(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】フィルタープレス型の透析装置、及びばね治具
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20231121BHJP
B01D 61/50 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/50
(21)【出願番号】P 2020049575
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503361709
【氏名又は名称】株式会社アストム
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(72)【発明者】
【氏名】久保 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】梅本 英治
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-221507(JP,A)
【文献】特開2016-209865(JP,A)
【文献】特開2012-061388(JP,A)
【文献】特開2005-133751(JP,A)
【文献】実開平03-002935(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0301732(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46- 1/48
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
A61M 1/00- 1/38
A61M 60/00-60/90
B01D 25/00-25/38
F16F 1/00- 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換膜とガスケットとが交互に積層された積層物の積層方向の両側に一対の締付枠が配置されたスタックを備えた透析槽と、前記透析槽を固定プレス盤と移動プレス盤とで挟み移動プレス盤側から押圧して前記積層方向に締め付ける押圧部材を有するプレス機と、を備えたフィルタープレス型の透析装置であって、
前記移動プレス盤と前記押圧部材との間に配置されるばね治具を備え、
前記ばね治具は、前記移動プレス盤と前記押圧部材とに当接する一対のばね固定枠と、前記一対のばね固定枠に挟まれ支持されるばねと、前記一対のばね固定枠の分離を防止する連結機構と、を備えるフィルタープレス型の透析装置。
【請求項2】
前記一対のばね固定枠には、前記一対のばね固定枠の一方と前記一対のばね固定枠の他方との相対的な移動量を示すガイドが配設されている請求項1に記載のフィルタープレス型の透析装置。
【請求項3】
前記ガイドは、前記移動量に応じた所定の圧力範囲を示す表示部を備えている請求項2に記載のフィルタープレス型の透析装置。
【請求項4】
前記プレス機には、前記移動プレス盤を水平方向にスライドさせる一対のサイドバーが配設され、
前記ばね治具は、前記一対のサイドバーに掛け渡される一対のアーム部を備え、
前記プレス機の前記押圧部材が前記ばね治具を介して前記移動プレス盤を押圧すると、前記一対のアーム部が前記サイドバー上を滑り前記ばね治具が前記一対のサイドバー上を移動する請求項1から3のいずれかに記載のフィルタープレス型の透析装置。
【請求項5】
前記ばねは、コイルばねである請求項1から4のいずれかに記載のフィルタープレス型の透析装置。
【請求項6】
前記透析槽は、陽極と陰極との間に前記スタックが設けられた構造を備える電気透析槽である請求項1から5のいずれかに記載のフィルタープレス型の透析装置。
【請求項7】
イオン交換膜とガスケットとが交互に積層された積層物の積層方向の両側に一対の締付枠が配置されたスタックを備えた透析槽と、前記透析槽を固定プレス盤と移動プレス盤とで挟み前記移動プレス盤側から押圧して前記積層方向に締め付ける押圧部材を有するプレス機と、を備えたフィルタープレス型の透析装置の前記移動プレス盤と前記押圧部材との間に配置されるばね治具であって、
前記ばね治具は、前記移動プレス盤と前記押圧部材とに当接する一対のばね固定枠と、前記一対のばね固定枠に挟まれ支持されるばねと、前記一対のばね固定枠の分離を防止する連結機構と、を備えるばね治具。
【請求項8】
前記一対のばね固定枠には、前記一対のばね固定枠の一方と前記一対のばね固定枠の他方との相対的な移動量を示すガイドが配設されている請求項7に記載のばね治具。
【請求項9】
前記ガイドは、前記移動量に応じた所定の圧力範囲を示す表示部を備えている請求項8に記載のばね治具。
【請求項10】
前記ばね治具は、前記プレス機に配設され前記移動プレス盤がスライドする一対のサイドバーに掛け渡され、前記一対のサイドバーに沿ってスライド可能な一対のアーム部を備える請求項7から9のいずれかに記載のばね治具。
【請求項11】
前記ばねは、コイルばねである請求項7から10のいずれかに記載のばね治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタープレス型の透析装置、及びフィルタープレス型の透析装置に配設されるばね治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、イオン交換膜とガスケットとが交互に積層された積層物の積層方向の両側に一対の締付枠が配置されたスタックを備えた透析槽と、前記透析槽を固定プレス盤と移動プレス盤とで挟み移動プレス盤側から押圧して前記積層方向に締め付ける押圧部材を有するプレス機と、を備えたフィルタープレス型の透析装置が知られている。
【0003】
フィルタープレス型の透析装置としては、例えば、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とをガスケットを間に介在させながら交互に配列して脱塩室及び濃縮室を構成したスタックを一対の電極間に配設した電気透析槽を備え、脱塩室に食塩を含む被処理液を供給して、前記一対の電極に直流電流を通すことにより、該被処理液から塩分を除去して脱塩液と濃縮液とを生成する電気透析装置が知られている(例えば、特許文献1、2を参照。)。
【0004】
また、フィルタープレス型の透析装置の他の例としては、例えば、酸の回収を目的とするものであって、陰イオン交換膜とガスケットとを交互に配列して酸廃液を供給する室と水を供給する室とを構成して複数積層したスタックを有する透析槽を備え、酸廃液に含まれる有効酸を濃度差によって陰イオン交換膜を透過させて水側に拡散移動させて前記有効酸を回収する拡散透析装置が知られている(例えば、特許文献3を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-14776号公報
【文献】特開2016-209865号公報
【文献】特開2016-221507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1~3に記載されたフィルタープレス型の透析装置は、透析槽を、押圧部材を有するプレス機の固定プレス盤と移動プレス盤とで挟み、移動プレス盤側から前記押圧部材によって押圧し、イオン交換膜とガスケットとを積層方向に締め付けて所定の締付圧力として、押圧部材を固定するようになっている。このようにすることで、電気透析装置である場合は、脱塩室及び濃縮室を構成するガスケットを弾性変形させ、また、拡散透析装置である場合は、酸廃液を供給する室、及び水を供給する室を構成するガスケットを弾性変形させて、イオン交換膜とガスケットとを密着させて処理液の漏洩を防止し締付圧力が保持されるようになっている。
【0007】
しかし、季節的な変化による設置場所の温度変化の影響、流通させる液温の熱的影響、日光による紫外線の影響、流通させる液体の薬液による影響等、様々な要因によって、ガスケットの寸法が厚み方向(前記積層方向)において変化する。ガスケットの厚み方向の寸法が小さくなると、イオン交換膜とガスケットとを密着させる締付圧力が低下して、透析槽から外部に液の漏洩が発生するという問題がある。また、ガスケットの寸法が大きくなると、締付圧力が異常増加し、脱塩室、又は濃縮室の液閉塞が発生し、安全上の問題や、生産される液の品質低下、生産性の低下をもたらすという問題がある。これらの問題に対処するためには、その都度、透析装置の作動を停止して、イオン交換膜とガスケットとを積層した積層物の積層方向にて透析槽を締め付ける締付圧力を調整する必要があり、生産性の低下をもたらしていた。
【0008】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、透析槽を構成するガスケットの厚み方向の寸法が変化しても、プレス機の押圧部材による締結圧力を長時間保持することができるフィルタープレス型の透析装置、及びばね治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、イオン交換膜とガスケットとが交互に積層された積層物の積層方向の両側に一対の締付枠が配置されたスタックを備えた透析槽と、前記透析槽を固定プレス盤と移動プレス盤とで挟み移動プレス盤側から押圧して前記積層方向に締め付ける押圧部材を有するプレス機と、を備えたフィルタープレス型の透析装置であって、前記移動プレス盤と前記押圧部材との間に配置されるばね治具を備え、前記ばね治具は、前記移動プレス盤と前記押圧部材とに当接する一対のばね固定枠と、前記一対のばね固定枠に挟まれ支持されるばねと、前記一対のばね固定枠の分離を防止する連結機構と、を備えるフィルタープレス型の透析装置が提供される。
【0010】
本発明のフィルタープレス型の透析装置においては、
前記一対のばね固定枠には、前記一対のばね固定枠の一方と前記一対のばね固定枠の他方との相対的な移動量を示すガイドが配設されていること、
前記ガイドは、前記移動量に応じた所定の圧力範囲を示す表示部を備えていること、
前記プレス機には、前記移動プレス盤を水平方向にスライドさせる一対のサイドバーが配設され、前記ばね治具は、前記一対のサイドバーに掛け渡される一対のアーム部を備え、前記プレス機の前記押圧部材が前記ばね治具を介して前記移動プレス盤を押圧すると、前記一対のアーム部が前記サイドバー上を滑り前記ばね治具が前記一対のサイドバー上を移動するように構成されていること、
前記ばねは、コイルばねであること、
前記透析槽は、陽極と陰極との間に前記スタックが設けられた構造を備える電気透析槽であること、
が好ましい。
【0011】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、イオン交換膜とガスケットとが交互に積層された積層物の積層方向の両側に一対の締付枠が配置されたスタックを備えた透析槽と、前記透析槽を固定プレス盤と移動プレス盤とで挟み前記移動プレス盤側から押圧して前記積層方向に締め付ける押圧部材を有するプレス機と、を備えたフィルタープレス型の透析装置の前記移動プレス盤と前記押圧部材との間に配置されるばね治具であって、前記ばね治具は、前記移動プレス盤と前記押圧部材とに当接する一対のばね固定枠と、前記一対のばね固定枠に挟まれ支持されるばねと、前記一対のばね固定枠の分離を防止する連結機構と、を備えるばね治具が提供される。
【0012】
本発明のばね治具においては、
前記一対のばね固定枠には、前記一対のばね固定枠の一方と前記一対のばね固定枠の他方との相対的な移動量を示すガイドが配設されていること、
前記ガイドは、前記移動量に応じた所定の圧力範囲を示す表示部を備えていること、
前記ばね治具は、前記プレス機に配設され前記移動プレス盤がスライドする一対のサイドバーに掛け渡され、前記一対のサイドバーに沿ってスライド可能な一対のアーム部を備えていること、
前記ばねは、コイルばねであること、
が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフィルタープレス型の透析装置は、移動プレス盤と押圧部材との間に配置されるばね治具を備え、前記ばね治具は、前記移動プレス盤と前記押圧部材とに当接する一対のばね固定枠と、前記一対のばね固定枠に挟まれ支持されるばねと、前記一対のばね固定枠の分離を防止する連結機構と、を備えていることにより、透析槽のスタックを構成するガスケットの寸法に変化が生じたとしても、ばね治具に配設されたばねの撓みによって該変化に対応して、スタックに対する締付圧力が適正締付圧力に維持され、長時間運転を実施する場合であっても、移動プレス盤よる締付圧力の再調整を要しないという効果を奏する。
【0014】
また、本発明のばね治具は、フィルタープレス型の透析装置の移動プレス盤と押圧部材との間に配置されるばね治具であって、前記移動プレス盤と前記押圧部材とに当接する一対のばね固定枠と、前記一対のばね固定枠に挟まれ支持されるばねと、前記一対のばね固定枠の分離を防止する連結機構と、を備えていることにより、このばね治具をフィルタープレス型の透析装置に配設した場合に、透析槽のスタックを構成するガスケットの寸法に変化が生じたとしても、ばね治具に配設されたばねの撓みによって該変化に対応して、スタックに対する締付圧力が適正締付圧力に維持され、長時間運転を実施する場合であっても、移動プレス盤よる締付圧力の再調整を要しないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】フィルタープレス型電気透析装置、及びばね治具の斜視図である。
【
図2】(a)
図1に示すばね治具の斜視図、(b)(a)に示すばね治具の側面図である。
【
図3】
図1に示すフィルタープレス型電気透析装置にばね治具を配設し、押圧部材によって移動プレス盤を押圧している態様を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示すフィルタープレス型電気透析装置のばね治具を含む領域の一部を拡大して示す平面図である。
【
図5】(a)定常状態におけるばね治具のガイドを含む領域を拡大して示す平面図、(b)(a)に示すばね治具が押圧部材によって押圧された状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に基づいて構成されるフィルタープレス型の透析装置、及びフィルタープレス型の透析装置の移動プレス盤と押圧部材との間に配置されるばね治具に係る実施形態について、添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0017】
図1には、本発明のフィルタープレス型の透析装置の一実施形態として示されるフィルタープレス型電気透析装置1、及びフィルタープレス型電気透析装置1に着脱自在に配設されるばね治具100が示されている。
【0018】
図に示すように、フィルタープレス型電気透析装置1は、透析槽20と、透析槽20を挟み締め付けて押圧するプレス機50と、を備えている。透析槽20は、二つのスタック30、40を備えている。スタック30は、イオン交換膜とガスケットとを交互に積層した積層物を備えている。より具体的には、陽イオン交換膜32、脱塩室用ガスケット33、陰イオン交換膜34、及び濃縮室用ガスケット35を積層したものを一対として、図中矢印Xで示すX軸方向において、複数(例えば110対)積層させた積層物を含み、該積層物の積層方向の両側に一対の締付枠31、36を配置して挟んだものである。締付枠31には締付用の孔311が、締付枠36には、締付用の孔361が外周に沿って複数形成されており、各締付用の孔を利用して、一対の締付枠31、36をスタッドボルト37によって締め付け、該積層物を一体としている。締付用の孔311、361は、スタッドボルト37の径よりも大きい貫通孔であり、スタッドボルト37を締付用の孔311、361に挿通し、図示を省略する適宜のナット、ワッシャーリングを使用して該積層物を締め付ける。また、締付枠31、36の側面には、図中X軸方向に直交するY軸方向に延びる肩部312、362が両側に形成されている(反対側の肩部312、362は示されていない)。
【0019】
スタック40は、スタック30と同一の構成を備えており、シート状に成型された陽イオン交換膜42、脱塩室用ガスケット43、陰イオン交換膜44、及び濃縮室用ガスケット45を積層したものを一対として、X軸方向において、複数(例えば110対)積層させた積層物を含み、該積層物の積層方向の両側に一対の締付枠41、46を配置して挟んでいる。締付枠41には締付用の孔411が、締付枠46にも同様の締付用の孔(図では見えていない)が外周に沿って複数形成されており、各締付用の孔を利用して、一対の締付枠41、46をスタッドボルト47、及び図示を省略する適宜のナット、ワッシャーリングを使用して該積層物を締め付ける。締付枠41、46の側面には、図中Y軸方向に延びる肩部412、462が両側に形成されている。スタック30、及びスタック40に形成される締付用の孔の高さは2段階で用意されており、隣接するスタックでは、異なる高さの締付用の孔が使用される。なお、本実施形態では、透析槽20を2つのスタック(スタック30及びスタック40)により構成しているが、本発明はこれに限定されず、スタックを1つ、又は3つ以上備えるものであってもよい。
【0020】
上記した透析槽20は、上記した二つのスタック30、40を配列させたものであり、スタック30の締付枠36側には陽極を保持する陽極枠22を、スタック40の締付枠41側には陰極を保持する陰極枠24を配置し、所謂電気透析槽を構成している。
【0021】
次に、
図1を参照しながら、プレス機50について説明する。プレス機50は、一対の立設部51、52と、一方(手前側)の立設部51の上部に水平に配置される油圧プレス機支持部53と、立設部51と対向する位置であって他方の立設部52によって支持される固定プレス盤54と、油圧プレス機支持部53と固定プレス盤54とをX軸方向(水平方向)で連結する一対のサイドバー55、55と、油圧プレス機支持部53に支持される油圧プレス機56と、一対のサイドバー55、55に挟まれた領域に配設された移動プレス盤57とを備えている。
【0022】
油圧プレス機56は、油圧ポンプ561と、押圧部材562とを備えている。押圧ポンプ561は、図示を省略する電動モータにより駆動され、押圧部材562をX軸方向に伸長させる。移動プレス盤57は、矢印Yで示すY軸方向の側面に一対の肩部571、571を備えており、一対のサイドバー55、55に肩部571、571を介して支持される。移動プレス盤57の下端部はプレス機50の設置面には触れておらず、また、肩部571、571はサイドバー55、55には固定されていないことから、油圧プレス機56の押圧部材562によって移動プレス盤57の垂直壁572が押圧されることにより、サイドバー55、55上を肩部571、571がスライドして、移動プレス盤57を、X軸方向で対向する固定プレス盤54に向けて移動させることができる。
【0023】
図1に示すように、プレス機50には、上記した構成に加え、ばね治具100が着脱自在に配設される。
図2を参照しながら、本実施形態のばね治具100について具体的に説明する。
【0024】
図2(a)に示すように、ばね治具100は、一対のばね固定枠102、104と、一対のばね固定枠102、104に挟まれ支持されるばね110と、一対のばね固定枠102、104の分離を防止する連結機構120と、一方のばね固定枠102と他方のばね固定枠104との相対的な移動量を示すガイド130が配設されている。
【0025】
ばね固定枠102、104は、厚みのある矩形状の鋼板で構成されている。ばね110は、例えば、コイルばねが好ましく、より具体的には圧縮コイルばねであり、図示の実施形態では、縦横に3列、合計9つの圧縮コイルばねが配設されている。本実施形態に採用されているばね110は、例えば、ばね定数が1,000N/mmであり、外径が70mm、自然長が90mmの強力ばねである。なお、本発明のばねの形態、配設される数については、特にこれに限定されず、周知のばねを任意の数で採用することが可能である。
【0026】
連結機構120は、ばね固定枠102、104におけるY軸方向の両側面において、上下方向の3箇所に第一連結部122、第二連結部124、及び第三連結部126を備えている。第一連結部122は、ばね固定枠102、104にそれぞれ溶接等により固定された平面視で略L字型をなす支持プレート122a、122aを備え、支持プレート122a、122aを、追って説明する形態のボルト122b及びナット122eによって連結している。同様に、第二連結部124、第三連結部126も、ばね固定枠102、104にそれぞれ固定されて平面視で略L字型をなす支持プレート124a、124a、及び支持プレート126a、126aを備え、各支持プレートを、ボルト124b、126bによって連結している。
図2(a)では、Y軸方向における反対側の側面が示されていないが、手前側の第一連結部122、第二連結部124、及び第三連結部126と同様の構成が配設されている。
【0027】
上記した連結機構120について、
図2(a)に加え、
図2(b)に示すばね治具100の側面図を参照しながら、より具体的に説明する。ばね固定枠102、104に固定された支持プレート122a、122aには、
図2(a)に示すように、ボルト122bのねじ部が遊嵌される孔122dがそれぞれに形成されている。ばね固定枠102、104の間に上記したばね110を配設した状態で、支持プレート122a、122aの孔122dにボルト122bを挿入し、
図2(b)に示すように、ボルト122bに対してナット122eを螺合して締め付けて固定する。この連結態様は、第二連結部124、第三連結部126も同様であり、第二連結部124においては、ボルト124bに対してナット124eを螺合して支持プレート124a、124aを締め付け、第三連結部126においては、ボルト126bに対してナット126eを螺合して支持プレート124a、124aを締め付ける。以上のようにして連結することにより、一対のばね固定枠102、104が、9つのばね110を保持した状態となり、連結機構120によって一対のばね固定枠102、104の分離が防止されると共に、ばね固定枠102とばね固定枠104が相対的に近接することが許容される。なお、連結機構120の構成は、上記した形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記したナット122eを使用する代わりに、支持プレート122aの孔122dに対して雌ねじを形成しておき、雌ねじが形成された孔122dにボルト122bの先端側を螺合するようにしてもよい。
【0028】
図1、及び
図2から把握されるように、ばね治具100をプレス機50に配設する際に最も上方に位置づけられる第一連結部122の支持プレート122a、122aは、第二連結部124の支持プレート124a、第三連結部126の支持プレート126aよりもY軸方向で見て長尺に形成された一対のアーム部を構成し、支持プレート122a、122aの外側端部の下面側には、段差部122cが形成されている。ばね治具100をプレス機50に配設する際には、前記した段差部122c、122cを、プレス機50の一対のサイドバー55、55上に載置する。これにより、第一連結部122の一対の支持プレート122a、122aは、ばね治具100を一対のサイドバー55、55に掛け渡す機能を奏し、段差部122c、122cが形成されていることにより、Y軸方向にばね治具100がずれることを防止している(
図3も併せて参照)。本実施形態のように、第一の連結部122を長尺として一対のアーム部を構成することにより、既存のプレス機に対して設置することを容易にしている。
【0029】
ガイド130は、金属製の板状部材である。ガイド130の一方の端部は、ばね治具100をプレス機50に配設した際に移動プレス盤57側に位置付けられるばね固定枠104の上辺に2つのボルト136によって固定されている。ガイド130のX軸方向の長さは、ばね治具100が定常状態(ばね110がばね固定枠102、104によって保持され、且つばね固定枠102、104がいずれからも押圧されていない状態)にあるとき、少なくともばね固定枠102の上辺を覆う寸法で形成されている。また、ガイド130の他方の端部側には、図中X軸方向に沿って長く延びる切り欠き132が形成されている。ガイド130のX軸方向に延びる両側面の所定の位置(X軸方向でみて同じ位置)には、略三角形状の一対の切込み134、134が形成されている。ばね固定枠102の上辺には、前記した切り欠き132を介してボルト138がねじ込まれている。
【0030】
前記した切り欠き132の幅は、ボルト138のねじ部の直径よりも大きく、且つボルト138の頭部の直径よりも小さく設定されている。さらに、ボルト138の頭部とばね固定枠102の上辺との間には、ガイド130の厚みよりも大きい隙間が形成されている。切り欠き132のX軸方向の長さは、ばね固定枠102、104がX軸方向に押圧されて相互に近づく際の移動量よりも大きい寸法で形成される。以上のような構成を備えていることにより、ばね固定枠102、104がX軸方向に押圧されて、相互の間隔が狭くなった場合、ボルト138が、切り欠き132の長手方向に沿って移動することができる。すなわち、ばね固定枠102とばね固定枠104との相対的な移動量は、ボルト138の頭部が切り欠き132内を移動した移動量によって把握することができる。さらに、上記した切込み134を所定の位置に形成しておくことにより、切込み134は、ばね固定枠102、104が所定の圧力範囲で押圧されたことを、ボルト138が切込み134に位置付けられることで把握する表示部として機能する。なお、所定の圧力範囲でばね固定枠102、104が押圧されたことを把握するための表示部は、上記した切込み134により形成される形態に限定されず、ガイド130の上面に、上記した切込み134が形成された位置、切込み134の幅に相当するスケール(メモリ)、マーク、着色した部位を形成するものであってもよく、さらには、ばね固定枠102とばね固定枠104との距離を電気的に計測する周知の近接センサを配設し、ばね固定枠102とばね固定枠104との距離を電気的に表示するものであってもよい。本実施形態のフィルタープレス型電気透析装置1、及びフィルタープレス型電気透析装置1に配設されたばね治具100は、概ね上記したとおりの構成を備えており、以下に、その機能、作用について説明する。
【0031】
図1に示すフィルタープレス型電気透析装置1を作動させる際には、上記した透析槽20を構成するスタック30、40を予め用意しておき、プレス機50の一対のサイドバー55、55、固定プレス盤54、及び移動プレス盤57に挟まれた位置に搬入し、スタック30の締付枠31、36に配設された肩部311、361、及びスタック40の締付枠41、46に配設された肩部411、461を一対のサイドバー55、55に掛け渡して載置する。このとき、スタック30、40の下端部は、フィルタープレス型電気透析装置1の設置面には触れないことから、スタック30、40を、一対のサイドバー55、55に沿ってX軸方向に移動させることができる。
【0032】
移動プレス盤57の垂直壁572と対向する位置には、ばね治具100が設置される。ばね治具100を設置する場合は、
図3に示すように、ガイド130が固定されたばね固定枠104側を移動プレス盤57側に向けて設置する。上記したように、ばね治具100は、一対のアーム部を構成する第一連結部122によって一対のサイドバー55、55に掛け渡され、一対のサイドバー55、55上をX軸方向にスライドすることが可能である。なお、
図3では、説明の都合上、手前側のサイドバー55の一部を透過して示している。
【0033】
上記したように、プレス機50に対して、透析槽20、及びばね治具100を設置したならば、油圧プレス機56の油圧ポンプ561を作動して、
図3、
図4に示すように押圧部材562を、矢印D1で示す方向に伸長させて、押圧部材562の先端部をばね治具100のばね固定枠102に当接させ、ばね治具100を介して移動プレス盤57を矢印D2で示す方向に押圧する。これにより、スタック30、及びスタック40が積層方向(X軸方向)にて締め付けられて、全体として透析槽20が圧縮される。
【0034】
ところで、本実施形態のプレス機50によって透析槽20が締め付けられる際の適正締付圧力は0.6N/mm
2±0.1N/mm
2に設定されており、前記した適正締付圧力がばね治具100に作用した場合のばね110の撓み量は16mm±2mmである。そこで、
図5(a)に示すように、ガイド130に形成される切込み134のX軸方向における中心位置と、押圧部材562がばね治具100を介して移動プレス盤57を押圧する前の定常状態におけるボルト138の頭部の中心位置Oとの距離R1は、X軸方向でみて16mmになるように設定され、切込み134のX軸方向の幅R2は、許容される所定の圧力範囲(±0.1N/mm
2)に相当する4mmに設定されている。
【0035】
ここで、押圧部材562を、矢印D1で示す方向に伸長させて、ばね治具100を介して移動プレス盤57を矢印D2で示す方向に押圧すると、締付圧力が高くなるに従ってばね110が撓み、
図5(b)に示すように、ばね固定枠102に固定されたボルト138の頭部がX軸方向に形成された切り欠き132に沿って移動する。そして、切込み134の中心とボルト138の頭部の中心位置Oとが、X軸方向で一致したことを目視することで、ボルト138の移動量がR1(16mm)になったこと、すなわち、スタック30、40が上記した適正締付圧力によって締め付けられたことを、格別な測定器具を使用することなく容易に確認することができる。
【0036】
本発明の発明者らは、上記したフィルタープレス型電気透析装置1を使用し、食塩を含む被処理液から濃縮液と脱塩液とを24時間連続で生成する運転を、移動プレス盤57と押圧部材562との間にばね治具100を配設した場合(実験1)と、ばね治具100を配設せずに押圧部材562によって直接移動プレス盤57を押圧した場合(実験2)とで実施し、透析槽20が受ける締付圧力の変化を測定した。なお、フィルタープレス型電気透析装置1の運転は、実験1、実験2のいずれも、被処理液(液温度40℃、電気伝導度約60mS/cm)を、循環液量38m3/Hr、循環圧力0.1Mpaにて供給し、電極間に運転電圧200Vで直流電圧を印加して実施したものであり、フィルタープレス型電気透析装置1の運転を開始する前には、押圧部材562によってばね治具100、又は移動プレス盤57を押圧して、所定の適正締付圧力(0.6N/mm2)とした後、押圧部材562の位置を固定し、油圧ポンプ561による油圧を解除した。
【0037】
上記した実験1、及び実験2の結果を比較すると、ばね治具100を配設した実験1においては、24時間の連続運転を実施した後であっても、透析槽20に対する締付圧力が0.55N/mm2に維持されて、透析槽20に対する締付圧力が許容範囲(0.6N/mm2±0.1N/mm2)内に収まり、24時間を通して適性締付圧力下において該運転が実施されたことが確認された。これに対し、ばね治具100を配設せずに実施した実験2では、透析槽20に対する締付圧力が0.6N/mm2から0.4N/mm2まで低下し、スタック30、40を構成する積層物から液漏れが生じる恐れがある状態となったことが確認された。すなわち、実験2のようにばね治具100を配設しない場合は、透析槽20に対する締付圧力を適正締付圧力に維持するために、途中で運転を停止して油圧プレス機56による締付圧力を再調整する必要があるのに対し、実験1のようにばね治具100を配設した場合は、締付圧力を変化させる要因、例えば、透析槽20を構成するガスケットの寸法に変化が生じたとしても、ばね治具100に配設されたばね110の撓みによって該変化に対応して、透析槽20に対する締付圧力が適正締付圧力に維持され、長時間運転を実施する場合でも、油圧プレス機56による締付圧力の再調整を要しないという効果を発揮した。
【0038】
本発明は、上記した実施形態に限定されず、本発明に含まれる種々の変形例が提供される。例えば、上記した実施形態では、本発明をフィルタープレス型電気透析装置に適用した例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、陰イオン交換膜のみをガスケットを介して配列して複数積層したスタックを有する透析槽を備えた拡散透析装置にも適用することができ、イオン交換膜とガスケットとが交互に積層された積層物の積層方向の両側に一対の締付枠が配置されたスタックを備えた透析槽を有するフィルタープレス型透析装置であれば、いずれの型の透析装置にも適用される。
【符号の説明】
【0039】
1:フィルタープレス型電気透析装置
20:透析槽
22;陽極枠
24:陰極枠
30、40:スタック
31、41:締付枠
311、411:締付用の孔
32、42:陽イオン交換膜
33、43:脱塩室用ガスケット
34、44:陰イオン交換膜
35、45:濃縮室用ガスケット
36、46:締付枠
361、461:締付用の孔
37、47:スタッドボルト
50:プレス機
51、52:立設部
53:油圧プレス機支持部
54:固定プレス盤
55:サイドバー
56:油圧プレス機
561:油圧ポンプ
562:押圧部材
57:移動プレス盤
571:肩部
572:垂直壁
100:ばね治具
102、104:ばね固定枠
110:ばね(コイルばね)
120:連結機構
122:第一連結部
122a:支持プレート
122b:ボルト
122c:段差部
122e:ナット
124:第二連結部
126:第三連結部
130:ガイド
132:切り欠き
134:切込み
138:ボルト