(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231226BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231226BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20231226BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20231226BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20231226BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20231226BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20231226BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/133
H01M4/62 Z
H01G11/06
H01G11/42
H01G11/38
H01G11/52
H01M50/489
H01M50/417
H01M50/451
H01M50/434
H01M50/443 M
(21)【出願番号】P 2020021702
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】奥坊 崇司
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-021805(JP,A)
【文献】特開2016-048652(JP,A)
【文献】特開2017-098204(JP,A)
【文献】特開2018-104713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05 - 10/0587
H01M 10/36 - 10/39
H01M 4/00 - 4/84
H01M 50/40 - 50/497
H01G 11/00 - 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
上記正極及び上記負極間に介在するセパレータと
を備えており、
上記負極が黒鉛及びアクリル樹脂を含む負極活物質層を有し、
上記セパレータの透気度が200[秒/100cm
3]以下である非水電解質蓄電素子
(但し、正極集電体及び前記正極集電体上に形成された正極活物質層を備える正極と、負極集電体及び前記負極集電体上に形成された負極活物質層を備える負極と、前記正極及び負極の間に配置されるセパレータと、を備える電極体であって、前記正極活物質層及び前記負極活物質層の表面粗さがともに0.2~5μmであり、前記セパレータの表面粗さが0.06μm以上である電極体を備え、前記負極活物質層がフッ素変性(メタ)アクリル系バインダーを含む場合を除く。)。
【請求項2】
上記アクリル樹脂がブタジエンに由来する構造単位を有さない請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記セパレータが微多孔膜状の基材層を有し、
上記基材層の主成分がポリオレフィンである請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
上記セパレータが耐熱層を有し、
上記耐熱層が無機粒子及びバインダーを含む請求項1、請求項2又は請求項3に記載の非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン非水電解質二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
このような蓄電素子のエネルギー密度の向上などを目的として上記蓄電素子の負極活物質としては、黒鉛をはじめとする炭素材料が用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記自動車等のエネルギー源としては、急速充電性能を有する非水電解質二次電池が求められている。しかしながら、上記負極活物質として黒鉛を用いた非水電解質二次電池について急速充電を行った場合、負極電位が卑であることに起因して非水電解質の分解反応が促進され、急速充放電サイクル(ハイレートサイクル)時の容量維持率が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、急速充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できる非水電解質蓄電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、正極と、負極と、上記正極及び上記負極間に介在するセパレータとを備えており、上記負極が黒鉛及びアクリル樹脂を含む負極活物質層を有し、上記セパレータの透気度が200[秒/100cm3]以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、急速充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、正極と、負極と、上記正極及び上記負極間に介在するセパレータとを備えており、上記負極が黒鉛及びアクリル樹脂を含む負極活物質層を有し、上記セパレータの透気度が200[秒/100cm3]以下である。
【0011】
非水電解質蓄電素子に用いられる負極材料としては、リチウムの酸化還元電位に近い卑な電位における単位質量あたりの充放電容量の大きい黒鉛が広く用いられ、負極用バインダーとしては、比較的少ない添加量で利用可能なスチレンブタジエンゴムが広く用いられている。一方、本発明者らは、非水電解質蓄電素子の負極活物質層が負極活物質としての黒鉛と、バインダーとしてのアクリル樹脂とを含み、上記正極及び上記負極間に介在するセパレータの透気度が200[秒/100cm3]以下であることで、非水電解質蓄電素子の急速充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できることを知見した。この理由は定かではないが、次のように考えられる。負極活物質として黒鉛を含む負極では、リチウムイオン等の金属イオンの挿入脱離の電位が非常に卑であることに加え、急速充電をおこなうと分極の影響も加わるため、さらに負極電位が卑となり、非水電解質の還元分解がより促進される。この結果、急速充放電サイクル時の容量維持率が低下する場合があると考えられる。バインダーとしてアクリル樹脂を用いた負極は、バインダーとしてスチレンブタジエンゴムを用いた負極と比較して抵抗が低い。そのため、バインダーにアクリル樹脂を用いた負極では、急速充電時の分極が小さくなることにより、負極電位が比較的に卑になりにくく、非水電解質の分解が抑制される。しかしながら、バインダーにアクリル樹脂を用いた負極と、透気度が大きく、緊密性が高いセパレータとを組み合わせた場合、急速充電時に負極に対するリチウムイオン等の供給が追いつかなくなり、急速充放電サイクルを重ねていくと、放電容量維持率が低下する傾向があることを発明者らは見出した。従って、当該非水電解質蓄電素子は、バインダーとしてアクリル樹脂を用いた負極と透気度が200[秒/100cm3]以下のセパレータとを組み合わせることで、急速充電時に負極に対して十分なリチウムイオンを供給することができる。その結果、当該非水電解質蓄電素子は、急速充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できると推測される。ここで、「透気度」は、ガーレ値ともいい、一定圧力差のもとで一定体積の空気が一定面積の紙を通過する秒数を示し、JIS-P8117(2009)に準拠して測定される値である。
【0012】
上記アクリル樹脂がブタジエンに由来する構造単位を有さないことが好ましい。上記アクリル樹脂がブタジエンに由来する構造単位を有さないことで、初期の抵抗を低減できるとともに、急速充放電サイクル時の容量維持率の低下をより抑制することができる。
【0013】
上記セパレータが微多孔膜状の基材層を有し、上記基材層の主成分がポリオレフィンであることが好ましい。上記構成により、意図しない理由で短絡等による過剰な発熱が生じた場合であっても、電流のシャットダウン機能が働き、短絡電流の増大を抑制することができるため、高い安全性を備えることができる。
【0014】
上記セパレータが耐熱層を有し、上記耐熱層が無機粒子及びバインダーを含むことが好ましい。上記セパレータが無機粒子及びバインダーを含む耐熱層を有することで、意図しない理由で蓄電素子の温度が過剰に上昇した場合にもセパレータの破損を抑制して正極と負極との短絡をより確実に抑制するとともに、セパレータの形状維持を図ることができる。さらに、無機粒子及びバインダーを含む耐熱層を有することで、セパレータの形状維持性が高くなるため、セパレータ又は基材層の空孔率を高くし、セパレータの透気度を十分に低くすることが可能となる。
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子について詳説する。
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極と、負極と、上記正極及び上記負極間に介在するセパレータと、非水電解質とを備えている。以下、非水電解質蓄電素子の好ましい一例として、非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、非水電解質二次電池のケースとして通常用いられる公知の金属ケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0016】
[負極]
負極は、負極基材と、負極活物質層とを有する。上記負極活物質層は、負極活物質を含有する。上記負極活物質層は、上記負極基材の少なくとも一方の面の表面に直接又は中間層を介して積層される。
【0017】
(負極基材)
上記負極基材は、導電性を有する基材である。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。また、負極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が1×107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が1×107Ω・cm超であることを意味する。
【0018】
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される。負極活物質層は、黒鉛及びアクリル樹脂を含む。
【0019】
当該非水電解質蓄電素子は、負極活物質として黒鉛(グラファイト)を含む。負極活物質として黒鉛を含むことで、エネルギー密度を高めることができる。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。負極活物質として黒鉛を含む場合、負極活物質表面上でのリチウムイオンの移動速度が遅いために、負極表層でのリチウム濃度が高くなる。その結果、負極表面上での非水電解質の分解反応が促進され、急速充放電サイクル時の容量維持率が低下しやすくなる。一方、難黒鉛化性炭素等の非黒鉛質炭素は、充放電時の電位が緩やかに変化することから、負極活物質層中のリチウム濃度が緩和されやすいと考えられる。そのため、負極表層中のリチウム濃度が高くなることはなく、過度な非水電解質の分解反応を抑制できるために、急速充放電サイクル時の容量維持率は低下しにくいと推測される。従って、当該非水電解質蓄電素子は、黒鉛を含む負極活物質層を有する負極特有の課題に対して効果を奏するものである。
【0020】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0021】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチ又は石油ピッチ由来の材料、石油コークス又は石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0022】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属リチウムを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属リチウム対極の電位は、リチウムの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、リチウムの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0023】
負極活物質中の黒鉛の含有量の下限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、100質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。
【0024】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。
【0025】
(バインダー)
当該非水電解質蓄電素子の負極合剤は、バインダーとしてアクリル樹脂を含む。「アクリル樹脂」とは、ポリアクリル酸が除かれ、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸又はメタクリル酸エステルの重合体、ポリアクリルアミド、アクリル酸を含む共重合体等が挙げられる。
【0026】
上記アクリル樹脂がブタジエンに由来する構造単位を有さないことが好ましい。上記アクリル樹脂がブタジエンに由来する構造単位を有さないことで、初期の抵抗を低減できる。
【0027】
上記バインダーにおけるアクリル樹脂の含有量としては、99質量%以上が好ましく、100質量%であってもよい。
【0028】
負極活物質層中のバインダーの含有量の下限としては、0.2質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、1質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。
【0029】
(その他の任意成分)
負極合剤は、必要に応じて導電剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0030】
上記導電剤としては、導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、上記黒鉛も導電性を有するが、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0031】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0032】
上記フィラーとしては、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0033】
負極活物質層の目付量(負極における負極活物質層の単位面積当たりの質量)の下限としては、0.3mg/100cm2が好ましく、0.4g/100cm2がより好ましい。一方、この目付量の上限としては、2.0g/100cm2が好ましく、1.5g/100cm2がより好ましい。負極活物質層の目付量が上記範囲であることで、高いエネルギー密度を有し、急速充放電サイクル時の容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を得ることができる。
【0034】
(中間層)
上記中間層は、負極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0035】
[正極]
正極は、正極基材と、正極活物質層とを有する。上記正極活物質層は、正極活物質を含有する。上記正極活物質層は、上記正極基材の少なくとも一方の面の表面に直接又は中間層を介して積層される。
【0036】
(正極基材)
上記正極基材は、導電性を有する基材である。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H4000(2014)又はJIS-H-4160(2006)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0037】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される。上記正極活物質としては、例えば、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、LixMn2O4,LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。上記正極活物質としては、これらの中でも、高エネルギー密度化の観点から上記リチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、リチウム以外に、ニッケル、コバルト及びマンガンを構成元素として含むニッケルコバルトマンガン含有リチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。
【0038】
上記正極活物質として挙げられた材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
正極活物質層中の正極活物質の含有量は特に限定されないが、その下限としては、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限としては、99質量%が好ましく、98質量%がより好ましい。
【0040】
(その他の任意成分)
正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダー、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記負極で例示した材料から選択できる。
【0041】
(中間層)
上記中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。上記負極と同様に、中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
[非水電解質]
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池(蓄電素子)に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。なお、上記非水電解質は、固体電解質等であってもよい。
【0042】
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95から50:50とすることが好ましい。
【0043】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0044】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0045】
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0046】
上記リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等の水素がフッ素で置換された炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0047】
上記非水電解質における上記電解質塩の濃度の下限としては、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3が好ましく、0.3mol/dm3がより好ましく、0.5mol/dm3がさらに好ましく、0.7mol/dm3が特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5mol/dm3が好ましく、2.0mol/dm3がより好ましく、1.5mol/dm3がさらに好ましい。
【0048】
上記非水電解質には、その他の添加剤が添加されていてもよい。また、上記非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体などを用いることもできる。
【0049】
[セパレータ]
上記セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形態としては、例えば、織布、不織布、微多孔膜等が挙げられる。これらの形態の中でも、安全性の観点から微多孔膜が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリイミド、アラミド、これらの樹脂を複合した材料等が挙げられる。これらの中でもポリオレフィンが好ましい。上記基材層の主成分がポリオレフィンであることで、意図しない短絡等による過剰な発熱がおこった場合でも、電流のシャットダウン機能が働き、短絡電流の増大を抑制することができるため、高い安全性を備えることができる。
【0050】
上記セパレータの透気度の上限としては、200[秒/100cm3]であり、150[秒/100cm3]が好ましく、100[秒/100cm3]がより好ましい。セパレータの透気度の上限が上記範囲であることで、急速充放電サイクル時の容量維持率の低下に対する抑制効果を高めることができる。一方、セパレータの透気度の下限としては、セパレータの強度維持の観点から40[秒/100cm3]が好ましく、60[秒/100cm3]がより好ましい。
【0051】
上記セパレータは、耐熱層を有することが好ましい。上記耐熱層は、無機粒子及びバインダーを含む。上記セパレータが無機粒子及びバインダーを含む耐熱層を有することで、意図せずに蓄電素子の温度が過剰に上昇した場合にもセパレータの破損を抑制して正極と負極との短絡をより確実に抑制するとともに、セパレータの形状維持を図ることができる。この耐熱層は、無機粒子及びバインダーを含む多孔質の層である。また、上記耐熱層は、無機粒子及びバインダー以外のその他の成分が含有されていてもよい。
【0052】
耐熱層に含まれる無機粒子として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、二次電池の特性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ベーマイト、又はアルミケイ酸塩が好ましい。耐熱層に含まれる無機粒子は、大気圧下で500℃にて質量減少が5%以下であるものが好ましく、大気圧下で800℃にて質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。
【0053】
[非水電解質蓄電素子の具体的構成]
本実施形態の蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、ラミネートフィルム型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0054】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の非水電解質蓄電素子1(非水電解質二次電池)の概略図を示す。なお、同図は、ケース内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型のケース3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、ケース3には、非水電解質が注入されている。
【0055】
当該非水電解質蓄電素子の通常使用時の充電終止電圧における正極電位の範囲としては、4.2V(vs.Li/Li+)以上が好ましく、4.2V(vs.Li/Li+)以上4.5V(vs.Li/Li+)以下がより好ましい。当該非水電解質蓄電素子は、上記構成を備えることで、高電圧で作動する場合においても、急速充放電サイクル時の容量維持率の低下が抑制される。従って、当該非水電解質蓄電素子は、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が上記範囲である場合に、急速充放電サイクル性能の改善という効果をより十分に発揮することができる。
【0056】
[非水電解質蓄電素子の製造方法]
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、当該正極を作製すること、負極を作製すること、非水電解質を調製すること、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成すること、電極体を容器に収容すること、並びに上記容器に上記非水電解質を注入することを備える。上記正極は、正極基材に直接又は中間層を介して上記正極活物質層を積層することにより得ることができる。上記正極活物質層の積層は、正極基材に、正極合剤ペーストを塗工することにより行う。また、上記負極は、上記正極と同様、負極基材に直接又は中間層を介して上記負極活物質層を積層することにより得ることができる。上記負極活物質層の積層は、負極基材に、黒鉛及びアクリル樹脂を含む負極合剤ペーストを塗工することにより行う。上記正極合剤ペースト及び負極合剤ペーストは、分散媒を含んでいてもよい。この分散媒としては、例えば、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶媒;N-メチルピロリドン、トルエン等の有機系溶媒を用いることができる。
【0057】
上記負極、正極、非水電解質等をケースに収容する方法は、公知の方法により行うことができる。収容後、収容口を封止することにより非水電解質蓄電素子を得ることができる。上記製造方法によって得られる非水電解質蓄電素子を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0058】
当該非水電解質蓄電素子によれば、負極活物質層が負極活物質としての黒鉛と、バインダーとしてのアクリル樹脂とを含み、上記正極及び上記負極間に介在するセパレータの透気度が200[秒/100cm3]以下であることで、非水電解質蓄電素子の急速充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できる。
【0059】
[その他の実施形態]
本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0060】
また、上記実施形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。非水電解質二次電池としては、リチウムイオン非水電解質二次電池が挙げられる。
【0061】
また、上記実施形態においては巻回型の電極体を用いていたが、正極、負極及びセパレータを備える複数のシート体を重ねた積層体から形成される積層型電極体を備えてもよい。
【0062】
本発明は、複数の上記非水電解質蓄電素子を備える蓄電装置としても実現することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。また、単数個又は複数個の本発明の非水電解質蓄電素子(セル)を用いることにより組電池を構成することができ、さらにこの組電池を用いて蓄電装置を構成することができる。上記蓄電装置は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いることができる。さらに、上記蓄電装置は、エンジン始動用電源装置、補機用電源装置、無停電電源装置(UPS)等の種々の電源装置に用いることができる。
【0063】
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実施例1及び比較例1から比較例3]
(負極)
負極活物質層のバインダーとして、アクリル樹脂又はスチレンブタジエン共重合体を用いた。負極活物質としての黒鉛と、表1に記載のバインダーと、増粘剤としてのCMCを含有し、水を分散媒とする負極合剤ペーストを調製した。負極活物質、バインダー、増粘剤の混合比率は、質量比で98:1:1とした。負極合剤ペーストを厚さ10μmの銅箔基材の両面に13mg/cm2の塗布質量(目付量、固形分換算)で塗布し、乾燥して、負極活物質層を形成し、充填密度が1.5g/cm3となるようにプレスをおこない実施例及び比較例の負極を得た。
(非水電解質)
エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比30:70で混合した非水溶媒に、LiPF6を1.0mol/dm3溶解させた非水電解質を調製した。
(正極)
α―NaFeO2型結晶構造を有するNCM(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)を正極活物質として含有する正極を作製した。正極は、上記正極活物質と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラックとを含有し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを調製した。正極活物質、バインダー、導電剤の混合比率は、質量比で、93:4:3とした。正極合剤ペーストを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極基材の両面に25mg/cm2の塗布質量(目付量、固形分換算)で塗工し、乾燥し、プレスして、正極活物質層を形成した。
【0066】
(非水電解質蓄電素子の作製)
次に、セパレータとして、ポリエチレンからなる微多孔膜状の基材層及び上記基材層の片面に形成された無機層からなり、表1に記載の透気度を有するセパレータを用いた。上記セパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層し、電極体を作製した。この電極体をアルミニウム製の角形のケースに収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。このケース内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、定格容量0.9Ahの非水電解質二次電池を作製することにより、実施例及び比較例の非水電解質蓄電素子を得た。
【0067】
[評価]
(初期充放電工程)
得られた各非水電解質蓄電素子について、充電終止電圧を4.25Vとして、25℃の温度環境下、0.18Aで総充電時間が7時間となるまで定電流定電圧充電をおこなった。次に、充電後に10分間の休止を設けた。その後、放電終止電圧を2.75Vとして、0.18Aの電流値で定電流放電をおこなった。次に、充電終止電圧を4.25Vとして、25℃の温度環境下、0.9Aで総充電時間が3時間となるまで定電流定電圧充電をおこなった。10分間の休止を設けた後、0.9Aの電流値で定電流放電をおこなった。これらの放電容量が定格容量と同等であることを確認した。
【0068】
(急速充放電サイクル試験)
上記初期充放電工程を経て完成した実施例1及び比較例1から比較例3の非水電解質蓄電素子について、以下の条件にて充放電サイクル試験を行った。25℃の恒温槽内で以下のサイクル試験を行った。それぞれSOC(State of Charge)100%となる電圧まで1.8Aで総充電時間が3時間になるまで定電流定電圧充電をおこなった。次に、充電後に10分間の休止を設けた。その後、SOC0%となる電圧まで放電電流1.8Aで定電流放電をおこない、10分間の休止を設けた。さらに、SOC0%となる電圧まで放電電流0.045Aで定電流放電をおこない、10分間の休止を実施した。これら充電及び放電の工程を1サイクルとして、このサイクルを10サイクル繰り返した。
【0069】
(急速充放電サイクル時の容量維持率)
実施例1及び比較例1から比較例3の非水電解質蓄電素子について、急速充放電サイクル試験時の1サイクル目の1.8A放電時の放電容量に対する10サイクル目の1.8A放電時の放電容量を容量維持率として求めた。結果を下記表1に示す。
【0070】
【0071】
表1に示されるように、負極活物質層がアクリル樹脂を含み、セパレータの透気度が200[秒/100cm3]以下である実施例1は、急速充放電サイクル時の容量維持率が良好であった。また、透気度が200[秒/100cm3]以下であるセパレータを備える実施例1及び比較例1においては、負極活物質層がスチレンブタジエン共重合体を含む比較例1の方がアクリル樹脂を含む実施例1よりも容量維持率が小さかった。一方、透気度が200[秒/100cm3]を超えるセパレータを備える比較例2及び比較例3においては、負極活物質層がスチレンブタジエン共重合体を含む比較例3の方がアクリル樹脂を含む比較例2よりも容量維持率が大きかった。これらのことから、アクリル樹脂からなるバインダーを含む負極活物質層を有する負極と透気度が200[秒/100cm3]以下であるセパレータとを組み合わせて用いることで、急速充放電サイクル時の容量維持率の低下に対する改善効果が非常に高いことがわかる。
【0072】
以上のように、当該非水電解質蓄電素子は、急速充放電サイクル時の容量維持率の低下を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、EV、HEV、PHEV等の自動車などの急速充電が要求される電源として使用される非水電解質二次電池をはじめとした非水電解質蓄電素子として好適に用いられる。
また、本発明の好ましい適用対象として、大型のリチウムイオン二次電池が挙げられる。例えば、電池容量が5.0Ah以上(例えば5.0Ah以上100Ah以下)の大容量タイプであって、かつ、3C以上(例えば3Cから50C)のハイレート放電を含む充放電サイクルで使用されることが想定される大型のリチウムイオン二次電池が例示される。本発明に係る非水電解質蓄電素子は、急速充放電サイクル時の容量維持率に優れるため、上述した大型のリチウムイオン二次電池に好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0074】
1 蓄電素子
2 電極体
3 ケース
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置