(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】潤滑組成物のための脂肪族四面体ボレート化合物
(51)【国際特許分類】
C10M 139/00 20060101AFI20231214BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20231214BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20231214BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20231214BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
C10M139/00 A
C10M169/04
C10N10:02
C10N10:04
C10N30:06
(21)【出願番号】P 2019502685
(86)(22)【出願日】2017-07-21
(86)【国際出願番号】 US2017043202
(87)【国際公開番号】W WO2018017911
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-27
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591131338
【氏名又は名称】ザ ルブリゾル コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】バーリントン, ジェイムズ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】デルブリッジ, イワン イー.
(72)【発明者】
【氏名】グオ, ビンビン
(72)【発明者】
【氏名】ハントホルン, ジェイソン ジェイ.
【合議体】
【審判長】関根 裕
【審判官】塩見 篤史
【審判官】瀬下 浩一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第2497521(US,A)
【文献】米国特許第2883412(US,A)
【文献】特表2014-508847(JP,A)
【文献】特開2016-113497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
C10N10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑組成物のための添加剤であって、
カチオンと、ホウ素原子を含む四面体ホウ酸アニオンとを含む、イオン性四面体ボレート化合物を含み、前記ホウ酸アニオンが三価ホウ素化合物と脂肪族ジヒドロキシル化合物の反応から形成される少なくとも1つの二座ジオキソ配位子を有し、
前記脂肪族ジヒドロキシル化合物が、ヒドロキシカルボン酸の脂肪族誘導体であり、
前記ヒドロキシカルボン酸が、式:
【化11】
[式中
、
aおよびbの両方とも2に等しく、
Xは、脂肪族もしくは脂環式の基、または炭素鎖内に酸素原子を含有する脂肪族もしくは脂環式の基、または前述の種類の置換されている基であり、前記基が最大6個の炭素原子を含有し、a+b個の利用可能な結合点を有し、
Yは、2つのYが一緒になって、2つのカルボニル基の間に形成されるイミド構造R-N<の窒素を表し、
各
Rは、独立して、水素またはヒドロカルビル基であるが、ただし、少なくとも1つの
R基がヒドロカルビル基であることを条件とし、各R
2は、独立して、水素
であり、さらに、少なくとも1つの-OR
2基が、-C(O)-Y-R基のうちの少なくとも1つに対してαまたはβである、X内の炭素原子上に位置することを条件とする]
で表され、
前記ホウ酸アニオンが二座芳香族ジオキソ配位子を実質的に含まない、
添加剤。
【請求項2】
前記三価ホウ素化合物が、ホウ酸、ホウ酸エステル、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の添加剤。
【請求項3】
前記脂肪族ジヒドロキシル化合物が、酒石酸(tartartic acid)のイミド誘導体である、請求項1から2のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項4】
前記カチオンが、金属カチオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、灰分を含まない有機カチオン、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項5】
前記灰分を含まない有機カチオンが、アンモニウムカチオンおよびホスホニウムカチオンから選択される、請求項4に記載の添加剤。
【請求項6】
前記四面体ボレート化合物が、アンモニウム塩、第四級アンモニウム塩、およびこれらの混合物から選択される、請求項4に記載の添加剤。
【請求項7】
前記金属カチオンが、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、遷移金属カチオン、およびこれらの組合せから選択される、請求項4に記載の添加剤。
【請求項8】
前記カチオンが、前記組成物に少なくとも
5の全塩基価(TBN)を提供する、請求項1から7のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項9】
前記カチオンが、ポリイソブチレンスクシンイミドから誘導される、請求項1から8のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項10】
前記ポリイソブチレンスクシンイミドが誘導される元となるポリイソブチレンが、350~5000
の範囲の数平均分子量を有する、
請求項9に記載の添加剤。
【請求項11】
前記カチオンが、アルカリ金属清浄剤またはアルカリ土類金属清浄剤から誘導される、請求項1から8のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項12】
前記カチオンが、過塩基性のアルカリ金属清浄剤またはアルカリ土類金属清浄剤から誘導される、請求項11に記載の添加剤。
【請求項13】
三価ボレート化合物をさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の添加剤。
【請求項14】
前記三価ボレート化合物中のホウ素と前記四面体ボレート化合物中のホウ素との重量比が、少なくとも80:20
である、請求項13に記載の添加剤。
【請求項15】
潤滑組成物のための添加剤を形成する方法であって、
液体溶媒媒体中で脂肪族ジヒドロキシル化合物を、三価ボレート化合物、および、必要に応じて、塩基性構成成分と反応させて、カチオンと、ホウ素原子を含む四面体ホウ酸アニオンとを含むイオン性四面体ボレート化合物を形成することを含み、前記ホウ酸アニオンが、前記三価ホウ素化合物と前記脂肪族ジヒドロキシル化合物との反応から形成される少なくとも1つの二座ジオキソ配位子を有し、
前記脂肪族ジヒドロキシル化合物が、ヒドロキシカルボン酸の脂肪族誘導体であり、
前記ヒドロキシカルボン酸が、式:
【化11】
[式中
、
aおよびbの両方とも2に等しく、
Xは、脂肪族もしくは脂環式の基、または炭素鎖内に酸素原子を含有する脂肪族もしくは脂環式の基、または前述の種類の置換されている基であり、前記基が最大6個の炭素原子を含有し、a+b個の利用可能な結合点を有し、
Yは、2つのYが一緒になって、2つのカルボニル基の間に形成されるイミド構造R-N<の窒素を表し、
各
Rは、独立して、水素またはヒドロカルビル基であるが、ただし、少なくとも1つの
R基がヒドロカルビル基であることを条件とし、各R
2は、独立して、水素
であり、さらに、少なくとも1つの-OR
2基が、-C(O)-Y-R基のうちの少なくとも1つに対してαまたはβである、X内の炭素原子上に位置することを条件とする]
で表され、
前記溶媒媒体が、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、およびこれらのブレンドからなる群から選択され、
前記脂肪族ジヒドロキシル化合物と三価ボレート化合物との前記反応から生じた水が、前記液体溶媒媒体の一部分と共に共沸蒸留される、
方法。
【請求項16】
前記液体溶媒媒体が、アルコール溶媒を含む、請求項1
5に記載の方法。
【請求項17】
添加剤濃縮物であって、請求項1に記載の添加剤と、前記濃縮物を形成するために十分な量の潤滑油を含む、添加剤濃縮物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本発明の例示的な実施形態は、潤滑組成物において有用な、特に潤滑剤において改善された溶解度および摩擦性能を有する摩擦調整剤として有用な、潤滑剤添加剤および特にイオン性ボレート化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の摩擦調整剤は、多くの場合、これらが使用される機能液への溶解度および/または相容性問題により限定された方式でしか使用することができない。摩擦調整剤は、これらの溶解度および/または相容性の限界より上のレベルで使用した場合、時間の経過と共に機能液組成物から抜け、および/または組成物がかすんでいるもしくは濁ったようにみえる原因となり得る。
【0003】
本分野では、1種または複数種の構成成分が時間の経過と共に脱落する機能液組成物は、これらを使用前に十分混合しない限り、または機能液が使用される装置に付随するフィルターでこれらを除去し得ない限り、適切な成果を上げることができない。流体の濁度として測定され得る機能液のかすみおよび/または濁りは、多くの場合、組成物が安定していない、または分離および/もしくは構成成分の脱落の初期段階にあり得る徴候として見られる。このような状態は、性能と見た目の両方に関連する理由により、機能液組成物には望ましくない。この現実により、様々な摩擦調整剤の使用における制約および有効な最大処理率における制限が生じている。
【0004】
これらの摩擦調整剤の使用に対するこれらの溶解度および/または相容性による制限を与えることなく、例えば、潤滑剤の、またはエンジン、自動変速装置、ギアアセンブリーなどの装置の潤滑された小片の寿命の延長を含めて、より高い性能および装置保護が達成可能であり得る。燃費および粘度安定性の改善も達成可能であり得る。より有効であるが、従来の様式で送達される場合に従来相容性または溶解性の低い化合物を選択することが可能となり得るので、より高い性能がより少ない量の摩擦調整化合物でも達成可能となり得る。
【0005】
依然として安定および/または透明のままでありながら、より多量の摩擦調整剤を含有する機能液組成物に対する必要性が存在する。特に、他の仕方では、上に記載されているように、組成物を不安定および/またはかすんだ状態にしてしまうようなレベルで摩擦調整剤を含有するエンジンオイル組成物などの機能液組成物に対する必要性が存在する。本発明の組成物および方法は、機能液組成物の安定性および/または透明度を依然として維持しながら、これらの制約を克服し、よって他の仕方では簡単には達成不可能であるレベルでの摩擦調整剤の使用を可能にする。
【0006】
例示的なイオン性四面体ボレート化合物は、摩擦調整剤の溶解度を増強しながら良好な摩擦特性を有し、それによって、より高い潜在的処理率を促進する潤滑組成物を提供する。さらに、本発明のボレート化合物は清浄剤、酸化防止剤および/または分散剤の特性を含むことができ、これらは、このボレート化合物の1つまたは複数の対イオンにより寄与され得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
簡単な説明
例示的な実施形態の一態様によると、潤滑組成物のための添加剤は、カチオンと、ホウ素原子を含む四面体ホウ酸アニオンとを含むイオン性四面体ボレート化合物を含み、このホウ素原子は、脂肪族ジヒドロキシル化合物から誘導された少なくとも1つの二座ジオキソ配位子を有する。
【0008】
本発明の目的のため、および特に述べられていない限り、「ジヒドロキシル化合物」という用語は、ホウ素原子と配位して、本明細書で教示された四面体イオン性ボレートを形成する少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物を意味する。適切なジヒドロキシル化合物は、追加のヒドロキシル基を有することができ、このようなポリヒドロキシル化合物は、具体的に提供されていない限り、例示的なジヒドロキシル化合物から除外されることを意図しない。
【0009】
例示的な実施形態の別の態様によると、潤滑組成物のための添加剤を形成する方法は、脂肪族ジヒドロキシル化合物を、(ホウ酸エステルまたはホウ酸であってよい)三価ホウ素化合物と、必要に応じて塩基性構成成分の存在下で反応させて、イオン性四面体ボレート化合物を含む反応生成物を形成することを含み、塩基性構成成分は、反応生成物に少なくとも5の全塩基価を提供する。
【0010】
一実施形態では、脂肪族ジヒドロキシル化合物と三価ホウ素化合物との反応生成物は、50重量%を超えるイオン性四面体ボレート化合物、別の実施形態では、60重量%または70重量%または80重量%または90重量%または95重量%を超えるイオン性四面体ボレート化合物を含む。さらに別の実施形態では、反応生成物は、三面体または三価ボレート反応生成物を含まない、または実質的に含まない。
【0011】
例示的な実施形態の別の態様によると、潤滑組成物のための添加剤は、脂肪族ジヒドロキシル化合物、三価ホウ素化合物、および反応生成物に少なくとも5の全塩基価を提供する塩基性構成成分の反応生成物であるイオン性四面体ボレート化合物を含み、混合物中のホウ素の少なくとも主要な部分(50%または60%または70%または80%または90%または95%または98%または99%を超える)は、四価ホウ酸アニオンに変換される。
【0012】
一実施形態によると、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、脂肪族ビシナルジオール(多くの場合グリコールと呼ばれる)、好ましくは1,2ビシナルジオール、脂肪族ジ-もしくはポリカルボン酸、またはモノ、ジもしくはポリヒドロキシル官能性のモノ、ジ、もしくはポリカルボン酸であるか、またはこれらから誘導されてよい。
【0013】
一実施形態によると、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、酒石酸またはクエン酸の誘導体であってよい。
【0014】
一実施形態によると、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、ヒドロカルビル基が6~30個の炭素原子を含有する、N-ヒドロカルビルタルトリミドであってよい。
【0015】
一実施形態によると、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、1,2ビシナルジオール、例えば、モノアシルグリセロール、例えば、グリセロールモノオレエート(glycerol mooleate)であってよい。
【0016】
例示的な実施形態の別の態様によると、潤滑組成物のための添加剤は、三価ホウ素化合物、脂肪族ジヒドロキシル化合物、および少なくとも2つのC8または高級アルキル基を有するアルキルアミン(塩基)の組合せおよび/または反応生成物を含む。
【0017】
例示的な実施形態の別の態様によると、潤滑組成物のための添加剤は、三価ホウ素化合物、脂肪族ジヒドロキシル化合物、およびアルカリ金属清浄剤またはアルカリ土類金属清浄剤(塩基)の組合せおよび/または反応生成物を含む。
【0018】
例示的な実施形態の別の態様によると、潤滑組成物のための添加剤は、三価ホウ素化合物、脂肪族ジヒドロキシル化合物、およびアミノフェノール系酸化防止剤(塩基)の組合せおよび/または反応生成物を含む。
【0019】
またさらなる実施形態では、本発明のイオン性四面体ボレート化合物を調製する方法も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
例示的な実施形態の態様は、潤滑組成物のための添加剤、添加剤を形成する方法、および添加剤の使用に関する。
【0021】
潤滑組成物のための例示的な添加剤として、潤滑組成物中で摩擦調整剤、分散剤、酸化防止剤、または清浄剤のうちの1種または複数種の役目を果たすことができるイオン性ボレート化合物が挙げられる。
【0022】
イオン性ボレート化合物は、少なくとも0.01重量%、または少なくとも0.1重量%、または少なくとも0.5重量%または少なくとも0.6重量%、または少なくとも1重量%の総濃度で潤滑組成物中に存在し得る。イオン性ボレート化合物は、最大10重量%、または最大8重量%、または最大5重量%、または最大4.5重量%または最大3.5重量%の総濃度で潤滑組成物中に存在し得る。
A.イオン性ボレート化合物
【0023】
四面体ボレート化合物とも呼ばれ得る例示的なイオン性ボレート化合物は、少なくとも1個の四配位ホウ酸アニオンと、化合物内で対イオンとしての役目を果たすカチオンを含む。四配位ホウ酸アニオンは、4個の酸素原子に直接結合しているホウ素原子(BO4
-単位)を含む。ホウ酸イオンは四面体であってよい。四面体のホウ酸イオンでは、BO4
-単位の立体配置は平面ではなく四面体である。この構造は、脂肪族ジヒドロキシル化合物の適切な選択および塩基性条件でイオン性ボレート化合物を形成することにより達成することができる。
【0024】
ホウ酸アニオンは、脂肪族ジヒドロキシル化合物から誘導された少なくとも1つの二座ジオキソ配位子を含む。一部の実施形態では、ホウ酸アニオンは、1種または複数種の脂肪族ジヒドロキシル化合物から誘導された2つの二座ジオキソ配位子を含む。各二座ジオキソ配位子は、その2つのオキソ基(-O-)を介してホウ素原子と配位を形成して、-O-B-O-を含む環を形成する。
【0025】
一実施形態では、ホウ酸アニオンは、芳香族二座ジオキソ配位子、すなわち、ホウ素に連結した一方または両方の酸素原子が芳香族基にも直接結合しているジオキソ配位子を含まないまたは実質的に含まなくてよい。これは、ホウ素に連結した両方の酸素原子が非芳香族炭素原子、すなわち、芳香族環内にはない炭素原子に結合している、本発明の脂肪族二座ジオキソ配位子とは対照的である。
【0026】
イオン性四面体ボレート化合物は、式I:
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、独立して、芳香族および置換芳香族基、1~48個の炭素原子の脂肪族ヒドロカルビル基から選択されるか、または一緒になって、置換もしくは非置換の5もしくは6員の環を形成し、
R
3およびR
4は、独立して、水素(R
3とR
4の両方が通常水素でないことを条件とする)もしくは1~48個の炭素原子の脂肪族ヒドロカルビル基であるか、または一緒になって、複素環式環(1~32個の炭素原子の1つもしくは複数のヒドロカルビル基で置換されていてよい)であってよい置換もしくは非置換の5もしくは6員の脂肪族環を形成し、
mは、0または1であり、
Xは、水素、1~24個の炭素原子のヒドロカルビル基、-OR
5、-NHR
5、=O、およびこれらの混合物から選択され、
R
5は、1~24個の炭素原子のヒドロカルビル基であり、
Mは、カチオンを表し、
nは、整数、すなわち、少なくとも1であり、最大7、または最大4であることができる)
で示される一般的構造で表すことができる。
【0027】
便宜のため、式Iのホウ酸アニオンは、[B]-と表すことができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」という用語は、当業者に周知であるその普通の意味で使用される。具体的には、この用語は、分子の残りに直接結合している炭素原子を有し、主に炭化水素の性状を有する基を指す。主に炭化水素の性状とは、置換基中の原子の少なくとも70%または少なくとも80%が水素または炭素であることを意味する。一部の実施形態では、ヒドロカルビル基は、限定された数の非炭化水素原子、例えば、N、O、PまたはSを有し得る。
【0029】
ヒドロカルビル基の例として以下が挙げられる:
(i)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、および芳香族置換されている脂肪族または脂環式置換基、ならびに環が分子の別の部分を介して完成する環式置換基(例えば、2つの置換基が一緒になって環を形成する);
(ii)置換されている炭化水素置換基、すなわち、本発明との関連で非炭化水素基を含有する置換基は、置換基の主に炭化水素の性質を変化させない(例えば、ハロ(特にクロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ);
(iii)ヘテロ置換基、すなわち、主に炭化水素の性状を有する一方で、その他は炭素原子で構成される環または鎖内に炭素以外を含有し得る置換基。
【0030】
代表的なアルキル基として、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、アミル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、第二級ヘプチル、n-オクチル、第二級オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、第二級ノニル、ウンデシル、第二級ウンデシル、ドデシル、第二級ドデシル、トリデシル、第二級トリデシル、テトラデシル、第二級テトラデシル、ヘキサデシル、第二級ヘキサデシル、ステアリル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、2-ブチルオクチル、2-ブチルデシル、2-ヘキシルオクチル、2-ヘキシルデシル(hexydecyl)、2-オクチルデシル、2-ヘキシルドデシル(hexydodecyl)、2-オクチルドデシル、2-デシルテトラデシル、2-ドデシルヘキサデシル、2-ヘキシルデシルオクチルデシル、2-テトラデシルオクチルデシル(tetradecyloctyldecy)、モノメチル分枝イソステアリルなどが挙げられる。
【0031】
代表的なアリール基として、フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル(benzahydryl)、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニルベンジルフェニル、スチレン化フェニル、p-クミルフェニル、α-ナフチル、β-ナフチル基、およびこれらの混合物が挙げられる。本発明の目的のため、イオン性四面体ボレート化合物のホウ素原子に連結した酸素原子のうちの1個または複数に直接結合している芳香族基を含む化合物は除外される。
【0032】
ヘテロ原子は、硫黄、酸素、窒素を含み、ピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルなどの置換基を包含する。一般的に、2つ以下の、一実施形態では、1つ以下の非炭化水素置換基がヒドロカルビル基の中の炭素原子10個ごとに存在する。一部の実施形態では、ヒドロカルビル基の中に非炭化水素置換基は存在しない。
【0033】
式Iでは、R1およびR2は、独立して、1~48個の炭素原子の脂肪族ヒドロカルビル基から選択されてよい。代わりに、R1およびR2は、合わさって、置換または非置換の5員または6員の環を形成してよい。置換されている5員または6員の環を形成するR1およびR2の場合、置換基は、1個または2個のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族ヒドロカルビル基、およびこれらの組合せから選択されてよい。
【0034】
一部の実施形態では、R1およびR2は一緒になって、置換または非置換の5員または6員の環を形成し、置換または非置換の5または6員の環は、1個または2個のヘテロ原子を含む。R1およびR2で形成された、置換されている5員または6員の環は、脂肪族ヒドロカルビル基、少なくとも1個のヘテロ原子を含む脂肪族ヒドロカルビル基、およびこれらの組合せから選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてよい。
【0035】
R
1およびR
2で形成された、例示的な置換および非置換の5員および6員の環は、R
3およびR
4を含むものと類似の二座ジオキソ配位子を含む。本実施形態では、ボレート化合物の四面体ホウ酸イオンの構造は、式II:
【化2】
(式中、R
3’、R
4’は、R
3、R
4に対して記載されている通りであってよく、
X’およびm’は、Xおよびmに対してそれぞれ記載されている通りであってよい)
で示される構造で表すことができる。
【0036】
式IおよびIIでは、R3およびR4は、独立して、1~48個の炭素原子の脂肪族ヒドロカルビル基から選択され得るか、または一緒になって、脂環式もしくは複素環式であってよい、置換もしくは非置換の5もしくは6員の脂肪族環を形成してよい。置換されている脂肪族環を表すR3およびR4の場合、環は脂環式または複素環式であってよく、置換基は1~32個の炭素原子のヒドロカルビル基、水酸化物基、アルコキシ基、およびこれらの組合せのうちの1種または複数種を含んでもよい。本明細書で有用な例示的なアルコキシ基として、メトキシ、エトキシなどが挙げられる。
【0037】
式Iの四面体ボレート化合物では、Mはコンジュゲートカチオンを表す(式II~VIIのアニオンに対するコンジュゲートカチオンでもある)。例示的なカチオンMは、金属カチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、灰分を含まない有機カチオン(これらの一部はアンモニウムカチオンまたはホスホニウムカチオンであってもよい)、およびこれらの混合物を含むことができる。
【0038】
例示的な金属カチオンとして、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、遷移金属カチオン、およびこれらの組合せが挙げられる。金属カチオンの例として、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Sc3+、Sc2+、Sc+、Y3+、Y2+、Y+、Ti4+、Ti3+、Ti2+、Zr4+、Zr3+、Zr2+、Hf4+、Hf3+、V4+、V3+、V2+、Nb4+、Nb3+、Nb2+、Ta4+、Ta3+、Ta2+、Cr4+、Cr3+、Cr2+、Cr+、Mo4+、Mo3+、Mo2+、Mo+、W4+、W3+、W2+、W+、Mn4+、Mn3+、Mn2+、Mn+、Re4+、Re3+、Re2+、Re+、Fe6+、Fe4+、Fe3+、Fe2+、Fe+、Ru4+、Ru3+、Ru2+、Os4+、Os3+、Os2+、Os+、Co5+、Co4+、Co3+、Co2+、Co+、Rh4+、Ru3+、Rh2+、Rh+、Ir4+、Ir3+、Ir2+、Ir+、Ni3+、Ni2+、Ni+、Pd4+、Pd2+、Pd+、Pt4+、Pt3+、Pt2+、Pt+、Cu4+、Cu3+、Cu2+、Cu+、Ag3+、Ag2+、Ag+、Au4+、Au3+、Au2+、Au+、Zn2+、Zn+、Cd2+、Cd+、Hg4+、Hg2+、Hg+、Al3+、Al2+、Al+、Ga3+、Ga+、In3+、In2+、Tl3+、Tl+、Si4+、Si3+、Si2+、Si+、Ge4+、Ge3+、Ge2+、Ge+、Sn4+、Sn2+、Pb4+、Pb2+、As3+、As2+、As+、Sb3+、Bi3+、Te4+、Te2+、La3+、La2+、Ce4+、Ce3+、Ce2+、Pr4+、Pr3+、Pr2+、Nd3+、Nd2+、Sm3+、Sm2+、Eu3+、Eu2+、Gd3+、Gd2+、Gd+、Tb4+、Tb3+、Tb2+、Tb+、Db3+、Db++、Ho3+、Er3+、Tm4+、Tm3+、Tm2+、Yb3+、Yb2+、およびLu3+が挙げられる。特に有用なものは、安定した塩を形成するもの、すなわち、微量より多くの量で、潤滑組成物の予測寿命にわたり、および作動条件で分解しないものである。
【0039】
一部の実施形態では、金属カチオンは、以下にさらに詳細に考察されているアルカリまたはアルカリ金属を含有する清浄剤のうちの1種または複数種の形態で供給されてよい。
【0040】
カチオンは、灰分を含まない(無灰)有機カチオン、すなわち、灰分形成金属を含有しない有機イオンであってよい。無灰アニオンとして、窒素含有化合物、例えば、アンモニウム化合物を挙げることができる。
【0041】
例示的なアンモニウムカチオンは、R11、R12、R13、R14が、独立して、Hまたは上に記載されているようなヒドロカルビル基であることができる、一般的な形態N(R11R12R13R14)+のものである。R11、R12、R13、R14のうちのいずれか2つは、単一炭素鎖の2つの末端であってもよく、この場合、このアミンは環式構造の一部である。一実施形態では、アンモニウムカチオンは、非置換のアンモニウムカチオン(NH4
+)である。別の実施形態では、R11はHであり、R12、R13、R14のうちの1つまたは複数はヒドロカルビル基である。
【0042】
カチオンがアミンまたはアンモニウム化合物から誘導されたアンモニウムカチオンである場合、アンモニウムカチオン(またはこの誘導される元となるアミン)は、少なくとも260g/mol、または少なくとも300g/molまたは少なくとも350g/mol、または少なくとも500g/molの分子量を有することができる。化合物の溶解度は増加し、潤滑組成物中のイオン性ボレート化合物の濃度が少なくとも0.5重量%、または少なくとも1重量%、または少なくとも1.5重量%、または少なくとも2重量%、または少なくとも4.5重量%、最大10重量%、または8重量%、または6重量%となることを可能にする。
【0043】
アンモニウムカチオンは、分枝または非分枝であってよい一置換、二置換、または三置換アミンから誘導することができる。各アルキル基は、独立して、例えば、1~32、または1~24、または1~12、または1~8個の炭素原子を有していてよく、一部の実施形態では、アルキル基のうちの少なくとも1つまたは少なくとも2つは、少なくとも6個または少なくとも8個の炭素原子を有していてよい。具体的な例として、第一級アルキルアミン、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ベンジルアミン、2-フェニルエチルアミン、ココアミン、オレイルアミン、およびトリデシルアミン(CAS#86089-17-0);第二級および第三級アルキルアミン、例えば、イソプロピルアミン、sec-ブチルアミン、t-ブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、および1-フェニルエチルアミン;ジアルキルアミン、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ-(2-エチルヘキシル)アミン、ジヘキシルアミン、エチルブチルアミン、N-エチルシクロヘキシルアミン、およびN-メチルシクロヘキシルアミン;シクロアルキルアミン、例えば、ピペリジン、N-エチルピペリジン、N,N’-ジメチルピペラジン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-メチルピペリジン、ピロリジン、N-メチルピロリジン、およびN-エチルピロリジン;トリアルキルアミン、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、例えば、トリ-n-ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、例えば、トリス(2-エチルヘキシル)アミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルイソプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、およびN,N-ジメチルシクロヘキシルアミンが挙げられる。
【0044】
アンモニウムイオンが少なくとも1つのヒドロカルビル基を含む場合(第四級アンモニウムイオン)、アンモニウムカチオンは無灰の有機イオンであってよい。この型の例示的なアンモニウムカチオンとして、N-置換の長鎖アルケニルスクシンイミドおよび脂肪族ポリアミンが挙げられる。本明細書で有用なN-置換の長鎖アルケニルスクシンイミドは脂肪族ポリアミン、またはこれらの混合物から誘導することができる。脂肪族ポリアミンは、脂肪族ポリアミン、例えば、エチレンポリアミン、プロピレンポリアミン、ブチレンポリアミン、またはこれらの混合物であってよい。N-置換の長鎖アルケニルスクシンイミドの例として、少なくとも350、または少なくとも500、または少なくとも550、または少なくとも750であり、最大5000、または最大3000、または最大2500であることができる数平均分子量のポリイソブチレン置換基を有するポリイソブチレンスクシンイミドが挙げられる。このようなスクシンイミドは、例えば、高ビニリデンポリイソブチレンおよび無水マレイン酸から形成することができる。
【0045】
アンモニウムカチオンとして本明細書で有用な例示的なN-置換の長鎖アルケニルスクシンイミドは、米国特許第3,172,892号、第3,219,666号、第3,316,177号、第3,340,281号、第3,351,552号、第3,381,022号、第3,433,744号、第3,444,170号、第3,467,668号、第3,501,405号、第3,542,680号、第3,576,743号、第3,632,511号、第4,234,435号、Re26,433、および第6,165,235号、第7,238,650号ならびにEP特許出願第0355895A号により完全に記載されているスクシンイミド分散剤から誘導されたものを含む。
【0046】
アンモニウムイオンとして有用な例示的な脂肪族ポリアミンとして、エチレンポリアミン、プロピレンポリアミン、ブチレンポリアミン、およびこれらの混合物が挙げられる。例示的なエチレンポリアミンとして、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレン-ヘキサミン、ポリアミン釜残、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0047】
例示的なホスホニウムカチオンは、R14、R15、R16、R17が、独立して、上に記載されているようなヒドロカルビル基である、一般的な形態P(R14R15R16R17)+のものである。ホスホニウムカチオンが少なくとも1つのヒドロカルビル基を含む場合、ホスホニウムカチオンは無灰の有機イオンであってよい。
【0048】
全塩基価(TBN)は、潤滑油の試料の1グラム中に存在するすべての塩基性構成物質を中和するのに必要とされる酸の分量であり、水酸化カリウムと等価なミリグラム数(meq KOH)として表現される。TBNは、ASTM基準D2896-11、「電位差過塩素酸滴定による石油製品の塩基価の標準試験方法(Standard Test Method for Base Number of Petroleum Products by Potentiometric Perchloric Acid Titration)」(2011年)、ASTM International 、West Conshohocken、PA、2003年、DOI:10.1520/D2896-11(本明細書でこれより以下「D2896」)に従い決定することができる。
【0049】
カチオンは、二座ジオキソ配位子と配位を形成していない任意の塩基性構成成分と組み合わせて、D2896で測定した場合、少なくとも5、または少なくとも8、または少なくとも10、または少なくとも15、または少なくとも25の全塩基価を有するイオン性ボレート化合物/反応混合物および/または潤滑組成物を提供することができる潤滑組成物の塩基性構成成分としての役目を果たすことができる。カチオンそれ自体は、D2896で測定した場合、少なくとも10または少なくとも15、または少なくとも25、または少なくとも50のTBNを有し得る。別途明示されていない限り、TBNはこの方法で決定される。
【0050】
ASTM D4739-11(「電位差塩酸滴定による塩基価決定のための標準試験方法(Standard Test Method for Base Number Determination by Potentiometric Hydrochloric Acid Titration)」DOI:10.1520/D4739-11、本明細書でこれより以下「D4739」)とD2896の両方により測定したTBNを示す化合物の能力が所望され得る。多くのアミンはD2896で測定されるようなTBNを示すが、D4739で測定されるようなTBNを示さない。一実施形態では、カチオンTBNはD4739とD2896の両方により測定される。一実施形態では、反応生成物は、D4739で測定した場合、少なくとも5、または少なくとも10、または少なくとも15のTBNを有する。少なくとも260g/molの分子量を有するアミンのアミン塩である化合物(またはカチオンがこのような分子量を有する場合)は、高いTBNを有する潤滑組成物を提供するのに特に有用である。
【0051】
少なくとも260g/molの分子量を有するこのようなアミンおよびアンモニウム化合物の具体的な例として、ポリイソブチレンから誘導されるスクシンイミド分散剤が挙げられ、このポリイソブチレンは、1000Mnであってよく、このスクシンイミドアミンは、ポリエチレンポリアミン(Mn 1700g/mol);デシルアントラニレート(Mn 277g/mol);ノニル化ジフェニルアミン(Mn約300g/mol);N,N-ジココアミン(Mn約380g/mol);テトラブチルアンモニウム;Mannichアミン(0404.1/2);トリメチルセチルアンモニウム、およびこれらの組合せである。特に有用なアミンとして、プロトン化アミンのpKaが>5であるアミンが挙げられる。
【0052】
一部の実施形態では、イオン性ボレート化合物は金属を含まないので、金属カチオンは除外されるか、または、イオン性ボレート化合物中に存在する合計5モル%未満、または1モル%未満のカチオンMなど、組成物の性状にさほど影響を与えない微量で含まれる。
【0053】
一部の実施形態では、イオン性ボレート化合物は少なくとも1個の第2のアニオンを含み、この第2のアニオンは、上に記載されているような四配位(四面体)ホウ酸アニオン以外のアニオンである。よって、ボレート化合物は、一般的な形態:
[B]-
n-pqMn+([A]q-)p
(式中、[A]-は、第2のアニオンを表し、q≧1、p≧1、かつn-pq≧1である)
のものであってよい。
【0054】
例えば、カチオンMは、Ca2+などの金属カチオンであってよく、第2のアニオン[A]は、スルホネートアルキルサリチレート;フェネート;サリキサレート;サリゲニン;グリオキシレート;または脂肪族カルボキシレートアニオンおよびこれらの組合せであってよい。
B.潤滑粘度油
【0055】
潤滑組成物は、その少量のまたは主要な構成成分として、例えば、潤滑組成物の少なくとも5重量%、または少なくとも10重量%、または少なくとも20重量%、または少なくとも30重量%、または少なくとも40重量%、または少なくとも60重量%、または少なくとも80重量%の潤滑粘度油を含むことができる。
【0056】
適切な油として、天然および合成油、水素化分解、水素付加、および水素化仕上から誘導される油、未精製、精製、再精製した油またはこれらの混合物が挙げられる。未精製、精製および再精製した油、ならびに天然および合成油は、例えば、WO2008/147704および米国特許公開第2010/197536号に記載されている。合成油は、Fischer-Tropsch反応により生成することもでき、通常、水素異性化したFischer-Tropsch炭化水素またはワックスであってよい。油は、Fischer-Tropschの気体から液体の合成手順ならびに他の気体から液体の手順で調製することができる。
【0057】
潤滑粘度油は、2008年4月バージョンの「Appendix E - API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils」、セクション1.3、サブタイトル1.3.「Base Stock Categories」で特定されているように定義することもできる。APIガイドラインは、米国特許第7,285,516号でも要約されている。5種の基油グループは以下の通りである:グループI(硫黄含有量>0.03重量%、および/または<90重量%の飽和分、粘度指数80~120);グループII(硫黄含有量≦0.03重量%、および≧90重量%の飽和分、粘度指数80~120);グループIII(硫黄含有量≦0.03重量%、および≧90重量%の飽和分、粘度指数≧120);グループIV(すべてのポリアルファオレフィン(PAO));およびグループV(グループI、II、III、またはIVに含まれない他すべて)。例示的な潤滑粘度油は、APIグループI、グループII、グループIII、グループIV、グループVの油、またはこれらの混合物を含む。一部の実施形態では、潤滑粘度油は、APIグループI、グループII、グループIII、もしくはグループIVの油、またはこれらの混合物である。一部の実施形態では、潤滑粘度油は、APIグループI、グループII、もしくはグループIIIの油、またはこれらの混合物である。一実施形態では、潤滑粘度油は、APIグループII、グループIII鉱油、グループIV合成油、またはこれらの混合物であってよい。一部の実施形態では、潤滑組成物の少なくとも5重量%、または少なくとも10重量%、または少なくとも20重量%、または少なくとも40重量%は、ポリアルファオレフィン(グループIV)である。
【0058】
潤滑粘度油は、100℃で最大30mm2/s、または最大15mm2/s(cSt)の運動粘度を有していてよく、100℃で少なくとも15mm2/s、他の実施形態では、1~12または2~10または3~8または4~6mm2/sであることができる。本明細書で使用される場合、運動粘度は、100℃で、ASTM D445-14、「透明および不透明の液体の運動粘度に関する標準試験方法(および動粘性係数の計算)(Standard Test Method for Kinematic Viscosity of Transparent and Opaque Liquids (and Calculation of Dynamic Viscosity))」ASTM International、West Conshohocken、PA、2003年、DOI:10.1520/D0445-14)により決定され、KV_100と呼ぶことができる。分散剤粘度調整剤は、少なくとも35mm2/s、または少なくとも100mm2/s、または少なくとも500mm2/sのKV_100を有することができる。
【0059】
ある特定の実施形態では、潤滑組成物は、合成エステルベース流体を含有し得る。合成エステルは、100℃で測定された2.5mm2/s~30mm2/sの運動粘度を有し得る。一実施形態では、潤滑組成物は、少なくとも5.5mm2/s、または少なくとも6mm2/s、または少なくとも8mm2/sのKV_100を有する、50重量%未満の合成エステルベース流体を含む。
【0060】
例示的な合成油として、ポリ-アルファオレフィン、ポリエステル、ポリ-アクリレート、およびポリ-メタクリレート、ならびにこれらのコポリマーが挙げられる。例示的な合成エステルとして、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、およびアルケニルマロン酸から選択される)と、アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、およびプロピレングリコールから選択される)とのエステルが挙げられる。これらのエステルの具体的な例として、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸ダイマーの2-エチルヘキシルジエステル、ならびに1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2-エチルヘキサン酸を反応させることによって形成される複合エステルが挙げられる。
【0061】
合成油として有用なエステルは、C5~C12モノカルボン酸およびポリオールから、ならびにポリオールエーテル、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、およびトリペンタエリトリトールから作製されたものも含む。エステルは、モノエステル、例えば、商標名Priolube 1976(商標)(C18-アルキル-COO-C20アルキル)で入手可能なものであることもできる。
【0062】
合成エステル基油は、組成物の50重量%未満、または40重量%未満、または35重量%未満、または28重量%未満、または21重量%未満、または17重量%未満、または10重量%未満、または5重量%未満の量で本発明の潤滑組成物中に存在し得る。一実施形態では、本発明の潤滑組成物は、少なくとも5.5mm2/sのKV_100を有する合成エステルベース流体を含まない、または実質的に含まない。
【0063】
例示的な天然油として、動物および植物油、例えば、長鎖脂肪酸エステルが挙げられる。例として、アマニ油、ヒマワリ油、ゴマ種子油、牛脂油、ラード油、パーム油、ヒマシ油、綿実油、トウモロコシ油、ピーナッツ油、ダイズ油(soybean oil)、オリーブ油、クジラ油、メンハーデン油、イワシ油、ヤシ油、パーム核油、ババス油、ナタネ油、およびダイズ油(soya oil)が挙げられる。
【0064】
存在する潤滑粘度油の量は、通常、例示的なイオン性ボレート化合物と他の性能添加剤の量の合計を100重量%から差し引いた後の残りである。
【0065】
潤滑組成物は、濃縮物および/または完全に配合された潤滑剤の形態であってよい。潤滑組成物(本明細書で開示されているイオン性ボレート化合物を含む)が、追加の油と組み合わせて完成した潤滑剤を全体的または部分的に形成し得る濃縮物の形態である場合、イオン性ボレート化合物と潤滑粘度油との比は、重量で、0.1:99.9~99:1、または1:99~90:10、または10:90~80:20の範囲であってよい。
【0066】
イオン性ボレート化合物を含む潤滑組成物は、ASTM D445-14で測定した場合、100℃で2cSt~20cStの運動粘度を有し得る。潤滑組成物は、周囲温度(5~30℃)で液体である。すなわち、ゲルでも半固体でもない。
組成物を形成する方法
【0067】
潤滑組成物は、イオン性ボレート化合物を潤滑粘度油に、必要に応じて他の性能添加剤(本明細書に以下に記載)の存在下で添加することによって、またはイオン性ボレート化合物がin situで潤滑粘度油中に形成されるように、イオン性ボレート化合物を形成するための試薬を潤滑粘度油もしくは適切な希釈剤に添加することによって、調製することができる。
【0068】
イオン性ボレート化合物は、塩基性条件下で形成することができる。塩基性条件とは、D2896で決定された場合、塩基性である化合物が、ボレート複合体上の酸性(すなわち、引抜き可能)プロトンと反応するのに十分な分量で存在することによって、四面体の複合体の形成が可能となるような条件である。
【0069】
一実施形態では、イオン性ボレート化合物を形成するために、二座ジオキソ配位子を形成することが可能な脂肪族ジヒドロキシル化合物は、三価のホウ素化合物の一部またはすべてをイオン性ボレート化合物に変換するために十分な量で、三価のホウ素化合物および対イオンと組み合わせられる。
【0070】
一実施形態では、反応物質を潤滑粘度油中で組み合わせることができる。
【0071】
別の実施形態によれば、イオン性ボレート化合物は、脂肪族ジヒドロキシル化合物と三価のホウ素化合物を、有機溶媒、好ましくはアルコール溶媒中でブレンドすることにより形成することができる。塩基の添加は、反応を一般的に加速させる。一部の実施形態では、溶媒は、ジヒドロキシルおよび三価のホウ素化合物のうちの少なくとも一方、好ましくは両方が、実質的にまたは実質的に完全に溶解する溶媒として選択され得る。反応の経過と共に、温度は反応を促進するように調節され得、脂肪族ジヒドロキシル化合物と三価のホウ素化合物の反応により生成された水は、溶媒媒体の一部分と共に共沸により留去し得る。溶媒媒体は続いて、当業者に公知のプロセスにより水から分離し、反応チャンバーに戻すことができる。有利なことに、このプロセスは、代替の実施形態で反応が油媒体中で行われる場合、水の放出により生じる泡を減少させるために一般的に用いられる消泡剤の非存在下で用いることができる。
【0072】
上に記載されている溶媒プロセシングに対して有用な溶媒は、プロセス反応温度で、水と共沸混合するものから一般的に選択される溶媒を含み得る。アルコール溶媒は特に有用であり、これらに限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、およびペンタノールを挙げることができ、ブタノールおよびペンタノールが特に有用である。一部の実施形態では、溶媒は、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒またはこれらのブレンドであってよい。溶媒は、約100℃~170℃の範囲の沸点を有し得る。
【0073】
さらに別の実施形態では、イオン性ボレート化合物は、上に記載されている溶媒プロセスであるが、脂肪族ジヒドロキシル化合物がin situで形成される、プロセスにより形成することができる。このプロセスにより、脂肪族ジヒドロキシル化合物の反応性置換基は、三価のホウ素化合物と共に(または別々に)アルコール溶媒中で混和することができる。以下の実施例で溶媒プロセス手順1として実証される一実施形態では、ジヒドロキシル化合物の反応性置換基が、三価のホウ素化合物の添加後またはこれと同時に溶媒媒体中で混和し得る。以下の実施例で溶媒プロセス手順2として実証される別の実施形態では、ジヒドロキシル化合物を作り出す反応性置換基が、三価のホウ素化合物の添加前に、溶媒媒体中で混和および反応し得る。
【0074】
一般的に、記載されている溶媒プロセスは、約100℃~170℃の範囲内の温度で行うことができる。反応プロセスの温度をモニターし、必要に応じて調節して、ジヒドロキシル化合物の形成およびイオン性四面体ボレート化合物の形成を容易にする。
【0075】
組合せ物および/または反応生成物の形成において使用される脂肪族ジヒドロキシル化合物と、三価のホウ素化合物と、対イオン電荷との有用なモル比は、約1:1:1~約2:1:1であってよい。組合せ物および/または反応生成物の形成に使用される脂肪族ジヒドロキシル化合物と三価のホウ素化合物とのモル比は、4:1~1:2、例えば、2:1~1:2であってよく、組合せ物および/または反応生成物の形成に使用される三価のホウ素化合物と対イオン(例えば、アルキルアミン、金属清浄剤)とのモル比は1:2~2:1であってよい。
【0076】
本発明のイオン性四面体ボレート化合物の形成に有用な適切な脂肪族ジヒドロキシル化合物は、脂肪族ビシナルジオール、好ましくは1,2ビシナルジオール、および脂肪族ヒドロキシ酸または脂肪族二酸もしくはポリ酸から誘導された化合物、特に少なくとも2つの反応性ヒドロキシル基を保持する誘導体を含む。明瞭さのため、反応性ヒドロキシル基は、カルボキシル基の-OH部分を含めた任意の反応性-OH基を含み、これを指すことができる。
【0077】
適切な脂肪族1,2ビシナルジオールは、2~150個の炭素、または2~50個の炭素または2~30個の炭素または2~20個の炭素を有する分枝または非分枝の化合物を含み得る。脂肪族1,2ビシナルジオールは、モノアルキルグリコール、モノアルキルグリセロール、またはモノアシルグリセロールを含み得る。
【0078】
モノアルキルグリコールは、以下の構造A:
【化3】
(式中、R
10は、水素あるいは置換または非置換の芳香族基、1~250個の炭素原子、または1~150個または1~100個または1~50個または2~36個または4個もしくは6個もしくは8~30個の炭素原子を有する分枝または非分枝のヒドロカルビル基である。R
10は分枝または非分枝のアルキル基またはアルキレン基であってよい)
で表すことができる。
【0079】
適切なモノアルキルグリコールは、これらに限定されないが、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,2-ウンデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,2-トリデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,2-ペンタデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール(hexadecanedlol)、1,2-ヘプタデカンジオールおよび1,2-オクタデカンジオールまたは2~36個の炭素原子を含有する他の任意の脂肪族1,2-ジオールを含み得る。
【0080】
モノアルキルグリセロール(代わりに、グリセロールアルキルエーテルと言及される)は、以下の構造B:
【化4】
(式中、R
10は、以前に表された通りである)
で表される構造を有することができる。
【0081】
モノアシルグリセロールは、構造C:
【化5】
(式中、R
10は、以前に表された通りである)
で表される構造を有し得る。
【0082】
特に有用な実施形態では、モノアシルグリセロールは、グリセロールモノオレエート(glycerol monoleate)であってよい。
【0083】
一実施形態では、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、脂肪族1,2ビシナルジオールの1種またはブレンドを含み得る。一実施形態では、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、1,3ジオールを実質的に含まなくてよい。
【0084】
一部の実施形態では、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、脂肪族ヒドロキシル-カルボン酸または二酸から誘導される化合物であってよい。適切な酸は、化合物上の1~5つまたは2つのカルボキシル基、および化合物上の0もしくは1~5つもしくは2つの非カルボキシルヒドロキシル基または2つのカルボキシル基(二酸の場合のように)から誘導され得る2つの反応性ヒドロキシル基を含む。
【0085】
本発明の四面体ボレート化合物の形成に使用するのに適切であり得る非ヒドロキシル二酸は、シュウ酸およびマロン酸を含む。
【0086】
脂肪族ジヒドロキシル化合物として有用なヒドロキシ-カルボン酸は、構造D
【化6】
(式中、aおよびbは、独立して、1~5の整数であり、Xは、脂肪族もしくは脂環式の基、または炭素鎖の中に酸素原子を含有する脂肪族もしくは脂環式の基、または前述の種類の置換されている基であり、前記基は、最大6個の炭素原子を含有し、a+b個の利用可能な結合点を有し、各Yは、独立して、-O-、>NH、もしくは>NR
1であるか、または2つのYが一緒になって、2つのカルボニル基の間に形成されるイミド構造R-N<の窒素を表し、各RおよびR
1は、独立して、水素またはヒドロカルビル基であるが、ただし、少なくとも1つのRまたはR
1基がヒドロカルビル基であることを条件とし、各R
2は、独立して、水素、ヒドロカルビル基、またはアシル基であり、さらに、少なくとも1つの-OR
2基が-C(O)-Y-R基のうちの少なくとも1つに対してαまたはβであるXの炭素原子上に位置することを条件とする)の一般式を有するまたはそれで表すことができる。Yは酸素であっても窒素(すなわち、>NHまたはNR
1)であってもよいので、この材料は、エステル(すなわち、酸素縮合物)、アミドもしくはイミド(すなわち、窒素縮合物)、または、ジエステル、ジアミド、エステル-アミド、エステル-イミド、および他の混合した生成物を含めたこれらの混合物である。上に述べられている通り、各RおよびR
1は、独立して、水素またはヒドロカルビル基であるが、ただし、RまたはR
1(Yが>NR
1基である場合、存在し得るもの)のうちの少なくとも1つがヒドロカルビル基あることを条件とする。ヒドロカルビル基は、通常1~150個の炭素原子を、または、代替の実施形態では、4~30個の炭素原子もしくは6~20個もしくは10~20個もしくは11~18個もしくは8~10個の炭素原子を含有する。
【0087】
上記式では、aおよびbは、独立して、1~5の整数である。ある特定の実施形態では、aおよびbのうちの少なくとも一方は、1より大きく、すなわち、2~5または2~4または2~3であり、他方は1または上述の範囲のいずれかであってよい。aとbが両方とも1である場合、適切な構造は、グリコール酸、HO-CH2-CO2Hに基づく、すなわち、Xが-CH2-基である構造である。Xが-CH2CH2-である対応する酸は乳酸であり、これも有用であり得る。このような材料は、対応するエステルおよびアミドを形成し得る。aまたはbのうちの少なくとも1つが1より大きい酸の例として、リンゴ酸(a=2、b=1)、酒石酸(a=2、b=2)、およびクエン酸(a=3、b=1)が挙げられる。aが2またはこれよりも大きい材料はイミド形態でも存在し得る。エステルアミド、エステルイミド、アミドイミド、ジエステル、ジアミド、ジエステルアミド、エステルジアミド、およびジイミドなどの混合した材料を用いることもできるが、ただし、カルボキシル基の数が適切に大きい(および誘導体が2つの反応性ヒドロキシル基を保持する)ことを条件とする。一実施形態では、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、イミド、ジエステル、ジアミド、ジイミド、エステル-アミド、エステル-イミド、またはイミド-アミドを含んでよい。一実施形態では、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、イミド、ジエステル、ジアミド、またはエステル-アミドを含む。
【0088】
ジエステル、ジアミド、およびエステル-アミド化合物は、ジカルボン酸(例えば、酒石酸など)を、アミンまたはアルコールと、必要に応じて公知のエステル化触媒の存在下で反応させることによって、調製することができる。エステル-イミド化合物の場合、少なくとも3つのカルボン酸基(クエン酸など)を有することが必要である。ジイミドの場合、少なくとも4つのカルボン酸基を有することが必要である。例として、酒石酸、クエン酸、およびグリコール酸のエステル、アミド、およびイミドが挙げられ、ある特定の実施形態では、タルタレート、タルトラミド、およびタルトリミドが挙げられる。特に、オレイルタルトリミド、ならびにC12~16アルキルタルタレートジエステルが有用であると判明した。C12~16アルキルタルタレートジエステルは、12、13、14、および15個の炭素原子を含有するアルキル基の混合物またはこれらの組合せを含有してよい。16個の炭素原子のアルキル基はかなりの量で存在してもしなくてもよい。C12~16アルキル基は、RまたはR1基のいずれかであってもよいように、直鎖または分枝のいずれかであってよい。
【0089】
反応し得るアルコールの中には、一価または多価の、直鎖または分枝のアルコールがある。適切な分枝のアルコールの例として、2-エチルヘキサノール、イソトリデカノール、ゲルベアルコール、およびこれらの混合物が挙げられる。一価アルコールの例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、またはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、一価アルコールは5~20個の炭素原子を含有する。適切な多価アルコールの例として、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセロール、ソルビトール、ペンタエリトリトール、トリメチロールプロパン、デンプン、グルコース、スクロース、メチルグルコシド、またはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、多価アルコールは、一価アルコールと共に混合物中で使用される。通常、このような組合せでは、一価アルコールは、混合物の少なくとも60モルパーセント、または少なくとも90モルパーセントを構成する。
【0090】
適切なX基の中でも、言わば、分子のコアを形成するものは、-CH
2-、-CH
2CH
2-、>CHCH<(式中、「<」および「>」は、炭素原子への2つの結合を表す)、>CHCH
2-、および>C(CH
2-)
2であってよく、ここで、結合は、適当な-C(O)YRおよび-OR
2基により占有される。代替の実施形態では、「コア」は、単糖を連想させる構造、例えば、
【化7】
を有し得る。
【0091】
上記構造中の-OR2基は、同様に、独立して、ヒドロキシ基であってよく、ここで、R2は、水素、またはRもしくはR1と同じ種類のヒドロカルビル基であるか、または、例えば、1~4個の炭素原子を有するもの、あるいは低級カルボン酸、例えば、1~6個の炭素原子を有するもの、例えば、酢酸、プロピオン酸、または酪酸から誘導されたアシル基を含めたアシル基である。ある特定の実施形態では、すべてのR2基は水素である。
【0092】
一部の実施形態では、分子中の-OR2基のうちの少なくとも1つは、-C(O)-Y-R基のうちの1つに対してαまたはβ位にある炭素原子上に位置していてよい。よって、例示のため、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)では、-OH基は、カルボキシ基に対してαである炭素原子上にある。乳酸では、-OH基は、同様にα炭素上にある。クエン酸などの他の分子では、ヒドロキシル基と様々なカルボキシ基の間に複数のαおよびβ関係が存在する。
【0093】
WO2008/147700などの最近の特許出願(例えばその請求項1を参照されたい)では、同じ化学構造が、異なるフォーマットでも書かれている。そこでは、構造は
【化8】
(式中、R
1、R
2、Y、Y’、X、および他の変数は、酸、エステル、アミド、またはイミド基およびアルコール基を含めた本技術の構造に対応するように、その文献で定義されている)
として示されている。
【0094】
一実施形態では、脂肪族ジヒドロキシル化合物は、酒石酸から誘導される。本発明のタルタレートを調製するために使用される酒石酸は、市販のものであってよく、多くの場合、供給源(天然)または合成方法(マレイン酸からの)に応じて、1種または複数種の異性体形態、例えば、d-酒石酸、l-酒石酸、d,l-酒石酸、またはメソ酒石酸で存在する可能性が高い。例えば、d-酒石酸およびl-酒石酸のラセミ混合物は、過酸化水素を用いた(タングステン酸触媒を用いた)マレイン酸の触媒酸化から得られる。これらの誘導体はまた、当業者には容易に明らかな二酸の官能性同等物、例えば、エステル、酸塩化物、または無水物から調製することができる。
【0095】
脂肪族ジヒドロキシル化合物が酒石酸および1種または複数種のアルコールから誘導される場合、結果として生じるタルタレートは、タルタレートの調製に使用した特定のアルコールに応じて、25℃で固体、半固体、または油であってよい。潤滑組成物における添加剤としての使用のため、タルタレートは、有利なことに、このような油性の組成物に可溶性および/または安定して分散性である。例えば、油中での使用を意図する組成物は、通常、これらが使用される油中で、油溶性および/または安定して分散性である。「油溶性」という用語は、本明細書で使用される場合、必ずしも、問題のすべての組成物が、すべての油中ですべての割合で、混和性または可溶性であるという意味ではない。むしろ、溶液が所望の特性のうちの1つまたは複数を示すことを可能にする程度まで組成物が機能することが意図される油(例えば、鉱油、合成油)中で、組成物が可溶性であることを意味することを意図する。同様に、このような「溶液」は、厳密な物理的または化学的意味で真の溶液である必要はない。代わりに、これらの溶液は、実用目的のため、本発明の文脈内で交換可能であるように真の溶液の特性に十分に近い特性を本発明の目的で示すマイクロエマルジョンまたはコロイド状分散液であってよい。
【0096】
脂肪族ジヒドロキシル化合物がクエン酸誘導体である場合、例として、クエン酸トリアルキルおよびホウ素化(borated)クエン酸トリアルキル、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸ジペンチルエチルを有するクエン酸トリペンチル、ホウ素化クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、1,2-プロパンジオール(1,2-propandiol)とエステル交換したクエン酸トリエチル、クエン酸トリエチルO-アセチル、トリエチルシトレートオクタデシルスクシネート、またはこれらの混合物が挙げられる。他の適切なクエン酸エステルとして、クエン酸2-エチルヘキシル、クエン酸ドデシル、またはこれらの混合物が挙げられる。適切なクエン酸エステルのより詳細な記載はWO2005/087904および米国特許第5,338,470号に開示されている。
【0097】
適切なタルトリミドを調製するための方法(酒石酸を第一級アミンと反応させることによって)の詳細な記載は、米国特許第4,237,022号に開示されている;例えば、第4および5段を参照されたい。手短に言えば、このような材料は、酒石酸と1種または複数種の第一級アミンの反応により調製することができる。反応は、縮合水を除去しながら、イミドを形成するために十分に高い温度で行う。適切な温度は、110℃~200℃または120~180℃または130~165℃などを含む。同様のイミドは、関連するポリカルボン酸の反応により調製することができる。適切なアミンは、式RNH2(式中、Rは、通常、5~150個の炭素原子、または5~50または6~26または8~18個の炭素原子のヒドロカルビル基を表す)を有する。例示的な第一級アミンとして、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン(カプリリルアミン)、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン(ラウリルアミン)、n-テトラデシルアミン(ミリスチルアミン)、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン(パルミチルアミン)、マルガリルアミン、n-オクタデシルアミン(ステアリルアミン)、およびオレイルアミンが挙げられる。アミンは脂肪族アミンであってよく、飽和または不飽和、分枝または非分枝であってもよいが、α炭素における広範な分枝(すなわち、第三級アルキルアミン)は、立体の混み合い(stearic crowding)が反応およびイミド形成を阻害し得るので、あまり望ましくないこともある。一例では、形成されるイミドは、オレイルタルトリミドである。
【0098】
米国特許出願第2005/198894号は、適切なヒドロキシカルボン酸化合物およびこれを調製する方法を開示している。カナダ特許第1183125号;米国特許公開第2006/0183647号および第2006/0079413号;PCT出願WO2008/067259号;および英国特許第2105743A号は、すべて適切な酒石酸誘導体の例を開示している。
【0099】
例示的な実施形態では、三価のホウ素化合物の少なくとも一部分が、反応混合物中に存在する4つのヒドロキシル基と反応して、イオンを形成するように、十分な脂肪族ジヒドロキシル化合物が存在する。生じた潤滑組成物中の、三価ボレート化合物形態でのホウ素と、四面体ボレート化合物中のホウ素との重量比は、少なくとも80:20、または少なくとも90:10、または少なくとも95:5または少なくとも98:2または少なくとも99:1であってよい。一部の実施形態では、混合物中のホウ素の50%よりも多くが三価ホウ素から四価ホウ酸アニオンに変換される。
【0100】
適切な三価のホウ素化合物は、ホウ酸エステル、ホウ酸、およびこれらの誘導体を含む。ホウ酸エステルおよび酸の例は、一般的な形態B(OR)3(式中、各Rは、独立して、Hおよび1~48個の炭素原子のヒドロカルビル基から選択される)のものである。例として、ホウ酸、三価ホウ素化ヒドロキシルエステル、例えば、ホウ素化グリセロールモノオレエート(GMO)、ホウ素化グリセロールジオレエート(GDO)、ホウ素化グリセロールトリオレエート(GTO)、ホウ素化グリセロールモノココエート(GMC)、ホウ素化モノタロエート(GMT)、ホウ素化グリセロールモノ-ソルビテート(GMS)、ペンダントヒドロキシル基を有するホウ素化ポリオールエステル、例えば、ホウ素化ペンタエリトリトールジ-C8エステル、トリ-ヒドロキシルオルトボレート、ホウ素化分散剤、例えば、ホウ素化スクシンイミド、ホウ素化清浄剤、およびこれらの組合せが挙げられる。
【0101】
一実施形態では、対イオンは、少なくとも5(meq KOH/g)の全塩基価(TBN)を有する反応生成物を提供する塩基性構成成分、例えば、分散剤または清浄剤または酸化防止剤である。対イオンの供給源は、TBNが少なくとも5である、アミン系分散剤または清浄剤であってよい。鉱油中での可溶化のため、特定の例は、高いN:CO比および少なくとも5(mgKOH/g)、例えば、少なくとも10、または少なくとも25のTBNを有するポリイソブテニルスクシンイミドとポリアミンとの分散剤、ならびに可溶化された脂肪アミン、例えば、ステアリルまたはオレイルアミンを含む。清浄剤対イオンの例として、過塩基性および中性のカルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネートまたはナトリウムスルホネート、カルシウムフェネート、マグネシウムフェネートまたはナトリウムフェネート、カルシウムサリチレート、マグネシウムサリチレート、またはナトリウムサリチレートならびに以下の詳細に記載されているおよびそれ以外の当業者に公知の他の清浄剤が挙げられる。
【0102】
一実施形態では、イオン性ボレート化合物は、「ボロ-タルトリミド」摩擦調整剤を形成するための、タルトリミド、b)ホウ酸エステル、ホウ酸、またはこれらの誘導体、およびc)塩基性構成成分、例えば、分散剤または清浄剤または酸化防止剤の反応生成物である。
【0103】
一実施形態では、イオン性ボレート化合物は、「四面体ホウ素化GMO」摩擦調整剤を形成するための、グリセロールモノオレエート、b)ホウ酸エステル、ホウ酸、またはこれらの誘導体、およびc)塩基性構成成分、例えば、分散剤または清浄剤または酸化防止剤の反応生成物である。
【0104】
これらの材料は、腐食およびシール劣化に対する負の影響を最小限に抑えながら3つの構成成分の正の特質を増強することができる。加えて、これらの材料の組合せは、性能の耐久性の増強、すなわち、さもなければ個々の構成成分から予想し得るものよりも長いサービス間隔にわたる正の効果の維持も提供することができる。
【0105】
潤滑組成物は、イオン性ボレート化合物の一部以外の追加の性能添加剤、例えば、清浄剤、酸化防止剤、追加の分散剤、摩耗防止剤、および摩擦調整剤などをさらに含むことができる。
C.他の性能添加剤
【0106】
本明細書で開示されている例示的なイオン性ボレート化合物(複数可)に加えて、潤滑組成物は、以下の追加の性能添加剤のうちの1種または複数種をさらに含み得る:清浄剤、酸化防止剤、分散剤、粘度調整剤、摩耗防止/抗スカッフィング剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、流動点降下剤、腐食防止剤、シール膨潤剤など。
清浄剤
【0107】
潤滑組成物は、少なくとも1種の清浄剤を必要に応じてさらに含む。本明細書で有用な例示的な清浄剤は、過塩基性金属含有清浄剤を含む。金属含有清浄剤の金属は、亜鉛、ナトリウム、カルシウム、バリウム、またはマグネシウムであってよい。過塩基性金属含有清浄剤は、スルホネート、硫黄不含フェネート、硫黄含有フェネート、サリキサレート、サリチレート、およびこれらの混合物、またはこれらのホウ素化同等物から選択することができる。過塩基性清浄剤はホウ酸などのホウ素化剤を用いてホウ素化することができる。
【0108】
過塩基性金属含有清浄剤は、例えば、米国特許第6,429,178号;第6,429,179号;第6,153,565号;および第6,281,179号に記載されているような、フェネートおよび/またはスルホネート構成成分、例えば、フェネート/サリチレート、スルホネート/フェネート、スルホネート/サリチレート、スルホネート/フェネート/サリチレートを含む混合した界面活性剤系で形成される「ハイブリッド」清浄剤を含んでもよい。ハイブリッドスルホネート/フェネート清浄剤が用いられる場合、このハイブリッド清浄剤は、それぞれ同じ量のフェネート石鹸およびスルホネート石鹸を導入する個別のフェネート清浄剤およびスルホネート清浄剤の量と同等と考えることができる。
【0109】
例示的な過塩基性金属含有清浄剤は、スルホネート、フェネート(硫黄含有および硫黄不含フェネートを含む)、サリキサレートおよびサリチレートの亜鉛、ナトリウム、カルシウムおよびマグネシウムの塩を含む。このような過塩基性スルホネート、サリキサレート、フェネートおよびサリチレートは、120~700、または250~600、または300~500(油不含ベースで)の全塩基価を有し得る。
【0110】
過塩基性スルホネート清浄剤は、12~20未満、または12~18、または20~30、または22~25の金属比を有し得る。
【0111】
通常、過塩基性金属含有清浄剤は、スルホネート、フェネート、硫黄含有フェネート、サリキサレートまたはサリチレートの亜鉛、ナトリウム、カルシウムまたはマグネシウムの塩であってよい。過塩基性スルホネート、サリキサレート、フェネートおよびサリチレートは、通常、120~700TBNの全塩基価を有する。過塩基性スルホネートは、通常、120~700、または250~600、または300~500(油不含ベースで)の全塩基価を有する。
【0112】
過塩基性スルホネート清浄剤は、12~20未満、または12~18、または20~30、または22~25の金属比を有し得る。
【0113】
例示的なスルホネート清浄剤は、直鎖および分枝のアルキルベンゼンスルホネート清浄剤、およびこれらの混合物を含み、これらは、例えば、米国特許出願公開第2005065045号に記載されているように少なくとも8の金属比を有し得る。直鎖アルキルベンゼンは、直鎖上のいずれかの位置、普通2、3、もしくは4位に結合しているベンゼン環、またはこれらの混合物を有し得る。直鎖アルキルベンゼンスルホネート清浄剤は、燃費改善を援助するのに特に有用であり得る。
【0114】
一実施形態では、アルキルベンゼンスルホネート清浄剤は、分枝アルキルベンゼンスルホネート、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、またはこれらの混合物であってよい。
【0115】
一実施形態では、潤滑組成物は、直鎖アルキルベンゼンスルホネート清浄剤を含まなくてよい。スルホネート清浄剤は、米国特許出願公開第20080119378号で開示されたような1種または複数種の油溶性アルキルトルエンスルホネート化合物の金属塩であってよい。
【0116】
潤滑組成物は、少なくとも0.01重量%または少なくとも0.1重量%の清浄剤、一部の実施形態では、最大2重量%、または最大1重量%の清浄剤を含み得る。分枝アルキルベンゼンスルホネート清浄剤は、0.1~3重量%、または0.25~1.5重量%、または0.5~1.1重量%で潤滑組成物中に存在してよい。
【0117】
上述のように、一部の実施形態では、1種または複数種の清浄剤は、イオン性ボレート化合物の対イオンを提供するように選択することができる。
酸化防止剤
【0118】
潤滑組成物は、少なくとも1種の酸化防止剤を必要に応じてさらに含む。本明細書で有用な例示的な酸化防止剤として、フェノール系およびアミン系酸化防止剤、例えば、ジアリールアミン、アルキル化ジアリールアミン、ヒンダードフェノール、およびこれらの混合物が挙げられる。ジアリールアミンまたはアルキル化ジアリールアミンは、フェニル-α-ナフチルアミン(PANA)、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニルナフチルアミン(alkylated phenylnapthylamine)、またはこれらの混合物であってよい。例示的なアルキル化ジフェニルアミンとして、ジノニルジフェニルアミン、ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、ジデシルジフェニルアミン、デシルジフェニルアミン、およびこれらの混合物が挙げられる。例示的なアルキル化ジアリールアミンとして、オクチル、ジオクチル、ノニル、ジノニル、デシルおよびジデシルフェニルナフチルアミンが挙げられる。
【0119】
ヒンダードフェノール酸化防止剤は、多くの場合、立体障害性基として第二級ブチルおよび/または第三級ブチル基を含有する。フェノール基は、ヒドロカルビル基(例えば、直鎖もしくは分枝のアルキル)および/または第2の芳香族基に結合している架橋基でさらに置換されていてよい。適切なヒンダードフェノール酸化防止剤の例として、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-エチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-プロピル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、および4-ドデシル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールが挙げられる。一実施形態では、ヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステル、例えば、米国特許第6,559,105号に記載されているものであってよい。このような1つのヒンダードフェノールエステルは、Cibaから入手可能なIrganox(商標)L-135として販売されている。
【0120】
存在する場合、潤滑組成物は、少なくとも0.1重量%または少なくとも0.5重量%、または少なくとも1重量%の酸化防止剤を、一部の実施形態では、最大3重量%、または最大2.75重量%、または最大2.5重量%の酸化防止剤を含んでよい。
【0121】
上述のように、一部の実施形態では、1種または複数種の酸化防止剤は、イオン性ボレート化合物の対イオンを提供するように選択することができる。
分散剤
【0122】
潤滑組成物は、例示的な化合物以外の少なくとも1種の分散剤を必要に応じてさらに含む。例示的な分散剤として、スクシンイミド分散剤、Mannich分散剤、スクシンアミド分散剤、およびポリオレフィンコハク酸エステル、アミド、およびエステル-アミド、ならびにこれらの混合物が挙げられる。スクシンイミド分散剤は、存在する場合、カチオンMに有用と記載されているスクシンイミドに関して上に記載されている通りであってよい。
【0123】
スクシンイミド分散剤は、脂肪族ポリアミン、またはその混合物から誘導することができる。脂肪族ポリアミンは、エチレンポリアミン、プロピレンポリアミン、ブチレンポリアミンまたはこれらの混合物であってよい。一実施形態では、脂肪族ポリアミンは、エチレンポリアミンであってよい。一実施形態では、脂肪族ポリアミンは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレン-ヘキサミン、ポリアミン釜残、およびこれらの混合物から選択することができる。
【0124】
一実施形態では、分散剤は、ポリオレフィンコハク酸エステル、アミド、またはエステル-アミドであってよい。ポリオレフィンコハク酸エステル-アミドは、アルコール(ペンタエリトリトールなど)および上に記載されているようなポリアミンと反応させたポリイソブチレンコハク酸であってよい。例示的なポリオレフィンコハク酸エステルとして、ペンタエリトリトールのポリイソブチレンコハク酸エステルおよびその混合物が挙げられる。
【0125】
分散剤は、N-置換の長鎖アルケニルスクシンイミドであってよい。N-置換の長鎖アルケニルスクシンイミドの例は、ポリイソブチレンスクシンイミドである。通常、ポリイソブチレンコハク酸無水物の誘導される元となるポリイソブチレンは、350~5000、または550~3000または750~2500の数平均分子量を有する。スクシンイミド分散剤およびこれらの調製は、例えば、米国特許第3,172,892号、第3,219,666号、第3,316,177号、第3,340,281号、第3,351,552号、第3,381,022号、第3,433,744号、第3,444,170号、第3,467,668号、第3,501,405号、第3,542,680号、第3,576,743号、第3,632,511号、第4,234,435号、Re26,433、および第6,165,235号、および第7,238,650号ならびにEP特許出願第0355895A号に開示されている。
【0126】
スクシンイミド分散剤は、ポリイソブチレンスクシンイミドを含んでよく、ポリイソブチレンスクシンイミドの誘導される元となるポリイソブチレンは、350~5000、または750~2500の数平均分子量を有する。
【0127】
例示的な分散剤はまた、様々な薬剤のいずれかとの反応により従来の方法で後処理することもできる。これらの中には、ホウ素化合物(ホウ酸など)、ウレア、チオウレア、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、例えば、テレフタル酸、炭化水素置換されたコハク酸無水物、無水マレイン酸、ニトリル、エポキシド、およびリン化合物がある。一実施形態では、後処理される分散剤は、ホウ素化される。一実施形態では、後処理される分散剤は、ジメルカプトチアジアゾールと反応させる。一実施形態では、後処理される分散剤は、リン酸または亜リン酸と反応させる。一実施形態では、後処理される分散剤は、テレフタル酸およびホウ酸と反応させる(米国特許出願公開第2009/0054278号に記載されている通り)。
【0128】
存在する場合、潤滑組成物は、少なくとも0.01重量%、または少なくとも0.1重量%、または少なくとも0.5重量%、または少なくとも1重量%の分散剤を、一部の実施形態では、最大20重量%、または最大15重量%、または最大10重量%、または最大6重量%、または最大3重量%の分散剤を含んでよい。
【0129】
上述のように、一部の実施形態では、1種または複数種の分散剤は、イオン性ボレート化合物の対イオンを提供するように選択することができる。
摩耗防止剤
【0130】
潤滑組成物は、少なくとも1種の摩耗防止剤を必要に応じてさらに含む。本明細書での使用に適切な、適切な摩耗防止剤の例として、チタン化合物、タルタレート、タルトリミド、リン化合物の油溶性アミン塩、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属(ジアルキルジチオリン酸亜鉛など)、ホスファイト(亜リン酸ジブチルなど)、ホスホネート、チオカルバメート含有化合物、例えば、チオカルバメートエステル、チオカルバメートアミド、チオカルバミン酸エーテル、アルキレン-カップリングしたチオカルバメート、およびビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィドが挙げられる。摩耗防止剤は、一実施形態では、米国特許出願公開第2006/0079413号;第2006/0183647号;および第2010/0081592号に記載されているような、タルタレート、またはタルトリミドを含んでよい。タルタレートまたはタルトリミドは、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8であるアルキル-エステル基を含有してよい。摩耗防止剤は、一実施形態では、米国特許出願公開第20050198894号に開示されているようなシトレートを含んでよい。
【0131】
潤滑組成物は、一実施形態では、リン含有摩耗防止剤をさらに含むことができる。例示的なリン含有摩耗防止剤として、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ホスファイト、ホスフェート、ホスホネート、およびリン酸アンモニウム塩、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0132】
存在する場合、潤滑組成物は、少なくとも0.01重量%、または少なくとも0.1重量%、または少なくとも0.5重量%の摩耗防止剤を、一部の実施形態では、最大3重量%、または最大1.5重量%、または最大0.9重量の摩耗防止剤を含んでよい。
油溶性チタン化合物
【0133】
潤滑組成物は、摩耗防止剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、堆積を制御する添加剤、またはこれらの機能のうちの1種より多くとして機能し得る1種または複数種の油溶性チタン化合物を含んでよい。例示的な油溶性チタン化合物は、米国特許第7,727,943号および米国特許出願公開第2006/0014651号に開示されている。例示的な油溶性チタン化合物として、チタン(IV)アルコキシド、例えば、チタン(IV)イソプロポキシドおよびチタン(IV)2エチルヘキソキシドが挙げられる。このようなアルコキシドは、一価アルコール、ビシナル1,2-ジオール、ポリオール、またはこれらの混合物から形成することができる。一価のアルコキシドは、2~16個、または3~10個の炭素原子を有し得る。一実施形態では、チタン化合物は、ビシナル1,2-ジオールまたはポリオールのアルコキシドを含む。1,2-ビシナルジオールは、グリセロールの脂肪酸モノ-エステルを含み、この脂肪酸は、例えば、オレイン酸であってよい。他の例示的な油溶性チタン化合物として、チタンカルボキシレート、例えば、ネオデカン酸チタンが挙げられる。
【0134】
潤滑組成物中に存在する場合、油溶性チタン化合物の量は、摩耗防止剤の一部として含まれる。
極圧(EP)剤
【0135】
潤滑組成物は、極圧剤を含んでもよい。油に可溶性である例示的な極圧剤として、硫黄-およびクロロ硫黄を含有するEP剤、ジメルカプトチアジアゾールまたは分散剤(通常スクシンイミド分散剤)のCS2誘導体、塩素化した炭化水素EP剤およびリンEP剤の誘導体が挙げられる。このようなEP剤の例として、塩素化ワックス;硫化オレフィン(硫化イソブチレンなど)、ヒドロカルビル置換2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールおよびそのオリゴマー、有機硫化物およびポリスルフィド、例えば、ジベンジルジスルフィド、ビス-(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化テルペン、および硫化ディールスアルダー付加体;ホスホ硫化炭化水素、例えば、リン硫化物とテレビンまたはオレイン酸メチルとの反応生成物;リンエステル、例えば、ジヒドロカーボンおよびトリヒドロカーボンホスファイト、例えば、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジヘプチル、亜リン酸ジシクロヘキシル、亜リン酸ペンチルフェニル;亜リン酸ジペンチルフェニル、亜リン酸トリデシル、亜リン酸ジステアリルおよびポリプロピレン置換亜リン酸フェノール;金属チオカルバメート、例えば、ジオクチルジチオカルバミン酸亜鉛およびバリウムヘプチルフェノール二酸;例えば、ジアルキルジチオリン酸とプロピレンオキシドとの反応生成物のアミン塩、およびこれに続くさらなるP2O5との反応物を含めた、アルキルおよびジアルキルリン酸のアミン塩または誘導体;ならびにこれらの混合物が挙げられる。一部の有用な極圧剤は、米国特許第3,197,405号に記載されている。
【0136】
存在する場合、潤滑組成物は、少なくとも0.01重量%、または少なくとも0.1重量%、または少なくとも0.5重量%の極圧剤を、一部の実施形態では、最大3重量%、または最大1.5重量%、または最大0.9重量%の極圧剤を含んでよい。
消泡剤
【0137】
潤滑組成物は、消泡剤を含んでよい。潤滑剤組成物において有用であり得る消泡剤として、ポリシロキサン;アクリル酸エチルと2-エチルヘキシルアクリレートと、必要に応じて酢酸ビニルとのコポリマー;フッ化ポリシロキサン、トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドおよび(エチレンオキシド-プロピレンオキシド)ポリマーを含む抗乳化剤が挙げられる。
粘度調整剤
【0138】
潤滑組成物は、粘度調整剤を含んでよい。潤滑剤組成物において有用な粘度調整剤(時には粘度指数改善剤または粘度改善剤とも呼ばれる)は、普通、ポリイソブテン、ポリメタクリレート(PMA)およびポリメタクリル酸エステル、ジエンポリマー、ポリアルキルスチレン、エステル化スチレン-無水マレイン酸コポリマー、水素添加アルケニルアレーン-共役ジエンコポリマー、およびオレフィンコポリマーまたはOCPとも呼ばれるポリオレフィンを含めたポリマーである。PMAは、異なるアルキル基を有するメタクリレートモノマーの混合物から調製される。アルキル基は、1~18個の炭素原子を含有する直鎖または分枝鎖基であってよい。大部分のPMAは、粘度調整剤であると同時に流動点降下剤である。一実施形態では、粘度調整剤は、エチレンおよび1種または複数種の高級オレフィン、例えば、プロピレンを含むポリオレフィンである。
【0139】
存在する場合、潤滑組成物は、少なくとも0.01重量%、または少なくとも0.1重量%、または少なくとも0.3重量%、または少なくとも0.5重量%のポリマー性粘度調整剤を、一部の実施形態では、最大10重量%、または最大5重量%、または最大2.5重量%のポリマー性粘度調整剤を含んでよい。
腐食防止剤および金属不活性化剤
【0140】
潤滑組成物は、腐食防止剤を含んでよい。例示的な潤滑組成物において有用であり得る腐食防止剤/金属不活性化剤として、脂肪アミン、オクタン酸オクチルアミン、ドデセニルコハク酸または無水物、およびオレイン酸などの脂肪酸と、ポリアミンとの縮合物、ベンゾトリアゾールの誘導体(例えば、トリルトリアゾール)、1,2,4-トリアゾール、ベンゾイミダゾール、2-アルキルジチオベンゾイミダゾールおよび2-アルキルジチオベンゾチアゾールが挙げられる。
流動点降下剤
【0141】
潤滑組成物は、流動点降下剤を含んでよい。例示的な潤滑組成物において有用であり得る流動点降下剤として、ポリアルファオレフィン、無水マレイン酸-スチレンのコポリマーのエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、およびポリアクリルアミドが挙げられる。
摩擦調整剤
【0142】
潤滑組成物は、本発明の対象として記載されているもの以外の摩擦調整剤を含んでよい。例示的な潤滑組成物において有用であり得る摩擦調整剤として、脂肪酸誘導体、例えば、アミン、エステル、エポキシド、脂肪酸イミダゾリン、カルボン酸とポリアルキレン-ポリアミンの縮合物、およびアルキルリン酸のアミン塩が挙げられる。
【0143】
摩擦調整剤は、灰分を含まない摩擦調整剤であってよい。このような摩擦調整剤は、ASTM D874の条件に供した際にいかなる硫酸化灰分も通常生成しない摩擦調整剤である。添加剤は、これが潤滑剤組成物に金属含有量を与えない場合、「金属不含」と呼ばれる。本明細書で使用される場合、摩擦調整剤との関連の「脂肪アルキル(fatty alkyl)」または「脂肪(fatty)」という用語は、8~30個の炭素原子を有する炭素鎖、通常、直鎖状炭素鎖を意味する。
【0144】
一実施形態では、灰分を含まない摩擦調整剤は、式
【化9】
(式中、DおよびD’は、独立して、-O-、>NH、>NR
23、DとD’基の両方を一緒にし、2つの>C=O基間でR
21-N<基を形成することにより形成されるイミド基から選択され、Eは、-R
24-O-R
25-、>CH
2、>CHR
26、>CR
26R
27、>C(OH)(CO
2R
22)、>C(CO
2R
22)
2、および>CHOR
28から選択され、ここで、R
24およびR
25は、独立して、>CH
2、>CHR
26、>CR
26R
27、>C(OH)(CO
2R
22)、および>CHOR
28から選択され、qは、0~10であるが、q=1の場合、Eが>CH
2ではなく、n=2の場合、Eが両方とも>CH
2ではないことを条件とし、pは、0または1であり、R
21は、独立して、水素または通常1~150個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であるが、R
21が水素の場合、pが0であり、qが1と等しいまたはこれよりも大きいことを条件とし、R
22は、通常1~150個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基であり、R
23、R
24、R
25、R
26およびR
27は、独立して、ヒドロカルビル基であり、R
28は、水素または通常1~150個の炭素原子、もしくは4~32個の炭素原子、もしくは8~24個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である)で表すことができる。ある特定の実施形態では、ヒドロカルビル基であるR
23、R
24、およびR
25は、直鎖または主に直鎖のアルキル基であってよい。
【0145】
ある特定の実施形態では、灰分を含まない摩擦調整剤は、様々なヒドロキシ-カルボン酸、例えば、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、およびマンデル酸の脂肪エステル、アミド、またはイミドである。適切な材料の例として、酒石酸ジ(2-エチルヘキシル)エステル(すなわち、ジ(2-エチルヘキシル)タルタレート)、ジ(C8~C10)タルタレート、ジ(C12~15)タルタレート、ジオレイルタルタレート、オレイルタルトリミド、およびオレイルリンゴ酸イミド(oleyl malimide)が挙げられる。
【0146】
ある特定の実施形態では、灰分を含まない摩擦調整剤は、アミンの長鎖脂肪酸誘導体、脂肪エステル、または脂肪エポキシド;脂肪イミダゾリン、例えば、カルボン酸とポリアルキレン-ポリアミンの縮合物;アルキルリン酸のアミン塩;脂肪アルキルタルタレート;脂肪アルキルタルトリミド;脂肪アルキルタルトラミド;脂肪ホスホネート;脂肪ホスファイト;ホウ素化リン脂質、ホウ素化脂肪エポキシド;グリセロールエステル;ホウ素化グリセロールエステル;脂肪アミン;アルコキシ化脂肪アミン;ホウ素化アルコキシ化脂肪アミン;第三級ヒドロキシ脂肪アミンを含むヒドロキシルおよびポリヒドロキシ脂肪アミン;ヒドロキシアルキルアミド;脂肪酸の金属塩;アルキルサリチレートの金属塩;脂肪オキサゾリン;脂肪エトキシ化アルコール;カルボン酸とポリアルキレンポリアミンの縮合物;または脂肪カルボン酸とグアニジン、アミノグアニジン、ウレア、またはチオウレアとの反応生成物ならびにこれらの塩から選択することができる。
【0147】
摩擦調整剤は、硫化脂肪化合物およびオレフィン、ポリオールのヒマワリ油またはダイズ油モノエステルならびに脂肪族カルボン酸などの材料を包含してもよい。
【0148】
別の実施形態では、摩擦調整剤は長鎖脂肪酸エステルであってよい。別の実施形態では、長鎖脂肪酸エステルはモノ-エステルであってよく、別の実施形態では、長鎖脂肪酸エステルはトリグリセリドであってよい。
【0149】
潤滑剤中の灰分を含まない摩擦調整剤の量は、0.1~3重量パーセント(または0.12~1.2または0.15~0.8重量パーセント)であってよい。材料は、濃縮物で単独でまたは他の添加剤と共に、およびより少量の油と共に存在することもできる。濃縮物では、材料の量は、上記濃度量の2~10倍であってよい。
【0150】
モリブデン化合物も摩擦調整剤として公知である。例示的なモリブデン化合物は、ジチオカルバメート部分または配位子を含有しない。
【0151】
窒素含有モリブデン材料として、米国特許第6,329,327号に記載されているようなモリブデン-アミン化合物、および米国特許第6,914,037号に記載されているような、モリブデン供給源、脂肪油、およびジアミンの反応から作製された有機モリブデン化合物が挙げられる。他のモリブデン化合物は米国特許出願公開第20080280795号に開示されている。モリブデンアミン化合物は、六価モリブデン原子を含有する化合物を、式NR
29R
30R
31(式中、R
29、R
30およびR
31のそれぞれは、独立して、水素または1~32個の炭素原子のヒドロカルビル基であり、R
29、R
30およびR
31のうちの少なくとも1つは、4個またはそれよりも多くの炭素原子のヒドロカルビル基である)で表されるか、あるいは式
【化10】
(式中、R
32は、10個またはそれよりも多くの炭素原子を有する鎖ヒドロカルビル基を表し、sは、0または1であり、R
33および/またはR
34は、水素原子、ヒドロカルビル基、アルカノール基またはアルキルアミノ基(2~4個の炭素原子を有する)を表し、s=0の場合、R
33とR
34は両方とも水素原子でも炭化水素基でもない)で表される第一級、第二級または第三級アミンと反応させることによって得ることができる。
【0152】
適切なアミンの具体的な例として、モノアルキル(またはアルケニル)アミン、例えば、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、牛脂アルキルアミン、硬化牛脂アルキルアミン、およびダイズ油アルキルアミン;ジアルキル(またはアルケニル)アミン、例えば、N-テトラデシルメチルアミン、N-ペンタデシルメチルアミン、N-ヘキサデシルメチルアミン、N-ステアリルメチルアミン、N-オレイルメチルアミン、N-ドコシルメチルアミン、N-牛脂アルキルメチルアミン、N-硬化牛脂アルキルメチルアミン、N-ダイズ油アルキルメチルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジココイルアミン、ビス(2-ヘキシルデシル)アミン、ビス(2-オクチルドデシル)アミン、ビス(2-デシルテトラデシル)アミン、牛脂ジアルキルアミン、硬化牛脂ジアルキルアミン、およびダイズ油ジアルキルアミン;ならびにトリアルキル(トリアルケニル)アミン、例えば、テトラデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、牛脂アルキルジメチルアミン、硬化牛脂アルキルジメチルアミン、ダイズ油アルキルジメチルアミン、ジオレイルメチルアミン、トリテトラデシルアミン、トリステアリルアミン、およびトリオレイルアミンが挙げられる。適切な第二級アミンは、14~18個の炭素原子を有する2つのアルキル(またはアルケニル)基を有する。
【0153】
六価モリブデン原子を含有する化合物の例として、三酸化モリブデンまたはその水和物(MoO3・nH2O)、モリブデン酸(H2MoO4)、モリブデン酸アルカリ金属塩(Q2MoO4)(式中、Qは、アルカリ金属、例えば、ナトリウムおよびカリウムを表す)、モリブデン酸アンモニウム{(NH4)2MoO4またはヘプタモリブデート(NH4)6[Mo7O24].4H2O}、MoOCl4、MoO2Cl2、MoO2Br2、Mo2O3Cl6などが挙げられる。三酸化モリブデンまたはその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩およびモリブデン酸アンモニウムは、多くの場合、これらは容易に手に入ることから適切である。一実施形態では、潤滑組成物は、モリブデンアミン化合物を含む。
【0154】
本発明の他の有機モリブデン化合物は、脂肪油と、モノ-アルキル化アルキレンジアミンと、モリブデン供給源との反応生成物であってよい。この種の材料は、2つのステップで一般的に作製される。第1のステップは、アミノアミド/グリセリド混合物の高温での調製を含み、第2のステップは、モリブデンの組込みを含む。
【0155】
使用することができる脂肪油の例として、綿実油、ラッカセイ油、ヤシ油、アマニ油、パーム核油、オリーブ油、トウモロコシ油、パーム油、ヒマシ油、ナタネ油(低または高エルカ酸)、ダイズ油、ヒマワリ油、ニシン油、イワシ油、およびタロウが挙げられる。これらの脂肪油は、脂肪酸のグリセリルエステル、トリアシルグリセロールまたはトリグリセリドとして一般的に公知である。
【0156】
使用することができる一部のモノ-アルキル化アルキレンジアミンの例として、メチルアミノプロピルアミン、メチルアミノエチルアミン、ブチルアミノプロピルアミン、ブチルアミノエチルアミン、オクチルアミノプロピルアミン、オクチルアミノエチルアミン、ドデシルアミノプロピルアミン、ドデシルアミノエチルアミン、ヘキサデシルアミノプロピルアミン、ヘキサデシルアミノエチルアミン、オクタデシルアミノプロピルアミン、オクタデシルアミノエチルアミン、イソプロピルオキシプロピル-1,3-ジアミノプロパン、およびオクチルオキシプロピル-1,3-ジアミノプロパンが挙げられる。脂肪酸から誘導されるモノ-アルキル化アルキレンジアミンも使用することができる。例として、N-ココアルキル-1,3-プロパンジアミン(Duomeen(登録商標)C)、N-トール油アルキル-1,3-プロパンジアミン(Duomeen(登録商標)T)およびN-オレイル-1,3-プロパンジアミン(Duomeen(登録商標)O)が挙げられ、すべてAkzo Nobelから市販されている。
【0157】
脂肪油/ジアミン複合体への組込みのためのモリブデン供給源は、一般的に酸素含有モリブデン化合物であり、上記と同じように、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化モリブデンおよびこれらの混合物を含む。1つの適切なモリブデン供給源は、三酸化モリブデン(MoO3)を含む。
【0158】
市販の窒素含有モリブデン化合物として、例えば、モリブデンアミン化合物であるAdekaから入手可能なSakuralube(登録商標)710、およびR.T. Vanderbiltから入手可能なMolyvan(登録商標)855が挙げられる。
【0159】
窒素含有モリブデン化合物は、組成物の0.005~2重量%、または0.01~1.3重量%、または組成物の0.02~1.0重量%で潤滑剤組成物中に存在してよい。モリブデン化合物は、潤滑剤組成物に、0~1000ppm、または5~1000ppm、または10~750ppm、5ppm~300ppm、または20ppm~250ppmのモリブデンを提供し得る。
抗乳化剤
【0160】
本明細書で有用な抗乳化剤として、トリアルキルホスフェート、ならびにエチレングリコール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、およびこれらの混合物の様々なポリマーおよびコポリマーが挙げられる。
シール膨張剤
【0161】
本明細書で有用なシール膨張剤として、スルホレン誘導体、例えば、Exxon Necton-37(商標)(FN1380)およびExxon Mineral Seal Oil(商標)(FN3200)が挙げられる。
【0162】
異なる実施形態でのエンジン潤滑剤組成物は、表1に例示されているような組成を有することができる。すべての添加剤は油不含ベースで表現されている。
【表1】
潤滑組成物の使用
【0163】
本明細書に記載の潤滑剤組成物の最終使用は、これらに限定されないが、乗用車、ヘビー、ミディアムおよびライトデューティーディーゼル乗物、大型エンジン、例えば、船舶用ディーゼルエンジン、小型エンジン、例えば、オートバイおよび2サイクルオイルエンジンのために使用されるものを含めたエンジンオイル、ギアおよび自動変速装置オイルを含めたドライブライン潤滑剤、ならびに工業用オイル、例えば、液圧用潤滑剤を含む。
【0164】
機械的なデバイスを潤滑させる例示的な方法は、例示的な潤滑組成物をデバイスに供給することを含む。機械的なデバイスは、乗物のエンジンまたはドライブラインデバイス、例えば、マニュアルトランスミッション、シンクロメッシュギアボックス、または軸を含み得る。
【0165】
一実施形態では、良好な腐食、TBNの保持、酸化および堆積性能ならびに分散性能の1つまたは複数を維持しながら摩擦および摩耗の1つまたは複数を改善するため、本明細書に記載のイオン性ホウ素化合物の使用が提供される。
【0166】
一実施形態では、内燃エンジンを潤滑させる方法は、本明細書で開示されているような潤滑組成物を内燃エンジンに供給することを含む。一般的に、潤滑組成物は、内燃エンジンの潤滑システムに添加され、次いで潤滑システムがその作動中に、潤滑を必要とするエンジンの重要な部分に潤滑組成物を送達する。
【0167】
例示的な潤滑組成物により潤滑されることになる内燃エンジンの構成成分(複数可)は、スチールまたはアルミニウムの表面(通常、スチールの表面)を有していてよく、例えば、ダイヤモンド様炭素(DLC)コーティングでコーティングされていてもよい。アルミニウム表面は、共融または超共融アルミニウム合金(ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、または他のセラミック材料から誘導されたものなど)であってもよいアルミニウム合金を含み得る。アルミニウム表面は、アルミニウム合金またはアルミニウム複合材で形成されたシリンダーボア、シリンダーブロック、またはピストンリング上に存在し得る。
【0168】
内燃エンジンは、排気再循環(Exhaust Gas Recirculation)システムを有しても有さなくてもよい。内燃エンジンは排ガス規制システムまたはターボチャージャーを装着していてよい。排ガス規制システムの例として、ディーゼル微粒子フィルター(DPF)、または選択的触媒還元(SCR)を用いるシステムが挙げられる。
【0169】
内燃エンジンは、ディーゼル燃料エンジン(例えば、ヘビーデューティーディーゼルエンジン)、ガソリン燃料エンジン、天然ガス燃料エンジン、ガソリン/アルコールの混合燃料エンジン、またはバイオディーゼル燃料エンジンであってよい。内燃エンジンは、2サイクルまたは4サイクルエンジンであってよい。適切な内燃エンジンは、船舶用ディーゼルエンジン、航空用ピストンエンジン、低負荷ディーゼルエンジン、ならびに自動車およびトラックエンジンを含む。一実施形態では、内燃エンジンはガソリンダイレクトインジェクション(GDI)エンジンである。
【0170】
内燃エンジンは、ガスタービンとはっきりと異なる。内燃エンジンでは、個々の燃焼事象が、ロッドおよびクランクシャフトを介して、直線的な往復の力を回転性トルクへと変換する。対照的に、ガスタービン(ジェット式エンジンとも呼ばれる)では、連続的燃焼プロセスが、変換なしで回転性トルクを連続的に生成し、排気出口において推進力を生み出すこともできる。これらの差異は、ガスタービンおよび内燃エンジンの作動条件に、異なる作動環境および応力をもたらす。
【0171】
内燃エンジンのための潤滑組成物は、硫黄、リンまたは硫酸化灰分(ASTM D-874)含有量に関係なくエンジン潤滑剤としての使用に対して適切であり得る。エンジンオイル潤滑剤としての使用に特に適した潤滑組成物の硫黄含有量は、1重量%もしくはそれ未満、または0.8重量%もしくはそれ未満、または0.5重量%もしくはそれ未満、または0.3重量%もしくはそれ未満であってよい。一実施形態では、硫黄含有量は、0.001重量%~0.5重量%、または0.01重量%~0.3重量%の範囲であってよい。リン含有量は0.2重量%もしくはそれ未満、または0.12重量%もしくはそれ未満、または0.1重量%もしくはそれ未満、または0.085重量%もしくはそれ未満、または0.08重量%もしくはそれ未満、またはさらに0.06重量%もしくはそれ未満、0.055重量%もしくはそれ未満、または0.05重量%もしくはそれ未満であってよい。一実施形態では、リン含有量は、100ppm~1000ppm、または200ppm~600ppmであってよい。全硫酸化灰分含有量は、2重量%もしくはそれ未満、または1.5重量%もしくはそれ未満、または1.1重量%もしくはそれ未満、または1重量%もしくはそれ未満、または0.8重量%もしくはそれ未満、または0.5重量%もしくはそれ未満、または0.4重量%もしくはそれ未満であってよい。一実施形態では、硫酸化灰分含有量は、0.05重量%~0.9重量%、または0.1重量%~0.2重量%または0.45重量%までであってよい。一実施形態では、潤滑組成物はエンジンオイルであってよく、この場合、この潤滑組成物は、(i)0.5重量%もしくはそれ未満の硫黄含有量、(ii)0.1重量%もしくはそれ未満のリン含有量、(iii)1.5重量%もしくはそれ未満の硫酸化灰分含有量、またはこれらの組合せのうちの少なくとも1つを有することで特徴付けることができる。
【実施例】
【0172】
本発明は、特に有利な実施形態について記載している以下の実施例によりさらに例示される。実施例は、本発明を例示するために提供されているが、これらは、本発明を限定することを意図しない。
【0173】
本発明の態様に従う一連の四面体ボレート化合物は、以下に提供される実施例に記載の通り調製することができる。
【0174】
(化合物実施例1)
N-オレイルタルトリミド/トリス(2-エチルヘキシル)ボレート/ポリイソブチレンスクシンイミドベースのイオン性四面体ボレート化合物:イオン性四面体ボレート化合物を含む混合物を、N-オレイルタルトリミド(44.6g)、トリス(2-エチルヘキシル)ボレート32.6g)、および100 TBNの直接アルキル化ポリイソブチレンスクシンイミド(PIBSA)分散剤(14%希釈油を含有する)(22.8g)をブレンドして、タルトリミド:ボレート:PIBSAのモル比2:1:1を得ることにより形成する。PIBSA分散剤は、1000Mnの高ビニリデンポリイソブチレンおよびN:CO(m)比1.79およびTBN 100を有するコハク酸無水物から作製する。大気圧下、反応は80℃で2時間行う。生成物はさらに精製せずに単離する。
【0175】
(化合物実施例1a)
N-オレイルタルトリミド/トリス(2-エチルヘキシル)ボレート/ポリイソブチレンスクシンイミドベースのイオン性四面体ボレート化合物:イオン性四面体ボレート化合物含有混合物を実施例1の通りであるが、N-オレイルタルトリミド(21.9g)は、60%OTおよび40%鉱油の混合物として供給し、PIBSA分散剤を2000Mnの高ビニリデンポリイソブチレンならびにN:CO(m)比1.79およびTBN 13を有するコハク酸無水物から作製して、形成する。
【0176】
(化合物実施例2)
N-オレイルタルトリミド/トリス(2-エチルヘキシル)ボレート/過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤ベースのイオン性四面体ボレート化合物:イオン性四面体ボレート化合物を含む混合物を、60%OTと40%鉱油との混合物として供給されるN-オレイルタルトリミド(70.8g)、トリス(2-エチルヘキシル)ボレート(21.7g)、および400 TBNのカルシウムスルホネート清浄剤(7.5g)をブレンドして、タルトリミド:ボレート:清浄剤のモル比2:1:1を得ることによって形成する。反応は80℃で2時間行う。生成物はさらに精製せずに単離する。
【0177】
(化合物実施例3)
N-オレイルタルトリミド/トリス(2-エチルヘキシル)ボレート/過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤ベースのイオン性四面体ボレート化合物:イオン性四面体ボレート化合物を含む混合物を、反応を100℃で2時間行うこと、および生じた混合物を減圧下に配置して、アルコール(2-エチルヘキサノール)を共沸蒸留することを除いて、実施例2の通り形成する。生成物はさらに精製せずに単離する。
【0178】
(化合物実施例4)
N-オレイルタルトリミド/トリス(2-エチルヘキシル)ボレート/中性のカルシウムスルホネート清浄剤ベースのイオン性四面体ボレート化合物:イオン性四面体ボレート化合物を含む混合物を、85 TBNのカルシウムスルホネート清浄剤(28.0g)を使用することを除いて、実施例2の通り形成する。
【0179】
(化合物実施例5)
N-オレイルタルトリミド/トリス(2-エチルヘキシル)ボレート/フェノール系酸化防止剤ベースのイオン性四面体ボレート化合物:イオン性四面体ボレート化合物を含む混合物を、2,6-ジ-(secブチル),4-(2-エチルヘキシルアミノメチルフェノール(21.6g)を塩基として使用することを除いて、実施例2の通り形成する。
【0180】
(化合物実施例6)
N-オレイルタルトリミド/トリス(2-エチルヘキシル)ボレート/過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤ベースのイオン性四面体ボレート化合物:イオン性四面体ボレート化合物を含む混合物を、(11.6g)の400 TBNのカルシウムスルホネート清浄剤を用いて、タルトリミド:ボレート:清浄剤のモル比1:1:1を得ることを除いて、実施例2に記載されている通り形成する。
【0181】
(化合物実施例7)
N-オレイルタルトリミド/トリス(2-エチルヘキシル)ボレート/過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤ベースのイオン性四面体ボレート化合物:イオン性四面体ボレート化合物を含む混合物を、(11.6g)の400のTBNのカルシウムスルホネート清浄剤を用いて、タルトリミド:ボレート:清浄剤のモル比1:1:1を得ることを除いて、実施例3に記載されている通り形成する。
【0182】
(化合物実施例8)
溶媒プロセス手順1による四面体ホウ素化N-オレイルタルトリミド(四面体の複合体を形成するための、ホウ酸の存在下でのin situでのタルトリミドの形成):187.6gの酒石酸(1.25mol、2.0当量)および19.3gのホウ酸(0.31mol、0.5当量)を110gのペンタノール中で撹拌し、還流加熱する。334.4gのオレイルアミン(1.25mol、2.0当量)を添加漏斗を介して添加する。生じた反応物を140℃で5時間保持する。次いで、溶媒を、真空蒸留を介して除去して、さらに精製せずに最終生成物を得る。11B NMR (160 MHz, CDCl3) ppm: 9.60 (br).元素分析:0.6%B、3.2%N。
【0183】
(化合物実施例9)
溶媒プロセス手順1による四面体ホウ素化N-オレイルタルトリミド:250gの酒石酸(0.93mol、2.0当量)および28.9gのホウ酸(0.47mol、1.0当量)を153gのブタノール中で撹拌し、加熱還流する。140.3gのオレイルアミン(0.93mol、2.0当量)を添加漏斗を介して添加する。一部の溶媒を除去しながら、生じた反応物を140~145℃に加熱し、5時間保持する。次いで、溶媒を、真空蒸留を介して除去して、さらに精製せずに最終生成物を得る。11B NMR (160 MHz, CDCl3) ppm: 9.48 (br).元素分析:1.3%B、3.2%N。
【0184】
(化合物実施例10)
溶媒プロセス手順2による四面体ホウ素化N-オレイルタルトリミド(四面体の複合体を形成するための、ホウ酸を後で添加する、in situでのタルトリミドの形成):1201gの酒石酸(8.0mol、2.0当量)を850gのペンタノール中で撹拌し、加熱還流する。2140gのオレイルアミン(8.0mol、2.0当量)を1時間にわたり添加する。反応物を140℃で5時間保持し、次いで110℃に冷却する。123.6gのホウ酸(2.0mol、0.5当量)を一度に添加する。次いで、反応混合物を140℃に加熱し、2時間保持する。次いで、溶媒を、真空蒸留を介して除去して、さらに精製せずに最終生成物を得る。11B NMR (160 MHz, CDCl3) ppm: 10.39 (br), 7.32 (br), 6.21 (br).元素分析:0.6%B、3.3%N。
【0185】
(化合物実施例11)
グリセロールモノオレエート(GMO)、ホウ酸およびアミンから調製される四面体ボレート:254gのGMO(0.5mol、2.0当量)および15.5gのホウ酸(0.25mol、1.0当量)を撹拌しながら165℃に加熱する。反応物をこの温度で3時間保持する。次いで、46.4gのトリ-n-ブチルアミン(0.25mol、1.0当量)を一度に添加する。生じた反応混合物を165℃でさらに3時間保持して、さらに精製せずに所望の生成物を得る。11B NMR (160 MHz, CDCl3) ppm: 11.39 (br).
【0186】
(化合物実施例12)
グリセロールモノオレエート(GMO)、ホウ酸および400 TBNのCa清浄剤から調製される四面体ボレート:257gのGMO(0.5mol、2.0当量)および15.7gのホウ酸(0.25mol、1.0当量)を撹拌しながら165℃に加熱する。反応物をこの温度で4時間保持する。35.5gの400 TBNのCa清浄剤を添加して、反応を165℃でさらに3時間保持する。粗生成物を濾過して、所望の生成物を得る。11B NMR (160 MHz, CDCl3) ppm: 9.98 (br), 6.75 (br).
【0187】
(化合物実施例13)
グリセロールモノオレエート(GMO)、ホウ酸および100 TBNのポリイソブチレンスクシンイミド(PIBSA)分散剤から調製される四面体ボレート:508gのGMO(1.0mol、2.0当量)、241.3gの三面体ホウ酸エステル(0.5mol、1.0当量)、および280.5gの100 TBNのポリイソブチレンスクシンイミド(PIBSA)分散剤(0.5mol、1.0当量)を80℃で2時間混合して、さらに精製せずに所望の生成物を得る。11B NMR (160 MHz, CDCl3) ppm: 22.73 (br), 17.58 (br), 10.08 (br).
【0188】
(化合物実施例14)
1,2-オクタンジオール、ホウ酸およびアミンから調製される四面体ボレート:146gの1,2-オクタンジオール(1.0mol、2.0当量)および30.9gのホウ酸(0.5mol、1.0当量)を撹拌しながら165℃に加熱する。反応物をこの温度で2時間保持し、次いで140℃に冷却する。64.6gの2-エチルヘキシルアミン(0.5mol、1.0当量)を添加漏斗を介して添加する。生じた混合物を140℃で3時間撹拌して、さらに精製せずに所望の生成物を得る。11B NMR (160 MHz) ppm: 11.71 (br)
【0189】
本発明による四面体ボレート化合物を含む一連の潤滑組成物は、以下の実施例の通り調製することができる。
【0190】
比較用潤滑剤実施例CLE1:混合した過塩基性Ca/Naスルホネート清浄剤を含む乗用車エンジンオイル中の潤滑組成物
【0191】
0W-20 GF-5乗用車エンジンオイルを比較のためのベースラインとして使用する。0W-20 GF-5乗用車エンジンオイル油は、過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤、過塩基性ナトリウムスルホネート清浄剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、無灰酸化防止剤、無灰スクシンイミド分散剤、消泡剤、粘度指数改善剤、流動点降下剤、およびグループIII鉱油を含む他の構成成分も含有する。
【0192】
比較用潤滑剤実施例CLE2:全Caスルホネート過塩基性清浄剤を含む乗用車エンジンオイル中の潤滑組成物。
【0193】
清浄剤がCa-スルホネート過塩基性スルホネートのみで構成されることを除いて、0W-20 GF-5乗用車エンジンオイルを比較例1と同様に調製し、比較のための第2のベースラインとして使用する。
【0194】
比較用潤滑剤実施例CLE3:混合した過塩基性Ca/Naスルホネート清浄剤を含む乗用車エンジンオイル中の、OTを含む潤滑組成物。
【0195】
1.25%のOTを添加することを除いて、0W-20 GF-5乗用車エンジンオイルを比較例1と同様に調製する。
比較用潤滑剤実施例CLE4:全Caスルホネート過塩基性清浄剤を含む乗用車エンジンオイル中のOTを含む潤滑組成物。
【0196】
1.25%のOTを添加することを除いて、0W-20 GF-5乗用車エンジンオイルを比較例2と同様に調製する。
【0197】
潤滑剤実施例LE7:全Caスルホネート過塩基性清浄剤を含む乗用車エンジンオイル中のPIBSA分散剤ベースのイオン性四面体のOT-ボレートを含む潤滑組成物。
【0198】
7.90%の実施例1aのイオン性四面体ボレート化合物を添加することを除いて、0W-20 GF-5乗用車エンジンオイルを比較例2と同様に調製する。
【0199】
潤滑剤実施例LE8:混合した過塩基性Ca/Naスルホネート清浄剤を含む乗用車エンジンオイル中のカルシウムスルホネート清浄剤ベースのイオン性四面体のOTボレートを含む潤滑組成物
【0200】
3.20%の実施例2のイオン性四面体ボレート化合物を添加することを除いて、0W-20 GF-5乗用車エンジンオイルを比較例2と同様に調製する。
【0201】
潤滑剤実施例LE9:混合した過塩基性Ca/Naスルホネート清浄剤を含む乗用車エンジンオイル中のカルシウムスルホネート清浄剤ベースのイオン性四面体のOTボレートを含む潤滑組成物。
【0202】
3.20%の実施例3のイオン性四面体ボレート化合物を添加することを除いて、0W-20 GF-5乗用車エンジンオイルを比較例2と同様に調製する。
【0203】
潤滑剤実施例7~9および比較用潤滑剤実施例1~3に対する、透明度および摩擦の減少の試験結果を表2に示す。
【0204】
透明度は、ガラス管内の試料の室温での貯蔵ならびに1および2週間後の室温での目視による評定により評価する(C=透明、S1=軽微の沈殿物、S2=微量の沈殿物、S3=軽度の沈殿物、Z1=わずかにかすんでいる、Z2=かすんでいる)。
【0205】
100Htzにおいて500gの負荷を有する高周波数往復リグ(HFRR)を使用して、摩擦減少を評価し、40~160℃の平均摩擦係数として報告する。
【0206】
ベースラインオイルで可溶化できる濃度より高いOTの濃度においても、四面体ボレート複合体の形成がOTの溶解度の大幅な増強をもたらすことを、表2の透明度の結果は実証している。
【0207】
HFRR結果は、OT四面体ボレート複合体がベースラインオイルを超える摩擦減少を提供することを示し、複合体の形成がオレイルタルトリミドの摩擦調整剤として機能する能力を劣化させないことを実証している。
【表2】
【0208】
上に言及された文献のそれぞれは、参照により本明細書に組み込まれる。実施例中を除き、または明示的に示されていない限り、材料の量、反応条件、分子量、炭素原子の数などを特定する本明細書におけるすべての数値的な分量は、「約」という単語で修飾されているように理解すべきである。他に示されていない限り、本明細書に記載された各化学物質または組成物は、異性体、副生成物、誘導体、および商用グレードにおいて存在すると通常考えられているような他の材料を含有し得る商用グレード材料であると解釈されるべきである。しかし、各化学構成成分の量は、他に示されていない限り、商用材料に通例存在し得る任意の溶媒または希釈油を除いて提示されている。本明細書で記載された上側のおよび下側の量、範囲、および比の限界は、独立して組み合わせることができると理解されたい。同様に、本発明の各要素に対する範囲および量は、他の要素のいずれかに対する範囲または量と一緒に使用することができる。
【0209】
上に開示された特色および機能ならびに他の特色および機能、またはその代替形態の変化形態は、多くの他の異なるシステムまたは用途へと組み合わせることができると認識される。それらへの、現在予想されていないまたは予期しない様々な代替形態、修正形態、変化形態または改善形態が、今後、当業者により作製され得るが、これらも以下の特許請求の範囲により包含されることが意図される。
一実施形態において、例えば、以下の項目が提供される。
(項目1)
潤滑組成物のための添加剤であって、
カチオンと、ホウ素原子を含む四面体ホウ酸アニオンとを含む、イオン性四面体ボレート化合物を含み、前記ホウ酸アニオンが三価ホウ素化合物と脂肪族ジヒドロキシル化合物の反応から形成される少なくとも1つの二座ジオキソ配位子を有し、
前記ホウ酸アニオンが二座芳香族ジオキソ配位子を実質的に含まない、添加剤。
(項目2)
前記三価ホウ素化合物が、ホウ酸、ホウ酸エステル、およびこれらの組合せからなる群から選択される、項目1に記載の添加剤。
(項目3)
前記脂肪族ジヒドロキシル化合物が、1,2ビシナルジオール、ヒドロキシカルボン酸の脂肪族誘導体、ジおよびポリカルボン酸の脂肪族誘導体ならびにこれらのブレンドからなる群から選択される、項目1または2に記載の添加剤。
(項目4)
前記ヒドロキシカルボン酸が、式:
【化11】
[式中、
a=2、b=1であるか、または
aおよびbの両方とも2に等しいか、または
a=3、b=1であり、
Xは、脂肪族もしくは脂環式の基、または炭素鎖内に酸素原子を含有する脂肪族もしくは脂環式の基、または前述の種類の置換されている基であり、前記基が最大6個の炭素原子を含有し、a+b個の利用可能な結合点を有し、
各Yは、独立して、-O-、もしくは>NR
1
であるか、または2つのYが一緒になって、2つのカルボニル基の間に形成されるイミド構造R-N<の窒素を表し、
各RおよびR
1
は、独立して、水素またはヒドロカルビル基であるが、ただし、少なくとも1つのRまたはR
1
基がヒドロカルビル基であることを条件とし、各R
2
は、独立して、水素、ヒドロカルビル基またはアシル基であり、さらに、少なくとも1つの-OR
2
基が、-C(O)-Y-R基のうちの少なくとも1つに対してαまたはβである、X内の炭素原子上に位置することを条件とする]
で表される、項目1から3のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目5)
前記ヒドロキシカルボン酸が、酒石酸またはクエン酸である項目4に記載の添加剤。
(項目6)
前記脂肪族ジヒドロキシル化合物が、酒石酸(tartartic acid)のイミド誘導体であ
る、項目1から5のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目7)
前記1,2ビシナルジオールが、モノアルキルグリコール、モノアルキルグリセロール、モノアシルグリセロール、およびこれらのブレンドからなる群から選択される、項目1から3のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目8)
前記1,2ビシナルジオールが、グリセロールモノオレエートである、項目7に記載の添加剤。
(項目9)
前記イオン性四面体ボレート化合物が、式:
【化12】
[式中、R
1
およびR
2
は、独立して、1~48個の炭素原子のヒドロカルビル基から選択されるか、または一緒になって、置換もしくは非置換の5もしくは6員の環を形成し、R
3
およびR
4
は、独立して、1~48個の炭素原子の脂肪族ヒドロカルビル基であるか、または一緒になって、複素環式環(1~32個の炭素原子の1つもしくは複数のヒドロカルビル基で置換されていてよい)であってよい置換もしくは非置換の5もしくは6員の脂肪族環を形成し、
mは、0または1であり、
Xは、水素、1~24個の炭素原子のヒドロカルビル基、-OR
5
、-NHR
5
、=O、およびこれらの混合物から選択され、ここで、R
5
は、1~24個の炭素原子のヒドロカルビル基であり、
Mは、前記カチオンを表し、
nは少なくとも1である]
で表される、項目1から8のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目10)
前記置換の5員または6員の環が、脂肪族ヒドロカルビル基、少なくとも1個のヘテロ原子を含む脂肪族ヒドロカルビル基、およびこれらの組合せから選択される少なくとも1つの置換基で置換されている、項目9に記載の添加剤。
(項目11)
mが、0である、項目9および10のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目12)
R
1
およびR
2
が、一緒になって、置換または非置換の5または6員の環を形成し、前記置換または非置換の5または6員の環が、0~2個のヘテロ原子を含む、項目9から11のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目13)
R
1
およびR
2
で形成される前記置換の5員または6員の環が、脂肪族ヒドロカルビル基、少なくとも1個のヘテロ原子を含む脂肪族ヒドロカルビル基、およびこれらの組合せから選択される少なくとも1つの置換基で置換されている、項目12に記載の添加剤。
(項目14)
前記カチオンが、金属カチオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、灰分を含まない有機カチオン、およびこれらの混合物からなる群から選択される、項目1から13のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目15)
前記灰分を含まない有機カチオンが、アンモニウムカチオンおよびホスホニウムカチオンから選択される、項目14に記載の添加剤。
(項目16)
前記四面体ボレート化合物が、アンモニウム塩、第四級アンモニウム塩、およびこれらの混合物から選択される、項目13から14のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目17)
Mが、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、遷移金属カチオン、およびこれらの組合せから選択される金属カチオンである、項目9に記載の添加剤。
(項目18)
前記カチオンMが、前記組成物に少なくとも5(または少なくとも10、または少なくとも15、または少なくとも25)の全塩基価(TBN)を提供する、項目1から17のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目19)
前記カチオンMが、ポリイソブチレンスクシンイミドから誘導される、項目1から18のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目20)
前記ポリイソブチレンスクシンイミドが誘導される元となるポリイソブチレンが、350~5000、または750~2500の範囲の数平均分子量を有する、19に記載の添加剤。
(項目21)
前記カチオンMが、アルカリ金属清浄剤またはアルカリ土類金属清浄剤から誘導される、項目1から18のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目22)
前記カチオンMが、過塩基性のアルカリ金属清浄剤またはアルカリ土類金属清浄剤から誘導される、項目21に記載の添加剤。
(項目23)
三価ボレート化合物をさらに含む、項目1から22のいずれか一項に記載の添加剤。
(項目24)
前記三価ボレート化合物中のホウ素と前記四面体ボレート化合物中のホウ素との重量比が、少なくとも80:20(または少なくとも90:10、または少なくとも95:5)である、項目23に記載の添加剤。
(項目25)
添加剤濃縮物を形成するための量の油をさらに含む、項目1に記載の添加剤。
(項目26)
潤滑組成物のための添加剤を形成する方法であって、
液体溶媒媒体中で脂肪族ジヒドロキシル化合物を、三価ボレート化合物、および、必要に応じて、塩基性構成成分と反応させて、カチオンと、ホウ素原子を含む四面体ホウ酸アニオンとを含むイオン性四面体ボレート化合物を形成することを含み、前記ホウ酸アニオンが、前記三価ホウ素化合物と前記脂肪族ジヒドロキシル化合物との反応から形成される少なくとも1つの二座ジオキソ配位子を有し、
前記溶媒媒体が、アルコール溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒、およびこれらのブレンドからなる群から選択され、
前記脂肪族ジヒドロキシル化合物と三価ボレート化合物との前記反応から生じた水が、前記液体溶媒媒体の一部分と共に共沸蒸留される、方法。
(項目27)
前記液体溶媒媒体が、アルコール溶媒を含む、項目26に記載の方法。
(項目28)
添加剤濃縮物であって、項目1に記載の添加剤と、前記濃縮物を形成するために十分な量の潤滑油を含む、添加剤濃縮物。