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特許7397952脳脊髄液を迂回させるためのシャント装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】脳脊髄液を迂回させるためのシャント装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20231206BHJP
   A61M 27/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
A61M1/00 160
A61M27/00
【請求項の数】 21
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022194304
(22)【出願日】2022-12-05
(62)【分割の表示】P 2020081242の分割
【原出願日】2017-06-20
(65)【公開番号】P2023029964
(43)【公開日】2023-03-07
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/064145
(32)【優先日】2016-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518451703
【氏名又は名称】シーエスエフ-ダイナミクス エー/エス
【氏名又は名称原語表記】CSF-DYNAMICS A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ベルゲセン, スヴェン エリック
【審査官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第3492996(US,A)
【文献】国際公開第2016/070147(WO,A1)
【文献】特表2004-508109(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0112293(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
A61M 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊髄液(CSF)を含む空間(13)に挿入されるように構成された入口開口部(11)を備えた入口端部(9)を備える脳室カテーテルと、
脈洞系空洞(21)に挿入されるように構成された出口開口部(19)を備えた出口端部(17)を備える静脈洞カテーテルと、
前記静脈洞カテーテルの前記出口端部(17)の前記出口開口部(19)又は遠位部に取り付けられたディスタンサ(35;135;235)であって、前記静脈洞系空洞内に挿入された場合に、前記静脈洞カテーテルを包囲する内皮組織に固定されずに、前記出口端部(17)前記内皮組織から本質的に一定の間隔で中心に維持するように構成されたディスタンサ(35;135;235)と
を備えるシャント装置であって、
前記脳室カテーテル及び前記静脈洞カテーテルのそれぞれは、当該カテーテルを通って延在する内腔を含み、前記脳室カテーテルの前記内腔と前記静脈洞カテーテルの前記内腔とは、シャント本体を介して動作可能に接続されて、CSFが前記入口開口部(11)から前記出口開口部(19)の方向に前記シャント装置を通って流れることを可能にし、
前記静脈洞系空洞(21)は、横静脈洞または頸静脈である、シャント装置。
【請求項2】
前記ディスタンサ(35;135;235)は、前記静脈洞カテーテルが、前記静脈洞系空洞内に挿入されるとき、前記出口端部(17)が周囲の内皮組織と接触することを防止する、請求項1に記載のシャント装置。
【請求項3】
記出口端部(17)は、前記静脈洞カテーテルが、前記頸静脈内に挿入されるとき、実質的に前記頸静脈の中心位置で維持される、請求項1または2に記載のシャント装置。
【請求項4】
記出口端部(17)は、前記静脈洞カテーテル挿入される前記静脈洞系空洞の流れ方向に対して実質的に平行な位置で維持される、請求項1~3のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項5】
記出口端部(17)から出るCSFの流れの方向は、前記静脈洞カテーテル挿入される前記静脈洞系空洞の流れ方向に対して実質的に平行である、請求項1~4のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項6】
前記出口端部(17)の向きは、前記ディスタンサの中心長手方向軸に対して少なくとも実質的に平行である、請求項1~5のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項7】
前記ディスタンサ(35;135;235)は、前記静脈洞カテーテルの前記出口端部(17)に一体化される、請求項1~のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項8】
前記ディスタンサ(35;135;235)は、少なくとも3つの間隔保持材(43a;59;259)を含み、前記間隔保持材(43a;59;259)の各々は、前記静脈洞カテーテルの前記出口端部(17)の中心長手方向軸(45)に対して垂直な方向において、前記静脈洞カテーテルから間隔を空けて配置される、請求項1~のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項9】
前記少なくとも3つの間隔保持材(43a;59;259)は、互いから等間隔に配置される、請求項に記載のシャント装置。
【請求項10】
つの前記間隔保持材(59;259)は、式α+β+γ=360°を満足するように配置され、式中、α、βおよびγは、前記静脈洞カテーテルの中心長手方向軸の方向に見たときの2つの前記間隔保持材間の角度を表し、α>90°、β>90°およびγ>90°である、請求項8または9に記載のシャント装置。
【請求項11】
前記ディスタンサは、間隔部材(39;139a;139b)の2つ以上の組を含み、1つの組の前記間隔部材は、別の組の前記間隔部材と異なる前記出口開口部からの距離で前記静脈洞カテーテルから突出するように構成され、各組は、前記静脈洞カテーテルの前記出口端部(17)の中心長手方向軸の方向に位置決めされる、請求項10のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項12】
前記ディスタンサは、弾性メッシュであって、前記静脈洞カテーテルの前記出口端部(17)の中心長手方向軸からの前記弾性メッシュの最大突出部を画定する少なくとも3つの間隔保持材を含む弾性メッシュを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項13】
前記ディスタンサは、1つまたは複数の取付部材(51;151a;151b;261)を介して前記静脈洞カテーテルの前記出口端部(17)に取り付けられる、請求項1~12のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項14】
前記ディスタンサは、圧縮状態に圧縮可能であり、かつ少なくとも1つの拡張状態に拡張可能である、請求項1~13のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項15】
前記ディスタンサは、前記静脈洞カテーテルの前記出口端部(17)の中心長手方向軸から突出する少なくとも3つの間隔保持材を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項16】
前記シャント本体が流れ制限部(31)を備える、請求項1~14のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項17】
前記シャント本体が、前記出口開口部から前記入口開口部の方向にCSFが流れることを防止するように構成された一方向弁(33)を備える、請求項1~14のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項18】
流れ制限部(31)が、当該シャント装置(1)内において前記入口開口部(11)と前記出口開口部(19)との間に配置されている、請求項1~14のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項19】
前記ディスタンサが、形状記憶合金のチューブ(261)から形成された間隔部材を備える、請求項1~14のいずれか一項に記載のシャント装置。
【請求項20】
前記チューブ(261)の一部が、前記ディスタンサ(235)の取り付けのために前記出口開口部(19)に挿入される、請求項19に記載のシャント装置。
【請求項21】
前記チューブ(261)が、当該シャント装置を通るCSFの流れに対して抵抗を与える流れ制限部材を収容する、請求項19又は20に記載のシャント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水頭症の症状を緩和するために脳脊髄液(CSF)をクモ膜下腔から頸静脈または横静脈洞へ迂回させるための改善されたシャント装置に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、横静脈洞または頸静脈等の静脈洞系空洞に挿入されるように適合された出口開口部を備えた出口端部を有する管状出口要素を含むシャント装置に関する。
【0003】
シャント装置は、シャントの使用中、管状出口要素の出口端部が前記管状出口要素を包囲する内皮から一定の最小間隔で維持されることを確認することにより、管状出口要素の出口端部が内皮組織に触れないようにするためのディスタンサ(distancer)を含む。
【0004】
好ましくは、管状出口要素の出口端部と内皮との間に接触がない。ディスタンサは、管状出口要素の出口端部の一体化部分を形成することができる。
【0005】
本発明は、本発明による改善されたシャント装置を使用して脳脊髄液を迂回させるための方法にも関する。
【背景技術】
【0006】
脳および脊髄は、頭蓋骨および脊柱内で髄膜として知られる薄い膜の内側に入っている。髄膜内の空間は、特に脳室を含み、脳室内の脈絡叢において、正常な状態では0.3~0.4ml/分の割合でCSFが生成される。
【0007】
CSFは、脳室、中脳水道および脳底槽を通って大脳表面を越えてクモ膜絨毛まで流れ、そこから、CSFは、矢状静脈洞(横静脈洞を含む)内に吸収される。しかしながら、水頭症を患う患者では、CSF排出が妨げられ、十分な排出を提供するためにCSFシャント手術が必要である。
【0008】
従来技術によるシャント装置は、例えば、ドレインの閉塞および例えばCSFの過剰な排出をもたらすシャントの欠陥を含む複数の要因により、寿命が比較的短い。
【0009】
シャント装置の閉塞は、完全であるか、部分的であるか、または断続的であり得る。閉塞が部分的または断続的のみである場合、個人は、周期的な頭痛、悪心および嘔吐、眠気、倦怠、食欲不振ならびに精神機能の全般的な低下を経験し得る。
【0010】
シャント装置の完全な閉塞では、同じ症状とともに、かすみ目、協調運動障害および意識喪失の可能性のより深刻な徴候がもたらされ得る。
【0011】
閉塞は、内皮組織によるシャント出口の内皮細胞増殖(endothelialization)の形態でのシャント装置の被包の結果であり得、内皮組織は、出口の周囲を包囲し、排出を低下させるかまたは阻止する可能性がある障壁を形成する。
【0012】
いくつかの従来技術によるシャントの入口端部と出口端部との間の圧力差が高すぎる場合、CSFが腹膜腔に迂回したときに過剰排出がもたらされることが多い。圧力の差により、頭蓋内圧力が非常に低いかまたはさらには負圧となり、これにより、脳室がつぶれるか、またはさらにはクモ膜下出血および硬膜下血腫がもたらされ得る。
【0013】
上述の問題を緩和するために、米国特許出願公開第2007/0112291A1号明細書に説明されているように、表面コーティングの提供を含むいくつかの試みがなされてきた。しかしながら、表面コーティングの使用は、場合により改善をもたらすことができるが、今日使用されている大部分のシャント装置は、依然として挿入から5年以内に交換しなければならない。
【0014】
国際公開第2015/108917号パンフレットは、シャント装置と、使用中に静脈洞系の壁にシャント装置を直接固定する方法とを開示している。国際公開第2015/108917号パンフレットは、管状出口要素の出口端部と、前記管状出口要素を包囲する内皮との間の一定の最小間隔を好ましくは前記内皮とのいかなる接触もなしに維持するディスタンサを有するシャント装置について教示または示唆していない。
【0015】
より長期間にわたって挿入することができ、シャント装置の要素と、頸静脈を含む静脈洞系の内皮組織を含む周囲組織との間の接触の結果として閉塞する可能性がより低い、シャント装置が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の1つの目的は、内皮組織によって閉塞される可能性が低い、本明細書に開示するようなシャント装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、第1の態様では、本発明は、シャント装置であって、個人の脳脊髄液(CSF)を含む空間(13)に挿入するための入口開口部(11)を備えた入口端部(9)を有する管状入口要素(7)と、静脈洞系空洞(21)に挿入されるように適合された出口開口部(19)を備えた出口端部(17)を有する管状出口要素(15)とを含むシャント装置を提供する。
【0018】
上述した管状要素(7、15)は、それぞれの管状要素を通って延在する内腔を含む。管状入口要素(7)の内腔と管状出口要素(15)の内腔とは、動作可能に接続されて、CFSが入口開口部(7)から出口開口部(19)の方向にシャント装置を通って流れることを可能にする。
【0019】
シャント装置は、シャントと周囲組織との間の組織接触を回避し、かつ管状出口要素(15)の出口端部(17)を、前記管状出口要素を包囲する任意の内皮組織から本質的に一定の間隔で維持するためのディスタンサを含む。
【0020】
ディスタンサも管状出口要素(15)も、頸静脈の組織を含む内皮組織に固定されず、ディスタンサも管状出口要素(15)も、実際の状況下において、シャント装置が静脈洞系空洞内に配置されたときに内皮組織を貫通していない。
【0021】
管状出口要素の少なくとも出口端部は、前記内皮から所定の間隔において、好ましくは前記内皮と接触なしでまたは可能な限り最小限の接触で維持されるべきである。
【0022】
所定間隔は、シャント装置の挿入中のいかなる時点でも、管状出口要素の出口端部と、シャント装置が挿入される静脈洞系空洞の任意の周囲組織との間で達成することが可能であり得る全体的な最長間隔であり得る。
【0023】
換言すれば、管状出口要素の出口端部を、可能な限り周囲の内皮組織から離れて維持することが好ましく、管状出口要素の出口端部と、頸静脈を含む静脈洞系空洞の周囲組織との間のいかなる接触も回避することがより好ましい。
【0024】
脳脊髄液(CSF)を含む空間の例としては、脳室のクモ膜下腔が挙げられるが、それに限定されない。静脈洞系空洞としては、横静脈洞および頸静脈が挙げられるが、それに限定されない。
【0025】
本発明によるシャント装置は、好ましくは、入口開口部(9)と出口開口部(19)との間に配置された流れ制限部(31)も含み、本発明によるシャント装置は、好ましくは、逆方向、すなわち出口開口部から入口開口部の方向の流れを防止する一方向弁(33)も含む。
【0026】
したがって、本発明の目的は、管状出口要素の出口端部を、前記管状出口要素を包囲する内皮から所定間隔または一定間隔において、好ましくは管状出口要素の前記出口端部と前記内皮との間に接触なしにまたは可能な限り最小限の接触で維持するディスタンサを含む、本明細書に記載するようなシャントを提供することである。
【0027】
「一定間隔または所定間隔」は、本明細書では、少なくとも5年、好ましくは少なくとも7年の期間にわたる等、シャントが使用される時間にわたり、シャント装置の閉塞をもたらさないかまたは少なくとも実質的に閉塞をもたらさない間隔として定義される。
【0028】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様によるシャント装置を使用して脳脊髄液を迂回させるための方法であって、
a)入口開口部を含む管状入口要素の少なくとも一部を、対象者のクモ膜下腔内に挿入するステップと、
b)出口開口部および圧縮状態におけるディスタンサを含む管状出口要素の出口端部の少なくとも一部を、対象者の横静脈洞または頸静脈の空洞内に挿入するステップと、
c)ディスタンサの状態を圧縮状態から拡張使用状態に変化させるステップと、
d)シャント装置を固定するステップと
を含む方法に関する。
【0029】
シャント装置のディスタンサは、シャント装置の管状出口要素の出口端部を、管状出口要素を包囲する内皮組織から所定間隔で維持する。
【0030】
頸静脈の内皮組織等、周囲の内皮組織と接触がないかまたは可能な限り最小限の接触であることが好ましい。
【0031】
好ましくは、管状出口要素の出口端部は、実質的に、シャント装置が配置される、頸静脈を含む静脈洞系空洞の中心位置または中心で維持される。
【0032】
管状出口要素の出口端部は、好ましくは、シャント装置が配置される、頸静脈を含む静脈洞系空洞の流れ方向に対して少なくとも実質的に平行な位置でも維持される。
【0033】
さらに好ましくは、管状出口要素の出口端部は、シャント装置の中心長手方向軸に対して少なくとも実質的に平行な位置で維持される。
【0034】
ディスタンサは、好ましくは、管状出口要素の出口端部に設けられ、ディスタンサは、前記管状出口要素の一体化部分を形成するように管状出口要素と一体化されることが好ましい。
【0035】
ディスタンサは、少なくとも3つ等、少なくとも2つの間隔保持材を含み得、それらの各々は、シャント装置の実際の状況下で管状出口要素の中心長手方向軸に対して垂直な方向において管状出口要素から間隔を空けて配置される。
【0036】
好ましくは管状出口要素の出口端部に設けられるディスタンサは、管状出口要素の出口端部を、シャント装置が挿入される頭蓋静脈洞系空洞の内壁から間隔、好ましくは最大間隔、すなわち可能な限り長い間隔を空けて維持する。
【0037】
ディスタンサによって作用される間隔保持は、周囲組織と接触がないかまたは最小限の接触のみがあり、それにより、例えば頸静脈の内壁の内皮組織とのいかなる望ましくない接触も防止し、それによりシャント装置のCSF排出部分の内皮異常増殖、したがって実質的な閉塞のリスクを著しく低減させることを確実にするという目的に役立つ。
【0038】
「ディスタンサ」という用語は、管状出口要素の出口端部と周囲の内皮組織との間の最大間隔等の間隔を確立し、経時的に維持するという目的で、管状出口要素の出口端部に設けられる要素として理解されるべきである。
【0039】
ディスタンサと管状出口要素の出口端部とは、好ましくは、互いに接続することができるが、実際の状況下でのシャント装置の使用中にのみ互いに接続することができる別個の存在物と比較して、シャント装置の一体化ユニットを形成する。
【0040】
例えば、2つまたは3つの間隔を空けて配置された間隔保持材、すなわち中心長手方向軸に対して接線方向において互いから1つまたは2つ以上の所定の間隔で配置された個々の間隔保持材を備えたディスタンサを使用することは、挿入されたシャント装置のより高度な安定性を提供するのにも役立ち、同時に周囲の内皮組織に対するシャント装置の管状出口要素の移動を少なくとも最小限にし、好ましくは防止する。このように、シャント装置の管状出口要素の出口端部は、シャント装置の管状出口要素の出口端部を隣接して包囲するすべての内皮組織から全体的に最大間隔で維持される。
【0041】
好ましくは、ディスタンサは、管状出口要素の出口端部が静脈洞系空洞壁の組織に向かって移動することを防止している。間隔保持材の数および各間隔保持材の物理的なサイズは、シャント装置が挿入される空洞を通る流体の通過を妨げないようにまたは最小限にのみ妨げるように設計されるべきである。
【0042】
間隔保持材は、好ましくは、中心長手方向軸から離れる方向においてディスタンサの最大突出部の箇所として確定される。好ましくは、それぞれの異なる方向において中心長手方向軸から最も離れて突出しているディスタンサの少なくとも2つまたは3つの部分において、少なくとも2つまたは3つの間隔保持材が画定されることが理解されるべきである。
【0043】
ディスタンサの例えば4つ以上の部分が中心長手方向軸から等しく突出している場合、4つ以上の間隔保持材は、シャント装置の一部を形成することが理解されるべきである。
【0044】
中心長手方向軸は、好ましくは、直線状であるが、直線状であることは必須ではなく、直線状の長手方向軸は、好ましくは、管状出口要素の中心軸によって画定され、かつ/またはシャント装置の内腔の中心軸によって画定され得る。
【0045】
異常増殖のリスクをなくすかまたは最小限に維持するために、ディスタンサおよび/またはディスタンサの間隔保持材は、好ましくは、平滑な面で具現化され、そうした面は、静脈洞系の内部空洞壁と可能な限り最小限の摩擦を提供する。
【0046】
同じ理由で、シャント装置の拡張使用状態におけるディスタンサの寸法は、好ましくは、静脈洞系空洞内に挿入されたときにディスタンサが空洞内壁を押圧しないように選択される。
【0047】
シャント装置の定常状態の使用中に静脈洞系の空洞内壁といかなる実質的な接触もないが、本質的に、管状出口要素の出口開口部と静脈洞系空洞壁との間において、安全な最小間隔を含む安全な間隔を維持することが意図された、「緩衝器」としての役割のみを果たす間隔保持材を有するディスタンサを提供することが好ましい。
【0048】
例えば、安全な最小間隔は、例えば空洞を通る流れが変化する間に維持することができる。しかしながら、シャント装置の流れ制限部材は、管状要素を通る脳脊髄液の本質的に一定の流れを維持することができる構造体としての役割を果たす。制限値は、現在、8mmHg/ml/分未満であることが好ましい。
【0049】
本発明の実施形態では、ディスタンサは、圧縮状態に圧縮可能であり、かつ少なくとも1つの拡張使用状態に拡張可能であり、少なくとも1つの拡張使用状態では、少なくとも2つまたは3つの間隔保持材が中心長手方向軸から圧縮状態より遠くに突出する。
【0050】
ディスタンサを圧縮状態に圧縮するために、ディスタンサが静脈洞系空洞内に挿入されたときにディスタンサが受ける通常の力を超える力が必要であることが理解されるべきである。したがって、ディスタンサは、ディスタンサの静脈洞系空洞からの意図された後退による等、意図された力が加えられない限り、圧縮状態に圧縮されない。
【0051】
一実施形態では、各間隔保持材は、中心長手方向軸から離れる方向において管状出口要素から突出する間隔部材の一部を形成する。各間隔部材は、1つまたは複数の間隔保持材を含むことができ、間隔保持材の総数が少なくとも2つまたは3つである限り、異なる間隔部材は、異なる数の間隔保持材を有することができる。
【0052】
本発明の別の実施形態では、少なくとも2つまたは3つの間隔保持材は、少なくともシャント装置の使用状態において互いから等間隔で位置決めされる。この位置決めにより、使用中に管状出口要素の出口と周囲の内皮との間の所定最小間隔を維持するために十分である、少なくとも2つまたは3つの間隔保持材の配置が可能になる。一実施形態では、間隔保持材の等間隔の配置は、間隔部材の等間隔な配置によって達成される。
【0053】
本発明の一実施形態では、少なくとも3つの間隔保持材および/または間隔部材が採用される場合、少なくとも3つの間隔保持材および/または間隔部材は、式α+β+γ=360°を満足するように位置決めされ、式中、α、βおよびγは、内腔の中心長手方向軸の方向に見たときの2つの間隔保持材および/間隔部材間の中心長手方向軸に対する非オーバーラップ角度を表す。
【0054】
好ましくは、α>90°、β>90°およびγ>90°であり、同様に好ましくはα<150°、β<150°およびγ<150°である。間隔保持材および/または間隔部材のこの構成により、シャント装置の実際の使用中に管状出口要素の出口開口部と周囲の内皮との間の好適な最小間隔を提供するのに十分である、間隔保持材および/または間隔部材間の配置が可能になる。
【0055】
本発明の一実施形態では、ディスタンサは、コネクタ部材を含み、コネクタ部材の各々は、中心長手方向軸の方向における間隔部材の接線方向または円周方向の移動を低減させるかまたは妨げるために、両方の間隔部材を相互接続するかまたは少なくとも3つの間隔部材の2つ以上を相互接続することができる。
【0056】
間隔部材は、好ましくは、すべての間隔部材が移動している場合、接線方向にのみ実質的に移動することができる。したがって、ディスタンサは、少なくとも2つまたは3つの間隔部材が、中心長手方向軸から見て使用中に接線方向において互いに近づくようにまたは互いからさらに離れて移動しないように、それらの間の角度を実質的に維持することが意図された部品を含み得る。
【0057】
したがって、少なくとも2つまたは3つの間隔部材は、圧縮状態への収縮中、中心長手方向軸から見て半径方向に互いに向かって移動することができ、それらは、拡張状態への拡張中、互いからさらに離れて移動することができる。
【0058】
本発明の実施形態では、ディスタンサは、拡張可能な弾性メッシュを含み、そうしたメッシュは、例えば、中心長手方向軸からのメッシュの最大突出部を画定する少なくとも3つの間隔保持材を含む。
【0059】
メッシュを含むディスタンサを提供することにより、ディスタンサのより弾性の高い構造が達成され、これにより、より高い安定性が提供され、これは、場合により好ましいことがあり得る。メッシュは、シャント装置が使用されているときに流体の通過を著しく損なわないように十分に粗いものであるべきである。
【0060】
本発明のディスタンサは、間隔部材の1つまたは2つ以上の組を設けられ得、各組の間隔部材は、中心長手方向軸の方向において、出口開口部から異なる距離で管状出口要素から突出するように構成される。
【0061】
間隔部材の各組が例えば少なくとも3つの間隔部材を含む場合、これにより、ディスタンサに対し安定性の向上が提供されるが、2つを含む任意の数の間隔部材を設けることができ、異なる組は、異なる数の間隔部材を有することができ、各間隔部材は、同じ数または異なる数の間隔保持材を含むことができる。
【0062】
間隔部材の少なくとも2つの組を設け、各組が実質的に等間隔であるか、または例えば上述した角度α、βおよびγによって画定されて、中心長手方向軸を中心に配置される少なくとも3つの間隔保持材を含むことにより、実質的に、シャント装置が配置される静脈洞系空洞の中心位置または中心で管状出口要素の出口端部を維持することができる。
【0063】
好ましくは、管状出口要素の出口端部は、実質的に、シャント装置が配置される静脈洞系空洞の中心位置または中心で維持される。
【0064】
管状出口要素の出口端部は、好ましくは、シャント装置が配置される静脈洞系空洞の流れ方向に対して少なくとも実質的に平行な位置で維持される。
【0065】
さらに好ましくは、管状出口要素の出口端部は、シャント装置の中心長手方向軸に対して少なくとも実質的に平行な位置で維持される。
【0066】
間隔部材の異なる組は、管状出口要素の出口開口部から異なる距離において管状出口要素に取り付けることができる。
【0067】
ディスタンサの間隔部材の各組は、中心長手方向軸からの距離に関しておよび突出の方向に関して、実質的に等しいかまたは異なるように突出することができる。
【0068】
管状出口要素に各間隔部材を別個に取り付けることができるが、現在、例えば、共通の取付具により間隔部材の3つ以上を組として管状出口要素に設けることからもたらされる間隔部材の相互接続は、ディスタンサに対して有利な安定性を提供すると考えられる。
【0069】
ディスタンサまたは1つもしくは複数の間隔部材は、1つまたは複数の取付部材を介して管状出口要素に接続することができる。
【0070】
ディスタンサは、管状出口要素の内腔内に延在する部分を含み得、それにより、前記部分は、内腔の狭窄を提供し、それにより流れ制限部材として作用する。したがって、流れ制限部または流れ制限部材は、ディスタンサの一部として提供することができる。
【0071】
i)ディスタンサを含むシャント本体もしくはその一部の内面もしくは外面のすべてもしくは一部、またはii)脳室カテーテルの内面もしくは外面のすべてもしくは一部、またはiii)静脈洞カテーテルの内面もしくは外面のすべてもしくは一部のいずれかは、生体適合性かつ/または血液適合性材料を含み得、そうした材料は、不活性面を含み、不活性面は、生体物質が不活性面と相対的に長い永続する接触を維持することを防止し、かつ/またはそうした材料は、面の血液適合性を向上させることができる複数の荷電種でコーティングされた血液適合性面を含む。
【0072】
ディスタンサを含むシャント本体の内面もしくは外面、または脳室カテーテルの内面もしくは外面、または静脈洞カテーテルの内面もしくは外面は、生体適合性かつ/または血液適合性材料を含むことができ、そうした材料は、不活性面を含み、不活性面は、生体物質が不活性面と相対的に長い永続する接触を維持することを防止し、かつ/または上記内面もしくは外面は、面の血液適合性を向上させることができる複数の荷電種でコーティングされたポリマー材料を含むことができる。
【0073】
一実施形態では、シャント本体の内面または外面は、生体適合性かつ/または血液適合性材料を含むことができ、そうした材料は、不活性面を含み、不活性面は、生体物質が不活性面と相対的に長い永続する接触を維持することを防止し、血液適合性材料は、面の血液適合性を向上させることができる複数の荷電種でコーティングされたポリマー材料を含むことができる。
【0074】
さらなる実施形態では、脳室カテーテルの内面または外面も生体適合性かつ/または血液適合性材料を含むことができ、そうした材料は、不活性面を含み、不活性面は、生体物質が不活性面と相対的に長い永続する接触を維持することを防止し、血液適合性材料は、面の血液適合性を向上させることができる複数の荷電種でコーティングされたポリマー材料を含むことができる。
【0075】
さらなる実施形態では、静脈洞カテーテルの内面または外面も生体適合性かつ/または血液適合性材料を含むことができ、そうした材料は、不活性面を含み、不活性面は、生体物質が不活性面と相対的に長い永続する接触を維持することを防止し、血液適合性材料は、面の血液適合性を向上させることができる複数の荷電種でコーティングされたポリマー材料を含むことができる。
【0076】
面の血液適合性を向上させることができる複数の荷電種でコーティングされた血液適合性表は、例えば、シリコーンエラストマー、テフロン、ガス滅菌ポリプロピレン等のHDポリエチレン、ポリスルフォン、ポリスチレン、PVC、ナイロン、チタン、ニチノール等の形状記憶合金またはポリエーテルスルフォンであり得る。荷電種は、例えば、20,000未満の分子量を有するポリエチレングリコールまたは別の巨大分子であり得る。血液適合性面は、一実施形態では、PCT/DK00/00065号明細書および/またはPCT/DK01/00557号明細書に開示されているような変性ポリマー面である。
【0077】
シャント装置の内面または外面は、好ましくは、滅菌可能である。前記面の1つまたは複数は、イオンがシャントから体内に入ることを防止し、かつシャントを生体環境による攻撃から保護する有効な拡散障壁として作用することが好ましい。
【0078】
本発明の別の好ましい実施形態では、ディスタンサの面を含む前記面の1つまたは複数は、非粘着性である。別の好ましい実施形態では、前記面の1つまたは複数は、非毒性である。別の好ましい実施形態では、前記面の1つまたは複数は、非免疫原性である。
【0079】
本発明の1つの好ましい実施形態では、前記生体適合性かつ/または血液適合性材料は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等を含む。同様に好ましくは、前記生体適合性かつ/または血液適合性材料は、乱層構造炭素、より好ましくは熱分解炭素を含むことができる。
【0080】
本発明の別の好ましい実施形態では、前記生体適合性かつ/または血液適合性材料は、セラミックを含む。前記セラミックは、好ましくは、窒化チタン(TiN)等である。別の好ましい実施形態では、前記生体適合性かつ/または血液適合性材料は、ホスファチジルコリンジエステルを含む。別の好ましい実施形態では、前記生体適合性かつ/または血液適合性材料は、Graphit-iC等のスパッタカーボンコーティング等を含む。
【0081】
本発明の別の好ましい実施形態では、前記生体適合性かつ/または血液適合性材料は、テフロン等を含む。本発明の別の実施形態では、前記生体適合性かつ/または血液適合性材料は、石灰化抵抗性の生体適合性材料を含む。
【0082】
1つの好ましい実施形態では、面は、静脈洞カテーテルの外面である。別の好ましい実施形態では、面は、静脈洞カテーテルの内面である。
【0083】
シャント装置のディスタンサは、例えば、ニッケルチタン合金(ニチノール)等の弾性または擬弾性材料から作製される。
【0084】
第2の態様では、本発明は、本発明の第1の態様によるシャント装置を使用して脳脊髄液を迂回させるための方法に関し、本方法は、
a)入口開口部を含む管状入口要素の入口端部の少なくとも一部を、対象者のクモ膜下腔に挿入するステップと、
b)出口開口部および圧縮状態におけるディスタンサを含む管状出口要素の出口端部の少なくとも一部を、対象者の横静脈洞または頸静脈の空洞内に挿入するステップと、
c)ディスタンサの状態を圧縮状態から拡張使用状態に変化させるステップと、
d)シャント装置を固定するステップと
を含む。
【0085】
シャント装置の挿入は、当業者に既知である任意の好適な進入点を通して行うことができる。
【0086】
本発明の実施形態では、管状出口要素の出口端部の少なくとも一部および圧縮状態におけるディスタンサの挿入は、頸静脈の開口部を通して行われる。
【0087】
実施形態では、シャント装置は、ディスタンサが、頸静脈の進入点を形成する開口部から中心長手方向軸に沿って少なくとも3cmの距離にある位置で固定される。
【0088】
別の進入点が使用される場合、シャント装置は、好ましくは、ディスタンサが、ディスタンサが挿入される空洞への進入点から少なくとも3cm離れるように適所で固定される。
【0089】
ディスタンサが、ディスタンサが挿入される空洞内への進入点から少なくとも3cmの距離にある位置でシャント装置を固定することにより、管状出口要素の出口の上で内皮が増殖するリスクが最小である。
【0090】
本発明の第3の態様は、水頭症の治療における、本発明の第1の態様によるシャント装置の使用に関する。
【0091】
しかしながら、シャント装置は、参照により全体として本明細書に援用される米国特許出願公開第2007/0112293A1号明細書(Borgesen)に開示されているように、アルツハイマー病およびCSF内の毒性物質によってもたらされる他の疾患を含む他の疾患の治療にも使用することができる。
【0092】
以下では、本発明による装置、方法および使用の例示的な実施形態について概略図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1】患者の体内に設置されたシャント装置の概略図を示す。
図2図1のシャント装置の一部を示す。
図3】本発明の実施形態におけるディスタンサを含むシャント装置の出口端部を示す。
図4】管内における図3の出口端部を示す。
図5】イントロデューサシートにおける図3の出口端部を示す。
図6】本発明の別の実施形態におけるディスタンサ部材の2つの組を備えた出口端部の側面図である。
図7図6の矢印VIIの方向における図である。
図8】第3の実施形態におけるディスタンサの出口端部の図である。
【発明を実施するための形態】
【0094】
図1は、患者の体内に設置された本発明の実施形態によるシャント装置を示す。
【0095】
シャント装置(1)は、患者の頭蓋冠(5)の頂部において皮下に配置されるシャント本体(3)を含む。
【0096】
シャント本体(3)の第1の端部には、脳室カテーテルを構成する管状入口要素(7)が接続されている。クモ膜下腔または脳室等、CSFを排出することが望まれるCSFを含む空間(13)に挿入される入口開口部(11)を有する入口端部(9)を含む管状入口要素(7)である。
【0097】
シャント本体(3の別の反対側の端部には、管状出口要素(15)が接続されている。管状出口要素(15)は、出口開口部(19)(図3を参照されたい)を備えた出口端部(17)を含む。出口端部(17)は、患者の静脈洞系の空洞(21)、例えば横静脈洞または頸静脈に挿入され、したがって、出口要素は、静脈洞カテーテルを構成する。
【0098】
図2は、好ましくはシリコーンゴムから作製されたシャント本体(3)の好ましい実施形態を示し、シャント本体(3)は、好ましくは硬質シリコーンゴムから作製された対向する平壁(25)と、好ましくは軟質の穿孔可能な自己回復シリコーンゴムから作製された対向するドーム状壁(27)とを有する前室(23)を含む。好ましくは、シャント本体(3)の入口端部である第1の端部において、脳室カテーテルまたは管状入口要素(7)を接続し固定することができる、チップ(29)を含む、テーパ状端部における前室の壁端部である。
【0099】
シャント本体は、シャント本体(3)の管状流れ制限部によって提供される流れ制限部材(31)をさらに含む。好ましくは、前室(23)は、前室(23)の出口端部が管状流れ制限部、すなわち流れ制限部材(31)への入口を形成するように管状流れ制限部に接続されている。
【0100】
好ましくは、前室(23)への入口と流れ制限部材(31)の出口との両方において、チェックバルブまたは逆止め弁、すなわち一方向弁(33)が配置されている。好ましくは、前記一方向弁は、いかなる固有抵抗または開放圧も有しておらず、脳室カテーテルからシャント本体(3)を通って静脈洞カテーテル、すなわち出口要素(15)までの脳脊髄液の流れに対して本質的にいかなる抵抗も与えない。
【0101】
本発明の好ましい実施形態では、患者の静脈洞系の空洞への流体接続は、シャント本体(3)のチップ(29)とは反対側の端部に取り付けられる管状出口要素(15)によって提供され、患者の脳室への流体接続は、環状ビードが設けられる、好ましくはチップ(29)に取り付けられる管状入口部材(7)または脳室カテーテルによって提供され、管状入口部材は、任意選択的に結紮を用いて固定される。
【0102】
好ましくは、チップ(29)の長さは、約5mmである。本発明の1つの好ましい実施形態では、管状流れ制限部材(31)は、8mmHg/ml/分未満の流れに対して受動的なかつ実質的に一定の抵抗を提供するように、ハーゲン・ポアズイユの法則に従って寸法が決められる。
【0103】
好ましい実施形態では、流れ制限部材(31)を構成する管状流れ制限部の内腔の内側半径Rは、0.05mmを超え、好ましくは0.50mm未満であり、流れ制限部材(31)のおよその長さLは、それに従って以下のように計算することができる。
L=((ICP-Pss)×π×R)/(8×F×V)(ハーゲン・ポアズイユの法則)
式中、ICPは、頭蓋内圧であり、Pssは、矢状静脈洞内の圧力であり、Fは、脳脊髄液の流量であり、Vは、脳脊髄液の粘度である。好ましい実施形態では、流れ制限部の長さは、約3.0mm~約90mmの範囲である。
【0104】
本発明のここまで記載したシャント装置は、例えば、参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2007/0112291A1号明細書に開示されているように具現化されかつ使用される。
【0105】
図3および図4を参照すると、本発明によれば、管状出口要素(15)の出口端部(17)にディスタンサ(35)が設けられており、ディスタンサ(15)は、出口開口部(19)を備えた出口端部(17)を、出口端部が配置される静脈洞系の管または空洞の壁(37)の内面から最小間隔で維持し、したがって出口端部(17)を前記壁(37)の内皮から最小間隔で維持する。
【0106】
図3および図4に示す実施形態では、ディスタンサ(35)は、弾性メッシュとして形成された間隔部材(39)を含み、弾性メッシュは、6つのループ(41)の第1の組を含み、それらのループ(41)は、接続部(43)においてそれぞれの隣接するループに相互接続され、したがって管状出口要素(15)を通りかつそこから出て延在する中心長手方向軸(45)を取り囲むリング状のループを形成する。
【0107】
6つのループ(41)のうち、図3では3つのみが見え、他の3つは、実際に見えている3つのループの後方に隠れている。弾性メッシュは、3つのループ(47)の第2の組をさらに含み、それらの各々は、分岐(49)を通して取付部材(51)に接続され、取付部材(51)により、ディスタンサ(35)は、管状出口要素(15)に接続されている。
【0108】
間隔部材(39)の拡張使用状態では、接続部(43)は、管状出口要素(15)を通りかつそこから出て延在する中心長手方向軸(45)から最も遠くに配置され、接続部(43)は、ディスタンサ(35)の間隔保持材(43a)を構成する。
【0109】
したがって、図3および図4に示す本実施形態では、6つの間隔保持材が提供され、それらは、中心長手方向軸(45)の周囲に実質的に等間隔で円周方向に配置される。
【0110】
図4に最もよく示すように、ディスタンサ(35)は、出口開口部(19)が壁(37)の内面から最小間隔にあるように出口端部(17)を維持する。図示する実施形態では、ディスタンサ(35)は、それが配置される空洞または管の幅にわたらず、したがって間隔保持材または接続部(43)の、あるとしてもわずかのみが実際に壁(37)の内面と接触する。しかしながら、本発明の範囲内では、ディスタンサ(35)が前記幅にわたることが可能である。
【0111】
患者の空洞または管内に管状出口要素(15)を挿入するために、ディスタンサ(35)は、図5に示すように圧縮され、管状出口要素(15)の出口端部(17)とともにあわせてイントロデューサシート(53)内に導入される。こうした手順は、一般に、当業者によく知られている。
【0112】
したがって、シャント装置(1)を使用して脳脊髄液を迂回させるための方法において、実行されるステップは、
a)入口開口部(11)を含む管状入口要素(7)の入口端部(9)の少なくとも一部を、患者のクモ膜下腔等、CSFを含む空間内に挿入するステップと、
b)出口開口部(19)およびディスタンサ(35)を含む管状出口要素(15)の出口端部(17)の少なくとも一部を、患者の横静脈洞または頸静脈の空洞等、静脈洞系の空洞(21)内に挿入するステップであって、出口端部(17)の前記一部およびディスタンサ(35)は、ディスタンサが圧縮状態であるようにイントロデューサシート(53)内に収容されている、ステップと、
c)イントロデューサシート(53)を引き抜くことにより、ディスタンサの状態を圧縮状態から拡張使用状態に変化させるステップと、
d)シャント装置(1)を固定するステップと
である。
【0113】
シャント装置の挿入は、当業者に既知である任意の好適な進入点を通して行うことができる。
【0114】
こうした方法は、本発明により予期されるものとみなされるべきである。
【0115】
実施形態では、イントロデューサシート(53)内にある管状出口要素(15)の出口端部(17)の少なくとも一部およびディスタンサ(35)の挿入は、頸静脈の開口部を通して行われる。
【0116】
実施形態では、シャント装置は、ディスタンサ(35)が、頸静脈の進入点を形成する開口部から中心長手方向軸(45)に沿って少なくとも3cmの距離にある位置で固定される。別の進入点が使用される場合、シャント装置は、好ましくは、ディスタンサが、ディスタンサ(35)が挿入される空洞(21)への進入点から少なくとも3cm離れるように適所で固定される。ディスタンサ(35)が、ディスタンサ(35)が挿入される空洞(21)内への進入点から少なくとも3cmの距離にある位置でシャント装置(1)を固定することにより、管状出口要素(15)の出口端部(17)および出口開口部(19)の上で内皮が増殖するリスクが最小である。
【0117】
設置されたシャント装置(1)を使用して、水頭症の症状を緩和し、何らかの理由で自然に排出されないCSFおよびCSF内のあり得る毒性物質を排出することができる。したがって、シャント装置は、水頭症を治療することとは別に、例えばアルツハイマー病等の臨床症状を治療するために使用することができる。アルツハイマー病の治療は、本発明のシャントを用いて、例えばアミロイド斑タンパク質を含むCSFを患者のCSF空間から排出することにより治療することができる臨床症状の一例である。
【0118】
アルツハイマー病に加えて、本発明によるシャント装置は、両方とも参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2007/0112291A1号明細書および同第2007/0112293A1号明細書に開示されているように、例えばダウン症候群、オランダ型のアミロイドーシス(HCHWA-D)を伴う遺伝性脳出血、てんかん、ナルコレプシー、パーキンソン病、多発神経炎、多発性硬化症、筋委縮性側索硬化症(ALS)、重症性筋無力症、筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、他の筋強直性症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、脳腫瘍、ギラン-バレー症候群等、患者の脳内における毒性物質の蓄積および結果としての病変からもたらされる他の病状を治療するうえでも有用となる。
【0119】
米国特許出願公開第2007/0112291A1号明細書にさらに開示されているように、本明細書に開示する方法は、他の治療、例えば従来の薬物治療と組み合わせて使用されるようにも構想される。
【0120】
「組み合わせて」とは、ある個人に対して、1つまたは複数の他の治療によるその個人の治療前、治療中にまたは治療後に、本明細書に開示する方法を使用し得ることを意味する。
【0121】
前記治療は、前記シャント装置の内腔内部での化合物の投与を含むことができる。1つの好ましい実施形態では、個人は、抗生物質、ヘパリン等の抗凝血薬、アセタゾラミドまたはフロセミド、イソソルビド、グリセロール、ウロキナーゼ、石灰化阻害剤またはMEDTAの1つまたは複数の投与と組み合わせて、本明細書に開示する方法で治療される。別の同様に好ましい実施形態では、患者は、例えば、バンコマイシン、EDTA、ゲンタマイシン、キモトリプシン、二酸化塩素またはミノサイクリン等の抗感染性化合物の1つまたは複数の投与と組み合わせて、本明細書に開示する方法で治療される。本発明のシャントシステムを、薬物を注入することができるように適合させることができ、したがって薬物送達を容易にすることができることも構想される。シャント装置は、患者の体内に配置される前に薬物等の生物活性化合物に含侵させることも可能である。
【0122】
図6および図7は、本発明によるディスタンサ(135)の第2の実施形態を示し、ディスタンサ(135)は、間隔部材(139a)および(139b)の2つの組(155a)および(155b)を含み、第1の組(155a)の間隔部材(139a)は、第1の取付部材(151a)に取り付けられ、第2の組(155b)の間隔部材(139b)は、第2の取付部材(151b)に取り付けられている。取付部材(151aおよび(151b)は、出口開口部(19)において管状出口要素(15)の出口端部(17)に取り付けられている。各組(155a)および(155b)は、それぞれ3つの間隔部材(139a)および(139b)を含み、それぞれの組(155a)および(155b)を取り付けることとは別に、取付部材(151a)および(151b)は、それぞれの間隔部材(139a)および(139b)を接続しかつそれらの相互の位置を保持するコネクタ部材を構成する。別法として、間隔部材は、それぞれの取付部材(図示せず)により、管状出口要素にそれぞれ取り付けることができる。
【0123】
後者の場合、間隔部材の相互の位置を保持するために、独立したコネクタ部材を提供することができる。図7に示すように、間隔部材(139a)(および間隔部材(139a)の後方に隠れている間隔部材(139b))は、α、βおよびγの相互の角距離で位置決めされ、角度α、βおよびγの各々は、120°である。
【0124】
間隔部材(139a)および(139b)の各々は、それぞれの間隔部材(139a)および(139b)の最大突出部を画定する湾曲部(57)を有するような形状であり、したがって、湾曲部(57)は、それぞれの間隔部材(139a)および(139b)の間隔保持材(59)を構成する。
【0125】
間隔部材の2つの組(155a)および(155b)は、中心長手方向軸(45)に沿って出口開口部(19)から異なる距離に配置される。したがって、ディスタンサ(135)は、中心長手方向軸(45)の方向に一定の長さを有し、ディスタンサ(135)は、したがって、出口開口部(19)を備えた出口端部(17)を、出口端部(17)が設置される管または空洞の壁およびその内皮から最小間隔で維持することに加えて、出口端部(17)を前記管または空洞の壁に対して実質的に平行に維持するという効果を有する。
【0126】
図8は、本発明によるディスタンサ(235)の第3の実施形態を斜視図で示す。この実施形態では、間隔部材(239)は、形状記憶合金のチューブ(261)から切断されて形成されている。この図は、間隔部材(239)を、患者の体内に設置されたときに取得するその使用位置で示す。チューブ(261)の一部は、ディスタンサ(235)を取り付けるために管状出口要素(15)の出口開口部(19)に挿入される。ディスタンサ(235)は、各3つの間隔部材(239a)および(239b)の2つの組(255a)および(255b)を含む。第2の実施形態と同様に、間隔部材(239a)および(239b)は、湾曲しているが、この実施形態では、それぞれの間隔部材の端部は、管状出口要素(15)の中心長手方向軸(45)から最も突出しており、したがって、これらの端部は、間隔保持材(259)を構成する。
【0127】
第2の実施形態と同様に、間隔部材(239a)および(239b)の2つの組(255a)および(255b)は、管状出口要素の出口開口部から異なる距離に配置され、したがって、出口開口部(19)を備えた出口端部(17)が、ディスタンサ(235)を備えた出口端部が設置される管または空洞の壁およびその内皮から最小間隔で維持されることに加えて、管状出口要素の出口端部は、前記管または空洞の壁に対して実質的に平行に維持される。
【0128】
対応して、第1の実施形態では、出口開口部(19)から異なる距離でそれぞれの取付部材(51)により出口端部(17)に取り付けられた弾性メッシュの形態の2つ(またはそれより多く)の組の間隔部材(39)をディスタンサ(35)に設けることができ、それにより、第1の実施形態に対して、出口端部(17)が、こうしたディスタンサの実施形態を備えた出口端部(17)が設置される管または空洞の壁に対して実質的に平行に維持されるという効果が得られることが留意されるべきである。
【0129】
上述したシャント装置の実施形態では、シャント本体(3)は、流れ制限部材(31)を含むが、その流れ制限効果は、シャント装置(1)における入口開口部(11)と出口開口部(19)との間の他の場所に配置された流れ制限部によって得ることができ、例えば、第3の実施形態では、チューブ(261)が、シャント装置を通るCSFの流れに対して追跡される抵抗を提供する流れ制限部材を提供または収容することができ、その場合、シャント本体の流れ制限部材をなくすことができることも留意されるべきである。
【0130】
本発明の実施形態は、以下に説明する項目に列挙される。
1.シャント装置であって、クモ膜下腔または脳室等、脳脊髄液(CSF)を含む空間(13)に挿入するための入口開口部(11)を備えた入口端部(9)を有する管状入口要素(7)と、横静脈洞または頸静脈等、静脈洞系空洞(21)に挿入されるように適合された出口開口部(19)を備えた出口端部(17)を有する管状出口要素(15)であって、前記管状要素(7、15)は、それぞれ管状要素(7、15)を通って延在する内腔を含む、管状出口要素(15)とを含み、入口開口部(9)と出口開口部(19)との間に配置された流れ制限部(31)をさらに含み、管状入口要素(7)の内腔と管状出口要素(15)の内腔とは、CSFが入口開口部(7)から出口開口部(19)にシャント装置を通って流れるように接続され、シャント装置は、出口開口部から入口開口部の方向の流れを防止する一方向弁(33)をさらに含み、シャント装置は、ディスタンサ(35;135;235)をさらに含み、前記ディスタンサは、管状出口要素(15)の前記出口端部(17)に設けられ、かつ少なくとも3つの間隔保持材(43a;59;259)を含み、間隔保持材(43a;59;259)の各々は、少なくともシャント装置の使用状態で管状出口要素(15)の中心長手方向軸(45)に対して垂直な方向において、管状出口要素(15)から間隔を空けて配置されることを特徴とするシャント装置。
【0131】
2.各間隔保持材は、中心長手方向軸から離れる方向に管状出口要素から突出する間隔部材の一部を形成する、項目1によるシャント装置。
【0132】
3.各間隔保持材は、少なくとも使用状態で互いから等間隔に配置される、項目1または2によるシャント装置。
【0133】
4.前記少なくとも3つの間隔保持材および/または間隔部材は、式α+β+γ=360°を満足するように配置され、式中、α、γおよびβは、内腔の中心長手方向軸の方向に見たときの2つの間隔保持材および/または間隔部材間の非オーバーラップ角度を表し、α>90°、β>90°およびγ>90°であり、好ましくはα<150°、β<150°およびγ<150°である、先行する項目の1つまたは複数によるシャント装置。
【0134】
5.コネクタ部材をさらに含み、コネクタ部材の各々は、中心長手方向軸の方向に見たときの間隔部材の接線方向の移動を妨げるために少なくとも3つの間隔部材の2つ以上を相互接続する、項目2~4の1つまたは複数によるシャント装置。
【0135】
6.ディスタンサは、間隔部材の2つ以上の組を含み、間隔部材の1つの組は、中心長手方向軸の方向において、別の組の間隔部材と異なる出口開口部からの距離で管状出口要素から突出するように構成される、項目2~5の1つまたは複数によるシャント装置。
【0136】
7.ディスタンサは、弾性メッシュであって、中心長手方向軸からのメッシュの最大突出部を画定する少なくとも3つの間隔保持材を含む弾性メッシュを含む、先行する項目の1つまたは複数によるシャント装置。
【0137】
8.ディスタンサは、1つまたは複数の取付部材を介して管状出口要素に接続される、先行する項目の1つまたは複数によるシャント装置。
【0138】
9.ディスタンサは、圧縮状態に圧縮可能であり、かつ少なくとも1つの拡張使用状態に拡張可能であり、少なくとも1つの拡張使用状態では、少なくとも3つの間隔保持材は、中心長手方向軸から圧縮状態よりさらに突出する、先行する項目の1つまたは複数によるシャント装置。
【0139】
10.流れ制限部は、シャント本体の一部であり、管状入口要素は、脳脊髄液を脳室からシャント本体に排出するように適合された脳室カテーテルをさらに含み、および管状出口要素は、脳脊髄液をシャント本体から静脈洞系空洞に排出するように適合された静脈洞カテーテルを含む、先行する項目の1つまたは複数によるシャント装置。
【0140】
11.先行する項目の1つまたは複数によるシャント装置を使用して脳脊髄液を迂回させるための方法であって、
a)入口開口部を含む管状入口要素の少なくとも一部を、患者のクモ膜下腔等、脳脊髄液を含む空間内に挿入するステップと、
b)出口開口部および圧縮状態におけるディスタンサを含む管状出口要素の少なくとも一部を、患者の横静脈洞または頸静脈の空洞等、静脈洞系の空洞内に挿入するステップと、
c)ディスタンサの状態を圧縮状態から拡張使用状態に変化させるステップと、
d)シャント装置を固定するステップと
を含む方法。
【0141】
12.ステップb)における管状出口要素端部の挿入は、頸静脈の開口部を通して行われる、項目10の方法。
【0142】
13.シャント装置は、ディスタンサが頸静脈の開口部から少なくとも3cmの距離にある位置で固定される、項目11の方法。
【0143】
14.水頭症の治療における、項目1~10のいずれか1つによるシャント装置の使用。
図1
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