(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-28
(45)【発行日】2023-12-06
(54)【発明の名称】光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置
(51)【国際特許分類】
C03C 3/247 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
C03C3/247
(21)【出願番号】P 2021538579
(86)(22)【出願日】2019-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2019030811
(87)【国際公開番号】W WO2021024366
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉本 幸平
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126603(JP,A)
【文献】特開2012-126608(JP,A)
【文献】特開2015-205785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンのモル%で、
P
5+含有率:30
%以上45%
以下、
Al
3+含有率:10
%以上20%
以下、
Ba
2+含有率:20
%以上40%
以下であり、
Li
+、Ti
4+のいずれか一種を少なくとも含み、
アニオンのモル%で、
O
2-
含有率:75
%以上95%
以下、
F
-
含有率:5
%以上14.94%
以下である、
光学ガラス。
【請求項2】
カチオンのモル%で、
Li
+含有率:1
%以上6%
以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
カチオンのモル%で、
Ti
4+含有率:0
%以上6%
以下である、請求項2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
カチオンのモル%で、
Ti
4+含有率:0.5
%以上6%
以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項5】
カチオンのモル%で、
Li
+含有率:0
%以上6%
以下である、請求項4に記載の光学ガラス。
【請求項6】
カチオンのモル%で、
Mg
2+含有率:0
%以上15%
以下、
Ca
2+含有率:0
%以上20%
以下、
Sr
2+含有率:0
%以上20%
以下、
Zn
2+含有率:0
%以上15%
以下、
Y
3+含有率:0
%以上6%
以下、
La
3+含有率:0
%以上6%
以下、
Gd
3+含有率:0
%以上6%
以下、
Zr
4+含有率:0
%以上3%
以下、
Nb
5+含有率:0
%以上8%
以下、
Ta
5+含有率:0
%以上4%
以下、
W
6+含有率:0
%以上6%
以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
カチオンのモル%で、
P
5+
とAl
3+の総含有率(P
5++Al
3+)が、40
%以上65%
以下である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
カチオンのモル%で、
Mg
2+
、Ca
2+
、Sr
2+
、Ba
2+及
びZn
2+の総含有率(ΣAE
2+)が、35
%以上50%
以下である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項9】
カチオンのモル%で、
Y
3+
、La
3+、及びGd
3+の総含有率(ΣRE
3+)が、0
%以上6%
以下である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項10】
カチオンのモル%で、
Ti
4+
、Zr
4+
、Nb
5+
、Ta
5+、W
6+の総含有率(ΣTM
n+)が、0
%より大きく10%
以下である、
請求項1~9のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項11】
カチオンのモル
%で、
Al
3+含有率に対するP
5+含有率の割合(P
5+/Al
3+)が、1.5
以上4.5
以下である、
請求項1~10のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項12】
カチオンのモル
%で、
Mg
2+、Ca
2+及びSr
2+の総含有率に対する、Ba
2+及びZn
2+含有率の割合((Ba
2++Zn
2+)/(Mg
2++Ca
2++Sr
2+))が、0.5
以上10
以下である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項13】
カチオンのモル
%で、
P
5+及びAl
3+の総含有率に対する、Li
+
、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、Zn
2+、Y
3+、La
3+、Gd
3+、Ti
4+、Zr
4+、Nb
5+、Ta
5+及びW
6+の総含有率の割合((Li
++ΣAE
2++ΣRE
3++ΣTM
n+)/(P
5++Al
3+))が、0.7
以上1.3
以下である、
請求項1~12のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項14】
カチオン成分についてはカチオンのモル
%で、アニオン成分についてはアニオンのモル
%で、
F
-に対する、Ti
4+、Zr
4+、Nb
5+、Ta
5+及びW
6+(ΣTM
n+)の割合((ΣTM
n+)/F
-)が、0.05
以上0.35
以下である、
請求項1~13のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項15】
屈折率(n
d)が、1.60
以上1.70
以下の範囲である、
請求項1~14のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項16】
アッベ数(ν
d)が、40
以上65
以下の範囲である、
請求項1~15のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項17】
部分分散比(P
g,F)が、0.550
以上0.570
以下である、
請求項1~16のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項18】
ΔP
g,Fが、0.005
以上0.015
以下である、
請求項1~17のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項19】
比重(S
g)が、3.90
以上4.20
以下である
請求項1~18のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項20】
ガラス転移温度(T
g)が、650℃以下である、
請求項1~19のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の光学ガラスを用いた光学素子。
【請求項22】
請求項21に記載の光学素子を含む光学系。
【請求項23】
請求項22に記載の光学系を備える交換レンズ。
【請求項24】
請求項22に記載の光学系を備える光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、光学素子、光学系、交換レンズ及び光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラの開発が行われる中で、デジタルカメラに用いられる光学系には、例えば、特許文献1に開示されている高屈折率低分散な光学ガラスが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本発明の第一の態様は、カチオンのモル%で、P5+含有率:30%以上45%以下、Al3+含有率:10%以上20%以下、Ba2+含有率:20%以上40%以下であり、Li+、Ti4+のいずれか一種を少なくとも含み、アニオンのモル%で、O2-
含有率:75%以上95%以下、F-
含有率:5%以上14.94%以下である、光学ガラスである。
【0005】
本発明の第二の態様は、上述した光学ガラスを用いた光学素子である。
【0006】
本発明の第三の態様は、上述した光学素子を含む光学系である。
【0007】
本発明の第四の態様は、上述した光学系を備える交換レンズである。
【0008】
本発明の第五の態様は、上述した光学系を備える光学装置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の他の例の正面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える多光子顕微鏡の構成の例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、各実施例及び各比較例のアッベ数(ν
d)及び部分分散比(P
g,F)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0011】
本実施形態に係る光学ガラスは、カチオン%で、P5+成分:30~45%、Al3+成分:10~20%、Ba2+成分:20~40%、であり、アニオン%で、O2-成分:75~95%、F-成分:5~25%、である光学ガラスである。
【0012】
本明細書において、特に断りがない限り、各成分の含有比率は、モル比をベースにしたカチオン%又はアニオン%であるものとする。
【0013】
本実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率、低分散及び高い異常分散性を有する。そして、本実施形態に係る光学ガラスは、高価な成分を含まなくとも優れた性質を付与できるため、低コストで生産できる。また、本実施形態に係る光学ガラスは、優れた光学恒数を有するだけでなく、ガラス内部の脈理の発生を抑制でき、高い耐失透性も有する。
【0014】
さらに、本実施形態の好適な態様の一つとして、高屈折率を維持しつつ、高い正の異常分散性を有する光学ガラスとすることが可能である。例えば、正の異常分散性を有する従来の光学ガラスは、屈折率を高くすることができず、凸レンズ等に使用した際のパワー(屈折力)と色収差の補正能力との両立が困難であるという問題がある。本実施形態に係る光学ガラスは、このような問題を解決できるものであり、幅広い用途への応用も可能であり、実用レベルでのニーズに十分に応え得るものである。
【0015】
光学ガラスのアッベ数が大きく(低分散に)なると屈折率が小さくなるのが一般的であるが、上述した状況に鑑みて、本実施形態における「高屈折率(高い屈折率)」とは、同等のアッベ数を有する一般的な光学ガラスに比べて、相対的に屈折率が高いことも包含するものであり、必ずしも屈折率の絶対値が大きいことのみを意味するわけではない。
【0016】
(カチオン成分)
【0017】
P5+は、ガラス骨格を形成し、耐失透性を高める成分である。P5+の含有量が少なすぎると耐失透性が低下する傾向にあり、P5+の含有量が多すぎると屈折率が低下する傾向にある。このような観点から、P5+の含有量は、30~45%である。そして、この上限は、好ましくは41%であり、より好ましくは40%である。この下限は、好ましくは37%であり、より好ましくは39%である。
【0018】
なお、B3+もガラス骨格を形成する成分として一般に使用されるものであるが、本実施形態に係る光学ガラスでは、B3+がF-と反応してBF3等の揮発性物質を生成するため、光学ガラスの品質低下を招く場合がある。このような観点から、本実施形態に係る光学ガラスにおいては、B3+の含有量を低減することが好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0019】
本明細書中において「実質的に含有しない」とは、当該成分が、不純物として不可避的に含有される濃度を越えて、ガラス組成物の特性に影響する構成成分として含有されないことを意味する。例えば、100ppm程度の含有量であれば、実質的に含有しないものとみなす。
【0020】
Al3+は、耐失透性を高め、低分散とする成分である。Al3+の含有量が少なすぎると低分散性が損なわれる傾向にあり、Al3+の含有量が多すぎると後述するΔPg,F値が低下する傾向にある。このような観点から、Al3+の含有量は、10~20%である。そして、この上限は、好ましくは18%であり、より好ましくは16%である。この下限は、好ましくは12%であり、より好ましくは14%である。
【0021】
Ba2+は、ΔPg,F値を維持しつつ屈折率を高める成分である。Ba2+の含有量が少なすぎると屈折率が低下する傾向にあり、Ba2+の含有量が多すぎると耐失透性が低下する傾向にある。このような観点から、Ba2+の含有量は、20~40%である。そして、この上限は、好ましくは36%であり、より好ましくは32%である。この下限は、好ましくは24%であり、より好ましくは28%である。
【0022】
本実施形態における光学ガラスは、必要に応じて、以下の各成分を更に含有してもよい。
【0023】
Li+は、ΔPg,F値と屈折率を高め、ガラスの熔融性も向上させる成分である。しかし、Li+の含有量が多すぎると耐失透性が低下する傾向にある。このような観点から、Li+の含有量は、好ましくは0~6%である。そして、この上限は、より好ましくは4%であり、更に好ましくは3%である。この下限は、より好ましくは1%であり、更に好ましくは2%である。
【0024】
Na+及びK+は、ガラスの熔融性を高めることができる成分として使用され得るが、屈折率を大きく低下させる場合がある。このような観点から、本実施形態に係る光学ガラスでは、Na+、K+を実質的に含有しないことが好ましい。もちろん、ガラスの熔融性を特に高めたい場合には、これらを含有してもよい。
【0025】
Mg2+は、ΔPg,F値を維持しつつ屈折率を高める成分である。しかし、Mg2+の含有量が多すぎると耐失透性が低下する傾向にある。このような観点から、Mg2+の含有量は、好ましくは0~15%である。そして、この上限は、より好ましくは12%であり、更に好ましくは8%である。この下限は、より好ましくは3%であり、更に好ましくは4%である。
【0026】
Ca2+は、ΔPg,F値を維持しつつ屈折率を高める成分である。しかし、Ca2+の含有量が多すぎると耐失透性が低下する傾向にある。このような観点から、Ca2+の含有量は、好ましくは0~20%である。そして、この上限は、より好ましくは10%であり、更に好ましくは6%である。この下限は、より好ましくは2%であり、更に好ましくは3%である。
【0027】
Sr2+は、ΔPg,F値を維持しつつ屈折率を高める成分である。しかし、Sr2+の含有量が多すぎると耐失透性が低下する傾向にある。このような観点から、Sr2+の含有量は、好ましくは0~20%である。そして、この上限は、より好ましくは10%であり、更に好ましくは6%である。この下限は、より好ましくは2%であり、更に好ましくは3%である。
【0028】
Zn2+は、屈折率を高めるとともにガラスの熔融性も高める成分である。しかし、Zn2+の含有量が多すぎると低分散性が損なわれる傾向にある。このような観点から、Zn2+の含有量は、好ましくは0~15%である。そして、この上限は、より好ましくは8%であり、更に好ましくは4%である。この下限は、より好ましくは1%であり、更に好ましくは2%である。
【0029】
Y3+は、屈折率を高める成分である。しかし、Y3+の含有量が多すぎると耐失透性が低下する傾向にある。このような観点から、Y3+の含有量は、好ましくは0~6%である。そして、この上限は、より好ましくは4%であり、更に好ましくは2%である。この下限は、より好ましくは0.5%であり、更に好ましくは1%である。
【0030】
La3+は、屈折率を高める成分である。しかし、La3+の含有量が多すぎると耐失透性が低下する傾向にある。このような観点から、La3+の含有量は、好ましくは0~6%である。そして、この上限は、より好ましくは4%であり、更に好ましくは2%である。この下限は、より好ましくは0.5%であり、更に好ましくは1%である。
【0031】
Gd3+は、屈折率を高める成分である。しかし、Gd3+の含有量が多すぎると耐失透性が低下する傾向にある。このような観点から、Gd3+の含有量は、好ましくは0~6%である。そして、この上限は、より好ましくは4%であり、更に好ましくは2%である。この下限は、より好ましくは0.5%であり、更に好ましくは1%である。
【0032】
Ti4+は、ΔPg,F値を維持しつつ屈折率を高める成分である。しかし、Ti4+の含有量が多すぎると低分散性が損なわれる傾向にある。このような観点から、Ti4+の含有量は、好ましくは0~6%である。そして、この上限は、より好ましくは4.5%であり、更に好ましくは3%である。この下限は、より好ましくは0.5%であり、更に好ましくは1%である。
【0033】
Zr4+は、ΔPg,F値を維持しつつ屈折率を高める成分である。しかし、Zr4+の含有量が多すぎると低分散性が損なわれる傾向にある。このような観点から、Zr4+の含有量は、好ましくは0~3%である。そして、この上限は、より好ましくは2%であり、更に好ましくは1%である。この下限は、より好ましくは0.5%である。
【0034】
Nb5+は、ΔPg,F値を維持しつつ屈折率を高める成分である。しかし、Nb5+の含有量が多すぎると低分散性が損なわれる傾向にある。このような観点から、Nb5+の含有量は、好ましくは0~8%である。そして、この上限は、より好ましくは6%であり、更に好ましくは4%である。この下限は、より好ましくは1%であり、更に好ましくは2%である。
【0035】
Ta5+は、ΔPg,F値を維持しつつ屈折率を高める成分である。しかし、Ta5+の含有量が多すぎると低分散性が損なわれる傾向にある。このような観点から、Ta5+の含有量は、好ましくは0~4%である。そして、この上限は、より好ましくは3%であり、更に好ましくは2%である。この下限は、より好ましくは0.5%であり、更に好ましくは1%である。
【0036】
とはいえ、Ta5+は高価な原料であるため、その含有量は低減させることが望まれている。よって、コストを低減することを優先する場合には、本実施形態に係る光学ガラスは、Ta5+を実質的に含有しないことが好ましい。このように、本実施形態に係る光学ガラスは、高価な原料であるTa5+を含有しなくとも優れた物性を発現できるため、コストの面でも優れている。
【0037】
その他にも、本実施形態に係る光学ガラスは、コストの観点から、Ge4+、Te4+を実質的に含有しないことが好ましい。
【0038】
W6+は、ΔPg,F値を維持しつつ屈折率を高める成分である。しかし、W6+の含有量が多すぎると低分散性が損なわれる傾向にある。このような観点から、W6+の含有量は、好ましくは0~6%である。そして、この上限は、より好ましくは4%であり、更に好ましくは2%である。この下限は、より好ましくは0.5%であり、更に好ましくは1%である。
【0039】
Sb3+は、脱泡効果を付与する成分である。Sb3+の含有量は、好ましくは0~1%である。この上限は、より好ましくは0.5%であり、更に好ましくは0.2%である。この下限は、より好ましくは0.1%である。
【0040】
本実施形態に係る光学ガラスの物性を一層向上させる観点から、Li+成分、Mg2+成分、Ca2+成分、Sr2+成分、Zn2+成分、Y3+成分、La3+成分、Gd3+成分、Ti4+成分、Zr4+成分、Nb5+成分、Ta5+成分、及びW6+成分からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0041】
そして、上述した任意成分の好適な組み合わせとしては、Li+成分:0~6%、Mg2+成分:0~15%、Ca2+成分:0~20%、Sr2+成分:0~20%、Zn2+成分:0~15%、Y3+成分:0~6%、La3+成分:0~6%、Gd3+成分:0~6%、Ti4+成分:0~6%、Zr4+成分:0~3%、Nb5+成分:0~8%、Ta5+成分:0~4%、W6+成分:0~6%、である。このような成分を併用することで、光学ガラスの物性を一層向上させることができる。
【0042】
さらに、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、以下の条件を更に満たすことが好ましい。
【0043】
耐失透性を高め、高屈折率とする観点から、P5+成分+Al3+成分が、40~65%であることが好ましい。そして、この上限は、より好ましくは58%であり、更に好ましくは55%である。この下限は、より好ましくは45%であり、更に好ましくは53%である。
【0044】
耐失透性を高め、高屈折率とする観点から、Mg2+成分+Ca2+成分+Sr2+成分+Ba2+成分+Zn2+成分(ΣAE2+)が、35~50%であることが好ましい。そして、この上限は、より好ましくは44%であり、更に好ましくは41%である。この下限は、より好ましくは36%であり、更に好ましくは39%である。
【0045】
耐失透性を高め、高屈折率とする観点から、Y3+成分+La3+成分+Gd3+成分(ΣRE3+)が、0~6%であることが好ましい。そして、この上限は、より好ましくは5%であり、更に好ましくは3%である。この下限は、より好ましくは0.5%であり、更に好ましくは1%である。
【0046】
耐失透性を高め、高屈折率及び高いΔPg,F値とする観点から、Ti4+成分+Zr4+成分+Nb5+成分+Ta5+成分+W6+成分(ΣTMn+)が、0超~10%以下であることが好ましい。そして、この上限は、より好ましくは5%以下であり、更に好ましくは4%以下である。この下限は、より好ましくは0.5%以上であり、更に好ましくは1%以上である。
【0047】
耐失透性を高め、高アッベ数及び高いΔPg,F値とする観点から、Al3+成分に対するP5+成分の割合(P5+/Al3+)が、1.5~4.5であることが好ましい。そして、この上限は、より好ましくは4であり、更に好ましくは3である。この下限は、より好ましくは2であり、更に好ましくは2.5である。
【0048】
耐失透性を高め、高屈折率及び高いΔPg,F値とする観点から、Mg2+成分+Ca2+成分+Sr2+成分に対する、Ba2+成分+Zn2+成分の割合((Ba2++Zn2+)/(Mg2++Ca2++Sr2+))が、0.5~10であることが好ましい。そして、この上限は、より好ましくは5であり、更に好ましくは3である。この下限は、より好ましくは1であり、更に好ましくは2である。
【0049】
耐失透性を維持しつつ、高屈折率及び高いΔPg,F値を得る観点から、P5+成分+Al3+成分に対する、Li+成分+Mg2+成分+Ca2+成分+Sr2+成分+Ba2+成分+Zn2+成分+Y3+成分+La3+成分+Gd3+成分+Ti4+成分+Zr4+成分+Nb5+成分+Ta5+成分+W6+成分+の割合((Li++ΣAE2++ΣRE3++ΣTMn+)/(P5++Al3+))が、0.7~1.3であることが好ましい。そして、この上限は、より好ましくは1.1であり、更に好ましくは0.9である。この下限は、より好ましくは0.75であり、更に好ましくは0.8である。
【0050】
高屈折率及び高いΔPg,F値とする観点から、原子%(at%)表示における、F-成分に対する、Ti4+成分+Zr4+成分+Nb5+成分+Ta5+成分+W6+成分(ΣTMn+)の割合((ΣTMn+)/F-)が、0.05~0.35であることが好ましい。そして、この上限は、より好ましくは0.2であり、更に好ましくは0.12である。この下限は、より好ましくは0.06であり、更に好ましくは0.08である。
【0051】
(アニオン成分)
【0052】
O-の含有量は、75~95%である。そして、この上限は、好ましくは90%であり、より好ましくは86%である。この下限は、好ましくは82%であり、より好ましくは84%である。
【0053】
F-は、ΔPg,F値やアッベ数を高める成分である。F-の含有量が少なすぎるとΔPg,F値が低下し、低分散性が損なわれる傾向にあり、F-の含有量が多すぎると屈折率が低下する傾向にある。このような観点から、F-の含有量は、5~25%である。そして、この上限は、好ましくは18%であり、より好ましくは16%である。この下限は、好ましくは10%であり、より好ましくは14%である。
【0054】
なお、本実施形態に係る光学ガラスは、上述した成分以外のアニオン成分を含有してもよいが、フッ化系ガラスとして使用する場合は、O-とF-のみを含有するものであってもよい。
【0055】
ただし、ここでいうO-とF-のみ含有する場合とは、O-とF-以外のアニオン成分が、不純物として不可避的に含有される濃度を越えて、ガラス組成物の特性に影響する構成成分として含有されないことを意味する。例えば、O-とF-以外のアニオン成分が100ppm程度の含有量で混入するものであれば、かかるアニオン成分は実質的に含有しないものとみなす。
【0056】
さらに、その他必要に応じて清澄、着色、消色や光学恒数値の微調整等の目的で、公知の清澄剤や着色剤、脱泡剤、酸化物等の成分をガラス組成に適量添加することができる。また、上述した成分に限らず、本実施形態の光学ガラスの効果が得られる範囲でその他の成分を添加することもできる。
【0057】
次に、本実施形態の光学ガラスの物性値について説明する。
【0058】
レンズの薄型化の観点から、本実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率を有している(屈折率(nd)が大きい)ことが望ましい。しかしながら、一般的に、屈折率が高いほどアッベ数が低下する傾向にあることから、本実施形態に係る光学ガラスの屈折率(nd)は、1.60~1.70の範囲とすることが好ましい。そして、屈折率、アッベ数及びΔPg,F値がトレードオフの関係に陥りやすい傾向にあることから、屈折率の上限は、より好ましくは1.67であり、更に好ましくは1.64である。この下限は、より好ましくは1.61であり、更に好ましくは1.62である。
【0059】
レンズの収差補正の観点からは、本実施形態に係る光学ガラスは、低分散である(アッベ数(νd)が大きい)ことが望ましい。しかしながら、一般的に、アッベ数が大きいほど屈折率が低下する傾向にあることから、本実施形態に係る光学ガラスのアッベ数(νd)は、40~65の範囲であることが好ましい。そして、屈折率、アッベ数及びΔPg,F値がトレードオフの関係に陥りやすい傾向にあることから、この上限は、より好ましくは63であり、更に好ましくは61である。この下限は、より好ましくは50であり、更に好ましくは58である。
【0060】
本実施形態に係る光学ガラスは、部分分散比(Pg,F)が、0.550~0.570であることが好ましい。そして、この上限は、より好ましくは0.562であり、更に好ましくは0.558である。この下限は、より好ましくは0.552であり、更に好ましくは0.554である。
【0061】
本実施形態に係る光学ガラスは、ΔPg,F値が、0.005~0.015であることが好ましい。そして、屈折率、アッベ数及びΔPg,F値がトレードオフの関係に陥りやすい傾向にあることから、この上限は、より好ましくは0.013であり、更に好ましくは0.011である。この下限は、より好ましくは0.007であり、更に好ましくは0.009である。このΔPg,F値は、異常分散性の指標となる。
【0062】
本実施形態に係る光学ガラスは、比重(Sg)が、3.90~4.20であることが好ましい。この上限は、より好ましくは4.15であり、更に好ましくは4.10である。この下限は、より好ましくは3.95であり、更に好ましくは4.00である。
【0063】
本実施形態に係る光学ガラスは、ガラス転移温度(Tg)が、650℃以下であることが好ましい。この上限は、より好ましくは620℃であり、更に好ましくは600℃である。このガラス転移温度とすることで、モールド成形性を良好にすることができる。
【0064】
本実施形態に係る光学ガラスの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。また、製造条件は、適宜好適な条件を選択することができる。好適例の一つとしては、上述した各原料に対応する酸化物、水酸化物、リン酸化合物(リン酸塩、正リン酸等)、炭酸塩、硫酸塩、フッ化物、及び硝酸塩等から選ばれる1種をガラス原料として選択し、これを混合し、1100~1400℃の温度で熔融させて攪拌均一化する工程を行い、その後、冷却して、成形する工程を含む方法が挙げられる。
【0065】
より具体的には、酸化物、水酸化物、リン酸化合物(リン酸塩、正リン酸等)、炭酸塩、硫酸塩、フッ化物、及び硝酸塩等の原料を目標組成となるように調合し、好ましくは1100~1400℃、より好ましくは1100~1300℃、更に好ましくは1100~1250℃にて熔融し、撹拌することで均一化し、泡切れを行った後、金型に流し成形する製造方法を採用できる。このようにして得られた光学ガラスは、必要に応じてリヒートプレス等を行って所望の形状に加工し、研磨等を施すことで、所望の光学ガラスや光学素子を得ることができる。
【0066】
これまで説明してきたように、本実施形態に係る光学ガラスは、高屈折率、低分散、及び高い異常分散性を有すること等から、カメラや顕微鏡等の光学装置を備えるレンズ等の光学素子として好適である。このような光学素子には、ミラー、レンズ、プリズム、フィルタ等が含まれる。これら光学素子を含む光学系としては、例えば、対物レンズ、集光レンズ、結像レンズ、交換レンズ等が挙げられ、より好適にはカメラ用交換レンズ等として使用できる。そして、これらの光学系は、レンズ交換式カメラ、レンズ非交換式カメラ等の撮像装置、多光子顕微鏡等の顕微鏡に用いることができる。なお、光学装置としては、上述した撮像装置や顕微鏡に限られず、ビデオカメラ、テレコンバーター、望遠鏡、双眼鏡、単眼鏡、レーザ距離計、プロジェクタ等も含まれる。本実施形態に係る光学ガラスをこのような用途に使用した際、色収差の低減と凸レンズとしてのパワーを稼ぐことができる。以下にこれらの一例を説明する。
【0067】
<撮像装置>
図1は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の斜視図である。
【0068】
撮像装置1はいわゆるデジタル一眼レフカメラ(レンズ交換式カメラ)であり、撮影レンズ103(光学系)は本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。カメラボディ101のレンズマウント(不図示)にレンズ鏡筒102が着脱自在に取り付けられる。そして、当該レンズ鏡筒102のレンズ103を通した光がカメラボディ101の背面側に配置されたマルチチップモジュール106のセンサチップ(固体撮像素子)104上に結像される。このセンサチップ104は、いわゆるCMOSイメージセンサー等のベアチップであり、マルチチップモジュール106は、例えばセンサチップ104がガラス基板105上にベアチップ実装されたCOG(Chip On Glass)タイプのモジュールである。
【0069】
図2は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える撮像装置の他の例の正面図であり、
図3は、
図2の撮像装置の背面図である。
【0070】
この撮像装置CAMはいわゆるデジタルスチルカメラ(レンズ非交換式カメラ)であり、撮影レンズWL(光学系)は本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。
【0071】
撮像装置CAMは、不図示の電源ボタンを押すと、撮影レンズWLのシャッタ(不図示)が開放されて、撮影レンズWLで被写体(物体)からの光が集光され、像面に配置された撮像素子に結像される。撮像素子に結像された被写体像は、撮像装置CAMの背後に配置された液晶モニタLMに表示される。撮影者は、液晶モニタLMを見ながら被写体像の構図を決めた後、レリーズボタンB1を押し下げて被写体像を撮像素子で撮像し、メモリ(不図示)に記録保存する。
【0072】
撮像装置CAMには、被写体が暗い場合に補助光を発光する補助光発光部EF、撮像装置CAMの種々の条件設定等に使用するファンクションボタンB2等が配置されている。
【0073】
このようなデジタルカメラ等に用いられる光学系には、より高い解像度、軽量化、小型化が求められる。これらを実現するには光学系に高屈折率なガラスを用いることが有効である。特に、高屈折率でありながらより低い比重(Sg)を有し、高いプレス成形性を有するガラスの需要は高い。かかる観点から、本実施形態に係る光学ガラスは、かかる光学機器の部材として好適である。なお、本実施形態において適用可能な光学機器としては、上述した撮像装置に限らず、例えばプロジェクタ等も挙げられる。光学素子についても、レンズに限らず、例えば、プリズム等も挙げられる。
【0074】
<多光子顕微鏡>
図4は、本実施形態に係る光学ガラスを用いた光学素子を備える多光子顕微鏡2の構成の例を示すブロック図である。
【0075】
多光子顕微鏡2は、対物レンズ206、集光レンズ208、結像レンズ210を備える。対物レンズ206、集光レンズ208、結像レンズ210のうち少なくとも1つは、本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。以下、多光子顕微鏡2の光学系を中心に説明する。
【0076】
パルスレーザ装置201は、例えば、近赤外波長(約1000nm)であって、パルス幅がフェムト秒単位の(例えば、100フェムト秒の)超短パルス光を射出する。パルスレーザ装置201から射出された直後の超短パルス光は、一般に所定の方向に偏光された直線偏光となっている。
【0077】
パルス分割装置202は、超短パルス光を分割し、超短パルス光の繰り返し周波数を高くして射出する。
【0078】
ビーム調整部203は、パルス分割装置202から入射される超短パルス光のビーム径を、対物レンズ206の瞳径に合わせて調整する機能、試料Sから発せられる多光子励起光の波長と超短パルス光の波長との軸上の色収差(ピント差)を補正するために超短パルス光の集光及び発散角度を調整する機能、超短パルス光のパルス幅が光学系を通過する間に群速度分散により広がってしまうのを補正するために、逆の群速度分散を超短パルス光に与えるプリチャープ機能(群速度分散補償機能)等を有する。
【0079】
パルスレーザ装置201から射出された超短パルス光は、パルス分割装置202によりその繰り返し周波数が大きくされ、ビーム調整部203により上述した調整が行われる。そして、ビーム調整部203から射出された超短パルス光は、ダイクロイックミラー204によりダイクロイックミラー205の方向に反射され、ダイクロイックミラー205を通過し、対物レンズ206により集光されて試料Sに照射される。このとき、走査手段(不図示)を用いることにより、超短パルス光を試料Sの観察面上に走査させてもよい。
【0080】
例えば、試料Sを蛍光観察する場合には、試料Sの超短パルス光の被照射領域及びその近傍では、試料Sが染色されている蛍光色素が多光子励起され、赤外波長である超短パルス光より波長が短い蛍光(以下、「観察光」という。)が発せられる。
【0081】
試料Sから対物レンズ206の方向に発せられた観察光は、対物レンズ206によりコリメートされ、その波長に応じて、ダイクロイックミラー205により反射されたり、あるいは、ダイクロイックミラー205を透過したりする。
【0082】
ダイクロイックミラー205により反射された観察光は、蛍光検出部207に入射する。蛍光検出部207は、例えば、バリアフィルタ、PMT(photo multiplier tube:光電子増倍管)等により構成され、ダイクロイックミラー205により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部207は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0083】
一方、ダイクロイックミラー205を透過した観察光は、走査手段(不図示)によりデスキャンされ、ダイクロイックミラー204を透過し、集光レンズ208により集光され、対物レンズ206の焦点位置とほぼ共役な位置に設けられているピンホール209を通過し、結像レンズ210を透過して、蛍光検出部211に入射する。
【0084】
蛍光検出部211は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、結像レンズ210により蛍光検出部211の受光面において結像した観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部211は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0085】
なお、ダイクロイックミラー205を光路から外すことにより、試料Sから対物レンズ206の方向に発せられた全ての観察光を蛍光検出部211で検出するようにしてもよい。
【0086】
また、試料Sから対物レンズ206と逆の方向に発せられた観察光は、ダイクロイックミラー212により反射され、蛍光検出部213に入射する。蛍光検出部213は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、ダイクロイックミラー212により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部213は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0087】
蛍光検出部207、211、213からそれぞれ出力された電気信号は、例えば、コンピュータ(不図示)に入力され、そのコンピュータは、入力された電気信号に基づいて、観察画像を生成し、生成した観察画像を表示したり、観察画像のデータを記憶したりすることができる。
【実施例】
【0088】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下のように光学ガラスを作製し、その物性を評価した。
【0089】
<光学ガラスの作製>
各実施例及び各比較例に係る光学ガラスは、以下の手順で作製した。まず、各表に記載の組成となるよう、酸化物、水酸化物、リン酸化合物(リン酸塩、正リン酸等)、炭酸塩、硫酸塩、フッ化物、及び硝酸塩等から選ばれるガラス原料を秤量した。次に、秤量した原料を混合して白金坩堝に投入し、1100~1300℃の温度で70分程度熔融させて攪拌均一化した。泡切れを行った後、適当な温度に下げてから金型に鋳込んで徐冷し、成形することで各サンプルを得た。
【0090】
<屈折率(nd)とアッベ数(νd)>
各サンプルの屈折率は、日本工業規格JIS B 7071-1:2015「光学ガラスの屈折率測定方法」に準拠して測定した。を用いて測定及び算出した。屈折率(nd)は、d線(波長587.562nm)の光に対するガラスの屈折率を示す。アッベ数(νd)は、以下の式(1)より求めた。nC、nFは、それぞれC線(波長656.273nm)、F線(波長486.133nm)に対するガラスの屈折率を示す。
【0091】
νd=(nd-1)/(nF-nC) ・・・(1)
【0092】
<部分分散比(Pg,F)>
各サンプルの部分分散比(Pg,F)は、主分散(nF-nC)に対する部分分散(ng-nF)の比を示し、以下の式(2)より求めた。ngは、g線(波長435.835nm)に対するガラスの屈折率を示す。
【0093】
Pg,F=(ng-nF)/(nF-nC) ・・・(2)
【0094】
<異常分散性を示す値(ΔPg,F)>
各サンプルの異常分散性を示す値(ΔPg,F)を以下に示す方法に準拠して求めた。
【0095】
(1)基準線の作成
まず、正常部分分散ガラスとして、以下に示すアッベ数(νd)と部分分散比(Pg,F)を有する2つのガラス「F2」及び「K7」を基準材として用いた。そして、各ガラスについて、横軸にアッベ数(νd)をとり、縦軸に部分分散比(Pg,F)をとり、2つの基準材に対応する2点を結ぶ直線を基準線とした。
【0096】
ガラス「F2」の特性:νd=36.33、Pg,F=0.5834
ガラス「K7」の特性:νd=60.47、Pg,F=0.5429
基準線:Pg,F+0.00161783×νd-0.64146248
【0097】
(2)ΔP
g,Fの算出
次に、横軸をアッベ数(ν
d)、縦軸を部分分散比(P
g,F)としたグラフ上に各ガラスに対応する値をプロットし、上述した硝種のアッベ数(ν
d)に対応する基準線上の点と、その縦軸の値(P
g,F)との差分を、異常分散性を示す値(ΔP
g,F)として算出した。
図5は、各実施例及び各比較例のアッベ数(ν
d)及び部分分散比(P
g,F)をプロットしたグラフを示す。なお、部分分散比(P
g,F)が基準線の上側にある場合、ΔP
g,Fは正の値を有し、部分分散比(P
g,F)が基準線の下側にある場合、ΔP
g,Fは負の値を有する。
【0098】
<比重(Sg)>
各サンプルの比重(Sg)は、日本工学硝子工業会規格JOGIS J05-1975「光学ガラスの比重の測定方法」に準拠して求めた。
【0099】
<ガラス転移温度(Tg)>
各サンプルのガラス転移温度(Tg)は、示差熱分析(ガラス粉末をPtセルに入れ、大気中での昇温速度10℃/分)で測定して得られたDTA曲線から算出した。
【0100】
<耐失透性試験>
各サンプルを1050~1100℃で30分間熔融し(フタ無し)、そのまま100℃/時間でガラス転移温度(Tg)以下まで降温させた。このときの失透の有無を、以下の基準に基づき目視により評価した。
【0101】
A:表面にごく薄い結晶層のみで、内部への結晶析出が全く見られない状態であった。
【0102】
B:表面や内部の一部に結晶析出が認められる状態であった。
【0103】
C:サンプル全体が失透している状態、又は表面失透により内部観察が困難な状態であった。
【0104】
各実施例及び各比較例の組成と評価結果を、表1~11に示す。なお、表中の「ΣTMn+/F-」については、上述したように、原子%(at%)基準で、F-成分に対する、Ti4+成分+Zr4+成分+Nb5+成分+Ta5+成分+W6+成分(ΣTMn+)の割合を示すものである。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
本実施例の光学ガラスは、高屈折率、低分散及び高い異常分散性を有することが確認された。また、耐失透性に優れており、ガラス製造時、特に熔融成形時の脈理の抑制に極めて有用であることも確認された。
【0117】
また、ガラス転移温度(Tg)が高い場合は、ガラスの固化が早い傾向にあるところ、ガラス転移温度(Tg)が高いことは脈理の抑制に有用である。その一方、ガラス転移温度(Tg)が低いことは、熱による金型へのダメージが少ないモールド用硝材としても好適に使用できるという利点があるので、本実施例の光学ガラスにおいてこのようなニーズがある場合には、Li+の導入によってガラス転移温度(Tg)を低温側にシフトさせるべく調整することも期待される。
【符号の説明】
【0118】
1…撮像装置、101…カメラボディ、102…レンズ鏡筒、103…レンズ、104…センサチップ、105…ガラス基板、106…マルチチップモジュール、2…多光子顕微鏡、201…パルスレーザ装置、202…パルス分割装置、203…ビーム調整部、204,205,212…ダイクロイックミラー、206…対物レンズ、207,211,213…蛍光検出部、208…集光レンズ、209…ピンホール、210…結像レンズ、S…試料、CAM…撮像装置、WL…撮影レンズ、EF…補助光発光部、LM…液晶モニタ、B1…レリーズボタン、B2…ファンクションボタン