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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】電極板乾燥装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20231205BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231205BHJP
   F26B 13/10 20060101ALI20231205BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20231205BHJP
   B05B 1/04 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
F26B13/10 D
B05C9/14
B05B1/04
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020096701
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021190368
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 隆彦
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/049692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01M 4/139
F26B 13/10
B05C 9/14
B05B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の集電箔上に未乾燥活物質層が形成された未乾燥電極板を、上記未乾燥電極板の長手方向に搬送しつつ、上記未乾燥活物質層を加熱乾燥させる
電極板乾燥装置であって、
上記未乾燥電極板よりも、上記未乾燥電極板の厚み方向のうち上記集電箔から上記未乾燥活物質層に向かう第1厚み方向にそれぞれ位置し、上記未乾燥電極板の搬送方向に互いに間隙を空けて配置された複数の熱風吹出部を備え、
上記熱風吹出部は、
上記厚み方向のうち上記第1厚み方向とは逆の第2厚み方向でかつ上記搬送方向の上流側である斜め上流側に向け、上記未乾燥電極板の幅方向に拡がった帯状の帯状熱風を吹き出すノズル部を有し、
上記ノズル部は、
上記搬送方向の下流側ほど上記第1厚み方向に位置する第1案内面を構成する第1熱風案内部と、
上記第1案内面よりも上記第2厚み方向に位置して、上記第1案内面に平行に対向する第2案内面を構成する第2熱風案内部と、を有し、
上記第1案内面と上記第2案内面との間を通じて、上記第1案内面の上記上流側の端縁である第1上流側端縁と上記第2案内面の上記上流側の端縁である第2上流側端縁との間から、上記斜め上流側に上記帯状熱風を吹き出す構成とされており、
上記第1案内面及び上記第2案内面と上記未乾燥活物質層とがなす角αは、上記ノズル部の上記上流側に、上記帯状熱風の上記第1厚み方向への拡散を防止する拡散防止部を設けなくとも、吹き出された上記帯状熱風が、上記第1上流側端縁から上記未乾燥活物質層までの間隙Gの15倍以上の距離LSにわたって、上記未乾燥活物質層に沿って上記上流側に進む角度とされており、
前記角αは、5~45°であり、
前記間隙Gは、3~10mmであり、
前記ノズル部から吹き出される前記帯状熱風の初流速Vsは、40~80m/sである
電極板乾燥装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状の集電箔上に未乾燥活物質層が形成された未乾燥電極板を、その長手方向に搬送しつつ、未乾燥活物質層を熱風で加熱乾燥させる電極板乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電池やキャパシタの正極板或いは負極板に用いられる電極板として、帯状の集電箔上に、集電箔の長手方向に延びる帯状の活物質層が形成された帯状電極板が知られている。このような帯状電極板は、例えば以下の手法により製造する。即ち、活物質粒子等を分散媒に分散させた活物質ペーストを用意し、この活物質ペーストを集電箔上に塗布して、集電箔上に帯状の未乾燥活物質層を有する帯状の未乾燥電極板を形成する。その後、この未乾燥電極板を電極板乾燥装置内に搬送し、電極板乾燥装置内で未乾燥電極板を長手方向に搬送しつつ、熱風を未乾燥活物質層に吹き付けて、未乾燥活物質層を加熱乾燥させて活物質層を形成する。このような電極板乾燥装置に関連する従来技術として、例えば特許文献1が挙げられる。
【0003】
特許文献1に開示された電極板乾燥装置900は、その内部に複数の熱風吹出部930を備える(図9参照)。これらの熱風吹出部930は、未乾燥電極板1Aよりも、未乾燥電極板1Aの厚み方向GHのうち集電箔3から未乾燥活物質層5xに向かう第1厚み方向GH1(図9中、上方)にそれぞれ位置し、搬送方向CH(長手方向EH)に互いに所定間隙を空けて並べて配置されている。各熱風吹出部930は、熱風HAbを一時的に滞留させる滞留空間をなす滞留本体部931と、この滞留本体部931内の熱風HAbを、帯状熱風HAとして斜め上流側IH(厚み方向GHのうち第1厚み方向GH1とは逆の第2厚み方向GH2でかつ搬送方向CHの上流側CH1,図9中、左下方向)に向けて吹き出させるノズル部933とを有する。
【0004】
このうち滞留本体部931は、直方体箱状であり、第1厚み方向GH1に位置する第1壁部931a、第2厚み方向GH2に位置する第2壁部931b、搬送方向CHの上流側CH1に位置する上流側壁部931c、搬送方向CHの下流側CH2に位置する下流側壁部931d、図9中、紙面の手前側に位置する幅側壁部(不図示)、及び、図9中、紙面の奥側に位置する幅側壁部931fを有する。
一方、ノズル部933は、第2壁部931bの下流側CH2で、下流側壁部931dの第2厚み方向GH2に設けられている。このノズル部933は、未乾燥電極板1Aの幅方向FH(図9中、紙面に直交する方向)に延びる形態を有しており、幅方向FHに拡がった帯状の帯状熱風HAを斜め上流側IHに吹き出させる。
【0005】
このような熱風吹出部930では、ノズル部933の上流側CH1に滞留本体部931の第2壁部931bが存在するため、ノズル部933から吹き出された帯状熱風HAは、この第2壁部931bによって第1厚み方向GH1への拡散が防止される。即ち、滞留本体部931の第2壁部931bは、吹き出された帯状熱風HAの第1厚み方向GH1への拡散を防止する「拡散防止部」として機能する。そして、この第2壁部(拡散防止部)931bと未乾燥電極板1Aの未乾燥活物質層5xとの間隙を通った帯状熱風HAは、更に未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に進む。このように、帯状熱風HAを未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に流すことで、未乾燥活物質層5xを効率良く乾燥させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-068394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の熱風吹出部930は、ノズル部933の上流側CH1に第2壁部(拡散防止部)931bを有しているため、熱風吹出部930全体の搬送方向CHの寸法Lbが大きい。このため、複数の熱風吹出部930を搬送方法CHに並べて配置するのにあたり、熱風吹出部930の配置の自由度が低い。即ち、未乾燥活物質層5xに繰り返し帯状熱風HAを当てて早く乾燥させるべく、複数の熱風吹出部930を搬送方向CHに並べると、熱風吹出部930同士の間隔を広くせざるを得ず、電極板乾燥装置900の搬送方向の寸法が長大化するなどの問題が生じる。
【0008】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、複数の熱風吹出部を搬送方向に並べて配置しながらも、搬送方向の寸法を小さくできるなど、熱風吹出部の配置の自由度を高くできる電極板乾燥装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、帯状の集電箔上に未乾燥活物質層が形成された未乾燥電極板を、上記未乾燥電極板の長手方向に搬送しつつ、上記未乾燥活物質層を加熱乾燥させる電極板乾燥装置であって、上記未乾燥電極板よりも、上記未乾燥電極板の厚み方向のうち上記集電箔から上記未乾燥活物質層に向かう第1厚み方向にそれぞれ位置し、上記未乾燥電極板の搬送方向に互いに間隙を空けて配置された複数の熱風吹出部を備え、上記熱風吹出部は、上記厚み方向のうち上記第1厚み方向とは逆の第2厚み方向でかつ上記搬送方向の上流側である斜め上流側に向け、上記未乾燥電極板の幅方向に拡がった帯状の帯状熱風を吹き出すノズル部を有し、上記ノズル部は、上記搬送方向の下流側ほど上記第1厚み方向に位置する第1案内面を構成する第1熱風案内部と、上記第1案内面よりも上記第2厚み方向に位置して、上記第1案内面に平行に対向する第2案内面を構成する第2熱風案内部と、を有し、上記第1案内面と上記第2案内面との間を通じて、上記第1案内面の上記上流側の端縁である第1上流側端縁と上記第2案内面の上記上流側の端縁である第2上流側端縁との間から、上記斜め上流側に上記帯状熱風を吹き出す構成とされており、上記第1案内面及び上記第2案内面と上記未乾燥活物質層とがなす角αは、上記ノズル部の上記上流側に、上記帯状熱風の上記第1厚み方向への拡散を防止する拡散防止部を設けなくとも、吹き出された上記帯状熱風が、上記第1上流側端縁から上記未乾燥活物質層までの間隙Gの15倍以上の距離LSにわたって、上記未乾燥活物質層に沿って上記上流側に進む角度とされており、前記角αは、5~45°であり、前記間隙Gは、3~10mmであり、前記ノズル部から吹き出される前記帯状熱風の初流速Vsは、40~80m/sである電極板乾燥装置である。
【0010】
上述の電極板乾燥装置では、各熱風吹出部のノズル部から斜め上流側に吹き出された帯状熱風は、長い距離にわたって、具体的には上述の間隙Gの15倍以上の距離LSにわたって、未乾燥活物質層に沿って搬送方向の上流側に進む。このため、未乾燥活物質層を効率良く乾燥させることができる。
その上、熱風吹出部は、ノズル部の上流側に、帯状熱風の第1厚み方向(未乾燥活物質層から離れる方向)への拡散を防止する拡散防止部を必要としないので、拡散防止部を有する熱風吹出部に比べて、熱風吹出部全体の搬送方向の寸法を小さくできる。このため、複数の熱風吹出部を狭い間隔で並べて、電極板乾燥装置の搬送方向の寸法を小さくできるなど、熱風吹出部の配置の自由度を高くできる。
更に、上述の電極板乾燥装置では、ノズル部の第1案内面及び第2案内面と未乾燥活物質層とがなす角αを5~45°とし、ノズル部の第1上流側端縁から未乾燥活物質層までの間隙Gを3~10mmとし、帯状熱風の初流速Vsを40~80m/sとしている。このようにすることで、ノズル部から吹き出された帯状熱風が、長い距離にわたって未乾燥活物質層に沿って上流側に流れ易い。
【0011】
なお、「未乾燥電極板」を乾燥させて形成する帯状の電極板としては、例えば、リチウムイオン二次電池等の電池に用いられる電極板や、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタに用いられる電極板などが挙げられる。また、電極板は、正極をなす正極板でもよいし、負極をなす負極板でもよい。
【0012】
「未乾燥活物質層」としては、例えば、帯状の集電箔上に形成され集電箔の長手方向に延びる帯状の未乾燥活物質層や、複数の未乾燥活物質層が長手方向に所定間隙を空けて並ぶ形態の未乾燥活物質層が挙げられる。また、未乾燥活物質層は、活物質粒子等を分散媒に分散させた活物質ペーストを、集電箔に塗工して形成した未乾燥活物質層でもよいし、或いは、活物質粒子等を分散媒と混合し造粒した湿潤粒子の集合体を作製し、この粒子集合体を圧延し集電箔上に転写して形成した未乾燥活物質層であってもよい。
【0013】
「帯状熱風が距離LSにわたって未乾燥活物質層に沿って上流側に進む」とは、ノズル部の第1上流側端縁よりも搬送方向の上流側において、帯状熱風の厚み方向の流速分布を調べた場合に、未乾燥活物質層の表面から第1厚み方向に1mm以内の表面近接領域を除き、第1厚み方向に進むほど(未乾燥活物質層から離れるほど)、帯状熱風の流速Vが遅くなる流速分布、逆に言えば、第2厚み方向に進むほど(未乾燥活物質層に近づくほど)、帯状熱風の流速Vが速くなる流速分布を維持しつつ、距離LSにわたって帯状熱風が上流側に進むことをいう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る帯状電極板の斜視図である。
図2】実施形態に係る帯状電極板の製造方法のフローチャートである。
図3】実施形態に係る電極板乾燥装置の全体を示す説明図である。
図4】実施形態に係り、熱風吹出部及び未乾燥片側電極板を第1厚み方向側から見た平面図である。
図5】実施形態に係り、熱風吹出部及び未乾燥片側電極板の幅方向から見た断面図である。
図6】実施形態に係り、帯状熱風の厚み方向の流速分布を示す説明図である。
図7】実施例1~3及び比較例1,2に係る各片側電極板の活物質層内に残った残留分散媒量を示すグラフである。
図8】比較例に係り、帯状熱風の厚み方向の流速分布を示す説明図である。
図9】従来形態に係り、熱風吹出部及び未乾燥電極板の幅方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に本実施形態に係る帯状電極板1の斜視図を示す。この帯状電極板1は、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、電気自動車等の車両などに搭載される角型で密閉型のリチウムイオン二次電池を製造するのに用いられる。具体的には、帯状電極板1は、電池を構成する扁平状捲回型或いは積層型の電極体を製造するのに用いられる帯状正極板である。なお、以下では、帯状電極板1の長手方向EH、幅方向FH及び厚み方向GHを、図1に示す方向と定めて説明する。
【0018】
帯状電極板1は、長手方向EHに延びる帯状のアルミニウム箔からなる集電箔3を有する。この集電箔3の第1主面3aのうち、幅方向FHの中央で長手方向EHに延びる領域上には、活物質層5が長手方向EHに帯状に形成されている。また、集電箔3の反対側の第2主面3bのうち、幅方向FHの中央で長手方向EHに延びる領域上にも、活物質層15が長手方向EHに帯状に形成されている。なお、集電箔3のうち、幅方向FHの両端部で長手方向EHに延びる部位は、それぞれ、活物質層5,15が存在せず、集電箔3が厚み方向GHに露出した露出部3rとなっている。
活物質層5,15は、活物質粒子、導電粒子及び結着剤から構成されている。本実施形態では、活物質粒子として、リチウム遷移金属複合酸化物粒子、具体的にはリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物粒子を用いている。また、導電粒子としてアセチレンブラック(AB)粒子を、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いている。
【0019】
次いで、上記帯状電極板1の製造方法について説明する(図2図6参照)。まず「第1電極形成工程S1」(図2参照)において、集電箔3の第1主面3a上に、乾燥後に前述の活物質層5となる帯状の未乾燥活物質層5xを有する未乾燥片側電極板(未乾燥電極板)1Aを形成する。
具体的には、第1電極形成工程S1を行うのに先立ち、予め電極ペーストPEを用意しておく。この電極ペーストPEは、活物質粒子、導電粒子、結着剤及び分散媒(本実施形態ではN-メチルピロリドン(NMP))を混合し、活物質粒子、導電粒子及び結着剤を分散媒中に分散させて形成する。電極ペーストPEの固形分率NVは、本実施形態ではNV=62.5wt%である。
【0020】
第1電極形成工程S1では、この電極ペーストPEを集電箔3の第1主面3aに塗布して、未乾燥活物質層5xを形成する。具体的には、巻出ロール(不図示)から巻き出された集電箔3を、複数の搬送ロール(不図示)によって長手方向EHに搬送する。そして、集電箔3の第1主面3aのうち、幅方向FHの中央部分に向けて、塗工ダイ(不図示)から所定の吐出量の電極ペーストPEを吐出して、集電箔3の第1主面3a上に帯状に未乾燥活物質層5xを連続して形成する。この未乾燥活物質層5xの厚みtは、本実施形態ではt=60μmである。
【0021】
続いて「第1乾燥工程S2」(図2参照)において、第1電極形成工程S1で得られた未乾燥片側電極板1Aを長手方向EHに搬送しつつ、未乾燥活物質層5xを帯状熱風HAによって加熱乾燥させて、活物質層5を形成する。この第1乾燥工程S2は、電極板乾燥装置100(図3図6参照)を用いて行う。この電極板乾燥装置100は、乾燥室110、未乾燥片側電極板1Aを搬送する複数の搬送ロール120、未乾燥片側電極板1Aに向けて帯状熱風HAを吹き出す複数の熱風吹出部130、熱風HAbを熱風吹出部130に導くダクト150、熱風HAbを発生させる熱風発生部160等から構成されている。
【0022】
乾燥室110(図3参照)は、壁部111によって外部と仕切られた箱状である。この乾燥室110には、未乾燥片側電極板1Aを外部から乾燥室110内に搬入するための搬入口111iと、乾燥後の片側電極板1Bを乾燥室110内から外部に搬出するための搬出口111jが設けられている。
搬送ロール120(図3参照)は、乾燥室110内に配置されており、モータ(不図示)によって駆動される。搬送ロール120は、未乾燥片側電極板1Aのうち集電箔3に接触しつつ、未乾燥片側電極板1Aを長手方向EHに搬送する。なお、図3図6の各図においては、左右方向が搬送方向CHであり、左側が搬送方向CHの上流側CH1、右側が搬送方向CHの下流側CH2である。また、図3図5及び図6においては、上方が、未乾燥片側電極板1Aの厚み方向GHのうち、集電箔3から未乾燥活物質層5xに向かう第1厚み方向GH1であり、下方が、厚み方向GHのうち第1厚み方向GH1とは逆の第2厚み方向GH2である。
【0023】
熱風吹出部130(図3図6参照)は、乾燥室110内のうち、搬送ロール120で搬送される未乾燥片側電極板1Aよりも第1厚み方向GH1にそれぞれ位置し、搬送方向CH(長手方向EH)に互いに所定間隙を空けて配置されている。各熱風吹出部130は、それぞれ第1厚み方向GH1で後述するダクト150と連通しており、ダクト150を介して後述する熱風発生部160に接続されている。これにより、熱風発生部160で発生した熱風HAbは、ダクト150を通じて熱風吹出部130内に一旦供給された後に、帯状熱風HAとなって外部に吹き出される。
【0024】
この熱風吹出部130は、熱風HAbを一時的に滞留させる滞留空間をなす滞留本体部131と、滞留させた熱風HAbを、帯状をなす帯状熱風HAとして外部に吹き出させるノズル部133とを有する。
このうち滞留本体部131は、直方体箱状であり、第1壁部131a、上流側壁部131c、下流側壁部131d、幅側壁部131e及び幅側壁部131fを有する。なお、滞留本体部131の第1壁部131aには、後述するダクト150に通じる連通孔が設けられているが、図4図6ではこの連通孔の図示を省略してある。
【0025】
このうち第1壁部131aは、第1厚み方向GH1に位置し、搬送ロール120で搬送される未乾燥片側電極板1Aと平行に(厚み方向GHと直交するように)配置されている。また、上流側壁部131cは、搬送方向CHの上流側CH1に位置し、搬送方向CHと直交するように配置され、下流側壁部131dは、搬送方向CHの下流側CH2に位置し、搬送方向CHと直交するように配置されている。また、幅側壁部131e,131fは、未乾燥片側電極板1Aの幅方向FHの両側に位置し、幅方向FHと直交するようにそれぞれ配置されている。
【0026】
ノズル部133は、第2厚み方向GH2でかつ搬送方向CHの上流側CH1である斜め上流側IH(図3図5及び図6中、左下方向)に向け、未乾燥片側電極板1Aの幅方向FHに拡がった帯状の帯状熱風HAを吹き出すように構成されている。このノズル部133は、滞留本体部131の第2厚み方向GH2に設けられており、幅方向FHに延びる形態を有する。具体的には、ノズル部133は、第1熱風案内部134及び第2熱風案内部135から構成される(図5及び図6参照)。
【0027】
第1熱風案内部134及び第2熱風案内部135は、それぞれ幅方向FHに延びる矩形板状であり、間隙を空けて互いに平行に配置されている。第1熱風案内部134は、上流側壁部131cの第2厚み方向GH2の端部131ctから、下流側CH2ほど第1厚み方向GH1に位置するように、斜め上流側IHとは逆の方向(図5及び図6中、右上方向)に延出している。本実施形態では、第1熱風案内部134のうち、第2厚み方向GH2を向く主面が、前述の第1案内面134nであり、この第1案内面134nは、下流側CH2ほど第1厚み方向GH1に位置している。
【0028】
一方、第2熱風案内部135は、下流側壁部131dの第2厚み方向GH2の端部131dtから、上流側CH1ほど第2厚み方向GH2に位置するように、斜め上流側IHに延出している。本実施形態では、第2熱風案内部135のうち、第1厚み方向GH1を向く主面が、前述の第2案内面135nであり、この第2案内面135nは、上述の第1案内面134nよりも第2厚み方向GH2に位置して、第1案内面134nに平行に対向している。
【0029】
このノズル部133の、幅方向FH及び斜め上流側IHに直交する開口幅Mは、本実施形態ではM=5mmである。
また、第1案内面134nの上流側CH1の端縁である第1上流側端縁134ntから、未乾燥活物質層5xまでの間隙Gは、3~10mm(本実施形態ではG=5mm)である。また、第2案内面135nの上流側CH1の端縁である第2上流側端縁135ntから、未乾燥活物質層5xまでの間隙Kも、本実施形態ではK=5mmである。
【0030】
また、ノズル部133の第1案内面134n及び第2案内面135nと未乾燥活物質層5xとがなす角α(以下、単に「ノズル部133の角α」ともいう)は、5~45°(本実施形態ではα=30°)である。本実施形態において、このノズル部133の角αは、ノズル部133の上流側CH1に、帯状熱風HAの第1厚み方向GH1への拡散を防止する拡散防止部を設けなくとも、吹き出された帯状熱風HAが、上述の間隙G(本実施形態ではG=5mm)の15倍以上の距離LS(本実施形態では、距離LSは間隙Gの35倍程度:LS=約175mm)にわたって、未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に進む角度としてある。
【0031】
このような形態の熱風吹出部130では、熱風吹出部130の滞留本体部131内に供給された熱風HAbは、ノズル部133の第1案内面134nと第2案内面135nとの間を通じて、第1案内面134nの第1上流側端縁134ntと第2案内面135nの第2上流側端縁135ntとの間から斜め上流側IHに、帯状熱風HAとして吹き出される。この帯状熱風HAの初流速Vsは、40~80m/s(本実施形態ではVs=60m/s)である。吹き出された帯状熱風HAは、長い距離Lにわたって、本実施形態では上述の間隙Gの35倍程度の距離LSにわたって、未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に進む。
【0032】
ここで、この帯状熱風HAについて、厚み方向GHの流速分布を調査した結果を図6に模式的に示す。なお、図6において、未乾燥活物質層5xの表面5xnから第1厚み方向GH1に1mm以内の表面近接領域SR内における帯状熱風HAの流速Vは、図示を省略している。
ノズル部133から初流速Vs=60m/sで吹き出された帯状熱風HAは、搬送方向CHの上流側CH1に進むほど、徐々に流速Vが遅くなる。また、この帯状熱風HAは、第1厚み方向GH1ほど(未乾燥活物質層5xから離れるほど)流速Vが遅くなる流速分布を維持しながら、ノズル部133の第1上流側端縁134ntから未乾燥活物質層5xまでの間隙Gの約35倍の距離LS(LS=G×35)にわたって上流側CH1に進んでいる。このように、本実施形態の電極板乾燥装置100では、ノズル部133の上流側CH1に、帯状熱風HAの第1厚み方向GH1への拡散を防止する拡散防止部を設けていないにも拘わらず、帯状熱風HAは、長い距離Lにわたって、本実施形態では間隙Gの約35倍の距離LSにわたって、未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に進む。
【0033】
ダクト150は、複数の熱風吹出部130と後述する熱風発生部160との間を結ぶ熱風HAbの流通路を構成している。ダクト150は、乾燥室110の内部において各熱風吹出部130の第1厚み方向GH1で各熱風吹出部130に接続され、また、乾燥室110の外部において熱風発生部160に接続されている。このダクト150を通じて、熱風発生部160で発生した熱風HAbが各熱風吹出部130に供給される。
熱風発生部160は、乾燥室110の外部に配置されており、ダクト150と連通している。熱風発生部160は、図示しない送風ファン及びヒータを有しており、送風ファンによって生じた風をヒータによって昇温して熱風HAbを発生させるように構成されている。本実施形態では、この熱風HAbの温度を180℃とする。
【0034】
次に、この電極板乾燥装置100を用いた第1乾燥工程S2について説明する。未乾燥片側電極板1Aは、未乾燥活物質層5xを第1厚み方向GH1に、集電箔3を第2厚み方向GH2に向けた状態で、搬入口111iを通じて乾燥室110内に搬入され、更に、乾燥室110内を複数の搬送ロール120によって長手方向EHに搬送される。
一方、未乾燥片側電極板1Aよりも第1厚み方向GH1に設けられた複数の熱風吹出部130のノズル部133から、斜め上流側IHに向け、幅方向FHに拡がった帯状の帯状熱風HAが吹き出される。
【0035】
この帯状熱風HAは、ノズル部133の第1上流側端縁134ntから未乾燥活物質層5xまでの間隙G(本実施形態ではG=5mm)の15倍以上の距離LS(本実施形態では、距離LSは間隙Gの35倍程度:LS=約175mm)にわたって、未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に進む。各熱風吹出部130のノズル部133から、このような帯状熱風HAが吹き付けられることにより、未乾燥活物質層5x内に含まれる分散媒が蒸発して、乾燥した活物質層5が連続して形成される。
なお、この集電箔3の第1主面3a上に活物質層5が形成された帯状電極板を、片側電極板1Bともいう。この片側電極板1Bは、乾燥室110の搬出口111jを通じて、乾燥室110の外部に搬出される。
【0036】
次に「第2電極形成工程S3」(図2参照)において、上述の片側電極板1Bを用いて、集電箔3の第2主面3b上に、乾燥後に前述の活物質層15となる帯状の未乾燥活物質層15xを有する未乾燥両側電極板(未乾燥電極板)1Cを形成する。具体的には、前述の第1電極形成工程S1と同様に、電極ペーストPEを集電箔3の第2主面3bに塗布して、厚みt=60μmの未乾燥活物質層15xを連続して形成する。
【0037】
続いて「第2乾燥工程S4」(図2参照)において、第1乾燥工程S2と同様に、電極板乾燥装置100を用いて(図3図6参照)、上述の未乾燥両側電極板1Cを長手方向EHに搬送しつつ、未乾燥活物質層15xを帯状熱風HAによって加熱乾燥させて、活物質層15を形成する。この第2乾燥工程S4においても、各熱風吹出部130のノズル部133から、斜め上流側IHに向けて帯状熱風HAを吹き出す。この帯状熱風HAも、ノズル部133の第1上流側端縁134ntから未乾燥活物質層15xまでの間隙G(本実施形態ではG=5mm)の15倍以上の距離LS(本実施形態では、距離LSは間隙Gの35倍程度:LS=約175mm)にわたって、未乾燥活物質層15xに沿って上流側CH1に進む。
なお、この集電箔3の第1主面3a上に活物質層5が形成され、第2主面3b上に活物質層15が形成された帯状電極板を、両側電極板1Dともいう。
【0038】
次に「プレス工程S5」(図2参照)において、ロールプレス装置(不図示)を用いて、上述の両側電極板1Dを長手方向EHに搬送しつつ、厚み方向GHにロールプレスして、活物質層5,15の密度をそれぞれ高める。かくして、帯状電極板1(図1参照)が出来る。
【0039】
(実施例1~3及び比較例1,2)
次いで、本発明の効果を検証するために行った試験の結果について説明する。本試験では、電極板乾燥装置100のうち、熱風吹出部130のノズル部133の角α(第1案内面134n及び第2案内面135nと未乾燥活物質層5xとがなす角α)をそれぞれ異なる角度として、未乾燥活物質層5xを熱風乾燥させた場合の、活物質層5の乾燥状態を調査した。
【0040】
具体的には、上述の実施形態と同様に、第1電極形成工程S1を行って、集電箔3上に未乾燥活物質層5xを有する未乾燥片側電極板1Aを形成した後、第1乾燥工程S2を行って、未乾燥活物質層5xを帯状熱風HAで加熱乾燥させて、活物質層5を形成した。その際、ノズル部133の角αを、実施例1ではα=5°とし、実施例2では実施形態と同様にα=30°とし、実施例3ではα=45°とし、比較例1ではα=55°とし、比較例2ではα=65°とした(図7参照)。
【0041】
また、実施例1~3及び比較例1,2について、帯状熱風HAの厚み方向GHの流速分布をそれぞれ調べた。その結果、実施例1~3では、概ね図6に示す流速分布となっていた。即ち、実施例1~3では、いずれも、未乾燥活物質層5xの表面5xnから第1厚み方向に1mm以内の表面近接領域SRを除き、第1厚み方向GH1に進むほど、帯状熱風HAの流速Vが遅くなる流速分布を維持しつつ、ノズル部133の第1上流側端縁134ntから未乾燥活物質層5xまでの間隙Gの15倍以上の距離LSにわたって、帯状熱風HAが上流側CH1に進んでいる。つまり、実施例1~3では、帯状熱風HAは、間隙Gの15倍以上の長い距離LSにわたり、未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に進んでいた。
【0042】
一方、比較例1,2では、図8に示す流速分布であった。即ち、比較例1,2では、いずれも、間隙Gの15倍以上の距離LSに達するよりも前に、帯状熱風HAのうち、最も流速Vの速い部分が、未乾燥活物質層5xの表面5xnから第1厚み方向GH1に大きく離れていた。具体的には、例えば図8において距離L=G×10の部位を見ると、帯状熱風HAのうち、最も速い流速V=30~40m/sの部分は、未乾燥活物質層5xから第1厚み方向GH1に離れており、流速V=30~40m/sの部分よりも第2厚み方向GH2に、これよりも流速Vの遅い流速V=20~30m/sの部分が存在している。このように、比較例1,2では、帯状熱風HAは、長い距離Lにわたり未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に進むことができない。
【0043】
次に、第1乾燥工程S2で得られた実施例1~3及び比較例1,2の各片側電極板1Bについて、活物質層5内に残っている残留分散媒量(ppm)をそれぞれガスクロマトグラフィを用いて測定した。その結果を図7にグラフで示す。図7のグラフから明らかなように、比較例1,2に比べて、実施例1~3では、残留分散媒量が少なかった。このような結果を生じた理由は、以下であると考えられる。
【0044】
即ち、実施例1~3では、厚み方向GHの帯状熱風HAの流速分布は、概ね図6に示す流速分布であり、帯状熱風HAが、間隙Gの15倍以上の長い距離LSにわたり未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に進む。このため、未乾燥活物質層5xを効率良く乾燥させることができるため、活物質層5における残留分散媒量が少なかった。
これに対し、比較例1,2では、厚み方向GHの帯状熱風HAの流速分布は、図8に示す流速分布であり、帯状熱風HAが、長い距離Lにわたり未乾燥活物質層5xに沿って上流側CH1に進むことができない。このため、未乾燥活物質層5xを効率良く乾燥させることができず、活物質層5における残留分散媒量が多く、半乾きの状態になったと考えられる。
【0045】
以上で説明したように、電極板乾燥装置100では、各熱風吹出部130のノズル部133から斜め上流側IHに吹き出された帯状熱風HAは、長い距離Lにわたって、具体的にはノズル部133の第1上流側端縁134ntから未乾燥活物質層5x,15xまでの間隙Gの15倍以上の距離LSにわたって、未乾燥活物質層5x,15xに沿って搬送方向CHの上流側CH1に進む。このため、未乾燥活物質層5x,15xを効率良く乾燥させることができる。
【0046】
その上、熱風吹出部130は、ノズル部133の上流側CH1に、帯状熱風HAの第1厚み方向GH1(未乾燥活物質層5xから離れる方向)への拡散を防止する拡散防止部(例えば図9における第2壁部931b)を必要としないので、拡散防止部を有する熱風吹出部(例えば図9に示した熱風吹出部930)に比べて、熱風吹出部130全体の搬送方向CHの寸法La(図5参照)を小さくできる。このため、複数の熱風吹出部130を狭い間隔で並べて、電極板乾燥装置100の搬送方向CHの寸法を小さくできるなど、熱風吹出部130の配置の自由度を高くできる。
【0047】
更に、電極板乾燥装置100では、ノズル部133の角α(第1案内面134n及び第2案内面135nと未乾燥活物質層5xとがなす角α)を5~45°とし、ノズル部133の第1上流側端縁134ntから未乾燥活物質層5x,15xまでの間隙Gを3~10mmとし、帯状熱風HAの初流速Vsを40~80m/sとしている。このようにすることで、ノズル部133から吹き出された帯状熱風HAが、長い距離Lにわたって未乾燥活物質層5x,15xに沿って上流側CH1に流れ易い。
【0048】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
1 帯状電極板
1A 未乾燥片側電極板(未乾燥電極板)
1C 未乾燥両側電極板(未乾燥電極板)
3 集電箔
5,15 活物質層
5x,15x 未乾燥活物質層
5xn (未乾燥活物質層の)表面
100 乾燥装置
130 熱風吹出部
131 滞留本体部
131a 第1壁部
131c 上流側壁部
131ct (上流側壁部の第2厚み方向の)端部
131d 下流側壁部
131dt (下流側壁部の第2厚み方向の)端部
133 ノズル部
134 第1熱風案内部
134n 第1案内面
134nt 第1上流側端縁
135 第2熱風案内部
135nt 第2上流側端縁
135n 第2案内面
HA 帯状熱風
HAb 熱風
EH 長手方向
FH 幅方向
GH 厚み方向
GH1 第1厚み方向
GH2 第2厚み方向
CH 搬送方向
CH1 (搬送方向の)上流側
CH2 (搬送方向の)下流側
IH 斜め上流側
G (第1案内面の第1上流側端縁から未乾燥活物質層までの)間隙
α (第1案内面及び第2案内面と未乾燥活物質層とがなす)角
L (ノズル部の第1上流側端縁から上流側の)距離
LS (帯状熱風が未乾燥活物質層に沿って上流側に進む)距離
La (熱風吹出部の搬送方向の)寸法
V (帯状熱風の)流速
Vs (帯状熱風の)初流速
SR 表面近接領域
S1 第1電極形成工程
S2 第1乾燥工程
S3 第2電極形成工程
S4 第2乾燥工程
S5 プレス工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9