IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横河電機株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人静岡大学の特許一覧

<>
  • 特許-メタン生成装置 図1
  • 特許-メタン生成装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】メタン生成装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/107 20060101AFI20231220BHJP
   C12M 1/06 20060101ALI20231220BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20231220BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C12M1/107
C12M1/06
C12M1/36
C12N1/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020052932
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151196
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】川野 誠
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩之
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/110256(WO,A1)
【文献】特開2005-073519(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167956(WO,A1)
【文献】特表2015-503929(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0059368(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00567738(EP,A2)
【文献】MARTIN, M. R. et al.,A single-culture bioprocess of Methanothermobacter thermautotrophicus to upgrade digester biogas by CO2-to-CH4 conversion with H2,Archaea,2013年,Vol. 2013, Article ID 157529,p. 1-11
【文献】BURKHARDT, M. and BUSCH, G.,Methanation of hydrogen and carbon dioxide,Applied Energy,2013年,Vol. 111,p. 74-79
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液でメタン生成菌を培養する培養槽と、
前記培養槽に、前記メタン生成菌が必要とする二酸化炭素及び水素ガスを供給するガス供給装置と、
前記メタン生成菌が生成したメタンを抽出する生成ガス抽出装置と、
前記培養液の液中に生じた沈殿物を前記培養槽から除去する沈殿物除去装置と、
前記培養槽の培養環境に関する測定データを処理するデータ処理部と、
前記データ処理部による処理結果に基づいて、前記培養槽の培養環境を制御する装置制御部と、を具備し、
前記装置制御部は、前記データ処理部による処理結果に基づいて、前記沈殿物除去装置を制御し、前記培養槽のドレイン管から前記沈殿物を除く、メタン生成装置。
【請求項2】
前記培養槽における温度をコントロールする温度制御装置を具備する、請求項1に記載のメタン生成装置。
【請求項3】
前記培養槽におけるメタンの生成状態を検出するガス分析装置を具備する、請求項1または2に記載のメタン生成装置。
【請求項4】
前記ガス分析装置として、吸光分析装置を具備する、請求項3に記載のメタン生成装置。
【請求項5】
前記培養液の状態を検出する培養液状態検出装置を具備する、請求項1~4のいずれか一項に記載のメタン生成装置。
【請求項6】
前記培養液状態検出装置として、pH検出器を具備する、請求項5に記載のメタン生成装置。
【請求項7】
前記培養液状態検出装置として、酸化還元電位検出器を具備する、請求項5または6に記載のメタン生成装置。
【請求項8】
前記培養液の液中の微生物群集の現存量を検出する液分析装置を具備する、請求項1~7のいずれか一項に記載のメタン生成装置。
【請求項9】
前記液分析装置として、吸光度測定装置を具備する、請求項8に記載のメタン生成装置。
【請求項10】
前記培養槽における圧力を検出する圧力センサーを具備する、請求項1~9のいずれか一項に記載のメタン生成装置。
【請求項11】
前記培養液を、嫌気状態を保ったまま前記培養槽に投入する培養液投入装置を具備する、請求項1~10のいずれか一項に記載のメタン生成装置。
【請求項12】
前記培養液の嫌気状態を維持するために還元剤を前記培養槽に投入する還元剤投入装置を具備する、請求項11に記載のメタン生成装置。
【請求項13】
前記培養液と、前記二酸化炭素及び前記水素ガスを含む混合ガスを攪拌・混合する機構を具備する、請求項1~12のいずれか一項に記載のメタン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、地球温暖化問題の解決のために二酸化炭素の固定化を目的として、二酸化炭素と水素を反応させてメタンを合成する方法が開示されている。この方法は、二酸化炭素(CO)と水素ガス(H)から一酸化炭素(CO)と水(HO)を主成分として生成する第一反応工程と、COとHからCHとHOを生成する第二反応工程から構成される。また、第一反応工程と第二反応工程の間には、第一反応工程で未反応のまま残留したCOとHOを除去する工程を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5562873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のような化学的方法では、メタンを得る際に反応器を500℃程度まで加熱する必要がある。また、その反応は、下記の式(1)および(2)に示すように二段階で進行することが知られており、特に式(1)は吸熱反応となっている。したがって、反応を進行させるには外部からのエネルギー投入が必要となる。
式(1)CO+H→CO+HO ΔH=+41kJ/mol
式(2)CO+3H→CH+HO ΔH=-206kJ/mol
【0005】
エネルギー源としては、再生可能エネルギーの使用もあり得るが、現状では石油、天然ガスなどの化石燃料が現実的であり、これらは燃焼に伴って大量の二酸化炭素を排出する。特許文献1には、式(2)の反応で生じる熱を、式(1)の反応に利用することができると記されている。これにより熱収支の改善が期待されるが、式(1)に示される反応温度は460~550℃で、式(2)の反応温度250~450℃よりも高く、十分な熱量が確保できるかは不明である。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、簡易かつ低消費エネルギーで、水素ガスを利用して二酸化炭素を固定し、炭素資源として有用なエネルギー源であり、化成品原料となり得るメタンを生成することができるメタン生成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のメタン生成装置は、培養液でメタン生成菌を培養する培養槽と、前記培養槽に、前記メタン生成菌が必要とする二酸化炭素及び水素ガスを供給するガス供給装置と、前記メタン生成菌が生成したメタンを抽出する生成ガス抽出装置と、を具備する。
【0008】
また、本発明においては、前記培養槽における温度をコントロールする温度制御装置を具備してもよい。
【0009】
また、本発明においては、前記培養槽におけるメタンの生成状態を検出するガス分析装置を具備してもよい。
【0010】
また、本発明においては、前記ガス分析装置として、吸光分析装置を具備してもよい。
【0011】
また、本発明においては、前記培養液の状態を検出する培養液状態検出装置を具備してもよい。
【0012】
また、本発明においては、前記培養液状態検出装置として、pH検出器を具備してもよい。
【0013】
また、本発明においては、前記培養液状態検出装置として、酸化還元電位検出器を具備してもよい。
【0014】
また、本発明においては、前記培養液の液中の微生物群集の現存量を検出する液分析装置を具備してもよい。
【0015】
また、本発明においては、前記液分析装置として、吸光度測定装置を具備してもよい。
【0016】
また、本発明においては、前記培養槽における圧力を検出する圧力センサーを具備してもよい。
【0017】
また、本発明においては、前記培養液の液中に生じた沈殿物を前記培養槽から除去する沈殿物除去装置を具備してもよい。
【0018】
また、本発明においては、前記沈殿物除去装置として、前記培養槽のドレイン管から前記沈殿物を除く機構を具備してもよい。
【0019】
また、本発明においては、前記培養液、嫌気状態を保ったまま培養液投入装置を具備してもよい。
【0020】
また、本発明においては、前記培養液の嫌気状態を維持するために還元剤を前記培養槽に投入する還元剤投入装置を具備してもよい。
【0021】
また、本発明においては、前記培養槽の培養環境に関する測定データを処理するデータ処理部と、前記データ処理部による処理結果に基づいて、前記培養槽の培養環境を制御する装置制御部と、を具備してもよい。
【0022】
また、本発明においては、前記培養液と、前記二酸化炭素及び前記水素ガスを含む混合ガスを攪拌・混合する機構を具備してもよい。
【発明の効果】
【0023】
上記本発明によれば、簡易かつ低消費エネルギーで、水素ガスを利用して二酸化炭素を固定し、炭素資源として有用なエネルギー源であり、化成品原料となり得るメタンを生成することができるメタン生成装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態に係るメタン生成装置の構成図である。
図2】一実施形態に係るガス分析結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態に係るメタン生成装置の構成図である。
メタン生成装置は、図1に示すように、概略、培養槽1と、ガス供給装置2と、生成ガス抽出装置3と、管理装置15と、を具備している。
【0026】
培養槽1は、培養液20の液中でメタン生成菌を培養する。メタン生成菌としては、メタノバクテリウム・アルカリフィラム(Methanobacterium alcaliphilum)、メタノバクテリウム・ブライアンティイ(Methanobacterium bryantii)、メタノバクテリウム・コンゴレンセ(Methanobacterium congolense)、メタノバクテリウム・デフルビイ(Methanobacterium defluvii)、メタノバクテリウム・エスパル(Methanobacterium espanolae)、メタノバクテリウム・フォルミシカム(Methanobacterium formicicum)、メタノバクテリウム・イバノビイ(Methanobacterium ivanovii)、メタノバクテリウム・パルストレ(Methanobacterium palustre)、メタノバクテリウム・サーマグレガンス(Methanobacterium thermaggregans)、メタノバクテリウム・ウリギノサム(Methanobacterium uliginosum)、メタノブレビバクター・アシディデュランス(Methanobrevibacter acididurans)、メタノブレビバクター・アルボリフィリカス(Methanobrevibacter arboriphilicus)、メタノブレビバクター・ゴッシアリキイ(Methanobrevibacter gottschalkii)、メタノブレビバクター・オレヤエ(Methanobrevibacter olleyae)、メタノブレビバクター・ルミナンチウム(Methanobrevibacter ruminantium)、メタノブレビバクター・スミシイ(Methanobrevibacter smithii)、メタノブレビバクター・オエセイ(Methanobrevibacter woesei)、メタノブレビバクター・ウォルニイ(Methanobrevibacter wolinii)、メタノサーモバクター・マーブルゲンシス(Methanothermobacter marburgensis)、メタノサーモバクター・サーモオートトロフィカス(Methanothermobacter thermoautotrophicus)、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカス(Methanobacterium thermoautotrophicus)、メタノサーモバクター・サーモフレキアス(Methanothermobacter thermoflexus)、メタノサーモバクター・サーモフィリクス(Methanothermobacter thermophilics)、メタノサーモバクター・ウォルフェイイ(Methanothermobacter wolfeii)、メタノサームス・ソシアビリス(Methanothermus sociabilis)、メタノコルプスクルム・ババリカム(Methanocorpusculum bavaricum)、メタノコルプスクルム・パルバム(Methanocorpusculum parvum)、メタノクレウス・チクオエンシス(Methanoculleus chikuoensis)、メタノクレウス・サブマリナス(Methanoculleus submarinus)、メタノゲニウム・フリギダム(Methanogenium frigidum)、メタノゲニウム・リミナタンス(Methanogenium liminatans)、メタノゲニウム・マリナム(Methanogenium marinum)、メタノミクロビウム・モービレ(Methanomicrobium mobile)、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ(Methanocaldococcus jannaschii)、メタノコッカス・エオリカス(Methanococcus aeolicus)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)、メタノコッカス・バンニエリ(Methanococcus vannielii)、メタノコッカス・ボルタエイ(Methanococcus voltaei)、メタノサーモコッカス・サーモリソトロフィカス(Methanothermococcus thermolithotrophicus)等を例示することができる。
【0027】
本実施形態の培養槽1は、メタン生成菌として、Methanobacteriales, Methanomicrobiales、Methanocellales、Methanomassillicoccales等の菌株を培養する。これらの水素資化性メタン生成菌は、嫌気性の地下水中にも含まれることがあり、メタン生成菌を含む嫌気性の地下水に二酸化炭素(CO)と水素ガス(H)の混合ガスを添加することでメタンを得ることができる。つまり、培養槽1には、メタン生成菌を培養するための培地が入った培養液20(例えば嫌気性の地下水)が貯溜されている。培養槽1内は、酸素存在量を可能な限り減少させた嫌気状態となっている。
【0028】
ガス供給装置2は、培養槽1にメタン生成菌が必要とする二酸化炭素及び水素ガスを供給する。ガス供給装置は、H/CO混合ガス(例えば体積比で80vol.%:20vol.%)を培養槽1内の気相部分に導入して所定の圧力まで加圧し、メタン生成菌の培養を開始する。
【0029】
生成ガス抽出装置3は、メタン生成菌が生成したメタンを抽出する。生成ガス抽出装置3は、培養槽1内の気相部分から生成ガスを取り出し、図示しない外部タンクに保存する。なお、メタンの抽出完了後は、再度、ガス供給装置2からH/CO混合ガスを培養槽1に供給し、メタン生成菌の培養およびメタン生成を行う。
【0030】
なお、メタン生成菌の培養を開始する前(H/CO混合ガスを培養槽1に供給する前)に、ガス供給装置2等から培養槽1内に不活性ガスを供給するとよい。不活性ガスの供給(ガスパージ)によって、培養槽1内を嫌気状態にすることができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス及びヘリウムガス等を例示することができる。
【0031】
培養槽1には、培養液20と、H/CO混合ガス(反応ガス)との気液界面21の面積を攪拌・混合する攪拌機構12が設けられている。攪拌機構12は、攪拌翼を備え、培養液20の気液界面21を波立たせる。これにより、培養液20への反応ガスの溶解を促進させる。なお、気液界面21の面積を増やすことができれば、例えば、培養槽1自体を振動させる機構であっても構わない。
【0032】
管理装置15は、前述した培養槽1、ガス供給装置2、生成ガス抽出装置3、及び、後述する培養槽1の周辺装置を管理し、メタン生成装置の長期稼働(メタンの長期生成)を可能とするものである。管理装置15は、培養槽1の培養環境に関する測定データを処理するデータ処理部13と、データ処理部13による処理結果に基づいて、培養槽1の培養環境を制御する装置制御部14と、を具備している。
【0033】
本実施形態では、培養槽1の周辺装置として、ガス分析装置4、液分析装置5、pH検出器6、pH調整剤投入装置7、ORP検出器8(酸化還元電位検出器)、ORP調整剤投入装置9(還元剤投入装置)、温度センサー10、圧力センサー11、温度制御装置16、培養液投入装置17、及び、沈殿物除去装置18を具備している。
【0034】
ガス分析装置4は、培養槽1におけるメタンの生成状態を検出するメタン検出装置である。ガス分析装置4によるガス分析方法としては、ガスクロマトグラフィー、赤外分光、ラマン分光、質量分析等を例示することができる。本実施形態のガス分析装置4は、これらガス分析方法のうち、分析結果が比較的早く得られる吸光分析装置を具備している。
【0035】
図2は、一実施形態に係るガス分析結果の一例を示すグラフである。
培養槽1においては、概ね図2に示すように、水素ガス、メタン及び二酸化炭素濃度が、それぞれ経時的に変化する。水素ガス及び二酸化炭素は、水素資化性メタン生成菌によって減少し、メタンが増加している。このようなガス分析装置4の分析結果から、メタンの生成状態を検出することが可能である。
【0036】
図1に戻り、液分析装置5は、培養液20の液中の微生物群集の現存量を検出する微生物細胞濃度測定装置である。液分析装置5による液分析方法としては、イオンクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、質量分析、吸光度測定等を例示することができる。本実施形態の液分析装置5は、これら液分析方法のうち、分析結果が比較的早く得られる吸光度測定装置(いわゆる培養液20の濁り測定装置)を具備している。
【0037】
pH検出器6は、培養液20のpH(水素イオン指数)を検出する。
pH調整剤投入装置7は、pH検出器6の検出結果に基づいて、培養液20にpH調整剤(例えば、水酸化ナトリウム等)を投入し、メタンの生成によって酸性に寄ったpHを、メタン生成菌の生育に至適なpHに調整する。
【0038】
ORP検出器8は、培養液20のORP(酸化還元電位)を検出する。
ORP調整剤投入装置9は、ORP検出器8の検出結果に基づいて、培養液20の嫌気状態を維持するための還元剤を培養槽1に投入する。
【0039】
pH検出器6及びORP検出器8は、培養液20の状態を検出する培養液状態検出装置19を構成している。なお、培養液状態検出装置19は、pHやORP以外の培養液20の状態量を検出する検出器を含んでいても構わない。
【0040】
温度センサー10は、培養槽1における温度を検出する。
温度制御装置16は、温度センサー10の検出結果に基づいて、培養槽1における温度をコントロールし、メタン生成菌の至適生育温度に調整する。なお、至適生育温度は菌種によって異なる。温度制御装置16としては、培養槽1を外部または内部から温めるヒーター等を例示することができる。
【0041】
圧力センサー11は、培養槽1における圧力を検出する。なお、メタンの生成に伴い、下記の式(3)に示すように、培養槽1の圧力が低下することから、当該圧力からメタン生成状態を検出することができる。前述した生成ガス抽出装置3は、圧力センサー11の検出結果に基づいて、生成ガス抽出装置3の動作タイミングを制御しても構わない。
式(3)CO+4H→CH+2H
【0042】
培養液投入装置17は、新規の培養液を、嫌気状態を保ったまま培養槽1に投入する。培養槽1の気相部分が嫌気状態であれば、当該気相部分に培養液を投入しても構わない。また、培養槽1の液相部分(培養液20の液中)に、外部から新規の培養液を投入しても構わない。
【0043】
沈殿物除去装置18は、培養液20の液中に生じた沈殿物を培養槽1から除去する。沈殿物には、メタン生成菌の代謝物などが含まれる。沈殿物除去装置18は、培養槽1のドレイン管1aから沈殿物を除く機構を具備している。これにより、培養槽1の既存設備を利用して、培養槽1の底部から沈殿物を除去することができる。
【0044】
データ処理部13は、前述した各種検出器(pH検出器6、ORP検出器8、温度センサー10、圧力センサー11等)から取得された培養槽1の培養環境に関する測定データを保存及び処理する。
装置制御部14は、データ処理部13による処理結果に基づいて、前述した各種装置(ガス分析装置4、液分析装置5、pH調整剤投入装置7、ORP調整剤投入装置9、温度制御装置16、培養液投入装置17、沈殿物除去装置18等)の動作を制御する。
【0045】
具体的に、管理装置15は、pH検出器6およびORP検出器8より取得した値が、メタン生成菌が増殖できる範囲から外れたときは、各々を調整する調整剤を添加することによって、メタン生成菌が増殖できる範囲に抑えることを可能にする。
また、管理装置15は、ガス分析装置4および液分析装置5での測定結果から、メタン生成量の経時変化(メタン生成速度)を確認し、微生物のメタン生成能力を評価する。その結果をもとに、微生物の細胞濃度の調整や培養液20の交換など環境調整の必要性を判断する。
【0046】
上記構成のメタン生成装置によれば、培養槽1内部の環境条件を把握するだけでなく、メタン生成菌の活性状態を把握することで、効率的なメタン生成が可能になる。このように、二酸化炭素をメタンに変換することにより、炭素資源の循環を可能にすることができる。また、変換したメタンを再利用することにより、新たに消費される石油、石炭、天然ガスなどの炭素資源量を削減できる。さらに、利用時に発生する熱を回収することで、熱エネルギーの再利用も可能である。
【0047】
メタン生成装置は、前述した生物学的方法によってメタンを生成するため、従来技術の化学的方法と比べて反応温度が低く、200℃以下の低温排熱を有効に活用できる。また、適切な菌株を選択することにより常温でもメタン生成が可能であり、エネルギーコストを抑えることができる。また、自国の環境(例えば、水田の土壌、湖沼の堆積物、海底堆積物、海洋プレートの沈み込みによって形成された厚い堆積層(付加体)の深部帯水層など)から得られるメタン生成菌を用いることで、国外から入ってくる微生物による環境へのコンタミネーションを抑制することができる。
【0048】
このように、上述した本実施形態によれば、培養液20でメタン生成菌を培養する培養槽1と、培養槽1に、メタン生成菌が必要とする二酸化炭素及び水素ガスを供給するガス供給装置2と、メタン生成菌が生成したメタンを抽出する生成ガス抽出装置3と、を具備する、という構成を採用することによって、簡易かつ低消費エネルギーで、水素ガスを利用して二酸化炭素を固定し、炭素資源として有用なエネルギー源であり、化成品原料となり得るメタンを生成することができるメタン生成装置が得られる。
【0049】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0050】
例えば、培養槽1内のメタン生成菌をプレートなどに固定し、プレート上で微生物の培養とメタン生成を行っても構わない。
【0051】
また、例えば、二酸化炭素の供給元として、火力発電所や工場などから排出される二酸化炭素を用いても構わない。
【0052】
また、例えば、水素ガスの供給元として、再生可能エネルギーを用いた水の電気分解から生じる水素ガスを用いても構わない。
【0053】
また、例えば、水素ガスの供給元として、工場の生産工程で生じる副生水素を用いても構わない。
【0054】
また、例えば、培養槽1の温度調整に排熱を用いても構わない。
【0055】
また、例えば、導入した二酸化炭素をすべてメタン化するのに複数日数(N日)を要する場合、N台のメタン生成装置を並列に稼働させることで、間隔を開けることなく経日的にメタンを得るようにしても構わない。
【0056】
また、例えば、メタン生成菌に、複数の菌株を共生することで、複数の物質を同時に生成することや、積極的に介入を必要としないで環境を維持するようにしても構わない。
【符号の説明】
【0057】
1 培養槽
1a ドレイン管
2 ガス供給装置
3 生成ガス抽出装置
4 ガス分析装置
5 液分析装置
6 pH検出器
8 ORP検出器(酸化還元電位検出器)
9 ORP調整剤投入装置(還元剤投入装置)
11 圧力センサー
12 攪拌機構
13 データ処理部
14 装置制御部
16 温度制御装置
17 培養液投入装置
18 沈殿物除去装置
19 培養液状態検出装置
20 培養液
21 気液界面
図1
図2