(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-22
(45)【発行日】2023-12-01
(54)【発明の名称】ウイルスクリアランス性能の評価方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/70 20060101AFI20231124BHJP
C12Q 1/44 20060101ALI20231124BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20231124BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20231124BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20231124BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231124BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231124BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20231124BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231124BHJP
【FI】
C12Q1/70
C12Q1/44
C12Q1/6806 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/02
G01N33/50 P
G01N33/569 G
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2022503376
(86)(22)【出願日】2021-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2021007566
(87)【国際公開番号】W WO2021172573
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2020033114
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】粥川 太貴
(72)【発明者】
【氏名】柳田 恒一郎
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0166965(US,A1)
【文献】特表2016-529908(JP,A)
【文献】特表2013-523175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 1/70
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能を評価する方法であって、
(a)ウイルスキャプシド含有液を精製対象溶液に添加する工程、
(b)前記ウイルスキャプシド含有液を添加された精製対象溶液をウイルス除去媒体に接触させ、精製された溶液を回収する工程、及び
(c)前記精製される前の精製対象溶液中の全ウイルスキャプシド数及び前記精製された溶液中の全ウイルスキャプシド数を定量する工程
を含み、
前記精製対象溶液に添加される前記ウイルスキャプシド含有液において、中空ウイルス粒子が除去されており、
前記(c)工程において、前記精製される前の精製対象溶液中のウイルスが有する核酸及び前記精製された溶液中のウイルスが有する核酸を定量する、
方法。
【請求項2】
前記(b)工程において、前記ウイルスキャプシド含有液を添加された前記精製対象溶液を前記ウイルス除去媒体に通過させ、精製された前記溶液を回収する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中空ウイルス粒子が遠心分離により除去される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記中空ウイルス粒子が密度勾配超遠心分離により除去される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記中空ウイルス粒子がイオジキサノールを用いた密度勾配超遠心分離により除去される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸を、定量PCR法又は蛍光フローサイトメトリー法で定量する、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記核酸を、定量PCR法で定量する、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ウイルス除去媒体が、膜又はビーズの形態を有する媒体である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ウイルス除去媒体がウイルス除去膜である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルスが有する核酸を定量する工程の前に、前記溶液中の遊離核酸を除去する工程をさらに含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ヌクレアーゼにより前記遊離核酸を除去する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ヌクレアーゼがDNaseI又はベンゾナーゼである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスがParvoviridaeに属するウイルスである、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスキャプシド含有液が、天然由来ウイルスキャプシドを含むウイルスキャプシド含有液である請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物物質含有製剤には、血液から精製される血漿分画製剤や、バイオテクノロジーによって生産される生物学的製剤がある。これらの生物物質含有製剤には、ウイルス混入のリスクがある。一般的に生物物質含有製剤は、ウイルスに対する安全性が保障されている必要がある。そのため、生物物質含有製剤の製造においては、生物物質含有製剤に含まれる又は含まれる可能性のあるウイルスを十分に除去又は不活化する工程、すなわちウイルス除去工程をおく必要がある(例えば、非特許文献1参照。)。ウイルス除去工程のウイルス除去又は不活化能力は、生物物質含有製剤の本製造に至る前にスケールダウンした系において評価・検討される。そのような評価・検討を、ウイルスクリアランス試験という。
【0003】
生物物質含有製剤の製造工程の中でもロバストなウイルス除去工程といわれるのは、低pH処理又はウイルス除去媒体による処理工程である(例えば、非特許文献2参照。)。ウイルス除去膜等のウイルス除去媒体による処理工程は、エンベロープの有無に関わらず全てのウイルスに対して実施することができる点で優れている。
【0004】
通常、生物物質含有製剤の製造工程におけるウイルスクリアランス試験は、任意の製造工程の前後におけるウイルス濃度を測定し、例えばその対数減少率(LRV)を計算することでウイルスクリアランス能力を評価する(例えば、非特許文献1参照。)。このとき、ウイルス除去工程前の生物物質含有溶液に対してウイルス含有液を添加(ウイルススパイク)し、生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に接触させる前及び後のウイルス濃度を測定することにより、ウイルス除去工程のウイルスクリアランス能力を評価する。
【0005】
ウイルスクリアランス能力を評価する際に使用するウイルスの種類に関しては、ICH(International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米欧医薬品規制調和国際会議)のq5aにガイドラインが記載されており、有用な非特異的モデルウイルスの例として「動物パルボウイルス」が挙げられている(例えば、非特許文献1参照。)。その中でも、ICH-q5aを引用した多くのウイルスクリアランス試験において、生物物質含有製剤のウイルスクリアランス試験にはマウス微小ウイルス(MVM)及び豚パルボウイルス(PPV)が特に高頻度で使用されている。これらのウイルス濃度を測定するための方法としては、主にエンドポイント方式アッセイ法や局所病巣算定方式アッセイ法を含む感染価測定法、又は定量PCR (Quantitative-Polymerase Chain Reaction:qPCR)法が用いられる(例えば、非特許文献2、3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/080676A1号
【文献】米国特許出願公開第2012/0088228号明細書
【文献】特許第4024041号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Virul Safety Evalation of Biotechnology Product Derived from Celline of Human or Animal Origin Q5A(R1)
【文献】Note For Guidance On Virus Validation Studies:The Design, Contribution And Interpretation Of Studies Validating The Inactivation and Removal Of Viruses
【文献】血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン(平成11年8月30日付医薬発第1047号医薬安全局長通知)
【文献】Raphael Wolfisberg et al., Journal of Virology (2016)
【文献】Beatriz Maroto et al., JOURNAL OF VIROLOGY (2004)
【文献】ウイルス実験学各論、丸善出版、国立衛生研究所学友会編 pp22-23
【文献】V. Hutornojs at. al (2012) Env, Exp. Biol. 10: pp.117-123
【文献】Anthony M. D’Abramo Jr. et al., 2005 Virology
【文献】Joshua C Grieger et al., Molecular Therapy 2015
【文献】Pavel Plevka et al., JOURNAL OF VIROLOGY (2011)
【文献】PETER TATTERSALL et al., JOURNAL OF VIROLOGY (1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、溶液中のウイルスを除去する工程におけるウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能をより正確に評価可能な方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの知見によれば、ウイルススパイクに使用されるウイルス含有液は、2種類のウイルス、すなわち核酸を有し感染性を有するウイルス又は核酸を有するが感染性を有しないウイルスを含有する場合がある。さらに、ウイルス含有液は核酸及び感染性のどちらも有しない中空ウイルス粒子を含有する場合がある(例えば、非特許文献4、5参照)。中空ウイルス粒子は、中空キャプシド(empty capsid)あるいはウイルス様粒子(virus-like particle)ともいう。なお、「感染性を有しないウイルス」又は「非感染性ウイルス」とは、細胞に侵入する能力及び細胞内で増幅する能力を有してもよいが、侵入後の宿主細胞に対して細胞変性効果(Cytopathic Effect)及び細胞死を伴うウイルス放出を引き起こさず、感染価測定法によって検出されないウイルスを指す。感染性を有するウイルス、感染性を有しないウイルス、及び中空ウイルス粒子は、いずれも、ウイルスキャプシドである。これらウイルス及び/又は中空ウイルス粒子を含有する液を、本開示ではウイルスキャプシド含有液と呼ぶ。
【0010】
感染価測定法では、感染性を有するウイルスは検出できるが、感染性を有しないウイルス及び中空ウイルス粒子を検出することはできない。また、定量PCR法では、核酸を有し感染性を有するウイルス及び核酸を有するが感染性を有しないウイルスを検出できるが、核酸を有しない中空ウイルス粒子を検出することができない。本発明者らは、ウイルスキャプシド含有液には従来のウイルスクリアランス性能評価方法では定量できないウイルス又は中空ウイルス粒子が存在し、これらが存在する場合にはウイルスクリアランス性能評価に影響を与えること、すなわち、ウイルス除去媒体のウイルス除去・不活化能力が過小評価される、又は正しく評価されないという重大な問題が生ずることを初めて見出した。
【0011】
例えば、中空ウイルス粒子を含有するウイルスキャプシド含有液を使用した場合、定量PCR法では検出できない中空ウイルス粒子がウイルス除去媒体の破過を早め、本来測定すべき核酸を有するウイルスが、核酸を有するウイルスのみを負荷した場合に比して早期にウイルス除去媒体から漏れ出てしまい、ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス能が過小評価されてしまうという問題を本発明者らは見出した。本発明者らは、鋭意検討を行った結果、中空ウイルス粒子を除去したウイルスキャプシド含有液を使用することにより、より正確にウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能を評価できる場合があることを見出した。
【0012】
さらに感染価測定法では、核酸を有するが感染性を有しないウイルス及び/又は中空ウイルス粒子を含むウイルスキャプシド含有液を使用した場合に、核酸を有するが感染性を有しないウイルス及び/又は中空ウイルス粒子がウイルス除去媒体の破過を早め、本来測定すべき感染性を有するウイルスが早期にウイルス除去媒体から漏れ出してしまい、ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス能が過小評価されてしまうという問題を本発明者らは見出した。本発明者らは、鋭意検討を行った結果、使用するウイルスキャプシド含有液における、感染価に対する全ウイルスキャプシド粒子数の比率(全ウイルスキャプシド粒子数/感染価)を事前に求め、感染価測定法によるウイルスクリアランス評価の結果を、核酸を有するが感染性を有しないウイルス及び中空ウイルス粒子を含む全ウイルスキャプシドの粒子数に基づく評価の結果として算出しなおすことにより、より正確にウイルスクリアランス性能を評価できる場合があることを見出した。なお、本開示において、「全ウイルスキャプシド」とは、ウイルスキャプシド含有液に存在する全ての種類のウイルスキャプシドを指す。本開示において、「全ウイルスキャプシド粒子数」とは、ウイルスキャプシド含有液に存在する全ての種類のウイルスキャプシドの粒子数を指す。従来技術においては、ウイルスクリアランス評価で使用される全ての種類のウイルスキャプシドを定量していないために、ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス能が過小評価されていたことを、本発明者らは見出した。
【0013】
このように本発明者らは、ウイルスクリアランス性能評価において、使用する定量方法に応じてウイルスキャプシド含有液を選択することが無かった従来に比し、ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能評価する際に、ウイルスの定量方法の種類に応じて使用するウイルスキャプシド含有液を適宜選択、あるいは使用するウイルスキャプシド含有液に応じて定量方法を適宜選択し、ウイルス除去媒体で精製される前後の溶液中の全ウイルスキャプシドを検出することにより、ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能をより正確に評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明としては以下のものが挙げられる。
[1]
ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能を評価する方法であって、
(a)ウイルスキャプシド含有液を精製対象溶液に添加する工程、
(b)ウイルスキャプシド含有液を添加された精製対象溶液をウイルス除去媒体に接触させ、精製された溶液を回収する工程、及び
(c)精製される前の精製対象溶液中の全ウイルスキャプシド数及び精製された溶液中の全ウイルスキャプシド数を定量する工程
を含む方法。
【0015】
[2]
(b)工程において、ウイルスキャプシド含有液を添加された精製対象溶液をウイルス除去媒体に通過させ、精製された溶液を回収する、[1]に記載の方法。
【0016】
[3]
精製対象溶液に添加されるウイルスキャプシド含有液において、中空ウイルス粒子が除去されており、
(c)工程において、精製される前の精製対象溶液中のウイルスが有する核酸及び精製された溶液中のウイルスが有する核酸を定量する、[1]又は[2]に記載の方法。
【0017】
[4]
中空ウイルス粒子が遠心分離により除去される、[3]に記載の方法。
【0018】
[5]
中空ウイルス粒子が密度勾配超遠心分離により除去される、[3]又は[4]に記載の方法。
【0019】
[6]
中空ウイルス粒子がイオジキサノールを用いた密度勾配超遠心分離により除去される、[3]から[5]のいずれかに記載の方法。
【0020】
[7]
核酸を、定量PCR法又は蛍光フローサイトメトリー法で定量する、[3]から[6]のいずれかに記載の方法。
【0021】
[8]
核酸を、定量PCR法で定量する、[3]から[7]のいずれかに記載の方法。
【0022】
[9]
ウイルス除去媒体が、膜又はビーズの形態を有する媒体である、[1]から[8]のいずれかに記載の方法。
【0023】
[10]
ウイルス除去媒体がウイルス除去膜である、[1]から[9]のいずれかに記載の方法。
【0024】
[11]
ウイルスが有する核酸を定量する工程の前に、溶液中の遊離核酸を除去する工程をさらに含む、[3]から[8]のいずれかに記載の方法。
【0025】
[12]
ヌクレアーゼにより遊離核酸を除去する、[11]に記載の方法。
【0026】
[13]
ヌクレアーゼがDNaseI又はベンゾナーゼである、[12]に記載の方法。
【0027】
[14]
ウイルスがParvoviridaeに属するウイルスである、[1]から[13]のいずれかに記載の方法。
【0028】
[15]
ウイルスキャプシド含有液が、天然由来ウイルスキャプシドを含むウイルスキャプシド含有液である[1]から[14]のいずれかに記載の方法。
【0029】
[16]
ウイルスキャプシド含有液が、核酸を有するウイルス粒子、及び中空ウイルス粒子を含む、[1]から[15]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、溶液中のウイルスを除去する工程におけるウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能をより正確に評価可能な方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】濃縮MVM培養液及びリコンビナントMVM-VP2スタンダードのブロッティング結果を示す。各レーンの上に表示した数値は、それぞれSDS-PAGEにおける濃縮MVM培養液のサンプルロード量(μL)、リコンビナントVP2スタンダードのサンプルロード量(μL)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」ということがある)について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための方法等を例示するものであって、これらの例示に限定されるものではない。
【0033】
実施形態に係るウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能を評価する方法は、(a)ウイルスキャプシド含有液を精製対象溶液に添加する工程と、(b)ウイルスキャプシド含有液を添加された精製対象溶液をウイルス除去媒体に接触させ、精製された溶液を回収する工程と、(c)精製される前の精製対象溶液中の全ウイルスキャプシド数及び精製された溶液中の全ウイルスキャプシド数を定量する工程と、を含む。
【0034】
一つの実施形態において、ウイルスとしては、感染性ウイルス又は非感染性ウイルスが例示される。ウイルスは天然由来であることが好ましい。また、ウイルス感染性及び核酸(ウイルス核酸)のいずれも有さない中空ウイルス粒子が存在する。
【0035】
一つの実施形態において、中空ウイルス粒子は、感染性及び核酸を有さないウイルスキャプシドである。また、中空ウイルス粒子には、浮上密度に影響を与えない程度の、ごく小さな核酸フラグメントを内包するものも含まれる。中空ウイルス粒子は天然由来であることが好ましい。
【0036】
一つの実施形態において、ウイルスキャプシドはウイルス及び/又は中空ウイルス粒子を含む。ウイルスキャプシドは天然由来であることが好ましい。
【0037】
天然由来のウイルス及び天然由来の中空ウイルス粒子は、組み換え発現や化学合成に代表される合成的に生成されるウイルスとは区別される。天然由来のウイルス及び天然由来の中空ウイルス粒子としては、それぞれ、ウイルスを感染させた宿主細胞を培地で培養した結果得られるウイルス及び中空ウイルス粒子や、ウイルス核酸を培養細胞にトランスフェクションして培養することで得られるウイルス及び中空ウイルス粒子が例示される。
【0038】
一つの実施形態において、ウイルスキャプシド含有液は、ウイルス及び/又は中空ウイルス粒子を含む液であれば特に限定されないが、天然由来のウイルス及び/又は天然由来の中空ウイルス粒子を含む液が例示される。感染性ウイルス、非感染性ウイルス、及び中空ウイルス粒子の3種のウイルスキャプシドのうちの少なくとも一つを含む液がウイルスキャプシド含有液として例示される。ウイルスキャプシド含有液は、感染性ウイルス又は非感染性ウイルスを少なくとも含むことが好ましい。また、上記3種のウイルスキャプシドのうち中空ウイルス粒子のみを含む液もウイルスキャプシド含有液の一つとして例示される。ウイルスを感染させた宿主細胞を培地で培養した結果得られる、ウイルスの培養液も、ウイルスキャプシド含有液の一つとして例示される。ウイルスは、宿主細胞に感染した状態で存在していてもよいし、ウイルスキャプシド含有液(例えばウイルスの培養液)中に遊離した状態で存在していてもよい。ウイルスキャプシド含有液は、宿主細胞にウイルスを感染させて培養することにより得られた培養物の培養上清及び/又は感染した細胞の破砕物(以下、単に「感染細胞破砕物」ともいう。)であってもよい。「培養上清」としては、感染培養後の培地が例示される。「感染細胞破砕物」としては、感染培養後の細胞を凍結融解やホモジェナイズによって破砕した、いわゆるライゼートが例示される。また、複数のウイルスキャプシド含有液を混合した液もウイルスキャプシド含有液の一つとして例示される。
【0039】
一つの実施形態において、ウイルスキャプシド含有液は、上記のウイルスキャプシド含有液であれば特に限定されないが、溶液、懸濁液、又はゲル状液が例示され、溶液が好ましい態様として例示される。溶液の例として、ウイルスの培養液や、ウイルスの培養液を精製しウイルスキャプシド以外の含有物を除去した液が挙げられる。
【0040】
感染性ウイルス及び非感染性ウイルスは、核酸(ウイルス核酸)を有する。感染性ウイルス及び非感染性ウイルスを合わせて、「核酸を有するウイルス」、「FullCapsidウイルス」又は「FCウイルス」と呼ぶことがある。一方、中空ウイルス粒子は、感染性及び核酸(ウイルス核酸)のいずれも有さないウイルスキャプシドである。中空ウイルス粒子を、「核酸を有さないウイルス」と呼ぶことがある。ウイルスキャプシド含有液中に含まれ得る上記3種のウイルスキャプシド、すなわち感染性ウイルス、非感染性ウイルス、及び中空ウイルス粒子を合わせて全ウイルスキャプシドと呼ぶ。ただし、ウイルスキャプシド含有液から中空ウイルス粒子を除去した場合は、ウイルスキャプシド含有液中に含まれ得る感染性ウイルス及び非感染性ウイルスを合わせて全ウイルスキャプシドと呼ぶ。
【0041】
一つの実施形態において、ウイルスは、生物物質に含まれる又は含まれる可能性のあるウイルスであれば特に限定されないが、マウス微小ウイルス(MinuteVirusofMice)、豚パルボウイルス(PorcineParvovirus)、レオウイルス3型(ReoVirusType3)、急性灰白髄炎ウイルス(PolioVirus)、豚ヘルペスウイルス(PseudorabiesVirus)、単純ヘルペスウイルス1型(HumanHerpesVirus1)、異種指向性マウス白血病ウイルス(Xenotropic murine leukemia virus)、及びウシウイルス性下痢症ウイルス(BovineViralDiarrheaVirus)が例示され、マウス微小ウイルス及び豚パルボウイルスが好ましい態様として例示され、マウス微小ウイルスがより好ましい態様として例示される。
【0042】
一つの実施形態において、ウイルスがパルボウイルスである場合、その平均粒径が20nm以上40nm以下のウイルスが例示される。具体的には、豚パルボウイルス(PPV)又はマウス微小ウイルス(MVM)などが例示される。宿主細胞に任意のパルボウイルスを感染させて培養した「培養上清」及び/又は「感染細胞破砕物」を、本実施形態においては「ウイルス培養液」と呼ぶことがある。
【0043】
一つの実施形態において、ウイルスキャプシド含有液は例えば以下の通り製造することができる。ウイルスキャプシド含有液を生産するために、まず、ウイルスの宿主細胞を培養する。宿主細胞としては、ウイルスが感染し、増幅する細胞であればいずれも利用することができる。ウイルスがパルボウイルスである場合、パルボウイルスが感染して増幅する細胞であればいずれも利用することができる。ウイルスが豚パルボウイルスであれば、PK-13細胞(ATCC)及びPK-15細胞(ATCC)などが利用できる。ウイルスがマウス微小ウイルスであれば、マウス線維芽細胞A9、シミアンウイルス40形質転換ヒト線維芽細胞(324K細胞、NB324K細胞など)、及びチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)などが利用できる。
【0044】
一つの実施形態において宿主細胞の培養方法は限定されない。培養フラスコを用いる方法、マイクロキャリアに固定して攪拌培養する方法、ローラーボトルを用いる方法、バイオリアクターを用いる方法などいずれの方法も利用できる。また、接着培養及び浮遊培養のいずれも利用できる。
【0045】
一つの実施形態において、培養フラスコは、市販の、例えばファルコン社製の組織培養用フラスコや、マルチウェルプレートが例示される。
【0046】
一つの実施形態において、マイクロキャリアは、市販の、例えばGEヘルスケア社製のCytodex、Cytoporeが例示される。
【0047】
一つの実施形態において、ローラーボトルは、市販の、例えばGreiner Bio-One社製のCELLMASTER細胞培養ローラーボトルが例示される。
【0048】
いずれの培養方法においても、培養温度は、哺乳類動物細胞培養に汎用的に適用される33℃以上39℃以下が例示され、特に37℃が好ましい。培地のpHは、哺乳類動物細胞培養に汎用的に適用される7以上8以下が好ましい。培地の濃度は、宿主細胞と等張圧となる(浸透圧が等しくなる)濃度が好ましい。
【0049】
一つの実施形態において、培地としては、DMEM培地、MEM培地、CD培地、SFM培地、OptiPro SMF培地、Viral Vaccine Platform 培地(SFM4Mega Vir培地、Vaccine Xpress培地、及びCDM4Avian培地)等が例示される。これらの培地は、ギブコ社、サーモフィッシャー社、GEヘルスケア社等から入手することができる。
【0050】
培養した非感染状態の宿主細胞にウイルスのシードを感染させる。シードウイルスは、ATCCなどから購入したウイルスを、本明細書に記載する方法等で増やした後にクライオチューブ等に小分けし、-80℃で凍結保存しておいたものを使用できる。購入可能なシードウイルスの例として、ウイルスがPPVならばVR-742(ATCC)、MVMならばVR-1346(ATCC)が例示される。
【0051】
シードウイルス感染方法は、培養した(非感染状態の)宿主細胞の入った培養器材中に、所定の量のウイルス(培地中に懸濁した状態のもの)を添加すればよい。
【0052】
培養液中のパルボウイルス以外の不純物量をより少なくするために、培地は血清を含まない無血清培地であることが望ましい。ただし、ウイルスの効率的な増幅は、ウシ胎児血清(FBS)などの血清を含む培地で培養することにより達成することができる。そのため、特許文献1に記載の方法などにより、ウイルス培養液を回収する24時間以上前に、培養培地を、血清含有培地から無血清培地に交換しておくことで、血清由来の不純物を含まない培地中に細胞からウイルスを生産させて回収することができる。次工程の超遠心の前に、パルボウイルス培養液中に存在する細胞の破片などの大きな粒子径の夾雑物を除去するために、低速遠心と除菌膜濾過を行うこともできる。低速遠心は、ウイルスが沈殿しないが細胞の破片が沈殿する重力加速度を選択して実施することができる。例えば3,000rpm×20分の遠心分離(例えば、特許文献1参照。)が行われるが、これらの条件に限定されない。また、除菌膜濾過は、孔径0.45μm、0.22μm又は0.1μmの膜を使用することができる。これらの孔径を有する膜の例として、サーモフィッシャー社製ボトルトップフィルター0.45μm、又はサーモフィッシャー社製ボトルトップフィルター0.22μm等が挙げられる。
【0053】
試験に供するウイルスキャプシド含有液をより高濃度、及び高純度とするため、回収したウイルス培養液を濃縮、及び精製してもよい。濃縮方法としては、既知の方法が利用できる。例えば、CsCl2を用いて塩析沈殿させる方法、PEG沈殿法や、限外濾過膜を用いる方法、超遠心分離法など、多くの既知の方法が利用できる(例えば、特許文献1、2、及び非特許文献6参照。)。その中でも、溶媒交換が便利であること、ウイルスの回収率が高いことから、超遠心分離法又はPEG沈殿法による濃縮法が好ましい。
【0054】
例えば、超遠心分離法を利用する場合は、ウイルスが沈殿する遠心相対力(g)と時間で超遠心を行い、ウイルスを沈殿させたのちに上清を除去し、沈殿画分を適切な溶媒に再懸濁する。ウイルスがパルボウイルスの場合、これらを沈殿させる超遠心条件は既知であり、それらを利用することができる(例えば、非特許文献7参照。)。例えば、Beckman社製 Optima L-90K超遠心分離機でType45 Tiローターを使用する場合には、29400 rpmで2時間超遠心を行うことで、パルボウイルスは沈殿する。再懸濁する溶媒は、汎用的に使われるTNE(トリス緩衝液+NaCl+EDTA)緩衝液やPBS緩衝液などが利用できる。溶媒は、好ましくはPBS緩衝液である。
【0055】
PEG沈殿法を利用する場合は、ウイルスが凝結する程度のポリエチレングリコールと塩を加えて遠心分離を行い、ウイルスを沈殿させたのちに上清を除去し、沈殿画分を適切な溶媒に再懸濁する。このとき、ウイルスの沈殿に一般的に利用される実験条件を活用することができる(例えば、特許文献1参照。)。例えば、ポリエチレングリコールとしてはPEG6000を用いることができる。また、ウイルスがパルボウイルスである場合は、終濃度10.0w/v%PEG6000、終濃度0.1mol/L塩化ナトリウムを加えて4℃で2時間攪拌したのちに、10.000xgで30分間遠心分離を行うことで、パルボウイルスは沈殿する。再懸濁する溶媒は、汎用的に使われるTNE(トリス緩衝液+NaCl+EDTA)緩衝液やPBS緩衝液などが利用できる。好ましくはPBS緩衝液である。
【0056】
好ましくは、精製対象溶液に添加されるウイルスキャプシド含有液において、中空ウイルス粒子が除去されている。ウイルスキャプシド含有液から中空ウイルス粒子を除去することにより、ウイルスキャプシド含有液に含まれていた中空ウイルス粒子の量に影響されずに、ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能を正確に評価することが可能である。中空ウイルス粒子を除去したウイルスキャプシド含有液は、例えば以下の通り製造することができる。
【0057】
中空ウイルス粒子を除去したウイルスキャプシド含有液の作成方法としては、ウイルス培養液から中空ウイルス粒子を分離・除去する方法が利用できる。中空ウイルス粒子の分離・除去方法としては密度勾配超遠心による方法、イオン交換クロマトグラフィーによる方法が利用できるが、好ましくは密度勾配超遠心による方法である。
【0058】
密度勾配超遠心法では、核酸を有するウイルスと、核酸を有しない中空ウイルス粒子との浮上密度差を利用して中空ウイルス粒子の分離を行う。この超遠心条件は特定の条件に限定されるものではないが、感染性ウイルス及び非感染性ウイルスと、中空ウイルス粒子と、を分離させる超遠心条件には幾つかの報告があり、それらを利用することができる(例えば、非特許文献4、8参照。)。
【0059】
例えば、UCチューブ(Beckman Coulter社製13.2mL、#344059)中に形成した、PBS-1mmol/L MgCl2-2.5mmol/L KCl緩衝液(pH7.2)を溶媒に用いたイオジキサノール(Axis-Shield社製、Optiprep)水溶液の非連続密度勾配(55%-2mL、45%-2mL、40%-2mL、35%-2mL、25%-1.5mL、15%-1.5mL)の最上部に1mLのウイルス培養液をロードし、超遠心分離機(Beckman Coulter社製 Optima L-90K)でSW41ローターを使用して35000rpm、4℃で18時間の超遠心を行うことにより、核酸を有するウイルスと、中空ウイルス粒子と、を分離することができる。超遠心後のサンプルから核酸を有するウイルスの浮上密度にあたる画分のみを回収することで、ウイルス培養液から中空ウイルス粒子が除去される。ウイルスがパルボウイルスの場合、中空ウイルス粒子の浮上密度は1.1g/mL以上1.2g/mL以下であり、核酸を有するウイルスの浮上密度は1.2g/mL以上1.3g/mL以下である。好ましくは、この超遠心分離を合計で2回繰り返し行い、中空ウイルス粒子の分離度を高めるとよい。
【0060】
超遠心分離によって得られた核酸を有するウイルスを含む画分は高濃度のイオジキサノール水溶液となるため、溶媒交換を行ってイオジキサノール濃度を減少させることが好ましい。溶媒交換の方法は、既知の溶媒交換法の中から選択して実施することができる。例えば、脱塩、UF膜濾過、又は透析が例示され、好ましくは脱塩である。より好ましくはZebaSpinDesaltingColumns40KMWCO(ThermoFisher)を利用した脱塩である。
【0061】
ウイルスキャプシド含有液において中空ウイルス粒子が除去されたことは、透過型電子顕微鏡(TEM)を利用した観察によって確認することができる。TEMを利用した観察法としては、例えば1.0%酢酸ウラニルを用いたネガティブ染色観察法又は低温電子顕微鏡(CryoEM)観察法が例示される。ネガティブ染色観察法では、核酸を有するウイルスは白い粒子、核酸を有さないウイルスキャプシドである中空ウイルス粒子は黒い粒子として観察され、CryoEM法では、核酸を有するウイルスは黒い粒子、中空ウイルス粒子は白い粒子として観察されるので、これらの粒子を視覚的に識別することが可能である(例えば、非特許文献9参照。)。
【0062】
例えば、全ウイルスキャプシドにおける中空ウイルス粒子の含有率を測定する場合、測定対象のウイルスキャプシド含有液の一部を採取し、これをTEMにより観察する。1視野における核酸を有するウイルス及び中空ウイルス粒子の数をカウントし、全ウイルスキャプシドの粒子数に対する中空ウイルス粒子数の割合を算出する。これを3視野分測定した結果の平均値を、測定対象ウイルスキャプシド含有液における中空ウイルス粒子の含有率とすることができる。一つの実施形態において、中空ウイルス粒子を除去したウイルスキャプシド含有液は、特に限定されないが、全ウイルスキャプシドにおける中空ウイルス粒子の含有率が、上限として50%以下、44%以下、38%以下、30%以下、20%以下、又10%以下であることが例示され、38%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい態様として例示される。下限としては、全く中空ウイルス粒子を含有しない(0%)又は透過型電子顕微鏡観察測定方法における検出限界以下であることが好ましいが、0.5%以上、1%以上、2%以上、5%以上、又は10%以上が例示される。中空ウイルス粒子を除去したウイルスキャプシド含有液は、好ましくは、中空ウイルス粒子を実質的に含まない。ウイルスキャプシド含有液には、ウイルス以外の成分が混入することもあるが、そのようなウイルスキャプシド含有液を排除するものではない。別の態様としてウイルス以外の成分を実質的に含まないウイルスキャプシド含有液も例示される。
【0063】
一つの実施形態において、ウイルス除去媒体で濾過される精製対象溶液に含まれる生物物質は、それと共に溶液中に含まれるウイルスが除去対象となる物質であれば特に限定されないが、タンパク質が例示される。タンパク質としては、アルブミン、グロブリン、又はフィブリノゲンが挙げられる。また、タンパク質としては、別の態様として抗体が例示される。生物物質には、バイオ医薬品(biologics)又は血漿分画製剤も含まれる。生物物質は市販のものを入手することもできるし、従来公知の方法で製造することもできる。
【0064】
一つの実施形態において、精製対象溶液である生物物質含有溶液は、生物物質を含む溶液であれば特に限定されない。生物物質含有溶液の溶媒としては、水溶液、リン酸緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、又はトリス緩衝液が例示され、水溶液が好ましい態様として例示される。
【0065】
一つの実施形態において、生物物質含有溶液のpHは、上限として12以下、10以下、9以下、8以下、又は5以下が例示される。下限として2以上、3以上、又は4以上が例示される。
【0066】
一つの実施形態において、生物物質含有溶液の生物物質濃度(mg/mL)は、上限として200mg/mL以下、100mg/mL以下、又は10mg/mL以下が例示される。下限としては0mg/mL超、5mg/mL以上、10mg/mL以上、又は20mg/mL以上が例示される。
【0067】
一つの実施形態において、ウイルス除去媒体は、ウイルスを除去することができる媒体であればその形態は特に限定されないが、ビーズ、ゲル、スポンジ、又は粉末等の形態が例示され、別の態様としては繊維、又は膜(平膜又は中空糸膜。いわゆるウイルス除去膜)が例示される。ウイルス除去媒体の形状の別の態様としては、平膜又は中空糸膜が例示され、さらに別の態様としては平膜が例示され、さらに別の態様としては中空糸膜が例示される。さらに別の態様としては、膜又はビーズの形態が例示される。ウイルス除去媒体は多孔質成形体であってもよい。多孔質成形体が、微多孔膜、不織布、織布、モノリス、ゲル、又は粒子床であってもよい。
【0068】
一つの実施形態において、ウイルス除去媒体の素材としては、ウイルスを除去することができる素材であれば特に限定されないが、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、セルロース誘導体又はそれらの混合物が挙げられる。それぞれ公知の方法で製造することができる。
【0069】
一つの実施形態において、ウイルス除去媒体としては、ウイルス除去膜が好ましい。ウイルス除去膜は、使用するウイルスのサイズに応じて適宜選択することができ、ウイルスを除去することができれば特に限定されないが、パルボウイルスに対するLRVが4以上である膜が例示される。パルボウイルスに対するLRVが4以上であるろ過膜とは、使用するろ過膜に対し、パルボウイルスPPV又はMVMを含む溶液を50L/m2負荷した場合におけるLRVが4以上となる膜である。パルボウイルスを含む溶液としては、10mg/mLのヒトIgG溶液(PBSバッファー、pH7.4)にLog10[TCID50/mL]で与えられるパルボウイルスPPV又はMVM濃度を6.5としたものが用いられる。また、ウイルス除去膜の平均孔径が使用するウイルスの大きさ前後以下であれば特に限定されない。例えばパルボウイルスを使用した場合、ウイルス除去膜の平均孔径としては5nm以上24nm以下の範囲が例示され、14nm以上22nm以下の範囲が好ましく、18nm以上20nm以下の範囲がより好ましい例として挙げられる。具体的には、プラノバ(旭化成メディカル社製)、VirasolvePro(Merck社製)、PegasusPrime、PegasusSV4(PALL社製)、及びVirosartCPV(Sartrius社製)が例示される。
【0070】
一つの実施形態において、ウイルス除去媒体がウイルス除去膜である場合、ウイルス除去膜は実質的にウイルスを除去できるものであれば特に限定されないが、一例として約15nm以上約75nm以下の公称孔サイズを有するウイルス除去膜が例示される。例えば、公称孔サイズ20nmの膜では、例えばパルボウイルス(直径18nm以上26nm以下)を除去することが可能であり、一方、160kD(約8nm)といった大きさであるタンパク質、例えばモノクローナル抗体の通過を可能にする(例えば、特許文献3参照。)。例えば公称孔サイズ35nm以上の膜を用いて、レトロウイルス(直径80nm以上100nm以下)を除去し得る。
【0071】
一つの実施形態において、ウイルス除去媒体がウイルス除去膜である場合、100kD以上1000kD以下の分画分子量を有するウイルス除去膜が例示される。これに関連して、膜の分画分子量(MWCO)は、ある物質を膜に通過させた際に、当該物質の90%が膜を通過できる物質の分子量(nominal molecular weight)を意味する。分画分子量として、公称分画分子量を用いることもできる。
【0072】
一つの実施形態において、精製された生物物質含有溶液は、ウイルス除去媒体に接触させる前の生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に接触させ、回収された溶液であれば特に限定されない。「精製された」とは、「ウイルス除去媒体に接触、回収された」ものであれば足りる。精製された生物物質含有溶液の各条件は、前記の生物物質含有溶液の条件を適宜適用すればよい。
【0073】
一つの実施形態において、ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能評価する際に、ウイルスの定量方法の種類に応じて使用するウイルスキャプシド含有液を適宜選択する、あるいは使用するウイルスの種類に応じて定量方法を適宜選択することで、当該ウイルス中のウイルスキャプシドを全て定量することが可能となる。
【0074】
例えば、ウイルスを検出するための定量方法として定量PCR法を採用する場合、中空ウイルス粒子を除去したウイルスキャプシド含有液を選択する。「核酸を有するウイルス」は、定量PCR法によりその粒子個数を定量可能であるが、中空ウイルス粒子は、定量PCR法によりその粒子個数を定量できないためである。通常、ウイルスは1粒子につき1分子の核酸をキャプシドに内包するため、「核酸を有するウイルス」に内包された核酸の分子数はウイルスの粒子数と等しくなる。このとき、ウイルスキャプシドに内包された核酸の分子数(コピー数)を表す単位としてCopies/mLを使用することができる。
【0075】
また、ウイルスの定量方法として感染価測定法を採用する場合、精製対象溶液に添加されるウイルスキャプシド含有液における感染価に対する全ウイルスキャプシドの粒子数の比を予め測定しておき、精製前後の精製対象溶液で測定した感染価から、上記の比(全ウイルスキャプシド粒子数/感染価)に照らして、精製前後の精製対象溶液における全ウイルスキャプシド粒子数を算出することができる。この場合、ウイルスキャプシド含有液から中空ウイルス粒子を除去しなくともよい。
【0076】
感染価とは、感染性を有するウイルスの濃度を表記する単位である。感染価測定法には、最小感染単位を決定するエンドポイント方式と、ウイルスによって形成される局所病巣算定方式がある。エンドポイント方式としては、ウイルスを段階希釈して一定数以上の培養細胞に接種し、一定期間培養して、感染の陽性/陰性を判定することで、50%感染陽性となる希釈倍率を求める、50%感染終末点(TCID50: Tissue culture infectious dose50)法が一般的である。局所病巣算定方式としては、宿主細胞の単層培養上にウイルスを接種し、ウイルス吸着を行わせたあと、寒天を含む培地を重層して固め、接種したウイルスの数だけ形成されるプラークを測定する、プラーク法が一般的である。感染価の単位は、TCID50法を利用する場合はTCID50、プラーク法を利用する場合はpfuを使用することができる。pfuはplaque forming unit(プラーク形成単位)の略である。また、TCID50/mL、及びpfu/mLという単位によって、1mLあたりの感染価が表される。
【0077】
ウイルスクリアランス能力を評価する方法は特定の方法に限定されないが、対数除去率(LRV)計算法又はウイルス捕捉容量測定法を用いることができる。
【0078】
LRV計算法では、ウイルス除去媒体による精製の前後でウイルス濃度を比較し、その対数除去率を計算する。LRVは以下の通り算出することができる。
LRV=濾過前のウイルス濃度の対数値-濾過後のウイルス濃度の対数値
濾過前のウイルス濃度の対数値は、log10[濾過前のウイルス粒子数/mL]で与えられる。濾過後のウイルス濃度の対数値は、log10[濾過後のウイルス粒子数/mL]で与えられる。
【0079】
ウイルス捕捉容量測定法では、ウイルス除去媒体と接触あるいは媒体を通過した溶液を複数のフラクションとして分取し、各フラクションのウイルス核酸濃度を定量する。このとき、ウイルス除去媒体と接触あるいは通過後にはじめてウイルス核酸が検出されたフラクションを選出し、該フラクションを分取するまでにウイルス除去媒体に負荷した総ウイルス量を該ウイルス除去媒体のウイルス捕捉容量とする。
【0080】
(a)ウイルスキャプシド含有液を精製対象溶液に添加する工程について
一つの実施形態において、添加(スパイク)するウイルス量については、ウイルスキャプシド含有液が添加された生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に接触させた際に、添加するウイルスキャプシド含有液又はウイルスキャプシド含有液に含まれる不純物によって、ウイルス除去媒体に目詰まり等の異常を起こさない量であれば、添加するウイルス量は特に限定されない。
【0081】
添加するウイルスキャプシド含有液の量、すなわちウイルススパイク率は以下の通り算出することができる。
ウイルススパイク率(%)=(添加するウイルスキャプシド含有液の体積/ウイルスキャプシド含有液を添加する生物物質含有溶液の体積)×100
【0082】
ウイルススパイク率は、ウイルスキャプシド含有液添加後にウイルス除去媒体の目詰まりが生じないものであれば特に限定されないが、例えば、生物物質含有溶液へのウイルススパイク率の上限としては10%以下が例示され、下限としては0%超が例示される。ウイルス以外の成分によるウイルス除去媒体の目詰まりを防止する観点からは、ウイルススパイク率は1.0%以下であることが好ましい。
【0083】
生物物質含有溶液が商業生産を目的としたものである場合は、商業生産における製造条件を適切な割合でスケールダウンした条件で製造された生物物質含有溶液であることが好ましい。
【0084】
ウイルスキャプシド含有液を生物物質含有溶液に添加する際の生物物質含有溶液の温度としては、生物物質含有溶液に含まれる生物物質が安定して存在する温度であれば特に限定されないが、例えば、上限として50℃以下、37℃以下、25℃以下が例示される。下限としては、0℃超、4℃以上、8℃以上が例示される。生物物質含有溶液が商業生産を目的としたものである場合は、商業生産における製造温度が好ましい。
【0085】
(b)生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に接触させ、精製された生物物質含有溶液を回収する工程について
一つの実施形態において、生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に接触させることとしては、生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に接触させることができれば特に限定されないが、生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に通過させること、又は生物物質含有溶液中にウイルス除去媒体を浸漬することなどがあげられる。目的タンパク質精製の制御を比較的容易に行う観点からは、生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に通過させることが好ましい。
【0086】
一つの実施形態において、生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に通過させることとしては、シリンジ又はポンプなどにより生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に通過させることが例示される。生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に通過させる方法としては、ウイルス除去媒体中のある部分に向けて流した生物物質含有溶液がウイルス除去媒体を通過し、ウイルス除去媒体の別の部分から生物物質含有溶液が回収できればよい。また、生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に通過させる前後において、生物物質含有溶液とは別に緩衝液をウイルス除去媒体に通過させてもよい。生物物質含有溶液回収の際、ウイルス除去媒体に通過させる生物物質含有溶液をすべて回収してもよく(プール回収)、一定体積ごとにフラクションを取得してもよい(フラクション分取)。フラクション分取の場合、精製生物物質を含有するフラクションを収集して一つにすることにより、精製生物物質を回収することができる。
【0087】
また、生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に通過させる流速としては特に限定されないが、ウイルス除去媒体がビーズの形態を有する場合には、下限値としてウイルス除去媒体1mLに対して0.1mL/min以上が例示され、別の態様として0.5mL/min以上が例示され、別の態様として1.0mL/min以上が例示され、さらに別の態様としては5mL/min以上が例示される。ウイルス除去媒体が膜の形態を有する媒体である場合には、下限として0L/m2/hour超が例示され、別の態様として10L/m2/hourが例示され、さらに別の態様としては40L/m2/hourが例示される。
【0088】
一つの実施形態において、生物物質含有溶液をウイルス除去媒体に浸漬することとしては、生物物質含有溶液中にウイルス除去媒体を投入することが例示される。この際、ウイルス除去媒体が投入された生物物質含有溶液に対し、シェーカー等による振盪や攪拌子などによる攪拌を行ってもよいし、溶液を静置してもよい。浸漬後、ウイルス除去媒体を生物物質含有溶液から除去することにより精製タンパク質を回収することができる。ウイルス除去媒体の除去方法としては、遠心分離、ろ過などが例示される。
【0089】
一つの実施形態において精製された生物物質含有溶液を回収することとしては、精製された生物物質を取得することができれば特に限定されないが、精製された生物物質が溶解したままの溶液の状態で回収すればよい。例えば、プール回収又はフラクション分取等の方法から適宜選択して実施することができる。
【0090】
一つの実施形態において、ウイルス除去媒体は前記のウイルス除去媒体を使用することができる。
【0091】
(c)精製される前の生物物質含有溶液中の全ウイルスキャプシド及び精製された生物物質含有溶液中の全ウイルスキャプシドを定量する工程について
一つの実施形態において、より正確にウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能を評価するためには、生物物質含有溶液中に存在する全ウイルスキャプシドを測定可能なウイルス定量方法を選択するか、又はウイルスクリアランス性能評価において使用するウイルスの種類に応じて定量方法を適宜選択すればよい。ウイルス定量方法としては、定量PCR法、蛍光フローサイトメトリー法、TCID50法、又はプラーク法が例示される。
【0092】
例えば、ウイルスの定量方法として定量PCR法のようなウイルス核酸を検出する方法を採用する場合、中空ウイルス粒子を除去したウイルスキャプシド含有液を選択することができる。また、ウイルスの定量方法として感染価測定法のようなウイルスの感染価を測定する方法を採用する場合、生物物質含有溶液に添加されるウイルスキャプシド含有液中の感染価に対する全ウイルスキャプシド粒子数の比(全ウイルスキャプシド粒子数/感染価)を予め測定しておき、生物物質含有溶液で測定した感染価から上記の比(全ウイルスキャプシド粒子数/感染価)に照らして、生物物質含有溶液に含まれるウイルス粒子数を算出することができる。
【0093】
(c1)精製される前の生物物質含有溶液中のウイルスが有する核酸及び精製された生物物質含有溶液中のウイルスが有する核酸を定量する工程について
この場合、前記(a)工程で添加するウイルスキャプシド含有液として、中空ウイルス粒子を除去したウイルスキャプシド含有液(例えばFCウイルスキャプシド含有液)を使用すればよい。
【0094】
核酸を定量する方法としては、既知の方法を使用すればよいが、定量PCR法又は蛍光フローサイトメトリー法が例示される。より好ましくは定量PCR法であり、さらに好ましくは定量リアルタイムPCR法である。定量PCR法においては、例えば製品LightCycler96(Roche社製)を使用することができる。蛍光フローサイトメトリー法においては、例えば製品Gallios(Beckman Coulter社製)を使用することができる。
【0095】
定量PCR法を用いる場合にウイルスから核酸を抽出する方法としては、既知の方法を使用すればよい、各種核酸抽出キットを使用する方法や、フェノールクロロホルム抽出法などが例示される。好ましくは核酸抽出キットを使用する方法が例示され、より好ましくはハイピュアウイルス核酸抽出キット(Roche社製)を使用する方法が例示される。
【0096】
核酸抽出に供するサンプル量は、特に限定されない。核酸抽出に供したサンプル量と、実際に検出された核酸の分子数を利用して、核酸抽出に供したサンプルに含まれる核酸の濃度を計算することができる。
【0097】
また、核酸抽出に先立って、回収した生物物質含有溶液に含まれる遊離核酸を予め除去しておくことが好ましい。それにより、ウイルス除去媒体のウイルスクリランス性能をより正確に評価することができる。遊離核酸を予めの除去する方法はとしては、ヌクレアーゼを用いて遊離核酸を分解する方法を使用することができる。ヌクレアーゼの種類は特に限定されず、生物物質含有溶液の性質に適したものを選択して使用することができる。例えば、DNaseI(Sigma)又はベンゾナーゼ(Merck)などのヌクレアーゼが利用できる。
【0098】
定量PCR法による核酸定量法としては、濃度既知核酸をスタンダードに用いた絶対定量法が使用できる。このとき、濃度既知核酸としては、対象サンプルの測定に使用するプライマー、プローブを用いてPCR法により増幅できる核酸が使用できる。好ましくは対象サンプルと塩基配列が完全一致する核酸であり、より好ましくは対象サンプルと塩基配列が部分的に一致する核酸である。
【0099】
中空ウイルス粒子を除去したウイルスキャプシド含有液をスパイクした生物物質含有溶液に含まれるウイルス核酸及び精製された生物物質含有溶液に含まれるウイルス核酸を定量することで、ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能を評価することができる。核酸を定量する方法としては、前記の通り定量PCR法、又は蛍光フローサイトメトリー法を使用することができ、より好ましくは定量PCR法、さらに好ましくは定量リアルタイムPCR法を使用することができる。核酸を有しない中空ウイルス粒子を除去することにより、核酸を定量する方法で検出されない中空ウイルス粒子が、ウイルス除去媒体のウイルスクリアランス性能評価に影響を与えることを抑制可能である。
【0100】
(c2)精製される前の生物物質含有溶液中のウイルスの感染価及び精製された生物物質含有溶液中のウイルスの感染価を定量し、生物物質含有溶液に添加するウイルスキャプシド含有液における感染価に対する全ウイルスキャプシド粒子数の比率T(全ウイルスキャプシド粒子数/感染価)から、精製される前の生物物質含有溶液中の全ウイルスキャプシド粒子数及び精製された生物物質含有溶液中の全ウイルスキャプシド粒子数を算出する工程について
生物物質含有溶液に添加されるウイルスキャプシド含有液における感染価に対する全ウイルスキャプシド粒子数の比率T(=全ウイルスキャプシド粒子数/感染価)は、例えば、感染価を定量する前か後に算出する。(c2)工程の場合、(a)工程で生物物質含有溶液に添加されるウイルスキャプシド含有液は、感染性ウイルスに加えて、非感染性ウイルス及び/又は中空ウイルス粒子を含んでいてもよい。したがって、ウイルスキャプシド含有液から中空ウイルス粒子を除去しなくともよい。
【0101】
「感染価」の測定方法としては、既知の感染価測定方法をいずれも選択することができる。たとえば、TCID50法や、プラーク法を使用することができる。精製される前の生物物質含有溶液中のウイルスの感染価の測定方法、精製された生物物質含有溶液中のウイルスの感染価の測定方法、及び生物物質含有溶液に添加されるウイルスキャプシド含有液におけるウイルスの感染価の測定方法は、同じであることが好ましい。
【0102】
比率Tは、前記(a)工程で生物物質含有溶液に添加されるウイルスキャプシド含有液における、「全ウイルスキャプシド粒子数」を「感染価」で除したものとして定義される。すなわち、生物物質含有溶液に添加されるウイルスキャプシド含有液における感染価あたりの全ウイルスキャプシド粒子数を意味する。つまり、比率Tを用いることにより、生物物質含有溶液におけるウイルスの感染価から、生物物質含有溶液における全ウイルスキャプシド粒子数を算出することができる。
【0103】
比率Tは、(a)工程で生物物質含有溶液にウイルスキャプシド含有液を添加する事前あるいは事後どちらのタイミングで算出してもよい。ただし、(a)工程の実施によって、(a)工程で添加したウイルスキャプシド含有液と同一のウイルスキャプシド含有液の入手が不可能になる(例えばウイルスキャプシド含有液を使い切る、等)場合は、(a)工程の事前に比率Tをあらかじめ算出する必要がある。
【0104】
比率Tの定義における「全ウイルスキャプシド粒子数」の測定方法は、粒子として存在するウイルスキャプシドの濃度(個/mL)を測定可能なものであればいずれの方法も選択することができる。例えば、ウイルスキャプシド粒子のキャプシドタンパク質重量を測定して粒子数を算出する方法や、透過型電子顕微鏡による粒子濃度計測等を使用することができる。ウイルスキャプシド粒子のキャプシドタンパク質重量を測定する方法としては、ウエスタンブロット法、ELISA(EznzymeLinkedImmnoSolvantAssay)法が例示される。
【0105】
一般的に、1つのウイルスキャプシド粒子を形成するキャプシドタンパク質の重量は計算により求めることができる。例えば、使用するウイルスがMVM(MinuteVirusOfMice)の場合、ウイルス一粒子あたり、キャプシドタンパク質であるVP2とVP3タンパク質が合計で50分子含まれることが知られている(例えば、非特許文献10、11参照。)。VP2の分子量は約64300g/mol、VP3の分子量は61400g/molであり(例えば、非特許文献11参照。)、MVM粒子におけるこれらの分子の含有比率は一般的にVP2の方が十分大きいことから、これらのタンパク質の代表分子量としてVP2の分子量64300g/molを使用することができる。アボガドロ定数を6.0E23/molとすると、MVM一粒子当たりのVP2及びVP3含有量の合計は、(64300g/mol×50)/6.0E23/mol=5.4E-18gと算出することができる。すなわち、(a)工程では、添加するウイルスキャプシド含有液に含まれるVP2及びVP3重量の合計を定量し、その値を5.4E-18で除することによって、MVM粒子の数及び濃度を算出することができる。
【0106】
なお、キャプシドタンパク質の重量を定量する以前に、ウイルスキャプシド含有液に含まれるキャプシドタンパク質のうち、粒子構造を形成しないものをあらかじめ除去しておくことが好ましい。粒子構造を形成しないキャプシドタンパク質はウイルスキャプシド粒子と比較して粒径が小さいため、ウイルスキャプシド粒子を維持し、キャプシドタンパク質を排除する分離方法によって除去することができる。この方法としては透析、脱塩、濾過などの方法が例示され、好ましくは透析である。より好ましくはFloat-A-Lyzer G2,CE,1mL,1000KD(funakoshi社)による透析である。
【0107】
{全ウイルスキャプシド粒子数(個)/感染価(TCID50あるいはPfu)}で与えられる比率Tを算出するには、1mL等の単位体積あたりの「全ウイルスキャプシド粒子数」の実数値を、上記で選択した1mL等の単位体積あたりの「感染価」の実数値で除すればよい。
【0108】
次に、精製される前の生物物質含有溶液中のウイルスの感染価及び精製された生物物質含有溶液中のウイルスの感染価を定量する。このとき、ウイルス感染価を定量する方法としては、比率Tを算出するために使用する方法と同一の方法を選択することができる。
【0109】
さらに、精製される前の生物物質含有溶液中のウイルスの感染価及び精製された生物物質含有溶液中のウイルスの感染価に比率Tを掛けることで、精製される前の生物物質含有溶液中のウイルス感染価及び精製された生物物質含有溶液中のウイルス感染価のそれぞれを、全ウイルスキャプシド粒子数に変換することができる。
【実施例】
【0110】
以下実施例及び比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は代表例であり、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0111】
1.濃縮ウイルス液の製造(1)
マウス微小ウイルス(MVM)の宿主細胞としてシアミンウイルス40形質転換ヒト繊維芽細胞を用い、5%牛胎児血清を添加したDMEMで37℃、5%CO2環境下にて、75cm2底面積、容量15mLの組織培養用フラスコ(以下、単に「フラスコ」と呼ぶ。)を用いて継代培養した。フラスコからシアミンウイルス40形質転換ヒト繊維芽細胞をはがして、新しいフラスコに1.5×10^6cells/15mL/flaskの密度で2.5%FBSを含むDMEM培地に植え付けて、細胞にMVMをMOI=0.01で感染させた。4日後に血清を含まない培地に培地交換し、さらに3日間細胞を培養した。感染から3日後にMVMを含む培養上清を回収した。3000rpm、20分間遠心分離した後に上清画分を回収し、この上清を0.45μmフィルター(ナルゲン社製)で濾過することによりウイルス培養液を得た。この作業をフラスコ72個分実施し、合計720mLのウイルス培養液を得た。
【0112】
このウイルス培養液をType45 Tiローターをセットした超遠心分離機(Beckman Coulter社製Optima L-90K)で29400rpm、2時間超遠心し、マウス微小ウイルスを沈殿させた。上清を除去した後、マウス微小ウイルスを含むペレットに30mLのTE緩衝液(50mmol/L Tris-HCl pH8.0 / 1mmol/L EDTA)を添加して再懸濁し、濃縮されたMVMを含むTE緩衝液30mLを得た。この操作をもう一度繰り返し行い、濃縮されたMVMを含むTE緩衝液合計60mLを得た。
【0113】
次に、濃縮されたMVMを含むTE緩衝液にそれぞれ終濃度10w/v%、及び終濃度500mmol/L となるようPEG6000及びNaClを加えて懸濁し、4℃で一晩静置した。この溶液を、SW28ローターをセットした超遠心分離機(Beckman Coulter社製Optima L-90K)で7800rpm、30分間遠心し、マウス微小ウイルスを沈殿させた。上清を除去した後、マウス微小ウイルスを含むペレットに1.2mLのPBS+KM(1xPBS / 2.5 mmol/L KCl / 1 mmol/L MgCl2)を添加して再懸濁し、濃縮されたMVMを含む溶液(以下、「MVM-PEG」と呼ぶ)を得た。
【0114】
2.FCウイルスキャプシド含有液の製造
MVM-PEGをイオジキサノール密度勾配超遠心によって精製した。Beckman Coulter社UCチューブ(13.2mL,344059)に底面から55% 2mL、45% 2mL、40% 2mL、35% 2mL、25% 2mL、15% 1mLの順にイオジキサノール/PBS+KMを積層し、最上部に1mLのMVM-PEGを積層した。このサンプルを、SW41ローターをセットした超遠心分離機(Beckman Coulter社製Optima L-90K)で35000rpm、18℃で18時間超遠心した。その後に、チューブ上部から1mLずつ12個の画分を回収した。回収した全12画分の密度、TCID50/mL、MVM核酸コピー数、及び鶏赤血球凝集反応(HA)活性を測定した。MVM核酸コピー数の測定では、ヌクレアーゼ処理によりサンプルに含まれる遊離核酸を除去したのち、キャプシドを破壊して得られたMVM核酸の分子数を定量リアルタイムPCR法によって測定した。ウイルス核酸の分子数は濃度既知核酸をスタンダードとして定量した。MVMスタンダードには、ATCC社VR1346株の反復配列を除く4775塩基をpT7Blue-2 T-vector(ノバジェン社製,品番69080)にクローニングした後に、プラスミドを制限酵素SalI-HF及びEcoNI(NEW ENGLAND BioLabs社製、品番R3138S及びR0521S)によって切断した直鎖2本鎖DNAを使用した。鶏赤血球凝集反応活性とは、赤血球凝集素を持つ検体を検出する方法である。ウイルス液を2倍段階希釈して、PBSで0.13%に希釈したニワトリ保存血(日本バイオテスト)に接種し、25℃で2時間静置した。赤血球凝集が陽性となる限界希釈倍率を判定することで、サンプルに存在する赤血球凝集素、すなわちウイルスキャプシドの粒子数を測定した。
【0115】
TCID50/mL、MVM核酸コピー数、及びHA活性すべての指標でピークとなったフラクション10をFCウイルスキャプシド含有液として回収し、HA活性のみが現れたフラクション5及び6を中空ウイルス粒子含有液として回収した。
【0116】
続いて、Zeba Spin Desalting Column 40K MWCO 10mL(Thermo Fisher Scientific)を使用してフラクション5及び6又は10の溶媒をそれぞれイオジキサノール/PBS+KMからPBS+KMへ交換し、MVM ECウイルスキャプシド含有液(MVM EC)4.6mL及びMVM FCウイルスキャプシド含有液(MVM FC)2.1mLを取得した。
【0117】
前記MVM FC及びMVM ECについて、それぞれの1mLあたりのウイルス核酸分子数の対数値(Log
10[Copies/mL])、及び鶏赤血球凝集反応が陽性となった限界希釈倍率を表1に示す。また、低温電子顕微鏡観察の結果、MVM FCに含まれる中空ウイルス粒子の比率は1.0%未満、MVM ECに含まれる核酸を有するウイルスの比率は0.5%未満であった。
【表1】
【0118】
3.中空ウイルス粒子を含むウイルスキャプシド含有液の作成
前記MVM FC及びMVM ECを混合することで、任意の比率で中空ウイルス粒子を含むウイルスキャプシド含有液(「FE混合液」と呼ぶ)を作製した。MVM FCとMVM ECの混合比率は、HA陽性の限界希釈倍率を基準に計算した、それぞれのウイルスキャプシド含有液に含まれる全ウイルスキャプシドの濃度をもとに決定した。例えば、MVM FCは中空粒子を含まないウイルスキャプシド含有液であるから、これに含まれる全ウイルス粒子の濃度はLog10[Copies/mL]と等しい。このとき、MVM FCに含まれる全ウイルス粒子の濃度は、12.27Log10[Particles/mL]となる。ここで、HA陽性の限界希釈倍率はウイルスキャプシド含有液に含まれる全ウイルスキャプシドの濃度に比例するため、MVM ECに含まれる全ウイルスキャプシド濃度は、MVM FCとMVM ECのHA陽性の限界希釈倍率の比較から、12.27Log10[Particles/mL]と計算することができる。
【0119】
FE混合液と、その作成のために混合したMVM FC及びMVM ECの比率、及び1mLあたりのウイルス核酸分子数の対数値(Log
10[Copies/mL])を表2に示す。
【表2】
【0120】
4.濃縮ウイルス液の製造(2)
1.濃縮ウイルス液の製造(1)と同様にして、ウイルス培養液を得た。このウイルス培養液をType45 Tiローターをセットした超遠心分離機(Beckman Coulter社製Optima L-90K)で29400rpm、2時間超遠心し、マウス微小ウイルスを沈殿させた。上清を除去した後、マウス微小ウイルスを含むペレットに6mLのTNE緩衝液(50mmol/L Tris-HCl pH8.0 / 100mmol/L NaCl / 1mmol/L EDTA)を添加して再懸濁し、濃縮されたMVMを含むTNE緩衝液(以下、「濃縮MVM培養液(1)」と呼ぶ)6mLを得た。この操作を2回繰り返して行い、さらに2つの濃縮MVM培養液(濃縮MVM培養液(2)、濃縮MVM培養液(3))を得た。
【0121】
5.濃縮ウイルス培養液の比率Tの算出
濃縮MVM培養液(濃縮MVM培養液(1))5μLと、3.5ng/μLリコンビナントMVM-VP2スタンダード(Alphadiagnostics社製 MVMVP21-C;N末端にHis6タグを付加したMVM―VP2)の希釈系列5μLと、に4X Laemmli サンプルバッファー(BioRad)を1.7μL加え、95℃で5分間インキュベートした。これらのサンプルを、10%ミニプロティアンTGXプレキャストゲル(BioRad)を使用したSDS-PAGEで分離した。分離後の10%ミニプロティアンTGXプレキャストゲルを回収し、トランスブロットTurboブロッティングシステム(BioRad)及びトランスブロットTurboRTAニトロセルローストランスファーキット(BioRad)を使用して25V定電圧、30分の条件でタンパク質をメンブレンに転写した。転写終了後メンブレンを回収し、5%スキムミルク/PhosphateBufferedSaline with Tween20(PBST,TAKARA)に浸漬して室温で1時間振盪した。このメンブレンをPBSTで3回洗浄し、5000倍希釈抗MVM-VP2抗体(Alphadiagnostics社製 MVMVP21-S)/PBSTに浸漬して4℃で一晩反応させた後、メンブレンをPBSTで3回洗浄し、さらに5000倍希釈HRP結合ヤギ抗ウサギIgG抗体(ThermoFisher)/PBSTに浸漬して室温で1時間反応した。メンブレンをPBSTで3回洗浄した後、SuperSignal WEST Femto maximum sensitivity substrate(ThermoFisher)及びChemiDocXRSPuls(BioRad)を使用して、
図1に示すように、MVM-VP2及びVP3のシグナルを検出した。
【0122】
濃縮MVM培養液及びMVM-VP2スタンダードサンプルから検出されたMVM-VP2及びMVM-VP3シグナルは、ImageJ(NIH)を使用して定量した。まず、濃度既知のリコンビナントVP2スタンダードのシグナルを定量して、シグナル値に対するVP2量(ng)の検量線を作成した。次に、濃縮MVM培養液のシグナルを定量し、リコンビナントVP2スタンダードのシグナルから作成した検量線に照らして濃縮MVM培養液に含まれるMVM-VP2及びVP3の質量を求めた。MVM1粒子あたり64.3kDaのMVM-VP2及びVP3が合計で50分子含まれるとして、濃縮MVM培養液中のMVM-VP2及びVP3タンパク質量の合計から、濃縮MVM培養液中のMVM濃度(濃縮MVM培養液単位体積あたりのMVM粒子数の対数値:Log10[Particles/mL])を算出した。算出した結果を表3に示す。
【0123】
さらに別の2つの濃縮MVM培養液(濃縮MVM培養液(2)、濃縮MVM培養液(3))についても、上記SDS-PAGEからMVM濃度を算出した。算出した結果を表3に示す。
【表3】
【0124】
また、濃縮MVM培養液の1mLあたりの感染価(Log
10[TCID
50/mL])を別途測定し、濃縮MVM培養液の感染価に対するウイルス粒子数の比率Tの常用対数、すなわちLog
10[(Particles)/(TCID
50)]を算出した。算出した結果を表4に示す。
【表4】
【0125】
[実施例1]
FE混合液(1)1mLを「2.FCウイルスキャプシド含有液の製造」に記載の方法で超遠心精製し、中空ウイルスを含まないウイルスキャプシド含有液(以下、「FE混合液(1)-E」と呼ぶ)を得た。同様にして、FE混合液(2)1mL及びFE混合液(3)1mLから、中空ウイルスを含まないウイルスキャプシド含有液(以下、「FE混合液(2)-E」、及び「FE混合液(3)-E」と呼ぶ)を得た。FE混合液(1)-E、FE混合液(2)-Eに含まれる中空ウイルス粒子の比率は、低温電子顕微鏡観察の結果、どちらも1.0%未満であった。
【0126】
FE混合液(1)-Eを終濃度10mg/mLのヒトグロブリン及び0.1mol/LのNaClを含む生物物質含有溶液(pH 4.5)に添加し(合計100mL)、この溶液をPlanova20N(旭化成メディカル社製、膜面積0.001m2)で濾過した。FE混合液(1)-Eを添加した生物物質含有溶液1mLあたりのMVM核酸コピー数は8.87Log10[Copies/mL]であった。濾過条件は、78.4kPa、25℃とした。
【0127】
Log10[Copies/m2]で与えられる膜面積あたりのウイルス負荷量が約0.2間隔となるようにフラクションサイズを決定し、ウイルス除去膜通過後の濾液を計12フラクション回収した。ウイルス除去膜通過前の液、及びフラクション回収したウイルス除去膜濾過液から各230μLを分取し、25μLの10x反応バッファー(500mmol/L Tris-HCl pH8.0、150mmol/L CaCl2、50mmol/L MgCl2)及び終濃度40Unit/μLのBenzonase(Roche)を加えて室温で1時間静置した。この反応後に終濃度10mmol/LのEDTAを加えて室温で10分静置した。このサンプルからHigh Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche)を使用して核酸を抽出した。抽出した核酸の濃度を定量リアルタイムPCRで測定し、ウイルス除去膜通過前の液及びウイルス除去膜濾過液フラクション中のウイルス核酸、すなわちウイルス粒子数を定量した。
【0128】
濾過液フラクションの中で初めてウイルスが検出され、且つ以降継続的にウイルス核酸が検出されるようになるフラクションを選択した。ウイルス除去膜通過前液のウイルス核酸濃度に該フラクションを回収するまでの総濾過体積をかけて、ウイルス漏れが起こらない限界ウイルス負荷量を計算した。この限界ウイルス負荷量を、ウイルス除去膜によるウイルス粒子保持容量(Virus Retention Capacity)とした。ウイルス粒子保持容量は、ウイルス除去膜が除去可能なウイルス粒子数の限界値を示すため、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能のひとつとして利用することができる。
【0129】
【0130】
濾過結果を表5に示す。表5中、ウイルス除去膜通過前液の1mLあたりのウイルス核酸コピー数(8.87=Log10[Copies/mL]の真数)に、総濾過量[B]列をかけ、さらに膜面積0.001m2で除することで、フラクションを分取した際の単位面積当たりの総ウイルス負荷量[C]列を計算した。これらのフラクションに対して定量リアルタイムPCRによるウイルス検出を行った([D]列)。濾過液フラクションの中で初めて、且つ以降継続的にウイルス核酸が検出されるようになる直前のフラクション5を選択し、フラクション5を採取した際のLog10[Copies/m2]で与えられる単位膜面積当たりの総ウイルス負荷量12.94をウイルス除去膜によるウイルス粒子保持容量とした。
【0131】
さらに、FE混合液(2)-E及びFE混合液(3)-Eについても、FE混合液(1)-Eと同様の濾過を行い、ウイルス除去膜のウイルス粒子保持容量を求めた。FE混合液(2)-Eを添加した生物物質含有溶液1mLあたりのMVM核酸コピー数は8.68Log
10[Copies/mL]、FE混合液(3)-Eを添加した生物物質含有溶液1mLあたりのMVM核酸コピー数は7.91Log
10[Copies/mL]であった。濾過液フラクションの中で初めて、且つ以降継続的にウイルス核酸が検出されるようになる直前のフラクションは、FE混合液(2)-Eの場合はフラクション6、FE混合液(3)-Eの場合はフラクション10であった。また、当該フラクションまでの総濾過量は、FE混合液(2)-Eの場合は17.36mL、FE混合液(3)-Eの場合は105.73mLであった。それぞれの混合液を用いた場合のウイルス除去膜のウイルス粒子保持容量の結果を表6に示す。
【表6】
【0132】
以上より、中空粒子を除去し、かつ定量PCR測定を採用することにより、除去前の中空粒子の含有率が異なるウイルスキャプシド含有液(FE混合液(1)~(3))であっても、ウイルス除去膜のウイルス粒子保持容量を正確に測定できることが分かる。ここで、濾過液フラクションの中で初めて、且つ以降継続的にウイルス核酸が検出されるようになるフラクションと、その直前のフラクションまでの単位膜面積当たりの総ウイルス負荷量(Log[Copies/m2])は、
FE混合液(1)-Eではそれぞれ12.94、13.11、
FE混合液(2)-Eではそれぞれ12.92、13.10、
FE混合液(3)-Eではそれぞれ12.94、13.13であり、
Log[Copies/m2]で与えられる単位膜面積当たりの総ウイルス負荷量は、1フラクションあたり0.17から0.19ずつ増加している。このため、濾過液フラクションの中で初めて、且つ以降継続的にウイルス核酸が検出されるようになる直前のフラクションを分取してから0.19の範囲内では、どの総ウイルス負荷量においてウイルス漏れが開始したかを区別できない。つまり、本実施例においては、Log[Copies/m2]で与えられるウイルス粒子保持容量として0.19未満の差は許容される。
【0133】
これに対し、本実施例におけるLog[Copies/m2]で与えられるMVM FCウイルスキャプシド含有液のウイルス粒子保持容量の最大値は12.94、最小値は12.92であるから、その差は0.02である。これは0.19よりも小さいため、本実施例におけるFE混合液(1)-E、FE混合液(2)-E、及びFE混合液(3)-Eのウイルス粒子保持容量の差は、誤差として許容される。すなわち、いかなる濃度で中空粒子を含むウイルスキャプシド含有液であっても、本方法により、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能を正確に評価できることが分かる。
【0134】
[実施例2]
FCウイルス及び中空ウイルス粒子を含む濃縮MVM培養液(1)を、Log10[TCID50/mL]で与えられる1mLあたりの感染価が4.208となるように終濃度10mg/mLのヒトグロブリン及び0.1mol/LのNaClを含む生物物質含有溶液(pH4.5)に添加し(合計250mL)、ウイルス除去膜(特許第6220447号に記載の方法に準じて製造したセルロース膜。平均透水孔径20nm、膜面積0.001m2)でウイルスキャプシド含有液を添加された生物物質含有溶液を濾過した。濾過条件は、78.4kPa、25℃とした。
【0135】
Log10[TCID50/m2]で与えられる膜面積あたりのウイルス負荷量が0.2間隔となるようにフラクションサイズを決定し、ウイルス除去膜通過後の濾液を計12フラクション回収した。ウイルス除去膜通過前の液、及びフラクション回収したウイルス除去膜濾過液の1mLあたりの感染価(Log10[TCID50/mL])を測定した。
【0136】
濾過液フラクションの中で初めて、且つ以降継続的にウイルス感染性が検出されるようになる直前のフラクションを選択した。ウイルス除去膜通過前液の1mLあたりのMVM感染価に該フラクションを回収するまでの総濾過体積をかけて、ウイルス漏れが起こらない限界ウイルス負荷量を計算した。この限界ウイルス負荷量を、ウイルス除去膜によるウイルス感染価保持容量(Virus Infectivity Retention Capacity)とした。
【0137】
濃縮MVM培養液(1)の濾過結果を表7に示す。表7中、ウイルス除去膜通過前液の1mLあたりのウイルス感染価(4.208=Log
10[TCID
50/mL]の真数)に、総濾過量[B]列をかけ、さらに、膜面積0.001m
2で除することで、該フラクションを分取した際の単位面積当たりの総ウイルス負荷量[D]列を計算した。これらのフラクションに対してTCID
50法によるウイルス検出を行った([E]列)。濾過液フラクションの中で初めて、且つ以降継続的にウイルス感染性が検出されるようになる直前のフラクション6を選択し、フラクション6を採取した際のLog
10[TCID
50/m
2]で与えられる単位膜面積当たりの総ウイルス負荷量8.61をウイルス除去膜によるウイルス感染価保持容量とした。
【表7】
【0138】
次に、ウイルス除去膜によるウイルス感染価保持容量をウイルス粒子保持容量に変換した。ウイルス粒子保持容量とはウイルス除去膜が除去可能なウイルス「個数」の限界値を示すものであるから、Log10[TCID50/m2]で与えられるウイルス感染価保持容量に、感染価に対する全ウイルスキャプシド粒子数の比率Tの対数値を加えることで、ウイルス感染価保持容量をウイルス粒子保持容量に変換することができる。Log10[TCID50/m2]で与えられるウイルス感染価保持容量8.61に、先に求めたMVM濃縮培養液の感染価に対する全ウイルスキャプシド粒子数の比率Tの対数値である2.55を加えて得られる11.16を、Log10[Particles/m2]で与えられるウイルス粒子保持容量とした。
【0139】
さらに、表4に示した濃縮MVM培養液(2)及び濃縮MVM培養液(3)についても、濃縮MVM培養液(1)と同様の濾過を行い、ウイルス除去膜のウイルス粒子保持容量を求めた。濾過液フラクションの中で初めて、且つ以降継続的にウイルス感染性が検出されるようになる直前のフラクションは、濃縮MVM培養液(2)の場合はフラクション8、濃縮MVM培養液(3)の場合はフラクション8であった。また、当該フラクションまでの総濾過量は、濃縮MVM培養液(2)の場合は38.99mL、濃縮MVM培養液(3)の場合は39.55mLであった。それぞれの液を用いた場合のウイルス除去膜のウイルス粒子保持容量の結果を表8に示す。
【表8】
【0140】
本実施例では、TCID50法によってウイルス感染性の検出を行い、その後比率Tを使用してウイルス感染価保持容量をウイルス粒子保持容量へ変換した。この場合、濃縮MVM培養液(1)~(3)におけるウイルス粒子保持容量の誤差はTCID50法の誤差によってもたらされる。TCID50法では一般的にLog10[TCID50/mL]で与えられる測定値に±0.25の実験誤差が生じる。したがって、異なる2つの測定値を比較する場合、0.5以内の差は実験誤差として許容される。表8に示す通り、本実施例におけるウイルス粒子保持容量の最大値は11.27、最小値は10.86であり、その差は0.41であった。この差は誤差として許容される0.5よりも小さいため、本実施例におけるMVM濃縮培養液(1)~(3)のウイルス粒子保持容量は、誤差なく正確に測定できていると判断できる。
【0141】
以上より、本方法によれば、作成ロット毎に感染価に対する全ウイルスキャプシド粒子数が様々に異なるウイルスキャプシド含有液を用いた濾過でも、ウイルス除去膜のウイルス粒子保持容量を、粒子数に基づく値として正確に測定できることが分かる。
【0142】
また、以上より、ヒトグロブリン含有溶液にウイルスを添加し、感染価を検出できるTCID50法を採用してウイルス除去膜のウイルスクリアランス評価を行った場合であっても、定量した感染価を、使用したウイルスキャプシド含有液の比率Tにてウイルス濃度に変換することで、作成ロットが異なるウイルスキャプシド含有液(MVM(1)~(3))であっても、ウイルス除去膜のウイルス粒子保持容量を誤差なく正確に測定できることが分かる。すなわち、本方法により、ウイルス除去膜のウイルスクリアランス性能を正確に評価することができることが分かる。
【0143】
[比較例1]
表2に記載のFE混合液(1)を、終濃度10mg/mLのヒトグロブリン及び0.1mol/LのNaClを含む生物物質含有溶液(pH 4.5)に添加し(合計200mL)、この溶液をPlanova20N(旭化成メディカル社製、膜面積0.001m
2)で濾過した。FE混合液(1)を添加した生物物質含有溶液1mLあたりのMVM核酸コピー数は7.76Log
10[Copies/mL]であった。濾過条件は、78.4kPa、25℃とした。FE混合液(1)を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様の方法でフラクション採取及びウイルス核酸の定量を実施した。濾過の結果を表9に示す。
【表9】
【0144】
この結果から、ウイルス粒子保持容量は12.58Log[Copies/m2]であった。この値は、FE混合液(1)-Eを用いて測定したPlanova20Nのウイルス粒子保持容量(12.94)と比較して0.36小さい。また、中空ウイルス粒子を含まないウイルスキャプシド含有液を用いて測定したPlanova20Nのウイルス粒子保持容量の平均値(12.93)と比較して0.35小さい。この結果は、中空粒子を含むウイルスキャプシド含有液を用いた性能評価では、ウイルスフィルターのウイルス除去性能が過小評価されることを示している。
【0145】
[比較例2]
表2に記載のFE混合液(2)を、終濃度10mg/mLのヒトグロブリン及び0.1mol/LのNaClを含む生物物質含有溶液(pH 4.5)に添加し(合計100mL)、この溶液をPlanova20N(旭化成メディカル社製、膜面積0.001m
2)で濾過した。FE混合液(2)を添加した生物物質含有溶液1mLあたりのMVM核酸コピー数は7.85Log
10[Copies/mL]であった。濾過条件は、78.4kPa、25℃とした。FE混合液(2)を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様の方法でフラクション採取及びウイルス核酸の定量を実施した。濾過の結果を表10に示す。
【表10】
【0146】
この結果から、ウイルス粒子保持容量は12.46Log[Copies/m2]であった。この値は、FE混合液(2)-Eを用いて測定したPlanova20Nのウイルス粒子保持容量(12.92)と比較して0.46小さい。また、中空ウイルス粒子を含まないウイルスキャプシド含有液を用いて測定したPlanova20Nのウイルス粒子保持容量の平均値(12.93)と比較して0.47小さい。この結果は、中空粒子を含むウイルスキャプシド含有液を用いた性能評価では、ウイルスフィルターのウイルス除去性能が過小評価されることを示している。
【0147】
[比較例3]
表2に記載のFE混合液(3)を、終濃度10mg/mLのヒトグロブリン及び0.1mol/LのNaClを含む生物物質含有溶液(pH 4.5)に添加し(合計100mL)、この溶液をPlanova20N(旭化成メディカル社製、膜面積0.001m
2)で濾過した。FE混合液(2)を添加した生物物質含有溶液1mLあたりのMVM核酸コピー数は7.89Log
10[Copies/mL]であった。濾過条件は、78.4kPa、25℃とした。FE混合液(3)を用いた以外は実施例1に記載の方法と同様の方法でフラクション採取及びウイルス核酸の定量を実施した。濾過の結果を表11に示す。
【表11】
【0148】
この結果から、ウイルス粒子保持容量は11.71Log[Copies/m2]であった。この値は、FE混合液(3)-Eを用いて測定したPlanova20Nのウイルス粒子保持容量(12.94)と比較して1.23小さい。中空ウイルス粒子を含まないウイルスキャプシド含有液を用いて測定したPlanova20Nのウイルス粒子保持容量の平均値(12.93)と比較して1.22小さい。この結果は、中空粒子を含むウイルスキャプシド含有液を用いた性能評価では、ウイルスフィルターのウイルス除去性能が過小評価されることを示している。