複数の前記記録パスで画像が記録される被記録媒体上の記録領域同士が部分的に重なるように、前記搬送動作で被記録媒体を搬送し、且つ、前記記録領域同士が重なる重複領域の前記走査方向の1ライン分のライン画像を、前記連続する複数の前記記録パスの各々において、異なる前記ノズルを使用し、マスクデータに基づいて前記ライン画像の異なる一部分を間引いた間引き画像を記録する、マルチパス記録モードで画像の記録を行わせることが可能であり、前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、前記連続する複数の前記記録パスにおいて、前記マスクデータとしての第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引き、前記複数のノズルの中に前記異常ノズルであると判定し、且つ、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引くと、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての、前記ライン画像全体のドット数に対する前記間引き画像で記録されるドット数の割合であるドット記録率が、閾値以上となる場合には、前記連続する複数の前記記録パスにおいて、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引く代わりに、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となる、前記マスクデータとしての第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引き、前記第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引く場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、被記録媒体への画像の記録を行わせ、画像の記録の完了後、所定時間が経過するまでに、記録指令が入力されなかった場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせ、画像の記録の完了後、前記所定時間が経過するまでに、前記マルチパス記録モードでの画像の記録を指示する記録指令が入力された場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、当該記録指令に基づいて被記録媒体への画像の記録を行わせる。
また、本発明の画像記録装置は、被記録媒体を搬送方向に搬送する搬送部と、前記搬送方向に配列された複数のノズルを有する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを搭載し、前記搬送方向と交差する走査方向に移動するキャリッジと、前記複数のノズルの少なくとも一部について、異常が生じた異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力する信号出力部と、前記複数のノズルから前記記録ヘッド内のインクを排出する排出動作を行う排出手段と、複数種類のマスクデータを記憶する記憶部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記信号出力部からの信号に基づいて、前記複数のノズルの中に前記異常ノズルがあるか否かを判定し、前記キャリッジを前記走査方向に移動させつつ、前記複数のノズルから被記録媒体に液体を吐出させる記録パスと、前記搬送部に被記録媒体を前記搬送方向へ搬送させる搬送動作と、を交互に行わせることによって、被記録媒体への画像の記録を行わせ、連続する複数の前記記録パスで画像が記録される被記録媒体上の記録領域同士が部分的に重なるように、前記搬送動作で被記録媒体を搬送し、且つ、前記記録領域同士が重なる重複領域の前記走査方向の1ライン分のライン画像を、前記連続する複数の前記記録パスの各々において、異なる前記ノズルを使用し、前記マスクデータに基づいて前記ライン画像の異なる一部分を間引いた間引き画像を記録する、マルチパス記録モードで画像の記録を行わせることが可能であり、前記マルチパス記録モードで画像の記録を行わせるときに、前記連続する複数の前記記録パスにおいて、前記複数種類のマスクデータのうちのいずれかである第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引き、前記複数のノズルの中に前記異常ノズルであると判定し、且つ、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引くと、前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての、前記ライン画像全体のドット数に対する前記間引き画像で記録されるドット数の割合であるドット記録率が、閾値以上となる場合には、前記連続する複数の前記記録パスにおいて、前記第1マスクデータに基づいて前記ライン画像の一部分を間引く代わりに、前記複数種類のマスクデータのうち、前記第1マスクデータ以外の前記マスクデータであって、全ての異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となる第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引き、前記第2マスクデータに基づいて、前記ライン画像の一部分を間引く場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、被記録媒体への画像の記録を行わせ、画像の記録の完了後、所定時間が経過するまでに、記録指令が入力されなかった場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせ、画像の記録の完了後、前記所定時間が経過するまでに、前記マルチパス記録モードでの画像の記録を指示する記録指令が入力された場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせずに、当該記録指令に基づいて被記録媒体への画像の記録を行わせ、前記複数種類のマスクデータの中に、全ての前記異常ノズルによって記録される前記間引き画像についての前記ドット記録率が前記閾値未満となるマスクデータがない場合には、前記排出手段に前記排出動作を行わせてから、画像の記録を行わせる。
【発明の効果】
【0009】
異常ノズルについてのドット記録率が高い場合、排出動作を行わずに画像の記録を行うと、記録される画像の画質が低下してしまう。これに対して、異常ノズルについてのドット記録率が低い場合には、排出動作を行わずに画像の記録を行っても、記録される画像の画質はそれほど大きく低下することはない。
【0010】
そこで、本発明では、マルチパス記録モードで記録を行うときに、第1マスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引く。一方で、異常ノズルが存在し、且つ、第1マスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引くと、異常ノズルについてのドット記録率が閾値以上となる場合には、第1マスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引く代わりに、異常ノズルについてのドット記録率が閾値未満となる第2マスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引く。これにより、ノズルから記録ヘッド内のインクを排出させる排出動作を行わずに画像の記録を行うことで、記録指令が入力されてから画像の記録が完了するまでの時間を短縮しつつ、記録される画像の画質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るプリンタの概略構成図である。
図2図1のインクジェットヘッドの平面図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4】キャップ内に配置された検出用電極、及び、検出用電極と高電圧電源回路及び判定回路との接続関係を説明するための図である。
図5】(a)はノズルからインクが吐出された場合の検出用電極の電圧値の変化を示す図であり、(b)はノズルからインクが吐出されなかった場合の検出用電極の電圧値の変化を示す図である。
図6】プリンタの電気的構成を示すブロック図である。
図7】(a)がシングルパス記録モードで記録を行うときの、連続する2回の記録パスで画像が記録される、記録用紙の2つの記録領域の位置関係を示す図であり、(b)がマルチパス記録モードで記録を行うときの連続する2回の記録パスで画像が記録される、記録用紙の2つの記録領域の位置関係を示す図である。
図8】(a)が第1マスクデータを説明するための図であり、(b)が第2マスクデータを説明するための図である。
図9】(a)が第1マスクデータにおけるノズル毎のドット記録率を説明するための図であり、(b)が第2マスクデータにおけるノズル毎のドット記録率を説明するための図である。
図10】記録時の処理の流れを示すフローチャートである。
図11】(a)が図10のマスクデータ設定処理の流れを示すフローチャートであり、(b)が図10の記録処理の流れを示すフローチャートである。
図12】変形例1におけるマスクデータ設定処理の流れを示すフローチャートである。
図13】変形例2における第2マスクデータにおけるノズル毎のドット記録率を説明するための図である。
図14】変形例2におけるマスクデータ設定処理の流れを示すフローチャートである。
図15】変形例3の異常ノズルがどの色のインクを吐出するインクであるかと、ドット記録率と比較される閾値との関係を説明するための図である。
図16】変形例4の図1相当の図である。
図17】変形例5の図10相当のフローチャートである。
図18】変形例5のマスクデータ設定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0013】
<プリンタ全体の構成>
図1に示すように、本実施形態に係るプリンタ1(本発明の「画像記録装置」)は、キャリッジ2、サブタンク3、インクジェットヘッド4(本発明の「記録ヘッド」)、プラテン5、搬送ローラ6,7(本発明の「搬送部」)、メンテナンスユニット8などを備えている。
【0014】
キャリッジ2は、走査方向に延びた2本のガイドレール11,12に支持されている。キャリッジ2は、図示しないベルトなどを介してキャリッジモータ86(図6参照)に接続されており、キャリッジモータ86を駆動させると、キャリッジ2がガイドレール11,12に沿って走査方向に移動する。なお、以下では、図1に示すように、走査方向の右側及び左側を定義して説明を行う。
【0015】
サブタンク3は、キャリッジ2に搭載されている。ここで、プリンタ1には、カートリッジホルダ14が設けられており、カートリッジホルダ14に4つのインクカートリッジ15が取り外し可能に装着されている。4つのインクカートリッジ15には、走査方向の右側に配置されたものから、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが貯留されている。サブタンク3は、4本のチューブ13を介してカートリッジホルダ14に装着された4つのインクカートリッジ15と接続されている。これにより、4つのインクカートリッジ15からサブタンク3に上記4色のインクが供給される。
【0016】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ2に搭載され、サブタンク3の下端部に接続されている。インクジェットヘッド4には、サブタンク3から上記4色のインクが供給される。また、インクジェットヘッド4は、その下面であるノズル面4aに形成された複数のノズル10からインクを吐出する。より詳細に説明すると、複数のノズル10は、走査方向と直交する搬送方向に長さLにわたって配列されることによってノズル列9を形成しており、インクジェットヘッド4は、走査方向に並んだ4列のノズル列9を有する。複数のノズル10からは、走査方向の右側のノズル列9を構成するものから、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが吐出される。
【0017】
プラテン5は、インクジェットヘッド4の下方に配置され、複数のノズル10と対向している。プラテン5は、走査方向に記録用紙P(本発明の「被記録媒体」)の全長にわたって延び、記録用紙Pを下方から支持する。搬送ローラ6は、インクジェットヘッド4及びプラテン5よりも搬送方向の上流側に配置されている。搬送ローラ7は、インクジェットヘッド4及びプラテン5よりも搬送方向の下流側に配置されている。搬送ローラ6,7は、図示しないギヤなどを介して搬送モータ87(図6参照)に接続されている。搬送モータ87を駆動させると、搬送ローラ6,7が回転し、記録用紙Pが搬送方向に搬送される。
【0018】
メンテナンスユニット8は、後述するように吸引パージを行って複数のノズル10からインクジェットヘッド4内のインクを排出させるためのものである。メンテナンスユニット8については後程詳細に説明する。
【0019】
<インクジェットヘッド>
次に、インクジェットヘッド4について詳細に説明する。図2図3に示すように、インクジェットヘッド4は、流路ユニット21と圧電アクチュエータ22とを備えている。
【0020】
<流路ユニット>
流路ユニット21は、4枚のプレート31~34が上からこの順に積層されることによって形成されている。プレート31~33は、ステンレスなどの金属材料からなる。プレート34は、ポリイミドなどの合成樹脂材料からなる。
【0021】
プレート34には、複数のノズル10が形成されている。複数のノズル10は、上述したような4列のノズル列9を形成している。そして、プレート34の下面が、インクジェットヘッド4のノズル面4aとなっている。プレート31には複数の圧力室40が形成されている。圧力室40は、走査方向を長手方向とする楕円の平面形状を有している。また、複数の圧力室40は、複数のノズル10に個別のものであり、走査方向の左側の端部がノズル10と上下方向に重なっている。これにより、プレート31には、複数の圧力室40が搬送方向に配列されることによってそれぞれ形成され、走査方向に並んだ4列の圧力室列29が形成されている。
【0022】
プレート32には、各圧力室40の走査方向の右側の端部と上下方向に重なる部分に円形の貫通孔42が形成されている。また、プレート32には、各圧力室40の走査方向の左側の端部及びノズル10と上下方向に重なる部分に、円形の貫通孔43が形成されている。
【0023】
プレート33には、4つのマニホールド流路41が形成されている。4つのマニホールド流路41は、4つの圧力室列29に対応している。マニホールド流路41は、搬送方向に延び、対応する圧力室列29を構成する複数の圧力室40の走査方向の右側の部分と上下方向に重なっている。これにより、各圧力室40が、貫通孔42を介してマニホールド流路41と連通する。また、各マニホールド流路41の搬送方向の上流側の端部には供給口39が設けられている。インクジェットヘッド4は、供給口39においてサブタンク3内の流路と接続されている。これにより、マニホールド流路41には、供給口39からインクが供給される。また、プレート33には、各貫通孔43及びノズル10と上下方向に重なる部分に、円形の貫通孔44が形成されている。これにより、各ノズル10が貫通孔43,44を介して圧力室40と連通する。
【0024】
<圧電アクチュエータ>
圧電アクチュエータ22は、振動板51と、圧電層52と、共通電極53と、複数の個別電極54とを備えている。振動板51は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなり、流路ユニット21の上面に配置され、複数の圧力室40を覆っている。なお、振動板51は、次に説明する圧電層52とは異なり、圧電材料以外の絶縁性材料からなるものであってもよい。
【0025】
圧電層52は、上記圧電材料からなり、振動板51の上面に配置され、複数の圧力室40にわたって連続的に延びている。共通電極53は、振動板51と圧電層52との間に配置され、複数の圧力室40にわたって連続的に延びている。共通電極53は、図示しない配線部材などを介して図示しない電源回路に接続され、グランド電位に保持されている。
【0026】
複数の個別電極54は、複数の圧力室40に個別のものである。個別電極54は、圧力室40よりも一回り小さい楕円の平面形状を有し、圧電層52の上面に配置され、圧力室40の中央部と上下方向に重なっている。また、個別電極54の走査方向の右側の端部は、圧力室40と上下方向に重ならない位置まで走査方向の右側に延び、その先端部が接続端子54aとなっている。接続端子54aには図示しない配線部材が接続され、個別電極54は、この配線部材を介してドライバIC59(図6参照)に接続されている。そして、ドライバIC59により、複数の個別電極54に個別に、グランド電位及び所定の駆動電位(例えば20V程度)のいずれかが選択的に付与される。
【0027】
また、共通電極53及び複数の個別電極54がこのように配置されているのに対応して、圧電層52の共通電極53と各個別電極54とに挟まれた部分が、それぞれ、厚み方向に分極されている。そして、以上のような構造の圧電アクチュエータ22では、振動板51、圧電層52及び共通電極53の、各圧力室40と上下方向に重なる部分と、個別電極54とによって形成される部分が、それぞれ、圧力室40内のインクに圧力を付与する駆動素子50となっている。
【0028】
ここで、圧電アクチュエータ22を駆動して、ノズル10からインクを吐出させる方法について説明する。圧電アクチュエータ22では、予め、全ての個別電極54が、共通電極53と同じグランド電位に保持されている。あるノズル10からインクを吐出させるときには、そのノズル10に対応する駆動素子50における個別電極54の電位を、グランド電位から駆動電位に切り換える。すると、個別電極54と共通電極53との間の電位差により、圧電層52のこれらの電極に挟まれた部分に、分極方向と平行な厚み方向の電界が生じる。この電界により、圧電層52の上記部分が水平方向に収縮し、振動板51及び圧電層52の圧力室40と上下方向に重なる部分が全体として圧力室40側に凸となるように変形する。これにより、圧力室40の容積が小さくなって圧力室40内のインクの圧力が上昇し、圧力室40に連通するノズル10からインクが吐出される。
【0029】
<メンテナンスユニット>
次に、メンテナンスユニット8について説明する。図1に示すように、メンテナンスユニット8は、キャップ61と、吸引ポンプ62と、廃液タンク63とを備えている。キャップ61は、プラテン5よりも走査方向の右側に配置されている。そして、キャリッジ2を、プラテン5よりも走査方向の右側のメンテナンス位置に位置させると、複数のノズル10がキャップ61と対向する。
【0030】
また、キャップ61は、キャップ昇降機構88(図6参照)によって昇降可能となっている。そして、キャリッジ2を上記メンテナンス位置に位置させて複数のノズル10とキャップ61とを対向させた状態で、キャップ昇降機構88によりキャップ61を上昇させると、キャップ61の上端部がノズル面4aに密着し、複数のノズル10がキャップ61に覆われる。なお、キャップ61はノズル面4aに密着することで複数のノズル10を覆うものであることには限られない。キャップ61は、例えば、インクジェットヘッド4のノズル面4aの周囲に配置される図示しないフレーム等に密着することで、複数のノズル10を覆うものであってもよい。
【0031】
吸引ポンプ62はチューブポンプなどであり、キャップ61及び廃液タンク63と接続されている。そして、メンテナンスユニット8では、上述したように複数のノズル10がキャップ61によって覆われた状態で吸引ポンプ62を駆動させると、複数のノズル10からインクジェットヘッド4内のインクを排出させる、いわゆる吸引パージ(本発明の「排出動作」)を行うことができる。インクジェットヘッド4から排出されたインクは廃液タンク63に貯留される。なお、本実施形態では、キャップ61及び吸引ポンプ62を含むメンテナンスユニット8が、本発明の「排出手段」に相当する。
【0032】
なお、ここでは、便宜上、キャップ61が全てのノズル10をまとめて覆い、吸引パージにおいて、全てのノズル10からインクジェットヘッド4内のインクを排出させるものとして説明を行ったが、これには限られない。例えば、キャップ61が、ブラックインクを吐出する最も右側のノズル列9を構成する複数のノズル10を覆う部分と、カラーインク(イエロー、シアン、マゼンタのインク)を吐出する左側3列のノズル列9を構成する複数のノズル10を覆う部分とを別々に備えており、吸引パージにおいて、インクジェットヘッド4内のブラックインク及びカラーインクのいずれかを選択的に排出させることができるようになっていてもよい。
【0033】
また、図4に示すように、キャップ61内には、矩形の平面形状を有する検出用電極66が配置されている。検出用電極66は、抵抗69を介して高電圧電源回路67に接続されている。そして、検出用電極66には、高電圧電源回路67により所定の正の電位(例えば300V程度)が付与される。一方で、インクジェットヘッド4の流路ユニット21は、グランド電位に保持されている。これにより、インクジェットヘッド4と検出用電極66との間に所定の電位差が生じる。検出用電極66には、判定回路68(本発明の「信号出力部」)が接続されている。判定回路68は、検出用電極66から出力された電圧信号の電圧値と、閾値Vtとを比較し、その結果に応じた信号を出力する。
【0034】
より詳細に説明すると、インクジェットヘッド4と、検出用電極66との間には電位差が生じているため、ノズル10から吐出されたインクは帯電している。キャリッジ2を上記メンテンナンス位置に位置させた状態で、ノズル10から検出用電極66に向けてインクを吐出させると、図5(a)に示すように、帯電したインクが検出用電極66に近づき、検出用電極66にインクが着弾するまで、検出用電極66の電圧値が上昇し、インクジェットヘッド4が駆動されていないときの電圧値V1と比べて高い電圧値V2に達する。そして、帯電したインクが検出用電極66に着弾した後、検出用電極66の電圧値が徐々に電圧値V1まで低下する。すなわち、インクジェットヘッド4の駆動期間Tdにおいて、検出用電極66の電圧値が変化する。
【0035】
一方で、ノズル10からインクが吐出されていない場合には、図5(b)に示すように、インクジェットヘッド4の駆動期間Tdにおいて、検出用電極66から出力される電圧信号の電圧値は、電圧値V1からほとんど変化しない。そこで、判定回路68は、これらを区別するために閾値Vt(V1<Vt<V2)が設定されている。そして、判定回路68は、インクジェットヘッド4の駆動期間Tdにおいて、検出用電極66から出力される電圧信号の最大の電圧値と閾値Vtとを比較し、その判定結果に応じた信号を出力する。
【0036】
なお、ここでは、高電圧電源回路67により、検出用電極66に正の電位が付与されているが、高電圧電源回路67により、検出用電極66に負の電位(例えば-300V程度)が付与されていてもよい。この場合には、上述したのとは逆に、キャリッジ2を上記メンテンナンス位置に位置させた状態で、ノズル10から検出用電極66に向けてインクを吐出させると、帯電したインクが検出用電極66に近づき、検出用電極66にインクが着弾するまで、検出用電極66の電圧値が低下する。
【0037】
<プリンタの電気的構成>
次に、プリンタ1の電気的構成について説明する。プリンタ1の動作は、制御装置80によって制御される。図6に示すように、制御装置80は、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83、フラッシュメモリ84、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)85などからなり、キャリッジモータ86、搬送モータ87、ドライバIC59、キャップ昇降機構88、高電圧電源回路67、吸引ポンプ62などの動作を制御する。また、制御装置80には、判定回路68から上述の信号が入力される。
【0038】
なお、制御装置80は、CPU81のみが各種処理を行うものであってもよいし、ASIC85のみが各種処理を行うものであってもよいし、CPU81とASIC85とが協働して各種処理を行うものであってもよい。また、制御装置80は、1つのCPU81が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のCPU81が処理を分担して行うものであってもよい。また、制御装置80は、1つのASIC85が単独で処理を行うものであってもよいし、複数のASIC85が処理を分担して行うものであってもよい。
【0039】
<画像の記録>
次に、プリンタ1による記録用紙Pへの画像の記録について説明する。プリンタ1では、キャリッジ2を走査方向に移動させつつ、インクジェットヘッド4に複数のノズル10から記録用紙Pに向けてインクを吐出させる記録パスと、搬送ローラ6,7に記録用紙Pを搬送方向に搬送させる搬送動作とを交互に行うことで、記録用紙Pに画像を記録させる。このとき、プリンタ1では、シングルパス記録モード及びマルチパス記録モードのうちのいずれかで、選択的に記録用紙Pに画像を記録することができる。
【0040】
シングルパス記録モードでは、上記搬送動作において、記録用紙Pをノズル列9の長さL搬送させる。これにより、シングルパス記録モードで画像の記録を行うと、図7(a)に示すように、記録用紙Pの、連続する2回の記録パスで記録される、搬送方向の長さがLで走査方向に延びた帯状の記録領域Gが重ならずに搬送方向に複数隣接して並ぶ。
【0041】
マルチパス記録モードでは、上記搬送動作において、記録用紙Pをノズル列9の長さLの2分の1の長さ(L/2)搬送させる。これにより、マルチパス記録モードで画像の記録を行うと、図7(b)に示すように、記録用紙Pの、連続する2回の記録パスで記録される2つの記録領域Gが、搬送方向の長さが(L/2)の重複領域Hにおいて部分的に重なる。そして、重複領域Hには、上記2回の記録パスにより、ドットが走査方向に並ぶことによって形成される1ライン分のライン画像のうち、異なる一部分を間引いた間引き画像が記録される。
【0042】
上記間引き画像は、例えば、図8(a)に示すような第1マスクデータW1、及び、図8(b)に示すような第2マスクデータW2のうち、いずれかを選択的に使用してライン画像の一部分を間引いたものである。マスクデータW1,W2は、互いに直交するX方向及びY方向に格子状に並んだ複数のドットデータDによって形成される。X方向及びY方向は、それぞれ、走査方向及び搬送方向に対応している。図8(a),(b)では、X方向に並ぶ1,2,3,・・,11が、記録する領域におけるライン画像の走査方向の左側から何番目のドットであるかに対応している。具体的には、X方向の左側からM番目(M=1,2,・・,11)のドットデータDが、記録する領域におけるライン画像の走査方向の左側から[M+(11×I)]番目のドット(I=0,1,2,・・)に対応している。また、図8(a),(b)では、Y方向に並ぶ1,2,3,・・,19,20が、搬送方向の上流側から何番目のノズル10に対応するかを示している。ここで、ノズル列9を構成するノズル10の数Nmは、例えば400個程度であるが、図8(a),(b)では、図面を簡単にするため、ノズル列9を構成するノズル10の数Nmを20個としている。また、図8(a),(b)では、ハッチングが付されたドットデータDが、ノズル10からのインクの吐出(ドットの形成)を許可することを示しており、ハッチングが付されていないドットデータDが、ノズル10からのインクの吐出を禁止する(ドットを間引く)ことを意味している。
【0043】
また、図8(a),(b)では、それぞれ、マルチパス記録モードで画像を記録するときの、連続する2回の記録パスにおけるマスクデータW1,W2の関係を示している。より詳細に説明すると、図8(a),(b)で左側に配置されたマスクデータW1,W2が、それぞれ、連続する2回の記録パスのうち、先の記録パスに対応し、図8(a),(b)で右側に配置されたマスクデータW1,W2が、それぞれ、連続する2回の記録パスのうち、後の記録パスに対応している。
【0044】
図8(a),(b)に示すように、連続する2回の記録パスでは、搬送方向の上流側からN番目(N=1,2,3,・・,(Nm/2))のドットデータDの列と、[N+(Nm/2)]番目のドットデータDの列とが、同じライン画像に対応する。上記の通り、図8(a),(b)ではNm=20として図示しており、[Nm/2]=10である。そして、マスクデータW1,W2では、搬送方向の上流側からN番目のドットデータDの列と、[N+(Nm/2)]番目のドットデータDの列とで、インクの吐出を許可するドットデータDのX方向の位置と、インクの吐出を禁止するドットデータDのX方向の位置とが逆になっている。これにより、連続する2回の記録パスの各々においてライン画像の重複しない部分が記録され、連続する2回の記録パスによりライン画像が完成する。
【0045】
また、第1マスクデータW1では、各ノズル10によって記録される間引き画像についてのドット記録率R1が、例えば図9(a)に示すようなものとなる。また、第2マスクデータW2では、各ノズル10によって記録される間引き画像についてのドット記録率R2が、例えば図9(b)に示すようなものとなる。ここで、ドット記録率とは、間引き画像のドット数の、ライン画像全体のドット数に対する割合のことである。なお、以下では、「ノズルから吐出されるインクによって記録される間引き画像のドット記録率」のことを「ノズルについてのドット記録率」とするなど、記載を簡略化することがある。
【0046】
図9(a),(b)では、縦軸が搬送方向の上流側から何番目のノズルであるかに対応しており、横軸がドット記録率R1[%],R2[%]を示している。第1マスクデータW1では、インクジェットヘッド4の複数のノズル10のうち、搬送方向の中央側に位置するノズル10ほど、ドット記録率R1[%]が高くなるようになっている。第2マスクデータW2では、インクジェットヘッド4の複数のノズル10のうち、搬送方向の中央側に位置するノズル10ほど、ドット記録率R2[%]が低くなるようになっている。
【0047】
そして、搬送方向の上流側からN番目(N=1,2,・・,Nm)のノズル10についてのドット記録率R1[%](以下、「ドット記録率R1N[%]」のようにすることがある)と、ドット記録率R2[%](以下、「ドット記録率R2N[%]」のようにすることがある)との和が、100%となる。すなわち、R2N[%]=(100-R1N)[%]の関係が成立する。ここで、本実施形態では、フラッシュメモリ84に第1マスクデータW1が記憶されている。また、制御装置80は、第1マスクデータW1と上記の関係とに基づいて、第2マスクデータW2を生成することができる。
【0048】
また、図9(a),(b)では、マルチパス記録モードで画像を記録するときの、連続する2回の記録パスにおけるマスクデータW1,W2のノズル10とドット記録率R1,R2との関係の図を、これら2回の記録パスにおけるインクジェットヘッド4と記録用紙Pとの搬送方向の位置関係に合わせて図示している。より詳細に説明すると、図9(a),(b)で左側に配置されたノズル毎のドット記録率の図が、連続する2回の記録パスのうち、先の記録パスに対応し、図9(a),(b)で右側に配置されたノズル毎のドット記録率の図が、連続する2回の記録パスのうち、後の記録パスに対応している。
【0049】
上述したように、上記連続する2回の記録パスでは、搬送方向の上流側からN番目(N=1,2,3,・・,(Nm/2))のドットデータDの列と、[N+(Nm/2)]番目のドットデータDの列とが、同じライン画像に対応する。そして、第1マスクデータW1では、搬送方向の上流側からN番目のノズル10についてのドット記録率R1N[%]と、[N+(Nm/2)]番目のノズル10についてのドット記録率R1N+(Nm/2)[%]との和が100%となる。また、第2マスクデータW2では、搬送方向の上流側からN番目のノズル10についてのドット記録率R2N[%]と、[N+(Nm/2)]番目のノズル10についてのドット記録率R2N+(Nm/2)[%]との和が100%となる。
【0050】
なお、図8(a),(b)で示すマスクデータW1,W2における、インクの吐出を許可するドットデータD及びインクの吐出を禁止するドットデータDの配置や、図9(a),(b)に示すノズル10毎のドット記録率R1,R2は一例であり、マスクデータにおける、インクの吐出を許可するドットデータD及びインクの吐出を禁止するドットデータDの配置や、ノズル10毎のドット記録率R1,R2は、これとは異なっていてもよい。
【0051】
<記録時の制御>
次に、プリンタ1において記録用紙Pに画像を記録するときの制御について説明する。プリンタ1において記録用紙Pに画像の記録を行うときには、制御装置80は、図10に示すフローに沿って処理を行う。ここで、図10のフローは、プリンタ1に記録用紙Pへの画像の記録を行うことを指示する記録指令が入力されたときに開始される。
【0052】
プリンタ1に記録指令が入力されると、図10に示すように、制御装置80は、まず、ノズル判定処理を実行する(S101)。ノズル判定処理では、制御装置80は、キャリッジモータ86を制御してキャリッジ2を上記メンテナンス位置に移動させ、インクジェットヘッド4の複数のノズル10のうち1つのノズル10から検出用電極66に向けてインクを吐出させる。これにより、判定回路68からは、上述したように、このノズル10からインクが吐出されたか否かによって異なる信号が出力される。そして、制御装置80は、判定回路68からの信号に基づいて、ノズル10が異常ノズルであるか否かを判定する。具体的には、判定回路68からの信号がノズル10からインクが吐出されなかったことを示しているときに、そのノズル10が異常ノズルであると判定する。また、S101では、制御装置80は、インクジェットヘッド4の複数のノズル10の各々について、上記のように、異常ノズルであるか否かを判定する。
【0053】
続いて、制御装置80は、入力された記録指令に基づいて、記録モードを判定する(S102)。具体的には、シングルパス記録モードで画像の記録を行うか、マルチパス記録モードで画像の記録を行うかを判定する。なお、例えば、プリンタ1において、記録モードが事前に設定され、事前にシングルパス記録モードに設定されている場合にはS101の処理の後、後述のS103に直接進み、事前にマルチパス記録モードに設定されている場合にはS101の処理の後、後述のS106に直接進むようにしてもよい。
【0054】
シングルパス記録モードで画像の記録を行う場合には(S102:シングルパス記録モード)、制御装置80は、続いて、S101での判定の結果に基づいて、インクジェットヘッド4の複数のノズル10の中に異常ノズルがあるか否かを判定する(S103)。複数のノズル10の中に異常ノズルがある場合には(S103:YES)、制御装置80は、上述の吸引パージを行わせるパージ処理を実行してから(S104)、S105の記録処理に進む。複数のノズル10の中に異常ノズルがない場合には(S103:NO)、制御装置80は、S104のパージ処理を実行せず、そのままS105の記録処理に進む。そして、S105の記録処理の完了後、処理を終了する。なお、S105の記録処理については、後程説明する。
【0055】
マルチパス記録モードで記録を行う場合には(S102:マルチパス記録モード)、制御装置80は、続いて、記録時に使用するマスクデータ(以下、「使用マスクデータ」とすることがある)を設定するマスクデータ設定処理を実行する(S106)。
【0056】
マスクデータ設定処理では、図11(a)に示すように、制御装置80は、まず、S103と同様に、インクジェットヘッド4の複数のノズル10の中に異常ノズルがあるか否かを判定する(S201)。複数のノズル10の中に異常ノズルがない場合には(S201:NO)、制御装置80は、第1マスクデータW1を使用マスクデータに設定し(S202)、図10のフローに戻る。
【0057】
複数のノズル10の中に異常ノズルがある場合には(S201:YES)、制御装置80は、続いて、S101での判定の結果に基づいて、異常ノズルの数Nuが所定値Nt以上であるか否かを判定する(S203)。異常ノズルの数Nuが所定値Nt以上である場合には(S203:YES)、制御装置80は、S104と同様のパージ処理を実行し(S204)、第1マスクデータW1を使用マスクデータに設定し(S202)、図10のフローに戻る。
【0058】
異常ノズルの数Nuが所定値Nt未満の場合(S203:NO)、制御装置80は、続いて、第1マスクデータW1に基づいてライン画像の一部分を間引いたときに、ドット記録率R1が閾値Rt以上となる異常ノズルがあるか否かを判定する(S205)。そして、全ての異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt未満である場合には(S205:NO)、制御装置80は、第1マスクデータW1を使用マスクデータに設定し(S202)、図10のフローに戻る。
【0059】
一方、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt以上の場合には(S205:YES)、制御装置80は、続いて、第2マスクデータW2を生成し(S206)、第2マスクデータW2に基づいてライン画像の一部分を間引いたときに、ドット記録率R2が閾値Rt以上となる異常ノズルがあるか否かを判定する(S207)。
【0060】
そして、全ての異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt未満である場合には(S207:NO)、制御装置80は、第2マスクデータW2を使用マスクデータに設定し(S208)、図10のフローに戻る。一方、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt以上の場合には(S207:YES)、制御装置80は、パージ処理を実行し(S204)、第1マスクデータW1を使用マスクデータに設定し(S202)、図10のフローに戻る。
【0061】
図10に戻って、S106のマスクデータ設定処理の後、制御装置80は、記録処理を実行する(S107)。S105,S107の記録処理について説明する。ここで、S105の記録処理とS107の記録処理とは、搬送動作での記録用紙Pの搬送量が異なるだけなので、以下、これらをまとめて説明する。
【0062】
S105,S107の記録処理では、図11(b)に示すように、制御装置80は、給紙処理を実行する(S301)。給紙処理では、制御装置80は、図示しない給紙機構及び搬送モータ87を制御して、記録用紙Pを、1回目の記録パスで画像が記録される領域が、インクジェットヘッド4の複数のノズル10と対向する位置に供給する。
【0063】
続いて、制御装置80は、記録パス処理を実行する(S302)。記録パス処理では、制御装置80は、キャリッジモータ86を制御してキャリッジ2を走査方向に移動させつつ、ドライバIC59を介してインクジェットヘッド4を制御して、複数のノズル10から記録用紙Pに向けてインクを吐出させる、記録パスを行わせる。S107の記録処理の場合(マルチパス記録モードの場合)、S302において、S106で設定したマスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引いてライン画像の記録を行う。
【0064】
続いて、制御装置80は、記録用紙Pへの画像の記録が完了していない場合には(S303:NO)、搬送処理を実行してから(S304)、S302に戻る。S304の搬送処理では、搬送モータ87を制御して、搬送ローラ6,7に記録用紙Pを搬送方向に記録用紙Pを搬送させる。ここで、S105の記録処理の場合(シングルパス記録モードの場合)には、S304の搬送処理で記録用紙Pをノズル列9の長さL搬送させる。一方、S107の記録処理の場合(マルチパス記録モードの場合)には、S304の搬送処理で記録用紙Pをノズル列9の長さLの半分の長さ(L/2)搬送させる。これにより、記録用紙Pへの画像の記録が完了するまで、記録パスと搬送動作とが交互に行われる。このとき、S107の記録処理の場合(マルチパス記録モードの場合)、全ての記録パスにおいて、S106で設定した同じマスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引いてライン画像の記録を行う。
【0065】
そして、記録用紙Pへの画像の記録が完了したときに(S303:YES)、制御装置80は、排紙処理を実行してから(S305)、図10のフローに戻る。S305の排紙処理では、制御装置80は、搬送モータ87を制御して、搬送ローラ6,7に記録用紙Pを搬送方向に搬送させることによって、記録用紙Pをプリンタ1から排出させる。
【0066】
図10に戻って、S107の記録処理の後、制御装置80は、S201で複数のノズル10の中に異常ノズルがないと判定されていた場合(S108:NO)、及び、S201複数のノズル10の中に異常ノズルがあると判定されていたが(S108:YES)、S107の記録処理の前にS204のパージ処理を実行している場合には(S109:YES)、処理を終了する。
【0067】
一方、S201で複数のノズル10の中に異常ノズルがあると判定されており(S108:YES)、且つ、S107の記録処理の前にS204のパージ処理を実行していない場合には(S109:NO)、制御装置80は、所定時間が経過するまでに(S112:NO)、次のマルチパス記録モードで記録することを指示する記録指令が入力された場合には(S110:YES)、S107に戻る。所定時間が経過するまでに(S112:NO)、次のシングルパス記録モードで記録することを指示する記録指令が入力された場合には(S111:YES)、S104に戻る。次の記録指令が入力されることなく所定時間が経過した場合には(S110:NO、S111:NO、S112:YES)、制御装置80は、S104,S204と同様のパージ処理を実行し(S113)、処理を終了する。
【0068】
<効果>
異常ノズルについてのドット記録率が高い場合、吸引パージを行わずに画像の記録を行うと、記録される画像の画質が低下してしまう。これに対して、異常ノズルについてのドット記録率が低い場合には、吸引パージを行わずに画像の記録を行っても、記録される画像の画質はそれほど大きく低下することはない。
【0069】
そこで、本実施形態では、マルチパス記録モードで記録を行うときに、第1マスクデータW1に基づいてライン画像の一部分を間引く。ただし、異常ノズルが存在し、且つ、第1マスクデータW1に基づいてライン画像の一部分を間引くと、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt以上となる場合には、全ての異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt未満となる第2マスクデータW2に基づいてライン画像の一部分を間引く。そして、吸引パージを行わずに画像の記録を行う。これにより、記録指令が入力されてから画像の記録が完了するまでの時間を短縮しつつも、記録される画像の画質を確保することができる。
【0070】
また、本実施形態では、連続する2回の記録パスでライン画像を記録し、第1マスクデータW1及び第2マスクデータW2を、R2N[%]=(100-R1N)[%]の関係が成立するようなマスクデータとする。これにより、異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt以上となる場合に、異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt未満となる。また、この場合、異常ノズルと同じライン画像の記録に使用され且つ異常ノズルではないノズル10については、ドット記録率R2がドット記録率R1よりも高くなる。そして、この場合には、ライン画像を記録する記録パスの回数を変えずに適切にライン画像を記録することができる。
【0071】
ここで、本実施形態と異なり、例えば、連続する2回の記録パスのうち、先の記録パスで使用するマスクデータを、第1マスクデータW1に対して、異常ノズルについてのドット記録率のみを下げたマスクデータとし、後の記録パスで使用するマスクデータを、第1マスクデータW1に対して、異常ノズルと同じライン画像に対応するノズルについてのドット記録率のみを上げたマスクデータとすることが考えられる。しかしながら、この場合には、連続する2回の記録パスのうち、先の記録パスと後の記録パスとで使用するマスクデータを異ならせる必要がある。また、このようなマスクデータを用いた場合には、異常ノズルに対応するライン画像と、このライン画像と搬送方向に隣接するライン画像との間で、上記2回の記録パスの各々についてのドット記録率の差が大きくなり、画像の劣化が目立ちやすくなる。
【0072】
これに対して、本実施形態のように、第2マスクデータW2に基づいてライン画像の一部分を間引くようにすれば、全ての記録パスにおいて同じマスクデータを使用することができる。また、異常ノズルに対応するライン画像と、このライン画像と搬送方向に隣接するライン画像との間での、上記2回の記録パスの各々についてのドット記録率の差が大きくなることもない。
【0073】
また、第1マスクデータW1に基づいてライン画像の一部分を間引くと、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt以上となり、且つ、第2マスクデータW2に基づいてライン画像の一部分を間引いても、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt以上となる場合(全ての異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt未満と第2マスクデータを生成できない場合)には、吸引パージを行って異常ノズルを回復させてから、画像の記録を行う。これにより、記録される画像の画質が低下してしまうのを防止することができる。
【0074】
また、本実施形態では、複数のノズル10の中に異常ノズルがあると判定され、且つ、吸引パージを行わずにマルチパス記録モードで記録用紙Pへの画像の記録を行った場合に、画像の記録が完了した後、所定時間が経過するまでに記録指令が入力されなかった場合には、吸引パージを行って異常ノズルを回復させることができる。一方、複数のノズル10の中に異常ノズルがあると判定され、且つ、吸引パージを行わずにマルチパス記録モードで記録用紙Pへの画像の記録を行った後、所定時間が経過するまでに、マルチパス記録モードでの記録を指示する記録指令が入力された場合には、吸引パージを行わず、その記録指令に基づいて記録用紙Pへの画像の記録を行う。これにより、吸引パージの頻度が下がり、無駄なインクの消費を抑えることができる。
【0075】
また、本実施形態では、異常ノズルの数が多い場合には、異常ノズルによって記録される間引き画像についてのドット記録率が低くても、記録される画像の画質が低下してしまう。そこで、本実施形態では、異常ノズルの数Nuが所定値Ntを超えている場合には、吸引パージを行わせずに画像の記録を行わせる他の条件を満たしていたとしても、吸引パージを行ってから画像の記録を行う。これにより、記録される画像の画質の低下を防止することができる。
【0076】
また、シングルパス記録モードで画像を記録するときには、異常ノズルがある状態で、吸引パージを行わずに記録用紙Pへの画像の記録を行うと、異常ノズルに対応するライン画像が記録されず、記録用紙Pのこのライン画像が記録されるべき領域に白スジが生じる。
【0077】
そこで、本実施形態では、シングルパス記録モードで画像を記録するときに、異常ノズルがある場合には、吸引パージを行ってから記録用紙への画像の記録を行うことにより白スジを発生しないようにする。
【0078】
また、上記のとおり、異常ノズルについてのドット記録率が低い場合には、吸引パージを行わずに画像の記録を行っても、記録される画像の画質はそれほど大きく低下することはない。
【0079】
そこで、本実施形態では、マルチパス記録モードで記録を行うときに、異常ノズルがあっても、第1マスクデータW1に基づいてライン画像の一部分を間引くと、異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt以上となる場合には、第1マスクデータW1に基づいてライン画像の一部分を間引き、吸引パージを行わずに画像の記録を行う。これにより、記録指令が入力されてから画像の記録が完了するまでの時間を短縮しつつも、記録される画像の画質を確保することができる。
【0080】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載の限りにおいて様々な変更が可能である。
【0081】
上述の実施形態では、マルチパス記録モードで画像の記録を行うときに、S204の吸引パージを行ってから画像の記録を行う場合には、第1マスクデータW1を使用マスクデータに設定したが、これには限られない。マルチパス記録モードで画像の記録を行うときに、S204の吸引パージを行ってから画像の記録を行う場合に、第2マスクデータW2を使用マスクデータに設定してもよい。
【0082】
また、上述の実施形態では、制御装置80が、第1マスクデータW1に基づいて、第2マスクデータW2を生成可能であったが、これには限られない。制御装置80が、第2マスクデータW2とは異なる第2マスクデータを生成可能であってもよい。このとき、制御装置80は、異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値以上となる場合に、異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値未満となり、且つ、異常ノズルと同じライン画像の記録に使用され且つ異常ノズルではないノズル10について、ドット記録率R2がドット記録率R1よりも高くなるような第2マスクデータを生成すればよい。
【0083】
また、制御装置80が、第1マスクデータW1に基づいて1種類のマスクデータ(第2マスクデータW2)のみを生成可能であることにも限られない。例えば、制御装置80が、第1マスクデータW1に基づいて、第1マスクデータW1とは異なる複数種類のマスクデータを生成可能であってもよい。この場合、生成可能な複数種類のマスクデータが、第2マスクデータW2と同様のマスクデータと、第2マスクデータW2とは異なるマスクデータとを含むものであってもよいし、第2マスクデータW2とは異なるマスクデータのみを含むものであってもよい。
【0084】
この場合には、上記複数種類のマスクデータのうちいずれかによってライン画像を間引くと、全ての異常ノズルについてのドット記録率が閾値Rt未満となる場合に、そのマスクデータを第2マスクデータとする。また、このようなマスクデータが複数ある場合には、これらのうちの1つを第2マスクデータとする。また、上記複数種類のマスクデータのいずれによってライン画像を間引いても、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率が閾値Rt未満となる場合に、吸引パージを行ってから画像の記録を行うようにする。
【0085】
また、上述の実施形態では、制御装置80が、第1マスクデータW1に基づいて、第2マスクデータW2を生成したが、これには限られない。
【0086】
変形例1では、フラッシュメモリ84(本発明の「記憶部」)に、複数種類のマスクデータが記憶されている。そして、これら複数種類のマスクデータのうちの1つが、第1マスクデータとなっている。そして、変形例1では、制御装置80は、マスクデータ設定処理において、図12のフローに沿って処理を行うことにより、マルチパス記録モードで記録を行うときに使用するマスクデータを設定する。
【0087】
より詳細に説明すると、変形例1では、マスクデータ設定処理において、制御装置80は、上述の実施形態と同様、異常ノズルが存在しない場合には(S401:NO)、第1マスクデータを使用マスクデータに設定する(S402)。また、異常ノズルが存在し(S401:YES)、且つ、異常ノズルの数Nuが所定値Nt以上の場合には(S403:YES)、パージ処理を実行し(S404)、第1マスクデータを使用マスクデータに設定する(S302)。また、異常ノズルが存在し(S401:YES)、且つ、異常ノズルの数Nuが所定値Nt未満で(S403:NO)、且つ、全ての異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt未満の場合には(S405:NO)、第1マスクデータを使用マスクデータに設定する(S402)。
【0088】
一方、異常ノズルが存在し(S401:YES)、且つ、異常ノズルの数Nuが所定値Nt未満で(S403:NO)、且つ、ドット記録率R1が閾値Rt以上の異常ノズルがある場合には(S405:YES)、制御装置80は、上記複数種類のマスクデータのうち第1マスクデータを除いたマスクデータの中に、全ての異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt未満となるマスクデータがあるか否かを判定する(S406)。
【0089】
そして、このようなマスクデータがある場合には(S406:YES)、制御装置80は、そのマスクデータを第2マスクデータとして、第2マスクデータを使用マスクデータに設定する(S407)。このとき、このようなマスクデータが複数ある場合には、そのうちの1つのマスクデータを第2マスクデータとする。一方、このようなマスクデータがない場合には(S406:NO)、制御装置80は、パージ処理を実行し(S404)、第1マスクデータを使用マスクデータに設定する(S402)。
【0090】
変形例1では、予め複数種類のマスクデータをフラッシュメモリ84に記憶しておき、これら複数種類のマスクデータのうち、1つを第1マスクデータとし、第1マスクデータを除いたもののいずれかを第2マスクデータとする。これにより、第2マスクデータを生成するための処理が必要ない。
【0091】
また、複数種類のマスクデータのうち第1マスクデータを除いたマスクデータの中に、全ての異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt未満となるマスクデータがない場合には、吸引パージを行ってから画像の記録を行う。これにより、記録される画像の画質が低下してしまうのを防止することができる。
【0092】
また、上述の実施形態では、第1マスクデータW1に基づいてライン画像を間引くと、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt以上となり、且つ、第2マスクデータW2に基づいてライン画像を間引くと、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt以上となる場合に、吸引パージを行ってから画像の記録を行ったが、これには限られない。例えば、このような場合に、第1マスクデータW1,W2のうち、異常ノズルについてのドット記録率の平均値がより小さくなる方のマスクデータを用いてライン画像を間引き、吸引パージを行わずに画像の記録を行ってもよい。
【0093】
また、上述の変形例1では、第1マスクデータに基づいてライン画像を間引くと、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt以上となり、且つ、フラッシュメモリ84に記憶されている複数種類のマスクデータのうち第1マスクデータを除いたマスクデータの中に、全ての異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt以上となるようなマスクデータがない場合に、吸引パージを行ってから画像の記録を行ったが、これには限られない。例えば、このような場合に、フラッシュメモリ84に記憶されている複数種類のマスクデータのうち、ライン画像を間引いたときの異常ノズルについてのドット記録率の平均値が最も小さくなるマスクデータを用いてライン画像を間引き、吸引パージを行わずに画像の記録を行ってもよい。
【0094】
また、上述の実施形態では、マルチパス記録モードで記録用紙Pに画像を記録させるときに、記録用紙Pの連続する2回の記録パスで記録される2つの記録領域Gを部分的に重ね、これら2つの記録領域Gが重なる重複領域Hに、上記2回の記録パスで、ライン画像の異なる一部分を間引いた間引き画像を記録したが、これには限られない。マルチパス記録モードで記録用紙Pに画像を記録させるときに、記録用紙Pの連続する3回以上の記録パスで記録される3以上の記録領域を部分的に重ね、これら3以上の記録領域が重なる重複領域に、上記3回以上の記録パスで、ライン画像の異なる一部分を間引いた間引き画像を記録してもよい。
【0095】
また、上述の実施形態では、第1マスクデータW1に基づいてライン画像の一部分を間引く場合と、第2マスクデータW2に基づいてライン画像の一部分を間引く場合とで、連続する同じ回数の記録パスで1つのライン画像を記録したが、これには限られない。
【0096】
変形例2では、フラッシュメモリ84に、第1マスクデータと第2マスクデータとが記憶されている。第1マスクデータは、上述の実施形態の第1マスクデータW1と同様の、1つのライン画像を連続する2回の記録パスで記録するためのマスクデータである。第2マスクデータは、1つのライン画像を連続する3回の記録パスで記録するためのマスクデータであり、ノズル10毎のドット記録率R3が、例えば、図13に示すようなものとなっている。
【0097】
具体的には、インクジェットヘッド4の複数のノズル10のうち、搬送方向の上流側3分の1のノズル10においては、搬送方向の下流側のノズル10ほど、ドット記録率R3が高くなっている。また、インクジェットヘッド4の複数のノズル10のうち、搬送方向の中央の3分の1のノズル10においては、ドット記録率R3がほぼ一定となっている。また、インクジェットヘッド4の複数のノズル10のうち、搬送方向の下流側3分の1のノズル10においては、搬送方向の下流側のノズル10ほど、ドット記録率R3が低くなっている。そして、複数のノズル10の各々についてのドット記録率R3の平均値が、ドット記録率R1の平均値よりも小さくなっている。なお、図13では、比較のために、第1マスクデータW1のノズル10毎のドット記録率R1を破線で示している。
【0098】
また、この場合には、搬送方向の上流側からN番目(N=1,2,・・,(Nm/3))のノズル10と、搬送方向の上流側から[N+(Nm/3)]番目のノズル10と、搬送方向の上流側から[N+(2×Nm/3)]番目のノズル10とが、同じライン画像に対応する。そのため、搬送方向の上流側からN番目(N=1,2,・・,(Nm/3))のノズル10のドット記録率R3Nと、搬送方向の上流側から[N+(Nm/3)]番目のノズル10のドット記録率R3N+(Nm/3)と、搬送方向の上流側から[N+(2×Nm/3)]番目のノズル10のドット記録率R3N+(2×Nm/3)との和が100%となっている。
【0099】
そして、変形例2では、制御装置80は、マスクデータ設定処理において、図14のフローに沿って処理を行うことにより、マルチパス記録モードで記録を行うときに使用するマスクデータを設定する。
【0100】
より詳細に説明すると、変形例2では、マスクデータ設定処理において、制御装置80は、上述の実施形態と同様、異常ノズルが存在しない場合には(S501:NO)、第1マスクデータを使用マスクデータに設定する(S502)。また、異常ノズルが存在し(S501:YES)、且つ、異常ノズルの数Nuが所定値Nt以上の場合には(S503:YES)、パージ処理を実行し(S504)、第1マスクデータを使用マスクデータに設定する(S502)。また、異常ノズルが存在し(S501:YES)、且つ、異常ノズルの数Nuが所定値Nt未満で(S503:NO)、且つ、全ての異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt未満の場合には(S505:NO)、第1マスクデータを使用マスクデータに設定する(S502)。
【0101】
一方、異常ノズルが存在し(S501:YES)、且つ、異常ノズルの数Nuが所定値Nt未満で(S503:NO)、且つ、ドット記録率R1が閾値Rt以上の異常ノズルがある場合には(S505:YES)、制御装置80は、第2マスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引いた場合に、ドット記録率R3が閾値Rt以上となる異常ノズルがあるか否かを判定する(S506)。
【0102】
そして、全ての異常ノズルについてのドット記録率R3が閾値未満の場合には(S506:NO)、第2マスクデータを使用マスクデータに設定し(S507)、調整処理を実行する(S508)。調整処理では、制御装置80は、搬送動作での記録用紙Pの搬送量を[L/2]から[L/3]に変更し、これに合わせて、記録される画像を構成するドットの、各ノズル10に対する割り当てを変更する。この調整により、マルチパス記録モードにおいて、1つのライン画像が連続する3回の記録パスによって記録されることになる。
【0103】
一方、いずれかの異常ノズルについてのドット記録率R3が閾値以上となる場合には(S506:YES)、制御装置80は、パージ処理を実行し(S504)、第1マスクデータを使用マスクデータに設定する(S502)。
【0104】
マルチパス記録モードで画像の記録を行うときに、ライン画像を記録する記録パスの回数を増やせば、上記の通り、各記録パスにおける、複数のノズル10の各々についてのドット記録率の平均値が小さくなる。これにより、第2マスクデータを、異常ノズルについてのドット記録率が閾値未満のマスクデータとすることができる。
【0105】
また、変形例2では、第2マスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引く場合に、第1マスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引く場合よりも1回多い記録パスでライン画像を記録したが、これには限られない。第2マスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引く場合に、第1マスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引く場合よりも2回以上多い記録パスでライン画像を記録してもよい。ライン画像を記録する記録パスの回数を多くするほど、画像の記録に必要な時間は長くなるが、各記録パスにおける複数のノズル10の各々についてのドット記録率の平均値を小さくすることができる。
【0106】
また、上述の実施形態では、異常ノズルがどの色のインクを吐出するノズル10であるかによらず、異常ノズルについてのドット記録率が同じ閾値Rt以上であるか否かによって、吸引パージを行わせてから記録用紙Pへの画像の記録を行わせるか、吸引パージを行わせずに記録用紙Pへの画像の記録を行わせるかを決定したが、これには限られない。
【0107】
例えば、変形例3では、図15に示すように、イエロー以外の色のインク(ブラック、シアン、マゼンタのインク、本発明の「第1インク」)を吐出するノズル10(本発明の「第1ノズル」)が異常ノズルである場合に、閾値RtをRt1(本発明の「第1閾値」)に設定し、イエローインク(本発明の「第2インク」)を吐出するノズル10(本発明の「第2ノズル」)が異常ノズルである場合に、閾値RtをRt1よりも大きいRt2(本発明の「第2閾値」)に設定する。ここで、変形例3では、図15に示すようなインクの色と閾値Rtとが関連付けられたテーブルが、予めフラッシュメモリ84などに記憶されている。
【0108】
イエローインクは、ブラック、シアン、マゼンタインクよりも色が薄く、吐出されなかったときに記録される画像の画質に与える影響が小さい。そこで、本発明では、イエロー以外の色のインクを吐出するノズル10が異常ノズルである場合には、閾値RtをRt1に設定し、イエローインクを吐出するノズル10が異常ノズルである場合には、閾値RtをRt1よりも大きい閾値Rt2に設定する。これにより、薄い色のイエローインクを吐出するノズル10が異常ノズルである場合に、異常ノズルについてのドット記録率が多少大きくても、吸引パージを行わずに、記録用紙Pへの画像の記録を行うようにして、記録指令が入力されてから画像の記録が完了するまでの時間を短縮しつつ、記録される画像の画質も確保することができる。
【0109】
また、変形例3では、イエロー以外の色のインクを吐出するノズル10が異常ノズルであるか、イエローインクを吐出するノズル10が異常ノズルであるかによって、閾値Rtを異ならせたが、これには限られない。ある色の第1インクを吐出する第1ノズルが異常ノズルであるか、第1インクよりも色よりも薄い色の第2インクを吐出する第2ノズルが異常ノズルであるかによって、閾値Rtを異ならせてもよい。ここで、薄い色とは、例えば、濃度が低い色のことである。濃度とは、照射された光の量に対する反射された光の量の割合Xの逆数(1/X)の常用対数[log(1/X)]によって表される指標である。
【0110】
また上述の実施形態では、異常ノズルの数Nuが所定値Nt以上の場合に、異常ノズルについてのドット記録率R1,R2によらず、吸引パージを行ってから記録用紙Pへの画像の記録を行ったが、これには限られない。例えば、上述の実施形態において、異常ノズルの数に関係なく、S205,S207の判断を行い、その結果に基づいてマスクデータを設定してもよい。
【0111】
また、上述の実施形態では、プリンタ1が、シングルパス記録モードとマルチパス記録モードとのうちいずれかで選択的に記録用紙Pへの画像の記録を行うことが可能である。そして、シングルパス記録モードで記録用紙Pへの画像の記録を行うときに、複数のノズル10の中に異常ノズルがある場合には、吸引パージを行ってから記録用紙Pへの画像の記録を行っている。しかしながら、これには限られない。例えば、プリンタは、マルチパス記録モードでのみ記録用紙Pへの画像の記録を行うことができるものであってもよい。
【0112】
また、上述の実施形態では、複数のノズル10の中に異常ノズルがあり、且つ、吸引パージを行わずに、マルチパス記録モードで記録用紙Pへの画像の記録を行った場合において、画像の記録の完了後、所定時間が経過するまでに、次の記録指令が入力されなかったときに、吸引パージを行わせ、処理を終了するようにしたが、これには限られない。例えば、複数のノズル10の中に異常ノズルがあり、且つ、吸引パージを行わずに、マルチパス記録モードで記録用紙Pへの画像の記録を行ったときに、画像の記録の完了後、直ちに吸引パージを行わせて、処理を終了してもよい。
【0113】
あるいは、複数のノズル10の中に異常ノズルがあり、且つ、吸引パージを行わずに、マルチパス記録モードで記録用紙Pへの画像の記録を行ったときに、画像の記録の完了後に吸引パージを行わずに処理を終了してもよい。
【0114】
また、上述の実施形態では、吸引パージによって、複数のノズル10からインクジェットヘッド4内のインクを排出させたが、これには限られない。
【0115】
例えば、変形例4では、図16に示すように、プリンタ100において、また、サブタンク3と4つのインクカートリッジとを接続するチューブ101の途中部分に、加圧ポンプ102が設けられている。
【0116】
これにより、プリンタ100では、上述したように複数のノズル10をキャップ61で覆った状態で、加圧ポンプ102を駆動させることにより、チューブ101、サブタンク3及びインクジェットヘッド4内のインクを加圧して、複数のノズル10からインクジェットヘッド4内のインクを排出させる、いわゆる加圧パージを行うことができる。そして、変形例2の場合には、S104,S109,S113のパージ処理において、制御装置80は加圧パージ(本発明の「排出動作」)を行わせる。なお、変形例2では、加圧ポンプ102とキャップ61とを合わせたものが、本発明の「排出手段」に相当する。また、変形例2の場合には、吸引ポンプ62がなく、キャップ61と廃液タンク63とが直接接続されていてもよい。
【0117】
また、変形例4では、チューブ101の途中部分に、加圧ポンプ102が設けられていたが、これには限られない。例えば、プリンタがインクカートリッジ15に接続される加圧ポンプを備えたものであってもよい。
【0118】
変形例5では、図17に示すように、シングルパス記録モードで記録用紙Pに画像を記録するときに(S602:シングルパス記録モード)、複数のノズル10の中に異常ノズルがある場合(S603:YES)に、制御装置80がフラッシング処理を実行する(S604)。フラッシング処理では、制御装置80は、圧電アクチュエータ22の異常ノズルに対応する駆動素子50を駆動させて、異常ノズルからインクを排出させるフラッシング(本発明の「排出動作」)を行わせる。このとき、個別電極54に付与する電位を画像の記録時よりも高くするなどしてもよい。
【0119】
また、図18に示すように、マスクデータ設定処理において、複数のノズル10の中に異常ノズルがあり(S701:YES)、且つ、異常ノズルの数Nuが所定値Nt以上である場合に(S703:YES)、制御装置80は、S604と同様のフラッシング処理を実行する(S704)。また、第2マスクデータに基づいてライン画像の一部間引くと、少なくとも1つの異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt未満となる場合に(S707:YES)、制御装置80は、S604と同様のフラッシング処理を実行する(S704)。
【0120】
また、図17に示すように、マルチパス記録モードで記録用紙Pに画像を記録した後(S607の後)、S701で複数のノズル10の中に異常ノズルがあると判定され(S608:YES)、且つ、画像の記録の前にS704のフラッシングを行っていない場合に(S609:NO)おいて、所定時間が経過するまでに、次の記録指令が入力されなかった場合に(S610:NO,S611:NO,S612:YES)、制御装置80は、S604と同様のフラッシング処理を実行する(S613)。
【0121】
なお、変形例5では、フラッシングを行う駆動素子50が本発明の「排出手段」に相当する。また、変形例5では、S603,S612,S703,S707における、上述したのと異なる場合の処理は、それぞれ、S103,S112,S203,S207と同様である。また、変形例5のS601,S602,S605,S607~S611の処理は、それぞれ、上述の実施形態のS101,S102,S105,S107~S111と同様である。また、変形例5のS701~S703,S705~S708の処理は、それぞれ、上述の実施形態のS201~S203,S205~S208と同様である。
【0122】
また、排出動作として、吸引パージ、加圧パージ及びフラッシングのうち2以上を行ってもよい。この場合、排出動作に吸引パージが含まれる場合には、本発明の「排出手段」は、メンテナンスユニット8を含むものとなる。排出動作に加圧パージが含まれる場合には、本発明の「排出手段」は、キャップ61と加圧ポンプ102とを含むものとなる。また、排出動作にフラッシングが含まれる場合には、本発明の「排出手段」は、駆動素子50を含むものとなる。また、排出動作に、吸引パージと加圧パージとが含まれる場合において、吸引ポンプ62による吸引と、加圧ポンプによる加圧とは別々に行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0123】
また、上述の実施形態では、第1マスクデータW1に基づいてライン画像を間引くと、異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt未満となる場合には、第1マスクデータW1を使用マスクデータに設定し、排出動作(吸引パージ)を行わずに記録を行う。また、第1マスクデータW1に基づいてライン画像を間引くと、異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt以上となり、且つ、第2マスクデータW2に基づいてライン画像を間引くと、異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt未満となる場合には、第2マスクデータW2を使用マスクデータに設定し、排出動作(吸引パージ)を行わずに記録を行う。しかしながら、これには限られない。
【0124】
例えば、第1マスクデータW1に基づいてライン画像を間引くと、異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt未満となる場合には、第1マスクデータW1を使用マスクデータに設定し、排出動作としてフラッシングを行ってから記録を行ってもよい。また、第1マスクデータW1に基づいてライン画像を間引くと、異常ノズルについてのドット記録率R1が閾値Rt以上となり、且つ、第2マスクデータW2に基づいてライン画像を間引くと、異常ノズルについてのドット記録率R2が閾値Rt未満となる場合には、第2マスクデータW2を使用マスクデータに設定し、排出動作としてフラッシングを行ってから記録を行ってもよい。
【0125】
また、上述の実施形態では、ノズル10から検出用電極66に向けてインクを吐出させたときの検出用電極66の電圧値を用いて、ノズル10が異常ノズルであるか否かを判定したが、これには限られない。
【0126】
例えば、上下方向に延びた検出用電極を配置し、ノズル10から検出用電極と対向する領域を通過するようにインクを吐出させたときの検出用電極の電圧値を用いて、ノズル10が異常ノズルであるか否かを判定してもよい。あるいは、ノズル10から吐出されたインクを検出する光センサを設け、光センサによる検出結果に基づいて、ノズル10が異常ノズルであるか否かを判定してもよい。
【0127】
あるいは、例えば、特許第4929699号公報に記載されているのと同様に、インクジェットヘッドのノズルが形成されたプレートに、ノズルからインクが吐出されたときの電圧の変化を検出する電圧検出回路(本発明の「信号出力部」)を接続し、電圧検出回路から制御装置80に、ノズル10が異常ノズルであるか否かに応じた信号を出力するようにしてもよい。
【0128】
あるいは、例えば、特許第6231759号公報に記載されているのと同様に、インクジェットヘッドの基板を、温度検知素子を備えたものとしてもよい。そして、インクの吐出のために第1印加電圧を印加してヒータを駆動した後に、インクが吐出されないように第2印加電圧を印加してヒータを駆動し、第2印加電圧を印加してから、その後、所定時間が経過するまでの間の、温度検知素子で検知された温度の変化に基づいて正常に吐出されたか否かを判定してもよい。
【0129】
また、上述の実施形態では、ノズル10からインクが吐出されなかった場合に、そのノズル10を異常ノズルと判定したが、これには限られない。例えば、ノズル10から吐出されたインクの飛翔速度が所定の速度範囲にあるか否か、ノズル10から吐出されたインクが所定の着弾位置に着弾したか否か、ノズル10から所望量のインクが吐出されたか否か等に基づいて、ノズル10に異常が生じているか否かを判定してもよい。
【0130】
また、上述の実施形態では、マルチパス記録モードで画像の記録を行うときに1枚の記録用紙Pへの画像の記録のための全ての記録パスにおいて、同じマスクデータに基づいてライン画像の一部分を間引いたが、これには限られない。例えば、1枚の記録用紙Pに、画像が記録される領域が複数あり、搬送方向におけるこれら複数の領域の間に空白部分がある場合において、画像が記録される領域間で、記録パスにおいて使用するマスクデータを異ならせてもよい。
【0131】
また、上述の実施形態では、複数のノズル10の各々について、判定回路68からの信号に基づいて、異常ノズルであるか否かを判定したが、これには限られない。例えば、一部のノズル10について判定回路68からの信号に基づいて異常ノズルであるか否かを判定し、残りのノズル10については、上記一部のノズル10についての判定結果から異常ノズルであるか否かを推定してもよい。
【0132】
また、上述の実施形態では、駆動素子50により圧力室40内のインクに圧力を付与することで、ノズル10からインクを吐出させたが、これには限られない。例えば、インクを加熱してインク流路内に気泡を発生させることで、ノズルからインクを吐出させてもよい。
【0133】
また、上述の実施形態では、搬送ローラ6,7によって記録用紙Pを搬送したが、これには限られない。例えば、搬送ベルトによって記録用紙Pを搬送してもよい。なお、この場合には、搬送ベルトが本発明の「搬送部」に相当する。あるいは、ボールねじなどによって移動可能なテーブルを設け、このテーブル上に被記録媒体を載置した状態でテーブルを移動させることで、被記録媒体を搬送してもよい。なお、この場合には、ボールねじなどによって移動可能なテーブルが、本発明の「搬送部」に相当する。
【0134】
また、以上では、ノズルからインクを吐出して記録用紙Pに記録を行うプリンタに本発明を適用した例について説明したが、これには限られない。Tシャツ、屋外広告用のシート、スマートフォン等の携帯端末のケース、段ボール、樹脂部材など、記録用紙以外の被記録媒体に画像を記録する画像記録装置にも適用され得る。
【符号の説明】
【0135】
1 プリンタ
2 キャリッジ
4 インクジェットヘッド
6,7 搬送ローラ
8 メンテナンスユニット
10 ノズル
50 駆動素子
61 キャップ
62 吸引ポンプ
68 判定回路
80 制御装置
84 フラッシュメモリ
102 加圧ポンプ
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