(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】トラクタ
(51)【国際特許分類】
A01D 41/12 20060101AFI20231205BHJP
B60K 25/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A01D41/12 Z
B60K25/00 A
(21)【出願番号】P 2021033465
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】菅生 雄基
(72)【発明者】
【氏名】沼倉 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 誠
(72)【発明者】
【氏名】樋口 大河
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友大
(72)【発明者】
【氏名】東 浩之
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-143965(JP,A)
【文献】特開2004-222508(JP,A)
【文献】特開2012-187029(JP,A)
【文献】特開2020-180513(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0296701(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 41/12
B60K 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、電動モータと、前記電動モータの出力によって回転する回転体を有する作業機械と、前記車体と前記作業機械とを連結するものであって、且つ前記回転体を接地させる作業姿勢及び前記回転体を地面から離間した位置まで持ち上げた退避姿勢を実現可能に前記作業機械を支持する支持機構と、制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記作業機械の姿勢が前記作業姿勢である状態で前記電動モータを駆動させることにより、前記作業機械に作業させる作業処理と、
前記回転体に付着した泥の量の推定値である推定付着量を取得する付着量取得処理と、
前記推定付着量が判定付着量以上である場合、前記作業機械の姿勢が前記退避姿勢である状態で前記電動モータを駆動させることにより、前記回転体から泥を除去する泥除去処理と、を実行する
トラクタ。
【請求項2】
前記制御装置は、前記付着量取得処理において、前記作業機械の姿勢が前記退避姿勢である状態で前記電動モータを駆動させ、そのときの前記電動モータのトルク及び前記電動モータの回転数の変化速度を基に、前記回転体のイナーシャの推定値であるイナーシャ推定値を導出し、当該イナーシャ推定値が大きいほど大きい値を前記推定付着量として取得する
請求項1に記載のトラクタ。
【請求項3】
前記制御装置は、前記泥除去処理において、前記電動モータを正方向に回転させる正転制御と、前記電動モータを逆方向に回転させる逆転制御とを交互に繰り返す
請求項2に記載のトラクタ。
【請求項4】
前記制御装置は、前記泥除去処理を実行する際には、当該泥除去処理を実行する旨を報知する報知処理を実行する
請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載のトラクタ。
【請求項5】
前記電動モータを第1電動モータとしたとき、
前記支持機構の駆動源である第2電動モータを備え、
前記制御装置は、
前記作業処理の終了後に、前記第2電動モータの駆動によって前記支持機構を作動させて、前記作業機械の姿勢を前記作業姿勢から前記退避姿勢にさせる退避処理を実行し、
前記退避処理の実行によって前記作業機械の姿勢が前記退避姿勢になってから前記付着量取得処理を実行する
請求項1~請求項4のうち何れか一項に記載のトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械を備えるトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、作業機械と、作業機械の駆動源である電動モータとを備えるトラクタの一例が記載されている。当該トラクタにおいて、作業機械は、電動モータの出力によって回転するローラを有している。そして、田畑などの圃場の地面にローラを押し付けた状態で電動モータが駆動することにより、作業機械が圃場を耕耘できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圃場を作業機械が耕耘すると、作業機械のローラに泥が付着してしまう。
ここで、圃場の耕耘が終わると、トラクタのオペレータは、トラクタに公道を走行させることがある。
【0005】
このとき、作業機械のローラに多くの泥が付着していると、トラクタの走行時にローラから泥が落ちることによって公道を汚してしまうことがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのトラクタは、車体と、電動モータと、前記電動モータの出力によって回転する回転体を有する作業機械と、前記車体と前記作業機械とを連結するものであって、且つ前記回転体を接地させる作業姿勢及び前記回転体を地面から離間した位置まで持ち上げた退避姿勢を実現可能に前記作業機械を支持する支持機構と、制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記作業機械の姿勢が前記作業姿勢である状態で前記電動モータを駆動させることにより、前記作業機械に作業させる作業処理と、前記回転体に付着した泥の量の推定値である推定付着量を取得する付着量取得処理と、前記推定付着量が判定付着量以上である場合、前記作業機械の姿勢が前記退避姿勢である状態で前記電動モータを駆動させることにより、前記回転体から泥を除去する泥除去処理と、を実行する。
【0007】
作業機械の姿勢が作業姿勢である状態で電動モータを駆動させることにより、作業機械に作業を行わせることができる。こうした作業機械の作業の終了後に付着量取得処理が実行されると、回転体に付着した泥の量の推定値である推定付着量が取得される。このとき、推定付着量が判定付着量以上であると、泥除去処理が実行される。
【0008】
すなわち、上記構成によれば、作業機械の作業終了後において、回転体に付着した泥の量が多い場合には泥除去処理の実行によって回転体から泥を除去できる。その結果、その後にトラクタが公道を走行する際に、当該トラクタの作業機械から泥が公道に落ちることを抑制できる。したがって、トラクタが公道を走行する際に公道を汚すことを抑制できる。
【0009】
上記トラクタの一態様において、前記制御装置は、前記付着量取得処理において、前記作業機械の姿勢が前記退避姿勢である状態で前記電動モータを駆動させ、そのときの前記電動モータのトルク及び前記電動モータの回転数の変化速度を基に、前記回転体のイナーシャの推定値であるイナーシャ推定値を導出し、当該イナーシャ推定値が大きいほど大きい値を前記推定付着量として取得する。
【0010】
回転体のイナーシャ推定値が大きいと云うことは、回転体に付着した泥の量が多いことを意味する。上記構成によれば、電動モータを駆動させた際における、電動モータのトルク、及び、電動モータの回転数の変化速度を基に、回転体のイナーシャが推定される。そして、イナーシャの推定結果を基に、推定付着量が導出される。すなわち、回転体が地面から離れている状態で電動モータを駆動させることにより、推定付着量を取得できる。
【0011】
上記トラクタの一態様において、前記制御装置は、前記泥除去処理において、前記電動モータを正方向に回転させる正転制御と、前記電動モータを逆方向に回転させる逆転制御とを交互に繰り返す。
【0012】
上記構成によれば、電動モータの回転方向が一方向のみである場合と比較し、回転体から泥を効率よく除去できる。
上記トラクタの一態様において、前記制御装置は、前記泥除去処理を実行する際には、当該泥除去処理を実行する旨を報知する報知処理を実行する。
【0013】
上記構成によれば、泥除去処理の実行によって作業機械から泥が飛散することを、トラクタのオペレータやトラクタの周囲に存在する作業者に知らせることができる。
上記トラクタの一態様は、前記電動モータを第1電動モータとしたとき、前記支持機構の駆動源である第2電動モータを備えている。前記制御装置は、前記作業処理の終了後に、前記第2電動モータの駆動によって前記支持機構を作動させて、前記作業機械の姿勢を前記作業姿勢から前記退避姿勢にさせる退避処理を実行し、前記退避処理の実行によって前記作業機械の姿勢が前記退避姿勢になってから前記付着量取得処理を実行する。
【0014】
上記構成によれば、作業機械の作業が終了すると、第2電動モータの駆動によって、作業機械の姿勢が作業姿勢から退避姿勢に自動的に変更される。作業機械の姿勢の変更によって回転体が地面から離間すると、付着量取得処理の実行によって推定付着量が取得される。そして、推定付着量が判定付着量以上であると、泥除去処理が実行される。すなわち、作業機械の作業が終了されると、回転体から泥を除去するための一連の処理が自動的に実行される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】同トラクタにおける動力伝達の経路、及び、制御構成を示すブロック図。
【
図4】同トラクタの制御装置で実行される一連の処理を説明するフローチャート。
【
図5】第2実施形態のトラクタの制御装置で実行される一連の処理の一部分を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
以下、トラクタの第1実施形態を
図1~
図4に従って説明する。
<全体構成>
図1及び
図2に示すように、トラクタ10は、車両11と、車両11よりも後方Z2に配置されている作業機械20とを備えている。車両11は、複数の車輪12と、車体13とを有している。
【0017】
作業機械20は、回転体の一例であるローラ21を備えている。作業機械20は、圃場の地面100にローラ21が触れている状態でローラ21を回転させることにより、圃場を耕耘できる。すなわち、作業機械20が圃場を耕耘することは、作業機械20の作業の一例である。
【0018】
トラクタ10は、車体13と作業機械20とを連結する支持機構30を備えている。支持機構30は、車両11の横方向に延びる支持軸31を有している。そして、支持機構30は、支持軸31を中心に作業機械20を回動させることができる。すなわち、作業機械20は、ローラ21を地面100に接近させる方向である接近方向D1、及び、ローラ21を地面100から離間させる方向である離間方向D2に変位できるように支持機構30によって車両11に連結されている。言い換えると、支持機構30は、ローラ21を接地させる作業姿勢、及び、ローラ21を地面100から離間した位置まで持ち上げた退避姿勢を実現可能に作業機械20を支持している。
【0019】
図3に示すように、トラクタ10は、走行用モータ41を備えている。走行用モータ41の出力トルクは、動力伝達機構15を介して車輪12に伝達される。すなわち、走行用モータ41は、トラクタ10を走行させるためのモータである。
【0020】
トラクタ10は、作業用モータ42を備えている。作業用モータ42の出力トルクは、PTO25を介して作業機械20のローラ21に入力される。すなわち、作業用モータ42を駆動させることにより、ローラ21を回転させることができる。言い換えると、ローラ21を地面100に接触させた状態で作業用モータ42を駆動させることにより、作業機械20が圃場を耕耘できる。したがって、本実施形態では、作業用モータ42が、「第1電動モータ」に対応する。なお、「PTO」とは、「パワー・テイク・オフ」のことである。
【0021】
トラクタ10は、変位用モータ43と、油圧装置35とを備えている。変位用モータ43を駆動させることにより、油圧装置35に発生させる油圧を調整できる。そして、油圧装置35が発生する油圧を調整することにより、支持機構30を作動させることができる。すなわち、当該油圧を調整することにより、作業機械20を接近方向D1及び離間方向D2に変位させることができる。したがって、本実施形態では、変位用モータ43が、支持機構30の駆動源である「第2電動モータ」に対応する。
【0022】
トラクタ10は、トラクタ10のオペレータが操作する操作部50を備えている。操作部50は、例えば、ステアリングハンドル及び各種の操作スイッチを含んでいる。そして、オペレータによる操作部50の操作に応じた信号が、後述する制御装置70に入力される。
【0023】
<トラクタ10の制御構成>
図3に示すように、トラクタ10は、各モータ41~43を制御する制御装置70を備えている。制御装置70は、走行用モータ41のインバータ回路71、作業用モータ42のインバータ回路72及び変位用モータ43のインバータ回路73を有している。
【0024】
制御装置70は、制御回路75を有している。制御回路75は、例えば、CPU、ROM及び記憶装置を含んでいる。ROMには、CPUが実行する制御プログラムが記憶されている。記憶装置は、CPUの演算結果が記憶される。
【0025】
制御回路75には、操作部50から出力された信号が入力される。また、制御回路75には、各種のセンサから検出信号が入力される。センサとしては、例えば、第1回転角センサ61、第2回転角センサ62及び第3回転角センサ63を挙げることができる。第1回転角センサ61は、走行用モータ41の回転子の回転速度である第1回転数Nmg1に応じた信号を検出信号として出力する。第2回転角センサ62は、作業用モータ42の回転子の回転速度である第2回転数Nmg2に応じた信号を検出信号として出力する。第3回転角センサ63は、変位用モータ43の回転子の回転速度である第3回転数Nmg3に応じた信号を検出信号として出力する。
【0026】
制御回路75は、第1回転数Nmg1を基にインバータ回路71を動作させることにより、走行用モータ41を駆動させる。同様に、制御回路75は、第2回転数Nmg2を基にインバータ回路72を動作させることにより、作業用モータ42を駆動させる。制御回路75は、第3回転数Nmg3を基にインバータ回路73を動作させることにより、変位用モータ43を駆動させる。
【0027】
制御回路75は、作業機械20の姿勢を作業姿勢にさせる接近処理を実行する。制御回路75は、接近処理において、変位用モータ43を駆動させることにより、ローラ21が地面100に押し付けられるまで作業機械20を接近方向D1に変位させる。ローラ21が地面100に触れていない場合、変位用モータ43の出力トルクはあまり大きくない。しかし、ローラ21が地面100に触れると、ローラ21が地面100に触れる前と比較し、変位用モータ43の出力トルクを大きくしないと、作業機械20を接近方向D1に変位させることができない。そこで、制御回路75は、変位用モータ43の出力トルクが判定値以上よりも大きくなった場合に、ローラ21が地面100に押し付けられたと判定することができる。なお、制御回路75は、例えば、接近処理を実行させる旨の信号が操作部50から入力された場合、接近処理を実行する。
【0028】
制御回路75は、作業機械20に作業させる作業処理を実行する。作業処理において、制御回路75は、ローラ21が地面100に接する状態で作業用モータ42を駆動させることにより、作業機械20に作業させる。また、制御回路75は、走行用モータ41を駆動させることにより、
図1及び
図2に示す前方Z1にトラクタ10を走行させる。例えば、制御回路75は、作業処理を実行させる旨の信号が操作部50から入力された場合、作業処理を実行する。
【0029】
このように作業処理が実行されているときにトラクタ10を走行させることにより、制御回路75は、作業機械20に耕耘させることができる。
制御回路75は、作業機械20の姿勢を離間姿勢にさせる退避処理を実行する。制御回路75は、退避処理において、変位用モータ43を駆動させることにより、ローラ21が地面100から離間するまで作業機械20を離間方向D2に変位させる。例えば、制御回路75は、変位用モータ43の回転子の回転角を基に、変位用モータ43の駆動に起因するローラ21の上昇量を導出する。そして、制御回路75は、導出した上昇量を基に、ローラ21が地面100から離間したか否かを判定できる。なお、制御回路75は、例えば、退避処理を実行させる旨の信号が操作部50から入力された場合、退避処理を実行する。
【0030】
<ローラ21に付着した泥を除去するための処理の流れ>
図4を参照し、ローラ21に付着した泥を除去するために制御回路75が実行する一連の処理の流れについて説明する。例えば、
図4に示す一連の処理は、ローラ21から泥を除去する旨の信号が操作部50から入力されたことを条件に制御回路75によって実行される。
【0031】
一連の処理において、はじめのステップS11では、制御回路75は、ローラ21を空転させることができるか否かを判定する。ローラ21が地面100から離間している場合は、ローラ21を空転させることができると見なせる。一方、ローラ21が地面100に接している場合は、ローラ21を空転させることができると見なせない。例えば、作業処理の終了後に退避処理を実行した場合、ローラ21が地面100から離間しているため、制御回路75は、ローラ21を空転させることができるとの判定をなす。作業処理の終了後において退避処理を未だ実行していない場合、ローラ21が地面100から離間していないため、制御回路75は、ローラ21を空転させることができるとの判定をなさない。また、制御回路75は、変位用モータ43の回転子の回転角を基に、ローラ21を空転させることができるか否かを判定するようにしてもよい。
【0032】
そして、ローラ21が地面100に接しているためにローラ21を空転させることができるとの判定がなされていない場合(S11:NO)、制御回路75は、本処理ルーチンを一旦終了する。この際、制御回路75は、作業機械20を離間方向D2に変位させる旨をオペレータに通知するとよい。一方、ステップS11において、ローラ21が地面100から離間しているためにローラ21を空転させることができるとの判定がなされている場合(YES)、制御回路75は、処理をステップS13に移行する。
【0033】
ステップS13において、制御回路75は、作業用モータ42の駆動を開始させる。本実施形態では、制御回路75は、作業用モータ42に対する回転数の目標値である回転数目標値と、第2回転数Nmg2とを基に、作業用モータ42を駆動させる。すなわち、制御回路75は、第2回転数Nmg2が回転数目標値よりも低い場合、作業用モータ42に対する出力トルクの要求値である要求トルクTm2を増大させる。制御回路75は、第2回転数Nmg2が回転数目標値よりも高い場合、要求トルクTm2を減少させる。制御回路75は、第2回転数Nmg2が回転数目標値と一致する場合、要求トルクTm2を保持する。作業用モータ42の駆動を開始させると、制御回路75は、処理をステップS15に移行させる。
【0034】
ステップS15において、制御回路75は、要求トルクTm2を作業用モータ42のトルクとして取得する。続いて、ステップS17において、制御回路75は、第2回転数Nmg2の変化速度dNmg2を算出する。例えば、制御回路75は、第2回転数Nmg2を時間微分した値を、変化速度dNmg2として算出する。
【0035】
次のステップS19において、制御回路75は、要求トルクTm2及び変化速度dNmg2を基に、ローラ21のイナーシャの推定値であるイナーシャ推定値INrを取得する。例えば変化速度dNmg2が同一である場合、制御回路75は、要求トルクTm2が大きいほど大きい値をイナーシャ推定値INrとして取得する。例えば要求トルクTm2が同一である場合、制御回路75は、変化速度dNmg2が小さいほど大きい値をイナーシャ推定値INrとして取得する。
【0036】
続いて、ステップS21において、制御回路75は、ローラ21に付着した泥の量の推定値である推定付着量Xeを取得する。本実施形態では、制御回路75は、イナーシャ推定値INrが大きいほど大きい値を推定付着量Xeとして取得する。したがって、ステップS19,S21により、「付着量取得処理」が対応する。
【0037】
ここで、推定付着量Xeの取得について詳述する。ローラ21に泥が付着している場合、ローラ21に泥が付着していない場合と比較し、ローラ21を回転させるためには大きなトルクをローラ21に入力する必要がある。そこで、ローラ21に泥などの異物が何ら付着していない場合のイナーシャ推定値INrをイナーシャ基準値INrbとしたとき、例えば、制御回路75は、イナーシャ推定値INrからイナーシャ基準値INrbを引いた値を、算出値ΔINとして導出する。算出値ΔINは、ローラ21に付着した泥の量と相関する。そのため、制御回路75は、算出値ΔINが大きいほど大きい値を推定付着量Xeとして導出する。
【0038】
ステップS21において推定付着量Xeを取得すると、制御回路75は、処理をステップS23に移行する。ステップS23において、制御回路75は、推定付着量Xeが判定付着量XeTh以上であるか否かを判定する。ローラ21に付着した泥の量が多いか否かの判断基準として判定付着量XeThが設定されている。すなわち、推定付着量Xeが判定付着量XeTh以上である状態でトラクタ10が公道を走行した場合、トラクタ10の走行中にローラ21から泥が落ちることにより、公道を汚してしまうおそれがある。そのため、推定付着量Xeが判定付着量XeTh以上である場合は、ローラ21から泥を除去する必要があると見なせる。一方、推定付着量Xeが判定付着量XeTh未満である場合は、ローラ21から泥を除去する必要は未だないと見なせる。
【0039】
推定付着量Xeが判定付着量XeTh未満である場合(S23:NO)、制御回路75は、処理をステップS25に移行する。ステップS25において、制御回路75は、作業用モータ42の駆動を停止させる。これにより、ローラ21の回転が停止される。そして、制御回路75は、一連の処理を終了する。
【0040】
一方、ステップS23において、制御回路75は、推定付着量Xeが判定付着量XeTh以上である場合(YES)、制御回路75は、処理をステップS27に移行する。ステップS27において、制御回路75は、後述する泥除去処理を実行する旨を報知する報知処理を実行する。例えば、制御回路75は、トラクタ10に設けられている報知装置を作動させることにより、トラクタ10のオペレータ、及び、トラクタ10の周辺に存在する作業者に対して、泥除去処理が実行される旨を報知する。報知処理を開始すると、制御回路75は、処理をステップS29に移行する。
【0041】
ステップS29において、制御回路75は、泥除去処理を開始する。制御回路75は、泥除去処理は、ローラ21が地面100から離れている状態で、すなわち作業機械20の姿勢が退避姿勢である状態で、作業用モータ42を駆動させることにより、ローラ21から泥を除去するための処理である。
【0042】
本実施形態では、制御回路75は、泥除去処理において、正転制御と逆転制御とを交互に繰り返す。制御回路75は、正転制御において、作業用モータ42の回転子が正方向に回転するように作業用モータ42を駆動させる。制御回路75は、逆転制御において、作業用モータ42の回転子が正方向の逆方向に回転するように作業用モータ42を駆動させる。例えば、制御回路75は、予め定められている所定時間の間、泥除去処理を実行する。
【0043】
泥除去処理を開始すると、制御回路75は、制御回路75は、一連の処理を終了する。
なお、
図4に示した一連の処理の実行を通じて泥除去処理及び報知処理を開始した場合、制御回路75は、泥除去処理の終了条件が成立すると、泥除去処理及び報知処理を終了する。
【0044】
<本実施形態における作用及び効果>
圃場での作業機械20の耕耘が終了すると、作業機械20を離間方向D2に変位させるべく、オペレータが操作部50を操作する。すると、退避処理が実行され、作業機械20が離間方向D2に変位する。これにより、ローラ21を地面100から離間させることができる。すなわち、作業機械20の姿勢が、作業姿勢から退避姿勢に変更される。
【0045】
この状態でローラ21から泥を除去するべく、オペレータが操作部50を操作すると、付着量取得処理が実行される。すると、ローラ21に付着した泥の量の推定値として推定付着量Xeが取得される。そして、推定付着量Xeが判定付着量XeTh以上である場合、泥除去処理が開始される。泥除去処理では、ローラ21が地面100から離間した状態でローラ21が回転する。その結果、ローラ21から泥が除去される。すなわち、作業機械20の作業終了後において、ローラ21に付着した泥の量が多い場合には泥除去処理の実行によってローラ21から泥が除去される。
【0046】
そのため、その後にトラクタ10が公道を走行する際に、トラクタ10の作業機械20から泥が公道に落ちることを抑制できる。したがって、トラクタ10が公道を走行する際に公道を汚すことを抑制できる。
【0047】
なお、本実施形態では、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(1-1)作業用モータ42を駆動させた際における、要求トルクTm2、及び、第2回転数Nmg2の変化速度dNmg2を基に、ローラ21のイナーシャの推定値であるイナーシャ推定値INrが導出される。そして、イナーシャ推定値INrを基に、推定付着量Xeが導出される。すなわち、ローラ21が地面100から離れている状態で作業機械20を駆動させることにより、推定付着量Xeを取得できる。したがって、ローラ21への泥の付着量を検出するための専用の検出系をトラクタ10に設けなくてもよい。
【0048】
(1-2)泥除去処理が実行されると、ローラ21の第1回転方向への回転と、ローラ21の第2回転方向への回転とが交互に行われる。第2回転方向は、第1回転方向の反対方向である。これにより、ローラ21の回転方向が変更されない場合と比較し、効率よくローラ21から泥を除去できる。
【0049】
(1-3)泥除去処理の実行中では、作業機械20から泥が飛散する。この点、本実施形態では、泥除去処理の実行中では報知処理が実行される。すなわち、泥除去処理の実行によって作業機械20から泥が飛散することを、トラクタ10のオペレータやトラクタ10の周囲に存在する作業者に知らせることができる。
【0050】
(1-4)本実施形態では、付着量取得処理で取得した推定付着量Xeが判定付着量XeTh未満である場合には、泥除去処理が実行されない。すなわち、ローラ21に付着する泥の量が少ないためにトラクタ10が公道を走行しても作業機械20から泥があまり落ちないと推測できる場合には、泥除去処理が実行されない。したがって、泥除去処理が不要に実行されることを抑制できる。また、泥除去処理の実行回数の増大を抑制できる分、トラクタ10における消費電力の増大を抑制できる。
【0051】
(第2実施形態)
トラクタ10の第2実施形態を
図5に従って説明する。以下の説明においては、第1実施形態と相違している部分について主に説明するものとし、第1実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0052】
第2実施形態では、作業機械20に耕耘させる作業処理が終了されると、付着量取得処理及び泥除去処理が、自動的に実行される。
図5には、作業処理の終了後に制御回路75が実行する一連の処理の流れの一部が図示されている。なお、
図5に示す一連の処理は、作業処理を実行していることを契機に開始される。
【0053】
一連の処理において、はじめのステップS51では、制御回路75は、作業処理の実行を終了したか否かを判定する。作業処理の実行を未だ終了していない場合(S51:NO)、制御回路75は、作業処理の実行を終了するまでステップS51の判定を繰り返し実行する。一方、作業処理の実行を終了した場合(S51:YES)、制御回路75は、処理をステップS53に移行する。
【0054】
ステップS53において、制御回路75は、退避処理を実行する。そして、退避処理の実行による作業機械20の離間方向D2への変位によってローラ21が地面100から離間すると、制御回路75は、処理を前述したステップS13に移行する。ステップS13以降の処理は、第1実施形態と同様である。そのため、以降における詳細な説明を割愛する。
【0055】
本実施形態では、上記第1実施形態と同等の効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(2-1)作業機械20の耕耘が終了すると、退避処理が実行されることにより、作業機械20が離間方向D2に自動的に変位する。すなわち、作業機械20の姿勢が作業姿勢から退避姿勢に自動的に変更される。こうした作業機械20の姿勢の変更によってローラ21が地面100から離間すると、付着量取得処理が実行され、推定付着量Xeが取得される。そして、推定付着量Xeが判定付着量XeTh以上であると、泥除去処理が実行される。すなわち、作業機械20の耕耘が終了されると、ローラ21から泥を除去するための一連の処理が自動的に実行される。すなわち、オペレータの操作に関する手間の増大を抑制できる。
【0056】
(変更例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0057】
・報知処理は実行しなくてもよい。
・泥除去処理の実行時間を可変させてもよい。例えば、推定付着量Xeが多いほど泥除去処理の実行時間を長くしてもよい。また、泥除去処理の実行中でも付着量取得処理を実行し、推定付着量Xeが終了判定値未満になった場合に泥除去処理を終了するようにしてもよい。この場合、判定付着量XeThよりも小さい値を、終了判定値として設定するとよい。
【0058】
・ローラ21から泥を除去できるのであれば、泥除去処理は、正転制御と逆転制御とを交互に繰り返す処理でなくてもよい。例えば、泥除去処理では、作業用モータ42の回転子の回転方向を途中で変更しなくてもよい。
【0059】
・上記ステップS15で取得する作業用モータ42のトルクは、作業用モータ42に流れる電流を示す値であるモータ電流値を基に算出した作業用モータ42の出力トルクであってもよい。
【0060】
・付着量取得処理は、上記各実施形態で説明した手法とは異なる手法で、推定付着量Xeを取得する処理であってもよい。作業機械20の耕耘の実行時間が長いほど、ローラ21に多くの泥が付着すると推測できる。そのため、作業機械20の耕耘の実行時間が長いほど大きい値を、推定付着量Xeとして取得するようにしてもよい。
【0061】
また、トラクタ10に、ローラ21を撮像するカメラを搭載し、カメラによって撮像された画像のデータを解析することにより、ローラ21への泥の付着量を推定するようにしてもよい。
【0062】
・付着量取得処理で取得した推定付着量Xeが判定付着量XeTh以上であった場合、その旨をトラクタ10のオペレータに通知するようにしてもよい。この場合、その通知を受け取ったオペレータが泥除去処理の実行を許可するべく操作部50を操作した際に、泥除去処理を実行するようにしてもよい。
【0063】
・上記第1実施形態において、トラクタ10は、変位用モータ43を備えていなくてもよい。この場合、トラクタ10のオペレータは、手動で作業機械20の姿勢を変更することになる。
【0064】
・トラクタ10は、トラクタ10の動力源としてエンジンを備えるものであってもよい。
・上記各実施形態では、ローラ21を回転させるためのモータと、作業機械20を変位させるためのモータとが別々に設けられていたが、これに限らない。例えば、トラクタは、ローラ21を回転させるためのモータを、作業機械20を変位させるための動力源として用いることのできる構成であってもよい。この場合、モータの出力をローラ21に伝達する経路と、モータの出力を支持機構30に伝達する経路とを切り替えるための切替装置を、トラクタに設けるとよい。
【0065】
・制御回路75は、CPUとプログラムを格納するメモリとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御回路75は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)制御回路75は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)制御回路75は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)制御回路75は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【符号の説明】
【0066】
10…トラクタ
13…車体
20…作業機械
21…ローラ
30…支持機構
42…作業用モータ
43…変位用モータ
70…制御装置
100…地面