(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-15
(45)【発行日】2023-12-25
(54)【発明の名称】ヒトRPE細胞医薬品およびその使用
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20231218BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20231218BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20231218BHJP
A61K 35/30 20150101ALN20231218BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
G01N33/50 X
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12Q1/04
A61K35/30
A61P27/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022084915
(22)【出願日】2022-05-25
(62)【分割の表示】P 2021049493の分割
【原出願日】2012-11-14
【審査請求日】2022-06-24
(32)【優先日】2011-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509236520
【氏名又は名称】アステラス インスティテュート フォー リジェネレイティブ メディシン
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ゲイ, ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】クリマンスカヤ, イリナ
(72)【発明者】
【氏名】ランサ, ロバート
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/063005(WO,A1)
【文献】Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.,2004年,45,pp.668-674
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
C12Q 1/04
G01N 33/50
A61P 27/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜色素上皮(RPE)細胞の集団が、
網膜変性病状を処置するために適した治療薬であるかどうかを判定する方法であって、(a)集団
の平均メラニン含有量を測定すること;および(b)
集団の平均メラニン含有量が0.1~8pg/細胞である場合に、集団が適した治療薬であるとして判定すること、を含む、前記方法。
【請求項2】
(b)において、
集団の平均メラニン含有量が1~5pg/細胞である場合に、集団が適した治療薬として判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(b)において、
集団の平均メラニン含有量が3~5pg/細胞、4~5pg/細胞、または4.2~4.8pg/細胞である場合に、集団が適した治療薬として判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)が、(i)
集団のRPE細胞を溶解すること;および(ii)メラニン標準曲線と対比させて、吸光度を475nmで測定すること、を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(i)において、RPE細胞が、細胞をNaOHおよび高温に暴露することによって溶解される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
NaOHが、約1Nの濃度である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
高温が、約80℃である、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
RPE細胞が、NaOHおよび上昇した温度に約10分間暴露される、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(ii)におけるメラニン標準曲線が、約5~約180μg/mLの範囲である、請求項4~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
吸光度が三重反復試験で評価され、およびデータが抽出された全細胞数に対して正規化される、請求項4~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
RPE細胞が、ヒト細胞である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
RPE細胞が、多能性幹細胞からin vitroで生成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
(a)において、RPE細胞の集団が、1,000~1×10
9個の生RPE細胞を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(a)において、集団におけるRPE細胞の濃度が、約444個の生RPE細胞/μL~約1766個の生RPE細胞/μL、または少なくとも約1,000個の生RPE細胞/μLである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
(a)の集団におけるRPE細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%が、ベストロフィン+である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
(a)の集団におけるRPE細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%が、PAX6+である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
(a)の集団におけるRPE細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%が、MITF+である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
(a)の集団におけるRPE細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%が、ZO-1+である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
(a)の集団における細胞の1%未満が、RPE細胞でない、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
(a)の集団における100万個の細胞あたり約1個以下の細胞、および任意に900万個の細胞あたり2個以下の細胞が、OCT-4およびアルカリホスファターゼ(AP)発現の双方について陽性である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
(a)の集団におけるRPE細胞が、下記特性:
提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べて、より大きな平均テロメア長を有する、
提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べて、培養中でより長い複製寿命を有する、
提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べて、より低いA2E含有量を有する、
提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べて、より低いリポフスチン含有量を有する、
提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べて、より少ない紫外線損傷蓄積を示す、または
提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べて、より多数の食胞を含有する、
の少なくとも1つを有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
網膜変性病状が、コロイデレミア、糖尿病性網膜症、網膜萎縮、網膜離脱、網膜異形成、色素性網膜炎、色素線条、近視性黄斑変性、または加齢黄斑変性などの黄斑変性、ノースカロライナ黄斑ジストロフィー、ソースビー眼底ジストロフィー、シュタルガルト病、パターンジストロフィー、ベスト病、マラチアレベンティニーズ、ドイン蜂巣状脈絡膜症、優性ドルーゼン、または放射状ドルーゼンである、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
網膜変性病状が、加齢黄斑変性(AMD)またはシュタルガルト黄斑ジストロフィー(SMD)である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、その内容全体をそれぞれ参照によって本明細書に援用する、2011年11月14日に出願された米国仮出願第61/559,521号明細書、2012年11月8日に出願された米国仮出願第61/724,047号明細書、および2012年1月23日に出願された米国仮出願第61/589,741号明細書の優先権を主張する。
【0002】
ヒト胚性幹細胞(hESC)は、再生医療のための代替細胞の有望な供給源と見なされている(1)。大きな科学的進歩にもかかわらず、hESCは、今までに臨床利用のために提案された、最も複雑な生物学的治療的実体の1つである(2)。それらの生物学の動的複雑さに加えて、奇形腫形成リスク、および組織不適合性に関連する課題をはじめとする、多数の調節上の懸念が、臨床移行を妨げてきた。体細胞核移植(3)または人工多能性幹細胞(4、5)などの細胞再プログラミング技術がさらに発展するまで、眼およびその他の免疫特権部位に影響を及ぼす疾患は、患者における多能性幹細胞ベースの初めての治療法となる可能性が高い。血液と眼の関門によって網膜下腔が保護されることは、確立されており、細胞免疫および体液性免疫応答どちらも抗原特異的に阻害されることで特徴付けられる(6)。
【0003】
網膜内では、網膜色素上皮(RPE)の変性が多様な視覚を脅かす疾患において光受容体喪失をもたらし、これらの疾患としては、それぞれ成人および若年失明の世界的な二大原因である、乾燥型加齢黄斑変性(AMD)およびシュタルガルト黄斑ジストロフィー(SMD)が挙げられる。どちらも目下治療不能であるが、黄斑変性の前臨床モデルにおいて、hESC由来RPEの移植が、光受容体を救出して視力喪失を阻止し得る証拠がある(7、8)。その機能として、RPEは、感光色素を再循環させ、ビタミンAを送達し代謝して貯蔵し、視細胞外節を貪食し、網膜と脈絡膜の間で鉄および小型分子を輸送し、迷光を吸収してより良い画像分解能を可能にすることで、光受容体の健康を保つ(9、10)。RPE機能障害が原因で視力劣化する動物モデルである、Royal College of Surgeons(RCS)ラットでは、hESC由来RPEの網膜下移植が、有害な病変の形跡なしに、大規模な光受容体救出および視覚機改善(未処置対照を100%上回る)をもたらした(7)。
網膜色素上皮(RPE)は、下層の脈絡膜(網膜背後の血管層)と、それに重なる網膜視細胞(例えば光受容体の桿体および錐体)の間の、網膜神経感覚上皮の外部にある色素性細胞層である。RPEは、光受容体および網膜の機能と健康にとって、重要である。RPEは、光色素を再循環し、ビタミンAを送達し代謝して貯蔵し、桿体視細胞外節を貪食し、網膜と脈絡膜の間で鉄および小型分子を輸送し、ブルッフ膜を維持し、迷光を吸収してより良い画像分解能を可能にすることで、光受容体機能を維持する。Engelmann and Valtink(2004)”RPE Cell Cultivation”。Graefe’s Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology 242(1):65-67(非特許文献1);Irina Klimanskaya,Retinal Pigment Epithelium Derived From Embryonic Stem Cells,in STEM CELL ANTHOLOGY 335-346(Bruce Carlson ed.,2009)(非特許文献2)もまた参照されたい。RPEの変性は、コロイデレミア、糖尿病性網膜症、(加齢黄斑変性をはじめとする)黄斑変性、色素性網膜炎、およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)などの光受容体損傷と失明をもたらす、いくつかの視覚変性疾患と関連付けられている、網膜離脱、網膜異形成、または網膜萎縮を引き起こし得る。例えば、国際公開第2009/051671号パンフレットを参
照されたい。
【背景技術】
【0004】
RPE細胞、RPE細胞組成物を作成する方法、およびその使用をはじめとする特定の主題は、その内容全体をそれぞれ参照によって本明細書に援用する、2005年7月20日に米国特許出願第11/186720号明細書として出願された現在の米国特許第7736896号明細書;2006年7月21日に米国特許出願第11/490953号明細書として出願された現在の米国特許第号明細書7795025;2005年1月24日に米国特許出願第11/041382号明細書として出願された現在の米国特許第7794704号明細書;2004年1月23日に出願された米国仮特許出願第60/538964号明細書;2010年10月10日に出願された米国仮特許出願第12/682,712号明細書;2007年10月12日に出願された米国仮特許出願第60/998668号明細書;2007年10月12日に出願された米国仮特許出願第号明細書60/998766;2008年1月2日に出願された米国仮特許出願第61/009908号明細書;2008年1月2日に出願された米国仮特許出願第61/009911号明細書;2010年7月23日に出願された米国仮特許出願第61/367038号明細書;2010年11月17日に出願された米国仮特許出願第61/414770号明細書;2011年7月25日に出願された国際特許出願第PCT/US11/45232号明細書;2010年12月14日に出願された米国仮特許出願第12/682712号明細書;2005年1月24日に出願された国際特許出願第PCT/US05/02273号明細書;2010年11月17に出願された国際特許出願第PCT/US2010/57056号明細書(国際公開第2011/063005号パンフレットとして公開された);および2009年11月17日に出願された米国仮特許出願第61/262,002号明細書をはじめとする、所有者共通の米国特許出願および特許で開示される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Engelmann and Valtink(2004)”RPE Cell Cultivation”。Graefe’s Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology 242(1):65-67
【文献】Irina Klimanskaya,Retinal Pigment Epithelium Derived From Embryonic Stem Cells,in STEM CELL ANTHOLOGY 335-346(Bruce Carlson ed.,2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一次RPE細胞の無傷のシートおよび懸濁液の移植が、以前にヒト対象で試みられているが、移植片の生存および視覚改善の双方に関して、結果は入り交じっていた。(11~19)。今まで、一次RPE細胞を使用する、一貫して効果的なヒトの治療薬は、報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、シュタルガルト黄斑ジストロフィー(SMD)および乾燥型加齢黄斑変性(乾燥型AMD)を治療するための、ヒト胚性幹細胞(hESC)由来網膜色素上皮(RPE)細胞の安全性を実証するのを助ける、1/2相臨床データを報告する。1/2相臨床試験のそれぞれにおいて初例である、2人の患者について結果が報告される。不都合な安全性問題が示されないことに加えて、構造的証拠は、hESC由来細胞が生存し、報告された試験期間中持続し続けたことを立証した。双方の患者は、視覚に測定可能な改善を有
し、それは少なくとも1年間持続した。
【0008】
処置の1年後、いかなる時点でも、過剰増殖、腫瘍原性、異所性組織形成、または明らかな拒絶反応は、どちらの患者でも観察されなかった。詳細な臨床および診断検査評価は、移植後の複数の評価において実施された。幹細胞ベースの治療法、特にhESC由来幹細胞ベースの治療法では、それらの多分化能のために、異常増殖(または腫瘍形成)が重大な安全上の懸念と見なされており;したがってhESCの分化を制御することが、重要である。報告された結果は、これらの患者において、幹細胞分化が良好に制御されたことを示す。不都合な安全性シグナルは、検出されなかった。
【0009】
成功裏の幹細胞由来RPE移植の解剖学的証拠は、SMD患者において、臨床的に、および高分解能画像診断技術により、観察された。この証拠は、移植後1週間目に開始して経過観察期間全体に及ぶ、移植領域内における、RPEレベルでの色素沈着増大を含んだ。移植された幹細胞由来RPEは、適切な位置に生着して、正常なRPE形態を取るようであった。乾燥型AMD患者では、生着および色素沈着増大は検出されなかった。しかしどちらの患者も、4ヶ月の経過観察期間でいくらかの視覚改善を示し、それは少なくとも1年間の経過観察期間にわたり持続した。
【0010】
以下に詳述するように、シュタルガルト病患者の視力は、手動弁のみから20/800の視覚まで改善された。治療前、患者は、ETDRS視力チャート上のいかなる文字も読み取れなかった。しかし移植後2週間で、彼女は、治療された眼で、文字を読み始めることができ、それは1~3ヶ月で5文字に、1年間で15文字に改善された(20/500視覚)。
【0011】
湿潤型AMDを治療するための新しい薬剤はいくつか利用できるが、乾燥型AMDまたはシュタルガルト病のどちらにも、目下存在する実証された治療法はない。これらの病状の進行性の性質にもかかわらず、最低投与量においてさえも、双方の患者の視覚は、細胞移植後に改善されたようであった。出願人らは、より顕著な結果が潜在的に期待されるかもしれない疾病経過のより初期に患者を治療した場合に、さらにより顕著な改善を期待する。細胞投与量の増大もまた、より顕著な改善をもたらしてもよい。
【0012】
ヒト胚性幹細胞は、潜在的に免疫原性が低下している、健康な「幼若」細胞を無限に生成することで、代替組織の優れた供給源を提供し得る。眼は、血液と眼の間の障壁による網膜下腔の保護に起因する免疫特権を持つ部位であり、その結果、低い一過性用量の免疫抑制のみが使用された。いずれの患者でも、拒絶反応または炎症の徴候は観察されず、医師らは双方の患者をモニターし続けている。
【0013】
本明細書で提示される結果は、疾患によって損傷を受けた組織を修復または置換する可能性の実現に対する、幹細胞療法再生医療の将来性を強調する。
【0014】
hESC由来RPE細胞には、移植前の広範な安全性試験を施行した。細胞には、動物およびヒト病原体がないことが確認され、高感度アッセイを実施して、腫瘍形成のリスク因子である、あらゆる未分化hESCの存在を最終製品から排除した。制御されたhESC分化は、ほぼ100パーセント純粋なRPEをもたらした。hESCの中心的特徴は、生体外分化段階を制御して、生存および機能性を最大化し得ることである。本明細書のデータは、RPE成熟度および色素沈着の程度が、移植後における細胞の引き続く付着と成長に、劇的に影響を及ぼしてもよいことを示す。
【0015】
どちらの治験も前向き非盲検試験であり、SMDおよび乾燥型AMD患者への網膜下移植に続いて、研究の主要エンドポイントである12ヶ月目に、hESC由来RPE細胞の
安全性と耐容性を判定するようにデザインされる。各治験には、漸増用量形式の各3人の患者のコホートで、それぞれ12人の患者が登録する。SMDおよび乾燥型AMDの患者は、どちらも最低用量(50,000個の細胞)で、hESCに由来する完全分化RPE細胞の網膜下移植を受けた。
【0016】
一態様では、本開示は、複数の網膜色素上皮(RPE)細胞と;薬学的に許容できる担体とを含んでなる医薬組成物を提供し、前記複数のRPE細胞の平均メラニン含有量は、8pg/細胞未満である。前記RPE細胞は、懸濁液、ゲル、コロイド、基材、基質、スキャフォールド、または移植片中に含有されてもよい。
【0017】
前記薬学的に許容できる担体は、約290mOsm/kg~約320mOsm/kg、または約300mOsm/kg~310mOsm/kgまたは約305mOsm/kgの浸透圧を有する無菌溶液を含んでなってもよい。前記薬学的に許容できる担体は、平衡塩類溶液を含んでなってもよい。前記平衡塩類溶液は、1mLあたり、水中の塩化ナトリウム7.14mg、塩化カリウム0.38mg、塩化カルシウム二水和物0.154mg、塩化マグネシウム六水和物0.2mg、二塩基性リン酸ナトリウム0.42mg、炭酸水素ナトリウム2.1mg、デキストロース0.92mg、グルタチオンジスルフィド(酸化型グルタチオン)0.184mg、および塩酸および/または水酸化ナトリウム(pHを約7.4に調節するため)を含んでなり、それからなり、またはそれから本質的になってもよい。
【0018】
前記医薬組成物の容積は、約100μL~1000μLであってもよく、または少なくとも約150μLであってもよい。前記医薬組成物は、約1,000~約1×109個の生RPE細胞を含んでなってもよい。前記医薬組成物は、約333個の生RPE細胞/μL~約2,000個の生RPE細胞/μL、約444個の生RPE細胞/μL~約1766個の生RPE細胞/μL、約333個の生RPE細胞/μL、約444個の生RPE細胞/μL、約666個の生RPE細胞/μL、約888個の生RPE細胞/μL、約999個の生RPE細胞/μL、または約1,333個の生RPE細胞/μLを含んでなってもよい。
【0019】
前記医薬組成物中のRPE細胞の濃度は、前記RPE細胞の約30%以下が60分間以内に生存度を失い、任意選択的に前記RPE細胞の約10%以下が4時間に生存度を失う程度に十分に高くあってもよい。RPE細胞の前記濃度は、少なくとも約1,000個の細胞/μL、少なくとも約2,000個の細胞/μL、約1,000~10,000個の細胞/μL、または約2,000~5,000個の細胞/μLであってもよい。
【0020】
医薬品は、約25%、20%、15%、10%、5%、1%、0.5%、0.1%、0.01%、0.001%、または0.0001%未満のRPE細胞でなくてもよい細胞を含んでなってもよい。
【0021】
前記RPE細胞の平均メラニン含有量は、8pg/細胞未満、7pg/細胞未満、6pg/細胞未満、5pg/細胞未満、4pg/細胞未満、3pg/細胞未満、2pg/細胞未満、および少なくとも0.1pg/細胞、および任意選択的に少なくとも0.5pg/細胞または1pg/細胞;0.1~8pg/細胞、0.1~7pg/細胞,0.1~6pg/細胞,0.1~5pg/細胞、0.1~4pg/細胞、0.1~3pg/細胞、0.1~2pg/細胞、0.1~1pg/細胞、1~7pg/細胞、0.5~6pg-細胞、または1~5pg/細胞であってもよい。
【0022】
前記医薬組成物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%は、ベストロフィン+であってもよい。前記医薬組成物中の細胞
の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%は、PAX6+および/またはMITF+であってもよい。前記医薬組成物中の細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%は、PAX6+および/またはベストロフィン+であってもよい。前記医薬組成物中の細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%は、ZO-1+であってもよい。医薬組成物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%は、PAX6+およびベストロフィン+であってもよい。前記医薬組成物中の細胞の少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%は、PAX6+であってもよい。
【0023】
例示的実施形態では、前記医薬組成物中の100万個の細胞あたり約1個以下の細胞、および任意選択的に900万個の細胞あたり2個以下の細胞が、OCT-4およびアルカリホスファターゼ(AP)発現の双方について陽性であってもよい。
【0024】
針または注入カニューレは、前記RPE細胞の少なくとも一部を含有してもよい。前記RPE細胞の濃度は、前記針または注入カニューレへの装填に際して、約444個の生細胞/μL~約1,766個の生細胞/μLであってもよい。前記針または注入カニューレから送達される生RPE細胞の濃度は、約333個の生細胞/μL~約1,333個の生細胞/μLであってもよい。前記針または注入カニューレ径は、約0.3mm~約0.9であってもよい。前記針または注入カニューレ径は、約0.5~約0.6mmであってもよい。前記針または注入カニューレは、約0.09mm~約0.15mmの径を有する先端を含んでなってもよい。前記カニューレは、MEDONE POLYTIP(登録商標)カニューレ25/38g(0.12mm(38g)×5mm先端付き0.50mm(25g)×28mmカニューレ)またはSynergetics Angled 39g注入カニューレであってもよい。
【0025】
前記RPE細胞は、冷凍保存されて解凍されているRPE細胞を含んでなってもよい。
【0026】
前記RPE細胞は、ヒト細胞であってもよい。
【0027】
医薬組成物は、前記RPE細胞に先だって、それと同時に、それに引き続いて、および/またはそれと共に、必要とする対象に投与されてもよい、少なくとも1つの血管新生阻害剤をさらに含んでなってもよい。例示的な血管新生阻害剤は、ペプガタニブナトリウム;アフリベルセプト;ベバシラニブ;ラパマイシン;AGN-745;バタラニブ(vitalanib);パゾパニブ;NT-502;NT-503;PLG101;CPD791;抗VEGF抗体またはその機能性断片;ベバシズマブ;ラニビズマブ;抗VEGFR1抗体;抗VEGFR2抗体;抗VEGFR3抗体;IMC-1121(B);IMC-18F1;VEGFの断片またはドメイン;VEGFR受容体の断片またはドメイン;VEGF-Trap(アフリベルセプト);AZD-2171(セジラニブ);チロシンキナーゼ阻害剤(TKI);VEGFR-1および/またはVEGFR-2を阻害するTKI;ソラフェニブ(ネクサバール);SU5416(セマキシニブ);SU11248/スニチニブ(スーテント);バンデタニブ(ZD6474);Ly317615(エンザスタウリン);抗α5β1インテグリン抗体またはその機能性断片;ボロシキシマブ;3-(2-{1-アルキル-5-[(ピリジン-2-イルアミノ)-メチル]-ピロリジン-3-イルオキシ}-アセチルアミノ)-1-(アルキル-アミノ)-プロピオン酸;(S)-2-[(2,4,6-トリメチルフェニル)スルホニル]アミノ-3-[7-ベンジルオキシカルボニル-8-(2-ピリジニルアミノメチル)-1-オキサ-2,7-ジアザスピロ-(4,4)-ノン-2-エン-3-イル]カルボニルアミノプロピオン酸;EMD478761;またはRC*D(ThioP)C*(Arg-Cys-Asp-チオプロリン-Cys(星印はシステイン残基を通じたジスルフィド結合による環化を意
味する);2-メトキシエストラジオール;αVβ3阻害剤;アンギオポエチン2;抗血管新生ステロイドおよびヘパリン;アンギオスタチン;アンギオスタチン関連分子;抗カテプシンS抗体;抗トロンビンIII断片;カルレティキュリン;カンスタチン;カルボキシアミドトリアゾール;軟骨由来血管新生阻害因子;CDAI;CM101;CXCL10;エンドスタチン;IFN-α;IFN-β;IFN-γ;IL-12;IL-18;IL-4;リノミド;マスピン;マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤;Meth-1;Meth-2;オステオポンチン;ペガプタニブ;血小板因子-4;プロラクチン;プロリフェリン関連タンパク質;プロトロンビン(クリングルドメイン-2);レスチン;可溶性NRP-1;可溶性VEGFR-1;SPARC;SU5416;スラミン;テコガラン;テトラチオモリブデート;サリドマイド;レナリドミド;トロンボスポンジン;TIMP;TNP-470;TSP-1;TSP-2;バソスタチン;VEGFR拮抗薬;VEGI;ボロシキシマブ(M200);フィブロネクチン断片またはドメイン;アナステリン;レンバチニブ(E7080);モテサニブ(AMG706);パゾパニブ(ヴォトリエント);VEGFの阻害剤;VEGFR1の阻害剤;VEGFR2の阻害剤;VEGFR2の阻害剤;α5β1インテグリンの阻害剤;VEGF、VEGFR1、VEGFR2、VEGFR3、および/またはα5β1インテグリンのペプチド、ペプチド模倣剤、小分子、化学的、および/または核酸阻害剤;IL-6拮抗薬;抗IL-6抗体;およびそれらのあらゆる組み合わせからなる群から、任意選択的に増殖性(血管新生)眼疾患を予防または治療するのに十分な量で選択されてもよい。
【0028】
RPE細胞は、遺伝子改変されていてもよい。例えば、前記RPE細胞は、遺伝子改変された多能性細胞から生成されてもよい。前記遺伝子操作は、前記RPE細胞による、血管新生を阻害する1つまたは複数の因子の産生をもたらしてもよい。血管新生を阻害する例示的な因子は、フィブロネクチン断片またはドメイン;アナステリン;特異的抗VEGF抗体またはその機能性断片またはドメイン;特異的抗VEGF受容体抗体またはその機能性断片またはドメイン;特異的抗α5β1インテグリン抗体またはその機能性断片またはドメイン;VEGFの断片またはドメイン;VEGFR受容体の断片またはドメイン;VEGF-Trap;およびそれらのあらゆる組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1つの因子を含む。
【0029】
血管新生を阻害する前記因子の産生は、RPE特異的プロモーターによって調節されてもよい。前記RPE-特異的プロモーターは、RPE65プロモーター、カテプシンD近位プロモーター、およびVMD2プロモーターからなる群から選択されてもよい。
【0030】
前記RPE細胞は、多能性細胞から生成されてもよい。前記多能性幹細胞は、OCT-4、アルカリホスファターゼ、Sox2、TDGF-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、および/またはTRA-1-80を含んでなってもよい、1つまたは複数のマーカーの発現について陽性であってもよい。前記多能性細胞は、前記培養中に色素性上皮細胞が出現するのに十分な時間にわたり、多層集団または胚様体中で培養されてもよい、ヒト多能性細胞であってもよい。前記培養中に色素性上皮細胞が出現するのに十分な前記時間は、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約4週間、少なくとも約5週間、少なくとも約6週間、または少なくとも約7週間、少なくとも約8週間を含んでなってもよい。前記多層集団または胚様体は、DMEMを含んでなってもよい培地中で培養されてもよい。前記培地は、EB-DMを含んでなっても、それから本質的になっても、またはそれからなってもよい。前記色素性上皮細胞は単離して培養し、それによってRPE細胞集団を生成してもよい。前記単離は、培養から、細胞または細胞塊を酵素的、化学的、または物理的に分離するステップと、色素性上皮細胞、または色素性上皮細胞を含んでなってもよい細胞塊を選択するステップを含んでなってもよい。前記胚様体は懸濁状態で、および/または付着培養として、培養されてもよい(例えば懸濁状態とそれに続く付着培養)。付着培養として培養された前記胚様体は、色
素性上皮細胞を含んでなる1つまたは複数の増殖物を生じてもよい。前記多能性幹細胞は、低下したHLA抗原複雑度を有する。RPE形成に先だって、前記多能性細胞は、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、コラーゲン、コラーゲンI、コラーゲンIV、コラーゲンVIII、ヘパラン硫酸、マトリゲル(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞からの可溶性製剤)、CellStart、ヒト基底膜抽出物、およびそれらのあらゆる組み合わせからなる群から選択されてもよい基材上で、培養されてもよい。前記基材は、マトリゲル(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞からの可溶性製剤)を含んでなってもよい。
【0031】
1つまたは複数の胚性幹細胞マーカーの実質的発現が欠如した細胞を含んでなってもよい医薬組成物。前記1つまたは複数の胚性幹細胞マーカーは、OCT-4、NANOG、Rex-1、アルカリホスファターゼ、Sox2、TDGF-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、および/またはTRA-1-80を含んでなってもよい。
【0032】
前記RPE細胞は、1つまたは複数のRPE細胞マーカーの発現について陽性であってもよい。前記1つまたは複数のRPE細胞マーカーは、RPE65、CRALBP、PEDF、ベストロフィン、MITF、Otx2、PAX2、PAX6、ZO-1、および/またはチロシナーゼを含んでなってもよい。
【0033】
前記RPE細胞は、前記平均メラニン含有量を得るのに十分な時間にわたり、RPE細胞を静止細胞として維持するステップを含んでなる方法によって、生成されてもよい。前記RPE細胞は、前記RPE細胞の少なくとも50%中におけるベストロフィン発現を確立するのに十分な時間にわたり、RPE細胞を静止細胞として維持するステップを含んでなる方法によって、生成されてもよい。
【0034】
前記医薬組成物は、マウス胚性支持細胞(MEF)およびヒト胚性幹細胞(hES)を実質的に含まなくてもよい。
【0035】
前記RPEは、例えばαインテグリンサブユニット1、αインテグリンサブユニット2、αインテグリンサブユニット3、αインテグリンサブユニット4、αインテグリンサブユニット5、αインテグリンサブユニット6、またはαインテグリンサブユニット9などのαインテグリンサブユニットの1つまたは複数の発現を増大させる条件下で、前記RPE細胞を培養するステップを含んでなる方法によって生成されてもよい。前記条件は、マンガンへの曝露、抗CD29抗体への曝露、モノクローナル抗体HUTS-21への曝露、ノクローナル抗体mAb TS2/16への曝露、および/または前記RPE細胞の少なくとも約4代の継代を含んでなってもよい。
【0036】
RPE細胞は、表5に列挙される基準の少なくとも1つを満たし、および/または優良製造規範(GMP)に従って製造される。
【0037】
医薬組成物は、前記RPE細胞に先だって、それと同時に、それに引き続いて、および/またはそれと共に、必要とする対象に投与されてもよい、少なくとも1つの免疫抑制または免疫寛容化剤をさらに含んでなってもよい。前記免疫抑制または免疫寛容化剤は、間葉幹細胞、抗リンパ球グロブリン(ALG)ポリクローナル抗体、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)ポリクローナル抗体、アザチオプリン、バシリキシマブ(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、シクロスポリン(シクロスポリンA)、ダクリズマブ(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、エベロリムス、ミコフェノール酸、リツキシマブ(登録商標)(抗CD20抗体)、シロリムス、タクロリムス、およびミコフェノール酸モフェチル(mycophemolate mofetil)の1つまたは複数を含んでなっ
てもよい。
【0038】
一態様では、本開示は、上述したような医薬組成物と、前記複数のRPE細胞を所望の標的濃度に希釈するのに十分な容積の薬学的に許容可能な希釈剤を含んでなる別の容器とを含んでなる、キットを提供する。前記薬学的に許容可能な希釈剤の容積は、前記薬学的に許容可能な希釈剤の全容積を前記複数のRPE細胞の全体と組み合わせると、前記所望の標的濃度を有する前記複数のRPE細胞をもたらすような容積であってもよい。前記薬学的に許容可能な希釈剤の温度は、約0~10℃、任意選択的に約2~8℃であってもよい。前記複数のRPE細胞、または前記複数のRPE細胞を含有する薬学的に許容できる担体の温度は、約0~10℃、任意選択的に約2~8℃であってもよい。
【0039】
キットは、前記RPE細胞に先だって、それと同時に、それに引き続いて、および/またはそれと共に、必要とする対象に投与されてもよい、少なくとも1つの免疫抑制または免疫寛容化剤をさらに含んでなってもよく、該免疫抑制または免疫寛容化剤としては、上に列挙したものの1つまたは複数が挙げられる。
【0040】
キットは、前記RPE細胞に先だって、それと同時に、それに引き続いて、および/またはそれと共に、必要とする対象に投与されてもよい、上に列挙した血管新生阻害剤の1つまたは複数などの、1つまたは複数の血管新生阻害剤をさらに含んでなってもよい。
【0041】
一態様では、本開示は、解凍に引き続いて回収されてもよいRPE細胞が、少なくとも約60%の播種効率を有するような平均成熟レベルを凍結時点で有する、複数の冷凍保存網膜色素上皮(RPE)細胞を含んでなる冷凍保存組成物を提供する。前記播種効率は、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%であってもよい。前記平均的成熟度レベルは、前記複数の冷凍保存RPE細胞に典型的である細胞集団の平均メラニン含有量を測定することで判定されてもよい。前記複数の冷凍保存RPE細胞の平均メラニン含有量は、8pg/細胞未満であってもよい。
【0042】
一態様では、本開示は、複数の冷凍保存網膜色素上皮(RPE)細胞を含んでなる冷凍保存組成物を提供し、前記複数の冷凍保存RPE細胞の平均メラニン含有量は、8pg/細胞未満であってもよい。
【0043】
前記細胞は、冷凍保存媒体中に含有されてもよい。前記冷凍保存媒体は、例えば約5%~約50%のDMSOと約30%~約95%の血清のような、DMSO(ジメチルスルホキシド)、エチレングリコール、グリセロール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(MPD)、プロピレングリコール、およびスクロースの1つまたは複数を含んでなってもよく、前記血清は、任意選択的にウシ胎仔血清(FBS)であってもよい。前記冷凍保存培地は、約90%のFBSおよび約10%のDMSOを含んでなってもよい。
【0044】
解凍に引き続いて回収されたRPE細胞は、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%などの少なくとも約60%の播種効率を有してもよい。
【0045】
前記冷凍保存組成物は、凍結時点で約200,000~約10,000,000、約20,000~約50,000,000、約250,000~約5,000,000、約500,000~約4,000,000、または約1,000,000~約4,000,000個の生RPE細胞などの、凍結時点で約5,000~約1×108個の生RPE細胞を含んでなってもよい。
【0046】
解凍に引き続いて回収されたRPE細胞は、凍結の少なくとも約3、6、9、または12ヶ月後の時点で、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%の播種効率を有してもよい。
【0047】
解凍時に生存能力がある細胞の少なくとも85%は、解凍後、2~8℃で最高1時間、最高2時間、最高3時間、最高4時間、最高5時間、または最高6時間の保存時に、生存能力を維持してもよい。
【0048】
冷凍保存組成物は、約25%、20%、15%、10%、5%、1%、0.5%、0.1%、0.01%、0.001%、または0.0001%未満のRPE細胞でない細胞を含んでなってもよい。
【0049】
前記RPE細胞の平均メラニン含有量は、8pg/細胞未満、7pg/細胞未満、6pg/細胞未満、5pg/細胞未満、4pg/細胞未満、3pg/細胞未満、2pg/細胞未満、および少なくとも0.1pg/細胞、および任意選択的に少なくとも0.5pg/細胞または1pg/細胞;0.1~8pg/細胞、0.1~7pg/細胞,0.1~6pg/細胞,0.1~5pg/細胞、0.1~4pg/細胞、0.1~3pg/細胞、0.1~2pg/細胞、0.1~1pg/細胞、1~7pg/細胞、0.5~6pg-細胞、または1~5pg/細胞であってもよい。
【0050】
一実施形態では、前記RPE細胞の平均メラニン含有量は、10pg/細胞未満であってもよい。一実施形態では、前記RPE細胞の平均メラニン含有量は、9pg/細胞未満であってもよい。一実施形態では、前記RPE細胞の平均メラニン含有量は、8pg/細胞未満であってもよい。一実施形態では、前記RPE細胞の平均メラニン含有量は、7pg/細胞未満であってもよい。一実施形態では、前記RPE細胞の平均メラニン含有量は、6pg/細胞未満であってもよい。一実施形態では、前記RPE細胞の平均メラニン含有量は、5pg/細胞未満であってもよい。
【0051】
前記冷凍保存組成物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、または少なくとも80%は、ベストロフィン+であってもよい。前記冷凍保存組成物中の細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%は、PAX6+および/またはMITF+であってもよい。前記冷凍保存組成物中の細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%は、PAX6+および/またはベストロフィン+であってもよい。前記冷凍保存組成物中の細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%は、ZO-1+であってもよい。冷凍保存組成物中の少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%の細胞は、PAX6+およびベストロフィン+であってもよい。前記冷凍保存組成物中の細胞の少なくとも95%、または少なくとも99%はPAX6+であってもよい。
【0052】
冷凍保存組成物中では、任意選択的に前記冷凍保存組成物中の100万個の細胞あたり約1個以下の細胞、および任意選択的に900万個の細胞あたり2個以下の細胞が、OCT-4およびアルカリホスファターゼ(AP)発現の双方について陽性であってもよい。
【0053】
冷凍保存組成物は、前記RPE細胞に先だって、それと同時に、それに引き続いて、および/またはそれと共に、必要とする対象に投与されてもよい、上に列挙した血管新生阻害剤の1つまたは複数などの少なくとも1つの血管新生阻害剤をさらに含んでなってもよい。
【0054】
前記RPE細胞は、遺伝子改変されていてもよい。前記RPE細胞は、多能性細胞から生成されてもよい。前記RPE細胞は、遺伝子改変されていてもよい多能性細胞から生成されてもよい。前記遺伝子操作は、前記RPE細胞による、血管新生を阻害する1つまたは複数の因子の産生をもたらす。血管新生を阻害する前記1つまたは複数の因子は、例えばRPE65プロモーター、カテプシンD近位プロモーター、およびVMD2プロモーターなどのRPE特異的プロモーターによって調節される、フィブロネクチン断片またはドメイン;アナステリン;特異的抗VEGF抗体またはその機能性断片またはドメイン;特異的抗VEGF受容体抗体またはその機能性断片またはドメイン;特異的抗α5β1インテグリン抗体またはその機能性断片またはドメイン;VEGF断片またはドメイン;VEGFR受容体断片またはドメイン;VEGF-Trap;およびそれらのあらゆる組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1つの因子を含む。
【0055】
前記多能性幹細胞は、OCT-4、アルカリホスファターゼ、Sox2、TDGF-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、および/またはTRA-1-80を含んでなる、1つまたは複数のマーカーの発現について陽性であってもよい。
【0056】
前記多能性細胞は、前記培養中に色素性上皮細胞が出現するのに十分な時間にわたり、多層集団または胚様体中で培養されてもよい、ヒト多能性細胞であってもよい。
【0057】
前記培養中に色素性上皮細胞が出現するのに十分な前記時間は、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約4週間、少なくとも約5週間、少なくとも約6週間、または少なくとも約7週間、少なくとも約8週間を含んでなってもよい。
【0058】
一態様では、本開示は、(a)RPE細胞を付着条件下で培養して、敷石状形態を有する色素性RPE細胞の実質的に単層の培養を形成するステップと;および(b)冷凍保存または製剤処方のために、培養からRPE細胞を収穫するステップとを含んでなる、医薬品中で使用するための網膜色素上皮(RPE)細胞を生成する方法を提供し、収穫時点で、収穫された色素性RPE細胞の集団は、8pg/細胞未満の平均メラニン含有量を有する。
【0059】
少なくとも106個のRPE細胞が、冷凍保存または製剤処方のために収穫されてもよい。前記RPE細胞は多能性幹細胞から生成されてもよく、前記多能性幹細胞は、任意選択的にヒト胚性幹細胞またはヒトiPS細胞であってもよい。
【0060】
平均メラニン含有量は、色素が最も濃い5パーセントと色素が最も薄い5パーセントの収穫されたRPE細胞を除外した、細胞集団について判定してもよい。前記平均メラニン含有量は、8pg/細胞未満、7pg/細胞未満、6pg/細胞未満、5pg/細胞未満、4pg/細胞未満、3pg/細胞未満、2pg/細胞未満、および少なくとも0.1pg/細胞、および任意選択的に少なくとも0.5pg/細胞または1pg/細胞;0.1~8pg/細胞、0.1~7pg/細胞,0.1~6pg/細胞,0.1~5pg/細胞、0.1~4pg/細胞、0.1~3pg/細胞、0.1~2pg/細胞、0.1~1pg/細胞、1~7pg/細胞、0.5~6pg-細胞、または1~5pg/細胞であってもよい。
【0061】
一態様では、本開示は、(a)RPE細胞を付着条件下で培養して、敷石状形態を有する色素性RPE細胞の実質的に単層の培養を形成するステップと;(b)RPE細胞が8pg/細胞を超える平均メラニン含有量に達する前の時点で、RPE細胞を少なくとも1代継代するステップと;および(c)任意選択的に、1代または複数の継代後、冷凍保存
または製剤処方のためにRPE細胞を収穫するステップとを含んでなる、医薬品中で使用するための網膜色素上皮(RPE)細胞を生成する方法を提供し、前記RPE細胞は収穫時点で8pg/細胞未満の平均メラニン含有量を有する。
【0062】
一態様では、本開示は、(a)任意選択的にヒト胚性幹細胞またはヒトiPS細胞であってもよい多能性幹細胞を培養して胚様体(EB)を形成する、または多能性幹細胞を培養して多層集団を形成するステップと;(b)細胞質中に分散する褐色色素を含んでなってもよい色素性細胞の出現に十分な時間にわたって、多層細胞集団またはEBを培養するステップと;および(c)(b)の色素性細胞を単離して培養し、の平均色素レベルを有するRPE細胞を含有する培養集団を生成するステップとを含んでなる、膜色素上皮(RPE)細胞を生成する方法を提供する。ステップ(b)は、前記胚様体を培養して付着培養を形成するステップを含んでなってもよい。ステップ(a)は、多能性細胞の培養を過成長させ、それによって多層集団を形成するステップを含んでなってもよい。ステップ(a)は、前記多能性細胞を低付着性基質上で培養し、または前記多能性細胞を懸滴法を利用して培養し、それによって前記多能性細胞から胚様体を形成するステップを含んでなってもよい。前記多能性幹細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞、胚性幹(ES)細胞、成人幹細胞、造血幹細胞、胎児幹細胞、間葉幹細胞、分娩後幹細胞、多分化能幹細胞、または胚性胚芽細胞であってもよい。多能性幹細胞は、ヒトES細胞またはヒトiPS細胞であってもよい。多能性幹細胞は、遺伝子改変されていてもよい。前記遺伝子操作は、前記RPE細胞による、上で同定されたものなどの血管新生を阻害する因子の産生をもたらす。ステップ(a)で胚様体がその中で形成されてもよい培地、および/またはステップ(c)で色素性細胞がその中で培養されてもよい培地は、DMEMを含んでなってもよい。胚様体がステップ(a)で形成されてもよく、および/または色素性細胞がステップ(c)で培養されてもよく、EB-DMを含んでなり、それから本質的になり、またはそれからなってもよい。ステップ(c)で、前記色素性細胞がその中で培養されてもよい培地は、EB-DMを含んでなってもよい。前記色素性上皮細胞がステップ(c)で培養されてもよく、RPE-GM/MMを含んでなり、それから本質的になり、またはそれからなってもよい。ステップ(b)の培養期間は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、または8週間、または少なくとも約1、2、3、4、5、または6ヶ月であってもよい。ステップ(a)、(b)、または(c)で使用される培地は、EB-DM、RPE-GM/MM、MDBK-GM、OptiPro SFM、VP-SFM、EGM-2、またはMDBK-MMであってもよい。ステップ(c)は、培養をトリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、パパイン、コラゲナーゼとディスパーゼの混合物、およびコラゲナーゼとトリプシンの混合物からなる群から選択される酵素に接触させるステップを含んでなってもよく、または培養を機械的に破壊しまたは単離するステップを含んでなってもよく、または培養をEDTAまたはEGTAに接触させるステップを含んでなってもよく、それによって前記色素性細胞の培養基質への付着を妨害する。多能性幹細胞は、低下したHLA抗原複雑度を有する。RPE細胞は、1つまたは複数の胚性幹細胞マーカーの実質的発現を欠いてもよい。前記1つまたは複数の胚性幹細胞マーカーは、Oct-4、NANOG、Rex-1、アルカリホスファターゼ、Sox2、TDGF-1、DPPA-2、および/またはDPPA-4であってもよい。
【0063】
例えば増殖物が成長できるようにするために、胚様体をそれらの形成に引き続いて、付着培養物として培養してもよい。RPE細胞は、少なくとも1つのRPE細胞マーカーについて陽性であってもよい。前記少なくとも1つのRPE細胞マーカーは、RPE65、CRALBP、PEDF、ベストロフィン、MITF、Otx2、PAX2、PAX6,またはチロシナーゼの1つまたは複数、または任意選択的にPAX6およびベストロフィンを含む。
【0064】
方法は、例えば上述したように、αインテグリンサブユニット発現を増大させる条件下
で、前記RPE細胞を培養するステップをさらに含んでなってもよい。
【0065】
前記EBは、Y-27632などの(wuch as)rho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤の存在下で形成されもよい。前記RPE形成に先だって、マトリゲル(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞からの可溶性製剤)上で、前記多能性細胞を培養してもよい。
【0066】
一態様では、本開示は、8pg/細胞未満の平均メラニン含有量を含有して、移植後少なくとも約1ヶ月間にわたりそれらの表現型を維持する、培養中で少なくとも約1ヶ月間にわたりそれらの表現型を維持する、移植後に宿主に組み込まれる、移植後に実質的に増殖しない、食作用性(phagocytositic)であってもよい、ビタミンAを送達して代謝しまたは貯蔵する、移植後に網膜と脈絡膜の間で鉄を輸送する、移植後にブルッフ膜に付着する、移植後に迷光を吸収する、αインテグリンサブユニット発現の上昇を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより大きな平均テロメア長を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べて培養中でより長い複製寿命を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べて1つまたは複数のαインテグリンサブユニットのより大きな発現を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより低いA2E含有量を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより低いリポフスチン含有量を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより少ない紫外線損傷蓄積を示す、または提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより多数の食胞を含有する特性の少なくとも1つを有してもよい、網膜劣化の治療に適するRPE細胞を含んでなる医薬品を提供する。一態様では、本開示は、8pg/細胞未満の平均メラニン含有量を含有してもよく、移植後にブルッフ膜に付着する、移植後に迷光を吸収する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより大きな平均テロメア長を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べて培養中でより長い複製寿命を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより低いA2E含有量を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより低いリポフスチン含有量を有する、提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより少ない紫外線損傷蓄積を示す、または提供されたヒト組織に由来するRPE細胞と比べてより多数の食胞を含有する特性の少なくとも1つを有してもよい、網膜劣化の治療に適するRPE細胞を含んでなる医薬品を提供する。
【0067】
一態様では、本開示は、組成物またはキットのRPE細胞を含んでなる医薬品、上述した方法に従って製造された医薬品を、それを必要とする対象の眼に、前記網膜変性病状を治療するのに効果的な量で投与するステップを含んでなる、網膜変性病状を治療する方法を提供する。
【0068】
網膜変性病状は、コロイデレミア、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性(乾燥型または湿潤型)、網膜離脱、色素性網膜炎、シュタルガルト病、色素線条、または近視性黄斑変性を含んでなってもよい。前記投与するステップは、それを必要とする眼に、前記RPE細胞を眼内投与するステップを含んでなってもよい。前記眼内投与は、前記RPE細胞を網膜下空隙に注入するステップを含んでなってもよい。前記眼内投与は、任意選択的に等張溶液および/または食塩溶液である水溶液を網膜下腔内に注入し、それによって事前ブレブを形成するステップと、前記水溶液と同一の網膜下腔に前記RPE細胞を投与する前に、前記水溶液を除去するステップとを含んでなってもよい。前記注入は、針または注入カニューレを通じてもよい。前記針または注入カニューレ径は、約0.3mmから0.9mmまたは約0.5~約0.6mmであってもよい。前記針または注入カニューレは、約0.09mm~約0.15mmの径を有する先端を含んでなってもよい。前記カニューレは、MEDONE POLYTIP(登録商標)カニューレ25/38g(0.12mm(38g)×5mm先端付き0.50mm(25g)×28mmカニューレ)であってもよい
。治療の有効性は、細隙灯生体顕微鏡写真、眼底撮影、IVFA、およびSD-OCT、および最良矯正視力(BCVA)の1つまたは複数の視力結果を判定することで、評価してもよい。方法は、矯正視力(BCVA)を改善し、および/または糖尿病網膜症の早期治療研究(ETDRS)視力表における可読文字数を増大させもよい。網膜変性の病状は、乾燥型AMDまたはシュタルガルト病であってもよい。
【0069】
前記網膜変性病状を治療するのに有効な量は、約20,000~200,000個のRPE細胞、約20,000~500,000個のRPE細胞、約20,000~2,000,000個のRPE細胞、または少なくとも約20,000個のRPE細胞、または少なくとも約20,000、50,000、75,000、100,000、125,000、150,000、175,000、180,000、185,000、190,000、200,000、または500,000個のRPE細胞であってもよい。
【0070】
前記対象は、プレドニゾロンまたはメチルプレドニゾロンなどの前記RPE細胞の前記投与に先だって、またはそれと同時に、コルチコステロイドを投与されなくてもよい。前記対象は、前記RPE細胞の前記投与に先だって、または前記RPE細胞の前記投与と同時に、少なくとも3、6、12、24、48、72、または96時間以内に、コルチコステロイドを投与されなくてもよい。前記対象は、前記RPE細胞の前記投与に先だって、または前記RPE細胞の前記投与の直前またはそれと同時に、少なくとも1時間以内に、コルチコステロイドを投与されなくてもよい。前記対象は、前記RPE細胞の前記投与に引き続いて、少なくとも12、24、48、72、または96時間以内に、コルチコステロイドを投与されなくてもよい。前記対象は、前記RPE細胞の前記投与に引き続いて、少なくとも48時間以内に、コルチコステロイドを投与されなくてもよい。
【0071】
前記RPE細胞は、血管新生阻害剤、抗酸化剤、抗酸化剤補助因子、抗酸化活性の増大に寄与するその他の因子、黄斑キサントフィル、長鎖ω-3脂肪酸、アミロイド阻害剤、CNTF作動薬、RPE65の阻害剤、A2Eおよび/またはリポフスチン蓄積を標的とする因子、光受容体機能および/または代謝の下方制御剤または阻害剤、α2-アドレナリン作受容体作動薬、選択的セロトニン1A作動薬、C-5を標的にする因子、膜侵襲複合体(C5b-9)および任意選択のその他のドルーゼン成分、免疫抑制剤、およびリポフスチン蓄積を予防または治療する薬剤からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤と組み合わせて患者に投与されてもよい。
【0072】
前記1つまたは複数の薬剤は、前記RPE細胞製剤と同時に、それに先だって、および/またはそれに引き続いて、前記患者に投与してもよい。
【0073】
前記組成物、キット、または医薬品は、コロイデレミア、糖尿病性網膜症、乾燥型加齢黄斑変性、湿潤型加齢黄斑変性、網膜離脱、色素性網膜炎、シュタルガルト病、色素線条、または近視性黄斑変性などの網膜変性病状を治療するための薬剤の製造で使用してもよい。
【0074】
前記多能性幹細胞は、OCT-4、アルカリホスファターゼ、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、およびTRA-1-80からなる群から選択される、1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0075】
前記RPE細胞は、その他の起源から得られるRPE細胞の複製寿命と比べて、長くてもよい複製寿命;hESCおよび/またはヒトiPS細胞(またはhESCおよび/またはヒトiPS細胞集団の平均)のテロメア長の少なくとも30パーセント、またはhESCおよび/またはヒトiPS細胞のテロメア長の少なくとも40、50、60、70、80または90パーセントであってもよい平均テロメア長;4kbより長く、または5、6
、7、8、9、10、11、12または13kbより長く、または10kb以上であってもよい平均最終制限酵素断片長(TRF);成人の眼から単離された同等数のRPE細胞の平均リポフスチン含有量の50パーセント未満であり、または成人の眼から単離された同等数のRPE細胞の平均リポフスチン含有量の40、30、20または10パーセント未満であってもよい、平均リポフスチン含有量;成人の眼から単離された(isolated adult eyes)同等数のRPE細胞の平均N-レチニリデン-N-レチニルエタノールアミン(A2E)含有量の50パーセント未満であってもよく、または成人の眼から単離された同等数のRPE細胞の平均A2E含有量の40、30、20または10パーセント未満であってもよい、平均A2E含有量;105(100,000)個の細胞あたり50ng未満であってもよい、平均N-レチニリデン-N-レチニルエタノールアミン(A2E)含有量;成人の眼から単離された(isolated adult eyes)同等数のRPE細胞の視細胞外節(POS)の食作用速度と比べて少なくとも50パーセント大きくてもよく、または成人の眼から単離された(isolated adult eyes)同等数のRPE細胞のPOSの食作用速度と比べて少なくとも75、100、150または200パーセント大きくてもよい、POSの食作用速度;24時間後のPOS総濃度の少なくとも20パーセントであり、または24時間後のPOS総濃度の少なくとも25、30、25、40または50パーセントであってもよい、視細胞外節(POS)の食作用速度;成人宿主から単離されたRPE細胞と比較して、低下している酸化的ストレスおよび/またはDNA損傷の蓄積レベル;成人の眼から単離された(isolated adult eyes)同等数のRPE細胞の平均プロテアソーム(proteosome)活性よりも少なくとも50パーセント大きくてもよく、または成人の眼から単離された同等数のRPE細胞の平均プロテアソーム(proteosome)活性よりも少なくとも60、70、80、90または100パーセント大きくてもよい、平均プロテアソーム活性;成人の眼から単離された(isolated adult eyes)同等数のRPE細胞のユビキチン抱合体の平均蓄積の50パーセント未満であってもよく、または成人の眼から単離された同等数のRPE細胞のユビキチン抱合体の平均蓄積の40、30、20または10パーセント未満であってもよい、ユビキチン抱合体の平均蓄積の特性の1つまたは複数を示す。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1A-B】
図1。hESC MA09から作成されたRPEの特性解析である。A:胚様体の分化培養中で形成されたRPEの色素斑を示す6ウェルプレート。B~H:解凍および調合されたRPE中の分子マーカーの評価。MITFおよびPAX6(C~D)は、新鮮に調合された細胞とベストロフィン/PAX6の一晩培養物中で評価し、ZO-1免疫染色は、3週齢培養物で実施した。B:中程度の色素形成が確立されている、コンフルエントな敷石状単層を示す、調合後3週齢RPEのHMC顕微鏡写真。C:マージさせたMITF/PAX6(MITFは原本では赤色、PAX6は原本では緑色)、D:MITF/PAX6に対応するDAPI;E:マージさせたベストロフィン/PAX6、F:対応するDAPI;G:ZO-1、H:対応するDAPI。C~H中のほぼ100%の細胞が、マーカー評価について陽性であることに留意されたい。倍率、×400(B~H)。I~q:基準RPEロット(各グループの左パネル、原本では青色)と比較した、解凍された医療用RPE(各グループの右パネル、原本では緑色)中における、RPEマーカーの上方制御およびhESCマーカーの下方制御を示すPCR。示される遺伝子は(左から右の順で)、ベストロフィン、Pax-6、MITF、RPE-65、NANOG、OCT-4、およびSOX-2である。J:37℃および4℃(対照)における、hES-RPEによるPhRodo生体粒子の食作用を示すFACS。未処置細胞(原本では黒線;一番左の曲線)および4℃対照細胞(原本では赤線;未処置細胞曲線の右にわずかに上昇する曲線の左部分および未処置細胞曲線の右部分と重なる曲線の右部分)、および37℃処理細胞(原本では青線;一番右の曲線)が示される。K:医療用RPEロットの正常な女性(46XX)核型。
【
図1C-D】
図1。hESC MA09から作成されたRPEの特性解析である。A:胚様体の分化培養中で形成されたRPEの色素斑を示す6ウェルプレート。B~H:解凍および調合されたRPE中の分子マーカーの評価。MITFおよびPAX6(C~D)は、新鮮に調合された細胞とベストロフィン/PAX6の一晩培養物中で評価し、ZO-1免疫染色は、3週齢培養物で実施した。B:中程度の色素形成が確立されている、コンフルエントな敷石状単層を示す、調合後3週齢RPEのHMC顕微鏡写真。C:マージさせたMITF/PAX6(MITFは原本では赤色、PAX6は原本では緑色)、D:MITF/PAX6に対応するDAPI;E:マージさせたベストロフィン/PAX6、F:対応するDAPI;G:ZO-1、H:対応するDAPI。C~H中のほぼ100%の細胞が、マーカー評価について陽性であることに留意されたい。倍率、×400(B~H)。I~q:基準RPEロット(各グループの左パネル、原本では青色)と比較した、解凍された医療用RPE(各グループの右パネル、原本では緑色)中における、RPEマーカーの上方制御およびhESCマーカーの下方制御を示すPCR。示される遺伝子は(左から右の順で)、ベストロフィン、Pax-6、MITF、RPE-65、NANOG、OCT-4、およびSOX-2である。J:37℃および4℃(対照)における、hES-RPEによるPhRodo生体粒子の食作用を示すFACS。未処置細胞(原本では黒線;一番左の曲線)および4℃対照細胞(原本では赤線;未処置細胞曲線の右にわずかに上昇する曲線の左部分および未処置細胞曲線の右部分と重なる曲線の右部分)、および37℃処理細胞(原本では青線;一番右の曲線)が示される。K:医療用RPEロットの正常な女性(46XX)核型。
【
図1E-F】
図1。hESC MA09から作成されたRPEの特性解析である。A:胚様体の分化培養中で形成されたRPEの色素斑を示す6ウェルプレート。B~H:解凍および調合されたRPE中の分子マーカーの評価。MITFおよびPAX6(C~D)は、新鮮に調合された細胞とベストロフィン/PAX6の一晩培養物中で評価し、ZO-1免疫染色は、3週齢培養物で実施した。B:中程度の色素形成が確立されている、コンフルエントな敷石状単層を示す、調合後3週齢RPEのHMC顕微鏡写真。C:マージさせたMITF/PAX6(MITFは原本では赤色、PAX6は原本では緑色)、D:MITF/PAX6に対応するDAPI;E:マージさせたベストロフィン/PAX6、F:対応するDAPI;G:ZO-1、H:対応するDAPI。C~H中のほぼ100%の細胞が、マーカー評価について陽性であることに留意されたい。倍率、×400(B~H)。I~q:基準RPEロット(各グループの左パネル、原本では青色)と比較した、解凍された医療用RPE(各グループの右パネル、原本では緑色)中における、RPEマーカーの上方制御およびhESCマーカーの下方制御を示すPCR。示される遺伝子は(左から右の順で)、ベストロフィン、Pax-6、MITF、RPE-65、NANOG、OCT-4、およびSOX-2である。J:37℃および4℃(対照)における、hES-RPEによるPhRodo生体粒子の食作用を示すFACS。未処置細胞(原本では黒線;一番左の曲線)および4℃対照細胞(原本では赤線;未処置細胞曲線の右にわずかに上昇する曲線の左部分および未処置細胞曲線の右部分と重なる曲線の右部分)、および37℃処理細胞(原本では青線;一番右の曲線)が示される。K:医療用RPEロットの正常な女性(46XX)核型。
【
図1G-H】
図1。hESC MA09から作成されたRPEの特性解析である。A:胚様体の分化培養中で形成されたRPEの色素斑を示す6ウェルプレート。B~H:解凍および調合されたRPE中の分子マーカーの評価。MITFおよびPAX6(C~D)は、新鮮に調合された細胞とベストロフィン/PAX6の一晩培養物中で評価し、ZO-1免疫染色は、3週齢培養物で実施した。B:中程度の色素形成が確立されている、コンフルエントな敷石状単層を示す、調合後3週齢RPEのHMC顕微鏡写真。C:マージさせたMITF/PAX6(MITFは原本では赤色、PAX6は原本では緑色)、D:MITF/PAX6に対応するDAPI;E:マージさせたベストロフィン/PAX6、F:対応するDAPI;G:ZO-1、H:対応するDAPI。C~H中のほぼ100%の細胞が、マーカー評価について陽性であることに留意されたい。倍率、×400(B~H)。I~q:基準RPEロット(各グループの左パネル、原本では青色)と比較した、解凍された医療用RPE(各グループの右パネル、原本では緑色)中における、RPEマーカーの上方制御およびhESCマーカーの下方制御を示すPCR。示される遺伝子は(左から右の順で)、ベストロフィン、Pax-6、MITF、RPE-65、NANOG、OCT-4、およびSOX-2である。J:37℃および4℃(対照)における、hES-RPEによるPhRodo生体粒子の食作用を示すFACS。未処置細胞(原本では黒線;一番左の曲線)および4℃対照細胞(原本では赤線;未処置細胞曲線の右にわずかに上昇する曲線の左部分および未処置細胞曲線の右部分と重なる曲線の右部分)、および37℃処理細胞(原本では青線;一番右の曲線)が示される。K:医療用RPEロットの正常な女性(46XX)核型。
【
図1I】
図1。hESC MA09から作成されたRPEの特性解析である。A:胚様体の分化培養中で形成されたRPEの色素斑を示す6ウェルプレート。B~H:解凍および調合されたRPE中の分子マーカーの評価。MITFおよびPAX6(C~D)は、新鮮に調合された細胞とベストロフィン/PAX6の一晩培養物中で評価し、ZO-1免疫染色は、3週齢培養物で実施した。B:中程度の色素形成が確立されている、コンフルエントな敷石状単層を示す、調合後3週齢RPEのHMC顕微鏡写真。C:マージさせたMITF/PAX6(MITFは原本では赤色、PAX6は原本では緑色)、D:MITF/PAX6に対応するDAPI;E:マージさせたベストロフィン/PAX6、F:対応するDAPI;G:ZO-1、H:対応するDAPI。C~H中のほぼ100%の細胞が、マーカー評価について陽性であることに留意されたい。倍率、×400(B~H)。I~q:基準RPEロット(各グループの左パネル、原本では青色)と比較した、解凍された医療用RPE(各グループの右パネル、原本では緑色)中における、RPEマーカーの上方制御およびhESCマーカーの下方制御を示すPCR。示される遺伝子は(左から右の順で)、ベストロフィン、Pax-6、MITF、RPE-65、NANOG、OCT-4、およびSOX-2である。J:37℃および4℃(対照)における、hES-RPEによるPhRodo生体粒子の食作用を示すFACS。未処置細胞(原本では黒線;一番左の曲線)および4℃対照細胞(原本では赤線;未処置細胞曲線の右にわずかに上昇する曲線の左部分および未処置細胞曲線の右部分と重なる曲線の右部分)、および37℃処理細胞(原本では青線;一番右の曲線)が示される。K:医療用RPEロットの正常な女性(46XX)核型。
【
図1J】
図1。hESC MA09から作成されたRPEの特性解析である。A:胚様体の分化培養中で形成されたRPEの色素斑を示す6ウェルプレート。B~H:解凍および調合されたRPE中の分子マーカーの評価。MITFおよびPAX6(C~D)は、新鮮に調合された細胞とベストロフィン/PAX6の一晩培養物中で評価し、ZO-1免疫染色は、3週齢培養物で実施した。B:中程度の色素形成が確立されている、コンフルエントな敷石状単層を示す、調合後3週齢RPEのHMC顕微鏡写真。C:マージさせたMITF/PAX6(MITFは原本では赤色、PAX6は原本では緑色)、D:MITF/PAX6に対応するDAPI;E:マージさせたベストロフィン/PAX6、F:対応するDAPI;G:ZO-1、H:対応するDAPI。C~H中のほぼ100%の細胞が、マーカー評価について陽性であることに留意されたい。倍率、×400(B~H)。I~q:基準RPEロット(各グループの左パネル、原本では青色)と比較した、解凍された医療用RPE(各グループの右パネル、原本では緑色)中における、RPEマーカーの上方制御およびhESCマーカーの下方制御を示すPCR。示される遺伝子は(左から右の順で)、ベストロフィン、Pax-6、MITF、RPE-65、NANOG、OCT-4、およびSOX-2である。J:37℃および4℃(対照)における、hES-RPEによるPhRodo生体粒子の食作用を示すFACS。未処置細胞(原本では黒線;一番左の曲線)および4℃対照細胞(原本では赤線;未処置細胞曲線の右にわずかに上昇する曲線の左部分および未処置細胞曲線の右部分と重なる曲線の右部分)、および37℃処理細胞(原本では青線;一番右の曲線)が示される。K:医療用RPEロットの正常な女性(46XX)核型。
【
図1K】
図1。hESC MA09から作成されたRPEの特性解析である。A:胚様体の分化培養中で形成されたRPEの色素斑を示す6ウェルプレート。B~H:解凍および調合されたRPE中の分子マーカーの評価。MITFおよびPAX6(C~D)は、新鮮に調合された細胞とベストロフィン/PAX6の一晩培養物中で評価し、ZO-1免疫染色は、3週齢培養物で実施した。B:中程度の色素形成が確立されている、コンフルエントな敷石状単層を示す、調合後3週齢RPEのHMC顕微鏡写真。C:マージさせたMITF/PAX6(MITFは原本では赤色、PAX6は原本では緑色)、D:MITF/PAX6に対応するDAPI;E:マージさせたベストロフィン/PAX6、F:対応するDAPI;G:ZO-1、H:対応するDAPI。C~H中のほぼ100%の細胞が、マーカー評価について陽性であることに留意されたい。倍率、×400(B~H)。I~q:基準RPEロット(各グループの左パネル、原本では青色)と比較した、解凍された医療用RPE(各グループの右パネル、原本では緑色)中における、RPEマーカーの上方制御およびhESCマーカーの下方制御を示すPCR。示される遺伝子は(左から右の順で)、ベストロフィン、Pax-6、MITF、RPE-65、NANOG、OCT-4、およびSOX-2である。J:37℃および4℃(対照)における、hES-RPEによるPhRodo生体粒子の食作用を示すFACS。未処置細胞(原本では黒線;一番左の曲線)および4℃対照細胞(原本では赤線;未処置細胞曲線の右にわずかに上昇する曲線の左部分および未処置細胞曲線の右部分と重なる曲線の右部分)、および37℃処理細胞(原本では青線;一番右の曲線)が示される。K:医療用RPEロットの正常な女性(46XX)核型。
【
図2A-C】
図2。hESC-MA09から作成されたRPEの9ヶ月後の生存とNIH IIIマウス眼への組み込みである。抗ヒトミトコンドリア染色された切片(A、原本では赤色)および抗ヒトベストロフィン染色された切片(B、原本では緑色)。同一細胞(C:マージさせたAおよびB)中のヒトミトコンドリアおよびベストロフィン染色の正確な共局在、およびマウスRPE(F:マージさせたA、B、C、E)中の染色の不在に留意されたい。明視野画像(E)上の囲みを「D」で拡大して、ヒトRPEの形態を示す。倍率200×(A~C、E、F)、Dはさらに×4.5拡大した。
【
図2D-F】
図2。hESC-MA09から作成されたRPEの9ヶ月後の生存とNIH IIIマウス眼への組み込みである。抗ヒトミトコンドリア染色された切片(A、原本では赤色)および抗ヒトベストロフィン染色された切片(B、原本では緑色)。同一細胞(C:マージさせたAおよびB)中のヒトミトコンドリアおよびベストロフィン染色の正確な共局在、およびマウスRPE(F:マージさせたA、B、C、E)中の染色の不在に留意されたい。明視野画像(E)上の囲みを「D」で拡大して、ヒトRPEの形態を示す。倍率200×(A~C、E、F)、Dはさらに×4.5拡大した。
【
図3A-B】
図3。色素形成程度が異なるRPEの付着および成長における差異である。顕微鏡写真は、色素がより薄い(A~C)およびより濃い(D~F)ロットの付着および挙動を示す。Gは、より濃いロット(各グループの左パネル)およびより薄いロット(各グループの右パネル)のRPEの成長速度を図示し、播種後連続3日間のウェルあたり細胞総数を示す。AおよびDは、播種後21時間の全細胞数を示し、BおよびEは、浮遊細胞除去後のAおよびDと同一培養物を示し、CおよびFは、播種後3日目の同一培養物を示す。解凍後21時間目に、色素がより薄いロット(A、B、G)では、細胞の大部分が付着する一方、より濃いロットでは、わずかな細胞のみが付着して(D、E、G矢印)、大部分の細胞は浮遊していることに留意されたい。培養後3日目には、色素がより薄いロット(C)では細胞数がより多く、コンフルエントな単層が確立された一方、より濃いロットでは、依然としてコンフルエント以下であった。倍率、×200。
【
図3C-D】
図3。色素形成程度が異なるRPEの付着および成長における差異である。顕微鏡写真は、色素がより薄い(A~C)およびより濃い(D~F)ロットの付着および挙動を示す。Gは、より濃いロット(各グループの左パネル)およびより薄いロット(各グループの右パネル)のRPEの成長速度を図示し、播種後連続3日間のウェルあたり細胞総数を示す。AおよびDは、播種後21時間の全細胞数を示し、BおよびEは、浮遊細胞除去後のAおよびDと同一培養物を示し、CおよびFは、播種後3日目の同一培養物を示す。解凍後21時間目に、色素がより薄いロット(A、B、G)では、細胞の大部分が付着する一方、より濃いロットでは、わずかな細胞のみが付着して(D、E、G矢印)、大部分の細胞は浮遊していることに留意されたい。培養後3日目には、色素がより薄いロット(C)では細胞数がより多く、コンフルエントな単層が確立された一方、より濃いロットでは、依然としてコンフルエント以下であった。倍率、×200。
【
図3E-F】
図3。色素形成程度が異なるRPEの付着および成長における差異である。顕微鏡写真は、色素がより薄い(A~C)およびより濃い(D~F)ロットの付着および挙動を示す。Gは、より濃いロット(各グループの左パネル)およびより薄いロット(各グループの右パネル)のRPEの成長速度を図示し、播種後連続3日間のウェルあたり細胞総数を示す。AおよびDは、播種後21時間の全細胞数を示し、BおよびEは、浮遊細胞除去後のAおよびDと同一培養物を示し、CおよびFは、播種後3日目の同一培養物を示す。解凍後21時間目に、色素がより薄いロット(A、B、G)では、細胞の大部分が付着する一方、より濃いロットでは、わずかな細胞のみが付着して(D、E、G矢印)、大部分の細胞は浮遊していることに留意されたい。培養後3日目には、色素がより薄いロット(C)では細胞数がより多く、コンフルエントな単層が確立された一方、より濃いロットでは、依然としてコンフルエント以下であった。倍率、×200。
【
図3G】
図3。色素形成程度が異なるRPEの付着および成長における差異である。顕微鏡写真は、色素がより薄い(A~C)およびより濃い(D~F)ロットの付着および挙動を示す。Gは、より濃いロット(各グループの左パネル)およびより薄いロット(各グループの右パネル)のRPEの成長速度を図示し、播種後連続3日間のウェルあたり細胞総数を示す。AおよびDは、播種後21時間の全細胞数を示し、BおよびEは、浮遊細胞除去後のAおよびDと同一培養物を示し、CおよびFは、播種後3日目の同一培養物を示す。解凍後21時間目に、色素がより薄いロット(A、B、G)では、細胞の大部分が付着する一方、より濃いロットでは、わずかな細胞のみが付着して(D、E、G矢印)、大部分の細胞は浮遊していることに留意されたい。培養後3日目には、色素がより薄いロット(C)では細胞数がより多く、コンフルエントな単層が確立された一方、より濃いロットでは、依然としてコンフルエント以下であった。倍率、×200。
【
図4】hESC由来RPE移植部位の画像である。術前術後のSMD患者の左網膜黄斑のカラー眼底写真(A~C)。矩形の内側領域は、外科的移植部位と、外科的注入に含まれなかった対応する黄斑萎縮との境界を二分する。A:広汎性のRPEおよび神経感覚黄斑萎縮がある、ベースライン黄斑のカラー画像。B:hESC-RPE移植後1週間目の黄斑のカラー画像。ベースラインRPE萎縮領域で最も明白である、軽度の色素形成に留意されたい。この色素形成は、6週目に増大した(C)。パネルDおよびEは、スペクトル領域眼球干渉断層撮影(SD-OCT)および重ね合せモノクロ写真(Hiedelberg Engineering)を示す。パネルEに示される断面図は、パネルDで矢印によって示される横線(原本では鮮緑色)に相当する。パネルEの破線の円(原本では赤色)は、損傷された生得のRPE層上に沈降または付着するhESC-RPE細胞のように見えるものを強調する。
【
図5】AMD患者のフルオレセイン血管造影画像である。異なる時間間隔において、漏出の形跡は認められない。A:ベースライン初期、B:ベースライン後期、C:4週間初期、D:4週間後期、E:8週間初期、F:8週間後期。(選択された画像は、移植領域を表すために下方に偏心されている)。
【
図6】シュタルガルト患者のフルオレセイン血管造影画像である。異なる時間間隔において、漏出の形跡は認められない。A:ベースライン初期、B:ベースライン後期、C:4週間初期、D:4週間後期、E:8週間初期、F:8週間後期。(選択された画像は、移植領域を表すために下方に偏心されている)。
【
図7】異なる時間間隔における、シュタルガルト患者のOCT画像である。異なる時間間隔における画像のいずれでも、浮腫または網膜下流体の形跡は認められなかった。(OCTは、選択された移植領域に相当する)。パネルA:ベースライン、B:1週間、C:4週間、D:8週間。
【
図8】AMD患者の細隙灯画像である。パネルAおよびB:術後1週間。前部炎症や角膜浮腫の形跡は認められない。
【
図9】シュタルガルト患者の細隙灯画像である。パネルAおよびB:術後1週間。前部炎症や角膜浮腫の形跡は認められない。
【
図10】AMD患者で実施されたゴールドマン視野試験である。パネルA:ベースライン、パネルB:6週間。わずかにより小さい中心暗点が観察される。
【
図11】シュタルガルト患者で実施されたゴールドマン視野検査である。パネルA:ベースライン、パネルB:6週間.暗点の最小の減少が観察された。
【
図12】異なる培地を使用して生成された、2ロットのRPE細胞に対する食作用アッセイ結果である。RPEは、MDBK培地(パネルA)、またはEB-DMおよびRPE-GM/MM(パネルB)のいずれかを使用して生成された。結果は、蛍光性生体粒子なしで培養された細胞(「未処置」)、4℃で蛍光性生体粒子と共に培養された陰性対照細胞(「4℃」)、37℃で蛍光性生体粒子と共に培養された細胞(「37℃」)のFACS分析からのヒストグラムとして提示する。
【
図13A-C】
図13。シュタルガルト黄斑ジストロフィー患者のhESC-RPE移植部位の画像である。患者の左網膜黄斑の術前術後のカラー眼底写真(A~C)。矩形の内側領域は、外科的移植部位と、外科的注入に含まれなかった対応する黄斑萎縮との境界を二分する。(A)広汎性のRPEおよび神経感覚黄斑萎縮がある、ベースライン黄斑のカラー画像。(B)hESC-RPE移植後1週間目の黄斑のカラー画像。ベースラインRPE萎縮領域で最も明白である、軽度の色素形成に留意されたい。この色素形成は、6週目に増大した(C)。(D~G)ベースライン(D)および移植の3ヶ月後(F)のカラー眼底写真およびSD-OCT画像。カラー画像は、ベースラインから3ヶ月目までの、増大するRPEレベルの色素形成を示す。重ね合わせSD-OCT画像(E、G)は、色素形成の増大が、RPEのレベルであること、正常な単層RPE生着、および生得のRPEを欠いている露出ブルッフ膜に隣接する領域における3ヶ月目の生存(矢印)を示す。hESC=ヒト胚性幹細胞。RPE=網膜色素上皮。SD-OCT=スペクトル領域眼球干渉断層撮影。
【
図13D-G】
図13。シュタルガルト黄斑ジストロフィー患者のhESC-RPE移植部位の画像である。患者の左網膜黄斑の術前術後のカラー眼底写真(A~C)。矩形の内側領域は、外科的移植部位と、外科的注入に含まれなかった対応する黄斑萎縮との境界を二分する。(A)広汎性のRPEおよび神経感覚黄斑萎縮がある、ベースライン黄斑のカラー画像。(B)hESC-RPE移植後1週間目の黄斑のカラー画像。ベースラインRPE萎縮領域で最も明白である、軽度の色素形成に留意されたい。この色素形成は、6週目に増大した(C)。(D~G)ベースライン(D)および移植の3ヶ月後(F)のカラー眼底写真およびSD-OCT画像。カラー画像は、ベースラインから3ヶ月目までの、増大するRPEレベルの色素形成を示す。重ね合わせSD-OCT画像(E、G)は、色素形成の増大が、RPEのレベルであること、正常な単層RPE生着、および生得のRPEを欠いている露出ブルッフ膜に隣接する領域における3ヶ月目の生存(矢印)を示す。hESC=ヒト胚性幹細胞。RPE=網膜色素上皮。SD-OCT=スペクトル領域眼球干渉断層撮影。
【
図14】シュタルガルト黄斑ジストロフィー患者の未処置眼(「他眼」)、およびSMD患者のRPE細胞注入施行眼(「手術眼」)における、hESC-RPE移植後の視力変化の表形式の概要である。手術眼が、ETDRSおよびBCVAによって検出可能な改善を示したのに対し、未処置眼では視力変化は検出されなかった。hESC=ヒト胚性幹細胞。RPE=網膜色素上皮。BCVA=最良矯正視力。ETDRS=糖尿病網膜症の早期治療研究視力表。
【
図15】hESC供給源に由来する50,000個のRPE細胞でそれぞれ治療された、2人の追加的なシュタルガルト患者の網膜、視神経円板、網膜黄斑、および後極を含む2枚の眼底写真を示す。各写真は、注入部位、およびRPE細胞含有溶液の注入時にできるブレブの領域を示す。
【
図16】
図16および17(2人の異なる追加的なSMD患者、各患者について指示された時点(すなわちベースライン、1ヶ月、および2または3ヶ月)で撮影された、3枚の眼底写真をそれぞれ示し、色素性RPE細胞の増大する斑を有する注入ブレブ内領域の確立を示し、新しいRPE層による網膜領域の生着と表面再構成が示される。
【
図17】
図16および17(2人の異なる追加的なSMD患者、各患者について指示された時点(すなわちベースライン、1ヶ月、および2または3ヶ月)で撮影された、3枚の眼底写真をそれぞれ示し、色素性RPE細胞の増大する斑を有する注入ブレブ内領域の確立を示し、新しいRPE層による網膜領域の生着と表面再構成が示される。
【
図18】
図16および
図17の上部パネルに示される患者の治療された(「注入施行」)眼と、治療されない(「注入未施行」)眼の評価された視力を示す。垂直軸は、糖尿病網膜症の早期治療研究(ETDRSスコアを示し、水平軸は、術後日数を示す。
【
図19】可視光顕微鏡写真(migrographs)は、胚破壊なしに作成されたhESCから生成された、RPE培養物の予測された色素形成および形態を図示する。上部3枚のパネル(A、B、C)は、3つの異なるヒトiPS(hiPS)細胞系から生成されたRPEを示す。下部の3枚のパネル(D、E、F)は、生検された割球から作成されたhES細胞(細胞系はD30469およびNED7と命名される)から生成されたRPEを示し、残りの胚は生存能力を維持して冷凍保存された。
【
図20】
図4において、より初期の時点で示された、同一SMD患者における長期RPE生着である。(A)ベースラインおよび(B)RPE注入の1年後に撮影された眼底写真は、色素性細胞の存在を示し、注入後少なくとも1年間持続するRPE細胞の長期生着を示唆する。
【
図21】治療から最高1年間の時点までのAMD患者の周辺ETDRS/BCVAスコアである。
【
図22】治療から最高1年間の時点までのSMD患者の中心ETDRS/BCVAスコアである。
【発明を実施するための形態】
【0077】
本開示は、乾燥型AMDおよびシュタルガルト病患者における、これらのhESC由来RPEの安全性と耐容性を探索した前向き臨床試験における、2人の患者について最初の結果を記載する。hESC由来RPE細胞は、この報告の時点で、拒絶または腫瘍原性の徴候を示さなかった。視覚測定は、双方の患者における改善を示唆する。これらの結果は、hESCが、一連の網膜変性疾患を効果的に治療するためのRPEの潜在的に安全で無尽蔵の供給元としての役割を果たし得ることを示唆する。
【0078】
また有利な特性を有するhESC由来RPE細胞集団を生成する方法についても、記載される。遺伝子および色素発現の程度をはじめとする分化経路を制御することで、注入後の細胞の生存、付着、および成長が有意に向上することが実証された。具体的には、ここで提示されるデータは、RPEの成熟および色素形成の程度が、生体外における細胞の引き続く付着と成長に劇的に影響することを示す。これらの結果は、一次細胞の使用と比較して、治療用のhESCから分化した細胞を使用して得られてもよい利点を例証する。これらの結果は、潜在的に免疫原性(20、21)が低下している健康な「幼若」細胞を無限に生成するのに加えて、生体外分化段階を細胞および分子レベルで制御して、患者への移植前に、安全性、同一性、純度、および効力を確実にし得ることを示す。
【0079】
我々は2つの前向き臨床試験を開始して、先進国における失明の主要原因であるシュタルガルト黄斑ジストロフィー(SMD)および乾燥型加齢黄斑変性(AMD)がある患者における、hESC由来網膜色素上皮(RPE)の網膜下移植の安全性および耐容性を判定した。視力、フルオレセイン血管造影、光干渉断層撮影(OCT)、および視野検査をはじめとする術前術後の眼科検査は、各治験の最初の患者について行った。
【0080】
制御されたhESC分化は、ほぼ100%純粋なRPE集団をもたらした。外科手術直後に、双方の患者の移植部位で色素沈着過剰を見ることができ、細胞が生得のRPE層に付着して組み込まれたことの引き続く証拠があった。炎症または過剰増殖の徴候は、観察されなかった。視力測定は、最初の2か月間に改善の兆しを示した。2週間目には、AMD患者の治験眼では、最良矯正視力(BCVA)が処置前の20/500から20/200に改善され、糖尿病網膜症の早期治療研究(ETDRS)視力表における改善(20/200~20/320)、および文字数の増大が継続した。SMD患者は、同一期間中に手動弁から指数弁まで改善し;1および2ヶ月間で、BCVAは20/800に改善した。RPE移植前、患者はETDRSチャート上のいかなる文字も読み取れなかったが、2週間目には文字を読み取り始めて、それは研究期間中に改善し続けた(1および2ヶ月間で5文字)。
【0081】
hESC由来RPE細胞は、この報告の時点で、拒絶または腫瘍原性の徴候を示さなかった。視覚測定は、双方の患者における改善を実証する。
【0082】
定義
本明細書に記載される本発明の完全な理解のために、以下の詳細な説明を記載する。本発明の様々な実施形態が詳細に説明され、提供される実施例によってさらに例証されることもある。
【0083】
特に断りのない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似したまたは同等の方法および材料を、本発明でまたは本発明の試験で使用し得るが、適切な方法および材料は下述のとおりである。材料、方法、および実施例は例証のみを意図し、限定的であることは意図されない。本明細書では、以下の用語および定義が提供される。
【0084】
本明細書の説明、およびそれに続く特許請求の範囲全体にわたる用法では、「a」、「an」、および「the」の意味は、文脈上例外が明記されていない限り複数への言及を含む。本明細書の説明で使用されるように、文脈上例外が明記されていない限り、「in」の意味は、「in」および「on」を含む。
【0085】
本明細書全体を通じて「含んでなる(comprise)」と言う語または「含んでなる(comprises)」または「含んでなる(comprising)」などのバリエーションは、記述される整数または整数群の包含を暗示するが、あらゆるその他の整数または整数群の排除は、意味しないものとする。
【0086】
「有効量」は、本明細書の用法では、疾患を治療するために患者に投与されると、このような疾患の治療をもたらすのに十分な化合物または細胞の量を広義に指す。有効量は、予防法に有効な量、および/または予防のために有効な量であってもよい。有効量は、低下させるのに有効な量、徴候/症状発生を防止し、徴候/症状発生の重症度を低下させ、徴候/症状発生を排除し、徴候/症状発生の進行を遅延させ、徴候/症状発生の進行を阻止し、および/または徴候/症状発生の予防法をもたらすのに有効な量であってもよい。「有効量」は、疾患およびその重症度、そして治療される患者の年齢、体重、病歴、易罹患性、および既存の病状に応じて変動してもよい。「有効量」という用語は、本開示の目的では「治療有効量」と同義である。
【0087】
「胚」または「胚性」は、本明細書の用法では、母親宿主の子宮膜内に着床していない発生中の細胞集団を広義に指す。「胎芽細胞」は、胚から単離され、またはその中に含有
される細胞である。これは、二細胞期に早くも得られた割球、および凝集割球もまた含む。
【0088】
「胚性幹細胞」(ES細胞)は、本明細書の用法では、細胞系として連続的に継代されている胚盤胞または桑実胚の内部細胞集団に由来する細胞を広義に指す。ES細胞は、精子またはDNAによる卵細胞の受精、核移植、単為生殖から、またはHLA領域のホモ接合性があるES細胞を作成する手段によって、誘導されてもよい。ES細胞はまた、精子と卵細胞の融合によって生じる、接合子、割球、または胚盤胞段階の哺乳類胚;核移植;単為発生;またはクロマチンの再プログラミングと引き続く細胞作成のための再プログラムクロマチンの原形質膜への組み込みに由来する細胞に、言及してもよい。胚性幹細胞は、それらの起源またはそれらを作成するために使用される特定の方法にかかわりなく、(i)細胞を3つの全胚芽層に分化させる能力、(ii)少なくともOct-4およびアルカリホスファターゼの発現、および(iii)免疫不全動物に移植すると奇形腫を生じる能力に基づいて同定し得る。本用語はまた、好ましくは残りの胚を破壊せずに、胚の1つまたは複数の割球から単離される細胞も含む(例えば、その内容全体をそれぞれ参照によって本明細書に援用する、Chung et al.,Cell Stem Cell.2008 Feb 7;2(2):113-7;米国特許第20060206953号明細書(付与前公表);米国特許第2008/0057041号明細書(付与前公表)を参照されたい)。この用語はまた、非胚細胞がプロセスで使用される場合であっても、体細胞核移植によって生成される細胞を含む。ES細胞は、精子またはDNAによる卵細胞の受精、核移植、単為生殖から、またはHLA領域のホモ接合性があるES細胞を作成する手段によって、誘導されてもよい。ES細胞はまた、精子と卵細胞の融合によって生じる、接合子、割球、または胚盤胞段階の哺乳類胚;核移植;単為発生;またはクロマチンの再プログラミングと引き続く細胞作成のための再プログラムされたクロマチンの原形質膜への組み込みに由来する細胞である。本開示のヒト胚性幹細胞としては、MA01、MA09、ACT-4、No.3、H1、H7、H9、H14、およびACT30胚性幹細胞が挙げられるが、これに限定されるものではない。特定の実施形態では、RPE細胞を作成するのに使用されるヒトES細胞は、GMP基準に従って誘導され維持される。
【0089】
「胚由来細胞」(EDC)は、本明細書の用法では、桑実胚由来細胞、内部細胞集団のものを含む胚盤胞由来細胞、胎盾、またはエピブラスト、または原始内胚葉、外胚葉、および中胚葉をはじめとする初期胚のその他の多能性幹細胞、およびそれらの誘導体を広義に指す。「EDC」はまた、割球、および発生の様々な段階における、凝集単一割球または胚からの細胞集団も含むが、細胞系として継代されているヒト胚性幹細胞は除外される。
【0090】
「黄斑変性」は、本明細書の用法では、ブルッフ膜、神経網膜、および膜色素上皮の異常と関連付けられている、中心視野の進行性喪失によって特徴付けられる疾患を広義に指す。黄斑変性疾患としては、年齢関連黄斑変性、ノースカロライナ黄斑ジストロフィー、ソースビー眼底ジストロフィー、シュタルガルト病、パターンジストロフィー、ベスト病、マラチアレベンティニーズ、ドイン蜂巣状脈絡膜症、優性ドルーゼン、および放射状ドルーゼンが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0091】
「多能性幹細胞」は、本明細書の用法では、それらの未分化状態を保ちながら長期のまたは実質的に無期限の生体外増殖ができ、安定した(好ましくは正常な)核型を示して、適切な条件下において3つの全胚芽層(すなわち外胚葉、中胚葉、および内胚葉)に分化する能力を有する、細胞を広義に指す。
【0092】
「多能性胚性幹細胞」は、本明細書の用法では、(a)免疫不全(SCID)マウスに移植すると奇形腫を誘発でき;(b)3つの全胚芽層(例えば外胚葉、中胚葉、および内
胚葉細胞型)の細胞型に分化でき;(c)少なくとも1つの分子胚性幹細胞マーカーを発現する(例えばOct-4、アルカリホスファターゼ、SSEA 3表面抗原、SSEA
4表面抗原、NANOG、TRA 1 60、TRA 1 81、SOX2、REX1を発現する)細胞を広義に指す。追加的な例として、多能性細胞は、OCT-4、アルカリホスファターゼ、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、および/またはTRA-1-80を発現してもよい。例示的な多能性幹細胞は、例えば当該技術分野で公知の方法を使用して、作成し得る。例示的な多能性幹細胞としては、胚盤胞段階胚のICMに由来する胚性幹細胞、ならびに卵割段階または桑実胚段階胚の1つまたは複数の割球に由来する胚性幹細胞が挙げられる(任意選択的に残りの胚の破壊なしで)。このような胚性幹細胞は、受精によって、または体細胞核移植(SCNT)、単為発生、および雄性発生をはじめとする無性生殖手段によって生じた、胚性材料から作成し得る。さらなる例示的な多能性幹細胞としては、(本明細書で再プログラミング因子と称される)因子の組み合わせを発現させることで、または発現を誘導することで、体細胞を再プログラミングして作成される、人工多能性幹細胞(iPS細胞)が挙げられる。iPS細胞は、胎児、出生後、新生児、幼若、または成人体細胞を使用して作成し得る。特定の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするのに使用し得る因子としては、例えばOct4(時にOct3/4と称される)、Sox2、c-Myc、およびKlf4の組み合わせが挙げられる。別の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするのに使用し得る因子としては、例えばOct-4、Sox2、Nanog、およびLin28の組み合わせが挙げられる。別の実施形態では、少なくとも2つの再プログラミング因子、少なくとも3つの再プログラミング因子、または4つの再プログラミング因子を発現させることで、体細胞を再プログラムする。別の実施形態では、追加的な再プログラミング因子が同定され、単独で、または1つまたは複数の既知の再プログラミング因子との組み合わせで使用して、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムする。iPS細胞は、典型的に、胚性幹細胞と同じマーカーの発現によって同定され得るが、特定のiPS細胞系は、その発現プロファイルが変動することもある。
【0093】
「RPE細胞」、「分化RPE細胞」、「ES由来RPE細胞」、およびは、本明細書の用法では、全体を通じて同義的に使用されて、例えば本明細書で開示される方法を使用して、多能性幹細胞から分化させたRPE細胞を広義に指してもよい。用語は包括的に使用されて、細胞成熟度のレベルにかかわりなく分化RPE細胞に言及し、したがって様々な成熟度レベルのRPE細胞を包含してもよい。RPE細胞は、それらの敷石状形態と初期の色素出現によって、視覚的に認識され得る。RPE細胞はまた、Oct-4およびNANOGなどの胚性幹細胞マーカー発現の実質的欠如に基づいて、ならびにRPE 65、PEDF、CRALBP、およびベストロフィンなどのRPEマーカー発現に基づいて、分子的に同定し得る。例えば細胞は、例えばPAX6の核内局在化、ベストロフィンの多角形パターンの原形質膜内局在化(細胞周辺の明確な線でベストロフィン染色の局在化を示す)、多角形パターンで細胞の輪郭を描く密着結合中に存在するZO-1染色、および核限定で検出されるMITF染色などの予測された染色パターンが観察されれば、所与のマーカーについて陽性と見なしてもよい。特に断りのない限り、本明細書の用法では、RPE細胞は、多能性幹細胞から生体外分化したRPE細胞を指す。
【0094】
「成熟RPE細胞」および「成熟分化RPE細胞」は、本明細書の用法では、全体を通じて同義的に使用して、RPE細胞の初期分化に続いて生じる変化を広義に指してもよい。具体的には、RPE細胞は、色素の初期出現に基づいてある程度認識され得るが、分化後は、成熟RPE細胞は、高度な色素形成に基づいて認識され得る。
【0095】
「播種効率」は、本明細書の用法では、解凍に際して生存能力を維持して培養基質に付着し得る、回収された細胞画分に言及する。例えば播種効率は、細胞を解凍、洗浄、および(好ましくはゼラチン上に)播種し;総細胞数を播種前に測定し、生細胞数を播種後に
測定することで判定し得て、次に生存能力があり播種後に基質に付着する、播種前の全細胞の画分として、播種効率を計算し得る。より具体的な例として、播種効率は、細胞を37℃の水浴内で、絶え間なく撹拌しながら(1~2分間または細胞が解凍するのに十分な時間など)解凍し、それに続いてリン酸緩衝食塩水(または別の適切な洗浄液)で細胞を3回洗浄し、(血球計などを使用して)生細胞および非生細胞を含めた総細胞数を測定し、細胞を(RPE-GMなどの)成長培地添加ゼラチン上に播種して、細胞を(好ましくは37℃で)培養し、細胞をゼラチンに約24時間付着させ、次に生細胞計数を測定する(例えば血球計を使用して、トリパンブルー排除が生存度の測定に使用される)ことで判定され;次に播種後に、生細胞数を播種前の総細胞数で除算して、播種効率を判定する。
【0096】
「色素」は、本明細書の用法では、例えばRPE細胞がES細胞から分化する際に、初期に起きる(initial occurs)色素形成などのあらゆるレベルの色素形成を広義に指す。色素形成は、分化RPE細胞の細胞密度と成熟度によって変動することもある。RPE細胞の色素形成は、RPE細胞の最終分化後に、平均的RPE細胞と同一であってもよい。RPE細胞の色素形成は、RPE細胞の最終分化後に、平均的RPE細胞より多量であってもよい。RPE細胞の色素形成は、最終分化後に、平均的RPE細胞より少量であってもよい。
【0097】
疾患の「徴候」は、本明細書の用法では、患者の検査で発見できる疾患を示すあらゆる異常;疾患の主観的指標である症状とは対照的な疾患の客観的指標を広義に指す。
【0098】
疾患の「症状」は、本明細書の用法では、患者によって経験されて、疾患を示唆する、あらゆる病的現象、または構造、機能、または知覚における正常からの逸脱を広義に指す。
【0099】
「治療法(therapy)」、「治療的(therapeutic)」、「治療する(treating)」、「治療する(treat)」、または「治療(treatment)」は、本明細書の用法では、疾患またはその臨床症状退縮を引き起こす、疾患の治療、疾患またはその臨床症状の進行抑止または低減、および/または疾患の緩和を広義に指す。治療法は、疾患の予防法、予防、治療、治癒、矯正、低減、緩和、および/または疾患、徴候、および/または症状の緩和の提供を包含する。治療法は、進行中の疾患徴候および/または症状(例えば失明、網膜悪化)がある患者における、徴候および/または症状の緩和を包含する。治療法はまた、「予防法」および「予防」も包含する。予防法は、患者における疾患の治療に引き続いて、疾患が現れるのを予防すること、または患者における疾患発生率または重症度を低減することを含む。「軽減された」という用語は、治療法の目的で、臨床的に顕著な(clinical significant)徴候および/または症状の低減を広義に指す。治療法は、再発または再発性徴候および/または症状(例えば網膜変性、視力喪失)を治療することを含む。治療法は、常に、徴候および/または症状の出現を阻止すること、ならびに既存の徴候および/または症状を低減すること、および既存の徴候および/または症状を排除することを包含するが、これに限定されるものではない。治療法は、慢性疾患の治療(「維持」)および急性疾患の治療を含む。例えば治療は、再発または徴候および/または症状再燃(例えば失明、網膜変性)を治療または予防することを含む。
【0100】
本明細書で使用される「コルチコステロイド」という用語は、天然および人工コルチコステロイド、類似体などをはじめとするグルココルチコイド受容体に結合するステロイドホルモンのクラスを指す。例示的なコルチコステロイドとしては、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、(フルチカソンプロピオネート(FP)をはじめとする)フルチカソン、ブデソニド、シクレソニド、モメタゾン
、およびフルニソリドが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0101】
RPE細胞製剤および併用療法
本開示は、RPE細胞、実質的に精製されたRPE細胞集団、RPE細胞を含んでなる医薬品、およびRPE細胞の冷凍保存製剤をはじめとする、RPE細胞製剤を提供する。本明細書に記載されるRPE細胞は、その天然環境で見られる、少なくとも1つのタンパク質、分子、またはその他の不純物を実質的に含まなくてもよい(例えば「単離されている」)。RPE細胞は、ヒトRPE細胞をはじめとする哺乳類細胞であってもよい。本開示はまた、ヒトRPE細胞、実質的に精製されたヒトRPE細胞集団、ヒトRPE細胞を含んでなる医薬品、およびヒトRPE細胞の冷凍保存製剤も提供する。製剤は、ヒト胚性幹細胞由来RPE細胞を含んでなる製剤、ヒトiPS細胞由来RPE細胞、および分化したES由来RPE細胞を含んでなる(非RPE細胞に関して)実質的に精製された製剤であってもよい。
【0102】
製剤のRPE細胞は、その他の起源から得られるRPE細胞(例えば、胎児、乳児、小児、青年または成人組織などの提供されたヒト組織に由来する培養物)の複製寿命と比べて、より長い複製寿命を有してもよい。複製寿命は、複製の老化前に、培養中の集団倍加数を測定することで評価してもよい。例えば製剤のRPE細胞は、提供されたヒト組織に由来するRPE集団よりと比べて、少なくとも10パーセント長く、好ましくは提供されたヒト組織に由来するRPE集団と比べて、少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90、100パーセントまたはそれ以上長い複製寿命を有してもよい。
【0103】
製剤のRPE細胞は、hESCおよび/またはヒトiPS細胞のテロメア長(またはhESCおよび/またはヒトiPS細胞集団の平均)の少なくとも30パーセントの平均テロメア長、好ましくはhESCおよび/またはヒトiPS細胞のテロメア長(またはhESCおよび/またはヒトiPS細胞集団の平均)の少なくとも40、50、60、70、80または90パーセントにさえ至るテロメア長を有してもよい。例えば前記hESCおよび/またはヒトiPS細胞(または前記hESCおよび/またはヒトiPS細胞集団)は、それから前記RPE細胞が分化した細胞または細胞集団であってもよい。
【0104】
製剤のRPEは、4kbより長く、好ましくは5、6、7、8、9、10、11、12より長く、または13kbにさえ至る、制限酵素末端断片長(TRF)を有してもよい。例示的実施形態では、製剤のRPE細胞は、10kb以上のTRFを有してもよい。
【0105】
製剤のRPE細胞は、成人(例えば年齢25~80才のヒト成人患者、より好ましくは年齢50~80才の成人)の眼から単離された同等数のRPE細胞の平均リポフスチン含有量の50パーセント未満であり、より好ましくは、成人の眼から単離された同等数のRPE細胞の平均リポフスチン含有量の40、30、20または10パーセント未満である、平均リポフスチン含有量を有してもよい。
【0106】
製剤のRPE細胞は、成人(例えば年齢25~80才のヒト成人患者、より好ましくは年齢50~80才の成人)の眼から単離された(isolated adult eyes)同等数のRPE細胞の平均N-レチニリデン-N-レチニルエタノールアミン(A2E)含有量の50パーセント未満であり、より好ましくは、成人の眼から単離された同等数のRPE細胞の平均A2E含有量の40、30、20または10パーセント未満である、平均A2E含有量を有してもよい。
【0107】
製剤のRPE細胞は、(Sparrow et al.,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.November 1999 vol.40 no.12,pg.2988-2995に記載されるように)統合ピーク強度から判定されてもよい平
均N-レチニリデン-N-レチニルエタノールアミン(A2E)含有量が、105(100,000)個の細胞あたり50ng未満であり、より好ましくは40ng、30ng、20ng、10ng未満であり、105個の細胞あたり5ngであってもよい。
【0108】
製剤のRPE細胞は、成人(すなわち年齢25~80才のヒト成人患者、より好ましくは年齢50~80才の成人)の眼から単離された(isolated adult eyes)同等数のRPE細胞の食作用速度よりも少なくとも50パーセント大きく、より好ましくは、少なくとも75、100、150、200パーセント大きい、視細胞外節(POS)の食作用速度を有してもよい。POS食作用は、例示的かつ非限定的な一例として、Bergmann et al.FASEB Journal March 2004
vol.18 pages 562-564に記載されるプロトコルを使用して、評価され得る。
【0109】
製剤のRPE細胞は、24時間後に、POS総濃度の少なくとも20パーセントであり、より好ましくは24時間後に、POS総濃度の少なくとも(at least than)25、30、25、40であり、または50パーセントにさえ至る、桿体視細胞外節(POS)の食作用速度を有してもよい。POS食作用は、例示的かつ非限定的な一例として、Bergmann et al.FASEB Journal March 2004 vol.18 pages 562-564に記載されるプロトコルを使用して、評価され得る。
【0110】
RPE細胞は、成人宿主から単離されたRPE細胞と比較して、低下している酸化的ストレスおよび/またはDNA損傷の蓄積レベルを示してもよい。
【0111】
製剤のRPE細胞は、成人(すなわち年齢25~80才のヒト成人患者、より好ましくは年齢50~80才の成人)の眼から単離された(isolated adult eyes)同等数のRPE細胞の平均プロテアソーム(proteosome)活性よりも少なくとも50パーセント大きく、より好ましくは、成人の眼から単離された同等数のRPE細胞の平均プロテアソーム(proteosome)活性の少なくとも60、70、80、90、または100パーセントである、平均プロテアソーム活性を有してもよい。プロテアソーム(proteosome)活性は、例示的かつ非限定的な一例として、キモトリプシン様活性のためのスクシニル-Leu-Leu-Val-Tyr-アミドメチルクマリン(LLVY-AMC)、トリプシン様活性のためのN-t-ブチルオキシカルボニル-Leu-Ser-Thr-Arg-アミドメチルクマリン(LSTR-AMC)、およびペプチジルグルタミル-ペプチドヒドロラーゼ活性のためのベンジルオキシカルボニル-Leu-Leu-Glu-アミドメチルクマリン(LLE-AMC)を利用して、測定し得る。
【0112】
製剤のRPE細胞は、成人(例えば年齢25~80才のヒト成人患者、より好ましくは年齢50~80才の成人)の眼から単離された(isolated adult eyes)同等数のRPE細胞のユビキチン抱合体の平均蓄積の50パーセント未満であり、より好ましくは、成人の眼から単離された同等数のRPE細胞のユビキチン抱合体の平均蓄積の40、30、20または10パーセント未満である、ユビキチン抱合体の平均蓄積を有してもよい。ユビキチン抱合体の蓄積は、例示的かつ非限定的な一例として、Zhang et al.Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.August
2008 vol.49 no.8 3622-3630に記載されるプロトコルを使用して評価し得る。
【0113】
好ましくは、血管新生関連眼球疾患などの眼球疾患を予防または治療する治療有効量で、RPE細胞製剤と組み合わせて、1つまたは複数の血管新生阻害剤を投与してもよい。
例示的な眼球疾患としては、黄斑変性(例えば湿潤型AMDまたは乾燥型AMD)、糖尿病性網膜症、および脈絡膜血管新生が挙げられる。例示的な血管新生阻害剤としては、例えばペガプタニブナトリウム、アフリベルセプト、ベバシラニブ、ラパマイシン、AGN-745、バタラニブ(vitalanib)、パゾパニブ、NT-502、NT-503、またはPLG101、CPD791(VEGFR-2を阻害するジ-Fab’ポリエチレングリコール(PEG)抱合体)、抗VEGF抗体またはその機能性断片(ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))またはラニビズマブ(ルセンティス(登録商標)など)、または抗VEGF受容体抗体(IMC-1121(B)(VEGFR-2に対するモノクローナル抗体)、またはIMC-18F1(VEGFR-1の細胞外結合領域に対する抗体)など)のような、ペプチド、ペプチド模倣剤、小型分子、化学物質、または核酸などの、VEGFおよび/またはVEGF受容体(VEGFR、例えばVEGFR1(FLT1、FLT)、VEGFR2(KDR、FLK1、VEGFR、CD309)、VEGFR3(FLT4、PCL))阻害剤などのVEGF拮抗薬が挙げられる。追加的な例示的VEGF活性阻害剤としては、VEGFR受容体の断片またはドメインが挙げられ、その一例は、VEGFR-1のドメイン2およびVEGFR-2のドメイン3と、IgG1のFc断片との融合タンパク質である、VEGF-Trap(アフリベルセプト)である。別の例示的VEGFR阻害剤は、VEGF受容体1および2を阻害するAZD-2171(セジラニブ)である。追加的な例示的VEGF拮抗薬としては、ソラフェニブ(Nexavar)、SU5416(Semaxinib)、SU11248/スニチニブ(Sutent)、およびバンデタニブ(ZD6474)などの、VEGFR-1および/またはVEGFR-2を阻害すると報告されているTKIをはじめとする、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が挙げられる。追加的な例示的VEGF拮抗薬としては、VEGFRシグナル伝達(タンパク質キナーゼC)に関与する下流キナーゼを標的とすると考えられている、Ly317615(エンザスタウリン)が挙げられる。追加的な例示的血管新生阻害剤としては、抗α5β1インテグリン抗体またはその機能性断片(ボロシキシマブなど)、ペプチド、ペプチド模倣剤、小分子、3-(2-{1-アルキル-5-[(ピリジン-2-イルアミノ)-メチル]-ピロリジン-3-イルオキシ}-アセチルアミノ)-2-(アルキル-アミノ)-プロピオン酸、(S)-2-[(2,4,6-トリメチルフェニル)スルホニル]アミノ-3-[7-ベンジルオキシカルボニル-8-(2-ピリジニルアミノメチル)-1-オキサ-2,7-ジアザスピロ-(4,4)-ノン-2-エン-3-イル]カルボニルアミノプロピオン酸、EMD478761、またはRC*D(ThioP)C*(Arg-Cys-Asp-チオプロリン-Cys;星印は、システイン残基を通じたジスルフィド結合による環化を意味する)などの化学物質または核酸をはじめとする(including and)、α5β1インテグリン活性阻害剤が挙げられる。追加的な例示的な血管新生阻害剤としては、2-メトキシエストラジオール、αVβ3阻害剤、アンギオポエチン2、抗血管新生ステロイドおよびヘパリン、アンギオスタチン、アンギオスタチン-関連分子、抗α5β1インテグリン抗体、抗カテプシンS抗体、抗トロンビンIII断片、ベバシズマブ、カルレティキュリン、カンスタチン、カルボキシアミドトリアゾール、軟骨由来血管新生阻害因子、CDAI、CM101、CXCL10、エンドスタチン、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL-12、IL-18、IL-4、リノミド、マスピン、基材メタロプロテイナーゼ阻害剤、Meth-1、Meth-2、オステオポンチン、ペガプタニブ、血小板因子-4、プロラクチン、プロリフェリン関連タンパク質、プロトロンビン(クリングルドメイン-2)、ラニビズマブ、レスチン、可溶性NRP-1、可溶性VEGFR-1、SPARC、SU5416、スラミン、テコガラン、テトラチオモリブデート、サリドマイド、レナリドミド、トロンボスポンジン、TIMP、TNP-470、TSP-1、TSP-2、バソスタチン、VEGFR拮抗薬、VEGI、ボロシキシマブ(M200としてもまた知られている)、フィブロネクチン断片などのアナステリン(Yi and Ruoslahti,Proc Natl Acad Sci U S A.2001 Jan 16;98(2):620-4を参照されたい)またはそれらのあらゆる組み合わせが挙げられる。前記血管新生阻害
剤は、好ましくは、湿潤型AMDおよびその他の網膜疾患と関連付けられている、脈絡膜新生血管膜(CNV)などの増殖性(血管新生)眼疾患を予防または治療するのに十分な量である。追加的な例示的血管新生阻害剤としては、レンバチニブ(E7080)、モテサニブ(AMG 706)、パゾパニブ(ヴォトリエント)、および抗IL-6抗体などのIL-6拮抗薬が挙げられる。追加的な例示的血管新生阻害剤としては、前述のいずれかの断片、模倣剤、キメラ、融合物、類似体、および/またはドメインが挙げられる。追加的な例示的血管新生阻害剤としては、前述のいずれかの組み合わせが挙げられる。例示的実施形態では、RPE細胞製剤は、例えば眼内注入あたり約1.25mgおよび約2.5mgのベバシズマブなど、例えば約0.1mg~約6.0mgのベバシズマブなどの抗VEGF抗体を含んでなる。さらなる例示的な実施形態では、RPE細胞製剤は、1つまたは複数のVEGF活性阻害剤と、1つまたは複数のα5β1インテグリン活性阻害剤とを含んでなる。
【0114】
RPE細胞製剤と組み合わせて、1つまたは複数の抗炎症剤を投与してもよい。例示的な抗炎症剤としては、グルココルチコイド、非ステロイド性抗炎症薬、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、シクロオキシゲナーゼ(COX)酵素阻害剤、アルドステロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、コルチコステロイド、コルチゾール、酢酸コルチゾン、酢酸デオキシコルチコステロン、デキサメタゾン、酢酸フルドロコルチゾンエステル、フルオシノロンアセトニド(例えばILUVIEN(登録商標))、グルココルチコイド、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾン、ステロイド、およびトリアムシノロンが挙げられる。任意選択的に、抗炎症剤は、コルチコステロイドでなくてもよい。例えば抗炎症剤は、非ステロイド性抗炎症剤であってもよい。
【0115】
さらに患者には、RPE細胞製剤の投与前に、それと同時に、および/またはそれに引き続いて、コルチコステロイドが投与されなくてもよい。理論によって限定されることは望まないが、出願人らは、コルチコステロイド投与が、RPE細胞沈降および/または生着に干渉するという仮説を立てる。特定の好ましい実施形態では、患者は、RPE細胞製剤の投与前に、それと同時に、および/またはそれに引き続いて、プレドニゾロンまたはメチルプレドニゾロンで治療されない。より好ましい実施形態では、患者は、RPE細胞製剤の投与前に、それと同時に、および/またはそれに引き続いて、プレドニゾロンで治療されない。例えば患者には、RPE細胞製剤の投与前、少なくとも3、6、12、24、48、72、96、または120時間以上内に、プレドニゾロンまたはメチルプレドニゾロンまたは別のコルチコステロイド(cortocosteroid)が投与されなくてもよい。さらに患者には、RPE細胞製剤の投与に引き続いて、少なくとも3、6、12、24、48、72、96、または120時間以上内に、プレドニゾロンまたはメチルプレドニゾロンまたは別のコルチコステロイド(cortocosteroid)が投与されなくてもよい。
【0116】
患者には、RPE細胞製剤の投与前におよび/またはそれに引き続いて、非コルチコステロイド免疫抑制剤が投与されてもよい。例示的な非コルチコステロイド免疫抑制剤としては、タクロリムス(FK-506マクロライド)およびMMF(ミコフェノール酸プロドラッグ)が挙げられる。
【0117】
RPE細胞製剤と組み合わせて、1つまたは複数の抗酸化剤、抗酸化剤補助因子、および/または抗酸化剤活性増大に寄与するその他の因子を投与してもよく、その例としては、OT-551(Othera)、ビタミンC、ビタミンE、βカロテン、亜鉛(例えば酸化亜鉛)、および/または銅(例えば酸化銅)が挙げられる。
【0118】
RPE細胞製剤と組み合わせて、1つまたは複数の黄斑キサントフィル(ルテインおよび/またはゼアキサンチンなど)を投与してもよい。
【0119】
RPE細胞製剤と組み合わせて、ドコサヘキサエン酸(DHA)および/またはエイコサペンタエン酸(EPA))などの1つまたは複数の長鎖ω-3脂肪酸を投与してもよい。
【0120】
RPE細胞製剤と組み合わせて、フェンレチニド、Arc-1905、Copaxone(酢酸グラチラマー、Teva)、RN6G(PF-4382923、Pfizer)(ABeta40およびABeta42に対するヒト化モノクローナル抗体)、GSK933776(GlaxoSmithKline)(抗アミロイド抗体)などの1つまたは複数のアミロイド阻害剤を投与してもよい。
【0121】
RPE細胞製剤と組み合わせて、1つまたは複数の毛様体神経栄養因子(CNTF)作動薬(例えばNT-501(Neurotech)などの眼内装置で送達されてもよいCNTF)を投与してもよい。
【0122】
RPE細胞製剤と組み合わせて、ACU-4429(Aculea,Inc.)などの1つまたは複数のRPE65阻害剤を投与してもよい。
【0123】
RPE細胞製剤と組み合わせて、フェンレチニドおよびACU-4429などの、A2Eおよび/またはリポフスチン蓄積を標的とする1つまたは複数の因子を投与してもよい。
【0124】
RPE細胞製剤と組み合わせて、フェンレチニドおよびACU-4429などの、1つまたは複数の光受容体機能および/または代謝下方制御剤または阻害剤を投与してもよい。
【0125】
RPE細胞製剤と組み合わせて、酒石酸ブリモニジンなどの1つまたは複数のα2アドレナリン受容体作動薬を投与してもよい。
【0126】
RPE細胞製剤と組み合わせて、タンドスピロン(AL-8309B)などの1つまたは複数の選択的セロトニン1A作動薬を投与してもよい。
【0127】
RPE細胞製剤と組み合わせて、C-5を標的にする1つまたは複数の因子、膜侵襲複合体(C5b-9)および/または任意選択のその他のドルーゼン成分を投与してもよく、その例としては、ARC1905(Ophthotec)(C5を選択的に阻害する抗C5アプタマー)、POT-4(Potentia)(C3を阻害するコンプスタチン誘導体)、補体因子H、エクリズマブ(Soliris、Alexion)(C5を阻害するヒト化IgG抗体)、および/またはFCFD4514S(Genentech,San Francisco)(補体因子Dに対するモノクローナル抗体)などの、補体因子D、C-3、C-3a、C5、およびC5a阻害剤、および/または因子H作動薬が挙げられる。
【0128】
RPE細胞製剤と組み合わせて、シロリムス(ラパマイシン)などの1つまたは複数の免疫抑制剤を投与してもよい。
【0129】
RPE細胞製剤と組み合わせて、ピラセタム、セントロフェノキシン、アセチル-L-カルニチン、イチョウ(Ginko biloba)(Ginko Biloba)またはその抽出物または製剤、および/またはDMAE(ジメチルエタノールアミン)などの、リポフスチン蓄積を予防または治療する1つまたは複数の薬剤を投与してもよい。
【0130】
RPE細胞製剤と組み合わせて、1つまたは複数の薬剤(血管新生阻害剤、抗酸化剤、抗酸化剤補助因子、抗酸化剤活性増大に寄与するその他の因子、黄斑キサントフィル、長鎖ω-3脂肪酸、アミロイド阻害剤、CNTF作動薬、RPE65阻害剤、A2Eおよび/またはリポフスチン蓄積を標的とする因子、光受容体機能および/または代謝の下方制御剤または阻害剤、α2アドレナリン受容体作動薬、選択的セロトニン1A作動薬、C-5を標的にする因子、膜侵襲複合体(C5b-9)および/または任意選択のその他のドルーゼン成分、免疫抑制剤、リポフスチン蓄積を予防または治療する薬剤など)を投与する場合、前記薬剤は、前記RPE細胞製剤と同時に、それに先だって、および/またはそれに引き続いて投与してもよい。例えば前記薬剤は、その中で前記RPE細胞製剤が前記患者の眼に装入される手順において、患者の眼に投与されてもよい。前記薬剤の投与は、前記RPE細胞の患者の眼への投与前に開始して、および/またはその後に継続してもよい。例えば前記薬剤は、溶液、懸濁液中で、徐放形態として、および/または徐放系(例えばAllergan Novadur(商標)送達系、NT-501、または別の眼内装置または徐放系)内で、提供されてもよい。
【0131】
RPE細胞集団は、様々な成熟度レベルの分化RPE細胞を含んでもよく、または特定の成熟度レベルの分化RPE細胞に関して実質的に純粋であってもよい。RPE細胞は、様々な成熟度/色素形成レベルのRPE細胞を含んでなる、実質的に精製された調製品であってもよい。例えば実質的に精製されたRPE細胞培養物は、分化RPE細胞と成熟分化RPE細胞の双方を含有してもよい。成熟RPE細胞間で、色素レベルが変動してもよい。しかし成熟RPE細胞は、色素形成レベルの増大と、より円柱状である形状に基づいて、RPE細胞から視覚的に区別されてもよい。実質的に精製されたRPE細胞製剤は、異なる成熟度レベルのRPE細胞(例えば分化RPE細胞および成熟分化RPE細胞)を含んでなる。このような事例では、色素形成を示唆するマーカーの発現に関して製剤全体にわたり変動があってもよい。細胞培養中のRPE細胞の色素形成は、均質であってもよい。さらに細胞培養中におけるRPE細胞の色素形成は、不均一であってもよく、RPE細胞培養物は、分化RPE細胞と成熟RPE細胞の双方を含んでなってもよい。RPE細胞を含んでなる製剤としては、非RPE細胞型に関して実質的に純粋であるが、分化RPE細胞と成熟分化RPE細胞の混合物を含有する製剤が挙げられる。RPE細胞を含んでなる製剤としてはまた、非RPE細胞型に関して、ならびにその他の成熟度レベルのRPE細胞に関して、実質的に純粋な製剤が挙げられる。
【0132】
培養物中の成熟分化RPE細胞の百分率は、培養密度を下げることで低下させてもよい。したがって本明細書に記載される方法は、成熟RPE細胞の集団を継代培養して、成熟RPE細胞のより低い百分率を含有する培養物を生成するステップをさらに含んでなってもよい。製剤中のRPE細胞数は、成熟度レベルにかかわりなく、および分化RPE細胞と成熟分化RPE細胞との相対的百分率にかかわりなく、分化RPE細胞を含む。製剤中のRPE細胞数とは、分化RPE細胞または成熟RPE細胞のいずれかの数を指す。製剤は、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の分化RPE細胞を含んでなってもよい。製剤は、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の成熟RPE細胞を含んでなってもよい。RPE細胞製剤は、分化RPE細胞と成熟RPE細胞の混合集団を含んでなってもよい。
【0133】
本開示は、色素性であり、ヒトRPEでない細胞中では発現しない少なくとも1つの遺伝子を発現する、ヒトRPE細胞を含んでなる、細胞培養物を提供する。例えばこのようなRPE細胞は、天然ヒトRPE細胞と実質的に同じRPE65、PEDF、CRALBP、およびベストロフィンの発現を有してもよいが。RPE細胞は、PAX2、Pax6、MITF、および/またはチロシナーゼの1つまたは複数の発現に関して、成熟度レベ
ル次第で変動してもよい。分化後の色素形成の変化はまた、PAX2発現の変化にも相関することに留意されたい。成熟RPE細胞は、色素形成レベル、PAX2、Pax6、および/またはチロシナーゼ発現レベルによって、RPE細胞と区別されてもよい。例えば成熟RPE細胞は、RPE細胞と比較して、より高い色素形成レベル、またはPAX2、Pax6、および/またはチロシナーゼのより高い発現レベルを有してもよい。
【0134】
製剤は、非RPE細胞に関して実質的に精製されて、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のRPE細胞を含んでなってもよい。RPE細胞製剤は、非RPE細胞を本質的に含まず、またはRPE細胞からなってもよい。例えば実質的に精製されたRPE細胞製剤は、約25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%未満の非RPE細胞型を含んでなってもよい。例えばRPE細胞製剤は、約25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.09%、0.08%、0.07%、0.06%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%、0.009%、0.008%、0.007%、0.006%、0.005%、0.004%、0.003%、0.002%、0.001%、0.0009%、0.0008%、0.0007%、0.0006%、0.0005%、0.0004%、0.0003%、0.0002%、または0.0001%未満の非RPE細胞を含んでなってもよい。
【0135】
RPE細胞製剤は、非RPE細胞に関して、ならびにその他の成熟度レベルのRPE細胞に関して、実質的に純粋であってもよい。製剤は、非RPE細胞に関して実質的に精製され、成熟RPE細胞が濃縮されていてもよい。例えば成熟RPE細胞が濃縮されたRPE細胞製剤中では、少なくとも約30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99%または100%のRPE細胞が、成熟RPE細胞である。製剤は、非RPE細胞に関して実質的に精製され、成熟RPE細胞でなく、分化RPE細胞が濃縮されていてもよい。例えば少なくとも約30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のRPE細胞が、成熟RPE細胞でなく分化RPE細胞であってもよい。
【0136】
RPE細胞製剤は、少なくとも約1×103、2×103、3×103、4×103、5×103、6×103、7×103、8×103、9×103、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、1×106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、7×106、8×106、9×106、1×107、2×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、8×107、9×107、1×108、2×108、3×108、4×108、5×108、6×108、7×108、8×108、9×108、1×109、2×109、3×109、4×109、5×109、6×109、7×109、8×109、9×109、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、または9×1010個のRPE細胞を含んでなってもよい。RPE細胞製剤は、少なくとも約5,000~10,000、50,000~100,000、100,000~200,000、200,000~500,000、300,000~500,000、または400,000~500,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。RPE細胞製剤は、少なくとも約20,000~50,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。またRPE細胞製剤は、少なくとも約5,000、10,000、
20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、75,000、80,000、100,000、または500,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。
【0137】
RPE細胞製剤は、少なくとも約1×103、2×103、3×103、4×103、5×103、6×103、7×103、8×103、9×103、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、1×106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、7×106、8×106、9×106、1×107、2×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、8×107、9×107、1×108、2×108、3×108、4×108、5×108、6×108、7×108、8×108、9×108、1×109、2×109、3×109、4×109、5×109、6×109、7×109、8×109、9×109、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、または9×1010個のRPE細胞/mLを含んでなってもよい。RPE細胞製剤は、少なくとも約5,000~10,000、50,000~100,000、100,000~200,000、200,000~500,000、300,000~500,000、または400,000~500,000個のRPE細胞/mLを含んでなってもよい。RPE細胞製剤は、少なくとも約20,000~50,000個/mLのRPE細胞を含んでなってもよい。またRPE細胞製剤は、少なくとも約5,000、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、75,000、80,000、100,000、または500,000個のRPE細胞/mLを含んでなってもよい。
【0138】
本明細書に記載される製剤は、HIV1、HIV2、HBV、HCV、CMV、HTLV1、HTLV2、パルボウィルスB19、エプスタイン・バーウイルス、またはヘルペスウイルス6の存在をはじめとするが、これに限定されるものではない、細菌、ウイルス、または真菌汚染または感染を実質的に含まなくてもよい。本明細書に記載される製剤は、マイコプラズマ汚染または感染を実質的に含まなくてもよい。
【0139】
本明細書に記載されるRPE細胞はまた、移植後に、機能性RPE細胞として作用してもよく、RPE細胞は、細胞移植を受けた患者の神経感覚網膜と脈絡膜の間に、単層を形成する。RPE細胞はまた、隣接する光受容体に栄養素を供給し、脱落した桿体視細胞外節を食作用によって処理してもよい。さらに、本明細書に記載されるRPE細胞は、眼の提供者に由来する細胞よりも大きな増殖可能性を有してもよい(例えばRPE細胞は提供者のものに比べて「より若い」)。これは、本明細書に記載されるRPE細胞が、眼の提供者に由来する細胞に比べて、より長い有用寿命を有することを可能にする。
【0140】
RPE細胞を含んでなる製剤は、優良製造規範(GMP)(例えば製剤はGMP準拠である)および/または現行の組織取扱優良実務規範(GTP)(例えば製剤はGTP準拠であってもよい)に従って調製されてもよい。
【0141】
RPE細胞培養物
本開示はまた、ヒトRPE細胞をはじめとする、実質的に精製されたRPE細胞培養物も提供する。本明細書に記載されるRPE培養物は、少なくとも約1,000;2,000;3,000;4,000;5,000;6,000;7,000;8,000;または9,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。培養は、少なくとも約1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×
105、7×105、8×105、9×105、1×106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、7×106、8×106、9×106、1×107、2×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、8×107、9×107、1×108、2×108、3×108、4×108、5×108、6×108、7×108、8×108、9×108、1×109、2×109、3×109、4×109、5×109、6×109、7×109、8×109、9×109、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、または9×1010個のRPE細胞を含んでなってもよい。
【0142】
RPE細胞をさらに培養して、成熟RPE細胞培養物を生成してもよい。RPE細胞を成熟させてもよく、RPE細胞を例えばRPE-GM/MMまたはMDBK MM培地中で、所望の成熟レベルが得られるまでさらに培養してもよい。これは、成熟中の色素形成レベルの増大をモニターすることで、判定されてもよい。RPE-GM/MMまたはMDBK MM培地の代案として、機能的に同等のまたは類似した培地を使用してもよい。RPE細胞を成熟させるために使用される特定の培地に関係なく、培地には、任意選択的に成長因子または薬剤が補給されてもよい。RPE細胞および成熟RPE細胞は、どちらも分化RPE細胞である。しかし成熟RPE細胞は、分化RPE細胞と比較して、色素レベルの増大によって特徴付けられる。成熟度および色素形成のレベルは、分化RPE細胞の培養密度を増大または低下させることで調節してもよい。したがってRPE細胞培養物をさらに培養して、成熟RPE細胞を生成してもよい。代案としては、成熟RPE細胞を含有する培養の密度を下げて、成熟分化RPE細胞の百分率を低下させ、分化RPE細胞の百分率を増大させてもよい。
【0143】
RPE細胞は、このような細胞と生体内誘導された細胞とで、メッセンジャーRNA転写物を比較することで、同定してもよい。細胞アリコートを胚性幹細胞のRPE細胞への分化中の様々な間隔で収集し、上述のいずれかのマーカーの発現についてアッセイする。これらの特性は、分化RPE細胞を区別する。
【0144】
RPE細胞培養物は、少なくとも約30%、35%、40%、または45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の分化RPE細胞を含んでなる、実質的に精製された培養物であってもよい。実質的に精製された培養物は、少なくとも約30%、35%、40%、または45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の成熟分化RPE細胞を含んでなってもよい。
【0145】
RPE細胞培養物は、優良製造規範(GMP)(例えば培養物はGMP準拠である)および/または現行の組織取扱優良実務規範(GTP)(例えば培養物はGTP準拠であってもよい)に従って調製されてもよい。
【0146】
RPE細胞の冷凍保存製剤
RPE細胞は、当該技術分野で公知のあらゆる適切な方法(例えば低温凍結)によって保存されてもよく、凍結は、細胞の保存にふさわしいあらゆる温度であってもよい。例えば細胞は、約-20℃、-80℃、-120℃、-130℃、-135℃、-140℃、-150℃、-160℃、-170℃、-180℃、-190℃、-196℃、および細胞の保存にふさわしいあらゆるその他の温度で凍結してもよい。低温凍結細胞は、適切な容器中で保存してもよく、細胞損傷リスクを低下させ、細胞が解凍を乗り切る可能性を最大化するために、保存準備をしてもよい。RPE細胞は、分化に続いて即座に、生体外成
熟に続いて、または培養中でいくらかの期間後に、冷凍保存してもよい。RPE細胞はまた、室温で維持してもよく、または例えば約4℃で冷蔵してもよい。
【0147】
同様に、RPE細胞を冷凍保存する方法もまた提供される。RPE細胞は、収穫され、緩衝液または培地中で洗浄され、計数され、(遠心分離によって)濃縮され、凍結媒質中で調合され(例えば90%FBS/10%DMSO)、またはこれらの手順を任意に組み合わせてもよい。例えばRPE細胞をいくつかの培養容器内に播種して、連続的に増殖させてもよい。RPE細胞を収穫して、約4℃においてFBS中で維持する一方で、いくつかのフラスコのRPE細胞を合わせて、単一ロットにする。RPE細胞はまた、食塩溶液(例えばDPBS)で、少なくとも1、2、3、4、または5回洗浄してもよい。さらにRPE細胞は、ジストロフィンが細胞膜で組織化されて、PAX6発現が低下した後に冷凍保存してもよい。さらに、バイアルを一次および/または二次ラベルで標識してもよい。ラベル上の情報としては、細胞タイプ(例えばhRPE細胞)、ロット番号および日付、細胞数(例えば1×106個の細胞/mL)、使用期限(例えばバイアルをそれまでに使用すべき推奨日)、製造情報(例えば名称および住所)、警告、および保存手段(例えば液体窒素内保存)が挙げられる。
【0148】
本明細書に記載される冷凍保存RPE細胞製剤は、少なくとも約50,000~100,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。冷凍保存RPE細胞製剤はまた、少なくとも約20,000~500,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。また冷凍保存RPE細胞製剤は、少なくとも約5,000、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、75,000、80,000、または100,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。冷凍保存RPE細胞製剤は、少なくとも約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、75,000、80,000、100,000、または500,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。冷凍保存RPE細胞製剤は、少なくとも約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、1×106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、7×106、8×106、9×106、1×107、2×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、8×107、9×107、1×108、2×108、3×108、4×108、5×108、6×108、7×108、8×108、9×108、1×109、2×109、3×109、4×109、5×109、6×109、7×109、8×109、9×109、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、または9×1010個のRPE細胞を含んでなってもよい。冷凍保存RPE細胞製剤のRPE細胞は、ヒトRPE細胞をはじめとする哺乳類RPE細胞であってもよい。
【0149】
さらに本明細書に記載される冷凍保存RPE細胞製剤は、少なくとも約50,000~100,000個のRPE細胞/mLを含んでなってもよい。冷凍保存RPE細胞製剤はまた、少なくとも約20,000~500,000個のRPE細胞/mLを含んでなってもよい。また冷凍保存RPE細胞製剤は、少なくとも約5,000、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、75,000、80,000、および100,000個のRPE細胞/mLを含んでなってもよい。冷凍保存RPE細胞製剤は、少なくとも約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、10,000、20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、75,000、80,000、100,000、または500,00
0個のRPE細胞/mLを含んでなってもよい。冷凍保存RPE細胞製剤は、少なくとも約1,000、2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、1×106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、7×106、8×106、9×106、1×107、2×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、8×107、9×107、1×108、2×108、3×108、4×108、5×108、6×108、7×108、8×108、9×108、1×109、2×109、3×109、4×109、5×109、6×109、7×109、8×109、9×109、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、または9×1010個のRPE細胞/mLを含んでなってもよい。冷凍保存RPE細胞製剤のRPE細胞は、ヒトRPE細胞をはじめとする哺乳類RPE細胞であってもよい。
【0150】
本開示のRPE細胞は、冷凍保存に続いて保存から回収されてもよい。冷凍保存から回収されたRPE細胞は、それらの生存度および分化状態もまた維持する。例えば少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のRPE細胞が、冷凍保存に続いて生存度と分化を保持してもよい。さらに本開示のRPE細胞は冷凍保存されて、少なくとも約1、2、3、4、5、6、または7日間の保存後に、それらの生存度を維持してもよい。本開示のRPE細胞はまた、冷凍保存されて、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12ヶ月の保存後に、それらの生存度を維持してもよい。本開示のRPE細胞は冷凍保存されて、少なくとも約1、2、3、4、5、6、または7年間の保存後に、それらの生存度を維持してもよい。例えば本開示のRPE細胞は、少なくとも約4年間冷凍保存されて、少なくとも約80%の生存度を示してもよい。RPE細胞を含んでなる冷凍保存製剤は、DMSOを実質的に含まなくてもよい。
【0151】
RPE細胞を生成する方法
主題方法によって分析される細胞集団は、多能性幹細胞から生成されもよい。生成されてもよい細胞型としては、RPE細胞、RPE始原細胞、虹彩色素性上皮(iris pigmented epithelial)(IPE)細胞、および(例えば内顆粒層(INL)の「中継」ニューロンのような)介在ニューロンやアマクリン細胞などのその他の視覚関連神経細胞が挙げられるが、これに限定されるものではない。さらに、網膜細胞、桿体、錐体、および角膜細胞が生成されてもよい。眼の血管系を提供する細胞もまた、本明細書に記載される方法によって生成されてもよい。
【0152】
特定理論に拘束されることなく、本発明者らは、本明細書に記載される方法が、FGF、EGF、WNT4、TGF-β、および/または酸化的ストレスを通じて作用し、MAP-キナーゼおよび可能なC Jun最終キナーゼ経路にシグナルを送り、Paired-box 6(PAX6)転写因子の発現を誘発してもよいことを発見した。PAX6は、PAX2と相乗的に作用して、MITFおよびOtx2の協調を介して、成熟RPEを最終分化させ、チロシナーゼ(Tyr)などのRPE特異的遺伝子と、RPE65、ベストロフィン、CRALBP、およびPEDFなどの下流標的とを転写する。国際公開第2009/051671号パンフレットの
図1を参照されたい。
【0153】
本明細書に記載されるRPE細胞は、ヒト胚性幹細胞などの多能性幹細胞から分化してもよく、分子的に胚性幹細胞、成人由来RPE細胞、および胎児由来RPE細胞と異なっ
てもよい。例えば本明細書に記載される製造工程段階は、これらの細胞が、生得RPE細胞と酷似して、胎児由来RPE細胞またはRPE細胞系(例えばARPE19)と異なるように、特有の構造的および機能的特性を最終RPE細胞製品に与えてもよい。
【0154】
出願人らは、多能性細胞からRPEを生成する方法を以前開示している。その内容全体をそれぞれ参照によって本明細書に援用する、米国特許第7736896号明細書、米国特許第7795025号明細書、および米国特許第7794704号明細書、および国際公開第/2012/012803号パンフレットおよび国際公開第2011/063005号パンフレットを参照されたい。RPEは、多層集団または胚様体として培養された多能性細胞から、生成されてもよい。例えば胚様体は、例えば低付着性基質上、または「懸滴」中などの非付着条件下で多能性細胞を培養することで、形成されてもよい。これらの培養中では、ES細胞は、胚様体と称される細胞塊またはクラスターを形成し得る。その内容全体を参照によって援用する、Itskovitz-Eldor et al.,Mol Med.2000 Feb;6(2):88-95を参照されたい。典型的に、胚様体は、最初に多能性細胞の中実の塊またはクラスターとして形成し、時間経過と共に、一部の胚様体は液体で満たされた窩洞を含むようになり、同文献中で前者は「単純」EB、後者は「嚢胞性」胚様体と称される。出願人らが以前報告したように、これらのEB(中実および嚢胞性形態の双方)中の細胞は、分化し得て、時間経過と共にRPE細胞数を増大させる。任意選択的に、次にEBを付着培養物として培養し、増殖物を形成させてもよい。同様に、出願人らは、過成長させて多層細胞集団を形成させた多能性細胞が、時間経過と共に分化して、RPE細胞を形成し得ることを以前報告している。ひとたびRPEが形成されると、それらは、色素形成および敷石状外観をはじめとするそれらの形態学的特性に基づいて容易に同定され、さらなる使用のために単離し得る。
【0155】
多能性細胞は、当該技術分野で公知のあらゆる培養方法を使用して、RPE細胞形成に先だって増殖させて維持してもよい。例えば多能性細胞は、マウス細胞(例えばマウス胚線維芽細胞(MEF))、ヒト支持細胞(例えばヒト成人皮膚細胞、新生児皮膚線維芽細胞(HNDF)など)のような支持細胞の存在下で、培養してもよい。多能性細胞は、異種成分を含まない培養中で、および/または支持細胞を含まない条件下で培養してもよい。その内容全体をそれぞれ参照によって本明細書に援用する、Klimanskaya et al.,Lancet.2005 May 7-13;365(9471):1636-41;Richards et al.,Stem Cells.2003;21(5):546-56;U.S.Pat.No.7,410,798;Ilic et al.,Stem Cells Dev.2009 Nov;18(9):1343-5;Xu et al.Nat Biotechnol.2001 Oct;19(10):971-4を参照されたい。例えば多能性細胞は、基材上で培養してもよい。基材は、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、コラーゲン、コラーゲンI、コラーゲンIV、コラーゲンVIII、ヘパランスルフェート、マトリゲル(商標)(Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫細胞からの可溶性製剤)、CellStart、ヒト基底膜抽出物、およびそれらのあらゆる組み合わせからなる群から選択されてもよい。基材は、ヒト起源、またはウシ、マウスまたはラットなどの非ヒト動物起源であってもよい。多能性細胞は、馴化培地中で培養してもよい。例えば馴化培地は、そのいずれかがヒト細胞であってもなくてもよい、ES細胞、iPS細胞、支持細胞、胎児細胞などの多能性細胞によって、馴化されてもよい。
【0156】
RPEの生成中に、多能性細胞をrho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤の存在下で培養してもよい。ROCK阻害剤は、細胞中のrho関連キナーゼ機能またはそのシグナル伝達経路を阻害し、または低下させる、小分子、siRNA、miRNA、アンチセンスRNAなどのあらゆる物質を指す。「ROCKシグナル伝達経路」は、本明細
書の用法では、細胞中のRho-ROCK-ミオシンIIシグナル伝達経路、その上流のシグナル伝達経路、またはその下流のシグナル伝達経路などのROCK関連シグナル伝達経路に関与する、あらゆるシグナルプロセッサを含んでもよい。使用してもよい例示的なROCK阻害剤は、rho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤であるStemgent’s Stemolecule Y-27632(Watanabe et al.,Nat Biotechnol.2007 Jun;25(6):681-6を参照されたい)であり、その他のROCK阻害剤としては、例えば、H-1152、Y-30141、Wf-536、HA-1077、ヒドロキシル-HA-1077、GSK269962A、およびSB-772077-Bが挙げられる。全体が記載されているかのように、そのそれぞれを参照によって本明細書に援用する、Doe et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,32:89-98,2007;Ishizaki,et al.,Mol.Pharmacol.,57:976-983,2000;Nakajima et al.,Cancer Chemother.Pharmacol.,52:319-324,2003;およびSasaki et al.,Pharmacol.Ther.,93:225-232,2002。ROCK阻害剤は、例えばその内容全体を参照によって援用する、米国特許第2012/0276063号明細書(付与前公表)に記載される、当該技術分野で公知の濃度および/または培養条件で利用してもよい。例えばROCK阻害剤は、例えば少なくとも、または約0.05、0.1、0.2、0.5、0.8、1、1.5、2、2.5、7.5、10、15、20、25、30、35、40、45、または50μMなど、約0.05~約50μMの濃度を有してもよく、その中で推論できるあらゆる範囲、または細胞成長または生存を促進するのに効果的なあらゆる標的濃度が含まれる。
【0157】
例えば多能性細胞生存度は、ROCK阻害剤の包含によって改善されてもよい。例示的実施形態では、多能性細胞は、マトリゲル(商標)または別の基材などの、支持細胞を含まない条件下で維持されてもよい。その後、トリプシンを使用せずに、EDTA、コラゲナーゼなどを使用して、または機械的に、分離させた多能性細胞から、胚様体を生成してもよい。胚様体は、Y-27632または別のROCK阻害剤を含んでなる培地中で形成されてもよい。例えばROCK阻害剤は、マトリゲル(商標)または別の基材中で培養された、多能性細胞から生成される胚様体中の細胞生存度を高めてもよい。それによってRPE細胞収率が、改善されてもよい。
【0158】
例示的なRPE細胞を生成する方法は、(a)多能性幹細胞を提供するステップと;(b)任意選択的に無血清B27補給剤を含んでなる、栄養素に富む低タンパク質培地中で、多能性幹細胞を胚様体として培養するステップと;(c)任意選択的に無血清B27補給剤を含んでなる、栄養素に富む低タンパク質培地中で、胚様体を付着培養として培養するステップと;(d)無血清B27補給剤を含まない、栄養素に富む低タンパク質培地中で、(c)の付着培養細胞を培養するステップと;(e)高密度体細胞培養物の成長を支持できる培地中で(d)の細胞を培養し、それによってRPE細胞が細胞培養物中に現れるステップと;(f)好ましくは機械的または化学的に(例えばプロテアーゼまたはその他の酵素、または別の分離媒体を使用して)、細胞または細胞塊を(e)の培養から分離するステップと;(g)RPE細胞を培養から選択し、RPE細胞を成長因子が補給された別の培地を含有する培養に移して、RPE細胞の富化培養を生成するステップと;(g)RPE細胞の富化培養を増殖させて、RPE細胞を生成するステップとを含んでなる。これらの方法手順を少なくとも1回実施して、実質的に精製されたRPE細胞培養物を生成してもよい。さらにこれらの方法手順を少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上繰り返して、より多くのRPE細胞を生成してもよい。
【0159】
さらに、本開示はまた、(a)多能性幹細胞を提供するステップと;(b)任意選択的に無血清B27補給剤を含んでなる、栄養素に富む低タンパク質培地中で、多能性幹細胞
を胚様体として培養するステップと;(c)任意選択的に無血清B27補給剤を含んでなる、栄養素に富む低タンパク質培地中で、胚様体を付着培養として培養するステップと;(d)無血清B27補給剤を含まない、栄養素に富む低タンパク質培地中で、ステップ(c)の付着培養細胞を培養するステップと;(e)高密度体細胞培養物の成長を支持できる培地中で、(d)の細胞を培養し、それによってRPE細胞が細胞培養物中に現れるステップと;(f)好ましくは機械的または化学的に(例えばプロテアーゼまたはその他の酵素、または別の分離媒体を使用して)、細胞または細胞塊を(e)の培養から分離するステップと;(g)RPE細胞を培養から選択し、RPE細胞を成長因子が補給された別の培地を含有する培養に移して、RPE細胞の富化培養を生成するステップと;(h)RPE細胞の富化培養を増殖させるステップと;(I)RPE細胞の富化培養を培養して、成熟RPE細胞を生成するステップとを含んでなる、成熟網膜色素上皮(RPE)細胞を生成する方法も提供する。これらの方法手順を少なくとも1回実施して、実質的に精製された成熟RPE細胞培養物を生成してもよい。さらにこれらの方法手順を少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回以上繰り返して、より多くの成熟RPE細胞を生成してもよい。
【0160】
連結した手順のいずれでも、細胞は少なくとも約1~10週間培養してもよい。例えば細胞は、少なくとも約3~6週間培養してもよい。連結した手順のいずれでも、細胞は、例えば少なくとも約1~3、3~4、7、4~9、7~10、7~12、8~11、9~12、7~14、14~21、および3~45日間など、約1日間~50日間培養してもよい。細胞は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50日間培養してもよい。細胞は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24時間培養してもよい。例えば細胞は、2~4および3~6時間培養してもよい。上の連結した方法手順のそれぞれで、細胞は各ステップで同じ期間にわたり、または手順の1つまたは複数で異なる期間にわたり、培養してもよい。さらに上の連結した方法手順のいずれかを繰り返して、より多くのRPE細胞を生成してもよい(例えばスケールアップして多数のRPE細胞を生成する)。
【0161】
本明細書に記載される方法では、RPE細胞は、EBの付着培養中の細胞間で分化し始めてもよい。RPE細胞は、それらの敷石状形態と、色素形成の初期出現に基づいて視覚的に認識されてもよい。RPE細胞が分化し続けるにつれて、RPE細胞のクラスターが観察されてもよい。
【0162】
機械的または酵素的方法を使用して、胚様体培養中の非RPE細胞クラスター間でRPE細胞を選択し、または付着細胞の継代培養を容易にしてもよい。例示的な機械的方法としては、ピペットによる磨砕(tituration)、または引き出し針(pulled needle)による切断が挙げられるが、これに限定されるものではない。例示的な酵素的方法としては、細胞を分離するのに適したあらゆる酵素(例えばトリプシン(例えばトリプシン/EDTA)、コラゲナーゼ(例えばコラゲナーゼB、コラゲナーゼIV)、ディスパーゼ、パパイン、コラゲナーゼおよびディスパーゼ混合物、コラゲナーゼおよびトリプシン混合物)が挙げられるが、これに限定されるものではない。例えばハンクスベースの細胞分離緩衝液のような高EDTA含有量の溶液などの非酵素溶液を使用して、細胞を分離してもよい。
【0163】
RPE細胞は、胚様体から分化してもよい。EBからRPE細胞を単離することで、RPE細胞が生体外富化培養中で増殖できるようにする。ヒト細胞では、RPE細胞は、9
0日未満成長させたEBから得られてもよい。さらにRPE細胞は、少なくとも約7~14日間、14~28日間、28~45日間、または45~90日間成長させたヒトEB中で生じてもよい。多能性幹細胞、胚様体、およびRPE細胞を培養するのに使用する培地は、任意選択の間隔で除去してもおよび/または同一または異なる培地で置換してもよい。例えば培地は、少なくとも約0~7日間、7~10日間、10~14日間、14~28日間、または28~90日後に、除去および/または置換してもよい。さらに培地は、少なくとも毎日、隔日、または少なくとも3日毎に置換してもよい。
【0164】
RPE細胞を濃縮して、実質的に精製されたRPE細胞培養物を確立するために、機械的および/または化学的(酵素的を含む)方法を使用してRPE細胞を互いに、および非RPE細胞から分離してもよい。次にRPE細胞懸濁液を新鮮培地および新鮮培養容器に移して、RPE細胞の富化集団を提供してもよい。
【0165】
分離細胞からRPE細胞を選択し、別々に培養して、実質的に精製されたRPE細胞培養物を生成してもよい。RPE細胞は、RPE細胞に付随する特性に基づいて選択される。例えばRPE細胞は、敷石状細胞形態および色素形成によって認識され得る。これに加えて、頂端微絨毛にもまた見られる細胞質タンパク質である細胞レチナールデヒド結合タンパク質(CRALBP);レチノイド代謝に関与する細胞質タンパク質であるRPE65;ベスト卵黄様黄斑ジストロフィー遺伝子(VMD2)産物であるベストロフィン;および抗血管新生特性がある48kDの分泌タンパク質である色素上皮由来因子(PEDF)をはじめとする、いくつかの既知のRPEマーカーがある。PCR(例えばRT-PCR)またはノーザンブロットを使用して、これらのマーカーのメッセンジャーRNA転写物をアッセイしてもよい。また免疫ブロット技術またはウエスタンブロットを使用して、これらのマーカーのタンパク質レベルをアッセイしてもよい。
【0166】
RPE細胞はまた、脱落した桿体および錐体外節の食作用(またはポリスチレンビーズなどの別の基材の食作用)、迷光吸収、ビタミンA代謝、レチノイド再生、および組織修復などにより、細胞機能に基づいて選択してもよい。評価はまた、適切な宿主動物(自然発生的または誘発的網膜変性病状に罹患しているヒトまたは非ヒト動物など)へのRPE細胞移植後に、例えば行動試験、蛍光血管造影、組織学、密着結合導電率、または電子顕微鏡検査を使用した評価を使用して、生体内機能を検査することで実施してもよい。
【0167】
RPE細胞の富化培養は、例えばEGM2培地などの適切な培地中で培養してもよい。この培地、または機能的に同等または同様の培地には、成長因子または薬剤(例えばbFGF、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、血管内皮成長因子、組換えインスリン様成長因子、アスコルビン酸、またはヒト表皮成長因子)を補給してもよい。RPE細胞は、培養中で長期にわたり(例えば>6週間)、表現型が安定していてもよい。
【0168】
任意選択的に、RPEは、Stemgent’s Stemolecule Y-27632などのrho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤の存在下で培養してもよい。例えばRPEは、冷凍保存に先だって、ROCK阻害剤の存在下で培養してもよい。
【0169】
多能性幹細胞
本明細書に記載される方法を、多能性幹細胞から生成された(RPE細胞などの)分化細胞に使用してもよい。適切な多能性幹細胞としては、多能性幹細胞が誘導される方法にかかわりなく、胚性幹細胞、胚由来幹細胞、および人工多能性幹細胞が挙げられるが、これに限定されるものではない。多能性幹細胞は、例えば当該技術分野で公知の方法を使用して、作成してもよい。例示的な多能性幹細胞としては、胚盤胞段階胚の内細胞塊(ICM)に由来する胚性幹細胞、ならびに卵割段階または桑実胚段階胚の1つまたは複数の割球に由来する、胚性幹細胞が挙げられる(任意選択的に残りの胚の破壊なしで)。このよ
うな胚性幹細胞は、受精によって、または体細胞核移植(SCNT)、単為発生、細胞再プログラミング、および雄性発生をはじめとする無性生殖手段によって生じた、胚性材料から作成し得るさらに、適切な多能性幹細胞としては、多能性幹細胞が誘導される方法にかかわりなく、ヒト胚性幹細胞、ヒト胚由来幹細胞、およびヒト人工多能性幹細胞が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0170】
多能性幹細胞(例えばhES細胞)を懸濁培養として培養して、胚様体(EB)を生成してもよい。胚様体は、懸濁状態で約7~14日間培養してもよい。しかし特定の実施形態では、EBを懸濁状態で、7日未満(7、6、5、4、3、2日未満、または1日未満)、または14日間を超えて培養してもよい。EBは、B27補給剤が添加された培地中で培養してもよい。
【0171】
EBを懸濁培養中で培養後、EBを移して付着培養を生成してもよい。例えばEBは、培地中のゼラチン被覆プレート上に播種してもよい。付着培養として培養する場合、EBは、懸濁状態で成長させる場合と同じタイプの培地中で培養してもよい。細胞を付着培養として培養する場合、培地にB27補給剤を添加してもよい。また培地には、最初に(例えば約7日間以下)B27が補給されるが、次に残りの期間は付着培養として、B27不在下で引き続いて培養される。EBは付着培養として、少なくとも約14~28培養してもよい。しかし特定の実施形態では、EBを付着培養として、約14日未満(14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2日未満、または1日未満)または約28日間を超えて培養してもよい。
【0172】
ヒト胚性幹細胞
本明細書に記載される方法では、ヒト胚性幹(hES)細胞を多能性幹細胞として使用してもよい。ヒト胚性幹細胞(hES)としては、胚盤胞の内細胞塊(ICM)の子孫、または別の起源に由来する細胞が挙げられ、実質的に無期限に多能性のままであってもよい。hES細胞は、任意選択的に破壊なしで、または胚を損傷せずに、初期卵割段階胚の1つまたは複数の割球から誘導されてもよい。hES細胞は、核移植を使用して生成されてもよい。hES細胞はまた、下でさらに詳述される人工多能性細胞(iPS細胞)であってもよい。また冷凍保存hES細胞を使用してもよい。hES細胞は、支持細胞の存在または不在下などの当該技術分野で公知のあらゆる方法で培養してもよい。例えばhES細胞はEB-DM、MDBK GM、hESC培地、INVITROGEN(登録商標)幹細胞培地、OptiPro SFM、VP SFM、EGM 2、またはMDBK MM中で培養してもよい。Stem Cell Information(Culture
of Human Embryonic Stem Cells(hESC))[NIHウェブサイト、2010年]を参照されたい。hES細胞は、GMP標準規格に従って使用され維持されてもよい。
【0173】
規定条件において支持細胞層上で培養すると、hES細胞は特異的形態を維持して、細胞質に対する核の比率が高い小さな緊密に詰め込まれた細胞、細胞間の透明な境界線、および鮮明な屈折性のコロニー境界を含んでなる、扁平コロニーを形成する。hES細胞は、八量体結合タンパク質4(Oct-4、別名Pou5f1)、段階特異的胚性抗原(SSEA)3およびSSEA 4、腫瘍拒絶抗原(TRA)1 60、TRA 1 80、アルカリホスファターゼ、NANOG、およびRex1などの分子マーカーの組を発現する。所定の系統に分化するICM細胞と同様に、培養中のhES細胞を誘導して分化させてもよい。例えばhES細胞を本明細書に記載される規定条件下で、ヒトRPEに分化させてもよい。
【0174】
使用してもよいヒト胚性幹細胞としては、MA01、MA04、MA09、ACT 4、MA03、H1、H7、H9、およびH14が挙げられるが、これに限定されるもので
はない。追加的な例示的細胞系としては、NED1、NED2、NED3、NED4、およびNED5が挙げられる。NIH Human Embryonic Stem Cell Registryもまた参照されたい。使用してもよい例示的なヒト胚性幹細胞系は、MA09細胞である。MA09細胞の単離および調製は、Klimanskaya,et al.(2006)”Human Embryonic Stem Cell lines Derived from Single Blastomeres.”Nature 444:481-485に、以前記載されている。
【0175】
hES細胞は、最初に、マウス胚性支持細胞(MEF)細胞と共培養してもよい。MEF細胞は、共培養中へのhES細胞の播種に先だって、マイトマイシンCへの曝露によって有糸分裂を不活性化してもよく、したがってMEFは培養中で増殖しない。さらにhES細胞培養物は、顕微鏡的に検査してもよく、例えば幹細胞切断ツール、レーザー焼灼、またはその他の手段を使用して、非hES細胞形態を含有するコロニーを選択して破棄してもよい。典型的に、胚様体形成のための播種用hES細胞の収穫時以降、追加的なMEF細胞は工程で使用されない。MEF除去と本明細書に記載されるRPE細胞収穫との間の時間は、MEFを含まない細胞培養中で、最低限少なくとも1、2、3、4、または5代の継代で、少なくとも約5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100日間であってもよい。MEF除去とRPE細胞収穫の間の時間はまた、MEFを含まない細胞培養中で最低限少なくとも約3代の継代で、少なくとも約80~90日間であってもよい。本明細書に記載される生成方法のために、RPE細胞培養物および本明細書に記載される製剤は、マウス胚線維芽細胞(MEF)およびヒト胚性幹細胞(hES)を実質的に含まなくてもよい。
【0176】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)
さらなる例示的な多能性幹細胞としては、因子組み合わせ(「再プログラミング因子」)の発現または発現誘導によって、体細胞を再プログラミングすることで作成された、人工多能性幹細胞(iPS細胞)が挙げられる。iPS細胞は、胎児、出生後、新生児、幼若、または成人体細胞を使用して作成してもよい。iPS細胞は、細胞バンクから得られてもよい。代案としては、RPE細胞または別の細胞型への分化を開始するのに先だって、(当該技術分野で公知の方法によって)iPS細胞を新たに作成してもよい。iPS細胞の作成は、分化細胞を生成する最初の段階であってもよい。iPS細胞は、組織適合性RPE細胞を作成する目的で、特定の患者または適合提供者からの材料を使用して、特に作成されてもよい。iPS細胞は、意図される受容者中で実質的に免疫原性でない細胞から生成され得て、例えば自己細胞から、または意図される受容者と組織適合性の細胞から生成される。
【0177】
人工多能性幹細胞は、体細胞中で1つまたは複数の再プログラミング因子を発現または発現誘導することで、生成されてもよい。体細胞は、皮膚線維芽細胞、滑膜線維芽細胞、または肺線維芽細胞などの線維芽細胞であり、または非線維芽体細胞である。体細胞は、少なくとも1、2、3、4、5を発現することで、再プログラムされる。再プログラミング因子は、Oct 3/4、Sox2、NANOG、Lin28、cMyc、およびKlf4から選択されてもよい。再プログラミング因子の発現は、再プログラミング因子の発現を誘発する小型有機分子剤などの少なくとも1つの薬剤に、体細胞を接触させることで誘発してもよい。
【0178】
体細胞はまた、コンビナトリアルアプローチを使用して再プログラムしてもよく、(例えばウイルスベクター、プラスミドなどを使用して)再プログラミング因子を発現させて、(例えば小型有機分子を使用して)再プログラミング因子発現を誘導する。例えばレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを使用した感染によって、再プログラミング因子を体細胞中で発現させてもよい。またエピソームプラ
スミドなどの非組み込み型ベクターを使用して、再プログラミング因子を体細胞中で発現させてもよい。例えばその内容全体を参照によって援用する、Yu et al.,Science.2009 May 8;324(5928):797-801を参照されたい。非組込みベクターを使用して、再プログラミング因子を発現させる場合、電気穿孔、形質移入、またはベクターによる体細胞の変換を使用して、因子を細胞中で発現させてもよい。例えばマウス細胞中では、組み込みウイルスベクターを使用した4つの因子(Oct3/4、Sox2、c myc、およびKlf4)の発現が、体細胞を再プログラムするのに十分である。ヒト細胞中では、組み込みウイルスベクターを使用した4つの因子(Oct3/4、Sox2、NANOG、およびLin28)の発現が、体細胞を再プログラムするのに十分である。
【0179】
ひとたび再プログラミング因子が細胞中で発現したら、細胞を培養してもよい。時間経過と共に、ES特性のある細胞が、培養皿内に出現する。細胞は、例えば、ES形態に基づいて、または選択可能なまたは検出可能なマーカーの発現に基づいて選択し、継代培養してもよい。細胞を培養して、ES細胞と似ている細胞培養を生成してもよく、これらは推定上のiPS細胞である。
【0180】
iPS細胞の多分化能を確認するために、細胞を1つまたは複数の多分化能アッセイで検査してもよい。例えばES細胞マーカーの発現について、細胞を検査してもよく;SCIDマウスに移植した場合に奇形腫を生じる能力について、細胞を評価してもよく;分化して、3つの全胚芽層の細胞タイプを生じる能力について、細胞を評価してもよい。ひとたび多能性iPS細胞が得られたら、それを使用してRPE細胞を生成してもよい。
【0181】
網膜色素上皮(RPE)細胞
本開示は、ヒト胚性幹細胞などの多能性幹細胞から分化してもよく、分子的に胚性幹細胞、成人由来RPE細胞、および胎児由来RPE細胞と異なってもよい、RPE細胞を提供する。本明細書で、および上で特定される関連出願で、開示される方法の例示的な実施形態に従って生成されるRPEは、以前の方法によって達成可能もの、およびRPE細胞のその他の起源からのものとは異なってもよい。例えば本明細書に記載される製造工程段階は、胎児由来RPE細胞またはRPE細胞系(例えばARPE19)などのその他の起源から得られるこれらの単離されたRPE細胞からの細胞が、ように、特有の構造的および機能的特性を最終RPE細胞製品に与えてもよい。
【0182】
さらに本明細書に記載されるRPE細胞を生成する方法の例示的な実施形態は、ES細胞を許容せず、ES細胞が持続し得ず、RPE細胞培養物および製剤に許容できない汚染リスクをもたらさないようにする。
【0183】
本開示によって提供される細胞としては、RPE、RPE始原細胞、虹彩色素性上皮(iris pigmented epithelial)(IPE)細胞、および(例えば内顆粒層(INL)の「中継」ニューロンのような)介在ニューロンおよびアマクリン細胞などのその他の視覚関連神経細胞が挙げられるが、これに限定されるものではない。本開示の実施形態はまた、網膜細胞、桿体、錐体、および角膜細胞、ならびに眼の血管系を提供する細胞を提供してもよい。
【0184】
RPE細胞は、網膜離脱、網膜異形成、色素線条、近視性黄斑変性または網膜萎縮に起因する、あるいはコロイデレミア、糖尿病性網膜症、黄斑変性(例えば加齢黄斑変性)、色素性網膜炎、およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)などの光受容体損傷および失明をもたらすいくつかの視覚変性疾患と関連付けられている、網膜変性疾患を治療するために使用してもよい。
【0185】
RPE細胞は、非RPE細胞型に脱分化しない、安定した末端分化RPE細胞であってもよい。本明細書に記載されるRPE細胞は、ヒトまたは非ヒト動物への角膜、網膜下、またはその他の投与に際して、網膜中に組み込まれる能力によって特徴付けられる、機能性RPE細胞であってもよい。
【0186】
RPE細胞は、RPE細胞マーカーを発現してもよい。例えば、RPE65、PAX2、PAX6、チロシナーゼ、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMITFなどのマーカーの発現レベルは、天然RPE細胞と同等であってもよい。RPE細胞の成熟度のレベルは、PAX2、PAX6、およびチロシナーゼの少なくとも1つの発現、またはそれらのそれぞれの発現レベルを測定することで、評価してもよい。
【0187】
対照的にRPE細胞は、ES細胞マーカーを発現してもよい。例えば、ES細胞遺伝子Oct-4、NANOG、および/またはRex-1の発現レベルは、RPE細胞中でES細胞よりも約100~1000倍より低くてもよい。例えばRPE細胞は、八量体結合タンパク質4(Oct-4、別名Pou5f1)、段階特異的胚性抗原(SSEA)-3およびSSEA-4、腫瘍拒絶反応抗原(TRA)-1-60、TRA-1-80、アルカリホスファターゼ、NANOG、Rex-1、Sox2、TDGF-1、DPPA2、DPPA3(STELLA)、DPPA4、および/またはDPPA5をはじめとするが、これに限定されるものではない、ES細胞マーカーの発現を実質的に欠いていてもよい。したがってRPE細胞は、ES細胞と比較して、好ましくはOct-4、NANOG、および/またはRex-1の発現を実質的に欠いている。
【0188】
本明細書に記載されるRPE細胞はまた、無培養RPE細胞またはその他のRPE細胞製剤との比較で、αインテグリンサブユニット1~6または9の発現レベルの上昇も示してもよい。本明細書に記載されるRPE細胞はまた、αインテグリンサブユニット1、2、3、4、5、または9の発現レベルの上昇も示してもよい。本明細書に記載されるRPE細胞は、αインテグリンサブユニット1~6の発現を促進する条件下で、培養してもよい。例えばRPE細胞は、マンガンおよび活性化モノクローナル抗体(mAb)TS2/16をはじめとするが、これに限定されるものではない、インテグリン活性化剤と共に培養してもよい。Afshari,et al.Brain(2010)133(2):448-464を参照されたい。RPE細胞は、ラミニン(1μg/mL)上に播種されて、Mn2+(500μM)に少なくとも約8、12、24、36、または48時間曝露されてもよい。またRPE細胞は、数代の継代(例えば少なくとも約4、5、6、7、または8継代)で培養してもよく、それはαインテグリンサブユニットの発現を増大させてもよい。
【0189】
RPE細胞は、RPEマーカーを発現してhESマーカーを発現しない、正常な核型を示してもよい。
【0190】
本明細書に記載されるRPE細胞はまた、細胞の色素形成の程度に基づいて、同定され特徴付けられてもよい。色素の変化は、RPE細胞が培養され維持される密度、およびRPEが培養中に維持される時間によって制御することができる。急速に分裂している分化RPE細胞は、色素形成がより少ない。対照的に、より緩慢に分裂するまたは非分裂RPEは、それらの特徴的な多角形または六角形の形状を取り、メラニンおよびリポフスシンを蓄積することによって、色素形成レベルを増大させる。例えば(例えばコンフルエンスのために)静止状態のRPE培養物は、典型的にそれらの色素形成レベルを経時的に増大させる。したがって色素形成の蓄積は、RPE成熟度の指標の役割を果たす細胞密度と関連付けられている、RPE分化および色素形成増大の指標の役割を果たす。例えば成熟RPE細胞は、色素形成を低下させるように、より低い密度で継代培養してもよい。この文脈で、成熟RPE細胞を培養して、より未熟なRPE細胞を生成してもよい。このような
RPE細胞は、依然として、RPE分化マーカーを発現する分化RPE細胞である。
【0191】
本明細書に記載されるRPE細胞は、生体外で長期にわたりそれらの表現型を維持してもよい。例えばRPE細胞は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20代の継代にわたり、それらの表現型を維持してもよい。RPE細胞は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20日間にわたり、それらの表現型を維持してもよい。RPE細胞は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10週間にわたり、それらの表現型を維持してもよい。
【0192】
さらに本明細書に記載されるRPE細胞は、移植に続いてそれらの表現型を維持してもよい。RPE細胞は、移植後、受容者の生存期間にわたり、それらの表現型を維持してもよい。例えばRPE細胞は、移植に続いて、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20日間にわたり、それらの表現型を維持してもよい。さらにRPE細胞は、移植に続いて、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10週間にわたり、それらの表現型を維持してもよい。さらにRPE細胞は、移植に続いて、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12ヶ月にわたり、それらの表現型を維持してもよい。RPE細胞は、移植に続いて、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20年以上にわたり、それらの表現型を維持してもよい。
【0193】
RPE細胞集団のメラニン含有量
本開示の例示的な実施形態は、低いまたは中程度の平均色素形成レベルを有するRPE細胞集団と、低いまたは中程度の平均色素形成レベルを有するRPE細胞を含んでなる医薬品とを提供する。下の実施例で詳述するように、出願人らは、細胞が付着して生存する能力を評価するアッセイにおいて、比較的より低い色素形成レベルを有するRPE細胞が、より良く機能したことを示した。理論によって限定されることは望まないが、RPE細胞が成熟するにつれて、それらは冷凍保存後に、細胞付着を形成して生存し増殖する能力が低下することもあると考えられ、これは、より成熟したRPE細胞中に含有される色素形成(メラニン)レベルの増大、および/または(例えば、細胞骨格、膜組成物、細胞表面受容体発現、付着強度、核構造、遺伝子発現、またはその他の表現型、または表現型組み合わせの変化をはじめとする)色素形成増大と概して相関する傾向がある、成熟RPEのその他の表現型の増大に起因するかもしれない。また理論によって限定されることは望まないが、RPE細胞がより成熟するにつれて、それらは、冷凍保存なしで継代および/または維持した場合でさえも、細胞付着を形成して生存し増殖する能力が低下することもあると考えられ;これもまた、より成熟したRPE細胞に、および/または色素形成増大と概して相関する傾向がある、成熟RPEのその他の表現型に、含有される色素形成(メラニン)レベルの増大に起因するかもしれない。
【0194】
色素形成のレベルは、集団の細胞あたりの平均メラニンとして測定されてもよく、例えば細胞あたりのピコグラム(pg/細胞)として表され、一般に、集団内の細胞中のメラニンレベルには、いくらかの変動があってもよいことが理解されるであろう。例えば平均メラニン含有量は、8pg/細胞未満、7pg/細胞未満、6pg/細胞未満、または5pg/細胞未満、例えば0.1~pg/細胞、0.1~7pg/細胞、0.1~6pg/細胞、0.1~5pg/細胞、0.1~4pg/細胞、0.1~3pg/細胞、0.1~2pg/細胞、0.1~1pg/細胞、1~8pg/細胞、1~7pg/細胞、1~6pg/細胞、1~5pg/細胞、1~4pg/細胞、1~3pg/細胞、1~2pg/細胞、2~6pg/細胞、3~5pg/細胞、または4.2~4.8pg/細胞などの4~5
pg/細胞、または0.1~5pg/細胞であってもよい。さらなる実施例では、平均メラニン含有量は、5pg/細胞未満、例えば0.1~5pg/細胞、0.2~5pg/細胞、0.5~5pg/細胞、1~5pg/細胞、2~5pg/細胞、3~5pg/細胞、4~5pg/細胞、または4.5~5pg/細胞であってもよい。
【0195】
メラニン含有量は、細胞抽出物を利用する方法、FACSベースの方法などをはじめとする多様な方法を使用して測定してもよい。例えば、その内容全体をそれぞれ参照によって本明細書に援用する、Boissy et al.,Cytometry.1989 Nov;10(6):779-87;Swope et al.,J Invest Dermatol.1997 Sep;109(3):289-95;Watts et al.,Cancer Res 1981;41:467-472;Rosenthal
et al.,Anal Biochem.1973 Nov;56(1):91-9を参照されたい。例えば、平均メラニン含有量を判定するために、代表的サンプル中の細胞数を測定してもよく、代表的サンプル中の細胞を溶解してもよく、(例えばNaOH抽出細胞ペレットからの)細胞溶解産物の全メラニン含有量を(例えば分光光度法により)測定し、代表的サンプル中の細胞数で除して、細胞あたりの平均メラニン含有量を得る。任意選択的に、培養中のRPE以外の細胞を無視して、代表的サンプル中の細胞数を測定し(例えばRPEの1つまたは複数のマーカーについて陽性であり、および/またはRPE細胞の形態特性を示す細胞を計数する)、それによって代表的サンプル中のRPE細胞あたりの平均メラニン含有量を得てもよい。
【0196】
平均メラニン含有量は、色素が最も濃い5パーセントと色素が最も薄い5パーセントの収穫されたRPE細胞を除外した、細胞集団について判定してもよい。
【0197】
所望の平均メラニン含有量を有するRPE集団は、容易に得られ得る。例えば、(例えばコンフルエントな培養中の)分裂していない代謝的に活性なRPEのメラニン含有量は、合成されたメラニンの蓄積のために経時的に増大する傾向がある一方で、分裂細胞中ではメラニン含有量が比較的低下するように、蓄積したメラニンが細胞分裂によって希釈される。例えばDunn et al.,Exp Eye Res.1996 Feb;62(2):155-69を参照されたい。したがって所望の平均メラニン含有量を有するRPE集団は、例えば1、2、3、4、5、または6日間、または1、2、3、4、5、6、7、8週間以上にわたる静止状態培養など、例えば所望の平均メラニン含有量をもたらす持続期間にわたる静止状態集団としての維持などの、適切な成長史を選択することで得られ得る。静止状態集団としてしばらく維持し、それに続いて、細胞を規定の時間または分裂回数で再度分裂させる(それによって静止状態集団中で達成される平均メラニン含有量を低下させる)ことをはじめとする、追加的な成長史もまた使用して、平均メラニン含有量を調節してもよい。メラニン含有量はまた、様々な培地および/または培地補給剤の使用によって調節されてもよく、例えば培養RPE中のメラニン蓄積は、タンパク質キナーゼ阻害剤(例えばH-7、W-7、H-8、およびスタウロスポリン)の存在下で低下し(Kishi et al.,Cell Biol Int.2000;24(2):79-83)、全トランス型レチノイン酸の存在下(10(-5)から10(-7)M)またはTGF-β 1の存在下(1から100U/ml)で増大する(Kishi et al.,Curr Eye Res.1998 May;17(5):483-6)ことが報告されている。メラニン含有量はまた、亜鉛α-2-糖タンパク質(ZAG)による(米国特許第7,803,750号明細書を参照されたい)による、および/またはアデノシン-1受容体拮抗薬、アデノシン-2受容体作動薬、アデノシン-1受容体作動薬、アデノシン-2受容体拮抗薬、およびアデノシン-1受容体拮抗薬とアデノシン-2受容体作動薬との組み合わせ、またはそれらの組み合わせ(米国特許第5,998,423号明細書を参照されたい)による細胞処理によって、増大させてもよい。前述の文献のそれぞれは、その内容全体を参照によって本明細書に援用する。
【0198】
前述の方法の代案として、またはそれに加えて、所望の平均メラニン含有量を有するRPE細胞は、例えばフローサイトメーターを使用して、細胞選別を通じて得られてもよい。例えばメラニン含有細胞は、増大した側方散乱と低下した前方散乱をはじめとする、それらの光散乱特性によって検出可能であり;これらの特性を使用して、色素形成レベルによって集団を選別し、それによって所望の平均メラニン含有量を有する集団を精製してもよい。その内容全体をそれぞれ参照によって本明細書に援用する、Boissy et al.,Cytometry.1989 Nov;10(6):779-87;Swope et al.,J Invest Dermatol.1997 Sep;109(3):289-95。
【0199】
ヒト胚性幹細胞中のMHC遺伝子を改変して複雑度が低下したRPE細胞を得る
(例えば本明細書に記載されるようにそれからRPEが由来してもよい)ヒト胚性幹(hES)細胞は、ヒト胚性幹細胞ライブラリーに由来してもよい。ヒト胚性幹細胞ライブラリーは幹細胞を含んでなってもよく、そのそれぞれはヒト集団内に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子についてヘミ接合性、ホモ接合性、またはヌル欠損であり、前記幹細胞ライブラリーの各メンバーは、ライブラリのー残りのメンバーに対して、MHC対立遺伝子の異なる組について、ヘミ接合性、ホモ接合性、またはヌル欠損である。ヒト胚性幹細胞ライブラリーは、ヒト集団内に存在する全てのMHC対立遺伝子について、ヘミ接合性、ホモ接合性、またはヌル欠損である、幹細胞を含んでなってもよい。本開示の文脈で、1つまたは複数の組織適合性抗原遺伝子についてホモ接合性である幹細胞としては、1つまたは複数の(およびいくつかの実施形態では全ての)このような遺伝子についてヌル欠損である細胞が挙げられる。遺伝子座のヌル欠損は、遺伝子がその位置で欠損している(すなわちその遺伝子の対立遺伝子がどちらも欠失しまたは不活性化されている)ことを意味する。
【0200】
hES細胞は、細胞のMHC複合体中の姉妹染色体の対立遺伝子の1つに、改変を含んでなってもよい。遺伝子標的化などの遺伝子改変を作成する多様な方法を使用して、MHC複合体中の遺伝子を改変してもよい。さらに姉妹染色体上に同一対立遺伝子が存在するように、細胞中のMHC複合体の改質対立遺伝子を引き続いて改変して、ホモ接合性にしてもよい。ヘテロ接合性の消失(LOH)などの方法を利用して、細胞を遺伝子操作し、MHC複合体中でホモ接合性対立遺伝子を有するようにしてもよい。例えば、親対立遺伝子からのMHC遺伝子の組の1つまたは複数の遺伝子を標的化して、ヘミ接合性細胞を作成し得る。他のMHC遺伝子の組は、遺伝子標的化またはLOHによって除去して、ヌル系統を作成し得る。このヌル系統を胎芽細胞系統としてさらに利用して、その中に、HLA遺伝子アレイまたは個々の遺伝子を入れて、その他の点では均一の遺伝的背景があるヘミ接合性またはホモ接合性バンクを作成し得る。全てのMHC遺伝子に対してヌル欠損の幹細胞は、例えば遺伝子標的化および/またはヘテロ接合性の消失(LOH)などの当該技術分野で公知の標準法によって生成されてもよい。例えば米国特許出願第2004/0091936号明細書、米国特許出願第2003/0217374号明細書、および米国特許出願第2003/0232430号明細書、および米国仮特許出願第60/729,173号明細書を参照されたい。
【0201】
したがって本開示は、MHC複雑度が低下した、RPE細胞のライブラリーをはじめとする、RPE細胞を得る方法に関する。患者マッチングに関わる困難さを排除することもあるので、MHC複雑度が低下したRPE細胞を使用して、治療用途で利用できる細胞供給を増大させてもよい。このような細胞は、MHC複合体の遺伝子について、ヘミ接合性またはホモ接合性であるように改変された幹細胞に由来してもよい。
【0202】
本開示は、数種の系統のES細胞が選択されてRPE細胞に分化される、RPE細胞(
および/またはRPE系統細胞)のライブラリーもまた提供する。細胞ベースの治療法を必要とする患者のために、これらのRPE細胞および/またはRPE系統細胞を使用してもよい。本開示はまた、そのそれぞれがヒト集団内に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子についてヘミ接合性、ホモ接合性、またはヌル欠損であるRPE細胞ライブラリーも提供し、前記RPE細胞ライブラリーの各メンバーは、ライブラリーの残りのメンバーに対して、MHC対立遺伝子の異なる組について、ヘミ接合性、ホモ接合性、またはヌル欠損である。本開示は、ヒト集団内の全てのMHC対立遺伝子について、ヘミ接合性、ホモ接合性、またはヌル欠損である、ヒトRPE細胞ライブラリーを提供する。
【0203】
培地
本明細書に記載される方法では、ウイルス、細菌、または真核生物細胞培養用培地などの細胞培養を支持できるあらゆる培地を使用してもよい。例えば培地は、EB-DMまたはRPE-GM/MMであってもよい。さらなる例として、培地は、高栄養タンパク質非含有培地または高栄養低タンパク質培地であってもよい。さらに、培地はまた、アルブミン、B-27補給剤、エタノールアミン、フェチュイン、グルタミン、インスリン、ペプトン、精製リポタンパク質、亜セレン酸ナトリウム、トランスフェリン、ビタミンA、ビタミンC、またはビタミンEなどの栄養成分を含んでもよい。例えば栄養素に富む低タンパク質培地は、培養中で細胞成長を支持して、低タンパク質含有量を有する、あらゆる培地であってもよい。例えば栄養素に富む低タンパク質培地としては、MDBK-GM、OptiPro SFM、VP-SFM、DMEM、RPMI培地1640、IDMEM、MEM、F-12栄養素混合物、F-10栄養素混合物EGM-2、DMEM/F-12培地、培地1999、またはMDBK-MMが挙げられるが、これに限定されるものではない。表1もまた参照されたい。さらに栄養素に富む低タンパク質培地は、胚性幹細胞の成長または維持を支持しない培地であってもよい。
【0204】
低タンパク質培地が使用される場合、培地は、少なくとも約20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.75%、0.5%、0.25%、0.20%、0.10%、0.05%、0.02%、0.016%、0.015%、または0.010%の動物由来タンパク質を含有する成分を含有してもよい(例えば10%のFBS)。低タンパク質培地中に存在するタンパク質百分率への言及は、培地のみに言及して、例えばB-27サプリメント中に存在するタンパク質を考慮していないことに留意されたい。したがって細胞が、低タンパク質培地およびB-27補給剤中で培養される場合、培地中に存在するタンパク質百分率は、より高くあってもよいものと理解される。
【0205】
低タンパク質またはタンパク質非含有培地には、無血清B-27補給剤が添加される。B27補給剤の栄養成分は、ビオチン、L-カルニチン、コルチコステロン、エタノールアミン、D+ガラクトース、還元グルタチオン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン、酢酸レチニル、セレン、トリヨード-l-サイロニン(triodo-1-thyronine)(T3)、DL-αトコフェロール(ビタミンE)、DL-α酢酸トコフェロール、ウシ血清アルブミン、カタラーゼ、インスリン、超酸化物ジスムターゼ、およびトランスフェリンを含んでなってもよい。細胞が、B-27が補給されたタンパク質非含有培地中で培養される場合、タンパク質非含有は、B-27添加前の培地に言及する。
【0206】
本明細書に記載される成長因子、薬剤、およびその他の補給剤は、培地に含めるために、単独で、またはその他の因子、薬剤、または補給剤との組み合わせで使用してもよい。因子、薬剤、および補給剤は、即座に、または細胞培養中または後のあらゆる時点で、培地に添加してもよい。
【0207】
培地はまた、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、アスコルビン酸、血清(例えばウシ胎仔血清)などの補給剤;または成長基材(例えばウシ角膜上皮からの細胞外基質、マトリゲル(商標)(基底膜基材)、またはゼラチン);フィブロネクチン;フィブロネクチン、ラミニン、トロンボスポンジン、アグリカン、およびシンデカン(syndezan)のタンパク質分解断片も含有してもよい。
【0208】
培地には、1つまたは複数の因子または薬剤が補給されてもよい。
【0209】
使用してもよい成長因子としては、例えば、EGF、FGF、VEGF、および組換えインスリン様成長因子が挙げられる。本開示で使用してもよい成長因子としてはまた、6Ckine(組換え体)、アクチビンA、αインターフェロン、αインターフェロン、アンフィレグリン、アンジオゲニン、β内皮細胞成長因子、βセルリン、βインターフェロン、脳由来神経栄養因子、カルジオトロフィン-1、毛様体神経栄養因子、サイトカイン誘導好中球化学誘引物質-1、内皮細胞成長補給剤、エオタキシン、表皮成長因子、上皮好中球活性化ペプチド-78、エリスロポエチン(erythropoiten)、エストロゲン受容体α、エストロゲン受容体β、線維芽細胞成長因子(酸性/塩基性ヘパリン安定化組換え体)、FLT-3/FLK-2リガンド(FLT-3リガンド)、γインターフェロン、グリア細胞系由来神経栄養因子、Gly-His-Lys、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、GRO-α/MGSA、GRO-B、GRO-γ、HCC-1、ヘパリン結合表皮成長因子様成長因子、肝実質細胞成長因子、ヘレグリン-α(EGFドメイン)、インスリン成長因子結合タンパク質-1、インスリン様成長因子結合タンパク質-1/IGF-1複合体、インスリン様成長因子、インスリン様成長因子II、2.5S神経成長因子(NGF)、7S-NGF、マクロファージ炎症性タンパク質1β、マクロファージ炎症性タンパク質2、マクロファージ炎症性タンパク質3α、マクロファージ炎症性タンパク質3β、単球走化性タンパク質1、単球走化性タンパク質2、単球走化性タンパク質3、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4、NGF-β(ヒトまたはラット組換え体)、オンコスタチンM(ヒトまたはマウス組換え体)、下垂体抽出物、胎盤成長因子、血小板由来内皮細胞成長因子、血小板由来成長因子、プレイオトロフィン、ランテス、幹細胞因子、間質細胞由来因子1B/プレB細胞成長刺激因子、トロンボポエチン(thrombopoetin)、形質転換成長因子α、形質転換成長因子β1、形質転換成長因子β2、形質転換成長因子β3、形質転換成長因子β5、腫瘍壊死因子(αおよびβ)、および血管内皮成長因子も挙げられる。
【0210】
本開示によって使用してもよい薬剤としては、インターフェロンα、インターフェロンα A/D、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターフェロンγ誘導性タンパク質10、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン-5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-8、インターロイキン-9、インターロイキン-10、インターロイキン-11、インターロイキン-12、インターロイキン-13、インターロイキン-15、インターロイキン-17、ケラチノサイト増殖因子、レプチン、白血病阻害因子、マクロファージコロニー刺激因子、およびマクロファージ炎症性タンパク質1αなどのサイトカインが挙げられる。
【0211】
培地には、17B-エストラジオール、副腎皮質刺激ホルモン、アドレノメデュリン、αメラノサイト刺激ホルモン、絨毛性ゴナドトロピン、コルチコステロイド結合グロブリン、コルチコステロン、デキサメタゾン、エストリオール、濾胞刺激ホルモン、ガストリン1、グルカゴン、ゴナドトロピン、ヒドロコルチゾン、インスリン、インスリン様成長因子結合タンパク質、L-3,3’,5’-トリヨードチロニン、L-3,3’,5’-トリヨードチロニン、レプチン、黄体形成(leutinizing)ホルモン、L-チ
ロキシン、メラトニン、MZ-4、オキシトシン、副甲状腺ホルモン、PEC-60、下垂体成長ホルモン、プロゲステロン、プロラクチン、セクレチン、性ホルモン結合グロブリン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン放出因子、チロキシン結合グロブリン、およびバソプレシンをはじめとするが、これに限定されるものではない、ホルモンおよびホルモン拮抗薬が補給されてもよい。培地には、抗低密度リポタンパク質受容体抗体、抗プロゲステロン受容体、内部抗体、抗αインターフェロン受容体鎖2抗体、抗c-cケモカイン受容体1抗体、抗CD 118抗体、抗CD 119抗体、抗コロニー刺激因子-1抗体、抗CSF-1受容体/c-fins抗体、抗表皮成長因子(AB-3)抗体、抗表皮成長因子受容体抗体、抗表皮成長因子受容体、ホスホ-特異的抗体、抗表皮成長因子(AB-1)抗体、抗エリスロポエチン受容体抗体、抗エストロゲン受容体抗体、抗エストロゲン受容体、C末端抗体、抗エストロゲン受容体B抗体、抗線維芽細胞成長因子受容体抗体、抗線維芽細胞成長因子、塩基性抗体、抗γインターフェロン受容体鎖抗体、抗γインターフェロンヒト組換え抗体、抗GFR α-1 C末端抗体、抗GFR α-2 C末端抗体、抗顆粒球コロニー刺激因子(AB-1)抗体、抗顆粒球コロニー刺激因子受容体抗体、抗インスリン受容体抗体、抗インスリン様成長因子-1受容体抗体、抗インターロイキン-6ヒト組換え抗体、抗インターロイキン-1ヒト組換え抗体、抗インターロイキン-2ヒト組換え抗体、抗レプチンマウス組換え抗体、抗神経成長因子受容体抗体、抗p60、ニワトリ抗体、抗副甲状腺ホルモン様タンパク質抗体、抗血小板由来成長因子受容体抗体、抗血小板由来成長因子受容体B抗体、抗血小板由来成長因子α抗体、抗プロゲステロン受容体抗体、抗レチノイン酸受容体α抗体、抗甲状腺ホルモン核内受容体抗体、抗甲状腺ホルモン核内受容体α 1/Bi抗体、抗トランスフェリン(transfesferin)受容体/CD71抗体、抗形質転換成長因子α抗体、抗形質転換成長因子B3抗体、抗腫瘍(anti-tumor)壊死因子α抗体、および抗血管内皮成長因子抗体をはじめとするが、これに限定されるものではない、様々な因子に対する抗体が補給されてもよい。
【0212】
本明細書に記載される方法で使用するのに潜在的に適する例示的な成長培地は、表1に列挙される。
【0213】
【0214】
治療法
本明細書に記載される方法によって製造されたRPE細胞およびRPE細胞を含んでな
る医薬品(pharmaceutically preparations)は、細胞ベースの治療法のために使用してもよい。本開示は、RPE細胞を含んでなる医薬品の有効量を投与するステップを含んでなる、網膜変性を伴う病状を治療する方法を提供し、RPE細胞は、生体外多能性幹細胞に由来する。網膜変性を伴う病状としては、例えば、コロイデレミア、糖尿病性網膜症、網膜萎縮、網膜離脱、網膜異形成、色素性網膜炎、色素線条(ナップ線条またはナップ線とも称され、ブルッフ膜の小さな切断によって特徴付けられ、それは石灰化してひび割れる)、および近視性黄斑変性(変性近視とも称される)が挙げられる。本明細書に記載されるRPE細胞はまた、加齢による黄斑変性(乾燥型または湿潤型)、ノースカロライナ黄斑ジストロフィー、ソースビー眼底ジストロフィー、シュタルガルト病、パターンジストロフィー、ベスト病、マラチアレベンティニーズ、ドイン蜂巣状脈絡膜症、優性ドルーゼン、および放射状ドルーゼンをはじめとするが、これに限定されるものではない、黄斑変性を治療する方法において使用してもよい。本明細書に記載されるRPE細胞はまた、パーキンソン病(PD)を治療する方法で使用してもよい。
【0215】
先行文献に記載される細胞移植に共通する特徴は、移植片の低生存率であり、例えば多数の細胞移植研究において、移植に続いて即座に(例えば最初の1週間以内に)、細胞が失われる傾向がある。この細胞の損失は、移植細胞の拒絶反応ではなく、むしろ移植部位において、一定割合の細胞が保持され得ないことに起因するようである。この細胞保持の欠如は、九分通り、細胞の下層構造への付着の失敗、十分な栄養素の欠如、または移植部位における物理的ストレスなどのいくつかの要素に起因する。この最初の細胞数低下に続いて、移植後の様々な時点における細胞生存は、研究毎に大幅に変動し得る。したがっていくつかの研究は、数の着実な低下を示すが、その他は、移植細胞が安定数に到達し得る結果を示す。しかし移植成功の考察における重要な要素は、細胞移植に続いて生き残った移植片がある受容者の百分率である。
【0216】
以前の製剤とは対照的に、本明細書に記載される製剤中のRPE細胞は、移植に続いて長期間生存してもよい。例えばRPE細胞は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10日間生存してもよい。さらにRPE細胞は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10週間;少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10ヶ月;または少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10年間生存してもよい。さらにRPE細胞は、移植受容者(receipt)の生存期間全体にわたり、生存してもよい。さらに本明細書に記載されるRPE細胞の受容者(receipts)の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98、99、または100%は、移植RPE細胞の生存を示してもよい。さらに本明細書に記載されるRPE細胞は、移植受容者(receipt)のRPE層中に成功裏に組み込まれて、半連続細胞系を形成し、主要RPE分子マーカー(例えばRPE65およびベストロフィン)の発現を維持してもよい。本明細書に記載されるRPE細胞はまた、ブルッフ膜に付着して、移植受容者(receipt)中で、安定したRPE層を形成してもよい。また本明細書に記載されるRPE細胞は、ES細胞を実質的に含まず、移植受容者(receipt)は、移植部位において異常増殖または腫瘍形成を示さない。
【0217】
網膜変性と関連付けられている病状に罹患している患者を治療する方法は、(例えば本開示の医薬品を含んでなる基材の眼内注入または挿入によって)本開示の組成物を局所的に投与するステップを含んでなってもよい。本開示の医薬品眼内投与としては、例えば硝子体中、経角膜、結膜下、網膜下、黄斑下(例えば経中心窩黄斑下注入による)、強膜近傍、後部強膜、および眼のテノン嚢下部分への送達が挙げられる。例えば米国特許第7,794,704号明細書;米国特許第7,795,025号明細書;6,943,145;および米国特許第6,943,153号明細書を参照されたい。
【0218】
本開示はまた、複雑度が低下した胚性幹細胞に由来するヒトRPE細胞を、患者に投与する方法も提供する。この方法は、(a)ヒトRPE細胞の投与を伴う治療が必要な患者を同定するステップと;(b)患者の細胞表面に発現されるMHCタンパク質を同定するステップと;(c)本開示のRPE細胞を生成する方法によって作成された、MHC複雑度が低下したヒトRPE細胞のライブラリーを提供するステップと;(d)この患者の細胞上のMHCタンパク質に一致するRPE細胞を、ライブラリーから選択するステップと;(e)ステップ(d)のいずれかの細胞を前記患者に投与するステップとを含んでなってもよい。この方法は、例えば、病院、クリニック、診療所、およびその他の医療施設などの、地域センターで行われてもよい。さらに患者に一致するとして選択されたRPE細胞は、保存細胞数が少ない場合、患者の治療に先だって増殖させてもよい。
【0219】
RPE細胞は、移植に先だって、無培養RPE細胞またはその他のRPE細胞製剤との比較で、αインテグリンサブユニット1~6または9の発現を増大させる条件下で培養してもよい。本明細書に記載されるRPE細胞は、培養して、αインテグリンサブユニット1、2、3、4、5、6、または9の発現レベルを高めてもよい。本明細書に記載されるRPE細胞は、αインテグリンサブユニット1~6の発現を促進する条件下で、培養してもよい。例えばRPE細胞は、マンガンおよび活性化モノクローナル抗体(mAb)TS2/16をはじめとするが、これに限定されるものではない、インテグリン活性化剤と共に培養してもよい。Afshari,et al.Brain(2010)133(2):448-464を参照されたい。
【0220】
特定の病状、病状の重症度、および患者の全体的な健康に基づいて、特定の治療計画、投与経路、および合併療法を調整してもよい。RPE細胞を含んでなる製剤の投与は、症状の重症度を低下させ、および/または患者の病状のさらなる変性を予防するのに効果的であってもよい。例えばRPE細胞を含んでなる医薬品の投与は、患者の視力を改善してもよい。さらに特定の実施形態では、RPE細胞の投与は、あらゆる失明またはその他の症状を完全に回復させるのに効果的であってもよい。さらにRPE細胞の投与が、内在性RPE層損傷の症状を治療してもよい。
【0221】
RPE細胞医薬品
RPE細胞は、薬学的に許容できる担体と共に調合してもよい。例えばRPE細胞は、単独で、または製剤処方成分として投与してもよい。被験化合物は、医薬に使用するための任意の都合良い方法での投与のために、調合してもよい。投与に適する医薬品は、1つまたは複数の薬学的に許容可能な無菌等張水性または非水性溶液(例えば平衡塩類溶液(BSS))、分散体、懸濁液またはエマルジョン、または使用直前に、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、溶質または懸濁または増粘剤を含有してもよい無菌の注入可能な溶液または分散体に戻されてもよい無菌粉末と組み合わされた、RPE細胞を含んでなってもよい。例示的な医薬品は、ALCON(登録商標)BSS PLUS(1mLあたり塩化ナトリウム7.14mg、塩化カリウム0.38mg、塩化カルシウム二水和物0.154mg、塩化マグネシウム六水和物0.2mg、二塩基性リン酸ナトリウム0.42mg、炭酸水素ナトリウム2.1mg、デキストロース0.92mg、グルタチオンジスルフィド(酸化型グルタチオン)0.184mg、(pHをおよそ7.4に調節する)塩酸および/または水酸化ナトリウムを含有する平衡塩類水溶液)と組み合わされたRPE細胞を含んでなる。
【0222】
本開示の例示的な組成物は、発熱性物質なし、または本質的に発熱性物質なし、および無菌など、ヒト患者の治療で使用するのに適する製剤であってもよい。投与時に、本開示で使用される医薬品は、発熱性物質なしで無菌の生理学的に許容できる形態であってもよい。本明細書に記載される方法で使用されるRPE細胞を含んでなる製剤は、懸濁液、ゲ
ル、コロイド、スラリー、または混合物中で移植されてもよい。さらに製剤は、望ましくは、網膜または脈絡膜損傷部位への送達のために、粘稠な形態で硝子体液中にカプセル化されまたは注入されてもよい。また注入の時点で、冷凍保存RPE細胞を市販の平衡塩類溶液に再懸濁して、網膜下注入による投与に所望される浸透圧と濃度を達成してもよい。製剤は、疾患によって完全に消失していない、網膜黄斑中心周囲の領域に投与してもよく、それは投与される細胞の付着および/または生存を促進することもある。
【0223】
本開示の組成物は、Stemgent’s Stemolecule Y-27632などのrho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤を含んでもよい。例えば例示的な組成物としては、患者への投与後に、RPE生存および/または生着を促進するのに十分な量で存在してもよい、RPEおよびROCK阻害剤が挙げられる。
【0224】
本開示のRPE細胞は、眼内注入によって、薬学的に許容可能な点眼剤中で送達されてもよい。例えば硝子体内注入によって製剤を投与する場合、最小化された容積が送達されてもよいように、溶液を濃縮してもよい。注入のための濃度は、本明細書に記載される要素に応じて、効果的で無毒な任意選択の量であってもよい。患者を治療するためのRPE細胞医薬品は、少なくとも約104細胞/mLの用量で調合されてもよい。患者を治療するためのRPE細胞製剤は、少なくとも約103、104、105、106、107、108、109、または1010個々のRPE細胞/mLの用量で調合される。例えばRPE細胞は、薬学的に許容できる担体または賦形剤中で調合されてもよい。
【0225】
本明細書に記載されるRPE細胞医薬品は、少なくとも約1,000;2,000;3,000;4,000;5,000;6,000;7,000;8,000;または9,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。RPE細胞医薬品は、少なくとも約1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、1×106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、7×106、8×106、9×106、1×107、2×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、8×107、9×107、1×108、2×108、3×108、4×108、5×108、6×108、7×108、8×108、9×108、1×109、2×109、3×109、4×109、5×109、6×109、7×109、8×109、9×109、1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、または9×1010個のRPE細胞を含んでなってもよい。RPE細胞医薬品は、少なくとも約1×102~1×103、1×102~1×104、1×104~1×105、または1×103~1×106個のRPE細胞を含んでなってもよい。RPE細胞医薬品は、少なくとも約10,000、20,000、25,000、50,000、75,000、100,000、125,000、150,000、175,000、180,000、185,000、190,000、または200,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。例えばRPE細胞医薬品は、少なくとも約50~200μLの容積中に、少なくとも約20,000~200,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。さらにRPE細胞医薬品は、150μLの容積中に約50,000個のRPE細胞、150μLの容積中に約200,000個のRPE細胞、または少なくとも約150μL容積中に少なくとも約180,000個のRPE細胞を含んでなってもよい。
【0226】
前述の医薬品および組成物では、生細胞を計数して非生細胞を除外することで、RPE細胞数またはRPE細胞濃度を判定してもよい。例えば生存不能RPEは、生体用染料(トリパンブルーなど)を排除できないことで、または機能アッセイ(培養基質への付着能力、食作用など)を使用して、検出してもよい。さらにRPE細胞数またはRPE細胞濃
度は、1つまたは複数のRPE細胞マーカーを発現した細胞を計数して、および/またはRPE以外の細胞型を示す1つまたは複数のマーカーを発現する細胞を除外することで判定してもよい。
【0227】
RPEは、例えば、前眼房、後眼房、硝子体、眼房水、硝子体液、角膜、虹彩/毛様体、水晶体、脈絡膜、網膜、強膜、脈絡膜上腔(suprachoridal space)、結膜、結膜下腔、強膜外隙、角膜内隙、角膜上隙、毛様体扁平部、外科的に誘発された無血管領域、または網膜黄斑などの眼の罹患領域に、細胞を侵入させるのに十分な時間にわたり、製剤が眼球表面との接触を維持するように、薬学的に許容可能な眼科用ビヒクル中での送達するために調合されてもよい。
【0228】
RPE細胞は、細胞シートに含有されてもよい。例えばRPE細胞を含んでなる細胞シートは、例えば、培養温度において、その上に細胞が付着して増殖し、次に(例えば下限臨界溶解温度(LCST)未満への冷却による、温度移行に際して、表面特性が変化し、培養された細胞シートの遊離を引き起こす、熱応答性ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)移植表面のような熱応答性ポリマーのなどの、それから損傷のない細胞シートを遊離し得る基質上で、RPE細胞を培養して、調製してもよい。(その内容全体をそれぞれ参照によって本明細書に援用する、da Silva et al.,Trends Biotechnol.2007 Dec;25(12):577-83;Hsiue et al.,Transplantation.2006 Feb 15;81(3):473-6;Ide,T.et al.(2006);Biomaterials 27,607-614,Sumide,T.et al.(2005),FASEB J.20,392-394;Nishida,K.et al.(2004),Transplantation 77,379-385;およびNishida,K.et al.(2004),N.Engl.J.Med.351,1187-1196を参照されたい)。細胞シートは、シートを宿主生物に移植した際に、生体内で溶解してもよい基質などの移植に適する基質に付着していてもよく、例えば細胞を移植に適する基質上で培養することで、または細胞を(熱応答性ポリマーなどの)別の基質から移植に適する基質上に遊離させることで調製される。潜在的に移植に適する例示的な基質は、ゼラチンを含んでなってもよい(Hsiue et al.、前出を参照されたい)。移植に適してもよい代案の基質としては、線維素ベースの基材などが挙げられる。細胞シートは、網膜変性疾患を予防または治療する薬剤の製造で使用されてもよい。RPE細胞シートは、それを必要とする対象の眼に装入するために調合されてもよい。例えば細胞シートは、RPE細胞シートを移植する中心窩下膜切除術によって、それを必要とする眼に装入されてもよく、または中心窩下膜切除術後の移植用薬剤を製造するために使用されてもよい。
【0229】
本明細書に記載される方法によって投与される製剤の容積は、投与様式、RPE細胞数、患者の年齢と体重、および治療される疾患のタイプと重症度などの要因に左右されてもよい。注入によって投与される場合、本開示のRPE細胞の医薬品の容積は、少なくとも約1、1.5、2、2.5、3、4、または5mLからであってもよい。容積は、少なくとも約1~2mLであってもよい。例えば注入によって投与される場合、本開示のRPE細胞医薬品の容積は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67,68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、
104、105、106、107、108、109、100、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、または200μL(マイクロリットル)であってもよい。例えば本開示の製剤の容積は、少なくとも約10~50、20~50、25~50、または1~200μLからであってもよい。本開示の製剤の容積は、少なくとも約10、20、30、40、50、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、または200μL以上であってもよい。
【0230】
例えば製剤は、1μLあたり少なくとも約1×103、2×103、3×103、4×103、5×103、6×103、7×103、8×103、9×103、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、または9×104個のRPE細胞を含んでなってもよい。製剤は、例えば、50μLあたり100,000個のRPE細胞または90μLあたり180,000個のRPE細胞など、1μLあたり2000個のRPE細胞を含んでなってもよい。
【0231】
網膜変性を治療する方法は、免疫抑制剤を投与するステップをさらに含んでなってもよい。使用してもよい免疫抑制剤としては、抗リンパ球グロブリン(ALG)ポリクローナル抗体、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)ポリクローナル抗体、アザチオプリン、BASILIXIMAB(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、シクロスポリン(シクロスポリンA)、DACLIZUMAB(登録商標)(抗IL-2Rα受容体抗体)、エベロリムス、ミコフェノール酸、リツキシマブ(登録商標)(抗CD20抗体)、シロリムス、およびタクロリムスが挙げられるが、これに限定されるものではない。免疫抑制剤は、少なくとも約1、2、4、5、6、7、8、9、または10mg/kgで投与されてもよい。免疫抑制剤を使用する場合、それらは全身的にまたは局所的に投与してもよく、それらはRPE細胞投与前に、それと同時に、またはそれに続いて投与してもよい免疫抑制治療法は、RPE細胞の投与に続いて、数週間、数ヶ月間、数年間、または無期限に継続してもよい。例えばRPE細胞の投与に続いて、5mg/kgのシクロスポリンを患者に6週間にわたり投与してもよい。
【0232】
網膜変性の治療法は、RPE細胞の単回用量の投与を含んでなってもよい。また本明細書に記載される治療法は、RPE細胞が一定期間にわたり、複数回投与される治療過程を含んでなってもよい。例示的な治療過程は、毎週、隔週、毎月、年4回、年2回、または毎年の治療を含んでなってもよい。代案としては、治療は段階的に進行してもよく、それによって複数回投与が最初に施され(例えば最初の1週間は毎日の投与)、引き続いてより少量で頻度の低い投与が必要とされる。
【0233】
眼内注入によって投与される場合、RPE細胞は、患者の生涯を通じて、周期的に1回または複数回送達されてもよい。例えばRPE細胞は、年に1回、6~12ヶ月毎に1回、3~6ヶ月毎に1回、1~3ヶ月毎に1回、または1~4週間毎に1回、送達されてもよい。代案としては、特定の病状または障害では、より頻繁な投与が望ましいことがある。移植片または装置によって投与される場合、治療される特定の患者および疾患または病状の必要に応じて、RPE細胞は、1回、または患者の生涯を通じて周期的に1回または複数回、投与されてもよい。経時的に変化する薬剤投与計画も、同様に検討される。例え
ば最初は、より頻繁な治療が必要とされることもある(例えば毎日のまたは毎週の治療)。時間経過と共に、患者の病状改善するにつれて、より頻度の低い治療が必要になり、あるいはさらなる治療が不要になることすらある。
【0234】
本明細書に記載される方法は、対象において、網膜電図応答、視運動明瞭度閾値、または輝度閾値を測定することで、治療または予防の効能をモニターするステップをさらに含んでなってもよい。方法はまた、眼の中の細胞の免疫原性または細胞移動をモニターすることで、治療または予防の効能をモニターするステップを含んでなってもよい。
【0235】
RPE細胞は、網膜変性を治療する薬剤の製造で使用してもよい。本開示はまた、失明の治療における、RPE細胞を含んでなる製剤の使用もを包含する。例えばヒトRPE細胞を含んでなる製剤を使用して、光受容体損傷および失明をもたらす、糖尿病性網膜症、(例えば湿潤型加齢黄斑変性および乾燥型加齢黄斑変性などの加齢黄斑変性をはじめとする)黄斑変性、色素性網膜炎、およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)などのいくつかの視覚変性疾患と関連付けられている、網膜変性を治療してもよい。製剤は、少なくとも約5,000~500,000個のRPE細胞(例えば100,00個のRPE細胞)を含んでなってもよく、それを網膜に投与して、光受容体損傷および失明をもたらす、糖尿病性網膜症、(加齢黄斑変性をはじめとする)黄斑変性、色素性網膜炎、およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)などのいくつかの視覚変性疾患と関連付けられている、網膜変性を治療してもよい。
【0236】
本明細書で提供されるRPE細胞は、ヒトRPE細胞であってもよい。しかしヒト細胞は、ヒト患者と同様に、動物モデルまたは動物患者でも使用されてよいことに留意されたい。例えばヒト細胞は、網膜変性のマウス、ラット、ネコ、イヌ、または非ヒト霊長類モデル中で試験してもよい。さらに獣医学などにおいて、ヒト細胞を治療的に使用して、それを必要とする動物を治療してもよい。
【0237】
投与様式
医薬品は、投与経路によって薬学的に許容できる担体中で調合されてもよい。例えば製剤は眼の網膜下腔に投与されるように、調合されてもよい。RPE細胞を含んでなる製剤は、同一患者の片方または双方の眼に投与してもよい。双方の眼への投与は、逐次または同時であってもよい。例えばRPE細胞を含んでなる製剤は、懸濁液、溶液、スラリー、ゲル、またはコロイドとして調合されてもよい。
【0238】
本開示のRPE細胞は、注入(例えば硝子体内注入)によって、または(例えば移植片などの)装置または移植片の一部として、局所的に投与してもよい。上述のようにRPE細胞は、水性担体、ゲル、基材、ポリマーなどに含有されてもよい、個々の細胞、塊、クラスター、シート、またはそれらのあらゆる組み合わせなどの様々な可能な配置を有してもよい。例えば製剤は、眼の網膜下腔への注入によって投与してもよい。また製剤は、経角膜投与してもよい。例えば本開示の細胞は、硝子体切除術を使用して、網膜下腔内に移植してもよい。さらに注入の時点で、RPE細胞を市販の平衡塩類溶液(例えばAlcon BSS添加(登録商標))に再懸濁して、網膜下注入による投与に所望される浸透圧と濃度を達成してもよい。
【0239】
任意選択的に、RPE細胞は、3ポート経毛様体扁平部硝子体切除などの経毛様体扁平部硝子体切除術を含んでなる方法によって投与されてもよい。方法としては、小規模な網膜切開が挙げられる。細胞投与前に、例えば生理食塩水または別の適切な流体の注入によって、網膜下ブレブを形成してもよく(「事前ブレブ」)、次にそれを細胞投与前に除去してもよい。しかし細胞は、事前ブレブ形成なしに投与してもよい。細胞は、側頭窩位置のブレブ中で投与してもよい。例えばブレブは、任意選択的に、アーケード血管内で拡張
させてもよい。ブレブは、網膜黄斑中心窩を剥離させないように配置されてもよい。
【0240】
投与方法に応じて、RPE細胞は、緩衝電解質平衡水溶液;潤滑ポリマー、鉱物油またはペトロラタムベースの軟膏、その他の油、リポソーム、シクロデキストリン(cylcodextrins)、持続放出ポリマーまたはゲルを添加した緩衝電解質平衡水溶液に、添加されてもよい。
【0241】
RPE細胞のために使用される基材
本明細書に記載される方法は、移植片または装置として、本開示のRPE細胞を投与するステップを含んでなってもよい。特定の実施形態では、装置は、生分解性ポリマー基材に分散した活性薬剤を含んでなる、眼の疾患治療のための生体内分解性移植片であり、少なくとも約75%の活性薬剤の粒子は、約10μm未満の直径を有する。生体内分解性移植片は、眼球領域への移植用のサイズにされていてもよい。眼球領域は、前眼房、後眼房、硝子体腔、脈絡膜、脈絡膜上腔、結膜、結膜下腔、強膜外隙、角膜内隙、角膜上隙、強膜、毛様体扁平部、外科的に誘発された無血管領域、網膜黄斑、および網膜のいずれか1つまたは複数であってもよい。生分解性ポリマーは、例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール)酸(PLGA)共重合体、生分解性ポリ(DL-乳酸‐コ‐グリコール酸)フィルム、またはPLLA/PLGAポリマー基質であってもよい。ポリマー中のグリコール酸モノマーの比率は、約25/75、40/60、50/50、60/40、75/25、より好ましくは約50/50重量パーセントである。PLGA共重合体は、生体内分解性移植片の約20、30、40、50、60、70、80~約90重量%であってもよい。PLGA共重合体は、生体内分解性移植片の約30~約50重量%、好ましくは約40重量%であってもよい。RPE細胞は、ポリ乳酸、ポリ(乳酸‐コ‐グリコール酸)、50:50 PDLGA、85:15 PDLGA、およびINION GTR(登録商標)生分解性膜(生体適合性ポリマー混合物)などの生体適合性ポリマーと併せて移植してもよい。米国特許第6,331,313号明細書;米国特許第7,462,471号明細書;および米国特許第7,625,582号明細書を参照されたい。Hutala,et al.(2007)”In vitro biocompatibility of degradable biopolymers in cell line cultures from various ocular tissues:Direct contact studies.”Journal of Biomedical Materials Research 83A(2):407-413;Lu,et al.(1998)J Biomater Sci Polym Ed 9:1187-205;およびTomita,et al.(2005)Stem Cells 23:1579-88もまた参照されたい。
【0242】
別の態様では、本開示は、膜上に位置するRPEを含んでなる組成物と、同組成物を網膜の疾病、疾患、または病状の予防または治療で使用する方法とを提供する。例えば膜は、参照によってその内容全体を本明細書に援用する、米国特許第20110236464号明細書(付与前公表)に記載される膜であってもよい。膜は実質的に非生分解性かつ多孔性で、孔はおよそ0.2μm~0.5μm径であってもよい。例えば、孔径は0.3μm~0.45μmであってもよい。非生分解性膜の使用は、それがひとたび眼の中に移植されると、身体への挿入に続いて、例えば少なくとも5年間、少なくとも10年間、または少なくとも15年間にわたり、細胞を支持し続けることを確実にしてもよい。
【0243】
細孔密度は、1平方cmあたり5×107および1×10^8個の孔などの1平方cmあたりおよそ1×10^7~3×10^8個の孔であってもよい。この密度は、所望の透過レベルを可能にし、血管新生もまた可能にしてもよい。特に孔のサイズと密度は、例えば移植後に、膜の片側からもう一方の側への栄養素の移動を可能にし、膜を通じた血管新生もまた可能にしてもよい。ポリマー体は、豊富な脈絡膜床からの血管新生を受け得る。
これは眼の外部の豊富な血管床で示されているが(Cassell et al,2002;Patrick et al,1999;Saxena et al 1999,Peter et al 1998)、空隙率が十分な場合にのみ起きる(Menger et al,1990)。
【0244】
例えば膜の水透過率は、50×10^-10msec^-1Pa^-1を超えてもよい具体的には、膜の水透過率は、およそ33mL/min/cm^2であってもよい。これは801.21×10^-10msec^-1Pa^-1に等しく、若年者の黄斑の死体ブルッフ膜の水透過率の8倍である。人工膜は、完全に受動的過程に依存してもよいので、この余剰透過率は、潜在的に有用である。栄養素拡散の観点から、上に重なる細胞の要求を満たせるのみならず、それは好ましくは、RPE層の底側からの流体輸送を妨げず、さもなければRPEが、ポリマー表面から剥離することもある。この予測と一致して、高齢者におけるブルッフ膜の水透過率の低下が、AMDにおける色素上皮剥離を引き起こすという仮説が立てられている(Bird & Marshall,1986)。
【0245】
好ましくは膜は、分解することなく、γ照射、酸化エチレン、高圧蒸気滅菌またはUV滅菌によって滅菌されてもよい。
【0246】
好ましくは膜は、超音波シール、高周波シールまたはインサート成形によって密封されてもよい。これは、その他の層が膜に付着できるようにして(The allows other layers to be attached to the membrane)、例えば製剤または被覆層を膜に付着させる。例えば膜に剛性を提供して送達を助けるために、PLGAなどのより剛性の生分解性層を付着させたい場合があるかもしれない。代案としては、薬理作用物質または生物剤を含有する層、またはその他の細胞を支持する層を付属させてもよい。
【0247】
膜は、好ましくはおよそ11μmの最大厚を有する。より好ましくは、膜の厚さは9μm~11μmである。膜の厚さは、栄養素を拡散させて血管新生させ、また膜を眼に容易に挿入できるように、選択し得る。
【0248】
したがってRPEは、細胞成長を支持する膜上に提供され、またはその上で培養されてもよく、膜は実質的に非生分解性で多孔性であり、およそ11μmの最大厚を有する。膜は、好ましくは実質的に平面であり、その最小寸法は、好ましくはおよそ11μm未満である。その寸法中の厚さは変動してもよいが、好ましくは9μm~11μmの厚さである。
【0249】
膜は、およそ1.5mg/cm^2の最大重量を有してもよい。より好ましくは、膜の重量は、1.0mg/cm^2~1.4mg/cm^2である。膜の最小引張強度は、好ましくは少なくとも100バールであり、外科手術中に適切にできるのに十分な強度を提供する。最大引張強度は、好ましくは300バールであり、膜が外科手術中に容易に取り扱えるようにする。膜の破裂強度は、好ましくは少なくとも10psiである。
【0250】
好ましくは、膜は親水性である。これは膜に優れた湿潤能力を与えて、細胞およびその他の望ましいコーティングの容易な付着を可能にしてもよい。
【0251】
膜は、好ましくは、例えば4~8のpHなどの生理学的に許容されるpHを有する。
【0252】
膜は、好ましくは少なくとも片側にコーティングを含んでなる。コーティングは、好ましくは、ラミニン、マトリゲル(TM)、コラーゲン、フィブロネクチンおよび/またはPLGAポリ(乳酸‐コ‐グリコール酸)などのタンパク質または糖タンパク質である。
コーティングはまた、コーティング成分に結合した薬理作用物質または生物剤を含んでなってもよい。例えばコーティングは、神経栄養剤、抗炎症剤、または血管新生阻害剤を含んでもよい。
【0253】
特に、コーティングは、好ましくは、特にIgVAVなどのラミニン-1またはその断片のような、ラミニンを含有する。特に、コーティングは、その他のタンパク質または糖タンパク質よりも、ラミニン-1をさらに多く含有してもよい。好ましくはコーティングは、少なくとも30%または少なくとも40%のラミニン-1などのラミニンを含んでなってもよい。コーティングは、膜上におよそ40~45μg/cm^2のラミニン-1の濃度を生じるように、塗布してもよい。
【0254】
したがってRPEは、細胞成長を支持する膜上に提供され、またはその上で培養されてもよく、膜は、少なくとも片側がラミニン-1を含んでなるコーティングで被覆された、実質的に非生分解性で多孔性の支持層を含んでなる。
【0255】
膜は、親水性ポリマーからできていてもよい。UV光でポリマーを照射することで、親水性にした疎水性ポリマーもまた使用してもよい。例示的なポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;特にポリカーボネートおよびポリシロキサンを含有するもの、およびポリエステルベースまたはポリエーテルベースのものである、ポリウレタンおよびポリ尿素ウレタン;ナイロンなどのポリアミド;Sympatexなどのポリエーテルエステル;Makrolonなどのポリカーボネート;Perspexなどのポリアクリレート;ポリ(テトラフルオロエテン)(PTFE);ポリシロキサン;ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン;およびDuPontの商標名Delrinの下で一般に知られているポリオキシメチレン(POM)が挙げられる。膜が、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートからできていることが特に好ましい。別の好ましい実施形態では、膜はポリエステルからできている。
【0256】
膜を使用して、本開示のRPE細胞層を培養してもよい。膜は、好ましくは、膜上に細胞層を含んでなってもよい。細胞は、膜および細胞の目的の用途に従って選択された、あらゆる細胞であってもよい。
【0257】
膜および細胞層は、好ましくは少なくとも3mm×5mmの長さと幅である。好ましくは、膜および細胞層は、少なくとも4mm×6mmである。
【0258】
膜および細胞層は、例えば、加齢による黄斑変性、網膜裂孔、黄斑ジストロフィー(macular distrophy)、コロイデレミア(choroidemia)、レーバー先天黒内障(Leber Congenital Amarosis)、シュタルガルト病、およびその他の網膜の疾患または病状の治療において、それを必要とする患者の眼に移植してもよい。
【0259】
スクリーニングアッセイ
本開示は、RPE細胞成熟度を調節する薬剤をスクリーニングして、同定する方法を提供する。例えばヒトES細胞から分化したRPE細胞を使用して、RPEの成熟を促進する薬剤をスクリーニングしてもよい。同定された薬剤は、治療計画の一部として、単独で、またはRPE細胞との組み合わせで使用してもよい。代案としては、同定された薬剤は、生体外で分化したRPE細胞の生存を改善する培養方法の一部として使用してもよい。
【0260】
RPE細胞は、製薬、化学、またはバイオ企業、病院、または学術または研究機関などの状況における研究ツールとして使用してもよい。このような使用としては、例えば、生
体外または生体内のRPE生存を促進するのに使用してもよい、またはRPEの成熟、生存、および/または生着を促進するのに使用してもよい薬剤を同定するスクリーニングアッセイにおける、胚性幹細胞から分化したRPE細胞の使用が挙げられる。同定された薬剤は、生体外または動物モデルで研究して、例えば単独で、またはRPE細胞との組み合わせでのそれらの可能な使用を評価してもよい。
【0261】
本開示は、RPE細胞を提供するステップと、前記RPE細胞を薬剤に接触させるステップと、前記RPE細胞を成熟度の徴候について評価するステップと、次に前記薬剤によってRPE細胞が成熟度の徴候を示した場合、RPE成熟を促進する薬剤を同定するステップとを含んでなる、RPE成熟を促進する薬剤を同定する方法を提供する。成熟度の徴候は、本明細書で考察されるように、色素形成レベル、遺伝子発現レベル、および形態であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0262】
本開示の特定の態様は、商業的量に達するRPE細胞の生成に関係する。RPE細胞は、大規模に生成され、所望ならば保存されて、病院、臨床医またはその他の医療機関に供給されてもよい。
【0263】
したがって本開示の特定の態様は、本明細書で開示される方法によって製造されるRPE細胞の生成、保存、および流通方法に関する。RPE生成に続いて、RPE細胞は、収穫、精製され、任意選択的に患者の治療に先だって保存されもよい。RPE細胞は、任意選択的に患者特異的であってもよく、またはHLAまたはその他の免疫性プロファイルに基づいて特に選択されてもよい。例えば、ひとたび患者が、例えば、糖尿病性網膜症、黄斑変性(加齢黄斑変性をはじめとする)、色素性網膜炎、網膜萎縮、網膜離脱、網膜異形成、およびシュタルガルト病(黄色斑眼底)、色素線条、または近視性黄斑変性などの徴候を呈すれば、RPE細胞を注文して、タイムリーに提供することができる。したがって本開示は、商業規模で細胞を得るRPE細胞を生成する方法、前記方法に由来するRPE細胞を含んでなる細胞製剤、ならびにRPE細胞を病院および臨床医に提供する(すなわち生成し、任意選択的に保存して、販売する)方法に関する。分化RPE細胞または成熟分化RPE細胞の生成は、商業的利用のためにスケールアップしてもよい。
【0264】
本開示はまた、販売のために製剤を流通させる流通システムを確立するステップを含んでなり、または医薬品をマーケティングする販売グループを確立するステップを含んでもよい、医薬品事業を行う方法も提供する。
【0265】
本開示は、RPE細胞を病院、医療センター、および臨床医に提供する方法を提供し、本明細書で開示される方法によって生成されたRPE細胞は、保存されて、病院、医療センター、または臨床医の要求に応じて注文され、RPE細胞療法を必要とする患者に投与される。病院、医療センター、または臨床医は、患者特異的データに基づいてRPE細胞を注文し、RPE細胞は患者の規格に従って生成され、引き続いて注文を出した病院または臨床医に供給される。例えば、特定のRPE細胞製剤が患者に適するとして選択された後、それはその後患者の治療に適する量になるまで増殖される。
【0266】
本開示のさらなる側面は、可能な患者受容者に対する適合性細胞を提供し得る、RPE細胞ライブラリーに関する。したがって本開示は、少なくとも1つの組織適合性抗原についてホモ接合性であるRPE細胞製剤を提供するステップを含んでなる、医薬品事業を行う実施する方法を提供し、細胞は、本明細書で開示される方法によって増殖されてもよいRPE細胞ライブラリーを含んでなる細胞バンクから選択され、各RPE細胞製剤は、ヒト集団内に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子についてヘミ接合性またはホモ接合性であり、前記RPE細胞バンクは、細胞バンクの別のメンバーに対して、MHC対立
遺伝子の異なる組について、それぞれヘミ接合性またはホモ接合性である細胞を含んでなる。上述したように、遺伝子標的化またはヘテロ接合性の消失を使用して、RPE細胞を誘導するのに使用される、ヘミ接合性またはホモ接合性MHC対立遺伝子幹細胞を作成してもよい。
【0267】
本開示はまた、患者または組織適合性提供者からヒトES細胞(例えば人工多能性(iPS)細胞、または体細胞核移植によって生成されたES細胞、またはその他の再プログラミング法によって生成されたES細胞)を得て、または生成して、次にES細胞に由来するRPE細胞を作成して増殖させる方法も含む。これらのRPE細胞は、保存してもよい。さらにこれらのRPE細胞を使用して、ESがそれから得られた患者、またはその患者の血縁者、または組織適合性の個人を治療してもよい。
【0268】
本開示は、ヒトRPE細胞が、明確に定義された再現可能な条件下で、ヒトES細胞から信頼性をもって分化し増殖してもよいことを実証し、これは網膜変性障害のある患者にとって、無尽蔵の細胞供給源に相当する。これらの細胞の濃度は、入手可能性によって制限されず、むしろ個人の正確な臨床要件について用量設定され得る。医師によって、必要であると考えられる場合、患者の生存期間にわたる、同一細胞集団の繰り返しの輸液または移植もまた可能である。さらに、それからRPE細胞を生成し得る、マッチするまたは複雑度が低下したHLA hES系統のバンクを作成する能力は、免疫抑制剤および/または免疫調節プロトコルに対する必要性を全て潜在的に低下させ、または排除し得る。
【実施例】
【0269】
ここで本発明を一般的に説明するが、それは本発明の特定の態様および実施形態を単に例証する目的で含まれ、本発明を限定することは意図されない、以下の実施例を参照して、より容易に理解されるであろう。
【0270】
実施例に提示される結果に関するさらなる情報および/または追加的な実験結果は、本出願の特許請求の範囲の直前に含まれる添付原稿に含まれる。
【0271】
実施例1
方法
hESCマスター細胞バンクの作成
これらの研究で使用されたhESC系統は、MA09(22)として以前記載されており、完全なインフォームドコンセントによって得られ、Advanced Cell Technologyの Ethics Advisory BoardおよびInstitutional Review Boardに従って使用された、未使用生体外受精(IVF)胚から誘導された。現行の優良製造規範を使用して、MA09種培養ストックを解凍し、有糸分裂不活性化マウス胚線維芽細胞(MEF)上での4代の連続継代を通じて増殖させた。医療用hESCマスター細胞バンク(hESC-MCB)を冷凍保存して、正常な女性(46、XX)核型を有して、細菌およびマイコプラズマ汚染物質、ならびにヒト、ウシ、ブタおよびマウスウイルスがないことを確認した。PCR解析は、CTRP5、EVLV4、RPE-65、VMD2、およびABCA4をはじめとする、黄斑変性と関連付けられている遺伝子に変化または変異がないことを示した(下の表3)。
【0272】
網膜色素上皮の製造
hESC-MCBのバイアルを解凍して、マイトマイシンC処理MEF上で3代の継代にわたり増殖させた。hESCsは動物細胞と共培養されたので、分化した誘導体は異種移植製品に分類され、ドナー動物および生成物処理、検査、およびアーカイビング、ならびに患者、モニタリング、および登録のためのFDAガイドラインの対象となった(下の実施例2に詳述される)。hESC増殖後、細胞は順次誘発されて胚様体を形成し、細胞
増生と、色素性RPE斑への局在性分化がそれに続いた。本実施例で使用されるRPEの生成は、下の実施例4で詳述される。色素斑をコラゲナーゼで単離して、精製およびトリプシン処理後、分離細胞を播種し、コンフルエンスまで成長させて、合計3代の連続継代にわたり再分化を誘発した。継代2代目のRPEは冷凍保存されて、臨床利用のための細胞を調合する出発原料の役割を果たした。
【0273】
前臨床試験
以前記載されているように、NIH III免疫ヌードマウス、(腫瘍形成能および生体内分布研究)およびジストロフィーRCSラットおよびELOV4マウス(効能研究)に、ヒトESC由来RPE細胞を網膜下注入した(8)。注入施行眼およびその他の器官の中のヒト細胞の検出は、ヒトAlu Y DNA配列を増幅するようにデザインされたDNAQ-PCRによって、およびヒトミトコンドリアとヒトベストロフィンのパラフィン切片免疫染色によって実施された(実施例2に詳述される)。
【0274】
細胞特性解析および安全性試験
RPE細胞は、製造過程試験、および解凍、最終製品調合、移植細胞の運命を生体外でシミュレートするための成熟培養後に実施される試験をはじめとする様々な時点で、安全性について評価し、いくつかのRPE特異的属性について特性解析した。可能な細菌、マイコプラズマ、マウスウイルス、および残留マウスDNA安全性評価は、WuXi Apptec,Inc.St.Paul,MNにより、標準プロトコルに従って実施された。核型分析のための細胞遺伝学分析、細胞系認定のためのDNAフィンガープリント法、および蛍光原位置ハイブリダイゼーション(FISH)は、 Cell Lines Genetics,Madison,WIによって実施された。内毒素試験は、臨床注入のための最終製品として調合された冷凍保存RPEに対して、Cape Cod Associates,Inc,East Falmouth,MAによって実施された。定量的免疫組織化学染色は標準法を使用して実施し、検査されたDAPI染色された核の数について、陽性染色された細胞の百分率を正規化した。RPE純度および分化程度の評価は、ベストロフィン、Pax6、ZO-1および/またはMITF染色された細胞の百分率に基づいた。多分化能マーカーの不在を確認するスクリーニングは、OCT-4およびアルカリホスファターゼについて染色することで実施した。食作用(効力アッセイ)は、PhRodo(商標)(Invitrogen)蛍光性生体粒子に曝露させた、RPE培養物の定量的蛍光活性化細胞分類(FACS)分析によって評価した。定量的逆転写(q-RT)PCRアッセイを実施して、RPE特異的遺伝子(RPE-65、PAX-6、MITF、ベストロフィン)の上方制御と、hESC特異的遺伝子(OCT-4、NANOG、SOX-2)の下方制御を確認した。細胞あたりのメラニン含有量は、細胞数が既知のNaOH抽出ペレット中で、分光光度法で測定した(実施例2に詳述される)。
【0275】
細胞調合および注入
冷凍保存MA09-RPEのバイアルを解凍し、遠心分離によって3回洗浄し、1μLのBSS PLUS(登録商標)(Alcon)あたり2×103個の生細胞/の密度に再懸濁した。適切な容積の調合RPEを含有するバイアルと、適切な容積のBSS PLUS(登録商標)を含有する対のバイアルを2~8℃でORに届けた。注入の直前に、1mLシリンジ内で2本のバイアルを戻し、所望されるRPE数の送達(各患者の眼の網膜下腔への50,000個の生RPE細胞)をもたらす、装填細胞密度を得た。意図される投与量の正確な送達を確実にするために、装填細胞密度を増大して、混合、装填、およびカニューレを通じた送達中に遭遇する、生RPEの予測される損失を埋め合わせた。この生細胞損失は、下の実施例3に記載されるように測定され、使用されるカニューレに左右されることが示された。これらの実施例では、MEDONE POLYTIP(登録商標)カニューレ25/38(0.12mm(38g)×5mm先端付き0.50mm(25g)×28mmカニューレ)が使用され、装填細胞密度は444個の生細胞/μLであり
、336+/-40個の生細胞/μL(N=6)の予測送達がもたらされ、各患者の眼の網膜下腔中に、150μLの容積中に期待される50,400個の生RPEの送達がもたらされた。
【0276】
患者選択
患者は、末期疾患、中心視野喪失、その他の重大な眼科病変の不在、病歴にがんがないこと、現行のがんスクリーニング、全身性免疫抑制に対する禁忌の不在、モニターされる麻酔ケアの下で硝子体網膜外科手術を受ける能力、およびhESC由来移植組織を伴う初めてのヒト臨床試験に参加する心理学的適合性をはじめとする、いくつかの組み入れ基準および除外基準に基づいて選択された(下の表7および表8)。
【0277】
移植および理論的根拠
硝子体基底部後縁に対して前方の視神経から後部硝子体を分離する、外科的誘導を含む、経毛様体扁平部硝子体切除を実施した。疾患によって完全に消失していない、網膜黄斑中心周囲の事前に選択した領域に、150μlの容積中の5×104個のhESC-RPE細胞の黄斑下注入を送達した。移植部位は、損傷してはいるが生得のRPEと上に重なる光受容体の存在に基づいて注意深く選択し、移植片が組み込まれる確率と、光受容体細胞救出の可能性を最適化した。完全に萎縮した黄斑中心の病理解剖学的(pathoanotomic)複合体内の移植付着はありそうになく、幹細胞ベースの再生移植ストラテジーの究極的治療標的であってもよい、変性のより初期段階における黄斑中心の状態を模倣しない。
【0278】
免疫抑制レジメンは、外科手術1週間前の低用量のタクロリムス(血液レベル3~7ng/mLを標的とする)およびミコフェノール酸モフェチル(mycophemolate mofetil)(0.25g~2gの経口/日の範囲のMMF)を含み、6週間にわたり継続される。6週目には、レジメンは、タクロリムスの中断と、さらに6週間のMMFの継続を求める。
【0279】
結果
RPEの特性解析
制御されたhESC分化は、ほぼ100%純粋なRPEをもたらした(
図1)。色素斑の単一(9.6cm2)6ウェルプレート(
図1A)は、およそ1.5×10
8個のRPE細胞(例えば患者あたり最高3×10
6個の細胞投与量で、50人の患者を治療するのに十分である)を生成した。細胞は典型的なRPEの挙動を示し、(トリプシン処理後)増殖中にそれらの色素性敷石状形態を失い;ひとたびコンフルエンスが再確立されると、それらは多角形立方状色素性上皮の単層に再分化した。Q-PCRは、多分化能のマーカー(Oct-4、NANOG、およびSOX2)が、顕著に下方制御された一方で、RPEマーカーRPE65、ベストロフィン、Pax6、MITFが高レベルで発現したことを示した(
図1B~Fおよび表5)。成熟培養物の免疫染色は、分化RPEの後期マーカーであるベストロフィンが、収穫前の細胞の大部分では膜状に組織化され;全ての(>99%)細胞が、ベストロフィンおよび/またはPAX6ついて(より成熟した細胞中では、PAX6はより弱くなりまたは消失する)、および密着結合成分であるZO-1について陽性であったことを示した(図示せず)。冷凍保存後、細胞のバイアルを解凍して、移植のために調合した。網膜マーカーPax6および/またはMITF(色素性細胞のマーカー)の染色は、100%のRPE純度を確認した(
図1C)。調合細胞をさらに検証するために、それらを2~3週間培養して、RPE形態が確立するまで成長させ成熟させた。Pax6/ベストロフィン(
図1E)およびZO-1(
図1G)免疫染色は、収穫前培養物と同様であり、効力アッセイは、>85%の細胞が生体粒子断片を貪食したことを示した(
図1J)。
【0280】
安全性試験
hESCは動物細胞および産物に曝露されたので、MCBおよびRPEは、動物およびヒト病原体について広範に検査した。細胞は、全ての段階で、動物およびヒト病原性ウイルスをはじめとする微生物汚染物質を含まないことが確認された(下の表3)。最終RPE製品は、正常な女性(46、XX)核型(
図1K)、およびhESC系統MA09に一致するDNAフィンガープリントプロファイルを有した。RPE製造工程は、多能性細胞を支持しない条件下で実施されたが、高感度アッセイを実施して、最終RPE製品中のあらゆる混入hESCの存在を排除した。Oct-4およびアルカリホスファターゼについて染色された(P1/P2における)2/900万個の細胞RPEサンプルの検査は、いかなる多能性細胞の存在も示さなかった。NIH-IIIマウスで実施された腫瘍形成能、生体内分布、および添加試験は、いずれの動物でも、いかなる有害なまたは安全性の問題も示さなかった。さらに、0.01%、0.1%、または1%の未分化hES細胞のいずれかを添加した50,000~100,000個のRPE細胞が注入された動物で、腫瘍は観察されなかった。ヒトRPE細胞の生存は、注入後最高3ヶ月まで100%、9ヶ月まで92%の動物の眼の中で確認された(下の表6)。ヒトRPEは、動物の生存期間にわたり生存して、マウスRPE層に組み込まれ;宿主RPE細胞と形態学的にほぼ識別不能であったが(
図2)、それらは免疫染色によって確認され得て、ベストロフィンを典型的な基底外側様式で発現した(
図2B)。Ki-67染色は、移植の1~3ヶ月後に低レベルの増殖を示したが、9ヶ月目にKi-67陽性細胞は見られず、hESC由来RPEが、成熟静止状態単層を形成したことが示唆された。
【0281】
分化段階は細胞付着と生存に影響する
移植細胞のブルッフ膜への付着、およびそれらの引き続く生存と宿主RPE層への統合は、この治療ストラテジーの成功にとって重要と考えられる。hESC技術の際立った特徴は、分化程度を生体内で管理し得ることである。RPE分化の程度は、色素形成のレベルをはじめとする、一連の調節された遺伝子型および表現型発現に現れる。同様の条件下で維持されたが、異なる時点で収穫され冷凍保存された細胞は、様々なレベルの色素形成を示す。
図3は、見かけ上異なる色素レベルで収穫された、冷凍保存RPEの2つの代表的なロットを示す(メラニン含有量は、色素がより薄いロットおよびより濃いロットのそれぞれで、4.8±0.3 SD pg/細胞および10.4±0.9 SD pg/細胞であった)。双方のRPEロットの細胞は、臨床移植プロトコルを使用して処理し、調合した。注入カニューレを通じた押出後、細胞をゼラチン被覆組織培養プレートに播種して、付着と引き続く成長をモニターした。色素がより薄いロットからのRPE細胞は、一晩培養物中に最小数の浮遊細胞を示し;細胞の大部分は付着して広がり、この成長段階に典型的なRPEの挙動および形態を示した(
図3A)。培養中で3日後、RPE細胞数は、播種された4.0×10
4個から10.6×10
4個の細胞に増加した(
図3Cおよび
図1G)。全く対照的に、色素がより濃いRPEは、多数の浮遊細胞を示し;培養中で3日後、細胞のわずかな割合のみが付着して生存し、細胞数は顕著に低下した(より薄い色素形成ロットの10分の1未満[9.0×10
3])(
図3Fおよび
図3G)。これらの結果は、RPEの分化段階と生体外付着および成長能力の間の強力な相関を示唆する。本臨床研究で使用されたRPEロットは、4.1pg/細胞のメラニン含有量を有し、色素がより薄いロットと同様の付着および成長を示した。凍結解凍サイクル、解凍後洗浄、遠心分離、および調合、ならびに注入カニューレを通じた押出に付随するストレスは、ある程度は、色素がより薄いロットとより濃いロットの間で観察された違いの原因であってもよい。
【0282】
臨床結果
SMD患者は26年才の白人女性であり、ベースライン最良矯正視力(BCVA)は、手動弁(HM)であり、糖尿病網膜症の早期治療研究(ETDRS)視力表上のいかなる文字も読み取れなかった。移植に続くあらゆる時点で、眼内炎症または過剰増殖のいかな
る徴候も検出されなかった。臨床的に検出可能な炎症の不在は、細隙灯生体顕微鏡写真、眼底撮影、IVFA、およびSD-OCTで裏付けられた(実施例2および
図8および
図9に詳述される)。RPEのレベルにおける臨床的色素形成増大は、術後1週間目に始まって観察され、それは外科的移植部位の外に広がったようである(
図4)。ゴールドマン視野は、ベースラインから、移植の2ヶ月後まで改善された(術前および術後視野は
図10および
図11に示される)。2週目には、BCVAは指数弁(CF)(ETDRS 1文字)であり、それは研究期間中改善し続けた(1および2ヶ月めに5文字のETDRS[BCVA20/800])(表2)。患者は、非常に信頼でき、多年にわたりグラフィックアーティストとして働いていた。彼女は、手術眼に主観的に改善された色覚と改善されたコントラストおよび暗順応があり、他眼には変化がなかったことを報告した。
【0283】
【0284】
AMD患者は77才の白人女性であり、ベースラインBCVAは、21文字のETDRS(20/500)である。免疫抑制レジメンの中程度の不履行があったにもかかわらず、移植に続くあらゆる時点で、眼内炎症または過剰増殖のいかなる徴候も検出されなかった。臨床的に検出可能な炎症の不在は、細隙灯生体顕微鏡写真、眼底撮影、IVFA、およびSD-OCTで裏付けられた(実施例2および
図8および
図9に詳述される)。OCT画像は、
図4および
図7に示される。2週目には、ETDRS BCVAは33文字(20/200)であった。6週目には、BCVAは28文字のETDRS(20/320)であり、8週間目まで安定し続けた。中心暗点によって測定されるゴールドマン視野は、ベースラインとの比較で、8週間目にわずかにサイズが減少した。
【0285】
考察
ヒト胚性幹細胞の治療的使用は、困難な技術移転の課題を提起する。この報告は、hESC由来細胞をヒト患者に安全に移植し得ることを示唆する、初めての臨床証拠を提供す。本研究では、hESCから作成された低用量(5×104個の細胞)のRPE細胞を、先進国における、成人および若年失明のそれぞれ主要原因である、乾燥型AMDおよびSMDの異なる形態の黄斑変性がある、2人の患者の眼に移植した。
【0286】
細胞がブルッフ膜に付着する確率を改善するために、黄斑複合体(光受容体、ブルッフ膜、およびRPE)がなおも存在して、潜在的に生存能力がある、黄斑下注入部位を選択し、したがって移植細胞が生得のRPEに組み込まれて、損傷した黄斑周囲組織を潜在的に救出する予測可能性を増大させた。どちらの患者も移植を良好に耐容して、この報告の時点で、術後炎症、拒絶反応、または腫瘍形成能の徴候はなかった。臨床および検査所見
は、移植したRPE細胞が、付着して組み込まれ、損傷した生得のRPEに影響を与え始めてもよいことを示唆する。
【0287】
患者の継続的なモニタリングおよび評価は、移植されたhESC-RPが、低下した免疫原性を有するかどうか、それらが長期的な免疫抑制不在下で拒絶反応を受けるかどうか、観察された視力増大が持続するかどうかを判定してもよい。免疫反応は、たとえあったとしても、免疫抑制および/または寛容化レジメンをはじめとする当該技術分野で公知の方法を通じて、管理し得ることが予測される。より多数のRPE細胞の投与を通じて、より大きな視力増大が達成可能であってもよいこともまた予期される。さらにRPE細胞の投与は、AMD、SMDなどをはじめとする網膜変性病状と関連付けられている視力喪失を遅延させ、または阻止することが期待される。
【0288】
一次RPE細胞の無傷のシートおよび懸濁液の移植は以前試みられているが(11~19)、成人臓器提供者に由来するRPEは、増殖能力が制限され(23)、標準培養条件を使用してメラニン生合成に必要な遺伝子を発現できないことをはじめとして、生体外で分化する能力もまた制限されている(24)。臨床的には、AMD患者の網膜下腔内に移植された成人RPEシートは、視覚機能改善に失敗している(25)。出生前後の組織由来のRPEが成功裏に分離され、生体外で完全に分化したRPEを示唆する属性を持って、成長し成熟するように誘導されているが(26~28)、このような情報源は極めて限定的であり、質および増殖能力についてばらつきがある。成人および胎児組織とは対照的に、hESCの特徴は、それらが老化することなく無期限に増殖する能力を有し、分化の出発原料として、「若い」細胞の実質的に無制限の起源を提供することである。hESCから得られる子孫を使用することの別の期待される利点は、生体外分化段階を管理して、移植後の生存および機能性を最大化し得ることである。実際に、ここで提示されるデータは、RPE成熟度および色素形成の程度が、生体外における細胞の引き続く付着および増殖に劇的に影響することを示す。
【0289】
この研究で使用されたRPEの出発原料は、管理条件下で大量の多能性幹細胞を信頼性をもって生成するように最適化された手順を使用して作り出され、良好に特性解析されたhESCマスター細胞バンクであった。RPE分化手順は、hESCの生存の支持には非許容性であるが、広範な前臨床安全性試験は、移植されたhESC-RPEが、動物の生存期間中に異所性組織形成または腫瘍を引き起こさなかったことを確認した。百万個以上の細胞中の1個未満の未分化hES細胞を検出する能力のある免疫蛍光(immunofluoresence)ベースのアッセイは、この研究で使用した臨床RPEロットが、検出可能な多能性細胞を有しないことを確認し、これは生体内添加試験で腫瘍を引き起こすことが示されているhESC用量よりも、5桁低い検出レベルに相当する。hESC-MCBの作成および各RPE細胞ロットの製造は、一次マウス胚線維芽細胞支持細胞層上における増殖を伴う。したがってhESC-RPEは異種移植製品に分類され、FDA異種移植(xenotranplantation)ガイドラインによって規定される、全ての試験およびモニタリングの対象となり、細胞にマウス病原体がないことを確実にした。RPEはまた、広範な一連の安全性検査を受けて、微生物汚染物質およびウイルスの不在が確認され、貪食能力、遺伝子発現、形態学的評価、およびRPE特異的マーカーの免疫組織化学染色をはじめとする、多様なRPE特異的属性によって特性解析された。これらの臨床試験の開始に先だって、hESC-RPEのジストロフィー動物への移植は、用量依存様式で光受容体および視覚機能を救出する能力が、細胞にあることを示した。
【0290】
本研究は、末期のSMDおよび乾燥型AMDがある患者における、hESC-RPEの安全性および耐容性を検証するようにデザインされた。これまでのところ、双方の患者に移植された細胞には、異常増殖、奇形腫形成、移植片拒絶またはその他の有害な病的反応がないようである。継続する経過観察およびさらなる研究が、必要である。しかし究極的
な治療の目的は、疾患経過のより初期にある患者を治療して、光受容体および中心視覚救出の可能性を潜在的に増大させることである。
【0291】
実施例2
本実施例は、実施例1に関する補足的情報および方法を提供する。
【0292】
(実施例1で使用されるRPE細胞がそれから生成される)臨床hESCマスター細胞バンク(hESC-MCB)の特性は、表3に示される。
【0293】
【0294】
【0295】
マウス胚線維芽細胞(MEF)マスター細胞バンク
MA09-hRPE細胞は生体外で非ヒト(マウス)細胞と接触したので、2003年4月のGuidance for Industry“Source Animal,Product,Preclinical,and Clinical Issues Concerning the Use of Xenotransplantation
Products in Humans”and“Points to Consider on Xenogeneic Cell Therapy Medicinal Products”(EMEA/CHMP/CPWP/83508/2009)]に従って、これらのヒト細胞は、異種移植製品として定義される。Charles River
Laboratories(Kingston Facility,Stoneridge,NY,USA)の育種コロニーをMEF細胞の起源として使用した。このAAALAC(Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Care International)公認施設は、広範な健康モニタリングの下、遮断された室内で、CD-1特定病原体除去(SPF)マウスの閉鎖コロニーを飼育する。ドナー動物は、時間指定交尾させ、妊娠中に隔離した。交尾の12日後、屠殺前に、獣医によって、全てのマウスについて身体的健康診断が実施され;動物を安楽死させ、白血球および血漿製剤を保存して、Charles River Laboratories,Wilmington,MAによって、マウス病原体について血清学的試験をするために、各ドナーマウスから血液を採取した。有資格の獣医病理学者が、各ドナー動物の屠体および子宮、および各同腹仔からの1つの胚の剖検を実施した。各動物からの臓器は、血漿および冷凍保存白血球と共に、少なくとも30年間保存される(EMEA/CHMP/CPWP/83508/2009の定めるところによる)。以前記載されているように、MEFを単離して培養し(Klimanskaya and McMahon,2005)、P1で凍結して、マイトマイシンC不
活性化後にP2で使用した。マウスウイルスおよびその他の病原体を導入するリスクを最小化するために、MEFは、WuXi AppTec,Inc.によって検査され特性解析された。hESC-MCB製剤およびhRPE医療用ロットで使用されるロットMEF-08の検査の規格および結果は、表4に提示される。
【0296】
【0297】
【0298】
ヒトDNAのDNA Q-PCR
マウス組織中のヒトDNA含量の検出は、150,000個のマウス細胞あたり1個のヒト細胞の感度で、Alu Y配列のためのTaqmanアッセイを使用して、AltheaDX,Inc.,San Diego,CAによって実施された。
【0299】
【0300】
細胞の免疫染色
4ウェルまたは6ウェルプレート内の細胞は、PBS中の2%パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences)で10分間固定して、P
BS中の0.1%NP-40代替品(Sigma)中で10分間透過化して、PBS中の10%ヤギ血清で1時間以上ブロックし、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。次に細胞を0.1%ツイーン/PBS中で3×15分間洗浄し、二次抗体と共に室温で1時間インキュベートして、上記と同じく洗浄し、DAPI添加Vectashield(Vector laboratories,Burlingame,CA)を使用してマウントした。逆転蛍光顕微鏡(Nikon)下で、染色した細胞を検査した。使用した抗体は、ベストロフィン(Novus Biologicals)、PAX6(Covance),MITF(Abcam)、ZO-1-FITC(Invitrogen),OCT-4(Santa Cruz Biotechnologies)、抗マウス-Alexa594(Invitrogen)、抗ウサギ-FITC(Jackson Immunoresearch)、抗マウス-Alexa-488(Invitrogen)、抗ウサギ-Alexa-594(Invitrogen)であった。Vector blue kit(Vector Laboratories)を使用して、アルカリホスファターゼ活性を検出した。
【0301】
マウス組織切片の免疫染色
抗原回収(ベストロフィンおよびヒトミトコンドリア)のために、蒸し器内で40分間、またはKi67のために、圧力釜内で30分間、脱パラフィン切片を0.1Mクエン酸緩衝液(pH6.0)中でインキュベートした。抗体染色は上述したように実施したが、場合によっては、Vector(Burlingame,CA)からのキットを使用して内因性ビオチンをブロックした後に、ビオチン共役二次抗体を使用した。使用した抗体は、抗ベストロフィン(Abcam、ウサギ)、抗ヒトミトコンドリア(マウス、Spring Bioscience)、抗ki67(ウサギ、Abcam)であった。二次抗体は、抗マウス-ビオチン、抗マウス-Cy3(Jackson Immunoresearch)、抗ウサギ-Alexa488(Invitrogen)であり、Streptavidn-Cy3はJackson Immunoresearchから入手された。hESCによって形成されるマウス奇形腫切片を抗ヒトミトコンドリアおよびKi67のための陽性対照として使用し、固定してパラフィン包埋したhRPEペレット切片をベストロフィン陽性対照として使用した。陰性対照は、マウスウサギおよびマウスIgG(Novus Biologicals)であった。
【0302】
q-RT-PCR
QiagenからのRNeasy RNA単離キットを使用して、細胞混合物からRNAを抽出し、サンプルあたり30μLRNAの最終容積がもたらされた。次にQiagenからのQuantitect cDNA合成キットを用いて、10μLのRNAからcDNAを合成し、20μLのcDNAの最終容積がもたらされた。次に各サンプル中に存在するβアクチンシグナルについて正規化された、三重反復複製試験において、1μLのcDNAを相対的遺伝子発現について試験した。Applied Biosystems
StepOne Plusソフトウェアバージョン2.1、およびLife TechnologiesからのTaqMan遺伝子発現アッセイを使用して、製造会社が推奨する比較Ct相対定量化のサイクル条件に従って、遺伝子発現プロファイリングを実施した。hESマーカー(NANOG、OCT4、およびSOX2)およびhRPEマーカー(RPE-65、PAX-6、MITF、およびベストロフィン)のqRT-PCRアッセイは、ゼロ設定点の役割を果たす、100%hES細胞サンプル中で観察された発現のレベルについて正規化した(RQ=相対定量化)。相対的遺伝子発現は、各サンプル中に存在するβアクチンシグナルについて正規化した三重反復複製試験でアッセイした。データは、3回の反復試験の平均+/-SDとして表される。
【0303】
食作用アッセイ
食作用は、細胞内食胞の低pH環境で内部に取り入れられると蛍光を発する、pHro
do(商標)e coli蛍光性生体粒子(Invitrogen)を使用して、FACSベースのアッセイによって評価される。生体粒子は、製造会社の使用説明書に従って調製された。コンフルエントなRPEは、CO2非依存性培地(Invitrogen)中、4ウェルプレートの1ウェルあたり50~200μLの生体粒子で、37℃で16~20時間培養された。陰性対照プレートは、4℃で培養された。細胞を顕微鏡下で検査し、トリプシンによって収集し、C6フローサイトメーター上で10,000回の事象を数えて、FACSで分析した。
【0304】
メラニン測定
RPE細胞懸濁液を160×Gで5分間室温で遠心分離して、サンプルを血球計細胞計数のために取り出した。ペレットを1NのNaOHに再懸濁して、80℃で10分間加熱してボルテックスし、5~180μg/mLの範囲の合成メラニン(Sigmaカタログ番号8631)標準曲線と対比させて、吸光度を475nmで測定した。サンプルを三重反復試験で評価し、抽出された全細胞数についてデータを正規化した。
【0305】
【0306】
【0307】
【0308】
【0309】
【0310】
【0311】
【0312】
【0313】
実施例3
正確な投与量の送達を確実にするための細胞密度の調節
この研究は、生RPEの送達に対する、装填および注入処置ステップの影響の判定について記載する。具体的には、本実施例では、装填および注入処置がいくらかの生細胞損失をもたらすこと、この損失が容易に評価し得る(そして例えば使用される特定の注入カニューレ次第など、送達プロトコルによって異なってもよい)こと、そして細胞濃度を増大させることでこの損失を埋め合わせ、期待される細胞数を送達できるようし得ることを示した。さらに、装填と2本のカニューレを通じた押出に続いて、細胞の播種および成長が、有意に悪影響を受けないことを示した。
【0314】
これらの研究には、以下をはじめとする装填および注入処置の全体が組み込まれる:(1)注入される所望の細胞密度を得るための、2000個の生細胞/μLでの、濃縮最終製品RPE細胞への冷BSS-Plusの最後の添加。(2)1ml注入シリンジ(BD
LUER-LOK(商標)に装着した、18gのブラントフィルニードル(BD)を使用した、RPE細胞とBSS-Plusの穏やかな混合。(3)注入カニューレを通じた、充填シリンジからの150μLの調合RPE細胞の押出。
【0315】
氷上のAlcon BSS BSS-Plus(登録商標)中における、RPE細胞の維持は、細胞が1000個の細胞/μL以上の濃度で調合されるという条件で、4時間を超えて不変であることが実証された。これらの条件下で、生細胞数に検出可能な損失はない。細胞完全性を確実にするために、正確な容積のRPE最終製品細胞は、2000個の生細胞/μLで手術室に届けられる。RPE細胞の各管は、注入の直前に細胞に添加されて混合される、正確な容積の冷BSS-Plusを含有する第2の管が付随する。あらかじめ分注されたRPE細胞およびBSS-Plusは、2~8℃で無菌微量遠心管内でORに届けられる。
【0316】
試験1-MEDONE POLYTIP(登録商標)カニューレ23/38
意図される臨床RPEロットと特性が類似したRPE細胞を解凍して処理し、実施例1に記載される冷BSS-Plus中で調合した解凍および調合後に、合計410万個の生細胞が回収された。出発生存度は91%であり、解凍および調合後に回収された細胞数は、このロットに典型的であった。細胞を冷BSS-Plus中で指示される出発濃度に希釈して、氷上に保存した。次に1mLシリンジ(BD LUER-LOK商標)に装着した18gブラントフィルニードル(BD)を使用して、細胞を穏やかに摩砕した。およそ200μLの細胞をフィルニードルを通じて、シリンジ内に移し入れた。フィルニードルを除去して、細胞を含有するシリンジに、MEDONE POLYTIP(登録商標)カニューレ23/38を装着した。シリンジのプランジャーを穏やかに叩いて、注入カニューレを通じて150Lの細胞を投与した。注入の総時間は、2~3分間であった。細胞を無菌管内に採取して、生細胞数を評価した。
【0317】
試験1は、MedOneカニューレを通じて装填され押出されたRPE細胞が、試験し
た細胞密度範囲にわたり、送達された細胞密度に予測可能な損失をもたらすことを実証した(295~1144個の生細胞/μL)。生細胞密度の平均損失は、22.8+/-7.0%(N=6)であった。結果は、下の表9に示される。
【0318】
【0319】
注入カニューレを通じて送達された細胞数の低下は、295~1144個の生細胞/μLの範囲の試験した全ての細胞密度で観察された。細胞密度の百分率の低下は、試験した範囲にわたり概して一定しているようである。試験した2つの最低密度(199および296)で観察された百分率の低下は、より変わりやすく、恐らくはこれらのより低い細胞密度における細胞計数の正確度を反映する。
【0320】
MedOneカニューレを通じて押出された細胞と、調合されたがカニューレを通じて押出されていない対照細胞とを遠心分離して、RPE成長培地に再懸濁し、ゼラチン被覆フルエリア96ウェルプレートに、ウェルあたり10,000個の細胞で播種した。比較のために、同一細胞製剤の部分をSynergeticsカニューレ(39ga硬質マイクロ注入カニューレ、Angled)に装填して通過させ、上記のように処理して播種した。播種の4日後に、細胞をトリプシン処理して計数した。下の表10は、3種類の細胞計数について、平均細胞数+/-SDを示す。
【0321】
【0322】
いずれのカニューレを通じて押出された細胞の引き続く播種と成長は、カニューレを通じて押出されていない対照細胞と同等であった。
【0323】
試験2-Synergetics,Inc.注入カニューレ、Angled、39g
意図される臨床RPEロットと特性が類似したロットからのRPE細胞を解凍して処理し、実施例1に記載される冷BSS-Plus中で調合した。解凍および調合後に、合計
260万個の生細胞が回収された。出発生存度は97%であり、解凍および調合後に回収された細胞数は、このロットに典型的であった。細胞を冷BSS-Plus中で375個の生細胞/μLの出発濃度に希釈して、氷上で保存した。次に1mLシリンジ(BD LUER-LOK(商標))に装着した18gブラントフィルニードル(BD)を使用して、細胞を穏やかに摩砕した。およそ200Lの細胞をフィルニードルを通じて、シリンジ内に移し入れた。フィルニードルを除去して、細胞を含有するシリンジに、Synergetics、Inc.39ga硬質マイクロ注入カニューレ、Angledを装着した。シリンジのプランジャーを穏やかに叩いて、注入カニューレを通じて150Lの細胞を投与した。注入の総時間は、2~3分間であった。細胞を無菌管内に採取して、生細胞数を評価した。一連の8回の注入にわたり、送達された平均生細胞数は、238+/-25個の生細胞/μLであり、またはこの試験の最低細胞用量(眼あたり50,000個の細胞)として意図された送達よりも、生細胞がおよそ100個少なかった。
【0324】
したがって試験2では、装填されSynergeticsカニューレを通じて押出されたRPE細胞が、意図される最低細胞用量範囲において、細胞密度に予測可能な損失をもたらすことを実証した(375個の生細胞/μLの装填密度が試験された)。生細胞密度の平均損失は、38.4+/-6.8%(N=8)であった。装填細胞密度は、それ相応に増大させて、予期される損失を代償し、したがって生RPEの意図される数(本試験のような50,000個の細胞/眼など)の正確な送達を確実にし得る。
【0325】
試験3-MedOne POLYTIP(登録商標)カニューレ23/38およびSynergetics 39ga硬質マイクロ注入カニューレ、Angled
試験3は、上の実施例1で患者への投与のために使用されたRPEロットについて実施した。この試験では、用量ー対ー送達細胞密度よりも25%高いRPE細胞が装填され、シリンジへの装填とMedOneカニューレを通じた注入において予期される損失を代償した。同じ25%の補正装填密度を使用して、Synergeticsカニューレを検証した。
【0326】
最低標的用量(444個の生細胞/μLー対ー送達された333個の細胞/μL)よりも25%高く調合された細胞を装填すると、MedOneカニューレは336+/-40個の生細胞/μLを送達した。同様に最低標的用量(1776個の生細胞/μLー対ー送達された1,333個の細胞/μL)よりも25%高く調合された細胞を装填すると、MedOneカニューレは1433+/-187個の生細胞/μLを送達した。Synergeticsカニューレを使用した最低細胞用量注入の結果は、100個の生細胞/μLの装填細胞密度の追加的な増大(addition increase)が、低密度での標的用量を達成することを確認した。
【0327】
8本のバイアル(合計1600万個の細胞)を解凍して上述したように処理し(3回の遠心分離)、全ての処理は室温で実施した。収率は、95%の生存度で378万個の細胞であった(23.6%の回収率、以前の解凍と同様)。細胞を冷BSS-Plusで、保存および輸送密度の200万個の生細胞/ml(2,000個の生細胞/μL)に再懸濁して、その後氷上で保存した。100万個の細胞/mLを上回る細胞密度を選択して、BSS-Plus中の冷蔵における細胞生存を促進した。177,600個の全生細胞を含有する、21個の89μLアリコートを、最終製品蓋付き微量遠心管内に分注した。
【0328】
細胞アリコートは、最終希釈まで氷上で保存して、その時点でシリンジ装填およびカニューレを通じた押出を実施した。低用量送達では(50,000個の生RPE/眼)、細胞を含有する管に311μLの冷BSS-Plusを分注し、最終容積を444個の細胞/μLで400μLにした。この密度は、333個の細胞/μLの意図される送達密度よりも25%高く、フィルニードルでの混合、シリンジ装填、およびMedOneカニュー
レを通じた送達時に起きる、予期される損失を代償する。
【0329】
高用量送達(200,000個の生RPE/眼)では、2つの89μLのアリコート細胞を1本の管(356,000個の細胞)にプールして、細胞を含有する管に22μLの冷BSS-Plusを分注し、最終容積を1,776個の細胞/μLで200μLにした。この密度は、1,333個の細胞/Lの意図される送達密度よりも25%高く、フィルニードルでの混合、シリンジ装填、およびMedOneカニューレを通じた送達時に起きる、予期される損失を代償する。
【0330】
希釈細胞を含有する微量遠心管に栓をして、1本の指で穏やかに叩いて混合を促進した。ブラントフィルニードル(空隙容積90μL)を1mL BDシリンジに装着し、シリンジとの接触を最小化するように注意しながら、細胞をブラントフィルニードル内で1~2回穏やかに摩砕した。シリンジに、およそ200μLの細胞を充填した。ブラントニードルを除去して、注入カニューレを装着した(MedOne 38gまたはSynergenic 39g)。およそ150μLの細胞を微量遠心管内に分注した。各分注アリコートをトリパンブルー排除によって、細胞密度と生存度について評価した。これらの結果は、下の表11および12に要約される。
【0331】
【0332】
【0333】
最初の装填密度を標的用量を超えて25%増大させることは、装填とMedOneカニューレを通じた押出中に遭遇する、細胞密度の損失を効果的に補正した。投与される最低用量では、333個の生細胞/μLの標的送達に対して、MedOneカニューレは、336+/-40個の生細胞/μL(N=6)の平均細胞密度を送達した。送達される最高細胞密度(1333個の生細胞/μL)では、MedOneカニューレは1433+/-187個の生細胞/μL(N=3)を送達した。
【0334】
MedOneまたはSynergeticsカニューレを通じた最低用量送達後、細胞
をRPE成長培地で希釈し、遠心分離して、ゼラチン被覆フルエリア96ウェルプレートに、ウェルあたり40,000個の細胞を播種した。カニューレを通じて押出された細胞と同じ管から取った、カニューレ注入されなかった対照細胞は、同様に処理して播種した。播種の24時間後に、試験したいずれの条件下でも、全ての細胞は付着して、細胞死または播種効率障害を示す浮遊細胞はな観察されなかった。
【0335】
MedOneカニューレを通じて押出された細胞と、Synergeticカニューレを通じて押出された細胞と、調合されたがカニューレを通じて押出されていない対照細胞とを遠心分離して、RPE成長培地に再懸濁し、ゼラチン被覆フルエリア96ウェルプレートに、ウェルあたり40,000個の細胞で播種した。播種の3日後に、細胞をトリプシン処理して計数した。下の表13は、平均細胞数+/-SDを示す。これらの結果は、引き続く播種および成長が、いずれかのカニューレを通じた押出によって、悪影響を受けなかったことを示す。対照およびMedOneカニューレ注入細胞は、培養への播種の2日後に顕微鏡的に検査され、細胞が活発に分裂する典型的なRPE形態が示された。対照とカニューレ注入細胞の間に、差は観察されなかった。
【0336】
【0337】
要約すると、冷BSS-Plus中のRPE細胞は、1000個の細胞/μLを超える濃度でより安定しており、最終製品は、最終製品蓋付き微量遠心管内で冷BSS-Plusに2000個の細胞/μLで再懸濁して、カニューレに最高で150μLの容積中の300,000個の細胞の用量が装填されるようにし得る。GMP無菌室内での処理後、2~8℃の2本の微量遠心管を手術室に届け得る:1本のバイアルは、2000個の生細胞/μLの正確な容積のRPE細胞を含有し、1本のバイアルは、細胞に添加して細胞密度を注入される密度(すなわち、例えばMedOneカニューレによる生細胞の損失を考慮した最後の標的用量よりも25%高い密度など、装填およびカニューレを通じた押出中の生細胞損失を考慮した密度)にする、正確な容積の冷BSS-Plusを含有する。1,000個の細胞/μLよりも高いまたは2,000個の細胞/μLよりも高い濃度がカニューレに装填される場合、希釈段階を省き、その代わりに所望の濃度で冷BSS-Plus中の細胞を手術室に届けてもよい。
【0338】
MedOneカニューレ用にカスタマイズされた策定装填密度および対応する用量は、表14に示される。同様のカスタマイゼーションは、Synergeticsカニューレまたは別のカニューレまたは送達系のために容易に特定される。
【0339】
【0340】
実施例4
ES細胞からのRPE分化
本実施例は、hESCからのRPEの分化を説明する。得られたRPEは、実施例1に記載される試験で使用された。
【0341】
胚様体分化培地(EB-DM)は、Glutamax、非必須アミノ酸、2-メルカプトエタノール(mercaptothanol)、およびノックアウト(商標)血清代替物が添加された、ノックアウト(商標)DMEMから構成され、胚様体形成開始時から、色素斑を収穫および分離する時点まで、すなわち胚様体形成、増生、および引き続く色素斑の形成を通じて、使用された。各バッチのEB-DMは、250mLのノックアウト(商標)DMEM、3mLのGlutamax-I、3mlの非必須アミノ酸、0.3mLの2-メルカプトエタノール(mercaptothanol)および38mLのノックアウト(商標)血清代替物で構成された。
【0342】
RPE成長/維持培地(RPE-GM/MM)は、1部のEB-DM(先行する段落に記載される)と、1部のDMEM(高グルコース)、FBS、およびGlutamaxで構成された。この培地は、色素斑からのRPE細胞誘導後、継代0代目から継代2代目を通じて、最終バルク製品の収穫時点に至る、引き続くRPEの成長および維持において使用された。RPT-GM/MMの各バッチは、100mLのEB-DM、90mLのDMEM高グルコース、10MLウシ胎仔血清(FBS)(Hyclone)、および1mLのGlutamax-Iで構成された。
【0343】
これらの培地中で誘導され培養されたRPE細胞は、RPEベストロフィン、CRALBP、RPE65の分子マーカーを発現した。PEDFは食作用能力があり、RCSラットにおいて視覚機能をレスキューした。
【0344】
上記培地を使用して作成されたRPEロットは、形態学的評価、免疫組織化学染色、およびRPE遺伝子の上方制御とhES細胞遺伝子発現の下方制御に対するq-RT-PCRをはじめとする、全ての製造過程品質試験に合格した。収量および細胞純度は、以前にMDBK-GMおよびMDBK-MM培地(Sigma Aldrich)、OptiPRO-SFM、またはVP-SFMを使用して作成されたRPE細胞と、同等であった。
【0345】
胚様体(embryo body)形成時から、色素斑収穫時点まで、(MDBK-GMまたはOptiPRO-SFMの代わりに)EB-DMを使用して、RPEのロットを製造した。色素斑を収穫してトリプシン処理した後、継代0代目のRPE細胞を上で定義されるような)RPE-GM(EGM-2培地)中に引き続いて播種し、次にMDBK-MMまたはVP-SFMの代わりにRPE成長/維持培地に切り替えた。代案としては、
RPEをRPE-GM/MMに直接播種して、継代の持続期間全体にわたり、成長および分化させてもよい。適切な分化レベルが観察された後、継代0代目のRPE細胞を収穫して、継代2代目のバルク製品の最終収穫と冷凍保存まで、これらの培地中でさらに2回分割した。
【0346】
下のデータは、胚様体(embryocbody)形成時から、色素斑収穫時点まで、EB-DM中で維持されたRPEの5つのサブロットの製造過程試験の概要を示す。この時点で、色素斑を異なる日に異なるウェルから収穫し、トリプシン処理して継代0代目のRPEとして播種した。ロットB1A、B2A、およびB2Bは、コンフルエントまでEGM-2培地中に播種して、RPE成長/維持培地への切り替えがそれに続き、継代0、1、および2代目にわたり分化を促進した。ロットB3BおよびB3Aは、継代の持続期間全体にわたりRPE-GM/MM中のみで維持された場合、それぞれ継代1または2代目を除いて同様に処理した。したがって全てのロットは、コンフルエンスに達したら、適切な分化レベルが観察されるまで、RPE-GM/MM中で維持された。継代2代目の終了後、RPE細胞をバルク製品として冷凍保存した。初期成長期のためにEGM-2中で維持され、それに続いてRPE-GM/MMに切り替えたロット、または数代の継代の持続期間全体にわたりRPE成長/維持培地中で維持されたロットは、EGM-2培地で観察されたわずかにより迅速な成長速度を除いて、類似していた。全てのロットは、継代0、1、および2代目の形態学的評価に合格し、合格規格は、典型的な上皮、敷石状形態、および中程度の色素形成を含んだ。RPEマーカー発現は、以下の一次抗体を使用して、間接免疫蛍光法によって検出された(希釈は約1:100~1:1000であり、各抗体バッチについて経験的に判定された)。ベストロフィン-マウスモノクローナル;Novus Biologicals(#NB 300-164);PAX6-Covance、ウサギポリクローナル(PRB-278P);ZO-1-Invitrogen;マウスモノクローナル(339100);ZO-1-Invitrogen;ウサギポリクローナル(61-7300);ZO-1-FITC-Invitrogen;マウスモノクローナル(339111);MITF-マウスモノクローナル、Abcam(ab3201)。
【0347】
二次抗体は、ブロッキング溶液中で1:500希釈(またはその他の示される希釈)で使用され、次のとおりであった:Alexa Fluor 488抗マウス、Invitrogen #A11001;Alexa Fluor 488抗ウサギ、Invitrogen #A11008;Alexa Fluor 594抗マウス、Invitrogen #A11032;Alexa Fluor 594抗ウサギ、Invitrogen #A11012;ヤギ抗マウスCy3共役(Jackson Immunoresearchカタログ番号115-165-146)、1:200で使用された。
【0348】
RPEマーカーの免疫染色を実施して、PAX6およびMITF;ベストロフィンおよびPAX6の組み合わせと、ZO-1単独によって純度を評価した。RPE成熟は、ベストロフィン陽性染色RPEの百分率を測定して、評価した。免疫染色は、RPE細胞の製造の4つの時点で実施した:(1)継代1代目および播種継代2代目の収穫前に、RPEをベストロフィン、PAX6、およびZO-1について染色した;(2)継代2代目の収穫および冷凍保存前に、RPEをベストロフィン、PAX6、およびZO-1について染色した;(3)RPEバルク製品を解凍して実施例1に記載されるように調合し、1,000生細胞/μLでBSS-PLUSに再懸濁した。次に細胞をRPE-GM中で希釈して、1000RPMで遠心分離し、再懸濁してゼラチン被覆4ウェルプレートに、ウェルあたり100,000~300,000個の細胞を播種し、MITFおよびPAX6で染色する前に1~2日間培養した;(4)RPEバルク製品を解凍して実施例1に記載されるように調合し、1,000生細胞/μLでBSS-PLUSに再懸濁した。次に細胞をRPE-GM中で希釈し、1000RPMで遠心分離して、再懸濁してゼラチン被覆4ウ
ェルプレートに、ウェルあたり50,000~200,000個の細胞を播種して、染色に先だって、コンフルエントまで維持した。この時点で、培養をRPE-MMに切り替えて、中程度の色素形成と敷石状形態が観察されるまで維持し、その時点で培養物をPAX6、ベストロフィン、およびZO-1について染色した。手短に述べると、細胞をCa2+、Mg2+なしのPBS(Gibco #14190)で2~3回洗浄し、2%パラホルムアルデヒドで10分間固定して、2×PBSで洗浄し、PBS中の0.1%NP-40代替品溶液(Sigma #74388)と共に15分間インキュベートして、2×PBSで洗浄し、ブロッキング溶液(10%の正常なヤギ血清(Jackson Immunoresearch #005-000-121)、PBS中の使用濃度2%で調製された16%パラホルムアルデヒド(新鮮に作成されたまたは冷凍アリコート)(Electron Microscopy Sciences #15710))と共に、30分間から一晩インキュベートした。次に細胞を、ブロッキング溶液中の一次抗体(異なる種からの一次抗体を使用してウェルあたり最高2種の抗体)と共に、室温で1~2時間、または4℃で一晩インキュベートして、PBSで洗浄し、PBS-ツイーン溶液(0.5%のツイーン20(Sigma #P7949)を添加した、Ca2+、Mg2+なしのPBS(Gibco #14190))中で撹拌しながら、3回洗浄した(各洗浄は10~15分間)。次にサンプルを二次抗体と共に培養して、一次抗体と同様に洗浄した。最後の洗浄液の除去後、DAPI添加Vectashieldを1~2滴添加して、細胞を倒立蛍光顕微鏡上で検査して計数した。最低限1000個の核を含有する、3~6個の無作為の視野を全てのチャンネルで20×の倍率で写真撮影した。写真をマージさせて画像を必要に応じて調節し、いずれの細胞がベストロフィンおよびPAX6について陰性であり、またはPAX6およびMITFについて陰性であり、またZO-1について陰性であるかを可視化させた。細胞は、例えばPAX6の核内局在化、ベストロフィンの多角形パターンの原形質膜内局在化(細胞周辺の明確な線でベストロフィン染色の局在化を示す)、多角形パターンの細胞の輪郭を描く密着結合中に存在するZO-1染色、および核限定で検出されるMITF染色などの予測された染色パターンが観察されれば、所与のマーカーについて陽性と見なされた。マージさせた画像中の陽性細胞を計数して、マージさせていないDAPI染色画像からの核を計数することで細胞の総数を求めることにより、各マーカーまたはマーカー組み合わせについて陽性の細胞の百分率を判定した。
【0349】
【0350】
さらに実施例1に記載されるq-RT-PCRによって、mRNA発現を検出した。各ロットから得られた結果を表16に示し、予測されたようにRPE遺伝子が上方制御されて、ES細胞遺伝子が下方制御されたことを実証する。
【0351】
【0352】
上記の培地調合物(RPE-GM/MMおよびEB-DM)を使用して製造されたRPE、さらに以前その他の培地(MDBK-GMおよびMDBK-MM)を使用して製造された冷凍保存RPE細胞を、それらの貪食能力について試験した。この試験では、冷凍保存RPEを解凍して、RPE成長/維持培地に播種した。胚様体形成および色素斑形成中にEB-DMを使用して、RPE成熟中にRPE-GM/MMを使用して、作成された、本ロットからのRPE細胞をトリプシン処理して、RPE-GM/MM中に同様に播種した。双方の培養をコンフルエンスに成長させ、RPE-GM/MM中で分化するまで維持してから、RPE細胞の食胞の酸性環境で内部に取り入れられると蛍光を発する、蛍光性生体粒子(Invitrogenカタログ番号P35361)を貪食するそれらの能力について検査した。細胞は、蛍光性生体粒子と共に37℃で培養して食作用を可能にし、または4℃で陰性対照として培養した。37℃で培養した細胞について、生体粒子食作用を示す蛍光強度の移行をFACSによって検出した(
図12)。ピークの統計的統合は、各ロットおよび培養温度について、食作用陽性細胞の百分率をもたらす。
【0353】
【0354】
これらの結果は、RPE-GM/MM上で維持されたRPE細胞の双方のロット中の高百分率の細胞で食作用を示し、RPE細胞の成長および成熟のために、RPE-GM/MMを使用する適切さをさらに実証する。
【0355】
実施例5
RPE誘導の追加的な例示的方法
本実施例の方法を使用して、胚を破壊することなく生成された追加的なhESC系統か
ら分化したRPEが生成され、これらの追加的なhESC系統は、特にiPS細胞(特に非組込み型エピソームベクターを使用して生成されるiPS細胞)であり、および割球がそれから得られる胚が生存能力を維持して引き続いて冷凍保存される(cyropreserved)生検割球から生成されるNED(「胚破壊なし」)hES細胞であった。NED細胞は、その内容全体を参照によって援用する、Chung et al.(Cell Stem Cell.2008 Feb 7;2(2):113-7)に記載されるようにして、生成された。
【0356】
hESCは、TESR-1培地(Stem Cell Technologies,Inc.)に関する製造会社の使用説明書に従って希釈された、マトリゲル(商標)上で増殖された。RPEは、以前記載されているように(その内容全体を参照によって援用するKlimanskaya et al.,Cell Stem Cells 6:217-245(2004))、胚様体(「EB」)または多層hESC培養物から生成され;EBは、懸濁培養後、RPE収穫に先だって、増生のために播種された。しかしマトリゲル(商標)上で培養されたhESCからのEB形成は、効率に劣ることが観察され、細胞は、より低い成功裏の凝集率と生存度低下を示した。以下のプロトコル修正によって、EB形成効率を改善した。
【0357】
hESCは、コロニーがより「分厚く」なるように、すなわち少し隆起し/または多層構造になるように、常態では継代する時間を超えて過成長させた。EB形成のためには、機械的掻き取り、コラゲナーゼI、アキュターゼ、アキュターゼ添加コラゲナーゼまたはコラゲナーゼとそれに続くアキュターゼ、EDTAベースの分離緩衝液を使用して、hESCを単細胞懸濁液に分離させることなく分離した。これらの方法は、hESCコロニーを単細胞に分離させることなく、引きはがせるようにした。トリプシン(通常の使用条件では単細胞懸濁液を容易に生成する傾向がある)は、利用しなかった。
【0358】
次に分離hESCを超低付着性プレート上で培養して、EBを形成をさせた。任意選択的に、EB形成のために、懸滴などのその他の方法を使用してもよい。典型的に、6ウェル培養皿の1~3個のウェルからのhESCを、低付着性プレートの1~2個のウェル内の2~7mlの培地中で培養した。細胞は、EB培地(ノックアウト高グルコースDMEM、1%非必須アミノ酸溶液、2mMのGlutaMAX I、0.1mMのβ-メルカプトエタノール、および13%血清代替物(SR、Invitrogen))中で培養した。EB培地中での最初の2~3日間の培養中、EBが形成する間、EB培地には、10マイクロモル濃度のStemgentのStemolecule Y-27632、rho関連タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤を補給した(その内容全体を参照によって援用するWatanabe et al.,Nat Biotechnol.2007 Jun;25(6):681-6を参照されたい)。ROCK阻害剤の使用は、特に、EDTAまたは酵素的分離を使用して得られたhES細胞について、細胞生存度を改善した。ROCK阻害剤の使用は、それがなくても良好に生存する、機械的に掻き取ったhESCでは任意であった。
【0359】
EB形成の7~12日後、増生のためにEBをゼラチン被覆プレート上に播種した。RPEは、それらの上皮形態(敷石状外観)および色素形成によって容易に確認された。
【0360】
RPEはまた、支持細胞の代わりにマトリゲル(商標)上で細胞を培養したこと以外は、本質的に以前記載されているようにして(Klimanskaya et al.,2004,前出)、マトリゲル(商標)上で成長させた、hESCの多層培養物からも生成された。手短に述べると、hESCをマトリゲル(商標)上のmTESR-1培地中で、hESCコロニーが多層構造になるまで過成長させ(およそ10~14日間の培養)、その時点で(上述したように)培地をEB培地で置換した。ROCK阻害剤は、任意選択的
に培地に含まれるが、効率的なRPE形成および回収のために必須ではない。RPEは、それらの上皮形態(敷石状外観)および色素形成によって容易に確認された。色素性RPE細胞が観察されるまで(典型的に4~5週間以内)、培地を1~2日毎に取り替えた。
【0361】
得られたEBまたは多層培養物は、肉眼で見える暗い領域を含む「そばかす状」の外観を呈した。顕微鏡検査は、これらの暗い領域が、それらの特徴的な色素形成および敷石状の上皮形態によって識別可能なRPE細胞で構成されることを確認した。得られたRPE細胞培養物は、
図19に示される。hESCからの分化後、RPE細胞は、機械的または酵素的分離のいずれかによって単離した。
【0362】
実施例6
RPE移植方法
乾燥型加齢黄斑変性(AMD)患者およびシュタルガルト黄斑ジストロフィー(SMD)患者への細胞移植のために、以下の方法を使用した。
【0363】
外科手術直前に、いかなるコルチコステロイドも患者に投与されなかった。外科手術は、外科医の自由裁量による覚醒鎮静ありまたはなしで、全身または局所麻酔下で実施した。
【0364】
移植用の細胞は、液体窒素貯蔵システムの気相内(およそ-140℃)に保存された凍結懸濁液として提供された。投与のために細胞を調合するために、バイアルを液体窒素冷凍庫から取り出して、次に37℃の水浴に入れて、解凍するまで1~2分間にわたり絶えず撹拌した。次にバイアルに70%イソプロパノールを噴霧して、乾燥させた。各バイアルの内容物(凍結時点で100万個の細胞を含む1mLの冷凍保存媒体)を50mLの円錐管に移し、40mLの無血清DMEMで洗浄した。細胞を遠心分離して、各ペレットを40mLのBSS-PLUSに再懸濁した。細胞懸濁液を再度遠心分離して、2個以上の凍結保存バイアルを解凍した場合は、ペレットを合わせてプールした。容積をBSS PLUS中で10mLの最終容積にして、3度目の遠心分離をした。上清を完全に吸引して、細胞を各1mLの解凍細胞あたりおよそ150μLのBSS PLUSの最終容積にした(より濃縮した懸濁液が所望される場合、より低い容積を使用し得る)。サンプルを取り出して、生細胞数を数えた。全生細胞数を測定して、適切な容積のBSS-PLUSを添加して、1μLあたり2,000個の生細胞などの標的生細胞濃度を得た。調合製品の適切な容積を0.5mLの無菌微量遠心管に移し、アーカイビング、生存度判定、グラム染色、および無菌性試験のために、サンプルを取り出した。正確な容積のBSS-Plusを含有する、対の0.5mL無菌微量遠心管もまた準備してラベルした。対のバイアルは、最後の混合および手術室での移植に備えて、2~8℃で4時間以下貯蔵した。
【0365】
標準3ポート経毛様体扁平部硝子体切除を患者に実施した。小規模な網膜切開を行って、次に硝子体切除装置を通じた流体注入システムを使用して、小規模な神経感覚網膜離脱が起こるまで、網膜下腔内へのBSS Plusの輸液を実施した。外科医は、側頭窩位置にブレブが作成されたことを確実にした。ブレブは、任意選択的にアーケード血管内に広がり得るが、中心網膜黄斑/窩は剥離させなかった。ブレブが、中心網膜黄斑に向かって拡大するのが観察された場合、外科医には、その位置で同じ規則を守り、中止して別の網膜切開を行う選択肢があった。次に網膜下に注入されたBSS Plusは、除去された。
【0366】
次に事前装填カニューレを装入して、作成された空隙内に、およそ1分間にわたり150μLの体積中で細胞を輸液した。直視によるモニタリングを実施して、正確なカニューレの位置調整を確実にした。術後所見をブレブの位置と正確に相関させるために、手術用顕微鏡を通じて、写真または(好ましくは)ビデオによって、ブレブの正確な位置を記録
した。
【0367】
所望のhESC由来RPE細胞数(例えば50,000、100,000、150,000、または200,000個)を150uLのBSS Plus中に含有する懸濁液を移植した。細胞は、およそ1分間輸液した。カニューレをその位置でさらに1分間保ち、還流を回避した。外科医の自由裁量で、例えば網膜切開が拡大した場合、空気流体交換を任意選択的に実施した。次に標準手順を使用して、切開を閉じた。次に患者は麻酔から回復したが、背臥位に6時間維持した。
【0368】
処置に続いて48時間にわたり、コルチコステロイド投与は許されなかった。必要な場合、手術後の不快感を管理するために、局所または全身性の非ステロイド性抗炎症剤の使用は許された。
【0369】
実施例7
冷凍保存RPE細胞製剤の安定性
本実施例は、冷凍保存RPE細胞が、凍結の6および12ヶ月後の時点で試験した際に、リリース基準に合格して使用に適したままであることを実証する。それに基づいて、冷凍保存RPEは、冷凍保存後12ヶ月間にわたり、それらの機能と製品属性を維持することが示された。冷凍保存RPE細胞は、凍結後、多年にわたり移植に適したままであることが予期される(例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10年以上)。
【0370】
冷凍保存RPEサンプルは、上の実施例4に記載されるように生成され、液体窒素中の冷凍保存媒体(90%FBSで10%DMSO)中で凍結されて、液体窒素貯蔵システムの気相内(およそ-140℃)に保存された。6または12ヶ月の保存後、実施例6に記載されるようにして冷凍保存細胞を解凍して洗浄した(手短に述べると、37℃の水浴中で解凍し、容器外部を70%エタノールで洗浄し、細胞を洗浄して冷凍保存媒体を除去した)。解凍後、細胞を検査に供して、製品の安定性を確認した。下の表18に示されるように、各リリース基準に合格した。
【0371】
【0372】
実施例8
調合RPE細胞の安定性
本実施例は、RPE細胞を2~6℃に保った場合、解凍および投与のための調製後、少なくとも4時間、使用に適したままであることを実証する。
【0373】
冷凍保存細胞を解凍して、上の実施例6に記載されるように調合して、最終製品容器(0.5mLのガスケット付き無菌微量遠心管)内で2~8℃で保存した。表19は、調合時点および4時間の冷蔵後に試験した2つのロットについて、トリパンブルー排除による評価で平均生存度百分率±SDを示す(ロットあたり3つの最終製剤)。
【0374】
【0375】
これらのデータは、調合RPE細胞が、調製後4時間まで細胞生存度を維持したことを示した。
【0376】
追加的な実験では、RPE細胞最終製品を2,000個の生存細胞/μLで調合し、MedOne REF 3233 POLYTIP(登録商標)カニューレ23/38を通じた押出に先だって、様々な時間にわたり冷蔵した。この試験(データは表20に示される)では、(臨床使用のためのバルク製品のリリース試験に合格した)RPE細胞ロットを解凍し、上記のように処理した。細胞を再懸濁して、BSS-Plus中に2,000個の生存細胞/μLの密度で保存し、その後、氷上に保った。1,000個の生細胞/μLを上回る細胞密度を選択して、BSS-Plus中の冷蔵における細胞生存を促進した。この時点で、177,600個の全生細胞を含有する、21個の89μLの細胞アリコートを、最終製品蓋付き微量遠心管に分注した。細胞アリコートは、最終希釈まで氷上で保存して、その時点でシリンジ装填およびカニューレを通じた押出を実施した。低用量送達では、311μLの冷BSS-Plusを細胞を含有する管内に分注し、最終容積を444個の細胞/μLで400μLにした。この密度は、333個の細胞/μLの意図される送達密度よりも25%高く、フィルニードルでの混合、シリンジ装填、およびMedOneカニューレを通じた送達時に起きる、予期される損失を代償する。
【0377】
高用量送達では、2つの89μLのアリコート細胞を1本の管(356,000)にプールして、細胞を含有する管に22μLの冷BSS-Plusを分注し、最終容積を1,776個の細胞/μLで400μLにした。この密度は、1,333個の細胞/μLの意図される送達密度よりも25%高く、フィルニードルでの混合、シリンジ装填、およびMedOneカニューレを通じた送達時に起きる、予期される損失を代償する。
【0378】
希釈細胞を含有する微量遠心管に栓をして、1本の指で穏やかに叩いて混合を促進した。ブラントフィルニードル(空隙容積90μL)を1mL BDシリンジに装着し、シリンジとの接触を最小化するように注意しながら、細胞をブラントフィルニードル内で1~2回(1-2time)穏やかに摩砕した。シリンジに、およそ200μLの細胞を充填した。ブラントニードルを除去し、MedOne 38g注入カニューレを装着した。(およそ150μLの細胞を微量遠心管内に分注した。各分注アリコートをトリパンブルー排除によって、細胞密度と生存度について評価した。調合後の時間は、冷BSS-Plus中2,000個の生細胞/μLの細胞の再懸濁から経過した時間(分)であった。これらのデータは、指示される濃度で送達された細胞について表20に示される。
【0379】
【0380】
データは、試験された時間にわたり冷蔵された場合、注入カニューレを通じて押出された最終製品RPE細胞の生細胞数が、低下しないことを示す。調合後240分間(4時間)を上回る時間に観察された生細胞密度は、少なくとも4時間の失効時間を支持する。この試験では、BSS-Plus中のRPE細胞が、氷上の最終製品密封内で保存された。引き続いて較正プローブを使用して、氷上で保存された微量遠心管内のBSS-Plusの温度が評価され、3℃と測定された。
【0381】
さらなる実験は、最高6時間までの調合RPE細胞の生存度を試験した。生存度は、調
合時点(0時間)および冷蔵(2~8℃)の4および6時間後に評価した。この試験で使用したRPEロットは、GMP製造について記載される手順、工程、および材料を使用して、製造し冷凍保存した。上の実施例6に記載される手順に従って、RPE細胞の冷凍保存バイアルを解凍して調合した。細胞は、調合時点(0時間)および冷蔵(2~8℃)の4および6時間後に、生細胞数について評価した。さらに引き続く純度および効力アセスメントのために、0、4および6時間目の細胞を播種して培養した。各播種時点(0、4、および6時間)で、MITFおよびPAX6免疫染色によって純度を評価し、FACS分析によって蛍光粒子の食作用を評価した。
【0382】
生細胞密度は、血球計でトリパンブルー排除細胞を計数して判定した。データは、4個の血球計チャンバー上で実施した計数の平均+/-SDである。結果は、下の表21に示される。
【0383】
【0384】
調合細胞を保存したGMP保存冷蔵庫の温度読み取りは、実験全体を通じて温度が6℃のままであることを確認した。
【0385】
2,590個/μLおよび1,700個/μLの0時間目の出発生細胞密度は、医療用製剤を目した2,000個の生細胞/μLを一括して考える。6時間の冷蔵において、試験した出発細胞密度範囲にわたる生細胞数の損失は、観察されなかった。
【0386】
実施例9
本実施例は、2人の追加的なシュタルガルト病(Startardt’s disease)患者の最初の治療結果を提供する。2人の患者は、それぞれ、上の実施例6に記載されるRPE移植法を使用して、hESC起源から誘導された50,000個のRPE細胞(実施例1に記載される)で治療された。2人のシュタルガルト患者の網膜、視神経円板、網膜黄斑、および後極を含む眼底写真は、注入部位およびRPE細胞を含有する溶液注入に際して作成されたブレブ領域を示す(
図15)。
【0387】
さらなる眼底写真は、2人のSMD患者について、色素性RPE細胞斑が増大している、注射ブレブ内の領域の確立を示す(
図16および17)。これらの結果は、新しいRPE層による網膜領域の生着と表面再構成を示唆する。
【0388】
図16に示される患者の処置眼について、視力もまた評価した。垂直軸は、糖尿病網膜症の早期治療研究(ETDRSスコアを示し、水平軸は、術後日数間を示す。
【0389】
これらの結果は、処置後少なくとも3ヶ月間持続するRPE細胞の安定した生着を示す。処置眼の視力は、処置後14日でベースラインレベルに戻り、示される最終時点の84日目までベースラインを上回り続けた。
【0390】
実施例10
1年間の患者評価
AMD患者およびSMD患者は、上の実施例1に記載されるRPE処置後、1年間にわたり評価した。
【0391】
SMD患者の眼底撮影は、処置の1年後における処置眼中の色素性細胞の存在を実証した(
図20B)。対照的に、治療前のベースラインでは、色素性細胞は検出不能であった(
図20A)。これらの結果は、処置後少なくとも1年間維持された、RPEの長期生着を示す。
【0392】
AMD患者について、周辺?ETDRS/BVCAスコアを
図21にグラフで図示する。患者の周辺ERTDS-BVCAスコアは、最初の基線値21から、外科手術の1および3日後には0に低下したが、外科手術の7日後には、少なくともベースラインレベルに戻り、その後はベースラインを上回り続けた。処置後1年目には、患者の周辺ERTDS-BVCAスコアは34であった。
【0393】
SMD患者では、治療後1年目には、中心ETDRS/BVCAスコアは15であった。周辺スコアは、
図22にグラフで図示される。患者の周辺ERTDS-BVCAスコアは、最初の基線値0から、外科手術の2週間後には1に増大し、その後、処置後1年目の15の値まで増大し続けた。
【0394】
これらの結果は、RPE細胞投与に起因する、AMDおよびSMD患者の双方における視力改善を示し、それは処置後少なくとも1年間維持された。
【0395】
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【0396】
全ての刊行物、特許および特許出願は、あたかも個々の刊行物、特許または特許出願が、参照によってその内容全体を援用すると具体的かつ個別に示されているかのように、本明細書でその内容全体を参照によって援用する。2007年10月12日に出願された米国仮特許出願第60/998,766号明細書、2007年10月12日出願された米国仮特許出願第60/998,668号明細書、2008年1月2日に出願された米国仮特許出願第61/009,908号明細書、および2008年1月2日に出願された米国仮特許出願第61/009,911号明細書、前述の各出願は、その内容全体を参照によって本明細書に援用する。さらに国際公開第2009/051671号パンフレットの開示は、その内容全体を参照によって援用する。
【0397】
当業者は、単に通例の実験法を使用して、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態の多くの同等物を認識し、または見極めることができるであろう。このような同等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。