(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】鉄(III)MRI造影剤として使用するための化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 255/02 20060101AFI20231124BHJP
C07D 257/02 20060101ALI20231124BHJP
C07D 403/06 20060101ALI20231124BHJP
C07D 403/14 20060101ALI20231124BHJP
A61K 49/10 20060101ALI20231124BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
C07D255/02 CSP
C07D257/02
C07D403/06
C07D403/14
A61K49/10
A61B5/055 383
(21)【出願番号】P 2020514159
(86)(22)【出願日】2018-05-21
(86)【国際出願番号】 US2018033759
(87)【国際公開番号】W WO2018213853
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-03-11
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519411043
【氏名又は名称】ザ リサーチ ファウンデイション フォー ザ ステイト ユニバーシティー オブ ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モロウ,ジャネット,アール.
(72)【発明者】
【氏名】スナイダー,エリック,エム.
(72)【発明者】
【氏名】アシク,ディダル
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-052764(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0228581(US,A1)
【文献】Inorganic Chemistry,1990年,Vol. 29,pp. 938-944
【文献】Journal of the Chemical Society, Dalton Transactions: Inorganic Chemistry,1996年,pp. 4409-4416
【文献】Drug Delivery System,2008年,pp. 33-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61B
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造を有する1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)基、またはシクラム(cyclam)基である大環状コア、
【化1】
(ここで、Z
1、Z
2、Z
3およびZ
4はそれぞれ独立にHまたは以下のペンダント基:
【化2】
【化3】
の1つ以上、または、これらの脱プロトン化アナログまたはこれらの立体異性体であり、
ここで、Rはメチルであり、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立に置換または非置換アリール、置換または非置換ヘテロアリール、または置換または非置換アルキル基であり、R
1、R
2およびR
3はペンダントドナーではなく、
Q
1、Q
2はそれぞれ独立にH、OCH
3、CO
2HまたはCH
2CO
2G
4であり、G
4はH、C
1からC
12の直鎖または分岐構造の置換または非置換アルキル基
、Q
3はH、C
1からC
12の直鎖または分岐構造の置換または非置換アルキル基
、Q
4およびQ
5はそれぞれ独立にH、OCH
3、またはCO
2Hであり、AはC
1からC
12の直鎖または分岐構造の置換または非置換のアルキル基、あるいは置換または非置換のアリール基、またはアミノ酸である)と
前記大環状コアおよび/または前記大環状化合物の置換基である少なくとも1つのペンダント基に錯化する高スピンFe(III)カチオン
とを含む大環状錯体、
それらの塩、部分塩、水和物、多形体、またはそれらの立体異性体、
(ここで、前記大環状化合物が、pH6.5~7.5の水性媒体中で、標準水素電極(NHE)に対して0未満の酸化還元電位を示し、
前記大環状コアが構造Iを有する場合、Z
1はHであり、Z
2およびZ
3はそれぞれ独立してペンダント基であり;
前記大環状コアが構造IIまたはXVを有する場合、Z
1およびZ
2はそれぞれ独立してペンダント基であり;
前記大環状コアが構造XIVを有する場合、Z
1およびZ
3はそれぞれ独立してペンダント基であり;
前記大環状コアが構造XVIを有する場合、Z
1はペンダント基であり;
前記大環状コアが構造XIIを有する場合、Z
4はペンダント基であり、Z
1、Z
2およびZ
3はそれぞれ独立してHまたはペンダント基であって、Z
1、Z
2およびZ
3の多くとも2つがHであり;
前記大環状コアが構造XIIIを有する場合、Z
1およびZ
3はそれぞれ独立してペンダント基であり、Z
2はHまたはペンダント基であり;
全ての構造I、II、XII、XIII、XIV、XV、およびXVIについて、適用可能な場合、Z
1、Z
2、Z
3およびZ
4の各々は互いに独立して選択される)。
【請求項2】
前記1つ以上のペンダント基の少なくとも1つまたは全てが、前記大環状コア上のNに共有結合している、請求項1に記載の大環状錯体。
【請求項3】
前記大環状錯体が少なくとも1つの開放配位部位を有する、請求項1に記載の大環状錯体。
【請求項4】
前記大環状錯体が、前記高スピンFe(III)カチオンに錯化された少なくとも1つの水または少なくとも1つの水酸化物を有する、請求項1に記載の大環状錯体。
【請求項5】
前記ペンダント基の少なくとも1つが、ベンジル位または前記ペンダント基のヘテロ原子につながったアルキル基の任意の炭素で置換されている、請求項1に記載の大環状錯体。
【請求項6】
前記大環状錯体が、TACN部分および少なくとも1つのアニオン性ペンダント基を含む、請求項1に記載の大環状錯体。
【請求項7】
前記アニオン性ペンダントが、カルボキシレートペンダント、イミダゾレートペンダント、ピラゾレートペンダント、アルコキシドペンダント、およびフェノキシドペンダントから個々に選択される、請求項6に記載の大環状錯体。
【請求項8】
前記大環状錯体が、配位ペンダント基または非配位ペンダント基をさらに含む、請求項7に記載の大環状錯体。
【請求項9】
前記大環状コアが次の構造の1つ:
【化4】
を有する、請求項1に記載の大環状錯体。
【請求項10】
次の構造を有する大環状コア:
【化5】
【化6】
【化7】
と、
前記大環状コアおよび/または前記大環状化合物の置換基である少なくとも1つのペンダント基に錯化する高スピンFe(III)カチオン
とを含む、大環状錯体。
【請求項11】
次の構造の1つ:
【化8】
【化9】
を有することを特徴とする、大環状錯体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の1つ以上の大環状錯体および薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項13】
前記組成物が、ヒト血清アルブミンおよび/またはメグルミンをさらに含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
細胞、器官、血管系、または組織の少なくとも一部のイメージを取得する方法であって、当該方法が:
前記細胞、器官、血管系、または組織を、請求項1に記載の1つ以上の大環状錯体と接触させること、および、
前記細胞、器官、血管系、または組織の少なくとも一部をイメージングして、細胞、器官、血管系、または組織の一部のイメージを取得すること、
を含み、前記イメージは磁気共鳴の使用によって取得されることを特徴とする、細胞、器官、血管系、または組織の少なくとも一部のイメージの取得方法。
【請求項15】
前記細胞、器官、血管系、または組織が個体の一部である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記イメージが磁気共鳴イメージング(MRI)を用いて取得される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記大環状錯体がT
1剤である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願とのクロスリファレンス】
【0001】
本出願は2017年5月19日に出願された米国仮出願第62/508,548号の優先権を主張し、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[連邦支援研究に関する表明]
本発明は、国立科学財団(National Science Foundation)から授与されたグラント番号CHE1310374および国立衛生研究所(National Institutes of Health)から授与されたEB025369に基づく政府の支援によってなされた。政府はこの発明に対して特定の権利を有する。
【技術分野】
【0003】
本開示は一般に、鉄(III)大環状化合物に関する。より詳細には、本開示はMRI造影剤として使用されうる鉄(III)大環状化合物に関する。
【背景技術】
【0004】
ほぼすべての臨床的に使用される造影剤はガドリニウム(3価Gd(III)としてのGd)を含有するが、米国の人口におけるかなりの割合の患者(約10%)は、長期暴露から生じる毒性のために、Gd(III)造影剤を与えられることに関して危険性を有すると考えられる。さらに、Gd(III)ベースのMRI造影剤が、全ての患者の脳、骨および皮膚へのGd(III)の沈着を導いているという新たな懸念がある。Gd(III)造影剤の代替物には、高スピンFe(III)錯体などの生物学的に関連する遷移金属イオンが含まれる。
【0005】
磁気共鳴イメージング(MRI)における別のアプローチは、内因性金属イオンとして鉄を利用する造影剤の開発である。3価鉄としてFe(III)を含有する造影剤は、Gd(III)を許容できない患者にとって問題となるGd(III)造影剤の代替物を提供する。現在までに報告されているほとんどのFe(III)MRI造影剤は、単純な直鎖型キレート剤を含有する。3つの一般的に使用されるタイプの錯体がある。最もよく研究されているのは、EHBG(NN’ーエチレンビス[(2ーヒドロキシベンジル)グリシン)のような、フェノールおよびカルボキシレートペンダントの組合せを有するエチレンジアミン骨格を含有するものである。第2のタイプは、EDTAのFe(III)錯体などのポリアミノカルボキシレート配位子を含む。第3のタイプは、微生物シデロフォア、デスフェリオキサミン(DFO)を含む。これらの錯体の全ては、交換可能な水配位子の欠如、ROS生成の影響を受けやすい還元電位、および/または合成修飾の困難性を含む欠点を有する。また、Fe(III)錯体の水溶液の化学的性質は、水酸化物および架橋酸化物配位子との不溶性錯体の形成によって支配される。Fe(III)を安定化させるために酸化還元電位を変化させることによるROSの生成に対して効果を持つ触媒ではなく、水溶性で望ましいT1緩和剤である、Fe(III)錯体の発展が期待されている。
【0006】
少なくとも前述のことに基づいて、改善された特性を有するFe(III)MRI造影剤のための、当該技術分野における未だ満たされていないニーズが存在する。
【発明の概要】
【0007】
高スピンFe(III)錯体が、T1MRI造影剤として開発された。高スピンFe(III)は、MRI造影のために水のプロトンのT1緩和時間を短縮することができる、好ましい常磁性を有する。
【0008】
T1MRI造影剤として使用するための高スピンFe(III)配位錯体が開示される。開示されたFe(III)T1MRI造影剤は、スピンおよび酸化状態、また、水および生物学的媒体における安定性および溶解性を制御するための大環状配位子を含む。Fe(III)錯体は、T2造影剤としても使用されうる。
【0009】
本開示の目的は、大環状化合物、Fe(III)大環状錯体、化合物、ならびにそれらを製造および使用する組成物および方法を提供することである。様々な例において、本開示の大環状錯体および組成物は、MRI造影剤として使用される。
【0010】
本開示は、i)配位子ドナーとして少なくとも1つのヘテロ原子を含む大環状コアと、ii)大環状コアの置換基として少なくとも1つのペンダントドナーとを有する大環状化合物を提供する。大環状化合物は、大環状化合物が鉄(III)イオンに配位している場合、配位子と呼ぶことができる。大環状コアは炭素原子および少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、N原子、O原子、またはS原子)を含む環構造を有する。
【0011】
大環状化合物は、1個以上の補助ペンダント基を含むことができる。補助ペンダント基は、1つ以上の配位補助ペンダント基および/または1つ以上の非配位補助ペンダント基であってもよい。
【0012】
特定のペンダントは2つ以上のNまたはOドナー原子(例えば、ピラゾールまたはイミダゾール、カルボン酸塩またはカルボン酸)を有し得るが、一般に、1個のみが金属イオンに配位される。
【0013】
大環状化合物は、種々のペンダント基およびペンダント基の組合せを有することができる。2つ以上のペンダントドナーが存在する場合、それらは同じであっても異なっていてもよい。
【0014】
一実施形態では、本開示の化合物がリンカー基(例えば、芳香族基)、本開示の1つ以上の大環状化合物、ポリマー、デンドリマー、またはペプチドを介して互いに繋がれた(すなわち、共有結合した)2つ以上の大環状コアを有することができる。
【0015】
一局面において、本開示は、本明細書に記載の大環状錯体および化合物を使用するイメージング方法を提供する。イメージング方法は、磁気共鳴イメージング方法を使用する。そのような方法の非限定的な例には、磁気共鳴イメージング(MRI)が含まれる。具体的には、Fe(III)と錯体を形成する本発明の大環状化合物が、T1MRI造影剤として使用されうる。本開示のイメージング方法は、細胞、組織、器官、血管系、またはそれらの一部を画像化するために使用され得る。細胞、組織、器官、血管系は、人間の一部であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1は、TACN(1,4,7ートリアザシクロノナン)誘導体の一般的な合成を示す。a)N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、トルエン/クロロホルム4:1。b)R-X;R=ベンジル、メチル、プロパルギル、メチルフェニル、安息香酸メチル、2-(2-メトキシ-エトキシ)エタン、4-(メチル)-1,1’-ビフェニル、ベンジルメチルエーテル;乾燥THF、および、X=クロロ、ブロモまたはヨード c)還流;12M HCl/MeOH 1:1またはKOH溶液、次いでクロロホルムで抽出。d)例えばブロモメチルピラゾールまたはブロモアセトアミドのような配位ペンダントのクロロまたはブロモメチル誘導体の添加による、配位ペンダントの添加。イミダゾール-2-カルボキシアルデヒドのような還元剤を用いたアルデヒドの添加による、還元アミノ化によるペンダントの添加。H
2O/エタノール混合物および(S)-(-)プロピレンオキシドまたは(R)-(+)プロピレンオキシドの添加によるペンダントの添加。
【0017】
図2は、2つのキラルなプロピルアルコールペンダントを有するTACN配位子の一般的な合成である。RまたはSプロピレンオキシドのいずれかを用いて、反対のキラリティーを有するペンダントを得ることができる。非配位基Rは、典型的にはベンジル、メチルまたはビフェニルである。
【0018】
図3は、TOB配位子からの合成前駆体であるTON配位子の合成を示す。ベンジル基を接触水素化により除去してTONを生成する。
【0019】
図4は、2つのFe(III)イオンに結合する配位子の合成例を示す。この図は、DT-metaの合成スキームを示す。
【0020】
図5は、Fe(II)塩を用いたFe(III)錯体の合成を示す。1,1’-(7-ベンジル-1,4,7-トリアゾナン-1,4-ジイル)ビス(プロパン-2-オール)(TOB)に、FeCl
2・6H
2OまたはFe(CF
3SO
3)
2をエタノール中で添加し、1時間加熱した。溶液を室温に冷却し、生成物が沈殿するまでジエチルエーテルを添加し、続いてジエチルエーテルで洗浄した。これは、Fe(II)錯体の酸化から生じるFe(III)錯体を生成する。Fe(TOB)Clは水に溶解すると、Cl配位子を失い、水または水酸化物に結合する。
【0021】
図6は、Fe(III)塩からのFe(TOB)誘導体の合成を示す。TOBの遊離塩基をアセトニトリル中の塩化Fe(III)と2当量のトリメチルアミン塩基と混合する。
【0022】
図7は、1,4,8,11-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,8,11-テトラザシクロテトラデカン(STHC)のFe(III)錯体の合成を示す。
【0023】
図8は、Fe(TOB)の結合水が脱プロトン化して、良好なT
1緩和剤でもある水酸化物配位子を与えることを示す。
【0024】
図9は、2,2’-(1,7-ジオキサ-4,10-ジアザシクロドデカン-4,10-ジイル)(NODAC)のFe(III)錯体の合成がFe(III)塩で進行することを示す。
【0025】
図10は、様々な温度の
17O核磁気共鳴(NMR)測定によるデータのグラフを示す。pH4で45mM Fe(TOB)を含有する実験について、
17O NMR共鳴の横緩和率の逆数の自然対数を、温度の関数として示している。このグラフからのk
exは、Swift-Connick方程式に適合させることによって、6.1×10
6s
-1であると決定された。
【0026】
図11は、EDTAのFe(III)錯体とは異なり、Fe(III)造影剤は過酸化物およびアスコルビン酸塩の存在下でベンゾエートを酸化しないことを示す。50μM錯体、50μM H
2O
2および50μMアスコルビン酸塩(pH7.2)によるベンゾエートの酸化である。[Fe(EDTA)]の酸化率を100%に設定している。
【0027】
図12は、Fe(TACO)およびFe(TOB)のpH電位差滴定およびデータをフィッティングすることによる平衡イオン化定数を示す。これらの結果は、Fe(TOB)が3.8および7.2に2つのpK
a値を有し、アルコールペンダントのような2つの供与基の脱プロトン化を支持していることを示している。
【0028】
図13は、37℃での4.7T MRIスキャナーでの鉄錯体濃度に対するT
1緩和定数(Hz)をプロットしたものであり、線の傾きはT
1緩和性である。
【0029】
図14は、37℃での4.7T MRIスキャナーでの鉄錯体濃度に対するT
2緩和定数(Hz)をプロットしたものであり、線の傾きはT
2緩和性である。
【0030】
図15は、マウスのMRIスキャンを示す:Balb/cAnNCr(n=2);0.2mL用量の6.2mM Fe-TOB-HSA(10.5mgのHSA)を注射した。スキャンは、コントラスト剤前およびコントラスト30分後を示す。
【0031】
図16は、肝臓、筋肉、腎臓血管および皮質を含む種々の組織に対する、Fe-TOB-HASの注射後の経時的なマウスにおけるT
1緩和性の変化のプロットを示す。
【0032】
図17は、肝臓、筋肉、腎臓血管を含む種々の組織に対する、Fe-TOB-HSAの注射後の経時的なマウスにおけるT
1緩和性の変化のプロットを示すが、腎臓皮質データは除去されている。
【0033】
図18は、腎臓、肝臓および血中のT
1速度定数の変化(a~c)を示す。GdーDTPA対Fe(TOB)、各50μmol/kgである。腎臓および肝臓におけるFe(TOB)のより大きな取り込み(a、b)は、血液からのより速い除去(c)をもたらす。胆道系によるFe(TOB)の排除は、注射後30分および4時間での胆嚢における大幅な増加によって確認される(d)。
【0034】
図19は、腎臓、肝臓および血中のT
1速度定数の変化(a~c)を示す。GdーDTPA対Fe(TOB)対Fe(NOKA)、各50μmol/kgである。肝臓(a)、腎臓(b)ではFe(TOB)やGd(DTPA)と比べてFe(NOKA)はT
1コントラストが大きくないが、血中(c)ではGd(DTPA)の方がコントラストが大きい。比較を(d)に示す。
【0035】
図20は、約75週齢の脳腫瘍を有するマウス(C57BL/6NCrマウス)のMRIスキャンを示す。マウスに、0.05mmol/kgのFe(TOB)錯体または0.1mmol/kgのFe(TOB)錯体で、Fe(TOB)を投与した。
【0036】
図21は、25℃での3テスラ東芝クリニカルスキャナーでのFe(III)錯体のT
1緩和性データを示す。錯体はpH7.2の標準リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で調製された。
【0037】
図22は、約200mVのE
0を有するpH3.1(右)および約-400mVのE
0を有するpH7.2(左)を含む2つの異なったpH値における、水中のFe(TOTzB)対NHEのサイクリックボルタンメトリースキャンを示す。より塩基性のpHでの酸化還元電位の変化は、アルコールペンダントの脱プロトン化によるものである。
【0038】
図23は、77Kでのメタノール中のFe(TOB)のXバンドEPRスペクトルを示す。
【0039】
図24は、10Kでのメタノール中のFe(TOB)および10Kでの1.5当量のトリエチルアミンを含むメタノール中のFe(TOB)のXバンドEPRスペクトルを示す。約3400Gでのシグナルは、Mn(II)不純物によるものである。
【0040】
図25は、10Kでのメタノール中のFe
2(TONO)のXバンドEPRスペクトルを示す。
【0041】
図26は、10Kでのメタノール中のFe(TACO)のXバンドEPRスペクトルを示す。
【0042】
図27は、2つのヒドロキシプロピルペンダントおよび第3の種々のペンダントを有するTACN誘導体の一般的な合成を示す。質量分析データは、新しい配位子の各々について与えられる: L(a): ESI-MS: m/z = 260.3 [M+H]
+; L(b): ESI-MS: m/z = 612.3 [M+H]
+; L(c): ESI-MS: m/z = 366.3 [M+H]
+; L(d): ESI-MS: m/z = 303.2 [M+H]
+; L(e): ESI-MS: m/z = 393.3 [M+H]
+; L(f): ESI-MS: m/z = 327.2 [M+H]
+; L(g): ESI-MS: m/z = 417.3 [M+H]
+; L(h): ESI-MS: : m/z = 392.3 [M+H]
+; および L(i): ESI-MS: m/z = 566.4 [M+H]
+。
【0043】
図28は、TOTOを合成するために使用されるトリアゾールペンダントの合成スキームを示す。
【0044】
図29は、TOTBzを合成するために使用されるトリアゾールペンダントの合成スキームを示す。
【0045】
【発明の詳細な説明】
【0046】
特許請求される主題が、特定の実施形態/例に関して記載されるが、本明細書に記載される利点および特徴のすべてを備えない実施形態/例を含む他の実施形態/例もまた、本開示の範囲内である。本開示の範囲から逸脱することなく、様々な構造的、論理的、および工程的なステップがなされうる。
【0047】
値の範囲が本明細書に開示される。範囲は、下限値および上限値を設定する。特に断らない限り、範囲は、最小値(下限値または上限値のいずれか)の大きさまでの全ての値、および記載された範囲の値の間の範囲を含む。例示的な例として、本明細書で提供される任意の範囲は別段の指示がない限り、小数点第10位までの範囲内に入るすべての値を含む。
【0048】
本明細書で使用されるように、特に断らない限り、用語「基」は、他の化学種に共有結合することができる1つの末端を有する化学物質を指す。基の例示的な例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:
および
【0049】
本明細書で使用されるように、特に断らない限り、用語「部分」は、他の化学種に共有結合することができる2つ以上の末端を有する化学物質を指す。部分の例示的な例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:
および
。部分は、本明細書ではセグメントとも呼ばれる。
【0050】
本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、用語「アルキル」は、分岐または非分岐飽和炭化水素基/部分をいう。アルキル基/部分の例としてはメチル基/部分、エチル基/部分、プロピル基/部分、ブチル基/部分、イソプロピル基/部分、tertーブチル基/部分などが挙げられ、これらに限定されない。例えば、アルキル基/部分は、全ての整数の炭素数およびそれらの間の炭素数の範囲(例えば、C1, C2, C3, C4, C5, C6, C7, C8, C9, C10, C11またはC12)を含む、C1からC12のアルキル基/部分である。アルキル基/部分は、置換されていなくてもよく、または1つ以上の置換基で置換されていてもよい。置換基の例としては例えば、ハロゲン(-F、-Cl、-Brおよび-I)、脂肪族基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)、アリール基、アルコキシド基、アミン基、カルボキシレート基、カルボン酸、エーテル基、アルコール基、アルキン基(例えば、アセチルエニル基)等、またこれらの組合せ等の置換基が挙げられ、これらに限定されない。
【0051】
本明細書で使用される場合、別段の指示がない限り、用語「アリール」は、すべての整数の炭素数およびそれらの間の炭素数の範囲を含む、C5からC14の、芳香族または部分芳香族炭素環基/部分を指す。アリール基/部分は、例えば縮合環またはビアリール部分などのポリアリール部分を含むことができる。アリール基/部分は、置換されていなくてもよく、または1つ以上の置換基で置換されていてもよい。置換基の例としては例えば、ハロゲン(-F、-Cl、-Brおよび-I)、脂肪族基(例えば、アルケン、アルキン)、アリール基、アルコキシド、カルボキシレート、カルボン酸、エーテル基等、またこれらの組合せ等の置換基が挙げられ、これらに限定されない。アリール基/部分の例としては、フェニル基/部分、ビアリール基/部分(例えば、ビフェニル基/部分)、および縮合環基/部分(例えば、ナフチル基/部分)が挙げられ、これらに限定されない。
【0052】
本明細書中で使用される場合、別段の指示がない限り、用語「ヘテロアリール」は、すべての整数の炭素数およびそれらの間の炭素数の範囲を含む、C5からC14の、芳香環中に少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、窒素、酸素、およびイオウ原子)を含む1つまたは2つの芳香環を含む、単環式、多環式、または二環式の環基/部分(例えば、アリール基)を指す。ヘテロアリール基/部分は、置換されていても置換されていなくてもよい。ヘテロアリール基/部分の例としては、ベンゾフラニル基/部分、チエニル基/部分、フリル基/部分、ピリジル基/部分、ピリミジル基/部分、オキサゾリル基/部分、キノリル基/部分、チオフェニル基/部分、イソキノリル基/部分、インドリル基/部分、トリアジニル基/部分、トリアゾリル基/部分、イソチアゾリル基/部分、イソオキサゾリル基/部分、イミダゾリル基/部分、ベンゾチアゾリル基/部分、ピラジニル基/部分、ピリミジニル基/部分、チアゾリル基/部分、およびチアジアゾリル基/部分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
本開示の目的は、大環状化合物、Fe(III)大環状錯体、化合物、ならびに組成物、それらを製造および使用する方法を提供することである。様々な例において、本開示の大環状錯体および組成物は、MRI造影剤として使用される。
【0054】
配位子としての本開示の大環状化合物は、Fe(III)錯体のスピンおよび酸化状態に対する制御、ならびに錯体と内圏および外圏水との相互作用を達成することに有利である。これらの大環状配位子の空洞は、高スピン形態のFe(III)の安定化に適し得る。また、Fe(III)錯体の水溶液の化学性質の制御が、これらの大環状化合物を用いて達成できる。本明細書に記載される大環状錯体はFe(III)をほぼカプセル化するが、幾つかの場合は、T1MRI造影剤としての有効性を増強する水配位子のための配位部位を有する。いかなる特定の理論にも束縛されることを意図するものではないが、本明細書に記載されるFe系MRI造影剤(高スピン、3価Fe(III)として)は、Gd(III)剤と同じ常磁性メカニズムによってコントラストを生成する。また、配位錯体として小分子形態であり、すなわちナノ粒子ではないと考えられる。
【0055】
本開示において、大環状化合物は大環状コア上に、様々な大環状コア構造および様々な置換基(「ペンダントドナー基」、「ペンダント基」、「ペンダントドナー」または「ドナー基」とも呼ばれる)を有する。最も典型的にはドナー基がアミド、アルコールまたはフェノールを含むが、少なくとも2つのアルコール基または脱プロトン化してアニオン基を形成することができる他の基を有する。大環状化合物はFe(III)と錯体を形成して、安定化された3価状態(例えば、E0<0mV対NHE)を提供する。
【0056】
本開示は、i)配位子ドナーとして少なくとも1つのヘテロ原子を含む大環状コアと、ii)大環状コアの置換基として少なくとも1つのペンダントドナーとを有する、大環状化合物を提供する。大環状化合物は、大環状化合物が鉄(III)イオンに配位している場合、配位子と称されうる。大環状コアは炭素原子および少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、N原子、O原子、またはS原子)を含む環構造を有する。本明細書中で使用される場合、「大環状ドナー」は、大環状化合物の大環状コア中に存在する場合、Fe(III)中心に供与するために利用可能な孤立電子対を有するヘテロ原子をいう。例えば、大環状ドナーは窒素原子(例えば、第三級アミン、第二級アミン)、または酸素原子(例えば、エーテル)であり得る。本明細書中で使用される場合、「ペンダントドナー」は、大環状化合物の大環状コア上の置換基中に存在する場合、Fe(III)中心に供与するために利用可能な孤立電子対を有するヘテロ原子をいう。例えば、ペンダントドナーは窒素含有基(例えば、アミノ、ベンゾイミダゾール、イミダゾール、アニリン、ピラゾイル、トリアゾール、ベンゾトリアゾールなど)、酸素含有基(例えば、ケトン、アルコール、アルコキシド、カルボン酸など)であり得る。例えば、カルボン酸、アルコール、イミダゾールまたはピラゾールなどのいくつかのペンダントドナーは、Fe(III)と錯体を形成する場合、または特定のpHで、脱プロトン化することができる。このようなプロトン化および脱プロトン化形態は、本開示の範囲内である。例えば、ペンダントドナーはカルボン酸イオン、イミダゾレートイオン、ピラゾレートイオンまたは酸化物(例えば、アルコキシドまたはフェノキシド)であってもよい。
【0057】
特定の実施形態では、大環状化合物が以下の構造を有する:
ここで、X
1、X
2、X
3、およびX
4はNであり;W
1、W
2およびW
3はそれぞれ独立にOまたはSであり;Y
1、Y
2、Y
3、およびY
4はそれぞれ独立にNを含むペンダントドナーであり、ここでNは孤立電子対(例えば、アミノ、ベンゾイミダゾール、イミダゾール、アニリン、ピラゾイル、トリアゾール、ベンゾトリアゾールなど)またはOを含むペンダントドナーを有し、ここでOは少なくとも1つの孤立電子対を有するが、好ましくは2つまたは3つの孤立電子対を有し(例えば、ケトン、アルコール、アルコキシド、カルボン酸、アミド、フェノールまたはフェノキシド、またはそれらの脱プロトン形態、例えばカルボキシレートイオン、イミダゾレートイオン、ピラゾレートイオン、またはアルコキシドまたはフェノキシドを含む酸化物;m
1、m
2、m
3、およびm
4は、それぞれ独立に0、1、または2であり;n
1、n
2、n
3、およびn
4はそれぞれ独立に1または2であり;R
1、R
2、およびR
3はそれぞれ独立に置換または非置換アリール、または置換または非置換ヘテロアリール、または置換または非置換アルキル基であり、ここでR
1、R
2、およびR
3は
ペンダントドナーによって置換されておらず、ここでアルキル-Y鎖のアルキルセグメント(アルキル-Y
1、アルキル-Y
2、アルキル-Y
3および/またはアルキルY
4)はそれぞれ独立して置換されていてもよい(例えば、構造aまたは構造b)または非置換(構造cまたは構造d)。構造a~fについて、ペンダントは、キラル炭素においてRまたはS配置のいずれかを有し得る:
以下、このパラグラフを「スキームI」と呼ぶ
【0058】
一実施形態において、本開示は、上記の大環状化合物がスキームIIにおいてI~XVIと標識された構造を有する場合、構造I~XVIについての条件の1つの組合せまたは任意の組合せが適用されるという条件で、スキームIに記載の構造および定義を有する大環状化合物を提供する。
【0059】
別の実施形態において、アルキル-Y1、アルキル-Y2、アルキル-Y3、およびアルキル-Y4のいずれかまたは全ては、それぞれ独立して、スキームIIIに定義される構造1~19のいずれかであり得る。
【0060】
適切な大環状化合物の例には、以下のものが含まれる。
ここで、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立して、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリールまたは置換または非置換のアルキル基であり、ここで、R
1、R
2およびR
3は、ペンダントドナーによって置換されておらず;そして大環状核が構造Iを有する場合、Z
1はHであるか、またはスキームIIIにおけるペンダント基の1つであり、
Z
2およびZ
3はそれぞれ独立してペンダント基(例えば、スキームIIIにおけるペンダント基の1つ)であり;
大環状化合物が構造II、III、VII、VIII、IXまたはXVを有する場合、Z
1およびZ
2はそれぞれ独立してペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり;
大環状環が構造VI、XIまたはXIVを有する場合、Z
1およびZ
3はそれぞれ独立してペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり;
大環状環が構造XVIを有する場合、Z
1はペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり;
大環状環が構造IVを有する場合、Z
4はペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり、Z
1、Z
2およびZ
3はそれぞれ独立してHであるかまたはペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であるが、ただし、Z
1、Z
2およびZ
3の多くとも2つがHであり;
大環状環が構造Vを有する場合、Z
1およびZ
2はそれぞれ独立してHまたはペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり、Z
3がペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり;
大環状環が構造Xを有する場合、Z
1およびZ
3はそれぞれ独立してペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり、Z
2がHまたはペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり;
大環状環が構造XIIを有する場合、Z
4はペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり、Z
1、Z
2およびZ
3はそれぞれ独立してHまたはペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり、ただし、Z
1、Z
2およびZ
3の多くとも2個はHであり;
大環状環が構造XIIIを有する場合、Z
1およびZ
3はそれぞれ独立してペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり、Z
2はHまたはペンダント基(例えば、スキームIIIのペンダント基の1つ)であり;
式中、全ての構造I~XVIについて、適用可能な場合、Z
1、Z
2、Z
3およびZ
4の各々は互いに独立して選択される。以下、このパラグラフを「スキームII」と呼ぶ。
【0061】
大環状化合物は、大環状コア上に少なくとも1つのペンダントドナーを有する。例えば、ペンダントドナーは、以下の構造を有することができる:
ここで、Q
1、Q
2はそれぞれ独立に-H、-OCH
3、-CO
2Hまたは-CH
2CO
2G
4であり、G
4はH、C
1からC
12の直鎖または分岐構造の置換または非置換アルキル基、またはPEG基であり(-CH
2CH
2O-)
n、(n=1-12、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12)、Q
3はH、C
1からC
12の直鎖または分岐構造の置換または非置換アルキル基、またはPEG基であり(-CH
2CH
2O-)
n、(n=1-12、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12)、Q
4およびQ
5はそれぞれ独立に-H、-OCH
3、-CO
2H、または直鎖または分岐構造の置換または非置換アルキル基であり、AはC
1からC
12の直鎖または分岐構造の置換または非置換のアルキル基、あるいは置換または非置換のアリール基、または天然に存在する(例えば、グリシン)または合成のアミノ酸またはそれらのアナログである。例えば、カルボン酸、アルコール、イミダゾールまたはピラゾールのようないくつかのペンダントドナーは、Fe(III)と錯体を形成した場合、または特定のpH値で、脱プロトン化し得る。このようなプロトン化および脱プロトン化形態は、本開示の範囲内である。例えば、ペンダントドナーはカルボン酸イオン、イミダゾレートイオン、ピラゾレートイオン、または酸化物(例えば、アルコキシドまたはフェノキシド)である。以下、このパラグラフを「スキームIII」と呼ぶ。
【0062】
大環状化合物は、1個以上の補助ペンダント基を含むことができる。補助ペンダント基は、1つ以上の配位補助ペンダント基および/または1つ以上の非配位補助ペンダント基であってもよい。
【0063】
非配位補助ペンダント基は、Fe(III)金属イオンに結合して5員または6員キレートを形成することができるヘテロ原子を有さない。非配位補助ペンダント基の非限定的な例としては、ベンジル基、フェニル基、および芳香族基に結合した1個以上のメチレン基を有するかまたはメチレン基を有さない他の芳香族(例えば、アリール)基、アルキル基(分岐および直鎖基の両方)などが挙げられる。非配位補助ペンダント基の他の非限定的な例としては、ビフェニル、ナフチル、アントラセニル、ピリジル、キノリル、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、エチルメトキシエーテル、PEG誘導体(ポリエチレングリコール)などが挙げられる。
【0064】
配位補助ペンダント基(例えば、2つが既にヒドロキシルプロピルである場合に第3のペンダント基である)の非限定的な例としては、例えば、アミド、カルボキシレート、アルコールまたはフェノール、またはトリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、ピコリル、ピリジン、アルキルアミン、アミノピリジン、アミノフェノール、アニリンなどの誘導体などの5員または6員キレートを形成する酸素または窒素ドナーが挙げられる。これらの群のいくつかは、Fe(III)に結合した場合に脱プロトン化し得る。
【0065】
1個以上の非配位補助ペンダント基を含む大環状錯体は、開放配位部位を有していてもよい(開放配位を有する)。1個以上の配位補助ペンダント基を含む大環状錯体は、開放配位部位を有していなくてもよい(非開放な配位を有する)。
【0066】
一実施形態では、本開示は、スキームII~IVに記載される構造および定義を有する、大環状化合物を提供する。
ここで、大環状化合物が構造IIを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:
Z1 = Z2 = 構造1の時、R1 ≠ メチル、エチル、イソプロピル、n-ヘキシルまたは構造i、ii、iiiまたはiv;Z1 = Z2 =構造7の時, R1 ≠ 構造vまたはvi; Z1 = Z2 = 構造9の時、R1 ≠ エチル;Z1 = Z2 = 構造12の時、R1 ≠ エチル;Z1 = Z2 = 構造16の時、Q4 =t-ブチルおよびQ5 = OCH3 または Q4 = Q5 = t-ブチルの時, R1 ≠ エチルまたはイソプロピル; Z1 = Z2 = 構造15の時, R1 ≠ メチル;
大環状化合物が構造IIIを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = 構造16の時、Q4 = t-ブチルおよびQ5 = OCH3 または Q4 = Q5 = t-ブチルの時、Z2 ≠ 構造16 Q4 = t-ブチルおよびQ5 = OCH3 の時または Q4 = Q5 = t-ブチルの時;
大環状化合物が構造Vを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = Z2 = Z3 = 構造17のとき、R1 ≠ メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ドデシルまたは構造 ii, xiii, xv, ix, xvi または xix;Z1 = Z2 = Z3 = 構造 2の時、R1 ≠ 構造 xvii または xx;Z1 = Z2 = Z3 = 構造1の時、R1 ≠ メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル、n-デシル、n-オクタデシル(C18)または構造 ii, x, xi, xii, xiii, xiv または xvii;
大環状化合物が構造VIを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = Z3 = 構造1の時、R1 = R2 ≠メチル、構造ii、x、またはxi;Z1 = Z3 = 構造9の時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = Z3 = 構造18の時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = Z3 = 構造 16の時 Q4 = Q5 = メチルまたはt-ブチルの時、R1 = R2 ≠ メチル;Q4 = H および Q5 = Brの時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = Z3 = 構造15の時、R1 = R2 ≠ メチル; Z1 = Z3 = 構造17の時、R1 = R2 ≠ メチル;
大環状化合物が構造XIを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = Z2 = 構造1の時、R1= R2 ≠ メチル;
大環状化合物が構造XIIIを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = Z2 = Z3 = 構造7の時、R1 ≠ メチル;
大環状化合物が構造XVを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する: Z1 = Z2 = 構造1の時、R1≠ メチル;Z1 = Z2 = 構造3の時、R1≠ メチル;Z1 = Z2 = 構造4の時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = Z2 = 構造1の時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = Z2 = 構造5の時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = Z2 = 構造7の時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = 構造3 およびZ2 = 構造9の時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = Z2 = 構造9の時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = Z2 = 構造17の時、R1 = R2 ≠ メチル;Z1 = Z2 = 構造18の時、R1 = R2 ≠ メチル;
大環状化合物が構造XVIを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = 構造1の時、R1 = R2 = R3 ≠ メチル;Z1 = 構造3の時、R1 = R2 = R3 ≠ メチル;Z1 = 構造4の時、R1 = R2 = R3 ≠ メチル;Z1 = 構造5の時、R1 = R2 = R3 ≠ メチル;Z1 = 構造7の時、R1 = R2 = R3 ≠ メチル;Z1 = 構造15の時、R1 = R2 = R3 ≠ メチル。
【0067】
一つの実施形態において、本開示の実体は、スキームII~IVにおいて説明される構造および定義を有する大環状化合物を提供し、ここで、大環状が構造Iを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:
Z1 = Z2 = 構造1の時、Z3 ≠ 構造1;Z1 = Z2 = 構造2の時、Z3 ≠ 構造2;Z1 = Z2 = 構造3の時、Z3 ≠ 構造 3;Z1 = Z2 = 構造6の時、Z3 ≠ 構造6;Z1 = Z2 = 構造7の時, Z3 ≠ 構造7;Z1 = Z2 = 構造9の時、Z3 ≠ 構造9;Z1 = Z2 = 構造11の時、Z3 ≠ 構造11;Z1 = Z2 = 構造12の時、Z3 ≠ 構造12;Z1 = Z2 = 構造13の時、Q1 = Q2 = Hの時、Z3 ≠ 構造13 Q1 = Q2 = H;Z1 = Z2 = 構造15の時、Z3 ≠ 構造15;多くともZ1, Z2 または Z3のうち多くとも2つ = 構造16 i) Q4 = Q5 = t-ブチルの時、ii) Q4 = Q5 = OCH3、iii) Q4 = t-ブチルおよびQ5 = OCH3 または iv) Q4=OCH3 および Q5=t-ブチル;Z1 = Hの時、Z2 ≠ 構造 1;Z1 = Hの時、Z2 ≠ 構造7;Z1 = Hの時、Z2 ≠ 構造9;Z1 = Hの時、Z2 ≠ 構造13;Z1 = Z2 = 構造1の時、Z3 ≠ 構造15;Z1 = 構造1 および Z2 = H、の時Z3 ≠ 構造16 Q = t-ブチルの時;
大環状化合物が構造IIIを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = 構造1の時、Z2 ≠ 構造1;Z1 = 構造17の時, Z2 ≠ 構造17;
大環状化合物が構造IVを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = Z2 = Z3 = 構造1の時、Z4 ≠ 構造1;Z1 = Z2 = Z3 = 構造2の時、Z4 ≠ 構造 2;Z1 = Z2 = Z3 = 構造3の時、Z4 ≠ 構造3;Z1 = Z2 = Z3 = 構造6の時、Z4 ≠ 構造 6;Z1 = Z2 = Z3 = 構造7の時、Z4 ≠ 構造7;Z1 = Z2 = Z3 = 構造9の時、Z4 ≠ 構造9;Z1 = Z2 = Z3 = 構造11の時、Z4 ≠ 構造11;Z1 = Z2 = Z3 = 構造12の時、Z4 ≠ 構造12;Z1 = Z2 = Z3 = 構造15の時、Z4 ≠ 構造15;Z1 = Z2 = Z3 = 構造16の時、Z4 ≠ 構造 16;Z1 = Z2 = Z3 = 構造17の時、Z4 ≠ Z1, Z4 ≠ 構造17;Z1 = Z2 = Z3 = 構造1の時Z4 ≠ H;Z1 = Z2 = Z3 = 構造2の時、Z4 ≠ H;Z1 = Z2 = Z3 = 構造3の時、Z4 ≠ H;Z1 = Z2 = Z3 = 構造6の時、Z4 ≠ H;Z1 = Z2 = Z3 = 構造7の時、Z4 ≠ H;Z1 = Z2 = Z3 = 構造17の時、Z4 ≠ H;Z1 = Z2 = H および Z3 = 構造1の時、Z4 ≠ 構造1;Z1 = Z2 = H および Z3 = 構造2、Z4 ≠ 構造2;Z1 = Z2 = H および Z3 = 構造3の時、Z4 ≠ 構造3;Z1 = Z2 = H、Z3 = 構造6の時 Z4 ≠ 構造 6;Z1 = Z2 = H および Z3 = 構造7、 Z4 ≠ 構造 7;Z1 = Z2 = H および Z3 = 構造17、Z4 ≠ 構造17;Z1 = Z3 = H および Z2 = 構造1、Z4 ≠ 構造 1;Z1 = Z3 = H および Z2 = 構造2の時、Z4 ≠ 構造2;Z1 = Z3 = H およびZ2 = 構造3、Z4 ≠ 構造3;Z1 = Z3 = H および Z2 = 構造6の時、Z4 ≠ 構造 6;Z1 = Z3 = H および Z2 = 構造7の時、Z4 ≠ 構造7;Z1 = Z3 = H および Z2 = 構造17の時、Z4 ≠ 構造17;Z1 = Z3 = 構造 6 および Z2 = 構造3の時、Z4 ≠ Z2;Z1 = Z3 = 構造7 および Z2 = 構造3の時、Z4 ≠ Z2;Z1 = Z3 = 構造1 および Z2 = 構造3の時、Z4 ≠ Z2;Z1 = Z2 = Z3 = 構造1, Z4 ≠ 構造3の時; Z1 = Z2 = Z3 = 構造1, Z4 ≠ 構造17の時;Z1 = Z2 = Z3 = 構造1, Z4 ≠ 構造6の時;Z1 = Z2 = Z3 = 構造1, Z4 ≠ 構造 7の時; Z1 = Z2 = Z3 = 構造1, Z4 ≠ 構造 9の時;
大環状化合物が構造Vを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = Z2 = 構造1、Z3 ≠ 構造 1の時;Z1 = Z2 = 構造3、Z3 ≠ 構造3の時、Z1 = Z2 = 構造6、Z3 ≠ 構造6の時;Z1 = Z2 = 構造9、Z3 ≠ 構造9の時;Z1 = Z2 = 構造17、Z3 ≠ 構造17の時;Z1 = 構造1 および Z2 = H、Z3 ≠ 構造1の時;Z1 = 構造3 および Z2 = H、Z3 ≠ 構造3の時;Z1 = 構造6 および Z2 = H、Z3 ≠ 構造6の時;
大環状化合物が構造VIIを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = 構造1、Z2 ≠ 構造1の時;Z1 = 構造2、Z2 ≠ 構造2の時;Z1 = 構造6、Z2 ≠ 構造6の時;
大環状化合物が構造IXを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = 構造1、Z2 ≠ 構造1の時;Z1 = 構造6、Z2 ≠ 構造6の時;Z1 = 構造7、Z2 ≠ 構造7の時;
大環状化合物が構造Xを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = Z3 = 構造1、Z2 ≠ 構造1の時;Z1 = Z3 = 構造3、Z2 ≠ 構造3の時;Z1 = Z3 = 構造7、Z2 ≠ 構造7の時;Z1 = Z3 = 構造1、Z2 ≠ Hの時;
大環状化合物が構造XIIを有する時、次のどれかまたはすべての条件を適用する:Z1 = Z2 = Z3 = 構造 1, Z4 ≠ 構造 1の時;Z1 = Z2 = Z3 = 構造 3, Z4 ≠ 構造 3の時;Z1 = Z2 = Z3 = 構造 6, Z4 ≠ 構造 6の時;Z1 = Z2 = Z3 = 構造 7, Z4 ≠ 構造 7の時;Z1 = Z2 = Z3 = 構造 9, Z4 ≠ 構造 9の時;Z1 = Z2 = Z3 = 構造 12, Z4 ≠ 構造 12の時;Z1 = Z2 = Z3 = 構造 15, Z4 ≠ 構造 15の時;Z1 = Z2 = Z3 = 構造 17, Z4 ≠ 構造 17の時;Z1 = Z2= Z3 = 構造 7, Z4 ≠ Hの時;Z1 = Z2= Z3 = 構造3, Z4 ≠ Hの時;Z1 = Z3 = H および Z2 = 構造1, Z4 ≠ 構造 1の時;Z1 = Z3 = H および Z2 = 構造7, Z4 ≠ 構造 7の時;Z1 = Z3 = H および Z2 = 構造14, Z4 ≠ 構造 14の時;Z1 = Z2 = H および Z2 = 構造 1, Z4 ≠ 構造 1の時;Z1 = Z2 = Z3 = H, Z4 ≠ 構造 7の時:Z1 = Z2 = Z3 = H, Z4 ≠ 構造 9の時、Z1 = Z2 = Z3 = H, Z4 ≠ 構造 14の時;Z1 = Z2 = Z3 = H, Z4 ≠ 構造 17の時。
【0068】
一つの実施形態において、本開示の実体は、スキームIに説明され、高分子が構造Aを有する時、Y
1、Y
2、Y
3のうち多くとも2つが
であるという条件の大環状化合物を開示する。
【0069】
ある実施形態において、Fe(III)カチオンは、大環状化合物と錯化する。ある実施形態において、Fe(III)カチオンは大環状化合物と錯化しない。Fe(III)は、ここに示されるように錯化しうる。
【0070】
前述のように、例えばカルボン酸、アルコール、イミダゾールまたはピラゾールのようなペンダントドナーは、Fe(III)と錯化する時に脱プロトン化しうる。それらの対応するカルボキシレートイオン、イミダゾレートイオン、ピラゾレートイオン、トリアゾレートイオンまたは酸化物(例えば、アルコキシドまたはフェノキシド)は、本開示の範囲内である。
【0071】
ある実施形態において、開示の実体は、スキームII~IVにおいて定義されるように、スキームII~IVで説明される構造を有する高分子と錯化されるFe(III)を含む、Fe(III)錯体を提供する。
【0072】
他の実施形態において、本開示の実体は、スキームII~IVにおいて定義されるように、スキームII~IVで説明される構造を有する高分子と錯化されるFe(III)を含む、Fe(III)錯体を提供し、ここで、高分子がスキームIを有する時、次の条件のいずれかまたはすべてを適用する:
Z1 = Z2 = 構造1、Z3 ≠ 構造1の時;Z1 = Z2 = 構造2、Z3 ≠ 構造2の時;Z1 = Z2= 構造3, Z3 ≠ 構造3の時;Z1 = Z2 = 構造4、Z3 ≠ 構造4の時;Z1 = Z2= 構造6, Z3 ≠ 構造6の時;Z1 = Z2= 構造7、Z3 ≠ 構造7の時Z1 = Z2 = 構造11, Z3 ≠ 構造11の時;Z1 = Z2= 構造12, Z3 ≠ 構造12の時;Z1 = Z2= 構造15、Z3 ≠ 構造15の時;Z1, Z2またはZ3のうち多くとも2つ=構造16 Q4 = Q5 =t-ブチル、ii) Q4 = Q5 = OCH3の時, iii) Q4 = t-ブチル、Q5 = OCH3の時、およびiv) Q4=OCH3およびQ5=t-ブチルの時;Z3 ≠ 構造16 Q4 = Q5 =t-ブチルの時、ii)Q4 = Q5 = OCH3の時、iii) Q4 = t-butylおよびQ5 = OCH3 の時、および、iv) Q4=OCH3 および Q5=t-ブチルの時;Z1 = Z2= 構造17, Z3 ≠ 構造17の時;Z1 = Z2= 構造1, Z3 ≠ 構造15の時;Z1 = 構造1 および Z2 = H, Z3 ≠ 構造16の時、Q = t-ブチルの時;Z1= Z2 = 構造15、R ≠ メチルの時;
高分子が構造IVを有する時、次の条件のいずれかまたはすべてを適用する:Z1 = Z2 = Z3 = 構造1, Z4 ≠ 構造1の時;Z1 = Z2= Z3 = 構造7、Z4 ≠ 構造7の時;Z1 = Z2= Z3 = 構造1, Z4 ≠ 構造 3の時;Z1 = Z2= Z3 = 構造1, Z4 ≠ 構造7の時;Z1 = Z2= Z3 = 構造 1, Z4 ≠ 構造17の時;Z1 = Z2= Z3 = 構造1, Z4 ≠ Hの時;Z1 = 構造 7, Z2 ≠ 構造7の時;
高分子が構造XIIを有する時、次の条件のいずれかまたはすべてを適用する:Z1 = Z2 = Z3 = 構造1, Z4 ≠ 構造1の時;Z1 = Z2 = Z3 = H, Z4 ≠ 構造1の時;Z1 = Z2 = Z3 = H, Z4 ≠ 構造3の時; Z1 = Z2 = Z3 = H, Z4 ≠ 構造7の時;
高分子が構造XVI、およびZ1 = Z2 = Z3 = メチル、Z4 ≠ 構造1を有する時。
【0073】
ある実施形態において、高分子が構造Aを有する時、Y
1,Y
2,Y
3のうち多くとも2つが
である条件を持たすスキームIに説明された構造を有する高分子と錯化したFe(III)を含むFe(III)である。
【0074】
Fe(III)錯体は、結合水、水酸化物を有してもよく、あるいは結合水もしくは水酸化物配位子を有さない。しかしながら、いかなる理論にも束縛されるものではないが、望ましい物質は水またはアニオンを結合するための開放配位部位を有すると考えられる。
【0075】
一実施形態では、本開示の実体は、高分子が構造IV、および、Z1、Z2およびZ4=構造1、Z3≠構造6を有するという条件の、スキームII~IVに定義されるようなスキームII~Ivに記載の構造を有する高分子を提供する。
別の実施形態では、高分子が構造IVおよびZ1、Z2およびZ4=脱プロトン化構造1、すなわち
、Z3=構造6を有することを条件として、スキームII~IVに定義されるようなスキームII~IVに記載の構造を有する高分子と錯体化されたFe(III)を含むFe(III)錯体を提供する。さらに別の実施形態では、高分子が構造IV、および、Z1、Z2およびZ4=脱プロトン化構造1、Z3≠脱プロトン化構造6、すなわち、
を有することを条件として、スキームII~IVに定義されるようなスキームII~IVに記載の構造を有する高分子と錯体化されたFe(III)を含むFe(III)錯体を提供する。
【0076】
さらに別の実施形態では、本開示の実体は、高分子が構造IVおよびZ1 = Z2 = Z3=脱プロトン化構造1、Z4 ≠ Z1を有することを条件として、スキームII~IVに定義されるようなスキームII~IVに記載の構造を有する高分子を提供する。
【0077】
ペンダントは、1個より多いNまたはOドナー原子(例えば、ピラゾールまたはイミダゾール、カルボン酸塩またはカルボン酸)を有し得るが、一般に、1個のみが金属イオンに配位される。
【0078】
大環状化合物は、種々のペンダント基およびペンダント基の組合せを有することができる。2つ以上のペンダントドナーが存在する場合、それらは同じであっても異なっていてもよい。
【0079】
様々な例において、大環状コアは、1、2、3、または4個の窒素原子、1、または2個の酸素原子、および/または1、または2個の硫黄原子を有する。例えば、大環状コアは、6、7、8、9、または10個の炭素を有する。例えば、大環状コアはその間の全ての範囲および整数を含む9~16個の原子を有し、ここで、大環状コア中の原子の少なくとも1つは、Nなどのヘテロ原子である。別の実施形態では、大環状コア中の原子の少なくとも2つは、例えばNなどのヘテロ原子である。様々な例では、大環状コア中のヘテロ原子を隔てる炭素原子は2、3、4、または5個である。大環状コア中の1個以上の炭素は、大環状コア中の少なくとも1個の炭素がペンダントドナーで置換されていれば、非置換(例えば、-CH2-)または置換(例えば、-CHR-または-CR2-(ここで、R基は例えばここに記載されるようなアルキル基またはアリール基(例えば、ベンジル基)である)であり得る。例えば、それらは、本明細書中に開示される置換基で置換され得る。別の実施形態では、大環状コアが、少なくとも2個のヘテロ原子を含み、その各々は独立してNまたはOであり、それらは少なくとも2個の炭素原子によって互いに分離されている。
【0080】
ペンダント基は、大環状コアに(例えば、窒素に)共有結合させられうる:特に、シクレン(III)、シクラム(VII)、TACN(I)。
【0081】
大環状化合物は、大環状配位子であり得る。本明細書に記載の大環状配位子は、3価の鉄(Fe(III))の状態を安定化する。例えば生物学的に関連する条件下でFe(III)酸化状態を維持するために、Fe(II)と比較してFe(III)の望ましい結合のために、配位形態が設計される。Fe(III)状態の安定化(例えば、E0<0mV対NHE)は、また、錯体のFe(II)状態への還元によって生じる反応性酸素種の生成を抑制する役割を果たす。
【0082】
Fe(III)中心は、生物学的還元剤と反応して活性酸素種(ROS)を生成しないように、Fe(II)に対して安定化されることが望ましい(例えば、
図11参照)。このような酸化還元不活性(生物学的条件下)Fe(III)中心は、NHEに対して負の酸化還元電位を有する。安定化されたFe(III)を生成する大環状コアおよびペンダント基を有する本発明の大環状錯体の例には、1,4,9ートリアザシクロノナン大環状コアおよびFe(III)の結合時に脱プロトン化されるアルコールペンダント基が含まれ、これらに限定されない(例えば、
図6参照)。
【0083】
様々な例において、本発明の大環状化合物または化合物は、生物学的に関連するpH(例えば、全ての0.1pH値およびそれらの間の範囲を含む、pH6.5~7.5または7.2~7.4)で、水溶液中で、標準水素電極(NHE)に対して0mV未満の還元電位(E0)を示す。様々な他の例において、本発明の大環状化合物または化合物は、生物学的に関連するpH(例えば、全ての0.1pH値およびそれらの間の範囲を含む、pH6.5~7.5または7.2~7.4)で、水溶液中で、標準水素電極(NHE)に対して、少なくとも-100、少なくとも-150、少なくとも-200、少なくとも-300、少なくとも-400、少なくとも-500、または少なくとも-600mVの還元電位(E0)を示す。様々な他の例では、本発明の大環状化合物または化合物は、生物学的に関連するpH(例えば、全ての0.1pH値およびそれらの間の範囲を含む、pH6.5~7.5または7.2~7.4)で、水溶液中で、標準水素電極(NHE)に対して、0~-600mV未満の還元電位(E0)を示す。
【0084】
Fe(III)錯体による水のプロトンのT
1緩和時間の短縮、T
1緩和性は、内圏水と外圏水の両方の相互作用によって促進される。つまり、種々の例において、本開示の大環状錯体および化合物は、例えば、酸素または窒素のようなヘテロ原子を介して水に水素結合しうる、1つ以上のペンダントドナー基を含む(例えば、
図1を参照)。このようなペンダントドナー基の非限定的な例は、アルコキシド基に脱プロトン化するペンダントアルコール基である(例えば、
図2、3、4、および7を参照)。さらに、種々の例において、本開示の大環状化合物および化合物は、水と結合しうる開放配位部位を含む(例えば、
図5および6を参照)。これらの水配位子は、例えば、pH電位差滴定(例えば、
図12を参照)によって示されるように、イオン化して、中性pHで水酸化物配位子を形成し得る(例えば、
図8および9を参照)。水配位子は迅速に交換することが望ましい。内圏水交換のための速度定数は、スキャナの磁場強度と、サイズに関連する造影剤の回転相関時間との両方に依存する。3テスラの磁場強度を有する臨床MRIスキャナについては、以下のことが望ましい。種々の例において、約1~4ナノ秒の回転相関時間を有する分子について、造影剤に対する交換速度定数は、10
5s
-1から10
9s
-1または2×10
5s
-1を超える。種々の例において、約0.1~0.2ナノ秒の回転相関時間を有する分子について、造影剤に対する交換速度定数は、10
6s
-1から10
9s
-1である。迅速な水配位子の交換のエビデンスは、様々な温度での
17ONMR分光法研究によって示されている(例えば、
図10参照)。減少した横緩和時間(T
2r)は
17O共鳴の線幅の計測により近似される。
【0085】
Fe(III)の配位の化学性質は配位数に依存する。本開示の大環状化合物は大環状コア(大環状ドナーとも呼ばれる)の一部でありうるドナー基を有し、ドナー基は大環状コア(ペンダントドナーとも呼ばれる)上の置換基(例えば、ペンダント基)の一部でありうる。Fe(III)が本開示の大環状化合物に錯化される場合、4~7個のドナーが金属イオン中心に錯化される。一実施形態では、大環状コアが2~4個のドナーおよび2~4個のペンダントドナーを有することができる。種々の実施形態において、2つの大環状ドナーおよび3つのペンダントドナー、2つの大環状ドナーおよび4つのペンダントドナー、3つの大環状ドナーおよび2つのペンダントドナー、3つの大環状ドナーおよび3つのペンダントドナー、3つの大環状ドナーおよび4つのペンダントドナー、4つの大環状ドナーおよび2つのペンダントドナー、4つの大環状ドナーおよび3つのペンダントドナーが存在する。
【0086】
適切な大環状化合物の例には、以下のものが含まれる:
【0087】
一実施形態では、本開示の化合物は、リンカー基(例えば、芳香族基)、本開示の1つ以上の大環状化合物、ポリマー、デンドリマー、またはペプチドを介して互いに繋がれた(すなわち、共有結合した)2つ以上の大環状コアを有することができる。
【0088】
3テスラ~7テスラの電界強度で有効な造影剤について、約1~4ナノ秒の回転相関時間を有するオリゴマー分子を生成することが望ましい。例えばクリックケミストリー(以下に示す)を使用することによる官能化ベンゼンを介して、例えば3つの大環状Fe(III)錯体を一緒に連結することは、例えばFe(TACO)のような大環状錯体と、大きなタンパク質に連結または結合した分子の間の中間の値を有する回転相関時間を有する化合物を生成する(および以下に示す化合物のための化合物を生成する)ことが期待される。
【0089】
リンカーは例えば、アントラセン、またはカルバゾールなどの複数の縮合芳香族基を有してもよく、またはトリアザシクロノナンまたはテトラアザシクロドデカンの窒素を介して連結されてもよい。造影剤の大環状窒素ドナーに直接的に付加されてもよく(例えば、以下に示すように)、あるいは、介在メチレン基があってもよい(例えば、Fe
2(DTーmeta)について示すように)。
リンカーは、1つ以上の配位基を有し得るか、または非配位性であり得る。
【0090】
1つ以上の大環状化合物は例えば、血液中の優勢なタンパク質であるヒト血清アルブミンのようなタンパク質に共有結合され得る。このアプローチは、回転相関時間を遅くし、(例えば、3テスラの電界強度において)繋がれた大環状化合物の緩和性を増加させ、血液中の造影剤の滞留時間を増加させると考えられる。
【0091】
ペプチドを使用して、2つ以上の鉄錯体を一緒に連結(繋ぐ)してもよい。このアプローチにおいて、錯体は例えば、ペプチドのカルボキシ末端またはアミノ末端を介して連結される。ペプチドは例えば、フィブリン標的化ペプチドなどの他の生体高分子への標的化を可能にする1つ以上の配列を有しうる。
【0092】
化合物は、複数のペンダント大環状錯体を有するデンドリマーであってもよい。例えば、エチレンジアミンコアPAMAMデンドリマーに基づくデンドリマーが、PAMAMが4~36キレートを有するポリアミドアミンである場合に調製される。鉄錯体は、クリック化学によって、またはカルボン酸基のPAMAMの末端アミンへのカップリングによって、付加される。
【0093】
ポリマー造影剤は例えば、トリアゾールリンカーを含有する錯体について記載されるようなクリックケミストリーを使用することによって、あるいは代替的に、ラジカル重合によって(以下に示されるように)作製され得る。このアプローチでは、ベンジル基の代わりにスチレン官能基を用い、大環状配位子はポリマーに組み込まれる。このアプローチはまた、大環状化合物(例えば、TOB型TACN大環状化合物)にも適用可能である。
上記の反応において、得られたポリマーを、例えばFeCl
3のようなFe(III)源と反応させて、MRI造影剤として使用できる本明細書の化合物を提供することができる。
【0094】
腫瘍取り込みおよび保持のためには、造影剤を含有する分子のサイズが重要である。さらに、T
1緩和性の度合いが鉄錯体の数に比例して増加し、また分子の大きさ、より正確には回転相関時間(τ
c)に伴って増加すると仮定すると、多数の繋がれた大環状錯体の使用はコントラストを増強させるはずである。これは、以下に示すように、三つの大環状化合物との二量体またはオリゴマーFe(III)錯体の形成によって達成することができる。例えば、化合物は以下の構造を有することができる:
あるいは、大環状化合物は、次の様式で連結されて下記の図式の二核錯体を形成し得る。
【0095】
あるいは、錯体は、例えば以下に示すように、クリックケミストリーを使用することによって、ポリマー構造(例えば、ポリエステル、ポリラクチド、ポリラクチド-ポリスチレンコポリマーなどの水溶性ポリマー)に付加させることができる。
【0096】
以下はFe(III)錯体の例であり、本開示の範囲内である。
【0097】
様々な実施形態において、本開示の大環状化合物、大環状錯体、または化合物は、塩、部分塩、水和物、多形体、または立体異性体、またはそれらの混合物である。例えば、大環状化合物、大環状錯体、または化合物は、ラセミ混合物、単一の鏡像異性体、単一のジアステレオマー、またはジアステレオマーの混合物として存在する。特定の実施形態では、金属イオンの錯化後、大環状錯体または化合物は、NMRによって測定することができるジアステレオマーおよび/または配座異性体の混合物として存在する。ジアステレオマーは、大環状コアの立体配座および大環状コア上の置換基の方向性から生じうる。
【0098】
本開示の化合物は、内圏水または水酸化物配位子を有しうる。一実施形態では、化合物は、式1のように緩和性に寄与する1つの内圏配位子(q)を有する。
【0099】
式1は、緩和性は結合水(内圏、IS)および第2圏(SS)(外圏)水からの寄与を有することを示す。式2は、より多くの数の結合水分子および速い配位子交換速度定数(結合水の短い寿命(τm))が有利であることを予測する。特に、緩和性の特性を評価するために用いられるパラメータであるr
1は、mM
-1s
-1の単位を有し、造影剤濃度に対するT
lobs(s
-1)のプロットから得られる。数および滞留時間は明確に定義されていないが、第2圏の水についても同様の関係がある。R1およびR2緩和性(37℃、4.7TでのT
1およびT
2緩和速度定数から)を、いくつかの錯体について
図13および
図14に示す。3テスラMRIスキャナーに関するデータを
図21に示す。表1は、いくつかのFe(III)錯体についてのR
1およびR
2緩和性データをまとめている。
【0100】
表1:4.7テスラMRIスキャナー、37℃、中性pH、Hepes緩衝液でのFe(III)錯体のT
1緩和性。HSAはヒト血清アルブミンである。
【0101】
【0102】
本発明の大環状錯体または化合物のT2に対するT1緩和性(R1/R2)の比率は、1(一致)に近いことが望ましい。定義によれば、R2すなわち横緩和性は、R1すなわち縦緩和性よりもいつも大きい。種々の例において、本発明のFe(III)造影剤は、例えば表1に示すように、1に近いR1/R2比を与えるのに望ましい低いR2を有する。様々な例において、本発明の大環状錯体または化合物は、0.5~0.2または0.8~0.6のR1/R2比を有する。これらのデータは、Fe(AmBz)またはFe(TOTO)のような単核錯体のための開放配位部位を有さない特定の錯体と比較して、例えばFe(TOB)またはFe(MeOxyBz)におけるTACN配位子、アルコールペンダントおよび開放配位部位の好適さを示す。(例えば、表2を参照)。
【0103】
表2:4.7T、37℃、pH7.4、100mM NaCl、37℃での6mMヒト血清アルブミン(HSA)によるT1緩和性。
【0104】
【0105】
表1および表2は、Fe(III)錯体と水分子との望ましい相互作用が水のプロトンの緩和を増強し得ることを示す。特定の理論に束縛されるものではないが、内圏水とバルク水との交換が、プロトン緩和のための重要なメカニズムであると考えられる。
【0106】
これは、水のプロトンの緩和を増強するために、Fe(III)錯体と水分子との相互作用の最適化が重要であることを示している。いかなる理論にも束縛されるものではないが、内圏水とバルク水との交換は、Gd(III)錯体におけるプロトン緩和の支配的なメカニズムであると考えられている。しかしながら、Fe(III)は、Gd(III)よりもはるかに小さい金属イオンである(0.78Åに対して1.25Å)。Gd(III)と比較したFe(III)の結合水中のより短いM-H距離は、外圏と内圏との寄与の相対的な効率が、2つの金属イオン錯体について異なりうることを示唆する。
【0107】
関連する水の常磁性緩和(1/T
1m)に寄与する3つのメカニズム、すなわちスカラー(コンタクト)寄与、双極子-双極子寄与およびキュリースピン緩和がある。ここで考慮される縦緩和のためのこれらのうちの最も重要なものは、双極子-双極子寄与(1/T
1DD)である。1.5T以上の磁場強度では、1/T
1DDは式3に示すように定義される。ここで、Sはスピン量子数、ω
HはプロトンのLarmor頻度、r
MHは金属イオン-プロトン距離、γ
Hはプロトンの磁気回転比、geは電子のg因子、μ
Bはボーア磁子、μ
oは真空の誘電率である。特に、1/T
1DDは、Fe(III)よりもGd(III)に有利に働くより大きな全スピン(S)で増加する(より高い緩和性)。しかし、常磁性Fe(III)中心から水プロトンまでの距離(r
MH)がより短いことは、とくに1/r
6依存性を考えると、Fe(III)のプロトン緩和に有利である。
【0108】
双極子緩和メカニズムの相関時間(τc)は、結合水の寿命(1/τm)、造影剤の回転運動(1/τR)および不対電子の縦緩和(1/T1e)を含む様々なプロセスに影響される。これらの3つのプロセスのいずれもが寄与し得るが、それらの重要性は磁場の強度に依存する。文献の多くは、低磁場強度(<1T)でのこれらのプロセスの重要性に焦点が当てられている。これらの条件下では、回転プロセスまたは電子緩和時間が限られている可能性があり、τmは10nsに近い狭い範囲にあるはずである(kex=108s-1)。しかし、より高い磁場強度(≧1.5T)では、最適τmはより大きな範囲(1~100ns)を持ち、回転運動は低分子と蛋白質の間の中間的な値を持つはずであることをシミュレーションは示している。T1e、電子緩和時間は重要なパラメータである。Fe(III)の長いT1eは、高度の対称性をもつ錯体から生じ、ゼロ磁場分裂をほとんど引き起こさず、電子状態の遅い緩和につながると考えられる。また、配位圏は、高スピン(S=5/2)に有利であり、低スピンS=1/2Fe(III)に有利ではない必要がある。
【0109】
金属錯体に結合水があるかどうかを調べる試験は、温度可変
17O NMRデータの収集を含みうる。データは、広帯域プローブを有するVarian 400MHz NMR分光計を用いて得た(
図10)。
17O同位体は天然の存在量が少ないため、各々の錯体はH
2
17Oに富む水溶液に溶解され、NMRで測定したピークがより大きく、したがって視覚的に検出しやすくなるようにした。NMR試験は、試験した各錯体について種々の温度で行なわれた。試験した各化合物の温度範囲は10℃~80℃、または283K~353Kであった。これらの測定のために所望される45mMの錯体溶解度を得るために、試験したpH範囲は3~5であった。温度に依存する横緩和データが、Scientist for Windows version 3.0を用いた最小二乗法の分析によって、様々な式に適合された。まず、開放配位部位を持つ錯体は式5aに示されるSwift-Connick方程式に従うことが知られている:
ここで、
は換算された横緩和速度、P
mは結合水のモル分率、(Δν
observed-Δν
solvent)は錯体存在の有無によるH
2
17O間の線幅の差である。観測される線幅はNMR分光法を用いて測定することができ、予めP
Mを算出することができるため、それらは前記式において測定可能な量である。さらに、
は、結合水分子の滞留時間であり、
は、結合水の横緩和速度であり、Δω
mは、結合水とバルク水との間の化学シフト差である。T
2OSは、配位子原子のバルク水への水素結合を考慮した項である。
【0110】
データが記録、分析された温度範囲で試験された錯体において、
は無視することができ、Swift-Connick方程式は式5bに還元される。それに関連して、換算された横緩和速度はしばしば非常に大きいので、式の両側の自然対数を取ることは、式5cに示すように、データのより良好なスケーリングおよびより簡単な表現を可能にする:
【0111】
結合水の滞留時間の逆数、および結合水とバルク水との間の化学シフト差は、それぞれ式6aおよび6bによって表される:
【0112】
式6aにおいて、k
exは配位部位での水交換速度定数であり、結合水滞留時間の逆数である。k
bはボルツマン定数、hはプランク定数、Tは絶対温度を表し、
はそれぞれ活性化エントロピーとエンタルピーを表す。式6bにおいて、g
Lは等エントロピーのランデの因子、μ
bは磁気モーメント、Sは総スピン状態、Bは適用磁場を表し、
は超微細結合定数を表す。式6bにおいて、等エントロピーのランデの因子、磁気モーメント、スピン状態、磁場、および超微細結合定数項が単一パラメータに統合されており、これをデータの処理で解く。この統合は、式6aを単純な逆温度依存性に限定させ、単純化された定数は定数Cによって表される。この方法を用いて、
図10に示すように、2×10
6s
-1のFe(TOB)の結合水の交換速度定数が決定された。
【0113】
本開示の大環状化合物は熱力学的に安定であり、および/または解離に対して速度論的に不活性である。一実施形態では、大環状化合物は、熱力学的に安定であり、また、解離に対して速度論的に不活性である。一実施形態では、本開示の大環状化合物の速度論的不活性が解離の速度定数を使用して記述されうる。一実施形態において、大環状ドナーおよびペンダントドナーは、1)25mMの炭酸塩、0.40mMのリン酸塩、100mMのNaCl、pH7.2;2)pH4、100mMのNaCl;または3)5倍過剰のZnCl2、100mMのNaCl、pH7.2の存在下で、中性pHで24時間まで、金属中心から顕著に解離しない(例えば、1%以下、0.1%以下、または0.01%以下の解離が観察される)。
【0114】
一実施形態では、Fe(III)は高スピンS=5/2である。効果的なT1(縦)緩和のためには、常磁性スピン状態が必要である。Fe(III)を高スピン状態に保つために、配位子(または結晶)場分裂は大きすぎてはならない。結晶場分裂が対形成エネルギーよりも大きい場合、低スピン(S=1/2)状態が生じる。Fe(III)は、特にアニオン性酸素ドナーを含むある範囲の配位子ドナー基で、高スピン常磁性状態に容易に維持される。
【0115】
望ましい大環状錯体および化合物の例を以下に示す。これらのFe(III)錯体は、水配位子、2つのアルコールペンダント、および立体的に嵩高い第3のペンダントのための開放配位部位を有することができる。例えば、アリール基(例えば、ベンジル基および置換ベンジル基、例えば、メトキシ-ベンジル基、および縮合環アリール基)またはアルキル基(例えば、分岐アルキル基)のような補助ペンダント基が特に有効である。Fe
2(DTーpara)のように、2以上のFe(III)中心を有しうるものもある。配位的に飽和した錯体、Fe(ToTzB)およびFe(AmBz)は比較的高い緩和性を有し、これは、回転相関時間を遅くするより大きな補助ペンダントの付加によって増強され得る。
【0116】
高スピンFe(III)中心の電子緩和時間は十分に長く(例えば、3×10-11sより大きい)、1.5テスラ以上の磁場強度で式4で表されるように相関時間定数における制限因子ではないことが望ましい。これは、例えば、Fe(TACO)、Fe(NOKA)、およびFe(TOB)などの、Fe(III)中心で高い対称性を生じる大環状配位子を使用することによって達成することができる。軸方向に歪んだ錯体における高スピンFe(III)錯体について(T1e)-1はD2に正比例するので、ゼロ磁場分裂因子(D)は小さいことが望ましい。
【0117】
Fe(III)錯体は3価酸化状態のままであり、例えば、過酸化物、スーパーオキシド、アスコルビン酸、またはグルタチオンによって、例えば哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)のような細胞の細胞外の媒体中に存在する濃度で還元されないことが望ましい。通常、NHEに対してゼロmVよりも負(<0mV)の酸化還元電位で十分である。錯体がFe(II)とFe(II)錯体に還元され、錯体がNHEに対して正の酸化還元電位を有する場合、例えば
図8に示すように、反応性の酸素種が生成されうる。例えば[Fe(EDTA)]は約300 mVの酸化還元電位を有し、
図11のアッセイで示すようにROSを生成する。
【0118】
本発明の方法における使用のために、本明細書中に記載される化合物は、医薬調製物として投与され得る。従って、それらは、種々の組成物で提供され得、また1つ以上の薬学的に受容可能な担体と組み合わされ得る。薬学的に許容される担体のいくつかの例は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (2005) 21st Edition, Philadelphia, PA. Lippincott Williams & Wilkinsに見出すことができる。組成物は液体、溶液、または固体として提供することができ、任意の適切な送達形態またはビヒクルと組み合わせて提供することができ、その例としてはカプレット、カプセル、錠剤、吸入剤またはエアロゾルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0119】
当業者に公知の種々の方法を使用して、本開示の組成物を個体に導入し得る。これらの方法には静脈内、筋肉内、頭蓋内、髄腔内、皮内、皮下、および経口経路が含まれ、これらに限定されない。一実施形態では、組成物は静脈内に投与される。
【0120】
錯体の必要な溶解度は、コントラストを生成する際のそれらの有効性に依存する。良好な緩和性を有するFe(III)T
1造影剤の場合、錯体は100μM~2mMの溶解度を必要とする。しかし、ヒト血清アルブミン(has)またはメグルミンなどの他の添加剤を使用して、溶解性を増加させ、および/または緩和性を増加させてもよい。鉄(III)錯体のいくつかへのHSA(例えば、35mg/mL)の添加は、表1および表2に示すように、より高いT
1緩和性を与える。溶解度は、一般に、25mM炭酸塩および0.4mMリン酸塩を含む100mM NaCl中、ほぼ中性pH(例えば、6.5~7.5、全ての0.1pH値およびそれらの間の範囲を含む)の水溶液中で測定される。使用される組成物の用量は、本開示の組成物が投与される個体の必要性に必然的に依存する。これらの因子には個体の体重、年齢、性別、および病歴が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。
図15、16、17、18、19、20に示すのは、マウスで行われたin vivo MRI試験からのデータである。造影剤であるFe(TOB)が、6.3mM Fe-TOB-HSA(10.5mgHASまたは2当量のメグルミン)0.20mL、注入された。30分間の組織におけるT
1緩和性の差は、最も高いシグナルが腎皮質において観察されることを示す。Fe(NOKA)を用いて実施した第2のin vivo試験は、水配位子を欠く造影剤はin vivoでそれほど良好に機能しないことを示す。Fe(TOB)はまた、マウスにおいて脳腫瘍のコントラストを生じる(
図20)。
【0121】
一局面において、本開示は、本明細書に記載の大環状錯体および化合物を使用するイメージング方法を提供する。イメージング方法は、磁気共鳴イメージング方法を使用する。そのような方法の非限定的な例には、磁気共鳴画像法(MRI)が含まれる。
【0122】
具体的には、Fe(III)と錯体を形成する本発明の大環状化合物は、T1MRI造影剤として使用されうる。これらの錯体は、pHの変化に伴って変化する特性を有し得る。このような特性は、これらの錯体を、例えば癌、卒中および心臓疾患のような疾患のより良好な治療的処置を可能にするpHのマッピングのために、有用なものとする。
【0123】
本開示のイメージング方法は、細胞、組織、器官、血管系、またはそれらの一部をイメージングするために使用され得る。細胞、組織、器官、血管系は、個体の一部であり得る。「個体」とは、ヒトまたは非ヒト動物(例えば、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ネコ、イヌ、または農業、ペット、もしくはサービス動物やその他)を意味する。一実施形態では、本開示は、細胞、組織、器官、または血管系を本開示の化合物と接触させるステップと、細胞、組織、器官、または血管系の少なくとも一部をイメージングして、細胞、組織、器官、または血管系のイメージを取得するステップとを含む、細胞、組織、器官、または血管系の少なくとも一部のイメージを取得する方法を提供する。細胞、組織、または器官の少なくとも一部は、生きていても死んでいてもよい。同様に、個体は生きていても死んでいてもよい。
【0124】
一実施形態では、大環状錯体化合物は、Fe(III)T1MRI造影剤として使用される。このコントラストは、鉄錯体が蓄積する領域にポジティブコントラストを与えるT1強調イメージングによって生成される。錯体は、バルク水のプロトンのT1緩和時間を減少させる内圏および/または外圏水の相互作用を伴う生物学的還元条件下において、高スピンFe(III)である。
【0125】
本出願では、単数形の使用は複数形を包含し、その逆も同様である。
【0126】
本開示の大環状化合物は、例えば、実験の詳細に記載されるように調製され得る。以下の実施例は、本開示を例示するために提示される。それらは、いかなる方法においても限定を意図するものではない。当業者は、本開示の範囲内にあることが意図されるこれらの実施形態に対する慣例的な変更修正がなされ得ることを認識するだろう。
【0127】
以下の記載は、本開示の大環状化合物、大環状錯体、化合物、および組成物の様々な例、ならびにそれらの使用を記載する:
提示1.本開示の大環状化合物は以下を含む:
本開示の大環状コア(例えば、大環状コア中の原子の少なくとも1つがN原子であり、少なくとも2つの炭素原子がN原子、O原子、またはS原子からなる群から選択されるヘテロ原子を分離する、9~15個の原子を含む大環状コア)および本開示の1つ以上のペンダント基(ここで、1つ以上のペンダント基は大環状コア上の置換基(例えば、共有結合)である)(例えば、以下の構造を有する1つ以上のペンダント基:
あるいはそれらのアニオン性(例えば脱プロトン化)アナログあるいはそれらの立体異性体、
ここで、Q
1、Q
2はそれぞれ独立にH、OCH
3、CO
2HまたはCH
2CO
2G
4であり、G
4はH、C
1からC
12の直鎖または分岐構造の置換または非置換アルキル基、またはPEG基であり(-CH
2CH
2O-)
n、(n=1-12、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、および12)、Q
3はH、C
1からC
12の直鎖または分岐構造の置換または非置換アルキル基、またはPEG基であり(-CH
2CH
2O-)
n、(n=1-12)、Q
4およびQ
5はそれぞれ独立にH、OCH
3、CO
2H、または直鎖または分岐構造の置換または非置換アルキル基であり、AはC
1からC
12の直鎖または分岐構造の置換または非置換のアルキル基、あるいは置換または非置換のアリール基、またはアミノ酸、それらの塩、部分塩、水和物、多形体、立体異性体である。
提示2.大環状コアに錯化された高スピンFe(III)カチオンを含む大環状錯体は、本開示の大環状化合物(例えば、提示1による大環状化合物)であり、および/または、大環状化合物の少なくとも1つのペンダント基置換基、またはその塩、部分塩、水和物、多形体、もしくは立体異性体であり、ここで、大環状化合物は負の酸化還元電位(例えば、生物学的に関連するpH(例えば、6.5~7.5または7.2~7.4)の水溶液(例えば、水)中で標準水素電極(NHE)に対してゼロ未満の酸化還元電位)を示す。
提示3.提示1または2に記載の大環状化合物または錯体であって、1つ以上のペンダント基の少なくとも1つまたは全てが、大環状コア上のNに共有結合している。
提示4.提示2または3に記載の大環状錯体であって、大環状錯体は少なくとも1つの開放配位部位がある。
提示5.提示2-4のいずれか1つに記載の大環状錯体であって、大環状錯体は、高スピンFe(III)イオンに錯化された少なくとも1つの水または少なくとも1つの水酸化物を有する。
提示6.提示1~5のいずれか1つに記載の大環状化合物または大環状錯体であって、前記ペンダント基の少なくとも1つが、ベンジル位置で置換されているか、または該ペンダント基のヘテロ原子につながるアルキル基の任意の炭素で置換されている。
提示7.提示1~6のいずれか1つに記載の大環状化合物または大環状錯体であって、前記大環状コアが、シクレン(cyclen)部分、シクラム(cyclam)部分、またはTACN部分である。
提示8.提示2~4のいずれか1つに記載の大環状錯体であって、大環状錯体がTACN部分および少なくとも1つ(例えば、1つまたは2つ)のアニオン性ペンダント基を含む。
提示9.提示8に記載の大環状錯体であって、アニオン性ペンダントが、カルボキシレートペンダント、イミダゾレートペンダント、ピラゾレートペンダント、アルコキシドペンダント、およびフェノキシドペンダントから個々に選択される。
提示10.提示8または9に記載の大環状錯体であって、大環状錯体がさらに配位ペンダントグループまたは非配位ペンダントを含む。
提示11.提示1~10のいずれか1つに記載の大環状化合物または大環状錯体であって、前記大環状コアは、以下の構造のうちの1つを有する:
ここで、X
1、X
2、X
3、およびX
4はNであり;W
1、W
2およびW
3はそれぞれ独立にOまたはSであり;Y
1、Y
2、Y
3、およびY
4はそれぞれ独立にNを含むペンダントドナーであり、ここでNは孤立電子対(例えば、アミノ、ベンゾイミダゾール、イミダゾール、アニリン、ピラゾイル、トリアゾール、ベンゾトリアゾールなど)またはOを含むペンダントドナーを有し、ここでOは少なくとも1つの孤立電子対を有するが、好ましくは2つまたは3つの孤立電子対を有し(例えば、ケトン、アルコール、アルコキシド、カルボン酸、アミド、フェノールまたはフェノキシド、またはそれらの脱プロトン形態、例えばカルボキシレートイオン、イミダゾレートイオン、ピラゾレートイオン、またはアルコキシドまたはフェノキシドを含む酸化物);m
1、m
2、m
3、およびm
4は、それぞれ独立に0、1、または2であり;n
1、n
2、n
3、およびn
4はそれぞれ独立に1または2であり;R
1、R
2、およびR
3はそれぞれ独立に置換または非置換アリール、または置換または非置換ヘテロアリール、または置換または非置換アルキル基であり、ここでR
1、R
2、およびR
3はペンダントドナーによって置換されておらず、ここでアルキル-Y鎖のアルキルセグメント(アルキル-Y
1、アルキル-Y
2、アルキル-Y
3および/またはアルキル-Y
4)はそれぞれ独立して置換されていてもよい(例えば、構造aまたは構造b)または非置換(構造cまたは構造d)。構造a~fについて、ペンダントは、キラル炭素においてRまたはS配置のいずれかを有し得る:
提示12.提示2~11のいずれか1つに記載の大環状化合物または錯体であって、前記大環状コアは以下の構造を有する:
ここで、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立して、置換または非置換のアリール、置換または非置換のヘテロアリールまたは置換または非置換のアルキル基であり、ここで、R
1、R
2およびR
3は、ペンダントドナーによって置換されておらず;そして大環状環が構造Iを有する場合、Z
1はHであるか、またはスキームIIIにおけるペンダント基の1つであり、
Z
2およびZ
3はそれぞれ独立してスキームIIIにおけるペンダント基の1つであり;
大環状化合物が構造II、III、VII、VIII、IXまたはXVを有する場合、Z
1およびZ
2はそれぞれ独立してスキームIIIのペンダント基の1つであり;
大環状環が構造VI、XIまたはXIVを有する場合、Z
1およびZ
3はそれぞれ独立してスキームIIIのペンダント基の1つであり;
大環状環が構造XVIを有する場合、Z
1はスキームIIIのペンダント基の1つであり;
大環状環が構造IVを有する場合、Z
4はスキームIIIのペンダント基の1つであり、Z
1、Z
2およびZ
3はそれぞれ独立してHであるかまたはスキームIIIのペンダント基の1つであるが、ただし、Z
1、Z
2およびZ
3の多くとも2つがHであり;
大環状環が構造Vを有する場合、Z
1およびZ
2はそれぞれ独立してHまたはスキームIIIのペンダント基の1つであり、Z
3がスキームIIIのペンダント基の1つであり;
大環状環が構造Xを有する場合、Z
1およびZ
3はそれぞれ独立してスキームIIIのペンダント基の1つであり、Z
2がHまたはスキームIIIのペンダント基の1つであり;
大環状環が構造XIIを有する場合、Z
4はスキームIIIのペンダント基の1つであり、Z
1、Z
2およびZ
3はそれぞれ独立してHまたはスキームIIIのペンダント基の1つであり、ただし、Z
1、Z
2およびZ
3の多くとも2個はHであり;
大環状環が構造XIIIを有する場合、Z
1およびZ
3はそれぞれ独立してスキームIIIのペンダント基の1つであり、Z
2はHまたはスキームIIIのペンダント基の1つであり;
式中、全ての構造I~XVIについて、適用可能な場合、Z
1、Z
2、Z
3およびZ
4の各々は互いに独立して選択される。
提示13.提示2~12のいずれか1つに記載の大環状化合物または錯体であって、大環状コアが以下の構造を有する:
提示14.提示2~13のいずれか1つに記載の大環状化合物または錯体であって、大環状化合物は次のいずれかの構造を有する:
提示15.リンカー基またはポリマー、デンドリマー、タンパク質またはペプチドによって繋がれた(例えば共有結合した)1つ以上の大環状基(例えば大環状錯体基)を含み、前記ポリマー、前記デンドリマー、前記タンパク質または前記ペプチドに共有結合した(例えば結合した)1つ以上のペンダント大環状基(例えば大環状錯体基)を含み、個々の大環状基(例えば大環状錯体基)の各々は本開示の大環状化合物(例えば、提示1~14のいずれか1つに記載の大環状化合物)に由来する、化合物。
提示16.提示15に基づく化合物またはポリマーであって、当該化合物は次の構造を有する:
提示17.提示15に記載の化合物またはポリマーであって、ポリマーが以下の構造を有する:
提示18.本開示の1つ以上の大環状化合物および/または1つ以上の大環状錯体(例えば、提示1に記載の1つ以上の大環状化合物および/または記載2~14のいずれか1つに記載の1つ以上の大環状錯体)および/または本開示の1つ以上の化合物(例えば、提示15~17のいずれか1つに記載の化合物)および薬学的に許容される担体を含む、組成物。
提示19.提示18に記載の組成物であって、組成物が、ヒト血清アルブミンおよび/またはメグルミンをさらに含む。
提示20.細胞、器官、血管系、または組織の少なくとも一部のイメージを取得する方法であって、細胞、器官、血管系、または組織を、本開示の1つ以上の大環状化合物および/または1つ以上の大環状錯体(例えば、提示1に記載の1つ以上の大環状化合物および/または提示2~14のいずれか1つに記載の1つ以上の大環状錯体)および/または本開示の1つ以上の化合物(例えば、提示15~17のいずれか1つに記載の化合物)と接触させること、および、細胞、器官、血管系、または組織の少なくとも一部をイメージングして、細胞、器官、血管系、または組織の一部のイメージを取得することを含み、当該イメージは、磁気共鳴を使用することによって取得される、方法。
提示21.提示20に記載の方法であって、細胞、器官、血管系、または組織が個体の一部である、方法。
提示22.提示20または21に記載の方法であって、磁気共鳴画像(MRI)を用いてイメージを取得する方法。
提示23.提示20~22のいずれか1つに記載の方法で、前記大環状化合物および/または化合物が、T
1剤(単数)または複数のT
1剤である方法。
【0128】
[実施の詳細]
2置換TACN(1,4,7-トリアザシクロノナン)配位子の合成のための一般的な手順である。他の合成手順を
図27、28、29、30に示す。
【0129】
TACN-保護:N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(304mg、2.55mmol、1.1当量)を、クロロホルム(2mL)およびトルエン(8mL)中のTACN(300mg、2.32mmol)の溶液に添加した。溶液を室温で12時間撹拌した。溶媒を減圧下で蒸発させて、油状生成物を得た。この粗生成物をさらに精製することなく次の合成に使用した。1,4,7-トリアザトリシクロ[5.2.1.04,10]デカン(tacnオルトアミド)のESI-MS(M/z)、計算値:140.1[M + H+](100%)。
【0130】
保護されたTACNアルキル化。上記で単離した粗TACN-オルトアミド生成物を乾燥THF(5mL)に溶解し、この溶液にAr(g)を5分間バブリングして不活性雰囲気を生成した。ハロゲン化試薬を、この溶液に、直接、または1mLの乾燥THFに予め溶解して添加した。これらの試薬には、ベンジルブロミド、ヨードメタン、プロパルギルブロミド、1-ブロモ-2-(2-メトキシ-エトキシ)エタン、4-(ブロモメチル)-1,1’-ビフェニル、エチル4-(ブロモメチル)-ベンゾエートまたはベンジルクロロメチルエーテルのいずれかが含まれ得る。溶液を、選択した試薬に応じて1~7日間撹拌した。生成物を溶液から沈殿させ、次いでこれを濾過し、ジエチルエーテル(3×15mL)で洗浄した。生成物が沈殿しなかった場合(例えば、1-ブロモ-2-(2-メトキシ-エトキシ)エタンの場合)、溶媒を加圧下で除去して粗生成物を得、これをさらに精製することなく次の合成に利用することができる。
【0131】
アルキル化保護TACN誘導体の脱保護。先の合成の生成物を12M HCl/MeOH 1:1溶液またはKOH溶液に溶解した。溶液を一晩還流した。溶液を室温まで冷却した後、生成物の精製を2つの方法のうちの1つによって行った。生成物の遊離塩基形態を単離するために、溶液のpHを12に調整し(KOH脱保護の場合、調整は必要ない)、生成物をクロロホルム(3×10mL)を用いて抽出した。クロロホルム層を合わせ、溶媒を加圧下で除去した。生成物をHCl塩として単離するために、溶媒を加圧下で蒸発させ、粗HCl塩をエタノール(5mL)に溶解した。12M HClを溶液(1~2mL)に加え、溶媒を加圧下で蒸発させて生成物を得た。
【0132】
プロピルアルコールドナー基の付加。上記段落に記載したモノアルキル化生成物(遊離塩基形態)の1つを、エタノール、水、またはエタノール/水混合物に溶解した。(S)-(-)プロピレンオキシドを溶液に添加し、12時間撹拌した。溶媒を加圧下で除去して、粗生成物を得た。最終的な配位子の精製は、カラムクロマトグラフィー、クロロホルム/メタノール100/0~50/50を用いて行った。あるいは、(S)-(-)プロピレンオキシドの代わりに(R)-(+)プロピレンオキシドを使用して、逆のキラリティーのペンダント基を有する大環状化合物を得ることができる。
【0133】
Fe(III)TACN誘導体を形成するための一般的な手順。直前に記載した配位子をエタノールに溶解し、FeCl2・4H2Oを該溶液に添加した。溶液を40℃に加熱し、1時間撹拌した。溶液を室温に冷却した後、生成物が沈殿するまでジエチルエーテルを加えた。生成物を濾過し、ジエチルエーテル(3×20mL)で洗浄した。あるいは、等価のFeCl3を、2当量のトリメチルアミンとともにアセトニトリル中の配位子の撹拌液に加えた。生成物が沈殿するまでジエチルエーテルを加えた。
【0134】
具体例。
【0135】
TOB配位子の合成。1,1’-(7-ベンジル-1,4,7-トリアゾナン-1,4-ジイル)ビス(プロパン-2-オール)の合成。10mLの丸底フラスコにおいて、1-ベンジル-[1,4,7]-トリアザシクロノナン(0.127g、0.5795mmol)が5.0mLの無水エタノールに溶解された。この溶液に(S)-(-)-プロピレンオキシド(2.9mmol、5.0当量)を添加した。溶液を室温で2日間撹拌した後、溶媒を加圧下で除去し、油状の粗生成物を得た。次いで、粗生成物をジエチルエーテルに溶解し、沈殿を濾過により除去した。濾液を加圧下で乾燥させて、1,1’-(7-ベンジル-1,4,7-トリアゾナン-1,4-ジイル)ビス(プロパン-2-オール)を透明な油として得た(0.1657g、0.4942mmol、85%)。ESI-MS: m/z=336.3[M+H]+。1H NMR(400MHz、CD3OD);δ1.09(d、6H、J=6)、2.25-2.94(m、16H)、3.55-3.83(m、4H)、7.15-7.44 (m、5H)。13C NMR(75MHz、CDCl3):δ19.9、54.4、55.2、62.7、63.8、66.4、127.1、128.2、129.6、139。アセトニトリル中のTOB配位子に1当量のFeCl3、2当量のトリエチルアミンを加え、一晩攪拌した。生成物が沈殿するまでジエチルエーテルを加えた。沈殿を単離し、ジエチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥させた。収率35%。ESI-MS:M/z=389.2[M]+、425.0[M+H+Cl]+ジエチルエーテルで洗浄。真空下で乾燥させる。収率35%。ESI-MS:M/z=389.2[M]+、425.0[M+H+Cl]+。
【0136】
TON配位子の合成。ベンジル脱保護は、Pd/C(10%)触媒によって行った。5mLメタノール・1mL水中の30mgのPd/C(10%)を配位子溶液に添加した。アルゴンガス下で30分間、溶液から空気を除去した。水素雰囲気下、室温で、Parr水素化装置上で激しく振盪しながら、接触水素化を3日間行った。混合物をセライト上で濾過して反応溶液から触媒を除去し、(1,4,7-トリアゾナン-1,4-ジイル)ビス(プロパン-2-オール)(TON配位子)を得た。ESI-MS(m/z)、計算値:246.3[M+H+](100%)。フラスコをロータリーエバポレーター上に置くことによって、溶液を乾燥させた。
【0137】
NODAC(2,2’-(1,7-ジオキサ-4,10-ジアザシクロドデカン-4,10-ジイル)二酢酸)の合成。質量0.122グラム(0.701mmol)の4,10-ジアザ-12-クラウン4-エーテルおよび0.0987グラム(0.714mmol)の炭酸カリウムを5mLのアセトニトリルに添加し、丸底フラスコを室温で撹拌した。撹拌混合物に、0.2848g(1.46mmol)のtert-ブチルブロモアセテートをピペットによりゆっくりと添加した。溶液を4時間撹拌し続けた。次に、溶液を濾過し、溶解していない炭酸カリウムを除去し、濾液を真空下に置いて溶媒を除去し、黄色油を残した。油状物を3mLのジクロロメタンおよび1mLのトリフルオロ酢酸に溶解し、室温で一晩撹拌した。次に、溶媒を真空除去し、残った白色固体を50:50エーテル-メタノール混合物中で洗浄し、濾過して回収した。生成物の収量は0.1822グラム(0.628mmol、89.5%)であった。1H NMR(300MHz)ppm:4.004(s、独立CH2、4H)、3.760(t、O-CH2、8H)、3.535(s、環N-CH2、8H)。ESI-MS:m/z=347.2[M+2Na-H)]+、375.0[M+2Na+K-2H+]+)。
【0138】
Fe(III)NODAC錯体の合成。質量0.1108グラム(0.381mmol)の2,2’-(1,7-ジオキサ-4,10-ジアザシクロドデカン-4,10-ジイル)二酢酸を3mLの水に溶解し、溶液中に撹拌し、pH6に達するまで少量の1M NaOHを添加した。次に、0.1028グラム(0.380mmol)の塩化鉄(III)六水和物を溶液に添加し、一晩撹拌した。アセトニトリルを溶液に添加し、遠心分離して沈殿を形成した。沈殿物を繰り返し洗浄し、エーテルで遠心分離して水を除去し、次いで真空下で乾燥させた。赤色固体が得られた。収量0.0601グラムの[Fe(III)(NODAC)OH]が得られた(0.139mmol、36.6%)。ESI-MS:m/z=384.1([M+NaOH-2H]+)。
【0139】
NODOH(2,2’-(1,7-ジオキサ-4,10-ジアザシクロドデカン-4,10-ジイル)ビス(プロパン-2-オール)の合成。質量102.6mg(0.589mmol)の4,10-ジアザ-12-クラウン4-エーテルを4mLのエタノールに溶解し、丸底フラスコ中で撹拌した。大過剰のS-プロピレンオキシド(0.400mL、0.332g、5.716mmol)を溶液に添加し、室温で3日間撹拌した。溶媒を真空下で除去して、黄色油状生成物(0.0603g、0.207mmol、35.1%)を得た。1H NMR(300MHz)ppm:3.75(m、CH、2H)、3.48および3.33(t、O-CH2、8H)、2.69および2.49(t、N-CH2(環)、8H)、2.34および3.24(t、N-CH2依存性、4H)、1.00(d、CH3、6H)。ESI-MS:m/z=291.3[M+H]+、313.3 [M+Na]+。
【0140】
Fe(NODOH)の合成。質量0.0796グラムのNODOHをエタノールに溶解し、丸底フラスコに加えた。次にFeCl2四水和物0.0548gをフラスコに加え、溶液中で一晩撹拌した。溶媒を真空下で除去し、次いで錯体を空気に暴露することによって酸化させた。
【0141】
TOBA配位子の合成。TON配位子を25mL丸底フラスコ中の12mLアセトニトリルに溶解した。次いで、0.189gのエチル-4-(ブロモメチル)ベンゾエート(0.776mmol)および0.100gのN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(0.774mmol)をフラスコに加えた。溶液を室温で3日間撹拌した。ESI-MS(m/z)、計算値:408.3[M+H+](100%)。エステル脱保護は、0.150M NaOHエタノール溶液中で行った。pHを7に調整するためにHClを添加した。得られたNaCl塩を濾過した。クロロホルム溶媒を用いて配位子(TOBA)を洗浄した。ESI-MS(m/z)、計算値:380.3[M+H+](100%)。
【0142】
Fe(TOBA)錯体の合成。撹拌棒付きの25mL丸底フラスコに、TOBA配位子(0.1g、0.263mmol)および10mLエタノールを添加した。FeCl2・4H2O(0.0523g、0.263ミリモル)をエタノール5mlに溶解し、フラスコに加えた。溶液を室温で2日間撹拌した。ジエチルエーテルの添加後、黄色の沈殿物が得られた。溶液を濾過し、ジエチルエーテルで洗浄した。ロータリーエバポレーションにより溶媒を除去することによって、黄色粉末を得た。ESI-MS(m/z)、計算値:433.2[M+H+](100%)。
【0143】
TOPID配位子の合成。TON配位子を25mL丸底フラスコ中の12mLアセトニトリルに溶解した。0.118gの3-ブロモプロピオンアミド(0.776mmol)および0.100gのN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(0.776mmol)をフラスコに添加した。溶液を室温で3日間撹拌した。ESI-MS(m/z)、計算値:317.3[M+H+](40%)、339.2[M+Na+](100%)。塩基性アルミナカラムおよびジクロロメタンおよびメタノール溶媒を使用することによって精製を実施した。
【0144】
DT-Meta。ガス入口および撹拌棒を有する25mL丸底フラスコに、4mLトルエン1mLクロロホルム溶液中の0.100gTACN(0.774mmol)を添加した。0.0920gのN,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(0.774mmol)をフラスコに添加した。溶液を室温で24時間撹拌した。1,4,7-トリアザトリシクロ[5.2.1.04,10]デカン(tacnオルトアミド)のESI -MS(m/z)、計算値:140.1[M+H+](100%)。フラスコをロータリーエバポレーター上に置くことによって、溶液を乾燥させた。乾燥したtacnオルトアミドおよび15mLの乾燥アセトニトリルを、マグネティックスターラーバー、還流冷却器、ガス入口管および添加漏斗を備えた50mLの3つ口丸底フラスコに添加した。10mlの乾燥アセトニトリル溶液中の0.100gのα、α’-ジブロモ-m-キシレン(0.384mmol)を、添加漏斗を用いて30分間滴下することによってフラスコに添加した。溶液を2時間加熱還流し、室温で一晩撹拌した。ホワイトベージュ色の沈殿を吸引濾過法によって回収し、乾燥アセトニトリル(5mL)およびジエチルエーテル(5mL)で洗浄した。6mLメタノールおよび6mL12M HClを、脱保護処理のためにフラスコ中の沈殿物に添加した。溶液を4時間加熱還流した。溶液を室温に冷却した後、NaOHペレットを添加して溶液のpHを8にした。次に、溶液を濾過してNaCl塩沈殿を除去し、クロロホルム(3×60mL)で抽出した。ESI-MS(m/z)、計算値:361.4[M+H+](100%)。溶液をロータリーエバポレートし、0.202gのS-プロピレンオキシド(3.483mmol)を含む25mL丸底フラスコ中の15mLエタノールに溶解し、室温で24時間撹拌した。溶媒を最終溶液から除去し、サンプルをシュレンク管で真空下で乾燥させた。収率は58%と計算された。ESI-MS(m/z)、計算値:593.6[M+H+](45%)、615.6[M+Na+](100%)および297.5[(M+Na+)/2](45%)、1H NMR(CDCl3、25℃、500MHz):δ1.20(12H、CH3)、2.30/2.82(8H、NCH
2
CH)、2.60(24H、CH2CH2)、3.60(4H、CHOH)、3.75(4H、NCH
2
C)および7.28(4H、ベンゼン環のCH)。
【0145】
DT-オルト、DT-メタ、DT-パラのFe(III)錯体。撹拌棒を備えた25mL丸底フラスコに、配位子(DT)(0.1g、0.168mmol)および10mLエタノールを添加した。FeCl2・4H2O(0.0334g、0.168mmol)を2mLのエタノールに溶解し、フラスコに加えた。溶液を60℃に1時間加熱し、室温に冷却した。ジエチルエーテルの添加後、黄色の沈殿が得られた。溶液を濾過し、ジエチルエーテルで洗浄した。溶媒をロータリーエバポレートによって除去することによって、黄色粉末を得た。ESI-MS(m/z)、計算値:350.4[M/2](100%)。エバンス方法を用いて水溶液中で測定した実効磁気モーメントは、Fe2(DT‐meta)錯体に対して6.4BM、Fe2(DT‐ortho)錯体に対して8.2 BMのμeffを与えた。
【0146】
TON大環状化合物。ガス入口および撹拌棒を有する25mL丸底フラスコに、4mLトルエン1mLクロロホルム溶液中の0.100gのTACN(0.774mmol)を添加した。0.0920gのN,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール(0.774mmol)をフラスコに添加した。溶液を室温で24時間撹拌した。1,4,7-トリアザトリシクロ[5.2.1.04,10]デカン(tacnオルトアミド)のESI-MS(m/z)、計算値:140.1[M+H+](100%)。フラスコをロータリーエバポレーター上に置くことによって、溶液を乾燥させた。乾燥したtacnオルトアミドおよび15mLの乾燥テトラヒドロフラン(THF)を、マグネティックスターラーバー、還流冷却器、ガス入口管および添加漏斗を備えた50mLの3つ口丸底フラスコに添加した。臭化ベンジル92.2μL(0.774mmol)をフラスコに加え、溶液を室温で一晩撹拌した。ホワイトベージュ色の沈殿を吸引濾過法によって回収し、乾燥THF(10mL)およびジエチルエーテル(10mL)で洗浄した。7mLメタノールおよび7mL12M HClを、脱保護処理のためにフラスコ中の沈殿物に添加した。溶液を4時間加熱還流した。溶液を室温に冷却した後、NaOHペレットを添加して溶液のpHを8にした。次いで、溶液を濾過してNaCl塩沈殿を除去し、クロロホルム(3×60mL)で抽出した。ESI-MS(m/z)、計算値:220.3[M+H+](100%)。溶液をロータリーエバポレートし、0.225gのS-プロピレンオキシド(3.870mmol)を含む25mL丸底フラスコ中の15mLエタノールに溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液をロータリーエバポレートし、シュレンク管で真空下で乾燥させ、10mLのメタノールに溶解した。%。ESI-MS(m/z)、計算値:336.3[M+H+](100%)。ベンジル脱保護は、Pd/C(10%)触媒によって行った。5mLメタノール1mL水中の30mgのPd/C(10%)を配位子溶液に添加した。アルゴンガス下で30分間、溶液から空気を除去した。水素雰囲気下、室温で激しく撹拌しながら、触媒水素化を3日間行った。混合物をセライト上で濾過して反応溶液から触媒を除去し、(1,4,7-トリアゾナン-1,4-ジイル)ビス(プロパン-2-オール)(TON配位子)を得た。ESI-MS(m/z)、計算値:246.3[M+H+](100%)。フラスコをロータリーエバポレーター上に置くことによって、溶液を乾燥させた。
【0147】
TONO。TON配位子を25mL丸底フラスコ中の12mLアセトニトリルに溶解した。0.0499gの1,3-ジクロロ-2-プロパノール(0.387mmol)および0.100gのN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(0.774mmol)をフラスコに添加した。該溶液を50℃で2日間撹拌した。TONO配位子を、ジクロロメタンおよびメタノール溶媒を用いる塩基性アルミナカラムを使用することによって精製した。ESI-MS(m/z)、計算値:547.5[M+H+](18%)、569.5[M+Na+](100%)、274.5[(M+H+)/2](10%)。
【0148】
ICP-MS。鉄濃度は、Thermo X-Series 2 ICP-MSを用いて測定した。全てのサンプルを、2%硝酸を含む10mL合計水溶液中で希釈し(1μM)、24時間加熱(90℃)することによって分解した。定量化のために、0.1ppb~250ppbの範囲の鉄金属の線形較正曲線を毎日作成した。サンプルを4日間にわたって硝酸中で分解(digest)し、鉄濃度を測定した。
【0149】
磁気モーメント。Evans法を用いて磁気モーメント試験のための試料を、D2O中に5%t-ブタノールの反磁性標準を含む同軸NMRセルを用いて調製した。外側の5mm NMR管は5% t-ブタノールの存在下で、4mM、8mM、40mM、および70mMの固定濃度を有する5mM常磁性錯体を含有した。実効磁気モーメント(μeff,BM)が、298K(T)で、小分子に対する修正Evans法を用いて計算された。
【0150】
pH電位差滴定。100mM NaCl中の1~1.5mM Fe(III)錯体を含有する溶液を、25℃、Ar下においてNaOHで滴定した。HYPERQUAD 2013年ver. 6.0.1プログラムを用いて、pHデータから錯体のプロトン化状態とpKa値を決定した。HySS ver. 4.0.31プログラムを用いてスペシエーション図を得た。
【0151】
ファントムMRイメージングのためのサンプルの調製:ファントムイメージング実験のためのサンプルは、50~500μMの錯体、20mMのHEPESおよび100mMのNaClを含有した。ヒト血清アルブミン(HSA)を含有する試料については、35mgのHSAをこれらの溶液に添加した。全溶液のpHを7.0に調整した。
【0152】
4.7Tでのファントム(in vitro)イメージング。MRI取得は、AVANCEデジタルエレクトロニクス(Bruker BioSpec platform with ParaVision v 3.0.2 acquisition software、Bruker Medical、Billerica、MA)を組み込んだGeneral Electric 4.7T/33cm水平ボア磁石(GE NMR instruments、Fremont、CA)を用いて実施された。各錯体は、100mM NaCl(pH 7.4)HEPESで0.0.5mM~400mMの範囲の濃度に希釈し、25℃でイメージングした。T1緩和速度(R1)は、固定エコー時間(TE)10msおよび75~8000msの範囲の繰り返し時間(TR)を有する飽和回復、スピンエコー(SE)シーケンスを利用して得た。
市販の画像処理ソフトウェア(Analyze 7.0、AnalyzeDirect、Overland、KS)を用いて、関心領域(ROI)内の平均強度をとることによって、各反復時間におけるシグナル強度をサンプリングし、Matlab's Curve Fitting Toolbox(Matlab 7.0、MathWorks Inc、Natick、MA)を用いて、式の非線形フィッティングによって、R1およびSMAXを計算した。次いで、化合物のモル濃度対R1の勾配を、データの線形回帰フィッティングによって得ることによって、それぞれの錯体についてのT1緩和性を決定した。同様に、T2緩和率(R2)が、多重エコー、Carr-Purcell-Meiboom Gill(CPMG)SEシークエンスを用いて、2500msの固定TRと15~300msのTE時間を用いて取得した。次に、R2およびSMAXは上記のように式を用いて計算された。前記のように、T2緩和性は、データの線形回帰フィッティングを介して、濃度対R2の勾配を得ることによって決定された。
【0153】
マウスにおけるin vivoイメージング。マウスモデル(BABC/cJ、Jackson Laboratory)において、4.7T Bruker前臨床MRIにおいて、in vivoでのコントラストの増強に対するFe(III)錯体の有効性を試験した。シグナルの標準化のためのイメージングセッションのために、密封されたファントムが含められた。造影剤の投与前に、増強のベースライン値として役立つようにスキャンが取得された。2つのスキャン・プロトコルが用いられた:(1)シグナルの増強を測定するために、T
1加重、3D、マウスの胸郭から尾をカバーするスポイルドグラディエントエコー・スキャン、(2)血液(静脈下部)、腎臓、肝臓、胆嚢および後部筋におけるT
1速度を測定するためのシグナル回復、定常状態フリースキャン(IR-SSFP)。化合物を、50μmol[Fe]/kgの用量で尾静脈を介して静脈内注射し、そしてMRデータを、注射後1時間まで連続的に取得して、分布およびクリアランス動態を試験した。すなわち、0.2mLの6mMストック溶液、すなわち0.05mmol/Kgをマウスに注射した。胆道系によるより遅いクリアランス速度を特定するために、注射後3時間および6時間でさらなるスキャンを取得した。FDA承認のMRI造影剤ガドペンテテートジメグルミン(Gd-DTPA、Magnevist(登録商標))を、比較のために50μmol[Gd]/kgでマウスの別個の群に注射した。データを
図15、16、17、18および19に示す。SPGRデータセットについて、シグナル強度をファントムに正規化し、各器官についてのシグナル増強、ならびに背筋と比較したコントラスト対ノイズ比の増強を測定した。Fe(III)濃度は、T
1速度の増大を計算し、in vitroで測定した化合物の緩和で割ることによって、推定した。データは、Fe(TOB)が30分間にわたり腎臓および肝臓においてGd(DTPA)よりも大きなコントラストを有することを示した。Fe(NOKA)は腎臓においてGd(DTPA)またはFe(TOB)のいずれよりも低いコントラストを示し、肝臓におけるGd(DTPA)のコントラストとほぼ同等であった(
図18)。