(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20231121BHJP
B60K 6/24 20071001ALI20231121BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20231121BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20231121BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20231121BHJP
F02D 41/10 20060101ALI20231121BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20231121BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20231121BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231121BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/24 ZHV
B60K6/445
B60W10/08 900
B60W20/10
F02D41/10
F02D23/00 E
F02D23/00 P
F02D23/00 A
B60L50/16
B60L15/20 S
B60L9/18 P
(21)【出願番号】P 2020014641
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】田畑 正和
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-043528(JP,A)
【文献】特開2019-137259(JP,A)
【文献】特開2019-104335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60K 6/24
B60K 6/445
B60W 10/08
B60W 20/10
F02D 41/10
F02D 23/00
B60L 50/16
B60L 15/20
B60L 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、駆動輪に駆動力を伝達する出力部材と、発電機能のある第1モータと、前記エンジンが出力した駆動力を前記出力部材と前記第1モータとに分割して伝達する動力分割機構とを備え、
前記動力分割機構は、前記エンジンに連結された入力要素と、前記第1モータに連結された反力要素と、前記出力部材に連結された出力要素との少なくとも三つの回転要素を含み、
加速要求に基づく要求エンジントルクに応じたトルクを前記駆動輪に作用させるべく前記第1モータが前記要求エンジントルクに対する反力トルクを出力するように構成されたハイブリッド車両の制御装置であって、
前記ハイブリッド車両を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記加速要求に基づいてエンジン回転数を増大させる場合に、前記エンジンが現在出力することが許容される最大トルクを算出し、
前記最大トルクが前記加速要求に基づいて定まるエンジン指令トルク以下の場合に、前記最大トル
クと前記エンジン回転数を前記加速要求に応じた目標回転数に増大させるために要するイナーシャトル
クとの和が予め定めた閾
値より小さいか否かを判断し、
前記最大トル
クと前記イナーシャトル
クとの前記和が前記閾値より小さいと判断された場合に、前記最大トル
クと前記イナーシャトルクとの絶対値が同等になるように目標イナーシャトルクを求め、
前記第1モータの出力トルクを、前記エンジンが現在出力することが許容される前記最大トルクに応じたトルクを前記駆動輪に作用させるトルクと、前記目標イナーシャトルクと、に応じたトルクに制御するように構成さ
れ、
前記最大トルクと前記イナーシャトルクとの和が前記閾値以上と判断された場合に、前記最大トルクと前記イナーシャトルクとの絶対値が同等になるように前記目標イナーシャトルクを求めることを行わない
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記閾値は、「0」または「0」に近似する値とされていて、前記第1モータが出力す
るトルクは、「0」または「0」に近似す
るトルクであることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項
2に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記イナーシャトルクと前記最大トルクとは同じトルクの大きさである
ことを特徴するハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1か
ら3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記エンジンは、目標空燃比が理論空燃比を含む予め定めた値の空燃比に設定されたストイキ燃焼モードと、前記目標空燃比が前記ストイキ燃焼モードでの空燃比よりリーン側の空燃比に設定されたリーン燃焼モードとを選択して運転されるように構成され、
前記最大トルクは、前記ストイキ燃焼モードあるいは前記リーン燃焼モードでの最大トルクであり、
前記コントローラは、
前記リーン燃焼モードから前記ストイキ燃焼モードに切り替わった場合に、前記エンジンの出力を前記リーン燃焼モードにおける最大トルクを上限とするように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1か
ら4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記エンジンは過給機を備え、
前記最大トルクは、前記過給機の回転数が所定の低回転数である場合のトルクである
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
請求項1か
ら5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記ハイブリッド車両は、前記駆動輪と前記出力要素との間の動力伝達経路に連結された第2モータを備え、
前記コントローラは、
前記加速要求に基づいて前記エンジン回転数を増大させる場合に、前記エンジンで不足する分のトルクを前記第2モータにより出力するように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力源としてエンジンと発電機能のあるモータとを備えたハイブリッド車両を対象とする制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動力源としてエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両の制御装置が記載されている。この特許文献1に搭載されたハイブリッド車両は、遊星歯車機構からなる動力分割機構のキャリヤにエンジンが連結され、第1モータが動力分割機構におけるサンギヤに連結され、またリングギヤが出力部材に連結され、さらにその出力部材に対してトルクを付加できるように第2モータが設けられている。したがって、動力分割機構を構成している遊星歯車機構における共線図上では、第1モータが連結されているサンギヤと、第2モータのトルクが伝達されるリングギヤとの間に、エンジンが連結されているキャリヤが位置することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている制御装置では、エンジンおよび各モータを動作させるハイブリッド走行モードで走行する際に、第1モータは、エンジン回転数の制御、ならびに、エンジントルクに応じたトルクを出力するように制御される。その場合、第1モータは、要求駆動力などに応じた正回転方向のエンジントルクに対する反力トルクをエンジンの回転方向とは反対方向(負回転方向)に出力し、第1モータはいわゆる反力受けとして機能する。ハイブリッド走行モードで走行している状態で、加速要求があると、エンジントルクおよびエンジン回転数を増大させることになる。その場合、第1モータは発電に伴ういわゆる負トルクによってエンジン回転数の増大を抑えてエンジン回転数を最適燃費運転点に制御している。なお、その負トルクが動力分割機構を構成している差動機構のギヤ比に応じたトルクとなり、エンジンの出力トルクは、その負トルクによって増大させられる駆動トルク(直達トルク)として作用している。
【0005】
一方、近年、モータを主な駆動力源として搭載した車両が増大しており、エンジンよりモータの方が出力可能なトルクが大きい場合がある。また、車両の状態(例えばエンジンがリーン燃焼の場合など)によっては、エンジンの出力可能なトルクが制限される場合がある。そのような場合、エンジンは、出力トルクが制限されていることにより、運転者の要求するトルクを出力できない場合がある。その場合に、第1モータは、加速要求に応じてエンジン回転数を増大させる、あるいは、制御することになる。つまり、エンジントルクが制限されているにも拘わらず、加速要求に応じてエンジン回転数を増大させるなどの制御を行うことになる。そのような場合、第1モータが出力するトルクの一部は、エンジンや第1モータの回転数を引き上げるために消費され、その分、駆動トルクが小さくなる。すなわち第1モータを駆動するエネルギーの一部は駆動トルクとはならないので、電力を不要に消費し、ひいては電力ロスとなるとともにモータの電費が悪化するおそれがある。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目して創作されたものであり、エンジンの出力可能なトルクが所定より小さい場合において、モータの電費が悪化することを抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、エンジンと、駆動輪に駆動力を伝達する出力部材と、発電機能のある第1モータと、前記エンジンが出力した駆動力を前記出力部材と前記第1モータとに分割して伝達する動力分割機構とを備え、前記動力分割機構は、前記エンジンに連結された入力要素と、前記第1モータに連結された反力要素と、前記出力部材に連結された出力要素との少なくとも三つの回転要素を含み、加速要求に基づく要求エンジントルクに応じたトルクを前記駆動輪に作用させるべく前記第1モータが前記要求エンジントルクに対する反力トルクを出力するように構成されたハイブリッド車両の制御装置であって、前記ハイブリッド車両を制御するコントローラを備え、前記コントローラは、前記加速要求に基づいてエンジン回転数を増大させる場合に、前記エンジンが現在出力することが許容される最大トルクを算出し、前記最大トルクが前記加速要求に基づいて定まるエンジン指令トルク以下の場合に、前記最大トルクと前記エンジン回転数を前記加速要求に応じた目標回転数に増大させるために要するイナーシャトルクとの和が予め定めた閾値より小さいか否かを判断し、前記最大トルクと前記イナーシャトルクとの前記和が前記閾値より小さいと判断された場合に、前記最大トルクと前記イナーシャトルクとの絶対値が同等になるように目標イナーシャトルクを求め、前記第1モータの出力トルクを、前記エンジンが現在出力することが許容される前記最大トルクに応じたトルクを前記駆動輪に作用させるトルクと、前記目標イナーシャトルクと、に応じたトルクに制御するように構成され、前記最大トルクと前記イナーシャトルクとの和が前記閾値以上と判断された場合に、前記最大トルクと前記イナーシャトルクとの絶対値が同等になるように前記目標イナーシャトルクを求めることを行わないことを特徴とするものである。
【0010】
また、この発明では、前記閾値は、「0」または「0」に近似する値とされていて、前記第1モータが出力するトルクは、「0」または「0」に近似するトルクであってよい。
【0011】
また、この発明では、前記イナーシャトルクと前記最大トルクとは同じトルクの大きさであってよい。
【0012】
また、この発明では、前記エンジンは、目標空燃比が理論空燃比を含む予め定めた値の空燃比に設定されたストイキ燃焼モードと、前記目標空燃比が前記ストイキ燃焼モードでの空燃比よりリーン側の空燃比に設定されたリーン燃焼モードとを選択して運転されるように構成され、前記最大トルクは、前記ストイキ燃焼モードあるいは前記リーン燃焼モードでの最大トルクであり、前記コントローラは、前記リーン燃焼モードから前記ストイキ燃焼モードに切り替わった場合に、前記エンジンの出力を前記リーン燃焼モードにおける最大トルクを上限とするように構成されていてよい。
【0013】
また、この発明では、前記エンジンは過給機を備え、前記最大トルクは、前記過給機の回転数が所定の低回転数である場合のトルクであってよい。
【0014】
また、この発明では、前記ハイブリッド車両は、前記駆動輪と前記出力要素との間の動力伝達経路に連結された第2モータを備え、前記コントローラは、前記加速要求に基づいて前記エンジン回転数を増大させる場合に、前記エンジンで不足する分のトルクを前記第2モータにより出力するように構成されていてよい。
【発明の効果】
【0016】
この発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、加速要求に基づいてエンジン回転数を増大させる場合に、エンジンが現在出力することが可能な最大トルクを算出し、その最大トルクが前記エンジン回転数を増大させるために要するイナーシャトルクより小さいか否かを判断するように構成されている。そして、前記算出した最大トルクがイナーシャトルクより小さいと判断された場合には、第1モータの出力を予め定められた所定値以下に制御するように構成されている。つまり、エンジンの出力トルクが制限されている場合(あるいはエンジンの性能により出力可能なトルクが小さい場合)には、第1モータは、加速要求に応じてエンジン回転数を過度に増大させることがない。そのため、第1モータは、駆動トルクとして寄与しないトルクを出力することを抑制もしくは回避でき、その結果、電力ロスを抑制もしくは回避できる。言い換えれば電費が悪化することを抑制できる。
【0017】
また、この発明によれば、上記のエンジンが出力可能な最大トルクは、エンジンの運転状態に応じて算出するように構成されている。例えばエンジンがリーン燃焼モードである場合には、そのリーン燃焼モードで出力可能なトルクを最大トルクとする。そのため、例えば燃焼モードがリーン燃焼モードからストイキ燃焼モードに切り替わった場合であっても、エンジンの出力トルクは、リーン燃焼モードで出力可能なトルクに制限される。そのため、リーン燃焼モードからストイキ燃焼モードに燃焼モードが切り替わった場合であっても、即座にエンジン回転数やエンジントルクが増大されることがないので、そのエンジン回転数やエンジントルクの増大することによる振動や騒音の発生を抑制でき、その結果、それに起因した違和感や乗り心地の悪化を抑制もしくは回避できる。
【0018】
そして、この発明によれば、上述の第1モータの出力トルクが所定値以下に制御されている場合に、第2モータにより駆動トルクを出力するように構成されている。つまり、加速要求に基づくトルクを第2モータで補うように構成されている。そのため、運転者の要求する加速度は主に第2モータの出力により確保しつつ、上述した第1モータの電力ロスが発生することを抑制もしくは回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明で対象とすることのできるハイブリッド車両におけるパワートレーンの一例を模式的に示す図である。
【
図2】この発明の実施形態で実行される基本制御を説明するためのフローチャートである。
【
図3】この発明の実施形態における制御例であって、特に第1モータの出力制御を説明するためのフローチャートである。
【
図4】ストイキ燃焼モードにおける出力可能なトルクを説明するための図である。
【
図5】この発明の実施形態における他の制御例であって、特に第1モータの出力制御を説明するためのフローチャートである。
【
図6】リーン燃焼モードにおける出力可能なトルクを説明するためのマップである。
【
図7】ターボ回転数が低回転数の場合における出力可能なトルクを説明するためのマップである。
【
図8】リーン燃焼モード時の最大トルクとターボ低回転数時の最大トルクとを合成した場合の最小トルクを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、この発明の実施形態について、図を参照しつつ説明する。先ず、この発明に係る実施形態の制御装置で対象とするハイブリッド車両について説明する。
図1は、ハイブリッド車両Ve(以下、単に車両Veとも記す)のパワートレーンの一例を示すスケルトン図であり、このパワートレーンには、駆動力源としてエンジン(ENG)1、および、第1モータ(MG1)2、ならびに、第2モータ(MG2)3を備えている。車両Veは、エンジン1が出力する動力を、動力分割機構4によって第1モータ2側と駆動軸5側とに分割して伝達するように構成されている。また、第1モータ2で発生した電力を第2モータ3に供給し、第2モータ3が出力する駆動力を駆動軸5および駆動輪6に付加することができるように構成されている。
【0021】
エンジン1は、従来知られているガソリンエンジンや、ディーゼルエンジンなどの種々のエンジンを採用することができ、燃料噴射量や吸入空気量、あるいは点火時期などを制御することにより、出力トルクを変更することができるように構成されている。また、
図1に示す例では、エンジン1には過給機Cが設けられている。この過給機Cは、従来知られた過給機と同様に構成することができ、エンジン1の排気によって駆動されること(ターボチャージャ)により、エンジン1の吸入空気量を増加させることができるように構成されている。すなわち、過給機Cを作動させることにより、エンジン1の出力トルクを増大させることができる。
【0022】
さらに、エンジン1は、目標空燃比が理論空燃比よりリーン側に設定されたリーン燃焼モードと、目標空燃比が理論空燃比を含む予め定められた値に設定されたストイキ燃焼モードとの間で、燃焼モードを選択可能に構成されている。ここで燃焼モードとは、エンジン1の燃焼を決定する要因(例えばアクセル開度、エンジン水温、外気温、触媒温度など)によって特定されるエンジンの運転方式であり、この発明の実施形態では、燃費を重視する場合には、リーン燃焼モードが選択される。また、エンジン水温や外気温などの所定の条件によりストイキ燃焼モードとリーン燃焼モードとで燃焼モードが切り替わるように構成されている。
【0023】
第1モータ2および第2モータ3は、いずれも、駆動電力が供給されることによりトルクを出力するモータとしての機能と、トルクが与えられることにより発電電力を発生する発電機能との両方を兼ね備えた電動機である。それら第1モータ2および第2モータ3としては、例えば、永久磁石式同期モータあるいは誘導モータなどの交流モータが用いられる。なお、上記の第1モータ2および第2モータ3は、バッテリやキャパシタなどからなる蓄電装置7やインバータ8を含む電源部9にそれぞれ電気的に接続されている。そして、第1モータ2および第2モータ3は、電源部9によって制御されて、それぞれモータとして動作し、あるいは発電機として動作し、さらには第1モータ2で発電した電力で第2モータ3をモータとして動作させるように構成されている。
【0024】
動力分割機構4は、エンジン1および第1モータ2と駆動輪6との間でトルクを伝達する伝動機構であり、一例としてサンギヤ10、リングギヤ11、および、キャリヤ12を有する遊星歯車機構によって構成されている。
図1に示す例では、シングルピニオン型の遊星歯車機構が用いられている。遊星歯車機構のサンギヤ10に対して同心円上に、内歯歯車のリングギヤ11が配置されている。これらサンギヤ10とリングギヤ11とに噛み合っているピニオンギヤ13がキャリヤ12によって自転および公転が可能なように保持されている。なお、キャリヤ12がこの発明の実施形態における「入力要素」に相当し、サンギヤ10がこの発明の実施形態における「反力要素」に相当し、ならびに、リングギヤ11がこの発明の実施形態における「出力要素」に相当する。
【0025】
動力分割機構4は、エンジン1および第1モータ2と同一の軸線上に配置されている。動力分割機構4を構成している遊星歯車機構のキャリヤ12に、エンジン1の出力軸1aが連結されている。その出力軸1aは、エンジン1から駆動輪6に到る動力伝達経路において動力分割機構4の入力軸となる。また、キャリヤ12には、エンジン1の出力軸1aが連結されていることに加えて、オイルポンプ14の回転軸14aが連結されている。このオイルポンプ14は、動力分割機構4の潤滑および冷却のため、あるいは第1モータ2や第2モータ3の銅損や鉄損により生じる熱を冷却するために設けられている。そのオイルポンプ14は、オイルの供給用のポンプとして、従来、車両のエンジンや変速機に用いられている一般的な構成のオイルポンプであって、例えばエンジン1によってオイルポンプ14を駆動し、油圧を発生させるように構成されている。
【0026】
遊星歯車機構のサンギヤ10には、第1モータ2が連結されている。第1モータ2は、動力分割機構4に隣接してエンジン1とは反対側(
図1の左側)に配置されている。その第1モータ2のロータ2aに一体となって回転するロータ軸2bが、サンギヤ10に連結されている。なお、ロータ軸2bおよびサンギヤ10の回転軸は中空軸になっている。それらロータ軸2bおよびサンギヤ10の回転軸の中空部に、上記のオイルポンプ14の回転軸14aが配置されている。すなわち、その回転軸14aは、上記の中空部を通ってエンジン1の出力軸1aに連結されている。
【0027】
遊星歯車機構のリングギヤ11の外周部分に、この発明の実施形態における「出力部材」に相当する外歯歯車の第1ドライブギヤ15がリングギヤ11と一体に形成されている。また、動力分割機構4および第1モータ2の回転軸線と平行に、カウンタシャフト16が配置されている。このカウンタシャフト16の一方(
図1での右側)の端部に、上記の第1ドライブギヤ15と噛み合うカウンタドリブンギヤ17が一体となって回転するように取り付けられている。このカウンタドリブンギヤ17は、第1ドライブギヤ15よりも大径に形成されており、第1ドライブギヤ15から伝達されたトルクを増幅させるように構成されている。一方、カウンタシャフト16の他方(
図1での左側)の端部には、カウンタドライブギヤ(ファイナルドライブギヤ)18がカウンタシャフト16に一体となって回転するように取り付けられている。カウンタドライブギヤ18は、終減速機であるデファレンシャルギヤ19のデフリングギヤ(ファイナルドリブンギヤ)20と噛み合っている。したがって、動力分割機構4のリングギヤ11は、上記の第1ドライブギヤ15、カウンタシャフト16、カウンタドリブンギヤ17、カウンタドライブギヤ18、および、デフリングギヤ20からなる出力ギヤ列21を介して、駆動軸5および駆動輪6に動力伝達可能に連結されている。
【0028】
この車両Veのパワートレーンは、上記の動力分割機構4から駆動軸5および駆動輪6に伝達されるトルクに、第2モータ3が出力するトルクを付加することができるように構成されている。具体的には、第2モータ3のロータ3aに一体となって回転するロータ軸3bが、上記のカウンタシャフト16と平行に配置されている。そのロータ軸3bの先端(
図1での右端)に、上記のカウンタドリブンギヤ17と噛み合う第2ドライブギヤ22が一体となって回転するように取り付けられている。したがって、動力分割機構4のリングギヤ11には、上記のようなデフリングギヤ20および第2ドライブギヤ22を介して、第2モータ3が動力伝達可能に連結されている。すなわち、リングギヤ11は、第2モータ3と共に、デフリングギヤ20を介して、駆動軸5および駆動輪6に動力伝達可能に連結されている。
【0029】
上述したハイブリッド車両Veは、エンジン1(ならびに第2モータ3)を動力源としたHV走行モード、第1モータ2、第2モータ3を蓄電装置7の電力で駆動して走行するEV走行モードなどの走行形態が可能である。このような各モードの設定や切り替えは、電子制御装置(ECU)23により実行される。このECU23は、この発明における「コントローラ」に相当し、制御指令信号を伝送するように上記のエンジン1、第1モータ2および第2モータ3などに電気的に接続されている。また、このECU23は、マイクロコンピュータを主体にして構成され、入力されたデータや予め記憶しているデータならびにプログラムを使用して演算を行い、その演算結果を制御指令信号として出力するように構成されている。その入力されるデータは、車速V、アクセル開度Acc、エンジン水温Tw、外気温To、吸入空気量Ia、蓄電装置7の充電残量(SOC)などであり、また予め記憶しているデータは、各走行モードを決めてあるマップ、エンジン1の最適燃費運転点を決めてあるマップ、最大エンジントルクを決めてあるマップ、エンジン1の要求パワーを決めてあるマップなどである。そして、ECU23は、制御指令信号として、エンジン1の始動や停止の指令信号、第1モータ2のトルク指令信号、第2モータ3のトルク指令信号、エンジン1のトルク指令信号などを出力する。なお、
図1では1つのECU23が設けられた例を示しているが、ECUは、例えばエンジン1や各モータ2,3など制御する装置ごと、あるいは制御内容ごとに複数設けられていてもよい。
【0030】
HV走行モードは、上述したようにエンジン1を動力源としてエンジン1および各モータ2,3を動作させて車両Veを走行させる走行モードである。具体的には、エンジン1と動力分割機構4とを連結することにより、エンジン1から出力された動力を駆動輪6に伝達することができる。このようにエンジン1から出力された動力を駆動輪6に伝達する際に、第1モータ2から反力を動力分割機構4に作用させる。そのため、エンジン1から出力されたトルクを駆動輪6に伝達することができるように、動力分割機構4におけるサンギヤ10を反力要素として機能させる。すなわち、第1モータ2は、加速要求に基づく要求エンジントルクに応じたトルクを駆動輪6に作用させるべく前記要求エンジントルクに対する反力トルクを出力する。
【0031】
また、上述した第1モータ2は、通電される電流値やその周波数に応じて回転数を任意に制御することができる。そのため、第1モータ2の回転数を制御して、エンジン回転数Neを任意に制御することができる。具体的には、運転者のアクセルペダルの踏み込み量によって決まるアクセル開度や車速などに応じて要求駆動力が求められる。また、その要求駆動力に基づいてエンジンの要求パワーPe_reqが求められる。さらに、そのエンジンの要求パワーPe_reqと現在のエンジン回転数Neとから運転者の要求する要求エンジントルクTe_reqが求められる。そして、エンジン1の燃費が良好になる最適燃費線からエンジン1の運転点を定める。また、前述のように定められたエンジン1の運転点となるように第1モータ2の回転数が制御される。つまり、エンジン1から動力分割機構4に伝達されるトルクに応じて第1モータ2の出力トルクTmg1あるいは回転数が制御され、具体的には、エンジン回転数Neを目標エンジン回転数に制御するように、第1モータ2の回転数が制御される。この場合、第1モータ2の回転数は連続的に変化させることができるので、エンジン回転数Neも連続的に変化させることができる。
【0032】
図2は、この発明の実施形態における前提となる制御であり、加速要求や要求駆動力に応じてエンジン1に指令するエンジン指令トルクTe_cmdを算出するように構成されている。なお、この
図2の制御の内容は、前掲の特許文献1に記載された制御の内容と同様であるため、簡略化して記載する。先ず、エンジン1の要求パワーPe_reqを求める(ステップS1)。このエンジン1の要求パワーPe_reqは、上述したように運転者のアクセルペダルの踏み込み量によって決まるアクセル開度Accや車速Vに基づいて求まる要求駆動力から求められ、例えば予め用意されたマップ等を参照することにより決定される。
【0033】
ついで、要求エンジントルクTe_reqを求める(ステップS2)。この要求エンジントルクTe_reqは、運転者の要求するエンジントルクであって、運転者のアクセルペダルの操作量などに基づいて求まる値である。したがって、上記の要求駆動力と現在のエンジン回転数Neとから求めることができる。
【0034】
ついで、イナーシャトルクTg_inerを算出する(ステップS3)。このイナーシャトルクTg_inerは、加速要求に基づいてエンジン回転数を増大させる際に要するトルクであって、具体的にはエンジン1および第1モータ2の回転数を変化させるためのトルクである。このイナーシャトルクTg_inerは、フィードバック制御およびフィードフォワード制御により求めることができる。フィードバック制御は、現在時点における実際のエンジン回転数Neと現在時点における目標エンジン回転数Ne_reqとの差を制御偏差として演算する制御である。また、フィードフォワード制御は、現在時点の目標エンジン回転数Ne_reqと1ルーチン後の目標エンジン回転数Ne_req+1との偏差に応じて制御値を決める制御である。そのイナーシャトルクTg_inerを数式で表すと以下の式で表すことができる。
Tg_iner=Tg_fb+Tg_ff…(1)
【0035】
なお、上記のフィードフォワードトルクTg_ffは、1ルーチンの間に増大させるべき目標エンジン回転数の増加量dNeに、エンジン1および第1モータ2のイナーシャモーメントIeを掛け合わせ、さらにエンジン1の軸トルクを第1モータ2の軸トルクに変換するための変換係数Kを掛けて求められる。これを簡略化して表すと以下のように示すことができる。
Tg_ff=Ie・K・dNe/dt…(2)
なお、上記の式(2)において、第2モータ3の回転軸における回転変動に与える影響は比較的少ないため考慮しない。
【0036】
ついで、エンジン1に指令するエンジン指令トルクTe_cmdを算出する。このエンジン指令トルクTe_cmdは、要求エンジントルクTe_reqにエンジン1の軸トルクに変換したイナーシャトルクTe_inerを加えた合算トルクである(ステップS4)。したがって、エンジン1に指令するエンジン指令トルクTe_cmdを簡略化して表すと以下のように示すことができる。
Te_cmd=Te_req+Te_iner…(3)
【0037】
なお、この場合、第1モータ2は、要求エンジントルクTe_reqに対する反力トルクのみを出力する。通常であれば、第1モータ2により、エンジン回転数Neを制御するから、加速要求によってエンジン回転数Neを増大させる場合、第1モータ2の回転数をエンジン回転数Neの増大方向と同じ方向に増大させる。その場合の第1モータ2のいわゆる正回転方向におけるトルクの増大分は、エンジン回転数Neを増大させるために要するイナーシャトルクに相当するトルクである。したがって、エンジン回転数Neを増大させるためのイナーシャトルクに相当する第1モータ2のトルクの増大分は、上記の反力トルク、すなわち駆動トルクを減じるように作用する。そのため、このステップS4では、そのような駆動トルクの低下を抑制するために、イナーシャトルクTe_inerは、エンジン1で出力し、第1モータ2は、要求エンジントルクTe_reqに対する反力トルクのみを出力する。
【0038】
つぎに、出力可能なエンジントルクが制限されている場合の第1モータ2の出力の制御について説明する。上述したように、加速要求があった場合には、
図2の制御例を実行する。一方、エンジン1の出力可能なトルクあるいは許容されるトルクが制限されている場合には、エンジン1は、上述のエンジン指令トルクTe_cmdを出力できないことがある。エンジントルクが指令トルクを出力できない場合としては、例えば、エンジン水温Twが予め定められた所定温度以下の場合、外気温Toが予め定められた所定温度以下の場合、あるいは、モータ軸換算での出力可能なモータトルクがエンジン1が出力可能なトルクより大きく、エンジン1の最大トルクが比較的小さい場合などが想定される。そのような場合、第1モータ2は加速要求を満たすためにエンジン回転数Neを増大させるためのトルクを出力することがあるが、そのトルクは、エンジン回転数Neを増大させるだけで駆動力として機能するトルクを発生させないことになる。その場合には、その第1モータ2のトルクは電力ロスとなる。そこで、この発明の実施形態では、そのような電力ロスの発生を抑制するように構成されている。
【0039】
図3は、その制御の一例を示すフローチャートであり、現在出力することが可能なエンジントルクに応じて第1モータ2の反力トルクを制御するように構成されている。なお、この制御例は、例えば車両Veが停車状態から発進する場合に実行される。先ず、現状のエンジン1で出力可能な最大トルクTe_maxを算出する(ステップS10)。これは、エンジン1がストイキ燃焼モードで、現在出力することが許容される最大トルクを意味し、例えば
図4に示すようなマップから算出することができる。つまり、機械的に出力可能なトルクではなく、制御上、出力することが許容される最大トルクを意味する。また、上述したように、エンジン1は、エンジン水温Twや外気温Toなどに応じて出力可能なトルクが決定される。なお、ストイキ燃焼モードとは、上述したように、目標空燃比が理論空燃比を含む予め定められた値に設定された燃焼モードをいう。
【0040】
ついで、その算出した最大トルクTe_maxが上述のステップS4で算出したTe_cmdより大きいか否かを判断する(ステップS11)。これは、現状のエンジン1の最大トルクにより、ステップS4で算出した指令トルクを出力できるか否かを判断するステップである。したがって、このステップS11で否定的に判断された場合、すなわち現在出力することが可能な最大トルクTe_maxよりエンジン指令トルクTe_cmdの方が大きい場合には、指令トルクTe_cmd1を最大トルクTe_maxに更新する(ステップS12)。つまり、指令トルクTe_cmd1を現在出力することが可能な最大トルクTe_maxに補正する。
【0041】
それとは反対に、このステップS11で肯定的に判断された場合、すなわち現在出力することが可能な最大トルクTe_maxの方がエンジン指令トルクTe_cmdより大きい場合には、エンジン指令トルクTe_cmd1は、ステップS4で算出した指令トルクをそのまま更新する(ステップS13)。言い換えれば、ステップS4で算出した指令トルクを維持する。
【0042】
ついで、更新した指令トルクTe_cmd1とイナーシャトルクTe_inerとの和が予め定められた閾値β未満か否かを判断する(ステップS14)。このステップは、指令トルクTe_cmd1によりイナーシャトルクTe_inerを担保できるか否かを判断するステップであり、閾値βは「0」あるいは「0」に近似した予め定められた値とされる。またイナーシャトルクTe_inerは、上述の
図2のステップS3で算出したイナーシャトルクであり、Te_cmd1は、現在出力することが可能なトルクを最大として決定されたエンジントルクであるから、指令トルクTe_cmd1がステップS4で算出した指令トルクから制限されている場合には、トルクの大きさ(絶対値)としてはイナーシャトルクTe_inerの方が大きくなることが通常である。したがって、そのようにイナーシャトルクTe_inerの方が指令トルクTe_cmd1よりトルクの大きさとして大きい場合には、このステップS14で肯定的に判断される。言い換えれば、このステップS14は、閾値βを「0」とした場合に、指令トルクTe_cmd1とイナーシャトルクTe_inerとの和が負の値あるか否かを判断するステップである。これを簡略化して数式で示すと以下のように示すことができる。
Te_cmd1+Te_iner<β…(4)
なお、上記の式(4)において、イナーシャトルクTe_inerを右辺に展開した場合には、閾値βを「0」として、絶対値で判断すると、Te_cmd1<Te_inerとなる。つまり、このステップS14では、指令トルクTe_cmd1はイナーシャトルクTe_inerより小さいか否かを判断しているとも言える。
【0043】
したがって、このステップS14で肯定的に判断された場合、すなわち指令トルクTe_cmd1とイナーシャトルクTe_inerとの和がβ未満である場合には、指令トルクTe_cmd1とイナーシャトルクTe_inerとが同等となるように、目標のイナーシャトルクTe_iner_trgを決定する(ステップS15)。上述したように、この
図3に示す制御例では、エンジントルクが制限されている場合に第1モータ2の電力ロスを抑制することを目的としている。そのため、エンジン回転数Neの増大に要するイナーシャトルクTe_inerは、現在、エンジン1が出力することが可能なトルクに応じた大きさに制御する。つまり、加速要求に基づいて増大させるエンジン回転数変化率dNe_maxを指令トルクTe_cmd1で満たすことができる変化率に制御する。言い換えれば、ステップS3で算出した加速要求に基づくイナーシャトルクTe_inerを、エンジン回転数Neの上昇を抑制するために
、現在出力することが可能な最大トルク(すなわち指令トルクTe_cmd1)で出力可能な値に補正する。なお、イナーシャトルクTe_inerが補正されたことにより、運転者の要求を満たさない分の駆動トルクは、第2モータ3により出力する。
【0044】
そして、それに対応するように、第1モータ2の出力トルクを制御する(ステップS16)。第1モータ2のトルクは、指令トルクTe_cmd1に対する反力トルクと上記のエンジン回転数を増大させるイナーシャトルクTe_inerとの関係から算出される。これを数式で示すと以下のように示すことができる。
Tmg1=-ρ/(1+ρ)・Te_cmd1+Tg_iner_trg…(5)
なお、上記の式(5)の「-ρ/(1+ρ)・T_cmd1」は上述した反力トルクを示し、また、前述した動力分割機構4を構成している遊星歯車機構における各回転要素のトルクの関係は、そのギヤ比(サンギヤ10の歯数とリングギヤ11の歯数との比)ρに基づいて決まるから、上記の式(5)を利用して第1モータ2によって出力するトルクTmg1を求めることができる。
【0045】
上述のステップS15で説明したように、イナーシャトルクTe_iner_trgと、指令トルクTe_cmd1とは、閾値βを「0」または「0」に近似した値であるとすれば、ほぼ釣り合った状態であるから、上記の式(5)にTe_cmd1と、イナーシャトルクTe_iner_trgとを代入すると、第1モータ2の出力トルクTmg1は「0」あるいは「0」に近似した値となる。つまり、第1モータ2は、この加速過渡期においては、反力トルクをほぼ出力せず、エンジン1の指令トルクTe_cmd1によりエンジン回転数Neが目標の回転数まで増大させられる。そして、エンジン回転数Neが、その目標の回転数まで増大させられた後に、第1モータ2が反力トルクを出力することで、エンジントルクによる駆動力が発生する。なお、第1モータ2が反力トルクを出力していない間の加速要求に応じたトルクは、第2モータ3により出力し、第1モータ2が反力トルクを出力し始めたら、その第2モータ3のトルクを低減させる。なお、上述のステップS14で否定的に判断された場合、すなわち上記の式(4)の和がβ以上の値の場合には、この制御例を一旦終了する。
【0046】
つぎに、この発明の実施形態における作用について説明する。上述したように、この発明の実施形態では、加速要求があった際に、所定の条件が成立していることによりエンジン1の出力が比較的小さい場合には、エンジン回転数Neを増大させるためのイナーシャトルクTe_inerを、現在エンジン1が出力できるトルクの大きさに制御し、それに応じて第1モータ2の出力を制御するように構成されている。つまり、第1モータ2の出力は、現在エンジン1が出力可能なトルクの大きさに応じたものになる。そのため、第1モータ2は、過度にエンジン回転数を増大させるためのトルクを出力することを回避もしくは抑制でき、その結果、駆動力として発生しないトルクを出力することを回避もしくは抑制できる。すなわち電力ロスが発生することを回避もしくは抑制できる。また、そのように電力ロスが発生することを抑制できるから電費が悪化することをも抑制できる。
【0047】
また、上述のように、エンジン最大トルクTe_maxが比較的小さい、あるいは制限されている場合には、運転者の要求する加速度を満たさないおそれがあるものの、エンジントルクで出力できない分のトルクは第2モータ3のトルクにより出力するように構成されている。したがって、運転者の加速要求を満たしつつ、上記の電力ロスが発生することを抑制できる。
【0048】
つぎに、この発明の実施形態における他の例について説明する。上述したように、エンジン1の出力可能なトルクは所定の条件により制限される場合がある。例えば、燃費を重視するためにエンジン1の燃焼モードをリーン燃焼モードとして走行する場合、あるいは、排気温度が低いことなどによりコンプレッサおよびタービンの回転数であるターボ回転数(過給回転数とも称される)が低回転数である場合には、エンジン1の出力が制限される。以下に示す制御例では、そのようなリーン燃焼モードの場合や、ターボ回転数が低回転数の場合における第1モータ2の出力制御について説明する。なお、上述の
図3の制御例と同様のステップあるいは同様の制御内容については、省略あるいは簡略化して説明する。
【0049】
図5は、その制御の一例を示すフローチャートであり、先ず、現状のエンジン1で出力可能な最大トルクTe_maxを算出し、その算出した最大トルクTe_maxがステップS4で算出した指令トルクTe_cmdより大きいか否かを判断する(ステップS10~ステップS11)。このステップS11で否定的に判断された場合、すなわちステップS4で算出した指令トルクTe_cmdの方が最大トルクTe_maxより大きいと判断された場合には、指令トルクTe_cmd1を最大トルクTe_maxに更新する(ステップS12)。それとは反対に、ステップS4の指令トルクの方が最大トルクTe_maxより大きいと判断された場合には、指令トルクTe_cmd1をそのまま更新する(ステップS13)。
【0050】
ついで、リーン燃焼モードにおける最大エンジントルクTe_max1を算出する(ステップS20)。
図6は、そのリーン燃焼モードにおける最大エンジントルクTe_max1を説明する図であり、破線がストイキ燃焼モードを示し、実線がリーン燃焼モードを示している。つまり、リーン燃焼モードでは、出力可能なエンジントルクは制限される。同様に、ターボ回転数が低回転の場合の最大エンジントルクTe_max2を算出する(ステップS30)。
図7は、ターボ回転数に応じた最大エンジントルクTe_max2を説明する図であり、ターボ回転数が低い場合には、出力可能なエンジントルクは制限される。なお、このステップ20とステップS30とは同時に実行されてもよく、またこの順序は反対であってもよい。
【0051】
ついで、上述のステップS12あるいはステップS13で算出した指令トルクTe_cmd1がリーン燃焼時の最大トルクTe_max1とターボ低回転時の最大トルクTe_max2との小さい方のトルクに所定の係数αを積算した値より小さいか否かを判断する(ステップS40)。現在の指令トルクTe_cmd1は、ストイキ燃焼モードに応じたエンジントルクを最大として設定されている。一方、その指令トルクTe_cmd1よりリーン燃焼モードの場合やターボ回転数が低回転数の場合における出力可能なトルクが小さい場合がある。その場合には、指令トルクTe_cmd1をその小さい出力トルクに更新することが好ましい。そこで、このステップ40では、ステップS12あるいはステップS13で算出した指令トルクTe_cmd1と、リーン燃焼モード時およびターボ低回転数時の出力可能なトルクとを比較するように構成されている。なお、所定の係数αは、「1」に近似した予め定められた値であり、この発明の実施形態では、「1」より僅かに大きい値を係数としている。また、
図8は、上記の
図6のマップと
図7のマップとを重ね合わせた図であって、最小トルクをプロットして結んだ線を太い破線で示し、その太い破線で結んだ最小トルクに上述の係数αを積算した線を太い実線で示している。
【0052】
したがって、このステップS40で肯定的に判断された場合、すなわちステップS12あるいはステップS13で算出した指令トルクTe_cmd1の方が係数αを積算した最小トルクより大きい場合には、その指令トルクTe_cmd1を、
図8の太い実線で示す最小トルクに更新し(ステップS50)、ステップS14へ進む。
【0053】
それとは反対に、このステップS40で否定的に判断された場合、すなわち指令トルクTe_cmd1の方が、係数αを積算した最小トルクより小さい場合には、指令トルクTe_cmd1は、そのままの値を維持し、ステップ14へ進む。
【0054】
ステップS14は、上述の
図3の制御例で説明した通りであり、更新した指令トルクTe_cmd1とイナーシャトルクTe_inerとの和が予め定められた閾値β未満か否かを判断するステップである。つまり、イナーシャトルクTe_inerをリーン燃焼モードなどにより制限された指令トルクTe_cmd1で出力できるか否かを判断する。言い換えれば、指令トルクTe_cmd1は、イナーシャトルクTe_inerより小さいか否かを判断する。なお、通常、加速要求がされた場合、イナーシャトルクTe_inerは大きく、それに応じて指令トルクが決定され、現在の指令トルクTe_cmd1は、その指令トルクが制限された状態であるから、イナーシャトルクTe_inerの方が指令トルクTe_cmd1より大きくなる。したがって、通常、このステップS14では肯定的になる。
【0055】
ついで、指令トルクTe_cmd1とイナーシャトルクとが同等となるように、目標のイナーシャトルクTe_iner_trgを決定する(ステップS15)。つまり、エンジン1は、
図8で示した太い実線のトルクを最大トルクとして出力し、その最大トルクに応じてエンジン回転数Neを増大させる。そして、第1モータ2の出力トルクTmg1は、指令トルクTe_cmd1とイナーシャトルクTe_iner_trgとの関係で決まり(ステップS16)、上述の閾値βを「0」あるいは「0」に近似した値とした場合には、イナーシャトルクTe_iner_trgと指令トルクTe_cmd1とは釣り合う状態となるから、第1モータ2の出力トルクも「0」あるいは「0」に近似した値となる。なお、この場合において、運転者の要求を満たさない分の駆動トルクは、第2モータ3により出力する。
【0056】
このように
図5に示す制御例では、リーン燃焼モードの場合やターボ回転数が低回転の場合における出力可能なエンジントルクを考慮するように構成されている。例えば、燃費を重視して走行するような場合には、リーン燃焼モードが選択されるが、その状態でエンジン水温Twや外気温Toが低い場合には、エンジン1をリーン燃焼させて運転できず、燃焼モードがリーン燃焼モードからストイキ燃焼モードに切り替わる。そのような場合、ストイキ燃焼モードの方がリーン燃焼モードより出力トルクが大きく、エンジン回転数の変化率も大きいので、急に燃焼モードが切り替わることによる騒音や振動を要因として運転者に違和感は不快感を与えることがある。一方、この発明の実施形態では、指令トルクTe_cmd1をそのリーン燃焼モードで出力可能なトルクに制御するように構成されている。そのため、外気温Toが所定温度未満、あるいは、エンジン水温Twが所定温度未満など所定の条件が成立することによりリーン燃焼モードからストイキ燃焼モードへ切り替わった場合であっても、急激にエンジントルクが増大すること、ならびに、エンジン回転数Neが増大することを抑制できる。言い換えれば、リーン燃焼モード時における滑らかなトルク変化および回転数変化を維持する。したがって、そのような急激なトルクや回転数の変動がないため、上記の騒音や振動による違和感、ならびに、乗り心地の悪化を回避もしくは抑制できる。
【0057】
また、上述のように、エンジン最大トルクTe_maxが制限される場合には、運転者の要求する加速度を満たさないおそれがあるものの、エンジントルクで出力できない分のトルクは主に第2モータ3のトルクにより補償するように構成されている。したがって、運転者の加速要求を満たしつつ、上記の騒音や振動による違和感を運転者に与えること、ならびに、乗り心地が悪化することを回避もしくは抑制できる。
【0058】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上述した例に限定されないのであって、この発明の目的を達成する範囲で適宜変更してもよい。上述した実施形態では、ステップS14で閾値βが「0」あるいは「0」に近似した値として説明したものの、例えばエンジン1から駆動輪6に機械的に伝達されるトルク(直達トルク)を出力させるような場合には、閾値βを正の値として、第1モータ2による反力を発生させるように構成してもよい。また蓄電装置7の蓄電残量や第2モータ3の出力可能な電力(Wout)に応じて設定してもよい。つまり、閾値βに応じて第1モータ2の出力を予め定められた所定値以下に制御してよい。
【0059】
また、上述の
図1で説明したパワートレーンでは、動力分割機構4をシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成したものの、ダブルピニオン型の遊星歯車機構やラビニヨ型の遊星歯車機構により構成してもよい。また、エンジン1の最大トルクが制限される場合の例としては、上述したリーン燃焼時、ターボ低回転数時などに限られず、一部の気筒の燃焼を休止する減筒運転時を含んでもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 エンジン(ENG)
2 第1モータ(MG1)
3 第2モータ(MG2)
4 動力分割機構(伝動機構)
6 駆動輪
10 サンギヤ
11 リングギヤ
12 キャリヤ
15 第1ドライブギヤ
23 電子制御装置(ECU)
C 過給機
Ve 車両