(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】全固体電池用負極電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20231205BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021057492
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 真也
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-191917(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128944(WO,A1)
【文献】特開2019-212430(JP,A)
【文献】特開2001-126758(JP,A)
【文献】特開2020-161467(JP,A)
【文献】特開2009-245913(JP,A)
【文献】特開2009-277381(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151363(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062081(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体、内部電極層、表面電極層を備え、負極集電体の上に内部電極層および表面電極層がこの順に積層された全固体電池用負極電極であって、
前記内部電極層、および、前記表面電極層がそれぞれ固体電解質粒子
および負極活物質を含み、
前記表面電極層に含まれる固体電解質粒子の平均粒径が、前記内部電極層に含まれる固体電解質粒子の平均粒径よりも大きく、
前記表面電極層の厚みが、前記内部電極層および前記表面電極層の合計厚みの20%以下である、全固体電池用負極電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池用負極電極に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。固体電池用電極において電池性能の良化を目的として固体電解質粒子の粒径は適宜調節されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電極の表面近傍に粒径の小さい固体電解質粒子よりなる層を形成し、粒径の大きい固体電解質粒子を活物質間に配置し、電極内の固体電解質の平均粒子径を固体電解質側で大きくし、集電体側で小さくすることによって、レート特性を向上した全固体電池が開示されている。また、特許文献2には、電極材料の粒径が固体電解質との界面側で大きく、この界面と反対側で小さくなるように配列させ、粒径が大きい電極材料側に固体電解質用の流動性材料を供給・硬化させる固体電解質電池が開示されている。また、特許文献3には、((固体電解質の粒径)/(正極活物質の粒径または負極活物質の粒径))が1/10から1/3の範囲であることを特徴とするリチウムイオン二次電池が開示されている。また、特許文献4には、負極層が粒子状の金属又は金属化合物と粒子状の硫化物固体電解質材料とからなり、金属又は金属化合物の平均粒径と硫化物固体電解質材料の平均粒径との比率が2以上7未満である固体電池が開示されている。また、特許文献5には、活物質層に含まれる固体電解質粒子の平均粒径は、活物質粒子の平均粒径よりも小さく、固体電解質粒子の平均粒径が1~3μmである全固体電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2014/132333号公報
【文献】特開H09-102321号公報
【文献】特開2016-001596号公報
【文献】特開2014-035812号公報
【文献】特開2012-243644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている全固体電池では、平均粒径の小さい固体電解質粒子が電極の表面近傍に配置され、平均粒径の大きい固体電解質粒子が活物質粒子の空隙を埋めるように配置され、活物質粒子と固体電解質粒子を結着させるために強誘電性物質を用いている。電極層とセパレータ層(以下、固体電解質層ともいう)との接合は電極層中の固体電解質とセパレータ層中の固体電解質の接合であるため、繰り返される充放電によって発生する層間剥離を抑制するという観点から改善の余地がある。また、層間剥離により、繰り返される充放電により全固体電池の抵抗増加が生じる虞もある。
【0006】
そこで、本開示の目的は、上記実情を鑑み、層間剥離が抑制され、繰り返される充放電による全固体電池の抵抗増加を抑制した全固体電池用負極電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記課題を解決するための一つの手段として、負極集電体、内部電極層、表面電極層を備え、負極集電体の上に内部電極層および表面電極層がこの順に積層された全固体電池用負極電極であって、内部電極層、および、表面電極層がそれぞれ固体電解質粒子を含み、表面電極層に含まれる固体電解質粒子の平均粒径が、内部電極層に含まれる固体電解質粒子の平均粒径よりも大きく、表面電極層の厚みが、内部電極層および表面電極層の合計厚みの20%以下である、全固体電池用負極電極を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の全固体電池用負極電極によれば、層間剥離が抑制され、繰り返される充放電による全固体電池の抵抗増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態である負極電極層10の模式図である。
【
図2】実施例および比較例における電極表面比率に対する抵抗増加率の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(負極電極層10)
本開示の全固体電池用負極電極について、一実施形態である負極電極層10を参照しつつ説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されない。
また、本明細書において「平均粒径」とは、レーザ回折・散乱法によって測定された体積基準の粒度分布において、積算値50%での粒子径(D50)を意味する。
【0011】
図1は負極電極層10の積層方向断面の模式図である。負極電極層10は、表面電極層13、内部電極層12、負極集電体11を備え、
図1に示すように、負極集電体11の上に内部電極層12および表面電極層13がこの順に積層されている。
【0012】
<内部電極層12>
内部電極層12は、負極集電体11と表面電極層13との間に介在する層である。内部電極層12は、後述する固体電解質を含み、その固体電解質粒子の平均粒径は特に限定されないが、電極内のイオン伝導パス形成の観点から、例えば0.5μm~1.5μmの範囲が挙げられる。
【0013】
<表面電極層13>
表面電極層13は、負極集電体11上の内部電極層12と後述する固体電解質層30との間に介在する層である。表面電極層13は、後述する固体電解質を含み、その固体電解質粒子の平均粒径は、内部電極層12の固体電解質粒子の平均粒径よりも大きく、例えば2.5μm以上が好ましい。表面電極層13の固体電解質粒子の平均粒径は、後述するが、アンカー効果の観点から固体電解質層30の固体電解質粒子の平均粒径と同一程度の平均粒径を用いることが好ましい。
【0014】
内部電極層12および表面電極層13の合計厚みは特に限定されず、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよく、例えば、0.1μm~1mmの範囲であり、0.1μm~100μmの範囲が好ましい。表面電極層13の厚みは内部電極層12および表面電極層13の合計厚みの20%以下であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。また、表面電極層13は、所定の平均粒径の固体電解質粒子を含み、表面電極層13の厚みの下限は、該表面電極層13が含む固体電解質粒子の平均粒径以上であることが好ましい。
【0015】
固体電解質粒子は、伝導パス形成の観点から小粒径なほどよいが、小粒径の固体電解質粒子のみでは塗工・プレス後の電極層が平滑となり、電極層と固体電解質層とのアンカー効果が弱くなることが知られている。しかしながら、本開示の全固体電池用負極電極によれば、内部電極層12に従来の小粒径固体電解質粒子を用い、表面電極層13に内部電極層12よりも大粒径の固体電解質粒子を配置することで、固体電解質粒子の大粒径化による性能低下の発生を抑制しつつ、電極層と固体電解質層とのアンカー効果により層間剥離が抑制される。さらに、層間剥離が抑制されることにより、繰り返される充放電による全固体電池の抵抗増加が抑制される。
【0016】
内部電極層12および表面電極層13は、少なくとも負極活物質を含む。負極活物質は全固体電池に適用可能な公知の負極活物質を用いればよい。例えば、Si、Si合金等のシリコン系活物質や、グラファイト、ハードカーボン等の炭素系活物質、チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質、金属リチウム、リチウム合金のリチウム系活物質等を用いることができる。なお、C、Si等は膨張・収縮を伴う活物質であることが知られている。負極活物質の平均粒径は特に限定されないが、例えば0.1μm~50μmの範囲である。内部電極層12および表面電極層13における負極活物質の含有量は、例えば30重量%~90重量%の範囲である。
【0017】
内部電極層12および表面電極層13の固体電解質としては酸化物固体電解質や硫化物固体電解質等が挙げられる。好ましくは硫化物固体電解質である。酸化物固体電解質としては、例えばLi7La3Zr2O12、Li7-xLa3Zr1-xNbxO12、Li3PO4、Li3+xPO4-xNx(LiPON)等が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えばLi3PS4、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2等が挙げられる。内部電極層12および表面電極層13における固体電解質の含有量は特に限定されないが、例えば10重量%~70重量%の範囲である。
【0018】
内部電極層12および表面電極層13は任意に導電助剤を備えていてもよい。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラックやケッチェンブラック、気相法炭素繊維(VGCF)等の炭素材料やニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。内部電極層12および表面電極層13における導電助剤の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~20重量%の範囲である。
【0019】
内部電極層12および表面電極層13は任意にバインダを備えていてもよい。バインダとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、ブチレンゴム(IIR)、アクリレートブタジエンゴム(ABR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)等が挙げられる。内部電極層12および表面電極層13におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0020】
<負極集電体11>
負極集電体11は、金属箔や金属メッシュ等により構成すればよい。特に金属箔が好ましい。負極集電体11を構成する金属としては、例えば、SUS,Cu,Ni,Fe,Ti,Co,Zn等の公知の負極集電体の材料を用いることができる。好ましくはCuであり、より好ましくは電解銅である。負極集電体11の厚みは特に限定されず、従来と同様でよい。例えば0.1μm~1mmの範囲である。
【0021】
負極電極層10の作製方法は特に限定されず、公知の方法により作製することができる。例えば、表面電極層13を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーとし、基材または後述の固体電解質層30に当該スラリーを塗布して、乾燥させることにより表面電極層13を作製し、内部電極層12を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーとし、基材又は負極集電体11に当該スラリーを塗布して、乾燥させることにより内部電極層12を作製し、内部電極層と表面電極層とを貼り合わせてプレスすることで負極電極層10が作製できる。
【0022】
[全固体電池]
次に、本開示の全固体電池用の負極電極層10を用いた全固体電池について、一実施形態である全固体電池100を用いて説明する。
図3に全固体電池100の概略断面図を示した。
図3に示すように、全固体電池100は、正極集電体21と正極層22とからなる正極電極層20、固体電解質層30、及び表面電極層13と内部電極層12と負極集電体11とからなる負極電極層10を有する。全固体電池100は、正極集電体21、正極層22、固体電解質層30、表面電極層13、内部電極層12、及び負極集電体11をこの順で積層し、1つの積層体であってもよく、電池性能を向上させる観点から複数の積層体であってもよい。また、1の積層体と他の積層体との間で、構成要素を共有してもよい。
【0023】
(正極電極層20)
正極電極層20は、正極集電体21、正極層22を備え、正極集電体21に正極層22が積層されている。
【0024】
<正極層22>
正極層22は、正極集電体21と後述する固体電解質層30との間に介在する層である。正極層22は少なくとも正極活物質を含む。正極活物質はリチウムイオン全固体電池に適用可能な公知の正極活物質を用いればよい。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム等のリチウム含有複合酸化物を用いることができる。正極活物質の平均粒径は特に限定されないが、例えば5μm~50μmの範囲である。正極層22における正極活物質の含有量は、例えば50重量%~99重量%の範囲である。正極活物質は表面がニオブ酸リチウム層やチタン酸リチウム層、リン酸リチウム層等の酸化物層で被覆されていてもよい。
【0025】
正極層22は任意に固体電解質を備えていてもよい。固体電解質は、内部電極層12および表面電極層13に用いられる固体電解質と同様の種類のものを用いることができる。正極層22における固体電解質の含有量は特に限定されないが、例えば1重量%~50重量%の範囲である。
【0026】
正極層22は任意に導電助剤を備えていてもよい。導電助剤は、内部電極層12および表面電極層13に用いられる導電助剤と同様の種類のものを用いることができる。正極層22における導電助剤の含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0027】
正極層22は任意にバインダを備えていてもよい。バインダは、内部電極層12および表面電極層13に用いられるバインダと同様の種類のものを用いることができる。正極層22におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0028】
正極層22の厚みは特に限定されず、所望の電池性能に応じて適宜設定すればよい。例えば、0.1μm~1mmの範囲である。
【0029】
<正極集電体21>
正極集電体21は、金属箔や金属メッシュ等により構成すればよい。特に金属箔が好ましい。正極集電体21を構成する金属としては、例えばSUSやAl、Ni等の公知の正極集電体の材料を用いることができる。好ましくはAlが挙げられる。正極集電体21の厚みは特に限定されず、従来と同様でよい。例えば0.1μm~1mmの範囲である。
【0030】
正極電極層20の作製方法は特に限定されず、公知の方法により作製することができる。例えば、正極層22を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーとし、基材又は正極集電体21に当該スラリーを塗布して、乾燥させることにより正極電極層20を作製することができる。
【0031】
(固体電解質層30)
固体電解質層30は固体電解質を含むセパレータ層である。固体電解質としては、内部電極層12および表面電極層13に用いられる固体電解質と同様の種類のものを用いることができる。また、固体電解質層30に用いられる固体電解質粒子の平均粒径は限定されず、例えば0.5μm~100μmの範囲が挙げられるが、アンカー効果の観点から表面電極層13と同一程度の平均粒径を用いることが好ましい。ここで、「同一程度」とは、表面電極層13に用いられる固体電解質粒子の平均粒径の50%~150%程度であり、75%~125%程度が好ましく、同一であることがさらに好ましい。また、固体電解質層における固体電解質の含有量は、例えば50重量%~99重量%の範囲である。
【0032】
固体電解質層30は任意にバインダを備えていてもよい。バインダは、内部電極層12および表面電極層13に用いられるバインダと同様の種類のものを用いることができる。固体電解質層30におけるバインダの含有量は特に限定されないが、例えば0.1重量%~10重量%の範囲である。
【0033】
固体電解質層30の作製方法は特に限定されず、公知の方法により作製することができる。例えば、固体電解質層30を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーとし、基材に当該スラリーを塗布して、乾燥させることにより固体電解質層30を作製することができる。
【0034】
(全固体電池の作製)
全固体電池100の作製方法は特に限定されず、公知の方法により作製することができる。例えば、正極集電体21と正極層22とからなる正極電極層20、固体電解質層30、及び表面電極層13と内部電極層12と負極集電体11とからなる負極電極層10をこの順でプレスして積層し、得られた積層体に正・負極端子を接続し、ラミネートフィルム等で挟んで溶着することにより、全固体電池100を作製することができる。
【実施例】
【0035】
[全固体電池の作製]
以下に説明する作製方法により、実施例1~4、比較例1~7の計11種類の評価用全固体電池を作製した。
【0036】
(正極電極層の作製)
PP(ポリプロピレン)製容器に酪酸ブチルと、ポリフッ化ビニリデン系バインダの5重量%酪酸ブチル溶液と、正極活物質のニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF)と、正極活物質と硫化物固体電解質材料の体積比率が75:25となるように硫化物固体電解質(LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックス、平均粒径D50=0.8μm) とを添加した。次に、超音波分散装置(エスエムテー製、UH-50)で30秒間撹拌し、振とう器(柴田科学社製、TTM-1)で30分間振とうさせた。その後、アプリケーターを用いて、ブレード法により、Al箔上に塗工した。塗工した正極電極層スラリーは、自然乾燥後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させ、正極電極層を得た。
【0037】
(固体電解質層の作製)
PP製容器にヘプタンと、ブチレンゴム系バインダの5重量%ヘプタン溶液と、硫化物固体電解質材料(LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックス、平均粒径D50=2.5μm)とを添加した。次に、超音波分散装置(エスエムテー製、UH-50)で30秒間撹拌し、振とう器(柴田科学社製、TTM-1)で30分間振とうさせた。その後、アプリケーターを用いて、ブレード法により、Al箔上に塗工した。塗工した固体電解質層スラリーは、自然乾燥後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させ、固体電解質層を得た。
【0038】
(負極電極層の作製)
<比較例1>
PP製容器に酪酸ブチルと、ポリフッ化ビニリデン系バインダの5重量%酪酸ブチル溶液と、負極活物質のシリコン粒子、導電助剤として気相成長炭素繊維(VGCF)と、負極活物質と硫化物固体電解質材料の体積比率が50:50となるように硫化物固体電解質(LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックス、平均粒径D50=0.8μm) とを添加した。次に、超音波分散装置(エスエムテー製、UH-50)で30秒間撹拌し、振とう器(柴田科学社製、TTM-1)で30分間振とうさせた。その後、アプリケーターを用いて、ブレード法により、Ni箔上に塗工した。塗工した負極電極層スラリーは、自然乾燥後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させ、負極電極層を得た。
【0039】
<比較例2>
硫化物固体電解質に平均粒径D50=2.5μmの電解質を用いた以外は比較例1と同じとした。
【0040】
<比較例3>
内部電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の50%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例1と同じとし、表面電極層をAl箔上に塗工および内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の50%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例2と同じとした。貼り合わせ・電極作製を、内部電極層と表面電極層を貼り合わせ1ton/cm2でプレスし、Al箔を剥がすことで負極電極層を得た。
【0041】
<比較例4>
内部電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の70%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例1と同じとし、表面電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の30%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例3と同じとし、貼り合わせ・電極作製を比較例3と同じとした。
【0042】
<実施例1>
内部電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の80%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例1と同じとし、表面電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の20%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例3と同じとし、貼り合わせ・電極作製を比較例3と同じとした。
【0043】
<実施例2>
内部電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の90%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例1と同じとし、表面電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の10%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例3と同じとし、貼り合わせ・電極作製を比較例3と同じとした。
【0044】
<比較例5>
硫化物固体電解質に平均粒径D50=3μmの電解質を用いた以外は比較例1と同じとした。
【0045】
<比較例6>
内部電極層を比較例3と同じとし、表面電極層をAl箔上に塗工および内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の50%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例5と同じとし、貼り合わせ・電極作製を比較例3と同じとした。
【0046】
<比較例7>
内部電極層を比較例4と同じとし、表面電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の30%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例5と同じとし、貼り合わせ・電極作製を比較例3と同じとした。
【0047】
<実施例3>
内部電極層を実施例1と同じとし、表面電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の20%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例5と同じとし、貼り合わせ・電極作製を比較例3と同じとした。
【0048】
<実施例4>
内部電極層を実施例2と同じとし、表面電極層を内部電極層と表面電極層を貼り合わせた後の全電極中の10%になるように塗工ギャップを変更した以外は比較例5と同じとし、貼り合わせ・電極作製を比較例3と同じとした。
【0049】
(評価用電池の作製)
1cm2の金型に固体電解質層を入れ、1ton/cm2でプレスした。次に、固体電解質層の片側に正極を配置し、1ton/cm2でプレスした。次に、固体電解質層のもう片側に負極を配置し、6ton/cm2でプレスした。プレスで得られた積層体に正・負極端子を接続し、ラミネートフィルムで挟んで溶着し、電池を作製した。
【0050】
[評価]
実施例1~4、比較例1~7の計11種類の全固体電池について、電池を金属板にて5MPaの圧力で拘束し、以下の評価を行った。
【0051】
(初期特性評価)
1/10Cレートにて定電流-定電圧充電および放電での容量確認を行った。容量確認後、一旦定電流で充電し定電流-定電圧放電で3.2V電圧に調整した。続いて、1.5Cレートにて5secの定電流放電を行い、オームの法則に従い抵抗値を算出した。
【0052】
(耐久評価)
耐久試験は充放電サイクルを100回実施した。充放電サイクル試験条件は1Cレートにて充電が上限電圧4V、放電が下限電圧3Vにて実施した。
【0053】
(耐久試験後の特性評価)
初期特性評価と同一手順にて抵抗値を算出した。また初期抵抗との比率を求め、耐久試験による抵抗増加率を算出した。
【0054】
実施例1~4、比較例1~7の計11種類の全固体電池について、各水準の耐久試験前後の抵抗および抵抗増加率の評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
図2は、実施例1~4、比較例1~7の計11種類の全固体電池について、電極表面比率と耐久試験後の抵抗増加率の関係を示す図である。
【0057】
[結果]
表面電極層の厚みが、表面電極層および内部電極層の合計厚みの30%以上の場合には、内部電極層の固体電解質の平均粒径と異なる固体電解質の平均粒径を表面電極層で用いない場合と比べ、抵抗増加率が大きくなった。これは、負極電極中に占める大粒径固体電解質の割合が高くなり、電極内のイオン伝導パス形成が不十分であったことに起因すると推察される。
一方、表面電極層の厚みが、表面電極層および内部電極層の合計厚みの20%以下にすると、初期の抵抗は小粒径の固体電解質のみを表面電極層で用いた場合と比較して高くなる傾向を示すが、充放電サイクルによる耐久試験後の抵抗増加率は低下傾向にあり、層間剥離の機能が発現したと示唆される。
また表面電極層の粒径依存性を見てみると、2.5μmの固体電解質を用いた場合の方が、3.0μmの場合に比べ、充放電サイクルによる耐久試験後の抵抗増加率の抑制効果が大きかった。負極電極層に貼り付ける固体電解質層の平均粒径に表面電極層の平均粒径と同一粒径である2.5μmを用いており、同一粒径を用いた方が凹凸の程度が合致し、アンカー効果が得られやすいためだと示唆される。
【符号の説明】
【0058】
100 全固体電池
10 負極電極層
11 負極集電体
12 内部電極層
13 表面電極層
20 正極電極層
21 正極集電体
22 正極層
30 固体電解質層