(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-27
(45)【発行日】2023-12-05
(54)【発明の名称】低酸素調節プロモーター及びその応用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20231128BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231128BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231128BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231128BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20231128BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20231128BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20231128BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20231128BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231128BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231128BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20231128BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231128BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231128BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231128BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231128BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231128BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20231128BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231128BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231128BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N15/85 Z
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/705
C12N5/10
C12N5/0783
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/76
A61K35/761
A61K48/00
A61K35/17
(21)【出願番号】P 2021555018
(86)(22)【出願日】2020-02-24
(86)【国際出願番号】 CN2020076429
(87)【国際公開番号】W WO2020181983
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】201911236679.3
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910184426.X
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911236670.2
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520272880
【氏名又は名称】重▲慶▼精准生物技▲術▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHONGQING PRECISION BIOTECH COMPANY LIMITED
【住所又は居所原語表記】No.38 Hanxing Rd, Hangu Town, Jiulongpo District Chongqing 400038 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 巍
(72)【発明者】
【氏名】陳 軍
(72)【発明者】
【氏名】斉 亜男
(72)【発明者】
【氏名】徐 艶敏
(72)【発明者】
【氏名】趙 文旭
(72)【発明者】
【氏名】黄 霞
(72)【発明者】
【氏名】趙 永春
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510597(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101200732(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0093706(KR,A)
【文献】国際公開第2018/023093(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/213332(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーターを含むCAR構造であって、
前記プロモーターは低酸素調節が可能であり、前記プロモーターは、Hif1α調節エレメントとミニプロモーターを連結して構成され
、前記プロモーターのヌクレオチド配列は
、SEQ ID NO:8で示され
ることを特徴とするプロモーターを含むCAR構造。
【請求項2】
前記CAR構造の抗原識別領域が識別する抗原は、CD19、CD20、CD123、CD22、BCMA、ROR1、メソテリン、PSCA、PSMA、c-Met、GPC-3、Her2、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1TCR、MAGE A3TCRのうちの1又は複数であることを特徴とする請求項1に記載のプロモーターを含むCAR構造。
【請求項3】
前記CAR構造の抗原識別領域はScFvであり、前記ScFvのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:10又はSEQ ID NO:11又はSEQ
ID NO:12又はSEQ ID NO:13で示され、或いは、前記ScFvは、アミノ酸配列がSEQ ID NO:14で示される重鎖の可変領域及びSEQ ID NO:15で示される軽鎖の可変領域を含むか、或いは、アミノ酸配列がSEQ ID NO:16で示される重鎖の可変領域及びSEQ ID NO:17で示される軽鎖の可変領域を含むか、或いは、アミノ酸配列がSEQ ID NO:18で示される重鎖の可変領域及びSEQ ID NO:19で示される軽鎖の可変領域を含むことを特徴とする請求項2に記載のプロモーターを含むCAR構造。
【請求項4】
前記CAR構造のヒンジ領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:20又はSEQ ID NO:21又はSEQ ID NO:22又はSEQ ID NO:23又はSEQ ID NO:24又はSEQ ID NO:25で示されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のプロモーターを含むCAR構造。
【請求項5】
前記CAR構造の膜貫通領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:26又はSEQ
ID NO:27で示されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のプロモーターを含むCAR構造。
【請求項6】
前記CAR構造の細胞内共刺激ドメインは、アミノ酸配列がSEQ ID NO:28又はSEQ ID NO:29又はSEQ ID NO:30又はSEQ ID NO:31で示されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のプロモーターを含むCAR構造。
【請求項7】
前記CAR構造の細胞内活性化シグナルは、アミノ酸配列がSEQ ID NO:32で示されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のプロモーターを含むCAR構造。
【請求項8】
前記CAR構造は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:33又はSEQ ID NO:34又はSEQ ID NO:35又はSEQ ID NO:36で示されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のプロモーターを含むCAR構造。
【請求項9】
分離した核酸分子であって、
前記核酸分子は、請求項8に記載のCAR構造をコードすることを特徴とする核酸分子。
【請求項10】
プロモーターを含むCAR発現ベクターであって、
前記プロモーターは低酸素調節が可能であり、前記プロモーターは、Hif1α調節エレメントとミニプロモーターを連結して構成され
、
前記プロモーターのヌクレオチド配列は
、SEQ ID NO:8で示され、
前記発現ベクターは、レンチウイルス発現ベクター、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、アデノ随伴ウイルス発現ベクター、DNAベクター、RNAベクター、プラスミドのいずれかであることを特徴とするCAR発現ベクター。
【請求項11】
前記発現ベクターは、pBKL1-5H1P-CAR/anti-PSCA-oPREであり、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:45で示されるCAR構造を含み、
又は、前記ベクターは、pBKL1-5H1P-CAR/anti-CD19-oPREであり、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:46で示されるCAR構造を含み、
又は、前記ベクターは、pBKL1-5H1P-CAR/anti-CEA-oPREであり、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:47で示されるヌクレオチド配列のCAR構造を含むことを特徴とする請求項10に記載のCAR発現ベクター。
【請求項12】
請求項10
又は請求項11に記載の発現ベクターを含むCAR-T細胞。
【請求項13】
腫瘍用薬の製造における請求項1~3のいずれか1項に記載のプロモーターを含むCAR構造、又は請求項9に記載の核酸分子、又は請求項10に記載の発現ベクター、又は請求項
12に記載のCAR-T細胞の
使用。
【請求項14】
前記腫瘍には、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、前立腺癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、膵臓癌、肺癌、腎臓癌、肝臓癌、脳腫瘍及び皮膚癌が含まれ、前記腫瘍は、CD19、CD20、CD123、CD22、BCMA、ROR1、CEA、メソテリン、PSCA、PSMA、c-Met、GPC-3、Her2、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1TCR、MAGE A3TCRのうちの1又は複数を高発現することを特徴とする請求項
13に記載の
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子工学の技術分野に属し、具体的には、プロモーター、CAR構造、分離した核酸分子、発現ベクターと、CAR-T細胞及び腫瘍用薬の製造におけるその応用、並びに、低酸素環境下でCAR-T細胞の殺傷能力を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CAR-Tは、正式名称をキメラ抗原受容体T細胞免疫療法といい、血液系腫瘍において良好な結果を得ている。しかし、CAR-Tは、固形腫瘍における効果が血液系腫瘍ほどではない。これは、CAR-Tが固形腫瘍の内部に進入しにくいこと、及び、仮にCAR-T細胞が固形腫瘍の内部に進入したとしても、腫瘍の微小環境が要因となって機能を正常に発揮し得ないためである。これらは、いずれも固形腫瘍治療におけるCAR-T細胞の治療効果に影響を及ぼしている。且つ、固形腫瘍は不均一性の度合が高く、往々にして正常組織にも固形腫瘍の標的が発現するため、オフターゲットリスク等の安全上の問題が存在する。現在は、第4世代CARの作製や、Dual CARの作製(二重抗原を有するCAR-Tの作製)、或いは活性抑制機能を有するiCAR構造によって、固形腫瘍におけるCAR-T治療の有効性及び安全性を向上させようとしているが、これらのCAR構造には依然として安全性の問題や、活性化されにくいとの問題が存在している。そのため、腫瘍の微小環境内で特異的に起動して活性化するCAR構造を作製することが強く求められている。
【0003】
酸性及び低酸素は、腫瘍の微小環境における二大物理要因である。固形腫瘍の大部分の細胞は低酸素環境下に置かれており、低酸素が腫瘍細胞の糖代謝経路を変化させる。これにより、大量の乳酸が発生する結果、腫瘍の微小環境における酸性的特徴が形成される。これらの酸性は腫瘍のアポトーシスを低下させ、細胞の増殖及び成長を強化するとともに、腫瘍細胞の遊走を助ける。一方、固形腫瘍の微小環境における低酸素の研究より、低酸素条件下で活性化される調節可能プロモーターを設計できれば、腫瘍の微小環境内で下流のタンパク質の発現が特異的に活性化する結果、CAR-T細胞の有効性と安全性を向上させるとの目的を達成可能なことが比較的明らかとなっている。
【0004】
腫瘍組織の低酸素に関する理論研究は数多くなされているが、如何にして低酸素環境にCAR-T療法を組み合わせるかは新たな方向性であり、包括的な研究及び試みが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上に鑑みて、本発明の目的は、プロモーターを提供することである。前記プロモーターは、低酸素環境下で目的遺伝子の発現及び標的因子(タンパク質、核酸等)の発現を強化可能であり、抗腫瘍薬の治療効果を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、腫瘍自身の低酸素微小環境に鑑みて、低酸素で活性化する調節エレメントを作製することでタンパク質の発現を特異的に調節し、CAR-Tの特異的活性化を調節した。in vitroの薬物による低酸素環境の作製成功、及びその後のCAR-Tの殺傷効果より、CoCl2で誘導した低酸素条件下におけるCAR-Tは、非誘導時のCAR-Tよりも強い殺傷作用を有することが明らかとなった。また、このことは、作製したCAR構造及びCAR-Tが低酸素微小環境におけるパッシブターゲティング特性を有しており、低酸素微小環境でより強い活性と殺傷力を有する一方、非低酸素微小環境では安
全性を特徴として示すことを意味していた。このことは、CAR-Tの臨床応用や、腫瘍の併用療法の新戦略開発のために重要な指導的意義を有している。
【0007】
上記の目的を実現するために、本発明では以下の方案を使用した。
【0008】
前記プロモーターは低酸素調節が可能である。また、前記プロモーターは、Hif1α調節エレメントとミニプロモーターを連結して構成される。前記Hif1α調節エレメントの反復数は3~5である。
【0009】
具体的に、前記Hif1α調節エレメントは3~5個が反復して直列に連結されている。前記直列とは、2つのヌクレオチド配列が直接連結される場合、即ち、1つのヌクレオチド配列の3’末端ともう1つのヌクレオチド配列の5’末端が直接連結される場合だけでなく、2つのヌクレオチド配列が間接的に連結される場合、即ち、2つのヌクレオチド配列の間にその他のヌクレオチド配列が連結される場合も含み得る。つまり、これら2つのヌクレオチド配列の機能の発現に支障が生じなければよい。
【0010】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数は3であり、前記Hif1α調節エレメントのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1で示される。前記プロモーターは、好ましくは、3HRE-CMVmini promoterである。更に、前記Hif1α調節エレメントの構造を最適化することで最適化したHif1α調節エレメントが得られ、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:2で示される。前記Hif1α調節エレメントを最適化することで、異なる発現ベクターに適合可能となる。更に、前記プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:3で示される。
【0011】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数は4であり、前記Hif1α調節エレメントのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:4で示される。前記プロモーターは、好ましくは、4HRE-CMVmini promoterである。更に、前記Hif1α調節エレメントの構造を最適化することで最適化したHif1α調節エレメントが得られ、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:5で示される。前記Hif1α調節エレメントを最適化することで、異なる発現ベクターに適合可能となる。更に、前記プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:6で示される。
【0012】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数は5であり、前記プロモーターのヌクレオチド配列はID NO:7で示される。プロモーターは、好ましくは、5HRE-CMVmini promoterである。更に、前記ID NO:7の配列の両端を最適化することで、プロモーターとベクターの適合が容易となる。最適化によって、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:8で示されるプロモーターが得られる。
【0013】
更に、前記プロモーターは、低酸素環境で調節される。前記ミニプロモーターは、細胞ウイルスのプロモーター、HSVチミジンキナーゼのプロモーター、シミアンウイルス40のプロモーター、アデノウイルスの後期プロモーター、及び合成プロモーターのいずれかから選択される。好ましくは、ミニプロモーターとしてminiCMVを選択する。
【0014】
本発明の目的は、更に、前記プロモーターを含むCAR構造を提供することである。
【0015】
具体的に、前記CAR構造は、一般的な第1世代、第2世代、第3世代のCAR構造としてもよいし、改良型のDual CARや、調節可能CAR構造(例えば、FRB/FKBP12調節)等の新型のCAR構造としてもよい。
【0016】
更に、前記CAR構造の抗原識別領域が識別する抗原は、CD19、CD20、CD12
3、CD22、BCMA、ROR1、メソテリン、PSCA、PSMA、c-Met、GPC-3、Her2、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1TCR、MAGE
A3TCRのうちの1又は複数である。
【0017】
更に、前記CAR構造の抗原識別領域はScFvである。前記ScFvのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:10又はSEQ ID NO:11又はSEQ ID NO:12又はSEQ ID NO:13で示されるか、その機能的バリアントである。或いは、前記ScFvは、アミノ酸配列がSEQ ID NO:14で示される重鎖の可変領域及びSEQ ID NO:15で示される軽鎖の可変領域を含むか、或いは、アミノ酸配列がSEQ ID NO:16で示される重鎖の可変領域及びSEQ ID NO:17で示される軽鎖の可変領域を含むか、或いは、アミノ酸配列がSEQ ID NO:18で示される重鎖の可変領域及びSEQ ID NO:19で示される軽鎖の可変領域を含む。
【0018】
更に、前記重鎖のアミノ酸配列SEQ ID NO:14及び軽鎖のアミノ酸配列SEQ ID NO:15のCDR1、CDR2及びCDR3は、それぞれ、SEQ ID NO:14の第26位~第33位、第51位~第58位、第97位~第101位、SEQ ID NO:15の第23位~第31位、第49位~第51位、第88位~第96位である。
【0019】
更に、前記重鎖のアミノ酸配列SEQ ID NO:16及び軽鎖のアミノ酸配列SEQ ID NO:17のCDR1、CDR2及びCDR3は、それぞれ、SEQ ID NO:16の第26位~第33位、第51位~第57位、第96位~第109位、SEQ ID NO:17の第27位~第32位、第50位~第52位、第89位~第97位である。
【0020】
更に、前記CAR構造におけるヒンジ領域の配列は、IgG、CD8、CD7、CD4から入手可能であり、CAR構造における膜貫通領域は、CD8、CD28、CD3ε、CD4、CD16、CD137、CD80及びCD86から入手可能であり、CAR構造における細胞内シグナル領域は、CD3、CD137、CD28、CD27、OX40、ICOS、GITR、CD2、CD40、PD-1、PD1L、B7-H3、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、ICAM-1、CD7、NKG2C、CD83、CD86及びCD127から入手可能である。
【0021】
好ましくは、前記CAR構造のヒンジ領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:20又はSEQ ID NO:21又はSEQ ID NO:22又はSEQ ID NO:23又はSEQ ID NO:24又はSEQ ID NO:25で示されるか、その機能的バリアントである。
【0022】
更に、前記CAR構造の膜貫通領域は、CD8、CD28、CD3ε、CD4、CD16、CD137、CD80及びCD86から入手可能である。
【0023】
好ましくは、前記CAR構造の膜貫通領域は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:26又はSEQ ID NO:27で示されるか、その機能的バリアントである。
【0024】
更に、前記CAR構造における細胞内シグナル領域は、CD3、CD137、CD28、CD27、OX40、ICOS、GITR、CD2、CD40、PD-1、PD1L、B7-H3、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、ICAM-1、CD7、NKG2C、CD83、CD86及びCD127から入手可能である。前記細胞内シグナル領域は、細胞内共刺激ドメイン及び細胞内活性化シグナルを含む。
【0025】
好ましくは、前記CAR構造の細胞内共刺激ドメインは、アミノ酸配列がSEQ ID N
O:28又はSEQ ID NO:29又はSEQ ID NO:30又はSEQ ID NO:31で示されるか、その機能的バリアントである。
【0026】
好ましくは、前記CAR構造の細胞内活性化シグナルは、アミノ酸配列がSEQ ID NO:32で示されるか、その機能的バリアントである。
【0027】
更に、前記CAR構造は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:33又はSEQ ID NO:34又はSEQ ID NO:35又はSEQ ID NO:36で示されるか、その機能的バリアントである。
【0028】
具体的に、前記「機能的バリアント」とは、通常、前記アミノ酸配列とほぼ同一の機能を有し(例えば、前記キメラ抗原受容体の性質を有していてもよい)、且つ、少なくとも85%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも100%)の配列同一性を有するアミノ酸配列のことである。いずれかの実施形態において、前記アミノ酸配列のバリアントは、そのアミノ酸配列とほぼ同一の機能を有している。
【0029】
いずれかの実施例において、上記の前記低酸素プロモーターを含むCAR構造は切断されたEGFRt調節タグを有している。いずれかの実施例において、前記低酸素プロモーターを含むCARは汎用型のCAR構造をなしている。いずれかの実施例において、前記低酸素プロモーターを含むCAR構造は、iCasp9のような自殺遺伝子を有している。
【0030】
いずれかの実施例において、抗原識別領域は標的抗原のリガンド/受容体を識別可能である。いずれかの実施例において、ScFvは、マウス抗体又は完全ヒト抗体又はヒト/マウスキメラ抗体のScFvとしてもよいし、サメ、アルパカ又はラクダ抗体等のシングルドメイン抗体としてもよいし、二重特異性抗体としてもよいし、特定の標的を識別する人工的に設計された標的特異性フィブロネクチンIII型(FN3)ドメインの組み合わせとしてもよい。
【0031】
いずれかの実施例において、前記CAR構造は、ナチュラルキラー細胞受容体(NKR)の1又は複数の成分を含むことで、NKR-CARを形成する。NKRの成分は、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)(例えば、KIR2DL1、KIR2DL2/L3、KIR2DL4、KIR2DL5A、KIR2DL5B、KIR2DS1、KIR2DS2、KIR2DS3、KIR2DS4、DIR2DS5、KIR3DL1/S1、KIR3DL2、KIR3DL3、KIR2DP1及びKIR3DP1)、自然細胞毒性受容体(NCR)(例えば、NKp30、NKp44、NKp46)、免疫細胞受容体のシグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAM)ファミリー(例えば、CD48、CD229、2B4、CD84、NTB-A、CRA、BLAME及びCD2F-10)、Fc受容体(FcR)(例えば、CD16やCD64)、及びLy49受容体(例えば、LY49AやLY49C)、といったナチュラルキラー細胞受容体のいずれかの膜貫通ドメイン、ヒンジドメイン又は細胞質ドメインとすることができる。前記NKR-CAR分子は、アダプター分子又は細胞内シグナルドメイン(例えば、DAP12)と相互に作用可能である。
【0032】
本発明の目的は、更に、分離した核酸分子を提供することである。前記核酸分子は、上記いずれかのCAR構造をコードする。
【0033】
本発明の目的は、更に、請求項1~11のいずれか1項に記載のプロモーターを含むCAR発現ベクターを提供することである。
【0034】
更に、前記低酸素プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1又はSEQ
ID NO:2又はSEQ ID NO:3又はSEQ ID NO:4又はSEQ ID NO:5又はSEQ ID NO:6又はSEQ ID NO:7又はSEQ ID NO:8で示される。前記発現ベクターは、レンチウイルス発現ベクター、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、アデノ随伴ウイルス発現ベクター、DNAベクター、RNAベクター、プラスミドのいずれかである。
【0035】
好ましくは、前記ベクターはレンチウイルスベクターである。
【0036】
いずれかの実施例において、前記レンチウイルスベクターは、基本的に、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)、ヒト免疫不全ウイルス2型(HIV-2)、ビスナ-マエディウイルス(visna-maedi virus,VMV)、山羊関節炎-脳脊髄炎ウイルス(CAEV)、馬伝染性貧血ウイルス(EIAV)、猫免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)及びサル免疫不全ウイルス(SIV)で構成される群から選択される。
【0037】
いずれかの実施例において、ベクターは、左(5’)レトロウイルスLTR、Psi(Ψ)パッケージングシグナル、セントラルポリプリンセグメント/DNAフラップ(cPPT/FLAP)、レトロウイルスエクスポートエレメント、本文でカバーするCARをコードするポリヌクレオチドに操作可能に連結されるプロモーター、及び右(3’)レトロウイルスLTRを含む。
【0038】
いずれかの実施例において、CARは、B型肝炎ウイルス転写後調節エレメント(HPRE)、又はマーモット転写後調節エレメント(WPRE)、及び最適化したマーモット転写後調節エレメント(oPRE)を含む。
【0039】
いずれかの実施例において、前記5’LTRのプロモーターは異種プロモーターで置換される。
【0040】
いずれかの実施例において、前記異種プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(Rous Sarcoma Virus,RSV)プロモーター、又はシミアンウイルス40(SV40)プロモーターである。
【0041】
いずれかの実施例において、前記5’LTR又は3’LTRはレンチウイルスLTRである。
【0042】
いずれかの実施例において、前記3’LTRは自己不活性化(SIN)LTRである。
【0043】
いずれかの実施例において、本文でカバーするCARをコードするポリヌクレオチドは、最適化されたKozark配列を含む。
【0044】
いずれかの実施例において、本文でカバーするCARをコードするポリヌクレオチドに操作可能に連結される前記プロモーターは、サイトメガロウイルス主要前初期遺伝子プロモーター(CMV)、伸長因子1αプロモーター(EF1-α)、ホスホグリセリン酸キナーゼ-1プロモーター(PGK)、ユビキチン-Cプロモーター(UBQ-C)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチンプロモーター(CAG)、ポリオーマウイルスエンハンサー/単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(MC1)、βアクチンプロモーター(β-ACT)、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、及び、骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサー/陰性対照領域欠失dl587revプライ
マー結合部位置換(MND)プロモーターで構成される群から選択される。
【0045】
【0046】
いずれかの実施例において、CARを含むベクターは、分泌型の抗PD-1 ScFvを含むことができる。いずれかの実施例において、CARを含むベクターは、PD-1共役形質導入ペプチド(例えば、PD-1-CD28-CD137-CD3のシグナル構造)を含む。いずれかの実施例において、CARを含むベクターには複数のCARが組み合わされる。例えば、異なる抗原又は同一抗原の異なる識別部位を標的とする2つのCARが組み合わされる。
【0047】
好ましくは、前記ベクターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:37又はSEQ ID NO:38又はSEQ ID NO:39又はSEQ ID NO:40又はSEQ ID NO:41又はSEQ ID NO:42又はSEQ ID NO:43又はSEQ ID
NO:44で示される。
【0048】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数が5の場合、前記発現ベクターは、pBKL1-5H1P-CAR/anti-PSCA-oPREであり、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:45で示されるCAR構造を含む。また、前記ベクターは、pBKL1-5H1P-CAR/anti-CD19-oPREであり、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:46で示されるCAR構造を含む。また、前記ベクターは、pBKL1-5H1P-CAR/anti-CEA-oPREであり、ヌクレオチド配列がSEQ
ID NO:47で示されるヌクレオチド配列のCAR構造を含む。
【0049】
本発明の目的は、更に、上記いずれかの発現ベクターを含むCAR-T細胞を提供することである。前記CAR-T細胞は、低酸素環境及び標的抗原の存在下で活性化を誘導可能であり、低酸素環境下で標的抗原から刺激を受けた場合に、CARの発現能力及び存在量がいずれも向上する結果、CAR-Tの有効性が強化される。一方、非低酸素環境下で標的抗原から刺激を受けた場合、CARの発現能力及び存在量はいずれも一般的なCAR-Tよりも低いため、安全性にいっそう優れている。
【0050】
本発明の目的は、更に、低酸素環境下でCAR-T細胞の殺傷能力を向上させる方法を提供することである。当該方法は、上記いずれかのCAR構造の発現ベクターを作製し、T細胞に感染させたあと、標的細胞に作用させることを特徴とする。
【0051】
具体的には、低酸素調節可能なプロモーターを含むCAR構造を作製する。前記低酸素調節可能なプロモーターはHif1α調節エレメントとミニプロモーターを連結して構成される。前記Hif1α調節エレメントの反復数は3~5個である。前記ミニプロモーターは、細胞ウイルスのプロモーター、HSVチミジンキナーゼのプロモーター、シミアンウイルス40のプロモーター、アデノウイルスの後期プロモーター又は合成プロモーターから選択される。
【0052】
好ましくは、ミニプロモーターとしてminiCMVを選択する。
【0053】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数は3であり、前記Hif1α調節エレメントのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1で示される。前記プロモーターは、好ましくは、3HRE-CMVmini promoterである。更に、前記Hif1α調節エレメントの構造を最適化することで最適化したHif1α調節エレメントが得られ、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:2で示される。前記Hif1α調節エレメントを最適化することで、異なる発現ベクターに適合可能となる。更に、前記プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:3で示される。
【0054】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数は4であり、前記Hif1α調節エレメントのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:4で示される。前記プロモーターは、好ましくは、4HRE-CMVmini promoterである。更に、前記Hif1α調節エレメントの構造を最適化することで最適化したHif1α調節エレメントが得られ、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:5で示される。前記Hif1α調節エレ
メントを最適化することで、異なる発現ベクターに適合可能となる。更に、前記プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:6で示される。
【0055】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数は5であり、前記プロモーターのヌクレオチド配列はID NO:7で示される。プロモーターは、好ましくは、5HRE-CMVmini promoterである。更に、前記ID NO:7の配列の両端を最適化することで、プロモーターとベクターの適合が容易となる。最適化によって、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:8で示されるプロモーターが得られる。
【0056】
本発明の目的は、更に、低酸素環境下におけるCAR-T細胞のIFN-γ及び/又はIL-2因子の分泌能力を向上させる方法を提供することである。当該方法の特徴は以下の通りである。即ち、低酸素調節可能なプロモーターを含むCAR構造を作製する。前記低酸素調節可能なプロモーターは、Hif1α調節エレメントとミニプロモーターを連結して構成される。前記Hif1α調節エレメントの反復数は3~5個である。前記ミニプロモーターは、細胞ウイルスのプロモーター、HSVチミジンキナーゼのプロモーター、シミアンウイルス40のプロモーター、アデノウイルスの後期プロモーター又は合成プロモーターから選択される。
【0057】
具体的には、低酸素調節可能なプロモーターを含むCAR構造を作製する。前記低酸素調節可能なプロモーターはHif1α調節エレメントとミニプロモーターを連結して構成される。前記Hif1α調節エレメントの反復数は3~5個である。前記ミニプロモーターは、細胞ウイルスのプロモーター、HSVチミジンキナーゼのプロモーター、シミアンウイルス40のプロモーター、アデノウイルスの後期プロモーター又は合成プロモーターから選択される。
【0058】
好ましくは、ミニプロモーターとしてminiCMVを選択する。
【0059】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数は3であり、前記Hif1α調節エ
レメントのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1で示される。前記プロモーターは、好ましくは、3HRE-CMVmini promoterである。更に、前記Hif1α調節エレメントの構造を最適化することで最適化したHif1α調節エレメントが得られ、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:2で示される。前記Hif1α調節エレメントを最適化することで、異なる発現ベクターに適合可能となる。更に、前記プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:3で示される。
【0060】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数は4であり、前記Hif1α調節エレメントのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:4で示される。前記プロモーターは、好ましくは、4HRE-CMVmini promoterである。更に、前記Hif1α調節エレメントの構造を最適化することで最適化したHif1α調節エレメントが得られ、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:5で示される。前記Hif1α調節エレメントを最適化することで、異なる発現ベクターに適合可能となる。更に、前記プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:6で示される。
【0061】
好ましくは、前記Hif1α調節エレメントの反復数は5であり、前記プロモーターのヌクレオチド配列はID NO:7で示される。プロモーターは、好ましくは、5HRE-CMVmini promoterである。更に、前記ID NO:7の配列の両端を最適化することで、プロモーターとベクターの適合が容易となる。最適化によって、ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:8で示されるプロモーターが得られる。
【0062】
本発明の目的は、更に、腫瘍用薬の製造における前記プロモーター又は前記CAR構造又は前記核酸分子又は前記発現ベクター又は前記CAR-T細胞の応用を提供することである。
【0063】
更に、前記腫瘍には、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、前立腺癌、結腸直腸癌、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、膵臓癌、肺癌、腎臓癌、肝臓癌、脳腫瘍及び皮膚癌が含まれる。前記腫瘍は、CD19、CD20、CD123、CD22、BCMA、ROR1、CEA、メソテリン、PSCA、PSMA、c-Met、GPC-3、Her2、EGFRvIII、GD-2、NY-ESO-1TCR、MAGE A3TCRのうちの1又は複数を高発現する。
【0064】
具体的に、前記細胞は、CARの発現活性を強化可能なその他の活性化剤及び/又は治療と組み合わせて使用することが可能である。
【0065】
具体的に、前記活性化剤及び/又は治療は、手術、化学療法、放射線、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン(cyclosporin)、アザチオプリン(azathioprine)、メトトレキサート(methotrexate)、ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate)及びFK506)、抗体又はその他の免疫除去剤(immunoablative agents)(例えば、CAMPATH、抗CD3抗体又はその他の抗体治療、シクロホスファミド(cytoxan)、フルダラビン(fludarabine)、シクロスポリン(cyclosporin)、FK506、ラパマイシン(rapamycin)、ミコフェノール酸(mycophenolicacid)、ステロイド(steroids)、FR901228、サイトカイン及び放射線)とすることができる。
【0066】
いずれかの実施例において、前記細胞は、その他の活性化剤(例えば、CAR発現細胞の活性を強化する活性化剤)を発現可能である。活性化剤は、抑制性分子を阻害する活性化剤とすることができる。PD1のような抑制性分子は、いくつかの実施形態において、CAR発現細胞の免疫エフェクター反応の発動能力を低下させ得る。抑制性分子には、PD1、PD-L1、CTLA4、TIM3、LAG3、VISTA、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4、CEACAM(CEACAM-1、CEACAM-3、CEACAM-5)、LAG3、VISTA、BTLA、TIG、LAIR1、CD160、2B4、CD80、CD86、B7-H3(CD276)、B7-H4(VTCN1)、HVEM(TNFRSF14又はCD270)、KIR、A2aR、MHC I
系、MHC II系、GAL9、アデノシン、TGFR(TGFRβ)及びTGFRβが含まれる。前記抑制性分子の細胞外ドメイン(アミノ酸配列SEQ ID NO:55)は、例えばPD1CAR(ヌクレオチド配列SEQ ID NO:56又はSEQ ID NO:57)のように、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインに融合可能である。
【発明の効果】
【0067】
本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0068】
本発明は、低酸素調節可能なプロモーターのCAR-Tにおける応用を提供する。これによれば、低酸素微小環境で誘導されたプロモーターが、低酸素環境において、目的遺伝子やタンパク質等の因子の発現を強化可能となるため、腫瘍の薬物治療効果及びCAR-T治療の有効性と安全性が向上する。
【0069】
本発明で提供する低酸素微小環境で起動が誘導されるCAR構造は、T細胞上に有効に発現可能なだけでなく、低酸素環境下でCAR-T細胞の活性化を強化可能である。これにより、CAR-Tの有効性が強化されるとともに、CAR-T細胞がIFN-γ及びIL-2因子について高い分泌能力を持つようになるため、腫瘍標的細胞に対するCAR-T細胞の殺傷能力が向上する。よって、腫瘍の標的療法に使用可能である。
【0070】
本発明で提供する低酸素微小環境で起動が誘導されるCAR-T細胞は、非低酸素環境下で標的抗原から刺激を受けた場合のCARの発現能力及び存在量がいずれも一般的なCAR-Tよりも低いため、安全性にいっそう優れている。
【0071】
本発明で提供するCAR-T細胞は、低酸素環境下で活性が強化されるため、腫瘍治療薬の製造における養子細胞療法に使用可能である。このことは、CAR-Tの臨床応用や、腫瘍の併用療法の新戦略開発のために重要な指導的意義を有している。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1a】
図1aは、3H1Pプロモーターの構造図である。
【
図1b】
図1bは、4H1Pプロモーターの構造図である。
【
図1c】
図1cは、pBKL1-5H1P-CARベクターの構造図である。
【
図1d】
図1dは、pBKL1-5H1P-CARベクターの構造図である。
【
図2a】
図2aは、3H1Pプロモーターの低酸素誘導方案の検証を示す。
【
図2b】
図2bは、4H1Pプロモーターの低酸素誘導方案の検証を示す。
【
図2c1】
図2c1は、5H1Pプロモーターの低酸素誘導方案の検証におけるGFP陽性率のヒストグラムを示す。
【
図2c2】
図2c2は、5H1Pプロモーターの低酸素誘導方案の検証におけるGFP発現蛍光強度のヒストグラムを示す。
【
図3a】
図3aは、3H1Pプロモーターの場合の細胞増殖に対する低酸素誘導薬物の影響を示す。
【
図3b】
図3bは、4H1Pプロモーターの場合の細胞増殖に対する低酸素誘導薬物の影響を示す。
【
図3c1】
図3c1は、5H1Pプロモーターの場合の細胞増殖に対する低酸素誘導薬物の影響のヒストグラム(Hela)を示す。
【
図3c2】
図3c2は、5H1Pプロモーターの場合の細胞増殖に対する低酸素誘導薬物の影響のヒストグラム(PBMC)を示す。
【
図4a1】
図4a1は、3H1PプロモーターのCAR陽性率測定を示す。
【
図4a2】
図4a2は、低酸素誘導後の3H1PプロモーターのCAR発現強度測定を示す。
【
図4b1】
図4b1は、4H1PプロモーターのCAR陽性率測定を示す。
【
図4b2】
図4b2は、低酸素誘導後の4H1PプロモーターのCAR発現強度測定を示す。
【
図4c】
図4cは、5H1PプロモーターのCAR陽性率のフローサイトメトリー測定を示す。
【
図5a】
図5aは、3H1Pプロモーター改変型CAR-Tの有効性検証を示す。
【
図5b】
図5bは、4H1Pプロモーター改変型CAR-Tの有効性検証を示す。
【
図5c1】
図5c1は、標的細胞HelaのPSCA発現を示す。
【
図5c2】
図5c2は、標的細胞Helaに対する5H1Pプロモーター改変型CAR-Tの殺傷効率を示す。
【
図6a】
図6aは、低酸素環境及び非低酸素環境下における3H1Pプロモーター改変型CAR-Tの活性比較を示す。
【
図6b】
図6bは、低酸素環境及び非低酸素環境下における4H1Pプロモーター改変型CAR-Tの活性比較を示す。
【
図7a】
図7aは、低酸素環境及び非低酸素環境下における3H1Pプロモーター改変型CAR-T活性化後の因子分泌の比較を示す。
【
図7b】
図7bは、低酸素環境及び非低酸素環境下における4H1Pプロモーター改変型CAR-T活性化後の因子分泌の比較を示す。
【
図7c1】
図7c1は、CAR-T活性化後のIFN-γ因子分泌能力の測定を示す。
【
図7c2】
図7c2は、CAR-T活性化後のIL-2因子分泌能力の測定を示す。
【
図8a】
図8aは、リンパ腫担癌マウス体内における5H1P低酸素プロモーター改変型CAR-Tの有効性検証を示す。
【
図8b】
図8bは、対応する腫瘍成長のグラフを示す。
【
図9a】
図9aは、ヒト結腸直腸癌担癌マウス体内における5H1P低酸素プロモーター改変型CAR-Tの腫瘍増殖抑制を示す。
【
図9b】
図9bは、ヒト結腸直腸癌担癌マウス体内における5H1P低酸素プロモーター改変型CAR-Tの腫瘍体積の大きさへの影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下に、図面を参照して、本発明の好ましい実施例につき詳細に記載する。なお、好ましい実施例において、具体的条件を明記していない実験方法については、通常は一般的条件に従うものとする。例えば、『分子クローニング実験ガイド』(第3版、J.サムブルック他著)に記載されている条件や、メーカーが推奨する条件に従うものとする。また、提示する実施例は本発明の内容をより良好に説明するためのものであって、本発明の内容はここで提示する実施例に限らない。よって、当業者が、上述した発明の概要に基づいて実施形態について行う本質的でない改良及び調整は、依然として本発明の保護の範囲に属する。
【実施例1】
【0074】
プラスミドの作製
(1)レンチウイルスベクターに適合するプロモーター3HRE-CMVmini promoter-NheI(3H1P)の作製
レンチウイルスベクターに適合するプロモーター3HRE-CMVmini promoter-NheI(3H1P)を作製した。ヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:3で示す通りであった。次に、ダブルダイジェストでそれぞれ切断して断片を回収し、遺伝子断片を接続、形質転換するとともに、単クローンを選別して、組換えベクターを取得した。ベクター番号は、それぞれ5、6、7、8とした。CARの構成要素は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:10のPSCA又はCEAを標的とするScFv、アミノ酸配列がSEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21又はSEQ ID NO:22又はSEQ ID NO:23又はSEQ ID NO:24又はSEQ
ID NO:25で示されるヒンジ構造、アミノ酸配列がSEQ ID NO:26又はS
EQ ID NO:27で示される膜貫通構造、アミノ酸配列がSEQ ID NO:28又はSEQ ID NO:29又はSEQ ID NO:30又はSEQ ID NO:31で示される細胞内共刺激ドメイン、アミノ酸配列がSEQ ID NO:32で示される細胞内活性化シグナルを含んでいた。取得した低酸素プロモーターで改変したCARのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:37、SEQ ID NO:38、SEQ ID NO:39及びSEQ ID NO:40、CARのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35及びSEQ ID NO:36で示す通りであった。
図1aは、プロモーター3HRE-CMVmini promoter-NheIの構造図である。
【0075】
(2)レンチウイルスベクターに適合するプロモーター4HRE-CMVmini promoter-NheI(4H1P)の作製
レンチウイルスベクターに適合するプロモーター4HRE-CMVmini promoter-NheI(4H1P)を作製した。ヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:6で示す通りであった。次に、ダブルダイジェストでそれぞれ切断して断片を回収し、遺伝子断片を接続、形質転換するとともに、単クローンを選別して、組換えベクターを取得した。ベクター番号は、それぞれ1、2、3、4とした。CARの構成要素は、アミノ酸配列がSEQ ID NO:9又はSEQ ID NO:10のPSCA又はCEAを標的とするScFv、アミノ酸配列がSEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21又はSEQ ID NO:22又はSEQ ID NO:23又はSEQ ID NO:24又はSEQ
ID NO:25で示されるヒンジ構造、アミノ酸配列がSEQ ID NO:26又はSEQ ID NO:27で示される膜貫通構造、アミノ酸配列がSEQ ID NO:28又はSEQ ID NO:29又はSEQ ID NO:30又はSEQ ID NO:31で示される細胞内共刺激ドメイン、アミノ酸配列がSEQ ID NO:32で示される細胞内活性化シグナルを含んでいた。取得した低酸素プロモーターで改変したCARのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43及びSEQ ID NO:44、CARのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35及びSEQ ID NO:36で示す通りであった。
図1bは、4HRE-CMVmini promoter-NheIの構造図である。
【0076】
(3)レンチウイルスベクターに適合するプロモーター5HRE-CMVmini promoter-NheI(5H1P)の作製
表2に示す条件に従ってプラスミドを作製し、後の実験に使用した。プラスミドの作製は、ミニプロモーターminiCMV、レンチウイルス発現ベクター、抗原識別領域CD19及びPSCAの場合を例に実施した。
【0077】
核酸配列がSEQ ID NO:7で示される低酸素プロモーター配列5HRE-CMVmini promoterを合成し、更に、レンチウイルスベクターに適合するプロモーターEcoRV-5HRE-CMVmini promoter-NheI(5H1P)を作製した。核酸配列は、SEQ ID NO:8で示す通りであった。次に、ダブルダイジェストでそれぞれ切断して断片を回収し、遺伝子断片を接続、形質転換するとともに、単クローンを選別して、組換えベクターPBKL1-5H1P-PSCA(1)-OPRE、PBKL1-5H1P-CD19-OPRE、PBKL1-5H1P-CEA-OPREを取得した。ヌクレオチド配列は、それぞれ、SEQ ID NO:45、SEQ ID NO:46、SEQ ID NO:47で示す通りであった。また、CAR遺伝子を含まない対照ベクターとしてPBKL1-5H1P-GFP-OPREを作製した。
【0078】
低酸素プロモーター及びプラスミド構造の核酸配列は、SEQ ID NO:58で示す通りであった。
図1cは、CAR構造及びCARを含む低酸素誘導性ベクターの図である。
取得したプラスミドは、ダブルダイジェストNheI+SalIによる鑑定結果及びシーケンシング検証の結果、正しいことが分かった。結果は
図1dに示す通りであった(M:DL10000、DNA分子量の基準、1:プラスミドPBKL1-5H1P-PSCA(1)-OPRE(8325bp)、2:プラスミドPBKL1-5H1P-GFP-OPRE(7443bp)、3:プラスミドPBKL1-5H1P-PSCA(1)-OPREをNheI+SalIでダブルダイジェストして得た6717bp、1608bp断片、4:プラスミドPBKL1-5H1P-GFP-OPREをNheI+SalIでダブルダイジェストして得た6717bp、726bp断片)。
【0079】
【実施例2】
【0080】
in vitro低酸素モデルの検証
CoCl2による低酸素誘導の原理:塩化コバルト(II)(CoCl2)における二価のコバルトイオン(Co2+)は、PHDの補因子である二価の鉄イオンと置換可能である。Co2+は酸素に対する親和性が低いため、ヘムが酸素と結合し得なくなる結果、構造が酸化状態に変化不可能となる。これにより、低酸素状態が形成される。
【0081】
(1)低酸素誘導方案の検証:
PBKL1-3HRE-GFP、PBKL1-4HRE-GFP、PBKL1-5HRE-GFPでウイルス感染及び活性化したPBMCをそれぞれ用いてin vitro低酸素細胞モデルを作製し、12~18h培養してから液交換した。次に、CoCl2を用いて低酸素環境を誘導し、4日目まで培養してから、緑色蛍光検出及びWBにより低酸素モデルの作製が完了したか否かを検証した。対照群(CoCl2を加えない)、実験群(CoCl2を加える)、及び陽性群(低酸素調節プロモーターを含まない通常の感染GFP細胞)をそれぞれ設け、24時間の薬物処理後に、蛍光顕微鏡でGFPの発現強度を撮影及び検出した。また、M-PER Mammalian Protein Extraction Reagent(Thermo社)の説明書に従ってタンパク質を抽出し、WBにより細胞内のHIF-1aの発現状況を検出した。
【0082】
結果は、
図2aから明らかなように、CoCl
2を加えた誘導群(即ち、微小環境低酸素群)は、GFPの発現がCoCl
2を加えなかった群よりも明らかに強く、且つ、蛍光強度が陽性対照群よりも遥かに強かった。つまり、低酸素環境下において、PBKL1-3HRE-GFPの低酸素プロモーターは下流のGFPの発現を正常に起動可能なことが示された。
【0083】
また、結果は、
図2bから明らかなように、CoCl
2を加えた誘導群(即ち、微小環境低酸素群)は、GFPの発現がCoCl
2を加えなかった群よりも明らかに強く、且つ、蛍光強度が陽性対照群よりも遥かに強かった。つまり、低酸素環境下において、PBKL1-4HRE-GFPの低酸素プロモーターは下流のGFPの発現を正常に起動可能なことが示された。
【0084】
また、結果は、
図2c1及び
図2c2から明らかなように、CoCl
2を加えた誘導群(即ち、微小環境低酸素群)は、GFPの発現がCoCl
2を加えなかった群よりも明らかに強く、且つ、蛍光強度が陽性対照群よりも遥かに強かった。つまり、低酸素環境下において、PBKL1-3HRE-GFPの低酸素プロモーターは下流のGFPの発現を正常に起動可能なことが示された。
【0085】
(2)細胞増殖に対する低酸素誘導薬物の影響
当日の朝に、適量のHela細胞及びPBMC細胞を96ウェルマイクロプレートにプレーティングし、細胞を5h単層培養したあと、CoCl2の終濃度を0uM、100uM、200uM、300uM、400uM、500uMとして薬物添加処理した。24時間処理したあと、インキュベートした試薬CellTiter-Glo One Solution Assayを体積1:1で加え、室温で10分間インキュベートしてからマイクロプレートリーダーに投入して吸光度を測定した。
【0086】
結果は、
図3aに示したように、CoCl
2を加えても元の細胞の増殖状況に影響することはなかった。そのため、(PBKL1-3HRE-GFPプロモーター型の)CAR-T細胞による殺傷効果は、外部から添加するCoCl
2の影響を受けることがなく、低酸素プロモーターを含むか否かにのみ関係していた。
【0087】
また、結果は、
図3bに示したように、CoCl
2を加えても元の細胞の増殖状況に影響することはなかった。そのため、(PBKL1-4HRE-GFPプロモーター型の)CAR-T細胞による殺傷効果は、外部から添加するCoCl
2の影響を受けることがなく、低酸素プロモーターを含むか否かにのみ関係していた。
【0088】
また、結果は、
図3c1及び
図3c2から明らかなように、CoCl
2を加えても元の細
胞の増殖状況に影響することはなかった。そのため、(PBKL1-5HRE-GFPプロモーター型の)CAR-T細胞による殺傷効果は、外部から添加するCoCl
2の影響を受けることがなく、低酸素プロモーターを含むか否かにのみ関係していた。
【実施例3】
【0089】
レンチウイルス及び感染T細胞の作製
本実施例では、3H1Pプロモーター、4H1Pプロモーター及び5H1Pプロモーターを用いてそれぞれ実験を行った。
【0090】
本実施例では、レンチウイルスのパッケージングにリン酸カルシウム法を採用した。具体的には、10%FBS(w/v)を含有するDMEM培地を用いて293T細胞を好ましい状態まで培養し、トランスフェクション時の細胞のコンフルエンシーが70~80%となるよう保証した。また、細胞は予め液体を交換した。パッケージングプラスミド(RRE:REV:2G)と発現プラスミドを一定の割合で1.5の遠沈管に投入し、2.5mol/LのCaCl2を加えてから、ddH2Oを総体積が600ulとなるまで補充して均一に混合した。次に、ピペットで2×HBSを一滴ずつ混合液に加え、均一に混合したあと室温で15min静置した。これを処理済みの293T細胞培養液に加え、3~5h後に再び液体を10%FBSを含有する10mLのDMEM培地に交換した。そして、48h又は72h後に細胞上清を収集し、ウイルスを精製して、力価を測定した。
【0091】
勾配遠心法によりリンパ球を分離した。遠心分離後、第2層の白血球層を採取して生理食塩水で洗浄した。これに10%FBSを含有するRPMI 1640完全培地を加えて培養し、ヒトPBMC細胞を取得した。次に、取得したPBMC細胞を抗CD3、CD28モノクローナル抗体で24h活性化させたあと、活性化したPBMCを一定の感染多重度(MOI)で感染させるとともに、ポリブレンを加えてウイルス感染を補助した。これを一晩培養したあと液体を交換し(10%RPMI 1640+IL-2+二重抗体)、37℃のインキュベーターで培養を続けた。ウイルス感染から12日目にCAR-Tの陽性率を測定した。測定方法はフローサイトメトリー測定とし、抗体はProtein-L-PEとした。Protein-Lは抗体の軽鎖を識別可能であり、CARの抗原識別領域におけるScFv配列の軽鎖をProtein-Lで識別可能なことから、Protein-Lを用いることでCARの陽性率及びCARの陽性率を測定可能であった。
【0092】
3H1Pプロモーターの実験結果は
図4a1及び
図4a2に示す通りとなった。3H1Pプロモーター改変型の各種構造のCAR-T細胞は、低酸素誘導環境下でのCAR発現が著しく増加した。
図4a1において、3H1Pプロモーター改変型の各種構造のCAR-T細胞について、黒色のヒストグラムは、非低酸素環境下におけるプロモーター改変型CARのCAR発現強度を示している。また、白色のヒストグラムは、低酸素環境下におけるプロモーター改変型CARのCAR発現強度を示しており、CARの発現強度は低酸素誘導環境下で増加した。
【0093】
4H1Pプロモーターの実験結果は
図4b1及び
図4b2に示す通りとなった。4H1Pプロモーター改変型の各種構造のCAR-T細胞は、低酸素誘導環境下でのCAR発現が著しく増加した。
図4b1において、4H1Pプロモーター改変型の各種構造のCAR-T細胞について、黒色のヒストグラムは、非低酸素環境下におけるプロモーター改変型CARのCAR発現強度を示している。また、白色のヒストグラムは、低酸素環境下におけるプロモーター改変型CARのCAR発現強度を示しており、CARの発現強度は低酸素誘導環境下で増加した。
【0094】
5H1Pプロモーターの実験結果は
図4cに示す通りとなった。低酸素誘導5H1P-PSCA CAR-T群は、CoCl
2で誘導した低酸素プロモーターを含むCAR-T群
である。低酸素誘導PSCA CAR-T群は、CoCl
2で誘導した低酸素プロモーターを含まないCAR-T群である。未誘導5H1P-PSCA CAR-T群は、CoCl
2で誘導しなかった低酸素プロモーターを含むCAR-T群である。また、BLANKはブランク対照群である。低酸素プロモーター改変型のCAR構造は、低酸素環境下においてCARの発現存在量がより向上した。また、CAR分子がより高密度でT細胞の表面に発現した。
【実施例4】
【0095】
低酸素プロモーターを含むCAR-Tの低酸素誘導後の有効性測定
本実施例では、3H1Pプロモーター型のCAR-T、4H1Pプロモーター型のCAR-T及び5H1Pプロモーター型のCAR-Tを用いてそれぞれ実験を行った。
【0096】
PSCA陽性のHela細胞と、in vitro改変したCEA陽性のDLD1-CEA細胞をそれぞれ標的細胞として、プロモーター改変型CAR-Tの有効性機能を検証した。エフェクター細胞(プロモーター改変型CARを発現するCAR-T細胞を含む)を低酸素で前処理したあと、一晩置いてからCAR-T細胞を収集した。これを一定のET比で標的細胞にプレーティングし、計器としてACEA xCELLigence RTCA MPを用いて標的細胞に対する各種CAR-Tの殺傷能力を測定した。なお、実験手順は計器の説明書に従った。ACEA xCELLigence RTCA MPの原理は、ウェルの底に付着した腫瘍細胞について、電気抵抗指数をデータとして15分に1回記録し、単層培養された標的細胞の増殖又は死亡状況を電気抵抗指数から判断するというものである。電気抵抗指数を利用して結果を分析する際の公式は、CAR-T細胞の殺傷率=ベースライン電気抵抗指数-リアルタイム電気抵抗指数、とした。
【0097】
3H1Pプロモーター型のCAR-Tの実験結果は
図5aに示す通りとなった。即ち、対照群と比較して、低酸素プロモーター3H1Pを含む各種構造のCAR-T細胞と、低酸素プロモーター4H1Pを含む各種構造のCAR-T細胞は、いずれも正常な機能を発揮可能であった。
【0098】
4H1Pプロモーター型のCAR-Tの実験結果は
図5bに示す通りとなった。即ち、対照群と比較して、低酸素プロモーター3H1Pを含む各種構造のCAR-T細胞と、低酸素プロモーター4H1Pを含む各種構造のCAR-T細胞は、いずれも正常な機能を発揮可能であった。
【0099】
5H1Pプロモーター型のCAR-Tの実験結果は
図5c1及び
図5c2に示す通りとなった。
図5c1は、標的細胞HelaのPSCA発現を示している。また、
図5c2は、CAR-Tを加えて24h後の標的細胞Helaに対する各群のCAR-Tの殺傷効率を示している。図中のMediumは培地のみを加えた場合、Medium+は低酸素環境を誘導した培地を意味する。また、5H1P-PSCAは低酸素プロモーター5H1Pを含むCAR-T、5H1P-PSCA+は低酸素環境下における低酸素プロモーター5H1Pを含むCAR-T、CAG-PSCAは低酸素プロモーターを含まないCAR-T、5H1P-GFP+は陰性対照を意味する。薬物添加により誘導した低酸素環境下において、本件特許で保護する5H1P-PSCA+の殺傷効果は著しく増加し、且つ、低酸素プロモーターを導入しなかったCAG-PSCA群を超えていた。
【0100】
図6a及び
図6bは、更に、低酸素環境及び非低酸素環境下において、改変型の低酸素特異性プロモーターである3H1Pプロモーター(
図6a)及び4H1Pプロモーター(
図6b)によるCAR-Tの殺傷活性調節を検証したものである。結果から明らかなように、低酸素環境下において、1:5の低ET比条件の場合に、低酸素特異性プロモーターは
特異的にCAR-Tを誘導して効率的な殺傷を行うことが可能であった。これに対し、一般的なCAR-Tは、低酸素環境下における殺傷能力に極めて劣っていた。殺傷パーセンテージデータは、下記の表3に示す通りであった。
【0101】
【0102】
24時間の殺傷後に細胞の上清を収集し、CAR-T細胞が標的細胞から刺激を受けたあとのIFN-γ及びIL-2の分泌能力を測定した。
【実施例5】
【0103】
ElisaによるIFN-γ検出
本実施例では、3H1Pプロモーター型のCAR-T、4H1Pプロモーター型のCAR-T及び5H1Pプロモーター型のCAR-Tを用いてそれぞれ実験を行った。
【0104】
実施例4で収集した上清について、ELISA(酵素結合免疫)法を用いてIFN-γの分泌状況を検出した。IFN-γは製品番号555142のBD IFN-γ試薬キットを用いて検出した。なお、実験ステップは製品説明書に従った。
【0105】
3H1Pプロモーター型のCAR-Tの結果は
図7aに示すりとなった。Treatは、低酸素環境下で標的細胞が殺傷されたあとのプロモーター改変型CAR-T細胞の因子分泌状況を示している。また、UnTreatは、非低酸素環境下で標的細胞が殺傷されたあとのプロモーター改変型CAR-T細胞の因子分泌状況を示している。結果から明らかなように、低酸素環境下でプロモーター改変型CAR-T細胞が活性化された場合にのみ高いIFN-γの分泌が可能であった。
【0106】
4H1Pプロモーター型のCAR-Tの結果は
図7bに示す通りとなった。Treatは、低酸素環境下で標的細胞が殺傷されたあとのプロモーター改変型CAR-T細胞の因子分泌状況を示している。また、UnTreatは、非低酸素環境下で標的細胞が殺傷されたあとのプロモーター改変型CAR-T細胞の因子分泌状況を示している。結果から明らかなように、低酸素環境下でプロモーター改変型CAR-T細胞が活性化された場合にのみ高いIFN-γの分泌が可能であった。
【0107】
4H1Pプロモーター型のCAR-Tの結果は
図7c1及び
図7c2に示す通りとなった。5H1P-PSCAは低酸素プロモーター5H1Pを含むCAR-T、5H1P-PSCA+は低酸素環境下における低酸素プロモーター5H1Pを含むCAR-T、CAG-PSCAは低酸素プロモーターを含まないCAR-T、5H1P-GFP+は陰性対照を意味する。低酸素プロモーターを含むCAR-T細胞は、低酸素環境下で抗原刺激を受けたあとのIFN-γ及びIL-2、特に、IL-2の分泌能力が非低酸素環境時よりも遥かに高かった。また、低酸素プロモーター5H1Pを含むCAR-Tは、非低酸素環境下で抗原刺激を受けたあとのIFN-γ分泌が低酸素プロモーターを含まないCAR-T CAG-PSCAよりも遥かに低かった。つまり、正常組織の非低酸素環境下において、
抗原刺激を受けた5H1P-PSCAのIFN-γ分泌は低酸素プロモーターを含まない場合よりも遥かに低く、いっそう高い安全性を有することが分かった。且つ、腫瘍の低酸素環境下において、抗原刺激を受けた5H1P-PSCAのIFN-γ分泌能力が強化されたことは、5H1Pが低酸素環境下で作用を発揮することを意味している。また、腫瘍の低酸素環境下において、5H1P-PSCAのIL-2分泌能力はCAG-PSCAと同等であり、且つ、非低酸素環境下における5H1P-PSCAのIL-2分泌能力を遥かに超えていた。つまり、本発明の5HRE-CMVmini promoterは、低酸素環境下においてCAR-Tの安全性及び有効性を確実に改善可能であった。
【実施例6】
【0108】
低酸素プロモーターを含むCAR-T細胞のin vivo有効性検証
本実験では、5H1P CD19 CAR-Tを用いて検証を行った。
【0109】
ヒトリンパ腫細胞(Raji、CD19陽性)マウス担癌モデルと、ヒト結腸直腸癌マウス担癌モデルを作製し、低酸素プロモーターの導入がCAR-T細胞による抗腫瘍治療効果に及ぼす作用を検証した。
【0110】
in vivo検証に使用したマウスは、NOGマウスと略称されるNOD.Cg-PrkdcscidII2rgtm1Sug/JicCrlであった。NOGマウスは日本国実験動物研究所(CIEA)の伊藤守(Mamoru Ito)により開発されたものであり、CAR-Tのin vivo腫瘍形成関連実験において国際的に最も一般的な品種である。また、in vivo検証に使用する腫瘍形成標的細胞としてRaji細胞を選択し、ヒトリンパ腫担癌マウスモデルを作製した。6~8週齢のオスのNOD/SCIDマウスを選択し、耳タグを付けたあと、マウスの背部に1×106細胞/匹でLoVo又はRaji細胞を皮下注射した。そして、腫瘍形成から6日目にマウスの腫瘍体積を測定し、腫瘍体積に基づいて、Control T群、低酸素プロモーター改変型CAR-T群(5H1P CD19 CAR-T)、未改変プロモーター型CAR-T群(CD19 CAR-T)、及び低酸素プロモーター改変型CAR-T群(5H1P CEA CAR-T)、対照群の2つの部分にランダムに分けて実験を行った。ヒトリンパ腫担癌マウス群については、腫瘍形成から8日目に、対応するCAR-T細胞を各群のマウスの尾静脈に3*106CAR-T細胞/匹注射した。また、Control T群については、8日目に総数が同一のT細胞を戻した。ヒト結腸直腸癌担癌マウス群については、腫瘍形成から7日目に、各群のマウスの尾静脈に5H1P CEA CAR-T及びCONTROL T細胞を1*106CAR-T細胞/匹注射した。また、14日目に、再び5H1P CEA CAR-T及びCONTROL T細胞を1*106CAR-T細胞/匹注入した。
【0111】
各群のマウスの腫瘍体積を週1回測定したところ、実験結果は
図8a、
図8b及び
図9a、
図9cに示す通りとなった。
図8aは、Raji担癌マウスによる実験を示している。図面から明らかなように、低酸素プロモーター改変型の5H1P群(5H1P CD19 CAR-T)は、未改変型のCD19 CAR-T群に比べ、マウス体内における有効性が著しく向上した。つまり、in vivo動物実験の結果、本発明で記載した5HRE-CMVmini promoterを用いたCAR構造改変型のCAR-T細胞は、担癌マウスに対する有効性が著しく向上した。
【0112】
図9a及び
図9bは、ヒト結腸直腸癌マウス担癌モデルを用いて行った実験を示している。
図9aは、低酸素プロモーター改変型の5H1P群と、未改変群におけるCAR-T後の腫瘍増殖曲線であり、
図9bは、各改変群の治療後のマウス腫瘍体積の統計結果である。結果から明らかなように、低酸素プロモーター改変型の5H1P群(5H1P CEA CAR-T)は、Control群よりも顕著な治療効果を有していた。
【0113】
以上の結果より、本発明で記載した5HRE-CMVmini promoterを用いたCAR構造改変型のCAR-T細胞は、担癌マウスに対する有効性が著しく向上した。
【0114】
最後に、説明すべき点として、以上の実施例は本発明の技術方案を制限するものではなく、説明するためのものにすぎない。本発明については、好ましい実施例を参照して詳細に説明したが、当業者は、本発明の技術方案に対し修正又は同等の置換を行うことが可能であり、本発明の技術方案の主旨及び範囲を逸脱しない限り、いずれも本発明の特許請求項の範囲に含まれると解釈すべきである。
【配列表】